(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162887
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】電気抵抗溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/20 20060101AFI20221018BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B23K11/20
B23K11/11 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067944
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】512035918
【氏名又は名称】青山 省司
(71)【出願人】
【識別番号】521158082
【氏名又は名称】有限会社はせ川工業
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 克浩
(72)【発明者】
【氏名】足立 裕
(72)【発明者】
【氏名】青山 真
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康平
(72)【発明者】
【氏名】黒川 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】小倉 修平
(72)【発明者】
【氏名】青山 省司
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 政己
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 大祐
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA01
4E165AA12
4E165AB02
4E165AB23
4E165BA11
4E165BB02
4E165BB12
4E165EA14
(57)【要約】
【課題】 溶接作業を円滑に行うことができる電気抵抗溶接装置を提供する。
【解決手段】 電気抵抗溶接装置101は、積層体10の両面10a,10bのいずれか一方の面10aにリベットWを押し付けるためのリベット押圧面21を有する電極チップ20と、軸方向Xに延びており電極チップ20を軸端部30aに保持する軸部材30と、軸部材30を軸方向Xにスライド可能に収容する筒状の収容体40と、軸部材30を駆動する駆動機構部50と、を備え、駆動機構部50は、電極チップ20のリベット押圧面21が軸方向Xについて収容体40の先端部44から突出する下降位置P1と、電極チップ20のリベット押圧面21と収容体40の先端部44の内壁面とでリベットWを収容可能な収容凹部Sを形成する上昇位置との間で、軸部材30を収容体40に対して軸方向Xに駆動可能に構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体をなす複数の金属板材を、リベットを使用して接合する電気抵抗溶接装置であって、
上記積層体の両面のいずれか一方の面に上記リベットを押し付けるためのリベット押圧面を有する電極チップと、
軸方向に延びており上記電極チップを軸端部に保持する軸部材と、
上記軸部材を上記軸方向にスライド可能に収容する筒状の収容体と、
上記軸部材を駆動する駆動機構部と、
を備え、
上記駆動機構部は、上記電極チップの上記リベット押圧面が上記軸方向について上記収容体の先端部から突出する下降位置と、上記電極チップの上記リベット押圧面と上記収容体の上記先端部の内壁面とで上記リベットを収容可能な収容凹部を形成する上昇位置との間で、上記軸部材を上記収容体に対して上記軸方向に駆動可能に構成されている、電気抵抗溶接装置。
【請求項2】
上記駆動機構部は、上記収容体の一部をシリンダとし、上記軸部材の一部をピストンロッドとして構成されており、上記シリンダの筒内空間に上記軸方向に摺動可能に収容され且つ上記ピストンロッドと一体化されたピストンと、上記シリンダの上記筒内空間が上記ピストンによって区画されてなる複数の作動室のそれぞれに流体供給源からの流体を導入可能に接続された導入部と、を備えている、請求項1に記載の電気抵抗溶接装置。
【請求項3】
上記収容体は、上記ピストン及び上記ピストンロッドを収容する筒状のシリンダ部と、上記シリンダ部の先端部に取り付けられる筒状のカバー部と、を有し、上記軸部材は、上記ピストンロッドとして上記シリンダ部に収容される第1軸部と、上記第1軸部と上記電極チップとの間に介在して上記カバー部に収容される第2軸部と、有し、上記第2軸部は、上記第1軸部と上記電極チップのそれぞれに分離可能に連結されるように構成されている、請求項2に記載の電気抵抗溶接装置。
【請求項4】
上記収容体の上記先端部には、上記収容凹部に開口するエア噴出口と、上記収容凹部に対する上記リベットの供給及び排出が可能な開口と、が設けられており、上記開口を上記軸方向についてみたとき、上記開口は、上記リベットの頭部の形状に対応した円形領域と、上記エア噴出口から噴出したエアの通路として上記円形領域の縁部を径方向外方に部分的に拡張させて形成された拡張領域と、を有する開口形状をなしている、請求項1~3のいずれか一項に記載の電気抵抗溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気抵抗溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の溶接設備では、車体を構成する複数の金属板材をRPW(レジスタンス・ピアス・ウエルディング)という電気抵抗溶接を利用して接合する溶接装置が使用されている。この溶接装置は、下記特許文献1に開示のように、複数の金属板材を板厚方向に積層してなる積層体を、リベットを介してその一方の表面を押圧する第1電極チップと、その他方の表面を押圧する第2電極チップとで挟み込んで加圧通電するように構成される。例えば、アルミニウム板と鉄板が積層された積層体の場合、加圧通電によって、リベットの軸部がアルミニウム板を貫通して鉄板との間にナゲットを生成し、リベットの頭部と鉄板との間にアルミニウム板を挟むことで、アルミニウム板と鉄板が接合される。
【0003】
この種の溶接装置の一例が下記特許文献2に開示されている。この溶接装置では、一方の電極チップが断面円形の細長い部材によって保持されて円筒状のホルダ内に収容されている。この電極チップは、軸方向の端面である押圧面とホルダの先端部の内壁面との間に、ナットを収容可能な収容凹部を形成するように構成されている。本構成によれば、収容凹部に供給されたナットを収容凹部に保持した状態で、一対の電極チップによって積層体を加圧通電することによって電気抵抗溶接を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-69499号公報
【特許文献2】特開2017-60988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2に開示の溶接装置の場合、溶接の前後で収容凹部にナットが収容された状態が維持される。このため、ホルダの先端部に溶接時に生じたスパッタの逃げ場がなく、スパッタが先端部に付着して堆積することで収容凹部の開口が部分的に塞がれることがある。この場合、次の溶接時に収容凹部にナットを供給できないという問題が生じ得る。従って、ホルダの先端部に堆積したスパッタを除去するための作業が必要となり、円滑な溶接作業の妨げになる。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、溶接作業を円滑に行うことができる電気抵抗溶接装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
積層体をなす複数の金属板材をリベットを使用して接合する電気抵抗溶接装置であって、
上記積層体の両面のいずれか一方の面に上記リベットを押し付けるためのリベット押圧面を有する電極チップと、
軸方向に延びており上記電極チップを軸端部に保持する軸部材と、
上記軸部材を上記軸方向にスライド可能に収容する筒状の収容体と、
上記軸部材を駆動する駆動機構部と、
