(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162992
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】植物組成物、及び、植物組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20221018BHJP
A23L 11/00 20210101ALI20221018BHJP
A23C 11/10 20210101ALI20221018BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23L11/00 Z
A23C11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065145
(22)【出願日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2021067708
(32)【優先日】2021-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田宮 慎理
(72)【発明者】
【氏名】籠谷 亮
【テーマコード(参考)】
4B001
4B016
4B020
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC25
4B001BC99
4B001EC99
4B016LC07
4B016LE05
4B016LK10
4B016LK11
4B016LK12
4B016LK13
4B016LK18
4B020LB18
4B020LC01
4B020LG01
4B020LG09
4B020LK19
4B020LP30
(57)【要約】
【課題】タンパク質の含有量が多くなっているとともに、粘度の上昇が抑制され、苦味が抑制された植物組成物、及び、植物組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る植物組成物は、タンパク質の含有量が10.0w/w%以上であり、25℃における粘度が7800mPa・s以下であり、穀物及び種実の少なくとも一方を原料とする金属エンドペプチダーゼ処理物である。本発明に係る植物組成物の製造方法は、原料となる穀物溶液及び種実溶液の少なくとも一方の溶液に金属エンドペプチダーゼを作用させる工程と、原料となる穀物溶液及び種実溶液の少なくとも一方の溶液のタンパク質の濃度を高める工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の含有量が10.0w/w%以上であり、
25℃における粘度が7800mPa・s以下であり、
穀物及び種実の少なくとも一方を原料とする金属エンドペプチダーゼ処理物である植物組成物。
【請求項2】
前記金属エンドペプチダーゼ処理物は、大豆を原料とした大豆組成物である請求項1に記載の植物組成物。
【請求項3】
原料となる穀物溶液及び種実溶液の少なくとも一方の溶液に金属エンドペプチダーゼを作用させる工程と、
原料となる穀物溶液及び種実溶液の少なくとも一方の溶液のタンパク質の濃度を高める工程と、を含む植物組成物の製造方法。
【請求項4】
前記溶液は、大豆溶液である請求項3に記載の植物組成物の製造方法。
【請求項5】
前記金属エンドペプチダーゼがPaenibacillus polymyxa由来のペプチターゼである請求項3又は請求項4に記載の植物組成物の製造方法。
【請求項6】
前記金属エンドペプチダーゼの酵素活性を[A]PU/gとし、前記金属エンドペプチダーゼの添加量を[B]ppmとした場合、[A]×[B]が1.0×106以上である請求項3に記載の植物組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物組成物、及び、植物組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりから食生活による健康改善に関心が高まっている。また、種々の理由に基づき菜食を選択する人も増加し続けている。
このような流れを受けて、植物性食品の需要が高まっており、大豆などの穀物やアーモンドなどの種実は、動物性タンパク質の代替素材としても注目されるようになってきている。
【0003】
