(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162402
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】二酸化塩素発生剤
(51)【国際特許分類】
C01B 11/02 20060101AFI20221017BHJP
【FI】
C01B11/02 F
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067232
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】508133053
【氏名又は名称】有限会社クリーンケア
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】大久保 善彦
(57)【要約】
【課題】保存時の安定性に優れ、使用開始時に特段の操作を必要とせずに、即時に二酸化塩素ガスが安定して発生する二酸化塩素発生剤を提供する。
【解決手段】二酸化塩素発生剤は、無機多孔質体に亜塩素酸塩を担持させてなる亜塩素酸塩担持無機多孔質体と、酸性基を有する物質と、潮解性物質と、乾燥剤とを含むことを特徴とする。前記二酸化塩素発生剤において、前記亜塩素酸塩担持無機多孔質体、前記酸性基を有する物質、前記潮解性物質および前記乾燥剤の合計を100質量%としたとき、亜塩素酸塩が1質量%~25質量%であり、酸性基を有する物質が1質量%~35質量%であり、潮解性物質が0.1質量%~50質量%であり、乾燥剤が5質量~35質量%であることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機多孔質体に亜塩素酸塩を担持させてなる亜塩素酸塩担持無機多孔質体と、酸性基を有する物質と、潮解性物質と、乾燥剤とを含むことを特徴とする二酸化塩素発生剤。
【請求項2】
前記亜塩素酸塩担持無機多孔質体、前記酸性基を有する物質、前記潮解性物質および前記乾燥剤の合計を100質量%としたとき、亜塩素酸塩が1質量%~25質量%であり、酸性基を有する物質が1質量%~35質量%であり、潮解性物質が0.1質量%~50質量%であり、乾燥剤が5質量~35質量%である請求項1に記載の二酸化塩素発生剤。
【請求項3】
前記無機多孔質体が、珪藻土、パーライト、カオリン、シリカゲル、ゼオライト、パーライトのうちのいずれか1種以上である請求項1または2に記載の二酸化塩素発生剤。
【請求項4】
前記亜塩素酸塩がアルカリ土類金属塩である請求項1~3のいずれかに記載の二酸化塩素発生剤。
【請求項5】
前記酸性基を有する物質が、有機酸またはスメクタイト族鉱物である請求項1~4のいずれかに記載の二酸化塩素発生剤。
【請求項6】
前記潮解性物質が、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムのうちの1種以上である請求項1~5のいずれかに記載の二酸化塩素発生剤。
【請求項7】
前記乾燥剤が、シリカゲル、ゼオライトのうちのいずれか1種以上である請求項1~6のいずれかに記載の二酸化塩素発生剤。
【請求項8】
水蒸気が透過しない材料からなる容器を備え、この容器内に請求項1~7のいずれかに記載の二酸化塩素発生剤が密封されていることを特徴とする容器付二酸化塩素発生剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌剤として種々の分野で用いられる二酸化塩素ガスを発生させる二酸化塩素発生剤に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化塩素ガスは、器物表面や空間の殺菌、食品の防腐、微生物の不活性化、消臭等に広く用いられている。
【0003】
二酸化塩素ガスを放出する携帯型空気浄化用具として、開口部を有する容器にガス発生体、二酸化塩素を担持させた抗菌剤、二酸化塩素粉末を収容したものが提案されている(特許文献1~3参照)。
【0004】
また、二酸化塩素ガスの徐放具として、容器内に亜塩素酸塩液を充填密封した水溶液袋と有機酸または無機酸を含有するゲル化剤を収納し、使用時に水溶液袋を破ってゲル化剤に吸収させ、亜塩素酸塩と有機酸または無機酸との反応による二酸化塩素ガスを発生させ、容器の開口部から二酸化塩素を徐放するようにしたものが提案されている(特許文献4参照)。
