(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162386
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】III族窒化物結晶の製造方法及びIII族窒化物結晶
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20221017BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20221017BHJP
C30B 25/10 20060101ALI20221017BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C23C16/34
C30B25/10
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067209
(22)【出願日】2021-04-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、環境省、令和2年度未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業(高品質GaN基板を用いた超高効率GaNパワー・光デバイスの技術開発とその実証)委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】森 勇介
(72)【発明者】
【氏名】吉村 政志
(72)【発明者】
【氏名】今西 正幸
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 茂佳
(72)【発明者】
【氏名】北本 啓
(72)【発明者】
【氏名】滝野 淳一
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
4G077BE15
4G077DB03
4G077DB04
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5F045AA03
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5F045EC09
5F045EE07
5F045EF02
5F045EF09
5F045EK06
(57)【要約】
【課題】III族窒化物基板を製造する際の材料ロスを低減しうると共に、高品質のIII族窒化物結晶を製造するIII族窒化物結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】III族窒化物結晶の製造方法は、種基板を準備する工程と、種基板の表面荒れを形成する工程と、III族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを供給して、種基板の上にIII族窒化物結晶を成長させる工程と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
種基板を準備する工程と、
前記種基板の表面荒れを形成する工程と、
III族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを供給して、前記種基板の上にIII族窒化物結晶を成長させる工程と、
を含む、
III族窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記種基板の表面荒れを形成する工程は、前記III族窒化物結晶を成長させる前の900℃以上1500℃未満の昇温過程において実施される、
請求項1に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
III族窒化物結晶であって、
表面研磨後の平滑な表面において、複数の花弁状発光領域と、複数の転位欠陥と、を有し、
前記花弁状発光領域の数は、前記転位欠陥の数よりも多い、
III族窒化物結晶。
【請求項4】
