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特開2022-162851芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162851
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20221018BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L71/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067884
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】石谷 吉進
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AE034
4J002BB004
4J002BB034
4J002CG011
4J002CG032
4J002CH023
4J002EH027
4J002EH077
4J002EN058
4J002EN138
4J002EW066
4J002FD066
4J002FD098
4J002FD164
4J002FD167
4J002GB01
4J002GB02
(57)【要約】
【課題】成形滞留安定性に優れ、電離放射線滅菌の際の黄変が非常に小さいポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供する。
【解決手段】(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部(A成分)に対して、(B)ハロゲン化芳香族ポリカーボネートまたはカーボネートオリゴマーをハロゲン原子として0.85~3重量部(B成分)、(C)ポリプロピレングリコール0.25~0.7重量部(C成分)および(D)芳香族亜リン酸エステル系熱安定剤0.03~0.07重量部(D成分)を含むポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、(B)ハロゲン化芳香族ポリカーボネートまたはカーボネートオリゴマー(B成分)をハロゲン原子として0.5~3重量部、(C)ポリプロピレングリコール(C成分)0.1~1重量部および(D)芳香族亜リン酸エステル系熱安定剤(D成分)0.01~0.1重量部を含むポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
A成分100重量部に対して、さらに(E)離型剤(E成分)0.01~0.5重量部を含有する請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
A成分100重量部に対して、さらに(F)紫色系着色剤(F成分)0.00001~0.0001重量部を含有する請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂に、ハロゲン化芳香族ポリカーボネートまたはカーボネートオリゴマー、ポリプロピレングリコールおよび芳香族亜リン酸エステル系熱安定剤を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物とその成形品に関する。特に、医療用機器として有用な成形時の成形滞留安定性に優れ、電離放射線滅菌の際の黄変が非常に小さい芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、透明性、耐熱性、耐衝撃性の優れた熱可塑性樹脂として広範な用途に使用されている。該樹脂は、かかる優れた特性により、特に注射器、外科用具、手術用器具等を収容、包装する容器、人工肺、人工腎臓、麻酔吸収装置、静脈用コネクタ-及び付属品、血液分離装置等の医療用装置、外科用具、手術用具など、各種の医療用器具の部材として使用されている。
【0003】
これらの医療用途では、通常、完全な滅菌処理が施される。該滅菌処理には、エチレンオキシドガス接触処理、オートクレーブ中での高圧水蒸気による高温湿熱処理、γ線、電子線等の電離放射線の照射処理が挙げられる。これらの中で、エチレンオキシド法は、ガス自体の安全性、毒性(特に発ガン性等)の問題、被処理医療用器具における残留ガスの問題、廃棄処理に関連する環境問題などがあり好ましくない。水蒸気滅菌法は、高温湿熱処理のため材料の変形、加水分解による劣化、処理コストが高いなどの問題点があるほか、滅菌処理後に乾燥工程がさらに必要である。一方、電離放射線処理法は、製品への残留問題がなく、低温下乾燥状態で処理でき、処理コストが比較的低い等の利点があり、また該放射線はその物質透過性により包装済の製品での滅菌処理が実施できるため、盛んに用いられてきている。
【0004】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂はかかる電離放射線の照射を受けると、化学変化を伴い黄色に変色する。この変色は、医療用途では内容物の正確な色調が見られなくなるなど商品的価値を著しく損なう。
【0005】
かかる黄変を防止することを目的に種々の試みがなされている。例えば樹脂中に青系着色剤を添加して黄色味を相殺する方法が知られている。しかしながら、かかる方法では、該着色剤の添加量により黄色味を消すことはできるが、全体に暗色化し商品的価値をやはり損ねてしまう。
【0006】
また、ポリエーテルポリオール又はそのアルキルエーテルを添加する方法が知られている(特許文献1)。かかる方法では、ある程度の改善はなされるが、未だ不十分であり、また、該化合物の添加により成形加工時にポリカーボネート樹脂の分解及びヤケなどが発生しやすい問題があった。
