(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162660
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】軸受装置及び軸受システム
(51)【国際特許分類】
F16C 35/12 20060101AFI20221018BHJP
F16C 35/073 20060101ALI20221018BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20221018BHJP
F16C 35/077 20060101ALI20221018BHJP
F16C 19/54 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
F16C35/12
F16C35/073
F16C19/06
F16C35/077
F16C19/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067572
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】剱持 伸朗
(72)【発明者】
【氏名】小原 新吾
(72)【発明者】
【氏名】久世 暁彦
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA02
3J117CA01
3J117CA06
3J117DA02
3J701AA03
3J701AA42
3J701AA52
3J701BA77
3J701FA38
3J701GA24
(57)【要約】
【課題】自身に生じる摩擦トルクが大きくなるのを抑えた長寿命な軸受装置を提供する。
【解決手段】軸受装置31は、第1内輪43と第1外輪44とが第1転動体45を介して接続された第1転がり軸受33と、第2内輪48と第2外輪49とが第2転動体50を介して接続された第2転がり軸受34と、第1外輪44及び第2内輪48にそれぞれ固定された第1連結部材32とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1内輪と第1外輪とが第1転動体を介して接続された第1転がり軸受と、
第2内輪と第2外輪とが第2転動体を介して接続された第2転がり軸受と、
前記第1外輪及び前記第2内輪にそれぞれ固定された第1連結部材とを備える、軸受装置。
【請求項2】
前記第1転がり軸受と前記第2転がり軸受とは、互いに同軸であって、前記第1転がり軸受の軸線方向に沿って並べて配置されている、請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記第1転がり軸受と前記第2転がり軸受とは、互いに同一の内径を有するとともに互いに同一の外径を有する、請求項2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記第1連結部材は、前記第1転がり軸受の軸線回りに回転対称な形状を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記第1連結部材は、
前記第2内輪に固定された第1筒状部材と、
前記第1外輪に固定された第2筒状部材と、
前記第1筒状部材における前記第1転がり軸受の軸線方向の端部と、前記第2筒状部材における前記軸線方向の端部とを連結する環状部材とを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の軸受装置。
【請求項6】
前記第1転動体を介して前記第1内輪と前記第1外輪との間に生じる摩擦トルクを、第1摩擦トルクと規定し、
前記第2転動体を介して前記第2内輪と前記第2外輪との間に生じる摩擦トルクを、第2摩擦トルクと規定したときに、
前記第1摩擦トルクが前記第2摩擦トルクよりも小さく、前記第2転がり軸受が停止し、前記第1内輪及び前記第1外輪と前記第1転動体との間の複数の第1摺動面が互いに摺動している状態から、
前記第1摩擦トルクが前記第2摩擦トルクよりも大きくなり、前記第1転がり軸受が停止し、前記第2内輪及び前記第2外輪と前記第2転動体との間の複数の第2摺動面が互いに摺動している状態に切り替わるように構成されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の軸受装置。
【請求項7】
軸部と、
請求項1から6のいずれか一項に記載の軸受装置である第1軸受装置及び第2軸受装置と、
