(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162909
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】超音波乾燥装置
(51)【国際特許分類】
A47K 10/00 20060101AFI20221018BHJP
F26B 5/02 20060101ALI20221018BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A47K10/00
F26B5/02
H04R1/40 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067975
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000115854
【氏名又は名称】リンナイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111970
【弁理士】
【氏名又は名称】三林 大介
(72)【発明者】
【氏名】柘植 真吾
【テーマコード(参考)】
3L113
5D019
【Fターム(参考)】
3L113AA01
3L113AB10
3L113AC19
3L113BA04
3L113DA10
3L113DA21
5D019BB19
5D019FF01
(57)【要約】
【課題】乾燥対象物に付着している水分を周囲に拡散させることなく、迅速に乾燥させることが可能な超音波乾燥装置を提供する。
【解決手段】乾燥室(3)の内壁面(3a)上に搭載された複数の超音波素子(4)を用いて乾燥室内の乾燥対象物に超音波を照射する。このとき、複数の超音波素子の間での超音波の位相差を制御して、超音波が乾燥対象物上で互いに強め合う干渉を生じるようにする。強め合う干渉が生じる位置では周囲の位置よりも大きな音響放射圧が生じるので、乾燥対象物上の水分が、強め合う干渉が生じる位置から周囲へと移動する。従って、例えば乾燥対象物を移動させるなどして、乾燥対象物上で強め合う干渉が生じる位置を移動させれば、乾燥対象物上の水分を移動させることによって、乾燥対象物を迅速に乾燥させることができる。また、乾燥対象物上の水分を移動させているだけなので、水分を周囲に拡散させることもない。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥室の開口部から前記乾燥室内に挿入された乾燥対象物に対して超音波を照射することによって、前記乾燥対象物を乾燥させる超音波乾燥装置において、
前記開口部から前記乾燥対象物が挿入される挿入方向に対して側方に存在する前記乾燥室の内壁面上に配列された複数の超音波素子と、
前記複数の超音波素子を駆動することによって、前記乾燥室内に向けて前記超音波を放出させる超音波素子駆動部と
を備え、
前記超音波素子駆動部は、前記複数の超音波素子から前記超音波を放出させると共に、前記複数の超音波素子の間での前記超音波の位相差を制御することによって、前記複数の超音波素子から放出される前記超音波を用いて、前記乾燥対象物上で互いに強め合う干渉を生じさせる
ことを特徴とする超音波乾燥装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波乾燥装置において、
前記超音波素子駆動部は、前記複数の超音波素子から放出される前記超音波が、前記挿入方向に対して交差する平面上で互いに強め合う干渉となるように、前記複数の超音波素子の間での前記超音波の位相差を制御する
ことを特徴とする超音波乾燥装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の超音波乾燥装置において、
前記乾燥室内に挿入される前記乾燥対象物を検知する検知部を備え、
前記超音波素子駆動部は、前記検知部で前記乾燥対象物が検知された場合に、前記複数の超音波素子の駆動を開始する
ことを特徴とする超音波乾燥装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の超音波乾燥装置において、
前記超音波素子駆動部は、前記複数の超音波素子の間での前記超音波の位相差を変更することによって、前記複数の超音波素子から放出される前記超音波が互いに強め合う干渉となる位置が、前記挿入方向に移動する
ことを特徴とする超音波乾燥装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか一項に記載の超音波乾燥装置において、
前記乾燥室は、上面に前記開口部が形成されており、
前記複数の超音波素子は、斜め下方に向かって前記超音波を放出する
ことを特徴とする超音波乾燥装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか一項に記載の超音波乾燥装置において、
