(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162427
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】グランドパッキン
(51)【国際特許分類】
F16J 15/22 20060101AFI20221017BHJP
【FI】
F16J15/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067272
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 幸一
(72)【発明者】
【氏名】高山 剛
(72)【発明者】
【氏名】井上 広大
【テーマコード(参考)】
3J043
【Fターム(参考)】
3J043AA10
3J043BA02
3J043CA10
3J043CB14
3J043CB18
3J043DA11
(57)【要約】
【課題】グランドパッキンの耐久性を向上させる。
【解決手段】グランドパッキン(1)は、リング状に形成され、膨張黒鉛テープ(10)を巻いてなる内周部分(1a)を有する。膨張黒鉛テープ(10)の表面には、フッ素樹脂からなる樹脂膜(2)が設けられる。樹脂膜(2)は、摺動面(3)を構成する。膨張黒鉛テープ(10)の表面には、複数の孔(5)が形成される。樹脂膜(2)は、その孔(5)に入り込む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張黒鉛テープを巻いてなる内周部分を有し、
前記膨張黒鉛テープの表面にフッ素樹脂からなる樹脂膜が設けられ、
前記樹脂膜が摺動面を構成するリング状のグランドパッキンであって、
前記膨張黒鉛テープの表面には、複数の孔が形成され、
前記樹脂膜は、前記孔に入り込む、グランドパッキン。
【請求項2】
請求項1に記載されたグランドパッキンにおいて、
前記孔は、前記膨張黒鉛テープを貫通する、グランドパッキン。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたグランドパッキンにおいて、
前記膨張黒鉛テープの表面には、凹凸が形成され、
前記樹脂膜は、前記凹凸に密着した状態に設けられる、グランドパッキン。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載されたグランドパッキンにおいて、
前記樹脂膜は、フッ素樹脂の塗膜を焼成してなる焼成膜である、グランドパッキン。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載されたグランドパッキンにおいて、
前記樹脂膜をなすフッ素樹脂は、四フッ化エチレン樹脂を含む、グランドパッキン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グランドパッキンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、グランドパッキンとして、膨張黒鉛テープを金型でリング状に成形してなるパッキンが知られている。例えば、特許文献1には、膨張黒鉛テープの表面にフッ素樹脂粉末を付着させたものを用いたグランドパッキンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようなグランドパッキンでは、フッ素樹脂からなる樹脂膜が内周面に形成されて摺動面を構成する。この樹脂膜には、回転動作や往復動作を行う作動軸がその動作に伴って摺動し、作動軸の摺動による力が作用する。このため、当該グランドパッキンを長期間に亘って使用したり、作動軸との間の摺動抵抗が高くなる環境下、例えば作動軸との間で氷結が発生する低温環境で使用したりすると、樹脂膜が膨張黒鉛テープで構成された内周部分から剥離するおそれがある。樹脂膜の剥離は、グランドパッキンの耐久性を低下させる。
【0005】
