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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162618
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】蛇行制御方法及び蛇行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/68 20060101AFI20221018BHJP
   B21B 37/72 20060101ALI20221018BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B21B37/68 Z
B21B37/72
B21B1/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067510
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】井内 興
(72)【発明者】
【氏名】河西 大輔
(72)【発明者】
【氏名】神谷 公平
(72)【発明者】
【氏名】堤 隆志
【テーマコード(参考)】
4E002
4E124
【Fターム(参考)】
4E002AD00
4E002BA01
4E002BC05
4E002CA06
4E002CA08
4E002CB03
4E124AA01
4E124AA18
4E124BB01
4E124CC01
4E124EE01
4E124EE11
4E124EE12
4E124EE13
4E124EE14
4E124EE15
4E124GG08
(57)【要約】
【課題】被圧延材の尾端部通板時の蛇行を抑制しつつ、板厚不合によって生じる歩留まり低下を抑制する蛇行制御方法を提供する。
【解決手段】圧延機により圧延される被圧延材の蛇行制御方法であって、被圧延材の圧延開始前に、当該被圧延材の圧延実績情報に基づいて、当該被圧延材の圧延における平行剛性目標値を設定する平行剛性目標値設定ステップと、被圧延材の尾端部が圧延機を通過する前に当該被圧延材の平行剛性計算値を算出する平行剛性計算値算出ステップと、平行剛性計算値が平行剛性目標値より小さくなるように、被圧延材の尾端部が通過するタイミングで圧延機のロールギャップを大きくするギャップアップ量を算出するギャップアップ量算出ステップと、被圧延材の尾端部が通過するタイミングで、決定されたギャップアップ量だけロールギャップが大きくなるように、圧延機を制御する制御ステップと、を含む。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機により圧延される被圧延材の蛇行を制御する蛇行制御方法であって、
前記被圧延材の圧延開始前に、当該被圧延材の圧延実績情報に基づいて、当該被圧延材の圧延における平行剛性目標値を設定する平行剛性目標値設定ステップと、
前記被圧延材の尾端部が前記圧延機を通過する前に、前記被圧延材の平行剛性計算値を算出する平行剛性計算値算出ステップと、
前記平行剛性計算値が前記平行剛性目標値より小さくなるように、前記被圧延材の尾端部が通過するタイミングで前記圧延機のロールギャップを大きくするギャップアップ量を算出するギャップアップ量算出ステップと、
前記被圧延材の尾端部が通過するタイミングで、決定された前記ギャップアップ量だけ前記ロールギャップが大きくなるように、前記圧延機を制御する制御ステップと、
を含む、蛇行制御方法。
【請求項2】
前記ギャップアップ量算出ステップは、
前記平行剛性計算値と前記平行剛性目標値とを比較する比較ステップと、
前記平行剛性計算値が前記平行剛性目標値以上であるときに、予め設定された単位ギャップアップ量ずつ前記ギャップアップ量を増加するギャップアップ量変更ステップと、
前記平行剛性計算値が前記平行剛性目標値よりも小さくなったときの前記ギャップアップ量を、前記被圧延材の尾端部が通過するタイミングで設定する前記圧延機のロールギャップのギャップアップ量に決定する決定ステップと、
を含み、
前記平行剛性計算値が前記平行剛性目標値よりも小さくなるまで、前記ギャップアップ量変更ステップにて前記ギャップアップ量が変更される度に、変更後の前記ギャップアップ量にて再度前記平行剛性算出ステップにより前記平行剛性計算値を算出し、前記比較ステップにて前記平行剛性計算値と前記平行剛性目標値とを比較する、請求項1に記載の蛇行制御方法。
【請求項3】
前記平行剛性計算値算出ステップでは、前記被圧延材のうち、尾端側のボトム部における圧延実績を用いて、前記被圧延材の平行剛性計算値を算出する、請求項1または2に記載の蛇行制御方法。
【請求項4】
前記平行剛性目標値を学習する学習ステップをさらに含み、
前記学習ステップでは、過去の製造実績に基づいて、圧延トラブルの発生によるトラブル発生コストと製品の品質不合による品質不合コストとの合計値が最小となる前記平行剛性目標値を学習する、請求項1~3のいずれか1項に記載の蛇行制御方法。
【請求項5】
前記学習ステップにおいて、
前記トラブル発生コストは、前記過去の製造実績における前記圧延トラブルの発生率と、トラブル発生コスト単価とから算出され、
前記品質不合コストは、前記過去の製造実績における前記製品の品質不合本数と、厚み品質不合による厚み品質不合コスト単価とから算出される、請求項4に記載の蛇行制御方法。
【請求項6】
圧延機により圧延される被圧延材の蛇行を制御する蛇行制御装置であって、
前記被圧延材の製造条件を取得する製造条件受信部と、
前記圧延機に対して通板方向上流側に設定された所定位置を前記被圧延材の尾端部が通過したタイミングで、前記圧延機による前記被圧延材のボトム部の圧延実績情報を取得する実績収集部と、
前記被圧延材の製造条件、前記圧延実績情報、及び、前記被圧延材の鋼種に応じて設定された平行剛性目標値より、前記被圧延材の尾端部が前記圧延機を通過する前に前記被圧延材の平行剛性計算値を算出し、前記平行剛性計算値が前記平行剛性目標値より小さくなるように、前記被圧延材の尾端部が通過するタイミングで前記圧延機のロールギャップを大きくするギャップアップ量を決定する設定演算部と、
を含む、蛇行制御装置。
【請求項7】
鋼種毎に前記平行剛性目標値を学習する学習部をさらに備え、
前記学習部は、過去の製造実績に基づいて、圧延トラブルの発生によるトラブル発生コストと製品の品質不合による品質不合コストとの合計値が最小となる前記平行剛性目標値を、前記鋼種毎に学習する、請求項6に記載の蛇行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続圧延における被圧延材の蛇行を制御する蛇行制御方法及び蛇行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の圧延機を連続的に被圧延材(例えば鉄鋼)が通過する連続圧延においては、例えば図15に示すように被圧延材Sの幅方向の中心が、ミルセンター(圧延機の幅方向の中心位置C、すなわち、ワークロール11の回転軸方向の中心位置)からずれてしまい、被圧延材Sがワークロール11の端部の方向に移動してしまう、いわゆる蛇行と呼ばれる現象が生じることがある。蛇行が生じると、被圧延材の平坦度が低下し、製品品質の低下につながる可能性がある。また、蛇行量が大きい場合には、被圧延材の尾端部が、サイドガイドに接触して屈曲してしまい、被圧延材が2重に折れ込まれた状態で後段の圧延機に咬み込まれる、絞りと呼ばれる不良が生じ得る。絞りが生じると、屈曲した被圧延材によってワークロールの表面が傷付けられてしまうため、生産ラインを停止して、ワークロールの点検、手入れ又は交換等の保守作業を行う必要があり、生産ラインの稼働率を低下させてしまう恐れがある。
【0003】
