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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162858
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】筋萎縮抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20221018BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221018BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221018BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20221018BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20221018BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P21/00
A61K39/395 D
A61P43/00 111
C07K16/18
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067896
(22)【出願日】2021-04-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1)ウェブサイトの掲載日 2020年11月19日 ウェブサイトのアドレス https://www2.aeplan.co.jp/mbsj2020/ https://conference-apps-online.net/web/mbsj2020/ (その2) 開催日 2020年12月2日から2020年12月4日 集会名、開催場所 第43回日本分子生物学会年会(オンライン開催)
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 渉
(72)【発明者】
【氏名】平田 悠
(72)【発明者】
【氏名】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】黒田 良祐
(72)【発明者】
【氏名】新倉 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】大江 啓介
(72)【発明者】
【氏名】福井 友章
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ79
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS36
4B063QX01
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZB051
4C084ZB052
4C084ZC021
4C084ZC022
4C084ZC411
4C084ZC412
4C085AA13
4C085BB11
4C085BB17
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】筋萎縮抑制用組成物の提供。
【解決手段】CXCL10発現抑制剤を有効成分とする、筋萎縮抑制用組成物。前記筋萎縮抑制用組成物は、好ましくはCXCL10阻害剤、より好ましくはCXCL10の中和抗体、さらに好ましくはTRPV2の活性化剤を有効成分とする。筋萎縮が骨格筋の筋萎縮である。また、CXCL10遺伝子の発現量の減少を指標とする、筋萎縮を抑制するための有効成分のスクリーニング方法も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CXCL10発現抑制剤を有効成分とする、筋萎縮抑制用組成物。
【請求項2】
CXCL10阻害剤を有効成分とする、請求項1に記載の筋萎縮抑制用組成物。
【請求項3】
CXCL10の中和抗体を有効成分とする、請求項1又は2に記載の筋萎縮抑制用組成物。
【請求項4】
TRPV2の活性化剤を有効成分とする、筋萎縮抑制用組成物。
【請求項5】
CXCL10発現抑制剤を有効成分とする、筋萎縮を伴う疾患の治療又は予防用組成物。
【請求項6】
CXCL10阻害剤を有効成分とする請求項5に記載の筋萎縮を伴う疾患の治療又は予防用組成物。
【請求項7】