本開示の技術の目的は、グランドパッキンの耐久性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の技術は、リング状のグランドパッキンを対象とする。本開示の技術に係るグランドパッキンは、膨張黒鉛テープを巻いてなる内周部分を有する。膨張黒鉛テープの表面には、フッ素樹脂からなる樹脂膜が設けられる。樹脂膜は、グランドパッキンの摺動面を構成する。膨張黒鉛テープの表面には、複数の孔が形成される。樹脂膜は、その孔に入り込む。
【0007】
この構成では、グランドパッキンの摺動面を構成する樹脂膜が膨張黒鉛テープの表面に形成された孔に入り込んで、孔によるアンカー効果が発揮される。そのことで、グランドパッキンにおいて、膨張黒鉛テープで構成された内周部分に対する樹脂膜の接合強度が高められる。これにより、グランドパッキンの内周部分から樹脂膜が剥離するのを抑制できる。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、グランドパッキンの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、流体機器のグランドパッキンが使用される軸封部の概略構成を例示する断面図である。
【
図2】
図2は、グランドパッキンを例示する斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線におけるグランドパッキンの断面図である。
【
図4】
図4は、グランドパッキンの内周部分を構成する膨張黒鉛シートの概略構成を例示する断面斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4のVで囲んだ箇所の膨張黒鉛シートの概略構成を例示する断面図である。
【
図6】
図6は、グランドパッキンの素材である加工テープの概略構成を例示する平面図である。
【
図7】
図7は、グランドパッキンの製造に使用される塗工焼成システムを例示する図である。
【
図8】
図8は、グランドパッキンの製造において膨張黒鉛シートを金型にセットした状態を例示する平面図である。
【
図9A】
図9Aは、グランドパッキンの製造において成形時の様子を例示する断面図である。
【
図9B】
図9Bは、グランドパッキンの製造において成形時の様子を例示する断面図である。
【
図10】
図10は、変形例のグランドパッキンの内周部分を構成する膨張黒鉛シートの概略構成を示す
図5相当図である。
【
図11】
図11は、変形例のグランドパッキンの内周部分を構成する膨張黒鉛シートの要部を例示する断面図である。
【
図12】
図12は、膨張黒鉛シートに孔開け加工を施す他の孔開け装置を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
この実施形態のグランドパッキン1は、回転ポンプや往復動ポンプなどのポンプ、バルブ、攪拌機などの各種の流体機器100にシール材として使用される。
【0012】
図1に示すように、流体機器100は、スタフィングボックス101と、スタフィングボックス101に挿通された作動軸102とを備える。スタフィングボックス101の内周面と作動軸102の外周面との間には、環状空間Sが形成される。グランドパッキン1は、その環状空間Sに軸方向(作動軸102に沿う方向)に並べた状態で複数設けられる。各グランドパッキン1には、作動軸102が挿通される。これら複数のグランドパッキン1は、スタフィングボックス101の外側に配置されたパッキン押え103によって軸方向に詰め込まれる。
【0013】
グランドパッキン1は、パッキン押え103で圧縮される(潰される)ことで、スタフィングボックス101の内周面および作動軸102の外周面に面接触する。それにより、作動軸102の回転や軸方向への往復動を許容した状態で作動軸102が回転動作や往復動作を行っても、流体が流体機器100の外部に流出することが抑制される。パッキン押え103は、スタフィングボックス101にボルト104で締結される。このパッキン押え103の締め付け具合を調整することによって、グランドパッキン1の内周面と作動軸102の外周面との摩擦抵抗(摩擦力)が調整される。
【0014】
-グランドパッキンの構成-
図2および