ここで、連続圧延においては、被圧延材が、前段及び後段の双方の圧延機のワークロールに咬み込まれている場合には、被圧延材に長手方向に張力が作用し、被圧延材が拘束されているため、大きな蛇行は生じ難い。絞りを発生させるような大きな蛇行は、被圧延材の尾端が前段の圧延機を抜けた際に生じやすい。また、従来、圧延機での圧下率が大きいほど、蛇行が発生しやすいことが知られている。
【0004】
そこで、例えば、下記特許文献1には、前段(N-1段目)の圧延機における被圧延材の尾端の通過(尻抜け)を検出し、当該尻抜けを検出したタイミングで、次段(N段目)の圧延機のワークロールの圧下位置(すなわち、上下のワークロール間のロールギャップ)を開放する技術が開示されている。特許文献1に記載の技術によれば、被圧延材の尾端を含む所定の長さの領域(以下、尾端部とも呼称する。)がN段目の圧延機を通過する際に、当該N段目の圧延機における圧下率が小さくなるため、被圧延材の蛇行量を小さくすることができる。
【0005】
また、特許文献2には、複数の圧延機のうちの最終段の圧延機又は最終段の圧延機を含む連続した複数の圧延機のロールギャップを、被圧延材の尾端部が通過するタイミングに合わせて、同時に開放する技術が開示されている。特許文献2に記載の技術によれば、被圧延材の尾端部が、最終段の圧延機又は最終段の圧延機を含む連続した複数の圧延機によって圧延されなくなるため、圧延に伴って発生する蛇行及び絞りを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55-161505号公報
【特許文献2】特開2001-105005号公報
【特許文献3】特開平08-108207号公報
【特許文献4】特開平05-272959号公報
【特許文献5】特許第3396428号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中島、菊間、松本、梶原、木村、田川著、“ホットストリップ圧延における蛇行制御方法の研究(第1報)”、昭和55年度塑性加工春季講演会、1980年、pp.61~64
【非特許文献2】社団法人 日本鉄鋼協会 生産技術部門 圧延理論部会編集、「板圧延の理論と実際(改訂版)」、2010年9月30日、社団法人 日本鉄鋼協会発行 第94ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載の技術のように、被圧延材の尾端部が圧延機を通過する際にロールギャップを開放することにより蛇行を制御する方法では、被圧延材の尾端部は所望の板厚に圧延されないこととなる。従って、被圧延材の尾端部は、不良品として切断されることとなるため、生産効率を低下させる原因となる。また、上記特許文献2に記載の技術では、ロールギャップを開放するギャップアップ量は被圧延材の種類によらず同様に設定される。このため、実際には蛇行が生じない場合にもロールギャップを開放してしまい、不要に被圧延材の尾端部の板厚の不合を発生させてしまうこともある。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、被圧延材の尾端部通板時の蛇行を抑制しつつ、板厚不合によって生じる歩留まり低下を抑制することが可能な、新規かつ改良された蛇行制御方法及び蛇行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、圧延機により圧延される被圧延材の蛇行を制御する蛇行制御方法であって、被圧延材の圧延開始前に、当該被圧延材の圧延実績情報に基づいて、当該被圧延材の圧延における平行剛性目標値を設定する平行剛性目標値設定ステップと、被圧延材の尾端部が圧延機を通過する前に、当該被圧延材の平行剛性計算値を算出する平行剛性計算値算出ステップと、平行剛性計算値が平行剛性目標値より小さくなるように、被圧延材の尾端部が通過するタイミングで圧延機のロールギャップを大きくするギャップアップ量を算出するギャップアップ量算出ステップと、被圧延材の尾端部が通過するタイミングで、決定されたギャップアップ量だけロールギャップが大きくなるように、圧延機を制御する制御ステップと、を含む、蛇行制御方法が提供される。
【0011】
ギャップアップ量算出ステップは、平行剛性計算値と平行剛性目標値とを比較する比較ステップと、平行剛性計算値が平行剛性目標値以上であるときに、予め設定された単位ギャップアップ量ずつギャップアップ量を増加するギャップアップ量変更ステップと、平行剛性計算値が平行剛性目標値よりも小さくなったときのギャップアップ量を、被圧延材の尾端部が通過するタイミングで設定する圧延機のロールギャップのギャップアップ量に決定する決定ステップと、を含み、平行剛性計算値が平行剛性目標値よりも小さくなるまで、ギャップアップ量変更ステップにてギャップアップ量が変更される度に、変更後のギャップアップ量にて再度平行剛性算出ステップにより平行剛性計算値を算出し、比較ステップにて平行剛性計算値と平行剛性目標値とを比較する。
【0012】
平行剛性計算値算出ステップでは、被圧延材のうち、尾端側のボトム部における圧延実績を用いて、当該被圧延材の平行剛性計算値を算出してもよい。
【0013】
蛇行制御方法は、平行剛性目標値を学習する学習ステップをさらに含んでもよい。学習ステップでは、過去の製造実績に基づいて、圧延トラブルの発生によるトラブル発生コストと製品の品質不合による品質不合コストとの合計値が最小となる平行剛性目標値を学習する。
【0014】
学習ステップにおいて、トラブル発生コストは、過去の製造実績における圧延トラブルの発生率と、トラブル発生コスト単価とから算出され、品質不合コストは、過去の製造実績における製品の品質不合本数と、厚み品質不合による厚み品質不合コスト単価とから算出してもよい。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、圧延機により圧延される被圧延材の蛇行を制御する蛇行制御装置であって、被圧延材の製造条件を取得する製造条件受信部と、圧延機に対して通板方向上流側に設定された所定位置を被圧延材の尾端部が通過したタイミングで、圧延機による被圧延材のボトム部の圧延実績情報を取得する実績収集部と、被圧延材の製造条件、圧延実績情報、及び、被圧延材の鋼種に応じて設定された平行剛性目標値より、被圧延材の尾端部が圧延機を通過する前に当該被圧延材の平行剛性計算値を算出し、平行剛性計算値が平行剛性目標値より小さくなるように、被圧延材の尾端部が通過するタイミングで圧延機のロールギャップを大きくするギャップアップ量を決定する設定演算部と、を含む、蛇行制御装置が提供される。
【0016】
蛇行制御装置は、鋼種毎に平行剛性目標値を学習する学習部をさらに備えてもよい。学習部は、過去の製造実績に基づいて、圧延トラブルの発生によるトラブル発生コストと製品の品質不合による品質不合コストとの合計値が最小となる平行剛性目標値を、鋼種毎に学習する。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、被圧延材の尾端部通板時の蛇行を抑制しつつ、板厚不合によって生じる歩留まり低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る蛇行制御システムの構成を示す説明図である。
図2】ロールプロフィルの一例を示す説明図である。
図3】平行剛性目標値テーブルの一例を示す説明図である。
図4】製造実績記憶部に記憶されている製造実績情報の一例を示す説明図である。
図5】トラブル発生率テーブルの一構成例を示す説明図である。
図6】ギャップアップ量テーブルの一構成例を示す説明図である。
図7】コスト単価テーブルの一構成例を示す説明図である。
図8】本実施形態に係るギャップアップ量設定処理を示すフローチャートである。
図9】蛇行及びキャンバーが生じている被圧延材における、変形域の様子を概略的に示す図である。
図10】被圧延材の蛇行時における圧延機の変形の様子を示す図である。
図11】線荷重の分布を示す図である。
図12】本実施形態に係る平行剛性目標値学習処理を示すフローチャートである。