前記花弁状発光領域は、フォトルミネッセンスによって確認できると共に、前記転位欠陥は、アルカリ融液エッチング後の表面光学顕微鏡像で確認できる、請求項3に記載のIII族窒化物結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物結晶の製造方法及びこの製造方法によって製造されたIII族窒化物結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN等のIII族窒化物結晶は、高出力LED(発光ダイオード)及びLD(レーザーダイオード)等の次世代光デバイスや、EV(電気自動車)及びPHV(プラグインハイブリッド自動車)等に搭載される高出力パワートランジスタ等の次世代電子デバイスへの応用が期待されている。III族窒化物結晶の製造方法として、III族酸化物を原料とするOxide Vapor Phase Epitaxy(OVPE)法が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。OVPE法における反応系の例は、以下に示す通りである。Gaを加熱し、この状態で、H2Oガスを導入する。導入されたH2Oガスは、Gaと反応して、Ga2Oガスを生成させる(下記式(I)参照。)。そして、NH3ガスを導入し、生成されたGa2Oガスと反応させて、種基板上にGaN結晶を生成する(下記式(II)参照。)。
2Ga(l)+H2O(g)→Ga2O(g)+H2(g)・・・(I)
Ga2O(g)+2NH3(g)→2GaN(s)+H2O(g)+2H2(g)・・・(II)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、転位欠陥を起点とした領域からは、{10-1n}や{11-2m}を主面とした六角又は十二角の逆錘ピラミッド状のピットが発生するが、それ以外の領域からのピットは発生しにくい。そのため、転位密度が低く高品質な種基板を用いた場合には、転位欠陥が少ないことで、転位欠陥を起点とした領域に発生するピットの数が少なくなり、III族窒化物結晶の成長層で発生するピットの密度が小さくなってしまう。
【0005】
ピット密度が小さい場合、成長したIII族窒化物結晶の表面の凹凸は大きくなりやすい。すなわち、一つ一つのピットサイズは大きくなりやすい。このため、格子面(0001)を主面とする種基板上に、III族窒化物結晶を成長させた場合、そのtilt成分の配向性が低下するおそれがある。tilt成分の配向性とは、例えば格子面(0001)を主面とする結晶の場合、(0001)面の歪みのことである。転位欠陥に起因するピット密度が小さい場合と大きい場合のtilt成分の配向性の概念図を
図1に示す。
図1(a)は、低転位密度基板上の成長結晶の転位欠陥と格子面の歪みとの関係を表す断面概念図である。
図1(b)は、高転位密度基板上の成長結晶の転位欠陥と格子面の歪みとの関係を表す断面概念図である。
図1(a)及び(b)に示すように、低転位密度基板上の成長結晶は、格子面の歪みが大きくなりやすく、tilt成分の配向性が低くなる。
【0006】
また、成長したIII族窒化物結晶からIII族窒化物基板を作製し、III族窒化物基板上にデバイス作製する場合、III族窒化物基板上にIII族窒化物結晶のデバイス層を形成する。このIII族窒化物結晶のデバイス層は、III族窒化物基板の配向性の影響を受ける。したがって、III族窒化物基板のtilt成分の配向性が低い場合、III族窒化物結晶のデバイス層の配向性も低くなる。デバイス層のtilt成分の配向性が低い場合、デバイス駆動させた場合、デバイスの性能が十分に発揮できない場合がある。すなわち、高品質のIII族窒化物結晶を得るためには、tilt成分の配向性を高める必要がある。
【0007】
また、ピットの密度が小さいと、上述の
図1(a)に示すように、成長したIII族窒化物結晶の表面の凹凸は大きくなりやすい。成長したIII族窒化物結晶からウェハを切り出す場合、一般的に、この表面凹凸を取り除く必要があるため、表面凹凸が大きいと、成長したIII族窒化物結晶のうち取り除くべき部分が多くなるおそれがある。すなわち、種基板の転位密度が低いほど、III族窒化物結晶からIII族窒化物基板を作製する際の材料ロスが大きくなるという問題がある。一方、
図1(b)に示すように高転位密度の種基板を用いると表面の凹凸は小さくなり、取り除くべき部分は少なくなるが、この場合には高転位密度を有するため低品質となる。このようにIII族窒化物基板を製造する際の材料ロスを低減し、かつ、高品質のIII族窒化物結晶を製造することは容易ではない。
【0008】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、III族窒化物基板を製造する際の材料ロスを低減しうると共に、高品質のIII族窒化物結晶を得るための製造方法及びIII族窒化物基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のIII族窒化物結晶の製造方法は、種基板を準備する工程と、前記種基板の表面荒れを形成する工程と、III族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを供給して、前記種基板の上にIII族窒化物結晶を成長させる工程と、を含む。