そして、大豆を原料とする豆乳などについて、様々な加工食品や乳代替品食品の素材とする場合、物性や栄養成分を所望の設計にするために、濃縮したり、粉末タンパク質など他の原料を配合したりすることなどによって、固形分濃度を高める(言い換えると、タンパク質の濃度を高める)といった処理が施される。
したがって、豆乳類などの穀物溶液(穀物を原料とした液体、穀物成分を含有する液体)やアーモンドミルクなどの種実溶液(種実を原料とした液体、種実成分を含有する液体)のタンパク質の濃度を高める濃縮処理などに関して、様々な研究が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、大豆を重合リン酸塩溶液と共に75~85℃の温度で磨砕し、該磨砕液より粕分を除去して豆乳を得、得られた豆乳のPHを7.0~8.0に調整して蛋白分解酵素を作用させたのち濃縮操作を実施することを特徴とする濃縮豆乳の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る発明は、重合リン酸塩溶液を使用して、豆乳を濃縮する方法である。そして、特許文献1に係る発明によると、濃縮された豆乳の粘度を低下させることができ、各食品の素材への加工性に優れる。
【0007】
本発明者は、特許文献1に挙げられているような重合リン酸塩溶液を用いる方法とは、全く別の方法によって、タンパク質の濃度を高めつつも粘度の上昇を抑制できる植物組成物(穀物及び種実の少なくとも一方を原料とする組成物)を生み出す技術について鋭意検討を進めた。
【0008】
そして、本発明者は、酵素を用いる方法によって、植物溶液(穀物溶液及び種実溶液の少なくとも一方の溶液)のタンパク質の濃度を高めつつ、粘度を低下させる方法を検討した。
しかしながら、この検討の過程において、酵素を用いる方法に基づくと、得られる植物組成物の香味が苦味を呈してしまうといった別の問題を見出した。
【0009】
そこで、本発明は、タンパク質の濃度が高くなっているとともに、粘度の上昇が抑制され、苦味が抑制された植物組成物、及び、植物組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)タンパク質の含有量が10.0w/w%以上であり、25℃における粘度が7800mPa・s以下であり、穀物及び種実の少なくとも一方を原料とする金属エンドペプチダーゼ処理物である植物組成物。
(2)前記金属エンドペプチダーゼ処理物は、大豆を原料とした大豆組成物である前記1に記載の植物組成物。
(3)原料となる穀物溶液及び種実溶液の少なくとも一方の溶液に金属エンドペプチダーゼを作用させる工程と、原料となる穀物溶液及び種実溶液の少なくとも一方の溶液のタンパク質の濃度を高める工程と、を含む植物組成物の製造方法。
(4)前記溶液は、大豆溶液である前記3に記載の植物組成物の製造方法。
(5)前記金属エンドペプチダーゼがPaenibacillus polymyxa由来のペプチターゼである前記3又は前記4に記載の植物組成物の製造方法。
(6)前記金属エンドペプチダーゼの酵素活性を[A]PU/gとし、前記金属エンドペプチダーゼの添加量を[B]ppmとした場合、[A]×[B]が1.0×106以上である前記3に記載の植物組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る植物組成物は、タンパク質の濃度が高くなっているとともに、それに伴って生じる粘度の上昇が抑制され、苦味が抑制されている。
本発明に係る植物組成物の製造方法は、タンパク質の濃度が高くなっているとともに、それに伴って生じる粘度の上昇が抑制され、苦味が抑制された植物組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る植物組成物、及び、植物組成物の製造方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0013】
[植物組成物]
本実施形態に係る植物組成物は、タンパク質の含有量が所定値以上であり、25℃における粘度が所定値以下であり、金属エンドペプチダーゼ処理物である。そして、本実施形態に係る植物組成物は、穀物及び種実の少なくとも一方を原料とした組成物であり、穀物の中でも大豆を原料としたものは大豆組成物となる。
ここで、「穀物」とは、食用の種子であり、イネ科作物の種子である禾穀類やマメ科作物の種子である菽穀類であって、例えば、前記の大豆のほか、オーツ、小麦、大麦、米、キヌア、エンドウ、緑豆、落花生、ソラマメ、ヒヨコマメなどが挙げられる。そして、「種実」とは、例えば、クリ、クルミ、カシューナッツ、アーモンド、ピスタチオ、ココナッツ、ヒマワリの種、カボチャの種などが挙げられる。
