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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162441
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】フィルタ装置及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 7/09 20060101AFI20221017BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20221017BHJP
【FI】
H03H7/09 A
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067298
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 ジャア
(72)【発明者】
【氏名】野原 正美
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏文
【テーマコード(参考)】
5H770
5J024
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770BA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770KA01W
5H770QA12
5H770QA21
5J024AA01
5J024CA02
5J024CA06
5J024CA10
5J024DA01
5J024DA26
5J024DA35
5J024EA08
5J024KA01
(57)【要約】
【課題】低コスト化と小型化と低ノイズ化とを並立させたフィルタ装置及び電力変換装置を提供する。
【解決手段】
一端が直流電源側に接続され、他端が電力変換回路側に接続されるフィルタ装置であって、正極配線と、負極配線と、前記正極配線及び前記負極配線の間に並列に接続された第1コンデンサ及び第2コンデンサと、を備え、前記正極配線は、前記一端側に前記第1コンデンサと接続する第1正極接続部と、前記他端側に前記第2コンデンサと接続する第2正極接続部と、を有し、前記負極配線は、前記一端側に前記第2コンデンサと接続する第1負極接続部と、前記他端側に前記第2コンデンサと接続する第2負極接続部と、を有し、前記正極配線と前記負極配線とは交差する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が直流電源側に接続され、他端が電力変換回路側に接続されるフィルタ装置であって、
正極配線と、負極配線と、前記正極配線及び前記負極配線の間に並列に接続された第1コンデンサ及び第2コンデンサと、を備え、
前記正極配線は、前記一端側に前記第1コンデンサと接続する第1正極接続部と、前記他端側に前記第2コンデンサと接続する第2正極接続部と、を有し、
前記負極配線は、前記一端側に前記第2コンデンサと接続する第1負極接続部と、前記他端側に前記第2コンデンサと接続する第2負極接続部と、を有し、
前記正極配線と前記負極配線とは交差する
フィルタ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたフィルタ装置であって、
前記正極配線と前記負極配線との交差部は、積層している
フィルタ装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたフィルタ装置であって、
前記正極配線と前記負極配線とは、前記第1コンデンサおよび第2コンデンサそれぞれの複数面に沿って配置される
フィルタ装置。
【請求項4】
請求項2に記載されたフィルタ装置であって、
前記第2コンデンサの容量が前記第1コンデンサの容量よりも小さいとき、前記正極配線と前記負極配線とは、前記第2コンデンサの下面で交差する
フィルタ装置。
【請求項5】
請求項2に記載されたフィルタ装置であって、
前記交差部は、蛇行している
フィルタ装置。
【請求項6】
請求項1に記載されたフィルタ装置であって、
前記正極配線と前記負極配線とのインダクタンスは、前記第1コンデンサまたは前記第2コンデンサのインダクタンスと略等しい
フィルタ装置。
【請求項7】
請求項1から6に記載されたフィルタ装置を備えた
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ装置及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載されている電力変換装置は、漏れ電流により発生する伝導性ノイズの対応について、国際規格に追加された高電圧伝導ノイズ規格に基づき各カーメーカーが制定した独自規格を満たす必要がある。それと同時に、電力変換装置は搭載される電気自動車の発展に合わせて、近年、小型化と低コスト化の要求が高まっている。そのため、電力変換装置に備わるフィルタ装置は、低コスト化及び小型化を維持させつつ高周波ノイズ減衰性能を向上させることが強く求められている。
