(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162319
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20221017BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221017BHJP
B41J 2/185 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
B41J2/165 201
B41J2/01 451
B41J2/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067095
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】塚本 和明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】邱 安
(72)【発明者】
【氏名】有馬 崇博
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056EA20
2C056EB07
2C056EB29
2C056EB39
2C056EB59
2C056EC23
2C056EC26
2C056EC36
2C056FA05
2C056JB00
2C056JC01
(57)【要約】
【課題】印字ヘッドの汚れ度合いを検出し、この検出された汚れ度合いに応じて、適切な洗浄時間を決定することができるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェット記録装置において、インク液滴を位相探索用帯電電圧で帯電させた時の位相検出センサから出力される位相検出信号波形に基づいて印字ヘッドの汚れ度合いを推定し、この汚れ度合いに基づいて洗浄時間を設定する。印字ヘッドの汚れ度合いを自動的に検出して洗浄時間を求めるので、オペレータによる洗浄時間のばらつきを抑制し、また、印字ヘッド自体に洗浄機構を設けた場合における洗浄時間を適切に決めることができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク液をインク液滴として噴出する印字ノズルと、前記インク液滴を帯電させる帯電電極と、帯電した前記インク液滴に偏向をかける偏向電極と、印字に使われなかった前記インク液滴を捕集するガターとを備える印字ヘッドと、前記印字ヘッドの汚れを洗浄する印字ヘッド洗浄機構と、前記印字ヘッドと前記印字ヘッド洗浄機構の動作を制御する制御手段とを有するインクジェット記録装置であって、
前記制御手段は、
前記印字ヘッドの汚れ度合いを検出する汚れ度合い検出手段と、前記汚れ度合い検出手段によって検出された前記汚れ度合いに対応して前記印字ヘッド洗浄機構による洗浄時間を求める洗浄時間算出手段を備えている
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記ガターには、帯電された前記インク液滴の帯電量を検出する位相検出センサが設けられており、
前記汚れ度合い検出手段は、前記インク液滴を位相探索用帯電電圧で帯電させた時の前記位相検出センサから出力される位相検出信号から前記印字ヘッドの前記汚れ度合いを推定し、
前記洗浄時間算出手段は、この推定された前記汚れ度合いに基づいて前記洗浄時間を設定する
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット記録装置において、
前記汚れ度合い検出手段は、前記位相検出信号を所定の検査閾値と比較し、その比較結果から前記汚れ度合い求める
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェット記録装置において、
前記汚れ度合い検出手段は、前記検査閾値を超えた前記位相検出信号が連続して検出されない場合は、汚れが発生していると判断する
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項5】
請求項4に記載のインクジェット記録装置において、
前記汚れ度合い検出手段は、汚れが発生した汚れ検出回数を計数し、この計数結果を所定のメモリに記憶する
