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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162800
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】車両の前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 37/02 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
B62D37/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067800
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】鵜野 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】大段 清二
(72)【発明者】
【氏名】池田 敬
(72)【発明者】
【氏名】岡本 哲
(72)【発明者】
【氏名】森川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】中田 章博
(72)【発明者】
【氏名】油目 雅史
(57)【要約】
【課題】デフレクタの外形縁部から剥離する高速の空気と、フロントホイールハウス内の低速の空気との間に、風速差に起因して発生する渦を抑制することができる車両の前部構造の提供を目的とする。
【解決手段】フロントホイールハウス20前方においてフロントバンパフェイス10の下面より下方に突出するデフレクタ30を備える車両の前部構造であって、デフレクタ30は、デフレクタ30前部において、デフレクタ30内部の空間に空気を導入する導風部38と、導風部38と連通し、デフレクタ30直後方の車両正面視でタイヤ21に対向しない領域αにおいて、デフレクタ外形縁部37d,37eから剥離する空気の風速より低速度で、かつ、フロントホイールハウス20内の空気の風速より高速度となる中速度の風速を有する空気の流れを生じる中速風生成孔部39と、を備えたことを特徴とする。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントホイールハウス前方においてフロントバンパフェイスの下面より下方に突出するデフレクタを備える車両の前部構造であって、
上記デフレクタは、該デフレクタ前部において、当該デフレクタ内部の空間に空気を導入する導風部と、
上記導風部と連通し、上記デフレクタ直後方の車両正面視でタイヤに対向しない領域において、デフレクタ外形縁部から剥離する空気の風速より低速度で、かつ、上記フロントホイールハウス内の空気の風速より高速度となる中速度の風速を有する空気の流れを生じる中速風生成孔部と、を備えたことを特徴とする
車両の前部構造。
【請求項2】
上記中速風生成孔部は、上記デフレクタの後面部において、当該デフレクタの外形縁部に沿った形状に形成される
請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
上記デフレクタの後面部は車両後面視で略四角形状であり、
上記中速風生成孔部は上記後面部の車幅方向内側下部の角部を含むL字形状に形成される
請求項2に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
上記デフレクタは、該デフレクタ内部に設けられ上記導風部から導入した空気を上記中速風生成孔部に案内するガイド部と、
該デフレクタ直後方の車両正面視でタイヤに対向する領域において、上記導風部から導入した空気を、車両後側に向かって車幅方向外側に斜めに排出する外側孔部と、を備え、
上記ガイド部の前端は上記導風部の後方で、かつ、車幅方向内側端部と車幅方向外側端部との間に位置する
請求項1~3の何れか一項に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
上記ガイド部は車両前後方向に延びて後端が上記外側孔部と上記中速風生成孔部との車幅方向における間に位置する
