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特開2022-162532生分解性ポリエステル樹脂、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162532
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】生分解性ポリエステル樹脂、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/16 20060101AFI20221017BHJP
   C08G 63/87 20060101ALI20221017BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20221017BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20221017BHJP
【FI】
C08G63/16
C08G63/87
D01F6/62 302A
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053746
(22)【出願日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2021067202
(32)【優先日】2021-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021132509
(32)【優先日】2021-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福林 夢人
(72)【発明者】
【氏名】大山田 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】鳥海 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】小野 勝則
(72)【発明者】
【氏名】冨森 康裕
【テーマコード(参考)】
4J029
4J200
4L035
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB01
4J029AB04
4J029AC01
4J029AC02
4J029AD10
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029AE06
4J029AE11
4J029AE13
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA04
4J029BA05
4J029BA08
4J029BF09
4J029BF18
4J029BF25
4J029CA01
4J029CA02
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029HA01
4J029HB01
4J029JC361
4J029KB02
4J029KB05
4J200AA02
4J200AA06
4J200AA10
4J200BA19
4J200BA20
4J200CA01
4J200CA06
4J200DA01
4J200DA02
4J200DA09
4J200DA11
4J200DA17
4J200DA21
4J200DA22
4J200DA24
4J200DA25
4J200EA11
4L035AA05
4L035BB31
4L035HH10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自然環境下での分解性が向上した生分解性ポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分とジオール成分からなる生分解性ポリエステル樹脂である。全酸成分中、脂肪族ジカルボン酸成分を35モル%以上含有し、かつ、硫黄成分を1ppm以上含有する。本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、全ジオール成分中、脂肪族ジオール成分を20モル%以上含有することが好ましい。また、脂肪族ジオール成分が、エチレングリコールおよび/または1,4-ブタンジオールであることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステル樹脂であって、
全酸成分中、脂肪族ジカルボン酸成分を35モル%以上含有し、
かつ、硫黄成分を1ppm以上含有する、生分解性ポリエステル樹脂。
【請求項2】
全ジオール成分中、脂肪族ジオール成分を20モル%以上含有する、請求項1に記載の生分解性ポリエステル樹脂。
【請求項3】
脂肪族ジオール成分が、エチレングリコールおよび/または1,4-ブタンジオールである、請求項1または2に記載の生分解性ポリエステル樹脂。
【請求項4】
硫黄成分の含有量の上限が500ppm以下である、請求項1~3の何れか1項に記載の生分解性ポリエステル樹脂。
【請求項5】
触媒由来の金属成分を含有しない、請求項1~4の何れか1項に記載の生分解性ポリエステル樹脂。
【請求項6】
温度60℃の水中で7日間処理した後の極限粘度の保持率が60%以下である、請求項1~5の何れか1項に記載の生分解性ポリエステル樹脂。
【請求項7】
温度60℃かつ湿度85%RHの環境下で、7日間処理した後の数平均分子量の保持率が70%以下である、請求項1~6の何れか1項に記載の生分解性ポリエステル樹脂。
【請求項8】
海洋生分解性試験(ASTM D6691)において、海水温度30℃±2℃の条件下で、80日経過後の生分解度が60%以上である、請求項1~7の何れか1項に記載の生分解性ポリエステル樹脂。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載の生分解性ポリエステル樹脂の製造方法であって、重合触媒として有機スルホン酸系化合物を用いる、生分解性ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の生分解性ポリエステル樹脂によって構成されることを特徴とする繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリエステル樹脂、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、軽さ、加工のし易さに加えて安価に入手出来ることから、各種分野において広く使用されている。
