(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162672
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】転動案内装置、開閉装置
(51)【国際特許分類】
F16C 29/04 20060101AFI20221018BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
F16C29/04
F16C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067594
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128749
【弁理士】
【氏名又は名称】海田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 祐丘
(72)【発明者】
【氏名】榊 源太
【テーマコード(参考)】
3J104
3J701
【Fターム(参考)】
3J104AA15
3J104AA26
3J104AA33
3J104AA65
3J104AA69
3J104AA76
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3J701AA15
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3J701EA01
3J701FA15
3J701FA41
3J701GA42
3J701GA60
(57)【要約】
【課題】安定した案内動作を実行する。
【解決手段】転動案内装置10は、取付面部12と一対の壁部13,14とによって形成される軌道部材11と、軌道部材11を形成する取付面部12と一対の壁部13,14とで囲まれた空間15の内部に転動自在に配置される複数の第1転動体31と、を備えており、一対の壁部13,14の対向した壁面のそれぞれには、第1転動体31の転動体外周面と接触する転動体転動面13a,14aが形成されており、一対の壁部のそれぞれに形成された転動体転動面13a,14aは、単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝として形成されることで、第1転動体31と2つの転動体転動面13a,14aとが各一点で接触し、移動部材21は、軌道部材11を構成する一対の壁部13,14のうちのいずれか一方の壁部の外方端部14bに接触して転動動作を行う第2転動体41を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる長尺の部材であって、外部部材との取付基準となる取付面部と、当該取付面部の両端のそれぞれから一方に向けて立設される一対の壁部と、によって形成される軌道部材と、
前記軌道部材の長手方向に沿って往復移動可能に設置される移動部材と、
前記軌道部材と前記移動部材の間であって、前記軌道部材を形成する前記取付面部と前記一対の壁部とで囲まれた空間の内部に転動自在に配置されることで、前記軌道部材に対する前記移動部材の相対的な往復移動を案内する複数の第1転動体と、
を備える転動案内装置において、
前記一対の壁部の対向した壁面のそれぞれには、前記第1転動体の転動体外周面と接触する転動体転動面が形成されており、
前記一対の壁部のそれぞれに形成された前記転動体転動面は、単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝として形成されることで、前記第1転動体と2つの前記転動体転動面とが各一点で接触し、
前記移動部材は、前記軌道部材を構成する前記一対の壁部のうちのいずれか一方の壁部の外方端部に接触して転動動作を行う第2転動体を備えることを特徴とする転動案内装置。
【請求項2】
請求項1に記載の転動案内装置であって、
前記軌道部材における前記第2転動体からの接触を受ける前記一対の壁部のうちのいずれか一方の壁部の外方端部が、研削加工を受けた研削面であることを特徴とする転動案内装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の転動案内装置であって、
