IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ホルスの特許一覧

特開2022-162535細胞培養上清液の製造方法、及び化粧品の製造方法
<>
  • 特開-細胞培養上清液の製造方法、及び化粧品の製造方法 図1
  • 特開-細胞培養上清液の製造方法、及び化粧品の製造方法 図2
  • 特開-細胞培養上清液の製造方法、及び化粧品の製造方法 図3
  • 特開-細胞培養上清液の製造方法、及び化粧品の製造方法 図4
  • 特開-細胞培養上清液の製造方法、及び化粧品の製造方法 図5
  • 特開-細胞培養上清液の製造方法、及び化粧品の製造方法 図6
  • 特開-細胞培養上清液の製造方法、及び化粧品の製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162535
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】細胞培養上清液の製造方法、及び化粧品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0789 20100101AFI20221017BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20221017BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20221017BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C12N5/0789
C12N1/00 F
C12N1/00 Z
A61K8/98
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055172
(22)【出願日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2021066855
(32)【優先日】2021-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】511015098
【氏名又は名称】株式会社ホルス
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】三井 幸雄
【テーマコード(参考)】
4B065
4C083
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC14
4B065BB23
4B065BD15
4B065BD17
4B065BD18
4B065CA50
4C083AA071
4C083AA072
4C083AD412
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE13
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】培地を頻繁に交換する必要があるなど幹細胞の培養には多大な手間がかかるが、細胞の成長が悪いと有用成分の濃度が低い培養上清液が生成されることとなる。
【解決手段】細胞を培養した培養液から細胞を除去した培養上清液の製造方法であって、幹細胞を出発物質として、培地にプラセンタ、サイタイ、又は羊膜の抽出物を添加することにより、有効成分を高濃度に含む培養上清液を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養した培養液から前記細胞を除去した培養上清液の製造方法であって、
幹細胞を出発物質として、培地にプラセンタ、サイタイ、又は羊膜の抽出物を添加することを特徴とする細胞培養上清液の製造方法。
【請求項2】
前記幹細胞は、ヒト由来の臍帯幹細胞、又は臍帯血幹細胞であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養上清液の製造方法。
【請求項3】
前記幹細胞は、ヒト由来の前記臍帯血幹細胞であり、前記培地に添加する前記抽出物は、ウマ又はブタの前記プラセンタの抽出物であることを特徴とする請求項2に記載の細胞培養上清液の製造方法。
【請求項4】
前記幹細胞は、ヒト由来の前記臍帯血幹細胞であり、前記培地に添加する前記抽出物は、ウマ又はブタの前記サイタイの抽出物であることを特徴とする請求項2に記載の細胞培養上清液の製造方法。
【請求項5】
前記幹細胞は、ヒト由来の前記臍帯血幹細胞であり、前記培地に添加する前記抽出物は、ウマの前記羊膜の抽出物であることを特徴とする請求項2に記載の細胞培養上清液の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の細胞培養液の製造方法によって得られた細胞培養上清液を配合することを特徴とする化粧品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を培養した培養液から細胞を除去した培養上清液の製造方法、及び当該培養上清液を配合した化粧品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野では、医薬品での治療が困難な病への代替療法として、幹細胞を利用した再生医療が注目されている。幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、体性幹細胞などが報告されており、体性幹細胞としては、骨髄、脂肪組織、皮膚、臍帯、胎盤等の様々な組織から単離される間葉系幹細胞(MSC)が、臨床において用いられてきている。