ポリエステル樹脂は、自然環境下で殆ど分解されず、埋没処理しても半永久的に地中に残留する。その結果、廃棄されたポリエステル製品により、景観が損なわれたり、海洋生物の生活環境が破壊されたりする等の問題が起こっている。これらの問題を解決するため、分別廃棄物収集方式、リターナブル方式やデポジット方式等のポリエステル樹脂のリサイクルシステムが導入されつつあるが、末端ユーザーまで十分に浸透されていないのが現状である。
【0003】
環境問題を解決しうる樹脂として、自然界に存在する微生物の酵素により分解される、いわゆる生分解性を備えたポリエステル樹脂が知られている。生分解性ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等が挙げられ、これらは、例えば、包装容器、食器、文具、ごみ袋、雑貨類等の幅広い用途に用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポリ乳酸を必須として含み、かつ、ポリブチレンサクシネートアジペートまたはポリブチレンアジペートテレフタレートを含む生分解性樹脂からなる成形品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-350530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、自然環境保護に対する社会の認識がいっそう高まっている。例えば、プラスチック製品の海洋への廃棄に起因する、マイクロプラスチックによる海洋生物への悪影響等を抑制するために、自然環境下での分解性にいっそう優れる生分解性ポリエステル樹脂が要望されている。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、自然環境下での分解性が向上された生分解性ポリエステル樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は下記(1)~(9)の通りである。
(1)ジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステル樹脂であって、全酸成分中、脂肪族ジカルボン酸成分を35モル%以上含有し、かつ、硫黄成分を1ppm以上含有する、生分解性ポリエステル樹脂。
(2)全ジオール成分中、脂肪族ジオール成分を20モル%以上含有する、(1)の生分解性ポリエステル樹脂。
(3)脂肪族ジオール成分が、エチレングリコールおよび/または1,4-ブタンジオールである、(1)または(2)の生分解性ポリエステル樹脂。
(4)硫黄成分の含有量の上限が500ppm以下である、(1)~(3)の何れかの生分解性ポリエステル樹脂。
(5)触媒由来の金属成分を含有しない、(1)~(4)の何れかの生分解性ポリエステル樹脂。
(6)温度60℃の水中で7日間処理した後の極限粘度の保持率が60%以下である、(1)~(5)の何れかの生分解性ポリエステル樹脂。
(7)温度60℃かつ湿度85%RHの環境下で、7日間処理した後の数平均分子量の保持率が70%以下である、(1)~(6)の何れかの生分解性ポリエステル樹脂。
(8)海洋生分解性試験(ASTM D6691)において、海水温度30℃±2℃の条件下で、80日経過後の生分解度が60%以上である、(1)~(7)の何れかの生分解性ポリエステル樹脂。
(9)(1)~(8)の何れかに記載の生分解性ポリエステル樹脂の製造方法であって、重合触媒として有機スルホン酸系化合物を用いる、生分解性ポリエステル樹脂の製造方法。
(10)(1)~(8)のいずれかに記載の生分解性ポリエステル樹脂により構成される繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、特定量の硫黄成分を含有することで、生分解性に加えて、湿熱分解性が向上して加水分解し易くなる。その結果、微生物による生分解と加水分解とが進行するので、自然環境下での分解性にいっそう優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の生分解性ポリエステル樹脂によって構成される分割型複合形態の概略横断面の一例を示す。
図2】本発明の生分解性ポリエステル樹脂によって構成される分割型複合形態の概略横断面の他の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分とから構成されるものである。
ポリエステル樹脂を構成する全酸成分中、脂肪族ジカルボン酸成分の含有量が35モル%以上であり、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。35モル%未満であると、結晶性が高くなり過ぎて、湿熱分解性、生分解性が低下する。
【0012】
脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸フタル酸等が挙げられる。
【0013】
中でも、植物由来原料として入手しやすく、より生分解性に優れることから、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、またはセバシン酸が好ましく、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸がより好ましく、コハク酸、アジピン酸がさらに好ましい。
【0014】
本発明の効果を損なわない範囲において、脂肪族ジカルボン酸成分以外の酸成分を含有してもよい。このような酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、5-(アルカリ
