(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162278
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】ずれ止めせん断機構及びリジットカラー
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20221017BHJP
E04B 5/02 20060101ALI20221017BHJP
E04B 1/48 20060101ALI20221017BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
E01D19/12
E04B5/02 T
E04B1/48 F
E04B1/58 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067020
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000107044
【氏名又は名称】ショーボンド建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】安東 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】野口 堅冬
(72)【発明者】
【氏名】高橋 樹
【テーマコード(参考)】
2D059
2E125
【Fターム(参考)】
2D059AA07
2D059AA14
2D059GG55
2E125AA14
2E125AA57
2E125AB01
2E125AC15
2E125AE02
2E125AG04
2E125AG12
2E125AG13
2E125BF04
2E125CA03
2E125CA14
2E125CA19
2E125CA79
2E125EA14
(57)【要約】
【課題】熱歪みによる変形のおそれや軸力低下の心配が少なく、且つ、鋼桁と床版とがせん断力によりずれることを防いで確実に応力伝達が可能なずれ止めせん断機構及びリジットカラーを提供する。
【解決手段】橋梁の合成桁の鋼桁G1と床版P1とを繋ぐずれ止めせん断機構10において、鋼桁G1のフランジに形成されたボルト孔h1と、このボルト孔h1に挿通されて床版P1を連結する連結ボルトB1と、ボルト孔h1と連ボルトB1との間に介装されるリジットカラー1’(1)と、を備え、リジットカラー1’(1)に、連結ボルトB1と螺合するねじ溝(2a)が形成された円筒状の円筒体(2)と、この円筒体(2)の一端から外側に張り出した穴あき円盤状のカラーフランジ(3)と、を設け、円筒体(2)を、鋼桁G1以上の強度を有するとともに、円筒体(2)の外径を、ボルト孔h1より大きくし、ボルト孔h1にリジットカラー1’(1)を圧入する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の合成桁の鋼桁と床版とを繋ぐずれ止めせん断機構であって、
前記鋼桁のフランジに形成されたボルト孔と、このボルト孔に挿通されて前記床版を連結する連結ボルトと、前記ボルト孔と前記連結ボルトとの間に介装されるリジットカラーと、を備え、
前記リジットカラーは、前記連結ボルトと螺合するねじ溝が形成された円筒状の円筒体と、この円筒体の一端から外側に張り出した穴あき円盤状のカラーフランジと、を有し、
前記円筒体は、前記鋼桁以上の強度を有するとともに、前記円筒体の外径は、前記ボルト孔より大きくなっており、前記ボルト孔に前記リジットカラーが圧入されていること
を特徴とするずれ止めせん断機構。
【請求項2】
前記円筒体の前記カラーフランジから離れた先端は、内側が先端方向に突出する円錐台状のテーパー面となっていること
を特徴とする請求項1に記載のずれ止めせん断機構。
【請求項3】
前記円筒体は、前記先端側と反対側となる基端側が前記カラーフランジから前記先端側と反対側に突出した突出部を有していること
を特徴とする請求項1又は2に記載のずれ止めせん断機構。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のずれ止めせん断機構に用いられて前記ボルト孔に圧入されるリジットカラーであって、
前記連結ボルトと螺合するねじ溝が形成された円筒状の円筒体と、この円筒体の一端から外側に張り出した穴あき円盤状のカラーフランジと、を有し、
前記円筒体は、前記鋼桁以上の強度を有するとともに、前記円筒体の外径は、前記ボルト孔より大きくなっていること
を特徴とするリジットカラー。
【請求項5】
前記円筒体の前記カラーフランジから離れた先端は、内側が先端方向に突出する円錐台状のテーパー面となっていること
を特徴とする請求項4に記載のリジットカラー。
【請求項6】
前記円筒体は、前記先端側と反対側となる基端側が前記カラーフランジから前記先端側と反対側に突出した突出部を有していること