前記第2転動体は、前記移動部材に対して偏芯軸を介して設置されていることを特徴とする転動案内装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の転動案内装置の前記軌道部材が扉枠に設置され、前記移動部材に扉体が設置されることで、前記扉枠に対する前記扉体の開閉動作を行うことを特徴とする開閉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動案内装置と、この転動案内装置を用いる開閉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、長手方向に延びる断面略C字形をした軌道レールと、この軌道レールの長手方向に沿って往復移動可能に設置されるスライダと、軌道レールとスライダの間であって軌道レールを構成する略C字形の内部空間に転動自在に配置されることで、軌道レールに対するスライダの相対的な往復移動を案内する複数の転動体と、を備えて構成される転動案内装置が公知である。
【0003】
この種の転動案内装置の具体例としては、例えば、下記特許文献1に開示されるリニアベアリングが存在する。このリニアベアリングは、断面C字形の直線レールを左右2本平行に向き合わせて設け、各レールに2条の内部軌道を上下に対向して形成し、これらの上下の内部軌道に対し交互に接触する3個以上のローラを有するスライダを設け、ローラの外周面の輪郭は断面を半径rの円弧状に形成し、そして上下の内部軌道の一方は、断面がV字形で、他方の内部軌道は、断面を半径Rの円弧状に形成すると共に、この半径Rの長さをローラの輪郭の半径rより長く形成する、という構成を有するものである。そして、このような構成を有することで、下記特許文献1に開示されるリニアベアリングでは、たとえ熱による膨脹や荷重によりレールが変形して左右の平行が狂ったとしてもスライダが円滑に動ける、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上掲した特許文献1に開示されたリニアベアリングに代表される従来の転動案内装置では、スライダ等の移動部材にローリング方向のMcモーメントが作用した場合に、適切かつ安定した案内動作を実行できないといった課題が存在していた。例えば、軌道レール等の軌道部材を扉枠に設置し、スライダ等の移動部材に吊扉のような扉体を設置することで、扉枠に対する扉体の開閉動作を行う開閉装置を想定した場合、吊扉は偏った重量を移動部材に及ぼすことになる。このような偏った重量が移動部材に加わった場合、従来の転動案内装置では、ローリング方向のMcモーメントに対する剛性が弱いために、適切かつ安定した案内動作を実行できなかった。
【0006】
本発明は、上述した従来技術に存在する課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ローリング方向のMcモーメントに対する剛性を向上させることで、偏った重量が移動部材に加わった場合であっても、適切かつ安定した案内動作を実行できる転動案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る転動案内装置は、長手方向に延びる長尺の部材であって、外部部材との取付基準となる取付面部と、当該取付面部の両端のそれぞれから一方に向けて立設される一対の壁部と、によって形成される軌道部材と、前記軌道部材の長手方向に沿って往復移動可能に設置される移動部材と、前記軌道部材と前記移動部材の間であって、前記軌道部材を形成する前記取付面部と前記一対の壁部とで囲まれた空間の内部に転動自在に配置されることで、前記軌道部材に対する前記移動部材の相対的な往復移動を案内する複数の第1転動体と、を備える転動案内装置であって、前記一対の壁部の対向した壁面のそれぞれには、前記第1転動体の転動体外周面と接触する転動体転動面が形成されており、前記一対の壁部のそれぞれに形成された前記転動体転動面は、単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝として形成されることで、前記第1転動体と2つの前記転動体転動面とが各一点で接触し、前記移動部材は、前記軌道部材を構成する前記一対の壁部のうちのいずれか一方の壁部の外方端部に接触して転動動作を行う第2転動体を備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明には、上記の転動案内装置の前記軌道部材が扉枠に設置され、前記移動部材に扉体が設置されることで、前記扉枠に対する前記扉体の開閉動作を行うことを特徴とする開閉装置が含まれる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ローリング方向のMcモーメントに対する剛性を向上させることで、偏った重量が移動部材に加わった場合であっても、適切かつ安定した案内動作を実行できる転動案内装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係る転動案内装置を正面側から見た場合の透視図である。
【
図2】第1の実施形態に係る転動案内装置を左側面側から見た場合の透視図である。
【
図3】第1の実施形態において、第1ホイール上方転動面および第1ホイール下方転動面に対する第1ホイールの転動動作状態を説明するための模式図である。
