(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162867
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】根株抽出組成物および根株抽出組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C11B 9/00 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
C11B9/00 A
C11B9/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067913
(22)【出願日】2021-04-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】521157959
【氏名又は名称】株式会社旺建
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】安守 直敏
【テーマコード(参考)】
4H059
【Fターム(参考)】
4H059BA01
4H059BA02
4H059BA12
4H059BA14
4H059BA30
4H059BB13
4H059BB17
4H059BB19
4H059BB23
4H059BB45
4H059BB55
4H059BC10
4H059BC13
4H059BC23
4H059CA18
(57)【要約】
【課題】スギやヒノキなどのマツ目に属する樹木の根株を有効的に利用するための根株抽出組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の根株抽出組成物は、マツ目に属する樹木の根株から得られる精油を含有する。マツ目に属するスギやヒノキなどの樹木の根株から本発明により初めて見出された精油を含有することにより、医薬分野や農業分野、化粧品分野、工業分野などの様々な分野への利用が可能になる。しかも、これまで廃棄等されてきた森林資源を有効利用することが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツ目に属する樹木の根株から得られる精油を含有する
ことを特徴とする根株抽出組成物。
【請求項2】
前記根株が、心材部である
ことを特徴とする請求項1記載の根株抽出組成物。
【請求項3】
前記根株が、地上部である
ことを特徴とする請求項1または2記載の根株抽出組成物。
【請求項4】
前記根株が、地下部である
ことを特徴とする請求項1または2記載の根株抽出組成物。
【請求項5】
前記樹木がスギおよび/またはヒノキである
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の根株抽出組成物。
【請求項6】
前記精油が、テルペンおよび/またはテルペノイド化合物を含有する
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の根株抽出組成物。
【請求項7】
マツ目に属する樹木の根株を粉砕する粉砕工程と、該粉砕工程後の粉砕物を蒸留して蒸留物を得る蒸留物回収工程と、を含む
ことを特徴とする根株抽出組成物の製造方法。
【請求項8】
前記前記蒸留物回収工程後の蒸留物から油層画分を分離する分離工程を含む
ことを特徴とする請求項7記載の根株抽出組成物の製造方法。
【請求項9】
前記粉砕工程に供給する根株が、根株の心材部である
ことを特徴とする請求項7または8記載の根株抽出組成物の製造方法。
【請求項10】
前記粉砕工程に供給する根株が、根株の地上部である
ことを特徴とする請求項7、8または9記載の根株抽出組成物の製造方法。
【請求項11】
前記粉砕工程に供給する根株が、根株の地下部である
ことを特徴とする請求項7、8または9記載の根株抽出組成物の製造方法。
【請求項12】
前記樹木がスギおよび/またはヒノキである
ことを特徴とする請求項7、8、9、10または11記載の根株抽出組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、根株抽出組成物および根株抽出組成物の製造方法に関する。さらに詳しくは、針葉樹の根株を利用した根株抽出組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本は、2/3が森林という極めて森林資源が豊富な国であり、その約半分がスギやヒノキなどの針葉樹である。このような針葉樹の多くは、伐採された幹が木材資源として利用されている一方、根株や枝葉は、そのままの状態で放置されている。また、公共工事などで伐採された樹木は、幹は建材やパルプなどとして活用されている一方、根株や枝葉は、廃棄物として処理されており、公共事業費を圧迫している。このように、伐採後に残る根株や枝葉の処理は、森林の管理や、公共事業において、重要な問題となっている。