図3に示すように、グランドパッキン1は、膨張黒鉛と四フッ化エチレン樹脂(PTFE:Poly Tetra Fluoro Ethylene)を材料として、断面形状が矩形を呈するリング状に成形されたパッキンである。グランドパッキン1の内周面には、フッ素樹脂からなる樹脂膜2が設けられる。この樹脂膜2は、作動軸102と摺動する摺動面3を構成する。グランドパッキン1は、長期間に亘る使用や作動軸102との間の摺動抵抗が高くなる環境下での使用においても、樹脂膜2の剥離を抑制し、良好な摺動性能を発揮するように構成される。
【0015】
グランドパッキン1は、膨張黒鉛テープ10を巻いてなる内周部分1aを有する。ここでいう「内周部分1a」とは、グランドパッキン1を径方向に二分したときの内側半分の部分である。内周部分1aが「膨張黒鉛テープ10を巻いてなる」とは、内周部分1aの一部または全部が巻いた膨張黒鉛テープ10によって構成されていればよい。本例のグランドパッキン1は、膨張黒鉛テープ10を径方向における全体に亘り渦巻き状または同心円状に巻き重ねて一体化された構成を有する。このグランドパッキン1は、例えばダイモールド成形により得られる。膨張黒鉛テープ10は、膨張黒鉛からなるテープであって、例えば母材となる膨張黒鉛シート50をテープ状にカットした帯状物である。膨張黒鉛は、柔軟性と共に耐熱性および耐薬品性を有する。
【0016】
膨張黒鉛テープ10には、炭化水素系潤滑剤などの潤滑剤が含浸されてもよい。膨張黒鉛テープ10に潤滑剤が含浸されると、グランドパッキン1をスタフィングボックス101にセットしてパッキン押え103により圧縮したときに、潤滑剤がグランドパッキン1と作動軸102との間に染み出る。染み出た潤滑剤は、グランドパッキン1の内周面と作動軸102の外周面との摩擦抵抗を低減させる。それにより、樹脂膜2の摩耗を抑制し、摩擦熱の発生を抑えて焼き付きの発生を防止できる。このことは、グランドパッキン1のシール性能を長期に亘って維持するのに有利である。
【0017】
図4~
図6に示すように、樹脂膜2は、グランドパッキン1の内周部分1aを構成する膨張黒鉛テープ10の表面、厳密に述べると膨張黒鉛テープ10のうちグランドパッキン1の内周側に臨む面(以下、内周面とも称する)に設けられる。樹脂膜2は、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)の塗膜60を焼成してなる焼成膜である。当該焼成膜は、耐熱性および耐薬品性と共に滑り性(底摩擦性、自己潤滑性)を有する。樹脂膜2には、機械特性(耐摩耗性や耐クリープ性)の向上などを目的として黒鉛などの充填材が含まれてもよい。
【0018】
膨張黒鉛テープ10の樹脂膜2が設けられる表面には、微細な凹凸4(
図6にドッドハッチングを付して示す)が形成される。本例において、微細な凹凸4は、膨張黒鉛テープ10の内周面の全体に亘って形成される。当該凹凸4は、一般的な面粗し処理により形成される表面粗さをなす凹凸である。この膨張黒鉛テープ10の内周面の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、例えば6.0以上且つ7.5以下である。樹脂膜2は、そうした微細な凹凸4に密着する。膨張黒鉛テープ10の内周面に対する樹脂膜2の接合には、当該微細な凹凸4によりアンカー効果が得られる。
【0019】
膨張黒鉛テープ10の樹脂膜2が設けられる表面にはさらに、複数の孔5が形成される。複数の孔5はそれぞれ、膨張黒鉛テープ10を貫通する貫通孔である。複数の孔5は、互いに間隔をあけて千鳥状に配列される。複数の孔5は、マトリクス状などの他のパターンで配列されてもよい。各孔5の形状は、円形状である。各孔5の形状としては、矩形状などの他の形状も採用できる。ここで述べた孔5の配列および形状は、グランドパッキン1の素材としての膨張黒鉛テープ10、つまりダイモールド成形で圧縮される前の膨張黒鉛テープ10での配列および形状である。樹脂膜2は、これら各孔5に入り込む。膨張黒鉛テープ10の内周面に対する樹脂膜2の接合には、各孔5によってもアンカー効果が得られる。
【0020】
-グランドパッキンの製造方法-