【0003】
本願発明の背景技術として、下記の特許文献1では、大電流適用のため、低周波成分を通すインダクタンス成分と高周波成分を通す抵抗成分を並列接続する構造を示す技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-273207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車載インバータなど高電圧・大電流応用の場合には、高圧・大電流応用且つ小型化により限られた配置空間で、いかに直流配線のインダクタンス成分を自由にコントロールし、コンデンサのESL(Equivalent Series Inductance)成分に容易に揃えられるか、が課題となる。しかしながら、特許文献1の技術では、高圧・大電流応用且つ小型化により限られた配置空間において、低コスト化及び小型化を維持しながら、直流配線のインダクタンス成分をコンデンサのESL成分に揃えて高周波ノイズ減衰性能を向上させることが困難である。
【0006】
これを鑑みて、本発明は、低コスト化と小型化と低ノイズ化とを並立させたフィルタ装置及び電力変換装置を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフィルタ装置およびそれを備えた電力変換装置は、一端が直流電源側に接続され、他端が電力変換回路側に接続されるフィルタ装置であって、正極配線と、負極配線と、前記正極配線及び前記負極配線の間に並列に接続された第1コンデンサ及び第2コンデンサと、を備え、前記正極配線は、前記一端側に前記第1コンデンサと接続する第1正極接続部と、前記他端側に前記第2コンデンサと接続する第2正極接続部と、を有し、前記負極配線は、前記一端側に前記第2コンデンサと接続する第1負極接続部と、前記他端側に前記第2コンデンサと接続する第2負極接続部と、を有し、前記正極配線と前記負極配線とは交差する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低コスト化と小型化と低ノイズ化とを並立させたフィルタ装置及び電力変換装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態にかかる電力変換装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】ノーマルモード高電圧伝導ノイズ低減用のノイズフィルタの等価回路図である。
図3図2にノイズフィルタの寄生成分を含めた等価回路図である。
図4図3のノイズフィルタの挿入ロスを示す特性図である。
図5】ノイズフィルタの構造の一例を示す図である。
図6】従来技術を適用したノイズフィルタの寄生成分を含めた等価回路図である。
図7図6のノイズフィルタの挿入ロスを示す特性図である。
図8】第1の実施形態にかかるノイズフィルタの構造を示す図である。
図9図8のノイズフィルタの挿入ロスを示す特性図である。
図10】第2の実施形態にかかるノイズフィルタの構造を示す図である。
図11】第3の実施形態にかかるノイズフィルタの構造を示す図である。
図12】従来技術と第1の実施形態と第2の実施形態との比較を示す図である。
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0011】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0012】
(本発明の全体構成)
図1は、本発明の実施形態にかかる電力変換装置の全体構成を示すブロック図である。
【0013】
電力変換装置1(以下、インバータ1)は種々の回路ブロックおよび素子が格納されている。また、インバータ1は、直流高電圧を給電する高電圧バッテリ2と、インバータ1で直流電圧から変換された交流電圧によって駆動される電気モータ6と、接続されている。
【0014】
インバータ1の筐体は、金属ケースでありGNDストラップ8を介してGNDプレーン9に接続しており、国際規格CISPR25に準拠して、例えば高さが5mmの絶縁物7の上に置かれている構成である。
【0015】
インバータ1は、直流電圧を交流電圧に変換するために、スイッチング回路14を有している。スイッチング回路14は、互いに同じ構成を有する3個の単位スイッチング回路SW1~SW3を備えており、これらを周期的にスイッチングしている。また、単位スイッチング回路SW1~SW3は、それぞれ絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(以下、トランジスタ)TR1,TR2、およびダイオードD1,D2を備えている。なお、図示しないが、インバータ1は、スイッチング回路14の制御信号を生成する制御回路基板を備えている。
