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特開2022-162405プリプレグの製造方法及びプリプレグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162405
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】プリプレグの製造方法及びプリプレグ
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/08 20060101AFI20221017BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20221017BHJP
【FI】
B29B15/08
B29K105:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067237
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167438
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100166800
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 裕治
(72)【発明者】
【氏名】添田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】河上 敦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴也
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AC02
4F072AD42
4F072AG03
4F072AH03
4F072AH13
4F072AH17
4F072AH18
4F072AH31
4F072AJ04
4F072AJ11
4F072AJ40
(57)【要約】
【課題】目付斑を小さくできるプリプレグの製造方法等を提供する。
【解決手段】プリプレグの製造方法は、第1方向に延伸する繊維を第1方向と直交する第2方向に並べた状態の複数本の強化繊維束1に対して開繊処理を行った後にマトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂を供給してプリプレグを製造する製造方法において、開繊処理では、第2方向に隣接する強化繊維束1の端同士が交絡するように開繊し、交絡は、開繊処理された開繊シート2又は複数枚の開繊シート2が重ねられてなる繊維シートのフックドロップ法により、前記第1方向の繊維交絡値が1~100cmとなるように、処理される。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延伸する繊維を前記第1方向と直交する第2方向に並べた状態の複数本の強化繊維束に対して開繊処理を行った後にマトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂を供給してプリプレグを製造する製造方法において、
前記開繊処理では、前記第2方向に隣接する強化繊維束の端同士が交絡するように開繊し、前記交絡は、前記開繊処理された開繊シート又は複数枚の開繊シートが重ねられてなる繊維シートのフックドロップ法により、前記第1方向の繊維交絡値が1~100cmとなるように、処理される
プリプレグの製造方法。
【請求項2】
前記開繊処理では、前記複数本の強化繊維束に当接する当接部材を前記第2方向に振動させることで、前記強化繊維束の端同士を交絡させる
請求項1に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項3】
前記開繊処理された開繊シートが、前記第1方向と前記第2方向とに直交する第3方向に複数枚重ねられる
請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項4】
前記強化繊維束は炭素繊維束であり、
前記熱可塑性樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を含む
請求項1~3の何れか1項に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項5】
複数本の強化繊維束が繊維の延伸する第1方向と直交する第2方向に並べられてなる繊維シートと、マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂とを有するプリプレグにおいて、
前記繊維シートのフックドロップ法による前記第1方向の繊維交絡値が1~100cmである
プリプレグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維束と熱可塑性樹脂とからなるプリプレグ及びプリプレグの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリプレグは、例えば、一方向に薄く引き揃えられた強化繊維に対して熱可塑性樹脂を供給して製造される。複数本の強化繊維束を薄く引き揃える開繊技術として、例えば、「多数の繊維からなる繊維束を繊維長方向に搬送し、前記繊維が第2方向に移動可能に設定された可動領域において前記繊維束中に流体を通過させることで繊維を撓ませながら第2方向に移動させて開繊する繊維束の開繊方法であって、前記可動領域に、前記繊維束中に流体を通過させることで繊維を撓ませながら第2方向に移動させて開繊幅Wiに開繊する開繊領域Ai(i=1,・・・,n)及び前記開繊領域Aiに対応して搬送方向上流側に設定されるとともに当該開繊領域Aiの前記繊維の第2方向の移動に伴って前記繊維束の幅が末広がりに拡張する拡張領域Bi(i=1,・・・,n)からなる対の領域群Si(i=1,・・・,n)を前記繊維束の搬送方向にn(n≧2)個配列して、前記領域群Siを順次通過するように前記繊維束を搬送させて開繊することを特徴とする繊維束の開繊方法」が提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1の製造方法では、開繊は促進されるものの、プリプレグの第2方向において目付斑が大きく、十分満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5326170号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、目付斑を小さくできるプリプレグ及びその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るプリプレグの製造方法は、第1方向に延伸する繊維を前記第1方向と直交する第2方向に並べた状態の複数本の強化繊維束に対して開繊処理を行った後にマトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂を供給してプリプレグを製造する製造方法において、前記開繊処理では、前記第2方向に隣接する強化繊維束の端同士が交絡するように開繊し、前記交絡は、前記開繊処理された開繊シート又は複数枚の開繊シートが重ねられてなる繊維シートのフックドロップ法により、前記第1方向の繊維交絡値が1~100cmとなるように、処理される。
本発明に係るプリプレグは、複数本の強化繊維束が繊維の延伸する第1方向と直交する第2方向に並べられてなる繊維シートと、マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂とを有するプリプレグにおいて、前記繊維シートのフックドロップ法による前記第1方向の繊維交絡値が1~100cmである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のプリプレグ及びプリプレグの製造方法によれば、目付斑を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】プリプレグの製造方法を示す概略図である。
図2】開繊処理を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<概要>
(1)第1の製造方法
プリプレグの第1の製造方法は、第1方向に延伸する繊維を前記第1方向と直交する第2方向に並べた状態の複数本の強化繊維束に対して開繊処理を行った後にマトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂を供給してプリプレグを製造する製造方法において、前記開繊処理では、前記第2方向に隣接する強化繊維束の端同士が交絡するように開繊する。
これにより、第2方向に隣接する強化繊維束の端同士が重なることとなり、第2方向において厚み斑が小さくなる。このため、プリプレグの第2方向の目付斑を小さくできる。
また、端部同士が交絡することで、供給された熱可塑性樹脂を強化繊維束に含浸させるために加熱した際の第2方向の収縮率を小さくできる。
【0009】
強化繊維束は、マトリックス樹脂として機能する樹脂が付着していない連続繊維束をいう。強化繊維束は、同じ種類の繊維から構成されてもよいし、異なる複数種類の繊維から構成されてもよい。強化繊維束の例としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維等がある。
