(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163046
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】修飾されたアルデヒド:フェレドキシンオキシドレダクターゼ活性を有する微生物および関連方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20221018BHJP
C12P 7/02 20060101ALI20221018BHJP
C12P 7/04 20060101ALI20221018BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20221018BHJP
C12N 9/04 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
C12N1/21
C12P7/02
C12P7/04
C12N9/02
C12N9/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022115092
(22)【出願日】2022-07-19
(62)【分割の表示】P 2019512182の分割
【原出願日】2017-05-12
(31)【優先権主張番号】62/336,639
(32)【優先日】2016-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518403425
【氏名又は名称】ランザテク,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ファンミン
(72)【発明者】
【氏名】ケプケ,マイケル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】燃料および化学物質の生成のための代替微生物および方法を提供する。
【解決手段】アルデヒド:フェレドキシンオキシドレダクターゼ(AOR)のような、EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する酵素の活性が低下または排除された非天然細菌を提供する。任意に、細菌はまた、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、または二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼなどのEC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によって定義される反応を触媒する酵素の活性が低下または排除されている。本発明は、細菌をCO、CO
2、およびH
2のうちの1つ以上を含有するガス状基質の存在下で培養することによって、生成物を生成するための方法をさらに提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親細菌と比較して、EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する酵素の活性
が低下または排除されている、非天然細菌。
【請求項2】
前記非天然細菌が、EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する前記酵素を
コードする遺伝子において、少なくとも1つの破壊的変異を含む、請求項1に記載の非天
然細菌。
【請求項3】
EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する前記酵素が、アルデヒド:フェ
レドキシンオキシドレダクターゼである、請求項1に記載の非天然細菌。
【請求項4】
前記非天然細菌はさらに、親細菌と比較して、EC1.2.1.10および/またはE
C1.1.1.1によって定義される反応を触媒する少なくとも1つの酵素の活性が低下
または排除されている、請求項1に記載の非天然細菌。
【請求項5】
前記非天然細菌が、EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によって
定義される反応を触媒する前記酵素をコードする遺伝子において、少なくとも1つの破壊
的変異を含む、請求項4に記載の非天然細菌。
【請求項6】
EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によって定義される反応を触
媒する前記酵素が、二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒ
ドロゲナーゼ、およびアルコールデヒドロゲナーゼからなる群から選択される、請求項4
に記載の非天然細菌。
【請求項7】
前記非天然細菌が、アセチル-CoA、アセトアセチル-CoA、アセトアセテート、
アセトン、イソプロパノール、3-ヒドロキシイソバレリル-CoA、3-ヒドロキシイ
ソバレレート、イソブチレン、イソプレン、3-ヒドロキシブチリル-CoA、3-ヒド
ロキシブチレート、3-ヒドロキシブチリルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、2-
ヒドロキシイソブチリル-CoA、2-ヒドロキシイソブチレート、ピルベート、アセト
ラクテート、アセトイン、2,3-ブタンジオール、およびラクテートからなる群から選
択される生成物を生成する、請求項1に記載の非天然細菌。
【請求項8】
前記非天然細菌が、CO、CO2、およびH2のうちの1つ以上を含むガス状基質を消
費する、請求項1に記載の非天然細菌。
【請求項9】
前記親細菌が、Alkalibaculum bacchi、Blautia生成物、
Butyribacterium methylotrophicum、Chlorof
lexus aurantiacus、Clostridium aceticum、C
lostridium acetobutylicum、Clostridium au
toethanogenum、Clostridium botulinum、Clos
tridium carboxidivorans、Clostridium cosk
atii、Clostridium drakei、Clostridium form
icoaceticum、Clostridium ljungdahlii、Clos
tridium ragsdalei、Desulfovibrio vulgaris
、Eubacterium limosum、Geobacter sulfurred
ucens、Methylomicrobium alcaliphilum、Moor
ella thermoautrophica、Moorella thermoace
tica、Rhodospirillum rubrum、Sporomusa ova
ta、Sporomusa silvacetica、Sporomusa sphae
roides、Thermanaerovibrio acidaminovorans
、Thermanaerovibrio acidaminovorans、Therm
oanaerobacter wiegelii、Thermodesulfovibr
io yellowstonii、Thermodesulfovibrio yell
owstonii、およびThermus thermophilusからなる群から選
択される、請求項1に記載の非天然細菌。
【請求項10】
CO、CO2、およびH2のうちの1つ以上を含むガス状基質の存在下で請求項1に記
載の非天然細菌を培養することによって、生成物を生成する方法。
【請求項11】
前記非天然細菌が、EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する前記酵素を
コードする遺伝子において、少なくとも1つの破壊的変異を含む、請求項10に記載の方
法。
【請求項12】
EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する前記酵素が、アルデヒド:フェ
レドキシンオキシドレダクターゼである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記非天然細菌はさらに、前記親細菌と比較して、EC1.2.1.10および/また
はEC1.1.1.1によって定義される反応を触媒する少なくとも1つの酵素の活性が
低下または排除されている、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記非天然細菌が、EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によって
定義される反応を触媒する前記酵素をコードする遺伝子において、少なくとも1つの破壊
的変異を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によって定義される反応を触
媒する前記酵素が、二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒ
ドロゲナーゼ、およびアルコールデヒドロゲナーゼからなる群から選択される、請求項1
3に記載の方法。
【請求項16】
前記生成物が、アセチル-CoA、アセトアセチル-CoA、アセトアセテート、アセ
トン、イソプロパノール、3-ヒドロキシイソバレリル-CoA、3-ヒドロキシイソバ
レレート、イソブチレン、イソプレン、3-ヒドロキシブチリル-CoA、3-ヒドロキ
シブチレート、3-ヒドロキシブチリルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、2-ヒド
ロキシイソブチリル-CoA、2-ヒドロキシイソブチレート、ピルベート、アセトラク
テート、アセトイン、2,3-ブタンジオール、およびラクテートからなる群から選択さ
れるアセチル-CoA誘導生成物である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記親細菌が、Alkalibaculum bacchi、Blautia生成物、
Butyribacterium methylotrophicum、Chlorof
lexus aurantiacus、Clostridium aceticum、C
lostridium acetobutylicum、Clostridium au
toethanogenum、Clostridium botulinum、Clos
tridium carboxidivorans、Clostridium cosk
atii、Clostridium drakei、Clostridium form
icoaceticum、Clostridium ljungdahlii、Clos
tridium ragsdalei、Desulfovibrio vulgaris
、Eubacterium limosum、Geobacter sulfurred
ucens、Methylomicrobium alcaliphilum、Moor
ella thermoautrophica、Moorella thermoace
tica、Rhodospirillum rubrum、Sporomusa ova
ta、Sporomusa silvacetica、Sporomusa sphae
roides、Thermanaerovibrio acidaminovorans
、Thermanaerovibrio acidaminovorans、Therm
oanaerobacter wiegelii、Thermodesulfovibr
io yellowstonii、Thermodesulfovibrio yell
owstonii、およびThermus thermophilusからなる群から選
択される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年5月14日に出願された米国仮特許出願第62/336,639
号の利益を主張し、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
エネルギーおよび化学物質のために化石燃料の抽出および利用を継続することによって
引き起こされる有害な環境への影響は、それらの固有の有限性と相まって、持続可能な代
替手段の開発に対する原動力である。この点に関して、ガス発酵が、産業廃ガスを燃料お
よび化学物質に生物学的に変換するための有望な技術として浮上している。しかしながら
、主としてガス発酵細菌について現在開発されている遺伝的ツールおよび酵素経路の欠如
により、限られた一式の生成物のみが、ガス発酵を介して現在までに生成されている。し
たがって、燃料および化学物質の生成のための代替微生物および方法が依然として必要と
されている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、親細菌と比較して、EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する
酵素の活性が低下または排除された非天然細菌を提供する。一般に、非天然細菌は、EC
1.2.7.5によって定義される反応を触媒する酵素をコードする遺伝子において、少
なくとも1つの破壊的変異を含む。好ましい実施形態では、EC1.2.7.5によって
定義される反応を触媒する酵素は、アルデヒド:フェレドキシンオキシドレダクターゼ(
AOR)である。
【0004】
時には、非天然細菌は、親細菌と比較して、EC1.2.1.10および/またはEC
1.1.1.1によって定義される反応を触媒する少なくとも1つの酵素の活性が低下ま
たは排除されていて、例えば、EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1
によって定義される反応を触媒する酵素をコードする遺伝子において、少なくとも1つの
破壊的変異をさらに有する。EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1に
よって定義される反応を触媒する酵素は、二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナ
ーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、およびアルコールデヒドロゲナーゼからなる群から
好ましくは選択される。
【0005】
これらの遺伝子修飾は、非天然細菌を、アセチル-CoA、アセトアセチル-CoA、
アセトアセテート、アセトン、イソプロパノール、3-ヒドロキシイソバレリル-CoA
、3-ヒドロキシイソバレレート、イソブチレン、イソプレン、3-ヒドロキシブチリル
-CoA、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチリルアルデヒド、1,3-ブ
タンジオール、2-ヒドロキシイソブチリル-CoA、2-ヒドロキシイソブチレート、
ピルベート、アセトラクテート、アセトイン、2,3-ブタンジオール、およびラクテー
トなどの生成物の生成に好適にする。
【0006】
特定の実施形態では、非天然細菌は、CO、CO2、およびH2のうちの1つ以上を含
