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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162707
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/10 20210101AFI20221018BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20221018BHJP
   H01S 5/20 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01S5/10
H01S5/323
H01S5/20
H01S5/323 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067669
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】川中 敏
(72)【発明者】
【氏名】萩元 将人
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 晃彦
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA35
5F173AA41
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC23
5F173AC35
5F173AC42
5F173AC52
5F173AD06
5F173AF02
5F173AF03
5F173AF13
5F173AF22
5F173AF32
5F173AF42
5F173AF52
5F173AG05
5F173AG12
5F173AH08
5F173AH22
5F173AP33
5F173AP45
5F173AQ10
5F173AR07
(57)【要約】
【課題】半導体発光素子の発熱を低減し、スロープ効率を向上させる。
【解決手段】一態様に係る半導体発光素子によれば、傾斜角が異なる傾斜面を有する半導体基板と、前記傾斜面上に積層され、前記傾斜角に応じた波長のレーザ光を放射する複数の発光層とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜角が異なる傾斜面を有する半導体基板と、
前記傾斜面上に積層され、前記傾斜角に応じた波長のレーザ光を放射する複数の発光層とを備えることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記半導体基板の元素が自然超格子を構成しやすい結晶面を基準面として前記傾斜面が設けられることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記傾斜面は、前記半導体基板の特定の結晶面でない成長面を含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記基準面は、前記半導体基板の裏面に対して水平に設定され、
前記傾斜面の傾斜角の平均値は、前記半導体基板に対する前記基準面の傾斜角に等しいことを特徴とする請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記半導体基板に形成された曲面の接線の傾きが異なる位置に複数の発光層が積層されることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記半導体基板に形成されたリッジストライプ構造を備え、
前記傾斜面は、前記半導体基板に対し、前記リッジストライプ構造に沿って一定の角度で延在するとともに、前記リッジストライプ構造と直交する方向に傾斜することを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記リッジストライプ構造上に高さが揃うようにして設けられた電極を備えることを特徴とする請求項6に記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記半導体基板はGaAs基板であり、
前記発光層に含まれる活性層は、AlGaInP結晶層またはGaInAsP結晶層(AlもしくはAs組成がゼロの場合も含む)のいずれか少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記半導体基板はGaN基板であり、
前記発光層に含まれる活性層は、InGaN結晶層またはAlGaInN結晶層のいずれか少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記半導体基板は、異種材料の半導体または誘電体から構成される支持基板上に形成され、
前記半導体基板は、前記発光層と同種材料から構成されることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項11】
前記レーザ光は、同じ色領域の範囲内で異なる波長を有していることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体レーザを用いたプロジェクタなどのディスプレイ装置の市場が拡大している。
また、近年、様々な分野において、拡張現実(AR:Augmented Reality)、仮想現実(VR:Virtual Reality)、複合現実(MR:Mixed Reality)および代替現実(SR:Substitutional Reality)などのリアリティ化技術が実用化され、これらの技術を用いたヘッドマウントディスプレイ(HMD:Head Mount Display)、ヘッドアップディスプレイ(Head-up Display)およびARグラス等のディスプレイ装置が商品化されている。
【0003】
例えば、ヘッドマウントディスプレイでは、光源にRGB(赤色・緑色・青色)の3色のレーザ光を用い、画像表示用の空間変調素子であるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)により画像を作成し、導波路(waveguide)を通して網膜等に投影する技術が知られている。このMEMSを用いたシステムは、画像の広色域化、高解像度化および広視野角化を図ることができ、RGBの各色において複数の半導体レーザを用いたマルチビーム化が図られている。