請求項4に記載の車両の前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロントホイールハウス前方においてフロントバンパフェイスの下面より下方に突出するデフレクタを備える車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空力性能の改善を図る目的で、フロントホイールハウスの前方においてフロントバンパフェイスの下面よりも下方に突出するデフレクタ(詳しくは、フロントタイヤデフレクタ)を設けた車両の前部構造が知られている。
【0003】
しかしながら、車両走行時に、上記デフレクタの外形縁部から剥離した高速の空気の流れが、フロントホイールハウス内の圧力の低い低速の空気の流れの空間に流れ込もうとして、渦が発生してしまい、空力性能が低下するという問題点があった。
【0004】
ところで、特許文献1には次のようなデフレクタが既に発明されている。
すなわち、このデフレクタは、車両前方に向けて開口し、かつ、車両の前進走行時にデフレクタの内部空間に空気を取入れるための導風部と、導風部から上記内部空間に取入れた空気を、内部空間内で車両後方かつ車幅方向外側に指向させるガイド部と、タイヤに対向する領域において車両後方に向けて開口し、内部空間の空気を車両後方に向けて車幅方向外側に斜めに排出する外側孔部とを備えたものである。
【0005】
この特許文献1に開示された従来構造においては、フロントバンパフェイスの外側後縁から剥離した高速の走行風がフロントホイールハウスの外側からフロントホイールハウス内に入り込むことを抑制することができる。
【0006】
しかしながら、該従来構造においては、デフレクタの外形縁部から剥離した高速の床下走行風がフロントホイールハウスの下側および車幅方向内側から該フロントホイールハウス内に流れ込もうとするのを、抑制することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020―104576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、デフレクタの外形縁部から剥離する高速の空気と、フロントホイールハウス内の低速の空気との間に、風速差に起因して発生する渦を抑制することができる車両の前部構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による車両の前部構造は、フロントホイールハウス前方においてフロントバンパフェイスの下面より下方に突出するデフレクタを備える車両の前部構造であって、上記デフレクタは、該デフレクタ前部において、当該デフレクタ内部の空間に空気を導入する導風部と、上記導風部と連通し、上記デフレクタ直後方の車両正面視でタイヤに対向しない領域において、デフレクタ外形縁部から剥離する空気の風速より低速度で、かつ、上記フロントホイールハウス内の空気の風速より高速度となる中速度の風速を有する空気の流れを生じる中速風生成孔部と、を備えたものである。
上述のデフレクタ外形縁部とは、デフレクタの底面部とデフレクタの車幅方向内側の側面部とを指す。
【0010】
上記構成によれば、中速風生成孔部から流出する中速度の風速を有する空気の流れ(中速風)が、デフレクタ外形縁部から剥離する空気の高速度領域の空間と、フロントホイールハウス内の空気の低速度領域の空間との上下方向間に生じる。
【0011】
このため、高速度領域の風速と、低速度領域の風速との間の速度差が小さくなり、渦の生成を抑制できるため、エネルギ損失(いわゆる、エネルギロス)が改善される。
【0012】
換言すれば、車両走行時にデフレクタ外形縁部から剥離した高速の空気の流れが、フロントホイールハウス内の圧力の低い低速の空気の流れの空間に、車両下側および車幅方向内側から流れ込もうとするのを、上記中速風にて抑制でき、渦の発生を抑制することができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記中速風生成孔部は、上記デフレクタの後面部において、当該デフレクタの外形縁部に沿った形状に形成されるものである。
上記構成によれば、中速風生成孔部がデフレクタ後面部のデフレクタ外形縁部に沿っているので、中速風はデフレクタ外形縁部に沿って形成される。これにより、当該外形縁部から剥離する高速流れが、フロントホイールハウス内の空間に流れ込もうとするのを、上記中速風にて効率よく抑制することができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記デフレクタの後面部は車両後面視で略四角形状であり、上記中速風生成孔部は上記後面部の車幅方向内側下部の角部を含むL字形状に形成されるものである。