むガス状基質を消費する細菌などの、C1固定細菌である。
【0007】
非天然細菌は、典型的には、EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する酵
素を含む親細菌、例えば、Alkalibaculum bacchi、Blautia
生成物、Butyribacterium methylotrophicum、Chl
oroflexus aurantiacus、Clostridium acetic
um、Clostridium acetobutylicum、Clostridiu
m autoethanogenum、Clostridium botulinum、
Clostridium carboxidivorans、Clostridium
coskatii、Clostridium drakei、Clostridium
formicoaceticum、Clostridium ljungdahlii、
Clostridium ragsdalei、Desulfovibrio vulg
aris、Eubacterium limosum、Geobacter sulfu
rreducens、Methylomicrobium alcaliphilum、
Moorella thermoautrophica、Moorella therm
oacetica、Rhodospirillum rubrum、Sporomusa
ovata、Sporomusa silvacetica、Sporomusa s
phaeroides、Thermanaerovibrio acidaminovo
rans、Thermanaerovibrio acidaminovorans、T
hermoanaerobacter wiegelii、Thermodesulfo
vibrio yellowstonii、Thermodesulfovibrio
yellowstonii、またはThermus thermophilusから誘導
される。
【0008】
本発明はさらに、このような非天然細菌を培養することによって生成物を生成する方法
を提供する。この培養は、CO、CO2、およびH2のうちの1つ以上を含むガス状基質
の存在下で行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】C.autoethanogenumにおけるアセトゲン系エタノール生合成経路の図である。左端では、ホスホトランスアセチラーゼ(Pta)、アセテートキナーゼ(Ack)、およびアルデヒド:フェレドキシンオキシドレダクターゼ(AOR)を用いたATP効率のよい間接エタノール経路が示されている。中間では、二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼ(AdhE)またはCoA依存性アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(Ald)、およびアルコールデヒドロゲナーゼ(Adh)を利用する直接エタノール生合成経路が示されている。AlsS=アセトラクテートシンターゼ、2,3-BDH=2,3-ブタンジオールデヒドロゲナーゼ、BudA=アセトラクテートデカルボキシラーゼ、CODH=一酸化炭素デヒドロゲナーゼ、CoFeSP=コリノイド鉄硫黄タンパク質、Fd
ox=酸化フェレドキシン、Fd
red=還元フェレドキシン、HytABCDE=NADP依存性電子分岐型ヒドロゲナーゼ、Nfn=トランスヒドロゲナーゼ、Pfor=ピルビン酸:フェレドキシンオキシドレダクターゼ、Rnf=H
+-転位フェレドキシン:NAD
+-オキシドレダクターゼ。
【
図2】aor1およびaor2 KO株のスクリーニングおよび検証を示す一連のゲル画像である。(A)エクソンスパニングプライマーを用いたPCRのゲル電気泳動、レーン3および4=aor1 KO株、レーン7~16=aor2 KO株、レーン1および6=非テンプレート対照、レーン5および17=WT対照、M=kbにおけるNEB 2-log DNAラダー、(B)aor1 KO株(レーン18~20)およびaor2 KO株(レーン21~23)のHindIII消化ゲノムDNAのサザンブロット分析、L=bpにおけるPromega Lambda DNA/HindIIIマーカー。
【
図3】adhE1a、adhE1b、およびadhE2 KO株のスクリーニングおよび検証を示す一連のゲル画像である。(A)エクソンスパニングプライマーを用いたPCRのゲル電気泳動、レーン2~4=adhE1a KO株、レーン7~9=adhE1b KO株、レーン12~14=adhE2 KO株、レーン1、6、および11=非テンプレート対照、レーン5、10、および15=WT対照、M=NEB 2-log DNAラダー、(B)adhE1a KO株(レーン16~18)、adhE1b KO株(レーン19および20)、ならびにadhE2 KO株(レーン21~23)のHindIII消化ゲノムDNAのサザンブロット分析。L=Promega Lambda DNA/HindIIIマーカー。
【
図4】pyrEが回復したaorダブルKO株の検証を示す一連のゲル画像である。(A)Δaor2およびaor1 KO株のPCRスクリーニング、(B)回復したpyrE対立遺伝子のためのウラシル独立栄養性aorダブルKO株のPCRスクリーニング、(C)aor1 KO株のサザンブロット分析。M=NEB 2-log DNAラダー、1~6=aor2-seq-Fおよびaor2-seq-Rプライマー対、7~12=aor1-559s-Fおよびaor1-559s-Rプライマー対、13~18=ACE-pyrE-FおよびACE-pyrE-Rプライマー対、1、7、および13=非テンプレート対照、6、12、18、および23=C.autoethanogenum WTゲノムDNA対照、2~5、8~11、14~17=復元されたpyrEを有するaorダブルKO株のクローン、19~22=aor1 KO株のHindIII消化ゲノムDNA。
【
図5】C.autoethanogenum ΔadhE1mut、ΔadhE1、およびΔadhE1+2株のスクリーニングを示す一連のゲル画像である。(A)ΔadhE1mut株のPCRスクリーニング、(B)ΔadhE1株のPCRスクリーニング、(C)ΔadhE1+2株のPCRスクリーニング。レーン5、8、9、10、15、および16=ΔadhE1mut株、レーン28、29、32、33、および38=ΔadhE1株、レーン47~55=ΔadhE1+2株、レーン1、19、および45=非テンプレート対照、レーン18、44、および56=WTゲノムDNA対照、M=kbのNEB 2-log DNAラダー。
【
図6】COのC.autoethanogenum WT(円形)、aor1 KO(三角形)、aor2 KO(四角形)、およびaor1+2 KO株(ひし形)の増殖、ヘッドスペース圧力変化、および代謝産物プロファイルを示す一連のグラフである。(A)増殖プロファイル、(B)培養の最初から最後までのヘッドスペース圧の変化、(C)アセテートプロファイル、(D)エタノールプロファイル、(E)2,3-ブタンジオールプロファイル、および(F)ラクテートプロファイル、各株についてn=4、aor2 KOを除いてはn=3、エラーバー=標本平均の標準誤差。
【
図7】補完されたaor1株の検証を示す一連のゲル画像である。(A)エクソンスパニングaor1プライマーを使用するaor1補完aor1株からのゲノムDNAのPCR(レーン2~4)、M=NEB 2-Log DNAラダー、1=非テンプレート対照、5=WTゲノムDNA対照、6=aor1 KO対照、(B)補完株からのレスキューされたプラスミドpMTL83151-PacsA-aor1のAscIおよびPmeI制限消化物(レーン7~12)。
【
図8】200kPa COのC.autoethanogenum WT、aor1 KO、および補完されたaor1株の増殖、ヘッドスペース圧力、および代謝産物プロファイルを示す一連のグラフである。(A)増殖プロファイル、(B)ヘッドスペース圧の変化、(C)アセテートプロファイル、(D)エタノールプロファイル、(E)2,3-ブタンジオールプロファイル、および(F)ラクテートプロファイル。円形=WT(n=4)、三角形=aor1株(n=4)、正方形=補完aor1株(n=3)、エラーバー=標本平均の標準誤差。
【
図9】フルクトースに対するC.autoethanogenum WT、aor1 KO、aor2 KO、およびaor1+2KO株の増殖および代謝産物プロファイルを示す一連のグラフである。(A)増殖プロファイル、(B)アセテートプロファイル、(C)エタノールプロファイル、および(D)2,3-ブタンジオールプロファイル。円形=WT(n=4)、三角形=aor1株(n=3)、正方形=aor2株(n=3)、ひし形=aor1+2 KO株(n=4)、エラーバー=標本平均の標準誤差。
【
図10】H
2+CO
2上のC.autoethanogenum WT、およびaor1+2 KO株の増殖、ヘッドスペース圧力、および代謝産物プロファイルを示す一連のグラフである。(A)増殖プロファイル、(B)ヘッドスペース圧の変化、(C)アセテートプロファイル、(D)エタノールプロファイル、円形=WT(n=4)、正方形=aor1+2 KO株(n=4)、エラーバー=標本平均の標準誤差。
【
図11】60mMアセテートおよび200kPaのCOの存在下で、C.autoethanogenum WT、およびaor1+2 KO株tの増殖、ヘッドスペース圧力、および代謝産物プロファイルを示す一連のグラフである。(A)増殖プロファイル、(B)ヘッドスペース圧の変化、(C)アセテートプロファイル、(D)エタノールプロファイル、(E)2,3-ブタンジオールプロファイル、および(F)ラクテートプロファイル。円形=WT、正方形=aor1+2KO株、n=3、エラーバー=標本平均の標準誤差。
【
図12】40mMプロピネートおよび200kPaのCOの存在下で、C.autoethanogenum WT、およびaor1+2 KO株の増殖、ヘッドスペース圧力、および代謝産物プロファイルを示す一連のグラフである。(A)増殖プロファイル、(B)ヘッドスペース圧の変化、(C)アセテートプロファイル、(D)エタノールプロファイル、(E)2,3-ブタンジオールプロファイル、(F)ラクテートプロファイル、(G)プロピネートプロファイル、および(H)1-プロパノールプロファイル。円形=WT、正方形=aor1+2KO株、n=3、エラーバー=標本平均の標準誤差。
【
図13】40mMブチレートおよび200kPaのCOの存在下で、C.autoethanogenum WT、およびaor1+2 KO株の増殖、ヘッドスペース圧力、および代謝産物プロファイルを示す一連のグラフである。(A)増殖プロファイル、(B)ヘッドスペース圧の変化、(C)アセテートプロファイル、(D)エタノールプロファイル、(E)2,3-ブタンジオールプロファイル、(F)ラクテートプロファイル、(G)プロピネートプロファイル、および(H)1-プロパノールプロファイル。円形=WT、正方形=aor1+2KO株、n=3、エラーバー=標本平均の標準誤差。
【
図14】フルクトースに対するC.autoethanogenum WTおよびadhE KO株の増殖および代謝産物プロファイルを示す一連のグラフである。(A)増殖プロファイル、(B)アセテートプロファイル、(C)エタノールプロファイル、および(D)2,3-ブタンジオールプロファイル。円形=WT(n=4)、三角形=adhE1a KO株(n=3)、逆三角形=adhE1b KO株(n=3)、正方形=adhE2 KO株(n=3)、エラーバー=標本平均の標準誤差。
【
図15】フルクトースに対するC.autoethanogenum ΔpyrEおよびΔadhE1mut株の増殖、代謝産物、adhE2転写物プロファイルを示す一連のグラフである。(A)増殖プロファイル、(B)アセテートプロファイル、(C)エタノールプロファイル、および(D)相対adhE2 mRNAプロファイル。円形=ΔpyrE(n=3)、正方形=ΔadhE1mut(n=3)。エラーバー=標本平均の標準誤差。
【
図16】COに対するC.autoethanogenum WTおよびadhE KO株の増殖および代謝産物プロファイルを示す一連のグラフである。(A)増殖プロファイル、(B)アセテートプロファイル、(C)エタノールプロファイル、および(D)2,3-ブタンジオールプロファイル。円形=WT(n=4)、三角形=adhE1a KO株(n=3)、逆三角形=adhE1b KO株(n=2)、正方形=adhE2 KO株(n=3)、エラーバー=標本平均の標準誤差。
【
図17】200kPaのCOに対するC.autoethanogenum ΔpyrEおよびΔadhE1mut株の増殖および代謝産物プロファイルを示す一連のグラフである。(A)増殖プロファイル、(B)アセテートプロファイル、(C)エタノールプロファイル、および(D)2,3-ブタンジオールプロファイル。円形=ΔpyrE(n=3)、正方形=ΔadhE1mut(n=3)。エラーバー=標本平均の標準誤差。
【発明を実施するための形態】
【0010】
多くの微生物は、酸のアルデヒドへの酵素変換に依拠して、中心的な代謝機能を支えて
いる。アルデヒド:フェレドキシンオキシドレダクターゼ(AOR)(EC1.2.7.
5)は、いくつかの古細菌および細菌で、この機能を果たし、酢酸(アセテート)などの
酸と還元フェレドキシンとの反応を触媒して、アセトアルデヒドなどのアルデヒドおよび
酸化フェレドキシンを形成する。
【0011】
AORは、エタノールを生成するウッド・ユングダール微生物において特に重要である
。還元的アセチル-CoA経路としても知られているウッド・ユングダール経路は、アセ
チル-CoAへの唯一の直線的CO
2固定経路であり(Drake,Ann NY Ac
ad Sci,1125:100-128,2008)、最も効率的な非光合成炭素固定
機構であると考えられている(Fast,Curr Opin Chem Eng,1:
380-395,2012)。簡単に述べると、ウッド・ユングダール経路は、メチル分
岐(東)およびカルボニル分岐(西)の2つの分岐からなる(
図1)。メチル分岐では、
CO
2が還元されてホルマートになる。次に、ホルマートはテトラヒドロフォレート(T
HF)との縮合により活性化され、1分子のATPを消費してホルミル-THFを形成す
る。いくつかの反応にわたって、ホルミル-THFはメチル-THFに還元される。メチ
ル分岐の最終段階において、メチル基は、コリノイド鉄-硫黄含有タンパク質(CoFe
SP)に転移され、次いで、カルボニル分岐からのCO分子に結合されて、二官能性一酸
化炭素デヒドロゲナーゼ/アセチル-CoAシンターゼ(CODH/ACS)複合体を形
成する。COで独立栄養的に増殖される場合、メチル分岐に必要なCO
2は、CODH触
媒水性ガスシフト反応により生成される。同様に、CO
2で独立栄養的に増殖される間、
COが、カルボニル分岐においてCODHによってCO
2から形成される。
【0012】
特に、アセトゲン系エタノール生成菌のエタノール生合成経路は、2つの主要経路(図
1):(i)二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼ(AdhE)またはE.
