(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162812
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】電気パルス分解方法、複合材、複合材分解方法
(51)【国際特許分類】
B02C 19/18 20060101AFI20221018BHJP
B09B 3/30 20220101ALI20221018BHJP
【FI】
B02C19/18 B ZAB
B09B3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067819
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小山 哲史
(72)【発明者】
【氏名】岸本 直輝
(72)【発明者】
【氏名】所 千晴
(72)【発明者】
【氏名】イム スウォン
(72)【発明者】
【氏名】小板 丈敏
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正隆
(72)【発明者】
【氏名】浪平 隆男
【テーマコード(参考)】
4D004
4D067
【Fターム(参考)】
4D004AA26
4D004BA05
4D004CA02
4D004CA04
4D004CA07
4D004CA44
4D004CB13
4D004CB50
4D004DA02
4D067CD05
4D067CG01
4D067GA10
4D067GA16
4D067GA20
(57)【要約】
【課題】簡単な方法で絶縁破壊を発生させ、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などを接着剤として機能する絶縁部材中に作用させて、絶縁部材を効果的に破壊させ、複合材から複数の導体を分離することができる電気パルス分解方法を提供すること。
【解決手段】複数の導体(7、8)を絶縁部材9により接合または結合させた複合材1を電気パルスによって分離する電気パルス分解方法であって、複数の導体のうちの少なくとも一の導体(7)の複合材1が配置される側における特定の部位に凸部10を形成する凸部形成工程S1と、複数の導体それぞれの表面に電極(正極電極12、負極電極14)を当接させて電極間に電気パルスを印加することにより絶縁部材9を破壊して複合材1における複数の導体(7、8)を分離する分離工程S2と、を含む電気パルス分解方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体を絶縁部材により接合または結合させた複合材を電気パルスによって分離する電気パルス分解方法であって、
前記複数の導体のうちの少なくとも一の導体の前記絶縁部材が配置される側における特定の部位に凸部を形成する凸部形成工程と、
前記複数の導体それぞれの表面に電極を当接させて前記電極間に電気パルスを印加することにより前記絶縁部材を破壊して前記複合材における前記複数の導体を分離する分離工程と、を含む電気パルス分解方法。
【請求項2】
所定の第1の導体と第2の導体とが絶縁部材により接合または結合されてなり、電気パルスによって分離される複合材であって、
前記第1の導体または前記第2の導体の少なくとも一方に他方に向けて突出するように形成された凸部と、
前記凸部が形成された部位を含む領域に塗布され、前記第1の導体と第2の導体とを接合または結合する絶縁部材と、を有する複合材。
【請求項3】
所定の凸部を有する第1の導体に絶縁部材を塗布し、前記第1の導体と前記凸部の突出端側に位置する第2の導体とを、前記絶縁部材により接合または結合させて複合材を形成する複合材形成工程と、
前記第1の導体と前記第2の導体との間に電気パルスを印加することにより前記絶縁部材を破壊して前記第1の導体と前記第2の導体とを分離する分離工程と、を含む複合材分解方法。
【請求項4】
前記凸部の高さは、前記絶縁部材の厚み寸法の4分の3以上である請求項1に記載の電気パルス分解方法。
【請求項5】
前記凸部の高さは、前記絶縁部材の厚み寸法の4分の3以上である請求項2に記載の複合材。
【請求項6】
前記凸部の高さは、前記絶縁部材の厚み寸法の4分の3以上である請求項3に記載の複合材分解方法。
【請求項7】
前記前記複数の導体のうちの他方の導体には絶縁性の膜が形成され、前記凸部が前記膜に接触する請求項4に記載の電気パルス分解方法。
【請求項8】