金属)スルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ビフェニルジカルボン酸等に例示される芳香族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等に例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0015】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂を構成する全ジオール成分中、脂肪族ジオール成分を20モル%以上含有することが好ましく、30モル%以上含有することがより好ましく、50モル%以上含有することがさらに好ましく、80モル%以上含有することがいっそう好ましく、100モル%含有することが特に好ましい。全ジオール成分中の脂肪族ジオール成分の含有量が20モル%未満であると、結晶性が高くなり過ぎて、湿熱分解性、生分解性が低下する場合がある。
【0016】
脂肪族ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。
中でも、植物由来原料として入手しやすく、より生分解性に優れることから、エチレングリコール、1,4-ブタンジオールが好ましい。
【0017】
脂肪族ジオール成分以外のジオール成分としては、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等に例示されるポリアルキレングリコール、ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビスフェノール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5-ナフタレンジオール、これらのジオールにエチレンオキシドが付加したグリコール等に例示される芳香族ジオール等が挙げられる。
【0018】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、3官能以上のエステル形成性基を有する成分を含有してもよい。3官能以上のエステル形成性基を有する成分としては、3官能以上の多価アルコール;3官能以上の多価カルボン酸またはその無水物、酸塩化物、エステル;及び3官能以上のヒドロキシカルボン酸またはその無水物、酸塩化物、エステル;から選ばれた少なくとも1種の3官能以上の多官能化合物が挙げられる。
【0019】
3官能以上の多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を使用してもよい。
【0020】
3官能以上の多価カルボン酸またはその無水物としては、例えば、トリメシン酸、プロパントリカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、シクロペンタテトラカルボン酸無水物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を使用してもよい。
【0021】
3官能以上のヒドロキシカルボン酸としては、例えば、リンゴ酸、ヒドロキシグルタル酸、ヒドロキシメチルグルタル酸、酒石酸、クエン酸、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を使用してもよい。
【0022】
3官能以上のエステル形成性基を有する成分の含有量は、本発明の生分解性ポリエステル樹脂を構成する全酸成分中、0.01モル%~2.0モル%が好ましい。2.0モル%を超えると、ポリマーの架橋が過度に進行することがあり、安定にストランドを抜出せなくなったり、成形性が悪化したり、各種物性が損なわれたりする等の問題が生じるため、好ましくない場合がある。
【0023】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、硫黄成分を1ppm以上含有するものである。1ppm以上の硫黄成分を含有することで、本発明のポリエステル樹脂は、微生物による生分解性に加えて湿熱分解性が向上し、加水分解し易くなる。それにより、微生物による生分解と加水分解とが進行し、自然環境下における分解性にさらに優れるものとなる。硫黄成分の含有量は1~500ppmであることが好ましく、5~300ppmであることがより好ましく、10~200ppmであることがさらに好ましく、15~150ppmであることが特に好ましい。500ppmを超えると、重合度が低い樹脂となる場合があ
り、分子量が十分に上昇せず、成形性や強度に劣ることがある。さらに、加水分解が進み過ぎて、成形体や繊維等としたときに著しい強度低下が起こることがあり、実用に耐えることができない場合がある。
硫黄成分は、後述の製造方法において、重合触媒として用いられる、有機スルホン酸系化合物に由来するものであることが好ましい。
【0024】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、重合触媒として、有機スルホン酸系化合物とともに金属系触媒を併用してもよいが、金属系触媒を用いずに得られるものであることが好ましい。すなわち、本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、触媒由来の金属成分を含有しないものであることが好ましい。金属系触媒としては、例えば、例えば、ゲルマニウム、アンチモン、チタン、亜鉛、アルミニウム、鉄、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガン、ニッケル、コバルト等の化合物が挙げられる。
【0025】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、ジエチレングリコールやトリエチレングリコールなどのエーテル結合含有ジオールを含有してもよい。これにより、樹脂の親水性が高くなり、生分解性がいっそう向上する。
エーテル結合含有ジオールの含有量は、全ジオール成分中、20モル%以下であることが好ましく、1~15モル%であることがより好ましい。
【0026】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤の含有量は特に限定されないが、例えば、生分解性ポリエステル樹脂中、0.1~1.0質量%である。
