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特開2022-162363光触媒塗布液、光触媒塗布液を変色させる方法及び光触媒塗布液の色の調整方法
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  • 特開-光触媒塗布液、光触媒塗布液を変色させる方法及び光触媒塗布液の色の調整方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162363
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】光触媒塗布液、光触媒塗布液を変色させる方法及び光触媒塗布液の色の調整方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20221017BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20221017BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20221017BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20221017BHJP
   B01J 23/652 20060101ALI20221017BHJP
   B01J 29/076 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D7/63
C09D7/61
B01J35/02 J
B01J23/652 M
B01J29/076 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067161
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】堤之 朋也
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 徳隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武史
(72)【発明者】
【氏名】芝 直樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 喜紀
【テーマコード(参考)】
4G169
4J038
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BA21C
4G169BA36A
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BE14C
4G169CA11
4G169DA05
4G169FC08
4G169HA01
4G169HB06
4G169HD10
4G169HE01
4G169HE12
4G169HF02
4G169ZA01A
4G169ZA01B
4G169ZD01
4G169ZF05A
4G169ZF05B
4J038AA011
4J038HA161
4J038HA566
4J038JB01
4J038JB12
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA09
4J038MA08
4J038NA01
4J038NA03
4J038PA17
4J038PA18
(57)【要約】
【課題】本発明は、赤系色の基材の見た目の色を変化させずに光触媒層を形成することができる光触媒塗布液を提供する。
【解決手段】本発明の光触媒塗布液は、光触媒粒子と、銀イオンと、界面活性剤と、水性分散媒とを含む光触媒塗布液であって、前記光触媒粒子は、酸化タングステンを含み、光を照射することにより、L***表色系において色度a*が大きくなり正の数値となるように前記光触媒塗布液の色が変わることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒粒子と、銀イオンと、界面活性剤と、水性分散媒とを含む光触媒塗布液であって、
前記光触媒粒子は、酸化タングステンを含み、
光を照射することにより、L***表色系において色度a*が大きくなり正の数値となるように前記光触媒塗布液の色が変わることを特徴とする光触媒塗布液。
【請求項2】
前記銀イオンは、銀イオン交換ゼオライトに含まれる銀イオン、銀イオン交換ゼオライトから溶出した銀イオン又は銀化合物が解離することにより生じた銀イオンを含む請求項1に記載の光触媒塗布液。
【請求項3】
前記光触媒塗布液は、20ppm以上200ppm以下の銀イオンを含む請求項1又は2に記載の光触媒塗布液。
【請求項4】
前記界面活性剤は、分子量が100以上10000未満である有機化合物である請求項1~3のいずれか1つに記載の光触媒塗布液。
【請求項5】
前記界面活性剤は、アミン化合物又は脂肪族アミド化合物である請求項1~4のいずれか1つに記載の光触媒塗布液。