熱可塑性樹脂は、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂、及びその共重合体やブレンド物であるポリオレフィン系樹脂、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド12等の脂肪族ポリアミド系樹脂、酸成分として芳香族成分を有する半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)やポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂等)、ポリ乳酸系などの脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリスルフォン樹脂(PSu)ポリエーテルスルフォン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン樹脂(PEKK)、ポリアリルエーテルケトン樹脂(PAEK)などがあり、さらに、これらの樹脂の混合物を使用することもできる。
熱可塑性樹脂の供給方法は、粉末状、シート状、液体状であってもよいし、供給方法もサスペンジョン方式、キスタッチ方式、シリンジ方式、バーコーター方式等の塗布方式、クロスヘッドダイ方式、インクジェット方式等の吐出・押出方式、フィルムスタック方式等のシート供給方式であってもよい。特に、サスペンジョン方式、クロスヘッドダイ方式、フィルムスタック方式等のシート供給方式が好ましい。
開繊処理は、当該開繊処理された開繊シート又は複数枚の開繊シートが重ねられてなる繊維シートのフックドロップ法による前記第1方向の繊維交絡値が1~100cm、好ましくは、5~60cm、さらに好ましくは、10~40cmとなるように、処理する。
【0010】
(2)第2の製造方法
第2の製造方法は、第1の製造方法において、前記開繊処理では、前記複数本の強化繊維束に当接する当接部材を前記第2向に振動させることで、前記強化繊維束の端同士を交絡させる。
当接部材は、金属材料、樹脂材料、セラミック材料等により構成される。当接部材は第2方向に長い長尺状をしている。
当接部材は、第1方向と第2方向とに直交する第3方向又は当該第3方向に交差する方向から当接する。
当接部材における強化繊維束と当接する部分は、第2方向と直交する断面において、円弧状又は楕円弧状をしている。
当接部材は、第1方向に間隔をおいて複数あってもよく、強化繊維束に対して第3方向の一方側と他方側とに交互に設けられてもよい。
複数の当接部材の振動は、同じ動きをしてもよいし、すべて異なる動きをしてもよい。また、複数の当接部材の振動は、強化繊維束に対して第3方向の一方側に配された当接部材と、他方側に配された当接部材との振動が逆であってもよい。
振動の周期は、すべての当接部材で同じであってもよいし、すべての当接部材で異なってもよいし、当接部材は、定まった周期で振動する複数のグループに属するようにしてもよい。
【0011】
(3)第3の製造方法
第3の製造方法は、第1又は第2の製造方法において、前記開繊処理された開繊シートが、前記第1方向と前記第2方向とに直交する第3方向に複数枚重ねられる。これにより、第2方向に隣接する強化繊維束の端部での交絡を確実に行うことができ、第2方向において厚み斑をより小さくでき、プリプレグの第2方向の目付斑を一層小さくできる。また、供給された熱可塑性樹脂を強化繊維束に含浸させるために加熱処理した際の第2方向の収縮率を一層小さくできる。
開繊シートの重ねる処理は、熱可塑性樹脂を供給する前でもよいし、熱可塑性樹脂の供給中でもよいし、熱可塑性樹脂を供給した後でもよい。複数枚の開繊シートの一部を熱可塑性樹脂を供給する前に重ね、残りの一部を熱可塑性樹脂の供給中に重ね、残りを熱可塑性樹脂を供給した後に重ねてもよい。
【0012】
(4)第4の製造方法
第4の製造方法は、第1~第3の何れかの製造方法において、前記強化繊維束は炭素繊維束であり、前記熱可塑性樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を含む。
【0013】
(5)第1のプリプレグ
第1のプリプレグは、複数本の強化繊維束が繊維の延伸する第1方向と直交する第2方向に並べられてなる強化繊維シートと、マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂とを有するプリプレグにおいて、前記強化繊維シートのフックドロップ法による前記第1方向の繊維交絡値が1~100cm、好ましくは、5~60cm、さらに好ましくは、10~40cmである。
これにより、第1方向における目付斑を小さくできる。
【0014】
<実施形態>
1.製造方法
以下、プリプレグ6の製造方法について、図1を用いて説明する。
製造方法は、第2方向に並べて供給された強化繊維束1を開繊する開繊処理と、開繊された強化繊維束1に対して熱可塑性樹脂3を供給する樹脂供給処理とを少なくとも含む。なお、第1方向は強化繊維束1(繊維)の延伸方向、第2方向はプリプレグ6の幅方向、第3方向はプリプレグ6の厚み方向でもある。
プリプレグ6の製造方法は、開繊処理、樹脂供給処理以外に、強化繊維束1を第2方向に並べて供給する繊維束供給処理、供給された熱可塑性樹脂3を乾燥する乾燥処理、供給された熱可塑性樹脂3を強化繊維束1に含浸する含浸処理の1つ以上の処理を含んでもよく、製造されたプリプレグ6を巻き取る巻取り処理を含んでもよい。