【0027】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1’-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が用いられるが、効果とコストの点で、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが好ましい。
【0028】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、着色防止剤を含有してもよい。着色防止剤としては、例えば、亜リン酸、リン酸、ポリリン酸、トリメチルフォスファイト、トリエチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリデシルフォスフェート、トリフェニルフォスフォート等のリン化合物が挙げられる。これらのリン化合物は単独で使用しても2種以上使用してもよい。
【0029】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、結晶核剤を含有してもよい。結晶核剤としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、合成ケイ酸及びケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素等、カルボキシル基の金属塩を有する低分子有機化合物、例えば、オクチル酸、トルイル酸、ヘプタン酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、安息香酸、p-tert-ブチル安息香酸、テレフタル酸、テレフタル酸モノメチルエステル、イソフタル酸、イソフタル酸モノメチルエステル等の金属塩等が挙げられる。
【0030】
結晶核剤の含有量は、生分解性ポリエステル樹脂100質量部に対して0.1~5質量部であることが好ましく、さらに好ましくは1~2質量部である。0.1質量部未満であると、所定の効果が得られにくいことがあり、5質量部を超えると効果が飽和し、不経済で好ましくない場合がある。
【0031】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂の極限粘度は、容器、繊維やフィルム等への成形性や成形品としたときの強度に優れる点から、1.0~2.0であることが好ましい。
【0032】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、湿熱分解性に優れる。湿熱分解性の指標としては、温度60℃の水中で7日間処理した後の極限粘度の保持率が60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。極限粘度の保持率の算出方法の詳細は、実施例において後述する。
【0033】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂の数平均分子量は、20000以上であることが好ましく、40000以上であることがより好ましく、60000以上であることがさらに好ましい。数平均分子量が40000未満であると、容器、繊維やフィルム等への成形が困難となりやすく、または成形品としたときの強度が不十分となる場合がある。
【0034】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、湿熱分解性の別の指標として、温度60℃かつ湿度85%RHの環境下で、7日間処理したときの数平均分子量の保持率が、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。当該保持率の下限値は、5%であることが好ましく、10%であることがより好ましく、14%であることがさらに好ましい。5%未満であると、加水分解が進み過ぎて、成形体や繊維等としたときに強度低下が起こる場合がある。数平均分子量の保持率の算出方法の詳細は、実施例において後述する。
【0035】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、生分解性の指標として、海洋生分解性試験の生分解度(ASTM D6691)が60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。生分解度は、海水温度30℃±2℃の条件下で、80日経過後にて測定されるものであり、その算出方法の詳細は、実施例において後述する。
【0036】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が-50~30℃であることが好ましい。また、結晶融点が80~140℃であることが好ましい。
【0037】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂の製造方法について、一例を以下に述べる。
例えば、前記のような酸成分とジオール成分を原料とし、常法によって、200~260℃の温度でエステル化またはエステル交換反応を行った後、重合触媒を添加し、5hPa以下の減圧下、230~280℃、好ましくは240~280℃の温度で重縮合反応を行うことで得ることができる。
【0038】
ポリエステル樹脂原料のグリコール成分(G)とジカルボン酸成分(A)とのモル比(G/A)は1.00~2.00が好ましく、1.05~1.50がより好ましい。1.00未満であると、エステル化またはエステル交換反応が十分に進まず、重縮合反応が進みにくくなる場合がある。一方、2.00を超えると、重縮合反応に長時間必要となる場合がある。
【0039】
さらに目的や用途によっては、重縮合反応により得られたポリマーに、酸成分またはジオール成分を添加して、240~280℃の温度で解重合反応を行ってもよい。
【0040】
重合触媒として、有機スルホン酸系化合物を使用する。これにより、得られる生分解性ポリエステル樹脂に、特定範囲の量で硫黄成分を含有させることができる。
有機スルホン酸系化合物の添加量は、硫黄成分の含有量を特定範囲としやすくするため、生分解性ポリエステル樹脂を構成する酸成分1モルに対して、0.1×10-4モル以上とすることが好ましく、1×10-4~20×10-4モルであることがより好ましい。
