(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162922
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0463 20140101AFI20221018BHJP
H01L 51/44 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01L31/04 532A
H01L31/04 112Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068030
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】519259342
【氏名又は名称】株式会社エネコートテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】高濱 豪
(72)【発明者】
【氏名】藪本 利彦
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151EA07
5F151EA10
5F151EA11
5F151FA04
5F151FA06
5F151GA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】太陽電池の製造において層を塗布する前に透明電極をパターニングする必要を軽減できる方法を提供する。
【解決手段】基板3上に第1の電極5と光電変換層7,9とを有する中間体を得る中間体取得工程と,中間体の第1の領域2における,第1の電極5と光電変換層7,9を除去する第1の除去工程と,中間体の第1の領域とは異なる第2の領域4における,光電変換層7,9を除去する第2の除去工程と,第1の領域2に絶縁体を設置する絶縁体設置工程と,中間体の第1の領域に隣接する第3の領域における第1の電極5及び光電変換層7,9を含む積層体を第1の積層体としたときに,第1の積層体の前記光電変換層7,9上に第2の電極を設ける電極設置工程と,第1の積層体上の第2の電極と,第1の電極5のうち第2の領域に存在するものとを導通部を用いて導通する導通工程とを含む太陽電池の製造方法。
【選択図】
図2-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(3)上に第1の電極(5)と光電変換層(7,9,11)とを有する中間体を得る中間体取得工程と,
前記中間体の第1の領域(2)における,第1の電極(5)と前記光電変換層(7,9,11)を除去する第1の除去工程と,
前記中間体の第1の領域(2)とは異なる第2の領域(4)における,前記光電変換層(7,9,11)を除去する第2の除去工程と,
前記第1の領域(2)に絶縁体(8)を設置する絶縁体設置工程と,
前記中間体の第1の領域に隣接する第3の領域(6)における第1の電極(5)及び光電変換層(7,9,11)を含む積層体を第1の積層体(23)としたときに,第1の積層体(23)の前記光電変換層(7,9,11)上に第2の電極(13)を設ける電極設置工程と,
第1の積層体上の第2の電極(13)と,第1の電極(5)のうち第2の領域に存在するものとを導通部(15)を用いて導通する導通工程とを含み,
前記絶縁体は,第1の電極(5)のうち第1の積層体のものと,第2の電極(13)のうち第1の積層体のものとを絶縁するものである,
太陽電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽電池の製造方法であって,
前記光電変換層(7,9,11)は,ペロブスカイト層を含む,方法。
【請求項3】
請求項1に記載の太陽電池の製造方法であって,
第1の電極(5)は透明電極である,方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2018-163938号公報には,太陽電池が記載されている。
【0003】
太陽電池を製造する際に,エッチングや塗布工程を繰り返し行う必要があった。
