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特開2022-162683Au修飾PtNi系合金ナノ粒子及びその製造方法、並びに、電極触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162683
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】Au修飾PtNi系合金ナノ粒子及びその製造方法、並びに、電極触媒
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20221018BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20221018BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20221018BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20221018BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20221018BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20221018BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20221018BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221018BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20221018BHJP
【FI】
H01M4/86 M ZNM
H01M4/92
H01M4/90 B
H01M4/88
B01J23/89 M
B01J35/02 H
B82Y30/00
B82Y40/00
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067612
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】長井 智幸
(72)【発明者】
【氏名】桑木 聴
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC31A
4G169BC33A
4G169BC33B
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC27
4G169EE01
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB12
5H018BB13
5H018EE03
5H018EE04
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE07
5H018EE08
5H018EE12
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH05
5H018HH10
5H126AA01
5H126BB06
5H126GG05
5H126GG08
5H126HH01
5H126HH08
5H126JJ00
5H126JJ01
5H126JJ05
5H126JJ10
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れた新規なAu修飾PtNi系合金ナノ粒子及びその製造方法、並びに、これを用いた電極触媒を提供すること。
【解決手段】Au修飾PtNi系合金ナノ粒子は、少なくともPtとNiとを含むPtNi系合金からなるPtNi系合金ナノ粒子と、前記PtNi系合金ナノ粒子の表面の一部を被覆するAuとを備えている。前記PtNi系合金ナノ粒子は、八面体又は切頂八面体からなる。電極触媒は、導電性材料からなる担体と、前記担体の表面に担持されたAu修飾PtNi系合金ナノ粒子とを備えている。このようなAu修飾PtNi系合金ナノ粒子は、八面体又は切頂八面体からなるPtNi系合金ナノ粒子が分散している分散液にAu前駆体溶液を加え、所定の温度に加熱することにより得られる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともPtとNiとを含むPtNi系合金からなるPtNi系合金ナノ粒子と、
前記PtNi系合金ナノ粒子の表面の一部を被覆するAuと
を備え、
前記PtNi系合金ナノ粒子は、八面体又は切頂八面体からなる
Au修飾PtNi系合金ナノ粒子。
【請求項2】
前記Auは、少なくとも前記八面体又は前記切頂八面体のエッジ部の全部若しくは一部、及び/又は、切頂部の全部若しくは一部を被覆している請求項1に記載のAu修飾PtNi系合金ナノ粒子。
【請求項3】
前記PtNi系合金ナノ粒子は、次の式(1)で表される組成を有する請求項1に記載のAu修飾PtNi系合金ナノ粒子。
Pt1-(x+y)Nixy …(1)
但し、
0.01≦x、0≦y、x+y≦0.50、
Mは、Cu、Fe、及び、Coからなる群から選ばれるいずれか1以上の金属元素。
【請求項4】
平均粒径が5nm以上10nm以下であり、
Au被覆率が5%以上40%以下である
請求項1から3までのいずれか1項に記載のAu修飾PtNi系合金ナノ粒子。
【請求項5】
比活性(SA)が、前記Auで被覆されていない前記PtNi系合金ナノ粒子の比活性(SA)の1.1倍以上2.0倍以下である請求項1から4までのいずれか1項に記載のAu修飾PtNi系合金ナノ粒子。
【請求項6】
比活性(SA)の劣化速度が、前記Auで被覆されていない前記PtNi系合金ナノ粒子の比活性(SA)の劣化速度の1/2以下である請求項1から5までのいずれか1項に記載のAu修飾PtNi系合金ナノ粒子。
【請求項7】