【0007】
さらに、ポリカーボネート樹脂に芳香族ハロゲン化合物を添加する方法(特許文献2)や、環状アセタール基を有する可能物とポリアルキレングリコールのエーテル又はポリアルキレングリコールのエステルを添加する方法(特許文献3)、オキシ基またはカルボニル基を有する芳香族化合物およびポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールのエステルまたはポリアルキレングリコールのエステルを添加する方法(特許文献4)、シンナミル系化合物及びポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールのエーテル又はポリアルキレングリコールのエステルを添加する方法(特許文献5)等提案されている。しかしながら、これらの文献において、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形
する際の成形滞留安定性については不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62-135556号公報
【特許文献2】特開平2-129261号公報
【特許文献3】特開平9-59504号公報
【特許文献4】特開平9-87506号公報
【特許文献5】特開平10-25411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、成形時の成形滞留安定性に優れ、電離放射線滅菌の際の黄変が非常に小さい芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供することにある。本発明者はかかる目的を達成せんとして鋭意研究した結果、芳香族ポリカーボネート樹脂に、ハロゲン化芳香族ポリカーボネートまたはカーボネートオリゴマー、ポリプロピレングリコールおよび芳香族亜リン酸エステル系熱安定剤を配合することにより、成形時の成形滞留安定性に優れ、電離放射線滅菌の際の黄変が非常に小さくなることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、下記(構成1)~(構成4)が提供される。
【0011】
(構成1)
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、(B)ハロゲン化芳香族ポリカーボネートまたはカーボネートオリゴマー(B成分)をハロゲン原子として0.5~3重量部、(C)ポリプロピレングリコール(C成分)0.1~1重量部および(D)芳香族亜リン酸エステル系熱安定剤(D成分)0.01~0.1重量部を含むポリカーボネート樹脂組成物。
(構成2)
A成分100重量部に対して、さらに(E)離型剤(E成分)0.01~0.5重量部を含有する構成1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
(構成3)
A成分100重量部に対して、さらに(F)紫色系着色剤(F成分)0.00001~0.0001重量部を含有する構成1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
(構成4)
構成1~3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、成形時の成形滞留安定性に優れ、滅菌のために照射される電離放射線による色調の変化が少ない。従って、電離放射線処理が行われる医療用製品、医療用装置の用途に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)>
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物と、ホスゲンとの界面重合法により得られるか、また
は、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造される、分岐していてもよい芳香族ポリカーボネート重合体であることが好ましい。
【0015】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン(=テトラメチルビスフェノールA)等のビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン(=テトラブロムビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン(=テトラクロロビスフェノールA)等のハロゲンを含むビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物の他、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられ、好ましくはハロゲンを含んでいても良いビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物が挙げられ、特に好ましくは、ビスフェノールAが挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は1種でも良いが、複数種用いても良い。
【0016】