を備え、
上記駆動機構部は、上記電極チップの上記リベット押圧面が上記軸方向について上記収容体の先端部から突出する下降位置と、上記電極チップの上記リベット押圧面と上記収容体の上記先端部の内壁面とで上記リベットを収容可能な収容凹部を形成する上昇位置との間で、上記軸部材を上記収容体に対して上記軸方向に駆動可能に構成されている、電気抵抗溶接装置、
にある。
【発明の効果】
【0008】
上述の態様の電気抵抗溶接装置において、電極チップは、複数の金属板材からなる積層体の両面のいずれか一方の面にリベットを押し付けるためのリベット押圧面を有し、軸部材の軸端部に保持される。軸部材は、筒状の収容体に収容されており、駆動機構部によって収容体に対して下降位置と上昇位置との間で軸方向に駆動可能とされている。
【0009】
ここで、軸部材が下降位置にあるとき、電極チップのリベット押圧面が軸方向について収容体の先端部から突出する。一方で、軸部材が上昇位置にあるとき、電極チップのリベット押圧面と収容体の先端部の内壁面とでリベットを収容可能な収容凹部が形成される。このため、先ず、駆動機構部によって軸部材を上昇位置に設定することで、電気抵抗溶接に際して収容凹部にリベットを一時的に保持することができる。
【0010】
その後、駆動機構部によって軸部材を上昇位置から下降位置に向けて駆動することで、リベットを電極チップのリベット押圧面で押圧して収容凹部から押し出すことができる。このとき、積層体の一方の面にリベットを介して押し付けられる電極チップと、この電極チップと対をなし積層体の他方の面に押し付けられる別の電極チップとで、積層体を挟圧して加圧通電することができる。これにより、リベットを使用して複数の金属板材の電気抵抗溶接が行われる。
【0011】
電気抵抗溶接が終了した後、駆動機構部によって軸部材を下降位置から上昇位置に向けて駆動することで、収容体の先端部に溶接時に生じたスパッタの逃げ場を作ることができる。このため、スパッタが収容体の先端部に付着して堆積するのを抑制することができ、次の溶接時にスパッタのよる閉塞が原因で収容凹部にリベットを供給できないという問題を解消することが可能になる。
【0012】
以上のごとく、上述の態様によれば、溶接作業を円滑に行うことができる電気抵抗溶接装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図1の電気抵抗溶接装置をシリンダ部からカバー部を取り外した状態にて示す側面図。
【
図3】実施形態1の電気抵抗溶接装置について軸部材が上昇位置にありリベットが収容凹部に収容された状態を示す断面図。
【
図4】実施形態1の電気抵抗溶接装置について、リベットが積層体に到達した状態を示す断面図。
【
図5】実施形態1の電気抵抗溶接装置について、カバー部が後退した状態を示す断面図。
【
図6】
図2のカバー部を矢印A方向からみた図、及びカバー部の先端側の断面図。
【
図7】
図6において開口の構成を説明するための図。
【
図10】積層体をなす2つの金属板材を接合する工程を段階的に示す断面図。
【
図11】
図10の積層体とは別の積層体の接合形態を示す断面図。
【
図12】
図10の積層体とは別の積層体の接合形態を示す断面図。
【
図13】実施形態2の電気抵抗溶接装置について
図5に対応した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0015】
上述の態様の電気抵抗溶接装置において、上記駆動機構部は、上記収容体の一部をシリンダとし、上記軸部材の一部をピストンロッドとして構成されており、上記シリンダの筒内空間に上記軸方向に摺動可能に収容され且つ上記ピストンロッドと一体化されたピストンと、上記シリンダの上記筒内空間が上記ピストンによって区画されてなる複数の作動室のそれぞれに流体供給源からの流体を導入可能に接続された導入部と、を備えているのが好ましい。
【0016】
この電気抵抗溶接装置によれば、駆動機構部は、シリンダ、ピストンロッド、ピストン及び導入部によって構成される。流体供給源から導入部を通じて複数の作動室のいずれかに流体が選択的に導入されることによって、シリンダである収容体の筒内空間をピストンが軸方向に摺動する。これにより、ピストンロッドを構成する軸部材は、ピストンと一体的に軸方向にスライドして下降位置と上昇位置との間で駆動される。このとき、電極チップを保持する軸部材の一部を駆動機構部のピストンロッドに兼用することによって、軸部材を軸方向に駆動するための荷重を収容体の径方向の中心側に集中させ易くなる。その結果、軸部材の軸方向の動きを安定させて信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0017】
上述の態様の電気抵抗溶接装置において、上記収容体は、上記ピストン及び上記ピストンロッドを収容する筒状のシリンダ部と、上記シリンダ部の先端部に取り付けられる筒状のカバー部と、を有し、上記軸部材は、上記ピストンロッドとして上記シリンダ部に収容される第1軸部と、上記第1軸部と上記電極チップとの間に介在して上記カバー部に収容される第2軸部と、有し、上記第2軸部は、上記第1軸部と上記電極チップのそれぞれに分離可能に連結されるように構成されているのが好ましい。
【0018】
この電気抵抗溶接装置によれば、軸部材のうち電極チップとの接続箇所の劣化に伴い部品交換する際、駆動機構部のピストンロッドを構成する第1軸部から第2軸部を分離して、第2軸部のみを交換することができる。このため、交換部品に要するコストを安価に抑えることができる。これに対して、軸部材全体を交換しようとすると、第1軸部がピストンロッドとして組み込まれているシリンダ部ごと交換する必要があり、交換部品に要するコストが高くなる。
【0019】
上述の態様の電気抵抗溶接装置において、上記収容体の上記先端部には、上記収容凹部に開口するエア噴出口と、上記収容凹部に対する上記リベットの供給及び排出が可能な開口と、が設けられており、上記開口を上記軸方向についてみたとき、上記開口は、上記リベットの頭部の形状に対応した円形領域と、上記エア噴出口から噴出したエアの通路として上記円形領域の縁部を径方向外方に部分的に拡張させて形成された拡張領域と、を有する開口形状をなしているのが好ましい。
【0020】
この電気抵抗溶接装置によれば、収容体の先端部の開口において、収容凹部に対するリベットの供給及び排出を可能とする円形領域に加えて拡張領域を設けることで、エア噴出口から噴出したエアの通路を開口の拡張領域によって確保することができる。また、円形領域と拡張領域との境界に仕切りなどの隔壁がないため、拡張領域を通じて噴出するエアの一部を円形領域側にも流すことが可能になる。これにより、収容体の先端部の開口の全体にわたりエアでスパッタを吹き飛ばす効果が高まる。
【0021】
以下、本実施形態の電気抵抗溶接装置の具体的な構造と、この電気抵抗溶接装置を使用した複数の金属板材の接合形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
本実施形態を説明するための図面において、特にことわらない限り、電極チップを保持する軸部材の軸方向を矢印Xで示し、軸部材を収容する収容体の径方向を矢印Yで示し、収容体の周方向を矢印Zで示すものとする。また、軸方向Xのうちの一方向である第1方向を矢印X1で示し、第1方向X1の逆方向である第2方向を矢印X2で示すものとする。
【0023】
(実施形態1)
図1及び
図2に示されるように、実施形態1の電気抵抗溶接装置(以下、単に「溶接装置」ともいう。)101は、積層体10をなす2つの金属板材11,12を、リベットWを使用して接合するための溶接装置である。このときの接合に使用する溶接技術は、一般的に、「RPW(レジスタンス・ピアス・ウエルディング)」と称呼される。
【0024】
溶接装置101は、主要な構成要素として、一対の電極チップ20,20Aと、軸部材30と、副駆動手段を構成する収容体40と、駆動機構部50と、主駆動手段60と、を備えている。
【0025】
リベットWは、電気抵抗溶接で一般的に使用される金属部材であり、円板形の頭部Waと、頭部Waから延びるテーパー形の軸部Wbと、を有する。なお、このリベットWの材質は特に限定されるものではなく、電気抵抗溶接にかかる金属板材11,12の材質に応じて適宜に選択され得る。
【0026】