CXCL10の中和抗体を有効成分とする、請求項5又は6に記載の筋萎縮を伴う疾患の治療又は予防用組成物。
【請求項8】
TRPV2の活性化剤を有効成分とする、筋萎縮を伴う疾患の治療又は予防用組成物。
【請求項9】
筋萎縮が骨格筋の筋萎縮である、請求項1~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
CXCL10遺伝子の発現量の減少を指標とする、筋萎縮を抑制するための有効成分のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、筋萎縮抑制用組成物及び筋萎縮を抑制するための有効成分のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮には、筋肉自体の病気によるもの(筋原性筋萎縮)、運動神経の障害によるもの(神経原性筋萎縮)、長期間の寝たきり状態等活動性の低下によるもの(廃用性筋萎縮)等が知られており、特に、不動や不働、身体運動の低下は、筋量減少の重要な要因の1つであるとされている。また筋萎縮により、筋量が減少すると共に、筋力も低下してしまうことから、特に高齢者においては、不動や不働による廃用性筋萎縮は健康寿命の短縮に至る重要な病態であるが、その発症病理は十分に明らかではなく、治療薬の開発が望まれている(特許文献1)。
【0003】
その他、筋萎縮は、例えば、加齢、ステロイドなどの薬剤、内分泌疾患、癌・消耗性疾患、慢性腎臓病、慢性肝臓病、慢性心不全、うつ病などの精神疾患等、様々な要因により引き起こされることが知られており、健康上の大きな問題となっている。特に加齢に伴う筋萎縮であるサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)は、高齢化社会における重要な医療の課題の1つである。
【0004】
またこれまでにCXCL10(C-X-C motif chemokine ligand 10)に対する抗体が、リウマチ、潰瘍性大腸炎、クローン病、原発性胆汁性胆管炎等の治療薬として検討されているが、筋萎縮に対しての作用については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-094308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
筋萎縮抑制用組成物を提供することを課題とする。また、筋萎縮を伴う疾患の治療又は予防用組成物を提供することも課題の1つである。また、筋萎縮を抑制するための有効成分のスクリーニング方法を提供することも課題の1つである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、マウスの下肢をギプスで固定することにより、転写因子であるKLF15(クリュッペル様因子15)の遺伝子発現が有意に増加することを見出した。さらに本発明者らは、不動化性筋萎縮モデルマウスの骨格筋及び不動化性筋萎縮患者の骨格筋の網羅的遺伝子発現解析から、ケモカインであるCXCL10を同定し、不動化によりCXCL10の発現量が増加すること、KLF15欠損マウスでは、不動化によるCXCL10の発現量の増加が抑制されることを見出し、さらに改良を重ねた。
また本発明者らは、細胞膜Ca2+チャネル阻害剤をマウスに投与することによっても、CXCL10の発現量が増加することを見出し、さらに改良を重ねた。
【0008】
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
CXCL10発現抑制剤を有効成分とする、筋萎縮抑制用組成物。
項2.
CXCL10阻害剤を有効成分とする、項1に記載の筋萎縮抑制用組成物。
項3.
CXCL10の中和抗体を有効成分とする、項1又は2に記載の筋萎縮抑制用組成物。
項4.
TRPV2の活性化剤を有効成分とする、筋萎縮抑制用組成物。
項5.
CXCL10発現抑制剤を有効成分とする、筋萎縮を伴う疾患の治療又は予防用組成物。
項6.
CXCL10阻害剤を有効成分とする、項5に記載の筋萎縮を伴う疾患の治療又は予防用組成物。
項7.
CXCL10の中和抗体を有効成分とする、項5又は6に記載の筋萎縮を伴う疾患の治療又は予防用組成物。
項8.
TRPV2の活性化剤を有効成分とする、筋萎縮を伴う疾患の治療又は予防用組成物。
項9.
筋萎縮が骨格筋の筋萎縮である、項1~8のいずれかに記載の組成物。
項10.