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
請求項5に記載のインクジェット記録装置において、
前記洗浄時間算出手段は、前記汚れ検出回数の数に対応して前記洗浄時間を決定する
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項7】
請求項6に記載のインクジェット記録装置において、
前記洗浄時間算出手段は、前記汚れ検出回数の数が多いほど前記洗浄時間を長く決定する
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記制御手段は、
前記汚れ度合い検出手段が前記印字ヘッドの汚れを検出すると、前記印字ヘッド洗浄機構による洗浄を促す洗浄報知手段を備えている
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項9】
請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記印字ヘッド洗浄機構は、前記印字ヘッドとは別に設けられている
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項10】
請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記印字ヘッド洗浄機構は、前記印字ヘッドと一体的に設けられている
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置に係り、特に連続噴射式荷電制御型のインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な連続噴射式荷電制御型のインクジェット記録装置は、本体にインク液を貯留するインク容器を設けており、そのインク容器のインク液をインク供給ポンプによって印字ヘッドへ供給している。印字ヘッドに供給されたインク液は、インクノズルから連続的に噴出され、インク液滴とされる。インク液滴のうち、印字に使用するインク液滴には、帯電処理、及び偏向処理を行い、印字対象物の所望の印字位置へ飛翔させて文字や記号を形成し、印字に使用しないインク液滴には、帯電処理、及び偏向処理を行わず、インク液回収部(以下、ガターと表記する)で捕集してインク回収ポンプによりインク容器へ戻す構成とされている。
【0003】
上述したインクジェット記録装置の帯電処理は、印字ノズルから噴出するインク液を液滴とするタイミングに同期させて、インク液滴に電圧を印加することにより電荷を付与している。例えば、特開2003-220707号公報(特許文献1)には、インク液が液滴化するタイミングを検出するために、印字を実行しない期間で、インク液滴が生じる1周期を複数の位相に分割し、夫々の位相にて帯電効率が最も良い位相を探索するための位相探索用帯電電圧(パルス電圧)を発生させることが示されている。
【0004】
この位相探索用帯電電圧は、インク液滴が偏向しない程度の電圧に決められており、ガター付近に設けた位相検出センサ(オートフェーズセンサと呼ばれている)によって、インク液滴が到来したことを検出する構成となっている。
【0005】
このように、特許文献1においては、夫々の位相のインク液滴に帯電されたインク液滴の帯電量に応じた電圧が誘起される位相検出センサをガターに設け、この位相検出センサに誘起される位相検出信号に基づいて、正常な帯電を行うことができる位相を判定し、その位相でインク液滴を帯電させることで、高い印字品質を維持することが示されている。
【0006】
また、インクジェット記録装置を長期間に亘って稼動させると、印字対象物からのインク液滴の跳ね返りや、インク液滴のクーロン力により、ガター付近にインク液が付着してしまうなどの理由で、印字ヘッド周りに汚れが生じる。ガターを含む印字ヘッド周りに汚れが生じると、この付着インク液は、インク液滴の帯電量を測定するガター付近に設けた位相検出センサに対して、位相検出信号のノイズ信号となり誤差を生じさせてしまう。
【0007】
特に、位相検出センサが付着インク液によって汚れていると、位相検出信号にノイズ信号が加算されることがある。このため、正常な位相判定を行うことができなくなってしまい、印字品質が低下してしまう恐れがある。
【0008】