前記前記複数の導体のうちの他方の導体には絶縁性の膜が形成され、前記凸部が前記膜に接触する請求項5に記載の複合材。
【請求項9】
前記前記複数の導体のうちの他方の導体には絶縁性の膜が形成され、前記凸部が前記膜に接触する請求項6に記載の複合材分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気パルス分解方法、複合材、複合材分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の車体を構成する複数の導体部品間を、接着剤を用いて接合または結合させる車体組立工法が普及しつつある。この工法は車体の軽量化に寄与するため、国内外で浸透する兆しを見せている。一方、廃車となった車体を複数の構成部分に解体して、可能なものはリユースしようとする動きもある。構成部分のうち複数の導体を接着剤として機能する絶縁部材により接合または結合させた複合材については、電気パルスを印加することにより接着剤を破壊して複数の導体を分離する電気パルス分解方法を適用することがある。より一般的に、絶縁体と導体が結合または接合された対象物を電気パルスによって分解する方法の改善に関する提案もある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、絶縁体と導体が結合または接合された対象物の表面の離間した位置に複数の電極を当接し、電極間に電圧を印加して対象物を絶縁体と導体に分解する。しかしながら、特許文献1の技術では、電圧の印加による電界が集中する空間上の位置についての考察がない。意図した位置で電界の集中を発生させて絶縁部材を破壊するためには、電圧の印加のために細線を適用する必要があるが、細線を導体に接触させる部位の選択には困難さがある。
【0005】
本発明は、簡単な方法で絶縁破壊を発生させ、絶縁破壊とそれに伴い生じる放電によって生じる衝撃波、熱、材料気化膨張など(以下、衝撃波など)を接着剤として機能する絶縁部材中に作用させて、絶縁部材を効果的に破壊させ、複合材から複数の導体を分離することができる電気パルス分解方法、複合材、複合材分解方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)複数の導体(例えば、後述する第1の導体7、第2の導体8)を絶縁部材(例えば、後述する絶縁部材9)により接合または結合させた複合材(例えば、後述する複合材1)を電気パルスによって分離する電気パルス分解方法であって、前記複数の導体のうちの少なくとも一の導体(例えば、後述する第1の導体7)の前記絶縁部材が配置される側における特定の部位に凸部(例えば、後述する凸部10)を形成する凸部形成工程(例えば、後述する凸部形成工程S1)と、前記複数の導体それぞれの表面に電極(例えば、後述する正極電極12、負極電極14)を当接させて前記電極間に電気パルスを印加することにより前記絶縁部材を破壊して前記複合材における前記複数の導体を分離する分離工程(例えば、後述する分離工程S2)と、を含む電気パルス分解方法。
【0007】
(2)所定の第1の導体(例えば、後述する第1の導体7)と第2の導体(例えば、後述する第2の導体8)とが絶縁部材(例えば、後述する絶縁部材9)により接合または結合されてなり、電気パルスによって分離される複合材(例えば、後述する複合材1)であって、前記第1の導体または前記第2の導体の少なくとも一方(例えば、後述する第1の導体7)に他方(例えば、後述する第2の導体8)に向けて突出するように形成された凸部(例えば、後述する凸部10)と、前記凸部が形成された部位を含む領域に塗布され、前記第1の導体と第2の導体とを接合または結合する絶縁部材(例えば、後述する絶縁部材9)と、を有する複合材(例えば、後述する複合材1)。
【0008】
(3)所定の凸部(例えば、後述する凸部10)を有する第1の導体(例えば、後述する第1の導体7)に絶縁部材(例えば、後述する絶縁部材9)を塗布し、前記第1の導体と前記凸部の突出端側に位置する第2の導体(例えば、後述する第2の導体8)とを、前記絶縁部材により接合または結合させて複合材(例えば、後述する複合材1)を形成する複合材形成工程(例えば、後述する複合材形成工程S81)と、前記第1の導体と前記第2の導体との間に電気パルスを印加することにより前記絶縁部材を破壊して前記第1の導体と前記第2の導体とを分離する分離工程(例えば、後述する分離工程S82)と、を含む
複合材分解方法。
【0009】
(4)前記凸部の高さは、前記絶縁部材の厚み寸法の4分の3以上である(1)の電気パルス分解方法。