coliを含む他のエタノール生成細菌(Membrillo-Hernandez,J
Bacteriol,181:7571-7579,1999)に見出されるアルデヒ
ドデヒドロゲナーゼ(Ald)およびアルコールデヒドロゲナーゼ(Adh)を用いたア
セトアルデヒドを介したエタノールへのアセチル-CoAの直接的な2段階逐次還元、な
らびに(ii)アセテートを介して進行し、アルデヒド:フェレドキシンオキシドレダク
ターゼを使用して、Adhを介したエタノール合成の前に最初にアセテートをアセトアル
デヒドに還元する、間接的な経路(Kopke,PNAS USA,107:13087
-13092,2010;Mock,J Bacteriol,197:2965-29
80,2015)を含む。
【0013】
2つのエタノール生合成経路の間の1つの重要な違いは、間接的な経路が、生成物の収
率を制限し、高濃度で有毒であることが知られているので、一般に工業的発酵における望
ましくない副産物と考えられるアセテートを還元することである。基質レベルのリン酸化
(SLP)を介したアセテート1モルあたり1つのATPの節約により利点を提供するよ
うに、全ての天然に単離されたアセトゲンはアセテートを形成し、これは独立栄養増殖の
ATP制限条件下で重要である。熱力学的および化学量論的分析は、H2+CO2でのC
.autoethanogenumのアセトゲンの増殖の間、エタノールへのアセテート
還元を介した1.2ATP/モルエタノールと比較して、アセトアルデヒドへのアセチル
-CoA還元を介したATP収率は、たった0.5ATP/モルエタノールであると推定
した(Mock,J Bacteriol,197:2965-2980,2015)。
【0014】
したがって、AORを介した間接的なエタノール生成は、アルデヒドデヒドロゲナーゼ
およびアルコールデヒドロゲナーゼを介した直接的なエタノール生成と比較して、省エネ
ルギーおよびアセテート還元の両方に関して利益を提供する。この酵素は代謝においてこ
のような重要な役割を果たすので、AORの破壊はこれまでいかなる細菌種においても証
明されていない。しかしながら、驚くべきことに、本発明者らは、AOR活性を低下また
は排除するために細菌を遺伝的に修飾することが、細菌を特定の種類の生成物の生成によ
り好適にすることを発見した。
【0015】
特に、AOR活性の低下または排除は、エタノールへの炭素の流入を低減させ、他の非
エタノール生成物への炭素の流入を増大させる。例えば、本発明の微生物は、アセチル-
CoA、アセトアセチル-CoA、アセトアセテート、アセトン、イソプロパノール、3
-ヒドロキシイソバレリル-CoA、3-ヒドロキシイソバレレート、イソブチレン、イ
ソプレン、3-ヒドロキシブチリル-CoA、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキ
シブチリルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチリル-CoA
、2-ヒドロキシイソブチレート、ピルベート、アセトラクテート、アセトイン、2,3
-ブタンジオール、およびラクテートからなる群から選択される1つ以上の生成物を生成
するために使用され得る。
定義と背景
【0016】
微生物に関して使用される場合、「非天然」という用語は、微生物がヒトの手によって
修飾され、言及された種の天然株には見出されない、すなわち、言及された種の野生型株
には見出されない、少なくとも1つの遺伝子修飾を有することを意味することが意図され
る。
【0017】
「遺伝子修飾」、「遺伝子改変」、または「遺伝子操作」という用語は、幅広く微生物
のゲノムまたは核酸の操作を指す。同様に、「遺伝子操作された」という用語は、操作さ
れたゲノムまたは核酸を含む微生物を指す。遺伝子修飾の方法は、例えば、異種遺伝子発
現、遺伝子またはプロモーターの挿入または欠失、核酸変異、修飾遺伝子発現または不活
性化、酵素工学、指向性進化、知識ベース設計、ランダム変異導入法、遺伝子シャフリン
グ、およびコドン最適化を含む。
【0018】
「組換え」は、核酸、タンパク質、または微生物が、遺伝子修飾、操作、または組換え
の生成物であることを示す。一般に、「組換え」という用語は、微生物の2つ以上の異な
る株または種など、複数の源から誘導される遺伝物質を含有するか、またはそれによって
コードされる核酸、タンパク質、または微生物を指す。本明細書で使用される場合、「組
換え」という用語は、また、内在性核酸またはタンパク質の変異形態を含む、変異した核
酸またはタンパク質を含む微生物を記載するために使用され得る。
【0019】
「野生型」は、変異体または変異形とは区別されるように天然に存在する、生物、株、
遺伝子、または特性の典型的な形態を指す。
【0020】
「内在性」は、本発明の微生物が誘導される野生型または親微生物に存在または発現す
る核酸またはタンパク質を指す。例えば、内在性遺伝子は、本発明の微生物が誘導される
野生型または親微生物に天然に存在する遺伝子である。一実施形態では、内在性遺伝子の
発現は、外在性プロモーターなどの外在性調節エレメントによって制御され得る。
【0021】
「外在性」は、本発明の微生物が誘導される野生型または親微生物に存在しない核酸ま
たはタンパク質を指す。一実施形態では、外在性遺伝子または酵素は、異種(すなわち、
異なる)株または種から誘導されて、本発明の微生物に導入または発現され得る。別の実
施形態では、外在性遺伝子または酵素は、本発明の微生物に、人工的にまたは組換えられ
て作製および導入されるか、または発現され得る。外在性核酸は、本発明の微生物のゲノ
ムに組み込まれるように、または本発明の微生物、例えばプラスミド中で染色体外の状態
にとどまるように適合され得る。
【0022】
「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」、および
「オリゴヌクレオチド」という用語は、互換的に使用される。それらは、任意の長さのポ
リマー形態のヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドのいず
れか、またはそれらの類似体を指す。ポリヌクレオチドは、任意の3次元構造を有し得て
、既知または未知の任意の機能を果たし得る。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的な例
である。遺伝子または遺伝子断片のコード領域または非コード領域、連鎖解析から定義さ
れる遺伝子座(複数可)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、
トランスファーRNA、リボソームRNA、短干渉RNA(siRNA)、短ヘアピンR
NA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、リボザイム、cDNA、組換えポ
リヌクレオチド、分枝鎖ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離さ
れたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、およびプライマー。ポリヌ
クレオチドは、メチル化ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体などの1つ以上の修飾さ
れたヌクレオチドを含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造の修飾は、ポリマーの組
織化の前または後に付与され得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド構成要素によ
って割り込まれ得る。ポリヌクレオチドは、重合の後、例えば標識構成要素との接合によ
り、さらに修飾され得る。
【0023】
本明細書で使用される場合、「発現」は、ポリヌクレオチドがDNA鋳型から(例えば
、mRNAまたは他のRNA転写物へ)転写されるプロセス、および/または転写された
mRNAが、続いて、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質へ翻訳されるプロセス
を指す。転写物およびコードされたポリペプチドは、集合的に「遺伝子産物」と呼ばれ得
る。
【0024】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、任意の長さの
アミノ酸のポリマーを指すために本明細書で互換的に使用される。ポリマーは、直鎖であ
っても分枝鎖であってもよく、修飾アミノ酸を含んでいてもよく、非アミノ酸によって割
り込まれていてもよい。これらの用語は、修飾されたアミノ酸ポリマーも包含する。例え
ば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または標識
構成要素との接合などの任意の他の操作を含む。本明細書で使用される場合、「アミノ酸
」という用語は、グリシン、DまたはL光学異性体の両方、ならびにアミノ酸類似体およ
びペプチド模倣体を含む天然および/または非天然もしくは合成アミノ酸を含む。
【0025】
「酵素活性」または単に「活性」は、広範には、酵素の活性、酵素の量、または反応を
触媒するための酵素の可用性を含むがこれらに限定されない、酵素的な活性を指す。した
がって、酵素活性を「増大させること」は、酵素の活性を増大させること、酵素の量を増
大させること、または反応を触媒するための酵素の可用性を増大させることを含む。同様
に、酵素活性を「低下させること」は、酵素の活性を低下させること、酵素の量を低下さ
せること、または反応を触媒するための酵素の可用性を低下させることを含む。
【0026】
「変異した」は、本発明の微生物が誘導される野生型または親微生物と比較して、本発
明の微生物において修飾されている核酸またはタンパク質を指す。一実施形態において、
変異は、酵素をコードする遺伝子中の欠失、挿入、または置換であってもよい。別の実施
形態では、変異は、酵素中の1つ以上のアミノ酸の欠失、挿入、または置換であってもよ
い。
【0027】
特に、「破壊的変異」は、遺伝子または酵素の発現または活性を低下または排除する(
すなわち、「破壊する」)変異である。破壊的変異は、遺伝子または酵素を、部分的に不
活性にし得るか、完全に不活性にし得るか、または欠失し得る。破壊的変異は、ノックア
ウト(KO)変異であり得る。破壊的変異は、酵素によって生成される生成物の生合成を
低減する、防ぐ、または妨害する任意の変異であり得る。酵素の複数のアイソフォームを
有する微生物において、1つ以上の破壊的変異が、酵素の単一のアイソフォーム、2つ以
上のアイソフォーム、または全てのアイソフォームの発現または活性を低下または排除す
るために導入され得る。破壊的変異は、例えば、酵素をコードする遺伝子における変異、
酵素をコードする遺伝子の発現に関与する遺伝子調節エレメントにおける変異、酵素の活
性を低下または阻害するタンパク質を生成する核酸の導入、または酵素の発現を阻害する
核酸(例えば、アンチセンスRNA、siRNA、CRISPR)もしくはタンパク質の
導入を含み得る。破壊的変異は、当該技術分野で既知の任意の方法を使用して導入され得
る。
【0028】
破壊的変異の導入は、本発明の微生物が誘導される親微生物と比較して、アセトアルデ
ヒドおよび/もしくはエタノールを生成しない、または実質的にアセトアルデヒドおよび
/もしくはエタノールを生成しない、または低減された量のアセトアルデヒドおよび/も
しくはエタノールを生成する、本発明の微生物をもたらす。例えば、本発明の微生物は、
アセトアルデヒドおよび/もしくはエタノールを生成しないか、または親微生物よりも、
少なくとも約1%、3%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、7
0%、80%、90%、もしくは95%少ないアセトアルデヒドおよび/もしくはエタノ
ールを生成し得る。例えば、本発明の微生物は、約0.001、0.01、0.10、0
.30、0.50、または1.0g/L未満のアセトアルデヒドおよび/またはエタノー
ルを生成することができる。
【0029】
「変異形」という用語は、核酸およびタンパク質の配列が、従来技術において開示され
るかまたは本明細書に例示される参照核酸およびタンパク質の配列などの、参照核酸およ
びタンパク質の配列から変化する、核酸およびタンパク質を含む。本発明は、参照核酸ま
たはタンパク質と実質的に同じ機能を果たす変異形核酸またはタンパク質を使用して実施
されてもよい。例えば、変異形タンパク質は、参照タンパク質と実質的に同じ機能を果た
すか、または実質的に同じ反応を触媒してもよい。変異形遺伝子は、参照遺伝子と同じ、
または実質的に同じタンパク質をコードしてもよい。変異形プロモーターは、参照プロモ
ーターと実質的に同じ、1つ以上の遺伝子の発現を促進するための能力を有してもよい。
【0030】
「微生物」は、顕微鏡生物、特に細菌、古細菌、ウイルス、または真菌である。本発明
の微生物は、典型的には細菌である。本明細書で使用される場合、「微生物」の引用は、
「細菌」を網羅するものと解釈されるべきである。
【0031】
「親微生物」は、本発明の微生物を生成するために使用される微生物である。親微生物
