(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162929
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】平角線モータコイル及び平角線モータコイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/04 20060101AFI20221018BHJP
H02K 3/04 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H02K15/04 E
H02K15/04 F
H02K3/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068039
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フナル アウレル
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 洋三
(72)【発明者】
【氏名】柴山 博久
【テーマコード(参考)】
5H603
5H615
【Fターム(参考)】
5H603AA09
5H603BB01
5H603CB03
5H603CB18
5H603CE05
5H603EE01
5H603EE02
5H615AA01
5H615BB01
5H615PP01
5H615QQ03
5H615SS03
5H615SS04
5H615SS16
5H615SS19
(57)【要約】
【課題】互いに接合される先端部それぞれを適切に配置する。
【解決手段】ステータコイル1は、曲げ加工により互いに揃えられた後に溶接される第1先端部10及び第2先端部20を有する。第1先端部10及び第2先端部20は、曲げ加工により互いに揃えられた状態において先端同士で互いに突き合わされて係合するとともに、第1先端部10及び第2先端部20の係合状態を保持する先端形状Sを有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ加工により互いに揃えられた後に溶接される第1先端部及び第2先端部を有する平角線モータコイルであって、
前記第1先端部及び前記第2先端部は、前記曲げ加工により互いに揃えられた状態において先端同士で互いに突き合わされて係合するとともに、当該第1先端部及び当該第2先端部の係合状態を保持する先端形状を有する、
ことを特徴とする平角線モータコイル。
【請求項2】
請求項1に記載の平角線モータコイルであって、
前記先端形状は、互いに係合する凹部及び凸部を形成するとともに、前記第1先端部に前記凹部を、前記第2先端部に前記凸部をそれぞれ形成し、
前記凹部は、前記第1先端部の表側で突出する表側突出部と、前記第1先端部の裏側で前記表側突出部より突出する裏側突出部とを有する、
ことを特徴とする平角線モータコイル。
【請求項3】
請求項2に記載の平角線モータコイルであって、
前記凸部は、前記第2先端部の表側に形成される表側切欠き部と、前記第2先端部の裏側に形成され前記表側切欠き部より先端からの切欠き長が長い裏側切欠き部とを有し、
前記先端形状は、前記表側突出部及び前記表側切欠き部、又は前記裏側突出部及び前記裏側切欠き部に互いに係合するフック部をさらに有する、
ことを特徴とする平角線モータコイル。
【請求項4】
請求項3に記載の平角線モータコイルであって、
前記凹部は、前記裏側突出部から前記表側突出部に向かって反り返るまで延伸してフックを形成する円筒内面状の形状を有し、
前記凸部は、前記裏側切欠き部から前記表側切欠き部に向かって裏側への巻き込みが生じるまで延伸して前記フックと係合するフック溝を形成する円筒外面状の形状を有し、
前記フック部は前記フック及び前記フック溝により構成される、
ことを特徴とする平角線モータコイル。
【請求項5】
請求項2に記載の平角線モータコイルであって、
前記凸部は、前記曲げ加工が行われる前の状態で基端側から先端側に向かう方向で前記第2先端部の裏側に曲がる曲げ形状を有する、
ことを特徴とする平角線モータコイル。
【請求項6】
請求項5に記載の平角線モータコイルであって、
前記凹部は、開口側から底側に向かう方向で前記第1先端部の裏側に曲がる曲げ形状を有する、
ことを特徴とする平角線モータコイル。
【請求項7】
曲げ加工により互いに揃えられた後に溶接される第1先端部及び第2先端部を有する平角線モータコイルの製造方法であって、