ここで、積層体10は、2つの金属板材11,12を板厚方向に積層する、即ち、重ね合わせることによって構成された重ね合わせ体である。この積層体10の両面10a,10bのうちの一方の面10aに電極チップ20が対応し、この電極チップ20と対をなす別の電極チップ20Aが他方の面10bに対応している。
【0027】
電極チップ20は、リベットWを介して積層体10の一方の面10aに押し付けられる電極部材であり、ここでは可動電極として構成されている。このとき、電極チップ20は、一方の面10aにリベットWを押し付けるためのリベット押圧面21を有し、このリベット押圧面21でリベットWの頭部Waが押圧される。電極チップ20Aは、溶接装置101の中心軸線L上に同軸で配置された状態で、積層体10の他方の面10bに直に押し付けられる電極部材である。ここでは、電極チップ20Aは、積層体10が載置される固定電極として構成されている。この電極チップ20Aは支持アーム22に取り付けてある。なお、図示されているリベット押圧面21は、平坦面であってもよいし、或いは、これを緩やかな球面にして、面圧や電流密度を調整することも可能である。
【0028】
これにより、積層体10は、一対の電極チップ20,20Aによって板厚方向の両側から挟圧される。そして、溶接時に溶接トランス(図示省略)から供給された溶接電流が一対の電極チップ20,20Aの間に流れる。一対の電極チップ20,20Aはいずれも、導電性に優れており強靭なベリリウム銅やクロム銅などの銅合金で構成されるのが好ましい。
【0029】
つぎに、軸部材30について説明する。
【0030】
軸部材30は、軸方向Xに延びる細長い円筒状の軸部材(断面円形の長尺な部材)であり、その軸端部32aに電極チップ20を接合によって保持するように構成されている。この軸部材30は、一般的に「シャンク」とも称呼される。この軸部材30は、電極チップ20に至る通電経路を形成するために導電性を有する材料からなり、電極チップ20と一体化されることによって電極を形成する。このため、軸部材30は、電極チップ20と同種の導電性の良好な銅合金で構成されるのが好ましい。また、通電効率を高めるためには、軸部材30の断面積を極力大きくするのが好ましい。
【0031】
軸部材30は、詳細については後述するが、ピストンロッドとしてシリンダ部41に収容される第1軸部31と、第1軸部31と電極チップ20との間に介在してカバー部としてのカバー部材43に収容される第2軸部32と、有する。
【0032】
つぎに、主駆動手段60について説明する。
【0033】
主駆動手段60は、軸部材30を軸方向Xに進退させる駆動部材である。それを実現する手段としては、エアシリンダ、油圧シリンダ、進退出力式電動モータなど種々なものを採用できる。ここではエアシリンダ61が採用されている。エアシリンダ61は、溶接装置101の機枠のような静止部材62に強固に取り付けてある。このように、主駆動手段60が静止部材62に強固に固定されているので、後述のように、軸部材30だけを直接進退させたり、軸部材30と収容体40の相対位置を変化させたり、あるいは不変の状態にしたりすることができる。
【0034】
エアシリンダ61において、ピストン65に連結されたピストンロッド63は、接手構造部64を介して軸部材30に結合してある。したがって、エア供給源61aからエアが供給されてピストン65を介してピストンロッド63が軸方向Xに進退すると、軸部材30も一緒に軸方向Xに進退する。ピストンロッド63の後退位置が、後述の収容凹部Sの形成位置であり、ピストンロッド63の進出位置が積層体10に対するリベットWの加圧位置である。
【0035】
つぎに、副駆動手段を構成する収容体40について説明する。
【0036】
収容体40は、軸部材30に対して相対的に進退する部材である。それを実現する手段である駆動機構部50としては、上記主駆動手段60と同様にしてエアシリンダなどを採用することができる。ここでは、エアシリンダ方式である。
【0037】
駆動機構部50は、収容体40の一部であるシリンダ部41をピストンシリンダとし、軸部材30の一部である第1軸部31をピストンロッドとして構成されており、ピストンシリンダ及びピストンロッドに加えて、ピストン51と導入部52を備えている。
【0038】
ピストン51は、軸部材30の第1軸部31(ピストンロッド)とともにシリンダ部41(シリンダ)の筒内空間42に収容されている。ピストン51は、筒内空間42に軸方向Xに摺動可能に収容されており、且つ軸部材30の第1軸部31(ピストンロッド)と一体化されている。
【0039】
導入部52は、シリンダ部41の軸方向Xの2箇所に互いに離間して設けられている。2つの導入部52は、シリンダ部41の筒内空間42がピストン51によって区画されてなる2つの作動室42a,42bのそれぞれに流体供給源としての作動空気切換弁53からのエアを導入出可能に接続されている。作動空気切換弁53は、制御装置54に電気的に接続されており、制御装置54から入力される制御信号に応じて制御される。
【0040】
作動空気切換弁53は、シリンダ部41側の2つの導入部52に加えて、カバー部材43に設けられた2つの導入部43aにも接続されている。導入部43aは、カバー部材43の筒壁に軸方向Xに延びるように設けられたエア流路43bに連通している。エア流路43bは、収容凹部Sに開口するエア噴出口47に連通している。このため、作動空気切換弁53から各導入部43aに導入されたエアは、カバー部材43のエア流路43bを通じてエア噴出口47から収容凹部Sに噴出される。これにより、溶接時に生じるスパッタを、収容凹部Sに噴出されるエアで吹き飛ばすことができる。
【0041】
エア流路43bがカバー部材43と一体に形成されているので、エア流通構造部の構成が簡素化される。同時に、エア噴出口47の開口位置を、スパッタ排出などにとって最適の位置に開口することができる。
【0042】
駆動機構部50は、軸部材30を収容体40に対して、下降位置P1(
図5中の下降位置P1を参照)と上昇位置P2(
図3中の上昇位置P2を参照)との間で軸方向Xに相対的に駆動可能とするように構成されている。ここで、下降位置P1は、電極チップ20のリベット押圧面21が軸方向Xについて収容体40の先端部44から突出するように軸部材30が配置される位置である。これに対して、上昇位置P2は、電極チップ20のリベット押圧面21と収容体40の先端部44とで収容凹部Sを形成するように軸部材30が配置される位置である。
【0043】
収容体40は、軸部材30を軸方向X(第1方向X1及び第2方向X2)にスライド可能に収容する筒状の収容体を構成している。円筒状のシリンダ部41の中心部を軸部材30が貫通し、ピストン51が軸部材30に固定してあり、当該ピストン51がシリンダ部41内を気密状態で相対的に摺動する。シリンダ部41には、両端を閉塞する端蓋41cと41eが気密状態で結合してある。軸部材30は、両端蓋41c,41eを、気密状態でかつ摺動可能状態で貫通している。
【0044】
収容体40は、電極チップ20側を先端側としたとき、先端部41aから後端部41bまで延びる筒状のシリンダ部41と、先端部44から後端部45まで延びる筒状のカバー部材43と、を有する。シリンダ部41の先端部41aにカバー部材43の後端部45が接続されることによって、シリンダ部41及びカバー部材43が一体化され、シリンダ部41の筒内空間とカバー部材43の筒内空間が軸方向Xに連通するように構成されている。この場合、カバー部材43の先端部44が収容体40の先端部となる。
【0045】
シリンダ部41において、ピストン51の上下に、作動空気が導入される作動室42aと42bが形成されている。主駆動手段60の動作でピストン51が静止状態のときに、作動室42aまたは作動室42bのいずれかに作動空気が供給され、反対側の作動室42bまたは42aから作動空気が排出されると、シリンダ部41だけが相対的に進退する。これは、いずれかの端蓋41cか端蓋41eの内端面に作動空気の圧力が作用するためである。
【0046】
作動室42aに作動空気が供給され、他方、作動室42bから作動空気が排出されると、シリンダ部41は相対的に上昇し、上昇位置におかれる。一方、ピストン51が静止しているときに、作動室42bに作動空気が供給され、他方、作動室42aから作動空気が排出されると、シリンダ部41は相対的に下降し、下降位置におかれる。上記のようにして、収容体40の駆動源は、作動室42aと42bに給排される作動空気ということになる。
