(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162592
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】防護服の生地用の微多孔フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20221018BHJP
D04H 1/541 20120101ALI20221018BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C08J9/00 A CES
D04H1/541
B32B5/24 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067473
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591093140
【氏名又は名称】株式会社ファイマテック
(71)【出願人】
【識別番号】518109697
【氏名又は名称】大和川ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永川 彰一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健二
(72)【発明者】
【氏名】青山 満生
(72)【発明者】
【氏名】寺前 裕司
【テーマコード(参考)】
4F074
4F100
4L047
【Fターム(参考)】
4F074AA20
4F074AA21A
4F074AA98
4F074AC26
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4F074CA06
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4F100YY00A
4L047AA14
4L047AA21
4L047AA27
4L047BA08
4L047CA06
4L047CB08
4L047CC01
(57)【要約】
【課題】医療用の防護服のための微多孔フィルムにおいて、血液バリア性の向上を図る。
【解決手段】防護服の生地用の微多孔フィルムである。ポリオレフィン系樹脂層の中に微粒子を40質量%以上かつ60質量%以下含み、厚みが40μm以下であり、微粒子の表面とポリオレフィン系樹脂との間に空隙を有する。微粒子は、水分子についての単分子層吸着分子数が5.5[H2O molecules/nm2]以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムであって、ポリオレフィン系樹脂層の中に微粒子を40質量%以上かつ60質量%以下含み、厚みが40μm以下であり、前記微粒子の表面とポリオレフィン系樹脂との間に空隙を有し、前記微粒子は、水分子についての単分子層吸着分子数が5.5[H2O molecules/nm2]以下であることを特徴とする防護服の生地用の微多孔フィルム。
【請求項2】
微粒子は、脂肪酸または脂肪酸化合物にて表面処理されたものであることを特徴とする請求項1記載の防護服の生地用の微多孔フィルム。
【請求項3】
微粒子の表面に脂肪酸または脂肪酸化合物が2.5質量%以上付着していることを特徴とする請求項2記載の防護服の生地用の微多孔フィルム。
【請求項4】
微粒子が炭酸カルシウム粒子であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の防護服の生地用の微多孔フィルム。
【請求項5】
JIS L1099のA-1法による透湿度が5000g/m2・24h以上であり、JIS L1092のA法による耐水度が900mm以上であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の防護服の生地用の微多孔フィルム。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の微多孔フィルムを製造するに際し、水溶性カチオンポリマーで一次表面処理した後、脂肪酸または脂肪酸化合物にて二次表面処理した微粒子を用いることを特徴とする防護服の生地用の微多孔フィルムの製造方法。
【請求項7】
脂肪酸または脂肪酸化合物による表面処理量が2.5質量%以上である微粒子を用いることを特徴とする請求項6記載の防護服の生地用の微多孔フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の防護服の生地用の微多孔フィルムを含むことを特徴とする防護服の生地用の積層体。
【請求項9】
微多孔フィルムの片面または両面に不織布層が積層されていることを特徴とする請求項8記載の防護服の生地用の積層体。
【請求項10】
不織布層は、芯部がポリエチレンテレフタレートで構成されているとともに鞘部がポリエチレンで構成されている芯鞘複合繊維を構成繊維とし、構成繊維同士がスポット状の形態で部分的に熱接着されていることを特徴とする請求項9記載の防護服の生地用の積層体。
【請求項11】
請求項8から10までのいずれか1項に記載の防護服の生地用の積層体を含むことを特徴とする防護服の生地用の布帛。
【請求項12】
