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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162779
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】体力測定方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/22 20060101AFI20221018BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A61B5/22 110
A61B5/0245 P
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067770
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】506320336
【氏名又は名称】特定非営利活動法人熟年体育大学リサーチセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】増木 静江
(72)【発明者】
【氏名】池淵 良
(72)【発明者】
【氏名】内田 晃司
(72)【発明者】
【氏名】能勢 博
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA10
4C017AA12
4C017AB02
4C017AB07
4C017AC30
4C017BC11
(57)【要約】
【課題】被験者に最大負荷をかけずに、安全に、精度よく、簡易に、持久力(体力)、すなわち、最高酸素摂取量を算出すること。
【解決手段】体力測定装置20は、被験者2の、第1の状態に対し心拍数の増加を伴う運動を行っている第2の状態の心拍数の増加量ΔHRと、第1の状態のエネルギー消費量または酸素消費量に対する第2の状態のエネルギー消費量または酸素消費量の増加量である消費増加量、例えばΔEEとを取得するデータ取得装置22と、心拍数の増加量と消費増加量との比ΔHR/ΔEEと、被験者の年齢Ageとを変数として含む線形結合により被験者の最高酸素摂取量VO2peakを求める算出装置23とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の、第1の状態に対し心拍数の増加を伴う運動を行っている第2の状態の心拍数の増加量と前記第1の状態のエネルギー消費量または酸素消費量に対する前記第2の状態のエネルギー消費量または酸素消費量の増加量である消費増加量とを取得することと、
前記心拍数の増加量と前記消費増加量との比と、前記被験者の年齢とを変数として含む線形結合により前記被験者の最高酸素摂取量を求めることと、を有する方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記最高酸素摂取量を求めることは、以下の式により前記最高酸素摂取量VO2peakを求めることを含む、方法。
VO2peak=c1・ΔV+c2・Age+c0
ただし、ΔVは前記心拍数の増加量と前記消費増加量との比、Ageは前記被験者の年齢、c1、c2およびc0は係数である。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記最高酸素摂取量を求めることは、前記心拍数の増加量と前記消費増加量との比から推定される安静時の心拍数を前記変数としてさらに含む線形結合により前記被験者の最高酸素摂取量を求めることを含む、方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記最高酸素摂取量を求めることは、以下の式により前記最高酸素摂取量VO2peakを求めることを含む、方法。
VO2peak=c1・ΔV+c2・Age+c3・HR0+c0
ただし、ΔVは心拍数の増加量と前記消費増加量との比、Ageは前記被験者の年齢、HR0は推定される安静時の心拍数、c1、c2、c3およびc0は係数である。
【請求項5】
請求項4において、
前記係数c2およびc3は負である、方法。
【請求項6】
請求項2、4または5において、
前記心拍数の増加量と前記消費増加量との比ΔVは、前記エネルギー消費量の増加量ΔEEまたは前記酸素消費量の増加量ΔVO2に対する前記心拍数の増加量ΔHRであり、前記係数c1は負である、方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記第1の状態は安静または低強度の歩行であり、前記第2の状態は中強度の歩行である、方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記取得することは、前記被験者の携帯端末および/またはウェアラブル端末から前記心拍数の増加量および前記消費増加量を取得することを含む、方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、
求められた前記最高酸素摂取量に基づいて前記被験者の体力増進および/または治療用に設定された運動処方を提供することを、さらに有する、方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、
求められた前記最高酸素摂取量に基づいて前記被験者の加齢性疾患症リスクを予測することを、さらに有する方法。
【請求項11】
被験者の最高酸素摂取量を求める体力測定装置を有するシステムであって、
前記体力測定装置は、前記被験者の、第1の状態に対し心拍数の増加を伴う運動を行っている第2の状態の心拍数の増加量と前記第1の状態のエネルギー消費量または酸素消費量に対する前記第2の状態のエネルギー消費量または酸素消費量の増加量である消費増加量とを取得するデータ取得装置と、
前記心拍数の増加量と前記消費増加量との比と、前記被験者の年齢とを変数として含む線形結合により前記被験者の最高酸素摂取量を求める算出装置とを有する、システム。
【請求項12】
請求項11において、
前記算出装置は、以下の式により前記最高酸素摂取量VO2peakを求めるユニットを含む、システム。
VO2peak=c1・ΔV+c2・Age+c0
ただし、ΔVは前記心拍数の増加量と前記消費増加量との比、Ageは前記被験者の年齢、c1、c2およびc0は係数である。
【請求項13】
請求項11または12において、
前記算出装置は、前記心拍数の増加量と前記消費増加量との比から推定される安静時の心拍数を前記変数としてさらに含む線形結合により前記被験者の最高酸素摂取量を求めるユニットを含む、システム。
【請求項14】
請求項13において、
