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特開2022-162864復元力温存部付き医療用テープ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162864
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】復元力温存部付き医療用テープ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/02 20060101AFI20221018BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20221018BHJP
   A61L 15/22 20060101ALI20221018BHJP
   A61L 15/58 20060101ALI20221018BHJP
   A61L 15/26 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A61F13/02 310Z
A61F13/02 390
A61F13/02 A
A61L15/42 110
A61L15/22 110
A61L15/58 110
A61L15/26 110
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067909
(22)【出願日】2021-04-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】507134655
【氏名又は名称】有限会社ちょうりゅう
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】平島 利文
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA03
4C081AA12
4C081BB04
4C081BB07
4C081CA211
4C081DA02
4C081DC04
4C081EA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】成形収縮に伴う残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減する効果が高い医療用テープを提供する。
【解決手段】溶液ポリマーで製膜された伸縮性機能を有する伸縮性基材部と、非伸縮性、可とう性、及び復元性機能を有する復元力温存部と、前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部と、前記粘着部を保護する機能を有する剥離部を備え、上層から前記復元力温存部、前記伸縮性基材部、前記粘着部、及び前記剥離部がこの順に積層されている医療用テープ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液ポリマーで製膜された伸縮性機能を有する伸縮性基材部と、非伸縮性、可とう性、及び復元性機能を有する復元力温存部と、前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部と、前記粘着部を保護する機能を有する剥離部を備え、上層から前記復元力温存部、前記伸縮性基材部、前記粘着部、及び前記剥離部がこの順に積層されている医療用テープ。
【請求項2】
外力により断面形状が凸型となる略円弧形又は略弓形に曲げた復元力温存部の上層に、伸縮性機能を有する伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布し、前記伸縮性基材部の製膜と前記復元力温存部と前記伸縮性基材部との積層を同時に行い、製膜を完了させ、前記伸縮性基材部を得て、断面形状が凸型となる略円弧形又は略弓形の前記復元力温存部と前記伸縮性基材部からなる2層の構造体を得る工程、次いで、前記復元力温存部に加えた外力を取り除き、前記復元力温存部が備える復元性を発揮させ、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力とは相反する方向の形状変化に伴う復元力により、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部と前記復元力温存部からなる2層の構造体を得る工程を含む医療用テープの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形収縮に対応した医療用テープ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場等において、ガーゼ及びパッド等の被覆固定、留置針やカテーテル等の処置具の固定、創傷や皮膚の被覆保護等には、防水性、透湿性、及び皮膚追従性等に優れた機能を備えたポリウレタンフィルム等のフィルム状素材を用いた医療用テープが選択されている。留置針(りゅうちしん)とは、採血・点滴の際に、静脈内に挿入し身体に固定して使用する注射針であり、一週間前後に渡る点滴等にも使用される。
【0003】
これらのフィルム状素材は、厚さ10μm程度と非常に薄いため、単独では平面形態を保持できず、自然環境下では丸まりやすい。そのため、平面形態を保持するための支持体として、フィルム状素材の伸縮性基材より剛性の高い保形用カバー、例えば、非伸縮性のプラスチックフィルムにフィルム状素材を積層させることで平面形態を保持し、しわ等を形成しないようにしている。
【0004】
なお、その製造工程では、平面形態を保持するための支持体とフィルム状素材を積層させる手段として、非伸縮性のプラスチックフィルムの上層(片面)に、ポリウレタンフィルムの原料となる混液(ウレタン樹脂液と架橋剤液)を塗布した後、硬化させ製膜することで、ポリウレタンフィルムを得ると同時に平面形態を保持するための支持体とフィルム状素材を積層させる方法が汎用されている。
【0005】
しかし、上述の方法では、ポリウレタンフィルムの製膜と支持体への積層を同時に行うため、ポリウレタンフィルム内に、ポリウレタンフィルムの原料となる混液の硬化に伴う成形収縮によって残留した収縮力(内部応力)が発生する。以下、「製造過程において伸縮性基材内に残留した収縮力」を「残留収縮力」と称する。よって、上述の方法で得られたポリウレタンフィルムを医療用テープの伸縮性基材、非伸縮性のプラスチックフィルムを医療用テープの支持体として用いた医療用テープ、すなわち、「ポリウレタンフィルムの原料となる混液(ウレタン樹脂液と架橋剤液)を用い、フィルム状の伸縮性基材の製膜及び上層に位置する非伸縮性の支持体への積層を同時に行い、伸縮性基材の下層に粘着剤が塗布され、最下層に非伸縮性の剥離紙を備え、伸縮性基材の上層に平面形態を保持するための非伸縮性の支持体を備えた医療用テープ」(以下、「非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープ」と称する。)では、伸縮性基材であるフィルム状素材に、成形収縮に伴う残留収縮力が存在することになる。すなわち、伸縮性基材の原料となる混液が、非伸縮性素材の支持体に付着していない場合には、伸縮性基材の原料となる混液は自由に収縮して、残留収縮力を生じないが、伸縮性基材の原料となる混液が、非伸縮性素材の支持体によく付着していると、伸縮性基材の原料となる混液は、膜厚方向以外には自由に収縮できず、製膜後の伸縮性基材と非伸縮性素材の支持体との付着界面付近に残留収縮力が発生する。