前記複数の超音波素子は、前記乾燥対象物の挿入方向に対して側方で、且つ、互いに向き合う位置にある複数の前記内壁面上に配列されている
ことを特徴とする超音波乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥対象物に超音波を照射することによって、乾燥対象物を乾燥させる超音波乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
手に付着した水分を高圧の空気で吹き飛ばすことによって、手を乾燥させる乾燥装置が知られている(特許文献1)。また、高圧の空気を吹き付ける代わりに、超音波を手に照射して、超音波で水分を霧化させることによって、手を乾燥させる乾燥装置も提案されている(特許文献2)。
【0003】
これらの技術を用いれば、濡れた手をタオルなどで拭うことなく、迅速に乾燥させることが可能である。また、手以外の乾燥対象物(例えば食器など)に対してこれらの技術を適用すれば、様々な乾燥対象物を迅速に乾燥させることが可能と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-062977号公報
【特許文献2】特開2013-184022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、提案されている技術では、手や食器などの乾燥対象物を乾燥させる際に、乾燥対象物に付着した水分を周囲に拡散させてしまう可能性があり、特に、水分中に雑菌が含まれていた場合には雑菌も周囲に拡散させてしまう可能性があるという問題がある。例えば、高圧の空気で水分を吹き飛ばす技術では、水分と一緒に雑菌も周囲に吹き飛ばしてしまう可能性があり、また、超音波で水分を霧化する技術では、霧化した水分と一緒に雑菌も周囲に拡散してしまう可能性がある。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するために成されたものであり、乾燥対象物に付着している水分を周囲に拡散させることなく、迅速に乾燥させることが可能な超音波乾燥装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の超音波乾燥装置は次の構成を採用した。すなわち、
乾燥室の開口部から前記乾燥室内に挿入された乾燥対象物に対して超音波を照射することによって、前記乾燥対象物を乾燥させる超音波乾燥装置において、
前記開口部から前記乾燥対象物が挿入される挿入方向に対して側方に存在する前記乾燥室の内壁面上に配列された複数の超音波素子と、
前記複数の超音波素子を駆動することによって、前記乾燥室内に向けて前記超音波を放出させる超音波素子駆動部と
を備え、
前記超音波素子駆動部は、前記複数の超音波素子から前記超音波を放出させると共に、前記複数の超音波素子の間での前記超音波の位相差を制御することによって、前記複数の超音波素子から放出される前記超音波を用いて、前記乾燥対象物上で互いに強め合う干渉を生じさせる
ことを特徴とする。
【0008】
かかる本発明の超音波乾燥装置においては、乾燥室の内壁面上に複数の超音波素子が搭載されており、超音波素子駆動部を用いて複数の超音波素子を駆動することによって、乾燥室内に挿入された乾燥対象物に対して超音波を照射する。このとき、超音波素子駆動部は、複数の超音波素子の間での超音波の位相差を制御することによって、複数の超音波素子から放出される超音波を用いて、乾燥対象物上で互いに強め合う干渉を生じさせる。
【0009】
一般に、物体に超音波を照射すると、物体の表面には音響放射圧と呼ばれる圧力が生じることが知られている。従って、複数の超音波素子から放出される超音波を用いて、乾燥対象物上で超音波が互いに強め合う干渉を生じさせると、強め合う干渉が生じる位置では、周囲の位置よりも超音波の強さが増幅されるため、音響放射圧も大きくなる。このため、乾燥対象物上に付着している水分は、音響放射圧の作用によって、強め合う干渉が生じる位置から周囲へと移動することになる。このことから、例えば乾燥対象物を移動させるなどして、乾燥対象物上で超音波が互いに強め合う干渉となる位置を移動させれば、乾燥対象物上に付着している水分を移動させることができる。そして、乾燥対象物上の水分を移動させることによって乾燥対象物上から除去してやれば、乾燥対象物を迅速に乾燥させることができる。また、上述した方法では、乾燥対象物上に付着している水分を移動させているだけで、水分を吹き飛ばしたり霧化させたりしているわけではないので、水分を周囲に拡散させることもない。
【0010】
また、上述した本発明の超音波乾燥装置においては、複数の超音波素子から放出される超音波が、乾燥対象物の挿入方向に対して交差する平面上で互いに強め合う干渉となるように、複数の超音波素子の間での超音波の位相差を制御するようにしてもよい。
【0011】