図1で説明する製造方法は、繊維束供給処理、乾燥処理、含浸処理及び巻取り処理を含み、繊維束供給処理、開繊処理、樹脂供給処理、乾燥処理、樹脂含浸処理及び巻取り処理をこの順で含む。強化繊維束1は、下流側に移動することで、上記の処理が行われる。
以下、プリプレグ6の製造方法の各処理について説明する。
【0015】
(1)繊維束供給処理
強化繊維束1は、例えばボビン巻され、クリールを利用して供給される。クリールは、供給する強化繊維束1のテンションを調整するテンション調整機能を有してもよい。
テンション調整機能付きのクリールを利用しない場合、開繊処理前に強化繊維束1のテンションを調整してもよい(テンション調整処理)。なお、テンション調整として、例えば、強化繊維束1が移動する方向に間隔をおいて強化繊維束1を支持する支持部間に、移動方向と直交する方向に移動可能なダンサーローラ等を設け、調整された負荷でダンサーローラを強化繊維束1に押し付けることで実施できる。
【0016】
(2)開繊処理
開繊処理は、図2に示すように、供給された強化繊維束1を第2方向に一定間隔で並ぶように間隔を調整する間隔調整サブ処理と、間隔が調整された複数本の強化繊維束1に対して、第2方向の振動を与える振動サブ処理とを含む。
間隔調整サブ処理は、例えば、複数本のピン11が第2方向に一定間隔で設けられた櫛ガイド10を利用できる。なお、櫛ガイド10以外に、例えば、幅とピッチとが調整された溝ローラや溝バー等も利用できる。
振動サブ処理は、下流へと移動する強化繊維束1に対して第3方向から交互に当接するバー(21,22,23)を第2方向(バーの延伸方向)に振動させることで実施できる。例えば、図2では、バーは、上流側(クリール側)から、下(第3方向の一方側)から当接する第1バー21と、上(第3方向の他方側)から当接する第2バー22と、下(第3方向の一方側)から当接する第3バー23との3本ある。
なお、図2に示すように、複数本の強化繊維束1が開繊処理された1枚のシートを、開繊シート2とする。
【0017】
3本のバー21,22,23の振動は、連動し、その周波数は、5~50Hzであり、好ましくは、12.5~35Hzである。50Hzを超えると強化繊維束1の毛羽が多くなり、品位が悪化する。5Hzを下回ると強化繊維束1の開繊性が悪くなる。
振動のストロークは、1~10mmであり、好ましくは、3~8mmである。10mmを超えると強化繊維束1の毛羽が多くなり、1mmを下回ると強化繊維束1の開繊性が悪くなる。
【0018】
強化繊維束1の移動方向の中央に位置する第2バー22は強化繊維束1を第3方向の反対側に押圧する。当該押圧する繊維束1本当たりのテンションは、強化繊維束1が24,000本の場合、50~200cN/spであり、より好ましくは、70~150cN/spである。1フィラメントに換算すると、20~90μN/fであり、好ましくは、30~65μN/fである。なお、テンションンの単位の「sp」は「spool」であり、「f」は「filament」である。
テンションが200cN/spを超えると、隣接する強化繊維束1同士が交絡しなくなる。テンションが50cN/spを下回ると開繊性が悪くなる。
【0019】
3本のバー21,22,23の直径は、すべて同じであり、10~40mmであり、好ましくは、20~30mmである。40mmを超えると、強化繊維束1の開繊性が悪くなる。10mmを下回ると、強化繊維束1の毛羽が多くなる。
なお、ここでの開繊処理は、図1に示すように、上下2段で行われ、2枚の開繊シート2が作成された後、樹脂供給処理で上下に積層されて1枚の繊維シート4となる。
【0020】
(3)樹脂供給処理
熱可塑性樹脂3は、ここでは、熱可塑性樹脂3の粉末を液体に分散させたサスペンジョン31に開繊シート2又は繊維シート4を浸漬させる、所謂、サスペンジョン方式により、強化繊維束1に供給される。具体的には、図1に示すように、サスペンジョン浴槽32に貯留されているサスペンジョン31内を通過させることで行われる。
なお、ここでは、上下2段の開繊シート2がサスペンジョン浴槽32内で重ねられて、1枚の繊維シート4としているが、樹脂供給処理前に重ねられてもよい。
サスペンジョン法では、粉末状の熱可塑性樹脂組成物を用いることが好ましい。開繊シート又は繊維シート(繊維強化基材)への良好な沈着(繊維間あるいは繊維表面に樹脂粉末が保持された状態)を考慮すると、熱可塑性樹脂粉末の粒子径は50μm以下で、取扱性の点からは1μmを下回らないのが良く、平均粒子径が5~50μmの範囲のものがより好ましい。
上記粒度範囲の熱可塑性樹脂粉末は、液体に分散させたとき、その分散性(サスペンジョン中の樹脂粉末の分散性)が安定しており、長時間の生産においても、開繊シート又は繊維シートに樹脂粉末を安定的に沈着できる。なお、上記の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法を用いて測定される粒度分布の累積50体積%粒子径(D50)の値を言う。
【0021】