【0006】
なお、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープの使用手順は、1.剥離紙を取り除く。2.皮膚に貼付する。3.支持体を取り除く。となる。また、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープの残留収縮力は、剥離紙をすべて取り除いても消失せず、皮膚に貼付した後、支持体を取り除くことで放たれ、皮膚を持続的に収縮させる力となり、皮膚を収縮させるため、貼付期間中の持続的な皮膚刺激の原因となる。
【0007】
ここで、図1及び図2を用い、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープに存在する残留収縮力について説明する。図1は、支持体が二分された構造からなる非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープを皮膚に貼付した後、親指側の支持体を取り除いた様子を示した説明図である。親指側の支持体及び小指側の支持体の下層に位置する伸縮性基材の状態を比較するため、親指側の支持体は、取り除いた状態であり、小指側の支持体は、取り除いていない状態である。皮膚に貼付した後、支持体を取り除いた親指側の伸縮性基材には、細かな皺が出現したが、支持体を取り除いていない小指側の伸縮性基材には、変化は確認できなかった。図2は、残りの支持体である、小指側の支持体を取り除いた状態を示しており、小指側の伸縮性基材にも細かな皺が出現している。このことは、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープでは、支持体を取り除いたことで伸縮性基材が支持体から解放されて収縮し、伸縮性基材に細かな皺を出現させたことを示しており、したがって、伸縮性基材には成形収縮に伴う残留収縮力が存在していたといえる。このように、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープでは、支持体を取り除くことで残留収縮力が放たれる。よって、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープに存在する成形収縮に伴う残留収縮力は、皮膚に貼付した後、支持体を取り除くことで、伸縮性基材を収縮させ、その結果、伸縮性基材に細かな皺を出現させることで確認できる。
【0008】
なお、医療テープ業界では、製品の取り扱い説明書等において、「皮ふ刺激の原因となりますので、引っ張らずに(伸ばさずに)、貼ってください」といった注意喚起がおこなわれている。このことから、医療テープ業界において、伸縮性医療用テープの伸縮性基材部分を「引き伸ばした状態」で皮膚に貼付することの危険性については、当業者常識として十分に理解していると推察される。また、プラスチック業界において、非伸縮性の支持体(プラスチックフィルム等)の上層に、溶液ポリマーを塗布し、乾燥させ、ポリウレタンフィルムの製膜及び支持体への積層を同時に行えば、成形収縮に伴う残留収縮力(内部応力)がポリウレタンフィルム内に発生することは、当業者常識といえる。
【0009】
一方、医療テープ業界においては、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープの伸縮性基材部分であるポリウレタンフィルム内に、成形収縮に伴う残留収縮力が存在することに対する認識(当業者常識)は乏しいと推察する。仮に、医療テープ業界に成形収縮に伴う残留収縮力の存在についての認識(当業者常識)があり、残留収縮力が弊害を伴うと捉えているのであれば、製品の取り扱い説明書等に「伸縮性基材部分に実在する成形収縮に伴う残留収縮力」に対する注意等の記載があるはずである。現在製造販売されている医療用テープの取り扱い説明書等には、「本品の使用中に皮膚障害(発疹・発赤、かゆみ等)と思われる症状が現れた場合には、使用を中止し、適切な治療を行ってください。」といった注意喚起のみで、使用者の体質的な内因と捉えかねないような問題を含む注意喚起の記載である。よって、使用者が目的をもって使用する医療用テープであるにもかかわらず、「伸縮性基材部分に実在する成形収縮に伴う残留収縮力」に伴う弊害を、使用者自身が認識することなく、さらに防ぐ術もないまま使用してしまうという問題があった。さらに、この問題の根幹となるのは、「成形収縮に伴う残留収縮力」は、プラスチック業界においては当業者常識であるが、同様の素材を用いた製品を製造販売する医療テープ業界においては、当業者常識ではないという矛盾が生じていることであり、医療テープ業界では、弊害を伴う成形収縮に伴う残留収縮力について対応がなされていないという問題があった。
【0010】
一部では、伸縮性医療用テープの伸縮性基材の貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するための医療用テープ(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)が提案され、残留収縮力を原因とする非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープの貼付期間中の持続的な皮膚刺激が改善されている。しかし、特許文献1に記載の医療用テープでは、製造工程において、伸縮性基材部を弛ませた状態又は引き伸ばさない状態で伸縮性基材部と伸張防止部を積層させることが必須のため、伸縮性基材部の製膜と伸張防止部と伸縮性基材部との積層を同時に行うことができず、該医療用テープの製造は、効率の観点から、製造設備や製造コスト等の問題が浮上した。また、特許文献2に記載の医療用テープでは、溶液ポリマーの成形収縮に追従可能な追従機能を有する成形収縮追従部が、使用時に引き伸ばされるおそれがあるという問題が浮上した。ゆえに、従来の非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープでは、成形収縮に伴う残留収縮力に対応する製造は容易ではなく、医療用テープの伸縮性基材部分に、成形収縮に伴う残留収縮力が生じるため、成形収縮に伴う残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減することは容易ではなく、このような不利を適切に解決できる手段がなかったのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6312915号公報