を特徴とする請求項4又は5に記載のリジットカラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の合成桁の鋼桁と床版とを繋ぐずれ止めせん断機構及びそれに用いるリジットカラーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁の合成桁の鋼桁とコンクリート床版とを繋ぐずれ止めは、頭付きスタッドボルト、ジベル鉄筋、馬蹄形鋼材などの鋼材を鋼桁のフランジ上面に溶接(溶植)して、床版として打設されたコンクリートと一体化して、床版と鋼桁の挙動をシンクロさせるものであった。しかし、鋼材を鋼桁に溶接する際には、溶接の熱で鋼桁が歪んで変形してしまうという問題があった。
【0003】
そこで、鋼桁とコンクリート床版をハイテンションボルトでボルト接合する技術が開発された。例えば、特許文献1には、主桁の上フランジとプレキャスト床版を添接した連結鋼板を介して高力ボルトによる摩擦接合で接合した主桁とプレキャスト床版の合成構造が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0022]~[0034]、図面の
図1~
図3等参照)。
【0004】
また、特許文献2には、プレキャスト床版10の下面に開口するように当該プレキャスト床版10に埋め込まれたインサート11と、鋼桁20の上側のフランジ21に形成された貫通孔23と、貫通孔23を通ってインサート11に固定されたボルト30とを備えたプレキャスト床版と鋼桁との接合構造が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0017]~[0032]、図面の
図1等参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の主桁とプレキャスト床版の合成構造及び特許文献2に記載のプレキャスト床版と鋼桁との接合構造は、高力ボルトで接合する必要があり、軸力を管理する必要があるとともに、強い温度変化や激しい振動を受け続けた際にはボルトの軸力が低下し、結果、床版の撓みが増加するという懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-169886号公報
【特許文献2】特開2015-86595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、前記問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、熱歪みによる変形のおそれや軸力低下の心配が少なく、且つ、鋼桁と床版とがせん断力によりずれることを防いで確実に応力伝達が可能なずれ止めせん断機構及びリジットカラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のずれ止めせん断機構は、橋梁の合成桁の鋼桁と床版とを繋ぐずれ止めせん断機構であって、前記鋼桁のフランジに形成されたボルト孔と、このボルト孔に挿通されて前記床版を連結する連結ボルトと、前記ボルト孔と前記連結ボルトとの間に介装されるリジットカラーと、を備え、前記リジットカラーは、前記連結ボルトと螺合するねじ溝が形成された円筒状の円筒体と、この円筒体の一端から外側に張り出した穴あき円盤状のカラーフランジと、を有し、前記円筒体は、前記鋼桁以上の強度を有するとともに、前記円筒体の外径は、前記ボルト孔より大きくなっており、前記ボルト孔に前記リジットカラーが圧入されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載のずれ止めせん断機構は、請求項1に記載のずれ止めせん断機構において、前記円筒体の前記カラーフランジから離れた先端は、内側が先端方向に突出する円錐台状のテーパー面となっていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載のずれ止めせん断機構は、請求項1又は2に記載のずれ止めせん断機構において、前記円筒体は、前記先端側と反対側となる基端側が前記カラーフランジから前記先端側と反対側に突出した突出部を有していることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載のリジットカラーは、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のずれ止めせん断機構に用いられて前記ボルト孔に圧入されるリジットカラーであって、前記連結ボルトと螺合するねじ溝が形成された円筒状の円筒体と、この円筒体の一端から外側に張り出した穴あき円盤状のカラーフランジと、を有し、前記円筒体は、前記鋼桁以上の強度を有するとともに、前記円筒体の外径は、前記ボルト孔より大きくなっていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