【0005】
さらに、特許文献5に無機多孔質担体に亜塩素酸塩およびアルカリ剤を担持させた二酸化塩素剤が記載されている。この二酸化塩素剤は空気に接触させることで二酸化塩素を発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-90743号公報
【特許文献2】特許第5172002号号公報
【特許文献3】実用新案登録第3154094号公報
【特許文献4】特開2012-11028号公報(請求項2)
【特許文献5】再公表WO2012/165466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、二酸化塩素は常温常圧下において気体でありかつ保存安定性に乏しいことから、特許文献1~3に記載された携帯型空気浄化用具は二酸化塩素が発生していないと思われる。
【0008】
特許文献4に記載された二酸化塩素徐放剤は、使用直前に薬剤を添加する必要があり、しかも添加後の反応をコントロールできない。このため、添加直後の数日は高濃度二酸化塩素ガスが発生し、取扱い時の安全性や濃度管理に欠点がある。また、特許文献4の二酸化塩素徐放剤に限らず、亜塩素酸塩に対して使用時に何らかの操作を加えて二酸化塩素を発生させるものは、使用開始時の作業が煩雑であり、かつ事故要因となるおそれがある。
【0009】
特許文献5に記載された二酸化塩素発生剤は、単に無機多孔質体にスプレーして乾燥させたものに過ぎず、使用開始後も二酸化塩素が発生するまでに時間がかかり、発生量も乏しい。また、密閉して保存している間も空気に触れていると反応が進むため保存期間中に反応して包材を劣化させる可能性があり、保存安定性および用時反応性に欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、保存時の安定性に優れ、使用開始時に特段の操作を必要とせずに、即時に二酸化塩素ガスが安定して発生する二酸化塩素発生剤の提供を目的とする。
【0011】
即ち、本発明は下記[1]~[8]に記載の構成を有する。
【0012】
[1]無機多孔質体に亜塩素酸塩を担持させてなる亜塩素酸塩担持無機多孔質体と、酸性基を有する物質と、潮解性物質と、乾燥剤とを含むことを特徴とする二酸化塩素発生剤。
【0013】
[2]前記亜塩素酸塩担持無機多孔質体、前記酸性基を有する物質、前記潮解性物質および前記乾燥剤の合計を100質量%としたとき、亜塩素酸塩が1質量%~25質量%であり、酸性基を有する物質が1質量%~35質量%であり、潮解性物質が0.1質量%~50質量%であり、乾燥剤が5質量~35質量%である前項1に記載の二酸化塩素発生剤。
【0014】
[3]前記無機多孔質体が、珪藻土、パーライト、カオリン、シリカゲル、ゼオライト、パーライトのうちのいずれか1種以上である前項1または2に記載の二酸化塩素発生剤。
【0015】
[4]前記亜塩素酸塩がアルカリ土類金属塩である前項1~3のいずれかに記載の二酸化塩素発生剤。
【0016】
[5]前記酸性基を有する物質が、有機酸またはスメクタイト族鉱物である前項1~4のいずれかに記載の二酸化塩素発生剤。
【0017】
[6]前記潮解性物質が、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムのうちの1種以上である前項1~5のいずれかに記載の二酸化塩素発生剤。
【0018】
[7]前記乾燥剤が、シリカゲル、ゼオライトのうちのいずれか1種以上である前項1~6のいずれかに記載の二酸化塩素発生剤。
【0019】
[8]水蒸気が透過しない材料からなる容器を備え、この容器内に前項1~7のいずれかに記載の二酸化塩素発生剤が密封されていることを特徴とする容器付二酸化塩素発生剤。
【発明の効果】
【0020】
上記[1]に記載の二酸化塩素発生剤は、水蒸気との接触を断った乾燥状態では二酸化塩素ガスの発生反応が起きないので、大気との接触を遮断することによって優れた保存安定性が得られる。また、二酸化塩素発生剤を大気に接触させれば、潮解性物質が大気中の水蒸気を吸収して水溶液になり、その水分が亜塩素酸塩および酸性基を有する物質に供給されて二酸化塩素ガスが発生する。潮解性物質の潮解は徐々に進行するので、二酸化塩素ガスの発生反応も徐々に進行する。
【0021】
