(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162453
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】ニッケル水素二次電池用正極材料及びニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/52 20100101AFI20221017BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
H01M4/52
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067321
(22)【出願日】2021-04-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】里見 直俊
(72)【発明者】
【氏名】畑 未来夫
(72)【発明者】
【氏名】花村 直也
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA05
4G048AB02
4G048AB04
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA12
5H050BA14
5H050CA03
5H050CA04
5H050CB16
5H050FA18
5H050GA15
5H050HA02
5H050HA06
5H050HA07
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】本発明は、体積抵抗率が低減されていることでニッケル水素二次電池の特性を向上させることができる、ニッケル水素二次電池用正極材料及びニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法を提供する。
【解決手段】細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下である微分細孔分布において、微分細孔体積の最高ピークの極大値が、細孔直径1.7nm以上10.0nm以下の範囲に位置するニッケル水素二次電池用正極材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下である微分細孔分布において、
微分細孔体積の最高ピークの極大値が、細孔直径1.7nm以上10.0nm以下の範囲に位置するニッケル水素二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記最高ピークの極大値における微分細孔体積の値が、0.010cm3/g以上0.050cm3/g以下である請求項1に記載のニッケル水素二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記最高ピークの極大値における微分細孔体積の値が、0.010cm3/g以上0.030cm3/g以下である請求項1に記載のニッケル水素二次電池用正極材料。
【請求項4】
細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下において、BJH吸着法により求められた累積平均細孔直径の値が、45.0×10-10m以上75.0×10-10m以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のニッケル水素二次電池用正極材料。
【請求項5】
細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下において、BJH吸着法により求められた累積平均細孔直径の値が、52.0×10-10m以上75.0×10-10m以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のニッケル水素二次電池用正極材料。
【請求項6】
ニッケル(Ni):コバルト(Co):添加金属元素M(Mは、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)及びアルミニウム(Al)からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を表す。)のモル比が、x:y:z(0.94≦x≦0.97、0.00≦y≦0.02、0.03≦z≦0.05、x+y+z=1.00)であるニッケル含有水酸化物粒子を有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のニッケル水素二次電池用正極材料。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のニッケル水素二次電池用正極材料にオキシ水酸化コバルトを含む被覆層が形成されているニッケル水素二次電池用正極活物質。
【請求項8】
アルカリ金属水酸化物溶液で反応系のpH値を調整しながら、ニッケル(Ni)を含む原料液と錯化剤溶液を前記反応系に添加して、ニッケル含有水酸化物粒子を得る共沈工程を有するニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法であり、
前記アルカリ金属水酸化物溶液の流量に対する前記錯化剤溶液の流量の比率が、0.20以上0.65以下、前記反応系の40℃基準のpH値が、11.5以上13.0以下であり、
前記原料液が、前記ニッケル含有水酸化物粒子を構成する全ての金属元素を含む、ニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項9】
前記錯化剤溶液の40℃基準のpH値が、2.0以上7.0以下である請求項8に記載のニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ金属水酸化物溶液の40℃基準のpH値が、10.0以上14.0以下である請求項8または9に記載のニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項11】
前記原料液の40℃基準のpH値が、2.0以上5.0以下である請求項8乃至10のいずれか1項に記載のニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項12】