したがって、付着インク液による汚れを生じると、印字ヘッドを洗浄することが必要となる。例えば、特開2020-49786号公報(特許文献2)には、インクジェット記録装置に、印字ヘッド洗浄機構を設けることが示されている。特許文献2には、オペレータが印字ヘッドの汚れを確認すると、オペレータは、印字ヘッドを取り外して印字ヘッド洗浄機構に印字ヘッドを取り付け、溶剤ポンプから送られてくる溶剤を印字ヘッドの印字ノズルやガターに向けて噴射して、付着したインク液を洗い流して洗浄することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003-220707号公報
【特許文献2】特開2020- 49786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述した印字ヘッド洗浄機構においては、印字ヘッドの汚れ度合いに合わせて洗浄時間を決めてやることが必要であるが、汚れ度合いはオペレータの目視で判断している。このため、洗浄時間がオペレータの判断によって決められるので、オペレータの夫々で洗浄時間がばらつくという課題がある。
【0011】
また、印字ヘッド自体に洗浄機構を設けて自動的に洗浄を行う場合、汚れ度合いを判断することができず、適切な洗浄時間を決めることができないという課題がある。このため、例えば印字ヘッドの使用時間を目安に洗浄時間を決めている。
【0012】
本発明の目的は、印字ヘッドの汚れ度合いを検出し、この検出された汚れ度合いに応じて、適切な洗浄時間を決定することができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、インク液をインク液滴として噴出する印字ノズルと、前記インク液滴を帯電させる帯電電極と、帯電した前記インク液滴に偏向をかける偏向電極と、印字に使われなかった前記インク液滴を捕集するガターとを備える印字ヘッドと、前記印字ヘッドの汚れを洗浄する印字ヘッド洗浄機構と、前記印字ヘッドと前記印字ヘッド洗浄機構の動作を制御する制御手段とを有するインクジェット記録装置であって、制御手段は、印字ヘッドの汚れ度合いを検出する汚れ度合い検出手段と、汚れ度合い検出手段によって検出された汚れ度合いに対応した、印字ヘッド洗浄機構による洗浄時間を求める洗浄時間算出手段を備えている、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、印字ヘッドの汚れ度合いを自動的に検出して洗浄時間を求めるので、オペレータによる洗浄時間のばらつきが抑制され、また、印字ヘッド自体に洗浄機構を設けた場合における洗浄時間を適切に決めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】インクジェット記録装置の構成を示す構成図である。
【
図2】位相探索用帯電電圧による帯電タイミングを示す説明図である。
【
図3】位相探索用帯電電圧による正常な状態の位相検出信号波形を示す説明図である。
【
図4】位相探索用帯電電圧による異常な状態の位相検出信号波形を示す説明図である。
【
図5】位相検出信号波形の異常を検出する制御フローを説明するフローチャートである。
【
図6】印字ヘッド洗浄機構による洗浄時間を設定する制御フローを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0017】
図1は、本発明になるインクジェット記録装置(以下、IJPという)の構成を示す構成図である。IJPは、IJP本体100、印字ヘッド200、及び印字ヘッド洗浄機構300を備え、印字ヘッド200は、生産ラインのコンベア400によって搬送される印字対象物500の搬送軌道に対向するように設置されている。
【0018】
また、印字ヘッド洗浄機構300は、詳細は示していないが、特許文献2に記載されている印字ヘッド洗浄機構の構成と同様の構成とされている。更には、印字ヘッド200自体に洗浄機構を設け、洗浄機構から直接洗浄用の溶剤を供給する構成とすることもできる。本実施形態では,両方の印字ヘッド洗浄機構を対象とすることができる。
【0019】
つまり、IJPの印字ヘッド洗浄機構300が、印字ヘッド200とは別に設けられている場合と、IJPの印字ヘッド洗浄機構300が、印字ヘッド200と一体的に設けられている場合にも、本発明は適用できるものである。
【0020】