【0010】
(5)前記凸部の高さは、前記絶縁部材の厚み寸法の4分の3以上である(2)の複合材。
【0011】
(6)前記凸部の高さは、前記絶縁部材の厚み寸法の4分の3以上である(3)の複合材分解方法。
【0012】
(7)前記前記複数の導体のうちの他方の導体には絶縁性の膜が形成され、前記凸部が前記膜に接触する(4)の電気パルス分解方法。
【0013】
(8)前記前記複数の導体のうちの他方の導体には絶縁性の膜が形成され、前記凸部が前記膜に接触する(5)の複合材。
【0014】
(9)前記前記複数の導体のうちの他方の導体には絶縁性の膜が形成され、前記凸部が前記膜に接触する(6)の複合材分解方法。
【発明の効果】
【0015】
(1)の電気パルス分解方法では、凸部形成工程で形成された凸部と該凸部に近接対向する導体間で絶縁破壊が起こりやすくなり、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などの作用を絶縁部材中に起こすことで絶縁部材を効果的に破壊して、複合材を構成していた複数の導体を分離することができる。
【0016】
(2)の複合材では、凸部の先端と該先端に近接対向する第1の導体または前記第2の導体との間で、絶縁破壊が起こりやすくなり、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波が絶縁部材の周囲に逃げず、絶縁部材を効果的に破壊して、複合材を構成していた複数の導体を分離することができる。
【0017】
(3)の複合材分解方法では、複合材形成工程で、予め凸部を有する第1の導体に接着剤として機能する絶縁部材を塗布し、第1の導体と、凸部の突出端側に位置する第2の導体とを接合または結合させて複合材を形成している。このため、分離工程で、第1の導体と第2の導体とに電気パルスを印加したときに、第1の導体の凸部と該凸部に近接対向する第2の導体間で絶縁破壊が起こりやすくなる。これにより、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などによって、絶縁部材を効果的に破壊して、複合材を構成していた複数の導体を分離することができる。
【0018】
(4)の電気パルス分解方法では、凸部の高さが適切であり、電気パルスの印加時に絶縁破壊が起こりやすくなり、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などの作用を絶縁部材中に起こすことで絶縁部材を効果的に破壊するため、複合材を構成していた複数の導体を容易に分離することができる。
【0019】
(5)の複合材では、凸部の高さが適切であり、電気パルスの印加時に絶縁破壊が起こりやすくなり、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などによって、絶縁部材を効果的に破壊して、複合材を構成していた複数の導体を分離することができる。
【0020】
(6)の複合材分解方法では、凸部の高さが適切であり、電気パルスの印加時に絶縁破壊が起こりやすくなり、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などの作用を絶縁部材中に起こすことで絶縁部材を効果的に破壊して、複合材を構成していた複数の導体を分離することができる。
【0021】
(7)の電気パルス分解方法では、凸部が膜に接触することにより、接着剤として機能する絶縁部材の厚みを管理するためのメカニズムと、絶縁破壊を的確に起して絶縁部材の破壊を効果的に行うためのメカニズムとが同じものとなり簡素化がはかられる。
【0022】
(8)の複合材では、凸部が膜に接触することにより、接着剤として機能する絶縁部材の厚みを管理するためのメカニズムと、絶縁破壊を的確に起して絶縁部材の破壊を効果的に行うためのメカニズムとが同じものとなり簡素化がはかられる。
【0023】
(9)の複合材分解方法では、凸部が膜に接触することにより、接着剤として機能する絶縁部材の厚みを管理するためのメカニズムと、絶縁破壊を的確に起して絶縁部材の破壊を効果的に行うためのメカニズムとが同じものとなり簡素化がはかられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図4】
図3で定義した凸部の各寸法と試験成績を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態としての電気パルス分解方法を示す工程図である。