幹細胞移植医療においては、幹細胞自体が治療効果をもたらすだけでなく、幹細胞が分泌するサイトカインやエクソソーム等の種々の生理活性物質が治療効果に大きく寄与していることが分かってきている。
サイトカイン(Cytokine)とは、細胞から分泌されて細胞間の相互応答に関与する生理活性物質の総称であり、受容した細胞において、細胞の増殖、分化、機能発現等の応答が起きる。また、エクソソーム(Exosome)とは、細胞が分泌する小胞で、様々なタンパク質や核酸を内包しており、細胞間の情報伝達を担う可能性が明らかになってきている。
幹細胞を人工的に培養すると、培養液中に細胞からこれらの生理活性物質が放出されることから、細胞を除去した培養液を培養上清液として回収し有効利用することができる。
【0003】
ここで、特許文献1には、臍帯由来間葉系幹細胞の培養上清を含有する育毛剤が開示されている。
また、特許文献2には、透過性膜中空糸の内表面に播種した幹細胞に培養液を供給する工程と、幹細胞に培養液を接触させて幹細胞を培養する工程と、幹細胞が分泌した成分を含む培養液を回収する工程を含む幹細胞培養上清液の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-26573号公報
【特許文献2】国際公開第2016/148230
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
幹細胞のような接着系細胞は培養用容器の中で底面に貼り付いて層状に増殖するため、浮遊培養が可能な細胞と異なり、細胞の量に対して培養液の量が多くなる。また、培地を頻繁に交換する必要があるなど幹細胞の培養には多大な手間がかかるが、細胞の成長が悪いと有用成分の濃度が低い培養上清液(培養上清)が生成されることとなる。
そこで本発明は、有効成分を高濃度に含む培養上清液、及び当該培養上清液を配合した化粧品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応した細胞培養上清液の製造方法においては、細胞を培養した培養液から細胞を除去した培養上清液の製造方法であって、幹細胞を出発物質として、培地にプラセンタ、サイタイ、又は羊膜の抽出物を添加することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、有効成分を高濃度に含む培養上清液を提供することができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の細胞培養上清液の製造方法において、幹細胞は、ヒト由来の臍帯幹細胞、又は臍帯血幹細胞であることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、アレルギーのリスクを回避でき、また、サイトカインがバランスよく含まれている幹細胞培養上清液を得ることができる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、請求項2に記載の細胞培養上清液の製造方法において、幹細胞は、ヒト由来の臍帯血幹細胞であり、培地に添加する抽出物は、ウマ又はブタのプラセンタの抽出物であることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、培養上清液に含まれるサイトカイン及びエクソソームの濃度をさらに高めることができる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、請求項2に記載の細胞培養上清液の製造方法において、幹細胞は、ヒト由来の臍帯血幹細胞であり、培地に添加する抽出物は、ウマ又はブタのサイタイの抽出物であることを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、培養上清液に含まれるサイトカイン及びエクソソームの濃度をさらに高めることができる。
【0010】
請求項5記載の本発明は、請求項2に記載の細胞培養上清液の製造方法において、幹細胞は、ヒト由来の臍帯血幹細胞であり、培地に添加する抽出物は、ウマの羊膜の抽出物であることを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、培養上清液に含まれるサイトカイン及びエクソソームの濃度をさらに高めることができる。
【0011】
請求項6記載に対応した化粧品の製造方法においては、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の細胞培養液の製造方法によって得られた細胞培養上清液を配合することを特徴とする。