また、IJP本体100においては、印字ヘッド200と印字ヘッド洗浄機構300の動作を制御する制御手段が備えられており、この制御手段は以下の構成要素から構成されている。
【0021】
IJP全体を制御するマイクロコンピュータ(以下、MPUという)101、MPU101が動作するのに必要な制御用プログラム及びデータを記憶する読み出し専用のメモリ102、MPU101がプログラム実行中に必要となるデータを一時的に記憶する書き換え可能なメモリ103を備えている。
【0022】
更に、IJPは、印字内容や設定値等を入力する入力パネル104、入力されたデータ及び印字内容等を表示する表示装置105も備えており、この入力パネル104と表示装置105は、液晶表示画面の表面に透明なタッチスイッチを重ね合せたタッチ入力式表示パネルを使用する。バスライン106は、MPU101のデータ信号、アドレス信号及びコントロール信号等を伝送する。
【0023】
印字ヘッド200は、IJP本体100のインク容器107からインク供給ポンプ108によって加圧して供給されるインク液109をノズル201からインク柱109aの形態で噴出し、その先端が分離してインク液滴109bとなる位置を包囲するように帯電電極203を備えている。
【0024】
更に、帯電して飛翔するインク液滴109bを、帯電量に応じて偏向して印字対象物500に指向させて印字する、偏向電界を発生する偏向電極204が備えられ、また、印字に使用しなかったインク液滴109bを捕捉するガター205と、このガター205で捕捉したインク液滴109bの帯電量に応じた位相検出信号を発生する位相検出センサ(以下、オートフェーズセンサと表記する)206を備えている。
【0025】
そして、IJP本体100は、更に、インク供給ポンプ108とガター205で捕捉したインク液滴109bをインク容器107に回収するインク回収ポンプ110を制御するポンプ駆動回路111が備えられている。また、印字ノズル201から噴射したインク柱109aから、インク液滴109bに分離するタイミングに規則性をもたせるために印字ノズル201に内蔵した電歪素子202を励振する励振電圧発生回路112が備えられている。
【0026】
更に、印字用帯電信号発生回路113及び位相探索用帯電信号発生回路114から出力されるデジタル信号形態の帯電信号をアナログ形態の電圧信号に変換するD/Aコンバータ115と、D/Aコンバータ115から出力されるアナログ信号形態の電圧信号を増幅して、帯電電極203に印加する帯電電圧を発生する増幅回路116が備えられている。
【0027】
更に、偏向電極204に印加する偏向電圧を発生する偏向電圧発生回路117と、オートフェーズセンサ206から出力するアナログ信号形態の位相検出信号を増幅する増幅回路118と、増幅された位相検出信号を入力して帯電良否を判定する位相判定回路119と、増幅された位相検出信号を入力してA/D変換するA/Dコンバータ120を備えている。
【0028】
このように構成されたIJPにおけるMPU101は、バスライン106を介してポンプ駆動回路111を制御してインク供給ポンプ108とインク回収ポンプ111を運転することにより、インク容器107内のインク109を吸引、加圧して印字ノズル201に供給し、印字ノズル201からインク柱109aを柱状に噴出させ、ガター205で捕捉したインク液滴109aを吸引してインク容器107に回収する。
【0029】
ノズル201から噴出するインク柱109aは、その先端が分離してインク液滴109bとなる。インク柱109aの先端がインク液滴109bに分離タするイミングは、励振電圧発生回路112によって励振電圧を発生して、印字ノズル201の電歪素子202を励振してインク柱109aを振動させることにより、励振電圧に対して所定の位相に規制することができる。
【0030】
インク液滴109bの帯電量は、インク柱109aの先端からからインク液滴109bが分離するときに、インク柱109aが帯電電極202の電位によって帯電している帯電量に比例する。印字用帯電信号発生回路113は、インク柱109aの先端がインク液滴109bに分離するときに、このインク液滴109bを所定の位置に偏向するために必要な帯電量となるように、帯電電極203に帯電電圧を印加するための印字用帯電信号を発生する。
【0031】
