(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162576
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】電解質組成物、蓄電デバイス及び電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/056 20100101AFI20221018BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20221018BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20221018BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221018BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221018BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20221018BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/0562
H01M10/0568
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
H01B1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067448
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彩子
(72)【発明者】
【氏名】上木 正聡
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA16
5G301CA28
5G301CD01
5H029AJ01
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM01
5H029AM06
5H029AM07
5H029AM11
5H029BJ12
5H029CJ16
5H029HJ10
5H029HJ18
5H029HJ20
5H050AA01
5H050AA12
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB12
5H050FA02
5H050GA18
5H050HA10
5H050HA17
5H050HA18
(57)【要約】
【課題】イオン伝導率を確保しつつ電位窓を拡張できる電解質組成物、蓄電デバイス及び電池システムを提供する。
【解決手段】電解質組成物は、Li,La,Zr及びOを含むガーネット型構造のイオン伝導体粒子と、イオン液体と、電解質塩と、を含み、電解質塩は、アニオンがスルホニルイミド構造を有するリチウム塩であり、イオン液体はピロリジニウムカチオンを含み、電解質塩が溶解したイオン液体のリチウムイオン濃度は1mol/dm
3以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li,La,Zr及びOを含むガーネット型構造のイオン伝導体粒子と、イオン液体と、電解質塩と、を含む電解質組成物であって、
前記電解質塩は、アニオンがスルホニルイミド構造を有するリチウム塩であり、
前記イオン液体はピロリジニウムカチオンを含み、
前記電解質塩が溶解した前記イオン液体のリチウムイオン濃度は1mol/dm3以上である電解質組成物。
【請求項2】
25℃におけるリチウムイオン伝導率は4.0×10-5S/cm以上である請求項1記載の電解質組成物。
【請求項3】
順に正極層、電解質層および負極層を含み、
前記正極層、前記電解質層および前記負極層の少なくとも1つに、請求項1又は2に記載の電解質組成物が含まれる蓄電デバイス。
【請求項4】
請求項3記載の蓄電デバイスと、充電器と、を備え、
前記蓄電デバイスに前記充電器が印加する電圧が4.3Vよりも高い、又は、充電時の前記蓄電デバイスの正極電位がLi/Li+基準で4.3Vを超える電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解質組成物、蓄電デバイス及び電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
Li,La,Zr及びOを含むガーネット型構造のイオン伝導体粒子と、イオン液体と、電解質塩と、を含む電解質組成物は知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術において電位窓の拡張およびイオン伝導率の確保の要求がある。