【特許文献2】特許第6832470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑み、特に溶液ポリマーを原料とし、製造工程において製膜及び積層を同時に行うことで成形収縮を伴う医療用テープにおいて、成形収縮に伴う残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減する効果が高く、原因となる成形収縮に伴う残留収縮力の程度が、肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルといえるような軽微な刺激であっても、過敏に反応してしまう皮膚への貼付を目的とした医療用テープを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の復元力温存部付き医療用テープは、溶液ポリマーで製膜された伸縮性機能を有する伸縮性基材部と、非伸縮性、可とう性、及び復元性機能を有する復元力温存部と、前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部と、前記粘着部を保護する機能を有する剥離部を備え、上層から前記復元力温存部、前記伸縮性基材部、前記粘着部、及び前記剥離部がこの順に積層されている医療用テープである。また、本発明の医療用テープの製造方法は、外力により断面形状が凸型となる略円弧形又は略弓形に曲げた復元力温存部の上層に、伸縮性機能を有する伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布し、前記伸縮性基材部の製膜と前記復元力温存部と前記伸縮性基材部との積層を同時に行い、製膜を完了させ、前記伸縮性基材部を得て、断面形状が凸型となる略円弧形又は略弓形の前記復元力温存部と前記伸縮性基材部からなる2層の構造体を得る工程、次いで、前記復元力温存部に加えた外力を取り除き、前記復元力温存部が備える復元性を発揮させ、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力とは相反する方向の形状変化に伴う復元力により、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部と前記復元力温存部からなる2層の構造体を得る工程を含む医療用テープの製造方法である。本発明の医療用テープの製造方法において、上記工程以外の工程については、任意でよく、本発明の効果を奏することができる限りにおいて特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法で得られる医療用テープは、特に溶液ポリマーを原料とし、製造工程において製膜及び積層を同時に行うことで成形収縮を伴う医療用テープの成形収縮に伴う残留収縮力を原因とする皮膚を持続的に収縮させる力を減少させるための手段を医療用テープに機能として取り入れることで、該医療用テープの製造段階において、成形収縮に伴う残留収縮力を減少させることができる。よって、該医療用テープの使用時には、該医療用テープの成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態で、皮膚に貼付することができるため、該医療用テープの成形収縮に伴う残留収縮力による皮膚を持続的に収縮させる力を減少させることができ、該残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減させることができる。このことにより、原因となる成形収縮に伴う残留収縮力の程度が、肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルといえるような軽微な刺激であっても、過敏に反応してしまう皮膚への貼付が可能となり、低刺激の医療用テープや貼付剤等を提供することができる。また、皮脂腺や汗腺の炎症、毛根やその周辺組織の炎症、圧迫によって生じる皮膚の細胞や毛細血管等に対する血液循環不良による医療関連機器圧迫創傷等を予防することができる。本発明の医療用テープの製造方法によれば、本発明の医療用テープを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、段落[0007]に記載の残留収縮力の確認に用いた親指側の非伸縮性の支持体を取り除いた様子を示す説明図である。
図2図2は、図1に示した説明図の残りの非伸縮性の支持体である小指側の支持体を取り除いた様子を示す説明図である。
図3図3は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープに用いる復元力温存部1の概略断面図である。
図4図4は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程を示す図であり、凹型形状の作業台5を用い、復元力温存部1を外力により断面形状が凸型となる略円弧形に曲げた様子を示す概略断面図である。
図5図5は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程を示す図であり、図4に示した復元力温存部1の上層に、伸縮性機能を有する伸縮性基材部2となる溶液ポリマーを塗布し、伸縮性基材部2の製膜と復元力温存部1と伸縮性基材部2との積層を同時に行い、製膜を完了させ、伸縮性基材部2を得て、断面形状が凸型となる略円弧形の復元力温存部1と伸縮性基材部2からなる2層の構造体を得る工程の様子を示す概略断面図である。
図6図6は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程を示す図であり、図5で得た2層の構造体を凹型形状の作業台5から断面形状が水平状の作業台6へ移すことで、復元力温存部1に加えた外力を取り除き、復元力温存部1が備える復元性を発揮させ、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力とは相反する方向の形状変化に伴う復元力により、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部2と復元力温存部1からなる2層の構造体を得る工程の様子を示す概略断面図である。
図7図7は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程を示す概略断面図であり、伸縮性基材部2の上層に、粘着剤を塗布して粘着部3とし、該粘着部3の上層に剥離部4を備えた様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者は、鋭意研究を重ねていく過程で、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープの残留収縮力の要因は、製造時に、製膜及び積層を同時に行うことで生じる成形収縮にあり、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープの残留収縮力は、剥離紙をすべて取り除いても消失せず、皮膚に貼付した後、非伸縮性の支持体を取り除くことで放たれ、皮膚を持続的に収縮させる力となって、皮膚を収縮させるため、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープによる貼付期間中の持続的な皮膚刺激となる。そこで、溶液ポリマーを原料とする医療用テープの製造工程において、製膜及び積層を同時に行うことで生じる成形収縮に対し、製造段階から対応することで、成形収縮に伴う残留収縮力を減少させる手段について着目した。