CXCL10遺伝子の発現量の減少を指標とする、筋萎縮を抑制するための有効成分のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0009】
筋萎縮抑制用組成物が提供される。また、筋萎縮を抑制するための有効成分のスクリーニング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1-1】野生型マウス又は骨格筋特異的KLF15欠損マウスの不動化によるCXCL10の発現量、ギプス固定によるKLF15の発現量、及び腓腹筋重量の変化を示す。
図1-2】ギプス固定を要した患者におけるCXCL10の発現量を示す。
図1-3】対照群における年齢によるCXCL10の発現量の比較結果を示す。
図1-4】KLF15過剰発現筋細胞におけるCXCL10の発現量を示す。
図2】不動化による腓腹筋及びヒラメ筋の重量変化を示す。
図3】ヒラメ筋染色写真を示す。
図4-1】広域膜Ca2+チャネル阻害薬投与によるCXCL10の発現量の変化を示す。
図4-2】TRPV2チャネル阻害薬投与によるCXCL10の発現量の変化を示す。
図5-1】細胞外Ca2+キレート薬投与によるCXCL10の発現量の変化を示す。
図5-2】細胞内Ca2+キレート薬投与によるCXCL10の発現量の変化を示す。
図5-3】リアノジン受容体阻害薬投与によるCXCL10の発現量の変化を示す。
図6】TRPV2チャネル阻害薬、及びTRPV2チャネル活性化薬投与によるCXCL10の発現量の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0012】
本開示に包含される筋萎縮抑制用組成物は、CXCL10(C-X-C motif chemokine ligand 10)の発現抑制剤を含んでいてもよい。
また、本開示に包含される筋萎縮抑制用組成物は、TRPV2(Transient receptor potential cation channel subfamily V member2)の活性化剤を含んでいてもよい。
なお、これらの有効成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本明細書において、これらの筋萎縮抑制用組成物を「本開示の筋萎縮抑制用組成物」と表記することがある。
【0013】
CXCL10(IP-10とも称される)はCXCR3受容体に結合してその生物学的効果を発揮するCXCケモカインファミリーの1種であり、IFN-γに応答して細胞から分泌されることが報告されている。CXCL10は、例えば、単球、マクロファージ、T細胞、NK細胞、樹状細胞等の走化性;抗腫瘍活性等の作用を有することが知られている。
【0014】
CXCL10発現抑制剤としては、CXCL10阻害剤等が例示される。CXCL10阻害剤としては、CXCL10の活性を阻害する限り、特に限定されない。
【0015】
CXCL10の阻害剤としては、例えば、CXCL10の中和抗体等が挙げられる。CXCL10の中和抗体としては、CXCL10に結合し、CKCL10の活性を阻害する抗体である限り特に限定されない。
【0016】
CKCL10の活性阻害は、例えば、CXCL10によって誘導される走化性を阻害する能力を評価することにより確認される。
【0017】
CXCL10の中和抗体は、市販品であってもよく、公知の方法で製造したものであってもよい。
市販品としては、MAB466(R&D Systems社製)等が例示される。
【0018】
また、CXCL10阻害剤(CXCL10発現抑制剤)は、CXCL10遺伝子の発現を抑制することにより、CXCL10の活性を阻害することが可能な核酸分子であってもよい。そのような核酸分子としては、例えば、CXCL10をコードするポリヌクレオチドを標的としたアンチセンス鎖、siRNA、miRNA、shRNA、又はこれらを含むベクター等が挙げられる。遺伝子発現は、当該技術分野において公知の方法により確認される。
【0019】
KLF15は、不動化等によって遺伝子発現が有意に増加する転写因子である。後述する実施例に示す通り、KLF15欠損マウスでは、CXCL10の発現増加が抑制されることから、KLF15は、CXCL10の発現を制御する因子であると推測される。このことから、CXCL10阻害剤は、KLF15遺伝子の発現を抑制することにより、CXCL10の活性を阻害することが可能な核酸分子であってもよい。そのような核酸分子としては、例えば、KLF15をコードするポリヌクレオチドを標的としたアンチセンス鎖、siRNA、miRNA、shRNA、又はこれらを含むベクター等が挙げられる。遺伝子発現は、当該技術分野において公知の方法により確認される。
