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特開2022-162306表面形状計測装置および表面形状計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162306
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】表面形状計測装置および表面形状計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20221017BHJP
   G01B 9/021 20060101ALI20221017BHJP
   G03H 1/04 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
G01B11/24 D
G01B9/021
G03H1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067073
(22)【出願日】2021-04-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「ワンショット・ナノレベル表面形状測定機の事業化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125221
【弁理士】
【氏名又は名称】水田 愼一
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】細美 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】吉木 啓介
【テーマコード(参考)】
2F064
2F065
2K008
【Fターム(参考)】
2F064AA09
2F064CC04
2F064FF01
2F064FF07
2F064GG22
2F064GG44
2F064HH03
2F064LL15
2F065AA04
2F065AA24
2F065AA53
2F065BB05
2F065DD03
2F065FF54
2F065GG04
2F065GG23
2F065GG24
2F065JJ03
2F065JJ26
2F065LL04
2F065LL19
2F065LL51
2F065QQ31
2F065QQ41
2F065SS02
2F065SS13
2F065UU07
2K008AA06
2K008BB03
2K008CC03
2K008HH01
2K008HH06
2K008HH18
2K008HH28
(57)【要約】
【課題】本発明は、物質的な参照平面を必要とせずに被測定面を有する被測定物の表面形状の測定精度を向上でき厚さと平行度を測定できる表面形状計測装置および表面形状計測方法を提供する。
【解決手段】仮想平面VPに対し、球面波証明光Qの集光点Pとインライン球面波参照光Lの集光点Pとを互いに鏡像配置とし、仮想平面VPに被測定面が接するように、被測定面の位置を検出して被測定物を底面基準で保持する試料台の位置を移動調整する。被測定面を斜め照射する照明光Qの反射光である物体光Oとインライン球面波参照光Lの各ホログラムを記録する。仮想平面VPにおいて、計測用の再生物体光ホログラムhと球面波照明光Qの鏡像点から放たれる球面波光を表す球面波光ホログラムsとを生成し、両ホログラムh,sの位相差分布から被測定面の高さ分布を得る。試料台の移動量から被測定物の厚さを得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラフィを用いる表面形状計測装置において、
物体の被測定面を照明する球面波照明光(Q)の反射光である物体光(O)と前記物体光(O)に対してインラインとなるインライン球面波参照光(L)の2つの光のデータをオフアクシス参照光(R)を用いてそれぞれ物体光オフアクシスホログラム(IOR)および参照光オフアクシスホログラム(ILR)として取得するデータ取得部と、
前記データ取得部によって取得されたデータを用いて、前記被測定面の画像を再生して前記被測定面の表面形状のデータを取得する計算処理を行う画像再生部と、を備え、
前記データ取得部は、
光強度を電気信号に変換してホログラムデータとして出力するイメージセンサと、
前記被測定面を前記イメージセンサの受光面に向けて前記物体を保持する試料台と、
前記球面波照明光(Q)の集光点である照明光集光点(P)と前記インライン球面波参照光(L)の集光点である参照光集光点(P)とが、仮想的に設定した仮想平面(VP)に対して互いに鏡像配置となり、前記インライン球面波参照光(L)が前記仮想平面(VP)を通過して前記イメージセンサに入射するように構成されたホログラム取得用の光学系と、
前記イメージセンサの光軸方向における前記仮想平面(VP)の前後を含む領域で前記被測定面上の点の位置を検出し、その情報を反射位置情報として出力する位置検出部と、
前記反射位置情報に基づき、前記検出された点が前記仮想平面(VP)に含まれるように、前記試料台を移動させる位置調整装置と、を備え、
前記画像再生部は、
前記参照光集光点(P)から放たれる光が球面波であることを用いて、前記2種類のオフアクシスホログラム(IOR,ILR)のデータから前記物体光(O)の光波を表す物体光ホログラム(g)を生成する物体光ホログラム生成部と、
前記物体光ホログラム(g)を光伝播変換および回転変換して、前記仮想平面(VP)における再生物体光ホログラム(h)を生成する再生物体光ホログラム生成部と、
前記物体光ホログラム(g)に光伝搬変換を行って前記物体光(O)が集光する位置を検出してその位置を形状計測用の参照点(S1)として設定する参照点検出部と、
前記参照点(S1)から放たれる球面波光の前記仮想平面(VP)におけるホログラムである球面波光ホログラム(s)を解析的に生成する解析光ホログラム生成部と、
前記再生物体光ホログラム(h)と前記球面波光ホログラム(s)の位相差の面分布から前記物体の被測定面の高さ分布を求める形状計測部と、を備える、ことを特徴とする表面形状計測装置。
【請求項2】
前記データ取得部は、前記イメージセンサの直前に配置され、前記物体光(O)または前記インライン球面波参照光(L)と前記オフアクシス参照光(R)とを合波して前記イメージセンサに入射させるキューブ型ビームスプリッタで成るビーム結合器を備え、
前記画像再生部は、前記ビーム結合器の屈折率を考慮した平面波展開法によって前記ビーム結合器を通過する光の光伝播計算を行うことにより、前記参照光集光点(P)から放たれて前記ビーム結合器を通過し、前記イメージセンサの受光面に至る光波であって、前記受光面における前記インライン球面波参照光(L)に相当する光波を表すインライン参照光ホログラム(j)を生成する、ことを特徴とする請求項1に記載の表面形状計測装置。
【請求項3】
前記位置検出部は、
前記被測定面から反射される、位置検出用の光ビームを出す検出光源と、
前記光ビームの反射光を検出し、その検出に応じて電気信号を出力する光検出器と、
前記仮想平面(VP)上の所定の照射点に前記検出光源からの光ビームを照射させ、前記照射点に照射された光ビームの反射光を前記光検出器に入射させる検出光学系と、
前記光検出器が出力する前記電気信号に基づいて、前記光ビームが反射された位置と前記仮想平面(VP)との隔たり量を示す偏移信号を生成して前記反射位置情報として前記位置調整装置に出力する信号出力部と、を備える、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面形状計測装置。
【請求項4】
前記光検出器は複数の検出素子を有し、
前記信号出力部は前記複数の検出素子の各々が出力する信号の差信号を前記偏移信号とする、ことを特徴とする請求項3に記載の表面形状計測装置。
【請求項5】
前記位置検出部は、
前記被測定面の位置検出に用いられる変調された光ビームを出す検出光源と、
前記光ビームを検出する2つの光検出器と、
前記検出光源からの前記光ビームを2つの光ビームに分離するビームスプリッタと、
前記分離された光ビームの一方を、前記光検出器の一方に入射させ、前記分離された光ビームの他方を、前記被測定面に向けて伝播させて前記被測定面からの反射光を前記光検出器の他方に入射させる検出光学系と、
前記2つの光検出器がそれぞれ前記分離された光ビームを検出する時間差に基づいて、前記被測定面の位置と前記仮想平面(VP)の位置との隔たり量を示す偏移信号を生成して前記反射位置情報として前記位置調整装置に出力する信号出力部と、を備える、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面形状計測装置。
【請求項6】
前記ホログラム取得用の光学系は、前記物体光(O)と前記インライン球面波参照光(L)とを集光する集光レンズと、前記集光レンズによる集光位置に配置されて通過光量を制限する瞳孔板と、前記瞳孔板に組み合わせて配置された結像レンズと、を備えて、前記物体光(O)と前記インライン球面波参照光(L)とを前記イメージセンサに結像させる、ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の表面形状計測装置。
【請求項7】
前記ホログラム取得用の光学系は、前記物体光(O)と前記インライン球面波参照光(L)とを集光する凹面鏡と、前記凹面鏡による集光位置に配置されて通過光量を制限する瞳孔板と、前記瞳孔板に組み合わせて配置された結像レンズと、を備えて、前記物体光(O)と前記インライン球面波参照光(L)とを前記イメージセンサに結像させる、ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の表面形状計測装置。
【請求項8】
物体の被測定面の形状をホログラフィを用いて計測する表面形状計測方法において、
イメージセンサの光軸上にインライン球面波参照光(L)の集光点である参照光集光点(P)を配置し、前記光軸から外れた位置に球面波照明光(Q)の集光点である照明光集光点(P)を配置し、前記参照光集光点(P)と前記照明光集光点(P)とを結ぶ線分を垂直に2等分する平面である仮想平面(VP)を設定し、
前記仮想平面(VP)と前記光軸との交点位置に基準点(P)を設定し、
参照平面を有する平行平面基板を、前記参照平面が前記イメージセンサの受光面を望むように、試料台に保持させ、
前記参照平面が前記仮想平面(VP)に接するように前記試料台を調整し、
前記平行平面基板に替えて前記物体を、前記被測定面が前記イメージセンサの受光面を望むように、前記試料台に保持させ、
前記被測定面が前記仮想平面(VP)に接するように前記試料台の位置を調整し、
前記被測定面からの前記球面波照明光(Q)の反射光である物体光(O)のデータを、前記イメージセンサを用いて物体光オフアクシスホログラム(IOR)として取得し、
前記平行平面基板と前記物体が配置されていない状態で、前記仮想平面(VP)を通過して前記イメージセンサに入射する前記インライン球面波参照光(L)のデータを、前記イメージセンサを用いて参照光オフアクシスホログラム(ILR)として取得し、
前記インライン球面波参照光(L)が球面波光であることを用いる計算処理によって、前記2種類のオフアクシスホログラム(IOR,ILR)のデータから前記物体光(O)の光波を表す物体光ホログラム(g)を生成し、
計算処理によって、前記物体光ホログラム(g)を光伝播変換および回転変換して、前記仮想平面(VP)における再生物体光ホログラム(h)を生成し、
計算処理によって、前記物体光ホログラム(g)に光伝搬変換を行って前記物体光(O)が集光する位置を検出してその位置を、前記仮想平面(VP)に対する前記照明光集光点(P)の鏡像点と見做し、形状計測用の参照点(S1)として設定し、
前記参照点(S1)から放たれる球面波光の前記仮想平面(VP)におけるホログラムである球面波光ホログラム(s)を解析的に生成し、
前記再生物体光ホログラム(h)と前記球面波光ホログラム(s)の位相差の面分布から前記物体の被測定面の高さ分布を求める、ことを特徴とする表面形状計測方法。
【請求項9】
前記参照平面が前記仮想平面(VP)に接するように行なう前記試料台の前記調整は、
前記平行平面基板が配置されていない状態で、前記仮想平面(VP)を通過して前記イメージセンサに入射する前記インライン球面波参照光(L)のデータを、参照光オフアクシスホログラム(ILR)として取得し、
前記平行平面基板を前記試料台に保持させて前記球面波照明光(Q)の前記参照平面からの反射光のデータを物体光オフアクシスホログラム(IOR)として取得し、
前記物体光オフアクシスホログラム(IOR)と前記参照光オフアクシスホログラム(ILR)の位相差の面分布の変化が低減するように前記試料台の位置と傾きを変えて行う、ことを特徴とする請求項8に記載の表面形状計測方法。
【請求項10】
前記被測定面が前記仮想平面(VP)に接するように行なう前記試料台の前記調整は、
