(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162743
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】アンテナアレイの試験装置
(51)【国際特許分類】
G01R 29/08 20060101AFI20221018BHJP
G01R 29/10 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
G01R29/08 F
G01R29/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067722
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】浅見 幸司
(72)【発明者】
【氏名】増田 伸
(57)【要約】
【課題】アンテナ単体、あるいはアンテナ付きのデバイスをOTA(OverTheAir)で評価可能な試験装置を提供する。
【解決手段】試験装置100は、アンテナ素子12またはアンテナ素子12を備える機器をDUT10としてOTAで検査する。フロントエンドユニット200は、DUT10のアンテナ素子12の放射面上の複数の地点と対向して設けられる複数の電界検出素子212を含む。複数の電界検出素子212はそれぞれ、対応する地点においてDUT10が形成する電界を一斉に検出可能である。テスター本体110は、フロントエンドユニット200から、複数の検出信号を受信し、DUT10を評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ素子またはアンテナ素子を備える機器を被試験デバイスとする試験装置であって、
前記被試験デバイスの前記アンテナ素子の放射面上の複数の地点と対向して設けられ、それぞれが、対応する地点において前記被試験デバイスが形成する電界を一斉に検出可能である、複数の電界検出素子を含み、前記複数の地点の電界を示す複数の検出信号を送信するフロントエンドユニットと、
前記フロントエンドユニットから、前記複数の検出信号を受信し、前記被試験デバイスを検査するテスター本体と、
を備えることを特徴とする試験装置。
【請求項2】
前記複数の検出信号は、前記複数の電界検出素子の出力をダウンコンバートしたものであることを特徴とする請求項1に記載の試験装置。
【請求項3】
前記フロントエンドユニットは、前記複数の検出信号をデジタル化して前記テスター本体に送信することを特徴とする請求項1または2に記載の試験装置。
【請求項4】
前記複数の電界検出素子は、複数の電気光学センサであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の試験装置。
【請求項5】
前記フロントエンドユニットは、
前記被試験デバイスが放射する電界の第1周波数と異なる第2周波数で変調されたプローブ光を、前記複数の電気光学センサに照射する光源と、
前記複数の電気光学センサと対応する複数の受光素子であり、それぞれが、前記複数の電気光学センサの対応するひとつと作用した前記プローブ光に応じた光検出信号を生成する、複数の受光素子と、
を含み、
前記複数の検出信号は、前記複数の受光素子が生成する複数の前記光検出信号にもとづいていることを特徴とする請求項4に記載の試験装置。
【請求項6】
前記フロントエンドユニットは、
第1波長と第2波長を含むプローブ光を、前記複数の電気光学センサに照射する光源と、
前記複数の電気光学センサと対応する複数の受光素子であり、それぞれが、前記複数の電気光学センサの対応するひとつと作用した前記プローブ光に応じた光検出信号を生成する、複数の受光素子と、
を含み、
前記複数の検出信号は、前記複数の受光素子が生成する複数の前記光検出信号にもとづいていることを特徴とする請求項4に記載の試験装置。
【請求項7】
前記フロントエンドユニットは、
前記複数の電気光学センサの出力をデジタル化する複数のA/Dコンバータと、
前記複数のA/Dコンバータの出力を前記テスター本体に送信するインタフェース回路と、
を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の試験装置。
【請求項8】
前記複数の電界検出素子は、複数のセンサーアンテナであることを特徴とする請求項1に記載の試験装置。
【請求項9】
前記フロントエンドユニットは、
前記複数のセンサーアンテナに対応する複数のミキサーであって、それぞれが、前記複数のセンサーアンテナの対応するひとつの出力を、前記被試験デバイスが放射する電界の第1周波数と異なる第2周波数のキャリア信号とミキシングする複数のミキサーを含み、
前記複数の検出信号は、前記複数のミキサーの出力にもとづいていることを特徴とする請求項8に記載の試験装置。
【請求項10】
前記フロントエンドユニットは、
前記複数のミキサーの出力をデジタル化する複数のA/Dコンバータと、