【0020】
なお、本開示の筋萎縮抑制用組成物は、CXCL10の受容体である、CXCR3のアンタゴニストを含むものであってもよい。
【0021】
TRPV2は、Transient Receptor Potential(TRP)スーパーファミリーに属する、カルシウムイオン透過性の高い非選択性陽イオンチャンネルである。TRPV2は、例えば、摂氏52度以上の熱刺激や細胞膜機械的伸展刺激により、活性化されることが知られている。
【0022】
TRPV2の活性化剤としては、TRPV2を活性化する限り特に限定されない。
【0023】
TRPV2の活性化は、例えば、TRPV2を介したカルシウムの取り込みを促進する能力を評価することにより確認される。
【0024】
TRPV2の活性化剤としては、例えば、プロベネシド、ジフェニルボリン酸2-アミノエチル、リゾホスファチジルコリン、IGF-1(Insulin-like growth factor 1)、カンナビジオール等が挙げられる。
TRPV2の活性化剤は、天然物であっても合成物であってもよく、天然物から精製したものや商業的に入手可能なものなど、特に限定されない。合成物である場合には、公知の方法等によって合成することができる。
【0025】
本開示の筋萎縮抑制用組成物中、CXCL10発現抑制剤及び/又はTRPV2の活性化剤の含有量は、特に限定されず、例えば0.01~100質量%の範囲で適宜設定することができる。例えば、0.05~99質量%であってもよい。
【0026】
本開示の筋萎縮抑制用組成物は、上述した有効成分を含み、さらに他の成分を含むことができる。当該他の成分としては、薬学的に許容される基剤、担体、添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、保存剤、コーティング剤、着色料、胃粘膜保護剤などのその他の薬剤等)等が例示される。これらの成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本開示の筋萎縮抑制用組成物の形態は、特に限定されず、注射剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、トローチ剤、ゼリー剤、硬膏剤、エキス剤、坐剤、懸濁剤、チンキ剤、軟膏剤、パップ剤、点鼻剤、吸入剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤等が例示される。
【0028】
本開示の筋萎縮抑制用組成物は、上述した有効成分と、必要に応じて他の成分とを組み合わせて常法により調製することができる。
【0029】
限定的な解釈を望むものではないが、本開示のCXCL10発現抑制剤を含む筋萎縮抑制用組成物によれば、CXCL10発現抑制剤により、CXCL10の活性を阻害することにより、筋萎縮を抑制することができる。
【0030】
また、限定的な解釈を望むものではないが、本開示のTRPV2の活性化剤を含む筋萎縮抑制用組成物によれば、TRPV2の活性化剤により、TRPV2を介して細胞外から細胞内へのカルシウムの取り込みが促進される。後述する実施例に示す通り、TRPV2を介した細胞内へのカルシウムの取り込みが抑制されると、CXCL10の発現が増加することから、TRPV2の活性化剤により、TRPV2を介した細胞内へのカルシウムの取り込みを促進し、CXCL10の発現を抑制することで、筋萎縮を抑制することができる。
【0031】
筋としては、随意筋(骨格筋)、不随意筋(心筋、平滑筋)が例示される。中でも、随意筋(骨格筋)であることが好ましい。
【0032】
筋萎縮としては、廃用性筋萎縮、筋原性筋萎縮、神経原性筋萎縮等が例示される。中でも、廃用性筋萎縮が好ましく、不動及び/又は不働により生じる廃用性筋萎縮がより好ましい。
本明細書において、「不動」とは、例えば、関節の固定など、関節の可動域の運動が不可能な状態をいい、「不働」とは、例えば、神経の切断、筋の麻痺など、筋の動きを生じることができない状態をいう。
【0033】
本開示の筋萎縮抑制用組成物の投与量としては、特に限定されず、投与する対象の年齢、体重、性別、症状の程度、投与方法等により決定される。
【0034】
本開示の筋萎縮抑制用組成物の投与方法としては、例えば、経口投与、及び非経口(例えば静脈、動脈、筋肉、皮下、腹腔、直腸、経皮、局所など)投与等が挙げられる。
【0035】