前記共沈工程で得た前記ニッケル含有水酸化物粒子を、前記反応系からオーバーフローさせて連続的に回収する請求項8乃至11のいずれか1項に記載のニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積抵抗率が低減されていることで、利用率等の電池特性を向上させることができるニッケル水素二次電池用正極材料及びニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機器の高機能化等に伴い、ニッケル水素二次電池等の二次電池の電池特性向上の要求がますます高まっている。そこで、ニッケル水素二次電池の正極活物質用のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子において、電池特性を向上させるために、コバルトの含有量を高めたニッケル含有複合水酸化物粒子が開発されている。
【0003】
また、コバルトの含有量を高めるために、水酸化ニッケル粒子にコバルト化合物の被覆層を形成することも行われている。コバルト化合物の被覆層を形成した水酸化ニッケル粒子として、例えば、前記被覆層の均一性と密着性を確保して電池特性を向上させるために、水酸化ニッケル粉末の粒子表面をオキシ水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とするコバルト化合物で被覆したアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末であり、被覆中のコバルトの価数が2.5以上であり、被覆水酸化ニッケル粉末20gを密閉容器中で1時間振盪したときの被覆の剥離量が、全被覆量の20質量%以下であるアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末が提案されている(特許文献1)。
【0004】
一方で、ニッケル水素二次電池等の二次電池が搭載される機器のさらなる高機能化等から、搭載されている二次電池には、利用率のさらなる向上等、さらに優れた電池特性を発揮することがますます要求されている。ニッケル水素二次電池等の二次電池にさらに優れた電池特性を付与するためには、正極に搭載される正極活物質の電気伝導性に改善の余地があった。そこで、ニッケル水素二次電池等の二次電池用正極材料である正極活物質が、さらに優れた電気伝導性を有することが必要となる。
【0005】
しかし、特許文献1のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末では、例えば、高負荷の充放電を行うと、被覆水酸化ニッケルの電気伝導性が低下する場合があり、ニッケル水素二次電池用正極材料として電気伝導性を向上させることに改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、体積抵抗率が低減されていることでニッケル水素二次電池の特性を向上させることができる、ニッケル水素二次電池用正極材料及びニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下である微分細孔分布において、
微分細孔体積の最高ピークの極大値が、細孔直径1.7nm以上10.0nm以下の範囲に位置するニッケル水素二次電池用正極材料。
[2]前記最高ピークの極大値における微分細孔体積の値が、0.010cm3/g以上0.050cm3/g以下である[1]に記載のニッケル水素二次電池用正極材料。
[3]前記最高ピークの極大値における微分細孔体積の値が、0.010cm3/g以上0.030cm3/g以下である[1]に記載のニッケル水素二次電池用正極材料。
[4]細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下において、BJH吸着法により求められた累積平均細孔直径の値が、45.0×10-10m以上75.0×10-10m以下である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のニッケル水素二次電池用正極材料。
[5]細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下において、BJH吸着法により求められた累積平均細孔直径の値が、52.0×10-10m以上75.0×10-10m以下である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のニッケル水素二次電池用正極材料。
[6]ニッケル(Ni):コバルト(Co):添加金属元素M(Mは、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)及びアルミニウム(Al)からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を表す。)のモル比が、x:y:z(0.94≦x≦0.97、0.00≦y≦0.02、0.03≦z≦0.05、x+y+z=1.00)であるニッケル含有水酸化物粒子を有する[1]乃至[5]のいずれか1つに記載のニッケル水素二次電池用正極材料。
[7][1]乃至[6]のいずれか1つに記載のニッケル水素二次電池用正極材料にオキシ水酸化コバルトを含む被覆層が形成されているニッケル水素二次電池用正極活物質。
[8]アルカリ金属水酸化物溶液で反応系のpH値を調整しながら、ニッケル(Ni)を含む原料液と錯化剤溶液を前記反応系に添加して、ニッケル含有水酸化物粒子を得る共沈工程を有するニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法であり、
前記アルカリ金属水酸化物溶液の流量に対する前記錯化剤溶液の流量の比率が、0.20以上0.65以下、前記反応系の40℃基準のpH値が、11.5以上13.0以下であり、
前記原料液が、前記ニッケル含有水酸化物粒子を構成する全ての金属元素を含む、ニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法。
[9]前記錯化剤溶液の40℃基準のpH値が、2.0以上7.0以下である[8]に記載のニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法。
[10]前記アルカリ金属水酸化物溶液の40℃基準のpH値が、10.0以上14.0以下である[8]または[9]に記載のニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法。
