(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162551
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】水酸化カルシウム粉末の製造方法、水酸化カルシウム含有複合粉末、水酸化カルシウム水溶液又は水懸濁液、抗菌剤又は抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
C01F 11/02 20060101AFI20221017BHJP
A01N 59/06 20060101ALI20221017BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20221017BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C01F11/02 Z
A01N59/06 Z
A01N25/02
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065601
(22)【出願日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2021067396
(32)【優先日】2021-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521155911
【氏名又は名称】徳田 浩一
(71)【出願人】
【識別番号】521155922
【氏名又は名称】時安 好信
(71)【出願人】
【識別番号】521155933
【氏名又は名称】野口 泰治
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100091649
【弁理士】
【氏名又は名称】初瀬 俊哉
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】徳田 浩一
【テーマコード(参考)】
4G076
4H011
【Fターム(参考)】
4G076AA10
4G076AB28
4G076BA38
4G076BC10
4G076BG04
4G076CA02
4G076CA26
4G076CA33
4G076CA40
4G076DA16
4G076DA30
4H011AA01
4H011BB18
4H011DA13
4H011DC05
4H011DC12
(57)【要約】
【課題】抗菌作用、抗ウイルス作用、消臭作用等を奏する水酸化カルシウム含有複合粉末に関し、特に溶解度及び溶解速度に優れた結晶形態の粒子を含有する水酸化カルシウム粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化カルシウム粉末を水分を含む雰囲気で電磁波を照射することにより水酸化カルシウム粉末を製造する。電磁波を照射する工程を、水酸化カルシウム粉末を電子顕微鏡で観察したときの水酸化カルシウム粉末の1つの粒子の形状が、複数枚の鱗片が積層した形態の鱗片形態結晶となり、水酸化カルシウム粉末の溶解度(25℃)が0.25g/100mLを超え、且つ水酸化カルシウム粉末の0.1g/100mLの溶解速度(25℃)が30秒未満になるまで実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化カルシウム粉末に水分を含む雰囲気で2.40GHz-2.50GHzのマイクロ波を照射することを特徴とする水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項2】
2.45GHzのマイクロ波を照射する請求項1に記載の水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項3】
前記マイクロ波を照射する工程は、常圧の大気中で実行される請求項1または2に記載の水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項4】
前記マイクロ波を照射する工程は、炭酸ガスを実質的に含まない雰囲気で実行される請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項5】
前記マイクロ波を照射する工程は、連続的又は断続的に実行される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項6】
