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特開2022-162463磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162463
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/24 20060101AFI20221017BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20221017BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20221017BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20221017BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C08G59/24
C08G59/62
C08L63/00 Z
C08K3/08
H01F1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067336
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】実藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】郷 義幸
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
5E041
【Fターム(参考)】
4J002CD071
4J002DA076
4J002DA086
4J002DA116
4J002FD206
4J002GQ00
4J036AE05
4J036DB05
4J036DC41
4J036DD07
4J036FA02
4J036FB08
4J036JA15
4J036KA01
5E041AA00
5E041BB03
5E041CA02
5E041NN04
(57)【要約】
【課題】機械的強度および耐熱性に優れ、高温保存による強度劣化が抑制される圧粉成形体を得るための技術を提供する。
【解決手段】成分(A):フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、成分(B):フェノールビフェニルアラルキル樹脂、成分(C):硬化促進剤および成分(D):有機溶剤を含有する、磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)~(D)を含有する、磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物。
(A)フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂
(B)フェノールビフェニルアラルキル樹脂
(C)硬化促進剤
(D)有機溶剤
【請求項2】
前記成分(A)の重量平均分子量Mwaが1500以上である、請求項1に記載の磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(B)の重量平均分子量Mwbが2000以下であり、前記成分(A)の重量平均分子量Mwaが1500以上である、請求項1または2に記載の磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(B)の重量平均分子量Mwbに対する前記成分(A)の重量平均分子量Mwaの比(Mwa/Mwb)が1.0以上7.0以下である、請求項1乃至3いずれか1項に記載の磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(C)がリン系硬化促進剤である、請求項1乃至4いずれか1項に記載の磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物と、
磁性金属粉と、
を含む組成物を硬化させてなる固形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクター等の磁気を利用する電子部品の特性を向上させるための技術として、特許文献1(特開2017-107935号公報)に記載のものがある。同文献には、高透磁率および高耐電圧の圧粉磁心、およびその圧粉磁心を備えるコイル内蔵型の磁性素子を提供するための技術として、圧粉磁心のバインダーがエーテル骨格を有する特定のエポキシ樹脂を含む構成とすることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2(特開2020-174179号公報)には、扁平状の軟磁性粒子と、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂を含有する樹脂成分とを含有し、エポキシ樹脂が、3つ以上の官能基を有するエポキシ樹脂のみからなり、フェノール樹脂が、3つ以上の官能基を有するフェノール樹脂のみからなり、樹脂成分におけるアクリル樹脂の含有割合が、25質量%以上であり、3つ以上の官能基を有するエポキシ樹脂が、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂であり、かつ、3つ以上の官能基を有するフェノール樹脂が、フェノールノボラック樹脂である、軟磁性樹脂組成物について記載されている。そして、同文献によれば、上記軟磁性樹脂組成物から得られる本発明の軟磁性フィルムによれば、磁気特性に優れていること、および、軟磁性フィルム内部の空隙の発生を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-107935号公報
