(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162337
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】円筒状コイルの補強構造およびコアレス回転電気機械
(51)【国際特許分類】
H02K 3/47 20060101AFI20221017BHJP
H02K 3/04 20060101ALI20221017BHJP
H02K 15/04 20060101ALI20221017BHJP
H02K 15/12 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
H02K3/47
H02K3/04 E
H02K15/04 C
H02K15/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067124
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】517221310
【氏名又は名称】コアレスモータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】白木 学
(72)【発明者】
【氏名】川野 将太郎
【テーマコード(参考)】
5H603
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H603AA03
5H603AA09
5H603BB01
5H603BB02
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB01
5H603CB22
5H603CC01
5H603CC19
5H603FA16
5H603FA25
5H604AA05
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB03
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC04
5H604CC12
5H604CC17
5H604DA14
5H604DA21
5H604DB01
5H604PB03
5H604PE07
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB02
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP17
5H615QQ02
5H615QQ27
5H615RR07
5H615TT35
(57)【要約】
【課題】ロータの回転に起因する反トルクの影響による円筒状コイルの歪みを抑制することを可能とする円筒状コイルの補強構造を提供することを目的とする。
【解決手段】コアレス回転電気機械の内部に組み込まれるコイル導体が円筒状に形成されたものであって、円筒状コイル20の内周に密接した円筒状の補強部材22を配置し、補強部材22は、非導電性の特性を持つ非磁性体により構成されていることを特徴とする。また、補強部材22は、円筒状コイル20が構成する円筒の厚みよりも薄く構成しつつ、比強度と比曲げ剛性は円筒状コイル20以上となる部材により構成されていることが望ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアレス回転電気機械の内部に組み込まれるコイル導体が円筒状に形成されたものであって、
当該円筒状のコイルの内周に密接した円筒状の補強部材を配置し、
前記補強部材は、非導電性の特性を持つ非磁性体により構成されていることを特徴とする円筒状コイルの補強構造。
【請求項2】
前記補強部材は、前記コイルが構成する円筒の厚みよりも薄く構成しつつ、
比強度と比曲げ剛性は前記コイル以上となる部材により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の円筒状コイルの補強構造。
【請求項3】
前記補強部材は、120℃以上、より望ましくは150℃以上の耐熱温度を有する部材により構成されていることを特徴とする請求項2に記載の円筒状コイルの補強構造。
【請求項4】
前記補強部材は、FRPにより構成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の円筒状コイルの補強構造。
【請求項5】
筒状に構成されたケーシングの一端に固定された円筒状コイルと、前記円筒状コイルをステータとして回転するロータとを有するコアレス回転電気機械であって、
前記円筒状コイルとして請求項1乃至4のいずれか1項に記載の補強構造を有する円筒状コイルを採用したことを特徴とするコアレス回転電気機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状(円環状も含む)コイルの補強構造、並びにこの補強構造を適用した円筒状コイルを採用するコアレス回転電気機械に関する。
【背景技術】
【0002】
コアレスモータに代表されるコアレス回転電気機械は、特許文献1に記載されているように、円筒状のケーシングの中央部に回転軸を配置し、この回転軸と同心円上に配置された円筒状のコイル(以下、円筒状コイルと称す)を固定配置すると共に、円筒状コイルをステータとして回転して回転軸を回転させるロータを備える構成としている。ロータには、円筒状コイルの内周側に配置されるインナヨークと、外周側に配置されるアウタヨークが設けられ、インナヨーク又はアウタヨークには、回転力を生じさせるための永久磁石が備えられている。
【0003】
このような基本構成を有するコアレス回転電気機械を構成する円筒状コイルは、銅をエッチングして帯状導線として巻回し、あるいは絶縁層と熱融着層が外周面上に形成された導線を巻回し、この巻回された導線を加熱下でプレス形成して作製するものとされる。
【0004】
従来の円筒状コイルでは熱融着層として、例えばポリイミドが使用され、円筒形状を保持可能に構成されているものがある。また、更に、特許文献2に示されるように、円筒状コイルの内周面と外周面に未硬化の熱硬化性樹脂を塗布し、加熱硬化させることにより強度を出すようにしているものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-70140号公報