前記マイクロ波を照射する工程は、連続的又は断続的に実行され、
前記マイクロ波を照射する工程は、前記酸化カルシウム粉体へのマイクロ波の照射と、その後の前記酸化カルシウム粉体の撹拌と、その後の静置の3つの過程を経て、再度照射に戻る断続的な照射が複数回繰り返される請求項1に記載の水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項7】
前記酸化カルシウム粉体から20cm-40cm離隔して配置されたマイクロ波照射装置を使用して照射が行われる請求項6に記載の水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項8】
30分間の照射と、10分間の静置を含む請求項7に記載の水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項9】
前記マイクロ波照射装置の出力は1kW-5kWである請求項8に記載の水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項10】
前記マイクロ波照射装置の出力を2kWとした照射と、5kWとした照射とを交互に繰り返す請求項9に記載の水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項11】
前記マイクロ波を照射する工程は、連続的又は断続的に実行され、
前記マイクロ波を照射する工程は、ドラム形状の撹拌釜に前記酸化カルシウム粉体を入れて撹拌しつつ連続的に実行される請求項1に記載の水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項12】
前記酸化カルシウム粉末は、貝殻、卵殻、ウニ殻、珊瑚、甲殻及びこれらの2以上の混合物からなる群から選択された出発原料より製造されたものである請求項1に記載の水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項13】
前記マイクロ波を放射する工程を、
前記水酸化カルシウム粉末を電子顕微鏡で観察したときの前記水酸化カルシウム粉末の1つの粒子の形状が、複数枚の鱗片が積層した形態の鱗片形態結晶となり、
前記水酸化カルシウム粉末の溶解度(25℃)が0.25g/100mLを超え、
且つ前記水酸化カルシウム粉末の0.1g/100mLの溶解速度(25℃)が30秒未満になるまで実行する請求項1に記載の水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【請求項14】
電子顕微鏡で観察したときの1つの粒子の形状が、複数枚の鱗片が積層した形態の鱗片形態結晶であり、
溶解度(25℃)が0.25g/100mLを超え、
且つ0.1g/100mLの`溶解速度(25℃)が30秒未満である水酸化カルシウム粉末を含むことを特徴とする水酸化カルシウム含有複合粉末。
【請求項15】
95.0重量%以上が水酸化カルシウムであり、残部の全てが実質的に炭酸カルシウムであり、且つ酸化カルシウムを実質的に含まない請求項14に記載の水酸化カルシウム含有複合粉末。
【請求項16】
貝殻、卵殻、ウニ殻、珊瑚、甲殻及びこれらの2以上の混合物からなる群から選択された出発原料から製造された請求項15に記載の水酸化カルシウム含有複合粉末。
【請求項17】
pHが13.1を超え、且つ水酸化カルシウムの溶解度を改善する成分を含まない水酸化カルシウム水溶液又は水懸濁液。
【請求項18】
請求項14乃至16のいずれか1項に記載の水酸化カルシウム含有複合粉末を主成分とする抗菌剤。
【請求項19】
請求項17に記載の水酸化カルシウム水溶液又は水懸濁液を主成分とする抗菌剤。
【請求項20】
請求項14乃至16のいずれか1項に記載の水酸化カルシウム含有複合粉末を主成分とする抗ウイルス剤。
【請求項21】
請求項17に記載の水酸化カルシウム水溶液又は水懸濁液を主成分とする抗ウイルス剤。
【請求項22】
酸化カルシウム粉末に水分を含む雰囲気で電磁波を照射することにより水酸化カルシウム粉末を製造する方法であって、
前記電磁波を放射する工程を、
前記水酸化カルシウム粉末を電子顕微鏡で観察したときの前記水酸化カルシウム粉末の1つの粒子の形状が、複数枚の鱗片が積層した形態の鱗片形態結晶となり、