前記算出装置は、以下の式により前記最高酸素摂取量VO2peakを求めるユニットを含む、システム。
VO2peak=c1・ΔV+c2・Age+c3・HR0+c0
ただし、ΔVは心拍数の増加量と前記消費増加量との比、Ageは前記被験者の年齢、HR0は安静時の心拍数、c1、c2、c3およびc0は係数である。
【請求項15】
請求項12または14において、
前記心拍数の増加量と前記消費増加量との比ΔVは、前記エネルギー消費量の増加量ΔEEまたは前記酸素消費量の増加量ΔVO2に対する前記心拍数の増加量ΔHRであり、前記係数c1は負である、システム。
【請求項16】
請求項11ないし15のいずれかにおいて、
前記データ取得装置は、前記被験者のウェアラブル端末および/または携帯端末から前記心拍数の増加量および前記消費増加量を取得する取得装置を含む、システム。
【請求項17】
請求項11ないし16のいずれかにおいて、
求められた前記最高酸素摂取量に基づいて前記被験者の体力増進および/または治療用に設定された運動処方を提供するコンテンツ提供装置をさらに有する、システム。
【請求項18】
請求項11ないし17のいずれかにおいて、
求められた前記最高酸素摂取量に基づいて予測された前記被験者の加齢性疾患症リスクを提供するリスク予測装置をさらに有する、システム。
【請求項19】
コンピュータを、請求項11ないし18のいずれかに記載のシステムとして機能させるための命令を有するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体力(最高酸素摂取量)を求める方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被験者に高負荷を掛けずに簡単に被験者の持久力を算出することが開示されている。被験者に着脱可能に装着される持久力算出装置は、被験者に作用する加速度を測定する加速度センサーと、加速度センサーにより出力された加速度の値に基づいて、被験者に作用する力積を算出するCPUと、被験者が低速から被験者の成し得る最大限の速度で歩行するように促す情報である歩行情報を出力する表示部又はスピーカとを備えている。CPUは、表示部又はスピーカにより歩行情報が出力された後に、算出した力積の最大値に基づいて該力積の最大値と相関関係を持つ被験者の持久力を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-238970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒト(人、人間)の体力(持久力、最高酸素摂取量)は20歳台をピークとし、30歳以降は10歳加齢するごとに5-10%ずつ低下する。この体力低下の主な原因は加齢性筋減少症による。そして、これが高血圧症、糖尿病、肥満、うつ、認知症など加齢性疾患の最も強力なリスク因子とされている。実際、体力の低下と医療費の増加は見事に相関する。したがって、体力向上のために国民が広く利用できる運動処方システムが要望されている。
【0005】
これに対し、出願人は、「インターバル速歩(登録商標)」とIoTを併用した「遠隔型個別運動処方システム」を開発している。インターバル速歩(登録商標)の一例は、個人の最高酸素摂取量の70%以上の速歩と40%の緩歩を3分間ずつ交互に繰り返し、1日30分以上、週4日以上実践するトレーニング方法である。このトレーニング方法は運動継続率が非常に高く、その効果として、体力が向上し、それに比例して高血圧症、高血糖症など生活習慣病の症状、軽度認知障害患者の症状、関節痛、うつ症状が改善するという結果が得られている。その結果、医療費が抑制される。このトレーニング方法は、スマートホンなどの携帯端末用のアプリとして提供されようとしている。
【0006】
出願人は、個人の体力を測定する方法として、すでに「3段階ステップアップ歩行法」を提唱している。従来、個人の持久性体力を測定するには、ジムなどの体力測定用の器具、例えば、自転車エルゴメーター、トレッドミルなどを備えた場所において、運動負荷を漸増させ、個人の最大運動負荷時の酸素消費量を最大(最高)酸素摂取量と定義し、持久性体力の指標としている。
【0007】
一方、最大運動負荷は心停止など測定中の事故も起こりやすいことから、準最大負荷まで負荷を上げ、その際、酸素消費量の増加に比例して心拍数が上昇するという所見と、個人の最大心拍数が年齢によってほぼ一定であるという所見とから、準最大負荷までの酸素消費量と心拍数の関係を、年齢から推定される個人の最大心拍数のラインまで外挿し、その交差する酸素消費量を最高酸素摂取量とする簡易法が用いられている。しかしながら、いずれの場合も、運動負荷量を決定するために酸素消費量(または、運動負荷量:トレッドミルなら走行速度、自転車エルゴメーターなら仕事量(ワット))を測定せねばならず、ジムなどの体育施設において、スタッフの指導の下に測定せねばならない。これには、時間と費用がかかる。
【0008】
また、出願人が検証したところ、年齢から推定する最高心拍数から求められる最高酸素摂取量の精度が不十分であり、特に高年齢者では、その精度が低い。このため、トレーニング方法において目安とする体力の値として適した簡易な体力測定方法が要望されている。
【0009】
出願人が提唱する3段階ステップアップ歩行時のエネルギー消費量に基づく最高酸素摂取量の測定は、携帯型のカロリー計があれば測定でき、従来、ゴールドスタンダードとされている呼気ガス分析法で、別々に測定した場合と比較すると、両者の値が一致することが報告されている。呼気ガス分析法は、安静時、運動時に呼気ガスを採取し、呼吸気量、吸気と呼気のガス組成をそれぞれ測定し、酸素消費量、炭酸ガス産生量を算出する。その値を用いて、糖質と脂質の燃焼方程式から、それぞれの燃焼量を算出し、エネルギー消費量(カロリー量)に変換する。この方法と自転車エルゴメーターとトレッドミルを用いた負荷漸増法との併用が、最高酸素摂取量決定のゴールドスタンダードとされているが、設備が整った環境が必要となる。
【0010】
3段階ステップアップ歩行法は、安静、ゆっくり歩行、中くらい歩行、および最速歩行を、3分間ずつ段階的に負荷を上げ、最速歩行の最後の3分間のエネルギー消費量(酸素消費量)を3軸の加速度計と高度計の出力から求める方法である。呼気ガス分析法に比べ最高酸素摂取量の測定を著しく簡便にすることができ、十分な精度で体力を測定できる。しかしながら、最大まで歩行速度を上げなければならないため、精度保証、安全性確保の面からも、スタッフの管理下で行う必要がある。
【0011】