前記第1軸受装置の前記第2外輪及び前記第2軸受装置の前記第2外輪にそれぞれ固定された第2連結部材とを備え、
前記第1軸受装置及び第2軸受装置は、前記第1軸受装置における前記第1転がり軸受の軸線方向に沿って並べて配置され、
前記軸部は、前記第1軸受装置の前記第1内輪及び前記第2軸受装置の前記第1内輪にそれぞれ固定されている、軸受システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置及び軸受システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸部を支持するために、ボールベアリング(転がり軸受。軸受装置)が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボールベアリングは、内輪と外輪とが転動体を介して接続されて構成される。
しかしながら、内輪及び外輪と転動体との間の摺動面が摩耗等すると、ボールベアリングに生じる摩擦トルクが大きくなり、ボールベアリングの寿命が低下する。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、自身に生じる摩擦トルクが大きくなるのを抑えた長寿命な軸受装置、及びこの軸受装置を備える軸受システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の軸受装置は、第1内輪と第1外輪とが第1転動体を介して接続された第1転がり軸受と、第2内輪と第2外輪とが第2転動体を介して接続された第2転がり軸受と、前記第1外輪及び前記第2内輪にそれぞれ固定された第1連結部材とを備えることを特徴としている。
【0007】
この発明によれば、第1転がり軸受では、第1内輪と第1外輪との間を第1転動体が転動する。第2転がり軸受では、第2内輪と第2外輪との間を第2転動体が転動する。
例えば、第1転がり軸受の第1内輪に、第1転がり軸受と同軸になるように軸部を固定する。第2転がり軸受の第2外輪を支持する。例えば、第1転動体を介して第1内輪と第1外輪との間に生じる第1摩擦トルクが第2転動体を介して第2内輪と第2外輪との間に生じる第2摩擦トルクよりも小さいと、第2転がり軸受が停止し、軸部及び第1内輪が一体となって、第1外輪、第1連結部材、及び第2転がり軸受に対して、第1転がり軸受の軸線回りに回転する。第1摩擦トルクが前記第2摩擦トルクよりも大きくなると、第1転がり軸受が停止し、軸部、第1転がり軸受、第1連結部材、及び第2内輪が一体となって、第2外輪に対して前記軸線回りに回転する。
このように、第1転がり軸受が停止しても、第2転がり軸受により軸部を前記軸線回りに回転させることができる。従って、軸受装置が転がり軸受を1つだけ備える場合に比べて、軸受装置に生じる摩擦トルクが大きくなるのを抑え、軸受装置を長寿命にすることができる。
【0008】
また、前記軸受装置において、前記第1転がり軸受と前記第2転がり軸受とは、互いに同軸であって、前記第1転がり軸受の軸線方向に沿って並べて配置されていてもよい。
この発明によれば、軸受装置における軸線に直交する方向の外径が大きくなるのを抑えることができる。
【0009】
また、前記軸受装置において、前記第1転がり軸受と前記第2転がり軸受とは、互いに同一の内径を有するとともに互いに同一の外径を有してもよい。
この発明によれば、第1転がり軸受の第1摩擦トルクと第2転がり軸受の第2摩擦トルクとを、互いに等しい大きさにさせやすくなる。このため、両摩擦トルクの大小関係が容易に入れ替わり、第1転がり軸受が動作し第2転がり軸受が停止している状態と、第1転がり軸受が停止し第2転がり軸受が動作している状態とを、容易に切り替えることができる。
【0010】
また、前記軸受装置において、前記第1連結部材は、前記第1転がり軸受の軸線回りに回転対称な形状を有してもよい。
この発明によれば、第1連結部材が前記軸線回りに回転したときに、第1連結部材の動きを安定させることができる。このため、第1連結部材に固定された第1転がり軸受及び第2転がり軸受それぞれの前記軸線回りの動きを安定させることができる。
【0011】
また、前記軸受装置において、前記第1連結部材は、前記第2内輪に固定された第1筒状部材と、前記第1外輪に固定された第2筒状部材と、前記第1筒状部材における前記第1転がり軸受の軸線方向の端部と、前記第2筒状部材における前記軸線方向の端部とを連結する環状部材とを有してもよい。