請求項11に記載の防護服の生地用の布帛を含むことを特徴とする防護服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防護服の生地用の微多孔フィルムに関し、特に、この微多孔フィルムを含む防護服の生地用の積層体や、この積層体を含む防護服の生地用の布帛や、この布帛を含む防護服などに展開することができる、防護服の生地用の微多孔フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場で用いられる感染防止用の防護服として、特許文献1には、芯部がポリエチレンテレフタレートで構成されているとともに鞘部がポリエチレンで構成されている芯鞘複合繊維を構成繊維とし、構成繊維どうしが部分的に熱接着された不織布と、無孔透湿性ポリウレタンフィルムとが積層された複合シートを用いたものが記載されている。無孔透湿性ポリウレタンフィルムは、ポリウレタン樹脂の構造中に親水基が導入されていることで透湿機能が付与されたものである。
【0003】
一方、特許文献2には、複合シートからなる使い捨て防護服であって、この複合シートは、芯部がポリエチレンテレフタレートで構成されているとともに鞘部がポリエチレンで構成されている芯鞘複合繊維を構成繊維とし、構成繊維どうしが部分的に熱接着された不織布と、微多孔性ポリエチレンフィルムとが積層されたものである。この微多孔性ポリエチレンフィルムとしては、無機充填剤、有機充填剤などを含有するポリエチレンフィルムよりこれらの充填剤を溶剤で溶出して製造する微多孔性フィルムや、粒子状の無機充填剤、有機充填剤を含有するポリエチレン樹脂からなるシートを少なくとも一軸方向に延伸することで、粒子表面と樹脂との間に空隙を生じさせることにより微多孔構造を形成させて得られる微多孔性フィルムなどが挙げられる(特許文献2の段落0021)。ポリエチレンフィルムは、微多孔性であることで、血液バリア性、ウィルスバリア性、通気性、柔軟性を併有することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3190510号公報
【特許文献2】実用新案登録第3157107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている防護服や、特許文献2に記載されている粒子含有樹脂シートを延伸させた微多孔ポリエチレンフィルムでは、特に血液バリア性について、さらなる改善の余地がある。
【0006】
本発明は、医療用の防護服のための微多孔フィルムにおいて、血液バリア性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムは、ポリオレフィン系樹脂層の中に微粒子を40質量%以上かつ60質量%以下含み、厚みが40μm以下であり、前記微粒子の表面とポリオレフィン系樹脂との間に空隙を有し、前記微粒子は、水分子についての単分子層吸着分子数が5.5[H2O molecules/nm2]以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムによれば、微粒子は、脂肪酸または脂肪酸化合物にて表面処理されたものであることが好適である。
【0009】
本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムによれば、微粒子の表面に脂肪酸または脂肪酸化合物が2.5質量%以上付着していることが好適である。
【0010】
本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムによれば、微粒子が炭酸カルシウム粒子であることが好適である。
【0011】
本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムによれば、JIS L1099のA-1法による透湿度が5000g/m2・24h以上であり、JIS L1092のA法による耐水度が900mm以上であることが好適である。
【0012】
本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムの製造方法は、上記の防護服の生地用の微多孔フィルムを製造するに際し、水溶性カチオンポリマーで一次表面処理した後、脂肪酸または脂肪酸化合物にて二次表面処理した微粒子を用いることを特徴とする。
【0013】
本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムの製造方法によれば、脂肪酸または脂肪酸化合物による表面処理量が2.5質量%以上である微粒子を用いることが好適である。
【0014】
本発明の防護服の生地用の積層体は、上記の微多孔フィルムを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の防護服の生地用の積層体によれば、微多孔フィルムの片面または両面に不織布層が積層されていることが好適である。
【0016】
本発明の防護服の生地用の積層体によれば、不織布層は、芯部がポリエチレンテレフタレートで構成されているとともに鞘部がポリエチレンで構成されている芯鞘複合繊維を構成繊維とし、構成繊維同士がスポット状の形態で部分的に熱接着されていることが好適である。
【0017】