【0004】
特許文献1には、同一素子内で複数の波長のレーザを発振可能な多波長半導体レーザが開示されている。特許文献1の技術では、AlGaAs系の量子井戸レーザにおいて、第1と第2の量子井戸活性層の井戸幅(物理的膜厚)を異ならせることで、多波長化が図られている。
【0005】
また、特許文献2には、CD用レーザダイオード(発光波長780nm)とDVD用レーザダイオードLD2(発光波長650nm)を1チップ上に搭載するモノリシックレーザダイオードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05-082894号公報
【特許文献2】特開2009-016881号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】応用物理学会学会誌応用物理1992年第61巻第8号PP806-PP812、「化合物半導体自然超格子構造の電子状態」、吉田 博
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体レーザをディスプレイ装置に用いる場合、解像度およびフレームレートなどの画質を向上させるため、狭ピッチでマルチ発光層(複数の発光層)を独立駆動するモノリシック構造の横シングルモード半導体レーザが求められる。
しかしながら、横シングルモードレーザは波長幅が狭く干渉性が高い。このため、RGBの各色の波長を同一とし、各色の波長が揃っていると、レーザ光の干渉性による画質低下が生じる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、レーザ光の干渉性を低下させることが可能な半導体発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、傾斜角が異なる傾斜面を有する半導体基板と、前記傾斜面上に積層され、前記傾斜角に応じた波長のレーザ光を放射する複数の発光層とを備える。
【0011】
これにより、傾斜角が異なる傾斜面を有する半導体基板に発光層を成膜することで、複数の波長のレーザ光を放射する複数の発光層を形成することができる。このため、複数の波長のレーザ光を放射する複数の発光層を形成するために、異なる波長のレーザ光を放射する発光層ごとに発光層の成膜を繰り返す必要がなくなる。また、異なる波長のレーザ光を放射する発光層の成膜を一度で済ませるため、従来技術(特許文献1)のように開口率の異なる絶縁層を選択成長マスクとして半導体基板に形成する必要がなくなる。また、選択成長マスク上に多結晶が堆積したり、発光層の組成ずれによって所望の層構成とは異なる結晶構造となったり、結晶欠陥が生じたりするのを防止することができる。このため、結晶品質の低下および工程増を抑制しつつ、複数の波長のレーザ光を放射する複数の発光層を形成することができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記半導体基板の元素が自然超格子を構成しやすい結晶面を基準面として前記傾斜面が設けられる。なお、本発明において自然超格子を構成しやすい結晶面とは、例えばInGaP結晶おいてIII族結晶面にIn原子が多く存在する格子面とGa原子が多く存在する格子面とが規則的に並ぶことでエネルギー的に安定な状態を実現する格子配列となるが、このような状態を実現可能な方位を持つ面をいう。
【0013】
これにより、基準面に対して傾斜角を変化させることで、発光層の禁制帯幅を変化させ、発振波長を変化させることができる。このため、傾斜角が異なる傾斜面を有する半導体基板に発光層を成膜することで、複数の波長のレーザ光を放射する複数の発光層を形成することができる。
【0014】
本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記傾斜面は、前記半導体基板の特定の結晶面でない成長面を含む。ここで言う「特定の結晶面」とは、(001)面、(111)面、あるいは、(0001)面等の簡易なミラー指数で規定される結晶面のことを指すものとする。
【0015】
これにより、半導体基板の傾斜面の角度を数度のステップで変化させることが可能となり、同色性を維持しつつ、レーザ光の波長を変化させることができる。このため、異なる波長のレーザ光に基づいてレーザ光の干渉性を低下させることができ、レーザ光の干渉性による画質低下を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記基準面は、前記半導体基板の裏面に対して水平に設定され、前記複数の傾斜面の傾斜角の平均値は、前記半導体基板に対する前記基準面の傾斜角に等しい。
【0017】
これにより、半導体発光素子の製造プロセスにおける傾斜面形成に伴う各半導体発光素子形成箇所との段差を軽減することができ、フォトリソグラフィおよびドライエッチングなどのプロセスにおける加工精度の低下を抑制することができる。
【0018】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記半導体基板に形成された曲面の接線の傾きが異なる位置に複数の発光層が積層される。
【0019】
これにより、傾斜角の異なる位置で発光波長の異なるレーザ光を放射する発光層を形成することができる。
【0020】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記半導体基板に形成されたリッジストライプ構造を備え、前記傾斜面は、前記半導体基板に対し、前記リッジストライプ構造に沿って一定の角度で延在するとともに、前記リッジストライプ構造と直交する方向に傾斜する。
【0021】
これにより、レーザ光の導波方向に沿って光を閉じ込めつつ、波長ごとにレーザ光を増幅させることができ、発光効率を向上させつつ、多波長マルチビーム化することができる。
【0022】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記リッジストライプ構造上に高さが揃うようにして設けられた電極を備える。