請求項6記載の本発明によれば、幹細胞の寿命の減少をより一層抑制しながら新たな細胞を生み出す化粧品を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有効成分を高濃度に含む培養上清液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】幹細胞培養上清液に含まれるサイトカインの含有量を比較したグラフ
図2】保湿効果を比較したグラフ
図3】肌理改善効果を比較した図
図4】細胞遊走像の全体像を示す写真
図5】細胞遊走像のギャップ領域拡大像を示す写真
図6】細胞遊走率定量結果を示す表
図7】細胞遊走率定量結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態による細胞培養上清液の製造方法、及び細胞培養上清液について説明する。
【0015】
幹細胞培養上清液の製造工程においては、特に限定されず通常用いられる条件をそのまま適用することができる。また、幹細胞の種類に応じて幹細胞の単離及び選抜工程を適宜調整する。
幹細胞とは、自己複製能と分化能を持つ特殊化していない細胞と定義され、具体的には、様々な組織に分化できる「分化能」と、複数の細胞分裂の周期を経ても未分化状態を維持する「自己複製能」を、特性として持っている細胞のことである。
哺乳類では、体内での幹細胞の存在位置により、様々な種類の幹細胞があり、膵臓幹細胞、肝幹細胞、造血幹細胞、血管幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、網膜幹細胞等が含まれる。その中でも間葉系幹細胞の例としては、上皮幹細胞、毛包幹細胞、脂肪幹細胞、骨髄幹細胞、臍帯幹細胞、胎盤幹細胞、歯髄幹細胞、骨格筋幹細胞などが知られている。
【0016】
細胞培養上清液の製造方法にあたっては、ドナーから組織を採取する必要がある。
本実施形態における培養対象の幹細胞は、ヒト由来の臍帯血幹細胞としている。なお、培養対象の幹細胞をヒト由来の臍帯幹細胞とすることもできる。
臍帯とは胎盤と胎児を繋ぐ全長30~70cmの組織であり、出産時に娩出された後は医療廃棄物として処分されてしまう。ドナーの同意を得て臍帯を回収し、静脈より臍帯血を採取し、必要に応じて抗凝固処理をする。次の作業工程までは5℃前後で保管し、24時間以内に細胞分離をおこなう。
【0017】
次に、臍帯血幹細胞を単離する。
臍帯血を2mM EDTA-PBSなどの緩衝液で希釈後にフィコール密度勾配遠心分離により単核細胞を取得する。培養プレートに1×10/cmの細胞密度で播種し、必要に応じて抗生物質を補充したダルベッコ改変イーグル培地-低グルコース(DMEM-LG)培地にて培養する。
12~48時間後に非付着性の細胞を除去し、得られた付着性細胞は5%COを含む加湿雰囲気、37℃で、10%MSCGSを含むダルベッコ改変イーグル培地-低グルコース(DMEM-LG)にて培養する。培地は一日おきに交換する。トリプシンを用いてサブコンフルエント時に細胞を採取し、必要な継代をおこなう。
1.0×10/mLまで細胞を増殖させた後、回収して、臍帯血幹細胞を得る。引き続いて幹細胞培養上清液の作製をおこなうほか、必要に応じて細胞を液体窒素中で保管し、適宜解凍して使用する。
【0018】
次に、臍帯血幹細胞培養上清液を作製する。
「培養上清液」とは、細胞の増殖が可能な条件下で、適した細胞培養用培地を用いて細胞を培養し、培養後の培養液から細胞を除去した上清液を意味する。具体的には、「培地」とは、細胞培養に必要な成分をあらかじめ含むように調整された細胞培養用の液体で、細胞に接触していないものをいう。培地が細胞と接触する状態で培養をおこなった結果得られた液体を「培養液」と呼び、細胞の存在の有無を問わない。「培養液」から明確に細胞を除去したものを「培養上清液」と呼び、培養液からの細胞の除去は、例えば遠心分離、透析、又は膜分離等を適宜おこなうことで達成できる。
幹細胞培養上清液の製造に用いる培地は、市販されているものを使用できる。例えば、DMEM、Ham F-12、MEMα、EMEM、IMDM、RPMI-1640などを基礎培地とし、各種ビタミンやミネラルなどを添加して適宜調製したものを使用できる。
なお、幹細胞培養上清液は、安全性を高めるため動物血清を含まないことが好ましい。そのための方法としては、幹細胞の培養において複数回の継代培養をおこなうことにし、全工程または最後から数回の継代培養において無血清培地を使用することによって、動物血清を含まない幹細胞培養上清液を得ることができる。また、幹細胞培養上清液に対して、透析や溶媒置換などを利用して血清を除去することもできる。
【0019】
本実施形態では、臍帯血幹細胞を、DMEM等の基本培地に必要に応じて血清を加え、5%COを含む加湿雰囲気、37℃の条件で、適宜継代をしながら120~240時間培養する。
臍帯血幹細胞培養上清液として回収される培地には事前に無菌化したサイタイエキスを0.01~1%添加して培養をおこなう。サイタイエキスは、化粧品用原料および健康食品用原料として、ウマ又はブタ由来のものが供給されている。サイタイエキスは、臍帯を洗浄し、水と酵素を加えて加水分解後にろ過し、適宜防腐剤を加えて化粧品原料とするほか、乾燥処理をおこなって主に健康食品原料とする。