【0010】
本開示のIII族窒化物結晶は、表面研磨後の平滑な表面において、複数の花弁状発光領域と、複数の転位欠陥と、を有する。この花弁状発光領域の数は、転位欠陥の数よりも多い。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係るIII族窒化物結晶の製造方法によれば、III族窒化物基板を製造する際の材料ロスを低減しうると共に、高品質のIII族窒化物結晶を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)は、低転位密度基板上の成長結晶の転位欠陥と格子面の歪みとの関係を表す断面概念図であり、(b)は、高転位密度基板上の成長結晶の転位欠陥と格子面の歪みとの関係を示す断面概念図である。
【
図2】(a)は、本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の時系列の製造方法を示すフローチャートであり、(b)は、本製造方法で用いる製造装置内の上流から下流に向けての各機能単位を工程として示した際のフローチャートである。
【
図3】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法に用いられるIII族窒化物結晶の製造装置の断面構成を示す概略断面図である。
【
図4】(a)は、III族窒化物結晶の製造方法において、表面荒れ形成工程がない場合の表面凹凸との関係を示す断面概念図であり、(b)は、III族窒化物結晶の製造方法において、表面荒れ形成工程がある場合の表面凹凸との関係を示す断面概念図である。
【
図5】実施例と比較例の(a)ピット密度、(b)ピット深さ、(c)(0002)面のX線ロッキングカーブ半値幅を表すグラフである。
【
図6】表面荒れ形成工程を経て製造されたGaN結晶の表面平滑後の(a)表面光学顕微鏡像と(b)フォトルミネッセンス像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1の態様に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、種基板を準備する工程と、種基板の表面荒れを形成する工程と、III族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを供給して、種基板の上にIII族窒化物結晶を成長させる工程と、を含む。
【0014】
第2の態様に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、上記第1の態様において、種基板の表面荒れを形成する工程は、III族窒化物結晶を成長させる前の900℃以上1500℃未満の昇温過程において実施されてもよい。
【0015】
第3の態様に係るIII族窒化物結晶は、III族窒化物結晶であって、表面研磨後の平滑な表面において、複数の花弁状発光領域と、複数の転位欠陥と、を有し、花弁状発光領域の数は、転位欠陥の数よりも多い。
【0016】
第4の態様に係るIII族窒化物結晶は、上記第3の態様において、前記花弁状発光領域は、フォトルミネッセンスによって確認できると共に、前記転位欠陥は、アルカリ融液エッチング後の表面光学顕微鏡像で確認できてもよい。
【0017】
以下、実施の形態に係るIII族窒化物結晶の製造方法及びIII族窒化物結晶について、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0018】
(実施の形態1)
<III族窒化物結晶の製造装置の概要>
まず、本実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法に用いられるIII族窒化物結晶の製造装置の概要を、
図3を参照して説明する。
図3は、III族窒化物結晶の製造装置10の断面構成を示す概略断面図である。
図3において、各構成部材の大きさ、比率等は実際とは異なる場合がある。
III族窒化物結晶の製造装置10は、原料チャンバ100と育成チャンバ110とを有する。原料チャンバ100内には、原料反応室101が配置されており、原料反応室101内に出発III族元素源105を載置した原料ボート104が配置されている。原料反応室101には、出発III族元素源105と反応するガスを供給する反応性ガス供給管103が接続されている。原料反応室101は、生成されたIII族元素酸化物ガスを排出するIII族元素酸化物ガス排出口107を有する。出発III族源が酸化物の場合は、反応性ガスとして還元性ガスを用いる。出発III族源が金属の場合は、反応性ガスとして酸化性ガスを用いる。