【0016】
トランジスタTR1,TR2のそれぞれのコレクタ-エミッタ間にダイオードD1,D2が接続されている。トランジスタTR1のコレクタは、直流配線である正極配線11に電気的に接続され、トランジスタTR2のエミッタは、おなじく直流配線である負極配線12に電気的に接続されている。トランジスタTR1のエミッタは、トランジスタTR2のコレクタに接続されている。また、このエミッタとコレクタとの間に接続されている接続ノードは出力ノードであり、各単位スイッチング回路SW1~SW3から高電圧ACケーブル5を介して、電気モータ6のコイル6-U~6-Wにそれぞれ接続されている。
【0017】
インバータ1の制御信号の流れを説明する。図示しない制御回路基板からのスイッチ制御信号が、単位スイッチング回路SW1~SW3のトランジスタTR1およびTR2のゲートに供給される。このスイッチ制御信号によってトランジスタTR1とTR2は、相補的にオン状態/オフ状態となるようにスイッチング制御される。さらに、トランジスタTR1とTR2とが相補的にオン状態/オフ状態となることによって、出力ノードには、周期的に正極電圧と負極電圧、つまり交流電圧が出力される。
【0018】
なお、トランジスタTR1,TR2の周期的なオン/オフによる出力部の電圧変動によって、スイッチング回路14とインバータ1の筐体との間に、浮遊容量(寄生容量)が発生する。図1では、この浮遊容量を、浮遊容量1-Csとして示している。
【0019】
高電圧電源インピーダンス安定回路網(LISN)3について説明する。高電圧バッテリ2は、高電圧電源インピーダンス安定回路網(LISN)3を介して、インバータ1に給電する。この筐体3は、高電圧バッテリ2の正極電極端子HVPに接続される正極LISN回路部31と、高電圧バッテリ2の負極電極端子HVNに接続される負極LISN回路部32と、を有しており、これらが金属製の筐体に格納されている。LISN3の筐体は、GNDプレーン9に接続されている。正極LISN回路部31と負極LISN回路部32は、高電圧DCケーブル4を介して、インバータ1の直流配線である正極配線11及び負極配線12に、電気的に接続されている。
【0020】
電気モータ6について説明する。電気モータ6は3相電気モータによって構成されており、図示しない回転子と固定子を備えている。また、電気モータ6の筐体はGNDプレーン9と接続されている。この電気モータ6は、インバータ1によって生成された3相の交流電圧を、高電圧ACケーブル5を介して固定子に配置されたU,V,Wの3相のコイル6-U,6-V,6-Wへ供給させている。これにより、三相のコイル6-U,6-V,6-Wが、それぞれ3相の交流電圧に応じた磁界を発生させ、回転子が回転することになる。なお、図1では三相のコイル6-U,6-V,6-Wとモータ6の筐体との間に発生する浮遊容量(寄生容量)を、浮遊容量6-Csとして示している。なお、特に制限されないが、電気モータ6の筐体はGNDプレーン9と接続されている。
【0021】
インバータ1において、正極配線11と負極配線12との間には、直流電圧を平滑化するための平滑コンデンサCxと、ノイズフィルタ装置13を備えている。平滑コンデンサCxは、スイッチング回路14のスイッチング動作時に、直流高電圧と接続するバスバである直流配線11,12において発生するリプル電圧やリプル電流を抑制する。なお、平滑コンデンサCx1とCx2は、ノーマルモードノイズ低減用である。その低減効果または減衰性能は一般的にフィルタの挿入ロスで表現する。以下、コンデンサによる低減メカニズムを説明する。その原理は、ノイズフィルタの実装により直流配線間に低インピーダンス経路を設けることによって、ノイズの外部への流出を抑制することである。また、幅広い周波数帯域での高電圧伝導ノイズを抑制するため、一般的には、並列接続される容量が異なる2つのコンデンサが用いられる。
【0022】
ノイズフィルタ装置13は、正極配線11及び負極配線12を含んだ直流配線を囲む磁性体コアLcと、磁性体コアLcの前段において直流配線11,12と接続される第1接地コンデンサCy1と、磁性体コアLcの後段において直流配線11,12と接続される第2接地コンデンサCy2とを有している。なお、接地コンデンサCy1とCy2および磁性体コアLcは、コモンモードノイズ低減用である。
【0023】
第1接地コンデンサCy1は、正極配線11と第1接地点G1との間に接続される接地コンデンサCy11と、負極配線12と第1接地点G1との間に接続される接地コンデンサCy12と、から構成される。同様に、第2接地コンデンサCy2は、正極配線11と第2接地点G2との間に接続される接地コンデンサCy21と、負極配線12と第2接地点G2との間に接続される接地コンデンサCy22と、から構成される。