このため,従来の方法では,基板や層に凹凸が生じたり,塗布面に粒子が付着するという問題があった。また,層を塗布する前に,透明電極をパターニングする必要もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで,この明細書に記載されるある発明は,基板や層に凹凸が生ずる事態を軽減できる太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書に記載されるある発明は,基本的には,基板上に透明電極や光電変換層を形成した後に,エッチング処理を工夫することで,塗布面に粒子が付着する事態を軽減し,基板や層に凹凸が生ずる事態を軽減できるという知見に基づく。
【0007】
最初の発明は,太陽電池の製造方法に関する。
この方法は,中間体取得工程と,第1の除去工程と,第2の除去工程と,絶縁体設置工程と,電極設置工程と,導通工程とを含む。
中間体取得工程は,基板3上に第1の電極5と光電変換層7,9,11とを有する中間体を得るための工程である。第1の電極5は,透明電極であることが好ましい。光電変換層7,9,11は,ペロブスカイト層を含むものが好ましい。
第1の除去工程は,中間体の第1の領域2における,第1の電極5と光電変換層7,9,11を除去するための工程である。
第2の除去工程は,中間体の第1の領域とは異なる第2の領域4における,光電変換層7,9,11を除去するための工程である。
絶縁体設置工程は,第1の領域2に絶縁体8を設置するための工程である。絶縁体は,第1の電極5のうち第1の積層体のものと,第2の電極13のうち第1の積層体のものとを絶縁するものである。第1の積層体は,後述する。
電極設置工程は,中間体の第1の領域に隣接する第3の領域6における第1の電極5及び光電変換層7,9,11を含む積層体を第1の積層体23としたときに,第1の積層体23の光電変換層7,9,11上に第2の電極13を設けるための工程である。
導通工程は,第1の積層体23上の第2の電極13と,第1の電極5のうち第2の領域に存在するものとを導通部15を用いて導通するための工程である。
【0008】
この発明の好ましい例は,光電変換層(7,9,11)が,ペロブスカイト層を含む方法である。
【0009】
この発明の好ましい例は,第1の電極(5)は透明電極の場合の方法である。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば,基板や層に凹凸が生じる事態を軽減できる。また,この発明によれば,塗布面に粒子が付着する事態を軽減できる。さらに。この発明によれば,層を塗布する前に,透明電極をパターニングする必要を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は,太陽電池の製造方法の例を示すフローチャートである。
【
図2-1】
図2-1は,本発明のある加工パターンの各工程後の段階にある製造途中の太陽電池の例を示す概念図である。
【
図2-2】
図2-2は,
図2-1の工程の次の工程後の段階にある製造途中の太陽電池の例を示す概念図である。
【
図2-3】
図2-3は,
図2-2の工程の次の工程後の段階にある製造途中の太陽電池の例を示す概念図である。
【
図3-1】
図3-1は,
図2のものとは別の加工パターンである本発明の各工程後の段階にある製造途中の太陽電池の例を示す概念図である。
【
図3-2】
図3-2は,
図3-1の工程の次の工程後の段階にある製造途中の太陽電池の例を示す概念図である。
【
図3-3】
図3-3は,
図3-2の工程の次の工程後の段階にある製造途中の太陽電池の例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
最初の発明は,太陽電池の製造方法に関する。
図1は,太陽電池の製造工程を示すフローチャートである。
図1に示される通り,この方法は,中間体取得工程と,第1の除去工程と,第2の除去工程と,絶縁体設置工程と,電極設置工程と,導通工程とを含む。
図2と
図3は,各工程の中間体の様子を示す概念図である。
【0013】
(基板3)
基板3として,ペロブスカイト太陽電池や有機EL素子における公知の基板を適宜用いることができる。基板の例は,ガラス基板,絶縁体基板,半導体基板,金属基板及び導電性基板(導電性フィルムも含む)である。また,これらの表面の一部又は全部の上に,金属膜,半導体膜,導電性膜及び絶縁性膜の少なくとも1種の膜が形成されている基板も好適に用いることができる。
【0014】