【
図4】第1の実施形態に係る転動案内装置に対して吊り戸を取り付けた場合の使用例を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る転動案内装置の変形形態例と、この変形形態例に係る転動案内装置に対して鉄道車両に利用される扉体を取り付けた場合の使用例を示す図である。
【
図6】
図5で示した転動案内装置が設置された鉄道車両の構成例を示す図である。
【
図7】第2の実施形態に係る転動案内装置を左側面側から見た場合の左側面図である。
【
図8】第2の実施形態に係る転動案内装置を左斜め上方から見た場合の外観斜視図である。
【
図9】第2の実施形態に係る転動案内装置について、移動スライダを取り外した状態を示した斜視透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
[第1の実施形態]
まず、
図1および
図2を用いて、第1の実施形態に係る転動案内装置10の基本構成を説明する。ここで、
図1は、第1の実施形態に係る転動案内装置を正面側から見た場合の透視図であり、
図2は、第1の実施形態に係る転動案内装置を左側面側から見た場合の透視図である。なお、本明細書では、説明の便宜のために、
図1および
図2で示すように転動案内装置10の方向を定義した。ただし、この方向は、第1の実施形態に係る転動案内装置10の使用時の方向を示すものではなく、第1の実施形態に係る転動案内装置10は、あらゆる姿勢で使用することができる。つまり、
図1および
図2で示した「前、後、上、下、左、右」の方向は、あくまで説明の便宜のために決定したものである。
【0013】
図1および
図2に示されるように、第1の実施形態に係る転動案内装置10は、軌道部材としての軌道レール11と、軌道レール11の長手方向(すなわち、
図1における左右方向)に沿って往復移動可能に設置される移動部材としての移動スライダ21と、軌道レール11と移動スライダ21の間に転動自在な状態で配置される第1転動体としての第1ホイール31と、移動スライダ21の下面側に対して転動自在な状態で配置される第2転動体としての第2ローラ41と、を有して構成されている。
【0014】
軌道レール11は、長手方向に延びる断面略C字形をした長尺の部材である。
図2に示されるように、第1の実施形態の軌道レール11は、側面視において、上下方向に延びて形成される取付面部12と、この取付面部12の上方端から前方に延びて形成される本発明に係る壁部としての上方壁部13と、取付面部12の下方端から前方に延びて形成される本発明に係る壁部としての下方壁部14と、を有している。
【0015】
上方壁部13の下面側には、第1ホイール31のホイール外周面と接触する本発明に係る転動体転動面としての第1ホイール上方転動面13aが形成されている。同様に、下方壁部14の上面側には、第1ホイール31のホイール外周面と接触する本発明に係る転動体転動面としての第1ホイール下方転動面14aが形成されている。第1ホイール上方転動面13aと第1ホイール下方転動面14aは、側面視において対向配置されている。そして、取付面部12と上方壁部13と下方壁部14とによって囲まれた内部空間15(本発明に係る空間の内部)の中に、第1ホイール31が転動自在な状態で配置される。
【0016】
第1の実施形態の軌道レール11は、金属材料を引き抜き加工によって塑性変形させるとともに、後述する第2ローラ41が接触する箇所、すなわち、軌道レール11を構成する略C字形の下方の開放端部14b(本発明に係る外方端部)の箇所が研削加工を受けた平面として形成されることで、上述した外郭形状を形成している。ただし、軌道レール11の形成方法は引き抜き加工と研削加工の組み合わせに限られるものではない。例えば、金属材料に対して研削加工や切削加工などを行うことで外観形状を形成してもよいし、金属材料を引き抜き加工によって塑性変形させた後、熱処理加工を行うことで表面硬さや内部品質を制御した上で、研削加工などを行って外郭形状を形成してもよい。つまり、本発明の軌道部材である軌道レール11については、あらゆる加工方法を用いて外郭形状を形成することができる。
【0017】
また、第1の実施形態の軌道レール11は、転動案内装置10の取付基準となる部材である。そのため、第1の実施形態では、軌道レール11を構成する取付面部12に対してボルト孔などの取付孔12aを形成することで、この取付孔12aを利用してベースや扉枠などの取付基準面に対する軌道レール11の固定設置を行うことができる。
【0018】
移動スライダ21は、
図1および