前記水酸化カルシウム粉末の溶解度(25℃)が0.25g/100mLを超え、
且つ前記水酸化カルシウム粉末の0.1g/100mLの溶解速度(25℃)が30秒未満になるまで実行することを特徴とする水酸化カルシウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌作用、抗ウイルス作用、消臭作用等の各作用を奏し得る水酸化カルシウム含有複合粉末に関し、溶解度及び溶解速度に優れた結晶形態の水酸化カルシウム粉末を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムを粉砕及び焼成した焼成粉末は、抗菌及び抗ウイルス作用などの効果を有することが知られている(非特許文献1及び特許文献1乃至8)。これらの焼成粉末はカルシウム成分のほとんどが酸化カルシウムで占められており、多くの場合、これらの焼成粉末を水や生理食塩水等に溶解又は懸濁して使用している。
【0003】
このような焼成粉末の作用は、主として水に溶解した際に示す高いpHによる。すなわち焼成粉末に多く含まれる酸化カルシウムが水と反応して水酸化カルシウムとなり、強アルカリ溶液を生ずる。酸化カルシウムの飽和水溶液のpHは、12.4から12.7の値が実験にて実測されている(非特許文献1等)。
【0004】
焼成粉末の出発原料である炭酸カルシウムは、鉱物(石灰岩)由来に比較して、生物由来、典型的にはホタテ貝殻に由来する炭酸カルシウムを粉砕及び焼成して製造した焼成粉末の場合、理由は明らかではないが、その水溶液や懸濁液は強アルカリであるにも拘わらず、腐食性を有さない。米国における14日間の刺激性試験では、生体への刺激が蒸留水以下と認められ(非特許文献1)、米国で水溶液が水虫治療薬として承認され、製品化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表2009/104670
【特許文献2】特開2008-179555
【特許文献3】特開2019-119637
【特許文献4】特開2019-6660
【特許文献5】特開2020-200278
【特許文献6】特開2020-83741
【特許文献7】特開2018-24617
【特許文献8】特開2015-13823
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】村田亜悠美、他4名、”ホタテ貝殻焼成粉末の殺菌および殺インフルエンザウイルスの作用について”、富山大学看護学会誌、第7巻、2号、39-48、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の焼成粉末は相当に高い純度の酸化カルシウムであり、いわゆる生石灰になっており、大量の水を加えると発熱反応を生じる。そのため、周囲に可燃物が存在すると火災の発生する危険があるため、容器や輸送手段が制限される。また密閉保存しなければ大気中の炭酸ガスと容易に結合して炭酸カルシウムに変わり、性能が劣化する。さらにCa原子とO原子がイオン結合した酸化カルシウムの結晶は水への溶解度が非常に低く、溶解速度が著しく遅い。
【0008】
このような課題にも拘わらず、上記各特許文献に記載された各発明では、焼成温度を高くして水酸化カルシウムを生じやすくし、焼成回数を複数回にして酸化カルシウムの純度を高め、焼成粉末をより微細な粉末としたり、溶解度を改善する成分を添加して溶解度を向上させるといった、焼成粉末中の酸化カルシウム自体の改良や、酸化カルシウム溶液や懸濁液の特性の改善に焦点が当てられている。
【0009】
一方、酸化カルシウム(生石灰)を消化した水酸化カルシウム(消石灰)は、水に接触しても発熱反応を伴わず、安全性がより高い。しかしながら上記各特許文献においては水に懸濁・溶解する前の固体の水酸化カルシウムについてはほとんど言及されていない。僅かに特許文献6において、ホタテ貝焼成粉末中の酸化カルシウムと水酸化カルシウムの割合について言及しているが、開示されている水酸化カルシウムの含有比率は50重量%以下で、この比率では皮膚への刺激を少なくできる、と説明されている。
【0010】
本発明の目的は、抗菌及び抗ウイルス作用等を有し、溶解度及び溶解速度に優れた結晶形態の粒子を含有する水酸化カルシウム粉末の製造方法及び水酸化カルシウム含有複合粉末を提供することにある。
【0011】
また本発明の他の目的は、高い溶解度を有する水酸化カルシウム水溶液又は水懸濁液を提供することにある。