【0023】
これにより、電極を配置したサブマウント上に多波長マルチビーム半導体レーザをジャンクションダウンボンディング実装することができる。このため、多波長マルチビーム半導体レーザの放熱性を向上させることができ、多波長マルチビーム半導体レーザの信頼性を向上させることができる。
【0024】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記半導体基板はGaAs基板であり、前記発光層に含まれる活性層は、AlGaInP結晶層またはGaInAsP結晶層(AlもしくはAs組成がゼロの場合も含む)のいずれか少なくとも1つを含む。
【0025】
これにより、赤色から近赤外域において、多波長マルチビーム半導体レーザを実現することができる。
【0026】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記半導体基板はGaN基板であり、前記発光層に含まれる活性層は、InGaN結晶層またはAlGaInN結晶層のいずれか少なくとも1つを含む。
【0027】
これにより、青紫から緑色域において、多波長マルチビーム半導体レーザを実現することができる。
【0028】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記半導体基板は、異種材料の半導体または誘電体から構成される支持基板上に形成され、前記半導体基板は、前記発光層と同種材料から構成される。
【0029】
これにより、半導体基板を薄膜化することができ、半導体基板のコストダウンを図ることが可能となるとともに、半導体基板が割れやすい場合においても、半導体基板を安定してハンドリングすることができる。
【0030】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記レーザ光は、同じ色領域の範囲内で異なる波長を有している。
【0031】
これにより、複数の波長のレーザ光に基づいてレーザ光の干渉性を低下させることができ、レーザ光の干渉性による画質低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の一態様においては、レーザ光の干渉性を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第1実施形態に係る半導体発光素子の構成を光導波方向に垂直に切断して示す断面図である。
図2図1の半導体発光素子の1つのリッジストライプ構造を拡大して示す断面図である。
図3】第1実施形態に係る半導体発光素子の波長と基板傾角との関係を示す図である。
図4A】第1実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す斜視図である。
図4B】第1実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す斜視図である。
図4C】第1実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す斜視図である。
図4D】第1実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す斜視図である。
図4E】第1実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す斜視図である。
図5A】第1実施形態に係る半導体発光素子のリッジストライプ構造の製造方法の一例を示す断面図である。
図5B】第1実施形態に係る半導体発光素子のリッジストライプ構造の製造方法の一例を示す斜視図である。
図5C】第1実施形態に係る半導体発光素子のリッジストライプ構造の製造方法の一例を示す斜視図である。
図5D】第1実施形態に係る半導体発光素子のリッジストライプ構造の製造方法の一例を示す斜視図である。
図5E】第1実施形態に係る半導体発光素子のリッジストライプ構造の製造方法の一例を示す斜視図である。
図5F】第1実施形態に係る半導体発光素子のリッジストライプ構造の製造方法の一例を示す斜視図である。
図5G】第1実施形態に係る半導体発光素子のリッジストライプ構造の製造方法の一例を示す斜視図である。
図5H】第1実施形態に係る半導体発光素子のリッジストライプ構造の製造方法の一例を示す斜視図である。
図5I】第1実施形態に係る半導体発光素子のリッジストライプ構造の製造方法の一例を示す斜視図である。
図5J】第1実施形態に係る半導体発光素子のリッジストライプ構造の製造方法の一例を示す斜視図である。
図6】第2実施形態に係る半導体発光素子の構成を光導波方向に垂直に切断して示す断面図である。
図7】第3実施形態に係る半導体発光素子の構成を光導波方向に垂直に切断して示す断面図である。
図8】第4実施形態に係る半導体発光素子の構成を光導波方向に垂直に切断して示す断面図である。
図9】第5実施形態に係る半導体発光素子の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の構成に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正または変更され得る。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定され、以下の個別の実施形態によって限定されない。また、以下の説明に用いる図面は、各構成を分かり易くするため、実際の構造と縮尺および形状などを異ならせることがある。
【0035】
図1は、第1実施形態に係る半導体発光素子の構成を光導波方向に垂直に切断して示す断面図、図2は、図1の半導体発光素子の1つのリッジストライプ構造を拡大して示す断面図である。なお、図2では、図1の領域Rを拡大して示した。また、以下の説明では、半導体基板に4つ発光層が積層され、4個の異なる波長のレーザ光を放射する構成を例にとるが、半導体基板上にm(mは2以上の整数)個の発光層が積層され、m個の異なる波長のレーザ光を放射する構成であってもよい。また、以下の説明では、赤色域において多波長化された半導体レーザを例にとる。
【0036】