【特許文献2】特開2020-174179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献に記載の技術について本発明者が検討したところ、圧粉成形体としたときに優れた機械的強度を得るとともに、成形体の高温保存による強度劣化を抑制するという点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、機械的強度および耐熱性に優れ、高温保存による強度劣化が抑制される圧粉成形体を得るための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
以下の成分(A)~(D)を含有する、磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物が提供される。
(A)フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂
(B)フェノールビフェニルアラルキル樹脂
(C)硬化促進剤
(D)有機溶剤
【0008】
また、本発明によれば、前記本発明における磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物と、
磁性金属粉と、
を含む組成物を硬化させてなる固形物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械的強度および耐熱性に優れ、高温保存による強度劣化が抑制される圧粉成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について説明する。本実施形態において、組成物は、各成分をいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて含むことができる。また、数値範囲を表す「~」は、以上、以下を表し、上限値および下限値をいずれも含む。
【0011】
(磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物)
磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物(以下、適宜単に「樹脂組成物」とも呼ぶ。)は、以下の成分(A)~(D)を含有する。
(A)フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂
(B)フェノールビフェニルアラルキル樹脂
(C)硬化促進剤
(D)有機溶剤
【0012】
(成分(A))
成分(A)は、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂である。成分(A)として、具体的には、下記一般式(1)で表されるものが挙げられる。
【0013】
【化1】
【0014】
上記一般式(1)中、mは1以上20以下の数である。耐熱性向上の観点、および、高温保存時の強度劣化抑制の観点から、mは好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2以上である。
また、成分(D)への溶解安定性および成形加工性の向上の観点から、mは好ましくは10以下であり、より好ましくは5以下である。
【0015】
成分(A)の重量平均分子量Mwaは、たとえば500以上であってよく、耐熱性向上の観点、および、高温保存時の強度劣化抑制の観点から、好ましくは1500以上であり、より好ましくは1600以上、さらに好ましくは2000以上、さらにより好ましくは2500以上、よりいっそう好ましくは3000以上である。
また、成分(D)への溶解安定性および成形加工性の向上の観点から、重量平均分子量Mwaは、好ましくは20000以下であり、より好ましくは10000以下、さらに好ましくは8000以下、さらにより好ましくは5000以下、よりいっそう好ましくは4000以下である。
【0016】
成分(A)の軟化点は、磁性金属粉/樹脂複合体の造粒加工性および耐熱性の向上の観点から、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上、さらにより好ましくは75℃以上である。
また、成分(B)および成分(C)との相溶性ならびに成分(D)への溶解性の向上の観点から、成分(A)の軟化点は、たとえば100℃以下であってよく、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下である。
【0017】
成分(A)のエポキシ当量は、より低吸湿性とする観点から、好ましくは200g/eq以上であり、より好ましくは220g/eq以上、さらに好ましくは240g/eq以上、さらにより好ましくは270g/eq以上、よりいっそう好ましくは300g/eq以上である。
また、耐熱性および機械的強度の向上の観点から、成分(A)のエポキシ当量は、好ましくは500g/eq以下であり、より好ましくは450g/eq以下、さらに好ましくは400g/eq以下、さらにより好ましくは350g/eq以下である。
【0018】
樹脂組成物中の成分(A)の含有量は、成形加工性および硬化性の向上の観点から、樹脂組成物全体に対して好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは28質量%以上である。
また、機械的強度および耐熱性の向上の観点から、樹脂組成物中の成分(A)の含有量は、樹脂組成物全体に対して好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0019】
(成分(B))
成分(B)は、フェノールビフェニルアラルキル樹脂である。成分(B)として、具体的には、下記一般式(2)で表されるものが挙げられる。