前記複数のA/Dコンバータの出力を前記テスター本体に送信するインタフェース回路と、
を含むことを特徴とする請求項9に記載の試験装置。
【請求項11】
前記フロントエンドユニットは、前記複数のセンサーアンテナが生成する複数の信号をアンダーサンプリングするデジタイザを含み、
前記複数の検出信号は、前記デジタイザの出力にもとづいていることを特徴とする請求項8に記載の試験装置。
【請求項12】
前記テスター本体は、前記複数の検出信号にもとづいて、前記被試験デバイスが放射する遠方界を算出することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の試験装置。
【請求項13】
前記テスター本体は、前記複数の検出信号それぞれを直交復調する直交復調器を備えることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナアレイの解析、評価に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の大容量化にともない、ベースバンド信号およびRF信号の広帯域化が進んでいる。第5世代移動通信システムや、次世代の無線LANでは、ミリ波帯域のキャリア信号を利用して、数百MHz~数GHzに及ぶ広帯域のベースバンド信号が搬送される。このような高速通信では、MIMO(multiple-input and multiple-output)が採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-012468号公報
【特許文献2】国際公開WO2020-091071号公報
【特許文献3】特開2018-009840号公報
【特許文献4】特開2009-276092号公報
【特許文献5】特開2019-113355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、アンテナ単体、あるいはアンテナ付きのデバイスをOTA(Over The Air)で評価可能な試験装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の態様は、アンテナ素子またはアンテナ素子を備える機器を被試験デバイスとする試験装置に関する。試験装置は、被試験デバイスのアンテナ素子の放射面上の複数の地点と対向して設けられ、それぞれが、対応する地点において被試験デバイスが形成する電界を一斉に検出可能である、複数の電界検出素子を含み、複数の地点の電界を示す複数の検出信号を送信するフロントエンドユニットと、フロントエンドユニットから、複数の検出信号を受信し、被試験デバイスを検査するテスター本体と、を備える。
【0006】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のある態様によれば、既存のテスター本体に、フロントエンドユニットを追加することで、アンテナ単体あるいはアンテナ付きデバイスをOTAで評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施例1に係る試験装置のブロック図である。
【
図3】実施例2に係る試験装置のブロック図である。
【
図4】実施例3に係る試験装置のブロック図である。
【
図5】デジタイザによるアンダーサンプリングを説明する図である。
【
図6】実施例4に係る試験装置のブロック図である。
【
図7】実施例5に係る試験装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0010】
この概要は、考えられるすべての実施形態の広範な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素または重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。その唯一の目的は、後で提示するより詳細な説明の前置きとして、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化した形で提示することである。
【0011】
一実施形態に係る試験装置は、アンテナ素子またはアンテナ素子を備える機器を被試験デバイスとして試験する。試験装置は、被試験デバイスのアンテナ素子の放射面上の複数の地点と対向して設けられ、それぞれが、対応する地点において被試験デバイスが形成する電界を一斉に検出可能である、複数の電界検出素子を含み、複数の地点の電界を示す複数の検出信号を送信するフロントエンドユニットと、フロントエンドユニットから、複数の検出信号を受信し、被試験デバイス(アンテナ素子)を検査するテスター本体と、を備える。
【0012】
フロントエンドユニットは、一般的な半導体デバイスを試験する際のパフォーマンスボードの代替として機能し、複数の電界検出素子を含むフロントエンドユニットと、テスター本体の組み合わせによって試験装置が構成される。フロントエンドユニットからテスター本体に対しては、テスター本体がサポートする形態で、検出信号を伝送することにより、既存のテスター本体を活用して、アンテナ単体あるいはアンテナ付きデバイスをOTAで試験できる。