金属膜の構成金属の例は,ガリウム,鉄,インジウム,アルミニウム,バナジウム,チタン,クロム,ロジウム,ニッケル,コバルト,亜鉛,マグネシウム,カルシウム,シリコン,イットリウム,ストロンチウム及びバリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属である。半導体膜の構成材料の例は,シリコン,ゲルマニウム等の元素単体,周期表の第3族~第5族,第13族~第15族の元素を有する化合物,金属酸化物,金属硫化物,金属セレン化物,金属窒化物等が挙げられる。また,導電性膜の構成材料の例は,スズドープ酸化インジウム(ITO),フッ素ドープ酸化インジウム(FTO),酸化亜鉛(ZnO),アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO),ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO),酸化スズ(SnO2),酸化インジウム(In2O3),及び酸化タングステン(WO3)である。絶縁性膜の構成材料の例は,酸化アルミニウム(Al2O3),酸化チタン(TiO2),酸化シリコン(SiO2),窒化シリコン(Si3N4),及び酸窒化シリコン(Si4O5N3)である。
【0015】
基板3の形状の例は,平板や円板等の板状,繊維状,棒状,円柱状,角柱状,筒状,螺旋状,球状,リング状であり,多孔質構造体であってもよい。本発明においては,これらのうちでは板状の基板が好ましい。基板の厚さの例は,0.1μm~100mmが好ましく,1μm~10mmがより好ましい。
【0016】
(第1の電極5)
第1の電極5は,上記の基板3上に設けられる。このとき,第1の電極5は,基板3の上に直接設けられてもよいし,何らかの層を介して基板3の上に設けられてもよい。第1の電極は,電子輸送層の支持体であるとともに,(正孔)ブロッキング層を介してペロブスカイト層(光吸収層)より電流(電子)を取り出す機能を有する層である。このため,第1の電極は,導電性基板や,光電変換に寄与する光を透過可能な透光性を有する透明導電層の透明電極であることが好ましい。
【0017】
透明導電層としては,例えば,スズドープ酸化インジウム(ITO)膜,不純物ドープの酸化インジウム(In2O3)膜,不純物ドープの酸化亜鉛(ZnO)膜,フッ素ドープ二酸化スズ(FTO)膜,これらを積層してなる積層膜等が挙げられる。これら透明導電層の厚みは特に制限されず,通常,シート抵抗が5~15Ω/□(単位面積当たり)となるように調整することが好ましい。当該透明導電層は,成形する材料に応じ,公知の成膜方法により得ることができる。
【0018】
また,透明導電層は,外部から保護するために,必要に応じて,透光性被覆体により覆われ得る。当該透光性被覆体としては,例えば,フッ素樹脂,ポリ塩化ビニル,ポリイミド等の樹脂シート,白板ガラス,ソーダガラス等の無機シート,これらの素材を組合せてなるハイブリッドシート等が挙げられる。これら透光性被覆体の厚みは特に制限されず,通常,抵抗が5~15Ω/□となるように調整することが好ましい。
【0019】
第1の電極5の層と電子輸送層7との間に正孔ブロッキング層が設けられてもよい。(正孔)ブロッキング層は,正孔の漏れを防ぎ,逆電流を抑制して太陽電池特性(特に光電変換効率)を向上させるために設けられる層であり,第1の電極5とペロブスカイト層(光吸収層)との間に設けられることが好ましい。(正孔)ブロッキング層は,酸化チタン等の金属酸化物からなる層が好ましく,コンパクトTiO2等のn型半導体で第1の電極5の表面を平滑且つ緻密に覆った層がより好ましい。「緻密」とは,電子輸送層中の金属化合物の充填密度より高密度で金属化合物が充填されていることを意味する。なお,第1の電極5と電子輸送層7とが電気的に接続されなければ,ピンホール,クラック等が存在していてもよい。
【0020】
(正孔)ブロッキング層の膜厚は,例えば,5~300nmである。(正孔)ブロッキング層の膜厚は,電極への電子注入効率の観点より,10~200nmがより好ましい。
【0021】