上記構成によれば、簡単な構成でありながら、中速度の風速を有する空気の流れを発生させることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記デフレクタは、該デフレクタ内部に設けられ上記導風部から導入した空気を上記中速風生成孔部に案内するガイド部と、該デフレクタ直後方の車両正面視でタイヤに対向する領域において、上記導風部から導入した空気を、車両後側に向かって車幅方向外側に斜めに排出する外側孔部と、を備え、上記ガイド部の前端は上記導風部の後方で、かつ、車幅方向内側端部と車幅方向外側端部との間に位置するものである。
【0016】
上記構成によれば、導風部から導入した空気を上記ガイド部により中速風生成孔部に向かう流れと、外側孔部に向かう流れとに分流することができる。
上述の外側孔部から車幅方向外側に斜めに排出される空気は、タイヤの車幅方向外側に向けて流れる。これにより、フロントバンパフェイスの外側後縁から剥離した風が、フロントホイールハウス外側から当該フロントホイールハウス内に巻き込まれることを抑制することができる。
【0017】
要するに、デフレクタ外形縁部から剥離した高速の床下走行風がフロントホイールハウス内にその下側および車幅方向内側から流れ込もうとするのを抑制できると共に、フロントバンパフェイスの外側後縁から剥離した車体側面流が車幅方向外側からフロントホイールハウス内に流れ込もうとするのを抑制することができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、上記ガイド部は車両前後方向に延びて後端が上記外側孔部と上記中速風生成孔部との車幅方向における間に位置するものである。
上記構成によれば、デフレクタ内部の空気の流れを整流して、導風部から導入された風を外側孔部と中速風生成孔部とに確実にガイドできる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、デフレクタの外形縁部から剥離する高速の空気と、フロントホイールハウス内の低速の空気との間に、風速差に起因して発生する渦を抑制することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の前部構造を備えた車両の下方斜視図。
図2図1の正面図。
図3図1の底面図。
図4】車両右側の要部を車両後方から見た状態で示す背面図。
図5】デフレクタの底面図。
図6図5のA―A線矢視断面図。
図7】デフレクタを車両前方かつ上方から見た状態で示す斜視図。
図8】デフレクタの平面図。
図9】デフレクタの背面図。
図10】中速度の風速を有する空気の流れによる作用を説明するための説明図。
図11】車幅方向外側に斜めに排出される空気の流れによる作用を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
デフレクタの外形縁部から剥離する高速の空気と、フロントホイールハウス内の低速の空気との間に、風速差に起因して発生する渦を抑制するという目的を、フロントホイールハウス前方においてフロントバンパフェイスの下面より下方に突出するデフレクタを備える車両の前部構造であって、上記デフレクタは、該デフレクタ前部において、当該デフレクタ内部の空間に空気を導入する導風部と、上記導風部と連通し、上記デフレクタ直後方の車両正面視でタイヤに対向しない領域において、デフレクタ外形縁部から剥離する空気の風速より低速度で、かつ、上記フロントホイールハウス内の空気の風速より高速度となる中速度の風速を有する空気の流れを生じる中速風生成孔部と、を備えるという構成にて実現した。
【実施例0022】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両の前部構造を示し、図1は車両の前部構造を備えた車両を、下方から見上げた状態で示す下方斜視図、図2図1の正面図、図3図1の底面図、図4は車両右側の要部を車両後方から見た状態で示す背面図である。
【0023】