上記[2]に記載の二酸化塩素発生剤は、各構成成分の割合が保存安定性と用時反応性を得るために最も適している。
【0022】
上記[3][4][5][6][7]に記載の各二酸化塩素発生剤は上記の効果を奏する。
【0023】
上記[8]に記載の容器付二酸化塩素発生剤は、水蒸気が透過しない材料からなる容器内に二酸化塩素発生剤が密封されているので長期保存が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[二酸化塩素発生剤の組成]
本発明の二酸化塩素発生剤は、亜塩素酸塩担持無機多孔質体、酸性基を有する物質、潮解性物質および乾燥剤を含有している。これらの構成成分は使用開始前の状態で全てが固体であり、固体の混合物である。以下に、各構成成分について詳述する。
(亜塩素酸塩担持無機多孔質体)
亜塩素酸塩担持無機多孔質体は、無機多孔質体に亜塩素酸塩を担持させたものであり、両成分が一体化している。
【0025】
亜塩素酸ナトリウムなど亜塩素酸塩類は、その性質上衝撃などにより発火するなどの危険性が知られており、国際的にも酸化性物質として登録されている。前記無機多孔質体は亜塩素酸塩から二酸化塩素ガスを生成させる反応には関係しないが、無機多孔質体に亜塩素酸塩を担持させることにより、前述のような発火などの危険性が低減し、酸化性個体として扱う必要がなくなり、物質としてとの取扱が容易になる。
【0026】
前記無機多孔質体の種類は特に限定されず、公知の多孔質担体を用いることができる。前記無機多孔質体は、無機多孔質体1質量部に対して純水2.5質量部~5質量部を加えて振盪して含有成分を水に浸出させ、浸出液をガラス電極により測定したpH値が7以上であるものが好ましく、pH7.1以上の中性ないしはアルカリ性を呈する無機多孔質体であればなお一層好ましい。前記条件を満たす無機多孔質体として、珪藻土、パーライト、カオリン、シリカゲル、ゼオライト、パーライト等があり、特に珪藻土が好ましい。
【0027】
珪藻土は、単細胞藻類の死滅した珪藻遺骸が海底および湖底に沈積してできた堆積岩であり、珪藻殻は非晶質シリカを主たる成分とし、Al2O3、Fe2O3、CaO、MgO、K2O、Na2O、TiO2等を微量に含む。産地により様々な形状が知られており、球状、円筒状、円盤状等がある。また、原形質が水和ケイ酸からなる固い細胞壁で覆われており、この細胞壁は直径0.1μm~1μm程度の無数の孔が空いている。その結果、珪藻土は自重の1~2倍程度の吸水量、吸油量を有する。
【0028】
また、前記無機多孔質体は、ベースとなる無機多孔質体に炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウム等のフラックスを加え、焼成させることで得られた焼成体であってもよい。例えば、珪藻土にフラックスを加えて焼成した融剤焼成珪藻土を用いることができる。
【0029】
本発明で使用する無機多孔質体の形状に指定はなく、粒状、粉状、繊維状等から任意に選択することができる。一般的には粒状または粉末状のものが入手しやすく、安価であること等から最適である。粒状または粉末状の無機多孔質体は、平均粒子径が約0.01mm~10mmのものが好ましく、0.025mm~3mmがより好ましく、0.03mm~0.1mmのものがさらに好ましい。また、無機多孔質体はBET比表面積は10m2/g~300m2/gの範囲であれば広く任意に選択することができる。
【0030】
前記亜塩素酸塩は二酸化塩素ガスの主たる発生原料である。本発明で使用できる亜塩素酸塩として、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウムのようなアルカリ金属塩、および亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸カルシウム等のアルカリ土類金属塩を挙げることができる。中でも、広く一般に使用されており、低コストなものとしてアルカリ金属塩が望ましく、亜塩素酸ナトリウムがより望ましい。
【0031】