この発明によれば、第1筒状部材、第2筒状部材、及び環状部材という、3つの部材により、第1連結部材を容易に構成することができる。
【0012】
また、前記軸受装置において、前記第1転動体を介して前記第1内輪と前記第1外輪との間に生じる摩擦トルクを、第1摩擦トルクと規定し、前記第2転動体を介して前記第2内輪と前記第2外輪との間に生じる摩擦トルクを、第2摩擦トルクと規定したときに、前記第1摩擦トルクが前記第2摩擦トルクよりも小さく、前記第2転がり軸受が停止し、前記第1内輪及び前記第1外輪と前記第1転動体との間の複数の第1摺動面が互いに摺動している状態から、前記第1摩擦トルクが前記第2摩擦トルクよりも大きくなり、前記第1転がり軸受が停止し、前記第2内輪及び前記第2外輪と前記第2転動体との間の複数の第2摺動面が互いに摺動している状態に切り替わるように構成されていてもよい。
この発明によれば、第1摩擦トルク及び第2摩擦トルクの大きさに応じて、第1転がり軸受が動作して複数の第1摺動面が互いに摺動し第2転がり軸受が停止している状態と、第2転がり軸受が動作して複数の第2摺動面が互いに摺動し第1転がり軸受が停止している状態とに切り替わる。このように、互いに摺動する複数の摺動面を、複数の第1摺動面と複数の第2摺動面とに交互に切り替えることができる。
【0013】
また、本発明の軸受システムは、軸部と、前記のいずれかに記載の軸受装置である第1軸受装置及び第2軸受装置と、前記第1軸受装置の前記第2外輪及び前記第2軸受装置の前記第2外輪にそれぞれ固定された第2連結部材とを備え、前記第1軸受装置及び第2軸受装置は、前記第1軸受装置における前記第1転がり軸受の軸線方向に沿って並べて配置され、前記軸部は、前記第1軸受装置の前記第1内輪及び前記第2軸受装置の前記第1内輪にそれぞれ固定されていることを特徴としている。
【0014】
この発明によれば、軸部における軸線方向の2か所を第1軸受装置及び第2軸受装置の第1内輪により支持することで、第1軸受装置及び第2軸受装置の軸線に対して軸部が傾くのを抑制することができる。そして、第2連結部材を支持することにより、軸受システム全体を容易に支持することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の軸受装置及び軸受システムによれば、自身に生じる摩擦トルクが大きくなるのを抑えて長寿命にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態の軸受装置が用いられる人工衛星の要部における断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態の変形例における軸受装置の断面図である。
【
図4】従来の軸受システムにおける、揺動サイクル数に対するVCMの出力トルクの変化を示す図である。
【
図5】実施例の軸受システムにおける、揺動サイクル数に対するVCMの出力トルクの変化を示す図である。
【
図6】実施例の軸受システムにおける、揺動サイクル数に対するミラーの角度等の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る軸受システムの一実施形態を、軸受システムが人工衛星に用いられている場合を例にとって、
図1から
図6を参照しながら説明する。
図1に示すように、この人工衛星1は、構体10と、本実施形態の軸受システム15とを備える。
構体10は、人工衛星1の基本構造を構成する。
【0018】
軸受システム15は、軸部16と、ハウジング(第2連結部材)21と、本実施形態の第1軸受装置(軸受装置)31及び第2軸受装置(軸受装置)56とを有する。
軸部16は、所定の軸線O方向に延びる棒状である。軸部16は、小径部17と、大径部18とを有する。大径部18の外径は、小径部17の外径よりも大きい。
軸線Oは、第1軸受装置31の後述する第1転がり軸受33の軸線、及び第2軸受装置56の後述する第1転がり軸受58の軸線と共通の軸線である。以下では、大径部18から小径部17に向かう向きを、先端側と言う。先端側と反対側を、基端側と言う。軸受システム15を軸線O方向から見て、軸線Oに直交する方向を径方向と言い、軸線O回りに周回する方向を周方向と言う。
【0019】
大径部18における先端部には、大径部18の外周面から径方向外側に向かって突出する係止部18a,18bが形成される。係止部18aは、係止部18bよりも先端側に配置される。係止部18aは、大径部18における先端に配置される。