こうすれば、超音波が強め合う干渉となる平面が、乾燥室内に挿入された乾燥対象物を、挿入方向に対して交差する方向に横切る状態となる。そして、強め合う干渉となる平面が乾燥対象物上を横切る帯状の領域では、乾燥対象物上の水分が周囲の領域に移動する。従って、例えば乾燥対象物を移動させるなどして、乾燥対象物上で超音波が互いに強め合う干渉となる位置を移動させれば、乾燥対象物上の帯状の領域で水分を一斉に移動させることができるので、乾燥対象物上の水分を取り残すことなく移動させることができる。その結果、乾燥対象物を迅速に乾燥させることが可能となる。
【0012】
また、上述した本発明の超音波乾燥装置においては、乾燥室内に挿入される乾燥対象物を検知部で検知可能としておき、乾燥対象物が検知されたら、複数の超音波素子を駆動して超音波を放出させるようにしてもよい。
【0013】
こうすれば、乾燥室内に乾燥対象物が挿入されていない場合は超音波が放出されないので、無駄に超音波を放出する事態を回避することが可能となる。
【0014】
また、上述した本発明の超音波乾燥装置においては、複数の超音波素子の間での超音波の位相差を変更することによって、複数の超音波素子から放出される超音波が互いに強め合う干渉となる位置が、乾燥対象物の挿入方向に移動するようにしてもよい。
【0015】
こうすれば、乾燥室内に挿入した乾燥対象物を移動させなくても、超音波が互いに強め合う干渉となる位置を移動させることによって、乾燥対象物上の水分を除去することができるので、乾燥対象物を簡単に乾燥させることが可能となる。
【0016】
また、上述した本発明の超音波乾燥装置においては、乾燥室の上面に開口部を形成することによって、乾燥対象物が開口部から下方に向けて挿入されるようにしておき、複数の超音波素子が斜め下方に向かって超音波を放出するようにしてもよい。
【0017】
こうすれば、超音波は乾燥対象物に対して斜め下向きに照射されることになる。このため、超音波を乾燥対象物に照射したときに、超音波が強め合う干渉となる位置では、乾燥対象物上の水分が重力の方向に移動することになるので、水分を迅速に除去することができる。その結果、乾燥対象物を迅速に乾燥させることが可能となる。
【0018】
また、上述した本発明の超音波乾燥装置においては、乾燥対象物を挿入する挿入方向に対して側方で、且つ、互いに向き合う位置にある複数の内壁面上に、複数の超音波素子を配列することとしてもよい。
【0019】
こうすれば、乾燥対象物の両側から超音波を照射することができるので、乾燥対象物の表側および裏側に付着している水分を同時に除去することができる。その結果、乾燥対象物を迅速に乾燥させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施例の超音波乾燥装置1の大まかな構造を示す斜視図である。
【
図2】複数の超音波素子4が複数段に配列されている様子を示した説明図である。
【
図3】本実施例の超音波乾燥装置1の動作を示す説明図である。
【
図4】本実施例の超音波乾燥装置1が超音波を用いて乾燥対象物を乾燥させる原理についての説明図である。
【
図5】複数の超音波素子4が放出する超音波の位相を制御することで、超音波の強め合う干渉を生じさせることが可能な理由についての説明図である。
【
図6】変形例の超音波乾燥装置1の動作を示す説明図である。
【
図7】複数の超音波素子4が放出する超音波の位相を変更することで、超音波が強め合う干渉となる位置を移動させることが可能な理由についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本実施例の超音波乾燥装置1の大まかな構造を示した斜視図である。
図1に示すように、本実施例の超音波乾燥装置1は、直方体形状の本体ケース2の上面に開口部2oが開口し、開口部2oの奥に直方体形状の乾燥室3が形成された構造となっている。開口部2oの形状は正方形または長方形となっており、乾燥室3を水平方向に切断した時の断面形状も正方形または長方形となっているが、乾燥室3の断面形状は開口部2oよりも大きくなっている。このため、乾燥室3の上部は上に行くほど断面が小さくなって開口部2oに繋がる形状となっており、その結果、乾燥室3の上部の内壁面3aは、上端が内側に傾くことによって斜め下方を向いた状態となっている。そして、それらの内壁面3aには、複数の超音波素子4が配置されている。
【0022】
複数の超音波素子4は、
図2に示すように、複数の超音波素子4が水平方向に向かって一列に配列されることによって超音波素子アレイ4Lを形成し、その超音波素子アレイ4Lが上下方向の複数段に配置されている。尚、本実施例では、水平方向は、手などの乾燥対象物の挿入方向に対して交差する方向となっている。また、本実施例では、超音波素子アレイ4Lが上下方向の4段に配置されているものとして説明するが、超音波素子アレイ4Lの段数は2段以上であればよく、必ずしも4段でなくてもよい。また、以下では、4段の超音波素子アレイ4Lを区別する必要がある場合には、最上段の超音波素子アレイ4Lを超音波素子アレイ4Laと表記し、上から2段目の超音波素子アレイ4Lを超音波素子アレイ4Lbと表記し、上から3段目の超音波素子アレイ4Lを超音波素子アレイ4Lcと表記し、最下段の超音波素子アレイ4Lを超音波素子アレイ4Ldと表記して区別する。