得られた交換後の培地を回収し、細胞を通過させない分離膜を用いて、臍帯血幹細胞培養上清液(臍帯血由来幹細胞培養上清液)を得る。
なお、培地には、サイタイエキスに代えて、プラセンタエキス又は羊膜エキスを添加することもできる。さらに、サイタイエキス、プラセンタエキス、又は羊膜エキスのうち少なくとも二つを培地に添加することもできる。
【0020】
幹細胞を用いて得られた培養上清液が「幹細胞培養上清液」であり、特定の由来名が記載されているものはその組織から分離された幹細胞を用いていることを示し、「臍帯血由来幹細胞培養上清液」は臍帯血由来幹細胞を培養して得られる培養上清液のことである。
幹細胞培養上清液の作製に用いる幹細胞の例としては、前述の種々の幹細胞を使用することができる。幹細胞は、ドナーから採取した天然(プライマリー)のものをはじめ、遺伝子改変等などにより株化したもの、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)等が使用できる。
幹細胞の由来動物種としては、アレルギーのリスク回避および、親和性の観点から、ヒト由来が最も望ましい。その他に、遺伝的類似性が高いことや、感染危険性が低いものとして、例えば、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマのものが使用できる。
【0021】
幹細胞は、培養中に、表皮細胞増殖因子(EGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、形質転換成長因子-α(TGF-α)、角化細胞増殖因子(KGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、増殖分化因子-11(GDF-11)等の種々のサイトカインを産生し、培養液中に分泌することが分かっている。なお、これらのサイトカイン濃度は、市販されている各サイトカインのELISAキット等を使用して簡便に測定することができる。
また、幹細胞はその由来によって、幹細胞培養上清液中に含まれるサイトカイン等の生理活性物質の含有量とそのバランスが異なることが分かってきている。成人の組織ではなく、新生児の付属器官から採取する臍帯血、臍帯、胎盤、羊膜などから採取した幹細胞は、特に有用性が高いと考えられる。
【0022】
回収した臍帯血幹細胞培養上清液は、そのまま化粧品等の原料として使用してもよく、あるいは、濃縮、溶媒の置換、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩などの調整を適宜実施した後に化粧品等の原料として使用してもよい。また、臍帯血幹細胞培養上清液にレシチン、コレステロールなどを添加してリポソーム化してもよい。
培養上清液は、化粧品成分としては「順化培養液」や「コンディションドメディウム(Conditioned medium)」と呼ばれることがあるが、ここでの「培養上清液」と同義である。また、「培養液」と呼ぶ場合でも、細胞が除去されていることが明確に確認できる場合は「培養上清液」と同義である。
培養上清液には、細胞自体や細胞成分は含まれないことから免疫拒絶反応の懸念が無く、使用者自身でないドナーの幹細胞から作製した培養上清液であっても問題なく使用することができる。また、細胞そのものではないので管理や保存が簡便で、あらかじめ作製した培養上清液を保存しておき、要時にすぐ使用することができる。
【0023】
図1は幹細胞培養上清液に含まれるサイトカインの含有量を比較したグラフであり、図1(a)は、ヒトの臍帯血幹細胞を出発物質とし、培地にウマのサイタイの抽出物(ウマサイタイエキス)を0.1%添加して培養することにより得られた本実施形態の臍帯血幹細胞培養上清液(実施形態1)のデータ、図1(b)は、比較例として、ヒトの脂肪由来幹細胞を出発物質とし、培地にサイタイエキス等のエキスを添加せずに培養することにより得られた脂肪由来幹細胞培養上清液(比較例1)のデータである。なお、見やすくするため含有量の表示上限を700[pg/ml]とし、実際の含有量を各データの上部に記載している。
図1より、実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液は、比較例1の脂肪由来幹細胞培養上清液と比較して、GDF-11を多く含有していることが分かる。GDF-11は、幹細胞が通常細胞に分化することを抑制し、幹細胞として維持されるように働きかける因子である。つまり、臍帯血幹細胞は、脂肪由来幹細胞よりも幹細胞を維持しながら細胞増殖を進めることができる。このため、化粧品の原料に臍帯血幹細胞培養上清液を用いると、幹細胞の寿命の減少を抑制しながら新たな細胞を生み出すことができ、肌の状態をより長く若く保つことができる。一方、化粧品の原料に単に幹細胞や成長因子を用いるだけでは、新しい細胞を生み出す反面、幹細胞の寿命を縮めてしまう。