上記構成のグランドパッキン1は、樹脂膜2が片側表面に設けられた膨張黒鉛テープ10(以下、加工テープ10Aと称する)と、樹脂膜2が設けられない膨張黒鉛テープ10(以下、プレーンテープ10Bと称する)とを用いて製造される。加工テープ10Aは、
図4~
図6に示すように微細な凹凸4と複数の孔5が表面に形成された樹脂膜2付きのテープである。プレーンテープ10Bは、微細な凹凸4と複数の孔5がいずれも表面に形成されていない樹脂膜2無しのテープである。
【0021】
加工テープ10Aを作製する工程では、例えば、
図7に示すような塗工焼成システム200が使用される。塗工焼成システム200は、長尺の膨張黒鉛シート50をロールトゥロール方式で搬送しながら、搬送中の膨張黒鉛シート50の片側表面にディスパージョンDをリバース方式で塗工した後に乾燥および焼成する一連の処理を連続実行するシステムである。塗工焼成システム200は、膨張黒鉛テープ10の母材となる膨張黒鉛シート50を処理対象とする。
【0022】
処理対象とする膨張黒鉛シート50の厚さ(膨張黒鉛テープ10の厚さt)は、例えば0.2mm以上且つ0.5mm以下である。この膨張黒鉛シート50において、ディスパージョンDが塗工される表面には、ブラスト処理(例えばショットブラスト)などの一般的な面粗し処理によって微細な凹凸4が予め形成される。
【0023】
塗工焼成システム200は、巻き出し装置201と、巻き取り装置202と、複数のガイドローラ203と、孔開け装置210と、塗工装置220と、乾燥焼成機230と、コントローラ240とを備える。巻き出し装置201、巻き取り装置202、複数のガイドローラ203、孔開け装置210、塗工装置220および乾燥焼成機230の動作は、コントローラ240によって制御される。
【0024】
塗工焼成システム200において、膨張黒鉛シート50は、芯材にロール状に巻かれた状態でセットされる。巻き出し装置201は、ロール状の膨張黒鉛シート50を支持し、膨張黒鉛シート50を一定の速度で送り出す。巻き出し装置201から送り出された膨張黒鉛シート50は、複数のガイドローラ203によって支持されながら搬送され、孔開けゾーンZ1、塗工ゾーンZ2および乾燥焼成ゾーンZ3を順に経て、巻き取り装置202に巻き取られる。
【0025】
孔開けゾーンZ1には、孔開け装置210が配置される。孔開け装置210は、ローラ式孔開け装置210aである。孔開け装置210は、孔開けゾーンZ1に搬送された膨張黒鉛シート50を挟み込む一対のローラ211,213を有する。一方のローラ211は、外部に突出する多数のピン212が外周面の全周に亘って設けられたピケローラ211である。他方のローラ213は、ピケローラ211のピン212が押し付けられた膨張黒鉛シート50を受けるバックアップローラ213である。これらピケローラ211とバックアップローラ213は、互いに逆方向に回転することにより、膨張黒鉛シート50を挟み込んで送り出す。
【0026】
孔開けゾーンZ1においては、ピケローラ211とバックアップローラ213とで送り出される膨張黒鉛シート50に対して、ピケローラ211のピン212が突き刺さることで、複数の孔5が形成される。孔5の直径φと開孔率(所定長さの膨張黒鉛シート50に占める孔5部分の割合)とは、膨張黒鉛シート50をカットして作製される加工テープ10Aの幅を考慮して、加工テープ10Aの強度が低下し過ぎないように設定される。例えば、加工テープ10Aの幅wが6mm以上且つ15mm以下である場合、孔5の直径φは0.1mm以上かつ0.3mm以下とされ、孔5の開孔率は0.1%以上且つ14.1%以下とされる。
【0027】
塗工ゾーンZ2には、塗工装置220が配置される。塗工装置220は、液槽221と、アプリケータローラ222と、バックアップローラ223とを有する。液槽221には、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)の微粒子を水に分散させたディスパージョンDが貯留される。アプリケータローラ222は、下側部分がディスパージョンDに浸かるように液槽221内に配置される。バックアップローラ223は、アプリケータローラ222と隙間をあけて対向するように液槽221外に配置される。
【0028】