図2において示されるように、概略矩形形状をしたブロック状の部材であり、軌道レール11の長手方向に沿って往復移動可能に設置されるものである。第1の実施形態の移動スライダ21には、後面側に3つの第1ホイール31が転動自在な状態で配置されており、下面側に2つの第2ローラ41が転動自在な状態で配置されている。また、移動スライダ21の前面側には、転動案内装置10によって案内移動される可動部材を設置することができる。
【0019】
第1ホイール31は、軌道レール11と移動スライダ21の間であって軌道レール11を構成する略C字形の内部空間15に転動自在に配置されることで、軌道レール11に対する移動スライダ21の相対的な往復移動を案内する部材である。
【0020】
より具体的には、第1の実施形態の第1ホイール31は、移動スライダ21の後面側に3つの第1ホイール31が転動自在な状態で配置されている。そして、
図1および
図2を対比参照して明らかなように、3つの第1ホイール31のうち、中央に位置する1つの第1ホイール31については、第1ホイール上方転動面13aに接するとともに第1ホイール下方転動面14aとは接触せずに隙間を有するように配置されている。一方、3つの第1ホイール31のうち、左右に位置する2つの第1ホイール31は、第1ホイール下方転動面14aに接するとともに第1ホイール上方転動面13aとは接触せずに隙間を有するように配置されている。このように、3つの第1ホイール31の位置が正面視で上下方向に互い違いになるように配置することで、例えば、
図1において移動スライダ21が軌道レール11に対して紙面右側に移動したときには、中央に位置する1つの第1ホイール31は、
図1の紙面に対して反時計回りに回転し、左右に位置する2つの第1ホイール31は、
図1の紙面に対して時計回りに回転することとなる。また逆に、
図1において移動スライダ21が軌道レール11に対して紙面左側に移動したときには、中央に位置する1つの第1ホイール31は、
図1の紙面に対して時計回りに回転し、左右に位置する2つの第1ホイール31は、
図1の紙面に対して反時計回りに回転することとなる。このように、3つの第1ホイール31を正面視で上下方向に互い違いになるように配置することで、軌道レール11の長手方向に沿って相対的な直線移動を行う移動スライダ21は、モーメント荷重を適切に受けながら好適な往復直線移動を行うことが可能となる。
【0021】
なお、
図1および
図2で示す第1の実施形態では、中央に位置する1つの第1ホイール31が第1ホイール上方転動面13aに接するように配置されるとともに、左右に位置する2つの第1ホイール31が第1ホイール下方転動面14aに接するように配置される構成例を示した。しかし、本発明の範囲はこれに限られず、例えば、第1の実施形態とは逆の配置構成である、中央に位置する1つの第1ホイール31が第1ホイール下方転動面14aに接するように配置されるとともに、左右に位置する2つの第1ホイール31が第1ホイール上方転動面13aに接するように配置される構成を採用してもよい。
【0022】
また、本発明では、第1ホイール31が移動スライダ21の後面側に対して4つ以上配置される構成例を採用することも可能であるが、この構成例の場合には、隣り合う第1ホイール31が第1ホイール上方転動面13aと第1ホイール下方転動面14aに互い違いに接触するように配置することが好ましい。
【0023】
さらに、本発明におけるホイールとは、回転軸に対して回転自在な状態で取り付けられた車輪部材であって、相手部材との転動接触面が、水平面、凸状の曲面、凹状の曲面のいずれかで構成されるものを含むものである。ちなみに、本実施形態において、第1ホイール31の転動接触面は、凸状の曲面として形成された場合が例示されている(
図2参照)。
【0024】
ここで、
図3を参照図面に加えることで、第1ホイール31と、第1ホイール上方転動面13aおよび第1ホイール下方転動面14aとの関係を説明する。
図3は、第1の実施形態において、第1ホイール上方転動面および第1ホイール下方転動面に対する第1ホイールの転動動作状態を説明するための模式図である。なお、
図3において、図中の分図(a)は移動スライダ21にローリング方向のMcモーメントが加わっていない状態を示しており、分図(b)は移動スライダ21にローリング方向のMcモーメントが加わった状態を示しており、分図(c)は分図(b)中の符号αで示された破線領域を拡大した図である。
【0025】
第1の実施形態において、第1ホイール上方転動面13aおよび第1ホイール下方転動面14aの断面形状は、単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝として形成されている。すなわち、第1ホイール上方転動面13aおよび第1ホイール下方転動面14aの曲率半径は、第1ホイール31の転動表面の曲率半径よりも僅かに大きく形成されている。したがって、第1の実施形態に係る第1ホイール31は、第1ホイール上方転動面13aおよび第1ホイール下方転動面14aのそれぞれに対して各一点で接触することとなる。