【0013】
一実施形態において、複数の検出信号は、複数の電界検出素子の出力をダウンコンバートしたものであってもよい。フロントエンドユニットにおいて、電界を示す検出信号の周波数を、テスター本体が処理可能な周波数帯域まで落として伝送することにより、既存のテスター本体のインタフェースを利用した試験が可能となる。
【0014】
一実施形態において、フロントエンドユニットは、複数の検出信号をデジタル化してテスター本体に送信してもよい。この場合、テスター本体は、それ自身が備えるデジタルモジュールを利用して、デジタル化された複数の検出信号を受信し、処理することができる。
【0015】
一実施形態において、複数の電界検出素子は、複数の電気光学(EO:Electro-Optic)センサであってもよい。電気光学効果を用いた電気光学センサを用いることで、被試験アンテナの状態を乱さずに電界を測定できる。
【0016】
一実施形態において、フロントエンドユニットは、被試験デバイスが放射する電界の第1周波数と異なる第2周波数で変調された光を、複数の電気光学センサに照射する光源と、複数の電気光学センサと対応し、それぞれが、複数の電気光学センサの対応するひとつと作用したプローブ光に応じた光検出信号を生成する、複数の受光素子と、を含んでもよい。複数の検出信号は、複数の光検出信号に応じていてもよい。光検出信号は、第1周波数を、第2周波数をローカル周波数として、RF信号をダウンコンバージョンした信号となる。
【0017】
一実施形態において、フロントエンドユニットは、第1波長と第2波長を含むプローブ光を、複数の電気光学センサに照射する光源と、複数の電気光学センサと対応する複数の受光素子であり、それぞれが、複数の電気光学センサの対応するひとつと作用したプローブ光に応じた光検出信号を生成する、複数の受光素子と、を含んでもよい。複数の検出信号は、複数の受光素子が生成する複数の光検出信号にもとづいていてもよい。光検出信号は、第1波長と第2波長の差分にもとづく周波数をローカル周波数として、RF信号をダウンコンバージョンした信号となる。
【0018】
一実施形態において、フロントエンドユニットは、複数の電気光学センサの出力をデジタル化する複数のA/Dコンバータと、複数のA/Dコンバータの出力をテスター本体に送信するインタフェース回路と、を含んでもよい。
【0019】
一実施形態において、複数の電界検出素子は、複数のセンサーアンテナであってもよい。
【0020】
一実施形態において、フロントエンドユニットは、複数のセンサーアンテナに対応する複数のミキサーであって、それぞれが、複数のセンサーアンテナの対応するひとつの出力を、被試験デバイスが放射する電界の第1周波数と異なる第2周波数のキャリア信号とミキシングする複数のミキサーを含んでもよい。複数の検出信号は、複数のミキサーの出力にもとづいていてもよい。
【0021】
一実施形態において、フロントエンドユニットは、複数のミキサーの出力をデジタル化する複数のA/Dコンバータと、複数のA/Dコンバータの出力をテスター本体に送信するインタフェース回路と、を含んでもよい。
【0022】
一実施形態において、フロントエンドユニットは、複数のセンサーアンテナが生成する複数の信号をアンダーサンプリングするデジタイザを含んでもよい。複数の検出信号は、デジタイザの出力にもとづいていてもよい。
【0023】
一実施形態において、テスター本体は、複数の検出信号にもとづいて、被試験デバイスが放射する遠方界を算出してもよい。
【0024】
一実施形態において、テスター本体は、複数の検出信号それぞれを直交復調する直交復調器を備えてもよい。検出信号を直交復調することで、複数の電界検出素子それぞれが受信した電界の位相を取得できる。
【0025】
(実施の形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0026】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0027】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0028】
図1は、実施形態に係る試験装置100を示す図である。試験装置100の試験対象(DUT(被試験デバイス)10は、一つまたは複数(m個)のアンテナ素子12を備える。この例では、m=8個のアンテナ素子12_1~12_mは、アンテナアレイを形成している。DUT10は、アンテナアレイそのものであってもよいし、アンテナアレイ付きのトランシーバデバイス(AIP:Antenna-In-Package)であってもよい。なお、
図1では、DUT10を上向きに配置しているが、試験中におけるDUT10の姿勢は問わない。
【0029】
試験装置100は、DUT10のアンテナアレイを、OTAで測定する。試験装置100は、テスター本体110と、フロントエンドユニット200を備える。