図13】平行剛性目標値学習処理における平行剛性目標値探索処理を示すフローチャートである。
図14】平行剛性とコストとの一関係を示す説明図である。
図15】被圧延材の蛇行を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
<1.概要>
圧延機により被圧延材を圧延する際、被圧延材の蛇行や絞りの発生を抑制するためには圧下率を小さくすることが効果的であり、従来、被圧延材の尾端部が圧延機を通過するタイミングでロールギャップを開放する制御が行われている(例えば、特許文献2)。しかし、ロールギャップを開放することにより被圧延材の蛇行や絞りの発生を抑制できる一方で、尾端部の板厚が目標板厚から大きく外れてしまい、歩留まり落ちの要因となってしまう。また、被圧延材の鋼種によっては尾端部通過時にロールギャップを開放しなくても蛇行や絞りが発生しない場合もある。このような場合にロールギャップを開放してしまうと、不要な歩留まり落ちを発生させてしまう。
【0021】
そこで、本実施形態では、圧延中に、被圧延材毎に尾端部が圧延機を通過するときのロールギャップの開放の要否を判定し、個々の材料に最適なロールギャップの設定を行う。これにより、蛇行や絞りの発生を抑制しつつ、歩留まり落ちを低減する。以下、本実施形態に係る圧延機の蛇行制御を行う蛇行制御システムの構成と蛇行制御方法について、説明する。なお、以下では、ロールギャップを開放することをギャップアップともいい、ロールギャップの開放量をギャップアップ量ともいう。また、以下の説明では、説明を簡単にするため、圧延設備を構成する複数の圧延機のうち、通板方向最下流に設置された圧延機を、ギャップアップ量を制御する制御対象として説明する。
【0022】
<2.蛇行制御システム>
まず、図1図7に基づいて、本発明の一実施形態に係る蛇行制御システムの構成について説明する。図1は、本実施形態に係る蛇行制御システム1の構成を示す説明図である。図2は、ロールプロフィルの一例を示す説明図である。図3は、平行剛性目標値テーブル170の一例を示す説明図である。図4は、製造実績記憶部210に記憶されている製造実績情報の一例を示す説明図である。図5は、トラブル発生率テーブル221の一構成例を示す説明図である。図6は、ギャップアップ量テーブル223の一構成例を示す説明図である。図7は、コスト単価テーブル225の一構成例を示す説明図である。
【0023】
本実施形態に係る蛇行制御システム1は、複数の圧延機(図1の例では圧延機f1~f6)を備える圧延設備10において、被圧延材Sの尾端部が通過するタイミングで、圧延機のロールギャップを開放し、被圧延材Sの蛇行を制御するためのシステムである。蛇行制御システム1は、図1に示すように、蛇行制御装置100と、記憶装置200とから構成される。ここでは、蛇行制御装置100は、通板方向最下流に設置された圧延機f6を制御対象とする。
【0024】
[2-1.蛇行制御装置]
蛇行制御装置100は、図1に示すように、製造条件受信部110と、材料トラッキング部120と、実績収集部130と、設定演算部140と、伝送部150と、学習部160と、平行剛性目標値テーブル170とを備える。
【0025】
製造条件受信部110は、圧延設備10により圧延する被圧延材Sの製造条件を受信する。製造条件は、外部の生産管理コンピュータ30にて管理されている。製造条件受信部110は、被圧延材Sの製造条件を、生産管理コンピュータ30から受信し、製造条件ファイルとして設定演算部140へ出力する。
【0026】
材料トラッキング部120は、圧延中の被圧延材Sの尾端部が圧延設備10を通過するタイミングを検知する。圧延設備10を構成する圧延機f1~f6のうち通板方向最上流側に設置された圧延機f1よりさらに所定の距離だけ上流側に離れた位置には、ライン上に被圧延材Sがあるか否かを検知する通板センサ50が設けられている。通板センサ50には、例えばレーザセンサ、DDCカメラ等の撮像装置等を用いてもよい。通板センサ50は、材料トラッキング部120に検知結果を随時送信している。材料トラッキング部120は、通板センサ50からの検出結果に基づき、被圧延材Sの尾端部が通過したことを検知する。例えば、通板センサ50が、被圧延材Sがライン上にあるときオン信号を出力し、被圧延材Sがライン上にない場合にオフ信号を出力するとき、材料トラッキング部120は、通板センサ50から受信する検知結果がオン信号からオフ信号となったとき、被圧延材Sの尾端部が通板センサ50の位置を通過したと判定する。材料トラッキング部120は、被圧延材Sの尾端部の通過を検知すると、実績収集部130へ実績情報の収集を指示する。
【0027】
実績収集部130は、被圧延材Sの尾端部が制御対象の圧延機を通過する前に、圧延実績情報を取得する。実績収集部130は、圧延実績情報として、例えば被圧延材Sのボトム部を圧下するときの圧延荷重[ton]、圧下位置(すなわち、ロールギャップ)[mm]、ベンダ荷重[ton]を取得する。圧延実績情報は、所定のタイミング(例えば10μsec毎)に継続して取得されている。実績収集部130は、取得の指示を受けて、直近に取得された圧延実績情報を出力してもよく、あるいは、直近数回(例えば10回)の平均値を圧延実績情報として出力してもよい。
【0028】
また、実績収集部130は、圧延機のワークロール11、12のロールプロフィル計算値[μm]を圧延実績情報として取得する。ワークロール11、12のロールプロフィルの一例を図2に示す。ロールプロフィルはロール幅方向におけるロール径の変化を示しており、これよりロールの外周面の形状を把握することができる。図2は、横軸にロール幅方向の位置、縦軸にロールプロフィル量を示している。ロールプロフィル量は、初期ロール半径に対するロール半径の変化量を表し、ロール半径が初期ロール半径と同一であるときを0mmとして、ロール半径が大きくなると正の値となり、ロール半径が小さくなると負の値となる。ワークロール11、12のロールプロフィルは、図2に示すように、使用による摩耗や高温の被圧延材Sとの接触による熱膨張等により変化する。このようなワークロール11、12のロールプロフィルの変化は、被圧延材Sの蛇行の発生に影響を及ぼすことから、本実施形態では、ワークロール11、12のロールプロフィルを考慮してギャップアップ量を設定し、ロールギャップを変更することにより被圧延材Sの蛇行制御を行う。実績収集部130は、収集した情報を実績データファイルとして、設定演算部140へ出力する。
【0029】
設定演算部140は、被圧延材Sの尾端部が制御対象の圧延機を通過するときの、ロールギャップを開放するギャップアップ量を算出する。設定演算部140は、製造条件受信部110から入力された製造条件ファイル及び実績収集部130から入力された実績データファイルに基づき、被圧延材Sの蛇行の度合いを示す指標となる物理量である平行剛性(第1種平行剛性)を算出する。平行剛性の算出処理の詳細については後述する。そして、設定演算部140は、算出した平行剛性と後述する平行剛性目標値とを比較し、蛇行の発生を抑制し、かつ、歩留まりも低減されるように、現在圧延中の被圧延材Sの尾端が圧延機を通過する際のギャップアップ量を算出する。設定演算部140によるギャップアップ量設定処理の詳細は後述する。設定演算部140は、算出したギャップアップ量を伝送部150へ出力する。
【0030】
伝送部150は、設定演算部140により算出された圧延機のギャップアップ量を、圧延設備10の圧延設定条件を制御する設定制御装置70へ出力する。設定制御装置70は、制御対象の圧延機を被圧延材Sが通過するタイミングで、当該圧延機のロールギャップが伝送部150から入力されたギャップアップ量だけ開放されるように制御する。
【0031】