[11]前記原料液の40℃基準のpH値が、2.0以上5.0以下である[8]乃至[10]のいずれか1つに記載のニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法。
[12]前記共沈工程で得た前記ニッケル含有水酸化物粒子を、前記反応系からオーバーフローさせて連続的に回収する[8]乃至[11]のいずれか1つに記載のニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法。
【0009】
上記[1]の態様において、「微分細孔体積の最高ピーク」とは、細孔直径をx軸とし、微分細孔体積をy軸とした微分細孔分布において、微分細孔体積のピークが複数存在する場合には、各ピークの極大値のうち、最も大きい極大値を有するピークを意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のニッケル水素二次電池用正極材料によれば、細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下である微分細孔分布において、微分細孔体積の最高ピークの極大値が細孔直径1.7nm以上10.0nm以下の範囲に位置することにより、体積抵抗率が低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を得ることができる。従って、本発明のニッケル水素二次電池用正極材料を正極に使用することで、ニッケル水素二次電池の特性を向上させることができる。
【0011】
本発明のニッケル水素二次電池用正極材料によれば、前記最高ピークの極大値における微分細孔体積の値が0.010cm3/g以上0.050cm3/g以下であることにより、体積抵抗率が確実に低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を得ることができる。
【0012】
本発明のニッケル水素二次電池用正極材料によれば、前記最高ピークの極大値における微分細孔体積の値が0.010cm3/g以上0.030cm3/g以下であることにより、体積抵抗率をさらに低減させることができる。
【0013】
本発明のニッケル水素二次電池用正極材料によれば、細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下においてBJH吸着法により求められた累積平均細孔直径の値が45.0×10-10m以上75.0×10-10m以下であることにより、体積抵抗率が確実に低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を得ることができる。
【0014】
本発明のニッケル水素二次電池用正極材料によれば、細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下においてBJH吸着法により求められた累積平均細孔直径の値が52.0×10-10m以上75.0×10-10m以下であることにより、体積抵抗率をさらに低減させることができる。
【0015】
本発明のニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法によれば、アルカリ金属水酸化物溶液の流量に対する錯化剤溶液の流量の比率が0.20以上0.65以下、反応系の40℃基準のpH値が11.5以上13.0以下であり、原料液がニッケル含有水酸化物粒子を構成する全ての金属元素を含むことにより、体積抵抗率が低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のニッケル水素二次電池用正極材料について、詳細を説明する。本発明のニッケル水素二次電池用正極材料は、ニッケル含有水酸化物粒子を有している。また、本発明のニッケル水素二次電池用正極材料であるニッケル含有水酸化物粒子の表面に、コバルト化合物の被覆層が形成されていることで、すなわち、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子とすることで、ニッケル水素二次電池用の正極活物質として使用することができる。上記から、本発明のニッケル水素二次電池用正極材料は、ニッケル水素二次電池用正極活物質のベース材である。
【0017】
ニッケル水素二次電池用正極活物質では、本発明のニッケル水素二次電池用正極材料であるニッケル含有水酸化物粒子がコア粒子となっている。前記コア粒子が、コバルト化合物の層(シェル構造)、例えば、主に、コバルトの価数が3価であるコバルト化合物の層によって被覆されている構造とすることで、ニッケル水素二次電池用正極活物質として正極に搭載することができる。コバルトの価数が3価であるコバルト化合物としては、オキシ水酸化コバルトを挙げることができる。この場合、ニッケル水素二次電池用正極活物質は、ニッケル水素二次電池用正極材料にオキシ水酸化コバルトを含む被覆層が形成されている。
【0018】
ニッケル含有水酸化物粒子の形状は、特に限定されず、例えば、略球形を挙げることができる。また、ニッケル含有水酸化物粒子は、例えば、複数の一次粒子から形成された二次粒子の態様となっている。コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子の、コバルト化合物の被覆層は、ニッケル含有水酸化物粒子の表面全体を被覆してもよく、ニッケル含有水酸化物粒子の表面の一部領域のみを被覆していてもよい。
【0019】
本発明のニッケル水素二次電池用正極材料は、細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下である微分細孔分布において、微分細孔体積の最高ピークの極大値が、細孔直径1.7nm以上10.0nm以下の範囲に位置する。本発明では、微分細孔分布は、正極材料への窒素ガスの吸着・脱着の量から細孔体積を測定して得た細孔分布である。また、微分細孔分布の微分細孔体積は、細孔の深さの程度に関する指標であり、微分細孔体積の値が大きいと細孔は深くなる傾向にあり、微分細孔体積の値が小さいと細孔は浅くなる傾向にある。
【0020】