アプリケータローラ222およびバックアップローラ223は、互いに同じ方向に回転する。そのことで、バックアップローラ223が膨張黒鉛シート50を両ローラ222,223の隙間を通して搬送すると共に、アプリケータローラ222が液槽221内のディスパージョンDを回転動作で掻き揚げる。これにより、両ローラ222,223の間で膨張黒鉛シート50の片側表面に対してディスパージョンDが転移される。
【0029】
こうして塗工装置220により膨張黒鉛シート50の片側表面に塗工されたディスパージョンDは、膨張黒鉛シート50の表面に形成された微細な凹凸4によって保持され、塗膜60を形成する。膨張黒鉛シート50の表面に微細な凹凸4がないと、ディスパージョンDが膨張黒鉛シート50の表面ではじかれて一部に凝集したり粒状になったりして、膨張黒鉛シート50の表面を覆えない状態となり易いが、本例においては、そのような不具合が抑制される。また、ディスパージョンDは、膨張黒鉛シート50に形成された複数の孔5に入り込む。
【0030】
乾燥焼成ゾーンZ3には、乾燥焼成機230が配置される。乾燥焼成ゾーンZ3に搬送された膨張黒鉛シート50は、乾燥焼成機230に搬入され、乾燥焼成機230の内部を搬送される。乾燥焼成機230の内部には、膨張黒鉛シート50を両側から加熱するヒータ231が設けられる。乾燥焼成機230は、ディスパージョンDが塗工された膨張黒鉛シート50をヒータ231による加熱で乾燥させた後に焼成する。このときの焼成温度は、例えば350℃以上且つ400℃以下の温度である。そうして、膨張黒鉛シート50の片側表面に樹脂膜2が形成される。
【0031】
乾燥焼成機230から搬出された膨張黒鉛シート50は、ガイドローラ203により巻き取り装置202へと案内される。このようにして樹脂膜2付きの膨張黒鉛シート50が得られる。この樹脂膜2付きの膨張黒鉛シート50に対して、必要に応じて潤滑剤を含浸させる。しかる後、樹脂膜2付きの膨張黒鉛シート50を所定の長さと幅にカットすることで、加工テープ10Aが作製される。
【0032】
他方、プレーンテープ10Bは、面粗し処理および孔開け加工を施していない膨張黒鉛シート50を所定の長さと幅にカットすることで作製される。プレーンテープ10Bの母材となる膨張黒鉛シート50にも、潤滑剤を含浸させてもよい。
【0033】
これら加工テープ10Aおよびプレーンテープ10Bを用いてグランドパッキン1を成形する工程では、例えば、
図8、
図9Aおよび
図9Bに示す金型300が使用される。金型300は、円盤状の底型301と、円筒状の外型302と、円柱状の芯型303と、円筒状の押え型306とによって構成される。底型301、外型302および芯型303は、互いに組み合わせられて保持型304を構成する。外型302は、底型301の外周部分に組み付けられる。芯型303は、底型301の中央部分に組み付けられる。保持型304は、平面視で環状の凹部305(キャビティ)を有する。
【0034】
グランドパッキン1を成形する工程では、
図8および
図9Aに示すように、まず、膨張黒鉛テープ10を渦巻き状または同心円状に巻き重ねて保持型304の凹部305内に立てて配置させる。このとき、グランドパッキン1の内周面を構成する芯型303側の少なくとも1周(例えば2周または3周)には加工テープ10A(
図8に格子状のハッチングを付して示す)を用い、残りの部分にはプレーンテープ10Bを用いる。加工テープ10Aは、樹脂膜2が設けられた面を芯型303側に向けて凹部305内にセットする。次いで、
図9Bに示すように、保持型304の凹部305に押え型306を挿入して、凹部305内に配置された膨張黒鉛テープ10(加工テープ10Aおよびプレーンテープ10B)を押し潰すように加圧して圧縮することにより、グランドパッキン1を成形する。
【0035】
このようにして、グランドパッキン1を製造することができる。
【0036】
-実施形態の特徴-