このように、効果的な体力向上を促す運動トレーニングには、各人の体力(最高酸素摂取量、最大酸素摂取量)を精度よく、簡易に得られることが望ましい。さらに、被験者が低速から最大限の速度で歩行するような、被験者に最大負荷をかけずに、安全に、精度よく、簡易に、持久力(体力)、すなわち、最高酸素摂取量を算出することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、以下のステップを有する方法である。
・被験者の、第1の状態に対し心拍数の増加を伴う運動を行っている第2の状態の心拍数の増加量と前記第1の状態のエネルギー消費量または酸素消費量に対する前記第2の状態のエネルギー消費量または酸素消費量の増加量である消費増加量とを取得すること。
・心拍数の増加量と消費増加量(エネルギー消費量または酸素消費量の増加量)との比と、被験者の年齢とを変数として含む線形結合により被験者の最高酸素摂取量を求めること。
【0013】
発明者らは、日常生活における歩行時のエネルギー消費量または酸素消費量と心拍応答を測定すれば個人の最高酸素摂取量を精度よく推定できることを見出した。すなわち、上述したように、準最大負荷までの酸素消費量と心拍数の関係を、年齢から推定される個人の最大心拍数のラインまで外挿し、その交差する酸素消費量を最高酸素摂取量とする方法は知られている。しかしながら、発明者らが検証したところ、この方法により年齢から推定する最高酸素摂取量の精度が不十分であることが分かった。一方、心拍数の増加量と、エネルギー消費量または酸素消費量の増加量との比と、被験者の年齢とを変数として含む線形結合を用いた方法により推定される体力(最高酸素摂取量)は、精度が十分に高く、かつ、心拍数が増加する程度の運動により体力が推定できる。したがって、被験者が低速から最大限の速度で歩行するような行為を経ずして、簡易に、例えば、中高度または準最大レベルの歩行さえ行えば、持久力(体力)、すなわち、最高酸素摂取量を算出することができる。
【0014】
この方法により体力を求めることができれば、場所と時間とを選ばずに手軽に体力が測定でき、例えば、各個人が、通勤中といった生活の一部で、無理なく、自分の体力を簡便に測定できる。このため、運動に苦手意識を持っている人、運動に興味のない人に対しても、体力の増加に寄与するトレーニングを普及できる。さらに、この体力測定方法において、例えば、歩行速度を変化させることによるエネルギー消費量の変化は、携帯型カロリー計を用いて測定が可能である。携帯型カロリー計は3軸の半導体加速度計と気圧(高度計)を内蔵し、たとえ、高速で傾斜地を歩行しても、エネルギー消費量(酸素消費量)が正確に測定できる装置である。加速度計と気圧計との機能は、直接またはGPS機能により、最近のスマートホンなどの携帯端末は通常備えている機能であり、携帯型カロリー計として機能をスマートホンに実装することは容易である。さらに、運動負荷による心拍数の変化、例えば、歩行速度変化に伴う心拍数の変化については最近のウェアラブル端末、例えば、スマートウォッチ、スマートグラスなどは心拍数を測定する機能(心拍計としての機能)を備えており、携帯端末との組み合わせにより、被験者のエネルギー消費量の変化と心拍数の変化とを容易に測定できる。ウェアラブル端末が脈拍数の測定に加えてGPS機能、通信機能などの携帯端末としての機能を備えているものもあり、心拍計とカロリー計として機能を実装することが可能である。
【0015】
したがって、この方法により、被験者は、わざわざ体力測定をしなくても、日常生活の歩行で自分の体力が容易にわかる測定器を提供でき、本来、運動が必要な人に対して体力向上・加齢性疾患予防のための運動処方(インターバル速歩(登録商標))の普及を図り、健康長寿社会の実現に寄与することができる。
【0016】
この方法において、最高酸素摂取量を求めることは、以下の式(1)により最高酸素摂取量VO2peakを求めることを含んでもよい。
VO2peak=c1・ΔV+c2・Age+c0・・・(1)
ただし、ΔVは心拍数の増加量と消費増加量(消費エネルギー量または酸素消費量の増加量)との比、Ageは被験者の年齢、c1、c2およびc0は係数である。
【0017】
最高酸素摂取量を求めることは、安静時の心拍数を変数としてさらに含む線形結合により被験者の最高酸素摂取量を求めることを含んでもよい。測定対象の運動開始時の心拍数はそれ以前の状態が反映され得る。例えば、安静状態から運動が開始されたときと、ある程度の強度の運動を行った後に、測定対象の運動を行った場合とで、第1の状態の心拍数が変動してもよく、心拍数の増加量と消費増加量との比から推定される安静時の心拍数を考慮することにより、推定される体力の精度をさらに向上できる。したがって、以下の式(2)により前記最高酸素摂取量VO2peakを求めてもよい。
VO2peak=c1・ΔV+c2・Age+c3・HR0+c0・・・(2)
ただし、ΔVは心拍数の増加量と消費増加量との比と、Ageは被験者の年齢、HR0は安静時の心拍数、c1、c2、c3およびc0は係数である。係数c2およびc3は負であってもよい。
【0018】
心拍数の増加量と消費増加量との比ΔVは、エネルギー消費量の増加量ΔEEまたは酸素消費量の増加量ΔVO2に対する心拍数の増加量ΔHRとして以下の式(3)であってもよく、この場合、係数c1は負であってもよい。
ΔV=ΔHR/ΔEE(またはΔVO2)・・・(3)
【0019】
典型的には、第1の状態は安静または低強度の歩行であり、第2の状態は中強度の歩行である。運動の種類は歩行に限らず、サイクリングなどであってもよい。上述したように、エネルギー消費の情報と心拍数の情報とは、被験者のウェアラブル端末により取得してもよく、被験者が保持する携帯端末により取得してもよい。
【0020】
さらに、この方法は、求められた最高酸素摂取量に基づいて被験者の体力増進および/または各種疾病の治療用に設定された運動処方を提供することを含んでもよい。また、この方法は、求められた最高酸素摂取量に基づいて被験者の加齢性疾患症リスクを予測することをさらに含んでもよい。
【0021】
本発明の他の態様の1つは、被験者の最高酸素摂取量を求める体力測定装置を有するシステムである。体力測定装置は、被験者の、第1の状態に対し心拍数の増加を伴う運動を行っている第2の状態の心拍数の増加量と第1の状態のエネルギー消費量または酸素消費量に対する第2の状態のエネルギー消費量または酸素消費量の増加量である消費増加量とを取得するデータ取得装置と、心拍数の増加量と消費増加量との比と、被験者の年齢とを変数として含む線形結合により被験者の最高酸素摂取量を求める算出装置とを有する。このシステムは、携帯端末に実装してもよく、ウェアラブル端末に実装してもよく、これらの端末とインターネットなどを介して通信可能なクラウド上のシステム、例えば、サーバーに実装してもよい。
【0022】