導電性材料からなる担体と、
前記担体の表面に担持された、請求項1から6までのいずれか1項に記載のAu修飾PtNi系合金ナノ粒子と
を備えた電極触媒。
【請求項8】
前記担体は、カーボンである請求項7に記載の電極触媒。
【請求項9】
Pt前駆体、Ni前駆体、アミン系炭化水素、及び、カルボン酸を第1有機溶媒に溶解又は分散させたPtNi前駆体溶液を調製する第1工程と、
Au含有イオンを第2有機溶媒に溶解又は分散させたAu前駆体溶液を調製する第2工程と、
前記PtNi前駆体溶液をCO共存下で加熱し、PtNi系合金ナノ粒子を得る第3工程と、
前記PtNi系合金ナノ粒子が分散している分散液と前記Au前駆体溶液とを混合し、PtNi-Au前駆体溶液を調製する第4工程と、
前記PtNi-Au前駆体溶液を加熱し、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子を得る第5工程と
を備えたAu修飾PtNi系合金ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記第1工程は、前記第1有機溶媒にさらに、Pt及びNi以外の金属元素Mの前駆体を溶解又は分散させるものからなる請求項9に記載のAu修飾PtNi系合金ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記第1工程は、前記第1有機溶媒にさらにW(CO)6及び/又はMo(CO)6を溶解又は分散させるものからなる請求項9又は10に記載のAu修飾PtNi系合金ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子及びその製造方法、並びに、電極触媒に関し、さらに詳しくは、耐久性に優れたAu修飾PtNi系合金ナノ粒子及びその製造方法、並びに、このようなAu修飾PtNi系合金ナノ粒子を用いた電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極(触媒層)が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。触媒層の外側には、通常、ガス拡散層が配置されている。ガス拡散層の外側には、さらにガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEA、ガス拡散層、及び集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の電極触媒には、通常、担体表面に触媒粒子が担持されたものが用いられる。触媒粒子には、Pt、Pd、Ruなどの貴金属、又はこれらを含む合金が用いられる。電極反応は、触媒粒子の表面において起こるので、担体表面に微細な触媒粒子を高分散に担持させると、貴金属の利用率が向上し、高価な貴金属の使用量の低減が可能になる。そのため、微細な触媒粒子の製造方法及び担持方法に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、薄いPt3Niナノワイヤの表面がAuで修飾された電極触媒が開示されている。
同文献には、
(A)Pt3Niナノワイヤは、市販のPt/Cに比べて酸素還元反応(ORR)活性が高い点、
(B)Pt3Niナノワイヤの表面をAuで修飾すると、耐久性が向上する点(すなわち、Pt3Niの表層の欠陥サイトが減少することによってPt3Niの構造及び組成が安定化し、かつ、Ni原子の溶出が抑制される点)、及び、
(C)このような電極触媒は、質量活性が3.08A/mgPtであり、面積比活性が5.74mA/cm2である点
が記載されている。
【0005】
非特許文献1には、Pt3Niナノワイヤの表面をAuで修飾すると、比活性と耐久性が向上する点が報告されている。
一方、PtNi合金ナノ粒子を合成する場合において、製造条件を最適化すると、八面体又は切頂八面体からなるPtNi合金ナノ粒子が得られる。八面体PtNi合金ナノ粒子は、非常に高い酸素還元活性を有し、固体高分子形燃料電池の空気極触媒として期待されている。しかし、燃料電池の作動環境である高温・高電位条件では、八面体PtNi合金ナノ粒子からPt及びNiが溶出し、その八面体形状を失うことで活性が急激に低下するという問題がある。また、耐久性に優れた八面体PtNi合金ナノ粒子が提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wu, Z., et al., Highly stabel Pt3Ni nanowires tailored with trace Au for the oxygen reduction reaction, Journal of Materials Chemistry A, 2019, 7(46); p.26402-26409
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、耐久性に優れた新規なAu修飾PtNi系合金ナノ粒子及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このようなAu修飾PtNi系合金ナノ粒子を用いた電極触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るAu修飾PtNi系合金ナノ粒子は、
少なくともPtとNiとを含むPtNi系合金からなるPtNi系合金ナノ粒子と、
前記PtNi系合金ナノ粒子の表面の一部を被覆するAuと
を備え、
前記PtNi系合金ナノ粒子は、八面体又は切頂八面体からなる。
【0009】
本発明に係る電極触媒は、
導電性材料からなる担体と、
前記担体の表面に担持された、本発明に係るAu修飾PtNi系合金ナノ粒子と
を備えている。
【0010】
さらに、本発明に係るAu修飾PtNi系合金ナノ粒子の製造方法は、
Pt前駆体、Ni前駆体、アミン系炭化水素、及び、カルボン酸を第1有機溶媒に溶解又は分散させたPtNi前駆体溶液を調製する第1工程と、