なお、図中、矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示し、矢印OUTは車幅方向の外方を示し、矢印INは車幅方向の内方を示し、矢印UPは車両上方を示す。
【0024】
車両前部に位置するエンジンルームの上方はボンネットにより開閉可能に覆われており、エンジンルームの左右両側方は左右一対のフロントフェンダパネルにより覆われており、エンジンルームの前方は、図1図4に示すフロントバンパフェイス10により覆われている。
【0025】
図2に示すように、上述のフロントバンパフェイス10は、フロントバンパフェイス上部11と、フロントバンパフェイス中間部12と、フロントバンパフェイス下部13とを有しており、フロントバンパフェイス上部11とフロントバンパフェイス中間部12との間には、フロントグリル14が配置されている。
【0026】
上述のフロントバンパフェイス10は、図3に示すように、その車幅方向左右両側が車両後方かつ車幅方向内方に向けて湾曲形状に屈曲されており、この屈曲部10aにおいて、図1図2に示すように、フロントバンパフェイス上部11には上側に凹む凹部11aが形成されており、フロントバンパフェイス中間部12には下側に凹む凹部12aが形成されている。
【0027】
そして、これら上下の各凹部11a,12aによりヘッドランプ配置スペース15が形成されている(図2参照)。
また、図2に示すように、フロントバンパフェイス10の前部において、上述のフロントバンパフェイス中間部12とフロントバンパフェイス下部13との間には、走行風取入れ口16が形成されている。
【0028】
さらに、図1図2に示すように、上述のフロントバンパフェイス中間部12とフロントバンパフェイス下部13との境界部において、車幅方向中央前部には、ライセンスプレート17が取付けられている。
【0029】
さらにまた、図1に示すように、フロントフェンダパネルにおけるフロントホイールハウス20の車幅方向外端部と、フロントバンパフェイス中間部12およびフロントバンパフェイス下部13の屈曲端部との各部に跨がってオーバフェンダ18が取付けられている。
【0030】
図1図3に示すように、上述のフロントホイールハウス20のタイヤ21と対向する車外側の面にはマッドガード19が設けられている。上述のタイヤ21は前輪を構成するものである。
【0031】
一方、図3に示すように、エンジンルームの下方部にはサスペンションクロスメンバとしてのサブフレーム22が設けられている。このサブフレーム22はガセット23で補強されると共に、当該サブフレーム22の車幅方向両サイドには、図示しないアッパアームと協働して前輪(タイヤ21参照)を懸架するサスペンションアームとしてのロアアーム24が設けられている。
【0032】
図1図3に示すように、左右のフロントホイールハウス20,20間において、エンジンルームの下方を覆うアンダカバー25が設けられている。このアンダカバー25は前側アンダカバー26と後側アンダカバー27とに分割形成されており、これら両アンダカバー26,27によりフロントバンパフェイス下部13の下面とサブフレーム22との間を車両前後方向に覆っている。
【0033】
図1図3に示すように、上述のフロントバンパフェイス10はフロントホイールハウス20よりも車両前方に位置しており、フロントホイールハウス20前方においてフロントバンパフェイス10におけるフロントバンパフェイス下部13よりも下方に突出する左右一対のデフレクタ30を備えている。
【0034】
図5はデフレクタ30の底面図、図6図5のA―A線矢視断面図、図7はデフレクタ30を車両前方かつ上方から見た状態で示す斜視図、図8はデフレクタ30の平面図、図9はデフレクタ30の背面図である。また、図10は中速度の風速を有する空気の流れによる作用を説明するための説明図、図11は車幅方向外側に斜めに排出される空気の流れによる作用を説明するための説明図である。
【0035】
この実施例においては、図3に底面図で示すように、上述のデフレクタ30は、フロントバンパフェイス下部13の屈曲部後側と、タイヤ21の前方と、アンダカバー25の車幅方向側方との間に、左右一対設けられており、これら左右の各デフレクタ30,30は左右対称または左右略対称に形成されている。
【0036】