本発明の防護服の生地用の布帛は、上記の積層体を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の防護服は、上記の防護服の生地用の布帛を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムによると、ポリオレフィン系樹脂層の中に微粒子を40質量%以上かつ60質量%以下含み、厚みが40μm以下であり、前記微粒子の表面とポリオレフィン系樹脂との間に空隙を有し、前記微粒子は、水分子についての単分子層吸着分子数が5.5[H2O molecules/nm2]以下であるため、優れた疎水性を示し、このため十分な血液バリア性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムは、微粒子の表面とポリオレフィン系樹脂との間に空隙を有する。この空隙は、上述の場合と同様に、微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂からなるシートを少なくとも一軸方向に延伸することで、微粒子表面と樹脂との間、すなわち微粒子とボリオレフィン系樹脂との界面に隙間を生じさせることにより、形成することができる。そして、延伸の結果、空隙が形成されるとともに、各空隙同士が互いに連通されることによって、所要の空気透過性や水蒸気透過性を確保することができる。このとき、空隙を形成するための微粒子について表面処理により疎水性を向上させることで、この微粒子の水分子についての単分子層吸着分子数を5.5[H2O molecules/nm2]以下として、微多孔フィルムの血液バリア性を向上させることできる。
【0021】
本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムは、ポリオレフィン系樹脂層の中に微粒子を40質量%以上かつ60質量%以下含むことが必要である。微粒子をこの範囲で含むことによって、微多孔フィルムを用いた防護服を構成したときに、所要の性能を得ることができるためである。すなわち、耐水圧や透湿性や通気性などを確保したうえで、所要のバリア性を発揮することができ、これらの諸性能をバランス良く兼備することができるためである。ポリオレフィン系樹脂層における微粒子の含有割合が40質量%を下回ると、透湿性や通気性を確保できなくなる。反対に微粒子の含有割合が60質量%を上回ると、所要の耐水性や血液バリア性やウィルスバリア性を得られなくなる。
【0022】
また、本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムは、厚みが40μm以下である。厚みが40μm以下であることにより、後述のように不織布層との積層によって防護服とするときに、薄く、したがって軽量であり、また柔軟なものとすることができる。厚みが40μmを超えると、上記のように不織布層との積層を行った場合に、厚くなってしまって、柔軟性を含めた防護服の着心地などが低下する。厚みの下限は、特に規定されるものではないが、この微多孔フィルムを用いて防護服を構成した時の所要強度の観点にたてば、10μmを下限とすることが好適である。
【0023】
樹脂層を形成するためのポリオレフィンとしては、任意のものを使用することができ、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂を代表例として挙げることができる。なかでも、ポリエチレン系樹脂を、加工性が良好で、柔軟で軽いという理由によって、好適に用いることができる。ポリエチレン系樹脂としては、エチレンのみの重合体であってもよく、また、エチレンを主たる繰り返し単位とし、これにα-オレフィンを共重合してなる共重合体でもよい。α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。なお、ポリオレフィンの数平均分子量も任意である。
【0024】
微粒子としては、有機微粒子や無機微粒子を挙げることができる。特に無機微粒子を好適に用いることができ、そのような無機微粒子としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、アルミナ、タルク、シリカなどを挙げることができる。なかでも、自然界に多数存在する石灰石を原材料とし、汎用性があり、化粧品原料や食品添加物としても使用が認められ安全性が高いという理由から、炭酸カルシウムを好適に用いることができる。
【0025】
本発明の微多孔フィルムは、微粒子の表面を疎水性処理することなどの結果によって、この微粒子の、水分子についての単分子層吸着分子数が、5.5[H2O molecules/nm2]以下であることが必要である。単分子層吸着分子数は、微粒子の表面が単層からなる気体の水分子の膜で覆われる状態における、同表面の単位面積当たりの水分子数で表される。これは、微粒子の疎水性、親水性を表す物性の指標となるものであり、水分子の単分子層吸着係数が大きい場合、親水性が高いことを、小さい場合、疎水性が高いことを示している。微粒子の、水分子についての単分子層吸着分子数が、5.5[H2O molecules/nm2]を超えると、この微粒子に所要の疎水性を付与することができなくなって、本発明の微多孔フィルムに所要の血液バリア性を付与することができなくなる。
【0026】
ここにいう血液バリア性として、ASTM F1670/F1670M-17aのB法により試験した場合において、5分間静置した後に13.8kPaにて1分間加圧したとき、およびその後に54分間静置したときの人工血液の浸透の有無を目視で確認したときに、いずれも浸透無しであることが挙げられる。上記のように、微粒子の、水分子についての単分子層吸着分子数が、5.5[H2O molecules/nm2]以下であることによって、このような血液バリア性を達成することができる。反対に、微粒子の、水分子についての単分子層吸着分子数が、5.5[H2O molecules/nm2]を超える場合には、たとえば、ASTM F1670/F1670M-17aのB法により試験した場合において、5分間静置した後に13.8kPaにて1分間加圧したときに浸透有りとの結果になってしまう。