以下、本実施形態に係る植物組成物を構成する各要素について説明する。
【0014】
(タンパク質)
本実施形態に係る植物組成物は、原料となる植物溶液(穀物溶液、及び、種実溶液の少なくとも一方の溶液)に対して後記するタンパク質濃度上昇処理(濃縮処理、タンパク質添加処理)が施されることによって、タンパク質の含有量が所定値以上となっている。
【0015】
植物組成物のタンパク質の含有量は、10.0w/w%以上が好ましく、10.2w/w%以上、10.4w/w%以上、12.0w/w%以上、12.8w/w%以上がより好ましい。植物組成物のタンパク質の含有量が所定値以上であることによって、原料となる植物溶液が十分に濃縮される結果、製造過程で生じる輸送コストの低減や保管時における容積の縮小といった要求を満たす状態にしたり、所望の高いタンパク質濃度の状態にしたりすることができる。
植物組成物のタンパク質の含有量は、20.0w/w%以下が好ましく、18.0w/w%以下、16.0w/w%以下、15.6w/w%以下、15.3w/w%以下がより好ましい。植物組成物のタンパク質の含有量が所定値以下であることによって、粘度が高くなり過ぎて所望の低粘度にならないといった事態を回避することができる。
【0016】
植物組成物のタンパク質の含有量は、例えば、燃焼法によって測定することができる。また、植物組成物のタンパク質の含有量は、後記するタンパク質濃度上昇処理(濃縮処理、タンパク質添加処理)によって調整することができる。
【0017】
(粘度)
本実施形態に係る植物組成物は、原料となる植物溶液に対して後記するタンパク質濃度上昇処理(濃縮処理、タンパク質添加処理)が施されることによって粘度が上昇するものの、後記する所定の酵素による分解処理によって、25℃における粘度が所定値以下となっている。
【0018】
植物組成物の粘度(25℃)は、7800mPa・s以下が好ましく、7760mPa・s以下、7540mPa・s以下、7000mPa・s以下、6000mPa・s以下、5930mPa・s以下、3640mPa・s以下がより好ましい。植物組成物の粘度が所定値以下であることによって、植物組成物を加工食品や乳代替食品の素材に加工する際の流動性を確保できないといった事態を回避できる、言い換えると、加工性(ハンドリング性)が優れたものとすることができる。
植物組成物の粘度(25℃)の下限は特に限定されないものの、例えば、300mPa・s以上、311mPa・s以上、360mPa・s以上、371mPa・s以上が挙げられる。
【0019】
植物組成物の粘度は、例えば、25℃(常温)とした植物組成物について、市販のB型粘度計(回転数:60rpm)を用いて測定することができる。
また、植物組成物の粘度は、後記する分解処理での金属エンドペプチダーゼの添加量などによって調整することができる。
【0020】
(金属エンドペプチダーゼ処理物)
金属エンドペプチダーゼ処理物とは、金属エンドペプチダーゼによって分解処理を施して得られたものである。
ここで、「金属エンドペプチダーゼ」とは、触媒機構に金属が関与するエンドペプチダーゼ(非末端のペプチド結合を加水分解するタンパク質分解酵素)であり、例えば、パエニバシラス(Paenibacillus)属に属する微生物由来のプロテアーゼであり、具体的には、Paenibacilluspolymyxa由来のプロテアーゼが挙げられる。
そして、酵素として金属エンドペプチダーゼを使用することによって、苦味を抑制させながら(苦味の増強をできるだけ回避しながら)、植物組成物の粘度を低下させることができる。
なお、金属エンドペプチダーゼは、従来公知方法で前記の微生物から回収された後、精製することによって得ることができるが、市販のものを用いてもよい。
【0021】
(植物組成物の適用対象)
本実施形態に係る植物組成物は、様々な加工食品や乳代替食品の素材として使用することができる。そして、本実施形態に係る植物組成物は、大豆を原料とする大豆組成物の場合、豆乳飲料、豆乳ヨーグルト、豆乳プリン、チーズ様食品、豆腐、豆乳スープ、豆乳風味調味料などの食品の素材とすることができる。
【0022】
(リン酸塩)
本実施形態に係る植物組成物は、特許文献1に記載されている重合リン酸塩溶液などのリン酸塩の使用を排斥するものではなく、例えば、粘度の更なる低下が要求される食品素材に適用する場合は、リン酸塩を含有させてもよく、リン酸塩の添加が望まれないような食品素材に適用する場合は、リン酸塩を含有させなければよい。