図6に示すように、上述のデフレクタ30は下側部材としてのデフレクタ本体31と、このデフレクタ本体31の上方開口部を覆う上側部材32と、により形成されている。図5図6図9においては、デフレクタ本体31と上側部材32との両者を図示しており、図7図8においては、デフレクタ本体31のみを示している。
【0037】
図7図8に示すように、デフレクタ本体31は底壁33と、底壁33の車幅方向内側から縦壁34を介して連結された内側フランジ部35と、底壁33の前側乃至車幅方向外側に設けられた前外フランジ部36と、底壁33の後端部に位置する後壁37と、を備え、車両平面視において略三角形状に形成されている。
【0038】
図6に示すように、上述の底壁33は、上側部材32の主面部32aに対して車両後方ほど約6度の緩勾配で下方に下がる前側傾斜部33aと、主面部32aに対して車両後方ほど約22度の勾配で下方に下がる内側傾斜部33bと、主面部32aに対して車両後方ほど約52度の急勾配で下方に下がる外側傾斜部33cと、を備えている。なお、上述の各勾配の傾斜度合を示す角度は、上記数値に限定されるものではない。
【0039】
図9に示すように、上述の後壁37は内側傾斜部33bに対応して相対的に上下寸法が小さい内側後壁部37bと、外側傾斜部33cに対応して相対的に上下寸法が大きい外側後壁部37cと、を備えている。
【0040】
一方、上側部材32は、図6に示すように、デフレクタ本体31の上方開口部の全体を閉塞する主面部32aと、この主面部32aの後端から上方に立上がる後壁部32bと、図5図6に示すように、上述の主面部32aの前側乃至車幅方向外側に一体に設けられた前外フランジ部32cと、を備えている。ここで、上述の主面部32aは略水平方向に延びている。
【0041】
また、上述の上側部材32は、図5に点線で示すように、主面部32aの車幅方向内側に車両前後方向に延びる内側フランジ部32dを備えている。
そして、上側部材32の内側フランジ部32dにデフレクタ本体31の内側フランジ部35を当接固定し、上側部材32の前外フランジ部32cに沿う主面部32aの所定部(主面部32aの前外部)に、デフレクタ本体31の前外フランジ部36を当接固定し、上側部材32の後壁部32b背面に、デフレクタ本体31の後壁37上部を当接固定し、デフレクタ30を空洞形状に構成している(図5図6参照)。
【0042】
図6図7に示すように、上述のデフレクタ30は当該デフレクタ30の前部において、デフレクタ30内部の空間に空気を導入する導風部38を備えている。
詳しくは、デフレクタ本体31の前外フランジ部36の直後部における前側傾斜部33aの前部に、床下走行風をデフレクタ30の内部空間に導入する導風部38を形成し、この導風部38を車両前下方向に向けて開口すると共に、該導風部38は前外フランジ部36に沿って長尺形状に形成されている。
【0043】
しかも、図6図7図9に示すように、上記デフレクタ30は導風部38と連通し、中速度の風速を有する空気の流れ(中速風a1、図10参照)を生じさせる中速風生成孔部39を備えている。
【0044】
詳しくは、上述の中速風生成孔部39は、デフレクタ30直後方の車両正面視でタイヤ21に対向しない領域αにおいて、デフレクタ本体31の後壁37における内側後壁部37bに開口形成されている。
【0045】
この中速風生成孔部39は、デフレクタ30の外形縁部としてのデフレクタ底面部37d(図9参照)とデフレクタ車幅方向内側の側面部37e(図9参照)とから剥離する空気(高速剥離風a2、図10参照)の風速よりも低速度で、かつ、フロントホイールハウス20内の空気の風速よりも高速度となる中速度の風速を有する空気の流れ(中速風a1)を生成する孔部である。
【0046】
これにより、中速風生成孔部39から流出する中速度の風速を有する空気の流れ(中速風a1)が、図10に示すように、デフレクタ外形縁部としての底面部37d、側面部37eから剥離する空気(高速剥離風a2)の高速度領域の空間と、フロントホイールハウス20内の空気の低速度領域の空間との上下方向間に生じるように構成している。
【0047】
この結果、高速度領域の風速(高速剥離風a2の風速)と、フロントホイールハウス20内の低速度領域の風速との間の速度差が小さくなり、エネルギ損失が改善されて、渦の生成を抑制するように構成したものである。
【0048】