Au含有イオンを第2有機溶媒に溶解又は分散させたAu前駆体溶液を調製する第2工程と、
前記PtNi前駆体溶液をCO共存下で加熱し、PtNi系合金ナノ粒子を得る第3工程と、
前記PtNi系合金ナノ粒子が分散している分散液と前記Au前駆体溶液とを混合し、PtNi-Au前駆体溶液を調製する第4工程と、
前記PtNi-Au前駆体溶液を加熱し、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子を得る第5工程と
を備えている。
【発明の効果】
【0011】
八面体又は切頂八面体からなるPtNi系合金ナノ粒子は、非常に高い酸素還元活性を示す。しかし、PtNi系合金ナノ粒子からPt及びNiが溶出し、八面体形状又は切頂八面体形状が失われると、活性が急激に低下する。
【0012】
これに対し、八面体又は切頂八面体からなるPtNi系合金ナノ粒子を製造し、次いで、その表面をAuで修飾すると、酸化・溶出しやすいエッジ部や切頂部(表面エネルギーが高く、不安定な部分)が優先的にAuで覆われる。Auは、耐溶解性が高いので、Auで覆われた部分の溶解が抑制され、耐久性が向上する。また、エッジ部のような酸化・溶出しやすいサイトは、燃料電池の主な作動条件下では酸化され、反応サイトとして働かない。そのため、その部分をAuで修飾しても活性は低下せず、むしろ、表面酸化の起点が少なくなり、PtNi系合金ナノ粒子の酸化が抑制されることで活性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】フローリアクターの模式図である。
図2図2(A)は、比較例1で得られたoct-PtNi/CのSTEM像である。図2(B)は、実施例1で得られたoct-PtNi@Au/C(4at%)のSTEM像である。図2(C)は、実施例2で得られたoct-PtNi@Au/C(8at%)のSTEM像である。
図3】実施例1~2及び比較例1で得られた触媒の加速耐久試験中の電気化学表面積(ECSA)の変化である。
図4】実施例1~2及び比較例1で得られた触媒の加速耐久試験中の面積活性(SA)の変化である。
図5】実施例1~2及び比較例1で得られた触媒の加速耐久試験中の質量活性(MA)の変化である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. Au修飾PtNi系合金ナノ粒子]
本発明に係るAu修飾PtNi系合金ナノ粒子は、
少なくともPtとNiとを含むPtNi系合金からなるPtNi系合金ナノ粒子と、
前記PtNi系合金ナノ粒子の表面の一部を被覆するAuと
を備えている。
【0015】
[1.1. PtNi系合金ナノ粒子]
[1.1.1. 形状]
本発明において、PtNi系合金ナノ粒子は、八面体又は切頂八面体からなる。八面体又は切頂八面体からなるPtNi系合金ナノ粒子は、非常に高い酸素還元活性を示す。しかし、八面体又は切頂八面体からなるPtNi系合金ナノ粒子は、エッジ部や切頂部が酸化されやすく、エッジ部や切頂部からPtやNiが溶出しやすいという問題がある。
本発明においては、この問題を解決するために、PtNi系合金ナノ粒子の表面をAuで修飾している。この点が従来とは異なる。Au修飾の詳細については、後述する。
【0016】
[1.1.2. 組成]
「PtNi系合金ナノ粒子」とは、少なくともPtとNiとを含む合金からなる粒子をいう。PtNi系合金ナノ粒子は、Pt及びNiのみからなるものでも良く、あるいは、Pt及びNi以外の金属元素Mをさらに含むものでも良い。
PtNi系合金ナノ粒子の組成は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な組成を選択することができる。特に、PtNi系合金ナノ粒子は、次の式(1)で表される組成を有するものが好ましい。
【0017】
Pt1-(x+y)Nixy …(1)
但し、
0.01≦x、0≦y、x+y≦0.50、
Mは、Cu、Fe、及び、Coからなる群から選ばれるいずれか1以上の金属元素。
【0018】
式(1)中、xは、Pt、Ni、及び金属元素Mの総原子数に対するNiの原子数の比率を表す。Niは、PtNi系合金ナノ粒子の活性を高める作用だけでなく、PtNi系合金ナノ粒子の形状を制御する作用もある。Niの含有量が少なくなりすぎると、八面体又は切頂八面体からなるPtNi系合金ナノ粒子は得られない。従って、xは、0.01以上が好ましい。xは、さらに好ましくは、0.2以上である。
【0019】
式(1)中、yは、Pt、Ni、及び金属元素Mの総原子数に対する金属元素Mの原子数の比率を表す。yは、ゼロでも良い。しかしながら、金属元素Mをさらに含む場合には、活性及び耐久性がさらに向上する場合がある。このような効果を得るためには、yは、0.05以上が好ましい。
【0020】
式(1)中、x+yは、Pt、Ni、及び金属元素Mの総原子数に対するNi及び金属元素Mの総原子数の比率を表す。x+yが大きくなりすぎると、Ni及び金属元素Mの溶出量が多くなり、劣化が加速される場合がある。従って、x+yは、0.50以下が好ましい。x+yは、さらに好ましくは、0.3以下である。
【0021】
金属元素Mは、Cu、Fe、又は、Coが好ましい。これは、これらの金属がPtNiと固溶しやすく、活性及び耐久性向上効果を有するためである。PtNi系合金ナノ粒子は、これらの金属元素Mのいずれか1種を含んでいても良く、あるいは、2種以上を含んでいても良い。
【0022】
[1.2. Au被覆]
[1.2.1. 被覆箇所]
PtNi系合金ナノ粒子の表面は、Auで被覆されている。
上述したように、八面体又は切頂八面体からなるPtNi系合金ナノ粒子は、非常に高い酸素還元活性を示すが、PtやNiが溶出しやすい。一方、Auは、固体高分子形燃料電池のような強酸性環境下においても溶出しにくい。そのため、PtNi系合金ナノ粒子の表面の一部をAuで被覆すると、PtNi系合金ナノ粒子の耐酸化性が向上する。