前記第1先端部及び前記第2先端部は、前記曲げ加工により互いに揃えられた状態において先端同士で互いに突き合わされて係合するとともに、当該第1先端部及び当該第2先端部の係合状態を保持する先端形状を有し、
溶接時に、前記先端形状により前記第1先端部及び前記第2先端部の係合状態を保持する、
ことを特徴とする平角線モータコイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平角線モータコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のコイルを含むステータの製造に用いられる曲げ加工装置が開示されている。特許文献1では曲げ加工装置を用いた先端曲げ工程において、互いに接合されるべきセグメントコイルの先端部同士を脚部のスプリングバックにより概ね平行に延在する状態で接触させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
平角線モータコイルが設けられる回転電機では、互いに接合される平角線の先端部同士を軸方向に延在させるとその分、全長が延びる。このため、先端部それぞれを曲げ加工により先端同士で互いに突き合わせて全長抑制を図ることが考えられる。しかしながら、曲げ加工により先端同士で互いに突き合わされた先端部それぞれは曲げ加工後、スプリングバックによって互いに離間する方向に移動して位置ずれを起こし得る。結果、曲げ加工後に行われる溶接による接合が不適切、或いは先端同士の間にクリアランスが生じることにより困難になる虞がある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、互いに接合される先端部それぞれを適切に配置することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の平角線モータコイルは、曲げ加工により互いに揃えられた後に溶接される第1先端部及び第2先端部を有する。第1先端部及び第2先端部は、曲げ加工により互いに揃えられた状態において先端同士で互いに突き合わされて係合するとともに、第1先端部及び第2先端部の係合状態を保持する先端形状を有する。
【0007】
本発明の別の態様によれば、上記態様の平角線モータコイルに対し、溶接時に先端形状により第1先端部及び第2先端部の係合状態を保持する平角線モータコイルの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
これらの態様によれば、曲げ加工が行われた際に先端形状が先端同士を互いに突き合わせた係合状態で第1先端部及び第2先端部を保持する。このため、互いに接合される第1先端部及び第2先端部を適切に配置できる。また、溶接時には先端形状により第1先端部及び第2先端部の係合状態を保持することができる。このため、曲げ加工後に係合状態を保持する複雑なクランプ固定治具等がなくても、互いに接合される第1先端部及び第2先端部を溶接時に亘って適切に配置できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】平角線モータコイルの第1先端部及び第2先端部を係合状態で示す図である。
【
図4】第1先端形状及び第2先端形状の説明図である。
【
図5】ステータコイルの製造工程の第1行程を示す図である。
【
図6A】ステータコイルの製造工程の第2工程を示す図である。
【
図6B】ステータコイルの製造工程の第2工程を示す図である。
【
図7】ステータコイルの製造工程の第3工程を示す図である。
【
図8】ステータコイルの製造工程の第4工程を示す図である。
【
図9】第1先端部及び第2先端部の溶接時の説明図である。
【
図11】第1変形例にかかるステータコイルの要部を示す図である。
【
図13】第2変形例にかかるステータコイルの要部を示す図である。
【
図14】第2変形例における曲げ加工の説明図である。
【
図15】第3変形例にかかるステータコイルの要部を示す図である。
【
図16】第3変形例における曲げ加工の説明図である。
【
図17】第4変形例にかかるステータコイルの要部を示す図である。
【
図18】第4変形例における曲げ加工の説明図である。
【
図20A】接合部の第2比較例を示す図の第1図である。
【
図20B】接合部の第2比較例を示す図の第2図である。
【
図21A】第2比較例における溶接時の説明図の第1図である。
【
図21B】第2比較例における溶接時の説明図の第2図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1はステータ100の要部を示す外観図である。