【0005】
本発明はこの要求に応えるためになされたものであり、イオン伝導率を確保しつつ電位窓を拡張できる電解質組成物、蓄電デバイス及び電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の電解質組成物は、Li,La,Zr及びOを含むガーネット型構造のイオン伝導体粒子と、イオン液体と、電解質塩と、を含み、電解質塩はアニオンがスルホニルイミド構造を有するリチウム塩であり、イオン液体はピロリジニウムカチオンを含み、電解質塩が溶解したイオン液体のリチウムイオン濃度は1mol/dm3以上である。
【0007】
本発明の蓄電デバイスは、順に正極層、電解質層および負極層を含み、正極層、電解質層および負極層の少なくとも1つに、電解質組成物が含まれる。
【0008】
本発明の電池システムは、蓄電デバイスと、充電器と、を備え、蓄電デバイスに充電器が印加する電圧が4.3Vよりも高い、又は、充電時の蓄電デバイスの正極電位がLi/Li+基準で4.3Vを超える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電解質組成物は、イオン伝導率を確保しつつ電位窓を拡張できる。電解質組成物を含む蓄電デバイス及び電池システムは、エネルギー密度と出力密度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施の形態における蓄電デバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は一実施の形態における蓄電デバイス10の模式的な断面図である。本実施形態における蓄電デバイス10は、発電要素が固体で構成されたリチウムイオン固体電池である。発電要素が固体で構成されているとは、発電要素の骨格が固体で構成されていることを意味し、例えば骨格中に液体が含浸した形態を排除するものではない。
【0012】
図1に示すように蓄電デバイス10は、順に正極層11、電解質層14及び負極層15を含む。正極層11、電解質層14及び負極層15はケース(図示せず)に収容されている。
【0013】
正極層11は集電層12と複合層13とが重ね合わされている。集電層12は導電性を有する部材である。集電層12の材料はNi,Ti,Fe及びAlから選ばれる金属、これらの2種以上の元素を含む合金やステンレス鋼、炭素材料が例示される。
【0014】
複合層13は、活物質19及び電解質組成物(後述する)を含む。電解質組成物はイオン伝導体粒子18を含む。複合層13の抵抗を低くするために、複合層13に導電助剤が含まれていても良い。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、Ni、Pt及びAgが例示される。
【0015】
活物質19は、遷移金属を有する金属酸化物が例示される。遷移金属を有する金属酸化物は、Mn,Co,Ni,Fe,Cr及びVの中から選択される1種以上の元素とLiとを含む酸化物が例示される。遷移金属を有する金属酸化物は、LiCoO2,LiNi0.8Co0.15Al0.05O2,LiMn2O4,LiNiVO4,LiNi0.5Mn1.5O4,LiNi1/3Mn1/3Co1/3O4及びLiFePO4が例示される。LiNiVO4,LiCoPO4等の逆スピネル型酸化物、LiNi0.5Mn1.5O4等のスピネル型酸化物等の遷移金属酸化物には金属リチウム基準で4.3V以上の電位を示す化合物があるので、その化合物が活物質19に採用されると、負極層15の電位にもよるが、蓄電デバイス10のエネルギー密度を高くできる。
【0016】
活物質19とイオン伝導体粒子18との反応の抑制を目的として、活物質19の表面に被覆層を設けることができる。被覆層は、Al2O3,ZrO2,LiNbO3,Li4Ti5O12,LiTaO3,LiNbO3,LiAlO2,Li2ZrO3,Li2WO4,Li2TiO3,Li2B4O7,Li3PO4及びLi2MoO4が例示される。
【0017】
電解質層14は電解質組成物からなる。電解質組成物はイオン伝導体粒子18、イオン液体および電解質塩を含む。イオン液体はカチオン及びアニオンからなる化合物であり、常温常圧で液体である。電解質塩が溶解した一定の塩濃度のイオン液体は電解液である。電解液の各種物性および機能は、塩およびイオン液体の種類、塩濃度により決定される。電解液の塩濃度(リチウムイオン濃度)は1mol/dm3以上である。電解液のリチウムイオン伝導率を確保するためである。
【0018】
