(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162347
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】擬毛植設部材、擬毛植設部材を備えたヘアエクステンション、擬毛植設部材を備えたかつらベース、及び擬毛植設部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
A41G 3/00 20060101AFI20221017BHJP
【FI】
A41G3/00 E
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067135
(22)【出願日】2021-04-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000126676
【氏名又は名称】株式会社アデランス
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 正雄
(57)【要約】 (修正有)
【課題】容易に擬毛を植設することができるとともに、自然な外観を保ちながら植設された擬毛の位置ズレを防ぐことができる擬毛植設部材、この擬毛植設部材を備えたヘアエクステンション、擬毛植設部材を備えたかつらベース、及びこの擬毛植設部材の製造方法を提供する。
【解決手段】略円形の断面形状が保持された外形保持領域4と、略円形の断面形状が潰れた扁平な断面形状を有する扁平領域6とが、長手方向において交互に形成された紐状部材で構成され、外形保持領域4に結び付けられた擬毛Gの長手方向の移動が、両側に位置する扁平領域6により阻止される擬毛植設用部材2、この擬毛植設部材2を備えたヘアエクステンション10、この擬毛植設部材2を備えたかつらベース、及びこの擬毛植設部材2の製造方法を提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円形の断面形状が保持された外形保持領域と、略円形の断面形状が潰れた扁平な断面形状を有する扁平領域とが、長手方向において交互に形成された紐状部材で構成され、
前記外形保持領域に結び付けられた擬毛の長手方向の移動が、両側に位置する前記扁平領域により阻止されることを特徴とする擬毛植設用部材。
【請求項2】
前記外形保持領域の断面形状における外径をDとし、前記扁平領域の断面形状における最大外縁間距離をFとすると、
F/Dの値が1.5以上1.9以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の擬毛植設用部材。
【請求項3】
各々の前記扁平領域の長手方向の長さが、前記扁平領域の最大外縁間距離Fの1.7倍以上3.2倍以下の範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載の擬毛植設用部材。
【請求項4】
各々の前記外形保持領域の長手方向の長さが1mm以上1.5mm以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の擬毛植設用部材。
【請求項5】
必要な擬毛の植設密度に応じて、前記外形保持領の長手方向の長さが定められることを特徴とする請求項4に記載の擬毛植設用部材。
【請求項6】
各々の前記扁平領域の長手方向の長さが1mm以上1.5mm以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の擬毛植設用部材。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の擬毛植設用部材に擬毛が植設されたヘアエクステンション。
【請求項8】
請求項1から6の何れか1項に記載の擬毛植設用部材を備えたかつらベース。
【請求項9】
熱可塑性樹脂からなる紐状部材を準備する工程と、
該紐状部材の長手方向に進みながら超音波を断続的に照射して、超音波が照射されない外形保持領域と、超音波が照射された扁平領域とを交互に形成する工程と、
を含み、