【0023】
特に、八面体又は切頂八面体のエッジ部や切頂部は、表面エネルギーが高く、不安定な部分である。そのため、八面体又は切頂八面体からなるPtNi系合金ナノ粒子が強酸性環境に曝されると、エッジ部や切頂部からPtやNiが溶出しやすい。PtやNiが溶出すると、八面体形状又は切頂八面体形状が失われ、活性が急激に低下する。
これに対し、少なくとも八面体又は切頂八面体のエッジ部の全部若しくは一部、及び/又は、切頂面の全部若しくは一部がAuで被覆されていると、PtやNiの溶出に起因する活性の低下を抑制することができる。
【0024】
[1.2.2. Au被覆率]
「Au被覆率(%)」とは、PtNi系合金ナノ粒子の表面積(S0)に対する、Auで被覆されている領域の面積(S)の割合(=S×100/S0)をいう。
Au被覆率が小さくなりすぎると、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子が酸化しやすくなる。従って、Au被覆率は、5%以上が好ましい。Au被覆率は、さらに好ましくは、10%以上である。
一方、Au被覆率が大きくなりすぎると、粒子表面に存在するPt原子の数が少なくなるために、かえって活性が低下する。従って、Au被覆率は、40%以下が好ましい。Au被覆率は、さらに好ましくは、25%以下である。
【0025】
エッジ部は、溶出しやすく、かつ、反応時は酸化されて触媒として働かない。そのため、Au被覆率は、少なくともエッジ部を覆える値以上が好ましい。
八面体又は切頂八面体からなるPtNi系合金ナノ粒子において、エッジ部の割合は、粒径により異なる。例えば、粒径が5~10nmの八面体粒子は、エッジ部の割合がおよそ10~25%である。この場合、Au被覆率を5~40%とすると、エッジ部の大半をAuで被覆することができる。
【0026】
[1.2.3. Au修飾量]
「Au修飾量」とは、PtNi系合金ナノ粒子に含まれる金属元素の総原子数に対するAuの原子数の割合をいう。
Au修飾量は、PtNi系合金ナノ粒子の粒径と、Au被覆率に依存する。PtNi系合金ナノ粒子の粒径及びAu被覆率を最適化すると、Au修飾量は、0.5at%~10.0at%程度となる。
【0027】
[1.3. 特性]
[1.3.1. Au修飾PtNi系合金ナノ粒子の平均粒径]
「粒径」とは、粒子の投影断面積と同等の面積を有する真円の直径をいう。
「平均粒径」とは、無作為に選んだ300個以上のPtNi系合金ナノ粒子の粒径の平均値をいう。
なお、後述する方法を用いると、PtNi系合金ナノ粒子の表面に、単原子層~数原子層程度のAu層が形成される。そのため、Au修飾前後において、平均粒径はほとんど変化しない。すなわち、「Au修飾PtNi系合金ナノ粒子の平均粒径」は、Au修飾前の「PtNi系合金ナノ粒子の平均粒径」とほぼ同義である。
【0028】
本発明において、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。一般に、平均粒径が小さくなりすぎると、表面エネルギーが高くなり、溶出が加速する場合がある。従って、平均粒径は、5nm以上が好ましい。
一方、平均粒径が大きくなりすぎると、触媒表面積が小さくなり、活性が低下する場合がある。従って、平均粒径は、10nm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、7nm以下である。
【0029】
[1.3.2. 比活性(SA)]
PtNi系合金ナノ粒子の表面の一部をAuで被覆すると、Au被覆前に比べて比活性(SA)が向上する。後述する方法を用いてAu修飾PtNi系合金ナノ粒子を製造する場合において、製造条件を最適化すると、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子の比活性(SA)は、Auで修飾されていないPtNi系合金ナノ粒子の比活性(SA)の1.1倍以上2.0倍以下となる。製造条件をさらに最適化すると、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子の比活性は、Auで修飾されていないPtNi系合金ナノ粒子のそれの1.5倍以上、あるいは、2.0倍以上となる。
【0030】
[1.3.3. 比活性(SA)の劣化速度]
「比活性(SA)の劣化速度」とは、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子に対して、可逆水素電極電位に対し、1.0V(3s)-0.4V(3s)の矩形波からなる電位サイクルを与えた時に、SAが基準値以下となるのに要するサイクル数をいう。
「基準値」とは、Ptのバルク電極(多結晶Ptディスク)が示す比活性(20A/m2)をいう。
【0031】
PtNi系合金ナノ粒子のエッジ部及び/又は切頂部をAuで被覆すると、SAの劣化速度が低下する。後述する方法を用いてAu修飾PtNi系合金ナノ粒子を製造する場合において、製造条件を最適化すると、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子の比活性(SA)の劣化速度は、Auで被覆されていないPtNi系合金ナノ粒子の比活性(SA)の劣化速度の1/2以下となる。製造条件をさらに最適化すると、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子の比活性の劣化速度は、Auで被覆されていないPtNi系合金ナノ粒子のそれの1/4以下、あるいは、1/8以下となる。
【0032】
[2. 電極触媒]
本発明に係る電極触媒は、
導電性材料からなる担体と、
前記担体の表面に担持された、本発明に係るAu修飾PtNi系合金ナノ粒子と
を備えている。
【0033】
[2.1. 担体]
担体は、導電性材料からなる。担体の材料は、導電性を示し、かつ、燃料電池作動環境下において使用可能なものである限りにおいて、特に限定されない。