【0020】
【化2】
【0021】
上記一般式(2)中、nは1以上10以下の数である。耐熱性向上の観点、および、高温保存時の強度劣化抑制の観点から、nは好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2以上である。
また、成分(D)への溶解安定性および成形加工性の向上の観点から、nは好ましくは8以下であり、より好ましくは4以下である。
【0022】
成分(B)の重量平均分子量Mwbは、耐熱性向上の観点、高温保存時の強度劣化抑制の観点から、好ましくは600以上であり、より好ましくは700以上、さらに好ましくは800以上、さらにより好ましくは900以上である。
また、耐熱性および機械的強度向上の観点から、重量平均分子量Mwbは、たとえば4000以下であってよく、好ましくは3000以下であり、より好ましくは2000以下、さらに好ましくは1500以下、さらにより好ましくは1000以下である。
【0023】
また、耐熱性向上の観点、高温保存時の強度劣化抑制の観点から、成分(B)の重量平均分子量Mwbが2000以下であり、成分(A)の重量平均分子量Mwaが1500以上であることも好ましい。
【0024】
成分(B)の重量平均分子量Mwbに対する成分(A)の重量平均分子量Mwaの比(Mwa/Mwb)は、機械的強度向上の観点から、たとえば0.1以上であってよく、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは1.5以上である。
また、硬化反応性向上の観点から、上記比(Mwa/Mwb)は、好ましくは7.0以下であり、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.5以下、さらにより好ましくは4.0以下である。
【0025】
成分(B)の軟化点は、磁性金属粉組成物の造粒加工性向上および耐熱性向上の観点から、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは55℃以上、さらに好ましくは60℃以上、さらにより好ましくは65℃以上である。
また、成分(B)および成分(C)との相溶性ならびに成分(D)への溶解性の向上の観点から、成分(B)の軟化点は、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下、さらにより好ましくは80℃以下である。
【0026】
成分(B)の水酸基当量は、より低吸湿性とする観点から、好ましくは180g/eq以上であり、より好ましくは190g/eq以上、さらに好ましくは200g/eq以上である。
また、耐熱性および機械的強度向上の観点から、成分(B)の水酸基当量は、好ましくは300g/eq以下であり、より好ましくは250g/eq以下、さらに好ましくは220g/eq以下である。
【0027】
樹脂組成物中の成分(B)の含有量は、硬化性向上の観点から、樹脂組成物全体に対して好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは18質量%以上である。
また、機械的強度向上の観点から、樹脂組成物中の成分(B)の含有量は、樹脂組成物全体に対して好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは23質量%以下である。
【0028】
(成分(C))
成分(C)は、硬化促進剤である。硬化促進剤としては、たとえば成分(A)等の熱硬化性樹脂の硬化反応を促進させるものを用いることができる。
成分(C)は、具体的には、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン等の有機ホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラキス(4-メチルフェニル)ボレート、テトラフェニルホスホニウムビス(ナフタレン-2,3-ジオキシ)フェニルシリケート、テトラフェニルホスホニウムとビスフェノール類との分子化合物およびテトラフェニルホスホニウムとジヒドロキシナフタレン類との錯塩等のテトラ置換ホスホニウム化合物、2-(トリフェニルホスホニウム)フェノラート、3-(トリフェニルホスホニウム)フェノラート、トリフェニルホスフィンと1,4-ベンゾキノンの付加物等のホスホベタイン化合物等のリン原子含有化合物(リン系硬化促進剤);2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール等のイミダゾール類(イミダゾール系硬化促進剤);1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5等が例示されるアミジンや、ベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン、アミジンやアミンと有機酸との4級塩等の窒素原子含有化合物からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0029】
高温保存時の機械物性の安定性向上の観点から、成分(C)は、好ましくはリン系硬化促進剤であり、より好ましくはトリフェニルホスフィンおよびトリフェニルホスフィンとベンゾキノンの付加物からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0030】
樹脂組成物中の成分(C)の含有量は、硬化性向上の観点から、樹脂組成物全体に対して好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、さらにより好ましくは0.3質量%以上である。