すなわち、車両走行時において、上述のデフレクタ30の外形縁部から剥離した高速の空気(高速剥離風a2)の流れが、フロントホイールハウス20内の圧力が低い低速の空気の流れの空間に、車両下側および車幅方向内側から流れ込もうとするのを、上記中速風a1にて抑制し、これにより、渦の発生を抑制すべく構成したものである。
【0049】
因に、上記中速風生成孔部39が存在しない場合には、デフレクタ外形縁部から剥離した高速の空気の流れと、フロントホイールハウス内の圧力が低い低速の空気の流れとの間、つまり、高速度領域の風速と低速度領域の風速との間の速度差が大となる。この速度差が大きいことに起因して、デフレクタ後方のタイヤの車幅方向内側でエネルギ損失が大きくなり、この結果、渦が発生し、空力性能が悪化する。
【0050】
これに対し、この実施例では、高速剥離風a2の流れが、フロントホイールハウス20内の低速度領域の空間に流れ込もうとするのを、上記中速風a1にて抑制し、渦の発生を抑制して、空力性能の改善を図るものである。
【0051】
また、図9に示すように、上述の中速風生成孔部39は、デフレクタ30の後面部において、当該デフレクタ30の外形縁部に沿った形状に形成されている。
詳しくは、上記中速風生成孔部39は、図9に示すように、デフレクタ本体31の後壁37における内側後壁部37bにおいて、デフレクタ30外形縁部としての底面部37dおよび側面部37eに沿った形状に形成されている。
【0052】
このように、中速風生成孔部39がデフレクタ30後面部のデフレクタ外形縁部に沿っており、中速風a1は当該デフレクタ外形縁部に沿って形成される。これにより、当該外形縁部(底面部37d、側面部37e)から剥離する高速流れ(高速剥離風a2)が、フロントホイールハウス20内の空間に流れ込もうとするのを効率よく抑制すべく構成したものである。
【0053】
さらに、図9に示すように、上述のデフレクタ30の後面部としての後壁37は車両後面視において略四角形状に形成されており、上述の中速風生成孔部39は上記後壁37における内側後壁部37bの車幅方向内側下部の角部37fを含むL字形状に形成されている。
【0054】
このように、上記中速風生成孔部39を、上述の角部37fを含んで車両後面視にてL字形状に形成することで、簡単な構成でありながら、中速度の風速を有する空気(中速風a1)の流れを、上記角部37fを含むデフレクタ外形縁部に沿って発生させることができ、高速剥離風a2がフロントホイールハウス20内の空間に入り込もうとするのを効率よく抑制することができる。
【0055】
詳しくは、デフレクタ30後面部における底面部37dから剥離する高速剥離風a2と、側面部37eから剥離する高速剥離風a2と、角部37fから剥離する高速剥離風a2と、がフロントホイールハウス20内の空間に入り込もうとするのを、中速風生成孔部39の対応部分から流出する中速風a1により、効率よく抑制するものである。
【0056】
図7図8に示すように、上述のデフレクタ30は当該デフレクタ30内部に設けられたガイド部40を備えている。
このガイド部40はデフレクタ本体31の底壁33から上方に突出するように設けられると共に、ガイド部40の前端40aは上述の導風部38の後方に位置している。また、ガイド部40の前端は導風部38の後方で、かつ車幅方向内側端部と車幅方向外側端部との間に位置する。また、ガイド部40の後端40bはデフレクタ本体31の後壁37における内側後壁部37bと外側後壁部37cとの間に位置すると共に、当該後壁37に当接固定されている。上述のガイド部40は導風部38から導入した空気を上記中速風生成孔部39に案内するものである。
【0057】
図8に平面図で示すように、ガイド部40の前端40aは後端40bに対して車幅方向内方に位置している。換言すれば、ガイド部40の後端40bは前端40aに対して車幅方向外方に位置しており、上記ガイド部40はその前端40aと後端40bとを結ぶように、これら両者40a,40b間に連続して形成されている。
【0058】
加えて、上記ガイド部40は車両前後方向に延びて後端が上記外側孔部45と上記中速風生成孔部39との車幅方向における間に位置するものである。これにより、デフレクタ30内部の空気の流れを整流して、導風部38から導入された風を外側孔部45と中速風生成孔部39とに確実にガイドできる。
【0059】
さらに、図7に示すように、上述のガイド部40は前端40a側が相対的に上下寸法が小さく、後端40b側ほど相対的に上下寸法が大きくなるように形成されている。