【請求項6】
前記光触媒塗布液は、前記光触媒塗布液に対して0.1wt%以上2.0wt%以下の前記界面活性剤を含む請求項1~5のいずれか1つに記載の光触媒塗布液。
【請求項7】
前記光触媒塗布液は、前記光触媒塗布液に対して0.1wt%以上5.0wt%以下の前記光触媒粒子を含む請求項1~6のいずれか1つに記載の光触媒塗布液。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載の光触媒塗布液に光を照射するステップを含む、光触媒塗布液を変色させる方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1つに記載の光触媒塗布液に含まれる銀イオンの含有量を調節するステップ或いは請求項1~7のいずれか1つに記載の光触媒塗布液に照射する光の照射時間を調節するステップを含む、光触媒塗布液の色の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒塗布液、光触媒塗布液を変色させる方法及び光触媒塗布液の色の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒性能を有する酸化タングステン粒子を水に分散させた光触媒分散液が知られている(例えば、特許文献1参照)。この光触媒分散液を基材上に塗布し、塗布膜を乾燥させることにより基材上に光触媒層を形成することができる。この光触媒層の光触媒活性により、光触媒層に付着した汚れを分解することや大気中の有機物質を分解することができる。
酸化タングステンは黄色又は黄緑色をしているため光触媒層も黄色又は黄緑色となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-106025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
白色や黄系色の基材上に光触媒層を形成した場合、光触媒層の形成前後の基材の見た目の色はほとんど変化しない。しかし、黒色、赤色、青色などの基材上に光触媒層を形成した場合、基材の色に光触媒層の黄色又は黄緑色が混色し、光触媒層の形成前後で基材の見た目の色が変化してしまう。
顔料や染料を添加することで光触媒分散液を着色することは可能であるが、顔料や染料の多くは添加することで光触媒の効果を阻害する(塗布液が乾燥し光触媒層が形成されると、光触媒の微粒子が効果を発揮し始めるが、その際に光触媒近傍に存在する顔料や染料をまず分解するため、大気中の有害ガスを分解する効果が薄れると考えられる)。また、基材の色は多種多様であり、現場で基材の色を確認しながら色を調整する必要がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、赤系色の基材の見た目の色を変化させずに光触媒層を形成することができる光触媒塗布液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、光触媒粒子と、銀イオンと、界面活性剤と、水性分散媒とを含む光触媒塗布液であって、前記光触媒粒子は、酸化タングステンを含み、光を照射することにより、L***表色系において色度a*が大きくなり正の数値となるように前記光触媒塗布液の色が変わることを特徴とする光触媒塗布液を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光触媒塗布液は界面活性剤を含むため、光触媒塗布液をスプレー塗布し光触媒層を形成する際に光触媒粒子が凝集することを抑制することができ、品質の高い光触媒層を形成することができる。
本発明の光触媒塗布液に光を照射することにより、L***表色系において色度a*が大きくなり正の数値となるように(赤系色となるように)光触媒塗布液の色が変わる。このことは、本発明者等が行った実験により明らかになった。赤系色の基材の表面に光触媒層を形成する際にこの変色させた光触媒塗布液を用いると、基材の見た目の色を変化させずに光触媒層を形成することができる。また、光触媒塗布液への光照射時間や銀イオン含有量を調節することにより、基材の色に合わせて光触媒塗布液の変色度合を調整することができる。
また、本発明の光触媒塗布液は有機顔料や染料を含まないため、光触媒層が高い光触媒活性を有することができる。また、光触媒層を形成した後において、光触媒粒子の光触媒活性により光触媒層の色が変化することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態の光触媒塗布液の変色方法及び使用方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の光触媒塗布液は、光触媒粒子と、銀イオンと、界面活性剤と、水性分散媒とを含む光触媒塗布液であって、前記光触媒粒子は、酸化タングステンを含み、光を照射することにより、L***表色系において色度a*が大きくなり正の数値となるように前記光触媒塗布液の色が変わることを特徴とする。