【0027】
このような血液バリア性を発揮するためには、微粒子は脂肪酸または脂肪酸化合物にて表面処理されたものであることが好ましく、さらに微粒子の表面に脂肪酸または脂肪酸化合物が2.5質量%以上付着していることが好ましい。
【0028】
このように微粒子が脂肪酸または脂肪酸化合物にて表面処理されたものであると、この表面処理によって微粒子を疎水性にすることができて、このような疎水性の微粒子を含む微多孔フィルムは血液が透過しにくくなるために、血液バリア性が向上するのではないかと思われる。および、または、疎水性を呈するポリオレフィン系樹脂層の中に疎水性を有する微粒子が含有されるために、ポリオレフィン系樹脂層における微粒子の分散性が向上して、微粒子がポリオレフィン系樹脂層に均一に分散することになって、各空隙のサイズを小さくすることが可能となり、それによって血液バリア性が向上するのではないかとも思われる。なお、脂肪酸または脂肪酸化合物の付着量の上限は、5.0質量%が好ましい。
【0029】
微粒子を表面処理する脂肪酸または脂肪酸化合物としては、表面処理した微粒子の水分子についての単分子層吸着分子数が5.5[H2O molecules/nm2]以下になるようなものであればよく、例えば、ステアリン酸、アラギン酸、ベヘン酸などの飽和脂肪酸及びこれら飽和脂肪酸の化合物を好ましく用いることができる。特にステアリン酸及びステアリン酸化合物が取り扱い性等から好ましく、さらに具体的には12-ヒドロキシステアリン酸を好ましく用いることができる。
【0030】
本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムを構成する樹脂組成物には、用途に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、防曇剤、帯電防止剤、難燃剤、着色防止剤、酸化防止剤、充填材、顔料などの添加剤を添加することもできる。
【0031】
本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムの製造方法の一例について説明する。まず、ポリオレフィン系樹脂と炭酸カルシウムなどの微粒子であって、脂肪酸または脂肪酸化合物にて表面処理されたものとを準備する。そのとき、この表面処理によって脂肪酸または脂肪酸化合物が、微粒子に対して、2.5質量%以上表面に付着している微粒子を用いることが特に好ましい。表面処理のプロセスとしては、水溶性カチオンポリマーで一次表面処理した後、脂肪酸または脂肪酸化合物にて二次表面処理することが、特に望ましい。また、具体的な表面処理方法としては、特許第4235049号に記載の方法が挙げられる。
【0032】
そして、これらポリオレフィン系樹脂と微粒子とを所定量だけ配合して、2軸混錬押し出し機にて溶融混錬することで、コンパウンドペレットを作製する。このコンパウンドペレットを乾燥した後、インフレーション成膜法などによってフィルム化する。インフレーション成膜法としては、乾燥後のコンパウンドペレットを1軸混練押し出し機に投入し、溶融したポリマーを丸ダイからチューブ状に引き上げ、空冷しながら同時に風船状に膨らませて成膜する方法や、丸ダイより溶融ポリマーを冷却水とともに円筒状に下方へ押し出した後、いったん折り畳み、それを上方へ引き上げ、次いで加熱しながら風船状に膨らませて、成膜しフィルム化する方法などを、好ましく採用することができる。インフレーション成膜法を用いることによって、フィルム形成後の延伸処理を施すことなしに、延伸された状態のフィルムを直ちに得ることができる。2軸混錬押し出し機におけるポリマー溶融温度は、ポリオレフィン系樹脂の溶融温度である120~180℃の温度範囲で適宜に選択することができる。1軸混錬押し出し機におけるコンパウンドペレットのポリマーの溶融温度は、ポリオレフィン系樹脂の融点や配合量、および炭酸カルシウムなどの微粒子の配合量を考慮して、適宜選択することができるが、120~180℃の温度範囲が好適である。
【0033】
また、フィルム化する方法としては、ポリオレフィン系樹脂と炭酸カルシウムなどの微粒子とを所定量だけ配合した樹脂組成物を、ポリオレフィン系樹脂の融点以上、分解温度未満の温度条件下で溶融し、Tダイを用いて押出成形し、無孔の未延伸シートを得、その後、一軸延伸または二軸延伸することにより微多孔を発現させて微多孔フィルムを得る方法も好ましい。無孔の未延伸シートを延伸する方法としての一軸延伸は、縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。また、二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。逐次二軸延伸は、各延伸工程で延伸条件を選択でき、微多孔構造を制御しやすい。
【0034】
なお、微多孔フィルムを製造する前段階でのコンパウンドペレットの製造時に、必要に応じて、架橋剤、架橋助剤、有機滑剤などを添加することもできる。加えて、フィルムの製造時にも、必要に応じて添加剤をフィルム物性に影響を与えない程度に加えてもよい。