本開示の筋萎縮抑制用組成物の投与対象としては、哺乳動物が好ましい。ヒトのみならず、非ヒト哺乳動物であってもよい。対象となるヒトとしては、例えば、筋萎縮を有するヒト、又はその疑いがあるヒト;サルコペニア(加齢性筋肉減弱症)を有するヒト、又はその疑いがあるヒト;筋ジストロフィー等の筋原性筋萎縮を有するヒト、又はその疑いがあるヒト;筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経原性筋萎縮を有するヒト、又はその疑いがあるヒト;ステロイドなどの薬剤性筋萎縮を有するヒト、又はその疑いがあるヒト;クッシング症候群等の内分泌疾患による筋萎縮を有するヒト、又はその疑いがあるヒト;癌・消耗性疾患による筋萎縮を有するヒト、又はその疑いがあるヒト;慢性腎臓病による筋萎縮を有するヒト、又はその疑いがあるヒト;慢性肝臓病による筋萎縮を有するヒト、又はその疑いがあるヒト;慢性心不全による筋萎縮を有するヒト、又はその疑いがあるヒト;うつ病など精神疾患による筋萎縮を有するヒト、又はその疑いがあるヒト等などが挙げられる。
また、非ヒト哺乳動物としては、例えばペット、家畜、実験動物等として飼育される哺乳動物などが例示される。このような非ヒト哺乳動物としては、例えば、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、リャマ等が挙げられる。
【0036】
本開示の筋萎縮抑制用組成物によれば、筋萎縮を抑制することができる。このため、当該組成物は、筋萎縮を伴う疾患の治療又は予防のために好適に用いることができる。本明細書において、当該組成物を「本開示の治療又は予防用組成物」と表記することがある。
【0037】
本開示の治療又は予防用組成物については、上述した「本開示の筋萎縮抑制用組成物」についての記載を援用することができる。
【0038】
筋萎縮を伴う疾患としては、サルコペニア(加齢性筋肉減弱症);筋ジストロフィー等の筋原性筋萎縮;筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経原性筋萎縮;クッシング症候群等の筋萎縮を伴う内分泌疾患;筋萎縮を伴う癌・消耗性疾患;筋萎縮を伴う慢性腎臓病;筋萎縮を伴う慢性肝臓病;筋萎縮を伴う慢性心不全;筋萎縮を伴ううつ病などの精神疾患等が例示される。
【0039】
本開示は、筋萎縮を抑制するための有効成分のスクリーニング方法をも包含する。本明細書において、当該方法を、「本開示のスクリーニング方法」と表記することがある。
【0040】
本開示のスクリーニング方法は、CXCL10遺伝子の発現量の減少を指標とすることが好ましい。
【0041】
CXCL10遺伝子の発現量は、例えば、CXCL10遺伝子を発現する細胞に、被験成分を添加し、PCR法などによって測定することができる。本開示のスクリーニング方法は、CXCL10遺伝子を発現する細胞に、被験成分を添加し、当該細胞のCXCL10遺伝子の発現量を測定する工程を含むことが好ましい。
【0042】
本開示のスクリーニング方法は、被験成分を添加しない場合と比較して、被験成分を添加する場合に、CXCL10遺伝子の発現量が減少した成分を、筋萎縮を抑制するための有効成分として選択する工程を含んでいてもよい。また、本開示のスクリーニング方法は、被験成分と、CXCL10遺伝子の発現量を減少させる成分(対照)とを比較して、対照と同程度のCXCL10遺伝子の発現量の減少が確認された被験成分を、筋萎縮を抑制するための有効成分として選択する工程を含んでいてもよい。
【0043】
後述の実施例に示す通り、CXCL10発現抑制剤(より具体的には、CXCL10の中和抗体)により、腓腹筋やヒラメ筋などの筋重量低下抑制、筋線維径減少抑制、又は炎症細胞浸潤抑制等、筋萎縮の抑制が可能であるため、本開示のスクリーニング方法によれば、CXCL10遺伝子の発現量の減少を指標として、筋萎縮を抑制するための有効成分のスクリーニングすることができる。
【0044】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0045】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0046】
本開示の内容を以下の実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本開示はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を意味する。
【0047】