イオン伝導体粒子18は、リチウムイオン伝導性を有するガーネット型構造の酸化物である。ガーネット型構造の酸化物の基本組成はLi5La3M2O12(M=Nb,Ta)である。イオン伝導体粒子18はLi,La,Zr及びOを含む。イオン伝導体粒子18は、基本組成の5価のMカチオンを4価のカチオンに置換したLi7La3Zr2O12が例示される。
【0019】
イオン伝導体粒子18は、Li,La及びZr以外に、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Ga,Sr,Y,Nb,Sn,Sb,Ba,Hf,Ta,W,Bi,Rb及びランタノイド(Laは除く)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことができる。例えばLi6La3Zr1.5W0.5O12,Li6.15La3Zr1.75Ta0.25Al0.2O12,Li6.15La3Zr1.75Ta0.25Ga0.2O12,Li6.25La3Zr2Ga0.25O12,Li6.4La3Zr1.4Ta0.6O12,Li6.5La3Zr1.75Te0.25O12,Li6.75La3Zr1.75Nb0.25O12,Li6.9La3Zr1.675Ta0.289Bi0.036O12,Li6.46Ga0.23La3Zr1.85Y0.15O12,Li6.8La2.95Ca0.05Zr1.75Nb0.25O12,Li7.05La3.00Zr1.95Gd0.05O12,Li6.20Ba0.30La2.95Rb0.05Zr2O12が挙げられる。
【0020】
イオン伝導体粒子18は、特にMg及び元素A(AはCa,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素)の少なくとも一方を含み、各元素のモル比が以下の(1)から(3)を全て満たすもの、又は、Mg及び元素Aの両方を含み、各元素のモル比が以下の(4)から(6)を全て満たすものが好適である。元素Aは、イオン伝導体粒子18のイオン伝導率を高くするため、Srが好ましい。
(1)1.33≦Li/(La+A)≦3
(2)0≦Mg/(La+A)≦0.5
(3)0≦A/(La+A)≦0.67
(4)2.0≦Li/(La+A)≦2.5
(5)0.01≦Mg/(La+A)≦0.14
(6)0.04≦A/(La+A)≦0.17。
【0021】
電解質層14の断面に現出するイオン伝導体粒子18の円相当径のメジアン径は、0.5-10μmが好適である。イオン伝導体粒子18の表面積を適度な大きさにし、イオン伝導体粒子18の表面に介在する電解液とイオン伝導体粒子18との間のリチウムイオンの移動量を確保するためである。
【0022】
イオン伝導体粒子18のメジアン径を求めるには、まず電解質層14の断面(研磨面や集束イオンビーム(FIB)を照射して得られた面)に現出するイオン伝導体粒子18の走査型電子顕微鏡(SEM)による画像を解析して、イオン伝導体粒子18の粒子ごとの面積から円相当径を算出し、個数基準の粒度分布を求める。メジアン径は、粒度分布における頻度の積算値が50%となる円相当径である。粒度分布を求める画像は、精度を確保するため、電解質層14のうち400μm2以上の面積とする。
【0023】
電解質塩は、アニオンがスルホニルイミド構造を有するリチウム塩である。電解質塩のアニオンは、スルホニル基-S(=O)2-を有するN(SO2F)2
-,N(SO2CF3)2
-,N(SO2C2F5)2
-が例示される。アニオンはN(SO2F)2
-,N(SO2CF3)2
-が好ましい。N(SO2F)2
-を略称で[FSI]-:ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンと呼び、N(SO2CF3)2
-を略称で[TFSI]-:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンと呼ぶ場合がある。
【0024】
電解質塩はLi[FSI]やLi[TFSI]が好ましい。Li[FSI]やLi[TFSI]は、塩濃度が1mol/dm3以上の電解液の粘度上昇およびイオン伝導率低下の影響が小さく、さらに安定性が高く抵抗が低い被膜(SEI)の形成により、電解液の還元分解を低減し、還元側電位窓を拡張できるからである。
【0025】
イオン液体のカチオン成分はピロリジニウムカチオンを有する。ピロリジニウムカチオンは、例えば式(1)で表される五員環化合物である。
【0026】
【化1】
式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数が1-10のアルキル基を示す。アルキル基は置換基を有していても良い。R
1及びR