【0023】
(その他)
本実施形態に係る植物組成物は、例えば、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で食品素材として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料(フレーバー)、酸味料、塩類、食物繊維、タンパク質、食用油脂、澱粉、ゲル化剤、pH調整剤など(以下、適宜「添加剤」という)を含有していてもよいし、当然、含有していなくてもよい。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトースなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸、フィチン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。タンパク質としては、例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク質、トウモロコシタンパク質、エンドウタンパク質、アーモンドタンパク質、ポテトタンパク質などを用いることができる。食用油脂としては、食用の油脂であれば、特に限定されない。澱粉としては、例えば、加工澱粉などを用いることができる。ゲル化剤については、ペクチン、カラギーナンなどを用いることができる。pH調整剤としては、例えば、リン酸塩などを用いることができる。
なお、タンパク質、食用油脂は、味や加工性を調整するなどの目的で使用され、増粘剤、澱粉、ゲル化剤、pH調整剤は、物性を調整するなどの目的で使用される。
【0024】
以上説明したように、本実施形態に係る植物組成物は、タンパク質の濃度が高くなっている(タンパク質の含有量が多くなっている)とともに、それに伴って生じる粘度の上昇が抑制され、苦味が抑制されている。
【0025】
[植物組成物の製造方法]
次に、本実施形態に係る植物組成物の製造方法を説明する。
本実施形態に係る植物組成物の製造方法は、酵素処理工程とタンパク質濃度上昇工程とを含み、酵素処理工程の前に前処理工程を含んでもよい。
【0026】
(前処理工程)
前処理工程では、原料となる植物溶液を準備する。
ここで、「植物溶液」とは、穀物溶液及び種実溶液の少なくとも一方の溶液であって、穀物溶液、種実溶液、及び、穀物溶液と種実溶液との混合溶液でもよい。そして、「穀物溶液」とは、前記した「穀物」由来の液体、言い換えると、穀物の成分を含有する液体であり、穀物溶液の中でも大豆由来の液体(言い換えると、大豆の成分を含有する液体)は、大豆溶液となる。また、「種実溶液」とは、前記した「種実」由来の液体、言い換えると、種実の成分を含有する液体である。
そして、穀物溶液としては、例えば、豆乳類、オーツミルク、ライスミルク、エンドウマメミルクをはじめ、前記した「穀物」を溶液化したものが挙げられる。また、種実溶液としては、例えば、アーモンドミルクをはじめ、前記した「種実」を溶液化したものが挙げられる。
なお、豆乳類については、固形分が除去されていない(又は、一部しか除去されていない)豆乳類も含まれるが、厳密には、豆乳類の日本農林規格(平成24年7月17日農林水産省告示第1679号)に規定されている「豆乳」、「調製豆乳」、又は、「豆乳飲料」が好ましい。
そして、植物溶液として豆乳類(大豆溶液)を用いる場合、この前処理工程では、水につけた大豆をすり潰し、加熱し漉すといった処理を行うこととなる。
なお、「原料となる植物溶液」として市販の溶液(例えば、市販の豆乳類やアーモンドミルクなど)を使用する場合は、この前処理工程を省略してもよい。
【0027】
(前処理工程:原料となる大豆溶液)
前処理工程で準備する植物溶液として大豆溶液を用いる場合、この溶液の組成については特に限定されないものの、例えば、大豆固形分が5.0~15.0w/w%(好ましくは、8.0~12.0w/w%)、タンパク質が2.0~8.0w/w%(好ましくは、4.0~6.0w/w%)、脂質が1.0~6.0w/w%(好ましくは、2.0~5.0w/w%)、炭水化物が0.5~3.0w/w%(好ましくは、0.8~1.5w/w%)、灰分が0.1~1.0w/w%(好ましくは、0.3~0.6w/w%)、残りが水分、といったものを使用すればよい。