算出装置は、上記式(1)により最高酸素摂取量VO2peakを求めるユニットを含んでもよい。算出装置は、安静時の状態の心拍数を変数としてさらに含む線形結合により被験者の最高酸素摂取量を求めるユニットを含んでもよく、このユニットは、上記式(2)により最高酸素摂取量VO2peakを求めてもよい。
【0023】
このシステムのデータ取得装置は、被験者のウェアラブル端末および/または携帯端末から心拍数の増加量およびエネルギー消費または酸素消費の増加量を取得する取得装置を含んでもよい。このシステムは、求められた最高酸素摂取量に基づいて被験者の体力増進および/または治療用に設定された運動処方を提供するコンテンツ提供装置をさらに有してもよい。このシステムは、求められた最高酸素摂取量に基づいて予測された被験者の加齢性疾患症リスクを提供するリスク予測装置をさらに有してもよい。
【0024】
本発明の他の態様の1つは、コンピュータを、上記に記載のシステムとして機能させるための命令を有するプログラム(プログラム製品)である。プログラムまたはプログラム製品を適当な記録媒体に記録して提供してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】モニタリングシステムの概要を示すブロック図。
図2】3段階ステップアップ歩行により最高酸素摂取量VO2peakを求める方法を示す図。
図3】3段階ステップアップ歩行により求められた最高酸素摂取量VO2peakの推定値と、自転車エルゴメーター負荷漸増法と呼気ガス分析器で求めた最高酸素摂取量VO2peakとの相関を示す図。
図4】心拍数とエネルギー消費量または酸素消費量との関係を説明する図。
図5】若年者および高齢者で得られた心拍数とエネルギー消費量との関係を示す図。
図6】心拍数とエネルギー消費量または酸素消費量と年齢との関係を説明する図。
図7】若年者および高齢者の、心拍数の増加量とエネルギー消費量または酸素消費量の増加量との比ΔHR/ΔEEまたはΔHR/ΔVO2と、年齢Ageとについて得られた回帰式により得られた推定VO2peak(X軸、eVO2peak)を実測VO2peak(Y軸、mVO2peak)に対し示す図。
図8】インターバル速歩トレーニングにおける心拍数の変化とエネルギー消費量の変化とを示す図。
図9】心拍数とエネルギー消費量または酸素消費量と年齢と安静時心拍数との関係を説明する図。
図10】若年者および高齢者の、心拍数の増加量とエネルギー消費量の増加量との比ΔHR/ΔEEと、年齢Ageとについて得られた回帰式により得られた推定VO2peak(X軸、eVO2peak)を実測VO2peak(Y軸、mVO2peak)に対し示す図。
図11】若年者および高齢者の、心拍数の増加量とエネルギー消費量の増加量との比ΔHR/ΔEEと、年齢Ageと、安静時心拍数HR0とについて得られた回帰式により得られた推定VO2peak(X軸、eVO2peak)を実測VO2peak(Y軸、mVO2peak)に対し示す図。
図12】アプリケーションにより最高酸素摂取量VO2peakを取得するプロセスを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に、人の活動をモニタリングするシステムの一例の概要を示している。このシステム(モニタリングシステム)1は、ユーザー(被測定者、被験者、受験者)2に装着される携帯型またはウェアラブルの端末(ユーザー端末)10と、クラウド9、例えばインターネットなどのコンピュータネットワークを介して端末10と接続されたサーバーシステム50とを含む。端末10は、皮膚に装着して心拍数を測定できる腕時計型のスマートウォッチ10aや、眼球の血管をモニターして心拍数を測定できる眼鏡型のスマートグラス10cなどであってもよく、これらとスマートホン10bとの組み合わせであってもよい。活動量をモニタリングするシステム1は、端末(端末セット)10のみで提供されてもよく、クラウド9を介してサーバーシステム50でデータを蓄積し、後日、さらに詳しく、またはアップデートされた方法により解析されるシステムとして提供されてもよい。端末10は、ユーザー2の身体に装着したり、身体の一部の動き、特に血管の動きをモニターできる機能を含む携帯端末であればよく、腕時計型や、眼鏡型に限られない。
【0027】
端末10は、センサー群11と、センサー群11から得られたデータを処理する機能を含むプロセッサ12と、入出力を行うユーザーインターフェイス13と、携帯電話網などを介してクラウド9に接続可能な通信ユニット14と、メモリー15とを含む。センサー群11は、3軸加速度センサー11a、高度計11b、脈拍計(心拍計)11c、体温計11dなどを含む。高度を測定するセンサー(第1のセンサー)11bの一例は、気圧計である。
【0028】
プロセッサ12では、メモリー15にダウンロードされたソフトウェア(以下で説明する処理を実行する命令を含むプログラム)15aを展開することにより様々な機能が提供される。プロセッサ12により提供される機能の1つは、ユーザーアプリケーション(トレーニングアプリケーション)29であり、ユーザー2の活動状況をモニタリングする機能(モニタリングユニット)20と、モニタリングされたデータを用いて体力を測定する機能(体力測定装置、最高酸素摂取量算出ユニット、算出装置)21とを含む。
【0029】
モニタリングユニット(モニター)20は、センサー群11から所定の測定データ16を取得して、測定データ16をメモリー15に一時的に格納する測定ユニット(データ取得装置、取得装置、センサーインターフェイス)25と、ユーザー2の活動の種別を判断して、活動形態に基づいて所定の推定式によりエネルギー消費量EEまたは酸素消費量VO2を推定する消費量推定ユニット(消費量モニター)27と、推定値および推定に用いられたセンサーの測定値を含めた測定データ16を、通信ユニット14を介してサーバーシステム50に提供するユニット28と、求められたエネルギー消費量または酸素消費量などを、ユーザーインターフェイス13を介してユーザー2に提供する出力ユニット26とを含む。
【0030】
ユーザー2の活動種別(活動形態)は例えば、加速度センサー11aの測定結果より自動的に判断してもよく、ユーザー2が選択または入力してもよく、ユーザー2の生活習慣などから自動的に判断してもよい。活動種別には、例えば、歩行中3a、サイクリング中(自転車アップライト)3b、自家用車あるいは他の交通機関で移動中、休憩中などが含まれ、各活動種別により消費量モニター(エネルギー消費量モニター、酸素消費量モニター)27または体力測定ユニット(最高酸素摂取量算出ユニット)21において、算出に影響する運動要素、例えば体位が選択されてもよい。
【0031】