【0019】
また原料チャンバ100には、第1搬送ガスが供給される第1搬送ガス供給口102が接続されている。第1搬送ガス供給口102から供給された第1搬送ガスと、III族元素酸化物ガス排出口107から排出されたIII族元素酸化物ガスとが、ガス排出口108から接続管109を通過し育成チャンバ111へと流れる。第1搬送ガスとIII族元素酸化物ガスとは、育成チャンバ111に接続されたガス供給口118から育成チャンバ111内へ供給される。
【0020】
育成チャンバ111は、ガス供給口118と、第3搬送ガス供給口112、と窒素元素含有ガス供給口113と、第2搬送ガス供給口114と、排気口119とを有する。育成チャンバ111は、種基板116を設置する基板サセプタ117を備える。
【0021】
<III族窒化物結晶の製造方法の概要>
本実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法の概要を、
図2のフローチャート及び
図3を参照して説明する。
図2(a)は、製造方法の時系列のフローチャートを示したものである。
図2(b)は本製造方法で用いる製造装置内の上流から下流に向けての各機能単位を工程として示したものである。このIII族窒化物結晶の製造方法は、種基板を準備する工程と、種基板の表面荒れを形成する工程と、III族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを供給して、種基板の上にIII族窒化物結晶を成長させる工程と、を含む。
【0022】
以下に、時系列に沿って順に各工程を説明する。
(0)種基板116を準備する種基板準備工程では、基板サセプタ117上に種基板116を載置する。
(1)本実施の形態1では、III族窒化物結晶の製造方法は、昇温工程を有する。昇温工程では、不活性ガス雰囲気で育成チャンバ111を100℃以上500℃未満まで昇温する。
(2)本実施の形態1では、III族窒化物結晶の製造方法は、分解保護昇温工程を有する。分解保護昇温工程では、NH3ガス雰囲気で育成チャンバ111を500℃以上1000℃未満まで昇温する。
【0023】
(3)種基板116の表面荒れを形成する表面荒れ形成工程では、NH3ガス雰囲気で育成チャンバ111を900℃以上1500℃未満まで昇温する。
【0024】
(4)種基板116にIII族窒化物結晶を成長させる成長工程では、原料チャンバ100でIII族元素酸化物ガスを生成し育成チャンバ111へ供給するとともに、窒素元素含有ガスを育成チャンバ111へ供給し、種基板116上でIII族窒化物結晶の生成を行う。
【0025】
この成長工程は、
図2(b)に示すように、反応性ガス供給工程、III族元素酸化物ガス生成工程、III族元素酸化物ガス供給工程、窒素元素含有ガス供給工程、III族窒化物結晶生成工程、及び残留ガス排出工程を有する。なお、成長工程に含まれる各工程は、III族窒化物結晶の製造装置内において同時に行われていてもよい。
(4-1)反応性ガス供給工程では、反応性ガスを原料反応室へ供給する。
(4-2)III族元素酸化物ガス生成工程では、出発III族元素源と反応性ガス(出発III族元素源が酸化物の場合は還元性ガス、金属の場合は酸化性ガス)とを反応させ、III族元素酸化物ガスを生成する。
(4-3)III族元素酸化物ガス供給工程では、III族元素酸化物ガス生成工程で製造されたIII族元素酸化物ガスを育成チャンバへ供給する。
(4-4)窒素元素含有ガス供給工程では、窒素元素含有ガスを育成チャンバへ供給する。
(4-5)III族窒化物結晶生成工程では、III族元素酸化物ガス供給工程で育成チャンバ内へ供給されたIII族元素酸化物ガスと、窒素元素含有ガス供給工程で育成チャンバ内へ供給された窒素元素含有ガスとを反応させ、III族窒化物結晶を種基板上に成長させる。
(4-6)残留ガス排出工程では、III族窒化物結晶の生成に寄与しない未反応のガスをチャンバ外に排出する。
【0026】
(5)本実施の形態1では、III族窒化物結晶の製造方法は、分解保護降温工程を有する。分解保護降温工程では、種基板116上に成長したIII族窒化物結晶の分解を抑制するために、NH3ガスを供給しながら原料チャンバ100及び育成チャンバ111の温度を500℃まで降温する。