前記仮想平面(VP)上の1点に向けて位置検出用の光ビームを照射し、その反射光を受光することにより前記光ビームが反射された位置と前記仮想平面(VP)との隔たり量に応じた偏移信号を生成し、前記偏移信号が小さくなるように前記被測定面を移動させるアクティブ自動フォーカスの技術を用いて行なう、ことを特徴とする請求項8または請求項9に記載の表面形状計測方法。
【請求項11】
前記形状計測用の参照点(S1)の設定は、
前記物体光ホログラム(g)を光伝播計算により前記参照光集光点(P)の位置まで光軸方向に伝播させて成る評価ホログラム(h0)を生成し、点光源を表すプローブ関数(fp)による相関関数計算を用いて前記評価ホログラム(h0)の面内で集光点を検出し、前記評価ホログラム(h0)を光伝播計算により光軸方向に試験伝播させたホログラムと前記プローブ関数(fp)との相関関数計算により光軸方向における集光点を検出し、その集光点を前記参照点(S1)に設定して行う、ことを特徴とする請求項8乃至請求項10のいずれか一項に記載の表面形状計測方法。
【請求項12】
異なる波長(λ,j=1,2)の光によって、前記物体光(O)および前記インライン球面波参照光(L)のデータを前記各波長(λ,λ)毎に、前記2種類のオフアクシスホログラム(I OR,I LR,j=1,2)として取得し、
前記各波長(λ,λ)毎に、前記再生物体光ホログラム(h ,j=1,2h)と前記球面波光ホログラム(s ,j=1,2)の比として構成される計測用ホログラム(J OS=h /s ,j=1,2)を生成し、
前記2つの計測用ホログラム(J OS,j=1,2)の比を求めるヘテロダイン変換の結果である変調波(HW=J OS/J OS)を生成し、前記変調波(HW)に含まれる変調波長(λ=λλ/(λ-λ))および変調位相分布(θ(x’,y’)=θ-θ)を用いて、前記物体の被測定面における高さ分布を求める、ことを特徴とする請求項8乃至請求項11のいずれか一項に記載の表面形状計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルホログラフィにおける表面形状計測装置および表面形状計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、反射光や透過光などの光波を解析する技術に、光波の強度と位相をデジタルデータとして取得したり、計算機上でホログラムを生成したりして解析するデジタルホログラフィがある。
【0003】
デジタルホログラフィにおいて、ホログラムデータの取得や処理の高速化と高精度化を達成するための種々の技術が提案されている。例えば、ワンショットで記録したホログラムデータに空間周波数フィルタリングと空間ヘテロダイン変調とを適用して、物体像再生用の複素振幅インラインホログラムを高速かつ正確に生成するデジタルホログラフィが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来の光学顕微鏡の問題を解決するため、ホログラフィを用いることにより、結像レンズを用いることなく大開口数の物体光を正確にワンショット記録する方法、および記録された物体光を平面波展開によって高分解能3次元像を正確に計算機再生する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。このような顕微鏡は、結像レンズを用いないので、従来の光学顕微鏡が有する、媒質や結像レンズの影響を受ける問題を解決できる。
【0005】
また、培養液中細胞や生体組織の内部構造を高分解能で計測するために、反射型レンズレスホログラフィック顕微鏡と波長掃引レーザ光を用いる高分解能断層撮像法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
さらに、入射方向の異なる照明光を照射した物体から放射される大開口数の物体光を、照明光の入射方向毎にホログラムデータとして記録し、これらの複数の大開口数ホログラムを一つのホログラムに合成して、1を超える合成開口数のもとで物体光を再生する方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。この方法によれば、通常の回折限界を超える分解能を持つ超高分解能3次元顕微鏡が実現できる。
【0007】
加えて、ワンショットデジタルホログラフィによる光波の正確な記録と記録光波の平面波展開を用いるホログラフィックエリプソメトリ装置が知られている(例えば、特許文献5参照)。このエリプソメトリ装置によれば、非平行の照明光が含む多数の入射角を有する入射光による反射光のデータを一括してホログラムに記録できるので、入射角に対応する多数の波数ベクトル毎にエリプソメトリ角Ψ,Δを求めることができ、測定効率が向上できる。
【0008】
また、撮像素子、2つの結像用レンズ、キューブ型ビームスプリッタ、フィゾー参照平面を有する光学素子、および被測定物を直列に配置し、参照平面と被測定部からの2つの反射光間の干渉縞を記録して形状計測を行う測定装置が知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0009】
これら特許文献1乃至5に示されるようなホログラフィは、顕微観察や比較的狭い面積の形状計測などに適用されるが、例えば、大面積化が進む半導体ウエハなどの平面度測定や表面形状の計測への対応が要望されている。
【0010】
また、上述した特許文献6に示される測定装置は、平面度の一般的な測定方法であるフィゾー干渉を用いるものであるが、参照平面を用いることに起因して、この方法を用いるフィゾー干渉計に内在する下記のような問題を有している。
【0011】
フィゾー干渉計は、最も高精度で高速な平面度測定ができる装置の一つとされ、各国の標準器研究所における平面度測定装置として採用されている。フィゾー干渉測定では、基準となる透明ガラス板の参照平面で反射した光と被測定面で反射した光が作る干渉縞を記録する。測定精度を高めるために、参照平面をわずかに垂線方向に移動して干渉縞の位相をシフトさせ、位相が違う複数枚の干渉縞を記録し、記録した複数枚の干渉縞を使って被測定面の平面形状を解析する。こうして測定した結果は、あくまでも参照平面と被測定面との比較であり、平面度の絶対値を測定するには参照平面の絶対形状補正が必要である。絶対形状補正には3枚合わせ法が用いられている。
【0012】
また、フィゾー干渉計の光学系は、光学部品数が比較的少なく構造もシンプルにできるが、測定の基準となる参照平面やコリメートレンズの他に、被測定物の傾き調節機構や垂直移動機構および絶対形状補正のための回転台などが必要である。測定の精度は、参照平面形状補正における不確かさに加え、位相シフトの不確かさ、環境ゆらぎによる不確かさなどの影響を受ける。これらを合わせた測定の不確かさを10nm以下に抑えることは難しい。他の問題点として、参照平面やコリメートレンズを使用しているため、測定可能な被測定物の直径はおよそ300mm以下に制限され、それ以上の大口径化は難しい。また、ガラス製の参照平面に比べて反射率が大きく異なる被測定面に対しては、干渉縞のコントラストが低下し、高精度な測定が難しくなる、という問題がある。
【0013】
そこで、上述の要望や問題を解消するため、形状測定の比較対象としての物質的な参照平面を必要とせず、機械的な調整機構によらずに測定精度を向上できる表面形状計測装置および表面形状計測方法が提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【0014】
この特許文献7に示されている装置と方法は、被測定面からの球面波照明光の反射光を記録したホログラムを用いて、被測定面の位置に設定した仮想平面からの高さに対応する、光波の位相を求め、球面波照明光の点光源から発せられる球面波について前記仮想平面上で算出した位相を、基準平面の位相として求め、両者の位相差を求めている。仮想平面における位相差の分布と波長の情報とから、仮想平面に対する高さ分布が、表面形状の計測値として得られる。
【0015】
従って、特許文献7に示されている装置と方法によれば、被測定面における球面波照明光の反射光の位相データを取得し、解析的に得られる球面波の平面切断面における位相分布と比較して形状計測を行うので、ガラス基板などの物質的な参照平面を必要とせず、大面積化に対応でき、かつ、高精度の表面形状計測を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2011/089820号
【特許文献2】国際公開第2012/005315号
【特許文献3】国際公開第2014/054776号
【特許文献4】国際公開第2015/064088号
【特許文献5】国際公開第2018/038064号
【特許文献6】米国特許第8269981号明細書
【特許文献7】国際公開第2020/045589号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述した特許文献7に示される表面形状計測の装置と方法は、測定装置の光学系の中に仮想的に設定した仮想平面から所定の距離内に存在する被測定面の高さが測定可能である。その所定の距離は、1つの単波長光を用いる場合はその波長、複数の異なる単波長光を用いる場合はその合成波長である。
【0018】
そこで、特許文献7においては、被測定物を試料台で保持する方法として、試料台における載置面が仮想平面と一致するように試料台の位置を予め調整し、その載置面に被測定物の被測定面を対向接触させるようにして、被測定物を保持する方法が例示されている。載置面は、仮想平面に物体的要素を持たせる基準面として用いられる。この保持方法は、被測定物における被測定面の対向面である底面(または、裏面、または背面)を試料台の載置面に対向接触させる方法と異なり、被測定面を、基準面である載置面に直接接触させて載置するので、被測定物を保持する設定が容易である。
【0019】
しかしながら、被測定物の形状によっては、被測定面を載置面に対向接触させるように保持できない場合がある。また、表面形状の高精度の測定と同時に、被測定物の底面を基準とする底面基準のもとで底面に対する被測定面の平行度を測定したり、被測定物の厚さや傾斜角および凹面または凸面形状を測定したりする用途や要望に対応できない。
【0020】
本発明は、上記の課題を解消するものであって、物質的な参照平面と比較することなく被測定物の表面形状の測定精度を向上でき、被測定物の底面を基準とする底面基準のもとで底面に対する被測定面の平行度を測定したり、被測定物の厚さや傾斜角および凹面形状または凸面形状を測定したりすることができる、表面形状計測装置および表面形状計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を達成するために、本発明の表面形状計測装置は、
ホログラフィを用いる表面形状計測装置において、
物体の被測定面を照明する球面波照明光(Q)の反射光である物体光(O)と前記物体光(O)に対してインラインとなるインライン球面波参照光(L)の2つの光のデータをオフアクシス参照光(R)を用いてそれぞれ物体光オフアクシスホログラム(IOR)および参照光オフアクシスホログラム(ILR)として取得するデータ取得部と、
前記データ取得部によって取得されたデータを用いて、前記被測定面の画像を再生して前記被測定面の表面形状のデータを取得する計算処理を行う画像再生部と、を備え、
前記データ取得部は、
光強度を電気信号に変換してホログラムデータとして出力するイメージセンサと、
前記被測定面を前記イメージセンサの受光面に向けて前記物体を保持する試料台と、
前記球面波照明光(Q)の集光点である照明光集光点(P)と前記インライン球面波参照光(L)の集光点である参照光集光点(P)とが、仮想的に設定した仮想平面(VP)に対して互いに鏡像配置となり、前記インライン球面波参照光(L)が前記仮想平面(VP)を通過して前記イメージセンサに入射するように構成されたホログラム取得用の光学系と、
前記イメージセンサの光軸方向における前記仮想平面(VP)の前後を含む領域で前記被測定面上の点の位置を検出し、その情報を反射位置情報として出力する位置検出部と、
前記反射位置情報に基づき、前記検出された点が前記仮想平面(VP)に含まれるように、前記試料台を移動させる位置調整装置と、を備え、
前記画像再生部は、
前記参照光集光点(P)から放たれる光が球面波であることを用いて、前記2種類のオフアクシスホログラム(IOR,ILR)のデータから前記物体光(O)の光波を表す物体光ホログラム(g)を生成する物体光ホログラム生成部と、
前記物体光ホログラム(g)を光伝播変換および回転変換して、前記仮想平面(VP)における再生物体光ホログラム(h)を生成する再生物体光ホログラム生成部と、
前記物体光ホログラム(g)に光伝搬変換を行って前記物体光(O)が集光する位置を検出してその位置を形状計測用の参照点(S1)として設定する参照点検出部と、