担体の材料としては、例えば、
(a)カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ガラス状炭素粉末などのカーボン、
(b)SnO2、TiOxなどの導電性酸化物、
などがある。
特に、担体は、カーボンが好ましい。これは、導電性が高く、比表面積も大きいためである。
【0034】
[2.2. Au修飾PtNi系合金ナノ粒子]
[2.2.1. 材料]
担体の表面には、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子が担持されている。Au修飾PtNi系合金ナノ粒子の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0035】
[2.2.2. 担持量]
Au修飾PtNi系合金ナノ粒子の担持量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な担持量を選択することができる。一般に、電極触媒を用いて触媒層を作製する場合において、担持量が少なくなるほど、電極触媒の目付量を一定値以上にするためには触媒層を厚くする必要がある。その結果、酸素の拡散抵抗が増大し、発電性能が低下する場合がある。従って、担持量は、20mass%以上が好ましい。担持量は、さらに好ましくは、30mass%以上、さらに好ましくは、40mass%以上である。
一方、担持量が過剰になると、ナノ粒子が凝集し、触媒表面を有効に利用できなくなる場合がある。従って、担持量は、50mass%以下が好ましい。
【0036】
[3. Au修飾PtNi系合金ナノ粒子の製造方法]
本発明に係るAu修飾PtNi系合金ナノ粒子の製造方法は、
Pt前駆体、Ni前駆体、アミン系炭化水素、及び、カルボン酸を第1有機溶媒に溶解又は分散させたPtNi前駆体溶液を調製する第1工程と、
Au含有イオンを第2有機溶媒に溶解又は分散させたAu前駆体溶液を調製する第2工程と、
前記PtNi前駆体溶液をCO共存下で加熱し、PtNi系合金ナノ粒子を得る第3工程と、
前記PtNi系合金ナノ粒子が分散している分散液と前記Au前駆体溶液とを混合し、PtNi-Au前駆体溶液を調製する第4工程と、
前記PtNi-Au前駆体溶液を加熱し、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子を得る第5工程と
を備えている。
【0037】
[3.1. 第1工程]
まず、Pt前駆体、Ni前駆体、アミン系炭化水素、及び、カルボン酸を第1有機溶媒に溶解又は分散させたPtNi前駆体溶液を調製する(第1工程)。
第1工程は、第1有機溶媒にさらに、Pt及びNi以外の金属元素Mの前駆体を溶解又は分散させるものでも良い。
また、第1工程は、第1有機溶媒にさらに、W(CO)6及び/又はMo(CO)6を溶解又は分散させるものでも良い。
【0038】
[3.1.1. 成分]
Pt前駆体は、PtNi系合金ナノ粒子の主原料である。Pt前駆体の種類は、ナノ粒子を合成可能なものである限りにおいて、特に限定されない。Pt前駆体としては、例えば、白金(II)アセチルアセトナート(Pt(acac)2)、塩化白金酸(H2PtCl6)、テトラアンミン白金クロリド(Pt(NH3)4Cl2)、塩化白金酸カリウム(K2PtCl4)などがある。
【0039】
Ni前駆体は、PtNi系合金ナノ粒子のもう一つの主原料である。Ni前駆体の種類は、ナノ粒子を合成可能なものである限りにおいて、特に限定されない。Ni前駆体としては、例えば、Ni(II)アセチルアセトナート(Ni(acac)2)、塩化ニッケル(NiCl2)、酢酸ニッケル(Ni(CH3COO)2)、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2)などがある。
【0040】
「アミン系炭化水素」とは、炭化水素鎖にアミノ基(-NH2)が結合している有機化合物をいう。
アミン系炭化水素は、
(a)Pt前駆体を還元するための還元剤、及び、
(b)PtNi系合金ナノ粒子のPtに吸着し、ナノ粒子の凝集を防ぐ凝集防止剤
として機能する。
アミン系炭化水素は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。アミン系炭化水素としては、例えば、オレイルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミンなどがある。
【0041】
「カルボン酸」とは、炭化水素鎖にカルボキシル基が結合している有機化合物をいう。
カルボン酸は、PtNi系合金ナノ粒子のNiに吸着し、ナノ粒子の凝集を防ぐ凝集防止剤として機能する。
カルボン酸は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。カルボン酸としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸などがある。
【0042】
第1有機溶媒は、原料を溶解又は分散させるためのものである。
第1有機溶媒は、原料を溶解又は分散させることが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。第1有機溶媒としては、例えば、トルエン、ジベンジルエーテル、オクタデセンなどがある。
【0043】
Pt及びNi以外の金属元素Mを含むPtNi系合金ナノ粒子を合成する場合、第1有機溶媒にさらに金属元素Mの前駆体を溶解又は分散させる。
金属元素Mの前駆体は、第1有機溶媒に溶解又は分散させることが可能であり、かつ、PtNi前駆体溶液中において還元されることが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。
金属元素Mの前駆体としては、例えば、
(a)Cuアセチルアセトナート(Cu(CH3COO)2)などのCu前駆体、