2で表されるアルキル基(置換基を含む)の炭素数は、好ましくは1-5、より好ましくは1-4である。電解液のイオン伝導度を確保するためである。
【0027】
置換基は特に制限がない。置換基は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、アミド基、カルバモイル基、エステル基、カルボニルオキシ基、シアノ基、ハロゲノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、スルホンアミド基などが例示される。
【0028】
イオン液体のアニオン成分は特に限定されない。アニオン成分はBF4
-,N(SO2F)2
-等の無機アニオン、B(C6H5)4
-,CH3SO3
-,CF3SO3
-,N(SO2CF3)2
-,N(SO2C4F9)2
-等の有機アニオンが例示される。イオン液体のアニオン成分が、電解質塩のアニオン成分と同じスルホニルイミドアニオンであると、電解液に含まれるリチウムイオンとアニオンとの配位(相互作用)が制御し易くなるので好ましい。
【0029】
イオン液体は、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(P13-FSI)、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(P13-TFSI)が例示される。
【0030】
イオン液体に含まれる水分は200ppm以下が好適である。イオン液体に含まれる水分によって電解液の電位窓が狭くなるのを防ぐためである。イオン液体に不純物として含まれるハロゲンイオンは10ppm以下が好適である。イオン液体に含まれる他の不純物はアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンが例示される。これらの不純物の総和は10ppm以下であることが好ましい。電解質組成物が含まれる蓄電デバイス10のサイクル特性の低下を防ぐためである。
【0031】
電解質層14(電解質組成物)において、イオン伝導体粒子18とイオン液体との合計量に対するイオン液体の含有量(体積%)は、50体積%以下(但し0体積%は除く)が好適である。即ちイオン伝導体粒子:イオン液体=(100-X):X、0<X≦50である。イオン伝導体粒子18とイオン伝導体粒子18との間に介在する電解液によってイオン伝導性を確保しつつイオン液体の染み出しの発生を低減するためである。
【0032】
イオン液体の含有量(体積%)は、電解質層14を凍結させ、又は、4官能性のエポキシ系樹脂などに電解質層14を埋め込み固めた後、電解質層14の断面から無作為に選択した5000倍の視野を対象に、エネルギー分散型X線分光器(EDS)が搭載されたSEMを用いて分析し、求める。分析は、La,Zr,Sの分布を特定したり反射電子像のコントラストを画像解析したりして、イオン伝導体粒子18の面積およびイオン液体の面積を特定し、電解質層14の断面における面積の割合を電解質層14における体積の割合とみなしてイオン液体の含有量(体積%)を得る。
【0033】
電解質層14(電解質組成物)は、Li,La,Zr及びOを含むガーネット型構造のイオン伝導体粒子18、アニオンがスルホニルイミド構造を有するリチウム塩(電解質塩)及びピロリジニウムカチオンを含むイオン液体を含み、電解質塩がイオン液体に溶解した電解液のリチウムイオン濃度は1mol/dm3以上である。これにより電解質層14に含まれる電解液の還元側電位窓および酸化側電位窓を拡張しつつイオン伝導率を確保できる。この特異性はイオン伝導体粒子18と電解液との相互作用によるものと推察している。
【0034】
電解液のリチウムイオン濃度が1mol/dm3を超えてさらに高くなるにつれて電解質層14(電解質組成物)のイオン伝導率は低下する傾向がみられるが、電解質組成物の25℃におけるリチウムイオン伝導率は4.0×10-5S/cm以上であるのが好ましい。電解液の中でリチウムイオンより移動し易いアニオンの影響によって蓄電デバイス10の動作時に生じるリチウムイオン濃度の変化を低減するためである。
【0035】
電解質組成物は電解液由来のアニオンを含むため、電解質組成物のリチウムイオン伝導率は、交流インピーダンス法によって算出した電解質組成物の全イオン伝導率にリチウムイオンの輸率を乗じて算出される。リチウムイオンの輸率は交流インピーダンス法と定常状態直流法によって求める。
【0036】
電解質層14にバインダーが含まれていても良い。バインダーはイオン伝導体粒子18を結着する。バインダーは、電解液の電位窓よりも電位窓が広いものが用いられる。バインダーはポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体が例示される。