印字用帯電信号に基づいて発生した帯電電圧に応じて、帯電したインク液滴109bは、偏向電極203の間を飛翔する間に静電偏向されて、印字対象物500の所定の位置に着滴する。帯電しなかったインク液滴109bは、直進してガター205に捕捉されて回収される。
【0032】
印字用帯電信号を発生するタイミングは、インク柱109aがインク液滴109bに分離するときに、このインク液滴109bを所定の位置に偏向するために必要な帯電量となるように、帯電電極202に帯電電圧を印加することができるタイミングであることが必要である。
【0033】
IJPは、
図1に示すように、生産ラインのコンベア400によって搬送される印字対象物500が、印字ヘッド200の前方を移動するように到来するのを印字対象物到来センサによって検出すると、インク液滴109bを帯電させる印字用帯電電圧を発生して、このインク液滴109bを偏向制御して印字する。
【0034】
そして、印字対象物500の間の非印字期間中に、
図2に示すような位相探索用帯電電圧を発生して位相探索を行うようにしている。この位相探索のために、位相探索用帯電信号発生回路114は、励振電圧に対する位相を変えた複数の位相探索用帯電電圧を発生するための帯電信号を発生する。この位相探索用帯電電圧は、帯電したインク液滴109bがガター205を飛び越えない(ガター205で捕捉できる)程度の偏向量となるような大きさとされている。
【0035】
そして、この帯電電圧で帯電したインク液滴109bの帯電量に応じて、オートフェーズセンサ206から出力される位相検出信号は、増幅回路118を介して位相判定回路119及びA/Dコンバータ120に入力される。
【0036】
位相検出信号は、例えば、
図3~
図4に示すように変化する。IJPが正常な状態にあるときには、位相検出信号は、位相探索用帯電電圧の発生位相の変更に伴って
図3に示すように変化し、異常な状態にあるときには、
図4に示すように変化する。
【0037】
位相判定回路119は、このような位相検出信号を入力し、入力した各位相の位相検出信号を検出閾値(S/L)と比較し、2値化してMPU101に入力する。尚、位相検出信号が検出閾値(S/L)より大きいと「1」とされ、位相検出信号が検出閾値(S/L)より小さいと「0」とされる。
【0038】
したがって、正常な状態では、例えば
図3に示すように、「位相0」~「位相8」は「0、0、1、1、1、1、1、0、0」と2値化される。この2値化されたデータは、2値化履歴メモリに格納される。MPU101は、2値化された位相検出信号が「0」から「1」になった位相を、インク液滴109bを帯電させる帯電電圧発生に最適な位相であると判断し、その位相で、その後の印字用帯電電圧を発生するように印字用帯電信号を発生する。
【0039】
一方、インク液の付着等が生じている状態では、
図4に示すように、「位相0」~「位相B」では、「位相8」と「位相A」にノイズ信号が重畳されて「0、0、1、1、1、1、1、0、1、0、1、0」と2値化される。この2値化されたデータは、2値化履歴メモリに格納される。このように、インク液の付着等が生じていると、ノイズ信号が発生する傾向にあることから、ノイズ信号の発生数を計数することで、印字ヘッドの汚れ度合いを推定することができる。
【0040】
尚、MPU101では、ノイズ信号と判断すると、本来は検出閾値(S/L)を超えない位相であることから、ノイズ信号によって「1」とされた位相を「0」に置き換えて、インク液滴109bを帯電させる帯電電圧発生位相の判断に利用する。
【0041】
尚、本発明は、ノイズ信号の発生数によって洗浄時間を決定することを要旨としており、ノイズ信号を検出する方法は、以下に説明する方法に限定されるものではない。ただ、本実施形態では、位相探索によって検出されたノイズ信号が、印字ヘッドの汚れを推定できるとの知見によることで、新たな汚れを検出する手段を設ける必要がなく、この点で有利となる。
【0042】
図5は、MPU101で実行されるノイズ信号を検出する制御フローの一例を示しており、これは、上述したように非印字動作中に実行される。また、
図5に示す制御フローの一部、または全部は、請求項でいう「汚れ度合い検出手段」に該当するものである。
【0043】
≪ステップS10≫
ステップS10においては、非印字動作中と判断されるとノイズ検査を開始する。尚、この検査は、上述した位相探索を行うときに同時に並行して実行される。以下では、ノイズ検査を主体に説明する。ノイズ検査を開始するとステップS11に移行する。