【0030】
テスター本体110は、メモリ、LSI(Large Scale Integrated circuit)、IC(Integrated Circuit)を測定するために使用されるATE(Automatic Testing Equipment)の本体部分であり、標準的なテスターが備える機能、ハードウェアを備えている。具体的には、テストプログラムを実行し、テストプログラムに基づいた試験信号を発生し、また試験信号に応答してDUTが発生する信号を受信し、受信した信号を処理する機能を備える。
【0031】
メモリ、LSI、ICをDUTとする試験では、テスター本体110は、テストヘッドとともに使用される。テストヘッドには、ピンエレクトロニクスカード(ボード)が設けられ、ピンエレクトロニクスカードは、パフォーマンスボードを介してDUTと接続される。
【0032】
図1の試験装置100は、パフォーマンスボードの代わりに、フロントエンドユニット200を備える。
【0033】
フロントエンドユニット200は、複数(n個)の電界検出素子212_1~212_nを含む検出素子アレイ210を備える。複数の電界検出素子212は、DUT10のアンテナ素子12の放射面S上の複数の地点と対向して設けられ、それぞれが、対応する地点においてDUT10が形成する電界(近傍界)を一斉に検出可能である。この例では、1個のアンテナ素子12あたりk=4地点の電界強度が検出できるように、n=m×k=8×4=32個の電界検出素子212が設けられており、合計で32地点の電界が測定される。
【0034】
フロントエンドユニット200は、複数の電界検出素子212_1~212_nに加えて、フロントエンド回路220を備える。フロントエンド回路220は、複数の電界検出素子212_1~212_nの出力を処理し、複数の地点の電界を示す複数の検出信号Sd1~Sdnをケーブル102を介してテスター本体110に送信する。
【0035】
テスター本体110は、フロントエンドユニット200から、複数の検出信号Sd1~Sdnを受信し、DUT10を検査する。
【0036】
DUT10のアンテナ素子12が発生する電界(電波)は、無線通信方式に依存するが、数GHz~数十GHzのオーダーのRF(Radio Frequency)信号である。このような高い周波数を、ケーブル102を介して伝送すると、波形歪みやノイズの影響で、正しくテスター本体110に送信することができない。一般的なテスター本体110は、数GHz~数十GHzのRF信号を受信するインタフェースを有していない。
【0037】
そこで、本実施形態では、複数の検出信号Sd1~Sdnを、複数の電界検出素子212の出力をダウンコンバートしたものとし、テスター本体110の既存のハードウェアが受信可能なものとする。これにより既存のテスター本体110の活用が可能となる。ここでいう既存のハードウェアとは、たとえばデジタルモジュールでありうる。
【0038】
テスター本体110には、ハードウェアとして、A/Dコンバータを備えるものがあるが、そのチャンネル数はそれほど多くない場合がある。あるいは、電界検出素子212の個数nをカバーする多チャンネルのA/Dコンバータを備えるモジュールは高価である。
【0039】
そこでフロントエンドユニット200は、複数の検出信号Sd1~Sdnをデジタル化してテスター本体110に送信する。これにより、テスター本体110には、多チャンネルのA/Dコンバータが不要となる。
【0040】
以上が試験装置100の基本構成である。続いてその動作を説明する。
【0041】
DUT10の試験に際して、テスター本体110は、DUT10を動作させ、複数のアンテナ素子12_1~12_mから電波を放射させる。DUT10がアンテナの場合、アンテナの入力に、フロントエンドユニット200から、適切な周波数を有するRF信号を入力すればよい。RF信号は、無変調の正弦波を用いることができるがその限りでなく、変調された信号としてもよい。
【0042】
DUT10が、AIPの場合、DUT10に制御信号CNTを与えて、DUT10をテストモードに設定し、AIPが内蔵するオシレータを動作させて、アンテナ素子12_1~12_mから電波を放射させる。
【0043】
複数の電界検出素子212_1~212_nは、それぞれのアンテナ面に入射する電波(近傍界)に応じた信号を出力する。フロントエンド回路220は、複数の電界検出素子212の出力信号を受け、テスター本体110が受信可能な検出信号Sd1~Sdnに変換して、テスター本体110に送信する。上述のように、フロントエンド回路220は、周波数ダウンコンバートし、デジタル化された検出信号Sd1~Sdnを生成してもよい。
【0044】