【0023】
また、本実施例の超音波乾燥装置1では、4つの内壁面3aの何れにも複数の超音波素子4が配置されているものとしているが、何れか1つの内壁面3aに配置されていてもよい。もっとも、手などの乾燥対象物を迅速に乾燥させるためには、複数の超音波素子4を複数の内壁面3aに配置することが好ましく、特に、向かい合う2つの内壁面3aに配置することが望ましい。
【0024】
図1に示すように、開口部2oの内側には、正方形または長方形の一辺に相当する位置に投光部6が搭載されている。更に、投光部6が搭載された一辺と向かい合う一辺の位置には、受光部7(
図3参照)が搭載されている。投光部6は受光部7に向かって所定波長(例えば赤色)の光を照射しており、受光部7はその所定波長の光を受光したことを検知することができる。このため、開口部2oから乾燥室3内に、手などの乾燥対象物が挿入されると、投光部6から照射された光が受光部7に届かなくなるため、乾燥対象物が挿入されたことを検知することが可能となっている。
【0025】
尚、本実施例の投光部6および受光部7は、本発明における「検知部」に対応する。また、本実施例では、投光部6および受光部7を用いて乾燥対象物を検知しているが、開口部2oから挿入された乾燥対象物を検知することができれば、他の方法を用いて検知してもよい。例えば、投光部6の代わりに赤外線を検出する赤外線センサを搭載しておき、人間が手を開口部2oから挿入した時に、手の温度に応じて放出される赤外線を検出することによって、手が挿入されたことを検知してもよい。あるいは、投光部6の代わりに、超音波パルスを放出すると共に、物体で反射して戻って来た超音波を検出する超音波センサを搭載しておき、超音波パルスを放出してから戻って来たパルスを検出するまでの時間に基づいて、開口部2oに挿入された物体を検知してもよい。また、投光部6の代わりに赤外線センサや超音波センサを搭載する場合は、受光部7は不要となる。
【0026】
本体ケース2の内部にはコントローラ10が搭載されている。コントローラ10は複数の超音波素子4に接続されており、それぞれの超音波素子4に駆動信号を出力することによって、各超音波素子4から乾燥室3内に向かって超音波を放出することが可能となっている。尚、本実施例のコントローラ10は、本発明における「超音波素子駆動部」に対応する。
【0027】
また、乾燥室3の底面にはドレン穴3dが形成されており、ドレン穴3dからはドレンホース8hを介してドレンタンク8に接続されている。更に、本体ケース2の上面には電源スイッチ2sが搭載されており、ユーザが電源スイッチ2sを押すと、コントローラ10が起動すると共に、投光部6が受光部7に向かって光を照射することによって、超音波乾燥装置1が動作可能な状態となる。
【0028】
図3は、上述した本実施例の超音波乾燥装置1の動作を示す説明図である。上述したように、超音波乾燥装置1の電源スイッチ2sが押されると、投光部6から受光部7に向かって所定波長の光が照射される。
図3では、投光部6から照射される光が破線の矢印によって表されている。その状態で、開口部2oから乾燥室3内に乾燥対象物(図示した例では手)を挿入すると、投光部6からの光を受光部7で検知できなくなる。すると受光部7は、乾燥対象物が挿入されたことを検知して、そのことを示す信号をコントローラ10(
図1参照)に出力する。この信号を受けてコントローラ10が、複数の超音波素子4に対して電圧波形が正弦波の駆動信号を出力すると、それぞれの超音波素子4から乾燥室3内に向かって超音波が放出される。
【0029】
ここで、コントローラ10は、全ての超音波素子4に対して同じ周波数の駆動信号を出力するが、位相については、超音波素子アレイ4Lの単位で次のような位相に変更する。まず、超音波素子アレイ4Lbと超音波素子アレイ4Lcとについては、周波数だけでなく位相も同じ駆動信号を出力する。しかし、超音波素子アレイ4Laと超音波素子アレイ4Lbとは、後述する所定量だけ位相が異なる駆動信号を出力する。また、超音波素子アレイ4Laと超音波素子アレイ4Ldとは、位相が同じ駆動信号を出力する。このようにして、各超音波素子アレイ4Lの超音波素子4を駆動すると、それぞれの超音波素子4から放射された超音波は、乾燥室3の内部に、強め合う干渉を起こす平面状の領域を形成する。以下では、超音波が強め合う干渉を起こす平面状の領域を、「強干渉領域5」と表記することにする。
図3で細かな斜線を付した細長い領域は、強干渉領域5を概念的に表したものである。
【0030】
また、超音波を物体に照射すると、物体には音響放射圧と呼ばれる圧力が加わって、物体に一方向の力が作用することが知られている。以下では、音響放射圧によって物体に作用する一方向の力を、「音響放射力」と表記することにする。尚、音波(超音波を含む)は、大気圧を中心とした圧力の正負の変動が移動していく現象であり、物体の表面では圧力が正負に変動するだけである。それにも拘らず、超音波になると音響放射圧によって物体に一方向の力(音響放射力)が発生する理由については後述する。