は、天然に存在する微生物(即ち、野生型微生物)または以前に修飾されたことのある微
生物(即ち、変異体または組換え微生物)であり得る。本発明の微生物は、親微生物にお
いて発現または過剰発現されていなかった1つ以上の酵素を発現または過剰発現させるよ
うに修飾され得る。同様に、本発明の微生物は、親微生物によって含有されなかった1つ
以上の遺伝子を含有するように修飾され得る。本発明の微生物は、また、親微生物におい
て発現された1つ以上の酵素を発現しないまたはより少ない量を発現させるように修飾さ
れ得る。
【0032】
本発明の微生物は、機能特性および/または構造特性に基づいてさらに分類され得る。
例えば、本発明の微生物は、C1固定微生物、嫌気性細菌、アセトゲン、エタノロゲン、
カルボキシド栄養生物、および/またはメタン資化性菌であり得るか、またはそれらから
誘導され得る。表1は、微生物の代表的な一覧を提供し、それらの機能および構造特性の
うちいくつかを特定する。
【表1】
【0033】
「C1」は、1炭素分子、例えば、CO、CO2、CH4、またはCH3OHを指す。
「C1酸素化物」は、少なくとも1つの酸素原子も含む1炭素分子、例えば、CO、CO
2、またはCH3OHを指す。「C1炭素源」は、本発明の微生物のための部分的または
唯一の炭素源として機能する1炭素分子を指す。例えば、C1炭素源は、CO、CO2、
CH4、CH3OH、またはCH2O2のうちの1つ以上を含み得る。好ましくは、C1
炭素源は、COおよびCO2のうちの1つまたは両方を含む。「C1固定微生物」は、C
1炭素源から1つ以上の生成物を生成する能力を有する微生物である。典型的には、本発
明の微生物はC1固定細菌である。好ましい実施形態において、本発明の微生物は、表1
で特定されるC1固定微生物から誘導される。
【0034】
「嫌気性細菌」は、増殖のために酸素を必要としない微生物である。嫌気性細菌は、酸
素が特定の閾値を超えて存在する場合、負の反応を起こし得るか、もしくは死滅し得る。
典型的には、本発明の微生物は嫌気性細菌である。好ましい実施形態において、本発明の
微生物は、表1で特定される嫌気性細菌から誘導される。
【0035】
「アセトゲン」は、嫌気呼吸の生成物としてアセテート(または酢酸)を生成する、ま
たは生成することが可能である微生物である。典型的には、アセトゲンは、エネルギー節
約のため、ならびにアセチル-CoAおよびアセテートなどのアセチル-CoA誘導生成
物の合成のためのそれらの主要機構として、ウッド・ユングダール経路を使用する、偏性
嫌気性細菌である(Ragsdale,Biochim Biophys Acta,1
784:1873-1898,2008)。アセトゲンは、アセチル-CoA経路を、(
1)CO2からのアセチル-CoAの還元合成のための機構、(2)最終電子を受容する
、エネルギー節約プロセス、(3)細胞炭素の合成におけるCO2の固定(同化)のため
の機構として使用する(Drake,Acetogenic Prokaryotes,
In:The Prokaryotes,3rd edition,p.354,New
York,NY,2006)。天然に存在する全てのアセトゲンは、C1固定、嫌気性
、独立栄養性、および非メタン資化性である。典型的には、本発明の微生物はアセトゲン
である。好ましい実施形態において、本発明の微生物は、表1で特定されるアセトゲンか
ら誘導される。
【0036】
「エタノロゲン」は、エタノールを生成する、または生成することが可能である微生物
である。特定の実施形態では、本発明の微生物はエタノロゲンである。好ましい実施形態
において、本発明の微生物は、表1で特定されるエタノロゲンから誘導される。しかしな
がら、AORおよびAdhEはエタノール生合成に関与するので、微生物のAORおよび
/またはAdhEの破壊は、エタノール生成に関して変異した表現型をもたらし得る。
【0037】
「独立栄養生物」は、有機炭素がなくても増殖することが可能な微生物である。代わり
に、独立栄養生物は、COおよび/またはCO2などの無機炭素源を使用する。典型的に
は、本発明の微生物は独立栄養生物である。好ましい実施形態において、本発明の微生物
は、表1で特定される独立栄養生物から誘導される。
【0038】
「カルボキシド栄養生物」は、炭素の唯一の供給源としてCOを利用することが可能な
微生物である。典型的には、本発明の微生物はカルボキシド栄養生物である。好ましい実
施形態において、本発明の微生物は、表1で特定されるカルボキシド栄養生物から誘導さ
れる。
【0039】
「メタン資化性菌」は、炭素とエネルギーの唯一の供給源としてメタンを利用すること
が可能な微生物である。特定の実施形態では、本発明の微生物はメタン資化性菌であるか
、またはメタン資化性菌から誘導される。他の実施形態では、本発明の微生物はメタン資
化性菌ではないか、メタン資化性菌から誘導されない。
【0040】
本発明の微生物が誘導される親微生物は、一般に、EC1.2.7.5で定義される反
応を触媒する酵素を含む。この酵素は、それらの対応するアルデヒドへの酸の変換を担う
。より具体的には、この酵素は、カルボキシレート+2H++2還元フェレドキシンの、
アルデヒド+H2O+2酸化フェレドキシンへの変換を触媒する。好ましい実施形態では
、この反応を触媒する酵素はAORである。
【0041】
アセトゲンにおいて、AORの活性は、(COデヒドロゲナーゼ、EC1.2.7.4
を介して)酸化COまたは(フェレドキシン依存性ヒドロゲナーゼ、EC1.12.7.
2または1.12.1.4を介して)水素に連結され得て、両方とも還元フェレドキシン
を得る(Kopke,Curr Opin Biotechnol 22:320-32
5,2011;Kopke,PNAS USA,107:13087-13092,20
10)。例えば、C.autoethanogenumのゲノムは、タンデムに現れ、潜
在的に遺伝子重複の結果である2つのaorアイソフォーム(CAETHG_0092お
よび0102)および2つのadhE遺伝子(CAETHG_3747および3748)
をコードする(Brown,Biotechnol Biofuels,7:1-18,
2014)。C.ljungdahlii(Kopke,PNAS USA,107:1
3087-13092,2010;Leang,Appl Environ Micro
biol,79:1102-1109,2013)にも同じ配置が見られる。
【0042】
好ましくは、親微生物は、Alkalibaculum bacchi、Blauti
a生成物、Butyribacterium methylotrophicum、Ch
loroflexus aurantiacus、Clostridium aceti
cum、Clostridium acetobutylicum、Clostridi
um autoethanogenum、Clostridium botulinum
、Clostridium carboxidivorans、Clostridium
coskatii、Clostridium drakei、Clostridium
formicoaceticum、Clostridium ljungdahlii
、Clostridium ragsdalei、Desulfovibrio vul
garis、Eubacterium limosum、Geobacter sulf
urreducens、Methylomicrobium alcaliphilum
、Moorella thermoautrophica、Moorella ther
moacetica、Rhodospirillum rubrum、Sporomus
a ovata、Sporomusa silvacetica、Sporomusa
sphaeroides、Thermanaerovibrio acidaminov
orans、Thermanaerovibrio acidaminovorans、
Thermoanaerobacter wiegelii、Thermodesulf
ovibrio yellowstonii、Thermodesulfovibrio
yellowstonii、およびThermus thermophilusからな
る群から選択される細菌である。一実施形態では、親微生物は、Clostridium
autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii
、Clostridium ragsdalei、またはClostridium co
skatiiである。好ましい実施形態において、親微生物は、2010年6月7日にド
イツのD-38124 Braunschwieg、Inhoffenstraβ 7B
に位置するDeutsche Sammlung von Mikroorganism
en und Zellkulturen GmbH(DSMZ)にブダペスト条約の条
項下で2010年6月7日に寄託され、受託番号DSM23693を付与されたClos
tridium autoethanogenum LZ1561である。
【0043】
「~から誘導される」という用語は、新しい核酸、タンパク質、または微生物を生成す
るように、核酸、タンパク質、または微生物が異なる(例えば、親または野生型)核酸、
タンパク質、または微生物から修飾または適合されることを示す。そのような修飾または
適合は、典型的には、核酸または遺伝子の挿入、欠失、変異、または置換を含む。一般に
、本発明の微生物は、Alkalibaculum bacchi、Blautia生成
物、Butyribacterium methylotrophicum、Chlor
oflexus aurantiacus、Clostridium aceticum
、Clostridium acetobutylicum、Clostridium
autoethanogenum、Clostridium botulinum、Cl
ostridium carboxidivorans、Clostridium co
skatii、Clostridium drakei、Clostridium fo
rmicoaceticum、Clostridium ljungdahlii、Cl
ostridium ragsdalei、Desulfovibrio vulgar
is、Eubacterium limosum、Geobacter sulfurr
educens、Methylomicrobium alcaliphilum、Mo
orella thermoautrophica、Moorella thermoa
cetica、Rhodospirillum rubrum、Sporomusa o
vata、Sporomusa silvacetica、Sporomusa sph
aeroides、Thermanaerovibrio acidaminovora
ns、Thermanaerovibrio acidaminovorans、The
rmoanaerobacter wiegelii、Thermodesulfovi
brio yellowstonii、Thermodesulfovibrio ye
llowstonii、およびThermus thermophilusからなる群か
ら選択される親微生物から誘導される。一実施形態では、本発明の微生物は、Clost
ridium autoethanogenum、Clostridium ljung
dahlii、Clostridium ragsdalei、またはClostrid
ium coskatiiから誘導される。好ましい実施形態において、本発明の微生物
は、DSMZ受託番号DSM23693の下で寄託される、Clostridium a
utoethanogenum LZ1561から誘導される。
【0044】
以下の表は、AOR遺伝子/酵素を含む微生物の例示的な一覧を提供する。
【表A】
【0045】
好ましい実施形態において、本発明の微生物は、Clostridium autoe
thanogenum、Clostridium ljungdahlii、Clost
ridium ragsdalei、およびClostridium coskatii
種を含むClostridiaのクラスターから誘導される。これらの種は、Abrin
i,Arch Microbiol,161:345-351,1994(Clostr
idium autoethanogenum)、Tanner,Int J Syst
em Bacteriol,43:232-236,1993(Clostridium
ljungdahlii)、およびHuhnke,WO2008/028055(Cl
ostridium ragsdalei)によって最初に報告され、かつ特徴付けられ
た。
【0046】
これらの種は、多くの類似点を有する。特に、これらの種は全て、C1固定、嫌気性、
アセトゲン系、エタノロゲン系、およびカルボキシド栄養性のClostridium属
メンバーである。これらの種は、同様の遺伝子型および表現型ならびにエネルギー節約お
よび発酵代謝のモードを有する。さらには、これらの種は、99%を超えて同一である1
6S rRNA DNAを有するクロストリジウムrRNAホモロジー群I内に群生し、
約22~30モル%の含有量でDNA G+Cを有し、グラム陽性であり、同様の形態お