この実施形態のグランドパッキン1によると、摺動面3を構成する樹脂膜2が膨張黒鉛テープ10の表面に形成された孔5に入り込んで、孔5によるアンカー効果が発揮される。そのことで、グランドパッキン1において内周部分に対する樹脂膜2の接合強度が高められる。これにより、長期間に亘る使用や作動軸102との間の摺動抵抗が高くなる環境下でのグランドパッキン1の使用においても、グランドパッキン1の内周部分1aから樹脂膜2が剥離するのを抑制できる。その結果、グランドパッキン1の耐久性を向上させることができる。
【0037】
この実施形態のグランドパッキン1によると、複数の孔5が膨張黒鉛テープ10を貫通する貫通孔である。樹脂膜2が孔5の奥側にまで充填されると、樹脂膜2において孔5によるアンカー効果が好適に得られる。このことは、グランドパッキン1の内周部分1aに対する樹脂膜2の接合強度を高め、ひいてはグランドパッキン1の耐久性を向上させるのに有利である。
【0038】
この実施形態のグランドパッキン1によると、樹脂膜2が微細な凹凸4に密着した状態に設けられる。樹脂膜2が微細な凹凸4に密着されると、樹脂膜2において当該凹凸4によるアンカー効果が得られる。このことは、グランドパッキン1の内周部分1aに対する樹脂膜2の接合強度を高め、ひいてはグランドパッキン1の耐久性を向上させるのに有利である。
【0039】
この実施形態のグランドパッキン1によると、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)の塗膜60を焼成してなる焼成膜である。樹脂膜2が四フッ化エチレン樹脂(PTFE)の焼成膜であると、グランドパッキン1の摺動面3に良好な耐熱性および滑り性が得られる。このことは、グランドパッキン1を高温環境下で使用する場合に信頼性を確保するのに有利である。また、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)は、水に分散させたディスパージョンDの態様で使用できるので、ウェットコーティング技術を利用して膨張黒鉛シート50の表面に樹脂膜2を形成し易く、量産に向いている。
【0040】
-変形例-
図10に示すように、加工テープ10Aでは、樹脂膜2が、膨張黒鉛テープ10の内周面だけでなく、孔5からグランドパッキン1の外周側に臨む面(以下、外周面と称する)にも連続的に広がってもよい。膨張黒鉛テープ10の外周面において、樹脂膜2は、孔5ごとに分離される。膨張黒鉛テープ10の外周面において、隣り合う孔5に対応する樹脂膜2は、一続きになっていてもよい。
【0041】
このような加工テープ10Aを作製するには、膨張黒鉛シート50の表面に対してディスパージョンDを塗工したときに、各孔5に入り込んだディスパージョンDが膨張黒鉛シート50の塗工された面とは反対側の面から滲み出すようにすればよい。そうなるように、ディスパージョンDの塗工方法やディスパージョンDの粘度、孔5の径などが設定される。
【0042】
樹脂膜2が膨張黒鉛テープ10の外周面にまで連続的に設けられると、樹脂膜2と膨張黒鉛テープ10との接触面積が大きくなり、膨張黒鉛テープ10に対する樹脂膜2の接合によりいっそう強固なアンカー効果を得ることができる。これによれば、グランドパッキン1の内周部分1aから樹脂膜2が剥離するのを好適に抑制できる。
【0043】
図11に示すように、グランドパッキン1の内周部分1aをなす膨張黒鉛テープ10の表面に形成された複数の孔5は、膨張黒鉛テープ10を貫通していなくてもよい。これら各孔5は、非貫通のピンホールであってもよく、溝状に形成されていてもよい。
【0044】
各孔5を溝状に形成する場合、例えば、加工テープ10Aの作製において、塗工焼成システム200の孔開けゾーンZ1で搬送中の膨張黒鉛シート50の表面を横並びする複数のピンなどの先鋭状物で引っ掻くことにより、複数の孔5を形成すればよい。膨張黒鉛テープ10の表面にある各孔5が貫通孔でなくても、樹脂膜2がそれら各孔5に入り込むことでアンカー効果を得て、グランドパッキン1の内周部分1aから樹脂膜2が剥離するのを抑制できる。
【0045】
図12に示すように、加工テープ10Aの作製には、膨張黒鉛シート50の表面に複数の孔5を形成する孔開け装置210として、パンチング装置210bを使用してもよい。パンチング装置210bは、基台215と、押圧機216とを有する。
【0046】