【0012】
さらに本発明の更に他の目的は、水酸化カルシウムを主成分とする抗菌剤及び抗ウイルス剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明は、酸化カルシウム粉末に水分を含む雰囲気で電磁波、特に2.40GHz-2.50GHzのマイクロ波、好ましくは2.45GHzを照射することにより水酸化カルシウム粉末を製造する方法である。本発明では、マイクロ波を放射する工程を、水酸化カルシウム粉末を電子顕微鏡で観察したときの水酸化カルシウム粉末の1つの粒子の形状が、複数枚の鱗片が積層した形態の鱗片形態結晶となり、水酸化カルシウム粉末の溶解度(25℃)が0.25g/100mLを超え、且つ水酸化カルシウム粉末の0.1g/100mLの溶解速度(25℃)が30秒未満になるまで実行することにより、水酸化カルシウム粉末を製造する。
【0014】
本発明の製造方法により製造される水酸化カルシウム粉末は、純度の高い酸化カルシウムである従来の焼成粉末に比較すると、水への溶解度がより高く、水への溶解速度がより速い。従って、この水酸化カルシウム粉末を水に溶解あるいは懸濁することにより、抗菌及び抗ウイルス等の効果を有する水溶液又は水懸濁液を、強い撹拌や溶解度を改善する試薬の添加等の特別な操作がなくても、短時間で容易に得ることができる。
【0015】
本発明の方法により製造される水酸化カルシウム粉末の1つの粒子の形態は、電子顕微鏡で観察すると、複数枚の鱗片が積層された形態の鱗片形態結晶のように見える。これは過剰な水と酸化カルシウムを混合する常法により製造した水酸化カルシウムの不定型な多孔質の粒子とは顕著に異なる。この外見上の相異は水分を含む雰囲気で電磁波を照射する工程を反復し、常に水分不足の下で反応がゆっくり進む本発明の方法に基づいて発生するものである。
【0016】
特定の理論に拘束されるものではないが、本発明の方法によると、水分を含む雰囲気で電磁波を照射することにより酸化カルシウム粒子は表面から徐々に消化していく。通常の水酸化カルシウムの結晶は三方晶形の薄い板状の結晶が厚み方向に積層する結晶を形成する。積層した板状の結晶同士は、水素原子の間のファンデルワールス力で結合している。本発明の方法においては、粒子表面が消化された後、粒子内部の水酸化カルシウムが膨張することにより、粒子表面近くの薄い板状の結晶の間が広げられ、この隙間から水分が侵入して消化が進むことによってさらに隙間が広げられた結果、本発明のような隙間を空けて複数の鱗片が積層した形態の鱗片形態結晶を形成するものと推定される。
【0017】
本発明における「マイクロ波を照射する工程」は、水分を含む雰囲気で実行され、常圧の大気中で足りる。雰囲気には炭酸ガスを実質的に含まないようにして炭酸カルシウムの生成を最小限にするようにしてもよい。マイクロ波の照射は連続的に実行されてもよいが、照射を一旦停止し時間を空けて再度照射する断続的な実行でもよい。なお照射するマイクロ波は、特に2.45GHzのマイクロ波が好ましいが、マイクロ波照射装置の照射条件、例えば電源電力の発振や反射、出力(例えば2kW-5kWのような)の変更、装置の発熱、経年変化等により、2.40GHz-2.50GHzの範囲で周波数が変動することがあるが、その程度であれば許容範囲内である。
【0018】
マイクロ波を照射する工程は、酸化カルシウム粉体へのマイクロ波の照射と、その後の酸化カルシウム粉体の撹拌と、その後の静置の3つの過程を経て、再度照射に戻る断続的な照射が複数回繰り返されるようにしてもよい。酸化カルシウム粉体から20cm-40cm離隔して配置されたマイクロ波照射装置を使用して照射が行われてもよい。マイクロ波を照射する工程には、30分間の照射と、10分間の静置を含むようにしてもよい。マイクロ波照射装置の出力は1kW-5kWで、マイクロ波照射装置の出力を2kWとした照射と、5kWとした照射とを交互に繰り返すようにしてもよい。以上のような断続的な照射工程は、気温や湿度等に応じて、マイクロ波照射装置の出力や、照射時間や,静置時間や、照射を繰り返す回数が調整される。
【0019】
マイクロ波を連続的に照射する工程は、ドラム形状の撹拌釜に酸化カルシウム粉体を入れて撹拌しつつ実行するようにしてもよい。
【0020】