学習部160は、設定演算部140にてギャップアップ量を決定する際に利用される平行剛性目標値を所定のタイミングで学習し、更新する。平行剛性目標値は、過去の製造実績に基づき取得される値であり、被圧延材Sの鋼種毎に設定される。学習部160は、後述する記憶装置200に記憶された各種データに基づき、被圧延材Sの蛇行の発生を抑制し、かつ、歩留まりも低減される最適な平行剛性を算出し、平行剛性目標値とする。本実施形態では平行剛性目標値を定期的に学習して更新するため、常に最適な平行剛性目標値に基づきギャップアップ量を設定することができる。なお、学習部160による平行剛性目標値の学習処理の詳細は後述する。学習部160は、取得した鋼種毎の平行剛性目標値を平行剛性目標値テーブル170に記録する。
【0032】
平行剛性目標値テーブル170は、学習部160により学習された鋼種毎の平行剛性目標値を記憶する。平行剛性目標値テーブル170は、例えば図3に示すように、鋼種と平行剛性目標値とを関連付けて記憶している。
【0033】
[2-2.記憶装置]
記憶装置200は、蛇行制御装置100の学習部160にて利用される情報を保持する記憶媒体から構成され、例えばROMやRAM等により構成される。記憶装置200は、図1に示すように、製造実績記憶部210と、テーブル記憶部220とを備える。
【0034】
製造実績記憶部210は、過去の被圧延材Sの製造実績情報を記憶する。製造実績記憶部210は、製造実績情報として、例えば図4に示すように、被圧延材固有のコイルNo、板厚、板幅、鋼種、板厚公差、平行剛性目標値、平行剛性計算値、ギャップアップ量、厚み不合(品質不合)有無、絞り発生(トラブル発生)有無等の情報を記憶している。厚み不合及び絞り発生については、「0」は無、「1」は有を示している。被圧延材Sの圧延を終える毎に、あるいは、所定数の被圧延材Sの圧延を終える毎に、製造実績記憶部210に製造実績情報が記録される。
【0035】
テーブル記憶部220は、平行剛性目標値を学習するにあたって利用される情報を記憶しており、例えば、過去の実績に基づき設定された各種テーブルを記憶している。テーブル記憶部220は、例えば、トラブル発生率テーブル221、ギャップアップ量テーブル223、及び、コスト単価テーブル225等を記憶する。
【0036】
トラブル発生率テーブル221は、過去の製造において算出された平行剛性とトラブル発生率との関係を表しており、製造実績記憶部210に記憶された過去の被圧延材Sの製造実績情報に基づき生成される。トラブル発生率テーブル221は、例えば図5に示すように、全圧延本数に対して発生したトラブル数から算出されるトラブル発生率を、算出された平行剛性の区分毎に求めた情報である。本実施形態では、圧延トラブルとして、蛇行により絞りが発生した被圧延材の数をトラブル数とし、トラブル発生率を算出している。
【0037】
ギャップアップ量テーブル223は、例えば図6に示すように、過去の製造において算出された平行剛性と平行剛性目標値との差分である平行剛性差と、設定されたギャップアップ量との関係を示す。ギャップアップ量テーブル223は、製造実績記憶部210に記憶された過去の被圧延材Sの製造実績情報に基づき生成される。
【0038】
コスト単価テーブル225は、被圧延材Sの歩留まり及び圧延トラブルによって生じるコスト単価を記憶する。コスト単価テーブル225は、例えば図7に示すように、1本の被圧延材の厚み品質不合により生じる厚み品質不合コスト単価、圧延トラブルの発生により操業が停止し生産ラインの稼働率が低下することで生じるトラブル発生コスト単価等を記憶する。各コスト単価は、例えば被圧延材1本当たりの単価として設定してもよい。各コスト単価は、過去の実績より想定される値(例えば平均値等)が設定される。
【0039】
<3.蛇行制御方法>
本実施形態に係る蛇行制御システム1は、被圧延材の尾端部が制御対象の圧延機を通過するときのロールアップの開放量(すなわち、ギャップアップ量)を圧延中に算出し、設定する。これにより、各被圧延材に最適なギャップアップ量を設定することが可能となり、被圧延材の蛇行の発生を防止し、かつ、不要なロールギャップの開放が低減されて歩留まり落ちを防止することができる。以下、本実施形態に係る蛇行制御システム1による被圧延材の蛇行制御方法について詳細に説明する。
【0040】
[3-1.ギャップアップ量設定処理]
まず、図8に基づいて、本実施形態に係る蛇行制御システム1による圧延中のギャップアップ量設定処理を説明する。図8は、本実施形態に係るギャップアップ量設定処理を示すフローチャートである。本実施形態に係るギャップアップ量設定処理は、蛇行制御システム1の蛇行制御装置100の設定演算部140にて実行される。ギャップアップ量設定処理は、材料トラッキング部120により、被圧延材が通板センサ50の位置を通過したことが検知されたタイミングで開始される。なお、ギャップアップ量設定処理が実行される前に、設定演算部140は、製造条件受信部110から現在圧延中の被圧延材の製造条件を含む製造条件ファイルを受信してもよい。
【0041】
ギャップアップ量設定処理では、まず、ギャップアップ量を算出するあたり必要な情報が取得される(S102~108)。図8に示すように、まず、現在圧延中の被圧延材の製造条件の取得が行われる(S102)。設定演算部140は、製造条件受信部110から受信した現在圧延中の被圧延材の製造条件から、少なくとも目標板厚及び鋼種を取得する。目標板厚は、圧延機により圧延された後の被圧延材の板厚の目標値であり、製品に要求される板厚に応じて設定される。圧延時のロールギャップは、目標板厚に基づき設定される。鋼種は、例えば一般材、ブリキ材、電磁材等のように鋼の種類を表し、材料成分(例えば、鉄(スラブ)に含まれる成分(例えば、カーボン、シリコン、等))に基づき決定される。決定された鋼種により製造方法が決定する。ステップS102では、ギャップアップ量設定処理において用いられる目標板厚及び鋼種を取得する。
【0042】
また、設定演算部140は、予め設定された単位ギャップアップ量ΔSを取得する(S104)。単位ギャップアップ量ΔSは、ギャップアップ量を決定する際に、平行剛性の算出を1回行う毎に変化させるギャップアップ量である。単位ギャップアップ量ΔSは過去の実績に基づき設定される。例えば、単位ギャップアップ量ΔSは、50~100μmの値に設定してもよい。
【0043】
そして、設定演算部140は、今回の被圧延材の圧延における平行剛性目標値HG_refを取得する(S106)。平行剛性目標値HG_refは、学習部160により生成された平行剛性目標値が記録されている平行剛性目標値テーブル170から取得される。設定演算部140は、ステップS102にて取得された被圧延材の製造条件に基づき、平行剛性目標値テーブル170から当該被圧延材に最適な平行剛性目標値を設定する。例えば、学習部160によって鋼種毎の平行剛性目標値が学習される場合、平行剛性目標値テーブル170には、図3に示したように、鋼種毎の平行剛性目標値が記述されている。このとき、設定演算部140は、被圧延材の鋼種に基づき、今回の圧延における平行剛性目標値HG_refを取得し、設定する。
【0044】
また、設定演算部140は、実績収集部130により取得された今回の被圧延材のボトム部が制御対象の圧延機を通過する際の圧延実績情報及びロールプロフィルを取得する(S108)。ここで、被圧延材のボトム部とは、被圧延材の全長に対して尾端から10~20%の範囲をいう。被圧延材の蛇行制御では、被圧延材のボトム部が圧延機を通過するときの挙動が重要であり、この挙動は、例えば被圧延材Sのボトム部を圧下するときの圧延荷重[ton]、圧下位置(すなわち、ロールギャップ)[mm]、ベンダ荷重[ton]によって変化する。
【0045】