(6)本実施の形態1では、III族窒化物結晶の製造方法は、降温工程を有する。降温工程では、不活性ガス雰囲気で原料チャンバ100及び育成チャンバ111の温度を100℃未満まで降温する。
(7)本実施の形態1では、III族窒化物結晶の製造方法は、取出し工程を有する。取出し工程では、III族窒化物結晶が成長した種基板116を育成チャンバ111から取出す。
【0027】
<III族窒化物結晶の製造方法、及び製造装置の詳細>
図2及び
図3を参照し、本実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法を詳細に説明する。
本実施の形態1では、出発III族元素源105として金属Gaを用いたがこれに限られず、例えば、AlやInを用いてもよい。
(0)まず、種基板116を準備する。種基板116として、例えば、窒化ガリウム、ガリウム砒素、シリコン、サファイア、炭化珪素、酸化亜鉛、酸化ガリウム、ScAlMgO
4を用いることができる。本実施の形態1では、種基板116として、窒化ガリウムを用いる。
(1)昇温工程では、不活性ガス雰囲気で、種基板116の分解が生じない温度まで育成チャンバの昇温を行う。OVPE法によるIII族窒化物結晶の製造においては、約500℃まで不活性ガス(例えばN
2ガス)雰囲気で加熱を行う。
(2)分解保護昇温工程では、窒素元素含有ガス雰囲気で、種基板116の分解を抑制しながら昇温を行う。OVPE法によるIII族窒化物結晶の製造において、500℃以上900℃未満までは、不活性ガスと窒素元素含有ガスNH
3ガスとを混合した状態で加熱を行う。NH
3を混合する理由は、N原子の脱離により種基板116が分解することを防ぐためである。
【0028】
(3)種基板116の表面荒れを形成する表面荒れ形成工程では、成長させるIII族窒化物結晶の表面に発生するピットの密度を高くするとともに、各々のピットサイズを小さくするために、種基板116に表面荒れを形成する。種基板に格子面(0001)を主面とする窒化ガリウムを用いる場合、OVPE法を用いて成長するIII族窒化物結晶の表面には、種基板の転位欠陥を起点としてピットが発生する。ピットとは、(0001)面から傾斜した角度を有する面によって覆われる錘状の窪みのことであり、{10-11}、{11-22}等のa面やm面から傾斜した面によって構成される。したがって、転位密度の低い窒化ガリウムを種基板として用いた場合、ピット密度が低いことで、表面の凹凸が大きくなりやすい。このため、III族窒化物結晶からIII族窒化物基板を切り出してウェハ化する際に、取り除かれる凹凸が大きくなるため、材料ロスが大きくなるおそれがある。
【0029】
図4(a)は、III族窒化物結晶の製造方法において、表面荒れ形成工程がない場合の表面凹凸との関係を示す断面概念図である。
図4(b)は、III族窒化物結晶の製造方法において、表面荒れ形成工程がある場合の表面凹凸との関係を示す断面概念図である。
図4(a)に示すように、表面荒れを形成しなかった場合、低転位密度の種基板、例えば転位密度が1×10
4/cm
2の種基板を用いる場合、100μm角に1個の間隔でピット2が発生する。つまり、直径100μmのピット2が発生することになる。斜めのファセットが{10-11}で形成される場合を考えると、ピット2の深さは、94μmとなり、ウェハ化する際の標準的な厚みである400μm厚まで成長させた場合でも、その約1/4の厚みがウェハとして用いることのできない領域となる。
これに対して、
図4(b)に示すように、III族窒化物結晶を成長させる前に、種基板116に表面荒れを形成することで、ピット2を転位欠陥4以外の領域で発生させることが可能である。種基板116に表面荒れ6を形成した場合、転位欠陥4のない領域でもピット2を発生させることができるので、全体としてピット2が多くなり、ピット密度が高くなる。このためIII族窒化物結晶を成長させた場合にその表面の凹凸が小さくなり、ウェハを切り出す際の無駄な領域を少なくできる。
【0030】
この表面荒れを形成する工程は、III族窒化物結晶の製造に用いられる製造装置を用いて行われ、III族窒化物結晶を成長させる一連の工程の中に導入されうる。OVPE法によるIII族窒化物結晶の製造において、意図的に表面荒れを形成させるためには、900℃以上1500℃未満の状態において不活性ガスとNH3ガスのみの雰囲気で加熱を行う表面荒れ形成プロセスを導入すればよい。これによって1200℃以上の状態でIII族窒化物結晶のバルク成長を開始する前の種基板116のGaN結晶表面を、転位欠陥以外の領域でもピットが発生する状態とすることができる。尚、表面荒れ形成プロセスは、種基板の準備段階で実施してもよく、アルカリや酸によるウェットエッチングにより表面荒れを形成してもよい。