図2はステータ100の要部を示す平面図である。
図2ではステータコイル1をリング状の形状により模式的に示す。ステータ100は例えば電動車両やハイブリッド車両において駆動源や発電機を構成する回転電機に用いられる。ステータ100はステータコイル1とステータコア2とモールド3とを有する。ステータコイル1は断面矩形の平角線Wからなる平角線モータコイルであり、例えば銅を材質とする。ステータコイル1はU相、V相、W相のステータコイルを含む。ステータコア2はリング状の形状を有し、ステータコア2にはティースTHが設けられる。ティースTHは径方向内側に突出し、周方向に沿って複数設けられる。互いに隣り合うティースTH同士の間にはスロットSTが形成される。複数のスロットSTには複数の平角線Wの両端部が
図1における下方から挿通される。複数の平角線WそれぞれはU字状の形状を有する。複数の平角線WそれぞれはI字状つまりストレートな形状を有してもよい。複数の平角線Wそれぞれは例えばエナメルコーティングにより絶縁被覆されており、各平角線Wの両端部の絶縁被覆はステータ100に組み付けられる前に予め除去される。複数の平角線Wでは互いに異なる平角線W同士の先端部が所定の組み合わせで接合され、これによりU相、V相、W相の各ステータコイルが形成される。平角線W同士の接合部はステータコア2の一端面から突出してコイルエンドEを形成する。コイルエンドEにはリング状のモールド3が設けられる。
【0012】
平角線W同士の接合部は次のように配置されることがある。
図19は接合部の第1比較例を示す図である。
図20A、
図20Bは接合部の第2比較例を示す図である。
図21A、
図21Bは第2比較例における溶接時の説明図である。
図20Aでは揃えられた複数の接合部を示し、
図20Bでは単一の接合部を示す。
図21A、
図21Bでは、側面図とともに上面図を示す。実線は互いに接合される平角線Wの一方それぞれを示し、破線は互いに接合される平角線Wの他方それぞれを示す。
【0013】
図19に示す第1比較例では、互いに接合される平角線Wの先端部同士が回転電機の軸方向(
図19における上下方向)に延在する分、つまり接合部の軸方向長さLの分、回転電機の全長が延びる。このため、
図20A、
図20Bに示すように、互いに接合される平角線Wの先端部それぞれを曲げ加工により先端同士で互いに突き合わせて全長抑制を図ることが考えられる。この場合、
図21Aに示すように、溶接時には先端同士で互いに突き合されたままの状態の平角線Wの先端部同士に対し、レーザ照射装置Lによりレーザ光Bを照射して溶接を行い得る。しかしながら、
図21Bに示すように、曲げ加工により先端同士で互いに突き合わされた先端部それぞれは曲げ加工後、フリーな状態になる。このため、先端部それぞれは曲げ加工後にスプリングバックによって互いに離間する方向に移動して位置ずれを起こし得る。結果、曲げ加工後に行われる溶接による接合が不適切、或いは先端同士の間にクリアランスが生じることにより困難になることが懸念される。このような事情に鑑み、本実施形態ではステータコイル1が次のように構成される。
【0014】
図3は第1先端部10及び第2先端部20を係合状態で示す図である。第1先端部10及び第2先端部20は、ステータコイル1を構成する複数の平角線Wのうち互いに接合される平角線Wの一方及び他方の先端部である。第1先端部10及び第2先端部20は、曲げ加工により互いに揃えられた後に溶接により接合される。第1先端部10及び第2先端部20は、曲げ加工により互いに揃えられた状態において先端同士で互いに突き合わされて係合する。第1先端部10及び第2先端部20は先端形状Sを有する。先端形状Sは、先端同士で互いに突き合わされて係合した第1先端部10及び第2先端部20の係合状態を保持する。先端形状Sは第1先端部10に形成される第1先端形状S1、及び第2先端部20に形成される第2先端形状S2を有する。第1先端形状S1は凹形状であり凹部Rを形成する。第2先端形状S2は凸形状であり凸部Pを形成する。先端形状Sは、変形を伴う場合を含め曲げ加工により凸部P及び凹部Rが係合可能な範囲内で設定される。変形は弾性変形及び塑性変形を含む。
【0015】
図4は先端形状Sの説明図である。表側は曲げ加工で力が加えられる側であり、裏側はその反対側である。表側は溶接時にレーザ光Bが照射される側でもある。第1先端部10は表側突出部11と裏側突出部12とを有する。表側突出部11は第1先端部10の表側に形成され、突出長r1を有する。裏側突出部12は第1先端部10の裏側に形成され、突出長r2を有する。突出長r1及び突出長r2は第1先端部10の延伸方向に沿った凹部Rの底からの突出長であり、突出長r2は突出長r1より長く設定される。従って、裏側突出部12は表側突出部11より突出する。表側突出部11は曲げ加工時に凹部R内への凸部Pの進入を可能にする。裏側突出部12は、曲げ加工時に凸部Pを受けるとともにスライドガイドする。裏側突出部12は表側突出部11より突出することで、レーザ光Bのサポートとしても機能する。