また、図1に示すように、実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液には、GDF-11の他にも、EGF、FGF、HGF、及びKGFがバランスよく含有されている。このようにサイトカインがバランスよく含まれている臍帯血幹細胞培養上清液を化粧品に配合することで、より一層幹細胞の寿命の減少を抑制しながら新たな細胞を生み出すことができる。
【0024】
培地にウマサイタイエキスを添加して培養製造した本実施形態の臍帯血幹細胞培養上清液(実施形態1)に含まれるサイトカインの含有量と、比較例として培地にサイタイエキス等のエキスを添加せずに製造している他社の三種類の臍帯血幹細胞培養上清液(比較例2)に含まれるサイトカインの含有量を下表1に示す。
【表1】
表1より、実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液(ウマサイタイエキス添加培養)は、比較例2である製品1~3の臍帯血幹細胞培養上清液(無添加培養)と比べて、GDF-11、及びそれ以外のサイトカインも多く含まれていることが分かる。このことより、サイタイエキスを培地に添加することによって、幹細胞の活性化が起こっていることが推察される。
このように、化粧品や健康食品の原料に使われるサイタイエキスを培養液中に含有させて細胞培養に供することで、細胞あたりの放出する生理活性物質をより増やし、有効成分を高濃度に含む培養上清液の回収を達成できる。これにより、有効成分を高濃度に含む培養上清液を提供することができる。また、実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液は、EGFが比較例2の場合と比べて多く含有されていることで、細胞の増進をより一層促進することができる。また、実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液は、若返り因子と呼ばれるGDF-11が比較例2の場合と比べて多く含有されていることで、コラーゲン、エラスチンなどの増殖を促し、皮膚の再生やエイジングケア作用がさらに期待できる。
【0025】
培地にエキスを1%添加して幹細胞培養した本実施形態の臍帯血幹細胞培養上清液(実施形態2~5)に含まれるエクソソームの定量結果を下表2に示す。培地に添加した抽出物は、実施形態2ではブタのプラセンタの抽出物(ブタプラセンタエキス)、実施形態3ではウマのサイタイの抽出物(ウマサイタイエキス)、実施形態4ではウマのプラセンタの抽出物(ウマプラセンタエキス)、実施形態5ではウマの羊膜の抽出物(ウマ羊膜エキス)である。また、実施形態2~5で培養した幹細胞は、ヒトの臍帯血幹細胞である。なお、培地にサイタイエキス等のエキスを添加せずにヒトの臍帯血幹細胞を培養して得られた臍帯血幹細胞培養上清液(比較例3)の値を100として表している。また、比較対象として、上記の比較例1、及び比較例2の製品3のデータも掲出している。
【表2】
表2より、本実施形態2~5の臍帯血幹細胞培養上清液は、比較例1、2に比べてCD9及びCD63が多く含まれており、比較例3に比べてCD9とCD63の少なくともどちらか一方が多く含まれていることが分かる。このことより、ブタ若しくはウマのプラセンタエキス、又はウマのサイタイエキス若しくは羊膜エキスを培地に添加することによって、幹細胞の活性化が起こっていることが推察される。なお、表2には記載していないが、培地にブタサイタイエキスを添加しヒトの臍帯血幹細胞を培養して得られた臍帯血幹細胞培養上清液も同様の効果が得られる。
このように、培地にエキスを添加して培養することで、細胞あたりの放出する生理活性物質をより増やし、有効成分を高濃度に含む培養上清液の回収を達成できる。これにより、有効成分を高濃度に含む培養上清液を得ることができる。特に、実施形態3及び実施形態5、すなわち、培地に添加するエキスとしてウマサイタイエキス又はウマ羊膜エキスを用いることで、無添加培養である比較例3に比べてCD9とCD63の両方を多く含有する臍帯血幹細胞培養上清液を得ることができる。
【0026】
実施形態2~5の幹細胞培養における細胞生存率を下表3に示す。なお、比較例3の値を100として表している。
【表3】
表3より、エキスを添加して培養した実施形態2~5の幹細胞培養における細胞生存率は、エキスを添加せずに培養した比較例3の幹細胞培養における細胞生存率を上回っており、エキスを添加した培養は、幹細胞に障害を与えないことが分かる。なお、FCM(フローサイトメトリー)による幹細胞マーカー確認においても、エキスを添加したことによる悪影響はなかった。
【0027】
実施形態2~5の幹細胞培養上清液におけるサイトカイン定量結果を下表4に示す。
【表4】
表4より、実施形態2~5の臍帯血幹細胞培養上清液(エキス添加培養)は、比較例3の臍帯血幹細胞培養上清液(無添加培養)と比べて、GDF-11、EGF、及びそれ以外のサイトカインも多く含まれていることが分かる。
このように、ブタ又はウマ由来の抽出物を培養液中に含有させて細胞培養に供することで、細胞あたりの放出する生理活性物質をより増やし、有効成分を高濃度に含む培養上清液の回収を達成できる。これにより、有効成分を高濃度に含む培養上清液を得ることができる。また、実施形態2~5の臍帯血幹細胞培養上清液は、EGF及びGDF-11が比較例3の場合と比べて多く含有されているため、細胞の増進をより一層促進することができると共に、コラーゲン、エラスチンなどの増殖を促し、皮膚の再生やエイジングケア作用がさらに期待できる。