【0047】
したがって、収容体40は、静止したピストン51に対して円筒型のシリンダ部41が進退して駆動機能を果たしている。収容体40を進退出力式電動モータで構成するときには、電動モータのケース部材がシリンダ部41に相当し、電動モータのスクリュー軸が軸部材30に相当することとなる。
【0048】
つぎに、作動空気の給排について説明する。
【0049】
作動空気切換弁53は、シーケンス回路やコンピュータ装置などの制御装置54から発信された信号で動作する。圧縮空気供給源からの作動空気は、制御装置54からの指令信号によって作動空気切換弁53を切り換えて、シリンダ部41を進退させたり、エア噴出口47から空気噴射を行ったりするようになっている。作動空気切換弁53から出ている空気パイプは、作動室42a、42bおよびエア流路43bに接続されており、後述の動作が所定の順序で遂行されるように、制御装置54からの指令信号が作動空気切換弁53に伝えられる。
【0050】
なお、作動空気切換弁53を、主駆動手段60のエア供給源61aとして兼用し、ピストンロッド63を進退させるのに利用することもできる。
【0051】
つぎに、収容凹部について説明する。
【0052】
電極チップ20を収容したり、後述の収容凹部Sを形成したりするために、カバー部材43がシリンダ部41と一体に設けてある。カバー部材43は、リベットWや電極チップ20を包囲して保護する機能を果たすとともに、後述のエア流路43bを設置したりしており、シリンダ部41よりも小径の円筒型部材で構成されている。そして、シリンダ部41とカバー部材43は中心軸線L上に配置してある。
【0053】
前述の収容凹部Sの構成を理解しやすくするために、
図6において拡大して図示してある。
【0054】
リベットWの収容空間Sは、カバー部材43の端部に配置されている。そして、リベットWを収容する空間は、少なくとも、リベット押圧面とカバー部材の先端部の内面形状部によって構成されている。それを実現するために、カバー部材43の円筒端を閉鎖するような端板を設けてその中央部に開口を設けたり、カバー部材43の端部に別の部材を圧入してそこに収容空間を形成したりするように、種々な構造が採用できる。ここでは、後者の別の部材の事例である。
【0055】
先端部44の内側に厚板状の円形部材59を圧入し、当該円形部材59の中央部に円形の孔を開けて、その内壁面59aによって円形領域48aを形成して、リベットWの収容空間Sが形成されている。円形領域48aの内径は、リベットWの頭部Waの直径よりもわずかに大きくしてある。円形部材59は、上記のように圧入されているが、これに換えて円形部材59をカバー部材43の端面に溶接してもよい。
【0056】
円形部材59に開けた円形孔の中心軸線L方向の奥部に、電極チップ20のリベット押圧面21が位置している。換言すると、リベット押圧面21は、収容凹部Sの天井面を構成していることになる。リベット押圧面21が天井面としての位置にあるときには、主駆動手段60は上昇位置に位置している。同時に、収容体40によって進退するカバー部材43は最進出位置におかれている。つまり、収容凹部Sは、リベット押圧面21と円形領域48aの内面によって形成されている。
【0057】
上述のように、電極チップ20のリベット押圧面21と収容体40の先端部44の内壁面59aとでリベットWを収容可能な収容凹部Sが形成される。先端部44には、収容凹部Sに開口するエア噴出口47と、収容凹部Sに対するリベットWの供給及び排出が可能な開口48と、が設けられている。先端部44の内周には、円環状の永久磁石46が設けられている。この永久磁石46は、収容凹部Sに供給された金属製のリベットWを吸引保持する機能を有する。
【0058】
中心軸線L方向で見たリベットWの高さ寸法は、リベット押圧面21にリベットWが密着したとき、軸部Wbがカバー部材43の先端面44b(
図6(b)を参照)からわずかに突出するように、円形部材59の厚さや先端面44bの高さ位置が選定してある。
図6(b)には、先端面44bからリベットWの軸部Wbが突き出ている突出長さが、T1で示されている。
【0059】
つぎに、エア通路について説明する。
【0060】
カバー部材43を形成する円筒部材に、中心軸線L方向のエア流路43bが設けてある。エア流路43bは、カバー部材43の円周方向で見て90度間隔で4つ設けてあり、
図6(b)に示した環状の下向き面47aに開口している。この開口部分がエア噴出口47である。
【0061】
つぎに、拡張領域について説明する。
【0062】
円形領域48aと連通した状態で、拡張領域48bが形成されている。
図6(a)に示すように、エア噴出口47は、拡張領域48bのほぼ中央部と対応した位置関係となるように、エア噴出口47と拡張領域48bの相対位置が設定してある。拡張領域48bは円形であるが、これを四角い角形にしてもよい。また、円形領域48aと拡張領域48bは連通している。
【0063】
図6及び
図7に示されるように、収容体40の先端部44の開口48を軸方向X(具体的には、
図2中の矢印A方向)についてみたとき、開口48は、円形領域48aと、複数の拡張領域48bと、を有する開口形状をなしている。
【0064】
なお、
図7では、説明の便宜上、円形領域48aと拡張領域48bのそれぞれの形状を明確にするために、円形領域48aと拡張領域48bのそれぞれにハッチング(網掛け)を付与している。
【0065】
円形領域48aは、リベットWの頭部Wa(
図3を参照)の形状に対応した同心状の領域である。この円形領域48aの内径は、リベットWの供給のために頭部Waの外径に所定の隙間を加えた寸法となるように設定されている。
【0066】
各拡張領域48bは、エア噴出口47から噴出したエアの通路として円形領域48aの縁部を径方向外方に部分的に拡張させて形成された領域である。このとき、各拡張領域48bは、エア噴出口47から噴出したエアを収容体40の先端部44から噴出させるための専用の領域とされる。
【0067】
複数の拡張領域48bは、周方向Zに概ね等間隔で配置されるのが好ましい。これにより、周方向Zについてエアをバランス良く噴出させることができ、飛散したスパッタなどを効果的に排除することができる。なお、拡張領域48bの形状や数は、
図6及び
図7に示すものに限定されるものではなく、エアの噴出量や圧損などの設計条件等に応じて適宜に変更可能である。
【0068】
上記エア流路43bは、カバー部材43の肉厚部分に孔あけ加工をしたものであるが、これに換えて細い管部材を、カバー部材43の内面に固定するようにしてもよい。また、作動空気切換弁53から作動空気がエア流路43bに供給されるようになっている。
【0069】
つぎに、リベットの吸引手段について説明する。
【0070】
リベットWが収容凹部Sに収容されてリベット押圧面21にリベットWが密着しているときに、リベットWが落下したり、位置ずれが生じたりしないようにする必要がある。このために、リベットWに対する吸引手段が採用されている。吸引手段としては、空気吸引によるもの、磁石吸引力によるものなど、種々なものが採用できる。ここでは、後者の磁石吸引力を利用したものである。
【0071】
すなわち、先端部44の内周部に円環状の永久磁石46がはめ込んである。この永久磁石46の吸引力によってリベットWは収容凹部S内に正しい位置で保持される。円環状の永久磁石46に換えて、直方体形状や円板型形状の永久磁石を複数個、円形部材59に埋設してもよい。このようにして、永久磁石46が収容凹部Sの近傍に配置されている。
【0072】
リベットWに作用する磁石吸引力のうち、中心軸線L方向に作用する力成分によって、リベットWがリベット押圧面21に吸着される。また、リベットWに対する磁石吸引力をより強く作用させるために、円形部材59やカバー部材43(先端部44)をステンレス鋼のような非磁性材料で作るのが好ましい。永久磁石の配置は、上述のような観点から、収容凹部Sの近傍に配置するという考え方である。
【0073】
つぎに、収容体の規制部材について説明する。
【0074】