また、被圧延材の蛇行の発生は、圧延機のワークロールのロールプロフィルも影響する。ロールプロフィルは、所定のタイミングで実行されるロールプロフィル算出処理により推定され、更新される。ロールプロフィル算出処理は、別途の演算処理装置(図示せず。)により実行される。ロールプロフィルは、主として、ロールの摩耗とロールの熱膨張との影響を受けて変化する。ロールの摩耗は、例えば、圧延前後でのロールプロフィルを比較することで把握可能であり、被圧延材が圧延機を通過する毎に更新される。また、ロールの熱膨張については、定周期(例えば10秒毎)にロールプロフィルを推定することで、熱膨張により時間とともに変化するロール形状を把握できる。演算処理装置は、例えば、ロールの摩耗によるロールプロフィル量の変化またはロールの熱膨張によるロールプロフィル量の変化を演算したタイミングで、最新のロールの摩耗によるロールプロフィル量の変化とロールの熱膨張によるロールプロフィル量の変化とを組み合わせ、現在のロールのロールプロフィルとする。
【0046】
また、ロールプロフィル算出処理は、例えば、特許文献3、4に記載された公知のロールプロフィル計算方法を用いてもよい。特許文献3では、ロールの熱膨張に関して、学習によりロール熱膨張量の補正係数を求め、ロール熱膨張量計算モデルによるロール熱膨張量の推定値と実際の値との誤差を圧延操業中に補正し、高精度にロール熱膨張量を推定する方法が記載されている。特許文献4には、ロールの周方向に配置された3個以上の変位検出器をロール軸線方向にほぼ平行に移動させてロール軸芯と変位検出器配置点とのへだたり量の変化を測定し、その測定値に基づきロールプロフィルを取得する方法が記載されている。
【0047】
設定演算部140は、ギャップアップ量を算出するため、圧延中の被圧延材のボトム部が制御対象の圧延機を通過する時に設定される圧延実績情報と、演算処理装置により演算された圧延機のロールプロフィルとを、実績データファイルから取得する。
【0048】
ステップS102~S108にてギャップアップ量の算出に必要な情報を取得すると、ギャップアップ量の算出が開始される(S110~S120)。本実施形態では、ギャップアップ量を徐々に増加させ、算出された平行剛性(「平行剛性計算値」ともいう。)が平行剛性目標値よりも小さくなったときのギャップアップ量を採用する。これにより、不要にギャップアップ量を大きく設定することがなくなり、被圧延材の板厚不合が低減されることが期待できる。
【0049】
まず、平行剛性算出におけるギャップアップ量の初期値を設定する(S110)。ギャップアップ量の初期値は0とする。すなわち、圧延時のロールギャップのまま被圧延材の尾端部を通過させる場合を想定している。そこで、ステップS110では、ギャップアップ量の設定変数nを0に設定する。そして、設定演算部140は、ボトム部通過時のギャップアップ量を設定する(S112)。ギャップアップ量は、単位ギャップアップ量ΔSと設定変数nとの積(ΔS×n)によって表される。
【0050】
次いで、設定演算部140は、被圧延材のボトム部圧延時の平行剛性計算値HG_botを算出する(S114)。本実施形態における平行剛性は、上記非特許文献1に第1種平行剛性として定義されているパラメータである。第1種平行剛性とは、特許文献5に記載されているように、被圧延材がミルセンターより単位量だけ蛇行した場合にミル変形の観点から生じ得る板厚ウェッジであり、ロール系以外の圧延機の変形特性を正確に把握できていれば、ロール系の変形計算と合わせて容易に計算することができる。設定演算部140は、ステップS102~S108により取得した各種情報に基づき、平行剛性計算値HG_botを算出する。
【0051】
(平行剛性算出例)
ここで、平行剛性(第1種平行剛性)、平行剛性と被圧延材の蛇行量との関係、及び、平行剛性の線荷重及びベンディング力への依存性について説明する。平行剛性は、上述のようにワークロールから被圧延材に加えられる線荷重が左右方向において一定である状態で、被圧延材の板幅方向の中心がミルセンターから単位量ずれた場合における幅方向の板厚差(ウェッジ量)を表す定数である。そこで、まず、蛇行量とウェッジ量との関係式を導出し、次いで、平行剛性とウェッジ量との関係式を導出する。そして、最後に、これらの関係式を組み合わせることにより、蛇行量と平行剛性との関係式を導出する。
【0052】
(a.蛇行量とウェッジ量との関係式の導出)
まず、蛇行量とウェッジ量との関係式を導出する。図9に示すように、ワークロールの直下を含む所定の領域において、被圧延材に蛇行及びキャンバーが生じているモデルを考える。図9は、蛇行及びキャンバーが生じている被圧延材における、変形域の様子を概略的に示す図である。図9では、水平面内(被圧延材の板面と平行な面内)にx-y座標を取り、その原点Oをワークロールの胴部の中央としている。また、ワークロールの回転軸方向と平行な方向(左右方向)をy軸方向としている。
【0053】
被圧延材の運動は、水平面内の剛体運動と考えられるため、被圧延材内の特定の点の時刻tにおける位置をx、yとすると、当該点のx、y方向の速度v、uは、下記式(1)、(2)で表される。
【0054】
【数1】
【0055】
【数2】
【0056】
ここで、ワークロール直下では、被圧延材の送り方向は、ワークロールの周方向に一致するとした。また、ω(t)及びV(t)は、それぞれ、被圧延材の水平面内における回転の角速度及び原点における速度である。ω(t)及びV(t)は、時刻のみの関数であるが、被圧延材がx=0で変形するため、一般に入側と出側とで異なる関数となり得る。したがって、以下では、ω(t)及びV(t)を、入側と出側とで特に区別する場合には、これらを異なる記号で表すこととする。すなわち、入側における被圧延材の回転の角速度及び速度をそれぞれω1(t)及びv1(t)とし、出側における被圧延材の回転の角速度及び速度をそれぞれω2(t)及びv2(t)とする。
【0057】
ある時刻(例えば圧延機が被圧延材の先端を咬み込んだ時刻等)を基準(t=0)とし、t=0における入側の被圧延材の幅方向の中心線形状を、中心線上の点の座標(x0、y0)を用いて、y0=f0(x0)(x0≦0)と表すこととする。中心線上の点(x0、y0)の、時刻tにおける位置は、上記式(1)、(2)を積分することにより、下記式(3)、(4)で与えられる。
【0058】
【数3】
【0059】
【数4】
【0060】
ここで、蛇行及びキャンバー等の左右の非対称が、一次の微少量であると仮定すると、上記式(4)中のxとしては、上記式(3)を第0近似した値を用いれば十分である。したがって、上記式(4)中のxを、x(t)=x0+v1tとみなすこととする。当該x(t)=x0+v1tを、上記式(4)に代入することにより、下記式(5)を得る。
【0061】
【数5】
【0062】
さらに、上記式(5)から、x0、y0を消去して整理すると、時刻tにおける入側の中心線形状を表す下記式(6)を得ることができる。
【0063】
【数6】
【0064】
上記式(6)において、右辺第1項は、被圧延材のx方向への平行移動の影響を表す項であり、第2項は、被圧延材の水平面内における回転の影響を表す項であり、第3項は、被圧延材のy方向への平行移動の影響を表す項である。被圧延材の蛇行量ycは、ワークロール直下(x=0)における板中心線のy座標で定義されるため、上記式(6)においてx=0を代入することにより、下記式(7)を得る。下記式(7)は、蛇行量と入側の回転速度との関係を表す式である。
【0065】
【数7】
【0066】
上記式(7)は、初期条件を除けば、下記式(8)で表される微分方程式と等価である。
【0067】
【数8】
【0068】
ここで、被圧延材の伸びλは、λ=v2/v1と表現できる。ワークサイドにおける伸びλとドライブサイドにおける伸びλとの差(伸びλの左右差)をλdf、左右の板厚差と板厚の比(ウェッジ率)の入側から出側への変化量(ウェッジ率変化)をΔΨ、板幅をbとすると、被圧延材における体積の保存則から、下記式(9)が得られる。
【0069】
【数9】
【0070】
さらに、被圧延材の先進率と後進率とがほぼ比例することから、下記式(10)で表される関係が成り立つと仮定する。
【0071】
【数10】
【0072】
上記式(9)、(10)から、下記式(11)で表される関係が得られる。
【0073】
【数11】
【0074】
上記式(8)、(11)を組み合わせることにより、蛇行量ycとウェッジ率変化ΔΨとの関係式を得ることができる。