載のリジットカラーは、請求項4に記載のリジットカラーにおいて、前記円筒体の前記カラーフランジから離れた先端は、内側が先端方向に突出する円錐台状のテーパー面となっていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載のリジットカラーは、請求項4又は5に記載のリジットカラーにおいて、前記円筒体は、前記先端側と反対側となる基端側が前記カラーフランジから前記先端側と反対側に突出した突出部を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1~6に係る発明によれば、熱歪みによる変形のおそれや軸力低下の心配が少なく、且つ、鋼桁と床版とがせん断力により水平方向にずれることを防いで確実に応力伝達を行うことができる。このため、本発明に係るずれ止めせん断機構を備えた合成桁のせん断耐力が向上し、橋梁の耐久性が向上する。
【0015】
特に、請求項2及び請求項5に係る発明によれば、リジットカラーの円筒体の先端がテーパー面となっているので、リジットカラーを鋼桁のボルト孔に圧入する際にスムーズに圧入することができ、鋼桁及びリジットカラーを損傷するおそれが少なくなる。
【0016】
特に、請求項3及び請求項6に係る発明によれば、リジットカラーの円筒体がカラーフランジから先端側と反対側にも突出しているので、床版側にリジットカラーが食い込むこととなり、床版とのずれ止め効果が向上し、ずれ止めせん断機構のせん断耐力がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るリジットカラーを示す斜視図であり、(a)が上面を俯瞰して見た上面斜視図、(b)が裏面から見た裏面斜視図である。
【
図2】
図2は、同上のリジットカラーを示す図であり、(a)が中心軸で切断した鉛直断面図であり、(b)が裏面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2実施形態に係るリジットカラーを示す斜視図である。
【
図4】
図4は、同上のリジットカラーを示す中心軸で切断した鉛直断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係るずれ止めせん断機構を示す橋軸直角方向に切断した鉛直断面図である。
【
図6】
図6は、ずれ止めせん断試験のずれ止めせん断力と変位との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、梁荷重載荷試験の供試体の寸法及び載荷位置、計測位置を示す図である。
【
図8】
図8は、梁荷重載荷試験の載荷荷重とスパン中央変位との関係をcollar Iとcollar IIとボルト(軸力あり)を比較して示すグラフである。
【
図9】
図9は、梁荷重載荷試験の載荷荷重とスパン中央変位との関係をstudとcollar IIを比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るずれ止めせん断機構及びリジットカラーについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
<リジットカラー>
[第1実施形態]
先ず、
図1,
図2を用いて、本発明の第1実施形態に係るリジットカラー1について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るリジットカラー1を示す斜視図であり、(a)が上面を俯瞰して見た上面斜視図、(b)が裏面から見た裏面斜視図である。また、
図2は、本実施形態に係るリジットカラー1を示す図であり、(a)が中心軸で切断した鉛直断面図であり、(b)が裏面図である。
【0020】
リジットカラー1は、橋梁の合成桁のH形鋼又はI形鋼などからなる鋼桁と、コンクリート床版と、を繋ぐずれ止めせん断機構に用いられる部材である。このリジットカラー1は、鋼桁の上フランジに形成されたボルト孔に圧入されることで、ボルト孔とボルトとの隙間を埋めてずれる余地を無くすシムであり、鋼桁と床版とがせん断力により水平方向にずれることを防止する機能を有している。
【0021】
このリジットカラー1は、後述の連結ボルトと螺合するねじ溝2aが形成された円筒状の円筒体2と、この円筒体2の一端から外側に張り出した穴あき円盤状のカラーフランジ3と、を備えている。
【0022】
(円筒体)
円筒体2は、円筒体2の外径より小さい内径のボルト孔に強制的に圧入される部位であり、少なくとも母材である鋼桁の強度より高い強度が必要である。本実施形態に係る円筒体2は、高力ボルトと同程度の強度を有するSCM435(炭素量0.33~0.38%、モリブデン0.15~0.30%程度を含むクロムモリブデン鋼)からなる。このSCM435は、焼入れ焼戻しをすることで、高い強度と靭性が得られ、降伏点はおおよそ785MPa以上、引張り強さ930MPa以上、硬度は269~331の機械的性質を有している。