【0017】
ここで、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープを、創傷や皮膚の被覆保護等を目的として使用した場合の皮膚刺激について説明する。皮膚表面には、皮脂腺や汗腺の開口部があり、毛が存在する。そのため、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープの残留収縮力は、皮脂腺や汗腺の開口部を持続的に変形させ、時に閉塞させる力となり、皮脂腺や汗腺の炎症(発赤、腫脹、発熱、疼痛、機能障害)を促すことも少なくない。また、皮膚を持続的に収縮させる力は、皮膚を収縮させ、持続的に毛を引き上げる力となり、毛根やその周辺組織に炎症を引き起こすことも稀ではない。
【0018】
次に、ガーゼ及びパッド等の被覆固定、留置針やカテーテル等の処置具の固定を目的として非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープを使用した場合の皮膚刺激について説明する。非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープの残留収縮力は、留置針やカテーテル等を固定するに留まらず、留置針やカテーテル等の固定部位の皮膚を持続的に圧迫する力として作用し、これらの処置具を介し、皮膚の細胞や毛細血管等を持続的に圧迫する力に変わる。
【0019】
次に、皮膚の細胞や毛細血管等を持続的に圧迫する力について説明する。例えば、血管は全身に張り巡らされており、その総延長は10万km程度、地球2周半程度に及ぶ。その95パーセント程度が、毛細血管である。毛細血管の直径は、わずか7μm程度であり、その壁の厚さは1μm以下と極めて薄い。そのため、無自覚的な軽微な圧迫であっても、皮膚の毛細血管には容易に変形や閉塞が生じうる。
【0020】
また、全身の細胞に酸素を運ぶ役割を担う赤血球は、血液1マイクロリットル中に500万個程度存在し、直径が7から8μm程度、厚さが2μm程度の両面中央が凹んだ円盤状の固形物であり、変形することで直径7μm程度の毛細血管を通過している。しかし、固形物である赤血球の変形には限度があるため、毛細血管にわずかな変形が生じても通過が困難となり、赤血球が詰まることによって毛細血管の閉塞が生じることも稀ではない。その結果、細胞に血液循環不良に伴う酸素不足が生じることも少なくない。
【0021】
また、圧迫に伴う血液循環不良が起因となり、皮膚の組織や細胞が局部的に死ぬ疾患に褥瘡、いわゆる床ずれがある。実験的には、身体の同一箇所に2時間以上の持続的な圧が加わると褥瘡が発生するといわれている。そのため、医療現場においては、ベッド等で寝ている状態の寝たきり患者に対しては約2時間間隔、車椅子等に座った状態では約30分間隔で、体位の変換を行なうことを推奨し、褥瘡の発生を予防している。このように、褥瘡は数時間単位の圧迫に伴う血液循環不良が起因となって生じる。
【0022】
さらに、近年の非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープは、従来の伸縮性医療用テープより皮膚追従性、透湿性、防水性、皮膚粘着性等が飛躍的に向上しており、一週間前後の継続貼付が可能となった。そのため、ガーゼ及びパッド等の被覆固定、特に、一週間前後に渡る点滴などの留置針の固定に、非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープが使用されることも少なくなく、処置具を覆い皮膚を持続的に収縮させる力は、留置針やカテーテル等の医療関連機器の固定部位の皮膚を、数日間持続的に圧迫する力として作用することとなり、固定部位に医療関連機器圧迫創傷等の発生が危惧される。これは、褥瘡発生を予防するための数時間という限度をはるかに超えた時間であると言える。
【0023】
また、粘着剤や伸縮性基材の品質の向上により、剥がれにくく長時間の固定が可能となり、一週間以上の貼付が可能な製品も登場している。このように、剥がれにくく長時間の固定に優れた製品では、取扱説明等に「本品をはがす時は、皮膚を傷めないよう体毛の流れに沿ってゆっくりはがしてください。」といった注意喚起が重要となり、製品をはがす時の皮膚刺激を軽減するためには、製品をはがすことなく、はがれるまで放置する手段が有効となる。しかし、はがれるまで放置するという手段を用いれば、貼付期間は自ずと長くなり、残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激は、増加の一途を辿ることになる。
【0024】
なお、軽微な刺激であっても、違和感や苦痛を訴える患者は少なくない。しかし、身体に軽微な刺激が持続的に加わると、刺激に対し感覚が鈍くなる「知覚鈍麻」が生じ、違和感や苦痛を訴える患者が減少する。このことは、一般に「慣れ」と呼ばれているが、身体に加わっていた刺激が消失したことを意味するものではなく、さらに、皮膚の毛細血管に生じた変形や閉塞、及び血液循環不良等が改善されたことではない。段落[0017]~[0023]で述べたところの成形収縮に伴う残留収縮力の程度は、肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルといえるような軽微な刺激であっても十分にその原因となりうる。
【0025】
このように、貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するためには、成形収縮に至る過程を考慮し、復元力温存部付き医療用テープの伸縮性基材部内に、製膜時の成形収縮に伴い生じる残留収縮力を減少させた状態とし、成形収縮に伴う残留収縮力による、皮膚を持続的に収縮させる力を減少させることが肝要となる。ここで、該復元力温存部付き医療用テープの製造工程において、断面形状が凹型の作業台を用い、外力により断面形状が凸型となる略円弧形に曲げた前記復元力温存部の上層に、伸縮性機能を有する前記伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布し、前記伸縮性基材部の製膜と前記復元力温存部と前記伸縮性基材部との積層を同時に行い、製膜を完了させ、前記伸縮性基材部を得て、断面形状が凸型となる略円弧形状の前記復元力温存部と前記伸縮性基材部からなる2層の構造体を得る。次いで、前記2層の構造体を凹型形状の作業台から断面形状が水平状の作業台へ移すことで、前記復元力温存部に加えた外力を取り除き、前記復元力温存部が備える復元性を発揮させ、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力とは相反する方向の形状変化に伴う復元力により、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部と前記復元力温存部からなる2層の構造体を得る。この工程により、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力が減少又は消失した状態の前記伸縮性基材部を得ることが可能となる。そして、上述の方法により得られた前記伸縮性基材部に、粘着部及び剥離部を備えることで、溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力が減少又は消失した状態の該復元力温存部付き医療用テープが完成する。なお、「成形収縮に伴い生じる残留収縮力とは相反する方向の形状変化に伴う復元力」を以下、「形状変化復元力」と称する。