【0028】
図2は保湿効果を比較したグラフである。
温度27℃、湿度35%の条件において、以下の試験方法にて各試料をヒトの腕に塗布して肌水分量を測定した。試料は、実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液(ウマサイタイエキス添加培養)と、比較例3の臍帯血幹細胞培養上清液(無添加培養)と、比較例としての水(比較例4)、の三種類である。
[試験方法]
1.油性ペンで縦3.0cm、横2.0cm四方の枠を下腕内側部の測定ポイントにしるしを付ける。
2.石けんで測定ポイントを洗い、30分安静に過ごす。
3.測定ポイントの通常時(各試料の塗布前)の肌水分量を測定する。この測定は5回行い、平均値を求める。
4.試料0.1gを測定部位にとり、指の第二関節部分までを使用し縦・横10回ずつ試料を均一になじませる。
5.試料塗布後、10、30、90分後の肌水分量を皮表角層水分量測定装置(株式会社ヤヨイ製 SKICON-200EX)を用いて測定する。
[結果]
図2中の「×」を結ぶ線は実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液(ウマサイタイエキス添加培養)のデータを示し、「■」を結ぶ線は比較例3の臍帯血幹細胞培養上清液(無添加培養)のデータを示し、「◆」を結ぶ線は比較例4の水のデータを示している。なお、通常時の肌水分量を0としている。
図2より、塗布90分後において、実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液(ウマサイタイエキス添加培養)を塗布した場合の肌水分量は、比較例3、4の場合よりも高いことが分かる。
【0029】
図3は肌理改善効果を比較した図である。
実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液(ウマサイタイエキス添加培養)と、比較例3の臍帯血幹細胞培養上清液(無添加培養)を試料とし、温度25℃、湿度35%の条件において、洗顔後に試料を2滴(約0.1g)手に取って目尻に指先を使って優しくなじませ、肌理改善効果を確認した。
図3(a)は実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液(ウマサイタイエキス添加培養)の結果を示し、図3(b)は比較例3の臍帯血幹細胞培養上清液(無添加培養)の結果を示している。図3(a)、(b)において、左側はマイクロスコープ画像、右側は解析後であり、上段は試料の塗布前のもの、下段は試料の塗布60分後のものである。なお、塗布前と塗布60分後のマイクロスコープ画像は同一部位を撮影したものであり、同じ箇所を丸印又は実線で示している。
マイクロスコープ画像を解析し、両試料について塗布前後の肌理を目視で比較した。肌理の状態が悪いと、肌理が流れ皮丘と皮溝との差がない。肌理の状態が良いときは皮丘がふっくらとして網目が格子状である。図3に示すように、塗布前は肌理の状態が悪いが、両試料とも塗布60分後にはくっきりとした肌理が確認され、どちらの培養上清液を塗布しても肌理が改善されている。さらに実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液(ウマサイタイエキス添加培養)の場合は、皮丘と皮溝との差がよりはっきりと確認でき、ハリが出ていた。よって、実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液(ウマサイタイエキス添加培養)は、比較例3の臍帯血幹細胞培養上清液(無添加培養)と比較して、肌理改善により有効であるといえる。
【0030】
図4は細胞遊走像の全体像を示す写真、図5は細胞遊走像のギャップ領域拡大像を示す写真である。
正常ヒト表皮角化細胞を用い、実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液(ウマサイタイエキス添加培養)を10倍濃縮して被験物質(n=5)とし、細胞の存在しない領域であるギャップ領域を細胞が遊走することでどれだけ穴埋めできるかを観察した。
結果、被験物質0.3%(3%相当)添加にて有意にギャップ領域を遊走することを確認した。
【0031】
また、図4図5の画像についてギャップ領域の蛍光強度を測定し、細胞の遊走率を数値化した。図6は細胞遊走率定量結果を示す表、図7は細胞遊走率定量結果を示すグラフである。
統計解析を行ったところ、被験物質の添加濃度0.3%(3%相当)以上で有意な遊走率の上昇が確認された。
このように、実施形態1の臍帯血幹細胞培養上清液(ウマサイタイエキス添加培養)は、3%相当の添加で角化細胞の遊走を促進することができ、細胞の存在しない領域の穴埋め、すなわち、例えば、損傷部位などの遊走による治癒効果が期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7