【0060】
さらにまた、図6図8に示すように、上述のガイド部40の前後方向中間部には、上方に突出する突片40cが一体形成されており、図6に示すように、該突片40cは上側部材32の主面部32aを貫通して上方に延びており、上側部材32と締結固定されるように構成している。
【0061】
また、図6図8に示すように、デフレクタ本体31の底壁33には、該底壁33とガイド部40とを連結する複数のリブ41,42,43,44が一体形成されている。これらの各リブ41~44により上述のガイド部40の立設姿勢を確保すると共に、中速風a1(図10参照)の風速を適切に設定すべく構成している。
【0062】
さらに、図7図9図10に示すように、デフレクタ30のデフレクタ本体31における外側後壁部37cには、デフレクタ直後方の車両正面視でタイヤ21に対向する領域βにおいて、上述の導風部38から導入した空気を、車両後側に向かって車幅方向外側に斜めに排出する外側孔部45が開口形成されている。
【0063】
デフレクタ30は、図6に示すように、空洞形状に形成されており、デフレクタ本体31に導風部38と、中速風生成孔部39と、外側孔部45と、ガイド部40と、を設けることで、デフレクタ30内部には、図7に示すように、ガイド部40よりも車幅方向内側に位置する第1流通路46と、ガイド部40よりも車幅方向外側に位置する第2流通路47とが形成されている。
【0064】
第1流通路46は導風部38から導入した空気を中速風生成孔部39に向けて流す空気の流路であり、第2流通路47は導風部38から導入した空気を外側孔部45に向けて流す空気の流路である。
【0065】
上述の中速風生成孔部39と外側孔部45とガイド部40とを設けることで、導風部38から導入した空気を、第1流通路46を介して中速風生成孔部39に向かう流れと、第2流通路47を介して外側孔部45に向かう流れとに分流する。
【0066】
図11に示すように、上述の外側孔部45から車幅方向外側に斜めに排出される空気(偏向風a3)は、タイヤ21の車幅方向外側に向けて流れる。これにより、フロントバンパフェイス10の外側後縁から剥離した風(車体側面流a4)が、フロントホイールハウス20の外側から当該フロントホイールハウス20内に巻き込まれることを抑制すべく構成している。
【0067】
要するに、デフレクタ30の外形縁部から剥離した高速の床下走行風(高速剥離風a2)がフロントホイールハウス20内にその下側および車幅方向内側から流れ込もうとするのを抑制すると共に(図10参照)、フロントバンパフェイス10の外側後縁から剥離した車体側面流a4が車幅方向外側からフロントホイールハウス20内に流れ込もうとするのを抑制すべく構成したものである(図11参照)。
【0068】
つまり、上記構成により、高速剥離風a2のフロントホイールハウス20内への流れ込み抑制と、車体側面流a4のフロントホイールハウス20内への流れ込み抑制と、の両立を図るものである。
【0069】
以上、詳述したように、この実施例の車両の前部構造は、フロントホイールハウス20前方においてフロントバンパフェイス10の下面より下方に突出するデフレクタ30を備える車両の前部構造であって、上記デフレクタ30は、該デフレクタ30前部において、当該デフレクタ30内部の空間に空気を導入する導風部38と、上記導風部38と連通し、上記デフレクタ30直後方の車両正面視でタイヤ21に対向しない領域αにおいて、デフレクタ外形縁部(底面部37d、側面部37e参照)から剥離する空気(高速剥離風a2)の風速より低速度で、かつ、上記フロントホイールハウス20内の空気の風速より高速度となる中速度の風速を有する空気の流れ(中速風a1)を生じる中速風生成孔部39と、を備えたものである(図1図7図9図10参照)。
【0070】
この構成によれば、中速風生成孔部39から流出する中速度の風速を有する空気の流れ(中速風a1)が、デフレクタ外形縁部(底面部37d、側面部37e)から剥離する空気(高速剥離風a2)の高速度領域の空間と、フロントホイールハウス20内の空気の低速度領域の空間との上下方向間に生じる。
【0071】
このため、高速度領域の風速と、低速度領域の風速との間の速度差が小さくなり、渦の生成を抑制できるため、エネルギ損失が改善される。