細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下である微分細孔分布において微分細孔体積の最高ピークの極大値が細孔直径1.7nm以上10.0nm以下に位置することにより、ニッケル水素二次電池用正極材料の表面状態が適切に改質されており、体積抵抗率が低減されたニッケル水素二次電池用正極材料とすることができる。その結果として、本発明のニッケル水素二次電池用正極材料を正極に使用することで、ニッケル水素二次電池の利用率等の特性を向上させることができる。
【0021】
上記した細孔分布測定にて、細孔直径をx軸とし、微分細孔体積をy軸とした微分細孔分布図が得られるところ、本発明のニッケル水素二次電池用正極材料は、細孔直径1.7nm以上10.0nm以下の範囲に微分細孔体積の最高ピークの極大値が位置している。従って、本発明のニッケル水素二次電池用正極材料は、微分細孔体積のピークが複数存在する場合には、複数存在する微分細孔体積のピークのうち、微分細孔体積の最も大きい最高ピークの極大値が細孔直径1.7nm以上10.0nm以下の範囲に位置している。
【0022】
最高ピークの極大値における微分細孔体積の値は、特に限定されないが、その下限値は、体積抵抗率が確実に低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を得る点から、0.010cm3/gが好ましい。一方で、最高ピークの極大値における微分細孔体積の値の上限値は、体積抵抗率が確実に低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を得る点から、0.050cm3/gが好ましく、0.040cm3/gがより好ましく、体積抵抗率をさらに低減させることができる点から、0.030cm3/gが特に好ましい。なお、上記した上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0023】
細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下において、BJH吸着法により求められた累積平均細孔直径の値は、特に限定されないが、その下限値は、体積抵抗率が確実に低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を得る点から、45.0×10-10mが好ましく、50.0×10-10mがより好ましく、体積抵抗率をさらに低減させることができる点から、52.0×10-10mが特に好ましい。一方で、細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下において、BJH吸着法により求められた累積平均細孔直径の上限値は、体積抵抗率が確実に低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を得る点から、75.0×10-10mが好ましく、70.0×10-10mが特に好ましい。なお、上記した上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0024】
本発明のニッケル水素二次電池用正極材料の組成は、例えば、全金属元素中におけるニッケル(Ni)のモル比が90モル%以上である、ニッケル含有量が多いニッケル含有水酸化物粒子である。ニッケル水素二次電池用正極材料の具体的な組成としては、例えば、ニッケル(Ni):コバルト(Co):添加金属元素M(Mは、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)及びアルミニウム(Al)からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を表す。)のモル比が、x:y:z(0.94≦x≦0.97、0.00≦y≦0.02、0.03≦z≦0.05、x+y+z=1.00)であるニッケル含有水酸化物粒子が挙げられる。このうち、Mとしては、亜鉛(Zn)及びマグネシウム(Mg)からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素が好ましい。
【0025】
本発明のニッケル水素二次電池用正極材料をコア粒子として使用したコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子の体積抵抗率は、例えば、2.50Ω・cm以下であり、2.30Ω・cm以下がより好ましく、2.00Ω・cm以下が特に好ましい。一方で、本発明のニッケル水素二次電池用正極材料をコア粒子として使用したコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子の体積抵抗率の下限値は、低ければ低いほど好ましい。本発明のニッケル水素二次電池用正極材料をコア粒子として使用したコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子の体積抵抗率の下限値としては、例えば、0.50Ω・cmが挙げられる。本発明のニッケル水素二次電池用正極材料の電気伝導性が向上することで、正極活物質の電気伝導性が向上し、ひいては、正極活物質を搭載したニッケル水素二次電池の利用率等の特性が向上する。
【0026】
次に、本発明のニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法について、詳細を説明する。本発明のニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法は、アルカリ金属水酸化物溶液で反応系のpH値を調整しながら、ニッケル(Ni)を含む原料液と錯化剤溶液を前記反応系に添加して、ニッケル含有水酸化物粒子を得る共沈工程を有する。具体的には、原料であるニッケルを含む金属元素の塩溶液(例えば、金属元素としてニッケルと添加金属元素Mと必要に応じてコバルトを含む硫酸塩溶液)と錯化剤溶液を反応槽に添加して、ニッケルを含む金属元素と錯化剤を反応させて、共沈法によりニッケル水素二次電池用正極材料であるニッケル含有水酸化物粒子を製造する。ニッケル含有水酸化物粒子は、スラリー状の懸濁物として得ることができる。ニッケル含有水酸化物粒子の懸濁物の溶媒としては、例えば、水が使用される。
【0027】