また、成形加工性および保存安定性の向上の観点から、樹脂組成物中の成分(C)の含有量は、樹脂組成物全体に対して好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。
【0031】
(成分(D))
成分(D)は、有機溶媒である。成分(D)として、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、エチルカルビトール等のカルビトール類、アニソール、およびN-メチルピロリドンからなる群から選択される1または2以上の溶媒が挙げられる。
成分(A)~(C)の溶解性向上および低温脱溶媒の観点から、成分(D)は、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類を含み、より好ましくはメチルエチルケトンを含む。
【0032】
樹脂組成物中の成分(D)の含有量は、たとえば、樹脂組成物中の成分(D)以外の成分を除く残部とすることができる。
また、磁性金属粉との混合作業性向上の観点から、成分(D)の含有量は、樹脂組成物全体に対して好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらにより好ましくは45質量%以上である。
また、磁性金属粉と混合後の脱溶媒を容易にする観点から、樹脂組成物中の成分(D)の含有量は、樹脂組成物全体に対して好ましくは65質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下、さらにより好ましくは50質量%以下である。
【0033】
樹脂組成物は、成分(A)~(D)以外の成分を含んでもよい。かかる成分として、低応力剤、シランカップリング剤等のカップリング剤、密着助剤、着色剤、酸化防止剤、耐食剤、染料、顔料、難燃剤およびシリカ等の非磁性体粒子からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
また、磁性金属粉と樹脂の接着性低下の観点から、樹脂組成物は好ましくはワックスを含まない。
また、耐熱性および機械的強度向上の観点から樹脂組成物が(メタ)アクリル樹脂を含まないことも好ましい。ここで、(メタ)アクリル樹脂は、アクリル樹脂およびメタクリル樹脂のうちの少なくとも一方を意味する。
【0034】
次に、樹脂組成物の製造方法を説明する。
樹脂組成物は、たとえば成分(A)~(D)および適宜他の原料成分を所定の順序で混合することにより得ることができる。
さらに具体的には、成分(A)および成分(D)の一部を混合して主剤(p)を調製するとともに、成分(B)および(C)ならびに成分(D)の一部を混合して硬化剤(q)を調製しておく。そして、所望のタイミングで主剤(p)と硬化剤(q)とを混合することにより、樹脂組成物を得ることができる。
【0035】
本実施形態において、樹脂組成物は、具体的には磁性金属粉バインダーとして好適に用いられる。また、本実施形態において、樹脂組成物は、たとえば磁性金属粉を含む組成物に好適に配合される。
【0036】
(磁性金属粉を含む組成物およびその固形物)
本実施形態において、磁性金属粉を含む組成物は、たとえば、本実施形態における磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物と、磁性金属粉と、を含む。
また、本実施形態において、硬化物は、磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物と、磁性金属粉と、を含む組成物を硬化させてなる。
【0037】
磁性金属粉を含む組成物中の樹脂組成物の含有量は、機械的強度向上の観点から、磁性金属粉を含む組成物全体に対して、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上、さらにより好ましくは10質量%以上である。
また、耐熱性および磁気特性の向上の観点から、磁性金属粉を含む組成物中の樹脂組成物の含有量は、磁性金属粉を含む組成物全体に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0038】
(磁性金属粉)
磁性金属粉は、磁気特性向上の観点から、構成元素として、好ましくはFe、Cr、Co、Ni、AgおよびMnからなる群から選択される1または2以上の元素を含む。
【0039】
また、硬化物に好ましい磁気的特性を付与する観点、および、コストや入手容易性に優れる観点から、特定磁性体粒子は、好ましくは軟磁性粒子を含み、より好ましくは鉄基粒子を含む。
ここで、軟磁性とは、保磁力が小さい強磁性のことを指す。一般的には、保磁力が800A/m以下である強磁性のことを軟磁性という。
【0040】
鉄基粒子とは、鉄原子を主成分とする、すなわち化学組成において鉄原子の含有質量が一番多い粒子のことをいい、より具体的には、化学組成において鉄原子の含有質量が一番多い鉄合金のことをいう。
鉄基粒子としてより具体的には、軟磁性を示し、鉄原子の含有率が85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である粒子を用いることができる。
【0041】
このような粒子の構成材料としては、構成元素としての鉄の含有率が85質量%以上である金属含有材料が挙げられる。構成元素としての鉄の含有率が高い金属材料は、透磁率や磁束密度等の磁気特性が比較的良好な軟磁性を示す。このため、成形されたとき、良好な磁気特性を示しうる組成物およびその硬化物が得られる。
上記金属含有材料の形態としては、たとえば、単体の他、固溶体、共晶、金属間化合物のような合金等が挙げられる。このような金属材料で構成された粒子を用いることにより、鉄に由来する優れた磁気特性、すなわち、高透磁率や高磁束密度等の磁気特性を有する組成物およびその硬化物を得ることができる。