よびサイズを有し(0.5~0.7×3~5μmの対数増殖細胞)、中温性であり(30
~37℃で最適に増殖する)、約4~7.5の同様のpH範囲を有し(約5.5~6の最
適pH)、シトクロムを欠いており、Rnf複合体を介してエネルギーを節約する。また
、カルボン酸のそれらの対応するアルコールへの還元が、これらの種において示されてい
る(Perez,Biotechnol Bioeng,110:1066-1077,
2012)。重要なことには、これらの種はまた、全て、CO含有ガスで強い独立栄養性
増殖を示し、主要な発酵生成物としてエタノールおよびアセテート(または酢酸)を生成
し、特定の条件下で少量の2,3-ブタンジオールおよび乳酸を生成する。
【0047】
しかしながら、これらの種は、いくつかの違いも有する。これらの種は、Clostr
idium autoethanogenumはウサギの腸から、Clostridiu
m ljungdahliiは養鶏場の廃棄物から、およびClostridium r
agsdaleiは淡水堆積物からというように、異なる供給源から単離された。これら
の種は、種々の糖(例えば、ラムノース、アラビノース)、酸(例えば、グルコン酸塩、
クエン酸塩)、アミノ酸(例えば、アルギニン、ヒスチジン)、および他の基質(例えば
、べタイン、ブタノール)の利用において異なる。さらには、これらの種は、特定のビタ
ミン(例えば、チアミン、ビオチン)に対する栄養要求性において異なる。これらの種は
、ウッド・ユングダール経路遺伝子およびタンパク質の核酸およびアミノ酸配列において
違いを有するが、これらの遺伝子およびタンパク質の一般的構成および数は、全ての種に
おいて同じであることが分かっている(Kopke,Curr Opin Biotec
hnol,22:320-325,2011)。
【0048】
したがって、要するに、Clostridium autoethanogenum、
Clostridium ljungdahlii、Clostridium rags
dalei、またはClostridium coskatiiの特徴の多くは、その種
に特有なのではなく、むしろC1固定、嫌気性、アセトゲン系、エタノロゲン系、および
カルボキシド栄養性のClostridium属メンバーのこのクラスターの一般的な特
徴である。しかしながら、これらの種は、実際は、全く異なるため、これらの種のうちの
1つの遺伝子修飾または操作は、これらの種のうちの別のものにおいては同一の効果を有
しない場合がある。例えば、増殖、性能、または生成物生成における違いが観察され得る
。
【0049】
本発明の微生物はまた、Clostridium autoethanogenum、
Clostridium ljungdahlii、Clostridium rags
dalei、またはClostridium coskatiiの分離株または変異体か
ら誘導され得る。Clostridium autoethanogenumの分離株お
よび変異体としては、JA1-1(DSM10061)(Abrini,Arch Mi
crobiol,161:345-351,1994)、LBS1560(DSM196
30)(WO2009/064200)、およびLZ1561(DSM23693)が挙
げられる。Clostridium ljungdahliiの分離株および変異体とし
ては、ATCC49587(Tanner,Int J Syst Bacteriol
,43:232-236,1993)、PETCT(DSM13528、ATCC553
83)、ERI-2(ATCC55380)(US5,593,886)、C-01(A
TCC55988)(US6,368,819)、O-52(ATCC55989)(U
S6,368,819)、およびOTA-1(Tirado-Acevedo,Prod
uction of bioethanol from synthesis gas
using Clostridium ljungdahlii,PhD thesis
,North Carolina State University,2010)が挙
げられる。Clostridium ragsdaleiの分離株および変異体としては
、PI1(ATCC BAA-622、ATCC PTA-7826)(WO2008/
028055)が挙げられる。
【0050】
加えてまたはあるいは、本発明の微生物が誘導される親微生物は、EC1.2.1.1
0/EC1.1.1.1で定義される反応を触媒する酵素、例えばAdhEを含み得る。
本発明の微生物は、親細菌と比較して、EC1.2.1.10および/またはEC1.1
.1.1によって定義される反応を触媒する少なくとも1つの酵素の活性が低下または排
除されていて、例えば、EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によっ
て定義される反応を触媒する酵素をコードする遺伝子において、少なくとも1つの破壊的
変異を有し得る。EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によって定義
される反応を触媒する酵素は、二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼ、アル
デヒドデヒドロゲナーゼ、およびアルコールデヒドロゲナーゼからなる群から好ましくは
選択される。これらの酵素のうち1つ以上の発現を破壊することが、さらに、炭素流入を
エタノールから離して非エタノール生成物に向けることができる。
【0051】
「基質」は、本発明の微生物のための炭素および/またはエネルギー源を指す。典型的
には、基質は、ガス状であり、C1炭素源、例えば、CO、CO2、および/またはCH
4を含む。好ましくは、基質は、COまたはCO+CO2のC1炭素源を含む。基質は、
H2、N2、または電子などの他の非炭素構成要素をさらに含み得る。特定の実施形態で
は、基質は、グルコースまたはリグノセルロースなどの炭水化物も含み得る。
【0052】
基質は、概して、約1、2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、
90、または100モル%のCOなどの少なくともいくらかの量のCOを含む。基質は、
約20~80、30~70、または40~60モル%のCOなど、ある範囲のCOを含み
得る。好ましくは、基質は、約40~70モル%のCO(例えば、製鋼または高炉ガス)
、約20~30モル%のCO(例えば、塩基性酸素高炉ガス)、または約15~45モル
%のCO(例えば、合成ガス)を含む。いくつかの実施形態において、基質は、約1~1
0または1~20モル%のCOなどの比較的低い量のCOを含み得る。本発明の微生物は
、典型的には、基質中のCOの少なくとも一部分を生成物に変換する。いくつかの実施形
態において、基質は、COを含まないか、または実質的に含まない(1モル%未満)。
【0053】
基質は、いくらかの量のH2を含み得る。例えば、基質は、約1、2、5、10、15
、20、または30モル%のH2を含み得る。いくつかの実施形態において、基質は、約
60、70、80、または90モル%のH2など、比較的多量のH2を含み得る。さらな
る実施形態において、基質は、H2を含まないか、または実質的に含まない(1モル%未
満)。
【0054】
基質は、いくらかの量のCO2を含み得る。例えば、基質は、約1~80または1~3
0モル%のCO2を含み得る。いくつかの実施形態において、基質は、約20、15、1
0、または5モル%未満のCO2を含み得る。別の実施形態において、基質は、CO2を
含まないか、または実質的に含まない(1モル%未満)。
【0055】
基質は典型的にはガス状であるが、基質はまた、代替の形態で提供されてもよい。例え
ば、基質は、マイクロバブル分散物発生装置を使用して、CO含有ガスで飽和した液体中
に溶解されてもよい。さらなる例として、基質は、固体支持体上に吸着されてもよい。
【0056】
基質および/またはC1炭素源は、自動車の排出ガスまたはバイオマスガス化からなど
、産業プロセスの副産物として得られる、または何らかの他の源からの廃ガスであっても
よい。特定の実施形態において、産業プロセスは、鉄鋼製造などの鉄金属生成物製造、非
鉄金属生成物製造、石油精製、石炭ガス化、電力生成、カーボンブラック生成、アンモニ
ア生成、メタノール生成、およびコークス製造からなる群から選択される。これらの実施
形態では、基質および/またはC1炭素源は、任意の従来の方法を使用して、それが大気
中に放出される前に産業プロセスから捕捉されてもよい。
【0057】
基質および/またはC1炭素源は、石炭もしくは精錬残渣のガス化、バイオマスもしく
はリグノセルロース物質のガス化、または天然ガスの改質によって得られる合成ガスなど
、合成ガスであってもよい。別の実施形態において、合成ガスは、一般廃棄物または産業
廃棄物のガス化から得てもよい。
【0058】
基質の組成は、反応の効率および/または費用に著しい影響を及ぼし得る。例えば、酸
素(O2)の存在は、嫌気性発酵プロセスの効率を低減し得る。基質の組成に応じて、基
質を処理、スクラブ、または濾過して、毒素、望ましくない成分、またはちり粒子などの
任意の望ましくない不純物を除去すること、および/または所望の成分の濃度を増加させ
ることが望ましくあり得る。
【0059】
本発明の微生物は、1つ以上の生成物を生成するように培養され得る。例えば、Clo
stridium autoethanogenumは、エタノール(WO2007/1
17157)、アセテート(WO2007/117157)、ブタノール(WO2008
/115080およびWO2012/053905)、ブチレート(WO2008/11
5080)、2,3-ブタンジオール(WO2009/151342)、ラクテート(W
O2011/112103)、ブテン(WO2012/024522)、ブタジエン(W
O2012/024522)、メチルエチルケトン(2-ブタノン)(WO2012/0
24522およびWO2013/185123)、エチレン(WO2012/02683
3)、アセトン(WO2012/115527)、イソプロパノール(WO2012/1
15527)、脂質(WO2013/036147)、3-ヒドロキシプロピオン酸(3
-HP)(WO2013/180581)、イソプレンおよび他のテルペン(WO201
3/180584)、メバロン酸(WO2013/180584)、脂肪酸(WO201
3/191567)、2-ブタノール(WO2013/185123)、1,2-プロパ
ンジオール(WO2014/0369152)、ならびに1-プロパノール(WO201
4/0369152)、パラヒドロキシ安息香酸(WO2016/191625)、サリ
チラート(WO2016/191625)、2-アミノベンゾエイト(WO2016/1
91625)、ジヒドロキシベンゾエイト(WO2016/191625)、4-ヒドロ
キシシクロヘキサンカルボン酸(WO2016/191625)、3-ヒドロキシブチレ
ート(WO2017/066498)、1,3-ブタンジオール(WO2017/066
498)、2-ヒドロキシブチレート(WO2017/066498)、アジピン酸(W
O2017/066498)、1,3-ヘキサンジオール(WO2017/066498
)、3-メチル-2-ブタノール(WO2017/066498)、2-ブテン-1-オ
ール(WO2017/066498)、イソバレレート(WO2017/066498)
、またはイソアミルアルコール(WO2017/066498)を生成するか、または生
成するように操作され得る。これらの生成物の1つ以上に加えて、本発明の微生物はまた
、エタノール、アセテート、および/または2,3-ブタンジオールを生成することもで
きる。特定の実施形態において、微生物バイオマス自体が生成物と見なされ得る。
【0060】
「天然生成物」は、遺伝子修飾されていない微生物によって生成される生成物である。
例えば、エタノール、アセテート、および2,3-ブタンジオールは、Clostrid
ium autoethanogenum、Clostridium ljungdah
lii、Clostridium ragsdalei、およびClostridium
coskatiiの天然生成物である。「非天然生成物」は、遺伝子修飾された微生物
によって生成されるが、遺伝子修飾された微生物が誘導された遺伝子修飾されていない(
例えば、親の)微生物によって生成されていない生成物である。非天然生成物を生成する
ための経路および酵素は、先に参照したように当該分野で見出すことができる。
【0061】
「選択性」は、微生物によって生成される全ての発酵生成物の生成に対する所望の生成
物の生成の比率を指す。本発明の微生物は、特定の選択性で、または最小の選択性で生成
物を生成するように操作され得る。一実施形態において、所望の生成物は、本発明の微生
物によって生成される全発酵生成物の少なくとも約5%、10%、15%、20%、30
%、50%、または75%を占める。一実施形態において、所望の生成物は、本発明の微
生物が少なくとも10%の所望の生成物への選択性を有するように、本発明の微生物によ
って生成される全発酵生成物の少なくとも10%を占める。別の実施形態において、所望
の生成物は、本発明の微生物が少なくとも30%の所望の生成物への選択性を有するよう