全身麻酔下にマウス(雄、10週齢)の両下肢をプラスチック製ギプスで固定することにより、不動化モデルマウスを作成した。3日間の不動化処理の後にマウスを屠殺し、骨格筋を採取して速やかに液体窒素で凍結した。全RNAをRNeasy Miniキット(Qiagen社製)を用いて抽出し、Real-Time PCR system(Applied Biosystems社製)を用いてリアルアルタイム定量PCR法を行い、筋組織におけるmRNA発現を解析した。各サンプルのCXCL10、KLF15の発現量は、内在性コントロールである36B4の発現量で補正した。結果を、図1-1に示す。
【0048】
野生型マウス(WT)の腓腹筋では、不動化(IM)によってCXCL10のmRNA発現が対照(Control)と比較して約4倍に増加した([図1-1](A))。一方、不動化によってKLF15のmRNA発現が有意に増加することが確認され(([図1-1](B))、骨格筋特異的KLF15欠損マウス(M-KLF15KO、KLF15-floxマウスとMLC1f-Creマウスとの交配により作成)では、不動化によるCXCL10のmRNA発現増加が顕著に抑制された(n = 6, *P < 0.05, NS; not significant, 2-way ANOVA with Bonferroni post-hoc test)([図1-1](A))。なお、野生型マウス及び骨格筋特異的KLF15欠損マウスについて、ギプス固定後の腓腹筋重量を測定したところ、野生型マウスでは、ギプス固定により、腓腹筋重量が有意に減少したのに対して、骨格筋特異的KLF15欠損マウスでは、ギプス固定を行っても、腓腹筋重量の減少は確認されなかった(([図1-1](C))。
【0049】
神戸大学医学部附属病院整形外科との共同研究(神戸大学大学院医学研究科等 医学倫理委員会、承認日:2018年6月14日、承認番号:180059)により、骨折等でギプス固定を要した患者(IM、21例、固定日数:6.5 ± 3.6日)に対して全身麻酔下で修復術を行う際に骨格筋生検を行った。また、修復術から半年以上経過後の抜釘術時にも骨格筋生検を行い、対照(Control、22例)の筋試料を得た。ヒト骨格筋組織から前述の方法で全RNAを抽出し、リアルアルタイム定量PCR法でCXCL10のmRNA発現を解析した。結果を、図1-2に示す。
【0050】
不動化群では対照群と比較して、CXCL10のmRNA発現が2倍以上に増加した(*P < 0.05, Unpaired t test)。
【0051】
対照群のヒト骨格筋生検試料を年齢で層別化し(60歳未満:13例、48.2 ± 10.4歳、60歳以上:9例、72.7 ± 7.7歳)、解析した。結果を、図1-3に示す。
【0052】
60歳以上の群では未満の群と比較して、CXCL10のmRNA発現が有意に増加した(*P < 0.05, Unpaired t test)。
【0053】
C2C12マウス筋芽細胞をgrowth medium(Dulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM)、10% heat-inactivated fetal bovine serum、1% ペニシリン-ストレプトマイシン)を用いてインキュベーター(37℃、95% air、5% CO2)内で維持した。筋芽細胞が100%コンフルエントに達した後に、培養液をdifferentiation medium(DMEM、2% horse serum、1% ペニシリン-ストレプトマイシン)に変換して分化誘導し、4日以上経過して筋管細胞に完全に分化した後に実験に使用した。マウスKLF15 cDNAを組み込んだアデノウイルスをC2C12筋管細胞に感染(MOI (multiplicity of infection, plaque-forming units per cell) 30)させて、48時間後に回収し、前述の方法で全RNAを抽出した。リアルアルタイム定量PCR法で解析した結果を、図1-4に示す。
【0054】
KLF15の過剰発現(Ad-KLF15)によってCXCL10のmRNA発現が有意に増加した(n = 6, *P < 0.05, Unpaired t test)。
【0055】
CXCL10中和抗体(MAB466、R&D Systems)またはNormal rat IgG(6-001-F、R&D Systems)をギプス固定の3日前に、マウスへ腹腔内投与(0.1mg/匹)し、10日間の不動化処理を行った後に屠殺し、体重および骨格筋重量を測定した。結果を、図2に示す。