【0026】
そして、
図3中の分図(a)で示すように、移動スライダ21にローリング方向のMcモーメントが加わっていない状態の場合には、第1ホイール31の回転中心線に直交する転動方向を示す線L
1は、上下方向で垂直に配置された線となり、第1ホイール31と、第1ホイール上方転動面13aおよび第1ホイール下方転動面14aとの接点P
1は、第1ホイール上方転動面13aおよび第1ホイール下方転動面14aを構成するサーキュラーアーク溝の溝底中心に位置にすることとなる。
【0027】
図3中の分図(a)で示す状態から移動スライダ21に対してローリング方向のMcモーメントが加わると、
図3中の分図(b)で示すように、第1ホイール31は、Mcモーメントが加わる方向(
図3(b)では、紙面に対して時計回りの方向)に傾くことになる。つまり、第1ホイール31の回転中心線に直交する転動方向を示す線L
1は、線L
2の位置に傾くことになる。このとき、第1ホイール上方転動面13aおよび第1ホイール下方転動面14aの断面形状は単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝として形成されているので、第1ホイール31の時計回り方向での傾きに従って接点が接点P
1の位置から接点P
2の位置に移動することになる。つまり、第1の実施形態に係る転動案内装置10では、たとえ移動スライダ21に対してローリング方向のMcモーメントが加わったとしても、Mcモーメントに応じて接点が転移して、第1ホイール31と、第1ホイール上方転動面13aおよび第1ホイール下方転動面14aのそれぞれが常に1点接触を行うので、差動すべり量が少なく常に良好な転がり運動が実現するように構成されている。
【0028】
図2を参照して、第1の実施形態に係る転動案内装置10では、上述した第1ホイール31は、回転中心線31aが前後方向に沿った水平線となるように構成されている。一方、移動スライダ21の下面側に配置される第2ローラ41は、回転中心線41aが上下方向に沿った鉛直線となるように構成されている。つまり、第1の実施形態に係る第2ローラ41は、第1ホイール31の回転中心軸31aに対して略直交する方向の回転中心軸41aを有するように構成されている。
【0029】
さらに、第2ローラ41は、軌道レール11を構成する略C字形の下方の開放端部14bに接触して転動動作を行うように構成されている。上述したように、第1の実施形態では、第1ホイール31と接触する第1ホイール上方転動面13aおよび第1ホイール下方転動面14aがサーキュラーアーク溝として構成されているので、移動スライダ21に外部荷重が加わることによって常に接点P1,P2が転移することになる。しかし、第1の実施形態では、第2ローラ41が軌道レール11を構成する略C字形の下方の開放端部14bに接触して転動動作を行うように構成されているので、接点P1,P2の転移を適切に補って、ローリング方向のMcモーメントを第1ホイール31と第2ローラ41とが協働して受容することができる。つまり、第1の実施形態では、第1ホイール31と、第1ホイール上方転動面13aおよび第1ホイール下方転動面14aとの構成と、第2ローラ41と、軌道レール11を構成する略C字形の下方の開放端部14bとの構成との2組の構成を組み合わせることで、ローリング方向のMcモーメントに対する剛性を向上させることができ、偏った重量が移動スライダ21に加わった場合であっても、適切かつ安定した案内動作を実行できる転動案内装置10を提供することが可能となっている。
【0030】
また、第1の実施形態では、第1ホイール31と接触する第1ホイール上方転動面13aおよび第1ホイール下方転動面14aがサーキュラーアーク溝として構成されているので、取付誤差吸収のメリットが取付相手によって変位となって表れることとなる。したがって、特に、第1ホイール31と接触する第1ホイール上方転動面13aおよび第1ホイール下方転動面14aにサーキュラーアーク溝を採用した第1の実施形態の場合には、ローリング方向のMcモーメントを好適に受容できる第2ローラ41が存在することがより好ましいと言える。
【0031】
なお、第1の実施形態では、第2ローラ41と接触する軌道レール11の開放端部14bは、金属材料を引き抜き加工した後に研削加工を行うことで平面として形成される状態を想定していた。しかし、第2ローラ41が転動動作を行う開放端部14bについては、研削加工を受けない引き抜き加工のままの状態とすることも可能である。
【0032】
また、
図1および