【0031】
音響放射力は、超音波が大きく(すなわち、超音波の圧力振幅が大きく)なるほど大きくなる。そして、強干渉領域5では、4つの超音波素子アレイ4Lからの超音波が強め合うから、大きな音響放射力が発生することになる。
図3中で強干渉領域5内に表示した白抜きの矢印は、音響放射力を概念的に表している。更に、複数の超音波素子4は斜め下向きに超音波を放出するから、強干渉領域5も斜め下向きの平面となり、強干渉領域5内に生じる音響放射力も斜め下向きの力となる。
図3では、図面上で左側の超音波素子アレイ4La~4Ldによって形成される強干渉領域5および音響放射力は右下がりとなっており、右側の超音波素子アレイ4La~4Ldによって形成される強干渉領域5および音響放射力は左下がりとなっている。
【0032】
以上のような強干渉領域5が乾燥室3内に形成された状態で、濡れた手を乾燥室3内に挿入すると、手が強干渉領域5に横切っている部分では、手の表面に音響放射力が作用することになる。その状態で、ゆっくりと手を引き上げると、以下の理由から、手に付着した水分を除去することができ、結果として手を迅速に乾燥させることが可能となる。
【0033】
図4は、乾燥室3に挿入された手に強干渉領域5の音響放射力が作用している状態を示した説明図である。上述したように強干渉領域5内では大きな音響放射力が発生しているから、手の表面に付着していた水膜は、音響放射力によって上下方向に押し分けられる。また、音響放射力は、斜め下向きに作用するから、水膜が上方に押し上げられる分量よりも下方に押し下げられる分量の方が多くなる。そして、その状態でゆっくりと手を引き上げて行けば、手の表面に付着していた水膜を下方に押し下げていき、最後には指先から滴下させることができる。こうすれば、手に付着していた水分を除去することができるので、手を迅速に乾燥させることが可能となる。また、滴下した水分は乾燥室3の底面に形成されたドレン穴3dから、ドレンホース8hを通ってドレンタンク8に溜められる。
【0034】
また、超音波は、手などの乾燥対象物で遮られてしまうと乾燥対象物の裏側には届かない。
図4に示した例では、超音波素子アレイ4Lからの超音波は手の甲には届くが、手の平側には届かない。そこで、手の平側にも超音波素子アレイ4Lを搭載しておいてもよい。すなわち、前述したように複数の超音波素子4は乾燥室3の内壁面3aに搭載されており、乾燥室3には4つの内壁面3aを有するが(
図1参照)、向かい合う内壁面3aに複数の超音波素子4を搭載しておくことが望ましい。こうすれば、手の甲に付着した水分を除去しながら、手の平に付着した水分も同時に除去することができるので、より一層迅速に手を乾燥させることが可能となる。また、
図1に例示したように、4つの内壁面3aに超音波素子4を搭載しておけば、超音波が届きにくい死角の箇所が生じにくくなるので、更に迅速に手を乾燥させることが可能となる。
【0035】
また、4つの超音波素子アレイ4Lを適切に駆動することで、強干渉領域5を形成することができる理由は次のようなものである。
図5は、4つの超音波素子アレイ4Lを適切に駆動することで強干渉領域5を形成可能な理由についての説明図である。簡単のために、先ず初めは、超音波素子アレイ4Lが、中央の2つの超音波素子アレイ4L(超音波素子アレイ4Lbおよび超音波素子アレイ4Lc)であるものとして説明する。
【0036】
図5(a)に示すように、2つの超音波素子アレイ4Lbと超音波素子アレイ4Lcとの間を垂直に二等分する平面(以下、垂直二等分面CP)を考える。尚、
図5では、超音波素子アレイ4Lbおよび超音波素子アレイ4Lcは白丸として表示されており、CPは一点鎖線の直線として表示されている。垂直二等分面CPは、2つの超音波素子アレイ4Lbと超音波素子アレイ4Lcとの間を垂直に二等分しているから、垂直二等分面CP上の任意の点は、超音波素子アレイ4Lbまでの距離と、超音波素子アレイ4Lcまでの距離とが等しくなる。従って、超音波素子アレイ4Lbおよび超音波素子アレイ4Lcから同じ周波数で同じ位相の超音波を放出した場合、垂直二等分面CP上の任意の点で、超音波素子アレイ4Lbから到達した超音波が山(圧力が最大の状態)であれば、超音波素子アレイ4Lcから到達した超音波も山となる。逆に、超音波素子アレイ4Lbから到達した超音波が谷(圧力が最小の状態)であれば、超音波素子アレイ4Lcから到達した超音波も谷となる。
【0037】
図5(a)中に実線を用いて表示された複数の円弧は、超音波素子アレイ4Lbから放出される超音波の山の位置を概念的に表しており、円弧と円弧との中間の箇所が、超音波の谷の位置となる。また、
図5(a)中に破線を用いて表示された複数の円弧は、超音波素子アレイ4Lcから放出される超音波の山の位置を概念的に表しており、円弧と円弧との中間の箇所が、超音波の谷の位置となる。