【0075】
(b.平行剛性とウェッジ量との関係式の導出)
次に、平行剛性とウェッジ量との関係式を導出する。図10に示すように、被圧延材が蛇行することにより、圧延機が変形しているモデルを考える。図10は、被圧延材の蛇行時における圧延機の変形の様子を示す図である。図10に示すモデルは、圧延機の平行剛性モデルとして知られているものである。
【0076】
図10に示すように、被圧延材が蛇行すると、圧延機は左右非対称に変形し、被圧延材にウェッジが生じる。ここで、図10に示す点A、A’は圧下位置の設定点を、点B、B’はバックアップロールの軸心の圧下点における位置を、Σは圧下点における上下のバックアップロールの軸心間の距離(BB’)を、aは左右の圧下点間距離を、bは板幅を、ycは蛇行量を、Pは各サイドの荷重を、K0はAB間のバネ剛性を表している。
【0077】
図10に示すモデルにおける圧延機の特性を簡単に表すために、圧延機のワークロールに負荷される線荷重が、図11に示すように直線的な分布を有していると仮定する。図11は、線荷重の分布を示す図である。
【0078】
図11に示すように、板幅中心は、原点から蛇行量ycだけずれた場所に位置する。線荷重が直線分布であると仮定することにより、板幅中心における線荷重をpc、板幅方向の両端における線荷重の差をpdfとすると、板幅方向の一方の端(例えばワークサイド側の端)であるy=yc+b/2における線荷重は、p=pc+(1/2)×pdfと表現することができる。また、板幅方向の他方の端(例えばドライブサイド側の端)であるy=yc-b/2における線荷重は、p=pc-(1/2)×pdfと表現することができる。
【0079】
図11に示すような線荷重が与えられた際に生じる左右の板厚差(すなわちウェッジ量)hdfは、例えば板クラウンを計算する際に用いられるロール変形計算等の公知の計算方法によって表現することができる。例えば、一般的に、ウェッジ量hdfは、下記式(12)で表現できる。
【0080】
【数12】
【0081】
ここで、図10に示すように、aは左右の圧下点間距離、すなわち、ワークロールの支点間の距離であり、bは板幅である。また、Sdfは、ワークロールの左右の開度差(レべリング値)である。また、gdf(yc,pdf)は、蛇行量yc及び線荷重の左右差pdfに依存する項であり、上述したようにロール変形計算等の公知の計算方法によって導出される項であるが、説明が煩雑になることを避けるために、その詳細な説明は省略する。上記式(12)の第1近似を取ることにより、下記式(13)を得る。
【0082】
【数13】
【0083】
ここで、E及びDは、蛇行現象に関する圧延機の基本定数であって、それぞれ、第1種平行剛性及び第2種平行剛性と呼ばれる定数である。第1種平行剛性及び第2種平行剛性は、以下のような物理的な意味合いを有する。
【0084】
第1種平行剛性Eは、ワークロールから被圧延材に加えられる線荷重が被圧延材の板幅方向において一定である状態(すなわち線荷重に左右差がない状態)で、被圧延材の板幅方向の中心がミルセンターから単位量ずれた場合におけるウェッジ量を表す。また、第2種平行剛性Dは、被圧延材の板幅方向の中心がミルセンターに位置している状態で、ワークロールから被圧延材に加えられる線荷重に被圧延材の板幅方向において差が生じた場合(すなわち線荷重に左右差が生じた場合)におけるウェッジ量を表す。第1種平行剛性E及び第2種平行剛性Dは、ともに、被圧延材の板幅、線荷重及びベンディング力等に依存する定数である。
【0085】
ここで、入側及び出側ともに拘束のない状態における無張力時の圧延荷重式を、入側板厚H、出側板厚hで微分することにより、下記式(14)を得ることができる。
【0086】
【数14】
【0087】
mは単位幅当たりの塑性係数であり、p0dfは左右の硬度差等による外乱項である。また、Hdfは入側におけるウェッジ量であり、hdfは出側におけるウェッジ量である。
【0088】
上記式(13)、(14)から、pdfを消去することにより、平行剛性(第1種平行剛性)とウェッジ量との関係を表す下記式(15)を得ることができる。
【0089】
【数15】
【0090】
(c.蛇行量と平行剛性との関係式の導出)
蛇行量と平行剛性(第1種平行剛性)との関係式は、上記式(8)、(11)、(15)から、hdfを消去することにより、蛇行量と平行剛性との関係を表す下記式(16)を得ることができる。ただし、外乱項は1つの項にまとめている。
【0091】
【数16】
【0092】
上記式(16)に示す微分方程式は、蛇行量ycを制御するための制御系を表すものであると言える。上記式(16)から、わずかな外乱に対して系が安定である(すなわち、蛇行量ycが有限の範囲にとどまる)か、あるいは、系が不安定である(すなわち、蛇行量ycが発散する)かは、平行剛性Eの値によって決まることが分かる。すなわち、平行剛性Eの値が十分小さい場合(負の値を含む)には、系は安定であり、平行剛性Eの値が大きい場合には系は発散することが分かる。
【0093】
例えば、平行剛性Eは、上記式(13)においてワークロールの左右の開度差Sdf=0、線荷重の左右差pdf=0とすることによって求まる下記式(17)を用いて算出することができる。
【0094】
【数17】
【0095】
ここで、左右の板厚差hdfは、例えば非特許文献2に記載されているような、ロールバレルを胴長方向に分割してロール変形を計算する方法(分割モデル)において、ワークロールの左右の開度差Sdf=0、線荷重の左右差pdf=0、蛇行量ycを入力することにより求めることができる。その場合、上記式(17)における蛇行量ycとしては、分割モデルの入力値として用いた蛇行量ycと同じ値を用いればよい。
【0096】
図8の説明に戻り、設定演算部140は、ステップS102~S108により取得した各種情報に基づき、例えば上記式(17)により得られる平行剛性(第1種平行剛性)Eを平行剛性計算値HG_botとして算出してもよい。なお、設定演算部140による平行剛性の算出方法は上述の例に限定されるものではない。
【0097】
その後、設定演算部140は、ステップS114にて算出された平行剛性計算値HG_botとステップS106にて取得された平行剛性目標値HG_refとを比較する(S116)。平行剛性は、値が大きくなるほど蛇行が発生しやすいことを表しており、平行剛性計算値が平行剛性目標値より小さければ、被圧延材が蛇行する可能性は極めて低い。そこで、設定演算部140は、ギャップアップ量を変化させ、平行剛性計算値HG_botが平行剛性目標値HG_refよりも小さくなる最小のギャップアップ量を設定する。
【0098】
ステップS116にて平行剛性計算値HG_botが平行剛性目標値HG_ref以上である場合には、ギャップアップ量の設定変数nを1増加させ(S118)、再度ギャップアップ量を設定し(S112)、更新されたギャップアップ量での平行剛性計算値HG_botを算出する(S114)。ステップS112~S118の処理を繰り返し、ステップS116にて平行剛性計算値HG_botが平行剛性目標値HG_refより小さくなったとき、設定演算部140は、そのときのギャップアップ量を制御対象の圧延機のギャップアップ量として決定する(S120)。決定されたギャップアップ量は、計算結果格納ファイルに記録されるとともに、伝送部150を介して設定制御装置70へ送信され、圧延機の設定が変更される。そして、被圧延材の尾端部が圧延機を通過するタイミングで、当該圧延機のロールギャップが、決定されたギャップアップ量だけ大きくなるように、圧延機のワークロールが移動される。
【0099】
以上、本実施形態に係るギャップアップ量設定処理について説明した。本実施形態によれば、圧延中の被圧延材に応じて最適な平行剛性目標値が設定され、当該平行剛性目標値を下回る平行剛性となるようにギャップアップ量が設定される。これにより、個々の材料にあった最適なギャップアップ量を設定することが可能となる。
【0100】