【0023】
本実施形態に係るリジットカラー1の円筒体2は、直径φ26.5mmのボルト孔に圧入することを想定しており、ボルト孔の直径より0.1mm~0.3mmの所定径だけ大きい直径H1=φ26.6mm~26.8mmに設定されている。勿論、このボルト孔より円筒体2の直径を所定径だけ大きくする寸法は、ボルト孔の径に比例させて決定するなどボルト孔の径に応じて適宜設定すればよい。また、円筒体2の軸方向の長さL1は、鋼桁の上フランジの厚さと同程度の11.5mmに設定されている(
図1,
図2参照)。
【0024】
図1,
図2に示すように、円筒体2の内周面には、コンクリート床版を接合する接合ボルトと螺合するねじ溝2aが形成されている。本実施形態に係る円筒体2のねじ溝2aは、M22のボルトと螺合するねじ溝2aとなっている。
【0025】
また、
図1,
図2に示すように、円筒体2の先端には、内側が先端方向に突出する円錐台状のテーパー面2bが形成されている。このテーパー面2bは、直径φ26.5mmのボルト孔に、それより径の大きな直径φ26.6mm~26.8mmの円筒体2を圧入する際に、その傾斜面でボルト孔に円筒体2を案内して嵌め込む機能を有している。
【0026】
(カラーフランジ)
カラーフランジ3は、円筒体2の上端の外周面から外側に鍔状に張り出した部材であり、円筒体2をボルト孔に圧入する際に鋼桁の上フランジに掛け止めるストッパーとして機能する。
【0027】
本実施形態に係るカラーフランジ3は、円筒体2に同材のSCM435からなる厚さ3.2mm、直径H2=φ39mmの穴あき円盤状に形成されている。但し、カラーフランジ3は、円筒体2は高い応力がかかる部材ではないため、SCM435より強度の低い一般的な鋼材から構成し、SCM435からなる円筒体2と溶接して構成することも可能である。また、カラーフランジ3の内周面には、前述の円筒体2のねじ溝2aと連続するねじ溝2aが形成されている。
【0028】
以上説明した本発明の第1実施形態に係るリジットカラー1によれば、連結ボルトで鋼桁とコンクリート床版を接合するので、従来の頭付きスタッドボルトをスタッド溶接で鋼桁の上フランジに熱を発生させて溶植する必要がない。このため、スタッド溶接の検査確認が必要なくなるだけでなく、熱歪みにより鋼桁が変形するおそれを完全に払拭することができる。
【0029】
また、リジットカラー1によれば、鋼桁のボルト孔と連結ボルトとの隙間をリジットカラー1で埋めるので、橋梁に作用する輪荷重などの活荷重等によるせん断力で鋼桁と床版とが水平方向にずれる余地がない。一方、特許文献1に記載の発明のように、リジットカラー1を用いない場合は、連結ボルトを挿通するためのボルト孔は、連結ボルトの最大径と同径とすることはできないため、公差として一定の隙間が生じる。M22の連結ボルトの場合は、ボルト孔は、一般的に前述のように直径φ24.5mmとなり、M22の連結ボルトの外径22mmであることから2.5mm程度の隙間が生じることとなる。このため、従来のボルト接合は、高力ボルトで高い軸力を導入して摩擦接合し、鋼桁と床版とが水平方向にずれないようにする必要があった。そのため、連結ボルトの軸力確認が必要であるとともに、経時的な連結ボルトの軸力低下などによる連結ボルトの緩み、ひいては部材の撓みや変形が大きくなるという問題が発生していた。
【0030】
しかし、リジットカラー1によれば、鋼桁のボルト孔と連結ボルトとの隙間をリジットカラー1で埋めるので、連結ボルトを高力ボルトとする必要がないため軸力低下の心配が少なく、且つ、鋼桁と床版とがせん断力により水平方向にずれることを確実に防ぐことができる。このため、後述のように、本実施形態に係るリジットカラー1を設けたずれ止めせん断機構を備えた合成桁のせん断耐力が向上し、橋梁の耐久性が向上する。
【0031】
[第2実施形態]
次に、
図3,
図4を用いて、本発明の第2実施形態に係るリジットカラー1’について説明する。
図3は、本発明の第2実施形態に係るリジットカラー1’を示す斜視図であり、
図4は、第2実施形態に係るリジットカラー1’を示す中心軸で切断した鉛直断面図である。第2実施形態に係るリジットカラー1’が、前述の第1実施形態に係るリジットカラー1と相違する点は、リジットカラー1’には、リジットカラー1のカラーフランジ3から突出した突出部2cを有している点だけなので、その点について主に説明し、同一構成は同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0032】
リジットカラー1’は、リジットカラー1と同様に、円筒状の円筒体2と、この円筒体2の途中から外側に張り出したカラーフランジ3と、を備えている。
【0033】
但し、
図3,