図5(a)に示されるように、垂直二等分面CPの上では、直線の円弧と破線の円弧とが交差している。このことは、垂直二等分面CP上では、超音波素子アレイ4Lbの超音波と超音波素子アレイ4Lcの超音波とが強め合う干渉を起こすことを示している。
【0038】
参考として、
図5(b)には、超音波素子アレイ4Lbの超音波に対して、超音波素子アレイ4Lcの超音波の位相を、半波長だけ遅らせた場合を示している。
図5(b)に示されるように、垂直二等分面CP上では、破線の円弧(超音波素子アレイ4Lcの超音波の山の位置)は、実線の円弧(超音波素子アレイ4Lbの超音波の山の位置)の間を通過している。このことは、位相を半波長ずらした場合、垂直二等分面CP上では、超音波素子アレイ4Lbの超音波と超音波素子アレイ4Lcの超音波とが弱め合う干渉を起こすことを示している。
【0039】
以上に説明したように、超音波素子アレイ4Lbおよび超音波素子アレイ4Lcから、周波数が同じで位相も同じ超音波を放出すると、超音波素子アレイ4Lbおよび超音波素子アレイ4Lcの垂直二等分面CP上では、(何処でも)2つの超音波素子アレイ4Lからの超音波が強め合う干渉を起こすことになる。
【0040】
また、超音波素子アレイ4Laから放出される超音波についても、超音波素子アレイ4Lbから放出される超音波に対して、適切な量だけ位相をずらしてやれば、垂直二等分面CP上で超音波素子アレイ4Laと超音波素子アレイ4Lbとが強め合う干渉を起こすようにすることができる。この理由について
図5(c)を用いて説明する。
図5(c)に示したように、垂直二等分面CP上の任意の位置にP点を考える。P点から超音波素子アレイ4Laまでの距離は、P点から超音波素子アレイ4Lbまでの距離よりも長いから、超音波素子アレイ4Laおよび超音波素子アレイ4Lbから同じ位相の超音波を放出しても、垂直二等分面CP上で強め合う干渉を生じさせることはできない。
【0041】
ここで、
図5(c)に示すように、超音波素子アレイ4Laと超音波素子アレイ4Lbとの間に中点(以下、Q点)を取って、P点とQ点とを結ぶ直線が垂直二等分面CPとなす角度をθとする。すると、P点から超音波素子アレイ4Laまでの距離と、P点から超音波素子アレイ4Lbまでの距離の差は、
dL = du・sinθ
で近似することができる。ここで、duは、超音波素子アレイ4Laと超音波素子アレイ4Lbとの距離である。また、P点までの距離は超音波素子アレイ4Lbよりも超音波素子アレイ4Laの方が遠いから、超音波素子アレイ4Laからの超音波が超音波素子アレイ4Lbからの超音波よりも、dLだけ遅れてP点に到着することになる。従って、dLに相当する位相Φ(=(2π・du/超音波の波長)・sinθ)だけ、超音波素子アレイ4Laの超音波を進めておけば、P点上で超音波素子アレイ4Laの超音波と超音波素子アレイ4Lbの超音波とで強め合う干渉を生じさせることができる。
【0042】
尚、上述した近似式が成り立つのは、θが小さい場合に限られる。従って、P点がある程度まで超音波素子アレイ4Lに近付くと、それ以降は超音波素子アレイ4Lに近付くほど、強め合う干渉が弱くなる。このことから、超音波素子アレイ4Lの近く(従って、乾燥室3の壁面付近)では、超音波素子アレイ4Laの超音波と超音波素子アレイ4Lbの超音波とで強め合う干渉は生じない。
【0043】
また、超音波素子アレイ4Laと超音波素子アレイ4Ldとについては、前述した超音波素子アレイ4Lbと超音波素子アレイ4Lcと全く同じように考えることができる。すなわち、超音波素子アレイ4Laおよび超音波素子アレイ4Ldから、周波数が同じで位相も同じ超音波を放出すると、超音波素子アレイ4Laおよび超音波素子アレイ4Ldの垂直二等分面CP上では、(何処でも)2つの超音波素子アレイ4Lからの超音波が強め合う干渉を起こすことになる。そして、上述したように、超音波素子アレイ4Laの超音波の位相は、超音波素子アレイ4Lbの超音波の位相に対して位相Φだけ進めているから、超音波素子アレイ4Ldの超音波の位相も、超音波素子アレイ4Lcの超音波の位相に対して位相Φだけ進んでいることになる。このため、超音波素子アレイ4Ldの超音波および超音波素子アレイ4Lcの超音波も、垂直二等分面CP上で強め合う干渉を生じさせる。結局、4つの超音波素子アレイ4Lから放出される全ての超音波が、垂直二等分面CP上で強め合う干渉を生じさせることになる。
【0044】
上述した実施例では、乾燥室3内で強干渉領域5が形成される位置は固定されており、超音波乾燥装置1のユーザは、手などの乾燥対象物を乾燥室3内に挿入した後、ゆっくりと乾燥対象物を引き上げるものとして説明した。しかし、乾燥室3内で強干渉領域5が形成される位置を移動させてもよい。
【0045】
図6は、乾燥室3内で強干渉領域5の位置を移動させる変形例の超音波乾燥装置1の動作を示した説明図である。図示した変形例の超音波乾燥装置1でも、ユーザが手などの乾燥対象物を開口部2oから乾燥室3内に挿入すると、投光部6からの光が遮られて受光部7に届かなくなるので、乾燥対象物が挿入されたことを検知する。すると、コントローラ10(