【0009】
前記銀イオンは、銀イオン交換ゼオライト(銀イオン担持ゼオライト)に含まれる銀イオン、銀イオン交換ゼオライトから溶出した銀イオン又は銀化合物が解離することにより生じた銀イオンを含むことが好ましい。
前記光触媒塗布液は、20ppm以上200ppm以下の銀イオンを含むことが好ましい。銀イオン濃度を20ppm以上とすることにより、光触媒塗布液の変色効果を大きくすることができる。また、銀イオン濃度を200ppm以下とすることにより、ゼオライトが沈殿することを抑制することができる。
【0010】
前記界面活性剤は、分子量が100以上10000未満である有機化合物であることが好ましい。界面活性剤の分子量が小さすぎると、噴霧された液滴の揮発性が高くなり、液滴が基材と接触する前に空中で乾燥し固体となるため白化防止効果が低下する。また、界面活性剤の分子量が大きすぎると、塗布後に光触媒は身近な有機物を主に分解対象とするため周囲の界面活性剤を分解することに時間を要し、塗布直後は光触媒が空気中のにおい成分の分解に対して効果を発揮する速度が遅くなってしまう。
前記界面活性剤は、アミン化合物又は脂肪族アミド化合物であることが好ましい。
【0011】
前記光触媒塗布液は、光触媒塗布液に対して0.1wt%以上2.0wt%以下の界面活性剤を含むことが好ましい。光触媒塗布液が0.1wt%以上の界面活性剤を含むことにより、光触媒粒子が凝集することを抑制することができ、かつ、光触媒塗布液の変色効果を大きくすることができる。光触媒塗布液が2.0wt%以下の界面活性剤を含むことにより、界面活性剤が光触媒層の光触媒活性を阻害することを抑制することができる。
前記光触媒塗布液は、光触媒塗布液に対して0.1wt%以上5.0wt%以下の光触媒粒子を含むことが好ましい。光触媒塗布液が0.1wt%以上の光触媒粒子を含むことにより、光触媒層の光触媒活性を大きくすることができる。光触媒塗布液が5.0wt%以下の光触媒粒子を含むことにより、光触媒粒子が凝集し光触媒層が白化することを抑制することができる。
【0012】
本発明は、本発明の光触媒塗布液に光を照射するステップを含む、光触媒塗布液を変色させる方法も提供する。この方法により、光触媒塗布液を赤系色に変色させることができる。
本発明は、本発明の光触媒塗布液に含まれる銀イオンの含有量を調節するステップ或いは本発明の光触媒塗布液に照射する光の照射時間を調節するステップを含む、光触媒塗布液の色の調整方法も提供する。この方法により、基材の色に合わせて光触媒塗布液の変色度合いを調整することができる。
【0013】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0014】
図1は、本実施形態の光触媒塗布液の変色方法及び使用方法の説明図である。
本実施形態の光触媒塗布液2a、2bは、光触媒粒子と、銀イオンと、界面活性剤と、水性分散媒とを含む光触媒塗布液であって、前記光触媒粒子は、酸化タングステンを含み、光を照射することにより、L***表色系において色度a*が大きくなり正の数値となるように光触媒塗布液の色が変わることを特徴とする。
【0015】
光触媒塗布液2a、2bは、水性分散媒に光触媒粒子が分散した分散液であり、溶質として銀イオンと界面活性剤とを含む。また、光触媒塗布液2a、2bは、基材7a、7bの表面に塗布法により塗布される分散液である。塗布法は、特に限定されないが、例えば、浸漬塗布法、スプレーコーティング、スクリーン印刷法、スピンコート法、刷毛塗り、ロールコート等である。
基材7a、7bは、例えば、例えば、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、木、石、セメント、コンクリート、繊維、フィルター、布帛、紙、皮革などである。
【0016】
水性分散媒は、主成分として水を含む。また、水性分散媒は、水とアルコールとの混合液であってもよい。
光触媒粒子は、光触媒活性を有する粒子であり、酸化タングステン(WO3)を含む。酸化タングステン粒子(WO3粒子)は、光触媒活性を有すれば、化学量論的組成からずれた組成を有する酸化タングステン粒子であってもよい。また、酸化タングステン粒子は、光触媒活性を失わない範囲で、不純物原子や添加原子を含んでもよい。また、光触媒微粒子はその表面に助触媒を有してもよい。助触媒は、例えば、Pt、Pd、Rh、Ru、Os、Irのような白金族金属を含む。
【0017】
光触媒粒子(一次粒子)の平均粒径(メディアン径D50、累積分布50vol%の時の粒子径)は、1nm以上500nm以下であることが好ましく、さらに5nm以上200nm以下であることが好ましい。また、光触媒粒子の二次粒径は100nm以上1000μm以下であることが好ましい。粒子径測定は、BET比表面積計やレーザ回折式粒度分布計や動的光散乱式粒度分布計等によって測定することができる。