錯化剤としては、水溶液中で、原料であるニッケルを含む金属元素のイオンと錯体を形成可能なものであれば、特に限定されず、例えば、アンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。また、共沈に際しては、反応槽中の溶液のpH値を調整するため、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)の溶液を添加する。
【0028】
原料であるニッケルを含む金属元素の塩溶液に加えて、錯化剤とアルカリ金属水酸化物を反応槽に連続的に供給すると、原料であるニッケル含む金属元素が晶析反応し、ニッケル含有水酸化物粒子が製造される。
【0029】
本発明のニッケル水素二次電池用正極材料の製造方法では、晶析反応に際しては、アルカリ金属水酸化物溶液の流量に対する錯化剤溶液の流量の比率が、0.20以上0.65以下、反応系である反応槽中の反応溶液(母液)の40℃基準のpH値が、11.5以上13.0以下に、それぞれ、制御されている。また、晶析反応に際しては、原料液であるニッケルを含む金属元素の塩溶液が、ニッケル含有水酸化物粒子を構成する全ての金属元素を含んでいる。上記製造方法により、体積抵抗率が低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を製造することができる。
【0030】
アルカリ金属水酸化物溶液の流量に対する錯化剤溶液の流量の比率は0.20以上0.65以下の範囲であれば、特に限定されないが、その下限値は、体積抵抗率が確実に低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を得る点から、0.21が好ましく、ニッケル水素二次電池用正極材料の体積抵抗率をさらに低減する点から、0.35がより好ましく、0.45が特に好ましい。一方で、アルカリ金属水酸化物溶液の流量に対する錯化剤溶液の流量の比率の上限値は、体積抵抗率が確実に低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を得る点から、0.63が好ましい。なお、上記した上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0031】
反応槽中の反応溶液の40℃基準のpH値は11.5以上13.0以下の範囲であれば、特に限定されないが、その下限値は、体積抵抗率が確実に低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を得る点から、11.8が好ましく、ニッケル水素二次電池用正極材料の体積抵抗率をさらに低減する点から、12.0が特に好ましい。一方で、反応槽中の反応溶液の40℃基準のpH値の上限値は、体積抵抗率が確実に低減されたニッケル水素二次電池用正極材料を得る点から、12.5が好ましい。なお、上記した上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0032】
錯化剤溶液の40℃基準のpH値は、例えば、2.0以上7.0以下が挙げられる。また、錯化剤溶液の錯化剤の濃度は、50g/L以上150g/L以下が挙げられる。錯化剤溶液としては、例えば、錯化剤の水溶液が挙げられる。
【0033】
アルカリ金属水酸化物溶液の40℃基準のpH値は、例えば、10.0以上14.0以下が挙げられる。また、アルカリ金属水酸化物溶液のアルカリ金属水酸化物の濃度は、300g/L以上500g/L以下が挙げられる。アルカリ金属水酸化物溶液としては、例えば、アルカリ金属水酸化物の水溶液が挙げられる。
【0034】
原料液の40℃基準のpH値は、例えば、2.0以上5.0以下が挙げられる。また、原料液のニッケルを含む金属元素の濃度は、特に限定されるものではないが、50g/L以上150g/L以下が挙げられる。原料液としては、例えば、ニッケルを含む金属元素の水溶液が挙げられる。
【0035】
また、晶析反応に際しては、反応槽の温度を、例えば、10℃~80℃、好ましくは20~70℃の範囲内で制御しつつ、反応槽内の物質を、適宜、撹拌する。反応槽としては、例えば、製造されたニッケル含有水酸化物粒子を分離するためにオーバーフローさせる、連続式を挙げることができる。この場合、共沈工程で得たニッケル含有水酸化物粒子を、反応系(反応槽)からオーバーフローさせて連続的に回収することになる。
【0036】
また、上記の通り、晶析反応に際しては、原料液であるニッケルを含む金属元素の塩溶液は、ニッケル含有水酸化物粒子を構成する全ての金属元素を含んでいる。従って、ニッケル含有水酸化物粒子を構成する金属元素は、金属種に応じて複数の原料液に分けた状態では反応槽に添加されない。
【0037】
次に、本発明のニッケル水素二次電池用正極材料を用いた正極活物質の製造方法について説明する。本発明のニッケル水素二次電池用正極材料を用いた正極活物質の製造方法は、前記正極材料にコバルトを含む被覆層を形成する被覆工程と、必要に応じ、コバルトを含む被覆層を形成したニッケル含有水酸化物粒子の乾燥粉を得る固液分離処理工程と、コバルトを含む被覆層を酸化処理する酸化工程と、を有する。
【0038】
<被覆工程>
被覆工程では、ニッケル水素二次電池用正極材料であるニッケル含有水酸化物粒子を含む懸濁物に、コバルト塩溶液(例えば、硫酸コバルトの水溶液等)と、アルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)と、上記錯化剤(例えば、硫酸アンモニウム溶液等)を、攪拌機で撹拌しながら添加して、中和晶析により、ニッケル含有水酸化物粒子の表面に、水酸化コバルト等、コバルトの価数が2価であるコバルト化合物を主成分とする被覆層を形成する。上記被覆層を形成させる工程のpHを液温25℃基準で、9~13の範囲に維持することが好ましい。上記被覆工程により、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物粒子を得ることができる。コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物粒子は、スラリー状の懸濁物として得ることができる。
【0039】
<固液分離処理工程>
また、被覆工程と酸化工程の間に、必要に応じて、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物粒子を含む懸濁物を、固相と液相に分離して、液相から分離された固相を乾燥する固液分離処理工程を行ってもよい。固液分離処理工程によって、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物粒子の乾燥粉を得ることができる。また、固相を乾燥する前に、必要に応じて、固相を弱アルカリ水で洗浄してもよい。