前記亜塩素酸塩を無機多孔質体に担持させる方法は限定されない。例えば、亜塩素酸塩を溶媒に溶解させて亜塩素酸塩溶液を調製し、この亜塩素酸塩溶液に無機多孔質体を浸漬して含浸させるか、あるいは亜塩素酸塩溶液を無機多孔質体に噴霧する方法を例示できる。噴霧方法はむらなく噴霧することができれば特段の条件はないが、無機多孔質体を混合装置内で攪拌させながら、亜塩素酸塩溶液を均一に噴霧する方法が簡便である。亜塩素酸溶液を含浸または噴霧した後は乾燥させて無機多孔質体に亜塩素酸塩をしっかりと担持させる。乾燥方法は特に限定されないが、例えば流動乾燥機や棚段乾燥機等による乾燥を挙げることができる。乾燥条件も特に限定されないが、30℃~130℃、好ましくは70℃~100℃で、0.5時間~48時間、好ましくは3時間~8時間乾燥させる。この乾燥により、亜塩素酸塩担持無機多孔質体の水分含有率を30質量%以下より好ましくは10質量%以下にすることが望ましい。
【0032】
なお、上述した亜塩素酸塩が水溶性である場合は溶媒に水を用いればよいが、亜塩素酸塩を溶解させることができれば有機溶媒を含んでいることを妨げるものではない。また、亜塩素酸塩濃度も限定されず、適宜設定する。例えば、亜塩素酸ナトリウム水溶液であれば25%程度である。
【0033】
前記亜塩素酸塩担持無機多孔質体における亜塩素酸塩の含有量、即ち、無機多孔質体と亜塩素酸塩の合計を100質量%としたときの亜塩素酸塩の割合は、1質量%~50質量%が好ましい。さらに5質量%~40質量%が好ましく、10質量%~35質量%であればなお一層好ましい。
【0034】
また、前記亜塩素酸塩担持無機多孔質体は1種に限定されず、異なる無機多孔質体と亜塩素酸塩を組み合わせた複数種の亜塩素酸塩担持無機多孔質体を併用してもよい。
(酸性基を有する物質)
酸性基を有する物質は亜塩素酸塩に対して酸化作用を有し、水の存在下で亜塩素酸塩と反応して二酸化塩素を発生させる成分である。酸性基を有する物質の種類は限定されないが、分子構造内にカルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等の官能基を有する物質を挙げることができる。
【0035】
前記官能基を有する物質として各種有機酸およびスメクタイト族鉱物がある。有機酸としては、クエン酸、コハク酸、マレイン酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、グルコノラクトン、グリシン、アルギン酸、ステアリン酸、イコニット酸、アジピン酸、グルコース等を挙げることができる。また、スメクタイト族鉱物は、AlO(OH)で構成される八面体層が2つのSiO四面体からなる層により挟まれて構成され、これらが多数積層された鉱物である。スメクタイト族鉱物は、その層間の電荷が構成元素の種類により異なるが、陽イオン交換能を有する点で共通している。スメクタイト族鉱物としては、活性白土、サポナイト、モンモリロナイト、バイデライト、スチーブンサイト、ヘクトライト等を用いることができる。
【0036】
また、前記酸性基を有する物質は水中で8以下のpH値を示す物質であることも好ましい。水中でpH8以下の物質として、グルコース、キシロース、マンノース、ガラクトースなどアルドース類、フルクトースなどケトース類を挙げることができる。
【0037】
なお、前記酸性基を有する物質は上述した有機酸およびスメクナイト鉱物に限定されるものではない。また、複数種の酸性基を有する物質を併用することもできる。
(潮解性物質)
潮解性物質は空気中の水分を吸収し、自発的に溶解することで水溶液へと変化する。その変化過程において結晶表面の微小体積における飽和水溶液が空気の水蒸気圧と等しくなるまで結晶の溶解が促される。そして、前記飽和水溶液の水分が亜塩素酸塩および酸性基を有する物質に供給されることでこれらの反応を促して二酸化塩素が発生する。このような役割を果たす潮解性物質として、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫化水素ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、硫酸マンガン、硝酸カルシウム、炭酸カリウム、酢酸カリウム、塩化亜鉛等を挙げることができある。これらの潮解性物質のなかでも、低コストでありかつ取り扱いの容易さを考慮すれば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムが好ましい。また、前記潮解性物質は1種または複数の物質を併用することができる。
(乾燥剤)