また、前処理工程で準備する大豆溶液のBrixについても特に限定されないものの、例えば、5.0~20.0w/w%(好ましくは、8.0~13.0w/w%)であればよい。
【0028】
(酵素処理工程)
酵素処理工程では、原料となる植物溶液に金属エンドペプチダーゼを作用させて、植物溶液のタンパク質などを分解処理した後、加熱によって酵素失活させる。
酵素処理工程で使用する金属エンドペプチダーゼは、前記のとおりである。
【0029】
(酵素処理工程:金属エンドペプチダーゼの酵素活性と添加量との関係)
金属エンドペプチダーゼの酵素活性を[A]PU/gとし、金属エンドペプチダーゼの添加量(原料となる植物溶液の全質量を基準とした添加量)を[B]ppmとした場合、[A]×[B]は、1.0×106以上が好ましく、2.0×106以上、2.5×106以上、3.0×106以上、4.0×106以上、5.0×106以上がより好ましい。[A]×[B]を所定以上とすることによって、植物組成物の粘度をより確実に低くすることができる。
なお、本明細書において、「ppm」という単位は「mg/kg」と同義である。
【0030】
金属エンドペプチダーゼの酵素活性(力価)は、以下のとおりの方法で測定できる。
0.6%カゼイン水溶液5ml(pH7.5、2mM酢酸カリウム含有50mMトリス塩酸緩衝液)に酵素溶液1mlを添加し、30℃で10分間反応後、トリクロロ酢酸試薬5ml(pH4.0、8%無水酢酸ナトリウム、1.8%トリクロロ酢酸、1.98%酢酸)を加えて反応を停止し、更に30℃で30分静置し、濾過後、275nmの吸光度を測定する。この条件下で1分間に1μgのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量を1PU(Protease Unit)と定義する。
【0031】
なお、金属エンドペプチダーゼの添加量(原料となる植物溶液の全質量を基準とした添加量)は特に限定されないものの、例えば、50ppm以上、100ppm以上、500ppm以上、800ppm以上、1000ppm以上であり、5000ppm以下、4000ppm以下、3000ppm以下である。
また、金属エンドペプチダーゼの酵素活性も特に限定されないものの、例えば、1000PU/g以上、2000PU/g以上、3000PU/g以上、4000PU/g以上、5000PU/g以上であり、10000PU/g以下、8000PU/g以下、6000PU/g以下である。
【0032】
(酵素処理工程:諸条件)
酵素処理工程における酵素処理は、酵素分解が十分に実施されるような公知の条件を適用すればよいが、例えば、対象である植物溶液の温度を30~70℃(好ましくは、40~60℃)とし、処理時間を30分以上(好ましくは、50~70分)とすればよい。
酵素処理工程における酵素失活処理も、酵素を失活できるような公知の条件を適用すればよいが、例えば、酵素処理後の植物溶液の温度を80~95℃(好ましくは、85~92℃)とし、処理時間を5分以上(好ましくは、8~12分)とすればよい。
【0033】
(タンパク質濃度上昇工程)
タンパク質濃度上昇工程では、植物溶液中の水分を取り除くことでタンパク質濃度を高くする濃縮処理、及び、タンパク質を添加することでタンパク質濃度を高くするタンパク質添加処理の少なくとも一方の処理を行う。
なお、タンパク質濃度上昇工程における濃縮処理は、公知の処理であればよく、蒸発濃縮、膜濃縮、凍結濃縮、遠心分離などが挙げられる。また、タンパク質濃度上昇工程におけるタンパク質添加処理は、前記したような公知のタンパク質を添加すればよい。
【0034】
(タンパク質濃度上昇工程:タンパク質の含有量と濃縮倍率)
タンパク質濃度上昇工程では、植物溶液(植物組成物)のタンパク質が前記のとおり、10.0w/w%、10.2w/w%以上、10.4w/w%以上、12.0w/w%以上、12.8w/w%以上、また、20.0w/w%以下、18.0w/w%以下、16.0w/w%以下、15.6w/w%以下、15.3w/w%以下となるように実施すればよい。
タンパク質濃度上昇工程における濃縮倍率は、植物溶液のタンパク質の含有量が前記範囲となるように設定すればよく、例えば、1.5倍以上、2.0倍以上、2.3倍以上、2.5倍以上であり、4.0倍以下、3.5倍以下、3.0倍以下である。
【0035】
前処理工程、酵素処理工程、及び、タンパク質濃度上昇工程において行われる各処理は、食品素材などを製造するために一般的に用いられている設備によって行うことができる。