図1および図2において、半導体レーザLAは、n型半導体基板11上に積層されたm(図1の例では、m=4)個の発光層を備える。n型半導体基板11は、傾斜角θ1~θmが異なるm個の傾斜面MA1~MAmを有する。m個の発光層は、m個の傾斜面MA1~MAm上にそれぞれ積層され、傾斜角θ1~θmに応じてm個の波長のレーザ光を放射する。このとき、n型半導体基板11の元素が自然超格子を構成しやすい結晶面を基準面として傾斜面MA1~MAmを設けることができる。傾斜面MA1~MAmは、n型半導体基板11の特定の結晶面でない成長面を含むのが好ましい。ここで言う「特定の結晶面」とは、(001)面、(111)面、あるいは、(0001)面等の簡易なミラー指数で規定される結晶面のことを指すものとする。この基準面は、n型半導体基板11の裏面に対して水平に設定し、傾斜角θ1~θmの平均値は、n型半導体基板11に対する基準面の傾斜角に等しくするのが好ましい。
【0037】
n型半導体基板11上には、発光層を含む半導体積層構造12が形成されている。半導体積層構造12は、m個のリッジストライプ構造SA1~SAmを備える。また、n型半導体基板11上には、リッジストライプ構造SA1~SAmのトップ面が露出されるように保護膜13が形成されている。保護膜13は、例えば、SiO膜またはSiN膜などの絶縁膜である。各リッジストライプ構造SA1~SAm上には、リッジストライプ構造SA1~SAmのトップ面に接触するp側電極14が形成されている。
【0038】
図2に示すように、半導体積層構造12では、例えば、n型バッファ層21、n型クラッド層22、活性層23、p型第1クラッド層24、p型エッチング停止層25、p型第2クラッド層26、p型界面層27およびp型キャップ層28がn型半導体基板11上に順次積層されている。ここで、半導体積層構造12のうち、p型第2クラッド層26、p型界面層27およびp型キャップ層28がリッジストライプ状にパターニングされている。このとき、p型エッチング停止層25は、p型第2クラッド層26、p型界面層27およびp型キャップ層28をリッジストライプ状にパターニングするときのエッチングの停止に用いることができる。
【0039】
ここで、半導体レーザLAが赤色域において多波長化される場合、半導体積層構造12として、例えば、n型GaAsバッファ層、n型AlGaInPクラッド層(Al組成X=0.7)、AlGaInP/GaInP多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)活性層、p型AlGaInP第1クラッド層(Al組成X=0.7)、p型GaInPエッチング停止層、p型AlGaInP第2クラッド層、p型GaInP界面層およびp型GaAsキャップ層の積層構造を用いることができる。
【0040】
n型半導体基板11上に傾斜面MA1~MAmを持たせるために、例えば、チップ幅を300~400umとして、このチップ幅のピッチで周期的に凸状に湾曲した曲面KMAをn型半導体基板11上に形成することができる。この曲面KMAの形状はかまぼこ状であってもよいし、アーチ状であってもよい。そして、n型半導体基板11上に形成された曲面KMAの接線の傾きが異なる位置にm個の傾斜面MA1~MAmを配置することにより、m個の傾斜面MA1~MAmの傾斜角θ1~θmを互いに異ならせることができる。そして、各傾斜面MA1~MAm上にm個の発光層を積層することにより、発光層ごとに異なる波長のレーザ光を放射させることができる。
【0041】
例えば、m個の発光層を曲面KMA上に50um間隔で配置し、傾斜角θ1~θmを-5度から3度ステップで+4度まで変化させることができる。このとき、各傾斜面MA1~MAmの傾斜角θ1~θmは、n型半導体基板11の元素が自然超格子を構成する面を基準面として、5度オフ、8度オフ、11度オフ、14度オフとすることができる。半導体レーザLAの組立後に特性評価を行ったところ、4ビームレーザの発光層ごとに異なる波長でのレーザ発振を確認できた。このとき、最短波長636nmから最長波長651nmまで、15nmの波長差を得ることができた。なお、本実施形態では、半導体レーザLAに集積化された発光層の個数は4個としたが、チップ上に配置できる限りは発光層の個数に特に制約はない。
【0042】
GaAs基板上に結晶成長したGaInP結晶を活性層23に用いた場合、自然超格子構造の制御により、GaInP層の禁制帯幅を制御できる。例えば、「レーザ研究 第18巻 第8号 PP592-595、平成2年8月、日野功 可視光半導体レーザ材料AlGaInPの結晶構造と素子特性」に記載されているように、結晶成長の際の成長温度、V/III比および基板のオフ角度を調整することで、禁制帯幅を1.85~1.91eV(光の波長では、649~670nmの範囲に相当)程度変化させることができる。GaInP結晶は、III族元素のGaおよびInと、V族元素のPで結晶格子が形成され、無秩序状態(Disordered)では、GaおよびInが不規則に並んでいる。これに対し、特定の結晶成長条件および基板面を持つ結晶上に成長した場合、GaおよびInが規則的に並び、Ga面とIn面が交互に並ぶ秩序状態(Ordered)が生じることがある。この秩序状態は、GaP型InPの超格子が自発的に形成された状態となることから、自然超格子と呼ばれる。この自然超格子が形成された状態では、禁制帯幅が縮小し、GaInP層の禁制帯幅が変化する。そして、自然超格子が形成された面から傾きを変化させると、その傾きに応じて、自然超格子の規則性が徐々に乱れ、禁制帯幅が徐々に増大することから、レーザ光の波長を徐々に変化させることができる。自然超格子の形成は、n型半導体基板11がn型GaAs半導体基板11の場合、(001)面に近い結晶面上への成長に固有の現象である。
【0043】
なお、原料ガスのV/III比および成長温度などの結晶成長条件を変えると、自然超格子の形成が自発的に抑制され、基板表面の結晶面方位によらず禁制帯幅の変動がほとんどなくなる場合がある。このため、半導体レーザLAの多波長化の波長範囲に応じて、所望の波長差が得られる結晶成長条件を取る必要がある。ただし、このような波長変化が大きい結晶成長条件を設定しても、成長した(Al)GaInP結晶の質が低下したり、作製した半導体レーザLAの特性および性能が低下するという悪影響は見られない。このため、所望の性能の半導体レーザLAが実現できる結晶成長条件の範囲内で所望の波長差が得られる結晶成長条件を選択できる。