本発明の水酸化カルシウム含有複合粉末における水酸化カルシウム粉末の水への溶解度は0.25g/100mL(25℃)を超え、好ましくは少なくとも0.30g/100mL(25℃)であり、最適には少なくとも0.310g/100mL(25℃)である。これらの値は、水酸化カルシウムの各化学物質等安全データシートに掲載されている0.12~0.14g/100mL(25℃)よりも、遙かに大きい。
【0021】
本発明の水酸化カルシウム粉末の水への0.1g/100mLの溶解速度(25℃)は30秒未満であり、好ましくは20秒以下であり、最適には15秒以下である。
【0022】
本発明の方法で製造する水酸化カルシウム粉末は、貝殻、卵殻、ウニ殻、珊瑚、甲殻及びこれらの2以上の混合物からなる群から選択された出発原料から製造されていることが好ましい。これら生物由来の出発原料から製造された水酸化カルシウム粉末は、腐食性が少なく、皮膚等への刺激がない。出発原料として特に適当なのは、安定した供給が期待でき、不純物が少ないホタテ貝殻である。
【0023】
また上記目的を達成する本発明の水酸化カルシウム含有複合粉末中の水酸化カルシウム粉末は、電子顕微鏡で観察したときの1つの粒子の形状が、複数枚の鱗片が積層した形態の鱗片形態結晶となる。そして、本発明の水酸化カルシウム含有複合粉末中の水酸化カルシウム粉末は、溶解度(25℃)が0.25g/100mLを超え、且つ0.1g/100mLの溶解速度(25℃)が30秒未満である。
【0024】
本発明の水酸化カルシウム含有複合粉末は、95.0重量%以上が水酸化カルシウムであり、残部の全てが実質的に炭酸カルシウムであり、且つ酸化カルシウムを実質的に含まないことが好ましい。この炭酸カルシウムは、水酸化カルシウム含有複合粉末に含まれる水酸化カルシウム粉末が酸化カルシウムから製造される工程中に炭酸ガスと反応して生じることがあり、製造後にも徐々に増加しうるが、好ましくは製造工程及び保管する間、なるべく炭酸ガスに接触しないように管理される。酸化カルシウムは消化が不十分な場合の残存物であるが、酸化カルシウムを電磁波を照射する工程を過度に継続すると、不要な炭酸カルシウムが多く生成しやすくなる。
【0025】
また本発明の水酸化カルシウム含有複合粉末は、貝殻、卵殻、ウニ殻、珊瑚、甲殻及びこれらの2以上の混合物からなる群から選択された出発原料から製造されていることが好ましい。
【0026】
さらに上記目的を達成するために本発明の水酸化カルシウム水溶液又は水懸濁液は、pH(25℃)が13.1を超え、且つ水酸化カルシウムの溶解度を改善する成分を含まない。本発明の水酸化カルシウム水溶液又は水懸濁液は、pHが高いので、抗菌及び抗ウイルス作用などの効果により優れている。本発明の水酸化カルシウム水溶液又は水懸濁液の25℃におけるpHは、好ましくは13.30以上であり、最適には13.40以上である。本発明の水酸化カルシウム水溶液又は水懸濁液は、水酸化カルシウムの溶解度を改善する成分を含まない。これは必要としないからであり、含んでいても構わない。
【0027】
上記目的を達成するために本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤は、本発明に係る上述の各水酸化カルシウム粉末又は水酸化カルシウム水溶液又は水懸濁液を主成分とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(A)は比較例の走査電子顕微鏡(SEM)写真(500倍、5000倍、10000倍、20000倍)であり、(B)は本発明に係る水酸化カルシウム粉末の一つの実施例の走査電子顕微鏡(SEM)写真(500倍、5000倍、10000倍、20000倍)である。
【
図2】
図1(B)の実施例の水酸化カルシウム粉末のXRPD(X線粉末回折)ディフラクトグラムである。
【
図3】
図1と同じ実施例の溶解速度実験の結果を示す写真である。
【
図4】
図1と同じ実施例の皮膚刺激性試験の結果を示すグラフである。
【
図5A】
図1と同じ実施例の水溶液による黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用を表す試験培地の様子を示す写真である。
【
図5B】
図1と同じ実施例の水溶液による大腸菌に対する抗菌作用を表す試験培地の様子を示す写真である。
【
図5C】
図1と同じ実施例の水溶液による緑膿菌に対する抗菌作用を表す試験培地の様子を示す写真である。
【
図5D】
図1と同じ実施例の水溶液によるサルモネラ菌に対する抗菌作用を表す試験培地の様子を示す写真である。