【0026】
上述のように製造された該復元力温存部付き医療用テープの使用手順は、1.剥離部を取り除く。2.粘着部で皮膚に貼付する。3.復元力温存部を取り除く。となる。このように、製造段階から成形収縮に対応することで、溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力が減少又は消失した状態の復元力温存部付き医療用テープを使用することができる。よって、該復元力温存部付き医療用テープの製造時において、残留収縮力を減少させることは、従来の非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープ、特に溶液ポリマーを原料とし、製造工程において製膜及び積層を同時に行うことで成形収縮を伴う医療用テープの残留収縮力を原因とする皮膚を持続的に収縮させる力を減少させ、貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するための有効な手段となる。
【0027】
これらの有効な手段を復元力温存部付き医療用テープに機能として取り入れることで、該医療用テープの使用時に、該医療用テープの残留収縮力を減少させた状態で、皮膚に貼付し、該医療用テープの残留収縮力による皮膚を持続的に収縮させる力を減少させ、該残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減させることが可能となり、軽微な刺激であっても過敏に反応してしまう皮膚への貼付が可能となる。さらに、貼付期間中の持続的な皮膚刺激を原因とする皮膚トラブルや医療関連機器圧迫創傷等の予防に期待することができる。これらの観点から見ると、従来の非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープ、特に溶液ポリマーを原料とし、製造工程において製膜及び積層を同時に行うことで成形収縮を伴う医療用テープにおいては、成形収縮に伴う残留収縮力に対する考慮がなされていないことがわかる。
【0028】
そこで、本発明者は、従来の非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープ、特に溶液ポリマーを原料とし、製造工程において製膜及び積層を同時に行うことで成形収縮を伴う医療用テープの成形収縮に伴う残留収縮力を減少させる機能を取り入れた復元力温存部付き医療用テープを提供するために、後に前記伸縮性基材部となる溶液ポリマーの材料として、復元力温存部の上層に塗布した後、硬化し製膜となる素材から、復元力温存部と積層が可能な素材を選択し、さらに製膜後に、前記伸縮性基材部として機能する素材の中から、医療用として使用可能な防水性、透湿性、及び皮膚追従性等に優れた素材を選択した。次に、復元力温存部の材料として、前記伸縮性基材部となる前記溶液ポリマーを上層に塗布し、前記溶液ポリマーの製膜と同時に積層が可能な素材の中から非伸縮性、可とう性、及び復元性機能を有する素材を選択した。また、粘着部の材料として、伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有し、剥離時の糊残りや角質損傷等が少ない医療用粘着剤を選択し、さらに、剥離部の材料として、粘着部を保護する機能を有する素材を選択し、各素材が有する機能を利用して、復元力温存部付き医療用テープを構成することを着想した。
【0029】
これらの素材を組み合わせ、該復元力温存部付き医療用テープの製造工程において、断面形状が凹型の作業台を用い、外力により断面形状が凸型となる略円弧形に曲げた前記復元力温存部の上層に、伸縮性機能を有する前記伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布し、前記伸縮性基材部の製膜と前記復元力温存部と前記伸縮性基材部との積層を同時に行い、製膜を完了させ、前記伸縮性基材部を得て、断面形状が凸型となる略円弧形の前記復元力温存部と前記伸縮性基材部からなる2層の構造体を得る。その後、前記2層の構造体を凹型形状の作業台から断面形状が水平状の作業台へ移すことで、前記復元力温存部に加えた外力を取り除き、前記復元力温存部が備える復元性を発揮させ、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力とは相反する方向の形状変化に伴う復元力により、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部と前記復元力温存部からなる2層の構造体を得る。このことで、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力が減少又は消失した状態の前記伸縮性基材部を得ることが可能となる。そして、上述の方法により得られた前記伸縮性基材部に、粘着部及び剥離部を備えることで、溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力が減少又は消失した状態の該復元力温存部付き医療用テープの製造が可能となる。よって、該復元力温存部付き医療用テープの使用時に、粘着部で皮膚に貼付し、復元力温存部を取り除くことで、残留収縮力と同時に、該復元力温存部付き医療用テープの伸縮性基材部に温存させた形状変化復元力を放つことができ、この残留収縮力と相反する形状変化復元力を同時に放つことにより、成形収縮を伴う医療用テープの残留収縮力を原因とする皮膚を持続的に収縮させる力を減少させるための手段を該復元力温存部付き医療用テープに機能として取り入れることができ、残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減させることで、軽微な刺激であっても過敏に反応してしまう皮膚への貼付を可能とする医療用テープを提供することができるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0030】