乾燥剤は、使用開始前における二酸化塩素発生剤の水分を吸収して保存安定性を向上させる目的で配合される成分である。本発明の二酸化塩素発生剤は水の存在下で亜塩素酸塩と酸性基を有する物質の反応により二酸化塩素ガスを生成するので、乾燥状態を保つことで反応を阻止して保存時の安定性を向上させることができる。乾燥剤としては、シリカゲル、ゼオライト、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等を挙げることができる。ゼオライトは結晶性ゼオライトが望ましい。また、潮解性を有する乾燥剤、例えば塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムは前記潮解性物質と兼用させることができる。
(各構成成分の割合)
二酸化塩素発生剤において、亜塩素酸塩担持無機多孔質体、酸性基を有する物質、潮解性物質および乾燥剤の合計を100質量%としたとき、各構成成分の好ましい割合、即ち保存安定性と用時反応性の両方を得るために最も適した割合は以下のとおりである。
【0038】
前記亜塩素酸塩は1質量%~25質量%に設定されていることが好ましい。亜塩素酸塩が1質量%未満であると反応性が低くなり実用性に乏しくなる。一方、25質量%を超えると他の構成成分が相対的に少なくなるので、他の構成成分とのバランス上25質量%を超えることは好ましくない。特に好ましい亜塩素酸塩の割合は5質量%~20質量%である。
【0039】
前記亜塩素酸塩は無機多孔質体に担持されているので、二酸化塩素発生剤には無機多孔質体が含まれている。前記無機多孔質体は二酸化塩素ガスの発生反応に直接関与する成分ではないが、上記の「亜塩素酸塩担持無機多孔質体」の項で説明したとおり、無機多孔質体と亜塩素酸塩の合計を100質量%としたときの亜塩素酸塩の割合が1質量%~50質量%となされた亜塩素酸塩担持無機多孔質体を用いることが好ましい。
【0040】
前記酸性基を有する物質は1質量%~35質量%に設定されていることが好ましい。酸性基を有する物質が1質量%未満であれば反応性が低く実用性に乏しくなり、他の構成成分とのバランスにより35質量%を超えることは好ましくない。特に好ましい酸性基を有する物質の割合は10質量%~30質量%であり、15質量%~25質量%であればさらに望ましい。
【0041】
前記潮解性物質は0.1質量%~50質量%に設定されていることが好ましい。潮解性物質の割合が多くなるほど二酸化塩素ガスの発生速度が速くなり、使用空間内の二酸化塩素ガス濃度が所定値に達するまでの時間が短縮される。また、空間内の湿度が高いほど潮解性物質が早く潮解して二酸化塩素ガスの発生速度が高くなり、逆に湿度が低い程潮解が遅くなって二酸化塩素ガスの発生速度が遅くなるので、二酸化塩素発生剤の用途、求められる殺菌力、想定される使用環境等に応じて適宜調節する。
【0042】
前記乾燥剤は5質量%~35%に設定されていることが好ましい。5質量%未満では使用前の保存安定性が不十分であり、35質量%を超えると相対的に他の成分が減少するので他の構成成分とのバランス上35質量%を超えることは好ましくない。特に好ましい乾燥剤の割合は10質量%~30質量%である。
【0043】
なお、本発明の二酸化塩素発生剤は、二酸化塩素発生剤の特性を阻害しない限り、他の材料を配合することができる。例えば、ポリアクリル酸ナトリウム等の吸水性樹脂や香料を配合することができる。前記吸水性樹脂は主としてポリアクリル酸ナトリウムからなる共重合架橋体であり、自重の10~1000倍の水分を保水することができる。この吸水性樹脂を添加するることで、潮解性物質剤により潮解した水分を二酸化塩素発生剤中に保持し、かつ水分を二酸化塩素発生剤中に分散させることができる。二酸化塩素発生剤における吸水性樹脂の割合は1質量~5質量%程度が望ましい。
[二酸化塩素発生剤の作製]
前記亜塩素酸塩担持無機多孔質体、酸性基を有する物質、潮解性物質および乾燥剤を所定の割合で計量し、これらを混合して二酸化塩素発生剤を調製する。混合方法は均一に混合できればどのような方法でもよく、一例をあげればV型混合器や容器回転揺動型混合器による混合方法がある。また、混合時間は混合する量および使用する混合器の性能に依存するが、容器回転揺動型混合器を使用する場合100kgの混合で20~40分の混合時間がメーカーにより推奨されているのでこれに従えば良い。均一に混合された二酸化塩素発生剤は粒状や粉状のままでもよいし、打錠して円柱状に成型してもよいし、それ以外の形に成型してもよい。