略円形の断面形状が保持された前記外形保持領域に結び付けられた擬毛の長手方向における移動が、その両側に位置する、略円形の形状が潰れた扁平な断面形状を有する前記扁平領域により阻止される擬毛植設用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬毛を植設する擬毛植設部材、擬毛植設部材を備えたヘアエクステンション、擬毛植設部材を備えたかつらベース、及び擬毛植設部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かつらベースやヘアエクステンションを構成する部材であって、擬毛を結び付けることができる紐状の部材が知られている。その中には、擬毛が予め設定された間隔で離隔して配置された紐状部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、擬毛を紐状部材に結び付けるか、接着剤を用いて擬毛を紐状部材に固定するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の紐状部材において、擬毛を結びつけただけでは、使用している間に結んだ擬毛が動いて、同じ箇所に擬毛が固まって不自然な外観を呈する。また、擬毛を接着剤で紐状部材に固定する場合には、擬毛を植設するのに非常に手間がかかり、擬毛の根元に接着剤が見えて、不自然な外観を呈する虞がある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、容易に擬毛を植設することができるとともに、自然な外観を保ちながら植設された擬毛の位置ズレを防ぐことができる擬毛植設部材、この擬毛植設部材を備えたヘアエクステンション、この擬毛植設部材を備えたかつらベース、及びこの擬毛植設部材の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る擬毛植設用部材は、
略円形の断面形状が保持された外形保持領域と、略円形の断面形状が潰れた扁平な断面形状を有する扁平領域とが、長手方向において交互に形成された紐状部材で構成され、
前記外形保持領域に結び付けられた擬毛の長手方向の移動が、両側に位置する前記扁平領域により阻止される。
【0007】
本発明の一態様に係るヘアエクステンションは、上記の擬毛植設用部材に擬毛が植設されている。
【0008】
本発明の一態様に係るかつらベースは、上記の擬毛植設用部材を備えている。
【0009】
本発明の一態様に係る擬毛植設用部材の製造方法は、
熱可塑性樹脂からなる紐状部材を準備する工程と、
該紐状部材の長手方向に進みながら超音波を断続的に照射して、超音波が照射された外形保持領域と、超音波が照射された扁平領域とを交互に形成する工程と、
を含み、
略円形の断面形状が保持された前記外形保持領域に結び付けられた擬毛の長手方向における移動が、その両側に位置する、略円形の形状が潰れた扁平な断面形状を有する前記扁平領域により阻止される。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明では、容易に擬毛を植設することができるとともに、自然な外観を保ちながら植設された擬毛の位置ズレを防ぐことができる擬毛植設部材、この擬毛植設部材を備えたヘアエクステンション、及びこの擬毛植設部材を備えたかつらベースを提供することができる。また、超音波を照射して扁平領域を形成することにより、非接触で、効率良く、製作精度の高い擬毛植設部材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】本発明の1つの実施形態に係る擬毛植設部材の概要を示す模式図である。
【
図2A】実際に製造した擬毛植設部材の実施例を示す図(写真)であって、製造時の超音波の照射方向から見た図である。
【
図2B】実際に製造した擬毛植設部材の実施例を示す図(写真)であって、製造時の超音波の照射方向に対して斜めの方向から見た図である。
【
図2C】実際に製造した擬毛植設部材の実施例を示す図(写真)であって、製造時の超音波の照射方向に対して略直交する方向から見た図である。
【
図3】本発明の1つの実施形態に係る擬毛植設部材に擬毛を結びつけたヘアエクステンションの概要を示す図である。
【
図4A】本発明の1つの実施形態に係る擬毛植設部材を用いたかつらベースの例1を模式的に示す平面図である。
【
図4B】本発明の1つの実施形態に係る擬毛植設部材を用いたかつらベースの例2を模式的に示す平面図である。
【
図4C】本発明の1つの実施形態に係る擬毛植設部材を用いたかつらベースの例3を模式的に示す平面図である。
【
図4D】本発明の1つの実施形態に係る擬毛植設部材を用いたかつらベースの例4を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。
各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態や実施例に分けて示す場合があるが、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。
【0013】