本発明の製造方法で得られる医療用テープは、前記復元力温存部、前記伸縮性基材部、前記粘着部、前記剥離部の順に設けられている。製造工程においては、断面形状が凹型の作業台を用い、外力により断面形状が凸型となる略円弧形に曲げた前記復元力温存部の上層に、伸縮性機能を有する前記伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布し、前記伸縮性基材部の製膜と前記復元力温存部と前記伸縮性基材部との積層を同時に行い、製膜を完了させ、前記伸縮性基材部を得て、断面形状が凸型となる略円弧形の前記復元力温存部と前記伸縮性基材部からなる2層の構造体を得る。次いで、前記2層の構造体を凹型形状の作業台から断面形状が水平状の作業台へ移すことで、前記復元力温存部に加えた外力を取り除き、前記復元力温存部が備える復元性を発揮させ、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力とは相反する方向の形状変化に伴う復元力により、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部と前記復元力温存部からなる2層の構造体を得る。この工程により、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力が減少又は消失した状態の前記伸縮性基材部を得ることが可能となる。そして、上述の方法により得られた前記伸縮性基材部に、粘着部及び剥離部を備えることで、溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力が減少又は消失した状態の該復元力温存部付き医療用テープを使用することができる。
【0031】
なお、本発明の医療用テープの製造方法では、外力により断面形状が凸型となる略円弧形に曲げた前記復元力温存部の上層に、前記伸縮性基材部となる前記溶液ポリマーを塗布し、前記伸縮性基材部の製膜と前記復元力温存部と前記伸縮性基材部との積層を同時に行い、断面形状が凸型となる略円弧形又は略弓形の前記復元力温存部と前記伸縮性基材部からなる2層の構造体を得る。この時、前記復元力温存部を曲げる程度は、前記伸縮性基材部の成形収縮に伴う残留収縮力を消失させるために必要な力、すなわち、前記復元力温存部内に生じる形状変化復元力によって、前記伸縮性基材部内の成形収縮に伴う残留収縮力を消失させることができる程度に曲げることが望ましい。しかし、原因となる成形収縮に伴う残留収縮力の程度が、肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルといえるような軽微なものであるため、前記復元力温存部を曲げる程度は、軽微でもよく、前記伸縮性基材部の断面形状が僅かでも凸型となる略円弧形又は略弓形となっていれば本発明の効果を十分に奏することができる。また、前記復元力温存部の素材は、非伸縮性、可とう性、及び復元性機能を有していればよく、その素材や形状等は任意でよく、本発明の効果を奏することができる限りにおいて特に限定されるものではない。
【0032】
以下、図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、復元力温存部付き医療用テープを構成する素材の適切な選択・組み合わせ及び、製造工程において、復元力温存部(図3)を外力により断面形状が凸型となる略円弧形に曲げ(図4)、該復元力温存部の上層に、伸縮性機能を有する伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布し、前記伸縮性基材部の製膜と前記復元力温存部と前記伸縮性基材部との積層を同時に行い、製膜を完了させ、前記伸縮性基材部を得て、断面形状が凸型となる略円弧形の前記復元力温存部と前記伸縮性基材部からなる2層の構造体(図5)を得る。この時、前記伸縮性基材部内に成形収縮に伴う残留収縮力(内部応力)が発生している。次いで、前記復元力温存部に加えた外力を取り除き、前記復元力温存部が備える復元性を発揮させ、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力とは相反する方向の形状変化に伴う復元力により、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部と前記復元力温存部からなる2層の構造体(図6)を得る。次いで、前記伸縮性基材部の上に、該伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部を積層し、該粘着部の上に該粘着部を保護する機能を有する剥離部を積層することで(図7)、該復元力温存部付き医療用テープは完成する。その後、前記剥離部を取り除き、前記粘着部で皮膚に貼付し、前記復元力温存部を取り除くことで、残留収縮力と共に、該復元力温存部付き医療用テープの前記伸縮性基材部に温存させた形状変化復元力を放つ。この残留収縮力と相反する形状変化復元力を同時に放つことにより、成形収縮を伴う医療用テープの残留収縮力による皮膚を持続的に収縮させる力を減少させ、該残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減させることを基本とする。本発明は、復元力温存部付き医療用テープの製造時に、残留収縮力を減少させることが必須である。
【0033】
図3から図7に示す本発明の第1の実施の形態である復元力温存部付き医療用テープでは、非伸縮性、可とう性、及び復元性機能を有する復元力温存部1と、伸縮性機能を有する伸縮性基材部2と、伸縮性基材部2を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部3と、粘着部3を保護する機能を有する剥離部4から構成される。
【0034】
図3は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープに用いる復元力温存部1の概略断面図であり、図4および図5は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程を示す概略断面図である。第1の実施の形態である復元力温存部付き医療用テープでは、製造工程において、非伸縮性、可とう性、及び復元性機能を有する板状の復元力温存部1(図3)を、凹型形状の作業台5の上に、外力により、長さ方向へ断面形状が凸型となる略円弧形の曲線を描くように設置し(図4)、該復元力温存部1の上層に、後に伸縮性基材部2となる溶液ポリマーを塗布し、伸縮性基材部2の製膜と復元力温存部1と伸縮性基材部2との積層を同時に行い、製膜を完了させ、伸縮性基材部2を得て、断面形状が凸型となる略円弧形の復元力温存部1と伸縮性基材部2からなる2層の構造体を得た工程の様子を示している(図5)。なお、符号1は、復元力温存部、符号2は、伸縮性基材部、符号5は、凹型作業台である。
【0035】
図6は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程を示す概略断面図である。前工程で得た2層の構造体を凹型形状の作業台から断面形状が水平状の作業台へ移すことで、復元力温存部1に加えた外力を取り除き、復元力温存部1が備える復元性を発揮させ、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力とは相反する方向の形状変化に伴う復元力により、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部2と復元力温存部1からなる2層の構造体を得た。なお、符号1は、復元力温存部、符号2は、伸縮性基材部、符号6は、水平状作業台である。
【0036】