テスター本体110は、フロントエンドユニット200からの複数の検出信号Sd1~Sdnを受信し、それらを処理することで、DUT10の特性を評価する。好ましくはi番目(1≦i≦n)の検出信号Sdiは、DUT10のアンテナ表面の対応する地点における電界強度と電界の位相情報を有しており、テスター本体110は、複数の地点における電界強度と位相情報を計算することができる。さらにテスター本体110は、複数の地点における電界強度や位相情報、すなわち近傍界から、遠方界を推定してもよい。近傍界から遠方界を推定する方法やアルゴリズムは公知技術を用いればよい。
【0045】
以上が試験装置100の動作である。
【0046】
まとめると、フロントエンドユニット200は、一般的な半導体デバイスを試験する際のパフォーマンスボード(場合によってはテストヘッドの一部)の代替として機能し、フロントエンドユニット200と、テスター本体110の組み合わせによって試験装置100が構成される。フロントエンドユニット200からテスター本体110に対しては、テスター本体がサポートする形態で、検出信号Sd1~Sdnを伝送することにより、既存のテスター本体110を活用して、アンテナ単体あるいはアンテナ付きデバイスをOTAで試験できる。
【0047】
本開示は、
図1のブロック図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本開示の範囲を狭めるためではなく、本開示や本発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0048】
(実施例1)
図2は、実施例1に係る試験装置100Aのブロック図である。フロントエンドユニット200Aは、上述のように、検出素子アレイ210およびフロントエンド回路220を備える。フロントエンド回路220は、周波数ダウンコンバータ230、デジタイザ240、インタフェースモジュール250を備える。
【0049】
複数の電界検出素子212_1~212_nにおいて生成される信号(初期信号ともいう)Sa1~Sanは、アンテナ素子12が放射する電波の周波数(キャリア周波数fc)と同じ周波数(数GHz~数十GHz)を有している。
【0050】
この実施例1では、電界検出素子212として、電気的なアンテナ(本明細書ではDUTのアンテナと区別するため、センサアンテナという)を用いることができる。センサアンテナとしては、マイクロストリップアンテナが好適であり、たとえばパッチアンテナを用いることができる。各電界検出素子(センサアンテナ)212は、対応する地点における電波(電磁界)を受け、センサアンテナのコイルは、電磁界に応じた強度および位相を有する電気信号(コイル電圧あるいはコイル電流)を生成する。つまりセンサアンテナを用いる場合、コイル電圧あるいはコイル電流が、初期信号Saとなり、初期信号Saは、キャリア周波数fcを有する。
【0051】
周波数ダウンコンバータ230は、この高周波の初期信号Sa1~Sanを、テスター本体110Aが処理可能な周波数Δfにダウンコンバートし、中間信号Sb1~Sbnを生成する。
【0052】
周波数ダウンコンバータ230は、オシレータ232、分配器234、複数n個のミキサー回路236_1~236_nを含む。オシレータ232は、キャリア周波数fcとの差分がΔfである周波数(たとえばf-Δf)を有するRF信号を生成する。
【0053】
分配器234はRF信号を、複数のミキサー回路236_1~236_nに分配する。またこのRF信号は、DUT10の入力に供給されてもよく、この場合、DUT10は試験時に、フロントエンドユニット200Aから受信したRF信号を、アンテナ素子12から放射することができる。
【0054】
i番目(1≦i≦n)のミキサー回路236_iは、対応する電界検出素子212_iが生成する初期信号Saiを、RF信号と乗算すなわち周波数ミキシングし、周波数がΔfである中間信号Sbiにダウンコンバートする。
【0055】
デジタイザ240は、周波数ダウンコンバータ230が生成した複数の中間信号Sb1~Sbnを、デジタルの検出信号Sd1~Sdnに変換する。
【0056】
デジタイザ240は、オシレータ242、分配器244、フィルタ246、複数n個のA/Dコンバータ248_1~248_nを備える。
【0057】
オシレータ242は、サンプリング周波数Fsを有するサンプリング信号を生成する。サンプリング周波数Fsは、Δfの二倍より高く定められる。
【0058】
分配器244は、サンプリング信号を、複数のA/Dコンバータ248_1~248_nに分配する。A/Dコンバータ248の前段には、フィルタ246が挿入される。
【0059】
i番目のA/Dコンバータ248_iは、サンプリング信号と同期して、フィルタリング後の対応する中間信号Sbiを、デジタルの検出信号Sdiに変換する。
【0060】
インタフェースモジュール250は、デジタル化された複数の検出信号Sd1~Sdnを、テスター本体110Aに送信する。
【0061】
テスター本体110Aは、インタフェースモジュール112、直交復調器120および信号処理部130を備える。
【0062】