【
図6】
図1と同じ実施例の水溶液による抗ウイルス作用を表すウイルス感染価報告値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下図面を参照して、本発明の水酸化カルシウム粉末の製造方法及び水酸化カルシウム含有複合粉末の実施例を詳細に説明する。
【0030】
<水酸化カルシウム粉末の製造>
大気中で、ホタテ貝殻焼成粉末からなる酸化カルシウム粉末に、水分を含む雰囲気で電磁波を照射して加熱をして、水酸化カルシウム粉末を得た。使用可能な電磁波としては、数十μm~1mmの範囲(遠赤外線からマイクロ波の波長)から選択した波長を有する電磁波を用いることができるが、本実施例では2.45GHzのマイクロ波を用いた。ホタテ貝殻焼成粉末をほぼ平坦な平面上に拡げて均し、約30cm離隔した上方に配置されたマイクロ波照射装置から、出力2kWのマイクロ波照射を30分間行い、撹拌の後10分間静置し、出力5kWのマイクロ波照射を30分間行い、撹拌の後10分間静置し、再び出力2kWのマイクロ波照射を30分間行う断続的な照射工程を数回繰り返し、実施例の水酸化カルシウム粉末を得た。
【0031】
得られた水酸化カルシウム粉末を電子顕微鏡で観察したときの水酸化カルシウム粉末の1つの粒子の形状が、複数枚の鱗片が積層した形態の鱗片形態結晶となり、水酸化カルシウム粉末の溶解度(25℃)が0.25g/100mLを超え、且つ水酸化カルシウム粉末の0.1g/100mLの溶解速度(25℃)が30秒未満だった。
【0032】
<実施例及び比較例の粒子形態>
以下の説明では、実施例の出発原料であるホタテ貝殻焼成粉末を比較例1とし、水酸化カルシウム試薬(富士フイルム和光純薬株式会社、純度96.0+%)を比較例2とした。
【0033】
図1(B)に実施例の走査電子顕微鏡写真を示す。写真に示すように、実施例の水酸化カルシウム粉末の1つの粒子の形状は、複数枚の鱗片が積層した形態の鱗片形態結晶である。すなわち複数枚の鱗片が厚み方向に沿って積層されており、各鱗片の間には面方向に隙間が空いており、そのため隣り合う各鱗片の間には面方向のサイズの大小が生じて、段差が観察される。このような層状結晶の間隙に隙間が生じる場合、異物であればインターカレーションが起きているのだろうが、後述のように実施例はほぼ100%水酸化カルシウムなので、層状結晶の間には微細な結晶の水酸化カルシウムが挟まっているものと推察される。
【0034】
一方、比較例1のホタテ貝殻焼成粉末は、表面に多数の気孔を有する不定型な粒子である。また
図1(A)に示す比較例2の水酸化カルシウム粉末は、一部層状の結晶構造も見られるが全体的には不定型であり、ほとんどが一次粒子の凝集した二次粒子で、外観上の相異は明らかである。
【0035】
<XRPDディフラクトグラム>
図2に実施例のXRPDディフラクトグラムを示す。
図2によると、実施例はほぼ100%が水酸化カルシウム結晶(ポルトランダイト)であり、痕跡程度の炭酸カルシウム結晶(カルサイト)を含むことが分かる。
【0036】
<水への溶解度>
実施例の水への溶解度を計測した。
【0037】
[実験方法]
200mLのビーカーに精製水100mL(25℃に恒温)を取り、攪拌子を入れた。スターラーの上にアルミホイルをしき、その上にビーカーをセットした。0.01gの検体(実施例)及び比較検体(比較例1、2)を加え、5分以内に溶解した場合はさらに0.01gの検体を追加した。この作業を繰り返し、5分以内に検体が溶解しなくなったところで実験を終了した。直前まで溶解した質量を記録して、これを溶解度とした。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
実施例の溶解度は、比較例1及び2の計測値、及びこれまでに報告されている値よりも遙かに高い数値が得られた。理由は明確ではないが、結晶形態が影響しているものと推察される。
【0039】
<溶解速度>
溶解度の実験と同様の機器を用い、精製水100mL(25℃)に0.1gの実施例を加えて、溶解までに要する時間を計測した。ビーカー内の状態を
図3に示す。
図3を参照すると、実施例は30秒以内に溶解したことが判る。なお
図3のビーカーの底に沈んでいるタブレット状のもの撹拌子である。撹拌子には、鉄の芯が入っていて、「スターラー」の上に載せられたビーカーの中に入れておくと、スターラーの中で磁石が回転し、撹拌子がそれに伴って回転し、ビーカーの中の液体を撹拌する。