有機スルホン酸系化合物の添加量が1×10-4モル未満であると、得られるポリエステル樹脂中の硫黄成分が過少となる場合がある。また、20×10-4モルを超えると、得られるポリエステル樹脂中の硫黄成分が多くなり、また、重合中の加水分解や熱分解が促進されて重合性が低下し、分子量が十分に上昇しなかったり、樹脂自体が得られなかったりする場合がある。
【0041】
有機スルホン酸系化合物としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、m-またはp-ベンゼンジスルホン酸、1,3,5-ベンゼントリスルホン酸、o-、m-またはp-スルホ安息香酸、ベンズアルデヒド-o-スルホン酸、アセトフェノン-p-スルホン酸、アセトフェノン-3,5-ジスルホン酸、o-、m-またはp-アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、2-アミノトルエン-3-スルホン酸、フェニルヒドロキシルアミン-3-スルホン酸、フェニルヒドラジン-3-スルホン酸、1-ニトロナフタレン-3-スルホン酸、チオフェノール-4-スルホン酸、アニソール-o-スルホン酸、1,5-ナ
フタレンジスルホン酸、o-、m-またはp-クロルベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-ブロモベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-ニトロベンゼンスルホン酸、ニトロベンゼン-2,4-ジスルホン酸、ニトロベンゼン-3,5-ジスルホン酸、ニトロベンゼン-2,5-ジスルホン酸、2-ニトロトルエン-5-スルホン酸、2-ニトロトルエン-4-スルホン酸、2-ニトロトルエン-6-スルホン酸、3-ニトロトルエン-5-スルホン酸、4-ニトロトルエン-2-スルホン酸、3-ニトロ-o-キシレン-4-スルホン酸、5-ニトロ-o-キシレン-4-スルホン酸、2-ニトロ-m-キシレ
ン-4-スルホン酸、5-ニトロ-m-キシレン-4-スルホン酸、3-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、5-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、6-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、2,4-ジニトロベンゼンスルホン酸、3,5-ジニトロベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-フルオロベンゼンスルホン酸、4-クロロ-3-メチルベンゼンスルホン酸、2-クロロ-4-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、4-スルホフタル酸、2-スルホ安息香酸無水物、3,4-ジメチル-2-スルホ安息香酸無水物、4-メチル-2-スルホ安息香酸無水物、5-メトキシ-2-スルホ安息
香酸無水物、1-スルホナフトエ酸無水物、8-スルホナフトエ酸無水物、3,6-ジスルホフタル酸無水物、4,6-ジスルホイソフタル酸無水物、2,5-ジスルホテレフタル酸無水物、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、メチオン酸、シクロペンタンスルホン酸、1,1-エタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸無水物、3-プロパンジスルホン酸、β-スルホプロピオン酸、イセチオン酸、ニチオン酸、ニチオン酸無水物、3-オキシ-1-プロパンスルホン酸、2-クロルエタンスルホン酸、フェニルメタンスルホン酸、β-フェニルエタンスルホン酸、α-フェニルエタンスルホン酸、クロルスルホン酸アンモニウム、ベンゼンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸エチル、5-スルホサリチル酸ジメチル、4-スルホフタル酸トリメチル等、およびこれらの塩等が挙げられる。中でも、汎用性の観点から、2-スルホ安息香酸無水物、o-スルホ安息香酸、m-スルホ安息香酸、p-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、ベンゼンスルホン酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸メチル、5-スルホイソフタル酸、これらの塩等が好ましい。
【0042】
本発明の製造方法において、重合触媒として有機スルホン酸系化合物を使用することにより、ポリエステル樹脂に特定量で硫黄成分を含有させることができ、その結果、生分解性を発現し得るポリエステル樹脂とすることができる。有機スルホン酸系化合物を用いず、それ以外の重合触媒(例えば、金属系触媒)のみを用いた場合は、硫黄成分の含有量を特定範囲とすることができず、生分解性に優れるポリエステル樹脂を得ることができない。
【0043】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は自然環境下における分解性に優れたものである。その用途としては、特に限定されるものではないが、例えば、成形体、繊維、シート、フィルム、接着剤、樹脂溶液等が挙げられる。
【0044】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂を用いた成形体、シート、フィルム、繊維は、各種食品、薬品、雑貨等の液状物や粉粒物、固形物を包装するための包装用資材、農業用資材、建築資材等幅広い用途において好適に用いられ、特に使い捨てにされる用途に好適である。具体的には、射出成形品(例えば、生鮮食品のトレー、ファーストフードの容器、コーヒーカプセルの容器、カトラリー、野外レジャー製品等)、押出成形品(例えば、釣り糸、漁網、植生ネット、2次加工用シート、保水シート等)、中空成形品(ボトル等)等、農業用マルチフィルム、トンネルフィルム、ハウスフィルム、日覆い、防草シート、畦シート、発芽シート、林業用燻蒸シート、フラットヤーン等を含む結束テープ、おむつ等の衛材のバックシートやトップシート等の部材、包装用シート、ショッピングバッグ、レジ袋、ゴミ袋、水切り袋、コンポストバッグ等、ロープ、結束材、医療用として手術糸、縫合糸、筋付きテープ、フェイスマスク、おしぼり、ウェットシート等に用いられ、特に使い捨て可能な用途に好適に用いることができる。