【0003】
従来、スギやヒノキの枝葉から香り成分を含んだ精油を利用する技術が提案されている(例えば、特許文献1~5)。また、公共工事で発生した根株をチップにして肥料用に利用する技術も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-031454号公報
【特許文献2】特開2014-231498号公報
【特許文献3】特開2001-145903号公報
【特許文献4】特開2000-103714号公報
【特許文献5】特開平3-44305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、スギやヒノキの枝葉を利用して精油を抽出する技術は開示されているものの、かかる技術を根株に応用した具体的な記載やデータは存在しない。また、根株を堆肥等に利用すること以外の技術も開示されていない。
したがって、現状では、樹木を伐採した後の根株の有効的な利用法は限定的であり、通常、伐採後にはそのまま現場に放置されたり廃棄処理されたりしているのが実情である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、根株を有効的に利用するための根株抽出組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、針葉樹の根株から精油が得られことを初めて見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明の根株抽出組成物は、マツ目に属する樹木の根株から得られる精油を含有することを特徴とする。
本発明の根株抽出組成物の製造方法は、マツ目に属する樹木の根株を粉砕する粉砕工程と、該粉砕工程後の粉砕物を蒸留して蒸留物を得る蒸留物回収工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マツ目に属する樹木の根株から得られた精油を含有することにより、様々な用途へ利用が可能になる。しかも、これまで廃棄等されてきた森林資源を有効利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の根株抽出組成物の製造フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本実施形態の根株抽出組成物は、マツ目に属する樹木の根株から得られた精油を含有することに特徴を有している。
【0012】
明細書中のマツ目に属する樹木とは、ヒノキ科のヒノキ属に属するヒノキ、ヒノキ科のスギ属に属するスギ、マツ科のマツ属に属するマツなどを挙げることができる。
【0013】
明細書中の根株とは、立木を伐採した後に残存する部分を意味しており、地表よりも上方に位置する幹の一部であった地上部と、地表よりも下方に位置する根の部分の地下部とからなる。つまり、本明細書中の根株とは、樹木において、樹木の構成器官としての幹の根元の一部と根を含む部位である。
【0014】
本実施形態の根株抽出組成物の原料となる根株は、地上部であってよく地下部であってもよく、またこれらの混合物であってもよい。つまり、原料となる根株は、本実施形態の根株抽出組成物の用途に応じて、使用する部位が適宜調整される。
【0015】
とくに、本実施形態の根株抽出組成物に用いられる根株は、心材部を含むように調整されたものが望ましい。
なぜなら、マツ目に属する樹木の根株の心材部には、多量の精油が存在しているからである。このことは、本発明者によって初めて見いだされたものである。
しかも、根株の心材部は、辺材部と比べて多くの精油を含有しており、この根株の心材部に含有される精油は、幹の心材部や枝、葉に含有される精油と比べても多量に含有されていることも本発明者によって初めて見いだされたものである。さらに、根株の心材部から得られる精油成分は、幹の心材部や枝、葉に含有される精油とは異なる成分比で化合物が含有していることも本発明者によって初めて見いだされたものである。
【0016】
本実施形態の根株抽出組成物に含まれる精油は、マツ目に属する樹木の根株を蒸留処理することにより得られたものである。概略は、後述する蒸留物回収工程における蒸留装置内に供給された根株を加熱することで発生したガス状の物質を冷却することにより得られる液体である。