[3-2.平行剛性目標値学習処理]
(1)処理内容
図8のステップS106にて取得した平行剛性目標値HG_refは、製造実績データがある程度蓄積された所定のタイミングで、学習部160により学習される。例えば1000本以上の被圧延材の製造実績データが蓄積されたときに学習処理を実行してもよく、あるいは、1ヶ月に1回学習処理を実行するようにしてもよい。このように、定期的に平行剛性目標値を学習し更新することで、図8に示したギャップアップ量設定処理においてギャップアップ量をより適切に設定することができる。以下、図12図14に基づいて、平行剛性目標値学習処理について詳細に説明する。なお、図12は、本実施形態に係る平行剛性目標値学習処理を示すフローチャートである。図13は、平行剛性目標値学習処理における平行剛性目標値探索処理を示すフローチャートである。図14は、平行剛性とコストとの一関係を示す説明図である。
【0101】
まず、学習部160は、記憶装置200の製造実績記憶部210に記憶された過去の製造実績データを用いて、平行剛性目標値の各区分におけるトラブル発生率を、鋼種毎に算出する(S200)。本実施形態では、圧延トラブルとして、被圧延材の絞りの発生を想定する。絞り等の圧延トラブルの発生の有無は、例えば図4に示すように製造実績データとして記録されている。学習部160は、製造実績データから、平行剛性目標値を所定の値の範囲毎に区分し、各区分について該当する被圧延材の圧延本数、絞り発生本数を集計し、トラブル発生率を算出する。学習部160は、図5に示した記憶装置200のトラブル発生率テーブル221を、算出した平行剛性目標値の区分毎のトラブル発生率に更新する。
【0102】
次いで、学習部160は、鋼種毎に平行剛性目標値を学習する(S210s~S210e)。まず、学習部160は、学習処理を実行するために必要な値の初期設定を行う(S220)。具体的には、初期平行剛性目標値HG_ref、初期トータルコスト、目標平行剛性修正量ΔHG_ref、及び平行剛性探索最大値HG_maxが設定される。
【0103】
目標平行剛性HG_refの初期値は0とする。初期トータルコストは、学習結果の評価指標とするトータルコストTcostの初期値であり、過去の製造実績に基づき適宜設定される。本学習では、トータルコストが最小となるときの平行剛性目標値を取得するため、トータルコストの最小値(以下、「最小トータルコストTcost_min」とする。)が学習の結果を受けて小さい値に更新されていくように、初期トータルコストは高めに設定してもよい。初期トータルコストを高めに設定することで、確実に最小トータルコストTcost_minを更新することが可能となる。初期トータルコストは、現時点での最小トータルコストTcost_minとして設定される。平行剛性目標値修正量ΔHG_refは、学習処理において平行剛性目標値を変化させる刻みを表す。また、平行剛性探索最大値HG_maxは、学習時に設定される平行剛性目標値の最大値であり、学習終了判定に用いられる。平行剛性目標値修正量ΔHG_ref及び平行剛性探索最大値HG_maxは、予め設定されているものとする。
【0104】
初期設定を終えると、学習部160は、平行剛性目標値を決定する平行剛性目標値探索処理を実行する(S230)。平行剛性目標値探索処理は、図13に示すように、平行剛性目標値を0から平行剛性探索最大値HG_maxまで、平行剛性目標値修正量ΔHG_refの刻みで学習を行う(S230s~S230e)。
【0105】
まず、学習部160は、平行剛性目標値と平行剛性計算値とから、平行剛性差を算出する(S231)。平行剛性差は、平行剛性目標値と平行剛性計算値との差分であり、製造実績データに含まれる平行剛性目標値及び平行剛性計算値を用いて、データ毎に算出される。
【0106】
次いで、学習部160は、算出された平行剛性差に基づいて、ギャップアップ量テーブル223から対応するギャップアップ量を取得する(S232)。また、学習部160は、各製造実績データの平行剛性目標値に基づいて、ステップS200にて算出されたトラブル発生率テーブル221から対応するトラブル発生率を取得する(S233)。さらに、学習部160は、コスト単価テーブル225から、厚み品質不合コスト単価及びトラブル発生コスト単価を取得する(S234)。厚み品質不合コスト単価は、製品の板厚が公差外となったときに発生する被圧延材1本あたりのコストである。また、本実施形態では、トラブル発生コスト単価として、絞り発生時に発生するコスト単価を考慮する。少なくとも厚み品質不合コスト単価は、鋼種毎に設定されているものとする。
【0107】
また、学習部160は、ステップS232にて取得したギャップアップ量と、予め製品の仕様として設定されている板厚公差とから、厚み品質不合となった被圧延材の本数を算出する(S235)。ギャップアップ量が大きくなる程、圧延後の被圧延材の板厚は製品の目標板厚から外れる。そこで、学習部160は、設定されたギャップアップ量から板厚が公差外となったか否かを判定し、公差外と判定された被圧延材の本数(以下、「厚み外れ本数」ともいう。)をカウントし、厚み品質不合となった被圧延材の本数とする。
【0108】
そして、学習部160は、今回の学習に利用した被圧延材の製造実績データ(例えば、1000本以上の被圧延材の製造実績データや、1ヶ月分の製造実績データ)について、現在の平行剛性目標値を設定した場合に発生する品質不合コストとトラブル発生コストとの和であるトータルコストTcostを算出する(S236)。トータルコストTcostは、下記式(18)で表される。
【0109】
Tcost=品質不合コスト+トラブル発生コスト
=厚み外れ本数×厚み品質不合コスト単価
+トラブル発生率×圧延本数×トラブル発生コスト単価 ・・・(18)
【0110】
すなわち、品質不合コストは、ステップS234にて取得した厚み品質不合コスト単価に、ステップS235にて算出した厚み外れ本数を乗算することで得られる。また、トラブル発生コストは、学習に用いた製造実績データの数を圧延本数として、ステップS233にて取得したトラブル発生率、圧延本数、及び、ステップS234にて取得したトラブル発生コストを乗算することで得られる。
【0111】
その後、学習部160は、ステップS236で算出したトータルコストTcostと現時点での最小トータルコストTcost_minとを比較する(S237)。トータルコストTcostが最小トータルコストTcost_minより小さい場合には、最小トータルコストTcost_minをステップS236で算出したトータルコストTcostに更新し、このときの平行剛性目標値HG_refをトータルコスト最小平行剛性目標値HG_ref_minとして設定する(S238)。一方、トータルコストTcostが最小トータルコストTcost_min以上である場合は、最小トータルコストTcost_min及びトータルコスト最小平行剛性目標値HG_ref_minは更新しない。
【0112】
その後、平行剛性目標値HG_refに平行剛性目標値修正量ΔHG_refを加算して平行剛性目標値HG_refを更新し、平行剛性目標値HG_refが平行剛性探索最大値HG_maxを超えるまで、図13の処理を繰り返し実行する。
【0113】
図12の説明に戻り、平行剛性目標値探索処理を終えると、学習部160は、最終的なトータルコスト最小平行剛性目標値HG_ref_minを当該鋼種の平行剛性目標値として、平行剛性目標値テーブル170に格納する(S240)。図13の平行剛性目標値探索処理では、トータルコストが最小となる平行剛性目標値を探索している。平行剛性目標値探索処理で最終的に得られるトータルコスト最小平行剛性目標値HG_ref_minは、トータルコストが最小となる平行剛性目標値を表す。
【0114】