【0044】
以上説明したように、上述した実施形態によれば、n型半導体基板11上で各発光層を配置する位置にストライプ状の導波路構造が伸びる共振器方向とは直交する方向に傾斜面MA1~MAmを形成し、基板面に対する傾斜角θ1~θmを発光層ごとに制御することで発光層ごとに発光波長を調整することができ、簡便な作製プロセスで発光層ごとに異なる波長で動作する半導体レーザLAを構成することができる。活性層23にAlGaInP結晶またはGaInP結晶材料を用いる場合、傾斜角θ1~θmに応じて活性層23内の自然超格子構造の規則性の程度が変化する。その結果、傾斜角θ1~θmに応じて活性層23の禁制帯幅を変化させることができ、m個の発光層ごとに発振波長を変えることができる。また、傾斜角θ1~θmがステップ状に変化する例を示しているが、等間隔で傾斜角θ1~θmを変える必要はなく、少なくとも2種類以上の傾斜角を含んでいれば、傾斜角θ1~θmが全て異なっている必要はない。
【0045】
また、半導体レーザLAでは、n型半導体基板11上に設けられる傾斜面MA1~MAmの傾斜角θ1~θmを発光層ごとに調整することで各発光層の波長制御を実現することができる。このため、半導体積層構造12を形成するための多層結晶成長を複数回繰り返すことなく、半導体レーザLAを作製でき、コスト増を抑制することができる。また、多層結晶成長を複数回繰り返すことなく、複数回の熱履歴に晒されるのを防止することができるため、結晶中のドーパントの拡散、結晶表面近くの構成元素の脱離・置換・酸化などの結晶の質の低下、外部からの不純物のコンタミネーションなどを防止することができる。さらに、異なる波長のレーザ光を放射する発光層の成膜を1度で済ませるために、開口率の異なる絶縁層を選択成長マスクとしてn型半導体基板11上に形成する必要がなくなり、選択成長マスク上に多結晶が堆積したり、発光層の組成ずれによって所望の層構成とは異なる結晶構造となったり、結晶欠陥が生じたりするのを防止することができる。この結果、半導体レーザLAの品質の低下を抑制しつつ、波長マルチビーム化を図ることができる。
【0046】
図3は、第1実施形態に係る半導体発光素子のPL(Photoluminescence)波長と基板傾角との関係を示す図である。なお、図3では、(001)面からのGaAs基板の傾角とその上に成長したGaInP結晶のホトルミネッセンスによる発光波長の関係の一例を示す。
【0047】
図3に示すように、傾斜面の傾きを調整し、例えば、基板表面の傾角を0~15°の範囲で発光層ごとに調整すれば、発光層間の波長差を20nmとなる多波長マルチビームレーザを容易に作製できることが判る。同図では、GaAs基板上に成膜されたGaInP層での発光波長を示しているが、GaInP層またはAlGaInP層を多重量子井戸構造の井戸層に用いた場合も、当該多重量子井戸層の禁制帯幅の変化が発光波長の差異となって表れる。
【0048】
発光層の配置位置での傾斜角の振り方については、基板表面の傾角が0度から15度の範囲で振れるように設定すれば、発光層間の波長差を最大化することができ、20nm以上の波長差が取れる。これだけの波長差があれば、画質の向上には十分である。従って、各発光層の配置位置での基板表面の傾角が最大でも0度から15度の変えられる構成とすればよく、半導体レーザが実際に使用されるシステムの要求に従って、必要な波長差を得るために必要な分だけ発光層ごとに傾斜角を変化させればよい。例えば、10nmの波長差を得るのであれば、7度から12度の範囲で発光層の配置位置の傾斜角を変化させればよい。
【0049】
なお、半導体基板の元々の基板傾角に関しては、単波長半導体レーザを作製する場合と同様に選択してもよいが、所望の波長差を実現するために選択した発光層の配置位置での傾斜角の振り幅のおおよその平均値に取ることが好ましい。上述した実施形態において、半導体基板の元の表面よりも傾斜した面上に形成したリッジ構造が傾斜し、発光層(図1では、特に外側の2つの発光層)も斜めに傾斜する。半導体レーザの作製プロセスおよび性能には大きな影響が及ばないようにするため、この傾斜角は15度以下であるのが好ましい。
【0050】
図1の構成では、n型GaAs半導体基板上に複数の傾角を持たせるために、n型GaAs半導体基板((001)10度オフ基板)に加工を施し、レーザの共振器方向に伸びるかまぼこ状の斜面形成を行った。このとき、基板表面の加工方法としては、例えば、半導体材料またはガラス材料の表面にマイクロレンズ加工を行う方法を適用することができる。
【0051】
ただし、図1に示すように、かまぼこ状の大きな斜面形成を行っている場合、曲面KMAの頂上と15度傾斜した位置での段差が大きくなる。このため、ウェハプロセスで各種の加工・パターン形成を行う際のフォトレジストの塗布条件およびエッチング条件などを調整する必要がある。従って、半導体基板自体の基板傾角を発光層の配置位置の傾斜角の略平均値に設定することで、発光層の配置位置の傾斜角を小さくし、プロセス面の尤度を向上させることができる。
【0052】
図4Aから図4Eは、第1実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す斜視図である。
図4Aにおいて、スピンコートなどの方法にて、半導体ウェハWの表面にフォトレジストを塗布する。次に、ストライプ状のパターンが形成されたフォトマスクを介してフォトレジストを感光し、現像を行うことにより、共振器長方向にストライプ状に延在するレジストパターン31を半導体ウェハW上に形成する。
【0053】
次に、レジストパターン31が形成された半導体ウェハWを200℃程度で数分~20分間程加熱する。このとき、レジストパターン31の熱可塑性によりパターン形状が変形し、かまぼこ状に変形したレジストパターン32が半導体ウェハW上に形成される。(図4B
【0054】