【特許文献2】特開2004-32842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような構成のコアレス回転電気機械では、ステータとなる円筒状コイルは、その長手方向の一端をケーシングに対して固定された、いわゆる片持ち固定とされている。
【0007】
コアレス回転電気機械に動力を生じさせた場合、永久磁石を介してロータにトルクが発生すると、円筒状コイルにはこのトルクに対する反トルクが生じることとなる。このため、片持ち状態で固定されている円筒状コイルは、反トルクの作用により自由端側に歪みを生じさせることがあり、機器の破損や動作不良の要因となる場合があった。
【0008】
そこで本発明では、上記課題を解決し、ロータの回転に起因する反トルクの影響による円筒状コイルの歪みを抑制することを可能とする円筒状コイルの補強構造、及びこの円筒状コイルを適用したコアレス回転電気機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る円筒状コイルの補強構造は、コアレス回転電気機械の内部に組み込まれるコイル導体が円筒状に形成されたものであって、当該円筒状のコイルの内周に密接した円筒状の補強部材を配置し、前記補強部材は、非導電性の特性を持つ非磁性体により構成されていることを特徴とする。
【0010】
また、上記のような特徴を有する円筒状コイルの補強構造において前記補強部材は、前記コイルが構成する円筒の厚みよりも薄く構成しつつ、比強度と比曲げ剛性は前記コイル以上となる部材により構成されていることが望ましい。このような特徴を有する事によれば、回転電気機械としての性能を損なわせる事なく、円筒状コイルの歪みを抑制する事が可能となる。
【0011】
また、上記のような特徴を有する円筒状コイルの補強構造において前記補強部材は、120℃以上、より望ましくは150℃以上の耐熱温度を有する部材により構成されていることが望ましい。このような特徴を有する事によれば、通電により円筒状コイルが発熱した場合であっても、補強部材としての機能を損なう事が無い。また、コイルが発熱すると、捻じれが生じ、内側に弾けたり、捲れたりすることで径が縮まることとなるが、補強部材に上記のような耐熱性を持たせることで、これも抑制することができる。
【0012】
さらに、上記のような特徴を有する円筒状コイルの補強構造において前記補強部材は、FRPにより構成されていると良い。このような特徴を有する事によれば、形状形成が容易であり、かつ安価に作成することができる。
【0013】
また、上記目的を達成するための本発明に係るコアレス回転電気機械は、筒状に構成されたケーシングの一端に固定された円筒状コイルと、前記円筒状コイルをステータとして回転するロータとを有するコアレス回転電気機械であって、前記円筒状コイルとして上記のような特徴の補強構造を有する円筒状コイルを採用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記のような特徴を有する円筒状コイルの補強構造によれば、ロータの回転に起因する反トルクの影響による円筒状コイルの歪みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係るコアレスモータの断面構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係るコアレスモータを構成する円筒状コイルと補強部材の構成を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の円筒状コイルの補強構造およびコアレス回転電気機械に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明の好適な形態の一部に過ぎず、その効果を奏する限りにおいて、構成の一部に変更を加えたとしても、本発明の一部とみなすことができる。
【0017】
[構成:コアレス回転電気機械]
まず、
図1、
図2を参照して、実施形態に係る円筒状コイルを適用したコアレス回転電気機械(以下、本実施形態においてはコアレスモータ10と称す)の構成について説明する。本実施形態に係るコアレスモータ10は、ケーシング12と円筒状コイル20、ロータ30、及び回転軸42を基本として構成されている。ケーシング12は、詳細を後述する円筒状コイル20と、ロータ30、及び回転軸42を内部に収容するカバーである。本実施形態に係るケーシング12は、ケース本体14と、ケースフランジ16、及びスペーサ18を有する。ケース本体14は、有底の筒状体により構成されており、筒状体の内部を収容部としている。ケースフランジ16は、ケース本体14の開口部を封止するための蓋体である。本実施形態に係るケースフランジ16は、ケース本体14の内部に設けられる空間に挿入配置するためのボス16aが設けられている。また、ケースフランジ16には、ボス16aの中央に貫通孔が設けられている。スペーサ18は、ケース本体14とケースフランジ16との間に配置される部材であり、円筒状コイル20の固定端側外周部を支持する外周側固定リング26を位置決めする役割を担う。
【0018】
円筒状コイル20は、詳細を後述するロータ30に対して動力を付与するための磁力を生じさせる役割を担う要素である。その構成は多岐に亙り、例えば複数のコイル導線と絶縁体を所定形状に形成しつつ、一方を導線の折り返し部(自由端)とし、他方を配線部(固定端)として円筒状に形成したものをポリイミド等の樹脂により凝結させて形成することができる。また、銅板をエッチングすることで導通部の間に空間を設け、この導通部を配線としてコイルを構成する例もある。
【0019】
本実施形態では、円筒状コイル20の内周側に、円筒状の補強部材22を配置している。補強部材22は例えば、グラスファイバー等を繊維体とした繊維強化プラスチック(FRP(Fiber Reinforced Plastics))により構成することができる。補強部材22をFRPにより構成することによれば、形状形成が容易で、安価に作成する事が可能となる。また、円筒状コイル20の内周面を補強部材22の外周面に密接させることで、ロータ30を稼働させる際の反力により、円筒状コイル20が歪むことを抑制することができるようになる。