この際、窒素元素含有ガスが育成チャンバ111からの熱で分解することを抑制するために、窒素元素含有ガス供給口112及び育成チャンバ111の外壁を断熱材で被覆することが好ましい。
【0031】
第2搬送ガス供給口114から育成チャンバ111へと第2搬送ガスを供給し、III族元素酸化物ガス及び窒素元素含有ガスの濃度を制御してもよい。この場合、育成チャンバ111の炉壁や基板サセプタ117へのIII族窒化物結晶の寄生成長を抑制することができる。また、基板サセプタ117への寄生成長を抑制するために、基板サセプタ117の材質を活性金属とすることが望ましい。さらには、Gaとの合金化を抑制する観点から、基板サセプタ117の材質をMoやPtとすることがより望ましい。
第2搬送ガスとしては、不活性ガス、又はH2ガス等を用いることができる。
【0032】
(4)成長工程では、原料チャンバ100でIII族元素酸化物ガスを生成し育成チャンバ111へ供給するとともに、窒素元素含有ガスを育成チャンバ111へ供給し、種基板116上でIII族窒化物結晶の生成を行う。具体的には、
図2(b)に示すように、成長工程は、反応性ガス供給工程、III族元素酸化物ガス生成工程、III族元素酸化物ガス供給工程、窒素元素含有ガス供給工程、III族窒化物結晶生成工程、及び残留ガス排出工程を有する。
【0033】
(4-1)反応性ガス供給工程では、反応性ガス供給管103から反応性ガスを原料チャンバ100内の原料反応室101へ供給する。上述の通り、反応性ガスは、必要に応じて還元性ガス又は酸化性ガスを用いることができる。本実施形態では、III族元素源105として金属Gaを用いているため、反応性ガスとしてH2Oガスを用いる。
(4-2)III族元素酸化物ガス生成工程では、反応性ガス供給工程で原料反応室101へ供給された反応性ガスが、出発III族元素源105であるGaと反応し、III族元素酸化物ガスであるGa2Oガスを生成する。生成されたGa2OガスはIII族元素酸化物ガス排出口107を経由し、原料反応室101から原料チャンバ100に排出される。排出されたGa2Oガスは第一搬送ガス供給口102から原料チャンバへと供給される第1搬送ガスと混合され、ガス排出口108へと供給される。本実施形態では、第1ヒータ106によって原料チャンバ100を加熱する。原料チャンバ100を兼ねる擦る場合、原料チャンバ100の温度を、Ga2Oガスの沸点の観点から800℃以上とすることが好ましい。また、原料チャンバ100の温度を、育成チャンバ111よりも低温とすることが好ましい。後述のように第2ヒータ115によって育成チャンバを加熱する場合には、原料チャンバ100の温度を、例えば、1800℃未満とすることが好ましい。出発III族元素源105は、原料反応室101内に配置された原料ボート104内に載置されている。原料ボート104は、反応性ガスと出発III族元素源との接触面積を大きくできる形状であることが好ましい。例えば、出発III族元素源105と反応性ガスとが非接触の状態で原料反応室101を通過することを防ぐために、原料ボート104は多段の皿形状であることが好ましい。
【0034】
なお、III族元素酸化物ガスを生成する方法には、大別して、出発III族元素源105を還元する方法と、出発III族元素源105を酸化する方法とがある。例えば、還元する方法においては、出発III族元素源105として酸化物(例えばGa2O3)、反応性ガスとして還元性ガス(例えばH2ガス、COガス、CH4ガス、C2H6ガス、H2Sガス、SO2ガス)を用いる。一方、酸化する方法においては、出発III族元素源105として非酸化物(例えば液体Ga)、反応性ガスとしては酸化性ガス(例えばH2Oガス、O2ガス、COガス、CO2ガス、NOガス、N2Oガス、NO2ガス)を用いる。また、出発III族元素源106の他に、In源、Al源を出発III族元素として採用できる。第1搬送ガスとしては、不活性ガス、H2ガス等を用いることができる。
【0035】
(4-3)III族元素酸化物ガス供給工程では、III族元素酸化物ガス生成工程で生成されたGa2Oガスを、ガス排出口108、接続管109、ガス供給口118を経由し育成チャンバ111へと供給する。原料チャンバ100と育成チャンバ111とを接続する接続管109の温度が、原料チャンバ100の温度より低下すると、III族元素酸化物ガスを生成する反応の逆反応が生じ、出発Ga源105が接続管109内で析出する。したがって、接続管109は第3ヒータ110によって、原料チャンバ100の温度より低下しないよう第1ヒータ106より高温に加熱されることが好ましい。