【0044】
≪ステップS11≫
ステップS11においては、検査位相を設定するが、ノイズ検査を開始するときは、最初に
図4の「位相0」を設定する。そして、所定位相数を計数するまで以下に示す制御フローを実行する。検査位相が設定されるとステップS12に移行する。
【0045】
≪ステップS12≫
ステップS12においては、検査位相の位相検出信号は、検査閾値(S/L)を超えたかどうかを判断する。
図4に示すように、例えば「位相0」の場合は、位相検出信号が検査閾値(S/L)を超えないので、この場合はステップS18に移行する。一方、位相検出信号が検査閾値(S/L)を超えると、ステップS13に移行する。
【0046】
≪ステップS13≫
ステップS13においては、位相検出信号が検査閾値(S/L)を超えたとして、検出数を「+1」と計数する。検出数を計数するとステップS14に移行する。
【0047】
≪ステップS14≫
ステップS14においては、ステップS12で検出された位相検出信号が検査閾値(S/L)を超えているので、2値化履歴メモリに対応する位相に「1」をセットする。2値化履歴メモリは位相毎に設定されており、本実施形態では16個の位相に分割しているので、16個の記憶エリアが設定されている。2値化履歴メモリに「1」をセットすると、ステップS15に移行する。
【0048】
≪ステップS15≫
ステップS15においては、次の位相の位相検出信号と検査閾値(S/L)の比較を行うために、検査回数を「+1」して、ステップS16に移行する。
【0049】
≪ステップS16≫
ステップS16においては、検査回数が設定された回数(16回)に達したかどうかを判断している。本実施形態では、所定位相数が「16」に設定されているので、検査回数が「16」に達するまではステップS17に移行する。一方、検査回数が「16」に達するとステップS25に移行する。
【0050】
≪ステップS17≫
ステップS17においては、ステップS11で設定された検査位相に「+1番目」を加算して、次の位相の位相検出信号についての判断を実行する。次の位相が決定されると再びステップS11に移行する。ステップS11では、ステップS17で求められた位相をセットする。前の回では「位相0」がセットされていたので、今回は「位相1」がセットされる。
【0051】
≪ステップS18≫
ステップS12に戻って、検査位相の位相検出信号が、検査閾値(S/L)を超えたかどうかを判断し、位相検出信号が検査閾値(S/L)を超えない場合はステップS18に移行する。
【0052】
ステップS18においては、位相検出信号が検査閾値(S/L)を超えた検出回数が「0」かどうかを判断する。この検出回数が「0」の場合はステップS15に移行する。これ以降は上述した制御ステップを繰り返すことになる。一方、ステップS18で位相検出信号が検査閾値(S/L)を超えた検出回数が、「0」でない場合はステップS19に移行する。
【0053】
≪ステップS19≫
ステップS19においては、位相検出信号が検査閾値(S/L)を超えた検出回数が、3回以上に亘って連続して発生したかどうかが判断される。このステップS19では、検査閾値(S/L)を超えた位相検出信号が連続して継続しない場合は、突発的なノイズ信号と見做すことができる。したがって、これはオートフェーズセンサ206が、インク液によって汚染されている恐れがあると推定することができる。
【0054】
位相検出信号が検査閾値(S/L)を超えた検出回数が、3回以上に亘って連続して発生した場合は、正規の位相検出信号である可能性が高いのでステップS23に移行し、位相検出信号が検査閾値(S/L)を超えた検出回数が、3回以上に亘って連続して発生していない場合は、ノイズ信号の可能性が高いとしてステップ21に移行する。
【0055】
≪ステップS20≫
ステップS20においては、ステップS19でノイズ信号としてみなされているので、これを正規信号「0」に変更するため、2値化履歴メモリに論理加算し、検出位相を「0」に設定する。つまり、本来であれば2値化データが「0」であるので、ノイズ信号として「1」に設定された2値化データを「0」にセットし直している。値化履歴メモリの書き換えが完了するとステップS21に移行する。
【0056】
≪ステップS21≫