【0037】
電解質層14(電解質組成物)において、イオン伝導体粒子18とイオン液体とを合わせた量に対するバインダーの量(体積%)は、10体積%以下(但し0体積%は除く)が好適である。即ちイオン伝導体粒子とイオン液体とを合わせた量:バインダーの量=(100-Y):Y、0<Y≦10である。バインダーによって電解質層14の成形性を確保すると共に電解質層14のイオン伝導性の低下を低減するためである。バインダーの含有量(体積%)は、上記と同様にSEM-EDSによる分析によって求めた電解質層14の断面の面積%から特定できる。
【0038】
バインダーを溶かす溶媒が電解質層14に含まれていても良い。溶媒は炭酸エステル、アセトニトリル、1,2-ジメトキシエタンが例示される。炭酸エステルは、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状炭酸エステルが例示される。
【0039】
負極層15は集電層16と複合層17とが重ね合わされている。集電層16は導電性を有する部材である。集電層16の材料はNi,Ti,Fe,Cu及びSiから選ばれる金属、これらの元素の2種以上を含む合金やステンレス鋼、炭素材料が例示される。
【0040】
複合層17は、活物質20及び電解質組成物を含む。電解質組成物はイオン伝導体粒子18を含む。複合層17の抵抗を低くするために、複合層17に導電助剤が含まれていても良い。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、Ni、Pt及びAgが例示される。活物質20は、Li、Li-Al合金、Li4Ti5O12、黒鉛、In、Si、Si-Li合金、及び、SiOが例示される。電解質層14と同様に、複合層13,17にバインダーや溶媒が含まれていても良い。
【0041】
蓄電デバイス10は、例えば以下のように製造される。電解質塩を溶解したイオン液体とイオン伝導体粒子18とを混合したものに、バインダーが溶媒に溶けた溶液を混合し、スラリーを作る。テープ成形後、乾燥して電解質層14のためのグリーンシート(電解質シート)を得る。
【0042】
電解質塩を溶解したイオン液体とイオン伝導体粒子18とを混合したものに活物質19を混合し、さらにバインダーが溶媒に溶けた溶液を混合し、スラリーを作る。集電層12の上にテープ成形後、乾燥して正極層11のためのグリーンシート(正極シート)を得る。
【0043】
電解質塩を溶解したイオン液体とイオン伝導体粒子18とを混合したものに活物質20を混合し、さらにバインダーが溶媒に溶けた溶液を混合し、スラリーを作る。集電層16の上にテープ成形後、乾燥して負極層15のためのグリーンシート(負極シート)を得る。
【0044】
電解質シート、正極シート及び負極シートをそれぞれ所定の形に裁断した後、正極シート、電解質シート、負極シートの順に重ね、互いに圧着して一体化する。集電層12,16にそれぞれ端子(図示せず)を接続しケース(図示せず)に封入して、順に正極層11、電解質層14及び負極層15を含む蓄電デバイス10が得られる。
【0045】
図2は電池システム21の模式図である。電池システム21は蓄電デバイス10及び充電器22を備えている。電池システム21は、蓄電デバイス10に充電器22が印加する電圧を4.3Vより高くできる、又は、充電時の蓄電デバイス10の正極電位がLi/Li
+基準で4.3Vを超える。蓄電デバイス10は電解質層14の酸化側の電位窓が拡張されており、さらに電解質層14のイオン伝導率を確保しつつ負極層15における界面抵抗を低減できるからである。これにより蓄電デバイス10のエネルギー密度と出力密度を高くできる。
【実施例0046】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0047】
(イオン伝導体粒子の調製)
Li6.95Mg0.15La2.75Sr0.25Zr2.0O12となるように、Li2CO3,MgO,La(OH)3,SrCO3,ZrO2を秤量した。Li2CO3は、焼成時のLiの揮発を考慮し、元素換算で15mol%程度過剰にした。秤量した原料および有機溶剤をジルコニア製ボールと共にナイロン製ポットに投入し、ボールミルで15時間粉砕混合した。ポットから取り出したスラリーを乾燥後、MgO製の板の上で仮焼成(1100℃で10時間)した。仮焼成後の粉末、バインダー及び溶媒をポットに投入し、ボールミルで15時間粉砕混合した。
【0048】