ここで、図14に、平行剛性目標値と、品質不合コスト、トラブル発生コスト及びトータルコストとの一関係を示す。上述したように、平行剛性は、被圧延材がミルセンターより単位量だけ蛇行した場合にミル変形の観点から生じ得る板厚ウェッジを表している。したがって、平行剛性は値が大きくなるほど被圧延材の蛇行が発生しやすくなることを表している。また、ギャップアップ量が大きくなるほど蛇行の発生は抑制されるが、製品の板厚が公差外となり、品質不合となる。すなわち、図14に示すように、設定する平行剛性目標値の値が大きくなるほど、品質不合コストが抑制される一方、トラブル発生コストが増加するという、品質不合コストとトラブル発生コストとの間にはトレードオフの関係がある。そこで、本実施形態では、品質不合コストとトラブル発生コストとの和であるトータルコストが最小となる場合を最適な製造条件として考え、このときの平行剛性目標値、すなわちトータルコスト最小平行剛性目標値HG_ref_minを当該鋼種における平行剛性目標値HG_refとして決定する。図14の例では、平行剛性が2のときトータルコストが最小であることから、平行剛性目標値は2と設定される。
【0115】
学習部160は、以上の処理をすべての鋼種について実行し、各鋼種の平行剛性目標値を取得する。このように、本実施形態では定期的に鋼種毎に平行剛性目標値を更新することで、図8に示したギャップアップ量設定処理においてギャップアップ量をより適切に設定することができる。
【0116】
(2)具体例
以下、図12及び図13に示した平行剛性目標値学習処理の一例として、鋼種Aの平行剛性目標値の学習例を示す。本例では、鋼種Aの1ヶ月の圧延本数が430本であり、そのうち圧延トラブルとして絞り発生本数が50本であったとする。平行剛性目標値は0~5の範囲で設定されており、平行剛性目標値を0以上1未満、1以上2未満、2以上3未満、3以上4未満、4以上5以下の5つに区分したとき、区分毎の圧延本数、絞り発生本数、及び、トラブル発生率は、下記表1に示すようであった。下記情報は、図12のステップS200にて取得される。
【0117】
【表1】
【0118】
次いで、ステップS220にて初期設定がなされた後、ステップS230にて鋼種Aについて最適な平行剛性目標値の探索が行われる。まず、1ヶ月間で製造された鋼種Aの製造実績データから、各被圧延材の平行剛性差を算出し、算出された平行剛性差に対応するギャップアップ量をギャップアップ量テーブルから取得する。ここで、ギャップアップ量テーブルは、下記表2のように設定されているとする。
【0119】
【表2】
【0120】
また、トラブル発生率テーブルを参照し、各製造実績データの平行剛性目標値に対応するトラブル発生率を取得する。ここでは、トラブル発生率として、被圧延材に絞りが生じたトラブル発生率を用いている。取得されたトラブル発生率は、例えば下記表3のように、平行剛性目標値毎に算出される。
【0121】
【表3】
【0122】
さらに、コスト単価テーブルから、厚み品質不合コスト単価及びトラブル発生コスト単価が取得される。各コスト単価は、例えば下記表4に示すように設定されている。各コスト単価は、例えば表4に示すように、被圧延材1本あたりに生じるコストで表される。なお、表4では、各コスト単価を比として表しており、この例では、厚み品質不合が1本発生したときのコストを1としたとき、トラブル発生時には5倍のコストがかかることになる。
【0123】
【表4】
【0124】
また、各製造実績データについて、厚み外れ本数を算出する。例えば、板厚公差が200μmであるとき、ギャップアップ量が200μmより大きく設定された材料は公差外となり、厚み品質不合となる。取得された厚み外れ本数は、例えば下記表5のように、平行剛性目標値毎に算出される。
【0125】
【表5】
【0126】
そして、上記取得した値を用いて、厚み品質不合コスト、トラブル発生コスト、及び、トータルコストが算出される。例えば、圧延本数が430本であり、平行剛性目標値HG_refが0のとき、トラブル発生率は0.02%、厚み外れ本数は340本であった。したがって、トータルコストTcostは、上記式(18)より、3.83(=340×0.01+2%×430×0.05)となる。また、平行剛性目標値HG_refが1のとき、トラブル発生率は0.06%、厚み外れ本数は250本であった。したがって、トータルコストTcostは3.79(=250×0.01+6%×430×0.05)となる。同様に、平行剛性目標値が5となるまで、繰り返し計算すると、下記表6のような結果となった。表6より、平行剛性目標値2のとき、トータルコストが最小となる。したがって、鋼種Aの平行剛性目標値は2に設定される。
【0127】
【表6】
【0128】
<4.まとめ>
以上、本発明の実施形態に係る蛇行制御システムの構成と、これによる蛇行制御方法について説明した。本実施形態によれば、圧延中の被圧延材の尾端部が制御対象とする圧延機を通過する前に、尾端部通過時のワークロールのギャップアップ量を算出し、設定する。ギャップアップ量は、被圧延材の蛇行のしやすさを表す平行剛性計算値を用いて、当該平行剛性計算値が平行剛性目標値より小さくなるように設定される。平行剛性目標値は、絞り発生を抑制するとともに厚み品質不合も抑制するにあたって、コスト的に最適な値が、鋼種毎に設定される。したがって、平行剛性計算値が平行剛性目標値より小さくなるようにギャップアップ量を設定することで、被圧延材の蛇行及び絞りの発生を抑制し、かつ、製品品質及び圧延トラブルに起因するコストを抑制できる最適な蛇行制御を実現することができる。
【0129】
また、平行剛性目標値は、定期的に学習により更新してもよい。これにより、最新の製造実績に基づき、常に最適な平行剛性目標値を設定することができ、より最適な蛇行制御を実現することが可能となる。
【0130】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0131】
例えば、上記実施形態では、蛇行制御装置による制御対象の圧延機は、圧延設備を構成する複数の圧延機のうち、通板方向最下流に設置された圧延機のみとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、圧延設備を構成する1または複数の圧延機を制御対象としてもよい。蛇行は、通板方向下流側の圧延機による圧延状態の影響が大きく、少なくとも通板方向最下流の圧延機のギャップアップ量を制御するのがよい。また、通板方向下流側の圧延機から順にギャップアップ量の制御対象とするのがよい。複数の圧延機のギャップアップ量を制御する場合には、各圧延機による被圧延材のマスフローに応じてギャップアップ量が設定される。
【0132】
また、上記実施形態では、ギャップアップ量設定処理は、材料トラッキング部により、被圧延材が通板センサの位置を通過したことが検知されたタイミングで開始されるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、圧延設備のうち通板方向最上流側の圧延機を尾端部が通過したタイミングで、ギャップアップ量設定処理を実行してもよい。被圧延材の尾端部が圧延機を通過したタイミングは、例えばロードセル等のロールへの荷重を検出する荷重検出装置により検出される荷重が所定値以下となったことで判断することができる。
【符号の説明】
【0133】
1 蛇行制御システム
11、12 ワークロール
30 生産管理コンピュータ
50 通板センサ
70 設定制御装置
100 蛇行制御装置
110 製造条件受信部
120 材料トラッキング部
130 実績収集部
140 設定演算部
150 伝送部
160 学習部
170 平行剛性目標値テーブル
200 記憶装置
210 製造実績記憶部
220 テーブル記憶部
221 トラブル発生率テーブル
223 ギャップアップ量テーブル
225 コスト単価テーブル
230 ギャップアップ量テーブル
240 コスト単価テーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
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図15