光触媒塗布液2a、2bは、光触媒塗布液に対して0.1wt%以上5.0wt%以下の光触媒粒子を含むことができる。光触媒塗布液2a、2bが0.1wt%以上の光触媒粒子を含むことにより、光触媒層の光触媒活性を大きくすることができる。光触媒塗布液2a、2bが5.0wt%以下の光触媒粒子を含むことにより、光触媒粒子が凝集し光触媒層が白化することを抑制することができる。
【0018】
界面活性剤は、高い界面活性を示す物質である。また、界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であってもよい。界面活性剤は、分散剤及び帯電防止剤として機能させることができる。また、界面活性剤は、水への溶解性を有する。光触媒塗布液2a、2bが界面活性剤を含むことにより、分散媒中において光触媒粒子を安定的に分散させることができる。このことにより、均質な光触媒層を形成することができる。また、界面活性剤は光触媒塗布液2a、2bをスプレー噴霧した際に液滴や空中で乾燥した光触媒粒子が過剰に帯電することを防ぐことで、噴霧範囲に静電気が帯電しているものに対して過剰に集中付着し、付着面が白く白化することを防止する。
【0019】
界面活性剤は、例えば、アミン化合物又は脂肪族アミド化合物である。このことにより、光触媒塗布液2aに光を照射することにより光触媒塗布液2aを赤系色に変色させることが可能になる。界面活性剤は、例えば、高分子アミン化合物、ポリオキシエチレンアルキルアミンである。また、界面活性剤は、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンであってもよい。
また、界面活性剤は、分子量が100以上10000未満の有機化合物であることが好ましく、分子量が100以上1000未満の有機化合物であることがより好ましい。界面活性剤の分子量が小さすぎると、噴霧された液滴の揮発性が高くなり、液滴が基材7a、7bと接触する前に空中で乾燥し固体となるため白化防止効果が低下する。また、界面活性剤の分子量が大きすぎると、塗布後に光触媒は身近な有機物を主に分解対象とするため周囲の界面活性剤を分解することに時間を要し、塗布直後は光触媒が空気中のにおい成分の分解に対して効果を発揮する速度が遅くなってしまう。
【0020】
光触媒塗布液2a、2bは、光触媒塗布液に対して0.1wt%以上2.0wt%以下の界面活性剤を含むことが好ましく、0.3wt%以上1.5wt%以下の界面活性剤を含むことがより好ましい。光触媒塗布液2a、2bが0.1wt%以上の界面活性剤を含むことにより、光触媒粒子が凝集することを抑制することができ、かつ、光触媒塗布液2a、2bの変色効果を大きくすることができる。光触媒塗布液2a、2bが2.0wt%以下の界面活性剤を含むことにより、界面活性剤が光触媒層の光触媒活性を阻害することを抑制することができる。
【0021】
光触媒塗布液2a、2bに含まれる銀イオンは、銀イオン交換ゼオライト(銀イオン担持ゼオライト)に含まれる銀イオン、銀イオン交換ゼオライトから溶出した銀イオン又は銀化合物が解離することにより生じた銀イオンを含んでもよい。銀イオン交換ゼオライトは、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部又は全部が銀イオンで置換されているゼオライトであり、例えば、「ゼオミック」(登録商標、株式会社シナネンゼオミック)である。ゼオライトに担持された銀イオンを使用することで、銀イオンの溶出速度を遅くし生産時の光による変色を防止することができる。
光触媒塗布液2a、2bに含まれる銀イオンは、硝酸銀などの銀化合物が分散媒に溶解し解離することにより生じたものであってもよい。
光触媒塗布液2a、2bは、20ppm以上200ppm以下の銀イオンを含むことが好ましく、80ppm以上200ppm以下の銀イオンを含むことがより好ましい。銀イオン濃度を20ppm以上とすることにより、光触媒塗布液2a、2bの変色効果を大きくすることができる。また、銀イオン濃度を200ppm以下とすることにより、ゼオライトや光触媒粒子が沈殿することを抑制することができる。
【0022】
光触媒塗布液2a(光照射前)は、塗布液2aに光を照射することにより、L***表色系において色度a*が大きくなり正の数値となるように(赤系色となるように)光触媒塗布液の色が変わり、光触媒塗布液2b(光照射後)となる。このことは、本願発明者等が行った実験により明らかになった。光触媒塗布液に光を照射すると赤系色に変色する理由は明らかではないが、光触媒塗布液2aに光があたることで光触媒塗布液2a中の光触媒が界面活性剤を分解する。界面活性剤の分解物はゼオライトから溶け出した銀イオンと反応し、赤褐色の酸化銀を生成する。液中で光触媒と界面活性剤と銀イオンが存在しかつ光があたることで光触媒塗布液2aの変色は発生し、どれか一つが欠けると変色は発生しない。また、この赤系色に変化した光触媒塗布液2bを用いて形成した光触媒層も赤系色となり、光触媒層が形成された後も赤系色が維持される。
【0023】
赤系色は、例えば、赤色、ピンク、赤褐色、朱色、桜色などである。また、光触媒塗布液2bの色は、酸化タングステンの色である黄色又は黄緑色と、赤系色との混合色であってもよい。