【0040】
<実施例の刺激性>
実施例の皮膚刺激性試験を行った。
【0041】
[実験方法]
皮膚刺激性試験EPI-200 EIT SIT法プロトコールに従い実験を行った。実施例を精製水に溶解し、0.025%溶液(実施例1)と0.05%溶液(実施例2)を作成し、比較例1及び比較例2の0.05%溶液、及び陽性を示す対象である陽性対照(PC:ポジティブコントロール)と明らかに陰性を示す対象である陰性対照(NC:ネガティブコントロール)とともに試験を行った。結果を
図4に示す。
図4から実施例1及び2の溶液が非刺激性であることが判った。
【0042】
<実施例(溶液又は懸濁液)のpHと発熱反応の有無>
(pH)
実施例溶液1及び2のpHを測定した。
【0043】
・試験内容
検体:実施例溶液1、実施例溶液2、及び実施例の0.10%溶液(実施例溶液3)
比較検体:0.05%比較例1、2溶液、0.10%比較例1、2溶液
・試験方法:
ザルトリウス株式会社製のpH計(PB-11)を用いた。このpH計は、内部にガラス電極を有する電気式の測定機械であり、二種類の溶液をガラス膜で隔て、それぞれの溶液のpH差に応じた電位差が発生する仕組みを利用するものである。pH計のガラス電極の内側の基準水溶液と、測定したい水溶液とのあいだに電位を発生させ、これを測定することで水溶液のpHを測定した。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
表2によると、各実施例溶液は、ほぼ同じ温度の各比較例の溶液よりも高いアルカリ度が計測された。
【0045】
<発熱反応の有無>
・試験内容(水との発熱反応の確認)
検体:実施例溶液2、及び実施例の0.10%溶液(実施例溶液3)
比較検体:0.05%比較例2溶液、0.10%比較例2溶液
対照:精製水
・試験方法
(1)200mLの精製水に撹拌子を入れて準備し、実験開始前に水温と室温を記録した。
【0046】
(2)200mLの精製水に検体及び比較検体を溶かし、各濃度に調整した。
【0047】
(3)撹拌子を1000rpmのスピードで回転させ、検体を溶解した時間を開始時刻として30,60,90,120,180,300,360,600,900,1200,1800、2700,3600,7200,10800秒後の水温と室温を記録した。その結果は下記の表3に示す通りである。
【0048】
表より、特に2700秒後(45分後)や3000秒(60分後)において、各実施例溶液では、いずれの濃度も精製水と同じ程度の温度上昇しかみられなかった。一方で比較例2溶液は各濃度で精製水の2-3倍程度の温度上昇が観察された。各検体で、2時間後や3時間後に温度が上昇している理由は撹拌子を動かしている影響(摩擦熱等)や室温の影響と考えられる。
【0049】
【表3】
<抗菌作用>
実施例溶液1及び2を用いてバクテリオファージを用いた抗菌試験を行った。比較のために滅菌精製水及び比較例1の0.05%水溶液についても同じ処理を行った。
【0050】
試験菌株は:
大腸菌E. coli(NBRC 3972)
黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus(NBRC 13276)
緑膿菌Pseudomonas aeruginosa(NBRC 13275)
サルモネラ菌Salmonella enterica(NBRC 100797)
試験培地は:Medium No.702(NBRC)
Hipolypepton 10g
Yeast extract 2g
MgSO4 ・7H2O 1g
Distilled water 1L
とした。
【0051】
・試験内容
[実験方法]
(1)凍結保存されている試験菌株を培地6mLに接種し、大腸菌は37±1℃、その他の試験菌株は30±1℃で24時間培養した(前培養)。
【0052】
(2)前培養した培養液を再度培地6mLに接種し、大腸菌は37±1℃、その他の試験菌株は30±1℃で24時間培養した(本培養)。
【0053】
(3)本培養した培養液を滅菌生理食塩水で希釈し、濃度を104-105個/mLとなるように調製した。
【0054】
(4)それぞれ希釈した培養液1mLに検体又は比較検体9mLを加え、表2の時間の長さだけ接触させ、この検体を測定試料とした。
【0055】