【0040】
<酸化工程>
次に、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物粒子を酸化処理する。酸化処理の方法としては、ニッケル含有水酸化物粒子を含む乾燥粉に水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液を添加して混合し、加熱する方法が挙げられる。上記酸化処理によって、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケル含有水酸化物粒子中の2価のコバルトが酸化され、3価のコバルトであるオキシ水酸化コバルトとすることができる。被覆層の2価のコバルトが酸化されてオキシ水酸化コバルトとなることで、オキシ水酸化コバルトを含む被覆層が形成され、ニッケル水素二次電池の正極活物質であるコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子を得ることができる。
【0041】
次に、本発明のニッケル水素二次電池用正極材料を用いた正極活物質を搭載した正極、該正極を用いたニッケル水素二次電池について説明する。ニッケル水素二次電池は、上記した本発明のニッケル水素二次電池用正極材料を用いた正極活物質を搭載した正極と、負極と、アルカリ性の電解液と、セパレータとを備える。
【0042】
正極は、正極集電体と、正極集電体表面に形成された正極活物質層を備える。正極活物質層は、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子とバインダー(結着剤)、必要に応じて導電助剤とを有する。導電助剤としては、例えば、ニッケル水素二次電池のために使用できるものであれば特に限定されないが、金属コバルトや酸化コバルト等を用いることができる。バインダーとしては、特に限定されないが、ポリマー樹脂、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等、並びにこれらの組み合わせを挙げることができる。正極集電体としては、特に限定されないが、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、例えば発泡ニッケル、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板、金属箔などを挙げることが出来る。
【0043】
正極の製造方法としては、例えば、まず、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子と導電助剤と結着剤と水とを混合して正極活物質スラリーを調製する。次いで、上記正極活物質スラリーを正極集電体に、公知の充填方法で充填して乾燥後、プレス等にて圧延・固着する。
【0044】
負極は、負極集電体と負極集電体表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層を備える。負極活物質としては、通常使用されるものであれば特に限定されず、例えば、水素吸蔵合金が挙げられる。負極集電体としては、正極集電体と同じ材料である、ニッケル、アルミニウム、ステンレス等の導電性の金属材料を使用することができる。
【0045】
また、負極活物質層には、必要に応じて、導電助剤、バインダー等がさらに添加されてもよい。導電助剤、バインダーとしては、上記正極活物質層に使用されるものと同様のものが挙げられる。
【0046】
負極の製造方法としては、例えば、先ず、負極活物質と、必要に応じて導電助剤と結着剤と、水とを混合して負極活物質スラリーを調製する。次いで、上記負極活物質スラリーを負極集電体に、公知の充填方法で充填し、乾燥後、プレス等にて圧延・固着する。
【0047】
アルカリ性の電解液としては、例えば、溶媒としては水を挙げることができ、溶媒に溶解させる溶質としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムを挙げることができる。上記溶質は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
セパレータとしては、特に限定されないが、ポリオレフィン不織布、例えばポリエチレン不織布及びポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布、並びにそれらを親水性処理したものを挙げることができる。
【実施例0049】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0050】
実施例1
硫酸ニッケルと硫酸亜鉛とを所定割合にて溶解した水溶液(原料液)に、硫酸アンモニウム水溶液(錯化剤)と水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液の流量に対する硫酸アンモニウム水溶液の流量の比率が0.46となるように滴下して、反応槽内のpHを液温40℃基準で12.1に維持しながら、攪拌機により連続的に攪拌した。生成した水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて連続的に取り出した。取り出した上記水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、亜鉛の固溶したニッケル含有水酸化物粒子を得た。なお、原料液の40℃基準のpH値は3.0、硫酸アンモニウム水溶液の40℃基準のpH値は7.0、水酸化ナトリウム水溶液の40℃基準のpH値は14.0とした。
【0051】
実施例2
硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マグネシウムとを所定割合にて溶解した水溶液(原料液)に、硫酸アンモニウム水溶液(錯化剤)と水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液の流量に対する硫酸アンモニウム水溶液の流量の比率が0.63となるように滴下して、反応槽内のpHを液温40℃基準で12.2に維持しながら、攪拌機により連続的に攪拌した。生成した水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて連続的に取り出した。取り出した上記水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、コバルトとマグネシウムの固溶したニッケル含有水酸化物粒子を得た。なお、原料液の40℃基準のpH値は3.0、硫酸アンモニウム水溶液の40℃基準のpH値は7.0、水酸化ナトリウム水溶液の40℃基準のpH値は14.0とした。