また、光触媒塗布液2aの色は、L***表色系の測色計を用いて測定することができる。L***表色空間(CIEL***、CIELAB)は、物体の色を表すために一般的に使用されている表色系であり、+a*は赤方向を示し、-a*は緑方向を示し、+b*は黄方向を示し、-b*は青方向を示し、L*は明度を示す。
また、光触媒塗布液2aに照射する光は、酸化タングステン粒子に光触媒活性が生じるような波長の光とすることができ、自然光であってもよく、LED光であってもよく、蛍光灯の光であってもよい。また、基材7bの色に合わせて、光触媒塗布液への光照射時間を調節することにより、光触媒塗布液2bの色合いを調整することができる。光照射時間が長いほど光触媒塗布液2bの赤みは強くなる。また、光触媒塗布液2aに含まれる銀イオンの量を調節することにより、光照射後の光触媒塗布液2bの色合いを調整することもできる。光触媒塗布液2aに含まれる銀イオンの量が多いほど光触媒塗布液2bの赤みは強くなる。
【0024】
図1を用いて、光触媒塗布液2a、2bの変色方法及び使用方法を説明する。
調製した光触媒塗布液2aは、酸化タングステンの色である黄色又は黄緑色を薄くした色(淡黄色)を有しており、遮光容器4中で保存される。このことにより、意図せず光触媒塗布液2aが変色することを抑制することができる。
白色又は黄系色の基材7aの表面に光触媒層を形成する場合、光触媒塗布液2aを変色させずにハンドスプレー8を用いて基材7aの表面にスプレー塗布し、塗布層を形成する。塗布層が乾燥すると、基材7aの表面に光触媒層が形成される。光触媒層は、黄色又は黄緑色を薄くした色を有しており、基材7aの色に近い色であり、基材7aの見た目の色をほとんど変化させない。また、光触媒層が形成された後は、光触媒層に光が照射されても光触媒層の色はほとんど変化しない。
【0025】
赤系色の基材7bの表面に光触媒層を形成する場合、光触媒塗布液2aを透明容器5に入れ、透明容器5中の光触媒塗布液2aに光(例えば、LED光)を照射する。このことにより、光触媒塗布液2aは、赤系色に変色し光触媒塗布液2bとなる。光照射時間は例えば、2時間以上5時間以下とすることができる。この光照射時間は、光触媒層が適切な色となるように、基材7bの色に応じて調節することができる。光照射時間が長いほど赤みが強くなる。そして、光照射後の光触媒塗布液2bをハンドスプレー8を用いて基材7bの表面にスプレー塗布し、塗布層を形成する。塗布層が乾燥すると、基材7bの表面に光触媒層が形成される。光触媒層は、赤系色を薄くした色を有しており、基材7bの色に近い色であり、基材7bの見た目の色をほとんど変化させない。また、光触媒層が形成された後は、光触媒層の赤系色は維持される。
従って、基材の色に応じて光照射の有無や光照射時間などを調整した光触媒塗布液2a、2bを用いて光触媒層を形成することにより、基材7a、7bの見た目の色をほとんど変化させずに光触媒層を形成することができる。
【0026】
光触媒塗布液2aは、まず光触媒微粒子を水に微分散をさせ(必要であれば、合わせて分散剤を加える)、次に界面活性剤を混合し、次にゼオライトに担持した銀イオンを混合することにより製造することができる。光触媒微粒子を水に分散させる方法としては、一般的には湿式の分散機を用いて実施することができ、その分散機としては、例えば、超音波分散機、コロイドミル及びビーズミルなどが挙げられる。
混合は、一般的な液体混合機であればよい。撹拌羽根等が付属しているものであれば、光触媒塗布液2aの組成をより均一にすることができる。
【0027】
塗布液の調製
[実施例1]
体積平均粒径D50=200nmの酸化タングステン粒子(光触媒粒子)を21wt%の割合で水に分散させた光触媒スラリー2.3gと、水97.1gと、日油株式会社製エスリーム(登録商標)AD-3172(界面活性剤)0.5gと、ゼオライト粒子に銀イオンを1.5wt%担持した複合剤100mgとを混合し、塗布液100mlを調製した。この塗布液に含まれる銀イオンの量は、1.5mg(150ppm)である。エスリームAD-3172(高分子界面活性剤)は、高分子アミン化合物であり、水への溶解性を有する。
【0028】
[実施例2]
塗布液に含まれる銀イオンの量が0.25mg(25ppm)としたこと以外は、実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0029】
[実施例3]
塗布液に含まれる銀イオンの量が2.0mg(200ppm)としたこと以外は、実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0030】
[実施例4]
界面活性剤として、1gの花王株式会社製アミート(登録商標)320を用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。アミート320(非イオン性界面活性剤)は、ポリオキシエチレンアルキルアミンである。