に、本発明の微生物によって生成される全発酵生成物の少なくとも30%を占める。
【0062】
「効率を増大させること」、「増大した効率」などは、増殖速度、生成物生成速度もし
くは体積、消費される基質の体積あたりの生成物体積、または生成物選択性を増大させる
ことを含むが、これらに限定されない。効率は、本発明の微生物が誘導される親微生物の
性能に対して測定され得る。
【0063】
典型的には、培養はバイオリアクタ中で実施される。「バイオリアクタ」という用語は
、連続撹拌槽反応器(CSTR)、固定化細胞反応器(ICR)、トリクルベッド反応器
(TBR)、気泡塔、ガスリフト発酵槽、静的ミキサ、またはガス-液体接触に好適な他
の容器もしくは他の装置などの1つ以上の容器、塔、または配管からなる培養/発酵装置
を含む。いくつかの実施形態では、バイオリアクタは、第1の増殖反応器および第2の培
養/発酵反応器を含んでもよい。基質は、これらの反応器のうちの1つまたは両方に提供
されてもよい。本明細書で使用される場合、「培養」および「発酵」という用語は、交換
可能に使用される。これらの用語は、培養/発酵プロセスの増殖期および生成物生合成期
の両方を包含する。
【0064】
培養物は概して、微生物の増殖を可能にするのに十分な栄養素、ビタミン、および/ま
たは無機物を含有する水性培地中で維持される。好ましくは、水性培地は、最小嫌気性微
生物増殖培地などの嫌気性微生物培地である。好適な培地は、当該技術分野において既知
である。
【0065】
培養/発酵は、望ましくは、所望の生成物の生成のために適切な条件下で実施されるべ
きである。典型的には、培養/発酵は、嫌気性条件下で実施される。考慮すべき反応条件
は、圧力(または分圧)、温度、ガス流速、液体流速、培地pH、培地酸化還元電位、撹
拌速度(連続撹拌槽反応器を使用する場合)、接種レベル、液相中のガスが制限的になら
ないことを確実にするための最大ガス基質濃度、および生成物阻害を回避するための最大
生成物濃度を含む。具体的には、基質の導入速度は、生成物がガス制限条件下での培養に
よって消費され得るため、液相中のガスの濃度が制限的にならないことを確実にするよう
に制御されてもよい。
【0066】
上昇した圧力でバイオリアクタを動作させることは、気相から液相へのガス物質移動の
増加した速度を可能にする。したがって、概して、大気圧よりも高い圧力で培養/発酵を
実施することが好ましい。また、所与のガス変換速度が部分的に基質保持時間の関数であ
り、かつ保持時間がバイオリアクタの必要な体積を示すため、加圧システムの使用は、必
要なバイオリアクタの体積、およびその結果として培養/発酵装置の資本コストを大幅に
低減することができる。これはさらに、バイオリアクタ中の液体体積を入力ガス流速で除
算したものと定義される保持時間が、バイオリアクタが大気圧よりも上昇した圧力に維持
されるときに減少され得ることを意味する。最適反応条件は、使用される特定の微生物に
部分的に依存する。しかしながら、一般的には、大気圧より高い圧力で発酵を行うことが
好ましい。また、所与のガス変換速度が部分的に基質保持時間の関数であり、かつ所望の
保持時間を達成することがバイオリアクタの必要な体積をさらに示すため、加圧システム
の使用は、必要なバイオリアクタの体積、およびその結果として発酵装置の資本コストを
大幅に低減することができる。
【0067】
特定の実施形態において、発酵は、光の不在下で、または光合成微生物のエネルギー要
求を満たすには不十分な量の光の存在下で行われる。
【0068】
生成物は、例えば、分留、蒸発、浸透蒸発、ガスストリッピング、相分離、および、例
えば、液-液抽出などの抽出発酵など、当該技術分野で既知の任意の方法またはその組み
合わせを使用して、発酵ブロスから分離または精製され得る。特定の実施形態において、
生成物は、ブロスの一部分をバイオリアクタから連続除去し、微生物細胞をブロスから分
離し(濾過により簡便に)、かつ1つ以上の生成物をブロスから回収することによって、
発酵ブロスから回収される。アルコールおよび/またはアセトンは、例えば、蒸留によっ
て回収され得る。酸は、例えば、活性炭上での吸着によって回収され得る。分離された微
生物細胞は、好ましくは、バイオリアクタに戻される。生成物が除去された後に残ってい
る無細胞浸透水も、好ましくは、バイオリアクタに戻される。追加の栄養素(ビタミンB
など)が、無細胞浸透水に添加されて、それがバイオリアクタに戻される前に培地を補充
し得る。
【実施例0069】
以下の実施例は、本発明をさらに例示するが、当然のことながら、いかなる方法によっ
てもその範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【0070】
実施例1
この実施例は、C.autoethanogenumにおけるAORおよびアルコール
デヒドロゲナーゼにおける破壊的変異の成功した導入を実証する。
【0071】
1.1 細菌株および増殖条件
この実施例で使用した細菌株を、表2に記載する。
【表2】
【0072】
一般的なプラスミドの増殖、クローニング、および接合に使用されるEscheric
hia coli株を、抗生物質(25μg/mLクロラムフェニコール、100μg/
mLスペクチノマイシン)の存在下、LB培地中37℃で培養した。C.autoeth
anogenum DSM 10061は、ドイツ、Deutsche Sammlun
g von Mikroorganismen und Zellkulturen(D
SMZ)GmbHから購入し、CaGM培地中で厳密な嫌気的条件下で慣習的に培養した
。
【0073】
増殖培地CaGMは、(Lあたり)0.25gのNH4Cl、0.1gのKCl、0.
2gのKH2PO4、0.2gのMgSO4・7H2O、0.02gのCaCl2・2H
2O、1gの酵母エキス、0.5mlの2g/Lのレサズリン、20gの2-(N-モル
フォリノ)エタンスルホン酸(MES)、0.05gのFe(SO4)2・7H2O、0
.25gの酢酸ナトリウム・3H2O、0.05gのニトリオロ三酢酸(NTA)および
10gのフルクトース(従属栄養性の増殖用のみ)、10mLの微量元素溶液(TSE)
、ならびに10mLのWolfeのビタミン溶液を含有した。TSE溶液の組成は、(L
あたり)2gのNTA、1gのMnSO4・H2O、0.8gのFe(SO4)2(NH
4)2・6H2O、0.2gのCoCl2・6H2O、0.2mgのZnSO4・7H2
O、0.02gのCuCl2・2H2O、0.02gのNaMoO4・2H2O、0.0
2gのNa2SeO3、0.02gのNiCl2・6H2O、および0.02gのNa2
WO4・2H2Oである。ビタミン溶液の組成は、(Lあたり)2mgのビオチン、2m
gの葉酸、10mgの塩酸ピリドキシン、5mgのチアミンHCl、5mgのリボフラビ
ン、5mgのニコチン酸、5mgのパントテン酸カルシウム、0.1mgのビタミンB1
2、5mgのp-アミノ安息香酸、および5mgのチオクト酸である。培地を嫌気的に調
製し、培地のpHを滅菌前に5.8に調整した。接種の前に、100mLのCaGM培地
を、1mLの還元剤1(100mLの水あたり4gのシステインHCl)および1mLの
還元剤2(100mLの水あたり7.64gのNTA、5.33gのNa2CO3、およ
び8.5mLのTiCl3)で還元した。
【0074】
液体培地上での細胞増殖を600nmで分光光度的にモニターした(OD600)。ヘ
ッドスペース圧力の変化は、Rugged Digital Pressure Gau
ge DPG120(Omega Engineering)を用いて測定した。寒天プ
レート上でのC.autoethanogenumの増殖のために、必要に応じて抗生物
質(7.5μg/mLチアンフェニコール、6μg/mLクラリスロマイシン)を有する
YTF固体培地(10g/Lフルクトース、10g/L酵母エキス、16g/Lトリプト
ン、0.2g/L塩化ナトリウム、15g/L細菌寒天(oxoid)、pH5.8)を
用いた。全ての変異誘発作業は、37℃の嫌気性ワークステーション内で行った(Don
Whitley Scientific Ltd)。株の比較のために、C.auto
ethanogenum野生型(WT)または組換え株を含有する3~4の生物学的複製
物を、増殖基質として10g/Lのフルクトース、200kPaのCO、または150k
PaのH2+50kPaのCO2のいずれかを有する50mLのCaGM培地を含有する
250mLの血清ボトル中で増殖した。New Brunswick Innovaシェ
ーカー(Eppendorf)の内部で攪拌(225rpm)しながら37℃でインキュ
ベートした。標準化された0.5 OD600当量の指数関数的に増殖する培養物を接種
材料として使用した。
【0075】
1.2 DNA操作
DNA操作およびクローニングは、Sambrook(Sambrook,Molec
ular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Sp
ring Harbor Laboratory Press,New York,20
01)による標準的な技術に従って実施した。C.autoethanogenum由来
のゲノムDNAを、PCR診断のためにDNeasy Blood and Tissu
eキット(Qiagen)を用いて単離した。サザンブロット分析のために、Bertr
amおよびDurre(Bertram,Arch Microbiol,151:55
1-557,1989)に従って、C.autoethanogenumのゲノムDNA
を抽出した。C.autoethanogenumからのプラスミドDNAを、20mg
/mLのニワトリリゾチームの補充を有するQIAprep Spin Minipre
pキット(Qiagen)を用いて溶解バッファーに単離し、37℃で30分間インキュ
ベートした後、下流の手順に進んだ。Phusion DNAポリメラーゼ(NEB)ま
たはQ5 DNAポリメラーゼ(NEB)を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行
った。この例で使用したプライマーを表3に列挙する。プライマーは、Geneious
(Biomatters)を用いて設計し、Sigma-AldrichまたはEuro
finsによって合成した。プラスミドおよびアンプリコンのサンガー配列決定は、So
urce Bioscience Plc(Nottingham、英国)によって行っ
た。
【表3】
【0076】
1.3 プラスミドベクターおよび対立遺伝子交換カセット
この実施例(表4)で使用される全てのプラスミドは、モジュラーのpMTL8000
0シリーズ、E.coli-Clostridiumシャトルベクター(Heap,J
Microbiol Meth,78:79-85,2009)から誘導される。
【表4】
【0077】
ClosTron変異誘発、およびイントロン再標的化ツールは、一般に最も広く使用
されているクロストリジウム変異原の1つを表す。それは、標的遺伝子を挿入により破壊
する移動性のグループIIイントロンを使用する(Heap,J Microbiol
Meth,80:49-55,2010;Heap,J Microbiol Meth
,70:452-464,2007)。ここで、ClosTronは、遺伝子adhE1
、adhE2、aor1およびaor2において安定なKO株の単離を介して、アセトゲ
ン、特にC.autoethanogenumにうまく適用できることが示されている。
【0078】
プラスミド「pMTL83151-PacsA」の構築のために、C.autoeth
anogenumのacsA(CAETHG_1621)のプロモーター領域をオリゴヌ
クレオチド「PacsA-NotI-F」および「PacsA-NdeI-R」を用いて
増幅し、続いてプラスミドpMTL83151(Heap,J Microbiol M
eth,78:79-85,2009)内に、制限部位NotIおよびNdeIを用いて
クローニングした。aor1発現プラスミド「pMTL83151-PacsA-aor
1」を構築するために、プライマーを用いてaor1を2回のスプライス重複伸長(SO
E-PCR)(Warrens,Gene,186:29-35,1997)に晒して、
制限部位NdeIおよびKpnIを用いてクローニングする前に2つの干渉NdeI部位
を除去した。両方の干渉部位(ヌクレオチド975および1284)において、ヌクレオ
チド「CAT」は、同じアミノ酸を保持しながら「CTT」に変異した。ClosTro
n再標的化プラスミドの構築のために、Perutkaアルゴリズム(Perutka,
J Molec Biol,336:421-439,2004)を使用して、Clos
TronウェブサイトからadhE1、adhE2、aor1、およびaor2内の適切
なイントロン標的化領域を、コンピュータを用いて生成した。次いで、DNA2.0In
c.は、344bpイントロン標的化領域を合成し、それを制限部位HindIIIおよ
びBsrGIを用いてClosTronベクターpMTL007C-E2(Heap,J
Microbiol Meth,80:49-55,2010)内にクローニングして
、プラスミド「pMTL007C-E2::adhE1a_115s」(adhE1の標