消費量モニター27においては、センサーインターフェイス25により得られたセンサーのデータから酸素消費量VO2および/またはエネルギー消費量EEを推定する。推定方法については、本願の発明者らが特開2008-220517号公報および特開2019-13731号公報において開示している。すなわち、ユーザー2が徒歩で移動中の歩行中の酸素消費量eVO2Wは以下の式(4)により推定できる。
eVO2W=w11・VM+w12・Hu+w13・Hd・・・(4)
0.022≦w11≦0.070・・・(5)
0.770≦w12≦1.886・・・(6)
0.098≦w13≦1.082・・・(7)
ただし、酸素消費量eVO2の単位は、ml/kg/min、累積加速度VMの単位はG/minであり加速度センサー11aのデータから算出でき、上昇量Huの単位はm/min、下降量Hdの単位はm/minであり高度計11bから算出できる。係数w11の単位はml/kg/G、係数w12およびw13の単位はml/kg/mである。係数w11の一例は0.044であり、係数w12の一例は1.365であり、係数w13の一例は0.553である。
【0032】
サイクリング中の酸素消費量eVO2Cは以下の式(8)により推定できる。
eVO2C=w21・VM+w22・Hu+w23・Hd・・・(8)
0.048≦w21≦0.210・・・(9)
0.463≦w22≦2.605・・・(10)
0.020≦w23≦0.602・・・(11)
係数w21の単位はml/kg/G、係数w22およびw23の単位はml/kg/mである。係数w21の一例は0.129、係数w22の一例は1.534、係数w23の一例は0.311である。
【0033】
これらの酸素消費量eVO2WおよびeVO2Cと、被測定者の体重Wとを含む以下の式(12)により単位時間当たりのエネルギー消費量EEを求めることができる。
EE=k1・W・(eVO2W+eVO2C)・・・(12)
ただし、エネルギー消費量CALの単位はkcal/min、体重Wの単位はkg、カロリー変換係数k1の単位はkcal/mlである。カロリー変換係数k1の一例は、4.825である。
【0034】
体力測定ユニット(体力測定装置)21は、測定データ16の中から、最高酸素摂取量算出に要するモニターデータ17、本例では心拍数HRおよびエネルギー消費量EEを取得する(抽出する)機能(データ取得ユニット、データ取得装置)22と、心拍数HRとエネルギー消費量EEとに基づきユーザー2の最高酸素摂取量(最大酸素摂取量、最大酸素消費量、VO2peak)19を算出する機能(VO2peak算出ユニット、算出装置)23とを含む。具体的には、データ取得ユニット22は、被験者(ユーザー)2の、第1の状態に対し心拍数HRの増加を伴う運動を行っている第2の状態の心拍数HRの増加量ΔHRと、第1の状態のエネルギー消費量または酸素消費量に対する第2の状態のエネルギー消費量または酸素消費量の増加量である消費増加量とを取得する。以下では、エネルギー消費量EEの増加量ΔEEを例に説明するが、酸素消費量の増加量に基づき算出してもよい。算出ユニット23は、心拍数の増加量ΔHRと消費増加量ΔEEとの比ΔVと、被験者の年齢Ageとを変数として含む線形結合の式(1)または(2)により被験者2の最高酸素摂取量VO2peakを求める。メモリー15には、最高酸素摂取量算出、エネルギー消費量の算出などに要するユーザーの属性情報150が記録されており、それぞれの算出処理において参照される。属性情報150の一例は、年齢、体重であり、本例においては、最高酸素摂取量算出において年齢Ageが参照され、エネルギー消費量の算出において体重Wが参照される。
【0035】
クラウド9を介して端末10と通信可能なサーバーシステム50は、クラウド9を介して測定データ16を受信するインターフェイス51と、測定データ16などを格納するデータベース52と、端末10から提供される情報、例えば測定データ16に基づきユーザー2の活動を解析するユニット54と、測定データ16および解析ユニット54の処理結果に基づいてユーザー2に活動方針などについてのアドバイスを行うサービスプロバイダ(アドバイザー)ユニット53とを含む。解析ユニット54は、端末10のモニタリングユニット20と、体力測定ユニット21との機能を備えていてもよい。
【0036】
アドバイザーユニット(アドバイザー)53は、定期的にデータベースに格納された、各ユーザーの体力(最高酸素摂取量)19、エネルギー消費量の履歴52aなどを参照し、各ユーザー2が計画したスケジュールとエネルギー消費量との差をアドバイスしたり、過剰または過少なエネルギー消費に対するアラームを提供したり、生活環境・活動環境のアドバイスを提供するなどの機能を含む。アドバイザー53は、求められた最高酸素摂取量19に基づいてユーザー(被験者)2の体力増進および/または治療用に設定された運動処方を提供するコンテンツ提供装置53aを含んでいてもよい。また、アドバイザー53は、求められた最高酸素摂取量19に基づいて予測されたユーザー(被験者)2の加齢性疾患症リスクを提供するリスク予測装置53bを含んでいてもよい。
【0037】
体力は20歳代をピークとし、それ以降、10歳加齢するごとに10%ずつ低下すると言われており、この体力低下と医療費とに相関があることが知られている。したがって、もし運動処方により、10%体力が向上すれば、20%医療費が削減できる。これを目指して、これまで1日一万歩が推奨されてきた。しかしながら、この方法は、個人の体力にあった運動処方ではなく、運動強度が考慮されていない。そのため、体力が上がらない、という問題が指摘されている。
【0038】
一方、体力の向上には、ジムでマシントレーニングを行うのが、国際標準である。この際、呼気ガス分析によりVO2peakを測定し、トレーニング強度を決定する。しかしながら、場所と時間の制約があり、トレーニングのための費用を考えると必ずしも誰でもできるという方法ではない。それに対して、発明者らは、インターバル速歩トレーニング(IWT(登録商標))を提唱している。
【0039】
IWTを始めとする体力増進トレーニングを実施する上での1つの課題は、最大体力(最高酸素摂取量VO2peak)を求めることである。従来、最高酸素摂取量VO2peakは、ジムで自転車エルゴメーター、トレッドミルなどの運動負荷装置を用い、負荷漸増し、個人の最大値まで追い込んだときの酸素消費量から求めることがルーチンであった。これに対し、本願の発明者らは、まず、体育館などのフィールドで3段階ステップアップ歩行を実施し、その際の運動量を携帯型カロリー計で測定した値と従来のマシンを使った値が一致することを明らかにし、わざわざジムに行かなくてもフィールドで簡便に最高酸素摂取量VO2peakが測定できることを明らかにした。
【0040】