大径部18の基端部には、大径部18の外周面から径方向外側に向かって突出する係止部18cが形成される。係止部18cは、大径部18における基端よりも先端側に配置される。
係止部18a,18b,18cは、大径部18に、それぞれ周方向の全周にわたって形成される。
小径部17及び大径部18は、軸線O方向に互いに連なる。
大径部18における係止部18bと係止部18cとの間には、ミラー19及びマグネット20がそれぞれ固定される。例えば、マグネット20は、大径部18を挟んでミラー19とは反対側に配置される。
【0020】
ハウジング21は、先端ハウジング22と、基端ハウジング23と、連結ハウジング24とを有する。先端ハウジング22は、基端ハウジング23よりも先端側に配置される。
先端ハウジング22は、筒状部22aと、環状部22bとを有する。筒状部22aは、筒状である。筒状部22aは、軸線Oと同軸に配置される。筒状部22aは、軸部16の小径部17を径方向外側から覆う。環状部22bは、筒状部22aの先端部から径方向内側に向かって延びる。環状部22bは、筒状部22aに、周方向の全周にわたって形成される。
基端ハウジング23は、筒状部23aと、環状部23bとを有する。筒状部23aは、筒状である。筒状部23aは、軸線Oと同軸に配置される。筒状部23aは、軸部16よりも基端側に配置される。環状部23bは、筒状部23aの基端部から径方向内側に向かって延びる。環状部23bは、筒状部23aに、周方向の全周にわたって形成される。
【0021】
連結ハウジング24は、第1連結片24aと、第2連結片24bと、第3連結片24cとを有する。
第1連結片24aは、先端ハウジング22の筒状部22aにおける周方向の一部の外周面から、径方向外側に向かって延びる。第2連結片24bは、基端ハウジング23の筒状部23aにおける周方向の一部の外周面から、径方向外側に向かって延びる。第3連結片24cは、第1連結片24aが延びる先端部と第2連結片24bが延びる先端部とを連結する。第3連結片24cは、軸線O方向に延びる。
【0022】
連結ハウジング24の第3連結片24cにおける軸部16側の外面には、電磁コイル25が固定される。電磁コイル25及び前記マグネット20を有して、VCM(Voice Coil Motor)26が構成される。電磁コイル25は、マグネット20に対向するように、すなわちマグネット20との間に隙間が形成されるように配置される。
以上のように構成されたハウジング21の第3連結片24cにおける軸部16とは反対側の外面は、構体10に固定され、構体10により支持される。
【0023】
第1軸受装置31及び第2軸受装置56は、軸線O方向に沿って並べて配置される。第1軸受装置31及び第2軸受装置56は、ミラー19、マグネット20、及び電磁コイル25を軸線O方向に挟むように配置される。
第1軸受装置31は、冗長ハウジング(第1連結部材)32と、一対の第1転がり軸受33と、一対の第2転がり軸受34とを備える。冗長ハウジング32は、第1筒状部(第1筒状部材)37と、第1環状部(環状部材)38と、第2筒状部(第2筒状部材)39と、第2環状部40とを有する。
第1筒状部37及び第2筒状部39は、それぞれ筒状である。第1筒状部37及び第2筒状部39は、それぞれ軸線Oと同軸に配置される。第1筒状部37は、軸部16の小径部17の径方向外側を覆う。
第1環状部38は、第1筒状部37の基端部37aから径方向外側に向かって延びる。第1環状部38は、第1筒状部37に、周方向の全周にわたって形成される。第1環状部38の基端側の端面38aは、軸線O方向において、軸部16の係止部18aの基端側の端面18a1と同等の位置に配置される。
【0024】
第2筒状部39は、第1環状部38に、径方向外側の端部から基端側に向かって延びる。第2筒状部39は、軸部16の大径部18における先端部を径方向外側から覆う。前記第1環状部38は、第1筒状部37の基端部(軸線O方向の端部)と、第2筒状部39の先端部(軸線O方向)とを連結する。
第2環状部40は、第2筒状部39の基端部から径方向内側に向かって延びる。第2環状部40は、第2筒状部39に、周方向の全周にわたって形成される。第2環状部40の先端側の端面は、軸線O方向において、軸部16の係止部18bの先端側の端面と同等の位置に配置される。
以上のように、冗長ハウジング32は、軸線O回りに回転対称な形状を有する。
【0025】