(本発明の1つの実施形態に係る擬毛植設部材)
はじめに、
図1A、
図1B、
図2Aから
図2Cを参照しながら、本発明の1つの実施形態に係る擬毛植設部材の説明を行う。
図1Aは、本発明の1つの実施形態に係る擬毛植設部材の概要を示す模式図である。
図1Bは、
図1Aの断面A-Aを示す断面図である。
図2Aから
図2Cは、実際に製造した擬毛植設部材の実施例を示す図(写真)であって、
図2Aは、製造時の超音波の照射方向から見た図であり、
図2Bは、製造時の超音波の照射方向に対して斜めの方向から見た図であり、
図2Cは、製造時の超音波の照射方向に対して略直交する方向から見た図である。
【0014】
本実施形態に係る擬毛植設部材2は、略円形の断面形状が保持された外形保持領域4と、略円形の断面形状が潰れた扁平な断面形状を有する扁平領域6とが、長手方向(
図1Aの矢印Xの方向)において交互に形成された紐状部材で構成される。本実施形態では、紐状部材として、連続した継ぎ目や結び目のない一本の単繊維であるモノフィラメントが用いられている。特に、ここでは、ナイロン製のモノフィラメントが用いられている。ナイロンモノフィラメントは、適度な伸びがあり、しやなやかさや柔らかさを有する。ナイロンモノフィラメントは、テグスとも称され、テグスサイズとして、2号(外径0.235mm)、3号(外径0.285mm)、4号(外径0.330mm)及び5号(0.370mm)を例示できるが、これに限られるものではない。
【0015】
モノフィラメントの材質は、ナイロンに限られるものではなく、ポリエステル、ポリエチレをはじめとするその他の任意の熱可塑性樹脂を用いることができる。扁平領域6を形成する方法を考慮すると、熱硬化性樹脂でなく熱可塑性樹脂を用いるのが好ましい。以上をまとめると、擬毛植設部材2を構成する紐状部材として、外径が0.2mmから0.5mm程度の熱可塑性樹脂製のモノフィラメントを用いるのが好ましい。ただし、熱可塑性樹脂製のマルチフィラメントを用いることもできる。
【0016】
このような紐状部材を準備して、
図1Bの点線で模式的に示すように、図面上方から超音波を照射することにより、略円形の断面形状が潰れて、照射方向に対して直交する方向に広がった扁平な形状となる。超音波をナイロンのような熱可塑性樹脂の紐状部材に照射すると、熱可塑性樹脂内に微細な超音波振動が生じて、高温になって軟化し、円形の断面形状が潰れて扁平な形状となる。
更に、詳細に述べれば、紐状部材の長手方向に進みながら超音波を断続的に照射して、超音波が照射されない外径が保たれた外形保持領域4と、超音波が照射された扁平領域6とを交互に形成する。
図1Bは、超音波の照射で軟化して扁平形状となった形状の一例を示している。
【0017】
本実施形態では、外形保持領域4の長手方向における長さL1が一定であり、扁平領域6の長手方向における長さL2も一定となるように、超音波の照射を行った場合を示す。超音波を照射されない外形保持領域4の外径Dは、元のナイロンモノフィラメント糸の外径と一致して一定である。超音波の照射方向に対して直交する方向に広がった扁平領域6の最大外縁間距離(つまり潰れ幅)Fは、超音波照射の条件が一定なので、各扁平領域6でほぼ同一の値となる。
【0018】
上記のように、ナイロンモノフィラメント糸の長手方向に進みながら超音波を断続的に照射することにより、
図2Aから
図2Cに示すような、外形保持領域4の外径D及び長さL1と、扁平領域6の最大外縁間距離F及び長さL2とが略一定になった擬毛植設部材2を製造できる。超音波の照射強度、照射時間、照射位置を適切に設定することにより、確実に
図2Aから
図2Cに示すようなる擬毛植設部材2を形成できる。
【0019】
図3には、本発明の1つの実施形態に係る擬毛植設部材に擬毛を結びつけたヘアエクステンションの概要を示す。擬毛植設部材2に形成された各外形保持領域4に擬毛Gを結び付けることにより、ヘアエクステンション10を形成することができる。1つの外形保持領域4に1本の擬毛Gを結び付ける。擬毛G外形保持領域4は円形の断面形状を有するので、既知の任意の方法で、確実に擬毛Gを外形保持領域4に結び付けることができる。特に、外形保持領域4の外径が少し潰れるぐらいに強く結び付けることが好ましい。しかし、いくら強く結び付けても、使用している間に結び目が若干緩むので、断面形状が同一の通常の紐状部材では、結んだ擬毛Gが移動してズレが生じる虞がある。
【0020】
一方、本実施形態では、仮に、外形保持領域4に結び付けられた擬毛Gの結び目が若干緩んでも、両側に位置する扁平領域6の横に広がった領域に当たって移動が阻止される。これにより、本実施形態に係る擬毛植設部材2では、植設された擬毛Gの位置ズレを防ぐことができる。