前記参照点(S1)から放たれる球面波光の前記仮想平面(VP)におけるホログラムである球面波光ホログラム(s)を解析的に生成する解析光ホログラム生成部と、
前記再生物体光ホログラム(h)と前記球面波光ホログラム(s)の位相差の面分布から前記物体の被測定面の高さ分布を求める形状計測部と、を備える、ことを特徴とする。
【0022】
上記課題を達成するために、本発明の表面形状計測方法は、
物体の被測定面の形状をホログラフィを用いて計測する表面形状計測方法において、
イメージセンサの光軸上にインライン球面波参照光(L)の集光点である参照光集光点(P)を配置し、前記光軸から外れた位置に球面波照明光(Q)の集光点である照明光集光点(P)を配置し、前記参照光集光点(P)と前記照明光集光点(P)とを結ぶ線分を垂直に2等分する平面である仮想平面(VP)を設定し、
前記仮想平面(VP)と前記光軸との交点位置に基準点(P)を設定し、
参照平面を有する平行平面基板を、前記参照平面が前記イメージセンサの受光面を望むように、試料台に保持させ、
前記参照平面が前記仮想平面(VP)に接するように前記試料台を調整し、
前記平行平面基板に替えて前記物体を、前記被測定面が前記イメージセンサの受光面を望むように、前記試料台に保持させ、
前記被測定面が前記仮想平面(VP)に接するように前記試料台の位置を調整し、
前記被測定面からの前記球面波照明光(Q)の反射光である物体光(O)のデータを、前記イメージセンサを用いて物体光オフアクシスホログラム(IOR)として取得し、
前記平行平面基板と前記物体が配置されていない状態で、前記仮想平面(VP)を通過して前記イメージセンサに入射する前記インライン球面波参照光(L)のデータを、前記イメージセンサを用いて参照光オフアクシスホログラム(ILR)として取得し、
前記インライン球面波参照光(L)が球面波光であることを用いる計算処理によって、前記2種類のオフアクシスホログラム(IOR,ILR)のデータから前記物体光(O)の光波を表す物体光ホログラム(g)を生成し、
計算処理によって、前記物体光ホログラム(g)を光伝播変換および回転変換して、前記仮想平面(VP)における再生物体光ホログラム(h)を生成し、
計算処理によって、前記物体光ホログラム(g)に光伝搬変換を行って前記物体光(O)が集光する位置を検出してその位置を、前記仮想平面(VP)に対する前記照明光集光点(P)の鏡像点と見做し、形状計測用の参照点(S1)として設定し、
前記参照点(S1)から放たれる球面波光の前記仮想平面(VP)におけるホログラムである球面波光ホログラム(s)を解析的に生成し、
前記再生物体光ホログラム(h)と前記球面波光ホログラム(s)の位相差の面分布から前記物体の被測定面の高さ分布を求める、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の表面形状計測装置によれば、試料台に保持された物体の被測定面の位置の情報を得る位置検出部と試料台の位置を調整する位置調整装置とを備えるので、また、本発明の表面形状計測方法によれば、試料台に保持された物体の被測定面の位置の情報を得て試料台の位置を調整するので、被測定物を底面基準で試料台に保持させることができる。従って、被測定物における被測定面の周囲構造の如何にかかわらず、被測定物を試料台に保持させて、高精度の表面形状測定ができ、かつ厚みや平行度の計測ができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態に係る表面形状計測方法を示すフローチャート。
図2】同計測方法を説明するための光学系の概念図。
図3】照明光集光点の鏡像点である参照点の位置を決定する方法を説明するフローチャート。
図4】(a)は平行平面基板とオートフォーカス技術とを用いて行なう試料台の位置設定を説明する図、(b)は(a)における平行平面基板を被測定物に替えた状態の図、(c)は(b)における被測定物の両面が平行ではない場合であって試料台を移動して位置調整した図。
図5】第2の実施形態に係る表面形状計測装置の側面図。
図6】同装置の上面図。
図7】第3の実施形態に係る表面形状計測装置の側面図。
図8】同装置の変形例を示す側面図。
図9】第4の実施形態に係る表面形状計測装置の側面図。
図10】同装置の上面図。
図11】第5の実施形態に係る表面形状計測装置の側面図。
図12】第6の実施形態に係る表面形状計測装置のイメージセンサ周辺の側面図。
図13】第7の実施形態に係る表面形状計測装置のブロック構成図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る表面形状計測装置および表面形状計測方法について、図面を参照して説明する。
【0026】
(第1の実施形態:表面形状計測方法)
図1乃至図4を参照して、第1の実施形態に係る表面形状計測方法を説明する。図1図2に示すように、本表面形状計測方法は、被測定物である物体4の被測定面の形状を、ホログラフィを用いて計測する方法であって、光学系設定工程(#1)から表面形状計測工程(#7)までの工程を備えている。
【0027】
光学系設定工程(#1)では、仮想的に設定した仮想平面VPに関して互いに鏡像配置となるように、球面波照明光Qの集光点である照明光集光点Pとインライン球面波参照光Lの集光点である参照光集光点Pとが設定される。また、参照光集光点Pから仮想平面VPを斜めに通過する直線がイメージセンサ5の受光面50の略中心となりかつ受光面50に略垂直となるようにイメージセンサ5を配置し、直線と仮想平面VPとの交点位置に基準点Pが設定される。つまり、イメージセンサ5の光軸が受光面50の中心における法線として設定され、その光軸上に基準点Pと参照光集光点Pとが配置される。また、試料台7の載置面に参照面40aを有する平行平面基板40が底面基準の配置で保持され、参照面40aが仮想平面VPに接するように試料台7の位置と角度、および光学系の全体が調整設定される。これらの設定が完了すると、試料台7とイメージセンサ5とを含む光学系の設定が終了し、基準点Pが仮想平面VP上の点かつ参照面40a上の点となる。
【0028】
底面基準(背面基準ともいう)の配置は、平行平面基板40の参照面40aをイメージセンサ5に向け、平行平面基板40の底面(参照面40aの対向面、背面、裏面ともいう)を試料台7の載置面に向けて、平行平面基板4を試料台7に保持させる配置である。被測定物である物体4も同様に、被測定面4aをイメージセンサ5に向けて、底面基準の配置で試料台7に保持される。
【0029】
光学系の設定は、上記の構成のもとで、イメージセンサ5によって、球面波参照光L、および平行平面基板40の参照面40aによる球面波光Qの反射光である物体光O、の各光の2種類のホログラムをオフアクシス参照光Rによって取得して行われる。球面波参照光Lのホログラムは、試料台7と平行平面基板40が球面波参照光Lの光路上にない状態で、取得される。コンピュータ上で各光源のホログラムを再生することにより、設定の成否を確認しつつ調整設定が行われる。各球面波光Q,L、およびオフアクシス参照光Rは、一つの光源から放たれた互いにコヒーレントなレーザ光である。
【0030】
平行平面基板40は、例えば、平坦度と平行度の値がサブミクロンの精度を有するJIS規格のオプチカルパラレルを用いることができる。各集光点P,P、すなわち各球面波光Q,Lの光源の位置は、例えば、ピンホール板のピンホール位置によって設定される。また、仮想平面VPの位置に、参照平面40aを配置するように試料台7を調整して設定するため要求される精度は、ねじなどの機械的な操作で調整可能な精度で済ますことができる。これは、この表面形状計測方法では、表面形状測定の測定精度をnm(ナノメータ)オーダに高精度化する処理を、画像再生時にコンピュータ内の後処理で行うことによる。
【0031】
物体設定工程(#2)では、試料台7から平行平面基板40を取り除き、物体4の被測定面4aを照明光集光点Pに望ませて、物体4を底面基準の配置で試料台7に保持させる。物体4は、例えば、半導体工業におけるシリコン基板などのように、一般に平行平面基板40とは厚さが異なる。そこで、物体4の被測定面4aが仮想平面VPに接するように、試料台7を移動させる位置調整装置を用いて、試料台7の位置を調整する。試料台7の移動は、仮想平面VPに対して接近または離間させる移動であって、仮想平面VPへの垂直方向の移動である。
【0032】
被測定面4aが仮想平面VPに接するようにするとは、被測定面4aを仮想平面VPに近づけて、表面形状計測が可能な状態にするという意味である。仮想平面VPは、仮想であるゆえに被測定物の内部に入り込むことができ、そのような状態も、計測可能な接する状態に含まれる。
【0033】
この調整は、予めフォーカス位置として定めた位置に物体表面を移動させるように、物体表面の位置を光学的に検出する装置である位置検出部を用いて、位置を検出して行われる。位置検出部は、例えば、アクティブ自動フォーカスの技術を用いて物体表面の位置を光学的に検出する。位置検出部の光学系は、表面形状計測方法を実施する光学系と一体的に構成されている。
【0034】
この調整では、初めに、試料台7に平行平面基板40が保持されている状態で、例えば、仮想平面VP上の点かつ参照面40a上の点となるように調整された基準点Pの位置に、位置検出部によるフォーカス位置が設定される。その後、平行平面基板40を取り除いて、物体4を試料台7に保持させる。位置検出部によってフォーカス位置に対する被測定面4aの位置を確認しつつ、位置調整装置によって試料台7を移動させて、基準点Pであるフォーカス位置が被測定面4a上にくるように位置調整する。この位置調整は、位置検出部の出力に基づいて、位置調整装置を自動または手動で操作して実施される。
【0035】
この位置調整を位置検出部の出力に基づいて、一体的に構成されている位置検出部の光学系と表面形状計測方法を実施する光学系とを位置調整装置として自動または手動で操作して実施することも可能である。例えば大型のシリコンウエハなどは吸着されて回転機構の上に設置されることもあるので、位置調整装置を底面に設置するより一体的に構成されている位置検出部の光学系と表面形状計測方法を実施する光学系とを移動させるほうが好ましい場合がある。
【0036】
試料台7の移動は、2つの集光点P,Pを結ぶ線分の方向に沿う平行移動によって行われる。なお、種々の被測定物に対応可能とするために、試料台7における被測定物の載置面の角度を調整可能にする3点支持機構などを試料台7に備えて、平行移動以外に、傾角調整を行うようにしてもよい。調整完了までの試料台7の平行移動による移動距離ηと、平行平面基板40の既知の厚さdとから、物体4の厚さDが、D=d-η(Dが厚いとき)またはD=d+η(Dが薄いとき)によって得られる。
【0037】
オフアクシスホログラム取得工程(#3)では、仮想平面VPの位置における被測定面4aを、球面波照明光Qで斜め照明し、反射光である物体光Oのデータが、オフアクシス参照光Rを用いて、物体光オフアクシスホログラムIORとして、イメージセンサ5で取得される。
【0038】
同様に、物体4と試料台7が球面波参照光Lの光路上にない状態で、仮想平面VPを斜めに通過してイメージセンサ5に入射するインライン球面波参照光Lのデータが、オフアクシス参照光Rを用いて参照光オフアクシスホログラムILRとして、イメージセンサ5で取得される。これらの2種類のオフアクシスホログラムIOR,ILRのデータは、同時には取得できない。また、オフアクシス参照光Rの照射条件などは、両データの取得の際に、同じに条件に保つ必要がある。
【0039】
物体光ホログラム生成工程(#4)では、球面波参照光Lが球面波光であることを用いる計算処理によって、2種類のオフアクシスホログラムILR,IORのデータから、イメージセンサ5の受光面50(z=0)をホログラム面とする、物体光Oの光波を表す物体光ホログラムgが生成される。
【0040】
計測用物体光ホログラム生成工程(#5)では、受光面50(z=0)における物体光ホログラムgが光伝播計算によって仮想平面VPの位置(z=z)のホログラムに変換され、さらに、受光面50に対する仮想平面VPの傾角αに従って回転変換される。これにより、仮想平面VP(z=z)における計測用の再生物体光ホログラムhが生成される。
【0041】
参照点検出工程(#6)では、光伝搬変換によって物体光ホログラムgを伝播させ、参照光集光点Pの近傍で、物体光Oが集光する位置を検出し、その位置を、仮想平面VPに対する照明光集光点Pの真の鏡像点として、形状計測用の参照点S1に設定する。参照点S1の位置情報は、参照光集光点Pの位置情報を較正した情報といえる。この参照点S1の位置情報を用いることにより、被測定面の高精度な測定が可能になる。
【0042】
球面波光ホログラム生成工程(#7)では、形状計測用の参照点S1から放たれる球面波光のホログラムが、仮想平面VPにおいて、球面波光ホログラムsとして、解析的に生成される。球面波光ホログラムsは、フィゾー干渉計などにおいて基準平面となる従来の物理的な参照基板における参照平面を、コンピュータ内で実現する。