ステップS21においては、ステップS19の判断結果に基づいて、ノイズ信号の検出回数を「+1」として計数する。ノイズ信号の計数を行うとステップS22に移行する。
【0057】
≪ステップS22≫
ステップS22においては、今回の検査位相に続く位相検出信号を判断するために、今までの検出回数をリセットする。この検出回数がリセットされると、ステップS15に移行する。これ以降は上述した制御ステップを繰り返すことになる。
【0058】
≪ステップS23≫
ステップS19に戻り、位相検出信号が検査閾値(S/L)を超えた検出回数が、3回以上に亘って連続して発生した場合は、正規の位相検出信号である可能性が高いのでステップS23に移行する。
【0059】
このステップS23においては、今までの検査位相の位相検出信号にノイズ信号が重畳されていなく、しかも位相検出信号が検査閾値(S/L)を超えているので、2値化履歴メモリを全て「1」にセットする。2値化履歴メモリに「1」をセットすると、ステップS24に移行する。
【0060】
≪ステップS24≫
ステップS24においては、今回の検査位相に続く位相検出信号を判断するために、今までの検出回数をリセットする。この検出回数がリセットされると、ステップS15に移行する。これ以降は上述した制御ステップを繰り返すことになる。
【0061】
≪ステップS25≫
ステップS16に戻って、検査回数が「16」に達しているので、ステップS25においては、ノイズの検査を終了する。ここで、ノイズ信号の検出回数は、後述する印字ヘッド洗浄機構による洗浄時間を決めるために必要であるので、所定の記憶領域に記憶されることになる。
【0062】
また、2値化履歴メモリの記憶内容は、印字不良の原因を特定するための観察に適した形態に加工処理して表示装置105に表示することができる。
【0063】
また、ノイズ信号の検出があると、印字ヘッド200を洗浄する必要があることから、印字ヘッド200の洗浄が必要である旨の報知を行うことができ、これは例えば、表示装置105によって、オペレータに印字ヘッド200の洗浄を促すことができる。
【0064】
図5に示す制御フローによって、ノイズ信号の検出が実行され、印字ヘッド200の洗浄が必要となると、オペレータは、印字ヘッド200を取り外し、印字ヘッド洗浄機構に印字ヘッドを取り付ける。この状態で、オペレータは印字ヘッド洗浄機構による洗浄を実行する。この場合も表示装置105の入力パネル104によって実行することができる。
【0065】
以下、印字ヘッド洗浄機構による印字ヘッド200の洗浄について
図6を用いて説明する。ここで、
図6における破線で囲んだステップはオペレータの作業工程である。また、
図6に示す制御フローの一部、または全部は、請求項でいう「洗浄時間算出手段」に該当するものである。
【0066】
≪ステップS30≫、≪ステップS31≫、≪ステップS32≫
ステップS30~ステップS32は、オペレータによる作業であり、IJPの動作を停止させ、印字ヘッド200をIJPから取り外して印字ヘッド洗浄機構に取り付ける。そして、表示装置105の入力パネル104の印字ヘッド洗浄開始ボタンを押して洗浄動作を実行する。
【0067】
≪ステップS33≫
ステップS33においては、インク液を噴出してから印字ヘッド洗浄を開始する間に、位相検出信号にノイズを検出しているかどうかの判断を実行する。この判断は、
図5に示した制御フローが実行された結果に基づいて行われる。
図5の制御フローでは、ノイズ信号の検出回数が記憶されているので、この検出回数からノイズ信号を検出しているかどうかの判断を行うことができる。
【0068】
ノイズ信号を検出していないとステップS34に移行し、ノイズ信号を検出しているとステップS35に移行する。尚、ステップS33における「No」判断は、必ずしも行う必要なく、ステップ36と組み合わせて判断することもできる。
【0069】
≪ステップS34≫
ステップS34においては、ノイズ信号の検出回数が0回なので、所定の基本洗浄時間を設定してステップS42に移行する。一方、ノイズ信号の検出回数が1回以上だとステップS35に移行する。
【0070】
≪ステップS35≫
ステップS35においては、ノイズ信号が検出されているので、基本洗浄時間を設定してステップ36に移行する。ここで、ステップS34の基本洗浄時間と同じ時間に設定しているが、ステップS34の基本洗浄時間より長くすることも可能である。
【0071】
≪ステップS36≫