(正孔)ブロッキング層は上記第1の電極5上に形成される。金属酸化物を(正孔)ブロッキング層に用いる場合,既知の方法に従って(例えば,非特許文献4,J. Phys. D: Appl. Phys. 2008, 41, 102002.等),例えばスプレーパイロリシスを行うことにより作製できる。例えば,200~550℃(特に300~500℃)に加熱したホットプレート上に置いた透明電極に0.01~0.40M(特に0.02~0.20M)の金属アルコキシド(チタンジ(イソプロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)等のチタンアルコキシド等)のアルコール溶液(例えばイソプロピルアルコール溶液等)をスプレーで吹き付けて作製できる。
【0022】
その後,得られた基板を,酸化チタン(TiO2等),チタンアルコキシド(チタンイソプロポキシド等),チタンハロゲン化物(TiCl4等)の水溶液中に浸漬して加熱することで,より緻密な膜とすることもできる。
【0023】
(正孔)ブロッキング層の原料を含む水溶液における原料の濃度は,0.1~1.0mMが好ましく,0.2~0.7mMがより好ましい。また,浸漬温度は30~100℃が好ましく,50~80℃がより好ましい。さらに,加熱条件は200~1000℃(特に300~700℃)で5~60分(特に10~30分)が好ましい。
【0024】
(電子輸送層7)
電子輸送層7は,ペロブスカイト層(光吸収層)の活性表面積を増加させ,光電変換効率を向上させるとともに,電子収集しやすくするために形成される。電子輸送層は,基板上に形成してもよいが,(正孔)ブロッキング層の上に形成しても良い。また,上記の(正孔)ブロッキング層が,電子輸送層7として機能してもよいし,電子輸送層7が(正孔)ブロッキング層を兼ねてもよい。電子輸送層7はフラーレン誘導体等有機半導体材料を用いた平坦な層でもよい。また,電子輸送層7は,酸化チタン(TiO2)(メソポーラスTiO2を含む),酸化スズ(SnO2),酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物からなる層であってもよい。
【0025】
なお,金属化合物が半導体である場合には,ドナーをドープすることもできる。これにより,電子輸送層がペロブスカイト層(光吸収層)に導入するための窓層となり,且つ,ペロブスカイト層(光吸収層)から得られた電力をより効率よく取り出すことができる。
【0026】
電子輸送層7の厚みは,特に制限されず,ペロブスカイト層(光吸収層)からの電子をより収集できる観点から,10~300nm程度が好ましく,10~50nm程度がより好ましい。電子輸送層7は,成形する材料に応じて公知の成膜方法を用いて得ることができる。例えば,透明電極の上に,3~15質量%(特に5~10質量%)の酸化スズ微粒子の水分散液を塗布して作製することができる。酸化スズ微粒子水分散液は公知又は市販品を用いることができる。塗布の方法は,スピンコート法が好ましい。なお,塗布は例えば15~30℃程度で行うことができる。
【0027】
(光吸収層9)
ペロブスカイト太陽電池におけるペロブスカイト層(光活性層,光吸収層)9は,光を吸収し,励起された電子と正孔を移動させることにより,光電変換を行う層である。ペロブスカイト層(光吸収層)9は,ペロブスカイト材料や,ペロブスカイト錯体を含む。混合液をスピンコート,ディップコート,スクリーン印刷法,ロールコート,ダイコート法,転写印刷法,スプレー法,スリットコート法等,好ましくはスピンコートにより基板上に塗布することが好ましい。
【0028】
ペロブスカイト層(光活性層,光吸収層)9の膜厚は,光吸収効率と励起子拡散長とのバランス及び透明電極で反射した光の吸収効率の観点から,例えば,50~1000nmが好ましく,200~800nmがより好ましい。なお,本発明のペロブスカイト層(光吸収層)9の膜厚は,100~1000nmの範囲内であることが好ましく,250~500nmの範囲内であることがより好ましい。本発明のペロブスカイト層(光活性層,光吸収層)9の膜厚は,膜の断面走査型電子顕微鏡(断面SEM)により測定する。
【0029】
また,本発明のペロブスカイト層(光活性層,光吸収層)9の平坦性は,走査型電子顕微鏡により測定した表面の水平方向500nm×500nmの範囲において高低差が50nm以下(-25nm~+25nm)であるものが好ましく,高低差が40nm以下(-20nm~+20nm)であるのがより好ましい。これにより,光吸収効率と励起子拡散長とのバランスをより取りやすくし,第1の電極5(透明電極)で反射した光の吸収効率をより向上させることができる。なお,ペロブスカイト層(光吸収層)9の平坦性とは,任意に決定した測定点を基準点とし,測定範囲内において最も膜厚が大きいところとの差を上限値,最も小さいところとの差を下限値としており,本発明のペロブスカイト層(光吸収層)9の断面走査型電子顕微鏡(断面SEM)により測定する。