図7は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程を示す概略断面図である。図6に示した、伸縮性基材部2の上層に、伸縮性基材部2を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部3を積層し、粘着部3の上層に該粘着部3を保護する機能を有する剥離部4を積層し、該復元力温存部付き医療用テープは完成する。なお、符号1は、復元力温存部、符号2は、伸縮性基材部、符号3は、粘着部、符号4は、剥離部、符号6は、水平状作業台である。
【0037】
該復元力温存部付き医療用テープでは、製造工程において、復元力温存部1に形状変化復元力を生じさせ(図4)、伸縮性基材部2に形状変化復元力を温存させる(図6)。該復元力温存部付き医療用テープの使用手順は、1.剥離部を取り除く。2.粘着部で皮膚に貼付する。3.復元力温存部を取り除く。となる。該復元力温存部付き医療用テープでは、使用時に、復元力温存部を取り除くことで、残留収縮力と同時に、伸縮性基材部に温存されていた形状変化復元力が放たれる。残留収縮力は、該復元力温存部付き医療用テープの伸縮性基材部を収縮させる力であり、形状変化復元力は、残留収縮力とは相反する方向に働く力である。この残留収縮力と相反する形状変化復元力を同時に放つことで、使用時に、医療用テープの残留収縮力を減少させた状態で、皮膚に貼付し、医療用テープの残留収縮力による皮膚を持続的に収縮させる力を減少させることが可能となる。したがって、本発明の復元力温存部付き医療用テープでは、成形収縮に伴う残留収縮力を原因とする皮膚を持続的に収縮させる力を減少させるための手段を医療用テープに機能として取り入れることで、使用時に、医療用テープの残留収縮力を減少させた状態で、皮膚に貼付することができるため、医療用テープの残留収縮力による皮膚を持続的に収縮させる力を減少させることができ、該残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減させることができる。このことにより、原因となる残留収縮力の程度が、肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルといえるような軽微な刺激であっても、過敏に反応してしまう皮膚への貼付が可能となり、低刺激の医療用テープや貼付剤等を提供することができる。
【0038】
具体的には、本発明の第1の実施の形態において、製造工程では、復元力温存部1は、該復元力温存部付き医療用テープの製造工程おける復元力温存部1の形状変化に対応する可とう性、及び復元性機能を有する非伸縮性のプラスチックフィルムからなり、断面が凹型形状の作業台を用い、外力により、長さ方向へ断面形状が凸型となる略円弧形の曲線を描くように設置し、復元力温存部1の片面(上層)に、後に伸縮性基材部2となる、ポリウレタンフィルムの原料となる混液(ウレタン樹脂液と架橋剤液)を塗布し、伸縮性基材部2の製膜と復元力温存部1と伸縮性基材部2との積層を同時に行い、製膜を完了させ、伸縮性基材部2を得て、断面形状が凸型となる略円弧形の復元力温存部1と伸縮性基材部2からなる2層の構造体(図5)を得た。次いで、前記2層の構造体を凹型形状の作業台5から断面形状が水平状の作業台6へ移すことで、復元力温存部1に加えた外力を取り除き、復元力温存部1が備える復元性を発揮させ、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力とは相反する方向の形状変化に伴う復元力により、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部2と復元力温存部1からなる2層の構造体(図6)を得た。次いで、伸縮性基材部2の上層に、該伸縮性基材部2を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部3を積層し、粘着部3の上に粘着部3を保護する機能を有する剥離部4を積層する工程を経て、伸縮性基材部2内に残留収縮力と共に形状変化復元力を温存させた、本発明の復元力温存部付き医療用テープを完成させた。
【0039】
また、第1の実施の形態では、伸縮性基材部の素材としてポリウレタンフィルムの原料となる混液(ウレタン樹脂液と架橋剤液)を用いたが、伸縮性基材部の材料としては、復元力温存部の片面に塗布した後、硬化し製膜となると同時に、復元力温存部と積層が可能であり、さらに伸縮性基材部内に、成形収縮に伴う収縮力を残留させることが可能な素材であればよく、医療用として適していれば、素材や形状による制限を受けない。また、粘着部の素材は、アクリル系粘着剤を用いたが、伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有し、医療用として使用可能な粘着剤であればよく、用途に応じ、粘着剤を塗布する部位は一部もしくは全部でもよく、素材やその形状による制限を受けない。また、復元力温存部の素材として、該復元力温存部付き医療用テープの形状変化に対応する可とう性、及びポリウレタンフィルムの原料となる混液の硬化に伴う成形収縮によって生じる残留収縮力(内部応力)に、若干勝る復元力を備えた復元性機能を有する非伸縮性のプラスチックフィルムを、物理的に分離していない一枚板の状態で用い、成形収縮に伴う残留収縮力をすべて消失させた。しかし、段落[0017]~[0024]で述べたように、本特許が解決しようとする成形収縮に伴う残留収縮力の程度は、肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルであるため、復元力温存部に備えさせる復元力は、成形収縮に伴う残留収縮力をわずかに減少させた状態とすることができる程度であってもよい。また、素材の組み合わせにより、復元力温存部の機能を備えさせてもよく、例えば、プラスチックフィルムを二枚に分割し、その境界を、同一素材で物理的に分離していない一枚板の素材で一部もしくは全部を覆い、該復元力温存部付き医療用テープの使用時に剥離可能な状態で積層した構造体を復元力温存部として用いてもよく、復元力温存部としての機能を有していれば、復元力温存部の素材や形状は任意でよく、復元力温存部及びその上層に他の機能を備えていてもよく、用途に応じ、その素材や形状による制限を受けない。また、剥離部は、粘着部を保護する機能を有していればよく、その機能を包装に含めてもよい。なお、該復元力温存部付き医療用テープの各部を構成する素材の選択や組み合わせは、用途やデザイン、利便性等に応じ任意でよく、本発明の効果を奏することができる限りにおいて特に限定されるものではない。
【0040】