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、必要に応じて三官能以上の多官能性芳香族化合物を含有する構成単位を、共重合し、分岐ポリカーボネートとすることもできる。分岐ポリカーボネートに使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-2,2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、および4-{4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}-α,α-ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノールが好適に例示される。中でも1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。かかる多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位は、他の二価成分からの構成単位との合計100モル%中、好ましくは0.03~1.5モル%、より好ましくは0.1~1.2モル%、特に好ましくは0.2~1.0モル%である。
【0017】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量調節剤として、一価の芳香族ヒドロキシ化合物などを使用することができる。分子量調整剤としては、例えば、m-及びp-メチルフェノール、m-及びp-プロピルフェノール、p-ブロムフェノール、p-tert-ブチルフェノール及びp-長鎖アルキル置換フェノールなどが挙げられる。
【0018】
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、その粘度平均分子量(Mv)が、好ましくは15,000~40,000であり、より好ましくは16,000~30,000であり、さらに好ましくは17,000~28,000である。粘度平均分子量が上記範囲内であると十分な靭性や割れ耐性が得られ、また、成形加工性にも優れる。
【0019】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂材料0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t-t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mvを算出したものである。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
c=0.7
【0020】
<ハロゲン化芳香族ポリカーボネートまたはカーボネートオリゴマー(B成分)>
本発明で使用されるハロゲン化芳香族ポリカーボネートまたはハロゲン化芳香族カーボネートオリゴマーは、耐熱性の観点から下記式(1)で表される臭素化芳香族ポリカーボネートまたは臭素化芳香族カーボネートオリゴマーが特に好ましい。
【0021】
【化1】
【0022】
式(1)中、Xは臭素原子、Rは炭素数1~4のアルキレン基、炭素数1~4のアルキリデン基または-SO-である。また、かかる式(1)において、好適にはRはメチレン基、エチレン基、イソプロピリデン基、-SO-、特に好ましくはイソプロピリデン基を示す。
【0023】
式(1)の繰り返し単位数は平均で2~100の範囲が好ましく、3~50の範囲がより好ましく、3.5~30の範囲がさらに好ましく、4~15の範囲が特に好ましい。具体的な商品名として、帝人(株)製ファイヤーガードFG-8500やFG-7500が挙げられる。
【0024】
ハロゲン化芳香族ポリカーボネートまたはカーボネートオリゴマーは、残存するクロロホーメート基末端が少なく、末端塩素量が0.3ppm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2ppm以下である。かかる末端塩素量は、試料を塩化メチレンに溶解し、4-(p-ニトロベンジル)ピリジンを加えて末端塩素(末端クロロホーメート)と反応させ、これを紫外可視分光光度計(日立製作所製U-3200)により測定して求めることができる。末端塩素量が0.3ppm以下であると、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品の熱安定性がより良好となり、更に高温の成形が可能となり、その結果成形加工性により優れた樹脂組成物が提供される。
【0025】
ハロゲン化芳香族ポリカーボネートまたはカーボネートオリゴマーの比粘度は、好ましくは0.015~0.1の範囲、より好ましくは0.015~0.08の範囲である。臭素化ポリカーボネートの比粘度は、前述した本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量を算出するに際し使用した上記比粘度の算出式に従って算出することができる。
【0026】
ハロゲン化芳香族ポリカーボネートまたはカーボネートオリゴマーの配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、ハロゲン原子として0.5~3重量部であり、0.6~2重量部が好ましく、0.7~1.5重量部がより好ましく、0.8~1.3重量部がさらに好ましい。上記範囲より少なすぎると電離放射線の照射による黄変の抑制に効果がなく、一方、多すぎると機械的物性や耐熱性の低下を招くので好ましくない。
【0027】
<ポリプロピレングリコール(C成分)>
本発明で使用されるポリプロピレングリコールは、そのエーテル誘導体またはエステル誘導体であってもよい。
【0028】
具体的にポリプロピレングリコールのエーテル誘導体としては、ポリプロピレングリコールメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールドデシルエーテル、ポリプロピレングリコールベンジルエーテル、ポリプロピレングリコールジベンジルエーテル、ポリプロピレングリコール-4-ノニルフェニルエーテル、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0029】