図2に示されるように、第1の実施形態において、第2ローラ41は移動スライダ21の外周からはみ出さないように配置されているので、第1の実施形態に係る転動案内装置10は全体として非常にコンパクトな構成となっている。かかる構成は、設置スペースを極小化できるという効果を発揮することになるので、第1の実施形態に係る転動案内装置10は、利用可能性の範囲が大きいという利点を有している。
【0033】
なお、第1の実施形態に係る転動案内装置10では、第1ホイール31や第2ローラ41の回転軸を偏芯軸とすることで、この偏芯軸を回転させて第1ホイール31や第2ローラ41の位置調整を行うことができるように構成することが好ましい。例えば、
図1に示されるように、第1の実施形態では、3つの第1ホイール31が左右方向に並んで配置されているが、左右に配置された2つの第1ホイール31の回転軸を固定軸とし、中央に配置された1つの第1ホイール31の回転軸を偏芯軸とすることで、中央に配置された第1ホイール31の位置を上方に向けて移動させることで、軌道レール11に対する3つの第1ホイール31の予圧調整などを実施することができる。また、第2ローラ41の回転軸を偏芯軸とし、この偏芯軸を任意の位置に回転させることで第2ローラ41の前後方向での位置調整を行えば、軌道レール11に対する第2ローラ41の予圧調整などを実施することができる。
【0034】
以上、第1の実施形態に係る転動案内装置10についての説明を行った。この転動案内装置10は、例えば、家屋に利用される吊り戸の開閉装置や、鉄道車両に利用される扉体の開閉装置として用いることが好適である。そこで、次に、
図4~
図6を用いて、第1の実施形態に係る転動案内装置10の産業上の利用例についての説明を行う。ここで、
図4は、第1の実施形態に係る転動案内装置に対して吊り戸を取り付けた場合の使用例を示す図である。また、
図5は、第1の実施形態に係る転動案内装置の変形形態例と、この変形形態例に係る転動案内装置に対して鉄道車両に利用される扉体を取り付けた場合の使用例を示す図である。さらに、
図6は、
図5で示した転動案内装置が設置された鉄道車両の構成例を示す図である。
【0035】
図4に示すように、第1の実施形態に係る転動案内装置10では、戸枠51に対して軌道レール11を固定設置し、移動スライダ21には吊り戸52を設置することで、家屋に利用される吊り戸52の開閉装置100を構成することができる。吊り戸52の場合、移動スライダ21には偏った重量が加わることになるが、第1の実施形態に係る転動案内装置10は第1ホイール31と第2ローラ41とが協働してローリング方向のMcモーメントを受容することができるので、適切かつ安定した吊り戸52の案内動作を実現することができる。
【0036】
また、
図5に示すように、第1の実施形態に係る転動案内装置10については、第1ホイール31の設置数を増やしたり、1本の軌道レール11に対して大きな移動スライダ21を設置したり、あるいは複数の移動スライダ21を設置したりすることが可能である。例えば、
図5で示す変形形態例の場合、第1ホイール31を8個設置し、1本の軌道レール11に対して長尺の移動スライダ21を設置してある。そして、長尺の移動スライダ21の左右に分かれた位置に左右4個ずつ、合計8個の第1ホイール31が配置されている。さらに、長尺の移動スライダ21を利用して、1枚の鉄道車両用の扉体53が設置してある。
【0037】
図5で示した変形形態例の転動案内装置10については、
図6で示すような鉄道車両の乗降口を開閉するための開閉装置200として利用することができる。この開閉装置200については、変形形態例に係る転動案内装置10の軌道レール11が扉枠55(鉄道車両の車体に相当)に設置され、移動スライダ21に扉体53が設置されることで、扉枠55(鉄道車両の車体に相当)に対する扉体53の開閉動作を行うことが可能となっている。特に、鉄道車両に対して転動案内装置10を利用する場合、この転動案内装置10は第2ローラ41が移動スライダ21の外周からはみ出さないように非常にコンパクトな構成となっているので、扉体53の大きさを広い範囲とすることができるという効果を得ることができる。
【0038】
以上、第1の実施形態に係る転動案内装置10の構成と、その変形形態例についての説明を行った。次に、
図7~
図9を用いて、本発明に係る転動案内装置の別の実施形態例についての説明を行う。
【0039】
[第2の実施形態]
図7は、第2の実施形態に係る転動案内装置を左側面側から見た場合の左側面図である。また、
図8は、第2の実施形態に係る転動案内装置を左斜め上方から見た場合の外観斜視図である。
図8中の分図(a)では、軌道レールに対して移動スライダが左側に移動した状態が示されており、
図8中の分図(b)では、軌道レールに対して移動スライダが右側に移動した状態が示されている。さらに、