さらに、復元力温存部として、非伸縮性で可とう性及び復元性機能を有する素材の中から、適度な復元性を有する素材を選択し、幅方向の断面を凹型の略円弧形又は略弓形に成形し、適度な外力により長さ方向の断面形状を水平な形状に保ちながら、長さ方向への断面形状を略円弧形又は略弓形で凸型の曲線を描くように設置し、その上層に伸縮性基材部となる前記溶液ポリマーを塗布し、伸縮性基材部の製膜と復元力温存部と伸縮性基材部との積層を同時に行い、製膜を完了させ、伸縮性基材部を得て、断面形状が凸型となる略円弧形又は略弓形の復元力温存部と伸縮性基材部からなる2層の構造体を得てもよい。なお、上述の方法により得られた2層の構造体を、次の工程で、復元力温存部に加えた外力を取り除くことで、伸縮性基材部内に、幅方向及び長さ方向の両方向に対する形状変化復元力を備えさせることができ、溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力を二方向から減少させた状態の伸縮性基材部を得ることができる。なお、「曲線を描くように設置し」とは、その形状が水平ではなく、略円弧形又は略弓形に設置したことを表現した文言である。上述のように、一例として、伸縮性基材部内に幅方向と長さ方向の両方向に対する形状変化復元力を備えさせる手段を示したが、形状変化復元力を備えさせる方向は、用途や利便性等に応じ任意でよい。また、復元力温存部の素材や形状等は、用途やデザイン、利便性等に応じ、任意でよく、本発明の効果を奏することができる限りにおいて特に限定されるものではない。
【0041】
図3から図7に示した本発明の製造方法で得られる医療用テープは、いずれも本発明の基本的構造を備えており、このような構成としたことにより、該復元力温存部付き医療用テープの使用時に、復元力温存部を取り除くことで、残留収縮力と同時に、該復元力温存部付き医療用テープの伸縮性基材部に温存されていた、残留収縮力とは相反する方向に働く力である形状変化復元力を放つことができ、従来技術の非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープの成形収縮に伴う残留収縮力を原因とする皮膚を持続的に収縮させる力を減少させるための手段を医療用テープに機能として取り入れることで、製造工程において、溶液ポリマーの成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた医療用テープを製造することが可能となる。そのため、復元力温存部付き医療用テープでは、成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態で、皮膚に貼付し、復元力温存部付き医療用テープの成形収縮に伴う残留収縮力による皮膚を持続的に収縮させる力を減少させ、残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減させることができる。このことにより、原因となる成形収縮に伴う残留収縮力の程度が、肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルといえるような軽微な刺激であっても、過敏に反応してしまう皮膚への貼付が可能となり、低刺激の医療用テープや貼付剤等を提供することができ、皮脂腺や汗腺の炎症、毛根やその周辺組織の炎症、圧迫によって生じる皮膚の細胞や毛細血管等に対する血液循環不良による医療関連機器圧迫創傷等の予防に期待することが可能となる。
【0042】
以上、第1の実施の形態では、医療用テープの形状を長方形とした例について説明してきたが、医療用テープの形状は、用途に応じ自由な形状を選択できる。例えば、ロール形状やシート形状でもよく、身体の各部位に適した形状とすることもできる。また、該医療用テープは、復元力温存部、伸縮性基材部、粘着部、剥離部からなる構成を基本とするが、用途やデザイン、利便性等に応じ、粘着部の下層の一部にガーゼ及びパッド等を備えさせてもよい。なお、本発明は、皮膚に密着して貼付することを基本としているが、場合によっては、皮膚を医療用粘着剤等から保護するための保護材等を介して該医療用テープを貼付してもよい。
【0043】
また、成形収縮に伴う残留収縮力は、すべてを消失させることが望ましいが、わずかに減少させた状態であってもよい。なぜなら、段落[0017]~[0024]で述べたように、本特許が解決しようとする成形収縮に伴う残留収縮力の程度は、肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルであるからである。本明細書では、医療用テープの製造から貼付に至るまでの過程を記しており、「使用時」と「貼付期間中」を以下のように定義している。「使用時」とは、医療用テープの使用手順に従い、剥離部を取り除き、皮膚に貼付し、復元力温存部を取り除く迄を表す。「貼付期間中」とは、復元力温存部付き医療用テープを継続して貼付している間を表す。
【0044】
なお、本発明の医療用テープの機能は、身体への貼付を目的とする医療用テープに有効に作用する。例えば、皮膚刺激過敏症患者は、軽微な皮膚刺激にも激しく反応するため、経皮吸収可能な薬物を含有する医療用テープの使用が見送られることも少なくなかった。しかし、本発明の医療用テープは、軽微な皮膚刺激を軽減できるため、粘着部に、経皮吸収可能な薬物を配合することで、貼付薬として使用することができる。また、本発明の医療用テープにパッド等を備えることで、処置製品として使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の製造方法で得られる復元力温存部付き医療用テープは、従来技術で製造された非伸縮性素材を支持体に用いた支持体付き医療用テープ、特に溶液ポリマーを原料とし、製造工程において製膜及び積層を同時に行うことで成形収縮を伴う医療用テープの成形収縮に伴う残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減する効果が極めて高く、軽微な刺激であっても過敏に反応してしまう皮膚への貼付を可能とし、貼付期間中の持続的な皮膚刺激を原因とする皮膚トラブルや医療関連機器圧迫創傷等の予防に期待することができ、低刺激の医療用テープや貼付剤等を提供することが可能となり、医療業界に貢献するところ大である。
【符号の説明】
【0046】
1 復元力温存部
2 伸縮性基材部
3 粘着部
4 剥離部
5 凹型作業台
6 水平状作業台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2021-08-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力により断面形状が凸型となる略円弧形又は略弓形に曲げた復元力温存部の上層に、伸縮性機能を有する伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布し、前記伸縮性基材部の製膜と前記復元力温存部と前記伸縮性基材部との積層を同時に行い、製膜を完了させ、前記伸縮性基材部を得て、断面形状が凸型となる略円弧形又は略弓形の前記復元力温存部と前記伸縮性基材部からなる2層の構造体を得る工程、次いで、前記復元力温存部に加えた外力を取り除き、前記復元力温存部が備える復元性を発揮させ、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力とは相反する方向の形状変化に伴う復元力により、前記溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部と前記復元力温存部からなる2層の構造体を得る工程を含む医療用テープの製造方法。