なお、擬毛Gの結び目が若干緩んだとき、扁平領域6に挟まれた外形保持領域4の範囲内では擬毛Gが移動する可能性がある。しかし、後述するように、各々の外形保持領域4の長さL1を、使用者が擬毛Gのズレを感じることのない程度の小さな値(1.5mm以下)にすることにより、確実に擬毛Gの位置ズレを防ぐことができる。特に、1つの外形保持領域4に1本の擬毛Gが植設されるので、隣の擬毛Gの結び目の間には、必ず扁平領域6が存在し、同じ箇所に擬毛Gが固まって不自然な外観を呈することがない。
【0021】
以上のように、本実施形態に係る擬毛植設用部材2では、略円形の断面形状が保持された外形保持領域4と、略円形の断面形状が潰れた扁平な断面形状を有する扁平領域6とが、長手方向において交互に形成された紐状部材で構成され、外形保持領域4に結び付けられた擬毛Gの長手方向の移動が、両側に位置する扁平領域6により阻止されるようになっている。
【0022】
本実施形態では、接着剤等を用いて擬毛Gのズレを防止するのではないので、煩雑な作業を伴わずに、容易に擬毛Gを植設することができる。それとともに、接着剤等が擬毛Gの根元に存在しないので、自然な外観を保つことができる。更に、扁平な断面形状を有する扁平領域6により、確実に擬毛Gの位置ズレを防ぐことができる。また、紐状部材のみで構成され、他の固定用部材が取り付けられていないので、長期間使用しても不具合が生じることが少なく、軽量な擬毛植設部材2を低い製造コストで得ることができる。更に、紐状部材自体に結び目を作る場合に比べて、視認されにくく、結び目を作るような煩雑な作業も生じず、正確な位置に擬毛Gを植設することができる。
よって、容易に擬毛Gを植設することができるとともに、自然な外観を保ちながら植設された擬毛Gの位置ズレを防ぐことができる擬毛植設部材2を提供できる。
【0023】
上記を実現するため、外形保持領域4の長さL1、扁平領域6の最大外縁間距離F及び長さL2について、最適な値を設定することが重要である。以下においては、外形保持領域4の長さL1、扁平領域6の最大外縁間距離F及び長さL2について、実際に様々な寸法の擬毛植設部材2を試作して、最適な値の範囲を考察した。以下に、その結果を記載する。
【0024】
(最適な外形保持領域及び扁平領域の寸法)
紐状部材として、外径Dが0.297mmのナイロンモノフィラメント及び外径Dが0.323mmのナイロンモノフィラメントを用いて、それぞれについて、外形保持領域4の長さL1、扁平領域6の最大外縁間距離F及び長さL2を異ならせた様々な試作品を製造して、擬毛Gを結び付けて試験を行った。
【0025】
<外形保持領域の最適な長さ>
外形保持領域4の長さL1について、様々な長さの擬毛植設用部材2を試作して、各々の外形保持領域4に疑毛Gを結び付けて、結び付けた疑毛Gのズレの可能性を検討し、外観を様々な角度から観察した。その結果、外形保持領域4の長さL1が、1mm以上1.5mm以下の範囲内にあるのが好ましいということが判明した。
【0026】
外形保持領域4の長さL1が1mm未満であると、疑毛Gを結び付ける作業が困難となり、疑毛Gを植設する作業時間がかかり過ぎることが判明した。一方、外形保持領域4の長さL1が1.5mmを越えると、疑毛Gの結び目が少し緩んだときに、使用者が位置ズレを感じ易くなり、疑毛Gを植設した後、外形保持領域4が視認され易くなる傾向を示した。また、植設する疑毛Gの数が限られる問題も生じることが判明した。
【0027】
更に、外形保持領域4の長さL1の好ましい範囲である、1mm以上1.5mm以下の範囲内において、外形保持領域4の長さL1を調整することにより、擬毛植設用部材2に植設する疑毛Gの植設密度を調整することができる。
【0028】
例えば、擬毛植設用部材2に植設する疑毛Gの量を多くしたい、つまり疑毛Gの植設密度を高くしたい場合には、外形保持領域4の長さL1を1mmから1.1mm程度の範囲にするのが好ましいことが判明した。また、擬毛植設用部材2に植設する疑毛Gの量を中程度にしたい、つまり疑毛Gの植設密度を中程度にしたい場合には、外形保持領域4の長さL1を1.2mmから1.3mm程度の範囲にするのが好ましいことが判明した。更に、擬毛植設用部材2に植設する疑毛Gの量を少なくしたい、つまり疑毛Gの植設密度を低くしたい場合に場合には、外形保持領域4の長さL1を1.4mmから1.5mm程度の範囲にするのが好ましいことが判明した。
【0029】
このように、必要な擬毛Gの植設密度に応じて、外形保持領域4の長手方向の長さL1を定める場合には、装着時の位置に適した疑毛Gの植設密度を有する擬毛植設用部材2を得ることができる。