【0044】
上述した組成に調製された二酸化塩素発生剤は、水蒸気との接触を断った乾燥状態では二酸化塩素ガスの発生反応が起きず保存安定性が優れている。従って、水蒸気を透過し難い材料で作製した容器内に密封して大気との接触を断てば長期保存することができる。容器の形状は問わず、成形された箱型容器や袋体を用いることができる。かかる容器付二酸化塩素発生剤は、長期保存が可能であり、流通時の輸送も容易である。
【0045】
また、乾燥状態を保てば二酸化塩素ガスの発生反応は起こらず保管可能であるから、容器が完全に密封されていなくても、容器内にシリカゲル等の乾燥剤を入れておく方法でも保存可能である。
【0046】
前記容器の材料は、水蒸気が透過しない、あるいは蒸気透過度が低い材料であれば任意選択することができ、金属、延伸ポリプロピレン、無延伸ポリプロピレンン、ポリエステル、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレンビニルアルコール樹脂(EVOH)等をあげることができる。これらの樹脂はいずれも水蒸気透過度が30(g/(m2・d)以下であり問題なく使用することができる。より好適な材料としてはアルミニウム蒸着ポリエチレンフィルム、金属箔と樹脂フィルムのラミネート材をあげることができる。
【0047】
前記容器内に密封された二酸化塩素発生剤は、容器を開口して大気に接触させれば大気中の水蒸気を吸収して潮解性物質が潮解し、亜塩素酸塩と酸性基を有する物質が共に水に接触することによって二酸化塩素ガスが発生する。また、潮解は徐々に進行するので、二酸化塩素ガスの発生反応も徐々に進行する。なお、二酸化塩素発生剤を使用する環境における湿度および二酸化塩素発生剤中の潮解性物質の含有量によって反応速度が異なることは上述したとおりである。
【実施例0048】
以下に、実施例、比較例を用いて本発明を具体的に説明する。
(亜塩素酸塩担持無機多孔質体の作製)
無機多孔質体として、平均粒径7μm、BET比表面積20m2/gの珪藻土、平均粒径12μm、BET比表面積4m2/gのパーライト、平均粒径0.2μm、BET比表面積10m2/gのカオリンを用いた。各無機多孔質体1質量部に対して純水2.5重質量部を加えて30分間震盪し、浸出液のpH値をガラス電極にて測定したところ、珪藻土がpH8、パーライトがpH7、カオリンがpH7であった。また、亜塩素酸塩溶液として、25質量%の亜塩素酸ナトリウム水溶液を調製した。
【0049】
前記各無機多孔質体100質量部に対し、それぞれ亜塩素酸ナトリウム水溶液100質量部を噴霧して含浸させた後、70℃で6時間乾燥させて亜塩素酸塩担持無機多孔質体を得た。各亜塩素酸塩担持無機多孔質体における亜塩素酸ナトリウムの含有割合は、珪藻土が55質量%、パーライトが55質量%、カオリンが55質量%である。また、各亜塩素酸塩担持無機多孔質体における水分含有率は、珪藻土が<5質量%、パーライトが<5質量%、カオリンが<5質量%である。
(他の構成成分)
酸性基を有する物質として、活性白土、グルコノラクトン、グルコースを用いた。潮解性物質として、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウムを用いた。乾燥剤として、シリカゲル、結晶性ゼオライト(商品名「モレキュラーシーブ」)、ゼオライトを用いた。
(二酸化塩素発生剤の作製)
実施例1~9および比較例2~6は、表1に記載した亜塩素酸塩担持無機多孔質体、酸性基を有する物質、潮解性物質および乾燥剤を表1に記載した質量比で量り取り、容器回転揺動型混合器で20分間混合して二酸化塩素発生剤を作製した。なお、表1の亜塩素酸担持無機多孔質体の欄において、()内は二酸化塩素発生剤中の亜塩素酸ナトリウムの含有量を示している。
【0050】
比較例7は、亜塩素酸ナトリウムを無機多孔質体に担持させることなく、市販品の亜塩素酸ナトリウム粉末(商品名「シルブライト」、NaClO2純分80%)を亜塩素酸担持無機多孔質体の代替材料として用い、表1に記載した他の構成成分と混合して、実施例1と同じ方法で二酸化塩素発生剤を作製した。
【0051】
なお、表1の二酸化塩素発生剤の組成の亜塩素酸塩担持無機多孔質体の欄に、市販品の亜塩素酸ナトリウム粉末の含有量が90質量%であることを記載し、()内に純分換算量を併記した。