図4に示すように、リジットカラー1’の円筒体2は、前述の円筒体2の構成に加え、鋼桁のボルト孔に挿入する挿入方向の先端側(図示下側)と反対側となる基端側(図示上側)がカラーフランジ3から反対側に突出した突出部2cを有している。
【0034】
つまり、リジットカラー1’の円筒体2の軸方向の全長L2は、19.2mmとなっているが、前述のカラーフランジ3から下方の構成は、前述のリジットカラー1と同一構成であり、カラーフランジ3から下方へ突出する円筒体2の軸方向の長さL1も鋼桁の上フランジの厚さと同程度の11.5mmに設定されている。
【0035】
換言すると、リジットカラー1’の円筒体2の軸方向の全長L2のうち、途中となる長さL1の上方の外周面からカラーフランジ3が外側に張り出した構成となっている。
【0036】
また、
図3,
図4に示すように、リジットカラー1と同様に、円筒体2の内周面には、突出部2cまで連続するM22のねじ溝2aが形成されているとともに、円筒体2の先端には、内側が先端方向に突出する円錐台状のテーパー面2bが形成されている。
【0037】
以上説明した本発明の第2実施形態に係るリジットカラー1’によれば、リジットカラー1の前記作用効果に加え、コンクリート床版側へ突出する突出部2cを設けているため、床版側にリジットカラー1’が食い込むこととなり、床版とのずれ止め効果がさらに向上する。
【0038】
<ずれ止めせん断機構>
次に、
図5を用いて、本発明の実施形態に係るずれ止めせん断機構10について説明する。
図5は、本発明の実施形態に係るずれ止めせん断機構10を示す橋軸直角方向に切断した鉛直断面図である。
【0039】
図5に示すように、本実施形態に係るずれ止めせん断機構10は、橋梁の合成桁のH形鋼からなる鋼桁G1と、この鋼桁G1上に載置されたプレキャストコンクリート床版P1と、を繋ぐずれ止めせん断機構である。勿論、本発明は、鋼桁G1とプレキャストコンクリート床版P1のずれ止めに限られず、現場打ちのコンクリート床版や鋼板とコンクリートからなる合成床版にも適用することができる。
【0040】
このずれ止めせん断機構10は、鋼桁G1の上フランジF1に形成されたボルト孔h1と、このボルト孔h1に挿通されてプレキャストコンクリート床版P1を連結する連結ボルトB1と、この連結ボルトB1とボルト孔h1との間に介装される前述のリジットカラー1’と、を備えている。勿論、第2実施形態に係るリジットカラー1’に代えて第1実施形態に係るリジットカラー1としてもよいことは云うまでもない。
【0041】
(ボルト孔)
ボルト孔h1は、前述のように、M22の連結ボルトB1の径に応じた直径φ26.5mmのボルト孔である。勿論、ボルト孔h1の径は、連結ボルトB1の径の公差に応じて適宜決定すればよい。
【0042】
(連結ボルト)
連結ボルトB1は、引張強さ100kgf/mm2=10ton.f/cm2の高力ボルトより強度が低い、一般構造用圧延鋼材(SS400)相当又は機械構造用炭素鋼鋼材(S45C)相当の鋼材からなる汎用のボルトで構わない。鋼桁G1とプレキャストコンクリート床版P1とを摩擦接合しなくてもリジットカラー1’(1)の効果により、水平方向のずれを防いでせん断力に対抗することができるからである。なお、符号N1は、連結ボルトB1と螺合するナットN1である。
【0043】
(リジットカラー)
リジットカラー1’は、前述の第2実施形態に係るリジットカラー1’であり、前述のように、ボルト孔h1の直径より所定径だけ大きい直径φ26.6mm~26.8mmの円筒体2が圧入されて嵌め込まれる。このように、所定径だけ小さいボルト孔h1に強制的にリジットカラー1’を嵌め込むことにより、公差分のボルト孔h1と連結ボルトB1との隙間を埋めることで、摩擦接合しなくても鋼桁G1とプレキャストコンクリート床版P1とをずれ動くことなく連結することができる。
【0044】
本発明の実施形態に係るずれ止めせん断機構10によれば、ボルト孔h1と連結ボルトB1との隙間をリジットカラー1で埋めるので、連結ボルトB1を高力ボルトとする必要がないため軸力低下の心配が少なく、且つ、鋼桁と床版とがせん断力により水平方向にずれることを確実に防ぐことができる。このため、ずれ止めせん断機構10によれば、鋼桁G1とプレキャストコンクリート床版P1とからなる合成桁のせん断耐力が向上し、橋梁の耐久性が向上する。
【0045】
<効果確認実験>
次に、本発明の効果を確認するために行った幾つかの実験結果について説明する。
【0046】
(第1実験:ずれ止めせん断試験)
本発明の効果を確認するために(スタッド、ボルト(軸力なし)、ボルト(軸力あり)、Rigid-collar I:リジットカラー1)、Rigid-collar II:リジットカラー1’の)5種類の供試体を作成し、[土木学会複合構造委員会「複合構造レポート10 複合構造ずれ止めの抵抗機構の解明への挑戦」第2章頭付きスタッドの章に記載の試験方法]に準じて行った。
【0047】