【0035】
本発明の防護服の生地用の微多孔フィルムによれば、微粒子が脂肪酸または脂肪酸化合物にて表面処理されたものであって、この表面処理によって脂肪酸または脂肪酸化合物が微粒子の表面に2.5質量%以上付着していることで、優れた血液バリア性を発揮することができる。上記のように付着量の上限は5.0質量%であることが好ましく、その理由は、付着量が5.0質量%を超えると、微粒子表面に付着することができる脂肪酸または脂肪酸化合物の量を著しく超えてしまうため、表面に付着できなかった脂肪酸または脂肪酸化合物が、複数の粒子を結び付けるバインダーとして働き多くの凝集粒子が発生してしまうからである。
【0036】
本発明によれば、上述の防護服の生地用の微多孔フィルムを用いて、防護服の生地用の布帛やこの布帛を用いた防護服などを形成するための積層体が得られる。詳細には、微多孔フィルムの両面または片面に、不織布を、接着剤を用いた接着や熱接着などにより積層した、防護服の生地用の積層体とすることができる。不織布としては、適宜のものを利用できるが、芯部がポリエチレンテレフタレートで構成されているとともに鞘部がポリエチレンで構成されている芯鞘複合繊維を構成繊維とし、構成繊維同士がスポット状の形態で部分的に熱接着されているものを、好適に用いることができる。
【0037】
このように不織布を積層することにより、微多孔フィルムを補強して、防護服としたときの所要強度を得ることができる。強度的な観点にたてば、上述のように芯部がポリエチレンテレフタレートで構成されているとともに鞘部がポリエチレンで構成されている芯鞘複合繊維を構成繊維とした不織布が、特に好適である。また、このような芯鞘構造の不織布は、ヒートシール性に優れるので、積層体にて構成される布帛を用いて防護服を得るときに、ヒートシールによって容易に仕立てることができるとともに、ヒートシールによって布帛同士を隙間なく接合することができるために、布帛同士の接合部における防護服の防水性、血液バリア性、ウィルスバリア性を確実に保つことができる。もちろん布帛同士を縫製することによって、あるいは縫製とヒートシールとを併用することによって、防護服を仕立てることも可能である。
【実施例0038】
以下の実施例、比較例における各種物性値の測定は、下記の方法により実施した。
【0039】
(1)単分子層吸着分子数
170℃で15時間にわたり真空脱気処理された微粒子を準備し、マイクロトラック・ベル社製の比表面積・細孔分布測定装置、品番:BELSORP-maxを用い、水を吸着ガスとして、吸着温度:25℃(298K)での水蒸気吸着等温線を測定した。そののち、BET解析方法(比表面積)を用いて、単分子層吸着分子数(H2O molecules/nm2)を算出した。
【0040】
(2)血液バリア性
ASTM F1670/F1670M-17aのB法により試験した。そして、目視による人工血液の浸透の有無により血液バリア性を評価した。具体的には、浸透無しの場合を「〇」と評価し、浸透有りの場合を「×」と評価した。
【0041】
(3)ウィルスバリア性
ASTM F1671/F1671M-13のB法により試験した。そして、目視によるファージ縣濁液の浸透の有無によりウィルスバリア性を評価した。具体的には、浸透無しの場合を「〇」と評価し、浸透有りの場合を「×」と評価した。
【0042】
(4)透湿度(g/m2・24h)
JIS L1099のA-1法により求めた。
【0043】
(5)耐水度(mm)
JIS L1092のA法により求めた。
【0044】
(6)厚み
ピーコック測定器を用いて測定した。
【0045】
(実施例1)
線状低密度ポリエチレン42部と、低密度ポリエチレン8部と、炭酸カルシウム(ファイマテック社製)50部とを2軸混錬押し出し機に投入して混錬し、押し出し温度160℃にてコンパウンド原料を作製した。炭酸カルシウムは、水溶性カチオンポリマーで一次表面処理した後、12-ヒドロキシステアリン酸にて二次表面処理することで、炭酸カルシウムに対して、その表面に12-ヒドロキシステアリン酸が2.8質量%付着しているものを用いた。
【0046】
次いで、このコンパウンド原料を用いて、1軸押し出し機により設定温度160℃で溶融押し出しを行い、ダイより押し出されたシート状物を機械方向に延伸倍率3.5倍で延伸し、速度200m/分にて巻き取ることで、厚み17μm、目付18g/m2の、防護服の生地用の微多孔フィルムを作製した。
【0047】
得られた微多孔フィルムの性能を表1に示す。
【0048】
【0049】
(比較例1)
実施例1と比べて炭酸カルシウムの表面に付着している12-ヒドロキシステアリン酸の量を2.0質量%に変更した。そして、それ以外は実施例1と同様にして、比較例1の防護服の生地用の微多孔フィルムを得た。
【0050】
得られた微多孔フィルムの性能を表1に示す。
【0051】
表1に示すように、実施例1の防護服の生地用の微多孔フィルムは、透湿度、耐水度、血液バリア性、ウィルスバリア性のいずれにも優れたフィルムであった。
【0052】
これに対し、比較例1の防護服の生地用の微多孔フィルムは炭酸カルシウムの表面に付着している12-ヒドロキシステアリン酸の量が過小であったため、実施例1ほどの血液バリア性を有するものではなかった。すなわち、比較例1のフィルムは、血液バリア性の試験をした際に、5分間静置した後に13.8kPaにて1分間加圧したときに浸透有りとの結果になってしまい、実施例1ほどの血液バリア性は有しないものであった。