【0056】
対照群(Control)と比較して不動化群(IM + IgG)では、腓腹筋やヒラメ筋の体重当たりの重量が低下する一方で、CXCL10中和抗体投与群(IM + Anti-CXCL10)では不動化による筋重量低下が有意に抑制された(n = 10, *P < 0.05, 2-way ANOVA with Bonferroni post-hoc test)。
【0057】
図2において採取したマウスヒラメ筋をホルマリン浸漬し、パラフィン包埋、最大径となる横断面で切片を作成し、HE染色した。結果を、図3に示す。
【0058】
対照群(Control)と比較して不動化群(IM + IgG)では、筋線維径の減少および炎症細胞の浸潤を認める一方で、CXCL10中和抗体投与群(IM + Anti-CXCL10)では不動化による筋線維径減少や炎症細胞浸潤が抑制された。
【0059】
C2C12筋管細胞に広域膜Ca2+チャネル阻害薬であるSKF-96365(50μM)を添加し、6時間後に細胞を回収して前述の方法で全RNAを抽出した。リアルアルタイム定量PCR法で解析した結果を、図4-1に示す。
【0060】
広域膜Ca2+チャネル阻害薬の投与によってCXCL10のmRNA発現が有意に増加した(n = 6, *P < 0.05, Unpaired t test)。
【0061】
C2C12筋管細胞にTRPV2チャネル阻害薬であるTranilast(75μM)を添加し、6時間後に細胞を回収して前述の方法で全RNAを抽出した。リアルアルタイム定量PCR法で解析した結果を、図4-2に示す。
【0062】
TRPV2チャネル阻害薬の投与によってCXCL10のmRNA発現が有意に増加した(n = 6, *P < 0.05, Unpaired t test)。
【0063】
C2C12筋管細胞に細胞外Ca2+キレート薬であるEGTA(0.1mM)を添加し、3時間後に細胞を回収して前述の方法で全RNAを抽出した。リアルアルタイム定量PCR法で解析した結果を、図5-1に示す。
【0064】
細胞外Ca2+キレート薬の投与によってCXCL10のmRNA発現が有意に増加した(n = 8, *P < 0.05, Unpaired t test)。つまり、細胞外Ca2+キレート剤によって細胞外のCa2+濃度が低下するために、細胞外から細胞内へ流入するCa2+が減少し、細胞内のCa2+濃度が低下することによって、CXCL10のmRNA発現が有意に増加することが示唆された。
【0065】
C2C12筋管細胞に細胞内Ca2+キレート薬であるBAPTA-AM(10μM)を添加し、6時間後に細胞を回収して前述の方法で全RNAを抽出した。リアルアルタイム定量PCR法で解析した結果を、図5-2に示す。
【0066】
細胞内Ca2+キレート薬の投与によってCXCL10のmRNA発現は変化しなかった(n = 6, NS; not significant, Unpaired t test)。
【0067】
C2C12筋管細胞にリアノジン受容体阻害薬であるDantrolene(20μM)を添加し、6時間後に細胞を回収して前述の方法で全RNAを抽出した。リアルアルタイム定量PCR法で解析した結果を、図5-3に示す。なお、リアノジン受容体阻害薬を添加することにより、筋小胞体から細胞内へのカルシウムの放出が抑制される。
【0068】
リアノジン受容体阻害薬の投与によってCXCL10のmRNA発現は変化しなかった(n = 9, NS; not significant, Unpaired t test)。つまり筋小胞体から細胞内へのカルシウムの放出を抑制しても、CXCL10のmRNA発現量には影響を及ぼさなかったことから、CXCL10のmRNAの増加は、TRPV2(細胞膜Caチャネル)を介した細胞外から細胞内へのカルシウム流入阻害に起因することが示唆された。
【0069】
C2C12筋管細胞にTRPV2チャネル活性化薬であるLPC(30μM)、TRPV2チャネル阻害薬であるTranilast(75μM)を添加し、6時間後に細胞を回収して前述の方法で全RNAを抽出した。リアルアルタイム定量PCR法で解析した結果を、図6に示す(n = 6)。
【0070】
TRPV2チャネル阻害薬の投与によってCXCL10のmRNA発現が有意に増加したのに対して、TRPV2チャネル活性化薬であるLPCの投与によってCXCL10のmRNA発現が減少することが確認された。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6