【0043】
表面形状計測工程(#8)では、再生物体光ホログラムhと、球面波光ホログラムsと、の位相差の面分布を用いて、物体4の被測定面4aの表面形状が算出される。位相差の面分布は、再生物体光ホログラムhを球面波光ホログラムsで除算し、物体光Oと球面波光ホログラムsとに関する計測用の複素振幅インラインホログラムJ OSを生成することにより、その複素振幅インラインホログラムJ OSの位相の面分布として得られる。
【0044】
(光学系の設定の詳細)
図2に示す試料台7および光学系の設定は次のように行われる。イメージセンサ5の光軸上にインライン球面波参照光Lの集光点である参照光集光点Pを配置し、光軸から外れた位置に球面波照明光Qの集光点である照明光集光点Pを配置する。これらの、各光源P,Pとイメージセンサ5の配置設定は、以後、固定される。仮想平面VPの設定は、仮想的な仮想平面VPの位置情報を、試料台7と平行平面基板40の組み合わせによって、試料台7の位置という実体的な情報として固定する工程である。図中に2つの右手系直交座標系が設定されている。原点がイメージセンサ5の受光面50の中央に設定されるxyzと、仮想平面VPに設定されているx’y’z’座標系である。イメージセンサ5の光軸はz軸である。
【0045】
仮想平面VPは、参照光集光点Pと照明光集光点Pとを結ぶ線分を垂直に2等分する平面である。仮想平面VPと光軸との交点位置に平行平面基板40の位置を示す基準点Pが設定される。試料台7は、平行平面基板40を試料台7に固定したときに、平行平面基板40の参照面40aが仮想平面VPに接するように調整される。そのような調整が達成できたか否かの判断は、反射光である物体光Oと参照光Lの各々のホログラムを用いて行なわれる。試料台7の調整は、以下のように行われる。
【0046】
参照平面40aを有する平行平面基板40を試料台7に固定して球面波照明光Qによって照明し、平行平面基板40からの反射光のデータを、オフアクシス参照光Rを用いて物体光オフアクシスホログラムIORとして取得する。参照平面基板40(と試料台7、以下同様)が配置されていない状態で、光路を遮られることなく、仮想平面VPを通過してイメージセンサ5に入射するインライン球面波参照光Lのデータを、オフアクシス参照光Rを用いて参照光オフアクシスホログラムILRとして取得する。両ホログラムIOR,ILRの位相差の面分布を求め、位相差の面内変化が低減するように、試料台7の位置(傾きすなわち姿勢も含む)を変えることによって、試料台7の調整を行う。なお、位相差の面分布は、物体光オフアクシスホログラムIORを参照光オフアクシスホログラムILRで除算して得られる複素振幅インラインホログラムJOLの位相分布として得られる。
【0047】
より具体的には、インライン球面波参照光Lと球面波照明光Qの各集光点を配置し、最初は、平行平面基板40がない状態として、インライン球面波参照光Lとオフアクシス参照光Rとが作る干渉縞ILRを記録する。次に、試料台7に、平行平面基板40を固定して、球面波照明光Qで照明する。照明光集光点Pの、平行平面基板40の参照面40aに関する対称点が、参照光集光点Pに近づくように、言い換えると、平行平面基板40の参照面40aが、参照光集光点Pと照明光集光点Pとを結ぶ線分を垂直に2等分する平面に一致するように、試料台7の位置(距離zおよび一般に2方向の傾角α)を機械的に調整し、参照面40aからの反射光である物体光Oとオフアクシス参照光Rとが作る干渉縞IORを記録する。
【0048】
空間周波数フィルタリングを行って、各干渉縞IORとILRから、それぞれの実像成分を表す複素振幅オフアクシスホログラムJORとJLRを取り出し、JORをJLRで除算して複素振幅インラインホログラムJOLを得る。複素振幅インラインホログラムJOLの位相(θ-θ)は、受光面50におけるインライン球面波参照光Lと物体光Oの位相差を表す。照明光集光点Pの対称点が参照光集光点Pに近づくと、JOLの位相成分exp[i(θ-θ)]の面分布が、受光面50上で変化の少ない一定値の面分布に近づく。また、点Pの対称点が点Pから離れるほど、位相成分exp[i(θ-θ)]は値がより激しく変化する面分布となる。
【0049】
点Pの対称点と参照光集光点Pとの距離が、z軸に垂直な方向に分解能δ=λ/(2NA)以上、またはz軸方向に焦点深度DOF=λ/(2NA)以上、離れると、位相成分exp[i(θ-θ)]の分布は、ホログラム面上で振動的に変化する。ここに、NAは記録されるホログラムの開口数であり、その数値はイメージセンサ5の開口面の大きさとイメージセンサ5から集光点までの距離とで決まる。
【0050】
複素振幅インラインホログラムJOLの位相成分exp[i(θ-θ)]の変化が十分に小さくなるように距離zと傾き角αを調整して、平行平面基板40の参照面40aに接する平面を仮想平面VPとして決定して、試料台7の調整を完了する。参照光Lと照明光Qは、調整された参照面40aを挟んで対称になり、参照面40aにおける照明光Qと参照光Lの位相差(θ-θ)のx’y’面分布は、変化の小さいほぼ一定の値になる。
【0051】
(測定可能な形状)
本実施形態の表面形状計測方法は、仮想平面VPにおける照明光Qの位相と被測定面4aからの照明光Qの反射光である物体光Oとの位相の差から、基準平面とした仮想平面VPからの被測定面4aの高さが求められる、という原理に基づくものであり、同時に、被測定物の底面を基準とする底面基準のもとで底面に対する被測定面の平行度を測定したり、被測定物の厚さや傾斜角および凹面または凸面の形状を測定したりすることができる。この原理による測定を実現するために、球面波参照光L、および参照光集光点Pの位置情報を計算機内で適正化(較正)した情報である形状計測用の参照点S1の位置情報が用いられ、また後述の傾斜角および曲率計測用の参照点S0の位置情報が用いられる。
【0052】
被測定面4a上の一点を仮想平面VP上の点とするための手段として、上述のように位置検出部と、位置調整装置と、を用いる。位置検出部は、アクティブ自動フォーカスの技術を用いて、数十nm以下の精度で被測定面4a上の表面位置を検出でき、設定隔差εが数十nm以下となるように位置調整装置によって位置を調整して、このような設定隔差εの影響を抑えることができる。
【0053】
位置調整装置は、手動の場合、例えば、マイクロメータ付きの移動台と試料台7とを一体化し、位置検出部のフォーカス手段で得た差動検出信号を見ながら、信号値が零となるように手動で移動台を調整する装置とすればよい。自動調整の場合は、例えば、電気的に駆動する試料台7として、スッテプモータで駆動するものまたはピエゾアクチュエータで駆動するものを用いて、位置検出部のフォーカス手段で得た差動検出信号を駆動信号として電気的に試料台7を駆動しサーボ動作をさせて調整すればよい。
【0054】
(ホログラムデータとその処理)
データ処理を数式表現に基づいて説明する。処理されるホログラムに関連するオフアクシス参照光R、インライン球面波参照光L、物体光Oは、xyz座標系(図2参照)と、一般的な表示形式とを用いて下式(1)(2)(3)で表される。
【0055】
【数1】
【0056】
物体光Oとオフアクシス参照光Rが作る合成光の光強度IOR、およびインライン球面波参照光Lとオフアクシス参照光Rが作る合成光の光強度ILRは、それぞれ下式(4)(5)で表される。これらの光強度IOR,ILRが、イメージセンサ5を通して、ホログラムのデータとして取得される。
【0057】
【数2】
【0058】
上式(4)(5)をそれぞれフーリエ変換して空間周波数空間における表現に変換し、バンドパスフィルタによるフィルタリングして上式右辺から第3項のみを抽出し、それぞれを逆フーリエ変換する。この処理により、物体光Oを記録した物体光複素振幅ホログラムJORと、インライン球面波参照光Lを記録した複素振幅ホログラムJLRが、下式(6)(7)のように得られる。
【0059】
【数3】
【0060】
上記の式(6)を式(7)で割る除算処理を行うことにより、インライン球面波参照光Lに対する物体光Oの複素振幅インラインホログラムJOLが下式(8)のように得られる。この除算処理は、位相の引き算を行う処理、すなわち周波数変換を行う処理であり、ヘテロダイン変調の処理である。
【0061】
【数4】
【0062】
インライン球面波参照光Lは、参照光Rのデータをオフアクシスホログラムである参照光ホログラムILRとして取得して保存するための参照光であり、かつ、ホログラムデータのディジタル処理における基準光としての役割を有する。参照光ホログラムILRは、オフアクシス参照光Rを同じ条件下に維持して複数の物体光ホログラムI ORを取得する場合、1枚のオフアクシスホログラムILRを取得すればよい。
【0063】
(インライン球面波参照光Lの成分と乗算因子)
次に、式(8)において、両辺に乗算因子L(x,y)exp(iφ(x,y))を乗じることにより、振幅因子Lによる振幅変調と、位相因子exp(iφ)によるヘテロダイン変調が実行され、ホログラム面(z=0)における物体光Oの光波を表す物体光ホログラムg(x,y)が下式(9)のように得られ、物体光Oが再生される。
【0064】
【数5】
【0065】
この乗算の処理は、上式(8)からインライン球面波参照光Lの成分を除去する処理であり、物体光Oの光波だけを含むホログラムgを生成する。このホログラムの用語は、光波の再生に必要なデータを全て含むという意味で用いられており、以下同様である。
【0066】
上述の乗算因子Lexp(iφ)をインライン参照光ホログラムjと称する。これは、乗算因子Lexp(iφ)が球面波であり、インライン球面波参照光Lの集光点Pから発せられる球面波が空気中を伝播してイメージセンサ5に到達した光波を表すからである。このホログラムjは、空気中を伝播して球面波としてイメージセンサ5に到達する。従って、乗算因子は、集光点Pの位置情報を用いて解析的に得られる。
【0067】
なお、後述の図5等における光学系のように、インライン球面波参照光Lが、空気中以外に、ビーム結合器3などを通過する場合、イメージセンサ5における波面は、球面波から変形した波面となる。この場合、ホログラムjは、平面波展開を用いる光伝播計算によって算出される(後述)。
【0068】
(距離ρ,zと傾角αの測定、平面波展開、光伝播計算)
表面形状の測定は、被測定面における反射光を被測定面すなわち仮想平面に平行な位置で再生して行なわれる。その再生には、イメージセンサ5における受光面50に対し、仮想平面VPまでの距離z、仮想平面VPの傾角α、参照光集光点Pまでの距離ρが必要である。これらの値は、ホログラフィを使ったターゲットの画像記録と再生によって高精度で求められる。
【0069】
図2に示す光学系において、例えば、透明な平面ガラス基板に不透明薄膜によって形成された寸法が正確に分かったパターンを備える平面ターゲットを、調整済みの試料台7にパターンが仮想平面VPに接するように、パターン側を試料台7に向けて固定する。ここで、試料台7は、光軸まわりに開口を有して、インライン球面波参照光Lが通過できるものとする。インライン球面波参照光Lで照明されたターゲットを透過した光を物体光Oとして、オフアクシス物体光ホログラムIORを記録する。ホログラムIOR,ILRから受光面50における物体光ホログラムgを求め、下記のように物体光gの光伝播計算と回転変換を行って、ターゲット面位置での合焦点画像を再生する。
【0070】
上式(9)の物体光ホログラムg(x,y)をフーリエ変換することによって物体光Oの光波を平面波展開して、物体光Oの空間周波数スペクトルG(u,v)が下式(10)で得られる。位置z=zにおける物体光Oの空間周波数スペクトルH(u,v)はG(u,v)を用いて下式(11)で得られ、位置z=zにおける物体光Oを物体光h(x,y,z)とすると、hは下式(12)で得られる。
【0071】
【数6】
【0072】
傾角αによる回転変換後の空間周波数スペクトルH(u’,v’)は下式(13)となり、回転変換のヤコビアンJ(u’,v’)は下式(14)となる。従って、回転変換後の再生物体光h(x’,y’,z)は下式(15)となる。
【0073】
【数7】
【0074】
再生物体光hは、パラメータとして距離z,ρと傾角αを含んでいる。少なくとも基準点Pにおいて合焦点再生画像が得られる再生面のz座標値から距離zが求まり、合焦点再生画像の寸法がターゲットの実寸法と一致したときのパラメータ値から距離ρが求まる。また、全面で合焦点再生画像が得られるときの回転変換角の値として傾角αが求まる。
【0075】
(形状計測用の参照点の決定と仮想平面の高精度な決定)