図1参照)がそれぞれの超音波素子アレイ4Lに対して駆動信号を出力することで、超音波素子アレイ4Lから超音波が放出される。
【0046】
ここで、変形例の超音波乾燥装置1では、コントローラ10がそれぞれの超音波素子アレイ4Lに出力する駆動信号の位相を変更することで、強干渉領域5の位置を上から下へと移動させることが可能となっている。強干渉領域5の位置を移動させることが可能な理由については後述する。そして、強干渉領域5を一番下まで移動させたら、一番上の位置までジャンプさせた後、再び上から下へと移動させる動作を繰り返す。こうすれば、ユーザは手などの乾燥対象物を乾燥室3内に挿入した後、乾燥対象物を引き上げなくても、強干渉領域5が勝手に上から下へと移動して、手などに付着した水分を下方に押し下げて除去してくれるので、迅速に乾燥させることが可能となる。
【0047】
尚、変形例では、ユーザが乾燥対象物を乾燥室3内に挿入している限り、強干渉領域5を上から下へと移動させる動作を繰り返すものとしているが、強干渉領域5を上から下へと移動させる動作が所定回数(例えば5回)に達したら、超音波の放出を停止するようにしてもよい。こうすれば、乾燥対象物が乾燥した後も、無駄に超音波が照射されてしまうことを防止することができる。また、それぞれの超音波素子アレイ4Lに出力する駆動信号の位相を制御することで、強干渉領域5の位置を移動させることが可能な理由は次のようなものである。
【0048】
図7は、超音波素子アレイ4Lbから放出される超音波に対して、超音波素子アレイ4Lcから放出される超音波の位相が少しだけ進んでいる場合を例示した説明図である。図中に実線で示した複数の円弧は、超音波素子アレイ4Lbから放出される超音波の山の位置を表しており、図中に破線で示した複数の円弧は、超音波素子アレイ4Lcから放出される超音波の山の位置を表している。尚、超音波の周波数は、超音波素子アレイ4Lbの超音波も、超音波素子アレイ4Lcの超音波も同じである。
【0049】
超音波素子アレイ4Lbの超音波と、超音波素子アレイ4Lcの超音波とは位相がずれているので、
図7(a)に示したように、超音波素子アレイ4Lbと超音波素子アレイ4Lcとの間を垂直に二等分する平面(垂直二等分面CP)上では、強め合う干渉は起こらない。しかし、超音波素子アレイ4Lbの超音波の位相が、超音波素子アレイ4Lcの超音波の位相に対して進んでいるということは、超音波素子アレイ4Lbの位置が、超音波素子アレイ4Lcの位置に対して少し前にあることと等価と考えることができる。すなわち、
図7(b)に示すように、超音波素子アレイ4Lbの位置から超音波の放出方向に向かって、位相差の分だけ移動した位置に存在する仮想的な超音波素子アレイ4Lbvを想定して、その仮想的な超音波素子アレイ4Lbvから、超音波素子アレイ4Lcと同じ位相で同じ周波数の超音波を放出させる。こうすれば、仮想的な超音波素子アレイ4Lbvが放出する超音波と、実際の超音波素子アレイ4Lbが放出する超音波とは、区別が付かなくなる(すなわち、等価となる)。
【0050】
そこで、超音波素子アレイ4Lcとは異なる位相の超音波を放出する超音波素子アレイ4Lbを、超音波素子アレイ4Lcと同じ位相の超音波を放出する仮想的な超音波素子アレイ4Lbvに置き換えて考えれば、これらの超音波が強め合う干渉を発生させる平面は、超音波素子アレイ4Lcと仮想的な超音波素子アレイ4Lbvとの間を垂直に二等分する平面CPvとなることが分かる。
【0051】
図3~
図5を用いて前述した本実施例では、超音波素子アレイ4Lbと超音波素子アレイ4Lcとは同じ位相の超音波を放出し、超音波素子アレイ4Laと超音波素子アレイ4Ldとも同じ位相の超音波を放出していた。このため、超音波素子アレイ4Lbと超音波素子アレイ4Lcとの間の垂直二等分面CP上で強め合う干渉が生じていた。これに対して、超音波素子アレイ4Lbの超音波と超音波素子アレイ4Lcの超音波との間に位相差を設け、同様に、超音波素子アレイ4Laの超音波と超音波素子アレイ4Ldの超音波との間にも位相差を設ければ、
図7を用いて説明した理由から、4つの超音波素子アレイ4Lの超音波が強め合う干渉となる強干渉領域5を、垂直二等分面CPから平面CPvに移動させることができる。更に、位相差を連続して変更すれば、強干渉領域5の位置を連続して移動させることが可能となる。
【0052】
最後に、超音波を物体に照射すると一方向の力(本明細書中でいう音響放射力)が物体の表面に作用する理由について説明する。気体の分子運動論では、気体の圧力は、気体中で自由運動している分子が物体の表面に衝突することによって生じるものと考えられている。気体中の分子は全方向に向かって万遍なく飛翔しており、飛翔速度は、温度によって決まる速度分布を有していると考えられるから、それら全ての分子の運動を、物体の表面に向かって垂直に、代表的な速度Vxで飛翔する分子で代表させることができる。すると、質量mの1つの分子が衝突することによって物体の表面に及ぼす運動量は、2m・Vxとなる。気体の圧力は、このような衝突が一定頻度で繰り返されることによって生じるから、単位時間あたりに及ぼす運動量を求めると、