サスペンジョン法において、熱可塑性樹脂を分散させるための液体を用いることが好ましい。用いられる液体としては、水、アルコール類、ケトン類、ハロゲン化炭素水素類から選ばれた1種若しくは2種以上の溶媒又は混合溶媒が好ましい。アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルセルソルブ等が、ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が、ハロゲン化炭化水素類としては、塩化メチレン、ジクロロエタン等が挙げられる。中でも好ましいのは、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンあるいはそれらと水との混合溶媒、又は水である。また、上記溶媒を含有し、好適な溶媒組成を有する市販品を使用することもでき、そのような市販品としてソルミックス(製品名、日本アルコール販売(株)製)が例示される。このような液体は、開繊シート又は繊維シートを適度に開繊させる、毛羽を防止させるという作用もあるので、サスペンジョン中の樹脂粉末が繊維材料に均一に沈着するのに効果的である。熱可塑性樹脂とそれを分散させるための液体(溶媒)との組み合わせは、溶媒が、熱可塑性樹脂に対して貧溶媒であることが好ましく、樹脂が溶解しないものであることが好ましい。
サスペンジョン中の熱可塑性樹脂の濃度[熱可塑性樹脂質量/(液体質量+熱可塑性樹脂質量)×100]は、1~50質量%であることが好ましく、1~30質量%がより好ましく、1~15質量%がさらに好ましい。
【0022】
(4)乾燥処理、樹脂含浸処理、巻取り処理
乾燥処理は、樹脂供給処理での液体を乾燥させるものであり、乾燥炉51内を樹脂付き繊維シート5が通過することで行われる。乾燥温度は、80~200℃であることが好ましく、乾燥時間は1~20分間であることが好ましい。
樹脂含浸処理は、強化繊維束1に付着した熱可塑性樹脂3の融点以上に加熱して、溶融した熱可塑性樹脂3を毛細血管現象を利用して強化繊維束1に含浸させる。なお、含浸性を高めるために、移動方向に沿って上下に交互に配された加熱バー61に樹脂付き繊維シート5が当接しながら通過する。
巻取り処理は、例えば紙管等にプリプレグ6を巻き取る。なお、紙管等への巻き取りにより、強化繊維束1、開繊シート2、繊維シート4及び樹脂付き繊維シート5を移動させる駆動力が発生している。なお、製造処理中にカレンダローラ等により、移動させる駆動力を発生させてもよい。
【0023】
(5)まとめ
上記の製造方法で製造されたプリプレグ6は、開繊処理で、第2方向の振動が与えられるため、隣接する強化繊維束1の第2方向の端同士が交絡することで、端部同士で重複する。これにより、強化繊維束1が第2方向に平坦化して、厚み斑(目付斑)が小さくなる。
また、隣接する強化繊維束1の端部同士が交絡するため、強化繊維束1がホールド(保持)されて、プリプレグ6の形状が安定する。これにより、樹脂含浸処理でのプリプレグ6の第2方向の収縮を抑制できる。
【実施例0024】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
実施例、比較例において使用した目付斑データ、収縮率、繊維交絡値の測定方法は以下の通りである。
【0025】
〔目付けデータ〕
プリプレグ6の目付けを、第2方向の一端を基準にして、25mm間隔で測定した。
測定は、製造したプリプレグ6を幅方向に25mm、長さ方向に400mmの短冊状に切り出して試験片を作製し、その試験片を硫酸中で浸漬又は煮沸を行い、樹脂分を分解して溶出させた。その後、残った繊維をろ別し、硫酸で洗浄し、乾燥し、乾燥繊維の質量を測定した。この測定値から繊維目付けを乾燥繊維の質量を試験片の面積で除すことで計算し、さらに、平均値、標準偏差、CV値を算出した。
〔収縮率〕
収縮率は、樹脂含浸処理の前後の樹脂付き繊維シート5の幅の比であり、以下の式により算出した。
収縮率=(樹脂含浸処理前の樹脂付き繊維シート幅-樹脂含浸処理後の樹脂付き繊維シート幅)/(樹脂含浸処理前の樹脂付き繊維シート幅)
〔繊維交絡値〕
フックドロップ法を用いて測定している。具体的には、開繊後に採取した繊維シート4を、繊維の延伸方向が上下となるように配し、上端部を固定し、下端部に1000gのおもりをつける。
この状態で、繊維シート4におもり(10g)のついた鍵針を刺し、落下する距離を第2方向に50回測定する。測定する間隔は、繊維シート4の幅を測定回数で除した値とする。測定結果のうち、最大のものから大きい順に10個、最小のものから小さい順に10個を除いた合計30の測定結果の平均値を第1方向の繊維交絡値としている。
なお、熱可塑性樹脂が供給されているプリプレグの繊維交絡値の測定は、熱可塑性樹脂を除去した後に上記方法で行われる。
【0026】
〔実施例1〕
強化繊維束1として炭素繊維束を、熱可塑性樹脂3としてポリエーテルエーテルケトンをそれぞれ使用した。