インタフェースモジュール112は、デジタル化された複数の検出信号Sd1~Sdnを受信する。インタフェースモジュール112はデジタルモジュールとも称され、所定の期間にわたり受信した複数の検出信号Sd1~Sdnを、波形データとしてキャプチャする。
【0063】
たとえば、DUT10が放射する電波が、変調されない正弦波である場合、複数の初期信号Sa1~Sanは、同じ周波数fcの正弦波となり、強度および位相は、信号ごとに異なっている。ダウンコンバートされた中間信号Sb1~Sbnは、同じ周波数Δfの正弦波となり、強度および位相は、信号ごとに異なっている。テスター本体110Aが受信する検出信号Sd1~Sdnはそれぞれ、周波数Δfを有する中間信号Sb1~Sbnの波形データである。
【0064】
直交復調器120は、複数の検出信号Sd1~Sdnそれぞれを直交復調する。つまり、直交復調器120によって、中間信号Sb1~Sbnは、I成分とQ成分を含む、あるいは振幅情報と位相情報を含むベースバンド信号BB1~BBnに変換される。I成分とQ成分は、振幅情報、位相情報と等価であり、もとの電界検出素子212の地点における電界強度および位相を表す。なお、直交復調器120は、ハードウェアとして実装してもよいし、ソフトウェアとCPU(演算処理装置)の組み合わせで実装してもよい。
【0065】
なお、アンテナのOTA試験では、DUT10のアンテナ面の複数の地点における相対的な位相が分かればよいため、複数のチャンネルCH1~CHnの相対的な位相が揃っていればよく、直交復調器120は、フロントエンドユニット200AやDUT10と、非同期で動作して構わない。つまり試験装置100Aとフロントエンドユニット200Aの高精度な位相合わせが不要であるという利点がある。
【0066】
信号処理部130は、複数の地点における電界強度・位相情報を示すベースバンド信号BB1~BBnを処理し、DUT10の特性を評価する。信号処理部130の処理内容は特に限定されず、DUT10の評価したい特性に応じて定めればよい。
【0067】
たとえば信号処理部130は、キャリブレーション処理部132および近傍界-遠方界変換処理部134を含む。信号処理部130は、ハードウェア的にはCPUなどのプロセッサであり、キャリブレーション処理部132および近傍界-遠方界変換処理部134は、プロセッサがソフトウェアプログラム(テストプログラム)を実行することにより奏される機能を表す。
【0068】
キャリブレーション処理部132は、電界検出素子212として用いるセンサアンテナの構造にもとづく特性、複数のセンサアンテナ間の干渉、センサアンテナとアンテナ素子12の間の干渉などを補正する。補正の対象はベースバンド信号であってもよいし、ベースバンド信号から得られる近傍界の電界分布であってもよい。
【0069】
たとえばDUT10の遠方界の情報が必要な場合、近傍界-遠方界変換処理部134が設けられる。近傍界-遠方界変換処理部134は、近傍界を遠方界に変換する。近傍界-遠方界変換処理部134のアルゴリズムは公知技術を用いればよい。
【0070】
(実施例2)
図3は、実施例2に係る試験装置100Bのブロック図である。実施例1では、直交復調器120がテスター本体110Aに実装されていたが、実施例2では、直交復調器260がハードウェアとして実装される。
【0071】
直交復調器260は、デジタイザ240の出力Sd1~Sdnそれぞれを直交復調し、デジタルのベースバンド信号BB1~BBnを生成する。インタフェースモジュール250は、デジタルベースバンド信号BB1~BBnを、検出信号としてテスター本体110Bに送信する。
【0072】
なお、
図3の構成では、デジタイザ240の後段に直交復調器260を設けているがその限りでなく、デジタイザ240の前段に直交復調器260を設けて、直交復調器260によってアナログのベースバンド信号を生成し、デジタイザ240によってデジタルのベースバンド信号に変換してもよい。
【0073】
(実施例3)
図4は、実施例3に係る試験装置100Cのブロック図である。フロントエンドユニット200Cは、デジタイザ270を備える。一般的なデジタイザ(A/Dコンバータ)は、ナイキスト定理にもとづいて、入力信号の最大周波数よりも二倍以上高いサンプリングレートで動作するが、このデジタイザ270は、アンダーサンプリングの原理を利用して、複数の初期信号Sa1~Sanをデジタル化し、デジタルの検出信号Se1~Senを生成する。
【0074】
図5は、デジタイザ270によるアンダーサンプリングを説明する図である。初期信号Saは、キャリア周波数f
cを有しており、その周期(キャリア周期)は1/f
cである。デジタイザ270は、キャリア周期の整数k倍の時間Tよりも、τだけ長いサンプリング周期(T+τ)で、初期信号Saをサンプリングする。デジタイザ270により得られる検出信号Seは、初期信号Saと同じ波形を有し、周波数ダウンコンバージョンした信号となり、これは、実施例1における信号Sd1~Sdnに相当する。
【0075】
この構成によれば、周波数ミキサーなどが不要となる。
【0076】