第1転がり軸受33では、第1内輪43と第1外輪44とが第1玉(第1転動体)45を介して接続されている。第1内輪43及び第1外輪44は、それぞれ円環状である。第1転がり軸受33では、第1内輪43と第1外輪44との間を第1玉45が転動する。
ここで、第1内輪43及び第1外輪44と第1玉45との間で、互いに摺動される面を、第1摺動面43a,44a,45aと言う。具体的には、第1摺動面43aは、第1内輪43における第1玉45により擦られる外面である。第1摺動面44aは、第1外輪44における第1玉45により擦られる外面である。第1摺動面45aは、第1玉45における第1内輪43及び第1外輪44により擦られる外面である。
第1玉45を介して第1内輪43と第1外輪44との間に生じる摩擦トルクを、第1摩擦トルクと規定する。
【0026】
一対の第1転がり軸受33は、軸線O方向に沿って並べて(軸線O方向に位置をずらして)配置される。
一対の第1転がり軸受33の第1内輪43は、軸部16の大径部18における先端部の外周面に固定される。一対の第1転がり軸受33の第1内輪43は、軸部16の係止部18a,18bにより軸線O方向に挟まれる。
一対の第1転がり軸受33の第1外輪44は、冗長ハウジング32の第2筒状部39の内周面に固定される。第1外輪44を第2筒状部39に固定する固定手段としては、焼き嵌め、ボルト等が用いられる。一対の第1転がり軸受33の第1外輪44は、冗長ハウジング32の環状部38,40により軸線O方向に挟まれる。
【0027】
第2転がり軸受34では、第2内輪48と第2外輪49とが第2玉(第2転動体)50を介して接続される。第2転がり軸受34では、第2内輪48と第2外輪49との間を第2玉50が転動する。
ここで、第2内輪48及び第2外輪49と第2玉50との間で、互いに摺動される面を、第2摺動面48a,49a,50aと言う。具体的には、第2摺動面48aは、第2内輪48における第2玉50により擦られる外面である。第2摺動面49aは、第2外輪49における第2玉50により擦られる外面である。第2摺動面50aは、第2玉50における第2内輪48及び第2外輪49により擦られる外面である。
第2玉50を介して第2内輪48と第2外輪49との間に生じる摩擦トルクを、第2摩擦トルクと規定する。
【0028】
一対の第2転がり軸受34は、軸線O方向に沿って並べて配置される。第2転がり軸受34は、第1転がり軸受33と同一の構成である。すなわち、第1転がり軸受33と第2転がり軸受34とは、互いに同一の内径を有するとともに互いに同一の外径を有する。一対の第1転がり軸受33と一対の第2転がり軸受34とは、互いに同軸であって、軸線O方向に並べて配置される。
第1摩擦トルク及び第2摩擦トルクは、互いに同等である。しかし、転がり軸受33,34の個体差により、第1摩擦トルク及び第2摩擦トルクは互いに異なる場合がある。
【0029】
一対の第2転がり軸受34の第2内輪48は、冗長ハウジング32の第1筒状部37の外周面に固定される。第2内輪48を第1筒状部37に固定する固定手段としては、焼き嵌め、ボルト等が用いられる。基端側の第2転がり軸受34の第2内輪48には、冗長ハウジング32の第1環状部38が、この第2内輪48よりも基端側から接触する。
一対の第2転がり軸受34の第2外輪49は、ハウジング21の先端ハウジング22の筒状部22aの内周面に固定される。先端側の第2転がり軸受34の第2外輪49には、冗長ハウジング32の先端ハウジング22の環状部22bが、この第2外輪49よりも先端側から接触する。
【0030】
以上のように構成された第1軸受装置31では、軸部16の予圧方法として、いわゆる定位置予圧が用いられる。すなわち、例えば、一対の第1転がり軸受33を係止部18a,18bにより軸線O方向に締め付け、一対の第1転がり軸受33に予圧を与える。
第1軸受装置31は、軸部16とハウジング21との間に、2つの転がり軸受33,34を直列に接続した状態で備える、冗長な軸受装置である。
【0031】
第2軸受装置56は、冗長ハウジング(第1連結部材)57と、第1転がり軸受58と、第2転がり軸受59とを備える。冗長ハウジング57は、円柱部62と、第1筒状部63と、環状部64と、第2筒状部65とを有する。
円柱部62は、円柱状である。円柱部62は、軸線Oと同軸に配置される。円柱部62は、軸部16よりも基端側に配置される。
第1筒状部63及び第2筒状部65は、それぞれ筒状である。第1筒状部63は、円柱部62の外周縁から先端側に向かって延びる。第1筒状部63は、円柱部62に、周方向の全周にわたって形成される。