ポットから取り出したスラリーを乾燥後、直径12mmの金型に投入し、プレス成形により厚さが1.5mm程度の成形体を得た。冷間静水等方圧プレス機(CIP)を用いて1.5t/cm2の静水圧をさらに成形体に加えた。成形体と同じ組成の仮焼粉末で成形体を覆い、還元雰囲気において焼成(1100℃で4時間)し、焼結体を得た。交流インピーダンス法によって求めた焼結体のリチウムイオン伝導率は1.0×10-3S/cmであった。リチウムイオン伝導率の測定条件は、温度25℃、電圧10mV、周波数7MHz-100mHzとした。Ar雰囲気において焼結体を粉砕して、実施例におけるイオン伝導体粒子(以下「LLZ」と称す)を得た。
【0049】
(電解液の調製)
イオン液体N-メチル-N-プロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(P13-FSI、試薬特級)に、電解質塩LiN(SO2F)2を1mol/dm3から5mol/dm3までの範囲で複合し、種々の電解液を得た。
【0050】
イオン液体1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(試薬特級)に、電解質塩LiN(SO2F)2を1mol/dm3複合し、比較例における電解液を得た。
【0051】
(実施例1)
イオン伝導体粒子:電解液=68:32(体積比)となるように、ピロリジニウムカチオンを含む塩濃度1mol/dm
3の電解液とLLZをAr雰囲気において乳鉢で混合し、複合粉末からなる0.5gの電解質組成物を得た。Ar雰囲気において直径10mmの絶縁体からなる筒に複合粉末を投入し、500MPaの圧力を加えて一軸成形し、
図3に示す評価セル30のうち円盤状の成形体31を得た。成形体31の片方の面にステンレス製の金属箔32を配置し、成形体31のもう片方の面にLi製の金属箔33及びCu製の金属箔34を配置した。8Nの締め付けトルクを加えたねじの軸力で成形体31に金属箔32,33を密着させ、実施例1における評価セルを得た。
【0052】
(実施例2)
ピロリジニウムカチオンを含む塩濃度2mol/dm3の電解液をLLZに複合して複合粉末を得た以外は、実施例1と同様にして、実施例2における評価セルを得た。
【0053】
(実施例3)
ピロリジニウムカチオンを含む塩濃度3mol/dm3の電解液をLLZに複合して複合粉末を得た以外は、実施例1と同様にして、実施例3における評価セルを得た。
【0054】
(実施例4)
ピロリジニウムカチオンを含む塩濃度5mol/dm3の電解液をLLZに複合して複合粉末を得た以外は、実施例1と同様にして、実施例4における評価セルを得た。
【0055】
(比較例1)
ピロリジニウムカチオンを含む塩濃度3mol/dm3の電解液をLi1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3からなる酸化物粒子(以下「LAGP」と称す)に複合して複合粉末を得た以外は、実施例1と同様にして、比較例1における評価セルを得た。
【0056】
(比較例2)
ピロリジニウムカチオンを含む塩濃度3mol/dm3の電解液をLi3PO4からなる酸化物粒子に複合して複合粉末を得た以外は、実施例1と同様にして、比較例2における評価セルを得た。
【0057】
(比較例3)
ピロリジニウムカチオンを含む塩濃度3mol/dm3の電解液をAl2O3からなる酸化物粒子に複合して複合粉末を得た以外は、実施例1と同様にして、比較例3における評価セルを得た。
【0058】
(比較例4)
イミダゾリウムカチオンを含む塩濃度1mol/dm3の電解液をLLZに複合して複合粉末を得た以外は、実施例1と同様にして、比較例4における評価セルを得た。
【0059】
(イオン伝導率の測定)
実施例1-4及び比較例1-4の評価セルを使って、交流インピーダンス法により成形体(電解質組成物)の25℃における全イオン伝導率を測定し、リチウムイオンの輸率を乗じてリチウムイオン伝導率を求めた。
【0060】
輸率は以下のようにして算出した。まず、交流インピーダンス測定によって評価セルの抵抗値RS0を解析した。交流インピーダンス測定の条件は、温度25℃、電圧10mV、周波数7MHz-100mHzとした。
【0061】
次に、評価セルに定電圧Vを印加した直後の初期電流値I0を測定し、以下の式Aに従い、評価セルの初期抵抗値R0を算出した。R0=V/I0・・・A
初期電流値の測定条件は、電圧10mV、トータル時間6秒、測定間隔0.0002秒とした。
【0062】
抵抗値RS0及び初期抵抗値R0を以下の式Bに代入して界面抵抗RINTを算出した。RINT=R0-RS0・・・B
次に、評価セルに定電圧Vを印加して定常状態となった後の電流値Iを測定し、以下の式Cに従い、評価セルの定常状態における抵抗値RPを算出した。RP=V/I・・・C