【0052】
実施例3
硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸亜鉛とを所定割合にて溶解した水溶液(原料液)に、硫酸アンモニウム水溶液(錯化剤)と水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液の流量に対する硫酸アンモニウム水溶液の流量の比率が0.43となるように滴下して、反応槽内のpHを液温40℃基準で12.1に維持しながら、攪拌機により連続的に攪拌した。生成した水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて連続的に取り出した。取り出した上記水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、コバルトと亜鉛の固溶したニッケル含有水酸化物粒子を得た。なお、原料液の40℃基準のpH値は3.0、硫酸アンモニウム水溶液の40℃基準のpH値は7.0、水酸化ナトリウム水溶液の40℃基準のpH値は14.0とした。
【0053】
実施例4
硫酸ニッケルと硫酸亜鉛とを所定割合にて溶解した水溶液(原料液)に、硫酸アンモニウム水溶液(錯化剤)と水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液の流量に対する硫酸アンモニウム水溶液の流量の比率が0.38となるように滴下して、反応槽内のpHを液温40℃基準で12.1に維持しながら、攪拌機により連続的に攪拌した。生成した水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて連続的に取り出した。取り出した上記水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、亜鉛の固溶したニッケル含有水酸化物粒子を得た。なお、原料液の40℃基準のpH値は3.0、硫酸アンモニウム水溶液の40℃基準のpH値は7.0、水酸化ナトリウム水溶液の40℃基準のpH値は14.0とした。
【0054】
実施例5
硫酸ニッケルと硫酸亜鉛とを所定割合にて溶解した水溶液(原料液)に、硫酸アンモニウム水溶液(錯化剤)と水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液の流量に対する硫酸アンモニウム水溶液の流量の比率が0.21となるように滴下して、反応槽内のpHを液温40℃基準で11.8に維持しながら、攪拌機により連続的に攪拌した。生成した水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて連続的に取り出した。取り出した上記水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、亜鉛の固溶したニッケル含有水酸化物粒子を得た。なお、原料液の40℃基準のpH値は3.0、硫酸アンモニウム水溶液の40℃基準のpH値は7.0、水酸化ナトリウム水溶液の40℃基準のpH値は14.0とした。
【0055】
比較例1
硫酸ニッケルと硫酸コバルトとを所定割合にて溶解した水溶液(第1の原料液)に、硫酸アンモニウム水溶液(錯化剤)と水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液の流量に対する硫酸アンモニウム水溶液の流量の比率が0.34となるように滴下しつつ、硫酸アルミニウム水溶液(第2の原料液)を第1の原料液とは異なる箇所から滴下して、反応槽内のpHを液温40℃基準で12.2に維持しながら、攪拌機により連続的に攪拌した。生成した水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて連続的に取り出した。取り出した上記水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、コバルトとアルミニウムの固溶したニッケル含有水酸化物粒子を得た。なお、第1の原料液の40℃基準のpH値は3.0、第2の原料液の40℃基準のpH値は3.0、硫酸アンモニウム水溶液の40℃基準のpH値は7.0、水酸化ナトリウム水溶液の40℃基準のpH値は14.0とした。
【0056】
比較例2
硫酸ニッケルと硫酸亜鉛とを所定割合にて溶解した水溶液(原料液)に、硫酸アンモニウム水溶液(錯化剤)と水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液の流量に対する硫酸アンモニウム水溶液の流量の比率が0.10となるように滴下して、反応槽内のpHを液温40℃基準で11.3に維持しながら、攪拌機により連続的に攪拌した。生成した水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて連続的に取り出した。取り出した上記水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、亜鉛の固溶したニッケル含有水酸化物粒子を得た。なお、原料液の40℃基準のpH値は3.0、硫酸アンモニウム水溶液の40℃基準のpH値は7.0、水酸化ナトリウム水溶液の40℃基準のpH値は14.0とした。
【0057】
コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子の調製
コバルトを含む被覆層の形成
上記のようにして得られた実施例及び比較例のニッケル含有水酸化物粒子を、水酸化ナトリウムでpHを液温25℃基準で9~13の範囲に維持した反応槽中のアルカリ水溶液に投入した。ニッケル含有水酸化物粒子の投入後、該溶液を撹拌しながら、濃度90g/Lの硫酸コバルト水溶液を滴下した。この間、水酸化ナトリウム水溶液を適宜滴下して、反応槽中の溶液のpHを液温25℃基準で9~13の範囲に維持して、前記水酸化物粒子の表面に水酸化コバルトの被覆層を形成させて、水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物粒子の懸濁液を得た。