的化上流Aldドメイン)、「pMTL007C-E2::adhE1b_541s」(
adhE1の標的化下流Adhドメイン)、「pMTL007C-E2::adhE2_
662s」、「pMTL007C-E2::aor1_361s」、および「pMTL0
07C-E2::aor2_370s」をもたらした。
【0079】
対立遺伝子交換プラスミドを、「pMTL-AMH101」と呼ばれるC.autoe
thanogenum pyrE(CAETHG_1476)のC末端の227bpを欠
失させるために使用した。簡単に述べると、これは(カウンター選択マーカーとして使用
される)C.acetobutylicum ATCC824からの異種pyrE(ca
c_0027)を含有し、その間にlacZαを有する303bpの短いホモロジーアー
ム(SHA)および1219bpの大きなホモロジーアーム(GHA)を対立遺伝子交換
カセットとして含む。C.autoethanogenum adhE1、adhE1+
2、およびaor2のインフレーム欠失(IFD)対立遺伝子交換カセットは、類似の長
さ(518~580bp)の2つのホモロジーアームからなり、SOE-PCRおよびオ
リゴヌクレオチドを用いてアセンブリングされる。全てのIFDカセットは、5’-非翻
訳領域(UTR)および3’-UTRに影響を与えることなく、標的遺伝子座の開始およ
び終止コドンのみを保持した。SOE-PCRについて、IFDカセットをSacIIお
よびAscIで消化し、プラスミド「pMTL84151-ΔadhE1」、「pMTL
84151-ΔadhE1+2」、および「pMTL84151-ΔAOR2」を生成す
るために、プラスミドpMTL-AMH101にクローニングした。pyrEの回復のた
めに、プラスミドは526bpのSHAおよび1213bpのGHAを有するpyrE修
復対立遺伝子交換カセットからなるpMTL-AMH102をコールした。
【0080】
1.4 C.autoethanogenumへのプラスミド転移
プラスミドを、E.coliドナー株CA434(接合プラスミドR702を含有する
HB101)に形質転換し、その後、以前に確立された方法(Mock,J Bacte
riol,197:2965-2980,2015;Purdy,Molec Micr
obiol,46:439-452,2002;Williams,J Gen Mic
robiol,136:819-826,1990)を用いて、接合を介してC.aut
oethanogenumに転移した。チアンフェニコール(7.5μg/mL)を使用
して、catP系プラスミドを選択した。トリメトプリム(10μg/mL)を使用して
、接合後にE.coli CA434に対する選択に対抗した。プラスミド補完株の検証
のために、プラスミドをC.autoethanogenum接合完了体から単離し、続
いてE.coli細胞に形質転換した後、制限消化分析を「レスキューされた」プラスミ
ドで行った。16s rRNA遺伝子はまた、オリゴヌクレオチド「univ-0027
-F」および「univ-1492-R」を用いて接合完了体のゲノムDNAから増幅さ
れ、続いて検証のためにサンガー配列決定された。
【0081】
1.5 C.autoethanogenum ClosTron株の構築
ClosTron再標的化プラスミドをC.autoethanogenumに接合し
た後、6μg/mLクラリスロマイシンを補充した固体YTF培地にチアンフェニコール
およびトリメトプリム耐性コロニーを転移し、標的遺伝子座にイントロン挿入を選択し、
プラスミド損失がチアンフェニコールを補充した培地で増殖する能力の喪失が明らかであ
ることを示すまで、同じ選択的培地の上で繰り返し再培養した。クラリスロマイシン耐性
コロニーからゲノムDNAを抽出し、遺伝子座特異的隣接プライマーを用いてPCRスク
リーニングに供し、WT対照より1.8kb大きいアンプリコンを生成するクローンを同
定した(特定のDNA座でのClosTron挿入を示す)(
図2および
図3)。Clo
sTronアンプリコンのサンガー配列決定を行い、ClosTron挿入の位置を確認
した。最終検証として、製造者の指示に従ってジゴキシゲニン(DIG)High-Pr
ime DNAラベリングおよび検出キット(Roche)を用いてサザンブロット分析
を行い、各変異体に1つだけのClosTron挿入が確実に起こるようにした(
図2お
よび
図3)。
【0082】
1.6 対立遺伝子交換手順
1.6.1 ΔpyrE株の作製
ClosTron変異誘発は迅速かつ再現性があるが、いくつかの制限を有する。最も
注目すべきことに、イントロン挿入は、下流遺伝子に極性効果を有することができる。こ
こで、疑似自殺ベクターとClostridium acetobutylicumのオ
ロチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(pyrE)遺伝子からなるプラスミドコー
ドカウンター選択マーカーの使用に基づいて、IFDを作ることができるC.autoe
thanogenumの対立遺伝子交換方法を開発した。これは、Clostridiu
m difficile(Ng,Expending the repertoire
of gene tools for precise manipulation o
f the Clostridium difficile genome,PLOS
One,8,2013)およびC.acetobutylicum(Ehsaan,Bi
otechnol Biofuels,9:1-20,2016)で取られるものと同等
のアプローチであり、そこでは、チアンフェニコールを補充した培地上でのより速い増殖
(より大きなコロニー)に基づいて、擬似自殺ノックアウトプラスミドの単一交差染色体
組み込み体が検出される。疑似自殺プラスミドは、結果的に娘細胞間の分離が不十分な複
製欠損プラスミド(この場合、プラスミドpMTL84151のレプリコン)を利用し、
抗生物質の存在下での細胞集団の増殖を制限する。したがって、単一のクロスオーバー組
み込み体は、増殖優位性を有し、そしてカウンター選択剤である5-フルオロオロチン酸
(FOA)上にプレーティングすることにより、ダブルクロスオーバープラスミド抽出誘
導体を選択するために使用されることができる。後者は、プラスミドにコードされたPy
rE酵素の作用により、毒性の高い化合物5-フルオロウラシル(FU)に代謝される。
プラスミド切除後にpyrE遺伝子を失うそれらの細胞のみが生き残ることができる。切
除事象は、元のWT対立遺伝子または所望の変異型IFD対立遺伝子のいずれかを有する
細胞をもたらす。2つの集団は、適切なPCRスクリーニングによって区別することがで
きる。
【0083】
pyrEがカウンター選択マーカーとして使用されるためには、宿主はpyrE陰性株
でなければならない。そのような宿主は、対立連結交換(ACE)を用いて比較的容易に
作製される(Heap,Nucleic Acids Res,40:e59,2012
)。したがって、pMTL-YN18(Ng,Expending the reper
toire of gene tools for precise manipula
tion of the Clostridium difficile genome
,PLOS One,8,2013)に相当するACEベクターを作製して、天然pyr
E遺伝子(CAETHG_1476)の3’末端(227bp)を欠くC.autoet
hanogenum誘導体を生成した。aor2のIFDがpyrEベースKOベクター
(pMTL84151-Δaor2)およびFOAを用いた対抗選択を用いて対立遺伝子
交換される前に、遺伝子aor1を、このΔpyrE株においてClosTron変異誘
発を用いて、まず不活性化した。aor1+2KO株の作製後、C.difficile
のpMTL-YN1に類似した特別に構築されたACE補正ベクターを用いて、変異体p
yrE対立遺伝子をWT(ウラシル原栄養性)に回復させた(Ng,Expending
the repertoire of gene tools for precis
e manipulation of the Clostridium diffic
ile genome,PLOS One,8,2013)。
【0084】
採用された手順は以前に記載された通りであった(Heap,Nucleic Aci
ds Res,40:e59,2012)。adhE1、adhE1+2、および正およ
び負の選択マーカーとしてpyrEを用いるaor2のさらなるIFDのホストとして働
くΔpyrE株の構築のために、プラスミドpMTL84151-ΔpyrEが、接合を
介してC.autoethanogenumに形質転換した。接合完了体は、チアンフェ
ニコールおよびトリメトプリムを補充したYTF固体培地上で再培養し、急速に増殖する
一重交差組込み体クローンを濃縮および同定した。ゲノムDNAを単離し、適切な座位特
異的隣接プライマーと共にプラスミド特異的配列にアニーリングする2つの異なるプライ
マー(ACE-プラスミド-FおよびACE-プラスミド-R)を用いてPCR分析に供
した。DNA断片の存在は、クローンが実際には一重交差組込み体であることを示したが
、その大きさはどのホモロジーアームで組換え事象が起こったかを示した。PCRで検証
された一重交差組込み体を、10g/Lのフルクトースおよびチアンフェニコールを補充
したCaGM液体培地に接種し、嫌気性ワークステーション内で2日間増殖させた後、段
階希釈してプレーティングした。希少な第2組換え事象のスクリーニングを容易にするた
めに、CaGM固体培地は、1g/Lの酵母エキスを1g/Lのカゼイン酸加水分解物に
置き換え、1.5mg/mLのフルオロオロチン酸(FOA)および5μg/mLのウラ
シルを補充した。37℃でのインキュベーションを嫌気性ワークステーション内で行い、
2~3日以内に出現したFOA耐性コロニーを同じ選択培地に再培養した後、遺伝子座特
異的隣接プライマーを用いたPCRスクリーニングを行い、二重交差組換えクローンを野
生型復帰クローンと区別した。サンガー配列決定を用いて、予想される遺伝子型を確認し
た(
図4)。
【0085】
1.6.2 ΔadhE1、ΔadhE1mut、およびΔadhE1+2株の作製
adhE1+adhE2に並んでadhE1の両方のドメインの欠失の結果を調べるた
めに、C.aletethodogenumの適切なインフレーム欠失変異体を、pyr
E指向性対立遺伝子交換を用いて探索した。ΔadhE1株を作製するための最初の試み
では、株ΔadhE1mutが得られた。この株のPCRスクリーンおよびサンガー配列
決定により、C.autoethanogenumのadhE1が欠失し、adhE2の
プロモーター領域における84bpの意図しない欠失も明らかになった(
図5)。WT配
列におけるこのプロモーター領域の試験は、84bp欠失に隣接する2つの9bp反復の
存在を明らかにした(
図5)。84bp配列は、推定ターミネーターおよびadhE2プ
ロモーターの-10ボックスおよび-35ボックスを含む。意図しない84bpの欠失無
しでadhE1の「完全な」IFD株を生成する第二の試みは成功し、株ΔadhE1を
得た(
図5)。しかしながら、この株は、これらのプラスミドの株を治癒しようと繰り返
し試みられたにもかかわらず、IFDを生成するために使用されたプラスミドを持続的に
保持していた。adhE1およびadhE2ダブルIFD株、ΔadhE1+2の作製は
、PCRスクリーンにより確認され(
図5)、サンガー配列決定は、adhE1の5`-
UTRおよびadhE2の3-`UTRにおける複雑化無しに両方の遺伝子が成功して削
除されたことを示した。IFDの後、株ΔadhE1+2のチアンフェニコール感受性ク
ローンは得られなかった。ΔadhE1およびΔadhE1+2株は、それらを遺伝的に
不安定にするIFD株を生成するために使用されるプラスミドの保持によって、さらに特
徴付けられなかった。
【0086】
プラスミドの損失がチアムフェニコール耐性の喪失によって実証された後、ΔpyrE
株は、プラスミドpMTL84151-ΔadhE1、およびΔadhE1およびΔad
hE1+2株の構築のための接合を介したpMTL84151-ΔadhE1+2、それ
ぞれの受信者のための宿主として役立ち得た。一重交差組込み体および二重交差FOA耐
性ウラシル栄養要求性クローンを(上記ΔpyrE株と同様の方法で)両方の標的に対し
て得た。最初の試みでは、サンガー配列決定により、adhE1のIFDに加えて、ad
hE2のプロモーター領域に意図しない84bpの欠失が生じたことが明らかになった。
「ΔadhE1mut」と呼ばれるこの株はまた、チアンフェニコール抵抗性の喪失によ
って実証されたプラスミドの損失を有した。意図しない84bpの欠失無しで「完全な」
「ΔadhE1」株を生成する第二の試みは成功したが、(永続的なチアンフェニコール
抵抗によって示される)プラスミドを失う繰り返された試みは失敗した。ΔadhE1+
2株について、サンガー配列決定は、adhE1の5`-UTRおよびadhE2の3`
-UTRにおける複雑化無しでadhE1およびadhE2の成功した欠失を明らかにし
た。しかしながら、再培養の繰り返しによって、この株のチアンフェニコール感受性コロ
ニーを単離することはできなかった。