【0045】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂によって構成される繊維の形態としては、長繊維(連続繊維)や短繊維が挙げられ、長繊維としては、モノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよい。また、短繊維としては、ステープル繊維やショートカット繊維であってもよい。また、前記以外の繊維の形態として、スプリットヤーンが挙げられる。
【0046】
繊維の形態として長繊維(連続繊維)とする場合、FDY法やPOY法により、本発明の生分解性ポリエステル樹脂を用いて溶融紡糸、巻き取り、ローラー延伸により得ることができる。また、スパンボンド法により、本発明の生分解性ポリエステル樹脂を用いて、溶融紡糸し、紡出された多数の繊維をネット等の上に堆積捕集して、長繊維ウェブを得、熱エンボス処理や、ニードルパンチ処理等により、長繊維相互間を一体化させて不織布を得ることができる。
【0047】
繊維の形態として短繊維とする場合は、本発明の生分解性ポリエステル樹脂を用いて、溶融紡糸し、その後集束した糸条束を適宜の倍率で熱延伸した後、所望の長さに切断して、短繊維を得ることができる。
【0048】
短繊維が、ステープル繊維の場合は、繊維長は20~150mm程度とするとよく、繊維には、機械捲縮が付与されたものである。このようなステープル繊維は、乾式不織布(例えば、サーマルスルー不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、エアレイド不織布、ニードルパンチやスパンレースによる交絡したうえで熱接着された不織布等)用や、紡績糸用として適用できる。また、ステープル繊維からなる乾式不織布は、衛材やオムツ、失禁パッド等の各種部材に好適に適用できる。紡績糸や乾式不織布を得るにあたっては、本発明の生分解性ポリエステル樹脂からなる繊維以外の繊維を適宜で混合してもよい。
【0049】
短繊維がショートカット繊維の場合は、繊維長は2~20mm程度とし、湿式不織布用や合成紙用として適用できる。ショートカット繊維は、捲縮が付与されず、油剤などが付与されて水分散性を付与したものとするとよい。ショートカット繊維により構成される湿式不織布等は、フィルターなどの用途に好適に適用できる。湿式不織布等を得るにあたっては、本発明の生分解性ポリエステル樹脂からなる繊維以外の繊維を適宜で混合してもよい。
【0050】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂から構成される繊維の特性値としては、例えば単繊維繊度0.5~25.0デシテックス、強度0.1~6.0cN/デシテックス、伸度20~200%の範囲を有するものが挙げられる。上記物性値は、繊維を適用する用途等に応じて、紡糸工程、延伸工程での条件を変更することで調整すればよい。
【0051】
繊維の断面形態としては、本発明の生分解性ポリエステル樹脂のみを構成樹脂とする単相形態の繊維、本発明の生分解性ポリエステル樹脂であって構成成分の異なる樹脂を少なくとも2種の樹脂をブレンドしてなる単相形態の繊維、本発明の生分解性ポリエステル樹脂であって構成成分の異なる複数の樹脂によって構成される複合形態の繊維、本発明の生分解性ポリエステル樹脂と他の樹脂とによって構成される複合形態の繊維が挙げられる。
また、断面が円形以外の異型断面繊維であっても、中空部を有する中空断面繊維であってもよい。
単相形態の繊維において、本発明の生分解性ポリエステル樹脂のなかでも比較的低融点(例えば、180℃以下)の生分解性ポリエステル樹脂からなるものであれば、全融タイプの熱バインダー繊維として用いることができる。
【0052】
繊維の断面形態が、複合形態の繊維としては、サイドバイサイド型複合形態、芯鞘複合形態、海島型複合形態、形態分割型複合形態が挙げられる。
複合形態とする際、本発明の生分解性ポリエステル樹脂であって構成成分が異なる樹脂の組合せ、本発明の生分解性ポリエステル樹脂と他の生分解性樹脂との組み合わせ、本発明の生分解性ポリエステル樹脂と他の生分解性を有しない樹脂との組み合わせが挙げられる。これらの組合せについては、要求特性や適用する用途等に応じて適宜選択すればよい。また、本発明の生分解性ポリエステル樹脂の特徴を考慮すると、他の樹脂と組み合わせる際には、ポリ乳酸などの生分解性を有する樹脂を選択することも好ましい。
【0053】
芯鞘型複合形態としては、芯成分に本発明の生分解性ポリエステル樹脂であって高融点樹脂を配し、鞘成分に本発明の生分解性ポリエステル樹脂であって低融点樹脂を配すれば、鞘成分を熱接着性のバインダー成分として機能させる熱接着繊維として用いることができる。また、芯成分に融点170~180℃程度のポリ乳酸樹脂、鞘成分に本発明の生分解性ポリエステル樹脂であって、融点160℃以下の生分解性ポリエステル樹脂を配すると、生分解性を有する熱接着繊維として用いることができる。
なお、前述した全融タイプの熱接着繊維や、芯鞘型複合形態の熱接着繊維は、低融点のバインダー成分よりも高融点の樹脂からなる繊維や天然繊維等の主体となる繊維と混合して、紡績糸や不織布を得ることが好ましい。
【0054】
分割型複合形態としては、本発明の生分解性ポリエステル樹脂であって構成成分が異なる樹脂の組合せ、本発明の生分解性ポリエステル樹脂と他の生分解性樹脂との組み合わせ、本発明の生分解性ポリエステル樹脂と他の生分解性を有しない樹脂との組み合わせが挙げられる。分割型複合形態としては、2種の構成樹脂において、一方の樹脂成分の領域を他方の樹脂成分の領域が存在することによって分断するような断面形態であって、2種の構成樹脂が放射状の配される形態や、2種の構成樹脂がストライプ状に複数積層された形態、また、一方の樹脂が芯部に配され、他方の樹脂が芯部の周囲を多数の葉部が配されてなる多葉形態等が挙げられる。
【0055】