詳細は、後述の製造方法で説明する。この蒸留物回収工程で得られた蒸留物には、精油と水溶性の液体が含有している。本実施形態の根株抽出組成物は、この精油を含有していれば、とくに限定されず、例えば、後述する製造方法で得られた蒸留物のように水溶性の液体が混合した混合物であってもよい。
【0017】
なお、本実施形態の根株抽出組成物の精油には、香気成分や揮発成分などの多くの成分が含有している。このため、上記蒸留物に含まれる画分(つまり精油の油層画分と水溶性の水層画分)の量を適宜調整することにより、所望の用途に応じた本実施形態の根株抽出組成物を調製してもよい。例えば、香気成分などを多く含有させたい場合には、精油の割合が多くなるように調整すればよい。
【0018】
本実施形態の根株抽出組成物の精油には、様々な成分が含有している。とくに、この精油には、複数のテルペンおよび/またはテルペノイド化合物が含有されている。
このテルペンには、イソプレンを構成単位とする、モノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン、セステルペン、ジテルペン、トリテルペン、テトラテルペンなどが含まれる。また、これらの誘導体であるテルペノイド化合物には、モノテルペンアルコール、モノテルペンエステル、セスキテルペンアルコールなどが含まれる。とくに、テルペノイド化合物は、医薬品や機能性食品,香料,天然ゴムなどに幅広く利用されていることから、かかる成分を含有させることにより、より高機能的な用途へ使用することが可能となる。
【0019】
本実施形態の根株抽出組成物の精油に含まれるモノテルペンとしては、α-pinene、sabinene、D-limonene、γ-terpinene、terpinoleneなどを挙げることができ、セスキテルペンとしては、β-elemene、γ-muurolene、α-muurolene、γ-cadinene、δ-cadineneなどを挙げることができ、ジテルペンとしては、hibaeneなどを挙げることができる。
【0020】
また、本実施形態の根株抽出組成物の精油に含まれるモノテルペンアルコールとしては、terpinen-4-ol、α-terpineol、citronellolなどを挙げることができ、モノテルペンエステルとしては、bornyl acetate、α-terpinyl acetateなどを挙げることができ、セスキテルペンアルコールとしては、α-elemol、nerolidol、epi-cubenol、epi-α-cadinol、T-muurolol、α-muurolol、α-eudesmol、cadina-4-en-10-olなどを挙げることができる。
【0021】
とくに、本実施形態の根株抽出組成物の精油は、モノテルペン、セスキテルペン、セスキテルペンアルコールのうち少なくともいずれかの成分が、次の条件を満たすように含有されているのが好ましい。例えば、精油の全質量に対して、モノテルペンが20%以上、セスキテルペンが10%以上、セスキテルペンアルコールが40%以上である。
【0022】
(本実施形態の根株抽出組成物の製造方法)
本実施形態の根株抽出組成物は、以下の方法により製造することができる。
本実施形態の根株抽出組成物の製造方法は、マツ目に属する樹木の根株を粉砕する粉砕工程と、この粉砕工程後の粉砕物を蒸留して蒸留物を得る蒸留物回収工程と、を含んでいる。
【0023】
本実施形態の根株抽出組成物の製造方法における粉砕工程は、根株を粉砕する粉砕手段を備えている。この粉砕手段は、根株を粉砕することができればとくに限定されない。
例えば、公知の裁断機や粉砕機などを用いることができる。裁断や粉砕等により粉砕処理を行えば、チップ状や粉状などの粉砕物として用いることができるので、取り扱い性を向上させることが可能となる。しかも、心材部に存在する精油成分を抽出し易くできるという利点がある。
【0024】
本実施形態の根株抽出組成物の製造方法における蒸留物回収工程は、蒸留物回収工程に供給された根株に対して加熱することにより得られるガス状の物質を冷却器などを用いて冷却することにより液状の蒸留物(本実施形態の根株抽出組成物)を回収する工程である。
【0025】
蒸留物回収工程における処理方法は、とくに限定されず、一般的な蒸留装置で用いられる方法を採用することができる。