図9は、第2の実施形態に係る転動案内装置について、移動スライダを取り外した状態を示した斜視透視図である。なお、
図7~
図9では、
図1~
図3を用いて説明した第1の実施形態と同一又は類似する部材については、同一符号を付して説明を省略することとした。
【0040】
図7に示されるように、第2の実施形態に係る転動案内装置60は、軌道部材としての軌道レール11と、軌道レール11の長手方向(すなわち、
図7における紙面に対して垂直な方向)に沿って往復移動可能に設置される移動部材としての移動スライダ21と、軌道レール11と移動スライダ21の間に転動自在な状態で配置される第1転動体としての多数の第1ボール61と、移動スライダ21の下面側に対して転動自在な状態で配置される第2転動体としての第2ローラ41と、を有して構成されている。
【0041】
軌道レール11は、長手方向に延びる断面略倒U字形をした長尺の部材である。
図7に示されるように、第2の実施形態の軌道レール11は、側面視において、上下方向に延びて形成される取付面部12と、この取付面部12の上方端から前方に延びて形成される本発明に係る壁部としての上方壁部63と、取付面部12の下方端から前方に延びて形成される本発明に係る壁部としての下方壁部64と、を有している。
【0042】
上方壁部63の下面側には、第1ボール61のボール外周面と接触する本発明に係る転動体転動面としての第1ボール上方転動面63aが形成されている。同様に、下方壁部64の上面側には、第1ボール61のボール外周面と接触する本発明に係る転動体転動面としての第1ボール下方転動面64aが形成されている。第1ボール上方転動面63aと第1ボール下方転動面64aは、側面視において対向配置されている。
【0043】
また、第2の実施形態の軌道レール11は、転動案内装置60の取付基準となる部材である。そのため、第2の実施形態では、軌道レール11を構成する取付面部12に対してボルト孔などの取付孔12aを形成することで、この取付孔12aを利用してベースや扉枠などの取付基準面に対する軌道レール11の固定設置を行うことができる。
【0044】
さらに、第2の実施形態の軌道レール11は、金属材料を引き抜き加工によって塑性変形させるとともに、後述する第2ローラ41が接触する箇所、すなわち、軌道レール11を構成する略C字形の下方の開放端部64b(本発明に係る外方端部)の箇所が研削加工を受けた平面として形成されている。ただし、第2ローラ41が転動動作を行う開放端部64bについては、研削加工を受けない引き抜き加工のままの状態とすることも可能である。
【0045】
図7において示されるように、第2の実施形態に係る移動スライダ21は、スライダブロック65と、取付ブロック66という2つの部材を組み合わせて構成されている。
【0046】
スライダブロック65は、
図7および
図9に示されるように、軌道レール11の長手方向に沿って配置される長尺の部材であり、上下面の夫々には、第1ボール上方転動面63aと第1ボール下方転動面64aに対向して形成されたボール転動溝65a,65bが形成されている。そして、第1ボール上方転動面63aとボール転動溝65aとで構成される負荷ボール転走路と、第1ボール下方転動面64aとボール転動溝65bとで構成される負荷ボール転走路との、左右方向に延びる2条の負荷ボール転走路に対して、多数の第1ボール61が転動自在な状態で配置されることにより、軌道レール11の長手方向に沿ったスライダブロック65(移動スライダ21)の相対的な往復移動が可能となっている。
【0047】
取付ブロック66には、
図7および
図8に示されるように、下面側に4つの第2ローラ41が転動自在な状態で配置されている。また、取付ブロック66の前面側には、転動案内装置60によって案内移動される可動部材を設置することができる。
【0048】
以上から、取付面部12と上方壁部63と下方壁部64とによって囲まれた内部空間15の中に、スライダブロック65が配置されており、さらに、第1ボール上方転動面63aとボール転動溝65aとで構成される負荷ボール転走路と、第1ボール下方転動面64aとボール転動溝65bとで構成される負荷ボール転走路との内部に、多数の第1ボール61が転動自在な状態で配置される。したがって、多数の第1ボール61による転動動作によって、軌道レール11に対する移動スライダ21の相対的な往復移動が実現する。
【0049】
なお、
図7に示すように、多数の第1ボール61は、樹脂もしくは金属製のリテーナ67によって整列されており、2条の負荷ボール転走路において整列状態での転動動作が可能となっている。
【0050】