【0024】
ノイズフィルタ装置13は、高電圧バッテリ2から供給される直流高電圧のノイズを減衰させつつ、電力変換部であるスイッチング回路14に直流高電圧を入力する。ノイズを引き起こすノイズ電流は、直流高電圧バッテリ2とインバータ1との間に接続する電源配線またはケーブルに漏れている電流であり、GND間に流れているためコモンモード電流である。
【0025】
コモンモード電流は、トランジスタTR1,TR2が、周期的にオン状態/オフ状態となるスイッチング動作時に発生する、対地電圧変動によるものである。このスイッチング回路14の出力部に発生した電圧変動により、スイッチング回路14とインバータ1の筐体との間に寄生する浮遊容量1-Csや、モータ6のコイル6-U~Wと筐体との間に存在する浮遊容量6-Csを通して、インバータ1およびモータ6の筐体間にコモンモード電流が流れ、その電流により高電圧伝導ノイズが発生する。よって、高電圧伝導ノイズを低減するためには、コモンモード電流を低減する必要がある。インバータ1では、ノイズフィルタ装置13の構成を用いることにより、高電圧伝導ノイズの主な発生要因であるノイズ電流に対応させ、高電圧伝導ノイズ規格にも対応しながらノイズを減衰させている。
【0026】
(ノイズ規格について)
高電圧伝導ノイズ規格についての説明をする。ノイズ規格は、一般的に0.15MHzから108MHzまでの周波数帯での規制値を規定するものである。高電圧伝導ノイズ規格は、2016年10月に国際無線障害特別委員会(CISPR)が作成した国際規格であるCISPR25 Ed4において追加された規格である。これは、特に種々の用途で用いられているFM放送周波数帯域(76MHz~108MHz)のノイズを、他の周波数帯域に比べて低くするように規制する内容である。高電圧伝導ノイズは、たとえば、車載電気電子機器の誤動作を引き起こす恐れがある。そのため、出荷前の段階においてインバータ1で発生する高電圧伝導ノイズ量を実測し、そのノイズ発生量が、各国法規制及び顧客要求仕様で規定される規制値以下にならなければならない。そこで、インバータ1では高電圧伝導ノイズ規格に適合させ、効果的なフィルタ構成にするためにノイズフィルタ装置13が採用されている。
【0027】
図2は、ノーマルモード高電圧伝導ノイズ低減用のノイズフィルタ装置13の等価回路図である。
【0028】
正極直流配線11と負極直流配線12にコンデンサCx1とCx2が並列接続される。P1とN1はCx1とそれぞれ正極直流配線11と負極直流配線12との接続部であり、P2とN2はCx2とそれぞれ正極直流配線11と負極直流配線12との接続部である。また、PinとNinはそれぞれ正極側と負極側の入力端子であり、ノイズ源であるスイッチング回路14と正極直流配線11、負極配線12との接続部を表している。同様に、PoutとNoutはそれぞれ正極側と負極側の出力端子であり、正極直流配線11、負極配線12と高電圧DCケーブル4との接続部を表している。
【0029】
ノイズ低減効果NSは、PinとNinとの間に入力される入力電圧Vin(ノイズ源を模擬)と、PoutとNoutとの間に出力される出力電圧Voutを用いて、下記の式(1)で表される。
【0030】
NS=|Vout/Vin|…式(1)
【0031】
所望のノイズ低減効果NSを得るためには、理想的には対象周波数帯域で低インピーダンスとなるようなコンデンサCx1とCx2の定数を選択するのみでよいが、実際の部品(素子)には寄生成分が存在する。例えば、コンデンサ部品や直流配線はリード線などの寄生インダクタンス(以下、ESL)成分が存在する。
【0032】
図3は、図2にノイズフィルタ装置13の寄生成分を含めた等価回路図である。
【0033】
図3には、第1コンデンサCx1と第2コンデンサCx2が有する寄生インダクタンスをそれぞれ等価直列インダクタンスLc1,Lc2で表している。また、正極接続部P1とP2との間の正極直流配線11が有するインダクタンス成分は等価直列インダクタンスLp1、負極接続部N1とN2との間の負極直流配線12が有するインダクタンス成分は、等価直列インダクタンスLn1で表される。同様に、Lp0はPout-P1間、Lp2はPin-P2間にある正極直流配線が有するインダクタンス成分であり、Ln0はNout-N1間、Ln2はNin-N2間にある負極直流配線が有するインダクタンス成分である。
【0034】
k1はインダクタンスLp1とLn1を有するインダクタ同士の結合係数である。なお、Lp0とLn0、Lp2とLn2のインダクタンス成分を有するインダクタ間の結合係数は図示されていないが実計算には使用されている。また、インダクタLp1とLn1に付された*印は、磁界の発生方向を示している。
【0035】