【0031】
[実施例5]
光触媒スラリーの添加量を0.5gとしたこと及びエスリームAD-3172(界面活性剤)の添加量を0.1gとしてこと以外は、実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0032】
[実施例6]
光触媒スラリーの添加量を23.8gとしたこと及びエスリームAD-3172(界面活性剤)の添加量を1.0gとしたこと以外は、実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0033】
[実施例7]
エスリームAD-3172(界面活性剤)の添加量を0.01gとしたこと以外は、実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0034】
[実施例8]
エスリームAD-3172(界面活性剤)の添加量を2.0gとしたこと以外は、実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0035】
[実施例9]
光触媒スラリーの添加量を0.23gとしたこと以外は、実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0036】
[実施例10]
光触媒スラリーの添加量を46gとしたこと以外は、実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0037】
[実施例11]
界面活性剤として、1gの花王株式会社製アミート102を用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。アミート102(非イオン性界面活性剤)は、ポリオキシエチレンアルキルアミンである。
【0038】
[実施例12]
界面活性剤として、1gの花王株式会社製アミート105を用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。アミート105(非イオン性界面活性剤)は、ポリオキシエチレンアルキルアミンである。
【0039】
[実施例13]
界面活性剤として、1gの花王株式会社製アミート302を用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。アミート302(非イオン性界面活性剤)は、ポリオキシエチレンアルキルアミンである。
【0040】
[実施例14]
界面活性剤として、1gの花王株式会社製アミート308を用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。アミート308(非イオン性界面活性剤)は、ポリオキシエチレンアルキルアミンである。
【0041】
[実施例15]
界面活性剤として、1gのポリソルベート20を用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。ポリソルベート20(非イオン性界面活性剤)は、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンであり、水への溶解性を有する。
【0042】
[実施例16]
複合剤(銀イオン)の添加量を6.6mg(銀イオン:0.1mg)としたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0043】
[実施例17]
複合剤(銀イオン)の添加量を200mg(銀イオン:3mg)としたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0044】
[実施例18]
界面活性剤として、1gの日油株式会社製マリアリム(登録商標)AKM-0531を用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。マリアリムAKM-0531(高分子界面活性剤)は、高分子ポリカルボン酸であり、水への溶解性を有する。
【0045】
[実施例19]
エスリームAD-3172(界面活性剤)の添加量を2.2gとしたこと以外は、実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0046】
[実施例20]
塗布液に含まれる銀イオンの量が1.0mg(100ppm)としたこと以外は、実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0047】
[比較例1]
光触媒粒子を添加していないこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0048】
[比較例2]
複合剤(銀イオン)を添加していないこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0049】
[比較例3]
界面活性剤を添加していないこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0050】