(b)Feアセチルアセトナート(Fe(CH3COO)2)、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO)5)などのFe前駆体、
(c)Coアセチルアセトナート(Co(CH3COO)2)、オクタカルボニルコバルト(Co(CO)6)などのCo前駆体
などがある。
【0044】
第1有機溶媒には、さらにW(CO)6及び/又はMo(CO)6を溶解又は分散させても良い。W(CO)6及びMo(CO)6は、ナノ粒子の形態を制御するために必要な成分である。PtNi前駆体溶液にW(CO)6及び/又はMo(CO)6を添加すると、W(CO)6又Mo(CO)6からCOが放出される。放出されたCOは、成長途中のナノ粒子の表面において吸着・脱離を繰り返す。その結果、ナノ粒子の形態が制御されると考えられる。
なお、このような形態制御は、PtNi前駆体溶液中にCOガスをバブリングすることにより行うこともできる。そのような場合には、W(CO)6及び/又はMo(CO)6の使用を省略することができる。
【0045】
[3.1.2. 濃度]
PtNi前駆体溶液に含まれる各成分の濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。
【0046】
一般に、Pt前駆体の濃度が低すぎると、一定量以上のナノ粒子を得るためには、多量の溶媒量が必要となる。従って、Pt前駆体の濃度は、0.5mmol/L以上が好ましい。Pt前駆体の濃度は、さらに好ましくは、2.0mmol/L以上である。
一方、Pt前駆体の濃度が過剰になると、生成したナノ粒子が凝集する場合がある。従って、Pt前駆体の濃度は、15.0mmol/L以下が好ましい。
【0047】
一般に、Ni前駆体の濃度が低すぎると、多量の溶媒が必要となる。従って、Ni前駆体の濃度は、0.5mmol/L以上が好ましい。Ni前駆体の濃度は、さらに好ましくは、2.0mmol/L以上である。
一方、Ni前駆体の濃度が過剰になると、Ni単体粒子が生成する場合がある。従って、Ni前駆体の濃度は、15.0mmol/L以下が好ましい。
【0048】
一般に、アミン系炭化水素の濃度が低すぎると、ナノ粒子が凝集する場合がある。従って、アミン系炭化水素の濃度は、0.1mol/L以上が好ましい。アミン系炭化水素の濃度は、さらに好ましくは、0.33mol/L以上である。
一方、アミン系炭化水素の濃度が過剰になると、八面体粒子のサイズが大きくなり、触媒表面積が減少する場合がある。従って、アミン系炭化水素の濃度は、2.0mol/L以下)が好ましい。アミン系炭化水素の濃度は、さらに好ましくは、1.0mol/L以下である。
【0049】
一般に、カルボン酸の濃度が低すぎると、Niの還元収率(反応率)が低下する場合がある。従って、カルボン酸の濃度は、0.01mol/L以上が好ましい。カルボン酸の濃度は、さらに好ましくは、0.03mol/L以上である。
一方、カルボン酸の濃度が過剰になると、Pt前駆体と錯を形成し、反応メカニズムが変わることで八面体ナノ粒子が形成されない可能性がある。従って、カルボン酸の濃度は、0.17mol/L以下が好ましい。カルボン酸の濃度は、さらに好ましくは、0.1mol/L以下である。
【0050】
原料中に金属元素Mの前駆体を添加する場合において、金属元素Mの前駆体の濃度が低すぎると、金属元素Mの前駆体が反応せず、あるいは、多量の溶媒量が必要となる。従って、金属元素Mの前駆体の濃度は、0.05mmol/L以上が好ましい。金属元素Mの前駆体の濃度は、さらに好ましくは、0.2mmol/L以上である。
一方、金属元素Mの前駆体の濃度が過剰になると、金属元素Mの単体粒子が生成する場合がある。従って、金属元素Mの前駆体の濃度は、1.5mmol/L以下が好ましい。
【0051】
原料中に、W(CO)6及び/又はMo(CO)6(以下、これらを総称して「ヘキサカルボニル化合物」ともいう)を添加する場合において、ヘキサカルボニル化合物の濃度が低すぎると、八面体ナノ粒子が形成されにくくなる。従って、ヘキサカルボニル化合物の濃度は、1.0mmol/L以上が好ましい。ヘキサカルボニル化合物の濃度は、さらに好ましくは、5.0mmol/L以上である。
一方、ヘキサカルボニル化合物の濃度が過剰になると、ヘキサカルボニル化合物が溶解しにくくなる。従って、ヘキサカルボニル化合物の濃度は、20.0mmol/L以下が好ましい。ヘキサカルボニル化合物の濃度は、さらに好ましくは、15.0mmol/L以下である。
【0052】
[3.2. 第2工程]
次に、Au含有イオンを第2有機溶媒に溶解又は分散させたAu前駆体溶液を調製する(第2工程)。
Au前駆体溶液は、具体的には、
(a)Au含有イオンを含むAu前駆体を溶解させた水溶液を調製し、
(b)相関移動触媒を第2有機溶媒に溶解させた有機溶液を調製し、
(c)水溶液と有機溶液とを混合し、混合液を激しく攪拌することにより、Au含有イオンを水相から有機相に相間移動させ、
(d)水相を捨てる
ことにより製造するのが好ましい。
【0053】
[3.2.1. 成分]
Au前駆体は、Au前駆体溶液を製造可能なものである限りにおいて、特に限定されない。Au前駆体としては、例えば、HAuCl4、KAuBr4、Na3[Au(SO3)2](亜硫酸金)などがある。
相関移動触媒は、Au含有イオンを水相から有機相へ相間移動させることが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。相間移動触媒としては、例えば、テトラオクチルアンモニウムブロマイド(TOAB)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)などがある。
第2有機溶媒は、相関移動触媒を溶解又は分散させることが可能であり、かつ、水と相溶しないものである限りにおいて、特に限定されない。第2有機溶媒としては、例えば、トルエン、ジベンジルエーテル、オクタデセンなどがある。