【
図7】本発明の実施過程で生じる絶縁破壊の経路を説明する図である。
【
図8】本発明の一実施形態としての複合材分解方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の概要を示す概念図である。本発明は、鋼板のような導体どうしが接着剤で接合または結合されてなる複合材を電気パルスの印加によって各導体に分離する方法、および、その方法に適合する複合材に関する。
図1において、複合材1を把持装置2で把持した状態で、高電圧パルス発生装置3から複合材1の上下両面間に高電圧パルスを印加する。
【0026】
把持装置2は、ベース4に設けられた固定把持部材5と可動把持部材6で複合材1をその一側部と他側部から挟持して、複合材1が水平の姿勢を維持するように把持する。複合材1は、上面側の第1の導体7と下面側の第2の導体8が接着剤として機能する絶縁部材9によって接合または結合して構成されている。第1の導体7の特定の部位における第2の導体8への対向面には第2の導体8に向けて突出する凸部10が形成されている。
【0027】
高電圧パルス発生装置3から導出される正極ケーブル11の端部に、第1の導体7の上面に当接させる正極電極12が接続される。高電圧パルス発生装置3から導出される負極ケーブル13の端部に、第2の導体8の下面に当接させる負極電極14が接続される。
【0028】
本発明の一実施形態では、高電圧パルス発生装置3が発生する電気パルスである高電圧パルスを正極電極12と負極電極14との間に印加して、接着剤として機能する絶縁部材9を絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などで破壊することにより、第1の導体7と第2の導体8とを分離する。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態を示す図であり、
図3は、
図2のA部の拡大図である。
図2および
図3において、
図1との対応部には同一の符号を附してある。例えば、いずれも鋼板である第1の導体7と第2の導体8とが接着剤として機能する絶縁部材9により接合または結合されて複合材1が構成されている。第1の導体7の外面である上面に正極電極12を当接させる。第2の導体8の外面である下面に負極電極14を当接させる。
【0030】
第1の導体7の下面である第2の導体8への対向面に、第2の導体8に向けて突出した凸部10を形成する。凸部10は、第1の導体7の外面側にポンチを打ち当てて凹部を形成することに伴いその反対側の面にできる凸部として形成してもよい。また、第1の導体7の下面である第2の導体8への対向面における凸部10の形成予定部位に、溶接機を用いて導体の溶着片を盛るようにして凸部10を形成してもよい。なお、第2の導体8は、その絶縁部材9側の面に絶縁性の電着塗膜15が形成された電着塗装鋼板である。
【0031】
凸部10は、第1の導体7と第2の導体8との間に、正極電極12と負極電極14を用いて高電圧の電気パルスを印加したときに、双方の導体7、8間に絶縁破壊による衝撃波などを発生しやすくするために形成する。換言すれば、凸部10は、双方の導体7、8間の絶縁耐力を低下させて絶縁破壊が生じやすくする。
【0032】
絶縁破壊は周知の現象であるが、この現象について簡単に説明する。ギャップを挟んで対向した正負両電極間に高電圧を印加すると、元々ギャップ間に存在していた電子が正側の電極に向けて移動を開始し、陽イオンは負側の電極に向けて移動を開始する。この時、電子がギャップ間に浮遊している分子に高速で衝突することに起因して、浮遊分子から電子が放出される。このようにして放出された電子がさらに浮遊分子から電子放出させていくと電子なだれが生じ、ギャップ間で絶縁破壊を生じる。
【0033】
発明者等は種々の実験を重ね、凸部10をなす部位の母材と、接着剤として機能する絶縁部材9とに、種々の材料を適用し、それらの組合せ毎に、正極電極12と負極電極14との間に印加する電圧を変化させて、各種の条件のうちから絶縁破壊が生じやすい凸部10の形状を見出した。即ち、凸部10の形状は、第1の導体7側から第2の導体8側に向けて尖った錐状体であることが望ましいという検証結果を得た。
【0034】
第1の導体7と第2の導体8との間には、接着剤として機能する絶縁部材9が介在しているため、絶縁部材9側には錐状体である凸部10に対応した側断面がV字状のノッチが形成される。
【0035】
次に、
図2のA部の拡大図である