実施例3において、フロントエンドユニット200Cのデジタイザ270の後段に直交復調器260を設けて、信号Seをベースバンド信号BBに変換し、テスター本体110に送信するようにしてもよい。
【0077】
(実施例4)
図6は、実施例4に係る試験装置100Dのブロック図である。
実施例4では、電界検出素子212として、アンテナに代えて、電気光学(EO)センサを用いる。つまり検出素子アレイ210は、複数のEOセンサ213を含む。フロントエンドユニット200Dはさらに、光源280および複数の受光素子290_1~290_nを備える。
【0078】
光源280は、複数のEOセンサ213_1~213_nに対して、キャリア周波数fcと異なるローカル周波数fLO=fc-Δfで変調されたプローブ光La1~Lanを照射する。光源280は、n個の発光ユニット282を含み、発光ユニット282ごとに、プローブ光La1~Lanの強度や変調周波数を設定可能であってもよい。発光ユニット282は、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)などの半導体レーザであってもよく、光源280はVCSELアレイであってもよい。
【0079】
複数の受光素子290_1~290_nは、複数のEOセンサ213_1~213_nに対応する。i番目の受光素子290_iは、対応するEOセンサ213_iと作用したプローブ光Lbiを受光し、受光したプローブ光Lbiの強度を示す光検出信号Sfiを生成する。複数の受光素子290_1~290_nとしてはフォトディテクタのアレイやフォトダイオードのアレイを用いてもよいし、CCDセンサやCMOSセンサなどを用いてもよい。
【0080】
デジタイザ240は、複数の光検出信号Sf1~Sfnをデジタル信号に変換する。インタフェースモジュール250は、デジタル化された光検出信号Sd1~Sdnを、テスター本体110に送信する。
【0081】
受光素子290_1~290_nが生成する光検出信号Sf1~Sfnは、EOセンサが受ける電磁波の周波数fcを、|fc-fLO|=Δfにダウンコンバートした信号となる。つまり、実施例1における周波数ダウンコンバータ230の機能が、光源280と受光素子290_1~290_nによって実現される。
【0082】
(実施例5)
図7は、実施例5に係る試験装置100Eのブロック図である。実施例5では、光源280は、異なる2つの波長λ1,λ2のCW光を混合することによりプローブ光La1~Lanを生成する。発光ユニット282は、第1波長λ1で発振する第1レーザ284と、第2波長λ2で発振するレーザ286と、2つのCWレーザ光を合波する光カプラ288を含んでもよい。
【0083】
実施例5では、プローブ光を変調する代わりに、波長の異なる2つのCWレーザ光を合成したものをプローブ光としても用いる。これにより、2つの波長λ1とλ2の差分に応じた周波数を、ローカル周波数fLOとして、ダウンコンバージョンすることができる。
【0084】
実施例4や実施例5において、光検出信号Sfの周波数Δfが、テスター本体110が処理可能な周波数よりも高い場合には、デジタイザ240の前段に、
図2の周波数ダウンコンバータ230を挿入して、さらに周波数を下げてもよい。
【0085】
あるいは、デジタイザ240に代えて、
図4に示すアンダーサンプリングにもとづくデジタイザ270を用いて、さらに周波数を低下させてもよい。
【0086】
実施例4あるいは実施例5において、デジタル出力の受光素子290を用いてもよく、その場合、デジタイザ240の機能は受光素子290に組み込まれることとなる。
【0087】
実施例4や実施例5においても、直交復調器をフロントエンドユニット200Dに設けてもよい。
【0088】
実施例4や実施例5において、光源280を、複数n個の発光ユニット282に分割したがその限りでなく、1個の光源として構成してもよい。この場合、実質的に一様な強度分布を有するプローブ光を、検出素子アレイ210全体に照射してもよい。
【0089】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を離脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【符号の説明】
【0090】
100 試験装置
10 DUT
12 アンテナ素子
110 テスター本体
112 インタフェースモジュール
120 直交復調器
130 信号処理部
132 キャリブレーション処理部
134 近傍界-遠方界変換処理部
200 フロントエンドユニット
210 検出素子アレイ
212 電界検出素子
220 フロントエンド回路
230 周波数ダウンコンバータ
232 オシレータ
234 分配器
236 ミキサー回路
240 デジタイザ
242 オシレータ
244 分配器
246 フィルタ
248 A/Dコンバータ
250 インタフェースモジュール
260 直交復調器
270 デジタイザ
280 光源
282 発光ユニット
290 受光素子