このような分割型複合形態の繊維においては、構成する2種の構成樹脂として、相溶性の乏しいものを組み合わせることにより、分割型複合繊維に物理的な衝撃を与えることにより、2種の構成樹脂同士の界面で剥離分割し、それぞれの構成樹脂のみからなる細繊度の繊維を得ることができる。
【0056】
図1、2には、分割型複合形態の概略横断面の一例を示す。図1は、4葉断面であり、図2は、花弁型断面である。図1においては、芯成分により、芯成分の周囲に配置された4つの葉部が分断されて配されている。図2においては、一方の成分中に、他方の成分が放射状に花弁状の形態で配され、一方の成分が花弁状の成分によって分断されて配されている。
【0057】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂が他成分によって複数個に分断されて配されたものであっても、また、他成分が本発明の生分解性ポリエステル樹脂によって複数個に分断されたものであってもよい。また、本発明の生分解性ポリエステル樹脂同士であって、相溶性に劣るもの同士の組合せで、本発明の生分解性ポリエステル樹脂が、本発明の生分解性ポリエステル樹脂であって前記樹脂とは構成成分の異なる樹脂によって複数個に分断されたもの、あるいはその逆の配置のものであってもよい。
分割型複合形態もまた、扁平な形状であっても、中央部に中空部を有するものであってもよい。
【0058】
分割型複合繊維に与える物理的な衝撃手段としては、繊維の製造工程において、機械捲縮を付与する工程における物理的な衝撃や、混打綿、カード機等によりウェブを作成する際の物理的な衝撃、得られたウェブにニードルパンチ処理や高圧水流処理等で不織布化する際の物理的な衝撃、本発明の繊維からなる織編物や不織布等の布帛に対して高圧水流処理や液流処理、空気流処理等による衝撃等が挙げられる。特に、ニードルパンチ処理や高圧水流処理により、繊維同士が三次元的に交絡し、かつ繊維が分割により分割割繊維が発現してなる不織布は、非常に緻密で風合いが良好であるため、肌に触れる用途であるフェイスマスクやオムツ等の医療衛生材などに好適に用いることができる。
【実施例0059】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種特性値は、次のようにして測定または評価した。
(a)ガラス転移温度、結晶融点
得られたポリエステル樹脂を、パーキンエルマー社製の示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲-70℃~200℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量8mgで測定した。
【0060】
(b)数平均分子量
ポリエステル樹脂を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、以下の条件でポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
送液装置:島津製作所製 Nexera-i Plus
検出器:島津製作所製 示差屈折率検出器 RID-10A
カラム:SHODEX製 LF-404
溶媒:クロロホルム
流速:0.3ml/分
測定温度:40℃
【0061】
(c)極限粘度
ポリエステル樹脂を、フェノール/テトラクロルエタン=1/1(重量比)混合溶媒中、濃度0.5重量%、20℃で測定した。
【0062】
(d)ポリエステル樹脂の組成
ポリエステル樹脂を、重水素化クロロホルムに溶解させ、日本電子社製の核磁気共鳴装置JNM-ECZにてH-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピークの積分強度から、共重合量と含有量を求めた。
【0063】
(e)硫黄成分、金属成分の含有量
ポリエステル樹脂を300℃で溶融成形して、直径3cm×厚み1cmの円盤状の成形板とし、リガク社製の蛍光X線分析装置 ZSX Primusを用いて、検量線法により定量分析を行い、含有量を求めた。
【0064】
(f)60℃×85%RH×7日間処理後の数平均分子量の保持率
ポリエステル樹脂を、平均粒径200μm以下の粉体とし、その50mgを試料とした。島津製作所製の恒温恒湿槽を用いて、庫内温度60℃、庫内湿度85%の条件にて7日間処理した。処理後の試料について、上記(b)と同様の方法により数平均分子量を測定し、下記式により数平均分子量の保持率を算出した。
保持率(%)=(試験後サンプルの数平均分子量×100)/(試験前サンプルの数平均分子量)
【0065】
(g)60℃の水中で7日間処理した後の極限粘度保持率
ポリエステル樹脂4gを、200mLの水が入った金属製の容器に入れ、密閉した後60℃に加熱し、7日間処理した。処理後の試料について、上記(c)と同様の方法により極限粘度を測定し、下記式により数平均分子量の保持率を算出した。
保持率(%)=(試験後サンプルの極限粘度×100)/(試験前サンプルの極限粘度)
【0066】
(h)海洋生分解性試験(ASTM D6691)
ポリエステル樹脂を平均粒径200μm以下の粉体とし、その50mgを試料とした。ASTM D6691に従って、試験開始から80日後のCOの発生量を測定し、海洋生分解性試験にて生分解度を算出した。試験は測定温度を30±2℃として、海水を使用して行った。
下記の基準で評価した。
◎:生分解度が75%以上
〇:生分解度が70%以上75%未満
△:生分解度が60%以上70%未満
×:生分解度が60%未満
【0067】
実施例1
エステル化反応器に、コハク酸81.9質量部とエチレングリコール56.0質量部を供給し、温度200℃、圧力50hPa、2時間の条件で反応させオリゴマー(エステル化物)を得た。
上記オリゴマーを重合反応器に移送し、重合触媒である有機スルホン酸系化合物として5-スルホサリチル酸を0.05質量部、リン化合部としてポリリン酸を0.0868質量部加え、反応器を減圧にして、60分後に最終圧力0.9hPaとし、温度280℃で5時間、溶融重縮合反応を行い、生分解性ポリエステル樹脂を得た。
【0068】
実施例2~21、比較例1~2