巻き出し装置201から送り出された膨張黒鉛シート50は、基台215上を搬送される。押圧機216は、所定の配列で設けられた複数のピン217を有する加工面218を有し、加工面218を基台215に対して接近および離間するように移動可能に構成される。孔開けゾーンZ1に送られた膨張黒鉛シート50の表面には、押圧機216のスタンピング動作により加工面218が押し付けられて複数のピン217が突き刺されることで、複数の孔5が形成される。この場合、膨張黒鉛シート50は、パンチング装置210bによる1回のスタンピング動作で孔開け加工が行える単位長さずつ間欠的に送られる。
【0047】
以上のように、本開示の技術の例示として、好ましい実施形態について説明した。しかし、本開示の技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。上記実施形態について、本開示の技術の趣旨を逸脱しない範囲においてさらに色々な変形が可能なこと、またそうした変形も本開示の技術の範囲に属することは、当業者に理解されるところである。
【0048】
例えば、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0049】
グランドパッキン1は、加工テープ10Aのみを用いて構成されてもよい。このグランドパッキン1を製造するには、例えば、加工テープ10Aを樹脂膜2が設けられた面を芯型303側に向けた状態に渦巻き状または同心円状に巻き重ねて保持型304の凹部305内に立てて配置させればよい。
【0050】
また、グランドパッキン1の外周部分1b(
図3参照)は、リング状に打ち抜いた膨張黒鉛シート50を複数積層して一体化させた構成であってもよい。グランドパッキン1のうちリング状の膨張黒鉛シート50を複数積層されてなる部分は、内周部分1aの一部を含んでもよい。要は、グランドパッキン1において、内周部分1aが膨張黒鉛テープ10(加工テープ10A)を巻いてなり、膨張黒鉛テープ10の表面に設けられた樹脂膜2が作動軸102との摺動面3を構成していればよい。
【0051】
樹脂膜2は、加工テープ10Aの両面に設けられてもよい。膨張黒鉛シート50に樹脂膜2を形成するときには、膨張黒鉛シート50を液槽221に溜めたディスパージョンDに搬送しながら浸漬することで膨張黒鉛シート50の両面にディスパージョンDを塗布するデップコーティング方式や、ダイヘッドがディスパージョンDを押し出しながら膨張黒鉛シート50に塗布するスロットダイ方式など、リバース方式以外のコーティング方式を利用して、ディスパージョンDが膨張黒鉛シート50の表面に塗工されてもよい。
【0052】
加工テープ10Aの表面にある微細な凹凸4は、一対のプレスローラで加工されてもよい。片方のプレスローラである加工ローラの表面には、微小な多数の凸部が設けられる。一対のプレスローラは、互いに逆方向に回転することにより、加工テープ10Aの母材となる膨張黒鉛シート50を挟み込んで送り出す。このとき、膨張黒鉛シート50の片側表面に対して、加工ローラの表面形状が転写され、微細な凹凸4が形成される。
【0053】
樹脂膜2は、四フッ化エチレンパーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA)や四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)以外のフッ素樹脂を含んでもよい。樹脂膜2は、作動軸102に対するグランドパッキン1の摺動抵抗を低減できるのであれば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)以外のフッ素樹脂(PFA、FEP、ETFE、PVDFなど)によって形成されてもよい。樹脂膜2は、耐熱性、耐摩耗性などの観点から焼成膜であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本開示の技術は、グランドパッキンについて有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 グランドパッキン
1a 内周部分
2 樹脂膜
3 摺動面
4 凹凸
5 孔
10 膨張黒鉛テープ