また、本実施形態に係る植物組成物の製造方法は、以上説明したとおりであるが、明示していない条件については、一般的に食品分野で実施されている公知の条件を適用すればよく、前記した処理内容によって得られる効果を奏する限りにおいて、その条件を適宜変更できることは言うまでもない。
【0036】
ここまで、本実施形態に係る植物組成物の製造方法について、酵素処理工程とタンパク質濃度上昇工程とは、酵素処理工程の後にタンパク質濃度上昇工程を行う順番で説明したが、タンパク質濃度上昇工程の後に酵素処理工程を行う順番でもよい。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る植物組成物の製造方法によると、タンパク質の濃度が高くなっているとともに、それに伴って生じる粘度の上昇が抑制され、苦味が抑制された植物組成物を製造することができる。
【実施例0038】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0039】
[サンプルの準備]
(サンプルの準備:豆乳)
表1~3に示すサンプルの製造に使用した豆乳(原料となる大豆溶液)は、Brix:11.4w/w%、水分:89.9w/w%、大豆固形分:10.1w/w%、タンパク質:5.1w/w%、脂質:3.9w/w%、炭水化物:1.0w/w%、灰分:0.4w/w%、リン酸塩:含有せず、というものであった。
表4~6に示すサンプルの製造に使用した豆乳(原料となる大豆溶液)は、Brix:12.2w/w%、水分:89.9w/w%、大豆固形分:10.1w/w%、タンパク質:5.2w/w%、脂質:3.9w/w%、炭水化物:0.9w/w%、灰分:0.4w/w%、リン酸塩:含有せず、というものであった。
(サンプルの準備:エンドウタンパク溶液)
表7に示すサンプルの製造に使用したエンドウタンパク溶液(原料となるエンドウ溶液)は、85gのエンドウタンパク質(RADIPURES8001B(カーギル社;タンパク質含有量77.5%))と、415gの水を混合し、ホモミクサー(プラミクス社; MARK2 Model2.5)を用いて撹拌混合し、オートクレーブで90℃10分間加熱して溶解させたもの(タンパク質終濃度13.2%、総量500g)であった。
【0040】
(サンプルの準備:プロテアーゼ)
表1~7に示すサンプルの製造に使用したプロテアーゼは、詳細には、「ADMIL」(合同酒精株式会社製、由来:Paenibacillus polymyxa、タイプ:金属エンドペプチダーゼ、酵素活性:5000PU/g)、「パパインW-40」(天野エンザイム株式会社製、由来:パパイヤ、タイプ:システインプロテアーゼ、酵素活性:500PU/g)、「プロテアーゼアマノM」(天野エンザイム株式会社製、由来:Aspergillus oryzae、タイプ:混在、酵素活性:100000PU/g)、「ビオプラーゼSP-20FG」(ナガセケムテックス株式会社製、由来:Bacillus sp、タイプ:セリンプロテアーゼ、酵素活性:40000PU/g)、「フロマーゼ750XLG」(DSM株式会社製、由来:Rhizomucor miehei、タイプ:レンネット、酵素活性:750IMCU/g)、であった。
なお、各プロテアーゼの酵素活性の値は、各製品に付された値であって、各社が規定する条件に基づいて測定した値である。そして、各プロテアーゼのうちのフロマーゼ750XLGの酵素活性の値も、製品に付された値であって、1g当たりの国際凝乳ユニットとして計算された値(特表2017-512059号参考)である。
【0041】
(サンプルの準備:手順)
前記した豆乳、及び、エンドウタンパク溶液(適宜、両者を「原料溶液」とする)を、卓上型コンパクトクッカー(株式会社エヌワイビー社製Cuoco)のクリーミングパドルで攪拌(120rpm)しながら50℃となるように加温した。
そして、50℃とした原料溶液(pH7.4)に対して、表に記載のプロテアーゼを添加して1時間、酵素分解処理を実施した。
1時間の酵素分解処理の後、90℃で10分間加熱し、酵素を失活させた。
なお、表中においてプロテアーゼ無添加(又は「-」)と示したサンプルは、これらの処理(酵素分解処理、酵素失活処理)を実施していない。
【0042】
その後、原料溶液(豆乳)をフラスコに移し、減圧濃縮装置であるエバポレーター(東京理化器機株式会社、DPE-1250)にセットして、ウォーターバスの水温40℃で濃縮処理を施してサンプル(大豆組成物)を製造した。