例えば、装置収容部をヒーターで加熱する方法や、熱した水蒸気を用いる水蒸気蒸留法、試料を水の中に入れた状態で加熱して煮沸する方法(熱水蒸留法)などを採用することができる。前者の水蒸気蒸留は、高温の水蒸気を用いるので効率的に所望の成分を得ることができる。また、後者の熱水蒸留法は、水蒸気蒸留法に比べ高沸点の化合物まで得ることができる。
【0026】
本実施形態の根株抽出組成物の製造方法は、蒸留物回収工程後に得られた蒸留物を、精油を含む油層画分と水溶性の液体を含む水層画分に分離する分離工程を含んでもよい。この分離工程は、油層画分と水層画分を分離する処理を行うことができれば、とくに限定されない。例えば混合状態の蒸留物を、静置したり、再蒸留処理したり、液液分離処理等の処理を行うことにより、油層画分と水層画分とに分離することができる。分離された状態の油層画分を回収すれば、高濃度の精油を得ることができる。言い換えれば、高濃度の精油を含有する本実施形態の根株抽出組成物を得ることができる。
【0027】
なお、本実施形態の根株抽出組成物の製造方法で使用する根株の樹種は、上述した本実施形態の根株抽出組成物と同様のものであり、根株の部位も同様のものであるから、本製法では割愛する。
【0028】
また、本実施形態の根株抽出組成物の製造方法において、根株の心材部の主原料とする場合には、根株を樹皮部と辺材部と心材部に分離すれば、心材部を主原料として使用することができる。この場合、効率よく精油を含有する蒸留物を得ることができる。
【実施例0029】
つぎに、実施例によりさらに詳細に本発明を説明する。
なお、これらの実施例は、本実施形態の一例を示すものであり、本発明は、以下の実施例によってなんら制限を受けるものではない。
【0030】
原料の樹木には、約50年生の香川県産のヒノキの根株を用いた。
比較例には、同じ供試木より採取した枝葉、幹(胸高部)を用いた。
【0031】
(試料の調製)
根株は、地上部の試料(根株(地上部))と地下部の試料(根株(地下部))に分けた。
根株(地上部)は、地表から約30cmの高さの部分を厚さ約5cmの円盤状に切り取ったものである。根株(地下部)は、地表から約20cmの地下にある根を厚さ約5cmの円盤状に切り取ったものである。
円盤状の試料は、それぞれ樹皮を除去した後、心材部と辺材部に分けた。心材部と辺材部は、チップ状に割った後、10mm径のフィルタを取り付けた粉砕機で粉砕した。
比較例の幹は、地表から胸高部の高さ(約1m20cm)の部分を厚さ約5cmの円盤状に切り取ったものである。根株試料と同様に心材部と辺材部に分けた後、チップ状に割り、粉砕機を用いて粉砕した。
比較例の枝葉は、緑色を呈している部分を葉、それ以外の直径が約5mm以下のものを枝として用いた。葉は、ハサミで1cm程度に刻んだものを用いた。枝は、粉砕機を用いて粉砕した。
【0032】
(精油の回収)
試料からの精油抽出には、熱水蒸留法を使用した。この熱水蒸留法は、日本薬局方生薬精油定量法に準拠した方法で行った。
試料からの精油抽出は、粉砕した試料から揮発性の成分の揮散を抑制するため、粉砕の同一日内に行った。
【0033】
なお、本熱水蒸留法では、精油とともに水溶性の液体も同時に回収された。この精油と水溶性の液体の混合物が、本実施形態における蒸留物、つまり本実施形態の根株抽出組成物に相当する。また、この蒸留物の油層画分を分画したものが本実験の精油であるので、かかる精油は、本実施形態における蒸留物の一部、つまりに本実施形態の根株抽出組成物の一部に相当する。
【0034】
試料の含水率を測定し、この含水率から絶乾質量を算出し、得られた精油量を換算して対絶乾精油収量(絶乾材100g分に相当する生材から精油が何ml採取できるか)を算出した。
含水率の測定は、メトラートレド製の水分計を用いて測定した。
表1に、精油の収率を示す。
表1の含水率は、湿量基準含水率で算出したものである。
【0035】
【0036】
(精油成分の分析)
得られた精油は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用いて分析した。
なお、根株(地上部)の辺材部、根株(地下部)の辺材部、幹の辺材部、及び枝は、精油量が少なかったため、分析を行わなかった。
【0037】
装置:ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)
カラム:DB-5
【0038】
表2に分析結果を示す。
【0039】
本発明の根株抽出組成物その製造方法は、医薬分野や農業分野、化粧品分野、工業分野などの様々な分野への利用に適しており、伐採後の根株の有効利用方法としても適している。