【0030】
(正孔輸送層11)
正孔輸送層11は,電荷を輸送する機能を有する層である。正孔輸送層11には,例えば,導電体,半導体,有機正孔輸送材料等を用いることができる。当該材料は,ペロブスカイト層(光吸収層)9から正孔を受け取り,正孔を輸送する正孔輸送材料として機能し得る。正孔輸送層はペロブスカイト層(光吸収層)9上に形成される。当該導電体及び半導体としては,例えば,CuI,CuInSe2,CuS等の1価銅を含む化合物半導体;GaP,NiO,CoO,FeO,Bi2O3,MoO2,Cr2O3等の銅以外の金属を含む化合物が挙げられる。なかでも,より効率的に正孔のみを受け取り,より高い正孔移動度を得る観点から,1価銅を含む半導体が好ましく,CuIがより好ましい。有機正孔輸送材料としては,例えば,ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT),ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体;2,2’,7,7’-テトラキス-(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン(Spiro-OMeTAD)等のフルオレン誘導体;ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体;ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA)等のトリフェニルアミン誘導体;ジフェニルアミン誘導体;ポリシラン誘導体;ポリアニリン誘導体等が挙げられる。なかでも,より効率的に正孔のみを受け取り,より高い正孔移動度を得る観点から,トリフェニルアミン誘導体,フルオレン誘導体等が好ましく,PTAA,Spiro-OMeTADなどがより好ましい。
【0031】
正孔輸送層11中には,正孔輸送特性をさらに向上させることを目的として,リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI),銀ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド,トリフルオロメチルスルホニルオキシ銀,NOSbF6,SbCl5,SbF5,トリス(2-(1H-ピラゾール-1-イル)-4-tert-ブチルピリジン)コバルト(III)トリ[ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド]等の酸化剤を含むこともできる。また,正孔輸送層11中には,t-ブチルピリジン(TBP),2-ピコリン,2,6-ルチジン等の塩基性化合物を含むこともできる。酸化剤及び塩基性化合物の含有量は,従来から通常使用される量とすることができる。正孔輸送層11の膜厚は,より効率的に正孔のみを受け取り,より高い正孔移動度を得る観点から,例えば,50~500nmが好ましく,100~300nmがより好ましい。正孔輸送層11を成膜する方法は,例えば,乾燥雰囲気下で行うことが好ましい。例えば,有機正孔輸送材料を含む溶液を,乾燥雰囲気下,ペロブスカイト層(光吸収層)9上に塗布(スピンコート等)し,30~180℃(特に100~150℃)で加熱することが好ましい。
【0032】
(第2の電極13)
第2の電極13は,それが金属のものの場合,金属電極ともよばれる電極である。第2の電極13は,第1の電極5に対向配置され,正孔輸送層11の上に形成されることで,正孔輸送層11と電荷のやり取りが可能である。第2の電極13としては,当業界で用いられる公知の素材を用いることが可能であり,例えば,白金,チタン,ステンレス,アルミニウム,金,銀,ニッケル等の金属又はこれらの合金が挙げられる。これらの中でも金属電極は,乾燥雰囲気下で電極を形成することができる点から,蒸着等の方法で形成できる材料が好ましい。
【0033】
次に,本発明の製造方法の各工程について説明する。
図2と
図3は,別々の加工パターンの本発明製造方法に関するものである。それらの図は,各々の加工パターンの製造方法における,各工程後の太陽電池の状態を示す概略図である。