図3を参照して、凸部10各部の寸法を定義する。下方に尖った錐状体である凸部10と第1の導体7との仮想境界面である錐状体底面部の直径を径Dとする。凸部10の第1の導体7との仮想境界面である錐状体底面部から第2の導体8へ向けての突出寸法を高さHとする。凸部10の頂部と第2の導体8の上面とのギャップをGとする。下方に尖った錐状体である凸部10の頂部に内接する仮想円の直径をRとする。このRは凸部10頂部の曲率半径rに対応する直径である。
【0036】
図4は、
図3で定義した凸部10の各寸法と試験成績を示す図である。試験における既定の条件として、接着剤として機能する絶縁部材9の厚み寸法である第1の導体7の下面と第2の導体8の上面との距離は略4mmとしている。径Dの単位はmmであり、その値を2、4、(6)、8,と設定した。なお(6)は予測値である。ギャップGとこれに対応する高さH(括弧書きにて併記)の単位はmmであり、その値は1.5(2.5)、1.0(3.0)、0.5(3.5)、0.0(4.0)、と設定した。試験成績における括弧書きにて示す値は予測値である。
【0037】
図4において、試験成績が「きわめて効果的」とは、正極電極12と負極電極14との間の印加電圧が相対的に低い値であっても第1の導体7と第2の導体8との絶縁破壊が確実に生じる状態である。この状態では、印加電圧をさほど高くしなくとも、接着剤として機能する絶縁部材9を確実に破壊して、第1の導体7と第2の導体8とを分離することができる。一方、「殆ど効果なし」とは、上記の印加電圧を相対的に高い値にしても絶縁破壊が起こらず、第1の導体7と第2の導体8とを分離することができない状態である。また、「多少の効果あり」とは、「きわめて効果的」の場合ほどではないが一応絶縁破壊を起こせる状態である。
【0038】
図4の試験成績から、一般的には次の傾向が判読される。即ち、Rが小さく凸部10の頂部が鋭く尖っているほど、径DおよびギャップGが大きくとも、絶縁破壊を起こせる傾向を呈することが判読される。また、ギャップGが一定の限度を超えると、RやDの値によらず絶縁破壊が起こらない。端的には、凸部10の高さHが絶縁部材9の厚み寸法の4分の3以上で概ね良好な成績が得られることが確認された。また、ギャップGが小さいほど絶縁破壊を起こし易い傾向を呈する。
【0039】
ギャップGが0.0のとき、即ち、凸部10の頂部が第2の導体8に接触する状態では、径DやRの如何によらず、絶縁破壊を確実に起こすことが可能である。即ち、本実施形態の変形例である
図5のような、凸部10が半球状のものを適用しても、絶縁破壊を確実に起こすことができる。
図5においても、
図2、
図3との対応部には同一の符号を附し、これら各部の説明は同符号に関する説明を援用する。なお、
図2、
図3を参照して説明したように、第2の導体8には絶縁性の電着塗膜15が形成されているため、凸部10の頂部が第2の導体8に接触しても、それだけでは、接触部位での電気的導通は生じない。
【0040】
凸部10の先端が第2の導体8に接触する状態では、径DやRの如何によらず、絶縁破壊を確実に起こすことが可能であるということは、凸部10を設けることにより、その高さHによって第1の導体7と第2の導体8との間隔である絶縁部材9の厚みを管理することが可能であることを意味する。従来は、接着剤として機能する絶縁部材9の厚みの管理は難しく、接着剤にビーズなどを入れてこの管理を行っていた。これに対し、本発明によれば、凸部10を設けることにより、その高さHが接着剤として機能する絶縁部材9の厚みの管理にも寄与する。換言すれば、接着剤として機能する絶縁部材9の厚みを管理するためのメカニズムと、絶縁破壊を的確に起して絶縁部材9の破壊を効果的に行うためのメカニズムとが同じものとなる。
【0041】
図6は、本発明の一実施形態としての電気パルス分解方法を示す工程図である。
図6では、既述の
図1から
図3も適宜参照して説明する。この電気パルス分解方法は、凸部形成工程S1と、分離工程S2とを含む。凸部形成工程S1では、複数の導体である第1の導体7と第2の導体8とのうちの少なくとも一の導体である第1の導体7の、接着剤として機能する絶縁部材9が配置される側における特定の部位に凸部10を形成する。凸部10を形成は、例えば、既述のように、第1の導体7の外面側にポンチを打ち当てて凹部を形成することに伴いその反対側の面にできる凸部として形成する。
【0042】