【0016】
第2先端部20は表側切欠き部21と裏側切欠き部22とを有する。表側切欠き部21は第2先端部20の表側に形成され、切欠き長p1を有する。裏側切欠き部22は第2先端部20の裏側に形成され、切欠き長p2を有する。切欠き長p1及び切欠き長p2は第2先端部20の延伸方向に沿った凸部Pの先端からの切欠き長であり、切欠き長p2は切欠き長p1より長く設定される。表側切欠き部21の形状は表側突出部11に合わせて調整される。これにより、曲げ加工で表側突出部11が配置される空間が確保される。表側切欠き部21は、凸部P及び凹部Rが係合した状態で表側突出部11との間で僅かな隙間を維持する。裏側切欠き部22は凸部Pを形成する部分に裏側に凸となる部分円筒状の曲面を有する。これにより、曲げ加工時に凸部Pが凹部Rに滑り込み易くなる。裏側切欠き部22は曲げ加工で裏側突出部12が配置される空間を形成する。
【0017】
図5から
図8はステータコイル1の製造工程を示す図である。
図5に示す第1工程では、スプールに巻かれた平角線Wが真っ直ぐにされ、真っ直ぐにされた平角線Wの端部から絶縁被覆が除去されるとともに、平角線Wが所望の長さに切断される。絶縁被覆は切断により新たに形成された平角線Wの端部からも除去される。
図6A、
図6Bに示す第2工程では、シャー剪断により平角線Wの両端部に第1先端形状S1及び第2先端形状S2が加工される。第1先端形状S1が形成された先端部は第1先端部10を構成し、第2先端形状S2が形成された先端部は第2先端部20を構成する。第2工程はプレス成型等の成型行程をさらに含んでもよい。
図7に示す第3工程では、平角線WそれぞれがU字状に曲げられてステータコア2に挿通された上で、第1先端部10及び第2先端部20が曲げ加工の準備位置に来るように曲げられる。準備位置では、第1先端部10及び第2先端部20が先端同士で向き合って表側で凸になるように配置される。また、第1先端部10及び第2先端部20がステータ100の軸方向(
図7における上下方向)に沿って見た場合に、表側で離間するとともに裏側で重なり合うように配置される。準備位置では、第1先端部10及び第2先端部20を裏側で互いに当接させることができる。
【0018】
図8に示す第4工程では次に説明するように曲げ加工が行われる。すなわち、
図8の第1図に示すように、曲げ加工では表側から力が加えられ、これに応じて第1先端部10及び第2先端部20それぞれが裏側に向かって押し込まれる。すると、第1先端部10及び第2先端部20は裏側で当接した状態で徐々に接近し合い、これに応じて凸部Pが凹部Rに次第に滑り込んでいく。結果、第2図に示すように凸部P及び凹部Rが係合する。第3図に示すように、第1先端部10及び第2先端部20は所望の位置を僅かに超えて押し込まれ続け、曲げ加工の力はその後、取り除かれる。このため、第1先端部10及び第2先端部20はスプリングバックにより僅かに戻ろうとする。但しこの際には、第1先端部10及び第2先端部20の係合状態が先端形状Sにより保持される。このため、第4図に示すように第1先端部10及び第2先端部20はさらに離間し続けようとはせず、係合したままとなる。曲げ加工が終了した後には、ステータ100は第1先端部10及び第2先端部20の係合状態が保持されたままの状態で溶接工程に移送され、次に説明するように第1先端部10及び第2先端部20の溶接が行われる。
【0019】
図9は第1先端部10及び第2先端部20の溶接時の説明図である。
図10は比較例の溶接時の説明図である。比較例のステータコイル1Xは、第1先端部10の代わりに第1先端部10Xを有し、第1先端部10Xは裏側突出部12の代わりに裏側突出部12Xを有する。
図9に示すように、溶接時には第1先端部10及び第2先端部20は先端形状Sにより係合状態が保持される。レーザ照射装置Lは、係合状態が保持された状態の第1先端部10及び第2先端部20にレーザ光Bを照射する。レーザ光Bは表側から第1先端部10及び第2先端部20に照射される。これにより、第1先端部10及び第2先端部20では照射されたレーザ光Bの周囲に溶融部Mが生じ、第1先端部10及び第2先端部20が互いに溶接される。
【0020】