環状部64は、第1筒状部63の先端部から径方向外側に向かって延びる。環状部64は、第1筒状部63に、周方向の全周にわたって形成される。
第2筒状部65は、環状部64の外周縁から先端側に向かって延びる。第2筒状部65は、環状部64に、周方向の全周にわたって形成される。第2筒状部65は、軸部16の大径部18の基端部を径方向外側から覆う。
以上のように、冗長ハウジング57は、軸線O回りに回転対称な形状を有する。
【0032】
第1転がり軸受58では、第1内輪68と第1外輪69とが第1玉(第1転動体)70を介して接続されている。第1転がり軸受58の第1内輪68は、軸部16の大径部18における基端部の外周面に固定される。第1転がり軸受58の第1内輪68には、軸部16の係止部18cが、この第1内輪68よりも先端側から接触する。
第1転がり軸受58の第1外輪69は、冗長ハウジング57の第2筒状部65の内周面に固定される。第1転がり軸受58の第1外輪69には、冗長ハウジング57の環状部64が、この第1外輪69よりも基端側から接触する。
第2転がり軸受59では、第2内輪73と第2外輪74とが第2玉(第2転動体)75を介して接続される。第2転がり軸受59は、第1転がり軸受58と同一の構成である。すなわち、第1転がり軸受58と第2転がり軸受59とは、互いに同一の内径を有するとともに互いに同一の外径を有する。
【0033】
第2転がり軸受59の第2内輪73は、冗長ハウジング57の第1筒状部63の外周面に固定される。第2転がり軸受59と冗長ハウジング57の環状部64とは、軸線O方向に離間する。
第2転がり軸受59の第2外輪74は、ハウジング21の基端ハウジング23における筒状部23aの内周面に固定される。第2転がり軸受59の第2外輪74には、冗長ハウジング57の基端ハウジング23の環状部23bが、バネ23cを介して、この第2外輪74よりも基端側から接触する。バネ23cは、第2転がり軸受59の第2外輪74を先端側に向かって付勢する。
以上のように構成された第2軸受装置56では、軸部16の予圧方法として、いわゆる定圧予圧が用いられる。すなわち、バネ23cが第2転がり軸受59を先端側に向かって押圧することにより、冗長ハウジング57を介して第1転がり軸受58が先端側に向かって押圧される。
【0034】
次に、以上のように構成された人工衛星1の動作について、軸受システム15の動作に重点をおいて説明する。
例えば、人工衛星1は、地球の軌道上に配置されているとする。地上には複数の観測ポイントが設定され、ミラー19が、複数の観測ポイントに順々に向くように制御されるとする。
例えば、ミラー19が向く向きが、複数の観測ポイントのうちの、第1観測ポイントと第2観測ポイントとの間で切り替わるときに、軸部16が軸線O回りに微小な角度揺動するように回転する。
以下では、第2軸受装置56において、動作する転がり軸受58,59が切り替わることは無いとして説明する。
【0035】
軸受システム15が動作を開始したときには、第1軸受装置31において、一対の第1転がり軸受33による第1摩擦トルクが、一対の第2転がり軸受34による第2摩擦トルクよりも小さいとする。一対の第1転がり軸受33が動作し、一対の第2転がり軸受34が停止しているとする。この状態を、第1軸受装置31の第1動作状態と言う。第1動作状態では、一対の第1転がり軸受33では、第1摺動面43a,44a,45aが互いに摺動する。より詳しく説明すると、摺動面43aと摺動面45aとが互いに摺動し、摺動面44aと摺動面45aとが互いに摺動する。
VCM26の電磁コイル25に適宜通電すると、電磁コイル25とマグネット20との間に作用する磁力により、軸部16に固定されたミラー19が、軸線O回りに揺動する。
【0036】
軸受システム15が一定時間動作すると、第1摺動面43a,44a,45aの摩耗等の原因により第1摩擦トルクが第2摩擦トルクよりも大きくなり、一対の第1転がり軸受33よりも一対の第2転がり軸受34が動作しやすくなる。すると、一対の第1転がり軸受33が停止し、一対の第2転がり軸受34が動作する、第1軸受装置31の第2動作状態に切り替わる。第2動作状態では、一対の第2転がり軸受34では、第2摺動面48a,49a,50aが互いに摺動する。より詳しく説明すると、摺動面48aと摺動面50aとが互いに摺動し、摺動面49aと摺動面50aとが互いに摺動する。
このとき、第1転がり軸受33における第1内輪43と第1外輪44との位相がずれて、第1摩擦トルクが小さくなりやすい。
【0037】