収容体40と軸部材30の相対位置を限界づけるために、規制部材が配置してある。規制部材の配置の仕方は色々な構造が採用できるが、ここでは、ピストン51の外周面に中心軸線L方向の長孔66を形成し、そこにシリンダ部41に結合した規制部材67を進入させてある。規制部材67の形状は、例えば、丸棒型とされている。相対変位によって、規制部材67が長孔66の内端部に当たった箇所が、限界停止位置である。長孔66の長さを、シリンダ部41の上限位置と下限位置間の距離に合致させてある。つまり、収容体40の軸部材30に対する最進出位置と最後退位置が決定づけられる。
【0075】
つぎに、軸部材と電極チップの接続構造を説明する。
【0076】
図8に示されるように、軸部材30は、第2軸部32が第1軸部31と電極チップ20のそれぞれに分離可能に連結される分離構造を有するのが好ましい。この分離構造によれば、軸部材30を2分割にすることで、第1軸部31を交換頻度が低い耐久部品とし、第2軸部32を交換頻度が高い交換部品とすることができる。
【0077】
第2軸部32の軸方向Xの一方の軸端部32aと他方の軸端部32bのそれぞれの外周面には、雄ネジが設けられている。電極チップ20の筒状部20aの内周面には、第2軸部32の軸端部32aの雄ネジが螺合可能な雌ネジが設けられている。第1軸部31の筒状の軸端部31aの内周面には、第2軸部32の軸端部32bの雄ネジが螺合可能な雌ネジが設けられている。
【0078】
このため、電極チップ20を使用する際には、第1軸部31と第2軸部32を螺合によって互いに連結し、且つこの第2軸部32と電極チップ20を螺合によって互いに連結する。このとき、第2軸部32と電極チップ20の螺合状態を微調整することによって、軸方向Xの長さを調整することができる。また、消耗品である電極チップ20を交換する際には、第2軸部32と電極チップ20の螺合を解除する。
【0079】
これに対して、軸部材30の第2軸部32が劣化したときなどには、第1軸部31と第2軸部32との螺合を解除することによって第1軸部31との第2軸部32の連結を解除する。このとき、螺合を解除する簡単な操作によって、第2軸部32を第1軸部31から分離して交換することができる。
【0080】
図9に示されるように、軸部材30の分離構造を
図8に示されるものから変更することもできる。この分離構造では、第2軸部32の軸端部32aは、その外周面がテーパー面とされ、電極チップ20の筒状部20aの内周面は、第2軸部32の軸端部32aを圧入可能なテーパー面とされている。このため、電極チップ20を使用する際には、第2軸部32の軸端部32aを電極チップ20の筒状部20aに圧入してテーパー面同士を合わせることよって、第2軸部32と電極チップ20を互いに連結する。
【0081】
図9に示される分離構造によれば、第2軸部32の軸端部32aをテーパー面とすることにより、
図8に示される分離構造に比べて第2軸部32を安価に製作することができる。また、第2軸部32の軸端部32aを電極チップ20の筒状部20aに圧入する構造であるため、第2軸部32と電極チップ20との連結及び連結解除の操作を更に簡単に行うことが可能になる。
【0082】
次に、積層体10をなす2つの金属板材11,12を、リベットWを使用して接合する溶接装置101の動作について、主に、
図10にしたがって説明する。
【0083】
なお、2つの金属板材11,12及びリベットWのそれぞれの材質は特に限定されるものではないが、ここでは、金属板材11にアルミニウム製の板材を使用し、金属板材12に鉄製の板材を使用し、リベットWに金属板材12と同種の磁性材料である鉄製のものを使用する場合について例示している。
【0084】
(収容凹部の形成)
図10(a)は、収容凹部Sが形成されて、そこにリベットWが収容された状態であり、装置全体としては、
図3に相当している。制御装置54からの指令信号で作動空気切換弁53が切り換えられて、主駆動手段60のピストン65が最後退位置におかれている。これにより、軸部材30は最後退位置である上昇位置P2に引き上げられて、リベット押圧面21が上昇位置P2に停止している。この段階で、ピストン51は静止状態になっている。
【0085】
これに引き続いて、作動空気切換弁53からの作動空気が、作動室42bに供給されるのと同時に、作動室42aから排出されると、シリンダ部41の端蓋41cに作用する空気圧でシリンダ部41は下降して、収容体40(カバー部材43の先端部44)が最進出位置に置かれる。この状態において、規制部材67が長孔66の下端に当たっているので、軸部材30に対する収容体40の下限位置が決定づけられる。このような動作を経て、カバー部材43の先端部44に収容凹部Sが形成される。
【0086】
ついで、リベットWが部品供給装置などを用いて収容凹部Sに挿入されると、永久磁石46の吸引力により、リベット押圧面21にリベットWが吸着される。このとき、リベットWの先端部は、カバー部材43の先端面44b(
図6(b)を参照)から、突出長さT1(
図3を参照)でわずかに突き出ている。
【0087】
(リベットの進出と加圧)
図10(b)は、収容凹部Sと先端部44の相対位置が不変のまま、すなわちシリンダ部41と軸部材30の相対位置が不変となった状態で、エアシリンダ61に作動空気が供給されて、ピストン65が下降し、リベットWが収容凹部Sに収容されたまま、積層体10の表面に加圧された状態である。装置全体としては、
図4に相当している。
【0088】
上記加圧は持続した状態になっているので、
図4に示されたピストン65はエアシリンダ61の内端面との間にわずかな空隙が存在している。この空隙は、符号T3で示されている。この状態では、カバー部材43の先端部44と積層体10との間の距離は著しく短い状態になって、収容凹部SやリベットWがカバー部材43の先端部44で包囲された、保護状態になっている。カバー部材43の先端部44と積層体10との間の短い距離は、
図4に符号T1で示してある。
【0089】
(カバー部の後退離隔)
図10(c)は、リベットWが積層体10に加圧された状態のままで、カバー部材43だけが引き上げられて、カバー部材43の先端部44が積層体10から遠ざかった状態である。装置全体としては、
図5に相当している。主駆動手段60の進出位置は
図4と同じであり、今度は、作動空気切換弁53を切り換えて作動室42aへ作動空気を供給するとともに、作動室42bから排気を行う。これによって、収容体40が後退動作をすることによってカバー部材43が後退し、電極チップ20だけがカバー部材43の先端部44から突き出た状態になり、カバー部材43の先端部44と積層体10との間の距離が拡大される。拡大された距離は、
図5に符号T2で示してある。この状態において、規制部材67が長孔66の上端に当たっているので、軸部材30に対する収容体40の上限位置が決定づけられる。この段階ではリベットWと金属板材11との間に溶融現象が発生していないので、リベット押圧面21は中間位置P3となっている。
【0090】
(溶接電流の通電)
図10(d)は、
図10(c)の状態で溶接電流が通電されている状態を示す。この通電によって、リベットWと積層体10の接触箇所に通電抵抗熱(ジュール熱)が発生し、継続している加圧力によって金属板材11が溶融してリベットWの軸部Wbが金属板材12に圧接され、この圧接部にナゲットNが形成される。このときには、ピストン65の下側の隙間T3は消滅している。
【0091】
リベット押圧面21が収容凹部Sの天井面を形成してリベットWの挿入待ちとなっているときに、リベット押圧面21は上昇位置P2である。リベットWの軸部Wbが金属板材11に接触した段階が、
図10(b)と
図10(c)に示した中間位置P3である。ナゲットNが形成される位置は下降位置P1である。つまり、金属板材11の厚さ分だけリベット押圧面21が下降した位置となる。このときに、主駆動手段60の空隙T3は消滅する。
【0092】
(収容凹部の再形成)
図10(e)は、電極チップ20と収容凹部Sの相対位置が変わることなく、両者が一緒になって後退した状態である。つまり、主駆動手段60の後退動作で、
図10(e)の状態になる。この段階で溶接が完了した積層体10を取り出すことができる。ついで、
図10(e)の状態からカバー部材43だけが進出すると、
図10(f)の状態になって収容凹部Sが再形成されて、つぎのリベット供給に備えることになる。カバー部材43だけの進出は、作動室42a、42bへの空気給排によって行われる。あるいは、電極チップ20とカバー部材43を同時に後退させるのではなく、両者を別々に後退させることも可能である。