電源Gnはスイッチング回路14により発生するノイズ電圧を模擬するAC電圧源で、V1は電源Gnを計測する電圧計である。抵抗R3とR4はそれぞれ電源Gnの内部抵抗と出力側に接続する部品の等価抵抗を模擬する。V2は抵抗R4の電圧を計測する電圧計である。
【0036】
図4は、図3のノイズフィル装置13の挿入ロスを示す特性図である。
【0037】
図4の特性図は、横軸が周波数F(Frequency[MHz])を示し、縦軸がノイズフィルタ装置13の挿入ロス、すなわち図3に示した電圧V2とV1の比をデシベル(dB)で表している。電圧V2とV1の比は小さくすればするほど、フィルタの挿入ロスが高くなり、減衰性能が良くなる。
【0038】
特性曲線GLb1は、コンデンサCx1とCx2の等価直列インダクタンスLc1とLc2をそれぞれ0nHとしたときの周波数Fの変化に伴う挿入ロスの変化を示している。一方、特性曲線GLb0は、等価直列インダクタンスLc1とLc2をそれぞれ典型的な値である40nHとしたときの挿入ロスの変化を示している。なお、特性曲線GLb0とGLb1を求めるときのLc1とLc2以外の回路素子のパラメータは、同じである。
【0039】
特性曲線GLb0とGLb1を比較すると、対象周波数帯域である20MHz以上の高周波帯域では、特性曲線GLb0のフィルタの挿入ロスは特性曲線GLb1と比較して悪化している。前述したように、高電圧伝導ノイズ規格は0.15MHzから108MHzまでの周波数帯域での規制値を規定し、特に、種々の用途で用いられているFM周波数帯域(76MHz~108MHz)を含めた20MHz以上の高周波帯域では、他の周波数帯域に比べて低くするように規制する内容となっているため、フィルタの挿入ロスの改善が必要になる。
【0040】
図5は、ノイズフィルタの構造の一例を示す図である。
【0041】
このノイズフィルタの構造例は、接続部間の配線111と121はそれぞれ長さが約10mmで、幅が約15mmであり、そのインダクタンス成分は計算すると、約10nHである。これらの値を使って、等価回路(図6)を用いてフィルタの挿入ロスを計算する。計算結果は図7に図示する。
【0042】
(従来技術とその課題)
図6は、従来技術を適用したノイズフィルタの寄生成分を含めた等価回路図である。
【0043】
図6は、図3に示した等価回路において、第1コンデンサCx1と正極配線11との接続配線と、第2コンデンサCx2と正極配線11との接続配線と、を交差させている。なお、この回路構成を用いて、第1コンデンサCx1と第2コンデンサCx2を構造的に交差させた例を、後述の図12(b)に示す。
【0044】
この接続配線の交差の意図について説明する。従来、ESL成分を相殺させる技術として、リード線が短いコンデンサを採用したり、リード線を切断し短くしたりする技術があるが、カスタム品の追加や切断作業が必要となり、電力変換装置の製造価格が上昇する課題が新たに生まれる。この課題解決のために、図6に示す回路構成を用いてESL成分を相殺させる。
【0045】
この構成のもう1つの要点として、接続部間の配線のインダクタンス成分Lp1とLn1をコンデンサのESL成分であるLc1とLc2に揃えることができる点である。これにより、フィルタの挿入ロスを改善できる。例えば、制御基板など低電圧・小電流応用の場合、コンデンサはリード線無しの面実装タイプが多くESL成分が数nH程度であるため、基板配線トレースの長さ・幅などを調整すると、容易に接続部間の配線のインダクタンス成分をコンデンサのESL成分に揃えることができる。
【0046】
しかし、車載インバータなど高電圧・大電流応用の場合は、ノイズフィルタに用いられるコンデンサは高電圧対応タイプであり、リード線付きでサイズも低電圧対応タイプに比べると大きいため、それに合わせてESL成分制御基板など低電圧・小電流応用のものに比べて大きくなり、約40~50nH程度になっている。この場合、熱成立性を維持するため、直流配線を幅太くする必要があり、小型化の要求により直流配線の配置空間も限られるため、バスバを短くする必要もある。つまり、直流配線のインダクタンス成分は小さくなる方向となり、大きくなるコンデンサのESL成分に揃えることが困難となる。この結果、フィルタの挿入ロスの改善効果が得られなくなる課題が生まれる。本発明は、図6に示した回路の性質を利用しつつ、構造的にこの課題を解決するためのものである。
【0047】
図7は、図6のノイズフィルタの挿入ロスを示す特性図である。
【0048】
特性曲線GLb2は、インダクタLp1とLn1を10nHとしたときの周波数Fの変化に伴うフィルタの挿入ロスの変化を示している。特性曲線GLb0は、交差配線がないときの挿入ロスの変化を示し、図4のGLb0と同じである。なお、特性曲線GLb0とGLb2を求めるときの配線交差構成以外の回路素子のパラメータは、図3と同じである。
【0049】