【0036】
(4-4)窒素元素含有ガス供給工程では、窒素元素含有ガスを窒素元素含有ガス供給口113から育成チャンバ111に供給する。窒素元素含有ガスの例は、NH3ガス、NOガス、NO2ガス、N2Oガス、N2H2ガス、N2H4ガスを含む。
III族窒化物結晶生成工程では、各供給工程を経て、育成チャンバ内へと供給された原料ガスを反応させ、III族窒化物結晶を種基板116上に成長させる。育成チャンバ111は第2ヒータ115により、III族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとが反応する温度まで高温化されることが好ましい。この際、育成チャンバ111の温度は、III族元素酸化物ガスを生成する反応の逆反応が生じないようにするため、原料チャンバ100の温度より低下しないよう、育成チャンバ111の温度を制御することが好ましい。第2ヒータ115によって加熱される育成チャンバ111の温度は、1000℃以上1800℃以下であることが好ましい。また、原料チャンバ100で生成されたGa2Oガス、及び第1搬送ガスによる育成チャンバ111の温度変動を抑制する理由から、第2ヒータ115と第3ヒータ111との温度は同じとすることが望ましい。
【0037】
(4-5)III族元素酸化物供給工程を経て、育成チャンバ111へと供給されたIII族元素酸化物ガスと、窒素元素含有ガス供給工程を経て、育成チャンバ111へと供給される窒素元素含有ガスと、を種基板116より上流で混合することによって、種基板116上でIII族窒化物結晶の成長を行うことができる(III族窒化物結晶生成工程)。
(4-6)残留ガス排出工程では、未反応のIII族元素酸化物ガス及び窒素元素含有ガス、並びに第1搬送ガス、第2搬送ガス、及び第3搬送ガスが排気口119から排出される。
なお、成長工程に含まれる、反応性ガス供給工程、III族元素酸化物ガス生成工程、III族元素酸化物ガス供給工程、窒素元素含有ガス供給工程、III族窒化物結晶生成工程、及び残留ガス排出工程は、同時に行われていてよい。
【0038】
(5)分解保護降温工程では、窒素元素含有ガス雰囲気で、III族窒化物結晶の分解を抑制しながら降温を行う。OVPE法によるIII族窒化物結晶の製造において、500℃以下まで、不活性ガスと窒素元素含有ガスNH3ガスとを混合した状態で冷却を行う。
(6)降温工程では、不活性ガス雰囲気で、III族窒化物結晶の育成チャンバからの取出しが可能な温度まで降温を行う。
(7)本実施の形態1では、降温工程を経て、III族窒化物結晶が成長した種基板116を育成チャンバ111から取出す(取出し工程)。
以上により、tilt成分の配向性の高い高品質なIII族窒化物結晶を得ることができる。また、このIII族窒化物結晶からIII族窒化物基板を作製する際の、材料ロスを低減することができる。
【0039】
(実施例と比較例の概要)
図3に示す成長炉であるIII族窒化物結晶の製造装置を用いてIII族窒化物結晶の成長を行った。ここでは、III族窒化物結晶としてGaNを成長させた。出発III族元素源として、液体Gaを用い、Gaを反応性ガスであるH
2Oガスと反応させ、生成したGa
2OガスをIII族元素酸化物ガスとして用いた。窒素元素含有ガスとしては、NH
3ガスを用い、第1搬送ガスおよび第2搬送ガスとして、H
2ガス及びN
2ガスの混合物を用いた。また成長時間は3時間で検証を行った。また、表面ピット密度は、成長結晶の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)観察し、単位面積あたりのピットの個数(個/cm
2)をカウントすることによって測定した。種基板116として転位密度が10
5台/cm
2以上の格子面(0001)を主面とするGaN基板を用いた。さらにtilt成分の結晶配向性を評価するために、成長結晶の(0002)面のX線ロッキングカーブを測定し、その半値幅から評価した。
【0040】
(実施例1)
成長条件として、基板温度を1200℃、原料温度を1100℃とした。またGa2Oガス分圧を0.00079atm、H2Oガス分圧を0.00035atm、NH3ガス分圧を0.15759atm、H2ガス分圧を0.71870atm、N2ガス分圧を0.12257atmとした。また、900℃以上1500℃未満の昇温過程で、III族元素酸化物ガスであるGa2Oガスを供給しない表面荒れ形成プロセスを導入した。