ホログラムデータに基づく仮想平面VPの高精度な決定を説明する。最初に、距離と測定精度について述べる。インライン球面波参照光Lは、ホログラムを再生するためだけに用いられる光であり、参照光集光点Pまでの距離ρはmm単位で測定される。形状計測には、参照光集光点Pは用いず、参照光集光点Pの近傍で探索されて新たに設定される形状計測用の参照点S1およびそこに設定される参照点光源を用いる。この参照点S1は、照明光集光点Pの真の鏡像点として用いられる。参照点S1は、照明光集光点Pの真の鏡像点となるように、次に示す相関関数計算を用いる計算機上の後処理で決定される。
【0076】
図3のフローチャートに示すように、伝播工程(#61)では、照明光Qの反射光である物体光Oについての物体光ホログラムgを、光伝播計算により参照光集光点Pの位置z=ρに伝播させ、生成されるホログラムを評価ホログラムh0=h(x,y,ρ)とする。
【0077】
次に、面内の集光点位置検出工程(#62)では、点光源を表すプローブ関数fpと評価ホログラムh0との相関関数計算により、評価ホログラムh0の面内において、物体光O(照明光Qの反射光)が集光している集光点を検出して仮集光点P1(x1,y1,ρ)とする。
【0078】
光軸方向の集光点位置検出工程(#63)では、評価ホログラムh0=h(x,y,ρ)を光伝播計算により光軸方向の複数位置に試験伝播させ、各位置で仮集光点P1の光軸直交面内の位置(x1,y1)を固定して相関関数計算を行う。光軸方向の各位置での計算結果から、光軸方向における物体光Oの集光点を検出し、その集光点P1の光軸方向の位置z1=ρ+Δρを検出する。
【0079】
参照点設定工程(#64)では、検出された集光点P1(x1,y1,z1)を、形状計測用の参照点S1に設定し、そこに参照光点光源を設定する。
【0080】
上記の処理を、数式を用いて説明する。評価ホログラムh0=h(x,y,ρ)は下式(16)で与えられる(#61)。プローブ関数fpは座標(x1,y1,ρ)に置いた仮想点光源fp=δ(x-x1)δ(y-y1)である。相関関数Cは下式(17)で与えられる。
【0081】
【数8】
【0082】
相関関数の絶対値|C(x1,y1,ρ)|が最大になるパラメータ値として、座標(x1,y1)が分解能δ=λ/(2NA)よりずっと高い精度で得られる(#62)。次に、上式(16)において(x1,y1)の値を固定し、ρをパラメータz1に変えて、絶対値|C(x1,y1,z1)|が最大になるときのz1の値として、焦点深度DOF=λ/(2NA)よりずっと高い精度で、z1が求まり鏡像点P1の位置座標(x1,y1,z1)が得られ(#63)、参照点S1が設定される(#64)。
【0083】
参照点S1に設定した点光源が作る球面波光をインライン球面波参照光L1とする。参照光L1の位相は、球面波の解析解を用いて正確に計算でき、仮想平面VPの全域に亘って、照明光Qの位相の変化と参照光L1の位相の変化とが、より高精度で互いに一致する。
【0084】
仮想平面VPを基準として測定する被測定面4aの高さ分布t(x’,y’)は、被測定面4aで反射する照明光Qと仮想平面VPで反射する照明光Qの光路差から求まる。空間における光の波長λ内の位置は、光の位相値で表わされる。光路差が光の波長λ以内の場合、光路差を光の位相差で表わすことができる。高さ分布tの情報は、被測定面4aからの照明光Qの反射光である物体光Oの位相θと、仮想平面VPにおける照明光Qの位相θと、を比較して得ることができる。照明光Qの位相θとして、参照点S1から発せられる球面波の仮想平面VPにおける位相θL1を、解析的に導出して用いることができる。
【0085】
高さ分布tは、次のように得られる。再生物体光ホログラムh(x’,y’)から位相θが得られ、参照光L1の球面波光ホログラムs(x’,y’)から位相θL1が得られる。位相差(θ-θL1)は、hをsで除算して構成される計測用ホログラムJ OS(x’,y’)=h/sの位相として得られる。高さ分布tは、位相差(θ-θL1)を用いて、下式(18)で得られる。ここに、角度β(x’,y’)は座標(x’,y’)における照明光Qの入射角である。
【0086】
【数9】
【0087】
(被測定面の位置検出)
次に、試料台7に保持された物体4の被測定面4aを仮想平面VPの位置に設定する際に行なう、被測定面4aの位置の検出をさらに説明する。図4(a)(b)(c)は、光ビーム反射型の位置検出部8を用いて、被測定面4aの位置を検出する例を示す。この位置検出部8は、例えばカメラや光ディスクにおけるアクティブ自動フォーカス技術と類似の技術を用いるものである。
【0088】
図4(a)は、試料台7に保持された平行平面基板40の参照面40aと仮想平面VPとが一致するように試料台7の位置が調整された状態で、仮想平面VP上の所定の照射点Paの位置が、位置検出部8によって検出される状態を示す。照射点Paの位置は、基準点Pの位置と同じであるのが好ましいが、異なっていてもよい。
【0089】
位置検出部8は、検出光学系80と、検出光源81と、光検出器82と、信号出力部83とを備えている。検出光源81は、参照面40aまたは被測定面4aから反射される位置検出用の光ビームB0を出射する。
【0090】
検出光学系80は、検出光源81から出射される光ビームB0を照射点Paに焦点を結ばせて照射させる集光レンズ8aと、照射点Paからの反射光を受けて光検出器82に入射させる結像レンズ8bとを有している。検出光学系80には、参照面40aを提供する平行平面基板40と被測定面4aを提供する物体4も含まれ、全体で光ビームB0の光路が決まる。
【0091】
光検出器82は、複数(本実施形態では2つ)の検出素子82A,82Bを有し、それぞれが分担して光ビームB0を検出し、検出した光強度に応じて、電気信号d1,d2を出力する。検出素子82A,82Bは、光検出器82の検出素子を直線の分割線によって2分割して構成した素子である。
【0092】
検出光学系80は、光ビームB0が照射点Paの位置で反射した場合に反射光が分割線上に入射するように設定されている。また、検出光学系80は、光ビームB0の反射する位置が照射点Paの前方か後方かに応じて、反射光が分割線の両側のいずれか一方に偏って入射するように設定されている。そこで、例えば、電気信号d1,d2が光強度の数値を表す場合、光ビームB1の反射位置が仮想平面VP上の点(照射点Pa)にあればd1=d2であり、なければd1<d2またはd1>d2である。
【0093】
信号出力部83は、光検出器82の検出素子82A,82Bの各々が受光強度に応じて出力する電気信号d1,d2に基づいて、光ビームB1の反射位置と仮想平面VP上の照射点Paとの隔たり量を示す偏移信号を生成して反射位置情報を表す電気信号d3を出力する。例えば、d1,d2,d3が信号強度を表し、d3=d1-d2であるとすると、図4(a)ではd3=0である。電気信号d3は、試料台7の位置を調整する制御信号として用いられる。
【0094】
図4(b)は、平行平面基板40を物体4に交換した場合である。この例では、物体4の厚さが平行平面基板40の厚さよりも薄く、被測定面4aが仮想平面VPより遠方にある。被測定面4aで反射後の光ビームB0は、結像レンズ8bを通って光検出器82の分割線の上方における検出素子82Aに入射する。この場合、d1>d2となり、d3>0となる。物体4の被測定面4aが仮想平面VPより近くにある場合には、d3<0となる。出力信号d3が0となる位置まで試料台7を移動させると、物体4の被測定面4aの点が、仮想平面VPに含まれるようになる。
【0095】
図4(c)は、物体4の底面と被測定面4aとが平行ではない場合を示し、被測定面4aは仮想平面VPに対して角度がついた状態となる。光ビームB0の反射面である被測定面4aが照射点Paにおいて、仮想平面VPに対する角度を有しても、照射点Paにおいて反射した光ビームB0は、結像レンズ8bの効果によって、光検出器82の分割線上に入射する。従って、物体4の被測定面4aの傾きに影響されることなく、被測定面4aの位置決めを行うことができる。
【0096】
(第2の実施形態:表面形状計測装置)
図5図6を参照して、第2の実施形態に係る表面形状計測装置1を説明する。表面形状計測装置1は、物体4の被測定面の形状を、ホログラフィを用いて計測する装置であり、物体4の被測定面のホログラムを取得するデータ取得部10と、データ取得部10によって取得されたホログラムから被測定面における画像を再生する画像再生部12とを備えている。
【0097】
データ取得部10は、光強度を電気信号に変換してホログラムデータとして出力するイメージセンサ5と、試料台7と、試料台7に保持された物体4の被測定面4aの位置を検出する位置検出部8と、試料台7を移動させる位置調整装置71と、各光を伝播させる光学系2と、ビーム結合器3と、を備えている。イメージセンサ5は、制御部およびメモリとしてのコンピュータ11に接続されている。
【0098】
試料台7は、平行平面基板40を用いて位置の調整がなされた後、物体4を底面基準で保持し、位置検出部8と位置調整装置71とを用いて、物体4の被測定面4aが仮想平面VPに接するように位置を調整される。なお、図5図6は、その位置調整が完了した状態を示す。
【0099】
光学系2はホログラム取得用の光学系であり、仮想平面VPの両側に配置された、球面波照明光Q用およびインライン球面波参照光L用の2つの光学系と、オフアクシス参照光R用の光学系とを備えている。ビーム結合器3は、イメージセンサ5の直前に配置されたキューブ型ビームスプリッタから成り、光学系2と共に各光を伝播させる。
【0100】
球面波照明光Qは、物体4の被測定面4aを照明し、その反射光である物体光Oをイメージセンサ5によって記録させる光である。照明光Qの光路には、平行光を集光するレンズ21と、その集光位置にピンホールを有するピンホール板22とが備えられている。そのピンホールが、照明光Qの集光点Pであり、球面波光Qの点光源の位置となる。
【0101】
インライン球面波参照光Lの光路には、照明光Qと同様に、平行光を集光するレンズ25と、ピンホール板26とが備えられている。ピンホール板26のピンホールが、インライン球面波参照光Lの集光点Pであり、球面波光Lの点光源の位置となる。インライン球面波参照光Lは、照明光Qの反射光から成る物体光Oに対し、イメージセンサ5の受光面50から見てインライン光となる(2つの光L,Oは交互に生成される光であり、同時には扱われない)。
【0102】
物体光Oとインライン球面波参照光Lは、ビーム結合器3を通過してイメージセンサ5にその正面から入射する。イメージセンサ5の受光面50の垂線方向から見て、照明光集光点Pと参照光集光点Pとが、光学的に同じ位置に見えてインラインとなる。
【0103】
オフアクシス参照光Rは、ビーム結合器3にその側方から入射され、内部反射鏡30で反射されてイメージセンサ5に入射する。その光路には、拡径用の小径レンズ23と、コリメート用の大径レンズ24とが備えられており、球面波状に形成されたオフアクシス参照光Rが生成される。
【0104】
光学系2は、仮想平面VPに対して照明光集光点Pと参照光集光点Pとが互いに鏡像配置となるように設定されている。また、光学系2は、照明光Qが被測定面4aを斜め照明し、その反射光である物体光Oがイメージセンサ5に入射するように、またインライン球面波参照光Lが仮想平面VPを斜めに通過してイメージセンサ5に入射するように、各光を伝播させる。
【0105】
ビーム結合器3は、物体光Oまたはインライン球面波参照光Lと、オフアクシス参照光Rと、を合波してイメージセンサ5に入射させる。ビーム結合器3は、キューブ型ビームスプリッタに限られず、他の構成のビーム結合器を用いてもよい。
【0106】
(位置検出部と位置調整装置による試料台の位置調整)
位置検出部8は、イメージセンサ5の光軸方向における仮想平面VPの前後を含む領域で被測定面4a上の点の位置を検出し、その情報を反射位置情報として出力する光ビーム反射型の距離測定装置であり、アクティブ自動フォーカスの技術を用いている。位置検出部8は、空間中の特定の照射点Paに焦点を結ぶ光を照射し、その反射光を受光し、その反射光の反射位置が照射点Paの手前かまたは遠方かを判別できる信号を出力する。この実施形態では、照射点Paとして基準点Pが設定されている。
【0107】
位置検出部8は、検出光源81と、光検出器82と、検出光学系を構成する集光レンズ8aおよび結像レンズ8bと、信号出力部83とを備えている。検出光源81は、集光レンズ8aによって照射点Paにフォーカスされる位置検出用の光ビームB0を出す。集光レンズ8aを通過した光ビームは、被測定面4aを照射して反射光となる。光検出器82は、結像レンズ8bを通して、被測定面4aから反射された光ビームB0を検出する。
【0108】
光検出器82および信号出力部83は、図4(a)(b)(c)を参照して説明した光検出器82および信号出力部83と同等のものである。信号出力部83は、光検出器82が出力する電気信号d1,d2に基づいて、光ビームB0が反射された位置と仮想平面VPとの隔たり量を示す偏移信号d3を生成し、その偏移信号d3を反射位置情報として位置調整装置71に出力する。光検出器82は、少なくとも2分割された検出素子からなる任意のものを用いればよく、光検出器82は複数の検出素子を有し、信号出力部83は複数の検出素子の各々が出力する信号の差信号を偏移信号とするように構成すればよい。