分離工程S2では、電極当接工程S21において、第1の導体7に正極電極12を当接させ、かつ、第2の導体8に負極電極14を当接させる。次いで電気パルス印加工程S22において、正極電極12と負極電極14間に高電圧パルス発生装置3から正極ケーブル11および負極ケーブル13を通して高電圧パルスである電気パルスを印加する。
【0043】
このように電気パルスを印加すると、凸部10の突出端と第2の導体8との間で絶縁破壊に起因する衝撃波などが発生する。この衝撃波などの作用を絶縁部材中に起こすことで絶縁部材を効果的に破壊する。このように、接着剤として機能する絶縁部材9が破壊される結果、複合材1を構成していた第1の導体7と第2の導体8とが分離される。
【0044】
図7は、本発明の実施過程で生じる絶縁破壊の経路を原理的に説明する図である。
図7の(A)部から(D)部まで、対応部には同一の符号を附している。
図7の(A)部におけるように、空気16の中では、第1の導体7と第2の導体8との間の電圧が絶縁破壊強度である3KV/mm以上になると絶縁破壊が生じる。
【0045】
図7の(B)部におけるように、第1の導体7と第2の導体8との間に絶縁体17を挟んだ場合には、第1の導体7と第2の導体8との間の電圧が絶縁体17の絶縁破壊強度である、例えば、40KV/mm以上になると、絶縁破壊が生じる。
図7の(B)部における場合、第1の導体7、第2の導体8および絶縁体17は空気16の中に置かれている。絶縁体17に比較すると空気16の絶縁耐力は低いため、絶縁破壊による電流は絶縁体17の空気16側の沿面を流れる。このため、投入されたエネルギーは空気16側で消費され、絶縁体17の破壊には寄与しない。
【0046】
図7の(C)部は、(B)部におけるような絶縁体17を間に挟んだ第1の導体7および第2の導体8を水18の中に浸けた状態である。
図7の(C)部の状態では、水18は空気16よりも絶縁耐力が大きいため、
図7の(B)部の状態では空気16側で消費されたエネルギーによる衝撃波などの多くの部分が絶縁体17側に作用するため、絶縁体17を破壊することができる。
【0047】
一方、
図7の(D)部に示す本発明の実施形態におけるように、第1の導体7に凸部10を設けると、凸部10の先端と第2の導体8との間で、上述したように、絶縁破壊が起こりやすくなる。また、エネルギーが空気16側で消費されず、その殆ど全ての部分が絶縁体17の破壊に寄与する。即ち、
図7の(D)部に示す状態では、空気16の中に置かれていても、絶縁破壊による衝撃波などが絶縁体17を効果的に破壊する。
【0048】
図8は、本発明の一実施形態としての複合材分解方法を示す工程図である。
図8では、既述の
図1から
図3を適宜参照して説明する。この複合材分解方法は、複合材形成工程S81と、分離工程S82とを含む。上述の複合材形成工程S81は、絶縁部材塗布工程S811と合せ工程S812とを含む。絶縁部材塗布工程S811において、凸部10を有する第1の導体7の凸部10側の面に接着剤として機能する絶縁部材9を塗布する。次いで、合せ工程S812において、第1の導体7とその凸部10側に位置させた第2の導体8とを絶縁部材9により接合または結合させて複合材1を形成する。なお、第1の導体7における凸部10は、例えば、既述のように、溶接機を用いて導体の溶着片を盛るようにして形成してもよい。或いはまた、プレス成型時において凸部10を設けるようにしてもよい。
【0049】
上述の分離工程S82は、電極当接工程S821と電気パルス印加工程S822とを含む。電極当接工程S821において、第1の導体7に正極電極12を当接させ、かつ、第2の導体8に負極電極14を当接させる。次いで電気パルス印加工程S822において、正極電極12と負極電極14間に高電圧パルス発生装置3から正極ケーブル11および負極ケーブル13を通して高電圧パルスである電気パルスを印加する。このように電気パルスを印加すると、凸部10の突出端と第2の導体8との間で絶縁破壊に起因する衝撃波などが発生する。このため衝撃波などは絶縁部材を効果的に破壊する。このように、接着剤として機能する絶縁部材9が破壊される結果、複合材1を構成していた第1の導体7と第2の導体8とが分離される。
【0050】
本実施形態の電気パルス分解方法、複合材、複合材分解方法によれば、以下の効果が奏される。
【0051】