GaN成長させた結果、成長層の厚みは189μmであった。表面のピット密度は、2.6×106/cm2であった。平均ピット径は、6.2μmであり、ピット深さは5.8μmであった。また(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅は51arcsecであった。
【0041】
(比較例1)
成長条件として、実施例1と同等の成長条件としたが、900℃以上1500℃未満の昇温過程でGaN結晶成長を実施し、表面荒れ形成プロセスを導入しなかった。
GaN成長させた結果、成長層の厚みは184μmであった。表面のピット密度は、1.1×105/cm2であった。平均ピット径は、30μmであり、ピット深さは28.2μmであった。また(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅は79arcsecであった。
【0042】
(実施例と比較例のまとめ)
図5に本実施例と比較例の表面ピット密度、ピット深さ、及びX線ロッキングカーブ半値幅の評価結果を示す。実施例1では、種基板の表面荒れ形成プロセスを導入しており、比較例1ではその導入を実施していない。
図5(a)から分かるように、表面荒れ形成プロセスを導入した実施例1では、ピット密度が大きくなった。また、
図5(b)に示す通り、ピット深さは、実施例1の方が比較例1よりも小さい。これらの結果から、表面荒れ形成プロセスを導入することで、表面の凹凸を小さくすることができることがわかる。したがって、実施例1で得られたIII族窒化物結晶からIII族窒化物基板のウェハを作製する際には、比較例1よりも取り除く表面の凹凸が少なくなり、材料ロスが低減できることが示された。
【0043】
更に、
図5(c)に示すX線ロッキングカーブ半値幅の評価結果の通り、実施例1ではピット密度を増加させて、表面の凹凸を低減したことから、tilt成分の配向性が向上していることが確認される。この結果から、表面荒れ形成プロセスを導入した場合、結晶品質が向上することが示された。
【0044】
さらに、表面荒れ形成プロセスを実施した成長結晶を分析すると、転位欠陥が含まれていない領域においても、ピットが発生した履歴が確認される。
図6に平滑研磨後の成長結晶の水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの混合融液によりエッチングを行った後の、同一箇所の表面光学顕微鏡像とフォトルミネッセンス(PL)像を示す。混合融液のエッチングにより、
図6(a)に示すように転位欠陥の存在する領域には、六角錘状のエッチピットが形成される。一方、
図6(b)のPL像を確認すると、転位欠陥の存在しない領域、すなわち、エッチピットの発生していない領域においても、花弁状の発光が確認される。この花弁状の発光は、結晶成長時に発生していたピットの履歴を反映している。したがって、表面荒れ形成プロセスを導入することで、転位欠陥の存在しない領域、つまり、エッチピットが発生しない領域においても、ピットを発生させることができることが理解される。得られたIII族窒化物結晶では、表面研磨後の平滑な表面において、花弁状発光領域、つまりピットの数は、転位欠陥の数よりも多い。
以上のように、本実施の形態1及び実施例1に係るIII族窒化物結晶の製造方法によれば、転位欠陥を増やすことなくピットを発生させてIII族窒化物結晶を成長させて、表面の凹凸を少なくすることができる。そこで、III族窒化物基板を切り出す際の材料ロスを抑制できると共に、高品質のIII族窒化物結晶を製造できる。
【0045】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係るIII族窒化物結晶の製造方法によれば、III族窒化物基板を製造する際の材料ロスを低減しうると共に、高品質のIII族窒化物結晶を製造することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 格子面
2 ピット
4 転位欠陥
6 表面荒れ
8 切り出しウェハ
10 III族窒化物結晶の製造装置
100 原料チャンバ
101 原料反応室
102 第1搬送ガス供給口
103 反応性ガス供給管
104 原料ボート
105 出発III族元素源
106 第1ヒータ
107 III族元素酸化物ガス排出口
108 ガス排出口
109 接続管
110 第3ヒータ
111 育成チャンバ
112 第3搬送ガス供給口
113 窒素元素含有ガス供給口
114 第2搬送ガス供給口
115 第2ヒータ
116 種基板
117 基板サセプタ
118 ガス供給口
119 排気口