図2に、3段階ステップアップ歩行により最高酸素摂取量VO2peakを求める方法を示している。この方法では、被験者に低速111、中速112、高速113で歩いてもらい、最高速で歩いている際の最後の1分の酸素摂取量115を加速度計から推定し、最高酸素摂取量VO2peakとする。具体的には、体育館など平らな床面が確保できる場所で、被験者に携帯型カロリー計を腰に装着させ、安静、ゆっくり111、中くらい112、最大の速さ113の歩行を3分間ずつ段階的に負荷し,最大の速さで歩いたときの最後の1分間のエネルギー消費量を個人の最高酸素摂取量(最大運動強度)VO2peakとし、その際の心拍数116を最高心拍数とする。
【0041】
図3に、本願の発明者らが測定した、3段階ステップアップ歩行により求められた最高酸素摂取量VO2peakの推定値を、自転車エルゴメーター負荷漸増法と呼気ガス分析器で求めた最高酸素摂取量VO2peakに対してプロットした結果を示している。両者が非常によく相関していることがわかる。3段階ステップアップ歩行法によれば、呼気ガス分析器が不要であり、簡単に最高酸素摂取量VO2peakを得ることができる。したがって、以降においては、3段階ステップアップ歩行により求められた最高酸素摂取量VO2peak(以降においてmVO2peakとして参照)を実測値として、心拍数の変化に基づき算出される最高酸素摂取量VO2peak(以降においてeVO2peakとして参照)の推定値と比較する。
【0042】
3段階ステップアップ歩行により求められる最高酸素摂取量mVO2peakは十分に精度も高く、従来の方法と比較すると簡易であるが、被験者2が、体育館などに出かけて、最大体力を発揮する状態まで追い込まないといけないという条件がある。体力測定のための時間、労力および最高心拍数までの運動が要求されることを考えれば、生活の中で、無理せずに、さらに簡単に最高酸素摂取量VO2peakが得られることが望ましい。
【0043】
図4(a)に、軽強度(低強度)の運動を行った状態(第1の状態)の心拍数HR1およびエネルギー消費量EE1と、中強度の運動を行った状態(第2の状態)の心拍数HR2およびエネルギー消費量EE2のそれぞれの増加量ΔHRおよびΔEEの関係を示している。軽強度の運動の一例はゆっくり歩き(自転車運動の場合は軽強度運動)であり、中強度の運動の一例は中速歩行(自転車運動の場合は中強度運動)である。この図に示すように、ΔHR/ΔEEが小さいほど高体力者であることが予想される。また、最大心拍数HRmaxは、以下の式(13)で得られると考えられている。
HRmax=220-Age・・・(13)
したがって、最大心拍数HRmaxは、個人の最高酸素摂取量に関係なくほぼ一定であるならば、図4(b)に示すように、ΔHR/ΔEEは、最高酸素摂取量と逆相関関係となることが期待できる。
【0044】
図5は、高齢者76名、若年者13名について、高齢者の場合は、3分間のゆっくり歩きのあと3分間の中速歩行を実施した際のΔHR/ΔEEの値と、別途、3段階ステップアップ歩行で測定した最高酸素摂取量mVO2peakとの関係を示す。若年者の場合は、軽強度、中強度で自転車運動をした時のΔHR/ΔEEの値と、別途、呼気ガス分析法で測定した最高酸素摂取量との関係を示す。両者に一応有意相関を認めるが、回帰式の95%予測限界が広くその推定精度は低い。すなわち、最大心拍数HRmaxは、個人の最高酸素摂取量に関係なくほぼ一定であるならば、年齢が近い若年者および高齢者のそれぞれにおいて逆相関関係が強く表れるはずであるが、そのような傾向はほとんど見られない。したがって、準最大負荷までの酸素消費量と心拍数の関係を、年齢から推定される個人の最大心拍数のラインまで外挿し、その交差する酸素消費量を最高酸素摂取量とする従来の簡易的な手法は精度が低く、トレーニング強度を決定したり、トレーニングメニューを作成するための体力として参照することが難しいことが見いだされた。
【0045】
図6(a)に示すように、個人の最高心拍数HRmaxは年齢Ageによって低下する。このため、ΔHR/ΔEEまたはΔHR/ΔVO2が同じであっても、年齢が上がれば最高酸素摂取量は低下するはずである。したがって、図6(b)に示すように、年齢Ageは、最高酸素摂取量と逆相関関係となることが期待できる。
【0046】
図7に、重回帰分析によって、年齢Ageの補正を行った結果を示している。ここでは、増加量の比ΔVとして心拍数の増加量ΔHRとエネルギー消費量の増加量ΔEEとの比ΔHR/ΔEEと、Age(年齢)を独立変数とし、3段階ステップアップ歩行(高齢者)または自転車エルゴメーターを用いた負荷漸増時の呼気ガス分析法で測定した(若年者)最高酸素摂取量(mVO2peak)を従属変数として、重回帰式を決定した。図7は、その重回帰式で求めた推定最高酸素摂取量(eVO2peak(L/min))と、参照した最高酸素摂取量mVO2peakとの関係を示す。回帰式の95%予測限界が狭く、その推定精度は改善した。回帰式は以下の式(A)で表される。最高酸素摂取量(mVO2peak(L/min))は、エネルギー消費量の増加量ΔEEの代わりに、酸素消費量の増加量ΔVO2を用いて求めてもよい。以下においても同様である。
eVO2peak=-0.071・(ΔHR/ΔEE)-0.036・Age
+4.715・・・(A)
回帰式(A)により得られた推定eVO2peakと実測mVO2peakとの相関の決定係数Rは0.7638(p<0.001)であり、図5に示した相関の決定係数Rが0.2145(p<0.001)であったの対し、大幅に精度が向上することがわかる。したがって、消費増加量比ΔVと年齢Ageとの線形結合による、式(1)により、精度よく最高酸素摂取量VO2peakが推定できることがわかる。
VO2peak=c1・ΔV+c2・Age+c0・・・(1)
最高酸素摂取量(最大酸素消費量)VO2peak(以降においては、最高酸素摂取量の推定値としてeVO2peakと記載することがある)の単位はL/min、心拍数HRの単位は拍/min(bpm)、エネルギー消費量の単位はkcal/min、消費増加量比ΔVの単位はΔHR/ΔEEであればbpm/kcal、係数c1の単位はL・kcal/bpm/min、係数c2およびc0の単位はL/minである。係数c1およびc2は負であり、係数c0は正である。式(A)に示した各係数は一例であり、それぞれ、以下の式(1-1)から(1-3)を満たしてもよい。
-0.11<c1<-0.02・・・(1-1)
-0.05<c2<-0.02・・・(1-2)
4.0<c0<6.0・・・(1-3)
【0047】
心拍数HRの変化はウェアラブル端末10aの脈拍計11cから得ることができ、エネルギー消費量EEは携帯端末またはウェアラブル端末10aの加速度計11aおよび高度計(気圧計)11bの値から得ることできる。しがって、体力測定ユニット21において式(1)を用いて最高酸素摂取量を求めることにより、日常生活における歩行あるいはその他の限られた強度の運動により個人の体力を簡単に測定(推定)するシステムおよび方法を提供できる。