【0058】
水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物粒子の酸化処理
上記のようにして得られた水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物粒子の懸濁液を固液分離処理し、固相を乾燥処理して水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物粒子の乾燥粉を得た。水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物粒子の乾燥粉を120℃に加熱して撹拌しながら、水酸化コバルトで被覆されたニッケル含有水酸化物粒子とアルカリ溶液の重量比率が1:0.10となるように48質量%の水酸化ナトリウム水溶液を供給して、酸化処理を行った。上記酸化処理にて、ニッケル含有水酸化物粒子の被覆層の水酸化コバルトを酸化して、3価のコバルトであるオキシ水酸化コバルトとした。
【0059】
固液分離及び乾燥処理
酸化処理されたニッケル含有水酸化物粒子に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、コバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子を得た。
【0060】
評価項目
(1)微分細孔分布測定
実施例及び比較例のニッケル含有水酸化物粒子について、細孔の平均直径、細孔容積は、比表面積・細孔分布測定装置(株式会社島津製作所製、トライスター)を用いて窒素吸着法での88点測定による細孔分布測定により行った。細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下にて微分細孔分布を測定し、微分細孔体積の最高ピークの極大値が位置する細孔直径(単位:nm)と最高ピークの極大値における微分細孔体積(単位:cm3/g)を、得られた細孔分布図から求めた。
【0061】
(2)累積平均細孔直径
実施例及び比較例のニッケル含有水酸化物粒子について、BJH吸着法により、細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下における累積平均細孔直径(単位:nm)を測定した。
【0062】
(3)体積抵抗率
株式会社三菱ケミカルアナリテック製、MCP-PD51型の粉体抵抗率システム(ロレスタ)を使用し、下記条件にて、実施例と比較例のニッケル含有水酸化物粒子をベース材としたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子の体積抵抗率(Ω・cm)を測定し、2.5Ω・cm以下を合格とした。
使用プローブ:四探針プローブ
電極間隔:3.0mm
電極半径:0.7mm
試料半径:10.0mm
試料質量:3.00g
印加圧力:20kPa
【0063】
微分細孔体積の最高ピークの極大値が位置する細孔直径(単位:nm)と最高ピークの極大値における微分細孔体積(単位:cm3/g)、累積平均細孔直径の結果を下記表1に、体積抵抗率の結果を下記表2に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
上記表1、2から、細孔直径の範囲が1.7nm以上300nm以下である微分細孔分布において微分細孔体積の最高ピークの極大値が細孔直径1.7nm以上10.0nm以下の範囲に位置する実施例1~5のニッケル含有水酸化物粒子をベース材としたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子では、体積抵抗率が2.5Ω・cm以下であり、体積抵抗率が低減されたニッケル含有水酸化物粒子を得ることができた。なお、上記表1から、実施例1~5のニッケル含有水酸化物粒子では、最高ピークの極大値における微分細孔体積の値は0.010cm3/g以上0.050cm3/g以下の範囲、累積平均細孔直径の値は45.0×10-10m以上75.0×10-10m以下(4.5nm以上7.5nm以下)の範囲であった。
【0067】
特に、最高ピークの極大値における微分細孔体積の値が、0.010cm3/g以上0.030cm3/g以下の範囲、累積平均細孔直径の値が、52.0×10-10m以上75.0×10-10m以下(5.2nm以上7.5nm以下)の範囲である実施例1~4のニッケル含有水酸化物粒子をベース材としたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子では、体積抵抗率が1.4Ω・cm以下であり、体積抵抗率がさらに低減されたニッケル含有水酸化物粒子を得ることができた。
【0068】
また、実施例1~5のニッケル含有水酸化物粒子は、ニッケル含有水酸化物粒子を構成する全ての金属元素を含む原料液を用い、水酸化ナトリウム水溶液の流量に対する硫酸アンモニウム水溶液の流量の比率が0.20以上0.65以下の範囲となるように制御しながら水酸化ナトリウム水溶液と硫酸アンモニウム水溶液を反応槽に滴下し、反応槽内のpHを液温40℃基準で11.5以上13.0以下の範囲となるように維持することで製造することができた。
【0069】
一方で、上記表1、2から、微分細孔体積の最高ピークの極大値が細孔直径13.2nm、24.0nmに位置する比較例1、2のニッケル含有水酸化物粒子をベース材としたコバルト被覆ニッケル含有水酸化物粒子では、体積抵抗率が、それぞれ、3.0Ω・cm、56.1Ω・cmであり、体積抵抗率が低減されたニッケル含有水酸化物粒子を得ることができなかった。
【0070】
また、比較例1のニッケル含有水酸化物粒子は、ニッケル含有水酸化物粒子を構成する金属元素を含む原料液について、ニッケルとコバルトを含む第1の原料液とアルミニウムを含む第2の原料液に分けて反応槽に添加して製造した。また、比較例2のニッケル含有水酸化物粒子は、水酸化ナトリウム水溶液の流量に対する硫酸アンモニウム水溶液の流量の比率が0.10、反応槽内のpHを液温40℃基準で11.3となるように維持することで製造した。
本発明のニッケル水素二次電池用正極材料は、体積抵抗率が低減されていることでニッケル水素二次電池の特性を向上させることができるので、特に、高機能機器に搭載されるニッケル水素二次電池の分野で利用可能である。