定常状態における電流値の測定条件は、電圧10mV、トータル時間10時間、測定間隔60秒とした。
【0063】
評価セルが定常状態となった後に、前述の条件で、交流インピーダンス測定によって評価セルの抵抗値RSを解析した。抵抗値RS、抵抗値RP及び界面抵抗RINTを以下の式Dに代入して輸率tLiを算出した。tLi=RS/(RP-RINT)・・・D
実施例1-4及び比較例1-4の成形体の25℃におけるリチウムイオン伝導率は4.0×10-5S/cm以上であった。
【0064】
(酸化電流の測定)
実施例および比較例における評価セルに-0.1Vから5V(vs.Li/Li
+)の範囲で電圧を走査し(走査速度1mV/s)、応答電流を検出するサイクリックボルタンメトリーによって電解質組成物の電気化学安定性を評価した。
図4はサイクリックボルタモグラムの一例(比較例4の応答電流)である。
図4において低電位方向の走査時に0.1V付近から観測される還元電流は、金属箔32(
図3参照)上でのリチウムの析出/溶解反応に対応している。
【0065】
高電位方向の走査時に観測される酸化電流を測定し、4.0Vの電流値に対する4.2V,4.5V,4.8V及び5.0Vの電流値の比率を、4.0Vの電流値を1として算出した。判定は、4.0Vの電流値を1としたときの5.0Vの電流値が1.5未満をA、1.5以上2.0未満をB、2.0以上をCとした。結果は表1に記した。
【0066】
【表1】
表1に示す比較例5は、ピロリジニウムカチオンを含む塩濃度1mol/dm
3の電解液にステンレス製の電極と金属Li製の参照極(対極)を浸し、評価セルと同様に、サイクリックボルタンメトリーによって応答電流を検出した結果である。比較例6は、ピロリジニウムカチオンを含む塩濃度3mol/dm
3の電解液にステンレス製の電極と金属Li製の参照極を浸し、サイクリックボルタンメトリーによって応答電流を検出した結果である。
【0067】
表1において実施例1と比較例5とを対比し、実施例3と比較例6とを対比すると、電解液にLLZが接することで酸化電流を低減できること、即ち電解液の電位窓と比較して酸化側電位窓を拡張できることがわかった。さらに実施例3と比較例1-3とを対比すると、LLZ以外の酸化物粒子に比べ、LLZは電解質組成物の酸化側電位窓を拡張できることがわかった。
【0068】
実施例1と比較例1とを対比すると、電解液に含まれるピロリジニウムカチオンとLLZの組合せが、電解質組成物の酸化側電位窓の拡張に有効であることがわかった。さらに実施例1-4を対比すると、電解液の塩濃度が高いほど電解質組成物の酸化側電位窓を拡張できることがわかった。特に電解液の塩濃度が2mol/dm3以上であると、電解質組成物の電気化学安定性をより高くできることが明らかになった。
【0069】
実施例1-4における電解質組成物は、0.1Vから5V(vs.Li/Li+)の範囲で高い電気化学安定性を有することがわかった。従って、この電位範囲で酸化還元反応を示す正極および負極と電解質組成物との組合せであれば、実施例1-4における電解質組成物を含む蓄電デバイスが動作することがわかる。
【0070】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0071】
実施形態では、蓄電デバイス10として、集電層12の片面に複合層13が設けられた正極層11、及び、集電層16の片面に複合層17が設けられた負極層15を備えるものを説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば集電層12の両面に複合層13と複合層17とをそれぞれ設けた電極層(いわゆるバイポーラ電極)を備える蓄電デバイスに、実施形態における各要素を適用することは当然可能である。バイポーラ電極と電解質層14とを交互に積層しケース(図示せず)に収容すれば、いわゆるバイポーラ構造の蓄電デバイスが得られる。
【0072】
実施形態では、複合層13,17及び電解質層14が全て電解質組成物を含む場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。蓄電デバイスは、複合層13,17及び電解質層14の少なくとも1つが電解質組成物を含んでいれば良い。
【0073】
実施形態では、電解質組成物を含むリチウムイオン電池(二次電池)を例示して電極層(正極層11及び負極層15)及び電解質層14を備える蓄電デバイス10を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の蓄電デバイスとしては、リチウム硫黄電池、リチウム酸素電池、リチウム空気電池などの他の二次電池や一次電池、電解コンデンサが挙げられる。