【0020】
ここで、補強部材22の構成材料は、FRPに限定されるものでは無く、炭素繊維プラスチック(CFRP)や、硬質樹脂などであっても良く、少なくとも次のような条件を満たすことが望ましい。すなわち、成形性が良好で、透磁性、非導電性の特性を持つ非磁性体であること。また、概ね120℃以上、より望ましくは150℃以上の耐熱温度を有すること。及び円筒状コイルの厚みよりも薄く構成した場合に、比強度と比曲げ剛性が円筒状コイル20以上となること、などの条件である。非導電性の特性を持つことによれば、抵抗成分の増加による銅損を抑制することができる。また、非磁性体により構成することで、ロータ30に対する磁力の到達を妨げる事(動力損失)を無くすことができる。また、耐熱温度を120℃以上、より望ましくは150℃以上とする事で、通電時の発熱による変形を防ぐことができる。円筒状コイルが発熱すると、捻じれが生じ、内側に弾けたり、捲れたりすることで径が縮まることとなるが、補強部材に上記のような耐熱性を持たせることで、これも抑制することができる。さらに、円筒状コイル20の厚みよりも薄くすることで、詳細を後述するロータ30を構成するインナヨーク32と円筒状コイル20との距離を近づけ、磁力のロスを減らす事が可能となる。また、比強度と比曲げ剛性を円筒状コイル20以上とする事で、補強部材22としての役割を果たすことができる。
【0021】
本実施形態では、補強部材22をFRPにより構成する場合、その厚みは円筒状コイル20の厚みよりも薄くなるようにしている。なお、円筒状コイル20と補強部材22との厚さの関係は、円筒状コイル20を構成するコイルの組成や、巻き方など、円筒状コイル20自体の強度や厚みによって変化するため、限定的なものでは無い。
【0022】
なお、補強部材22は、円筒状コイル20を形成した後に内部に嵌め込むようにしても良いし、予め円筒状に形成した補強部材22を基礎として、この補強部材22の外周にコイルを巻き付けて円筒状コイル20を形成するようにしても良い。
【0023】
本実施形態の円筒状コイル20は、固定端側に内周側固定リング24と、外周側固定リング26が備えられている。内周側固定リング24は、ケーシング12を構成するケースフランジ16のボス16aに固定され、外周側固定リング26は、スペーサ18に固定されている。また、本実施形態の円筒状コイル20には、自由端側に補強リング28を配置し、自由端の歪み防止と回転安定性の確保を図るようにしている。
【0024】
ロータ30は、円筒状コイル20により生じる磁力を受けて回転すると共に、詳細を後述する回転軸42に対して動力を付与するための要素である。本実施形態に係るロータ30は、インナヨーク32とアウタヨーク34を備え、ブリッジ部36を介して両者を接続することで構成されている。インナヨーク32とアウタヨーク34は共に磁性体により構成され、両者共円筒状に形成されている。インナヨーク32は、ロータ30をコアレスモータ10に組み付けた際、円筒状コイル20の内周側に配置されることとなる。一方、アウタヨーク34は組み付け状態において円筒状コイル20の外周側に配置されることとなる。
【0025】
本実施形態では、アウタヨーク34の内周面に、円筒状コイル20の外周面と対向するように永久磁石38を配置している。ブリッジ部36は、インナヨーク32とアウタヨーク34を接続する要素であり、組付け状態で円筒状コイル20の自由端側に位置する端部に設けられ、当該自由端を跨ぐように配置されている。なお、ロータ30は、インナヨーク32の内周側に設けられたハブ40を介して回転軸42に支持されている。
【0026】
回転軸42は、ロータ30により生じた動力を外部へ伝達するための要素である。本実施形態に係る回転軸42は、円柱状の棒状部材であり、同心円上に配置される円筒状コイル20とロータ30の中心に配置される。回転軸42の一端(例えば後端)は、ケーシング12を構成するケース本体14の底部に、軸受け44aを介して支持されている。また、回転軸42の先端側は、ケースフランジ16のボス16aに設けられた中空部を貫通して配置され、ボス16aの基端部(フランジ側)と先端部の双方において、軸受け44b,44cを介して支持され、回転自在とされている。このような支持状態とされている回転軸42は先端側に、ケーシング12から突出する突出部を有し、後端側にはハブ40が接続されている。
【0027】
このため、ロータ30は浮動状態で回転軸42に支持されることとなると共に、ロータ30に回転力が付与される事により、回転軸42が回転し、突出部を介して動力が外部に出力されることとなる。
【0028】
[効果]
上記のような構成のコアレスモータ10によれば、円筒状コイル20の内周側に補強部材22を設けた事により、ロータ30の回転に起因する反トルクの影響により円筒状コイル20に歪みが生ずることを抑制することができる。また、円筒状コイル20の自由端側には、補強リング28を配置し、円筒状コイル20の自由端と補強部材22の端部とがズレないように構成している。このため、円筒状コイル20と補強部材22とが密着(接着状態)されていなくとも、円筒状コイル20の自由端側に生ずる捻じれ方向の力による歪みや撓みを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
上記実施形態では、コアレス回転電気機械としてコアレスモータ10を例に挙げて説明した。しかしながら、発電機等であっても同様な構成とすることができる。また、円筒状コイル20を採用する回転電気機械であれば、コアレス型に限らず、コアを持つ回転電気機械、例えばコアドモータのスロットレスにも適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
10………コアレスモータ、12………ケーシング、14………ケース本体、16………ケースフランジ、16a………ボス、18………スペーサ、20………円筒状コイル、22………補強部材、24………内周側固定リング、26………外周側固定リング、28………補強リング、30………ロータ、32………インナヨーク、34………アウタヨーク、36………ブリッジ部、38………永久磁石、40………ハブ、42………回転軸、44a,44b,44c………軸受。