換言すれば、車両走行時にデフレクタ30の外形縁部(底面部37d、側面部37e)から剥離した高速の空気の流れ(高速剥離風a2)が、フロントホイールハウス20内の圧力の低い低速の空気の流れの空間に、車両下側および車幅方向内側から流れ込もうとするのを、上記中速風a1にて抑制でき、渦の発生を抑制することができる。
【0072】
また、この発明の一実施形態においては、上記中速風生成孔部39は、上記デフレクタ30の後面部(後壁37参照)において、当該デフレクタ30の外形縁部(底面部37d、側面部37e)に沿った形状に形成されるものである(図9参照)。
【0073】
この構成によれば、中速風生成孔部39がデフレクタ後面部のデフレクタ外形縁部(底面部37d、側面部37e)に沿っているので、当該外形縁部から剥離する高速流れ(高速剥離風a2)が、フロントホイールハウス20内の空間に流れ込もうとするのを、効率よく抑制することができる。
【0074】
さらに、この発明の一実施形態においては、上記デフレクタ30の後面部(後壁37)は車両後面視で略四角形状であり、上記中速風生成孔部39は上記後面部(後壁37)の車幅方向内側下部の角部37fを含むL字形状に形成されるものである(図9参照)。
この構成によれば、簡単な構成でありながら、中速度の風速を有する空気の流れ(中速風a1)を発生させることができる。
【0075】
さらにまた、この発明の一実施形態においては、上記デフレクタ30は、該デフレクタ30内部に設けられ上記導風部38から導入した空気を上記中速風生成孔部39に案内するガイド部40と、該デフレクタ30直後方の車両正面視でタイヤ21に対向する領域βにおいて、上記導風部38から導入した空気を、車両後側に向かって車幅方向外側に斜めに排出する外側孔部45と、を備え、上記ガイド部40の前端40aは上記導風部38の後方で、かつ、車幅方向内側端部と車幅方向外側端部との間に位置するものである(図7図11参照)。
【0076】
この構成によれば、導風部38から導入した空気を上記ガイド部40により中速風生成孔部39に向かう流れと、外側孔部45に向かう流れとに分流することができる。
上述の外側孔部45から車幅方向外側に斜めに排出される空気(偏向風a3)は、タイヤ21の車幅方向外側に向けて流れる。これにより、フロントバンパフェイス10の外側後縁から剥離した風(車体側面流a4)が、フロントホイールハウス20外側から当該フロントホイールハウス20内に巻き込まれることを抑制することができる。
【0077】
要するに、デフレクタ30の外形縁部(底面部37d、側面部37e)から剥離した高速の床下走行風(高速剥離風a2)がフロントホイールハウス20内にその下側および車幅方向内側から流れ込もうとするのを抑制できると共に、フロントバンパフェイス10の外側後縁から剥離した車体側面流a4が車幅方向外側からフロントホイールハウス20内に流れ込もうとするのを抑制することができる。
【0078】
加えて、この発明の一実施形態においては、上記ガイド部40は車両前後方向に延びて後端が上記外側孔部45と上記中速風生成孔部39との車幅方向における間に位置するものである。
この構成によれば、デフレクタ30内部の空気の流れを整流して、導風部38から導入された風を外側孔部45と中速風生成孔部39とに確実にガイドできる。
【0079】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のデフレクタの後面部は、実施例のデフレクタ30の後壁37に対応し、
以下同様に、
デフレクタ外形縁部は、デフレクタ30の底面部37d、側面部37eに対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明は、フロントホイールハウス前方においてフロントバンパフェイスの下面より下方に突出するデフレクタを備える車両の前部構造について有用である。
【符号の説明】
【0081】
10…フロントバンパフェイス
20…フロントホイールハウス
21…タイヤ
30…デフレクタ
37…後壁(デフレクタの後面部)
37d…底面部(デフレクタ外形縁部)
37e…側面部(デフレクタ外形縁部)
37f…角部
38…導風部
39…中速風生成孔部
40…ガイド部
40a…前端
45…外側孔部
α…タイヤに対向しない領域
β…タイヤに対向する領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11