ステップS36においては、ノイズ信号の検出回数が1回以上かどうかを判断している。ノイズ信号の検出回数が1回だと、ステップS35で求めた基本洗浄時間を設定してステップS42に移行する。一方、ノイズ信号の検出回数が1回以上だとステップS37に移行する。
【0072】
≪ステップS37≫
ステップS37においては、ノイズの検出回数が多くなっているので洗浄時間が更に必要になることから、基本洗浄時間に補正洗浄時間を加算して第1補正洗浄時間を決定する。第1補正洗浄時間を決定するとステップS38に移行する。
【0073】
≪ステップS38≫
ステップS38においては、ノイズ信号の検出回数が2回以上かどうかを判断している。ノイズ信号の検出回数が2回だと、ステップS37で求めた第1補正洗浄時間を設定してステップS42に移行する。一方、ノイズ信号の検出回数が2回以上だとステップS39に移行する。
【0074】
≪ステップS39≫
ステップS39においては、ノイズの検出回数が更に多くなっているので洗浄時間が更に必要になることから、基本洗浄時間に補正洗浄時間を加算して第2補正洗浄時間を決定する。ここで、ステップS39での補正洗浄時間は、ステップS37での補正洗浄時間より長く設定されている。第2補正洗浄時間を決定するとステップS40に移行する。
【0075】
≪ステップS40≫
ステップS40においては、ノイズ信号の検出回数が3回以上かどうかを判断している。ノイズ信号の検出回数が3回だと、ステップS39で求めた第2補正洗浄時間を設定してステップS42に移行する。一方、ノイズ信号の検出回数が3回以上だとステップS41に移行する。
【0076】
≪ステップS41≫
ステップS41においては、ノイズの検出回数が更に多くなっているので洗浄時間が更に必要になることから、最大洗浄時間を決定する。以上の説明から、夫々の洗浄時間は、ノイズ信号の検出回数に対応して「基本洗浄時間<第1補正洗浄時間<第2補正洗浄時間<最大洗浄時間」の関係に設定されていることがわかる。最大洗浄時間を決定するとステップS42に移行する。
【0077】
≪ステップS42≫
ステップS42においては、ステップS34、S35、S37、S39、S41で求められた洗浄時間に基づいて、印字ヘッド200の洗浄を開始する。洗浄を開始するとステップS43に移行する。
【0078】
≪ステップS43≫
ステップS43においては、MPU101のタイマー機能を用いて、印字ヘッド200の洗浄を設定された洗浄時間に亘り実行する。設定された洗浄時間が経過するとステップS44に移行する。
【0079】
≪ステップS44≫
ステップS44においては、溶剤による洗浄で濡れた印字ヘッド200を乾燥させる乾燥工程を実行する。乾燥工程の乾燥時間は、洗浄時間に対応した時間に決められており、この乾燥時間だけ乾燥を行うようにしている。乾燥が終了するとステップS45、S46に移行する。
【0080】
≪ステップS45≫、≪ステップS46≫
ステップS45、S46においては、洗浄が終了すると印字ヘッド洗浄機構から印字ヘッド200を取り出し、搬送ラインのIJPに再び取り付けて、洗浄を終了する。
【0081】
このように、印字ヘッド洗浄機構を備えたインクジェット記録装置において、インク液滴を位相探索用帯電電圧で帯電させた時の位相検出センサから出力される位相検出信号波形から印字ヘッドの汚れ度合いを推定し、この推定された汚れ度合いに基づいて洗浄時間を設定する、ことを特徴としている。
【0082】
これによれば、印字ヘッドの汚れ度合いを自動的に検出して洗浄時間を求めるので、オペレータによる洗浄時間のばらつきが抑制され、また、印字ヘッド自体に洗浄機構を設けた場合における洗浄時間を適切に決めることができる。
【0083】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0084】
100…IJP本体、101…MPU、102,103…メモリ、104…入力パネル、105…外部信号入力回路、112…励振電圧発生回路、113…印字用帯電信号発生回路、114…位相探索用帯電信号発生回路、119…位相判定回路、120…A/Dコンバータ、200…印字ヘッド、201…ノズル、202…電歪素子、203…帯電電極、204…偏向電極、205…ガター、206…オートフェーズセンサ、300…印字ヘッド洗浄機構、400…コンベア、500…印字対象物。