【0048】
個人が主観的に“ややきつい”と感じる歩行を、連続2~3分間程度あるいはそれ以上行い、その間の単位時間当たりの酸素・エネルギー消費量を携帯端末またはウェアラブル端末10aの携帯型カロリー計としての機能で測定し、心拍数を心拍計としての機能で測定すれば、個人の持久性体力(最高酸素摂取量)が精度よく推定できる。したがって、各人が、例えば通勤中といった生活の一部で、無理なく、自分の体力を簡便に測定できる。日常生活の中の「個人がややきついと感じる中速歩行」とは、ボルグ指数を用いて表現してもよい。ボルグ指数は、最も楽な状態を0-1点、もう駄目だ、と思う最大値を9-10点としており、ややきついと感じる運動は、その6-7点ぐらいの速度での歩行運動であってもよい。
【0049】
図8はインターバル速歩中の心拍数HRとエネルギー消費量EEとの関係の一例を示す。図のEEbase、EEmaxは、それぞれ、ゆっくり歩き、中速歩きの時のエネルギー消費量、HRbase、HRmaxは、それぞれ、ゆっくり歩き、中速歩きの時の心拍数を表し、base1、max3などのように付記される数字は、それぞれ、1回目、3回目のトライアルを示す。なお、インターバル速歩は速歩を用いたトレーニング(インターバル速歩トレーニング)であり、ゆっくり歩きと中速歩行を3分間ずつ交互に繰り返す歩行トレーニングである。ゆっくり歩きは個人の最高酸素摂取量の40%程度を目標とし、中速歩行は70%以上を目標とする。
【0050】
図8(b)に示すように、エネルギー消費EEにおいては、速歩を繰り返した際の、ゆっくり歩きのエネルギー消費量EEbaseは1回目に比べ5回目がわずかに上昇、中速歩行のエネルギー消費量EEmaxは1回目、5回目は変わらない。一方、図8(a)に示すように、ゆっくり歩きの心拍数HRbaseおよび中速歩行の心拍数HRmaxはともに、1回目に比べ5回目で上昇している。したがって、ゆっくり歩きの時と、中くらい歩きの時のエネルギー消費量EEの差ΔEEと、心拍数HRの差ΔHRとの比ΔHR/ΔEEは、1回目に比べ5回目で低下する。すなわち、ゆっくり歩きの時の心拍数HRが上昇するほど、比ΔHR/ΔEEは低下する。このゆっくり歩きの時の心拍数HRの上昇は、エネルギー消費量EEのわずかな上昇の影響もあるが、むしろ、それまでの歩行継続によって代謝が亢進し体熱蓄積がおこり、それによって体温が上昇したためと考えられる。
【0051】
図9(a)は、安静時心拍数HR0と比ΔHR/ΔEEの関係を示している。安静時心拍数HR0はゆっくり歩きと中速歩行時のエネルギー消費量EEと心拍数HRの直線回帰式のY切片(X=0まで外挿)で決定する。その理由は、ゆっくり歩き時にはエネルギー消費量EEはゼロではなく、それによって心拍数HRは影響を受けるが、エネルギー消費量EEがゼロの時は、体が動いていない状態でその影響を無視できるからである。すなわち、この時の心拍数HR0は安静時代謝(体温)のみを反映している。したがって、図9(b)に示すように、安静時心拍数HR0は、比ΔHR/ΔEEと逆相関関係となることが期待できる。
【0052】
図10に、図7に示した実測最高酸素摂取量mVO2peakと、式(A)による推定最高酸素消費量eVO2peakとの関係に、5回目のトライアルから式(A)により推定された推定最高酸素消費量eVO2peakを白抜きのマークにより示している。なお、黒のマークは1回目のトライアルを示している。1回目のトライアルに比べ5回目のトライアルのデータポイントが若干回帰式ラインの下方に分布していることがわかる。
【0053】
図11に、重回帰分析によって、安静時心拍HR0の補正を行った結果を示している。ここでは、増加量の比ΔVとして心拍数の増加量ΔHRとエネルギー消費量の増加量ΔEEとの比ΔHR/ΔEEと、Age(年齢)と安静時心拍数HR0とを独立変数とし、3段階ステップアップ歩行(高齢者)または自転車エルゴメーターを用いた負荷漸増時の呼気ガス分析法で測定した(若年者)最高酸素摂取量(mVO2peak)を従属変数として、重回帰式を決定した。回帰式は以下の式(B)で表される。
eVO2peak=-0.09681・(ΔHR/ΔEE)-0.03878・Age
-0.01587・HR0+6.170・・・(B)
回帰式(B)により得られた推定最高酸素摂取量eVO2peakと実測最高酸素摂取量mVO2peakとの相関の決定係数Rは5回目のトライアルも含めて、0.7979(p<0.001)であり、図7に示した相関の決定係数よりもさらに精度が向上することがわかる。したがって、消費増加量比ΔVと年齢Ageと安静時心拍数HR0との線形結合による、式(2)により、さらに精度よく最高酸素摂取量VO2peakが推定できることがわかる。
VO2peak=c1・ΔV+c2・Age+c3・HR0+c0・・・(2)
安静時心拍数HRの単位は拍/min(bpm)、係数c3の単位はL/bpm、係数c1、c2およびc3は負であり、係数c0は正である。式(B)に示した各係数は一例であり、それぞれ、以下の式(2-1)から(2-4)を満たしてもよい。
-0.14<c1<-0.05・・・(2-1)
-0.05<c2<-0.02・・・(2-2)
-0.03<c3<0.00・・・(2-3)
4.6<c0<7.6・・・(2-4)
【0054】
安静時心拍数HR0を独立変数として含む式(2)を用いて最高酸素摂取量VO2peakを推定することにより、1回目のトライアルのデータのみからではなく、その後に繰り返されるゆっくり歩きの時と、中くらい歩きの時のデータから最高酸素摂取量VO2peakを推定することが可能となり、例えば、通勤途中、散歩途中に、個人が思い立った時、「ややきつい」中速歩きを2分間以上実施すれば、すなわち、第1の状態に対し心拍数HRの増加を伴う運動を行っている第2の状態を実現することにより、その以前の「軽動作(ゆっくり歩き)の履歴を問わず」、個人の持久性体力(最高酸素摂取量)を精度よく測定できる。
【0055】