【0030】
1つの擬毛植設用部材2で、各々の外形保持領域4の長さL1を一定にするのが基本である。しかし、1つの擬毛植設用部材2で、1mm以上1.5mm以下の範囲内において、外形保持領域4の長さL1を変化させることもできる。例えば、毛量を増やした領域に配置される場合は、他の領域よりも、外形保持領域4の長さL1を短くすることも考えられる。
【0031】
以上のように、各々の外形保持領域4の長手方向の長さL1が1mm以上1.5mm以下の範囲内にある場合には、容易に疑毛Gを外形保持領4に結び付けることができ、結び付けた疑毛Gのズレを防ぐことができるとともに、疑毛Gを植設した後、外形保持領域4が視認されにくく、適度な疑毛Gの植設密度が得られる。
【0032】
<扁平領域の最適な長さ>
扁平領域6の長さL2についても、様々な長さの擬毛植設用部材2を試作して、各々の外形保持領域4に疑毛Gを結び付けて、結び付けた疑毛Gのズレの可能性を検討し、外観を様々な角度から観察した。その結果、扁平領域6の長さL2も、外形保持領域4の長さL1と同様に、1mm以上1.5mm以下の範囲内にあるのが好ましいということが判明した。
【0033】
扁平領域6の長さL2が1mm未満であると、扁平領域6を介して隣接する外形保持領域4を考えた場合、既に外形保持領域4に結び付けられた疑毛Gと干渉して、次の疑毛Gを隣接する次の外形保持領域4に結び付けるのが困難になることが判明した。一方、外形保持領域4の長さL1が1.5mmを越えると、疑毛Gを植設した後、扁平領域6が視認され易くなる傾向を示した。また、植設する疑毛Gの数が限られる問題も生じることが判明した。
【0034】
扁平領域6の長さL2も外形保持領域4の長さL1と同一な長さとすることにより、植設する疑毛Gの量を調整することができる。つまり、毛量を多くしたい場合には、扁平領域6の長さL2を1mmから1.1mm程度にし、毛量を中程度にしたい場合には、1.2mmから1.3mm程度にし、毛量を少なくしたい場合には、1.4mmから1.5mm程度にすることが考えられる。ただし、これに限られるものではなく、例えば、扁平領域6の長さL2を、1mmから1.5mmの範囲内の一定値として、外形保持領域4の長さL1を変更して毛量を調整することもできる。
【0035】
1つの擬毛植設用部材2で各々の扁平領域6の長さL2を一定にするのが基本である。しかし、1つの擬毛植設用部材2で、1mm以上1.5mm以下の範囲内において、扁平領域6の長さL2を変化させることもできる。例えば、外形保持領4と同様に、毛量を増やした領域に配置される場合について、他の領域よりも、扁平領域6の長さL2を短くすることも考えられる。
【0036】
以上のように、各々の、扁平領域6の長手方向の長さL2が1mm以上1.5mm以下の範囲内にある場合には、容易に疑毛Gを外形保持領4に結び付けることができるとともに、疑毛Gを植設した後、外形保持領域4が視認されにくく、適度な疑毛Gの植設密度が得られる。
【0037】
<扁平領域の最適な最大外縁間距離>
扁平領域6の最大外縁間距離(潰れ幅)Fについても、様々な最大外縁間距離Fを有する擬毛植設用部材2を試作して、各々の外形保持領域4に疑毛Gを結び付けて、結び付けた疑毛Gのズレの可能性を検討し、外観を様々な角度から観察した。
【0038】
その結果、外径が0.297mmのナイロンモノフィラメントでは、最大外縁間距離Fが0.45mmを下回ると、疑毛Gを結び目が少し緩んだ場合、結び目が扁平領域6を乗り越えて移動する可能性が生じた。外径が0.323mmのナイロンモノフィラメントでは、最大外縁間距離Fが0.5mmを下回ると、疑毛Gを結び目が少し緩んだ場合、結び目が扁平領域6を乗り越えて移動する可能性が生じた。
【0039】
つまり、潰れる度合いを示すF/Dが、外径が0.297mmのナイロンモノフィラメントで1.52(=0.45/0.297)を下回った場合、外径が0.323mmのナイロンモノフィラメントで1.55(=0.5/0.323)を下回った場合、結び目が扁平領域6を乗り越えて移動する可能性が生じた。
微小な誤差を考慮すると、疑毛Gを結び目が扁平領域6を乗り越えて移動するのを阻止する観点では、扁平領域6の潰れる度合いを示すF/Dが、1.5以上であることが好ましく、1.6以上であることがより好ましいことが判明した。
【0040】
一方、外径が0.297mmのナイロンモノフィラメントでは、最大外縁間距離Fが0.55mmを越えると、疑毛Gを植設した後、扁平領域6が視認され易くなる傾向を示した。外径が0.323mmのナイロンモノフィラメントでは、最大外縁間距離Fが0.6mmを越えると、疑毛Gを植設した後、扁平領域6が視認され易くなる傾向を示した。