また、具体的にポリプロピレングリコールのエステル誘導体としては、ポリプロピレングリコールジ酢酸エステル、ポリプロピレングリコール酢酸プロピオン酸エステル、ポリプロピレングリコールジ酪酸エステル、ポリプロピレングリコールジステアリン酸エステル、ポリプロピレングリコールジ安息香酸エステル、ポリプロピレングリコールジ2-、6-ジメチル安息香酸エステル、ポリプロピレングリコールジ-p-tert-ブチル安息香酸エステル、ポリプロピレングリコールジカプリン酸エステル等が挙げられる。
【0030】
本発明で使用されるポリプロピレングリコールは、芳香族ポリカーボネートへの配合時の分散性の観点から分子量が4000以下のものが好ましい。
【0031】
本発明で使用されるポリプロピレングリコールの配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1~1重量部であり、0.15~0.8重量部が好ましく、0.2~0.6重量部がより好ましく、0.25~0.5重量部がさらに好ましい。上記範囲より少なすぎると電離放射線の照射による黄変の抑制に効果がなく、一方、多すぎると機械的物性の低下を招くので好ましくない。
【0032】
<芳香族亜リン酸エステル系熱安定剤(D成分)>
本発明で使用される芳香族亜リン酸エステル熱安定剤は、例えばトリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(エチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ヒドロキシフェニル)ホスファイトなどのトリアリールホスファイト;フェニルジデシルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、フェニルイソオクチルホスファイト、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイトなどのアリールアルキルホスファイトを挙げることができる。芳香族亜リン酸エステル系熱安定剤の中でも、トリス(2,4-ジ-tert.-ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0033】
本発明で使用される芳香族亜リン酸エステル熱安定剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.01~0.1重量部であり、0.02~0.08重量部が好ましく、0.025~0.06重量部がより好ましく、0.03~0.05重量部がさらに好ましい。上記範囲より少なすぎると電離放射線の照射による黄変の抑制に効果がなく且つ成形時の成形滞留安定性に劣るため好ましくなく、一方、多すぎても成形時の成形滞留安定性の低下を招くので好ましくない。
【0034】
<離型剤(E成分)>
本発明で使用される離型剤は、その成形時の生産性向上や成形品の歪みの低減を目的として配合され、公知のものが使用できる。例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス、1-アルケン重合体など。酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、蜜蝋などを挙げることができる。中でも好ましい離型剤として脂肪酸エステルが挙げられる。
【0035】
かかる脂肪酸エステルは、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのエステルである。かかる脂肪族アルコールは1価アルコールであっても2価以上の多価アルコールであってもよい。また該アルコールの炭素数としては、3~32の範囲、より好適には5~30の範囲である。かかる一価アルコールとしては、例えばドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、エイコサノール、テトラコサノール、セリルアルコール、およびトリアコンタノールなどが例示される。かかる多価アルコールとしては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グリセロール、ポリグリセロール(トリグリセロール~ヘキサグリセロール)、ジトリメチロールプロパン、キシリトール、ソルビトール、およびマンニトールなどが挙げられる。本発明の脂肪酸エステルにおいては多価アルコールがより好ましい。
【0036】
本発明で使用される離型剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.01~0.5重量部が好ましく、0.03~0.4重量部がより好ましく、0.05~0.3重量部がさらに好ましく、0.1~0.2重量部が特に好ましい。上記範囲内では、成形時の成形滞留安定性に優れ、成形品の外観が良好となるため好ましい。
【0037】
<紫色系着色剤(F成分)>
本発明で使用される紫色系着色剤としては代表例として、LANXESS社製マクロレックスバイオレットB及びマクロレックスブルーRR、並びにクラリアント社のポリシンスレンブルーRLSなどが挙げられる。
【0038】
本発明で使用される紫色系着色剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.00001~0.0001重量部が好ましく、0.000015~0.00005重量部がより好ましい。上記範囲内では、電離放射線の照射による黄変の抑制に効果があり、成形品の外観が良好となるため好ましい。
【0039】
<ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、添加剤を配合させる方法は、特に限定されるものではなく公知の方法が利用できる。最も汎用される方法として、ポリカーボネート樹脂および添加剤を予備混合した後、押出機に投入して溶融混練を行い、押出されたスレッドを冷却し、ペレタイザーにより切断して、ペレット状の成形材料を製造する方法が挙げられる。