次に、半導体ウェハWの上面からのドライエッチングにより、レジストパターン32を薄肉化する。このとき、レジストパターン32から露出された半導体ウェハWの表面もエッチングされながら、レジストパターン32の薄肉化が進行する。このため、レジストパターン32の厚さが薄い部分では、半導体ウェハWの厚さ方向のエッチング量が増大し、共振器方向と垂直な方向に周期的に配置された曲面KMAが半導体ウェハWの表面に形成される。(図4C
【0055】
なお、本実施形態では、半導体ウェハW上に曲面KMAを周期的に配置した例を示したが、曲面KMAの周期的な配置に限られるものではない。発光層ごとの波長の変化のさせ方または半導体ウェハW上のチップ配置の都合などにより、非周期的なパターン配置としたり、部分的に周期が変わるような構造としてもよい。また、本プロセス工程では、レジストパターン32をエッチングマスクとして半導体ウェハWを直接加工する方法を示したが、エッチング装置、エッチングガスおよび基板材料の種類によっては、レジストパターン32と半導体ウェハWとのエッチング選択比が調整しにくい場合もある。この場合、レジストパターン32と半導体ウェハWとの間にSiOなどで構成されたハードマスクなどの中間層を挟み、レジストパターン32をハードマスクに一旦転写してから、このハードマスクをエッチングマスクとして半導体ウェハWを加工するようにしてもよい。
【0056】
なお、マイクロレンズ加工のプロセス手法を用いて半導体基板上に傾斜面を形成するために、レジストパターンの形状を半導体基板に転写して加工する場合、レジストパターンと半導体基板の材料のエッチング選択比で半導体基板に形成される形状の高さが決定される。エッチングガスおよびドライエッチング条件の調整またはSiO膜などの中間層の利用により、エッチングの選択比をある程度自由に調整することができる。
【0057】
ただし、半導体基板の加工時のプロセスばらつきにより、各発光層の配置位置での半導体基板表面の傾斜角が変動する可能性がある。例えば、各発光層または特定の発光層の位置で半導体表面の傾斜角が±1度ずれたとしても、図3の基板傾角と波長変化の関係から、発光層ごとの波長差を十分に担保することができる。
【0058】
また、共振器方向に対するかまぼこ状の曲面KMAの傾斜面の角度ずれについては、単一波長レーザの作製時のパターン合わせ精度が確保されればよい。例えば、1つのレーザチップについて、傾斜面のパターン形状が共振器方向に対して1~2度傾いた配置となっていてもよい。単一波長半導体レーザ作製プロセスでは、端面コーティングを行う際のバー状の劈開での劈開位置ずれを防ぐために、±0.03°以内程度にパターンの角度ずれを抑えている。多波長半導体レーザ作製プロセスにおいても、単一波長半導体レーザ作製プロセスの合わせ精度と同様の精度でパターン形成を行えばよい。
【0059】
半導体ウェハWに曲面KMAが形成されると、単一波長半導体レーザの半導体積層プロセスと同様の半導体積層プロセスを実施することにより、多波長マルビーム半導体レーザを作製することができる。このとき、図4Dに示すように、曲面KMAが形成された半導体ウェハW上に多層結晶成長を行うことにより、半導体積層構造12を半導体ウェハW上に形成する。
【0060】
次に、SiO膜などのハードマスクをエッチングマスクとして半導体積層構造12をドライエッチングすることにより、図4Eに示すように、素子領域RA1~RA4ごとにリッジストライプ構造SA1~SAmを形成する。詳細な製造工程のステップは図5Aから図5Jで示すが、図4Eでは更に、半導体ウェハWからハードマスクを除去した後、リッジストライプ構造SA1~SAmが覆われるようにSiO膜などの保護膜13を半導体ウェハW上に形成する。
次に、リッジストライプ構造SA1~SAmに電流を流すための開口部を保護膜13に形成する。
次に、保護膜13に形成された開口部を介してリッジストライプ構造SA1~SAmのトップ面に接触するp側電極14を各素子領域RA1~RA4のリッジストライプ構造SA1~SAmごとに形成する。
【0061】
上述した実施形態では、絶縁膜で保護されたリッジストライプ構造SA1~SAmを示したが、絶縁膜の代わりにGaAsやAlInP等による埋込成長を行ったレーザ構造であってもよい。
また、本実施形態では、1~数ミクロンの段差がある部分に各発光層が形成された構造を示した。このとき、p型電極14にAuメッキを施すことで、各発光層の上部の高さを調整し、チップ表面を平坦化してもよい。
【0062】
本実施形態では、半導体基板にGaAs、半導体レーザの構成材料にAlGaInP系半導体材料を使用した赤色レーザの場合を示したが、半導体基板および半導体レーザの構成材料については、この材料系に限られない。例えば、半導体基板にGaAs、活性層の半導体材料にInGaAsPを用いた赤色から近赤外域の半導体レーザに適用してもよいし、半導体基板にGaN、半導体レーザの構成材料にAlGaNおよびInGaNなどの窒化物半導体を用いたGaN系の青紫~緑色の半導体レーザに適用してもよい。
【0063】
例えば、発振波長450~460nmの青色半導体レーザを作製する場合、多重量子井戸活性層の井戸層には、In組成が0.18~0.2程度のInGa1-xN(0.18≦x≦0.2)が用いられる。発光層間で10nmの波長差を得ようとすると、0.015~0.02程度のInの組成差異が生じればよく、例えば、(0001)c面と、c面からa軸方向に10度程度傾斜させた面にそれぞれ発光層を設ければよい。
【0064】
図5Aから図5Jは、第1実施形態に係る半導体発光素子のリッジストライプ構造の製造方法の一例を示す断面図である。
図5Aにおいて、曲面KMAが形成されたn型半導体基板11上に多層結晶成長を行うことにより、半導体積層構造12をn型半導体基板11上の全面に形成する。
【0065】
次に、図5Bに示すように、CVDまたはスパッタなどの方法により、SiO膜33を半導体積層構造12上の全面に成膜する。
【0066】
次に、図5Cに示すように、スピンコートなどの方法にてレジスト膜をSiO膜33上の全面にコーティングする。そして、フォトリソグラフィ技術にてレジスト膜をパターニングすることにより、ストライプ状のレジストパターン34をSiO膜33上に形成する。
【0067】
次に、図5Dに示すように、レジストパターン34をエッチングマスクとしてSiO膜33をドライエッチングすることにより、SiO膜33をストライプ状にパターニングする。
【0068】