図2の(a)~(g)の順番が,本発明のある製造方法の各工程の順番に対応する。
図3の(a)~(g)も上記同様である。
【0034】
(中間体取得工程:S101)
中間体取得工程は,基板3上に第1の電極5と光電変換層7,9,11とを有する中間体を得るための工程である。
図3(a)と
図4(a)は,中間体の例を示した概略図である。中間体の例は,製造工程の後に,太陽電池のセルを構成する要素である。基板3は,透明基板であることが好ましい。第1の電極5は,透明電極であることが好ましい。光電変換層7,9,11は,ペロブスカイト層を含むものが好ましい。
図2(a)と
図3(a)の例では,各電極と層が,長方形として重なっている。
【0035】
(第1の領域2)
図2(b)と
図3(b)は,第1の除去工程後の例を示した概略図である。
まず,第1の領域2の形状等について説明する。
図2(b)又
図3(b)の示す様に,基板3上にある,第1の電極5の一部分(例えば長方形)と,電子輸送層7の一部分(例えば長方形)と,光吸収層9の一部分(例えば長方形),正孔輸送層11の一部分(例えば長方形)とが重なってできる長方形の領域が,第1の領域2である。なお,上記の例では,重なる各長方形同士の接地面の形状及び面積は等しく,接地面は重なる。中間体の第1の領域2は,2つ以上設定されてよい。
図2(b)又は
図3(b)の様に,第1の領域2は,基板3上の,図面中左端に設けられてもよい。また,第1の領域2は,基板3の上の,図面中左端から所定距離の位置に設定されてもよい。その距離は,図面中における基板3の横の長さの10%以上30%以下でよいし,25%以上50%以下でもよいし,45%以上90%以下でもよい。第1の領域2は,2つ以上設けられてよい。
【0036】
(第1の除去工程:S102)
図2(b)と
図3(b)は,第1の除去工程後の例を示した概略図である。
第1の除去工程は,中間体の第1の領域2における,第1の電極5と光電変換層7,9,11を除去するための工程である。
上記の様な第1の領域2を除去することにより,例えば,太陽電池のセルとなる領域ごとに中間体を分離できる。このようにしてできた第1の電極5と光電変換層7,9,11を有する領域をセル前駆体21とする。第1の除去工程により,中間体は,2以上のセル前駆体21に分離されることとなる。
【0037】
例えばマスキングをした状態で第1の領域2にレーザを照射することにより,所定領域(第1の領域2)における第1の電極5と光電変換層7,9,11を除去することで,複数のセル前駆体21を得ることができる。
【0038】
(第2の領域4)
図2(c)と
図3(c)は,第2の除去工程後の例を示した概略図である。
次に,第2の領域4の形状等について説明する。
セル前駆体21の第1の電極5上にある,電子輸送層7の一部分(例えば長方形)と,光吸収層9の一部分(例えば長方形)と,正孔輸送層11の一部分(例えば長方形),とが重なってできる長方形の領域が,第2の領域4である。なお,上記の例では,重なる長方形同士の接地面の形状及び面積は等しく,接地面は重なる。
図2(c)又は
図3(c)の様に,第2の領域4は,セル前駆体21に属する第1の電極5上の,図面中左端に設定されてもよい。また,第2の領域4は,セル前駆体21に属する第1の電極5上の,図面中左端から所定距離の位置に設けられていてもよい。その距離は,図面中におけるセル前駆体21の横の長さの10%以上30%以下でよいし,25%以上50%以下でもよいし,45%以上90%以下でもよい。第2の領域4は,1つのセル前駆体21に対して1つ以上設けられてよい。
【0039】
(第2の除去工程:S103)
図2(c)と
図3(c)は,第2の除去工程後の例を示した概略図である。
第2の除去工程は,中間体の第1の領域2とは異なる第2の領域4における,光電変換層7,9,11を除去するための工程である。第1の除去工程で,複数のセル前駆体21が得られた。第2の領域4の例は,このセル前駆体21のうち第1の領域2に隣接する一方の領域である。
図3(c)の例の様に,第2の領域4は,積層体21の,図面中左端に設けられていてもよい。また,
図4(c)の例の様に,第2の領域4は,セル前駆体21の,図面中左端から所定距離の位置に設けられていてもよい。その所定距離は,セル前駆体21の幅の10%以上30%以下でよいし,10%以上20%以下でもよいし,10%以上15%以下でもよい。