具体的には、コンクリートブロックを水平移動と回転が可能な支承によって支持して載荷を行う押抜き試験方法を採用した。コンクリートブロック下端の支承は丸鋼を用いたローラー支承とし、両端の支承とも回転及び水平変位を拘束しない支承条件とした。丸鋼と供試体の間には、80×400×30mmの鋼板を設置し、試験体との間は石膏を用いて不陸調整を行った。水平方向の軸圧縮力の載荷は、500kNセンターホールジャッキ及びφ23mm総ねじPC鋼棒を試験体の両側に配置し、H150×150×7×10を介して行った。この軸圧縮力は載荷荷重(せん断力)に応じて所定の値となるように手動で制御した。ずれ止めせん断試験の試験結果を
図6のずれ止めせん断力と変位との関係を示すグラフ、及び表1に示す。
【0048】
【0049】
図6及び表1より、Rigid-collar Iのリジットカラー1及びRigid-collar IIのリジットカラー1’を備えたずれ止めせん断機構の供試体は、いずれもスタッド(頭付きスタッド:スタッドジベル)のずれ止めせん断機構の供試体より高いせん断力に対抗することができることが判明した。
【0050】
また、ボルト(軸力なし)及びボルト(軸力あり)のずれ止めせん断機構の供試体も、リジットカラー1及びリジットカラー1’を備えたずれ止めせん断機構の供試体と同程度のスタッドのずれ止めせん断機構の供試体より高いせん断力に対抗することができることが判明した。しかし、ボルト(軸力なし)及びボルト(軸力あり)のずれ止めせん断機構の供試体は、
図6に示すように、最大荷重(最大せん断力)に達する前にずれ変形が発生していることが判明し、ずれ止めとして不適合であることも判明した。要するに、リジットカラー1及びリジットカラー1’を備えたずれ止めせん断機構の供試体は、ボルト(軸力なし)及びボルト(軸力あり)のずれ止めせん断機構の供試体より高い変形性能を有することが判明した。
【0051】
(第2実験:梁載荷試験)
本発明の効果を確認するために(stud:スタッド、SBボルト(軸力あり)、collar I:リジットカラー1、collar II:リジットカラー1’、collar II @250:リジットカラー1’の250ピッチのもの)5種類の合成梁の供試体を作成し、供試体スパン中央に荷重を載荷して載荷荷重とスパン中央変位との関係を調べる梁載荷試験を行った。
【0052】
載荷については、載荷スパン2500mm、スパン中央部に幅200mm、奥行き600mmの等分布荷重を作用させることとした(
図7の計測位置図参照)。荷重の載荷履歴については、ひび割れ発生まで漸増載荷(Pcr)し、その後、その荷重(Pcr)まで3回載荷-除荷を繰り返すこととした。その後、鋼材の許容応力度140N/mm
2(下鋼板ひずみ700×10-6)まで載荷(Pa)し、その後、3回繰返した後に終局まで載荷した。但し、鋼材の許容応力度(Pa)に達する前にその途中で破壊した場合には試験を終了とした。梁載荷試験の試験結果を
図8,
図9の載荷荷重とスパン中央変位との関係を示すグラフ、及び表2に示す。
【0053】
【0054】
図8及び表2より、Rigid-collar I(リジットカラー1)及びRigid-collar II(リジットカラー1’)を備えたずれ止めせん断機構の合成梁は、最大荷重時の変位が小さいことから、同一ピッチのボルト(軸力あり)のずれ止めせん断機構の合成梁より耐荷性能が二割程高いことが判明した。
【0055】
また、
図9及び表2より、リジットカラー1及びリジットカラー1’を備えたずれ止めせん断機構の合成梁は、同一ピッチのスタッド(頭付きスタッド:スタッドジベル)のずれ止めせん断機構の合成梁と同等の変形性能を有することが判明した。
【0056】
以上により、本発明の実施形態に係るリジットカラー1,1’及びこれらのリジットカラー1,1’を備えたずれ止めせん断機構は、頭付きスタッドボルトをずれ止めとする従来のずれ止めせん断機構より高いせん断耐力を有するとともに、同等の変形性能を有することが確認できた。
【0057】
以上、本発明の実施の形態に係るリジットカラー及びそれを備えたずれ止めせん断機構ついて詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明に係る技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0058】
特に、床版としてプレキャスト床版を例示して説明したが、本発明は、現場打ちのコンクリート床版や鋼板とコンクリートからなる合成床版、又は床版以外にもずれ止めでせん断に抵抗するような働きを求められる部分に適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1,1’:リジットカラー
2:円筒体
2a:ねじ溝
2b:テーパー面
2c:突出部
3:カラーフランジ
10:ずれ止めせん断機構
G1:鋼桁
F1:上フランジ
h1:ボルト孔
P1:プレキャストコンクリート床版(床版)
B1:転結ボルト
N1:ナット