比較例の場合、裏側突出部12Xは表側突出部11と同じ突出長を有し、表側突出部11より突出していない。このため、レーザ光Bが表側の隙間に照射されると、レーザ光Bは係合状態の第1先端部10及び第2先端部20を完全に突き抜ける。結果、第1先端部10及び第2先端部20の裏側でスパッタSPが発生するとともに、突き抜けたレーザ光Bが組み立て中のステータ100に当たりダメージを与える事態が発生し得る。
【0021】
本実施形態の場合、裏側突出部12は照射されたレーザ光Bのサポートとして機能する。また、レーザ光Bは適切な溶接を確保するために表側の隙間から第1先端部10側に僅かにオフセットした位置に照射される。レーザ照射装置Lは表側の隙間を例えばカメラにより検知してレーザ光Bをこのような位置に照射することができる。さらに、レーザ照射装置Lのレーザ出力等の溶接パラメータは、レーザ光Bが第1先端部10及び第2先端部20を完全には突き抜けない設定とされる。このため、本実施形態の場合はレーザ光Bが裏側突出部12を突き抜けない。これにより、第1先端部10及び第2先端部20の裏側でスパッタSPが発生することや、突き抜けたレーザ光Bが組み立て中のステータ100の部品に当たることで、ステータ100がダメージを受ける事態が回避される。
【0022】
次に本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0023】
ステータコイル1は、曲げ加工により互いに揃えられた後に溶接される第1先端部10及び第2先端部20を有する。第1先端部10及び第2先端部20は、曲げ加工により互いに揃えられた状態において先端同士で互いに突き合わされて係合するとともに、第1先端部10及び第2先端部20の係合状態を保持する先端形状Sを有する。このような構成によれば、曲げ加工が行われた際に先端形状Sが先端同士を互いに突き合わせた係合状態で第1先端部10及び第2先端部20を保持する。このため、互いに接合される第1先端部10及び第2先端部20を適切に配置できる。また、溶接時には先端形状Sにより第1先端部10及び第2先端部20の係合状態を保持することができる。このため、曲げ加工後に係合状態を保持する複雑なクランプ固定治具等がなくても、互いに接合される第1先端部10及び第2先端部20を溶接時に亘って適切に配置できる。
【0024】
本実施形態では、先端形状Sは互いに係合する凹部R及び凸部Pを形成するとともに、第1先端部10に凹部Rを、第2先端部20に凸部Pをそれぞれ形成する。凹部Rは第1先端部10の表側で突出する表側突出部11と、第1先端部10の裏側で表側突出部11より突出する裏側突出部12とを有する。このような構成によれば、曲げ加工時に裏側突出部12で凸部Pを受けるとともにスライドガイドすることができる。つまり、表側からの曲げ加工により凸部Pを凹部Rに滑り込ませることができる。また、溶接時にはレーザ光Bのサポートとして裏側突出部12を機能させることもできる。このため、レーザ光Bが表側の隙間に照射された場合であっても、レーザ光Bが裏側突出部12を突き抜け難くすることができる。従って、溶接パラメータを極力適切な値に設定しつつ、レーザ光Bの突き抜けによりステータ100がダメージを受ける事態を回避することも可能になる。
【0025】
(第1変形例)
図11は第1変形例にかかるステータコイル1の要部を示す図である。
図12は第1変形例の変形例を示す図である。この例では、先端形状Sがフック部Hをさらに有する。フック部Hは第1先端部10の裏側突出部12及び第2先端部20の裏側切欠き部22に設けられ互いに係合する。フック部Hは第1フック部H1及び第2フック部H2を有する。第1フック部H1は裏側突出部12に設けられフックにより構成される。第2フック部H2は裏側切欠き部22に設けられフック溝により構成される。第1フック部H1は表側に凸とされ、裏側突出部12の先端部に配置される。第2フック部H2は表側に凹とされ、裏側切欠き部22が形成する凸部Pの基端部に配置される。第1変形例によれば、曲げ加工の際に凹部Rの凹形状及び凸部Pの凸形状による係合だけでなく、フック部Hでの係合も行われる。このため、曲げ加工後にスプリングバックによる第1先端部10及び第2先端部20の離間の発生をさらに抑制するのに資する。また、曲げ加工時には多少の変形は許容可能であり、第1変形例では曲げ加工の力により多少の変形を伴いつつ第1先端部10及び第2先端部20を係合することができる。この場合、曲げ加工の力はスプリングバックの力より強いことから、スプリングバックの力では変化を逆戻りさせるかたちで第1先端部10及び第2先端部20の係合状態を解除するのが困難になる。このため、第1変形例は、このような点でも離間の発生をさらに抑制するのに資する。