図7に示すように、寄生インダクタンスとコンデンサESL成分を揃えないと、特性曲線GLb0とGLb2にほぼ変化がないように、フィルタの挿入ロスに改善効果が得られなくなる。
【0050】
(第1の実施形態)
図8は、第1の実施形態にかかるノイズフィルタ装置13の構造を示す図である。
【0051】
図8(a)は、本発明の第1の実施形態に係わるノイズフィルタ装置13の回路図、図8(b)はその3次元構造の構成を示す図である。図8(a)には、インバータ1の筐体に格納されている回路ブロックおよび部品のうち、一端(図8(a)の左側)が直流電源(高電圧バッテリ2)側に接続され、他端(図8(a)の右側)が電力変換回路(スイッチング回路14)側に接続されるノイズフィルタ装置13が示されている。
【0052】
本発明の特徴は、第1正極接続部P1と第2正極接続部P2とを接続する正極配線111と、第1負極接続部N1と第2負極接続部N2とを接続する負極配線121とが、交差することである。この交差部は、図8(b)に示すように積層になっており、この部分の面積・間隔及び配線の長さ・幅を調整することで、正極配線111と負極配線121のインダクタンス成分をコントロールでき、第1コンデンサCx1及び第2コンデンサCx2のESL成分であるLc1とLc2に揃えることができる。
【0053】
図9は、図8のノイズフィルタの挿入ロスを示す特性図である。
【0054】
本発明を採用した特性曲線GLb3は、Lp1とLn1のインダクタンス成分を概ね40nH、としたときの周波数Fの変化に伴う挿入ロスの変化を示しており、20MHz以上の高周波帯域で挿入ロスは20dB以上の改善効果が得られるようになった。
【0055】
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態にかかるノイズフィルタ装置13の構造を示す図である。なお、図10(a)は図8(a)と同じである。
【0056】
図10(b)は、正極配線111と負極配線121の交差部を多面体形状キャパシタである第1コンデンサCx1及び第2コンデンサCx2の複数面に沿うように配置されている。また、コンデンサCx2の容量がコンデンサCx1よりも小さい場合、バスバ交差部がコンデンサCx2の下面に沿う。コンデンサCx2の下面はケース(インバータ1の筐体)への設置側である。これにより、バスバの配回しの面積をさらに確保でき、より正極配線111と負極配線121のインダクタンス成分を稼ぐことができる。
【0057】
また、交差する正極配線111と負極配線121とは、第1コンデンサおよび第2コンデンサそれぞれの複数面に沿って配置され、さらに、バスバ交差部は蛇行するように配回されている。これにより、さらにバスバの配回し面積を確保することができる。
【0058】
なお、例えば、バスバ交差部はキャパシタのノイズ源に近い側若しくは出力端子に近い側の側面のみに沿わせて配置する構成でも良い。
【0059】
(第3の実施形態)
図11は、第3の実施形態にかかるノイズフィルタ装置13の構造を示す図である。なお、図11(a)は、図8(a)、図10(a)と同じ図である。
【0060】
図11(b)はキャパシタのノイズ源(電力変換装置側)に近い側の側面のみに沿わせて交差部を配置している。このようにすることで、高さ方向のサイズの大型化を防ぐことができる。
【0061】
図12は、従来技術と第1の実施の形態と第2の実施形態との比較を示す図である。なお、図12(a)は図5と同じ構造のノイズフィルタであり、図12(b)は図6の回路図を構造化させたノイズフィルタである。また、図12(c)は第1の実施形態、図12(d)は第2の実施形態を示した図である。
【0062】
図12には、図12(a)や図12(b)を実施した場合、と比較して、第1の実施形態である図12(c)や第2の実施形態である図12(d)は、インダクタンス成分が増加している。さらに、バスバ面積が第1の実施形態よりも多い第2の実施形態は、第1の実施形態よりもインダクタンス成分がさらに増加している。
【0063】
図12(c)と図12(d)の配線構造からわかるように、交差部は電流の流れる方向が、同じ方向になるため、同じ方向の磁界を発生する。そのため、この部分での相互係数及び相互インダクタンスは正の値となり、配線全体のインダクタンス成分がより大きくなる方向となる。つまり、前述の通り、交差部の面積・間隔及び配線の長さ・幅を調整することにより、配線のインダクタンス成分をコントロールしてコンデンサのESL成分に揃えることができる。これにより、コンデンサのESL成分をキャンセルすることにより、フィルタの挿入ロス特性を改善させ、高周波ノーマルモード高電圧伝導ノイズを抑制することができる。
【0064】
以上説明した本発明の第1~第3の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0065】