【0093】
このように2層とされた積層体10が溶融する際にスパッタが飛散する。前述のように拡大された空間寸法(
図5中のT2を参照)が付与してあるので、スパッタは勢いよく横方向に飛散し、そのうち円形領域48aや拡張領域48bに向かおうとするスパッタは、エア噴出口47からの噴射空気で吹き飛ばされる。
【0094】
上述の実施形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0095】
上記構成の溶接装置101において、軸部材30が下降位置P1にあるとき、電極チップ20のリベット押圧面21が軸方向Xについて収容体40の先端部44から突出する。一方で、軸部材30が上昇位置P2にあるとき、電極チップ20のリベット押圧面21と収容体40の先端部44の内壁面59aとでリベットWを収容可能な収容凹部Sが形成される。このため、先ず、駆動機構部50によって軸部材30を上昇位置P2に設定することで、電気抵抗溶接に際して収容凹部SにリベットWを一時的に保持することができる。
【0096】
その後、駆動機構部50によって軸部材30を上昇位置P2から下降位置P1に向けて駆動することで、リベットWを電極チップ20のリベット押圧面21で押圧して収容凹部Sから押し出すことができる。このとき、一対の電極チップ20,20Aで積層体10を挟圧して加圧通電することで、リベットWを使用して2つの金属板材11,12の電気抵抗溶接が行われる。
【0097】
電気抵抗溶接が終了した後、駆動機構部50によって軸部材30を下降位置P1から上昇位置P2に向けて駆動することで、収容体40の先端部44に溶接時に生じたスパッタの逃げ場を作ることができる。このため、スパッタが収容体40の先端部44に付着して堆積するのを抑制することができ、次の溶接時にスパッタのよる閉塞が原因で収容凹部SにリベットWを供給できないという問題を解消することが可能になる。
【0098】
従って、上述の実施形態1によれば、溶接作業を円滑に行うことができる溶接装置101を提供することができる。
【0099】
上記構成の溶接装置101によれば、駆動機構部50において、作動空気切換弁53から導入部52を通じて2つの作動室42a,42bのいずれかにエアが選択的に導入されることによって、シリンダであるシリンダ部41の筒内空間42をピストン51が軸方向Xに摺動する。これにより、ピストンロッドを構成する軸部材30は、ピストン51と一体的に軸方向Xにスライドして下降位置P1と上昇位置P2との間で駆動される。このとき、電極チップ20を保持する軸部材30の一部である第1軸部31を駆動機構部50のピストンロッドに兼用することによって、軸部材30を軸方向Xに駆動するための荷重をシリンダ部41の径方向Yの中心側に集中させ易くなる。その結果、軸部材30の軸方向Xの動きを安定させて信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0100】
上記構成の溶接装置101によれば、軸部材30の第1軸部31から第2軸部32を分離して、第2軸部32のみを交換することができる。このため、交換部品に要するコストを安価に抑えることができる。これに対して、軸部材30全体を交換しようとすると、第1軸部31がピストンロッドとして組み込まれているシリンダ部41ごと交換する必要があり、交換部品に要するコストが高くなる。
【0101】
上記構成の溶接装置101によれば、収容体40の先端部44の開口48において、収容凹部Sに対するリベットWの供給及び排出を可能とする円形領域48aに加えて拡張領域48bを設けることで、エア噴出口47から噴出したエアの通路を開口48の拡張領域48bによって確保することができる。また、円形領域48aと拡張領域48bとの境界に仕切りなどの隔壁がないため、拡張領域48bを通じて噴出するエアの一部を円形領域48a側にも流すことが可能になる。これにより、収容体40の先端部44の開口48の全体にわたりエアでスパッタを吹き飛ばす効果が高まる。
【0102】
上述の実施形態1の、より具体的な作用効果はつぎの通りである。
【0103】
主駆動手段60によって進退する軸部材30に、リベット押圧面21を有する電極チップ20が取り付けられ、軸部材30に対して相対的に進退できる状態で収容体40が設けられ、収容体40に電極チップ20を収容するカバー部材43が一体化され、リベットWを収容する収容凹部Sが、リベット押圧面21と例えばカバー部材43の内面の一部で構成されている。このため、主駆動手段60と収容体40の動作位置によって、リベット押圧面21が後退して収容凹部Sが形成される状態と、電極チップ20とカバー部材43の先端部44の相対位置が不変のままで収容凹部Sに収容されたリベットWが進出して積層体10に押し付けられる状態と、この押し付けられた状態からカバー部材43だけが積層体10から遠ざかる離隔状態が形成され、溶接電流が通電されて溶接が完了してから電極チップ20とカバー部材43が進退して、収容凹部Sが形成される。
【0104】
とくに、本実施形態においては、主駆動手段60の進退動作位置と収容体40の進退動作位置を、各々の進退動作位置のものとして区分させて設定すると同時に、両手段の進退動作を有機的に関連させている。このため、収容凹部Sの形成、リベットWの進出、積層体10へのリベットWの押し付け、カバー部材43の後退、通電後における電極チップ20とカバー部材43の進退による収容凹部Sの形成など、種々な状態に応じた電極チップ20やカバー部材43の位置が正確に設定できる。
【0105】
(収容凹部の形成)
リベット押圧面21が後退して収容凹部Sが形成される状態においては、主駆動手段60の後退動作によってリベット押圧面21が最後退位置に置かれ、同時に、収容体40が最進出位置に置かれることによって、カバー部材43の先端部44にリベットWの収容凹部Sが形成される。このように、主駆動手段60と収容体40の複合動作によって、リベットWを収容する空間が確実に形成される。そして、収容凹部Sに入っているリベットWに何等かの外力が作用しても、リベットWは収容凹部S内において位置ずれを起こすことなく、確実な保持が達成される。
【0106】
(リベットの進出と加圧)
電極チップ20とカバー部材43の先端部44の相対位置が不変のままで収容凹部Sに収容されたリベットWが進出して積層体10に押し付けられる状態においては、軸部材30と収容体40の相対位置が不変のままで主駆動手段60が進出動作をする。これによって、リベットWは収容凹部S内に入り込んだままで、進出移動時におけるリベットWとカバー部材43の相対位置が不変となり、リベットWは積層体10の目的箇所に正確に到達する。そして、この状態では、カバー部材43の先端部44と積層体10との間の距離T1は著しく短い状態になっていて、収容凹部SやリベットWがカバー部材43の先端部44で包囲された保護状態になっている。
【0107】
(カバー部の後退離隔)
リベットWが積層体10に押し付けられた状態からカバー部材43だけが積層体10から遠ざかる離隔状態においては、主駆動手段60の進出位置は不変であり、収容体40が後退動作をすることによってカバー部材43が後退し、電極チップ20だけがカバー部材43の先端部44から突き出た状態になり、カバー部材43の先端部44と積層体10との間の距離が拡大される(
図5中のT2を参照)。この段階では、リベットWの軸部Wbが一枚目の金属板材11を貫通していない位置、すなわちリベット押圧面21が中間位置におかれている。上記距離の拡大により、溶融時のスパッタ飛散に必要な空間が確保され、スパッタがリベットWや収容凹部Sに付着したり、カバー部材43の奥の方へ侵入したりすることが防止できる。最初からの動作を全体的に見ると、リベットWは、収容凹部Sに収容された時点から、積層体10に到達するまでカバー部材43の先端部で包囲されているとともに、電極チップ20で加圧された状態に移行するので、リベットWが収容凹部Sから落下したり、位置ずれを起こしたりすることがなく、精度の高いリベット移行が実現する。
【0108】
(溶接電流の通電)