酸成分、ジオール成分、3官能以上のエステル形成性基を有する成分、結晶核剤の仕込み量、重合触媒としての有機スルホン酸系化合物、金属系触媒の添加量、溶融重縮合反応の反応温度や反応時間を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。
【0069】
比較例3~6
重合触媒として有機スルホン酸系化合物を添加せず、表1に示した添加量で金属系触媒を用い、酸成分、ジオール成分の仕込み量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た、
【0070】
【表1】

表1、表2中の略語は、下記のものを示す。
SU:コハク酸
ADA:アジピン酸
SEA:セバシン酸
TPA:テレフタル酸
EG:エチレングリコール
BD:ブタンジオール
BAEO:ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物
DEG:ジエチレングリコール
TEG:トリエチレングリコール
SS:5-スルホサリチル酸
GeO:二酸化ゲルマニウム
TBT:テトラブチルチタネート
Sb:三酸化アンチモン
【0071】
実施例1~21、比較例1~6で得られたポリエステル樹脂の樹脂組成、硫黄成分の含有量を表2に示す。
【表2】
【0072】
実施例1~21、比較例1~6で得られたポリエステル樹脂の評価結果を表3に示す。
【表3】
【0073】
表3から明らかなように、実施例1~21で得られた本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、湿熱分解性、生分解性に優れていた。
【0074】
実施例8~10から理解できるように、本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、有機スルホン酸系触媒と金属系触媒とを併用しても、湿熱分解性、生分解性に優れるものであった。
【0075】
一方、比較例1で得られたポリエステル樹脂は、重合触媒としての有機スルホン酸系化合物の添加量が少なかったため、硫黄成分の含有量が過少となり、湿熱分解性、生分解性に劣るものであった。
【0076】
比較例2で得られたポリエステル樹脂は、脂肪族ジカルボン酸成分の含有量が少なかったため、結晶性が高くなり、湿熱分解性、生分解性に劣るものであった。
【0077】
比較例3~6で得られたポリエステル樹脂は、重合触媒として金属系触媒のみを用いたため、湿熱分解性、生分解性に劣るものであった。
【0078】
次に、上記で得られた実施例のポリエステル樹脂を用いて繊維を製造した実施例について説明する。なお、繊維物性は以下の方法により、測定した。
(1)繊維繊度
測定サンプルを20mmの長さに切断すること、繊維を100本取り出し、質量を測定すること、測定回数を4回とした以外は、JIS L1015 8.5.1 A法に準じて測定した。
(2)繊維の強伸度
JIS L-1015 8.7に準じて測定した。
【0079】
実施例22(短繊維)
実施例4で得られた生分解性ポリエステル樹脂を用い、孔数1040、孔径0.22mmの口金を用い、吐出量440g/分、紡糸温度240℃、紡糸速度700m/分の条件で溶融紡糸を行った。次いで、得られた未延伸糸を収束させ、50ktexのトウとし、延伸温度65℃、延伸倍率3.1倍の条件で延伸した。次いで、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与し、仕上げ油剤を付与した後、繊維長51mmに切断し、繊度2.4dtex、強度2.5cN/dtex、伸度52%の単相型の短繊維を得た。
【0080】
実施例23(芯鞘型複合短繊維)
L-乳酸/D-乳酸(共重合モル比)が98.7/1.3のL-乳酸を主体とするポリDL-乳酸(NW社製 PLA6202D)を芯部に配し、実施例4で得られた生分解性ポリエステル樹脂を鞘部に配するよう、孔数1014、孔径0.35mmの口金を用い、吐出量428g/分、芯鞘質量比率50/50とし、紡糸温度240℃、紡糸速度700m/分の条件で溶融紡糸を行った。次いで、得られた未延伸糸を収束させ、50ktexのトウとし、延伸温度75℃、延伸倍率3.0倍の条件で延伸した。次いで、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与し、仕上げ油剤を付与した後、繊維長51mmに切断し、繊度2.4dtex、強度2.5cN/dtex、伸度49%の芯鞘型複合短繊維を得た。
【0081】
実施例24(分割型複合短繊維)
L-乳酸/D-乳酸(共重合モル比)が98.7/1.3のL-乳酸を主体とするポリDL-乳酸(NW社製 PLA6202D)と実施例4の生分解性ポリエステル樹脂を用いて、繊維の横断面が図1のごとき4葉複合断面(分割数が5個(両成分の合計))となる4葉断面複合紡糸口金(孔数1014孔)を用い、ポリDL-乳酸を葉部に配し、実施例4の生分解性ポリエステル樹脂を芯部に配して、複合比を溶融容積比として芯/葉=35/65とし、紡糸温度230℃、吐出量485g/分、紡糸速度800m/分の条件で溶融紡糸し、分割型複合繊維の未延伸糸を得た。
次いで、得られた未延伸糸を延伸温度65℃、延伸倍率2.90倍で延伸した後、押し込み式クリンパーにて機械捲縮を付与し、仕上げ油剤を付与後に繊維長51mmに切断し、繊度2.2dtex、強度2.9cN/dtex、伸度41%の分割型複合短繊維を得た。
【0082】
実施例25 (分割型複合短繊維)
L-乳酸/D-乳酸(共重合モル比)が98.7/1.3のL-乳酸を主体とするポリDL-乳酸(NW社製 PLA6202D)と実施例4の生分解性ポリエステル樹脂を用いて、繊維の横断面が図2のごとき分割数20個(両成分の合計)の花弁型断面複合紡糸口金(孔数850孔)を用い、ポリDL-乳酸を花弁状部に配し、実施例4の生分解性ポリエステル樹脂を花弁状以外の領域となるように配して、複合比を溶融容積比として50/50、紡糸温度230℃、吐出量550g/分、紡糸速度860m/分で溶融紡糸し、分割型複合繊維の未延伸糸を得た。
次いで、得られた未延伸糸を延伸温度60℃、延伸倍率2.50倍で延伸した後、押し込み式クリンパーにて機械捲縮を付与し、仕上げ油剤を付与後に繊維長51mmに切断し、繊度3.3dtex、強度2.2cN/dtex、伸度55%の分割型複合短繊維を得た。
図1
図2