軸受システム15が、さらに一定時間動作すると、第2摺動面48a,49a,50aの摩耗等の原因により第2摩擦トルクが第1摩擦トルクよりも大きくなり、一対の第2転がり軸受34よりも一対の第1転がり軸受33が動作しやすくなる。すると、第1軸受装置31は第1動作状態に移行する。このとき、第2転がり軸受34における第2内輪48と第2外輪49との位相がずれて、第2摩擦トルクが小さくなりやすい。
以上のように、第1軸受装置31は、第1動作状態と第2動作状態とに交互に切り替わるように構成されている。
【0038】
実際には、第1軸受装置31が第1動作状態と第2動作状態とに交互に切り替わるのと同様に、第2軸受装置56において動作する転がり軸受58,59が交互に切り替わる。
【0039】
これに対して、
図2に示す従来の軸受装置100では、軸部101とハウジング102との間に、1つの転がり軸受103が配置される。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の第1軸受装置31では、第2転がり軸受34の第2外輪49をハウジング21により支持する。例えば、第1転がり軸受33による第1摩擦トルクが第2転がり軸受34による第2摩擦トルクよりも小さいと、第2転がり軸受34が停止し、軸部16及び第1内輪43が一体となって、第1外輪44、冗長ハウジング32、及び第2転がり軸受34に対して軸線O回りに回転する。第1摩擦トルクが第2摩擦トルクよりも大きくなると、第1転がり軸受33が停止し、軸部16、第1転がり軸受33、冗長ハウジング32、及び第2内輪48が一体となって、第2外輪49に対して軸線O回りに回転する。
このように、第1転がり軸受33が停止しても、第2転がり軸受34により軸部16を軸線O回りに回転させることができる。従って、第1軸受装置が転がり軸受を1つだけ備える場合に比べて、第1軸受装置31に生じる摩擦トルクが大きくなるのを抑え、第1軸受装置31を長寿命にすることができる。
【0041】
第1転がり軸受33と第2転がり軸受34とは、互いに同軸であって軸線O方向に沿って並べて配置されている。これにより、第1軸受装置31における軸線Oに直交する方向の外径が大きくなるのを抑えることができる。
第1転がり軸受33と第2転がり軸受34とは、互いに同一の内径を有するとともに互いに同一の外径を有する。従って、第1転がり軸受33の第1摩擦トルクと第2転がり軸受34の第2摩擦トルクとを、互いに等しい大きさにさせやすくなる。このため、両摩擦トルクの大小関係が容易に入れ替わり、第1転がり軸受33が動作し第2転がり軸受34が停止している第1動作状態と、第1転がり軸受33が停止し第2転がり軸受34が動作している第2動作状態とを、容易に切り替えることができる。
【0042】
冗長ハウジング32は、軸線O回りに回転対称な形状を有する。従って、冗長ハウジング32が軸線O回りに回転したときに、冗長ハウジング32の動きを安定させることができる。このため、冗長ハウジング32に固定された第1転がり軸受33及び第2転がり軸受34それぞれの軸線O回りの動きを安定させることができる。
冗長ハウジング32は、第1筒状部37、第1環状部38、第2筒状部39、及び第2環状部40を有する。このため、第1筒状部37、第1環状部38、第2筒状部39、及び第2環状部40という4つの部材により、冗長ハウジング32を容易に構成することができる。
【0043】
第1軸受装置31は、第1摩擦トルクが第2摩擦トルクよりも小さく、第2転がり軸受34が停止し第1転がり軸受33の第1摺動面43a,44a,45aが互いに摺動している第1動作状態から、第1摩擦トルクが第2摩擦トルクよりも大きくなり、第1転がり軸受33が停止し第2転がり軸受34の第2摺動面48a,49a,50aが互いに摺動している第2動作状態に切り替わるように構成されている。このため、第1摩擦トルク及び第2摩擦トルクの大きさに応じて、第1転がり軸受33が動作して第1摺動面43a,44a,45aが互いに摺動し第2転がり軸受34が停止している第1動作状態と、第2転がり軸受34が動作して第2摺動面48a,49a,50aが互いに摺動し第1転がり軸受33が停止している第2動作状態とに切り替わる。このように、互いに摺動する摺動面を、第1摺動面43a,44a,45aと第2摺動面48a,49a,50aとに交互に切り替えることができる。
【0044】
第1軸受装置31は一対の第1転がり軸受33を備えるため、一対の第1転がり軸受33の軸線に対して軸部16が傾くのを抑制することができる。一対の第2転がり軸受34についても同様である。