【0042】
また、上記金属含有材料は、構成元素として鉄以外の元素を含んでいてもよい。鉄以外の元素として、具体的には、B、C、N、O、Al、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、InおよびSnからなる群から選択される1または2以上の元素が挙げられる。
【0043】
上記金属含有材料の具体例としては、純鉄、ケイ素鋼、鉄-コバルト合金、鉄-ニッケル合金、鉄-クロム合金、鉄-アルミニウム合金、カルボニル鉄、ステンレス鋼、ならびにこれらの1種もしくは2種以上を含む複合材料等が挙げられる。入手性などの観点からカルボニル鉄を好ましく用いることができる。
【0044】
また、磁性体粒子として、他に、Ni基軟磁性粒子、Co基軟磁性粒子等が挙げられる。
【0045】
磁性体粒子の平均粒子径は、磁性金属粉/樹脂複合体の造粒加工性向上の観点から、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。
また、磁性金属粉/樹脂複合材料の高周波特性向上の観点から、磁性体粒子の平均粒子径は、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは80μm以下である。
ここで、磁性体粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(乾式法)により測定される。
【0046】
磁性体粒子の円形度は、磁性金属粉/樹脂複合体の溶融流動性および磁性粉の高充填化の観点から、好ましくは0.6以上であり、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上である。また、磁性体粒子の円形度は具体的には1.0以下である。
ここで、磁性体粒子の円形度は、画像解析式粒度分布測定装置(乾式法)により測定される。
【0047】
磁性金属粉を含む組成物中の磁性金属粉の含有量は、たとえば、磁性金属粉を含む組成物中の磁性金属粉以外の成分を除く残部とすることができる。
また、磁性金属粉の含有量は、磁性金属粉を含む組成物全体に対してたとえば80質量%以上であり、好ましくは82質量%以上、より好ましくは85質量%以上であり、また、たとえば99質量%以下であり、好ましくは98質量%以下、より好ましくは97質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下、さらにより好ましくは92質量%以下、よりいっそう好ましくは90質量%以下である。
【0048】
磁性金属粉を含む組成物の硬化物は、具体的には、磁性金属粉を含む組成物を圧粉成形することにより得られる。
硬化物は、本実施形態における樹脂組成物を含むため、機械的強度および耐熱性に優れるとともに、高温保存による強度劣化の抑制効果に優れるものとすることができる。
また、磁性金属粉を含む組成物の硬化物は、たとえば磁気を利用する電子部品に用いられ、さらに具体的には、パワーインダクタ等のインダクタの材料として好適に用いることができる。
【実施例0049】
以下、本実施形態を、実施例および比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
表1に記載の配合に従って、以下の手順で磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物、および、磁性金属粉を含む組成物を調製した。
【0051】
(磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物の調製)
フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂1:NC-3000-FH-75M、日本化薬社製、固形分75%のメチルエチルケトン溶液、固形分当たりのエポキシ当量325g/eq)61.6g、溶媒としてメチルエチルケトンを50質量%となるように加え、撹拌溶解して主剤(p)を得た。
次に、フェノールビフェニルアラルキル型フェノール樹脂(フェノール樹脂1:MEHC-7851SS、明和化成社製、水酸基当量203g/eq)38.4g、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン2.0g、溶媒としてメチルエチルケトンを50質量%となるように加え、撹拌溶解して硬化剤(q)を得た。
【0052】
次いで、上記主剤(p)と上記硬化剤(q)を全量混合して本例の磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物(混合液)を得た。混合液中のエポキシ基/フェノール性水酸基で計算した当量比は1.0であり、硬化促進剤の含有量はエポキシ樹脂とフェノール樹脂の総質量に対して1質量%である。
【0053】
(磁性金属粉を含む組成物の調製)
200gの磁性粉(磁性金属粉1:エプソンアトミックス社製、KUAMET6B2、平均粒子径50μm、円形度0.85)と、上述の磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物(混合液)の25.4gとを混合し、十分に攪拌してエポキシ樹脂を磁性粉に対して充分に分散させ、スラリーを製造した。磁性粉の混合割合は、スラリーの総質量(固形分)に対して約94質量%である。
次に、このスラリーをシート状に広げ、恒温槽に入れて約50℃で90分乾燥してメチルエチルケトンを蒸発させ、固形化したシートを製造した。
次いで、シートを粉砕し、目開き500μmのメッシュを通して粒子を得た。得られた粒子を真空恒温槽に入れて、50℃、40Torrの減圧下で60分減圧乾燥して残留しているメチルエチルケトンを蒸発させて整粒し、磁性金属粉を含む組成物の造粒粉を得た。