次に、図5Eに示すように、ストライプ状にパターニングされたSiO膜33をエッチングマスクとして半導体積層構造12のp型クラッド層の途中までをドライエッチングで除去し、リッジストライプ構造SA1~SAmを形成する。
【0069】
次に、図5Fに示すように、ドライエッチングなどの方法にてSiO膜33を除去する。そして、CVDなどの方法により、SiO膜などからなる保護膜13を半導体積層構造12上の全面に成膜する。
【0070】
次に、図5Gに示すように、フォトリソグラフィ技術およびドライエッチング技術を用いることにより保護膜13をパターニングし、発光層に電流を注入するための開口部15を保護膜13に形成する。
【0071】
次に、図5Hに示すように、各発光層を独立駆動するために、開口部15を介して半導体積層構造12のトップ面に接続されたp側電極14を各リッジストライプ構造SA1~SAm上に形成する。このとき、p型電極14にAuメッキを施すことで、p型電極14の高さを揃えるようにしてもよい。この場合、p側電極14の電界めっきを行うための通電時間をリッジストライプ構造SA1~SAmごとに調整することにより、リッジストライプ構造SA1~SAmごとにめっき厚を調整することができる。
【0072】
次に、図5Iに示すように、CMP(Chemical Mmechanical Polishing)またはエッチバックなどの方法により、n型半導体基板11の裏面側を薄化する。このとき、n型半導体基板11の厚さは100μm程度に設定することができる。次に、図5Jに示すように、半導体ウェハWの裏面にn側電極35を形成する。
【0073】
図6は、第2実施形態に係る半導体発光素子の構成を光導波方向に垂直に切断して示す断面図である。
図6において、半導体レーザLBは、n型半導体基板41上に積層されたm(図6の例では、m=4)個の発光層を備える。n型半導体基板41は、傾斜角θ1~θmが異なるm個の傾斜面MB1~MBmを有する。m個の発光層は、m個の傾斜面MB1~MBm上にそれぞれ積層され、傾斜角θ1~θmに応じてm個の波長のレーザ光を放射する。このとき、n型半導体基板41の元素が自然超格子を構成する面を基準面として傾斜面MB1~MBmを設けることができる。ここで、傾斜面MB1~MBmは、その上に形成される発光層ごとに個別に傾斜角θ1~θmが設定される。このとき、n型半導体基板41上において傾斜面MB1~MBmの高さを互いに等しくすることができ、チップ表面の凹凸や段差を小さく抑えることができる。
【0074】
n型半導体基板41上には、発光層を含む半導体積層構造42が形成されている。半導体積層構造42は、m個のリッジストライプ構造SB1~SBmを備える。また、n型半導体基板41上には、リッジストライプ構造SB1~SBmのトップ面が露出されるように保護膜43が形成されている。各リッジストライプ構造SB1~SBm上には、リッジストライプ構造SB1~SBmのトップ面に接触するp側電極44が形成されている。
【0075】
なお、n型半導体基板41上の傾斜面MB1~MBmは、ウェットエッチングを利用することで形成できる。GaAs基板をウェットエッチングする際には、エッチング液に対して一定の溶解性を持つレジストマスクをエッチングマスクとして使用して傾斜面MB1~MBmを形成する。このようなエッチングマスクを使用すると、GaAs基板のエッチング中にレジストマスクが溶解し、パターン境界が徐々に後退するため、傾斜面MB1~MBmの傾斜角θ1~θmを制御することができる。なお、傾斜面MB1~MBmの傾斜角θ1~θmの調整には、例えば、使用するエッチング液の混合比、具体的には硫酸と過酸化水素の混合比を調整すればよい。
【0076】
また、光化学反応による半導体結晶のエッチング速度上昇作用を利用し、エッチングパターンを投影しながら化学エッチングを進めることで、所望の傾斜角θ1~θmを持つ傾斜面MB1~MBmをn型半導体基板41上に形成するようにしてもよい。n型半導体基板41に傾斜面MB1~MBmを形成した後、第1実施形態と同様のプロセスにより多波長マルチビームレーザを作製することができる。
【0077】
なお、本実施形態では、各発光層の高さ方向の位置がほぼ揃った構造となっているため、第1実施形態のような追加のAuメッキによる高さ調整は省略することができる。
【0078】
図7は、第3実施形態に係る半導体発光素子の構成を光導波方向に垂直に切断して示す断面図である。
図7において、半導体レーザLCは、n型半導体基板51上に積層されたm(図7の例では、m=4)個の発光層を備える。n型半導体基板51は、傾斜角θ1~θmが異なるm個の傾斜面MC1~MCmを有する。m個の発光層は、m個の傾斜面MC1~MCm上にそれぞれ積層され、傾斜角θ1~θmに応じてm個の波長のレーザ光を放射する。このとき、n型半導体基板51の元素が自然超格子を構成する面を基準面として傾斜面MC1~MCmを設けることができる。ここで、n型半導体基板51には、傾斜面MC1~MCmが設定される曲面KMCが形成される。この曲面KMCの断面は、周期的にうねるような形状を持つことができる。そして、この曲面KMCのうねりの周期ごとに個別に傾斜角θ1~θmが設定される。このとき、図1の1つのかまぼこ状の曲面KMA上に傾斜面MA1~MAmを設けた構成に比べて、n型半導体基板51上の傾斜面MC1~MCmの高さの差を小さくすることができ、チップ表面の凹凸や段差を小さく抑えることができる。
【0079】
n型半導体基板51上には、発光層を含む半導体積層構造52が形成されている。半導体積層構造52は、m個のリッジストライプ構造SC1~SCmを備える。また、n型半導体基板51上には、リッジストライプ構造SC1~SCmのトップ面が露出されるように保護膜53が形成されている。各リッジストライプ構造SC1~SCm上には、リッジストライプ構造SC1~SCmのトップ面に接触するp側電極54が形成されている。
【0080】
n型半導体基板51上に曲面KMCを形成する場合、図4A図4Cに示すように、マイクロレンズの加工方法を利用することができる。このとき、あまり小さなパターンを形成すると、加工精度が低下する。そこで、加工精度を上げ、かつ、チップ上の段差を軽減するために、第1実施形態と同様に1つのかまぼこ状の曲面KMAを形成した後、ハードマスクを介して曲面KMAのドライエッチングを部分的に行うことで、発光層ごとに高さ位置を調整するようにしてもよい。