端末10に実装されたトレーニングアプリケーション29は、モニタリングユニット20および体力測定ユニット21と連動してインターバル速歩トレーニングIWTの実施を被験者2にガイドするインターバル速歩トレーナ機能(インターバル速歩トレーナユニット、IWTユニット)30を含んでもよい。体力測定ユニット21は、加速度センサー11a、高度計11bおよび心拍計11cより得られたデータにより、上述したように、IWTの運動中に最高酸素摂取量を計算することができる。IWTユニット30は、普通歩行をガイドする第1のユニット31と、速歩をガイドする第2のユニット32と、IWTの履歴やIWTによるエネルギー消費量を管理するマネージメントユニット33とを含んでもよい。第1のユニット31は、数10m秒程度の適当な間隔で酸素消費量VO2を推定し、普通歩行の継続時間を管理し、所定の時間、例えば3分が経過すると、速歩への移行を促すガイドを出力する。第2のユニット32は、求められた酸素消費量VO2が体力測定ユニット21により求められた最高酸素摂取量VO2peakの70%を超えると、その速度を維持することを、音声などを用いてガイドし、その後、所定の時間、例えば3分が経過すると、最高酸素摂取量VO2peakの40%以下を目標とする普通歩行へ移行することを促すガイドを出力する。この端末10においては、体力測定ユニット21により随時、被験者(ユーザー)2の最高酸素摂取量VO2peak19を測定し、その値を更新することができる。このため、被験者2のその時の状態に合致した条件でIWTをガイドすることができ、被験者2に無理なく、また、体力の増強が見込まれる強度で、IWTを実施させることができる。
【0056】
図12に、本例のアプリケーション29において体力測定ユニット21により体力を測定し、運動処方などを提供するプロセスをフローチャートにより示している。ステップ71において、モニタリングユニット20により第1の状態、例えば、ゆっくり歩きの心拍数HR1と、エネルギー消費量EE1または酸素消費量VO2とを取得する。ステップ72において、心拍数が上昇したと判断すると、ステップ73において、運動強度が高い第2の状態、例えば、中くらい歩き(ややきつい運動)の心拍数HR2と、エネルギー消費量EE2または酸素消費量VO2とを取得する。2-3分の適当な時間、第2の状態が継続し、平均化などによりある程度精度の高いデータが取得できると、ステップ74において体力測定ユニット21は、心拍数の増加量ΔHRと、エネルギー消費量の増加量ΔEEまたは酸素消費量の増加量ΔVO2とを取得し、ステップ75において、これらの値の比ΔHR/ΔEEまたはΔHR/ΔVO2、ユーザーの年齢Ageを独立変数として線形結合した式(1)、必要であれば安静時の心拍数HR0を独立変数に含めて線形結合した式(2)により体力(最高酸素摂取量VO2peak)を算出する。
【0057】
ステップ76において、算出された体力に基づき、運動処方の作成または変更が求められる場合は、ステップ77において運動処方を提供する。運動処方はサーバー50から提供されてもよい。サーバー50のアドバイザー53のコンテンツ提供装置53aは、体力測定ユニット21により求められた最高酸素摂取量VO2peak19に基づいて被験者2の体力増進および/または治療用に設定された運動処方をユーザー2の端末10を介して提供してもよい。加齢による最高酸素消費量の低下は、生活習慣病をはじめとする加齢性疾患発症の最も高いリスクファクターと考えられている。運動処方として、上述したインターバル速歩メニューを提供することにより体力が最大20%向上し、生活習慣病の症状が20%改善、医療費が20%抑制されることが発明者らにより実証されている。
【0058】
治療用の運動処方が提供可能な診療科には、以下が挙げられる。これらの科の「慢性期外来診療」の治療の一手段として導入される可能性が高い。
・心不全患者の慢性期治療手段として:現在、心不全患者は、120万人とされ、今後20年間に130万にまで増加するといわれている。慢性期の心不全患者の治療として、最も有効なのは「ややきつい」と感じる中強度の運動処方であるが、実際の運動トレーニングは、病院付属のリハビリテーション科などの体育施設で行われている。しかしながら、増加する心不全患者には対応しきれていないのが現状である。そこで、心電図(心拍数)モニター装置(機能)を備えた端末10に実装されたトレーニングアプリケーション29により「ややきつい」と感じる中強度の運動処方に基づく運動療法、典型的にはインターバル速歩トレーニングを提供できる。
・糖尿病患者の慢性期治療手段として:現在、糖尿病患者は、予備軍も入れれば1000万人とされ、今後さらに増加するといわれている。糖尿病の治療として、最も有効なのは「ややきつい」と感じる中強度の運動処方であるが、医療機関においてそのための系統だった医療サービスは行われていない。この疾患の治療用としても、上記と同様に、端末10に実装されたトレーニングアプリケーション29による運動処方が適用できる。
【0059】
その他の疾患に対する治療手段として、活用が期待できる臨床分野としては、うつ病、軽度認知障害、変形性関節症・骨粗鬆症などの慢性整形外科疾患、腎不全症患者などを挙げることができる。
【0060】
ステップ78において疾患症リスクの提示が要求される場合は、ステップ79において疾患症リスクを予測する。疾患症リスクはサーバー50から提供されてもよい。サーバー50のアドバイザー53のリスク予測装置53bは、個人の将来の加齢性疾患の発症リスクを個人にフィードバックしてもよい。このトレーニングアプリケーション29においては、インターバル速歩の速歩に相当する「やきつい」と感じる中速歩きを連続2-3分間行うようにすれば、本発明の重回帰式(1)または(2)を用いることで、わざわざ3段階ステップアップ歩行をしなくても、個人が自分の体力を知ることができる。その結果を、医療情報解析企業の保有するデータベースと紐づけすることにより、個人の将来の加齢性疾患の発症リスクを個人にフィードバックできる。現在、医療情報解析企業が用いている一般的なリスクファクターは「年齢」であるが、本発明によって、個人の最高酸素摂取量がわかれば、既に公表されている年齢VS最高酸素摂取量の関係から「体力年齢」がわかり、これを、医療情報解析企業の保有するデータベースにおいて、年齢を体力年齢と置き換えれば、個人の将来の加齢性疾患の未来予測精度が一段に向上する。さらに、当面、医療情報解析企業のデータベースと紐づけしてインターバル速歩の効果の未来予測を個人にフィードバックするが、同トレーニングの実施者が増えるにしたがって自分たちのデータベースに基づいてフィードバックすることが可能となる。これによって、インターバル速歩効果の予測精度が著しく向上する。
【0061】
このように、トレーニングアプリケーション29を利用して、インターバル速歩をはじめとする体力向上のための運動習慣を、各種自治体、企業健保組合、生命保険会社、病院の健診センター(特定健診・特定保健指導)などと契約を結んで事業を発展させることが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
10 ユーザー端末、 21 体力測定ユニット
29 トレーニングアプリケーション
図1
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図9
図10
図11
図12