【0040】
上記方法における押出機は単軸押出機、および二軸押出機のいずれもが利用できるが、生産性や混練性の観点からは二軸押出機が好ましい。かかる二軸押出機の代表的な例としては、ZSK(Werner & Pfleiderer社製、商品名)を挙げることができる。同様のタイプの具体例としてはTEX((株)日本製鋼所製、商品名)、TEM(東芝機械(株)製、商品名)、KTX((株)神戸製鋼所製、商品名)などを挙げることができる。押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部手前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
【0041】
さらに添加剤は、独立して押出機に供給することもできるが、前述のとおり樹脂原料と予備混合することが好ましい。かかる予備混合の手段には、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、および押出混合機などが例示される。より好適な方法は、例えば原料樹脂の一部と添加剤とをヘンシェルミキサーの如き高速
攪拌機で混合してマスター剤を作成した後、かかるマスター剤物を残る全量の樹脂原料とナウターミキサーの如き高速でない攪拌機で混合する方法である。
【0042】
<成形品>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、回転成形等、公知の成形方法に従って、所望の成形品とすることができる。本発明のポリカーボネート樹脂組成物を適用できる医療用部品としては、具体的には、人工透析器、人工肺、麻酔用吸入装置、静脈用コネクター及び付属品、血液遠心分離器ボウル、外科用具、手術室用具やこれらを包装する容器状包装具、酸素を血液に供給するチューブ、チューブの接続具、心臓プローブ並びに注射器、静脈注射液等を入れる容器等が挙げられる。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例と比較例で使用した原料は次の通りである。
【0044】
<(A)芳香族ポリカーボネート樹脂>
帝人(株)製パンライトL-1225WP(ビスフェノールAを原料としたポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量22,400)
【0045】
<(B)ハロゲン化芳香族ポリカーボネートまたはカーボネートオリゴマー>
帝人(株)製ファイヤーガードFG-8500(テトラブロモビスフェノールAを原料とした芳香族ハロゲン化ポリカーボネート、ハロゲン原子として58%の臭素含有率、式(1)の繰り返し単位数約4)
帝人(株)製ファイヤーガードFG-7500(テトラブロモビスフェノールAを原料とした芳香族ハロゲン化ポリカーボネート、ハロゲン原子として52%の臭素含有率、式(1)の繰り返し単位数約5)
【0046】
<(C)ポリプロピレングリコール>
日油(株)製ユニオールD-2000
【0047】
<(D)芳香族亜リン酸エステル系熱安定剤>
BASF製IRGAFOS168FF(トリス(2,4-ジ-tert.-ブチルフェニル)ホスファイト)
【0048】
<その他の熱安定剤>
クラリアントジャパン(株)製ホスタノックスP-EPQ(芳香族リン系熱安定剤)
BASFジャパン(株)製IRGANOX1076(ヒンダードフェノール系熱安定剤)
【0049】
<(E)離型剤>
理研ビタミン(株)製リケマールS-100A(グリセリン脂肪酸エステル)
【0050】
<(F)紫色系着色剤>
LANXESS社製マクロレックスバイオレットB
実施例と比較例で使用した評価方法は次の通りである。
(1)黄変度(ΔYI)
(株)日本製鋼所製J85ELIII成形機を用い、シリンダー温度350℃、金型温度80℃にて試験片(50mm(幅)×90mm(長さ)で厚みが1mm、2mmおよび3mmの3段プレート)を作成し、試験片の2mm部分のYIを分光光度計CE-700
0Aで、C2光源、2度視野の透過法により測定した。この試験片にコバルト60γ線を25キログレイ(kGy)照射した後、前記の方法でYIを測定し、照射前との差をΔYIとして算出した。ΔYIは小さいほど好ましい。
(2)成形滞留安定性(ΔMv)
前記(1)同様に試験片を成形する際、金型より直ちに取り出した試験片と金型に10分間滞留させたのち取り出した試験片の粘度平均分子量の差(ΔMv×10-3)を算出した。ΔMv値は小さいほど好ましい。粘度平均分子量は前述した本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量を算出するに際し使用した式に従って算出されたものである。
【0051】
[実施例1~7および比較例1~5]
表1に示す割合で各原料をブレンドした後、スクリュー径30mmの(株)日本製鋼所製ベント付き二軸押出機TEX30αによりシリンダー温度280℃で溶融混錬し、ストランドカットによりペレット化した。該ペレットを120℃で5時間乾燥した後、前記の条件で評価用試験片を成形し、前記の評価を行い評価結果について表1に示した。
【0052】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、成形滞留安定性に優れ、電離放射線滅菌の際の黄変が非常に小さく、該ポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形品は、人工透析器、人工肺、麻酔用吸入装置、静脈用コネクター及び付属品などの医療用部品用途に有用である。