【0081】
図8は、第4実施形態に係る半導体発光素子の構成を光導波方向に垂直に切断して示す断面図である。
図8において、半導体レーザLDは、n型半導体基板61上に積層されたm(図8の例では、m=4)個の発光層を備える。n型半導体基板61は、サファイア基板60上に形成されている。なお、n型半導体基板61の支持基板は、サファイア基板60に限定されることなく、n型半導体基板61と異種材料の半導体または誘電体から構成されてもよい。ただし、n型半導体基板61は、発光層と同種材料から構成することができる。
【0082】
n型半導体基板61は、傾斜角θ1~θmが異なるm個の傾斜面MD1~MDmを有する。m個の発光層は、m個の傾斜面MD1~MDm上にそれぞれ積層され、傾斜角θ1~θmに応じてm個の波長のレーザ光を放射する。このとき、n型半導体基板61の元素が自然超格子を構成する面を基準面として傾斜面MD1~MDmを設けることができる。ここで、n型半導体基板61に傾斜面MD1~MDmを設けるために、1つのかまぼこ状の曲面KMDがn型半導体基板51上に形成される。なお、n型半導体基板61上に形成される傾斜面は、図6の構成であってもよいし、図7の構成であってもよい。
【0083】
n型半導体基板61上には、発光層を含む半導体積層構造62が形成されている。半導体積層構造62は、m個のリッジストライプ構造SD1~SDmを備える。また、n型半導体基板61上には、リッジストライプ構造SD1~SDmのトップ面が露出されるように保護膜63が形成されている。各リッジストライプ構造SD1~SDm上には、リッジストライプ構造SD1~SDmのトップ面に接触するp側電極64が形成されている。また、n型半導体基板61上には、n型半導体基板61の表面に接触するn側電極65が形成されている。
【0084】
n型半導体基板61として、n型GaN層を用いるようにしてもよい。このとき、サファイア基板60上にn型GaN層を10~20μm程度成長し、そのn型GaN層の表面に傾斜面MD1~MDmを設けることができる。このn型半導体基板61上に、例えば、n型GaNバッファ層、n型AlGaNクラッド層、InGaN多重量子井戸活性層、p型AlGaNクラッド層、p型GaNコンタクト層などを順次結晶成長し、半導体積層構造62を形成することができる。
【0085】
サファイア基板60を使用した場合のように、n型半導体基板61の支持基板として絶縁性基板を使用する場合は、n型半導体基板61の裏面にn側電極を設けても素子に導通できない。このため、n型半導体基板61の表面側の一部の半導体積層構造62を除去した後にn側電極65を形成し、p側電極64およびn側電極65の双方の電極をn型半導体基板61の表面側に設けることができる。その他にも、Si基板上にGaN層またはGaAs層を形成して半導体基板として用いるようにしてもよい。
【0086】
図9は、第5実施形態に係る半導体発光素子の構成を示す斜視図である。なお、上述した実施形態では端面発光型半導体レーザを例にとったが、本実施形態では、垂直共振器型半導体レーザを例にとる。
【0087】
図9において、半導体レーザLEは、n型半導体基板71上に積層されたm(図9の例では、m=4)個の発光層を備える。n型半導体基板71は、傾斜角θ1~θmが異なるm個の傾斜面ME1~MEmを有する。m個の発光層は、m個の傾斜面ME1~MEm上にそれぞれ積層され、傾斜角θ1~θmに応じてm個の波長のレーザ光を放射する。このとき、n型半導体基板71の元素が自然超格子を構成する面を基準面として傾斜面ME1~MEmを設けることができる。ここで、n型半導体基板71に傾斜面ME1~MEmを設けるために、1つのかまぼこ状の曲面KMEがn型半導体基板71上に形成される。なお、n型半導体基板71上に形成される傾斜面は、図6の構成であってもよいし、図7の構成であってもよい。また、図8に示すように、サファイア基板上にn型半導体基板71を設けるようにしてもよい。
【0088】
n型半導体基板71上には、発光層を含む半導体積層構造72が形成されている。半導体積層構造72は、m個の円筒状リッジ構造SE1~SEmを備える。また、円筒状リッジ構造SE1~SEmのトップ面には、レーザ光が出射される発光部73が設けられる。また、円筒状リッジ構造SE1~SEmのトップ面には、発光層に電流を注入する電極が発光部73を取り囲むように設けられ、パット電極74に接続されている。
【0089】
半導体積層構造72として、例えば、n型GaAsバッファ層、GaInP/AlInP DBR層(Distributed Bragg Reflector:分布ブラッグ反射鏡)、n型AlGaInP層、MQW活性層、p型AlGaInP層、p型AlAs層、p型GaInP/AlInP DBR層およびGaAsコンタクト層の積層構造を用いることができる。このとき、AlAs層を酸化させることで電流狭窄層を形成し、通電領域と横モードを制御することができる。
【0090】
ここで、発光層ごとの波長変化は、発光層の配置位置の傾斜角θ1~θmに依存し、その部分に結晶成長したMQW活性層の禁制帯幅に基づいて発光波長が変化する。このため、垂直共振器型の半導体レーザLEについても多波長マルチビーム化を図ることができる。
【0091】
なお、本実施形態では、横方向に一列に発光層が並ぶ一次元的な配列を例示したが、発光層を二次元的に配置したり、用途に応じて複数の発光層の配置位置を調整したりするようにしてもよい。
【0092】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0093】
LA 半導体レーザ
11 n型半導体基板
12 半導体積層構造
13 保護膜
14 電極
SA1~SAm リッジストライプ構造
21 n型バッファ層
22 n型クラッド層
23 活性層
24 p型第1クラッド層
25 p型エッチング停止層
26 p型第2クラッド層
27 p型界面層
28 p型キャップ層
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
図5J
図6
図7
図8
図9