【0054】
(実施例2~12および比較例1~4)
主剤(p)、硬化剤(q)、磁性金属粉バインダー用エポキシ樹脂組成物、および、磁性金属粉を含む組成物の配合を、それぞれ、表1または表2に記載のようにした他は、実施例1に準じて各組成物を調製した。
【0055】
表1および表2において、各成分の量はアクティブ量である。また、表1および表2中の各成分の詳細は下記のとおりであり、「当量」は、エポキシ樹脂についてはエポキシ当量であり、フェノール樹脂については水酸基当量である。
(エポキシ樹脂)
(A)エポキシ樹脂1:フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、日本化薬社製、NC-3000-FH-75M、軟化点80℃、エポキシ当量325g/eq、重量平均分子量3380
(A)エポキシ樹脂2:フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、日本化薬社製、NC-3000-H、軟化点70℃、エポキシ当量290g/eq、重量平均分子量1780
(A)エポキシ樹脂3:フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、日本化薬社製、NC-3100、軟化点95℃、エポキシ当量260g/eq、重量平均分子量660
エポキシ樹脂4:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製、Jer-1004、軟化点97℃、エポキシ当量925g/eq、重量平均分子量3300
エポキシ樹脂5:オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬社製、EOCN-102S、軟化点65℃、エポキシ当量210g/eq、重量平均分子量1480
エポキシ樹脂6:フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、日本化薬社製、NC-2000-L、軟化点52℃、エポキシ当量235g/eq、重量平均分子量1730
(フェノール樹脂)
(B)フェノール樹脂1:フェノールビフェニルアラルキル樹脂、明和化成社製、MEHC-7851SS、軟化点66℃、水酸基当量203g/eq、重量平均分子量970

(B)フェノール樹脂2:フェノールビフェニルアラルキル樹脂、明和化成社製、MEHC-7851H、軟化点85℃、水酸基当量216g/eq、重量平均分子量1620
(B)フェノール樹脂3:フェノールビフェニルアラルキル樹脂、日本化薬社製、KAYAHARD GPH-103、軟化点102℃、水酸基当量230g/eq、重量平均分子量3240
フェノール樹脂4:フェノールノボラック樹脂、住友ベークライト社製、PR-51714、軟化点95℃、水酸基当量104g/eq、重量平均分子量1670
フェノール樹脂5:フェノールアラルキル樹脂、明和化成社製、MEHC-7800-4S、軟化点62℃、水酸基当量168g/eq、重量平均分子量1130
(硬化促進剤)
(C)トリフェニルホスフィン:PP-360、ケイ・アイ化成社製
(C)トリフェニルフィンと1.4-ベンゾキノンの付加物:TPP-BQ、ケイ・アイ化成社製
(C)2-フェニルイミダゾール:2PZ、四国化成社製
(C)1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール:2PZ-CN、四国化成社製
(磁性金属粉)
磁性金属粉1:エプソンアトミックス社製、KUAMET6B2、平均粒子径50μm、円形度0.85
【0056】
(重量平均分子量)
エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン標準物質を用いて作成した検量線をもとに計算したものである。
【0057】
(評価)
(試験片の作製)
曲げ強度および熱処理後の曲げ強度ならびにガラス転移温度の測定のための試験片を以下の手順で圧粉成形法により作製した。
すなわち、各例で得られた磁性金属粉を含む組成物の造粒粉を、160℃の試験片金型で60MPaの圧力で30分間で圧縮成形して、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの成形品を得た。得られた成形品を200℃、1時間で後硬化して試験片を作製した。
【0058】
(曲げ強度)
得られた試験片の25℃における曲げ強度(MPa)をJIS K 6911に準拠して測定した。
【0059】
(熱処理後の曲げ強度)
得られた試験片を200℃、1000時間熱処理を行い、室温にて冷却後、25℃における曲げ強度(MPa)をJIS K 6911に準拠して測定した。
【0060】
(強度保持率)
上述の曲げ強度および熱処理後の曲げ強度より、次式により強度保持率を求めた。
強度保持率(%)=曲げ強度/熱処理後の曲げ強度×100
【0061】
(ガラス転移温度)
上記試験片を精密切断機を用いて40mm×10mm×1mmの大きさに切り出し、ガラス転移温度測定用試験片とした。次いで、得られた試験片に対して、熱機械分析装置(セイコーインスツル社製、DMS6100)を用いて、測定温度範囲25℃~300℃、昇温速度5℃/分、周波数1Hzの条件下での動的粘弾性測定により、tanδのピーク値における温度(℃)をガラス転移温度とした。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
表1および表2より、各実施例においては、磁性金属粉を含む組成物の硬化物の耐熱性(ガラス転移温度)、曲げ強度および熱処理後の強度保持率のバランスに優れていた。