【0109】
位置調整装置71は、信号出力部83からの反射位置情報に基づき、検出された点が仮想平面VPに含まれるように試料台7を移動させる。言い換えれば、位置調整装置71は、光ビームB0の反射点が照射点Paにくることにより、照射点Paが結像レンズ8bによって光検出器82上に結像するように、試料台7を前方または後方に移動させる。電気的な駆動装置を用いて試料台7を移動させる手段として、例えば、パルス駆動によってnmの精度で移動させるピエゾ駆動装置などを用いればよい。
【0110】
位置検出部8の光学系である検出光源81、集光レンズ8a、結像レンズ8b、光検出器82は、ホログラム取得用の光学系2、イメージセンサ5、およびビーム結合器3と共に、構造的に共通の基板に一体化されて配置されている。検出精度を考えると、集光レンズ8aによって集光されて仮想平面VP上の照射点Paに入射した光ビームの直径は、例えば、10~200μm程度のスポットにすることが望ましい。また照射点Paへの入射角は、検出感度を考慮すると、例えば、20~60°の範囲が望ましい。
【0111】
物体4の被測定面4a、少なくとも照射点Paの周辺の被測定面4aが仮想平面VPに接するように試料台7の位置が調整されると、第1の実施形態で説明した表面形状計測方法によって、物体4が配置された状態で、反射光である物体光Oの記録ホログラムIORが取得される。また、物体4と試料台7とが光路上にない状態で、インライン参照光Lを用いて、オフアクシス参照光Rの記録ホログラムILRが取得される。参照光Rの記録ホログラムILRの取得は、試料台7の位置の調整前に行ってもよく、物体光OのホログラムIORが取得された後に行なってもよい。
【0112】
画像再生部12は、データ保存部6とともに、コンピュータ11に備えられている。画像再生部12は、第1の実施形態で説明した表面形状計測方法を実行するソフトウエア群とメモリとを備えて構成されている。データ取得部10によってオフアクシスホログラムIOR,ILRが取得されると、第1の実施形態で説明した表面形状計測方法によって処理されて、表面形状の計測値が得られる。
【0113】
本実施形態の表面形状計測装置1は、キューブ型のビーム結合器3を備えているので、ビーム結合器3の屈折率を考慮した平面波展開法によってビーム結合器3を通過する光の光伝播計算を行う必要がある。以下では、ビーム結合器3に関する処理を説明する。
【0114】
(ビーム結合器通過後の球面波の算出)
イメージセンサ5の受光面50において、複素振幅ホログラムJOLから、物体光ホログラムgを生成するには、ビーム結合器3を通過して受光面50に到達したインライン球面波参照光Lの光波(インライン参照光ホログラムj)が必要である。インライン参照光ホログラムjは、ビーム結合器3を通過したことにより、球面波ではない。そこで、インライン球面波参照光Lの集光点Pの位置からイメージセンサ5の入射面である受光面50に至る光波の光伝播計算を行って、受光面50における、球面波ではないインライン参照光L、すなわちインライン参照光ホログラムjを生成する。
【0115】
光伝播計算は平面波展開を使って行う。集光点Pにおいて参照光Lを平面波展開し、空気中およびビーム結合器3内を伝播させて受光面50における各平面波成分を計算し、計算した平面波成分を足し挙げてインライン参照光ホログラムjを生成する。集光点Pの位置z=ρのxy平面に、インライン球面波参照光Lの点光源bδ(x)δ(y)が存在する。この点光源の空間周波数スペクトルB(u、v)は、一定値b、すなわちB(u、v)=bである。そこで、平面波の伝播により、z=0の受光面50におけるインライン球面波参照光L、すなわちインライン参照光ホログラムjは、下式(19)となる。
【0116】
【数10】
【0117】
上式中の(n/λ)におけるnは、ビーム結合器3の屈折率である。上式(19)は、原点z=0から集光点Pまでの距離ρとビーム結合器3の寸法Aの関数になるが、原点からビーム結合器3までの距離には無関係になる。つまり、ビーム結合器3をどの位置に置いても同じ式になる。上式(19)は、原理的な計算式であって、実際の計算には、サンプリング定理を満たす計算点数で光伝播計算を行う必要がある。
【0118】
(ホログラム面における物体光g(x,y))
上述の手順で得られる、上式(19)のインライン参照光ホログラムjは、ビーム結合器3を通過して受光面50に到達したインライン球面波参照光Lの光波である。このホログラムjから成る乗算因子j=L(x,y)exp(i(φ(x,y))を上式(8)に乗じることにより、イメージセンサ5の表面(ホログラム面、xy平面、または面z=0)における物体光Oの光波を表す物体光ホログラムg(x,y)が上式(9)と同様に得られる、すなわち、g(x,y)=JOL×j
【0119】
(光伝播計算)
ホログラム面における物体光ホログラムg(x,y)をフーリエ変換する平面波展開の結果、物体光Oについての空間周波数スペクトルG(u,v)が下式(20)のように得られる。表現上、上式(10)と同じになる。平面波の光伝播計算により、物体4の被測定面4aの位置z=zにおいて、イメージセンサ5の受光面50に平行な面における物体光h(x,y)が、下式(21)によって得られる。
【0120】
【数11】
【0121】
上式(20)中のu,vは、それぞれx方向とy方向のフーリエ空間周波数である。z方向のフーリエ空間周波数w,wは、上式(19)の下の式のように、平面波の分散式(波数と波長の関係式)から求められる。分散式は、(n/λ)の形で屈折率nを含む。上式(20)(21)は、光路上に存在するビーム結合器3の大きさAと屈折率nとを考慮した計算式となっている。
【0122】
上式(21)によって、物体4の被測定面4aの位置z=zにおける、イメージセンサ5の受光面50に平行な物体光h(x,y)が得られたので、上式(13)~(18)の回転変換、相関関数を用いた仮想平面の高精度な決定、高さ分布の算出の処理により、表面形状計測を実行して測定結果を得ることができる。上式(13)~(18)の処理は、空気中の事象の処理であり、ビーム結合器3などの屈折率nの影響を考慮する必要はない。
【0123】
(第3の実施形態)
図7を参照して、第3の実施形態に係る表面形状計測装置1を説明する。この実施形態の表面形状計測装置1は、第2の実施形態とは、被測定面4aの位置を検出する位置検出部8の構成が異なり、他は同様である。
【0124】
位置検出部8は、被測定面4aに照射した光の飛行時間(TOF)を測定して被測定面4aの位置を検出するための、検出光源81と、光ビームを検出する2つの光検出器82(82A,82B)と、ビームスプリッタ8cと、信号出力部83とを備えている。検出光源81は、被測定面4aの位置検出に用いられる変調された光ビームを出す。この光ビームは、例えばパルス変調されたレーザ光が用いられる。
【0125】
検出光源81から出された光ビームは、ビームスプリッタ8cによって2つの光ビームに分離される。ビームスプリッタ8cによって向きを変えて分離された一方の光ビームは、一方の光検出器82Aに入射する。ビームスプリッタ8cを直進して分離された他方の光ビームは、被測定面4aに向けて伝播し、被測定面4aによって反射した反射光がビームスプリッタ8cに戻ったあと、光路を曲げられて他方の光検出器82Bに入射する。この他方の光ビームは、ビームスプリッタ8cと被測定面4aの間の同じ光路を往復する。その往復の光路において、ビーム結合器3の内部反射鏡30によって光路が曲げられることにより、仮想平面VPにほぼ垂直になるように、被測定面4aに入射して被測定面4aから反射する。位置検出部8の検出光学系は、被測定面4aに向かう光ビームが仮想平面VPにおける照射点Paを通過するように設定されている。
【0126】
光検出器82A,82Bは、それぞれ、分離された光ビームを検出して信号d4,d5を出力する。信号d4,d5は、例えば、検出光源81による光ビームの出射から分離された各光の受光までのパルスのカウント数である。2つの光検出器82A,82Bが、検出光源81から出た光を受光した時間(パルスのカウント数)の差によって、被計測面4a上の反射点の位置情報が得られる。信号出力部83は、事前に取得された、平行平面基板40の参照面40aが仮想平面VPの位置に設定されたときの参照面40aの位置情報、従って仮想平面VPにおける照射点Paの位置情報として、このような信号d4,d5の時間差をメモリに記憶している。
【0127】
信号出力部83は、被測定面4aの位置情報と、事前に記憶されている仮想平面VPの位置情報とに基づいて、被測定面4aの位置と仮想平面VPの位置との隔たり量を示す偏移信号d3を生成する。偏移信号d3は、反射位置情報として位置調整装置71に出力される。
【0128】
位置調整装置71は、偏移信号d3がゼロの状態になるように、試料台7の位置を前方または後方に移動させる。偏移信号d3がゼロになると、物体4の被測定面4a、少なくとも照射点Paの周辺の被測定面4aが仮想平面VPに接するようになり、試料台7の位置の調整が完了する。
【0129】
位置検出部8の光学系である検出光源81、光検出器82(82A,82B)、ビームスプリッタ8cは、ホログラム取得用の光学系2、イメージセンサ5、およびビーム結合器3と共に、構造的に共通の基板に一体化されて配置されている。信号d4,d5から得られる時間差は、例えば100nm程度の精度で距離を測定する場合、フェムト秒の時間差であればよい。
【0130】
(変形例)
図8を参照して、第3の実施形態の変形例に係る表面形状計測装置1を説明する。この変形例は、位置検出部8の検出光源81が白色光を出す点で、変調されたレーザ光を用いる第3の実施形態と異なる。位置検出部8の検出光学系は、被測定面4aに向かう光ビームが仮想平面VPにおける照射点Paを垂直に通過するように設定されている点は、第3の実施形態と同じである。位置検出部8は、検出光源81と、光検出器82と、ビームスプリッタ8cと、反射鏡8eと、信号出力部83とを備えている。
【0131】
検出光源81から出された白色光の光ビームは、ビームスプリッタ8cによって2つの光ビームに分離される。ビームスプリッタ8cによって向きを変えて分離された一方の光ビームは、反射鏡8eによって垂直に反射されたあと、ビームスプリッタ8cを透過して光検出器82に入射する。ビームスプリッタ8cを直進して分離された他方の光ビームは、被測定面4aに向けて伝播し、被測定面4aによって反射した反射光がビームスプリッタ8cに戻ったあと、光路を曲げられて光検出器82に入射する。
【0132】
位置検出部8の検出光学系は、反射鏡8eによって反射される光ビームの全光路長と、仮想平面VP上の照射点Paで反射する場合の光ビームの全光路長とが等しくなるように設定されている。従って、他方の光ビームが、照射点Paではなく、その位置からずれた位置にある被測定面4a上の点で反射されると、そのずれの大きさが、2つの光ビームの全光路長の差として計測される。
【0133】
光検出器82は、2つの光ビームの白色光同士の干渉に係るデータd6を取得し、そのデータd6を信号出力部83に出力する。信号出力部83は、データd6に基づいて、被測定面4aの位置と仮想平面VPの位置との隔たり量を示す偏移信号d3を生成する。偏移信号d3は、反射位置情報として位置調整装置71に出力される。
【0134】
位置検出部8の光学系である検出光源81、光検出器82、ビームスプリッタ8c、反射鏡8eは、ホログラム取得用の光学系2、イメージセンサ5、およびビーム結合器3と共に、構造的に共通の基板に一体化されて配置されている。光検出器82と信号出力部83の信号処理の構成は、任意に変更でき、光検出器82の中に信号出力部83を組み込んでもよい。
【0135】
(第4の実施形態)
図9図10を参照して、第4の実施形態に係る表面形状計測装置1を説明する。本実施形態の表面形状計測装置1は、第2の実施形態の表面形状計測装置1におけるホログラム取得用の光学系2を、物体光Oおよびインライン球面波参照光Lを集光する集光レンズ27と、集光レンズ27による集光位置に配置されて通過光量を制限する瞳孔板27aと、瞳孔板27aに組み合わせて配置された結像レンズ27bとを備える光学系2に変えたものである。瞳孔板27aの前後に備えられた2つのレンズは、物体光Oとインライン球面波参照光Lとをイメージセンサ5に結像させるレンズである。
【0136】
また、本実施形態の表面形状計測装置1は、第2の実施形態と同様の、位置検出部8と位置調整装置71とを備えている。位置検出部8の光学系である検出光源81、集光レンズ8a、結像レンズ8b、光検出器82は、ホログラム取得用の光学系2、イメージセンサ5、およびビーム結合器3と共に、構造的に共通の基板に一体化されて配置されている。
【0137】