図7を参照して、第2の実施形態に係る転動案内装置60では、上述した第1ボール61は、回転中心線61aが前後方向に沿った水平線となるように構成されている。一方、移動スライダ21の下面側に配置される第2ローラ41は、回転中心線41aが上下方向に沿った鉛直線となるように構成されている。つまり、第2の実施形態に係る第2ローラ41は、第1ボール61の回転中心軸61aに対して略直交する方向の回転中心軸41aを有するように構成されている。
【0051】
さらに、第2ローラ41は、軌道レール11を構成する略倒U字形の下方の開放端部64bに接触して転動動作を行うように構成されている。このように、第2の実施形態では、第2ローラ41が軌道レール11を構成する略倒U字形の下方の開放端部64bに接触して転動動作を行うように構成されているので、移動スライダ21に対してローリング方向のMcモーメントが加わった場合にも、第2ローラ41がMcモーメントを適切に受容することができる。つまり、第2の実施形態では、ローリング方向のMcモーメントに対する剛性を向上させることができ、偏った重量が移動スライダ21に加わった場合であっても、適切かつ安定した案内動作を実行できる転動案内装置60を提供することが可能となっている。
【0052】
また、第2の実施形態では、
図8に示すように、第2ローラ41は移動スライダ21の外周からはみ出さないように配置されているので、第2の実施形態に係る転動案内装置60は全体として非常にコンパクトな構成となっている。かかる構成は、設置スペースを極小化できるという効果を発揮することになるので、第2の実施形態に係る転動案内装置60は、利用可能性の範囲が大きいという利点を有している。
【0053】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0054】
例えば、上述した第1の実施形態では、第1転動体としての第1ホイール31と第2転動体としての第2ローラ41が、ホイールやローラとして構成される場合を例示して説明した。しかし、本発明の第1転動体と第2転動体については、上述したホイールやローラに代えて、カムフォロアやローラフォロアを採用することができる。
【0055】
また例えば、上述した第2の実施形態では、第1転動体が第1ボール61であり、第2転動体が第2ローラ41である場合を例示して説明した。しかし、本発明の第1転動体と第2転動体については、ホイール、ローラ、カムフォロア又はローラフォロアのいずれも採用することができ、これらを任意に組み合わせた構成を採用することができる。
【0056】
また例えば、上述した第1の実施形態では、転動案内装置10を家屋に利用される吊り戸の開閉装置100や、鉄道車両に利用される扉体の開閉装置200として用いる場合を例示して説明したが、第2の実施形態に係る転動案内装置60についても、これらの開閉装置100,200に用いることができる。
【0057】
また例えば、上述した第1および第2の実施形態では、第2ローラ41は、軌道レール11を構成する略C字形又は略倒U字形の下方の開放端部14b,64bに接触して転動動作を行うように構成されていた。しかし、本発明の第2転動体である第2ローラ41については、軌道レール11を構成する略C字形又は略倒U字形の上方の開放端部に対して接触するように構成してもよい。
【0058】
また例えば、上述した第1および第2の実施形態では、本発明の第2転動体がローラ(第2ローラ41)である場合が例示されていたが、本発明の第2転動体はボールでもよい。そして、本発明の第2転動体として適用されるボールについては、1個のボールでもよいし、連続する複数のボールでもよいし、循環する複数のボールでもよい。
【0059】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0060】
10 (第1の実施形態とその変形形態例に係る)転動案内装置、11 軌道レール(軌道部材)、12 取付面部、12a 取付孔、13 上方壁部(壁部)、13a 第1ホイール上方転動面(転動体転動面)、14 下方壁部(壁部)、14a 第1ホイール下方転動面(転動体転動面)、14b 下方の開放端部(外方端部)、15 内部空間(空間の内部)、21 移動スライダ(移動部材)、31 第1ホイール(第1転動体)、31a 回転中心線、41 第2ローラ(第2転動体)、41a 回転中心線、51 戸枠(扉枠)、52 吊り戸(扉体)、53 扉体、55 扉枠、60 (第2の実施形態に係る)転動案内装置、61 第1ボール(第1転動体)、61a 回転中心線、63 上方壁部(壁部)、63a 第1ボール上方転動面(転動体転動面)、64 下方壁部(壁部)、64a 第1ボール下方転動面(転動体転動面)、64b 下方の開放端部(外方端部)、65 スライダブロック、65a,65b ボール転動溝、66 取付ブロック、67 リテーナ、P1,P2 接点、L1,L2 (転動方向を示す)線、100,200 開閉装置。