【0054】
[3.2.2. 含有量]
Au前駆体溶液に含まれるAu含有イオンの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。
また、Au含有イオンを含む水溶液と、相関移動触媒を含む有機溶液を混合することによりAu前駆体溶液を調製する場合、水溶液及び有機溶液の組成は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な組成を選択することができる。
【0055】
例えば、Au含有イオンを含む水溶液を調製する場合において、Au含有イオンの含有量が少なすぎると、多量の溶媒量が必要となる。従って、Au含有イオンの含有量は、5.0mmol/L以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、25.0mmol/L以上である。
一方、Au含有イオンの含有量が過剰になると、Au前駆体が溶解しにくくなる。従って、Au含有イオンの含有量は、50.0mmol/L以下が好ましい。
【0056】
また、相関移動触媒を含む有機溶液を調製する場合において、相関移動触媒の含有量が少なすぎると、すべてのAuが有機相に移動しない場合がある。従って、相関移動触媒の含有量は、0.25mol/L以上が好ましい。
一方、相関移動触媒の含有量が過剰になると、相関移動触媒が溶媒に溶解しにくくなる。従って、相関移動触媒の含有量は、0.5mol/L以下が好ましい。
【0057】
[3.3. 第3工程]
次に、PtNi前駆体溶液をCO共存下で加熱する(第3工程)。これにより、PtNi系合金ナノ粒子が得られる。
【0058】
PtNi前駆体溶液から八面体又は切頂八面体からなるPtNi系合金ナノ粒子を合成するためには、PtNi前駆体溶液をCO共存下で加熱する必要がある。
上述した様に、CO共存下で加熱する方法としては、
(a)PtNi前駆体溶液にヘキサカルボニル化合物を添加する方法、
(b)PtNi前駆体溶液にCOガスをバブリングする方法
などがある。
本発明においては、いずれの方法を用いても良い。
【0059】
加熱温度は、PtNi系合金ナノ粒子を合成可能な限りにおいて、特に限定されない。一般に、加熱温度が低すぎると、前駆体が反応しにくくなる。従って、加熱温度は、190℃以上が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、230℃以上である。
一方、加熱温度が高すぎると、ヘキサカルボニル化合物が過剰に分解し、分解生成物が触媒を被毒する場合がある。従って、加熱温度は、270℃以下が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、250℃以下である。
【0060】
[3.4. 第4工程]
次に、PtNi系合金ナノ粒子が分散している分散液とAu前駆体溶液とを混合し、PtNi-Au前駆体溶液を調製する(第4工程)。
分散液とAu前駆体溶液の混合比は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な混合比を選択することができる。
【0061】
[3.5. 第5工程]
次に、PtNi-Au前駆体溶液を加熱する(第5工程)。これにより、PtNi系合金ナノ粒子のエッジ部及び切頂部にAuが優先的に析出し、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子が得られる。
【0062】
加熱温度は、Au修飾PtNi系合金ナノ粒子を製造可能な限りにおいて、特に限定されない。一般に、加熱温度が低すぎると、Au前駆体が反応しにくくなる。従って、加熱温度は、190℃以上が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、230℃以上である。
一方、加熱温度が高すぎると、ヘキサカルボニル化合物が過剰に分解し、分解生成物が触媒を被毒する場合がある。従って、加熱温度は、270℃以下が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、250℃以下である。
【0063】
[4. 作用]
八面体又は切頂八面体からなるPtNi系合金ナノ粒子は、非常に高い酸素還元活性を示す。しかし、PtNi系合金ナノ粒子からPt及びNiが溶出し、八面体形状又は切頂八面体形状が失われると、活性が急激に低下する。
【0064】
これに対し、八面体又は切頂八面体からなるPtNi系合金ナノ粒子を製造し、次いで、その表面をAuで修飾すると、酸化・溶出しやすいエッジ部や切頂部(表面エネルギーが高く、不安定な部分)が優先的にAuで覆われる。Auは、耐溶解性が高いので、Auで覆われた部分の溶解が抑制され、耐久性が向上する。また、エッジ部のような酸化・溶出しやすいサイトは、燃料電池の主な作動条件下では酸化され、反応サイトとして働かない。そのため、その部分をAuで修飾しても活性は低下せず、むしろ、表面酸化の起点が少なくなり、PtNi系合金ナノ粒子の酸化が抑制されることで活性が向上する。
【実施例0065】
(実施例1~2、比較例1)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1~2]
[1.1.1. Au修飾PtNi合金からなる八面体ナノ粒子の合成]
まず、20mMの塩化白金酸(HAuCl4)水溶液と、0.1Mのテトラオクチルアンモニウムブロマイド(TOAB)トルエン溶液とを激しく混合することで、TOABの相間移動触媒作用でAuイオンをトルエン相に移した。その後、水相を捨て、トルエン相の水分をモレキュラーシーブスで除去し、Au前駆体溶液を得た。
【0066】
また、トルエンを溶媒として、これに6mMのPt(acac)2、6mMのNi(acac)2、0.2Mのオレイルアミン、0.02Mのオレイン酸、及び、0.01MのW(CO)6を加え、PtNi前駆体溶液を得た。