電極チップ20のリベット押圧面21が積層体10を加圧している状態においては、溶接電流が通電されると、一枚目の金属板材11を溶融させながらリベットWの軸部Wbが貫通し、二枚目の金属板材12に到達する。この到達した状態でさらに溶融が進行してナゲットNが形成される。このため、通電完了後には、一枚目の金属板材11は、リベットWと二枚目の金属板材12で強く挟み付けられて、積層体10の一体化が完了する。このような一体化構造によって、金属板材の確実な溶着が確保できる。
【0109】
(収容凹部の再形成)
上記ナゲット形成後、電極チップ20とカバー部材43の相対位置が不変のままで、電極チップ20とカバー部材43が後退して、溶接済みの積層体10が取り出せるようになる。その後、カバー部材43だけが進出して収容凹部Sが再び形成され、つぎの溶接動作が継続されるようになる。上記のように、電極チップ20とカバー部材43の相対位置が不変のままで後退する場合には、相手方の電極チップ20Aから電極チップ20とカバー部材43が同時に離隔するので、動作時間の短縮ができて、生産効率が向上する。また、上記後退後にカバー部材43だけを進出させることによって、1つのカバー部材43の動作ストロークだけで収容凹部Sが形成でき、動作の簡素化にとって有効である。あるいは、電極チップ20とカバー部材43を同時に後退させるのではなく、両者を別々に後退させる場合には、両者の後退完了時点で収容凹部Sを完成することができ、収容凹部Sの形成にとって効率的になる。このようにして、溶接電流が通電されて溶接が完了してから電極チップ20とカバー部材43が進退して、収容凹部Sが形成されるのである。
【0110】
上述のように、主駆動手段60と収容体40の動作・機能を有機的に組み合わせることによって、上述の収容凹部形成や良好な保持状態におけるリベットWの加圧供給など、溶接装置101として優れた動作を確保することができる。
【0111】
主駆動手段60、軸部材30、収容体40、カバー部材43、電極チップ20、収容凹部Sなどの主要構成部材を、装置の中心軸線L上に配置することによって、溶接装置101の全体をスリムな形態とすることができ、スペースに制約があるような箇所での使用が行いやすくなる。
【0112】
電極チップ20や収容凹部Sは、カバー部材43に包囲された状態になっているので、リベットWや電極チップ20が近隣の部材と干渉することが防止でき、溶接装置101の管理が行いやすくなる。
【0113】
なお、実施形態1に特に関連する変更例として、
図11及び
図12の接合形態を採用することができる。
【0114】
図11(a)に示される接合形態は、積層体10をなす3つの金属板材11,12,13を接合する形態である。例えば、金属板材11,13にアルミニウム製の板材を使用し、金属板材12に鉄製の板材を使用し、リベットWに金属板材12と同種の鉄製のものを使用する。この接合形態では、2つのリベットWを使用し、一対の電極チップ20,20Aのいずれもリベット押圧面21で対応するリベットWを押圧する。この場合、一対の電極チップ20,20Aのそれぞれに対して、軸部材30を駆動機構部50によって駆動する構造が採用される。
【0115】
この接合形態によれば、
図11(b)に示されるように、一対の電極チップ20,20Aによって積層体10に加圧通電することによって、一方のリベットWの軸部が金属板材11を貫通して金属板材12との間にナゲットNを生成し、且つ他方のリベットWの軸部が金属板材13を貫通して金属板材12との間にナゲットNを生成する。そして、一方のリベットWの頭部と金属板材12との間に金属板材11を挟み、且つ一方のリベットWの頭部と金属板材12との間に金属板材13を挟むことで、3つの金属板材11,12,13が接合される。
【0116】
図12(a)に示される接合形態は、積層体10をなす2つの金属板材11,13を接合する形態である。例えば、金属板材11,13にアルミニウム製の板材を使用し、リベットWに鉄製のものを使用する。この接合形態では、2つのリベットWを使用し、一対の電極チップ20,20Aのいずれもリベット押圧面21で対応するリベットWを押圧する。この場合、
図11(a)の接合形態と同様に、一対の電極チップ20,20Aのそれぞれに対して、軸部材30を駆動機構部50によって駆動する構造が採用される。
【0117】
この接合形態によれば、
図12(b)に示されるように、一対の電極チップ20,20Aによって積層体10に加圧通電することによって、一方のリベットWの軸部が金属板材11を貫通し、他方のリベットWの軸部が金属板材13を貫通して、2つのリベットWの間にナゲットNを生成する。そして、一方のリベットWの頭部と他方のリベットWの頭部との間に2つの金属板材11,13を挟むことで、2つの金属板材11,13が接合される。この接合形態の場合、アルミニウム製の板材同士を直に溶接する場合に比べて、接合に要するエネルギーが少なくて済む。
【0118】
以下、上記の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0119】
(実施形態2)
図13に示されるように、実施形態2の溶接装置102は、収容体40を駆動する駆動機構部150の構造について、実施形態1の駆動機構部50のものと相違している。
【0120】
駆動機構部150は、収容体40とは別体に設けられたシリンダ151と、シリンダ15に軸方向Xに摺動可能に収容されたピストン152と、ピストン152と一体化されたピストンロッド153と、シリンダ151内の作動室151aに作動空気切換弁53からのエアを導入するための導入部154と、シリンダ151を作動室151aの圧縮方向に弾性付勢するバネ部材155と、カバー部材43とピストンロッド153とを連結する連結プレート156と、を備えている。
【0121】
この駆動機構部150によれば、ピストン152は、導入部154からのエアの導入によって作動室151aの圧力が上昇してこの作動室151aから受ける上向きの荷重がバネ部材155の弾性付勢力を上回ることで第2方向X2にスライドする。このとき、収容体40は、連結プレート156によって引き上げられて上昇するため、軸部材30は収容体40に対して相対的に下降する。これにより、例えば上昇位置P2にある軸部材30を下降位置P1まで下降させることができる。
【0122】
一方で、ピストン152は、導入部154からのエアの導入停止によって作動室151aの圧力が低下しての作動室151aから受ける上向きの荷重がバネ部材155の弾性付勢力を下回ることで第1方向X1にスライドする。このとき、収容体40は、連結プレート156によって引き下げられて下降するため、軸部材30は収容体40に対して相対的に上昇する。これにより、例えば下降位置P1にある軸部材30を上昇位置P2まで上昇させることができる。
【0123】
その他の構成は、実施形態1の溶接装置101のものと同様である。
【0124】
上述の実施形態2によれば、駆動機構部150の構成要素が全て収容体40の外部に配置されているため、駆動機構部150の構成要素の交換作業が簡単であり、メンテナンス性に優れている。
【0125】
なお、この実施形態2に特に関連する変更例では、実施形態1の駆動機構部50の場合と同様に、バネ部材155を省略してエアのみでピストン152を駆動する構造を採用してもよい。
【0126】
その他、実施形態1の場合の作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0127】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、各実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0128】
上述の実施形態では、ピストン51,152を駆動するための流体にエアを使用する場合について例示したが、ピストン51,152を駆動するための流体の種類はエアに限定されるものではなく、必要に応じてエア以外の流体を使用することもできる。例えば、エアに代えて作動油を使用した油圧駆動方式を採用することができる。
【0129】
上述の実施形態では、収容体40の先端部44の開口48が円形領域48aと拡張領域48bを有する場合について例示したが、この開口48の開口形状はこれに限定されるものではなく、必要に応じて適宜に変更が可能である。
【0130】
上述の実施形態や、各種の変更形態に鑑みた場合、本発明では、以下の態様1を採り得る。
【0131】
(態様1)