【0026】
図12に示すように、フック部Hは第1先端部10の表側突出部11及び第2先端部20の表側切欠き部21に設けられてもよい。この場合、第1フック部H1は裏側に凸となるフックにより構成され、表側突出部11の先端部に配置される。また、第2フック部H2は裏側に凹となるフック溝により構成され、表側切欠き部21が形成する凸部Pの基端部に配置される。このように構成した場合も、
図11に示す場合と同様、第1先端部10及び第2先端部20の離間の発生をさらに抑制するのに資する。
【0027】
(第2変形例)
図13は第2変形例にかかるステータコイル1の要部を示す図である。この例では、凹部R及び凸部Pが次のような形状を有することにより、フック部Hが以下で説明するように形成される。すなわち、凹部Rは、裏側突出部12から表側突出部11に向かって反り返るまで延伸して第1フック部H1を形成する円筒内面状の形状を有する。また、凸部Pは、裏側切欠き部22から表側切欠き部21に向かって裏側への巻き込みが生じるまで延伸して第2フック部H2を形成する円筒外面状の形状を有する。第1フック部H1はフックにより構成され、第2フック部H2はフック溝により構成される。フック部Hはこのように形成される第1フック部H1及び第2フック部H2により構成される。フック部Hは、曲げ加工により凸部Pと凹部Rとが係合する際に第1フック部H1が弾性変形する範囲内で設定することができる。
【0028】
図14は第2変形例における曲げ加工の説明図である。
図14における上側の図は曲げ加工前の状態を示し、下側の図は曲げ加工後の状態を示す。曲げ加工では、平角線Wそれぞれが表側から裏側に向かって押し込まれ、これにより第1先端部10及び第2先端部20が接近し合うとともに、凸部Pが凹部Rに滑り込んでいく。そして、凸部Pが凹部Rに嵌まり込むことにより凸部Pと凹部Rとが係合し、この際に第1フック部H1及び第2フック部H2も係合する。このようにしてフック部Hの係合が行われる第2変形例も第1変形例と同様、曲げ加工後にスプリングバックによる第1先端部10及び第2先端部20の離間の発生をさらに抑制するのに資する。
【0029】
(第3変形例)
図15は第3変形例にかかるステータコイル1の要部を示す図である。
図16は第3変形例における曲げ加工の説明図である。
図15に示すように、凸部Pは曲げ加工が行われる前の状態で基端側から先端側に向かう方向で第2先端部20の裏側に曲がる曲げ形状を有する。つまり、当該凸部は予め裏側に曲げられている。その一方で、凹部Rは開口側から底側に向かう方向でストレートな形状とされる。
図16に示すように、凸部Pは曲げ加工の際に塑性変形して真っ直ぐになり、凹部Rに係合する。第3変形例によれば、曲げ加工により塑性変形して凹部Rに係合した凸部Pが凹部Rからの抜け止めの役割を果たす。このため、互いに係合した第1先端部10及び第2先端部20がスプリングバックにより離間しようとしても、第1先端部10及び第2先端部20の係合状態を保持することができる。
【0030】
(第4変形例)
図17は第4変形例にかかるステータコイル1の要部を示す図である。
図18は第4変形例における曲げ加工の説明図である。この例では、凹部Rは開口側から底側に向かう方向で第1先端部10の裏側に曲がる曲げ形状を有する。凸部Pも基端側から先端側に向かう方向で第2先端部20の裏側に曲がる曲げ形状を有する。凹部R及び凸部Pそれぞれは平角線Wの延伸方向両側でストレートな形状を有するとともに、中央で裏側に曲がる曲げ形状を有する。この例では、曲げ加工時に凸部Pが適宜変形を伴いながら凹部Rに挿入されて凸部Pと凹部Rとが係合する。第4変形例によれば、曲げ加工により互いに係合した凸部P及び凹部Rの曲げ形状が凸部Pの抜け止めの役目を果たす。このため、互いに係合した第1先端部10及び第2先端部20がスプリングバックにより離間しようとしても、第1先端部10及び第2先端部20の係合状態を保持することができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0032】
1 ステータコイル(平角線モータコイル)
2 ステータコア
10 第1先端部
11 表側突出部
12 裏側突出部
20 第2先端部
21 表側切欠き部
22 裏側切欠き部
H フック部
H1 第1フック部(フック)
H2 第2フック部(フック溝)
P 凸部
R 凹部
S 先端形状
S1 第1先端形状
S2 第2先端形状
W 平角線