【0041】
つまり、潰れる度合いを示すF/Dが、外径が0.297mmのナイロンモノフィラメントで1.85(=0.55/0.297)を越える場合、外径が0.323mmのナイロンモノフィラメントで1.86(=0.6/0.323)を越えた場合、疑毛Gを植設した後、扁平領域6が視認され易くなる傾向を示した。
微小な誤差を考慮すると、疑毛Gを植設した後、扁平領域6が視認され易くなるのを阻止する観点では、扁平領域6の潰れる度合いを示すF/Dが、1.9以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましいことが判明した。
【0042】
以上をまとめると、外形保持領域4の断面形状における外径をDとし、扁平領域6の断面形状における最大外縁間距離をFとすると、F/Dの値が1.5以上1.9以下の範囲内にあることが好ましく、F/Dの値が1.6以上1.8以下の範囲内にあることがより好ましい。F/Dの値がこのような範囲内にあることにより、疑毛Gの結び目が扁平領域6を乗り越えて移動するのを防ぐとともに、疑毛Gを植設した後、扁平領域6が視認されにくくすることができる。
【0043】
扁平領域6の長さL2は、扁平領域6の最大外縁間距離Fに対して、所定の相関を有する。上記のように、紐状部材の長手方向に進みながら、紐状部材超音波を照射して扁平領域6を形成する。よって、扁平領域6の長さL2は、最大外縁間距離Fの1.5倍程度は必要になると考えられる。また、応力集中回避の観点からも、扁平領域6の長さL2が最大外縁間距離Fの1.5倍以上あるのが好ましいと考えられる。
一方、最大外縁間距離Fに対して、長さL2の値が大きくなり過ぎると、厚みが薄くなった方向への曲げ剛性が小さくなって、十分な強度が得られなくなる虞がある。よって、扁平領域6の長さL2は、最大外縁間距離Fの概ね3倍程度に抑えることが好ましいと考えられる。
【0044】
上記では、扁平領域6の長手方向の長さL2が1mm以上1.5mm以下の範囲内にあるのが好ましく、外径0.297mm及び0.323mmの紐状部材の平均で考えると、最大外縁間距離Fが、0.475以上0.575mm以下の範囲内にあるのが好ましい。扁平領域6の長さL2の最大外縁間距離Fに対する比率であるL2/Fを考えると、1.7(=1mm/0.575mm)以上3.2(=1.5mm/0.475mm)以下の範囲内にあることが好ましい。この範囲は、上記の考察に概ね合致する。
【0045】
以上のように、各々の扁平領域6の長手方向の長さL2が、扁平領域6の最大外縁間距離Fの1.7倍以上3.2倍以下の範囲内にある場合には、確実に扁平領域6を形成できるとともに、十分な強度を有する擬毛植設用部材2を提供できる。
【0046】
更なる確実性を考慮すれば、各々の扁平領域6の長手方向の長さL2が、扁平領域6の最大外縁間距離Fの2倍以上3倍以下の範囲内にあることがより好ましい。
なお、外形保持領域4の長さL1も1mm以上1.5mm以下の範囲内にあるのが好ましいので、同様に、各々の外形保持領域4の長さL1が、扁平領域6の最大外縁間距離Fの1.7倍以上3.2倍以下の範囲内にある場合が好まく、2倍以上3倍以下の範囲内にあることがより好ましいといえる。
【0047】
(擬毛植設用部材の製造方法)
上記のように、熱可塑性樹脂からなる紐状部材を準備する工程と、この紐状部材の長手方向に進みながら超音波を断続的に照射して、超音波が照射されていない外形保持領域4と、超音波が照射された扁平領域6とを交互に形成する工程と、を含む製造方法により、略円形の断面形状が保持された外形保持領域4に結び付けられた擬毛Gの長手方向における移動が、その両側に位置する、略円形の形状が潰れた扁平な断面形状を有する扁平領域6により阻止される擬毛植設用部材2を、非接触で、効率良く、製作精度の高く製造することができる。
【0048】
ただし、扁平領域6を形成する方法は、上記の超音波照射に限られるものではない。例えば、紐状部材を加熱して半溶融状態にして、金型に入れて、外形保持領域4及び扁平領域6が交互に形成された擬毛植設用部材2を製造することもできる。また、加熱で半溶融状態になった紐状部材に流体を当てて、扁平領域6を形成することもできる。
【0049】
(ヘアエクステンション)
上記の実施形態に係る擬毛植設用部材2に擬毛Gが植設することにより、
図3に示すようなヘアエクステンション10が得られる。このヘアエクステンション10においても、容易に擬毛Gを植設することができるとともに、自然な外観を保ちながら植設された擬毛Gの位置ズレを防ぐことができる。
【0050】