(5)試験培地に寒天を加えて固めた寒天培地上に、測定試料を100μL撒き広げた。
【0056】
(6)これらの寒天培地を大腸菌は37±1℃、その他の試験菌株は30±1℃で一晩培養した。
【0057】
(7)次の日に寒天培地上のコロニーをカウントし記録した。各コロニーの状態を撮影した写真を
図5(A)乃至(D)に示す。なお
図5(A)乃至(D)においては、実施例溶液1を実施例1、実施例溶液2を実施例2、比較例1溶液を比較例1、比較例2溶液を比較例2と略して表記してある。表4には、
図5の各図に対応した接触時間を示してある。
【0058】
【表4】
結果より、実施例溶液1は、特にグラム陰性菌(大腸菌、緑膿菌、サルモネラ菌)に関しては、短い時間(3分以内)で97%以上の抗菌作用が期待できる。また低濃度の実施例溶液2においても、実施例溶液1には抗菌効果はやや劣るが、短時間での抗菌作用が認められる。一方、比較例1の水溶液は、グラム陽性菌(黄色ブドウ球菌)に関しては、3分以上の接触が必要となるが、強い抗菌効果が期待できることが分かる。また低濃度の実施例溶液2においては、60分程度の接触で80%程度の抗菌作用が期待できる。このように実施例溶液1及び2の抗菌作用は、比較例1の水溶液よりも全般的に優れていることが推察される。
【0059】
<抗ウイルス作用>
実施例溶液1及び2を検体としてウイルス不活性試験を行った。比較検体は精製水及び80%エタノール、試験菌株はE. coli(NBRC 13965)、試験ウイルス株はE. coliファージ(NBRC 102619)を使用した。
【0060】
[実験方法]
(1)NBRCより分譲されたE. coliファージ(NBRC 102619)をNBRCの示すプロトコールに従い調製し、105PFU/mLの濃度になるように希釈した(ウイルス液の調製)。
【0061】
(2)凍結保存されている試験菌株E. coli(以下、宿主菌)LB培地6mLに接種し、37±1℃で24時間培養した(前培養)。
【0062】
(3)前培養した培養液をLB培地30mLに対し30μL接種した。37±1℃で4時間培養し、OD660が0.1~0.2の範囲であることを確認した(本培養)。
【0063】
(4)調製したウイルス液を101、102、103、104倍に10段階希釈した。
【0064】
(5)それぞれ希釈したウイルス液1mLに各実施例溶液9mLを加え、15秒間接触させ、この検体を感染価測定試料とした。
【0065】
(6)あらかじめ本培養していた宿主菌100μLを試験管に分注し、各感染価測定試料を1mL加えた。
【0066】
(7)50℃に保温していた半流動寒天(0.5%NaCl+0.5%agarの普通ブイヨン培地)を2mL加え、手早く混合した後、普通寒天培地に重層した。
【0067】
(8)固化させた後、36±2℃で21時間培養した。
【0068】
(9)培養後、発生したプラーク(溶血斑)を数え、希釈倍率からウイルス感染価を求めた。
【0069】
比較検体の精製水と80%エタノールについても同様の実験を行った。
【0070】
結果を
図6に示す。
図6において、実施例1は0.025%実施例溶液であり、実施例2は0.05%実施例2溶液である。
図6より、精製水接触時のウイルス感染価は1.68×10
5PFU/mLであった。実施例溶液1に15秒間接触させた群は、精製水接触時と比べて10
4のウイルス感染価の減少が見られた。実施例溶液2に15秒間接触させた群は、プラークが観察されなかった。この結果は80%エタノールを陽性コントロールとして用いた結果と同等であった。
【0071】
(その他)
なお酸化カルシウム粉体から20cm-40cm離隔して配置されたマイクロ波照射装置を使用して照射を行ってもい。またマイクロ波を照射する工程では、30分間の照射と、10分間の静置を含むようにしてもよい。マイクロ波照射装置の出力は1kW-5kWで、マイクロ波照射装置の出力を2kWとした照射と、5kWとした照射とを交互に繰り返すようにしてもよい。更にマイクロ波を連続的に照射する工程は、ドラム形状の撹拌釜に酸化カルシウム粉体を入れて撹拌しつつ実行するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、水や生理食塩水等に溶解又は懸濁することにより高い抗菌作用、抗ウイルス作用等の効果を有する水酸化カルシウム溶液を容易且つ短時間に得ることのできる水酸化カルシウム粉末を提供することができる。