[比較例4]
複合剤(銀イオン)を添加していないこと及びシャチハタ補充インクXLR-20Nを20g添加したこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0051】
塗布液の評価
実施例1~20の塗布液及び比較例1~4の塗布液の評価を行った。評価方法を以下に示す。また、評価結果を表1に示す。なお、表1において、「◎」は「とても良好」を表し、「○」は「良好」を表し、「△」はやや不良を表し、「×」は不良を表す。
【0052】
【表1】
【0053】
[分散性]
調製した塗布液を十分撹拌した後、静置し、凝集沈殿が生じるか否かを観察した。表1において、1日間で粒子が凝集沈殿した塗布液の評価を「×」で示し、3日間で粒子が凝集沈殿した塗布液の評価を「△」で示し、1週間で粒子が凝集沈殿した塗布液の評価を「○」で示し、1ヶ月以上粒子が凝集沈殿しない塗布液の評価を「◎」で示した。凝集沈殿は、透明容器底に堆積物があるかを目視で判断した。
【0054】
[初期光触媒性能]
セルロース生地(125mm×125mm)に調製した塗布液2gをスポイドを使用してまんべんなく滴下した。上記セルロース生地を40℃の送風乾燥機で乾燥させ、4500luxの青色LED光を48時間プレ照射することにより試験用サンプルを形成した。次に1Lの透明なガスバック内に上記試験用サンプルを投入し、100ppmのアセトアルデヒドガスを投入した。4500luxの青色LEDの光を上記ガスバッグ内の試験用サンプルに5時間照射した後、ガスバッグ内のアセトアルデヒドガス濃度を検知管にて測定した。(ガス残存率)=(5時間照射後のガス濃度)/(初期ガス濃度100ppm)より、ガスの残存率を計算し評価した。
表1において、ガス残存率が5%未満であった測定で用いた塗布液の評価を「◎」で示し、ガス残存率が5%以上20%未満であった測定で用いた塗布液の評価を「○」で示し、ガス残存率が20%以上50%未満であった測定で用いた塗布液の評価を「△」で示し、ガス残存率が50%以上であった測定で用いた塗布液の評価を「×」で示した。
【0055】
[変色効果]
1000luxの白色LEDの光を調製した塗布液に2時間照射して、照射後の塗布液の色をコニカミノルタ社製分光測色計CM-600dで測定した。
表1において、色度a*が2以上であった測定で用いた塗布液の評価を「◎」で示し、色度a*が0以上2未満であった測定で用いた塗布液の評価を「○」で示し、色度a*が-2以上0未満であった測定で用いた塗布液の評価を「△」で示し、色度a*が-2未満であった測定で用いた塗布液の評価を「×」で示した。
【0056】
[白化]
エアゾール容器に、調製した塗布液とジメチルエーテル(液化ガス)とを充填し、光触媒スプレーを作製した。また、室内長×室内幅×室内高=容積3.6m3の室を準備した。ポリカシート(ポリカーボネートシート)(厚み0.5mm、φ50mm)を布等で擦り、静電気測定器で測定しながらポリカシート表面を+10kVに帯電させ、室前方(空間の長手方向前半分)に設置した。
室内中央の床に作製した光触媒スプレーを設置して、設置位置でスプレーボタンをロック、噴射開始して室の扉を閉じた。噴射終了後は5分間そのままの状態で成分を室内に定着させた。このようにして、ポリカシートの表面をコーティングする光触媒層を形成した。その後、室の扉を開け、ポリカシートを取り出し、真上と斜めから表面を観察して白化の有無を確認した。ここでいう白化とは、スプレーを噴霧した際に、塗布液に含まれる粒子(光触媒粒子又はゼオライト粒子)がポリカシート表面の帯電と噴霧成分の凝集によって反射し、付着成分(光触媒層)が白く見える現象を指す。
【0057】
表1において、ポリカシート表面に形成された付着成分(光触媒層)をどこから見ても白く見えなかった場合に用いた塗布液の評価を「◎」で示し、ポリカシート表面に形成された付着成分(光触媒層)を斜めから見ると白く見えたが、正面から見ると白く見えなかった場合に用いた塗布液の評価を「○」で示し、ポリカシート表面に形成された付着成分(光触媒層)を正面から見ると白く見える凝集体が10個未満存在した場合に用いた塗布液の評価を「△」で示し、ポリカシート表面に形成された付着成分(光触媒層)を正面から見ると白く見える凝集体が10個以上存在した場合に用いた塗布液の評価を「×」で示した。
【0058】
[総合評価]
表1において、すべての評価が「◎」であった塗布液の総合評価を「◎」で示し、評価「×」と「△」が無く、評価「〇」が1つ以上存在する塗布液の総合評価を「○」で示し、評価「×」が無く、評価「△」が1以上存在する塗布液の総合評価を「△」で示し、評価「×」が1つ以上存在する塗布液の総合評価を「×」で示した。
【符号の説明】
【0059】
2a:光触媒塗布液(光照射前) 2b:光触媒塗布液(光照射後) 4:遮光容器 5:透明容器 6a、6b:蓋 7a:基材(表面が白色又は黄系色) 7b:基材(表面が赤系色) 8:ハンドスプレー
図1