大きい口径のホログラムを記録できれば、大きい物体の表面形状計測が可能になる。本実施形態のように、レンズを使って反射光を集光させると、1つのイメージセンサ5で大口径ホログラムを記録できる。集光用レンズを用いてインライン球面波参照光Lおよび物体光Oをイメージセンサ5の受光面に交互に投射し、オフアクシス参照光Rによって作られる干渉縞をそれぞれ記録する。記録ホログラムの空間周波数帯域の幅は、瞳孔板27aの瞳孔を開閉することによって調整できる。被測定面が滑らかで平面度が高い場合には、空間周波数帯域幅は狭くなり、被測定面に微細な凹凸がある場合には帯域幅は広くなる。被測定面4aの状況と計測の目的とに合わせて、瞳孔板2によって調節すればよい。
【0138】
集光レンズ27と結像レンズ27bの2つのレンズは、被測定面上の光をイメージセンサ5の受光面上に結像するので、物体光の再生を行わなくても、被測定面の形状観察や形状測定が可能になる。
【0139】
(第5の実施形態)
図11を参照して、第5の実施形態に係る表面形状計測装置1を説明する。本実施形態の表面形状計測装置1は、第4の実施形態の表面形状計測装置1における光学系2の集光レンズ27と、瞳孔板27aと、結像レンズ27bとに替えて、凹面鏡28と、瞳孔板28aと、結像レンズ28bとを備えるものである。凹面鏡28は、たとえば、集光用楕円面ミラーが用いられる。
【0140】
位置検出部8の光学系である検出光源81、集光レンズ8a、結像レンズ8b、光検出器82は、ホログラム取得用の光学系2、イメージセンサ5、およびビーム結合器3と共に、構造的に共通の基板に一体化されて配置されている。
【0141】
本表面形状計測装置1においても、凹面鏡28と結像レンズ28bとが、物体光Oとインライン球面波参照光Lとをイメージセンサ5に結像させる。また、小さなイメージセンサによって大きい口径のホログラムを記録でき、物体光の再生を行わなくても、被測定面の形状観察や形状測定が可能になる。
【0142】
(第6の実施形態)
図12を参照して、第6の実施形態に係る表面形状計測装置1および表面形状計測方法を説明する。本実施形態の装置および方法は、測定可能な高さの範囲を拡張するものであり、その拡張を実現するために、異なる波長(λ,j=1,2)の光を用いる。本実施形態の表面形状計測装置1のホログラム取得用の光学系2は、上述の第3の実施形態またはその変形例(図7図8)の光学系2において、ビーム結合器3とイメージセンサ5との間に波長フィルタを挿入し、そのような波長フィルタとイメージセンサの組を2対備えるものである。この構成により、2波長の混合光を用いることができる。
【0143】
また、本実施形態の装置1は、第3の実施形態またはその変形例と同様の、位置検出部8と位置調整装置71とを備えている。位置検出部8の光学系である検出光源81、光検出器82、ビームスプリッタ8c、反射鏡8eは、ホログラム取得用の光学系2、イメージセンサ5、およびビーム結合器3と共に、構造的に共通の基板に一体化されて配置されている。なお、位置検出部8は、第2の実施形態における位置調整装置8と同様のものであってもよい。
【0144】
異なる2波長のうち、一方の波長λを通過させる波長フィルタF1とイメージセンサ51の組は、ビーム結合器3における物体光Oの入射面31に対向する面側に配置されている。他方の波長λを通過させる波長フィルタF2とイメージセンサ52の組は、ビーム結合器3におけるオフアクシス参照光Rが入射する面に対向する面側に配置されている。
【0145】
(波長の異なる光波間の位相差を用いた表面形状計測)
本実施形態の表面形状計測方法において、物体4の配置と試料台7の調整とが行われたあと、以下の処理が行われる。異なる波長λ,j=1,2の混合光または個別光によって、物体光Oおよびインライン球面波参照光Lのデータが各波長λ,λ毎に、2種類のオフアクシスホログラムI OR,I LR,j=1,2として取得される。次に、各波長λ,λ毎に、計測用ホログラムJ OS=h /s ,j=1,2が生成され、生成された2つの計測用ホログラムJ OS,j=1,2の比を求めるヘテロダイン変換が実行される。ヘテロダイン変換の結果、変調波HW=J OS/J OSが生成される。この変調波HWに含まれる変調波長λ=λλ/(λ-λ)および変調位相分布θ(x’,y’)=θ-θを用いて、物体の被測定面4aにおける高さ分布が求められる。なお、変調波HW、変調波長λは、それぞれ合成波HW、合成波長λとも呼ばれる。
【0146】
上述の処理の背景と効果を説明する。例えば、第3の実施形態に示した単色レーザ光の位相を用いる表面形状計測では、光波長λを大きく超える高さを計測することは難しい。また、λ/2を超える段差に対しては高さの測定値にλ/2の整数倍の不確さが生じる。ところで、伝搬方向が一致した光波長の異なる2つの光波に対して演算処理を行うと、長い波長を持つ波を作成できる。この波の位相を用いると、計測可能な高さの範囲を大幅に広げることができる。
【0147】
同じ点光源から放たれる光波長λとλの球面波照明光Qは空間の全ての点において光の伝搬方向が一致し、位相成分はそれぞれexp(2πr/λ-θ)およびexp(2πr/λ-θ)と表される。光波長λの球面波照明光Qを光波長λの球面波照明光Qで除算すると、位相成分がexp(2πr/λ-θ)の波を作成できる。ここに、λおよびθは、下式(22)で与えられる。波長λは2つの照明光が作るビート波の波長と一致する。
【0148】
【数12】
【0149】
被測定面4aを光源の位置が同じで異なる波長を有する2つの球面波で照明すると、測定面上の各点から放たれる2つの反射光の伝搬方向は一致する。また、表面近くの光の干渉や回折が無視できるような測定面上の微小面から放たれる2つの反射光の伝搬方向も一致する。従って、光波長λの反射光を光波長λの反射光で除算すると、照明光Qの場合と同様に機能し、かつ波長が大きくなった、波長λの光波を作成できる。このことは、作成した波長λの波を使うことにより、各実施形態に示した計測法に従って表面形状計測が可能になることを示す。被測定面4aと仮想平面VPとにおける波長λの2つの波の位相θBO,θBL1の位相差をΔθ(x’,y’)=θBO-θBL1と表すと、被測定表面の高さt(x’,y’)は、下式(23)で与えられる。この式(23)は、単一波長の場合の式(18)と同等である。
【0150】
【数13】
【0151】
上式(23)は、基本的に、単一波長の場合の式(18)と同等の式である。本実施形態の表面形状計測装置1および表面形状計測方法は、2波長について記録したホログラムの両方のデータを用いるか、何れか一方のデータを用いるかを、後処理時に任意に決定できる。両波長のデータを用いる場合、式(23)を用いればよく、単波長のデータを用いる場合、式(18)を用いればよい。
【0152】
異なる波長のホログラムは、図12の光学系と混合光を用いて、ワンショット記録することができる。この場合、光波長λに対するオフアクシス参照光Rの他に、光波長λに対するオフアクシス参照光Rを用意する。この光学系では、それぞれの光波長成分を分離するために光波長λの光を透過させて光波長λの光を遮断する波長フィルタF1と、光波長λの光を透過させて光波長λの光を遮断する波長フィルタF2を用いている。
【0153】
本実施形態の計測方法のための他の光学系2として、例えば、波長フィルタを備えずに、1つのイメージセンサ5だけを備えている図7の光学系を用いて、2種類のオフアクシスホログラムI OR,I LRを、混合光ではない個別光で各波長毎に、別時間で取得してもよい。
【0154】
さらに他の光学系2として、図7の光学系において、オフアクシス参照光Rの光学系を各波長毎に設けてもよい。この場合、2つのオフアクシス参照光R1,R2を、互いにオフアクシスの配置にして、波長の異なるホログラムを混合光によってワンショット記録することができる。波長毎のホログラムへの分離は、オフアクシス配置の効果により、後処理によって行うことができる。ワンショット記録したホログラムから、空間周波数領域において、フィルタリング処理を行うことにより、光波長λの複素振幅成分と光波長λの複素振幅成分を分離して取り出すことができる。
【0155】
なお、オフアクシス参照光R用に、互いにオフアクシス配置とされた2つの光学系を用いる場合、記録可能な測定面が、図12の光学系を用いる場合よりも狭くなる。逆に、図12の光学系の場合、記録可能な測定面を大きくできるが、2つのホログラムをそれぞれ別のイメージセンサ51,52で記録するので、物体光Oの再生の際に、2つの再生光の位置調整が必要になる。
【0156】
本実施形態の表面形状計測装置1および表面形状計測方法によれば、合成された波長λ=(λλ)/(λ-λ)が、もとの何れの波長λ,λよりも長くなるので、測定可能な高さ領域を拡張できる。このような異なる波長の光を用いる表面形状計測装置1および表面形状計測方法は、2波長に限らず、3波長以上の複数波長を用いる装置および方法に拡張することができる。本方法は、記録されたホログラムデータを後処理することによって、計測を実施することができ、この点は従来のビート波を用いる方法とは大きく異なる。そこで、例えば、3波長λ,λ,λの場合、後処理によって、2波長を選んで、例えば差(1/λ-1/λ)などの組合せを複数作ったり、3波長を全部使って、例えば和と差(1/λ+1/λ-1/λ)などの組合せを複数作ったりして、各組合せによって測定領域を互いに補間して計測を実施することができる。
【0157】
(第7の実施形態)
図13を参照して、第7の実施形態に係る表面形状計測装置1を説明する。本実施形態の表面形状計測装置1は、例えば、図5乃至図12に示した表面形状計測装置1によって具現化できるため、これらの図も併せて参照する。表面形状計測装置1は、被測定面4aのホログラムを取得するデータ取得部10と、データ取得部10によって取得されたホログラムから被測定面4aにおける画像を再生する画像再生部12と、を備えている。表面形状計測装置1は、さらに、データ取得部10および画像再生部12を制御するコンピュータから成る制御部11と、FFT等の計算用プログラム、制御用データ等を記憶するメモリ11aとを備えている。
【0158】
データ取得部10は、光を生成し伝播させる光学系2と、ビーム結合器として用いられるキューブ型ビームスプリッタであるビーム結合器3と、光強度を電気信号に変換してホログラムデータとして出力するイメージセンサ5と、イメージセンサ5で取得されたデータを保存するデータ保存部6とを有する。データ保存部6は、画像再生部12とともに、制御部11に備えられている。ビーム結合器3は、光学系2と共に、ホログラム取得用の各光を伝播させる。
【0159】
また、データ取得部10は、光学系2とイメージセンサ5の配置構成に関連して位置や姿勢の調整が可能な試料台7と、試料台7の位置を調整する位置調整装置71と、平行平面基板40の参照面40aの位置と物体4の被測定面4aの位置を検出してその結果を位置調整用の信号として位置調整装置71に出力する位置検出部8とを備えている。
【0160】
画像再生部12は、図1図3に示した各工程の処理を行うための、各ホログラム生成部13~16,18、参照点検出部17、形状計測部19、および表示部20を有している。
【0161】
複素振幅ホログラム生成部13は、物体光オフアクシスホログラムIORと参照光オフアクシスホログラムILRとからオフアクシス参照光Rの成分を除去して、物体光Oとインライン球面波参照光Lに関する複素振幅インラインホログラムJOLを生成する。
【0162】
計算参照光ホログラム生成部14は、参照光集光点Pから放たれる光が球面波であることに基づき、イメージセンサの受光面である受光面50におけるインライン球面波参照光Lの光波を表すインライン参照光ホログラムjを生成する。
【0163】
物体光ホログラム生成部15は、インライン参照光ホログラムjを用いて、複素振幅インラインホログラムJOLから、受光面50における物体光Oの光波を表す物体光ホログラムgを生成する。
【0164】
再生物体光ホログラム生成部16は、物体光ホログラムgを光伝播計算によって仮想平面VPの位置におけるホログラムに変換し、変換されたホログラムを受光面50に対する仮想平面VPの傾角である仮想面傾角αによって回転変換して、仮想平面VPにおける計測用の再生物体光ホログラムhを生成する。
【0165】
参照点検出部17は、物体光ホログラムgの光伝播計算を行い、相関関数計算によって、物体光の集光点を検出し、その点を形状計測用の参照点S1に設定する。
【0166】
解析光ホログラム生成部18は、参照点S1から放たれるインライン球面波参照光Lに対応する球面波の仮想平面VPにおけるホログラムである球面波光ホログラムsを解析的に生成する。
【0167】