【0052】
比較例1は市販の二酸化塩素発生剤(商品名「ケスタス靴用」)をそのまま使用した。
【0053】
【0054】
作製した二酸化塩素発生剤の保存容器として、厚さ12μmのポリエチレンフィルムの片面にアルミニウムを9μmの厚さに蒸着した複層フィルムで袋を作製した。この袋に実施例1~9および比較例1~7の各二酸化塩素発生剤30gを入れ、袋の開口部をヒートシールして密封した。前記袋に密封した二酸化塩素発生剤は常温で3ヶ月保管した。
【0055】
3ヶ月経過後の二酸化塩素発生剤について、保存安定性、用時反応性、安全性を以下の方法で評価した。保存安定性および用時反応性の評価に際し、二酸化塩素ガス濃度はガステック社の二酸化塩素ガス測定器(自動ガス採取装置GSP-300FT-2およびガス検知管23M,23L)を用いて測定した。
(保存安定性)
袋を開封して二酸化塩素発生剤を取出し、空にした袋内部の二酸化塩素ガス濃度を測定した。測定値を表1に示す。
【0056】
その結果、実施例1~7および比較例1~5、7は二酸化塩素ガスが検出されなかった。比較例6は二酸化塩素ガス測定器の検出限界の10ppmを超える高濃度の二酸化塩素ガスを検出した。即ち、実施例1~7および比較例1~5、7は3ヶ月の保管中に二酸化塩素ガスが発生せず安定して保存できたことを示している。一方、比較例6は密封状態でも二酸化塩素ガスが発生していた。
(用時反応性)
袋を開封して取り出した二酸化塩素発生剤の二酸化塩素ガス発生状況について評価した。実施例1~9および比較例2~7の二酸化塩素発生剤は10g、比較例1の二酸化塩素発生剤は1.5gを計量して、それぞれ低密度ポリエチレン製のサンプル容器に入れた。前記サンプル容器は上面が開口し、その開口面積は706mm2である。二酸化塩素発生剤を入れた各サンプル容器を、内部容積16Lの高密度ポリエチレン製チャンバー内に置き、チャンバー内を温度25℃、湿度45%に保持して密閉した。そして、30分後および60分後にチャンバー内の二酸化塩素ガス濃度を測定した。
【0057】
また、測定後の各二酸化塩素発生剤を前記サンプル容器に入れたままで大気に接触させた状態で常温下で1ヶ月放置し、1ヶ月後に、同様の方法で、密閉した小型チャンバー内における30分後および60分後の二酸化塩素ガス濃度を測定した。
【0058】
各測定値を表1に示す。
【0059】
実施例1~9は開封直後および1ヶ月後も二酸化塩素ガスの発生を確認した。
【0060】
一方、比較例1は開封直後は実施例と同程度の二酸化塩素ガスを発生したが、1ヶ月後は殆ど発生しなかった。比較例2~5は開封直後も1ヶ月後も二酸化塩素ガスが発生しなかった。比較例2~5は、前記保存安定性試験の結果と考え合わせると、二酸化塩素ガスの生成反応が起きていないと推察される。比較例6は開封直後は測定器の検出限界を超える高濃度の二酸化塩素ガスが発生したが、1ヶ月後は測定できず検出限界以下であった。比較例7は開封直後は実施例の1/10以下の二酸化塩素ガスを発生し、1ヶ月後は検出限界以下(0.01ppm以下)であった。
(安全性)
各例の二酸化塩素発生剤0.02gと赤リン0.02gの混合物を、直径70mmの真鍮製円柱で挟んだのち、円柱の上部より打撃を加えた時の発火の有無を観察した。この打撃試験は1回~3回行った。表1に「発火回数/試験回数」を示す。
【0061】
実施例1~9、比較例2~6は発火しなかったが、比較例1、7が発火した。
【0062】
以上の評価により、実施例1~9は、保存安定性および用時反応性に優れ、かつ安全性にも優れていることを確認した。
【0063】
さらに、日本海事検定協会に依頼して、実施例5の二酸化塩素発生剤の酸化性固体物質試験を実施した。酸化性固体物質試験は、臭素酸カリウムとセルロースを質量比1:1で混合したものを標準物質として、前記標準物質の臭素酸カリウムを二酸化塩素発生剤に代えた二酸化塩素発生剤とセルロースの混合物を試験物質とし、両者の燃焼時間を比較する試験である。前記二酸化塩素発生剤とセルロースを質量比1:1で混合したものを試験物質1とし、同じく4:1で混合したのものを試験物質2とした。燃焼時間は、標準物質の142.4秒に対し、試験物質1は348.4秒であり、試験物質2は274.2秒であった。この試験により、実施例5の二酸化塩素発生剤は酸化性固体物質に該当しない、という結果が得られた。