【0040】
例えばマスキングをした状態で第2の領域4にレーザを照射することにより,所定領域(第2の領域4)の第1の電極5と光電変換層7,9,11を除去できる。この際,第1の除去工程よりレーザ強度を弱く調整するか,照射時間を短くすればよい。このようにして,複数のセル前駆体21から,第2の領域4に存在する光電変換層7,9,11を除去できる。このようにして,
図3(c)又は
図4(c)の様な,第1の積層体23を得ることができる。第1の積層体に隣接する積層体を第2の積層体25とよぶ。なお,第3以降の積層体が存在してもよい。
【0041】
(絶縁体設置工程:S104)
図2(e)と
図3(e)は,第2の絶縁体設置工程後の例を示した概略図である。
絶縁体設置工程は,上記除去加工後の第1の領域2に,絶縁体8を設置するための工程である。絶縁体8は,第1の電極5のうち第1の積層体23のものと,第2の電極13のうち第1の積層体23のものとを絶縁するものである。具体的に説明すると,第1の除去工程で,第1の領域2に存在する第1の電極5と光電変換層7,9,11が除去された。
例えば,第1の積層体23の壁面のうち,第1の領域2に存在する部分を覆うように絶縁体8を設置する。この際に,絶縁体8が,光電変換層7,9,11の上部のうち,第1の積層体23と第2の積層体25の間にある第1の領域2側の部分にも覆い被さってよい。
また,この際に第2の積層体25上の第2の領域4については,絶縁体8で埋め尽くされないようにすることが好ましい。絶縁体8で,第2の積層体25上の第2の領域4が埋め尽くされると,第1の積層体23の第2の電極13と,第2の積層体25の第1の電極5との導通を取りにくくなるからである。
先に説明した通り,第1の積層体23に隣接する積層体を第2の積層体25とよび,その第2の積層体25以降の積層体にも,上記と同様の絶縁設置工程を施してよい。
【0042】
(第3の領域6)
図2(d)又は
図3(d)で示す様に,第3の領域6は,第1の積層体23又は第2の積層体25の光電変換層7,9,11で形成される部分である。第3の領域6は,第1の除去工程,及び第2の除去工程の後に,第1の電極5と光電変換層7,9,11が残留している領域といえる。
(電極設置工程:S105)
図2(f)と
図3(f)は,電極設置工程後の例を示した概略図である。
電極設置工程は,第1の領域2に隣接する第3の領域6における第1の電極5及び光電変換層7,9,11を含む積層体を第1の積層体23としたときに,第1の積層体23の光電変換層7,9,11上に第2の電極13を設けるための工程である。第1の積層体23は,太陽電池の一つのセルを構成することとなる。先に説明した通り,第1の積層体23に隣接する積層体を第2の積層体25とよび,その第2の積層体25以降の積層体にも,上記と同様の電極設置工程を施してよい。
【0043】
(導通工程:S106)
図2(g)と
図3(g)は,導通工程後の例を示した概略図である。
導通工程は,第1の積層体23上の第2の電極13と,第1の電極5のうち,第1の積層体23とその隣接する第2の積層体25の間にある第2の領域に存在するものとを導通部15を用いて導通するための工程である。
換言すると,導通工程は,第1の積層体23の第2の電極13と,第2の積層体25の第1の電極5とを導通部15を用いて導通するための工程である。
【0044】
第3の積層体が存在する場合,第2の積層体25の光電変換層7,9,11の上部に設けられた第2の電極13と,第3の積層体の第1の電極5も導通部15を用いて導通することが好ましい。以下積層体の数が増えても同様であり,基本的には,ある積層体上の第2の電極13と,その積層体と隣接する積層体の第1の電極5とを,導通部15を用いて導通する。この際に,導通部15の下部には,絶縁体8が位置する。これにより,ある積層体の第1の電極5と第2の電極13とが導通する事態を防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この発明は,太陽電池等に関する技術分野において利用され得る。
【符号の説明】
【0046】
2 第1の領域
4 第2の領域
5 第1の電極
6 第3の領域
7 電子輸送層
8 絶縁体
9 光吸収層
11 正孔輸送層
13 第2の電極
15 導通部
21 セル前駆体
23 第1の積層体
25 第2の積層体