単位時間あたりに及ぼす運動量=2m・ρ・(Vx)*2 ・・・・・(1)
となる。ここで、ρは分子の密度であり、「*2」はべき乗を表している。
【0053】
一方、超音波は、大気圧を中心として正圧の部分と負圧の部分とが交互に繰り返される縦波であるから、超音波が照射された物体の表面では、大気圧を中心として圧力の増減が繰り返される。ここで、上述したように気体の圧力は分子の衝突によるものであり、圧力が高くなることは分子が衝突する速度が増加したことを表し、圧力が低くなることは衝突する速度が減少したことを表している。従って、超音波が衝突した物体の表面で圧力が増減するということは、分子が衝突する速度が、大気圧に相当する速度Vxを中心として、超音波による圧力増減量に相当する速度Vsの範囲で増減していることになる。以下では、Vxを中心としてVsの範囲で増減している状況を、Vx±Vsと表記する。従って、超音波を物体に照射した時に、気体の分子が物体の表面に及ぼす運動量は、(1)式のVxを、(Vx±Vs)に置き換えると、
超音波による運動量=2m・ρ・(Vx±Vs)*2
となる。そして、この式を変形すると、
超音波による運動量=2m・ρ・Vx*2
+4m・ρ・Vx・(±Vs)
+2m・ρ・(±Vs)*2
となる。変形して得られた1項目は大気圧に相当する成分であり、2項目および3項目が超音波が照射されたことによる成分である。また、2項目の成分は(±Vs)を有することから明らかなように、時間と共に正負に変動する成分であるため、一定時間で平均するとキャンセルされてしまう。ところが、3項目の成分は大きさが0になることはあっても負になることはないので、一定時間で平均すると正の値が残ってしまう。従って、物体に超音波を照射すると、物体の表面には、大気圧の他に3項目の成分に相当する圧力が加わることになる。この3項目の成分に相当する圧力が、音響放射圧に対応する。
【0054】
以上に詳しく説明したように、本実施例および変形例の超音波乾燥装置1では、乾燥室3内に挿入した乾燥対象物に対して超音波を照射することで、乾燥対象物の表面に付着した水分を押し分けることによって除去することができる。このため、水分を周囲に飛散させたり、霧状の水分を周囲に拡散させたりすることなく、乾燥対象物を迅速に乾燥させることができる。
【0055】
また、複数の超音波素子4から放出される超音波を平面状の強干渉領域5に集中させて水分を除去するので、個々の超音波素子4は強力な超音波を放出する必要がなく、小さな超音波素子4を使用することができる。加えて、平面状の強干渉領域5は、複数の超音波素子4からの超音波に強め合う干渉を生じさせることによって形成されるので、強干渉領域5の厚さは薄く(超音波素子4が超音波を放出する放出面の大きさに相当する厚さ程度まで薄く)なる。一般に、超音波素子4から放出された超音波は進行方向に広がるが、複数の超音波素子4から放出される超音波を、薄い強干渉領域5に集中させることができるので、より一層小さな超音波素子4を使用することが可能となる。
【0056】
更に、乾燥対象物の表面に付着した水分を、超音波で霧化させているのではなく、超音波で移動させるだけなので、それほど強力な超音波を使用する必要が無い。このため、乾燥対象物にダメージを与えることがなく、特に手を乾燥させる場合は、ユーザが超音波を痛く感じて不快な思いをさせる事態を回避することが可能となる。
【0057】
以上、本実施例および変形例の超音波乾燥装置1について説明したが、本発明は上記の実施例および変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様で実施することが可能である。
【0058】
たとえば、上述した本実施例および変形例の超音波乾燥装置1では、複数の超音波素子4が同じ周波数の超音波を放出するものとしているが、超音波の周波数は完全に同じ周波数でなくても構わない。例えば、高い周波数の超音波を放出する超音波素子4と、低い周波数の超音波を放出する超音波素子4とが混在している場合でも、それらの超音波の周波数の差が数Hz~数十Hz程度であれば、(数Hz~数十Hz程度の唸りが生じるものの)本実施例および変形例の超音波乾燥装置1と同様のメカニズムによって、乾燥対象物を迅速に乾燥させることが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1…超音波乾燥装置、 2…本体ケース、 2o…開口部、
2s…電源スイッチ、 3…乾燥室、 3a…内壁面、 3d…ドレン穴、
4…超音波素子、 4L…超音波素子アレイ、 5…強干渉領域、
6…投光部、 7…受光部、 8…ドレンタンク、 8h…ドレンホース、
10…コントローラ、 CP…垂直二等分面。