(かつらベース)
次に、
図4Aから
図4Dを参照しながら、上記の実施形態に係る擬毛植設部材2を用いたかつらベースの説明を行う。
図4Aは、本発明の1つの実施形態に係る擬毛植設部材を用いたかつらベースの例1を模式的に示す平面図であり、
図4Bは、例2を模式的に示す平面図であり、
図4Cは、例3を模式的に示す平面図であり、
図4Dは、例4を模式的に示す平面図である。
【0051】
図4Aに示す例1及び
図4Bに示す例2では、装着時に分髪部をカバーする面部材22が用いられている。かつらベース20の外縁部24と、面部材22及び外縁部24の間を繋ぐ網状部26とが、上記の実施形態に係る擬毛植設用部材2で構成されている。擬毛植設用部材2で構成された部分には、容易に擬毛Gが植設することができ、植設された擬毛Gにズレが生じる虞もない。
【0052】
図4Cに示す例3及び
図4Dに示す例4では、面部材22を有さず、外縁部24及び網状部26で構成されている。なお、図面で水平方向に延びる固定紐状部28(点線参照)は、外縁部24の間を繋ぐ各々の擬毛植設用部材2(26)の位置を保持するために設けられており、扁平領域6を有さない通常の紐状部材で構成される。
図4Dに示す例4では、分髪部に対応する領域では、擬毛植設用部材2(26)の植設密度が他の領域よりも高くなっている。
上記の実施形態に係る擬毛植設用部材2を備えたかつらベース20においても、容易に擬毛Gを植設することができるとともに、自然な外観を保ちながら植設された擬毛Gの位置ズレを防ぐことができる。
【0053】
本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0054】
2 擬毛植設用部材
4 外形保持領域
6 扁平領域
10 ヘアエクステンション
20 かつらベース
22 面部材
24 外縁部
26 網状部
28 固定紐状部
G 擬毛
【手続補正書】
【提出日】2021-08-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の紐状部材で構成され、前記紐状部材には、
略円形の断面形状が保持された外形保持領域と、略円形の断面形状が潰れた扁平な断面形状を有する扁平領域とが、長手方向において交互に形成されており、
前記紐状部材の断面形状において、前記扁平領域の横に広がった方向の両端が前記外形保持領域の両端より外側に位置し、前記扁平領域の前記横に広がった方向と直交する方向の両端が前記外形保持領域の両端より内側に位置し、
前記外形保持領域に結び付けられた擬毛の長手方向の移動が、両側に位置する前記扁平領域により阻止されることを特徴とする擬毛植設用部材。
【請求項2】
前記外形保持領域の断面形状における外径をDとし、前記扁平領域の断面形状における最大外縁間距離をFとすると、
F/Dの値が1.5以上1.9以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の擬毛植設用部材。
【請求項3】
各々の前記扁平領域の長手方向の長さが、前記扁平領域の最大外縁間距離Fの1.7倍以上3.2倍以下の範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載の擬毛植設用部材。
【請求項4】
各々の前記外形保持領域の長手方向の長さが1mm以上1.5mm以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の擬毛植設用部材。
【請求項5】
必要な擬毛の植設密度に応じて、前記外形保持領の長手方向の長さが定められることを特徴とする請求項4に記載の擬毛植設用部材。
【請求項6】
各々の前記扁平領域の長手方向の長さが1mm以上1.5mm以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の擬毛植設用部材。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の擬毛植設用部材に擬毛が植設されたヘアエクステンション。
【請求項8】
請求項1から6の何れか1項に記載の擬毛植設用部材を備えたかつらベース。
【請求項9】
熱可塑性樹脂からなる紐状部材を準備する工程と、
該紐状部材の長手方向に進みながら超音波を断続的に照射して、超音波が照射されない外形保持領域と、超音波が照射された扁平領域とを交互に形成する工程と、
を含み、
略円形の断面形状が保持された前記外形保持領域に結び付けられた擬毛の長手方向における移動が、その両側に位置する、略円形の形状が潰れた扁平な断面形状を有する前記扁平領域により阻止される擬毛植設用部材の製造方法。