(1)の電気パルス分解方法では、凸部形成工程S1で形成された凸部10とこの凸部10に近接対向する第2の導体8との間で絶縁破壊が起こりやすくなる。絶縁破壊の電流で生じるこの衝撃波などは絶縁部材を効果的に破壊する。このように、接着剤として機能する絶縁部材9が破壊される結果、複合材1を構成していた第1の導体7と第2の導体8とが分離される。複合材1を空気中に置いた場合でも、エネルギーの大部分は空気中に逃げず、絶縁部材9の破壊に寄与する。このため、複合材1を水中において沿面放電を抑制する必要がなく、容易に実施することができる。なお、水中において実施することを排除するものではない。
【0052】
(2)の複合材では、凸部10の先端と該先端に近接対向する第2の導体との間で、絶縁破壊が起こりやすくなり、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などによって、接着剤として機能する絶縁部材9を効果的に破壊して、複合材1を構成していた第1の導体7と第2の導体8とを分離することができる。
【0053】
(3)の複合材分解方法では、複合材形成工程S81で、予め凸部10を有する第1の導体7に接着剤として機能する絶縁部材9を塗布し、第1の導体7と、凸部10の突出端側に位置する第2の導体8とを接合または結合させて複合材1を形成している。このため、分離工程S82で、第1の導体7と第2の導体8とに電気パルスを印加したときに、第1の導体7の凸部10と該凸部10に近接対向する第2の導体8との間で絶縁破壊が起こりやすくなる。絶縁破壊の電流で生じるこの衝撃波などは絶縁部材を効果的に破壊する。このように、接着剤として機能する絶縁部材9が破壊される結果、複合材1を構成していた第1の導体7と第2の導体8とが分離される。
【0054】
(4)の電気パルス分解方法では、凸部10の高さが適切であり、電気パルスの印加時に絶縁破壊が起こりやすくなり、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などによって、絶縁部材9を効果的に破壊して、複合材1を構成していた第1の導体7と第2の導体8とを分離することができる。
【0055】
(5)の複合材では、凸部10の高さが適切であり、電気パルスの印加時に絶縁破壊が起こりやすくなり、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などによって、絶縁部材9を効果的に破壊して、複合材1を構成していた第1の導体7と第2の導体8とを分離することができる。
【0056】
(6)の複合材分解方法では、凸部10の高さが適切であり、電気パルスの印加時に絶縁破壊が起こりやすくなり、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などによって、絶縁部材9を効果的に破壊して、複合材1を構成していた第1の導体7と第2の導体8とを分離することができる。
【0057】
(7)の電気パルス分解方法では、凸部10とこの凸部10に近接対向する第2の導体8との間の絶縁耐力が一層小さくなり、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などによって、絶縁部材9を効果的に破壊して、複合材1を構成していた第1の導体7と第2の導体8とを分離することができる。
【0058】
(8)の複合材では、凸部10とこの凸部10に近接対向する第2の導体8との間の絶縁耐力が一層小さくなり、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などによって、絶縁部材9を効果的に破壊して、複合材1を構成していた第1の導体7と第2の導体8とを分離することができる。
【0059】
(9)の複合材分解方法では、凸部10とこの凸部10に近接対向する第2の導体8との間の絶縁耐力が一層小さくなり、絶縁破壊の電流で生じる衝撃波などによって、絶縁部材9を効果的に破壊して、複合材1を構成していた第1の導体7と第2の導体8とを分離することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限られない。本発明の趣旨の範囲内で、適宜変更してもよい。例えば、複合材の形態によっては、電気パルスの印加に際して、複合材を把持装置等で固定することなく電気パルス分解方法を適用してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…複合材
2…把持装置
3…高電圧パルス発生装置
4…ベース
5…固定把持部材
6…可動把持部材
7…第1の導体
8…第2の導体
9…絶縁部材
10…凸部
11…正極ケーブル
12…正極電極
13…負極ケーブル
14…負極電極
15…電着塗膜
16…空気
17…絶縁体
18…水