複数の金属板材を重ね合わせてなる重ね合わせ体を、リベットを使用して接合する電気抵抗溶接装置であって、
静止部材に取り付けられた進退出力式の主駆動手段と、
前記主駆動手段によって進退する軸部材と、
前記軸部材の先端側に結合され、その先端面がリベット押圧面とされた電極チップと、
前記軸部材に対して相対的に進退する副駆動手段と、
前記副駆動手段と一体化され、前記溶接チップと同方向に延び出た状態で前記電極チップを収容するカバー部材と、
前記カバー部材の先端部に配置され、その内面の1つが少なくとも前記リベット押圧面によって形成されているリベットの収容凹部と、
を備え、
前記主駆動手段と前記副駆動手段の動作位置によって、
前記リベット押圧面が後退して前記収容凹部が形成される状態と、
前記電極チップと前記カバー部材の先端部の相対位置が不変のままでリベットが進出して前記重ね合わせ体に押し付けられる状態と、
前記押し付けられた状態から前記カバー部材だけが前記重ね合わせ体から遠ざかる離隔状態が形成され、
溶接電流が通電されて溶接が完了してから前記電極チップと前記カバー部材が進退して、前記収容凹部が形成されるように構成したことを特徴とする電気抵抗溶接装置。
【0132】
この態様1によれば、以下のような作用効果を奏する。
【0133】
主駆動手段によって進退する軸部材に、リベット押圧面を有する電極チップが取り付けられ、軸部材に対して相対的に進退できる状態で副駆動手段が設けられ、副駆動手段に電極チップを収容するカバー部材が一体化され、リベットを収容する収容凹部が、リベット押圧面と例えばカバー部材の内面の一部で構成されている。このため、主駆動手段と副駆動手段の動作位置によって、リベット押圧面が後退して収容凹部が形成される状態と、電極チップとカバー部材の先端部の相対位置が不変のままで収容凹部に収容されたリベットが進出して重ね合わせ体に押し付けられる状態と、この押し付けられた状態からカバー部材だけが重ね合わせ体から遠ざかる離隔状態が形成され、溶接電流が通電されて溶接が完了してから電極チップとカバー部材が進退して、収容凹部が形成される。
【0134】
とくに、本願発明においては、主駆動手段の進退動作位置と副駆動手段の進退動作位置を、各々の進退動作位置のものとして区分させて設定すると同時に、両手段の進退動作を有機的に関連させている。このため、収容凹部の形成、リベットの進出、重ね合わせ体へのリベットの押し付け、カバー部材の後退、通電後における電極チップとカバー部材の進退による収容凹部の形成など、種々な状態に応じた電極チップやカバー部材の位置が正確に設定できる。
【0135】
(収容凹部の形成)
リベット押圧面が後退して収容凹部が形成される状態について説明すると、主駆動手段の後退動作によってリベット押圧面が最後退位置に置かれ、同時に、副駆動手段が最進出位置に置かれることによって、カバー部材の先端部にリベットの収容凹部が形成される。このように、主駆動手段と副駆動手段の複合動作によって、リベットを収容する空間が確実に形成される。そして、収容凹部に入っているリベットに何等かの外力が作用しても、リベットは収容凹部内において位置ずれを起こすことなく、確実な保持が達成される。
【0136】
(リベットの進出と加圧)
電極チップとカバー部材の先端部の相対位置が不変のままで収容凹部に収容されたリベットが進出して重ね合わせ体に押し付けられる状態について説明すると、軸部材と副駆動手段の相対位置が不変のままで主駆動手段が進出動作をする。これによって、リベットは収容凹部内に入り込んだままで、進出移動時におけるリベットとカバー部材の相対位置が不変となり、リベットは重ね合わせ体の目的箇所に正確に到達する。そして、この状態では、カバー部材の先端部と重ね合わせ体間の距離は著しく短い状態になっていて、収容凹部やリベットがカバー部材の先端部で包囲された保護状態になっている。
【0137】
(カバー部材の後退離隔)
リベットが重ね合わせ体に押し付けられた状態からカバー部材だけが重ね合わせ体から遠ざかる離隔状態について説明すると、主駆動手段の進出位置は不変であり、副駆動手段が後退動作をすることによってカバー部材が後退し、電極チップだけがカバー部材の先端部から突き出た状態になり、カバー部材の先端部と重ね合わせ体間の距離が拡大される。この段階では、リベットの軸部が一枚目の金属板材を貫通していない位置、すなわちリベット押圧面が中間位置におかれている。上記距離の拡大により、溶融時のスパッタ飛散に必要な空間が確保され、スパッタがリベットや収容凹部に付着したり、カバー部材の奥の方へ侵入したりすることが防止できる。最初からの動作を全体的に見ると、リベットは、収容凹部に収容された時点から、重ね合わせ体に到達するまでカバー部材の先端部で包囲されているとともに、電極チップで加圧された状態に移行するので、リベットが収容凹部から落下したり、位置ずれを起こしたりすることがなく、精度の高いリベット移行が実現する。
【0138】
(溶接電流の通電)
電極チップのリベット押圧面が重ね合わせ体を加圧している状態のときに溶接電流が通電されると、一枚目の金属板材を溶融させながらリベットの軸部が貫通し、二枚目の金属板材に到達する。この到達した状態でさらに溶融が進行してナゲットが形成される。このため、通電完了後には、一枚目の金属板材は、リベットと二枚目の金属板材で強く挟み付けられて、重ね合わせ体の一体化が完了する。このような一体化構造によって、重ね合わせ体の確実な溶着が確保できる。
【0139】
(収容凹部の再形成)
上記ナゲット形成後、電極チップとカバー部材の相対位置が不変のままで、電極チップとカバー部材が後退して、溶接済みの重ね合わせ体が取り出せるようになる。その後、カバー部材だけが進出して収容凹部が再び形成され、つぎの溶接動作が継続されるようになる。上記のように、電極チップとカバー部材の相対位置が不変のままで後退する場合には、相手方の電極から電極チップとカバー部材が同時に離隔するので、動作時間の短縮ができて、生産効率が向上する。また、上記後退後にカバー部材だけを進出させることによって、1つのカバー部材の動作ストロークだけで収容凹部が形成でき、動作の簡素化にとって有効である。あるいは、電極チップとカバー部材を同時に後退させるのではなく、両者を別々に後退させる場合には、両者の後退完了時点で収容凹部を完成することができ、収容凹部形成にとって効率的になる。このようにして、上記態様1に記載のように、溶接電流が通電されて溶接が完了してから電極チップとカバー部材が進退して、収容凹部が形成されるのである。
【0140】
上述のように、主駆動手段と副駆動手段の動作・機能を有機的に組み合わせることによって、上述の収容凹部形成や良好な保持状態におけるリベットの加圧供給など、電気抵抗溶接装置として優れた動作を確保することができる。
【0141】
主駆動手段、軸部材、副駆動手段、カバー部材、電極チップ、収容凹部などの主要構成部材を、溶接装置の中心軸線上に配置することによって、溶接装置全体をスリムな形態とすることができ、スペースに制約があるような箇所での使用が行いやすくなる。
【0142】
電極チップや収容凹部は、カバー部材に包囲された状態になっているので、リベットや電極チップが近隣の部材と干渉することが防止でき、溶接装置の管理が行いやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
上述のように、本発明の溶接装置によれば、リベットを確実に目的箇所へ到達させるとともに、溶接時の溶融熱にともなうスパッタ飛散などの弊害を解消する。したがって、自動車の車体溶接工程や、家庭電化製品の板金溶接工程などの広い産業分野で利用できる。
【符号の説明】
【0144】
10 積層体
10a,10b 両面
20,20A 電極チップ
21 リベット押圧面
30 軸部材
31 第1軸部
32 第2軸部
32a 軸端部
40 収容体(副駆動手段)
41 シリンダ部
41a 先端部
42 筒内空間
42a,42b 作動室
43 カバー部材(カバー部)
44 先端部
47 エア噴出口
48 開口
48a 円形領域
48b 拡張領域
50,150 駆動機構部
51 ピストン
52 導入部
53 作動空気切換弁(流体供給源)
59a 内壁面
11,12,13 金属板材
101,102 電気抵抗溶接装置(溶接装置)
W リベット
Wa 頭部
P1 下降位置
P2 上昇位置
S 収容凹部
X 軸方向