なお、表7に示すサンプルの原料溶液(エンドウタンパク溶液)は、前記の濃縮処理を施すことなく、サンプル(エンドウ組成物)を製造した。
【0043】
[算出方法:濃縮倍率、タンパク質の含有量]
表に示す濃縮倍率については、濃縮処理の前後のBrixの測定値に基づいて算出(濃縮倍率=濃縮処理後のBrix/濃縮処理前のBrix)した。また、表に示すタンパク質の含有量については、豆乳(原料となる大豆溶液)のタンパク質の含有量に濃縮倍率を乗じることによって算出した。
なお、Brixの測定は、デジタル屈折計(株式会社アタゴ社製、RX-5000i)によって測定した。
【0044】
[測定方法:粘度]
各サンプルの粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製、TVB-10)で測定した。
そして、粘度の測定条件は、25℃(常温)で60rpmというものであり、粘度の測定限界は10万mPa・sであった。
【0045】
[試験内容]
各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネル5名(A~E)が下記評価基準に則って「苦味」について、1~5点の5段階評価で各々のパネルが点数付けし、その平均値を算出した。
また、全ての評価は、サンプルを口に含んで評価した。
【0046】
(官能評価:苦味の評価基準)
苦味の官能評価は、「苦味を全く感じない」場合を5点、「苦味をわずかに感じる」場合を4点、「苦味を感じる」場合を3点、「苦味を強く感じる」場合を2点、「苦味を非常に強く感じる」場合を1点と評価した。そして、苦味の評価は、点数が高いほど、苦味が抑制されており、好ましいと判断できる。
【0047】
表に、各サンプルの製造条件や指標を示すとともに、各評価の結果を示す。なお、表に示す各成分の数値は、最終製品における含有量である。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
(結果の検討)
表1のサンプル1-1~1-2の結果を比較すると、金属エンドペプチダーゼであるADMILを用いたサンプル1-2の粘度は、プロテアーゼを使用しなかったサンプル1-1の粘度から大幅に低下できることが確認できた。また、官能評価についても、サンプル1-2の苦味の評価は、サンプル1-1と大きな差は生じず、苦味を抑制(苦味が大幅に増強してしまうことを回避)できていることが確認できた。
【0056】
表1のサンプル1-2~1-6の結果を比較すると、金属エンドペプチダーゼであるADMILを用いたサンプル1-2の粘度が最も低くなるという結果が得られた。また、サンプル1-2~1-6の中でも、サンプル1-2のみ、粘度の低下と苦味の抑制とを両立できることが確認できた。
なお、サンプル1-3~1-5の製造に使用したプロテアーゼは、前記したとおりのタイプのプロテアーゼであって、金属エンドペプチダーゼには該当しない。
【0057】
表1~3のサンプル1-2、2-2、3-2の結果によると、金属エンドペプチダーゼであるADMILを用いた場合、タンパク質の含有量(表では「濃度」と記載)が多くなろうとも、言い換えると、濃縮倍率が高くなろうとも、加工性が担保できるレベルの粘度になっている(サンプル1-1、2-1、3-1のそれぞれの粘度よりも低い粘度となる)ことが確認できた。また、これらのサンプル1-2、2-2、3-2は全て、苦味を抑制できていることも確認できた。
一方、表1~3のサンプル1-3~1-6、2-3~2-6、3-3~3-6は、プロテアーゼを使用したものの、粘度の低下と苦味の抑制とを両立できないことが確認できた。
【0058】
表4~6の結果によると、[A]×[B]の数値が所定値以上であれば、タンパク質の含有量が多くなろうとも、言い換えると、濃縮倍率が高くなろうとも、加工性が担保できるレベルの粘度となることが確認できた。
なお、表4~6のサンプル4-2~4-5、5-2~5-5、6-2~6-5は全て、金属エンドペプチダーゼであるADMILを用いていたことから、苦味を抑制できていることも確認できた。
【0059】
表7の結果によると、エンドウタンパク溶液を用いた場合であっても、金属エンドペプチダーゼであるADMILを作用させることによって、粘度の低下と苦味の抑制とを両立できることが確認できた。
よって、表7の結果から、本発明は、大豆溶液を用いる場合だけではなく、穀物溶液や種実溶液を用いる場合に広く適用できるものと推察される。