炭素繊維束1は、帝人株式会社製炭素繊維「テナックス(登録商標)」(商品名) IMS65 P12 24K(フィラメント数24,000本)を30本用い、2枚の開繊シート2を作成し、当該2枚の開繊シート2を上下に重ねることで、繊維目付けが190g/mmとなるようにした。
熱可塑性樹脂3は、ポリエーテルエーテルケトン(Evonik社製)の粉末(粒子径 20μm)をエタノールに分散させ、サスペンジョン浴槽32に5.5質量%濃度のサスペンジョン31を調製した。
上記の2枚の開繊シート2を上記サスペンジョン31中で重ねると共に、15秒間浸漬した後、1枚の樹脂付き繊維シート5としてサスペンジョン浴槽32から引き出した。
得られた樹脂付き繊維シート5を、乾燥炉51で100℃で1分間乾燥させた後、表面温度が400℃の複数の加熱ローラ61を通過させて、熱可塑性樹脂3を溶融させて含浸させた。
開繊処理のバー21,22,23は、ステンレス材料を用い、直径25mmの断面が円形状をしている。3本のバー21,22,23の繊維束1本当たりのテンションは80cN/spであり、振動の周波数は25Hzであり、ストロークは6mmであった。
製造したプリプレグ6における、目付けの平均値、目付けの標準偏差、目付けのCV値、収縮率、繊維交絡値を表1に示す。
【0027】
〔実施例2〕
炭素繊維束1は、帝人株式会社製炭素繊維「テナックス」(商品名) HTS45 P12 12K(フィラメント数12,000本)を30本用い、繊維目付が145g/mmとなるようにする以外は、実施例1に準じてプリプレグ6を製造した。
製造したプリプレグ6における、目付けの平均値、目付けの標準偏差、目付けのCV値、収縮率、繊維交絡値を表1に示す。
【0028】
〔比較例1〕
バーを振動させない以外は、実施例1に準じてプリプレグ6を製造した。
製造したプリプレグ6における、目付けの平均値、目付けの標準偏差、目付けのCV値、収縮率、繊維交絡値を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
上記表1の結果から、バー21,22,23を振動させた実施例1及び実施例2の目付けのCV値はそれぞれ、1.76%、2.68%であり、バー21,22,23を振動させなかった比較例1の目付けのCV値は3.86%であり、バー21,22,23を振動させることで、目付斑が減少していることがわかる。これは、開繊処理において、第2方向に隣接する炭素繊維束1の端部同士が重なったためと考えられる。
また、表1の結果から、実施例1及び実施例2の収縮率がそれぞれ3%、4%であり、比較例1の収縮率8%よりも小さくなっている。これは、開繊処理において、第2方向に隣接する炭素繊維束1の端部同士が交絡して、炭素繊維束1間で保持されるためと考えられる。
表1から、実施例1及び実施例2の繊維交絡値はそれぞれ14cm、31cmであり、比較例1の繊維交絡値144cmよりも小さくなっている。これは、開繊処理において、第2方向に隣接する炭素繊維束1の端部同士が交絡したためと考えられる。
<<変形例>>
以上、実施形態に基づいて説明したが、本発明は実施形態に限られない。例えば、以下で説明する変形例と実施形態の何れかを適宜組み合わせてもよいし、複数の変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0031】
1.開繊処理
開繊処理は、1方向に延伸する繊維を前記第1方向と直交する第2方向に並べた状態の複数本の強化繊維束に対して実施すればよい。ここでいう「複数本」は、プリプレグを構成する強化繊維束の本数と一致してもよいし、一致しなくてもよい(実施形態参照)。
実施形態では、2枚の開繊シートを上下に重ねていたが、例えば、複数枚の開繊シートの端部同士を第2方向に重なるように第2方向に配して1枚の繊維シートとしてもよいし、複数枚の開繊シートの端部を近接させた状態で、再度開繊処理を行って1枚の繊維シートとしてもよい。
【0032】
2.樹脂の供給
実施形態では、熱可塑性樹脂の粉末を液体に分散させたサスペンジョンを利用したが、熱可塑性樹脂シートを開繊シートや繊維シートに供給し、その後に熱により溶融させて、繊維束に含浸させるようにしてもよい。
また、溶融状態の熱可塑性樹脂を開繊シートや繊維シートに供給してもよい。この場合、樹脂含浸処理を行ってもよいし、行わなくてもよい。
【0033】
実施形態では、2枚の開繊シートをサスペンジョン浴槽内で上下に重ねていたが、例えば、複数枚の開繊シートのそれぞれに樹脂を供給し、樹脂含浸処理で上下に重ねてもよいし、樹脂含浸処理を終了後に加圧・加熱処理を行い、当該加圧・加熱処理で重ねてもよい。
【0034】
3.プリプレグの回収
実施形態では、製造されたプリプレグをボビンに回収していたが、所定寸法に切断してカートンに回収してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 強化繊維束(炭素繊維束)
2 開繊シート
3 熱可塑性樹脂
4 繊維シート
5 樹脂付き繊維シート
6 プリプレグ

図1
図2