また、本実施形態の軸受システム15では、軸部16における軸線O方向の2か所を第1軸受装置31の第1内輪43及び第2軸受装置56の第1内輪68によりそれぞれ支持することで、第1軸受装置31及び第2軸受装置56の軸線に対して軸部16が傾くのを抑制することができる。そして、ハウジング21を支持することにより、軸受システム15全体を容易に支持することができる。
第1軸受装置31を定位置予圧の構成とすることにより、第1軸受装置31を高剛性化することができる。
【0045】
なお、本実施形態では、
図3に示す軸受システム15Aのように、第1軸受装置31Aが、第1転がり軸受33及び第2転がり軸受34をそれぞれ1つずつ備えてもよい。
第1軸受装置が、互いに直列に接続された3以上の転がり軸受を備えてもよい。第2軸受装置についても、同様である。
【0046】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、第1転がり軸受及び第2転がり軸受は、内径及び外径の少なくとも一方が異なっていてもよい。第1転がり軸受に対して第2転がり軸受が、径方向外側に配置されてもよい。
冗長ハウジング32,57は、それぞれ軸線O回りに回転対称な形状でなくてもよい。冗長ハウジング32は、第2環状部40を有さなくてもよい。この場合、第1筒状部37、第1環状部38、及び第2筒状部39という3つの部材により、冗長ハウジング32を容易に構成することができる。
第1転動体は第1玉であるとしたが、第1転動体は第1ころ等であるとしてもよい。第2転動体についても、同様である。
【0047】
〔実験結果1〕
実施例の軸受システム、及び従来の軸受システムを用いて振動試験を行った。振動波形としては、人工衛星用の認定試験(Qualification Test)で用いられる正弦波及びランダム波形を用いた。従来の軸受システムでは、軸受装置は、複数の転がり軸受を直列に接続した状態で備えていない。
ハウジングに対する冗長ハウジングの軸線回りの動きを、ロータリーセンサで測定した。VCMを用いて、軸部を回転させた。このため、VCMの出力トルクが、軸受システムの摩擦トルクに対応する。
【0048】
図4及び
図5ともに、横軸は揺動サイクル数(回)を表し、縦軸はVCMの出力トルク(Nm(ニュートンメートル))を表す。
図4に示す従来の軸受システムでは、一部しか図示されていないが、揺動サイクル数が10
7回に増加するに従い、出力トルクが約5倍に増加した。
一方で、
図5に示す実施例の軸受システムでは、一部しか図示されていないが、揺動サイクル数が10
7回になっても、出力トルクはほとんど増加しなかった。
【0049】
〔実験結果2〕
図6に、実施例の軸受システムを用いたときの、揺動サイクル数に対する、ミラーの角度、VCM実負荷率、及びロータリーセンサの値の変化を示す。ここで、VCM実負荷率とは、VCMの許容上限電流値に対するVCMに流れる電流の割合を、パーセント表示した値(最大で100%)を意味する。
曲線L1は、ミラーの角度(deg)を表す。曲線L2は、VCM実負荷率(%)を表し、曲線L3は、ロータリーセンサの値(deg)を表す。ミラーの角度の振幅が0.3degになるように、フィードバック制御した。
揺動サイクル数がN
0回に近づくにつれて転がり軸受の摩擦トルクが増加し、VCM実負荷率が増加したことで揺動角のオーバーシュートが生じ、それに伴いフィードバック制御が効かなくなった。
揺動サイクル数がN
0回のときに、例えば第1動作状態から第2動作状態に切り替わり、ロータリーセンサの値が増加した。第1動作状態から第2動作状態に切り替わると、フィードバック制御が効きやすくなり、VCM実負荷率が低下することが分かる。
揺動サイクル数がさらに増えると、第2動作状態から第1動作状態に切り替わる。
【符号の説明】
【0050】
15,15A 軸受システム
16 軸部
21 ハウジング(第2連結部材)
31 第1軸受装置(軸受装置)
32,57 冗長ハウジング(第1連結部材)
33,58 第1転がり軸受
34,59 第2転がり軸受
37 第1筒状部(第1筒状部材)
38 第1環状部(環状部材)
39 第2筒状部(第2筒状部材)
43,68 第1内輪
43a,44a,45a 第1摺動面
44,69 第1外輪
45,70 第1玉(第1転動体)
48,73 第2内輪
48a,49a,50a 第2摺動面
49,74 第2外輪
50,75 第2玉(第2転動体)
56 第2軸受装置(軸受装置)
O 軸線