(1)フィルタ装置13は、一端が直流電源側に接続され、他端が電力変換回路側に接続され、正極配線11と、負極配線12と、正極配線11及び負極配線12の間に並列に接続された第1コンデンサCx1及び第2コンデンサCx2と、を備え、正極配線11は、一端側に第1コンデンサCx1と接続する第1正極接続部P1と、他端側に第2コンデンサCx2と接続する第2正極接続部P2と、を有し、負極配線12は、一端側に第2コンデンサCx2と接続する第1負極接続部N1と、他端側に第2コンデンサCx2と接続する第2負極接続部N2と、を有し、正極配線11と負極配線12とは交差する。このようにしたことで、低コスト化と小型化と低ノイズ化とを並立させたフィルタ装置及び電力変換装置を提供できる。
【0066】
(2)フィルタ装置13において、正極配線11と負極配線12との交差部は、積層している。このようにしたことで、この部分の面積・間隔及び配線の長さ・幅を調整することで、正極配線11と負極配線12のインダクタンス成分をコントロールでき、第1コンデンサCx1及び第2コンデンサCx2のESL成分であるLc1とLc2に揃えることができる。
【0067】
(3)フィルタ装置13において、正極配線11と負極配線12とは、第1コンデンサCx1および第2コンデンサCx2それぞれの複数面に沿って配置される。このようにしたことで、バスバ11,12の配回し面積を確保することができる。
【0068】
(4)フィルタ装置13において、第2コンデンサCx2の容量が第1コンデンサCx1の容量よりも小さいとき、正極配線11と負極配線12とは、第2コンデンサCx2の下面で交差する。このようにしたことで、バスバ11,12の配回し面積を確保することができる。
【0069】
(5)フィルタ装置13において、正極配線11と負極配線12との交差部は、蛇行している。このようにしたことで、バスバ11,12の配回し面積を確保することができる。
【0070】
(6)フィルタ装置13において、正極配線11と負極配線12とのインダクタンスは、第1コンデンサCx1または第2コンデンサCx2のインダクタンスと略等しい。このようにしたことで、フィルタの挿入ロスを改善できる。
【0071】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や他の構成を組み合わせることができる。また本発明は、上記の実施形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。例えば、上述した実施の形態では、ハイブリッド自動車又は電気自動車等の車両に搭載される電力変換装置を例に説明したが、本発明はこれらに限らず建設機械等や鉄道の車両に用いられる電力変換装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1…電力変換装置(インバータ)
1-Cs…スイッチング回路・筐体間浮遊容量
2…高電圧バッテリ
3…高電圧電源インピーダンス安定回路網(LISN)
31…正極LISN回路部
32…負極LISN回路部
4…高電圧DCケーブル
5…高電圧ACケーブル
6…電気モータ
6-U…U相コイル
6-V…V相コイル
6-W…W相コイル
6-Cs…コイル・筐体間浮遊容量
7…絶縁物
8…GNDストラップ
9…GNDプレーン
10…電流
10a…逆向きの電流
10b…同向きの電流
11…正極(直流)配線
12…負極(直流)配線
13…ノイズフィルタ装置
14…スイッチング回路
111…第1正極接続部P1と第2正極接続部P2とを接続する正極配線
121…第1負極接続部N1と第2負極接続部N2とを接続する負極配線
SW1~SW3…単位スイッチング回路
TR1、TR2…絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ
D1、D2…ダイオード
Cx…平滑コンデンサ
Gn…電源
Lc…磁性体コア
Lc1、Lc2…等価直列インダクタンス
Lp0~Lp3…等価直列インダクタンス(正極配線)
Ln0~Ln3…等価直列インダクタンス(負極配線)
k1…正極直流配線・負極直流配線間の結合係数
Cy1、Cy2…接地コンデンサ
Cy11、Cy21…正極直流配線・筐体間の接地コンデンサ
Cy12、Cy22…負極直流配線・筐体間の接地コンデンサ
Cx1…正極直流配線・負極直流配線間の第1コンデンサ
Cx2…正極直流配線・負極直流配線間の第2コンデンサ
P1…第1コンデンサCx1と正極配線11の接続部である第1正極接続部
P2…第2コンデンサCx2と正極配線11の接続部である第2正極接続部
N1…第1コンデンサCx1と負極配線12の接続部である第1負極接続部
N2…第2コンデンサCx2と負極配線12の接続部である第2負極接続部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12