【0067】
次に、フローリアクターを用いてAu修飾PtNi合金からなる八面体ナノ粒子を合成した。図1に、フローリアクターの模式図を示す。まず、第1ポンプを用いて、PtNi前駆体溶液をプレヒータ(内径:1.0mm、長さ:10mのSUS製チューブリアクタ)に供給した。PtNi前駆体溶液の送液速度は、1mL/minとした。PtNi前駆体溶液を230℃に加熱されたSUS製チューブリアクタに約16分間かけて通すことで、PtNi合金からなる八面体ナノ粒子を合成した。
【0068】
次に、第2ポンプ用いて、Au前駆体溶液をミキサに供給し、八面体ナノ粒子を含む分散液と混合し、混合液をリアクタ(内径:1.0mm、長さ:20mのSUS製チューブリアクタ)に供給した。Au前駆体溶液の送液速度は、1mL/minとした。また、Au前駆体溶液の送液量は、Au修飾量が4at%(実施例1)、又は、8at%(実施例2)となる量とした。混合液を230℃に加熱されたSUS製チューブリアクタに約8分間かけて通すことで、PtNi合金からなる八面体ナノ粒子をAuで修飾した。
【0069】
Au修飾PtNi合金からなる八面体ナノ粒子が分散している分散液は、リアクタから排出された後、熱交換器により40℃まで冷却され、背圧弁を介して取り出された。
さらに、得られた八面体ナノ粒子分散液に2-プロパノールを加え、遠心分離器で八面体ナノ粒子を沈殿させ(6000×G、5分)、上澄みを除去した。その後、八面体ナノ粒子をヘキサンに再分散させた。
【0070】
[1.1.2. 電極触媒の作製]
Au修飾PtNi合金からなる八面体ナノ粒子のヘキサン分散液と、カーボン担体(Vulcan(登録商標)、TKK)のヘキサン分散液とを混合し、氷浴中で超音波処理を60分間行うことで、カーボン担体表面にAu修飾PtNi合金八面体ナノ粒子が担持された電極触媒(以下、「oct-PtNi@Au/C」ともいう)を得た。そして、遠心分離(3000×G、1分)と、ヘキサンへの超音波分散(1分)とを5回以上繰り返すことで、oct-PtNi@Au/Cを洗浄した。
最後に、oct-PtNi@Au/Cを吸引ろ過で回収し、シリカゲル存在下、室温で4時間以上真空乾燥させた。
【0071】
[1.2. 比較例1]
Au前駆体溶液に代えて、トルエンを用いた以外は、実施例1と同様にして、PtNi八面体ナノ粒子担持カーボン(以下、「oct-PtNi/C」ともいう)を得た。
【0072】
[2. 試験方法]
[2.1. 走査型透過電子顕微鏡(STEM)観察]
得られた電極触媒を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察した。
【0073】
[2.1. 加速耐久試験]
回転ディスク電極(RDE)を用いて、電極触媒の加速耐久試験を行った。セルには、三極式電気化学セルを用いた。電解液には0.1M 過塩素酸(HClO4)を用いた。作用極には、電極触媒を塗布したグラッシーカーボン電極を用いた。参照極及び対極には、それぞれ、可逆水素電極(RHE)及びPt線を用いた。
【0074】
初めに、電極触媒の活性化処理として、酸素飽和させた電解液中で作用極を400rpmで回転させながら、酸素還元電流の波形が変化しなくなるまで電位サイクルを繰り返した(0.05V-1.05V、100mV/s、約10サイクル)。
次に、加速耐久試験の負荷変動として、1.0V(3s)-0.4V(3s)の矩形波の電位サイクルを作用極に加えた。
【0075】
[3. 結果]
[3.1. STEM観察]
図2(A)に、比較例1で得られたoct-PtNi/CのSTEM像を示す。図2(B)に、実施例1で得られたoct-PtNi@Au/C(4at%)のSTEM像を示す。図2(C)に、実施例2で得られたoct-PtNi@Au/C(8at%)のSTEM像を示す。いずれのナノ粒子も大部分が八面体形状をしており、Au修飾前後で明確な形状の違いは見られなかった。X線回折パターンでもAu単体に由来するピークがなく、STEM像にもAu粒子が観察されなかったことから、Auは、八面体ナノ粒子の表面を部分的に覆っていると考えられる。
【0076】
[3.2. 加速耐久試験]
図3に、実施例1~2及び比較例1で得られた触媒の加速耐久試験中の電気化学表面積(ECSA)の変化を示す。まず、ECSAに注目する。初期のECSAは、Au修飾量が多くなるほど低くなった。ECSA減少量から求めたAu被覆率は、Au修飾量が4at%の時は25%、Au修飾量が8at%の時は35%であった。ECSAは、耐久試験初期に少し増加し、それ以降はほぼ一定となった。
【0077】
図4に、実施例1~2及び比較例1で得られた触媒の加速耐久試験中の面積活性(SA)の変化を示す。次に、SAに注目する。Au修飾量が多いほど、初期のSAが高くなった(比較例1の1.8倍~2.3倍)。また、実施例1~2及び比較例1のいずれも、電位サイクルによりSAは低下した。しかし、Au修飾量が多いほど、SAがある閾値に低下するまでのサイクル数が多くなった。例えば、実施例1~2の場合、SAが20A/m2以下になるまでに要するサイクル数は、比較例1のそれの2倍以上となった。すなわち、Au修飾により、八面体ナノ粒子は、より長期間、高い活性を示すことが分かった。
【0078】
図5に、実施例1~2及び比較例1で得られた触媒の加速耐久試験中の質量活性(MA)の変化を示す。MAは、ECSAとSAとの積であり、かつ、ECSAよりSAの変化の方が大きいため、MAはSAと同様の挙動を示した。
【0079】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係るAu修飾PtNi系合金ナノ粒子は、自動車用動力源、定置型小型発電機等に用いられる固体高分子形燃料電池の空気極及び/又は燃料極の電極触媒として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5