形状計測部19は、再生物体光ホログラムhを球面波光ホログラムsで除算することにより、物体光Oと球面波光ホログラムsとに関する計測用ホログラムJ OSを生成し、計測用の複素振幅インラインホログラムJ OSの位相分布から物体4の被測定面4aにおける高さ分布を求める。また、形状計測部19は、試料台7の移動距離ηと平行平面基板40の既知の厚さdとから求められた物体4の厚さDと、被測定面4aにおける高さ分布と、を用いて、物体4の形状に関する諸量を算出する。前記諸量は、例えば物体4がシリコンウエハの場合、ウエハの底面に対する被測定面の厚さ分布や平行度評価値などである。被測定面における測定点は所望の間隔で指定して多数の測定値を得ることができ、形状計測部19は、多数の測定値の算出と統計的諸量の算出を行う。
【0168】
表示部20は、イメージセンサ5によって得られる画像、各ホログラムの強度画像や位相分布画像などを表示する。データ保存部6に保存された物体光オフアクシスホログラムIORと参照光オフアクシスホログラムILRのデータは、画像再生部12によって処理されて、表示部20に表示される。表示部20は、液晶表示装置などのFPDであり、画像以外のデータを表示し、ユーザインターフェイスとなる。画像再生部12の各部は、表示部20を除いて、コンピュータ上で動作するプログラムとそのサブルーティン群を含むソフトウエアを用いて構成される。
【0169】
(本願発明の特徴と応用例)
本願発明に係る表面形状計測装置および方法においては、位置検出部と位置調整装置を用いて被測定面4a上の点を検出し、検出された点が仮想平面(VP)に含まれるように、試料台の位置調整がなされて物体の位置が現実空間で調整され、物体光オフアクシスホログラムIOR,I ORのデータが取得される。また、必要なホログラムのデータ取得後は、非現実空間であるコンピュータ上の空間において、つまりコンピュータ内で行う計算処理による後処理によって、現実空間における測定精度の限界を超えるための処理が行われ、物体像の再生と表面形状計測が高精度で実現される。
【0170】
ホログラムデータに対するコンピュータによる後処理において、その処理が適正か否か、必要な処理が完了したか否か等の判断が、処理内容に応じた種々の方法で行われる。例えば、処理後のデータについて、再生された画像の鮮明度(フォーカッシングの度合)、再生された画像による既知寸法の再現有無、データ間の相関関数の最大値または最小値、位相分布の現れ方、空間周波数空間における干渉縞模様の現れ方、などに基づく判断が行われる。
【0171】
干渉縞模様の現れ方は、例えば、位置検出部によって検出された点(例えば基準点Pに対応する点)または仮想平面VP上の基準点Pそのものを回転の固定点として物体光ホログラムのデータを3次元空間で回転させ、物体光ホログラムを、所定の面、例えば仮想平面VPにおけるホログラムとする場合に、回転の適否を判断する際に用いられる。この場合、例えば、物体光と仮想平面VP上の球面波光との干渉縞の間隔が広がるなどの現れ方の変化によって判断できる。
【0172】
また、物体4の被測定面4aにおける位置検出部によって検出された点の周辺領域が凹面形状か凸面形状かを判断するために、物体光ホログラムを回転させたり、光軸方向に移動させたりして、位相分布の現れ方や干渉縞模様の現れ方などを用いることができる。例えば、物体光ホログラムのデータを3次元空間で光軸方向に移動させ、注目点(例えば光軸と被測定面4aとの交点)において、移動中に物体光と仮想平面VP上の球面波光との干渉縞が湧き出してくるか、吸い込まれていくかという凹凸に関する情報を用いて、単波長光による測定であっても、データ処理によって被測定面に対する測定範囲を拡大することができる。
【0173】
本発明の実施に係る応用例として、例えば、略円形のシリコン半導体基板の主面(被測定面)が凸面状または凹面状に変形しているとき、その変形が凸面か凹面かの判断に加えて、その変形した曲面の曲率半径を計測することを考える。前段階として、所定の平坦度の参照平面を有する平行平面基板を物体4とし、参照平面が仮想平面VPに接するように試料台を調整し、参照平面で構成される被測定面からの球面波照明光Qの反射光である物体光Oのデータを、イメージセンサを用いて物体光オフアクシスホログラムIOR として取得する。この物体光オフアクシスホログラムIOR と既に取得済の参照光オフアクシスホログラムILRのデータから物体光Oの光波を表す物体光ホログラムgを生成し、計算処理によって、物体光ホログラムgを光伝播変換および回転変換して、仮想平面VPにおける再生物体光ホログラムh を生成し、計算処理によって、物体光ホログラムgに光伝搬変換を行って物体光Oが集光する位置を検出してその位置を、仮想平面VPに対する照明光集光点Pの鏡像点と見做し、その集光点を傾斜角および曲率計測用の参照点S0とする。この参照点S0は、形状計測用の参照点S1の検出と同じく相関関数を用いて検出される(図3参照)。
【0174】
形状計測用の参照点S1の情報が得られた時点において、被測定面の微細な高さ分布を算出できるが、形状計測用の参照点S1からだけでは被測定面4aの基準面に対する傾斜角Ψ(被測定面の高さ分布関数を基準面に対する高さ分布として求め、その高さ分布関数をテーラ展開したときの1次の項)と凸面や凹面の形状に関する基板の曲率半径R(上記の高さ分布関数をテーラ展開したときの2次の項)の情報は得られない。何故ならば形状計測用の参照点S1の検出を相関関数を用いて検出するとき、基板の傾斜角や凸面凹面の形状に応じて、相関関数のピークの位置が三次元空間における任意の方向に移動するからである。形状計測用の参照点S1の情報から、基板の傾斜角Ψの情報と基板の凸面や凹面の形状に関する基板の曲率半径Rの情報は失われ、上記の高さ分布関数をテーラ展開したときの3次以上の高次項の高さ情報が残り、下記の二乗平均開平値RMS(root mean square)を得ることができる。
【0175】
シリコンウエハなどの寸法規格に関する標準仕様書(シリコン鏡面ウェーハの寸法規格に関する標準仕様 JEITA EM-3602)等を見ると、被測定面の基準面に対する高さの二乗平均開平値RMSの値だけでなく被測定面の曲率半径や基準面に対する傾斜角などが必要とされている。物体4の被測定面4aとして半導体基板の主面を考える。半導体基板の主面からの反射光である物体光のデータを取得し、図3に示した方法を用いて、半導体基板の主面についての形状計測用の参照点S1を求めて、傾斜角および曲率計測用の参照点S0と比較する。2つの参照点の位置座標S0(x0,y0,z0),S1(x1,y1,z1)から、2つの参照点S1,S0間の、xy平面内での距離Lxy=√((x1-x0)+(y1-y0))、および光軸z方向の距離L=z1-z0を求める(xyz座標については図2参照)。なお、√(*)は、(*)の平方根を表す。
【0176】
2つの参照点S1,S0を結ぶ線分を垂直2等分する平面を、第2の仮想平面VP1として設定する。イメージセンサ5の中心(0,0,0)と傾斜角および曲率計測用の参照点S0とを通る直線が、第2の仮想平面VP1と交わる点を、第2の基準点P’とする。xy平面内での距離Lxyは、物体4の被測定面4aの第2の仮想平面VP1に対する傾斜角Ψによって生じる。光軸z方向の距離Lは、物体4の被測定面4aの第2の仮想平面VP1に対する凸面状または凹面状の変形があることにより生じる。
【0177】
(Ψの計算)
物体4の被測定面4a(半導体基板の主面)と底面基準(主面の対向面)との間の傾斜角Ψは、2点P’,S0を結ぶ線分と、2点P’,S1を結ぶ線分とのなす角度の半分である。そこで、傾斜角Ψは、2点P’,S0間の距離R0と、2点S1,S0間の距離Lxyとを用いて、下式から求められる。
tan(Ψ)=Lxy/(2R0)。
【0178】
(Rsの計算)
傾斜角および曲率計測用の参照点S0から出射する球面波光が第2の仮想平面VP1上の点P’に達するときの球面波の曲率半径は、P’とS0間の距離R0である。また、形状計測用の参照点S1から出射する球面波光が第2の仮想平面VP1上の点P’に達するときの球面波の曲率半径は、P’とS1間の距離R1である。2つの球面波光の光路差は、物体4の被測定面4a(半導体基板の主面)の変形によって発生する。その変形の曲率半径をRsとする。また、R0とR1は被測定面の大きさに比べ十分大きな値とすることができる。
【0179】
ここで、R1=R0±△rとすると、△r<<R0である。変形の曲率半径Rsは、曲率半径R0,R1を用いて、下式のように直感的に解りやすい簡単な形で表せる。Rsの中心位置は、S1とS0を結ぶ線分の中点を通り、イメージセンサ5の中心(0,0,0)とS0とを通る線に平行な線上にある。
1/Rs=1/R0-1/R1, Rs≒±R0/Δr。
【0180】
(物体4の表面形状と立体的形状)
物体4の底面を基準とした被測定面4aの表面形状は、複素振幅インラインホログラムJ OSの位相の面分布(RMS)と、被測定面の曲率半径(Rs)と、被測定面の傾斜角(Ψ)とを合成して得られる。また、前述したように物体4の厚さD(P’点での厚さ)が求まるので、立体的な物体4の形状が測定できる。フォーカシングの技術を使うと、設定により空間の任意の点の位置検出することができる。本発明の実施例ではナノメートルのオーダの誤差検出が可能であり、基準点Pにフォーカス位置を設定することにより、参照光集光点Pと傾斜角および曲率計測用の参照点S0とは、フォーカス誤差検出による誤差と駆動動作の誤差とを加算した誤差内で一致させることができる。ここで述べた傾斜角の情報や基板の凸面状または凹面状の変形に関する曲率半径の情報、およびシリコン半導体基板の厚さと平面度等の情報は、基板の品質確認や良否判定等に用いることができる。
【0181】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、上述した各実施形態と変形例の構成を互いに組み合わせた構成とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0182】
従来の技術に対する本発明の新規性と優位性として下記が挙げられる:(1)光波のワンショット記録により高速測定ができる、(2)被測定面4aの高精度な絶対平面度測定ができる、(3)参照平面やコリメートレンズを使用しないので平面度測定の大口径化ができる、(4)広範囲の反射係数を持つ被測定面4aに対して平面度測定ができる、(5)被測定面4aにおける再生反射光を用いて高分解能な表面形状や表面粗さの測定ができる、(6)底面基準で被測定物の被測定面4aの形状計測ができ、被測定物の底面に対する被測定面4aの曲率、平行度、厚さの測定ができる。
【0183】
上記優位性から、本発明は、光学やデジタルホログラフィ、光計測、干渉計測、微細形状測定の分野においてこれらの利点を活かした広い用途に適用できる。また、技術応用の観点からは、精密計測やナノテクノロジ、基板形状計測、半導体基板検査、光学部品検査などの分野における使用が考えられる。具体的な使用例としては、薄いガラス基板、フォトマスク、大型ウエハなどの表面形状計測、光学部品の表面形状計測、工業用基準平面の計測、などが挙げられる。
【符号の説明】
【0184】
1 表面形状計測装置
10 データ取得部
12 画像再生部
13 複素振幅ホログラム生成部
14 計算参照光ホログラム生成部
15 物体光ホログラム生成部
16 再生物体光ホログラム生成部
17 参照点検出部
18 解析光ホログラム生成部
19 形状計測部
2 光学系
27 集光レンズ
27a 瞳孔板
27b 結像レンズ
28 凹面鏡
28a 瞳孔板
28b 結像レンズ
3 ビーム結合器(キューブ型ビームスプリッタ)
4 物体
4a 被測定面
40 平行平面基板
40a 平行平面基板の参照面
5 イメージセンサ
50 受光面
6 データ保存部
7 試料台
C 相関関数
LR,I LR 参照光オフアクシスホログラム
OR,I OR 物体光オフアクシスホログラム
OL 物体光の複素振幅インラインホログラム
OS,J OS 計測用の複素振幅インラインホログラム
L インライン球面波参照光
xy 参照点S1と参照点S0のxy平面内での距離
参照点S1と参照点S0の光軸z方向の距離
O 物体光
Pa 仮想平面上の照射点
インライン球面波参照光の集光点
基準点
’ 第2の基準点
オフアクシス参照光の集光点
Q 照明光
R オフアクシス参照光
R0 参照点S0から出射する球面波の基準点Poにおける曲率半径
R1 参照点S1から出射する球面波の基準点Poにおける曲率半径
Rs 被測定面4aの曲率半径
RMS 二乗平均開平値(root mean square)
S0 傾斜角および曲率計測用の参照点
S1 形状計測用の参照点(参照光点光源)
VP 仮想平面
VP1 第2の仮想平面
fp 仮想点光源(プローブ関数)
g 物体光ホログラム
h0 評価ホログラム
再生物体光ホログラム
インライン参照光ホログラム
球面波光ホログラム
α 傾角
ρ イメージセンサからインライン球面波参照光の集光点までの距離
λ 変調波長
λ,λ,λ 波長
θ 変調位相
Ψ 基準面に対する被測定面4aの傾斜角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13