【0087】
1.6.3 aor1+2ダブルKO株の作製
aor1+2ダブルノックアウト株の構築のために(ここでは「aor1+2KO」と
呼ばれる)、aor1遺伝子座を、ΔpyrE株でClosTronプラスミドpMTL
007C-E2::aor1_361sを使用して最初に不活性化した。プラスミドが失
われた後、IFDプラスミドpMTL84151-Δaor2を形質転換し、一重交差組
込みクローンおよび二重交差組換えクローンの単離を上記のように行った。これらのao
r1およびaor2ダブルKOであるがウラシル栄養要求性クローンを、プラスミドpM
TL-AMH102で形質転換してウラシル原栄養性を回復した。急速に増殖するチアン
フェニコール耐性コロニーを、10g/Lのフルクトースを補充したCaGM固体培地上
にプレーティングしたが、1g/Lの酵母エキスを、ウラシル補充無しの1g/Lのカゼ
イン酸加水分解物で置き換えた。最終的な検証として、aor1におけるClosTro
n挿入事象、aor2のIFDおよびpyrEの回復を検証するために、隣接プライマー
を用いてPCRスクリーンおよびその後のサンガー配列決定を行った。チアンフェニコー
ル感受性の形態のプラスミド損失をさらに実証した。
【0088】
1.7 遺伝子発現解析のための細胞収穫
C.autoethanogenum組換え株を、それぞれが10g/Lのフルクトー
スを補充した200mLのCaGMを含有する500mLの圧力+実験室ボトル(Dur
an)の3連で培養した。株ΔpyrEおよびΔadhE1mutについて、10μg/
mLのウラシルを補充した。プラスミドpMTL83151-PacsAおよびpMTL
83151-PacsA-aor1を含むC.autoethanogenumにプラス
ミドを維持するために、7.5μg/ mLのチアンフェニコールを補充した。約12の
OD600相当の細胞を、4℃、3,220×g、10分間の遠心分離により、様々な増
殖期で収穫した。上澄みを除去し、細胞ペレットをピペットで1mLのRNAlater
Stabilization Solution(Ambion)に再懸濁した。4℃
で一晩インキュベートした後、細胞懸濁液を3,220×gで、4℃で10分間遠心分離
し、上澄みを捨てた後、RNA抽出まで-80℃で保存した。
【0089】
1.8 全RNA抽出およびcDNA合成
1.5mLの冷たいTRIzol(Ambion)を添加した後、融解した細胞ペレッ
トを、1gのdnature 0.1mm直径のジルコニア/シリカビーズ(Dnatu
re Ltd)を含む予め冷却した2mL微量遠心管に移した。細胞破壊は、Mini
Beadbeater-16(dnature Ltd)を使用して1分間ビーズ粉砕を
3サイクル行い、サイクルの間、氷上で1分間冷却した。20,238×gでの4℃の1
分間の遠心分離後、上澄みを採取し、100μLのクロロホルムを添加し、20秒間ボル
テックスし、次いで時折混合しながら室温で15分間インキュベートした。20,238
×g(4℃)で15分間の遠心分離後、水相を回収し、0.7容量のイソプロパノールを
添加した。試料を室温で10分間インキュベートした後、20,238×g(4℃)で1
0分間遠心分離した。上澄みを除去し、700μLの氷冷70%(v/v)エタノールで
DNAペレットを洗浄した後、20,238xg(4℃)の遠心分離をもう一度10分間
行った。上澄みを除去した後、RNAペレットを15分間風乾した後、100μLのRN
aseフリー水および1μLのRNaseOUT(Invitrogen)に再懸濁した
。
【0090】
TURBO DNase酵素(Ambion)を添加し、37℃で30分間インキュベ
ートすることにより、ゲノムDNAを除去した。DNase処理されたRNAを、RNA
Clean and Concentratorキット(Zymo Research
)を使用して、製造元の指示によって精製し、-80℃で保存した。単離したRNAの濃
度および純度を、Nanodrop(Thermo Scientific)を使用して
分光光度的に分析した。単離されたRNA中に残留ゲノムDNAが存在しないことを確実
にするために、1μLの各RNAサンプルを、プライマー対「adhE2-662s-F
」および「adhE2-662s-R」を用いてPCR分析に供した。2100 Bio
analyzer(Agilent Technologies)を用いてRNAの品質
を調べ、RNA合成番号(RIN)が7より大きいRNAサンプルをcDNA合成に使用
した。20μLのSuperScriptIII逆転写反応(Invitrogen)あ
たり2μgの全RNAを使用し、qPCR分析の前にRNaseフリー水で10倍に希釈
した。
【0091】
1.9 定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)
標的遺伝子(adhE2)およびハウスキーピング遺伝子に対するプライマーおよびプロ
ーブの組(gyrAおよびrho)(表5)を、Custom TaqMan Assa
y Design Toolを用いて設計し、Applied Biosystemsか
らSingle-Tube Custom TaqMan Gene Expressi
on Assayとして購入した。gyrA(CAETHG_2130、DNAジャイレ
ースサブユニットAをコードする)およびrho(CAETHG_2327、転写終結因
子をコードする)を、それらが密接に関連したアセトゲンC.ljungdahlii
DSM13528において異なる炭素源およびストレスにおいて最も安定な遺伝子発現レ
ベルを示したため(Liu,J Biosci Bioeng,116:460-464
,2013)、ハウスキーピング遺伝子として選択した。TaqManプローブおよびプ
ライマーの増幅効率は、テンプレート(データは示していない)のような連続希釈したc
DNAを用いて標準曲線を構築することによって(R2は≧0.998)94.2~99
.7%であることが経験的に決定された。
【表5】
【0092】
全てのqRT-PCR反応を、96ウェルMicroseal PCRプレート(Bi
o-Rad Laboratories)内で準備し、1μLの希釈cDNAを含む20
μL容量の3連で、1μLの20x Custom TaqMan Gene Expr
ession Assay、10μLの2x TaqMan Gene Express
ion Master Mix(Applied Biosystems)、および8μ
Lのヌクレアーゼフリー水内で実行した。各TaqManプローブおよびプライマーqR
T-PCRマスターミックスについて、非テンプレート対照(NTC)を含めた。各qR
T-PCRの実行は、95℃で12分間の最初の変性およびポリメラーゼ活性化、続いて
40サイクルの95℃で15秒間の変性と60℃で60秒間の複合アニーリングおよび伸
長とを含んだ。PCRプレート内の各ウェルにシグナルの蓄積を記録するためにThe
CFX connect Real-Time PCR Detection Syst
em(Bio-Rad Laboratories)を使用し、付随するCFX Man
ager Softwareを使用して正規化遺伝子発現分析を実施した。
【0093】
1.10 分析化学
代謝物の分析は、30℃で動作されるRID(Refractive Index D
etector)および30℃に維持されるAminex HPX-87Hカラム(13
00×7.8mm、粒径9μm)(Bio-Rad Laboratories)を備え
たVarian ProStar HPLCシステムを用いて実施した。わずかに酸性化
した水(0.005M H2SO4)を流速0.5mL/分の移動相として使用した。タ
ンパク質および他の細胞残渣を除去するため、試料を20,238xgで5分間遠心分離
し、上澄みをSpartan13/0.2RCフィルタで濾過した。次いで、10μLの
上澄みを分析のためにHPLCに注入した。
【0094】
1.11 データ分析とプレゼンテーション
GraphPad Prismを使用して、統計分析およびグラフ表示結果を得た。両
側の、対になっていないパラメトリックスチューデントのt検定を平均値の比較に用いた
。
【0095】
1.12 間接エタノール経路の代謝操作
C.autoethanogenumのようなアセトゲンの化学量論的および熱力学的
分析は、独立栄養増殖条件下では、ATPが制限され、アセテート形成の初期ATP生成
段階およびその後のAORの作用を介したアセトアルデヒドへの変換無しで非常に少量の
エタノールしか形成できないことが予期された(FastおよびPapoutsakis
、2012;Mockら、2015)。AOR活性に必要な還元フェレドキシンは、CO
(一酸化炭素デヒドロゲナーゼによる)またはH2(電子分岐およびNADP依存性[F
eFe]-ヒドロゲナーゼ(Wangら、2013)による)の酸化から生成することが
できる。C.autoethanogenumのゲノムは、aor:aor1(CAET
HG_0092)およびaor2(CAETHG_0102)の2つのアイソフォームを
コードする。
【0096】
単一遺伝子変異体の自家栄養性増殖について、COによるaor1 KO株の血清ボト
ル増殖は、延長された誘導期(10日)によって特徴付けられ、最終的にWTのたった半
分の細胞密度に達した(p値<0.0001)(
図6)。しかしながら、この株によって
作製されたアセテートの濃度は、WTのものと同様であった。対照的に、aor1 KO
株は、WTによって生成されたエタノールのたった43%(p値=0.019)および2
3%の2,3-ブタンジオールを作った(p値<0.0001)(
図6)。aor1 K
O株は2.6mMのラクテートを合成したが、これはWTレベル(p値=0.001)の
ものよりも11倍高かった(
図6)。増殖速度および細胞密度に関して、aor2 KO
株は、aor1 KO株と非常に類似した挙動だったが、この場合、増殖誘導期は25日
間に延長された(
図6)。しかしながら、WTと比較して、aor2株は、170%多い
エタノール(p値=0.009)、36%少ないアセテート(p値=0.0001)、お
よび類似のレベルの2,3-ブタンジオールおよびラクテートを生成した(
図6)。
【0097】
aor1 KO株を補完する試みにおいて、プラスミドpMTL83151-Pacs
A-aor1をこの株に形質転換した(
図7)。増殖誘導期に関しては、補完された株は
WTのように挙動した。培養物は、aor1 KO株(p値=0.010)によって達成
された0.85と比較して、1.28のOD600の最終細胞密度に達した(p値=0.
010)(
図8)。対照的に、生成されたエタノールおよびラクテートのレベルは、補完
された株においてWTレベルに回復した(
図8)。
【0098】
単一遺伝子aor変異体の従属栄養増殖について、従属栄養増殖に対するaor不活化
の影響の評価のために、aor1 KOおよびaor2 KO株をWTと一緒に、炭素源
としてフルクトース上で増殖した。
図9に示すように、aor KO株は両方ともWTと
同等の細胞密度に達した。WTと比較して、aor1 KO株は、21%多いアセテート
(統計的に有意ではない)、33%少ないエタノール(p値=0.014)、および61
%少ない2,3-ブタンジオールを生成した(p値=0.018)(
図9)。対照的に、
aor2 KO株は、WTに類似したアセテートおよび2,3-ブタンジオールの量を合
成したが、47%多いエタノールを合成した(p値=0.003)(
図9)。HPLC結
果は、3つの株全てが、提供されたフルクトースを完全に枯渇させ、ラクテートはほとん
どまたは全く生成しなかったことを示した(データ示さず)。
【0099】
2つのAORアイソザイムの異なる役割について、2つのAORアイソザイムは同じ長
さであり、それらは78%の同一性を共有するが、トランスクリプトームデータは、ao
r1がCOでの増殖中にaor2よりも5~10倍高いレベルで発現されることを示し(
Mockら、2015)、従属栄養増殖と比較して独立栄養増殖の間に両方のaor遺伝
子がより高いレベルで発現される。発現データと一致して、(i)C.autoetha
nogenumにおけるより高い発現aor1の不活性化は、COの存在下でのエタノー
ルおよび2,3-ブタンジオールの増殖および形成に対する衰弱作用を有し、(ii)a
or1 KO株の増殖は、炭素源としてのフルクトースにはあまり影響されなかったが、
エタノール生成は有意に減少した。対照的に、aor2の不活性化は、一貫してCOまた
はフルクトースでの増殖中のエタノール生成を増加させた。対照的な表現型の1つの可能
な説明は、AOR2が主としてアセトアルデヒドの酸化において機能するのに対して、A
OR1は主に酢酸の還元において機能するということである。あるいは、aor2の不活
性化は、高度に発現されたおそらくより効率的なAOR1における基質へのアクセスの競
合を減少させ、エタノール生成の増加をもたらすことができる。これらの結果は、C.a
utoethanogenumにおけるエタノール生成におけるaor1とaor2との
間の対照的な役割を総括的に示唆している。
【0100】
aor1 KO株およびaor2 KO株の両方とも、長い増殖誘導期を示し、COで
増殖している間に最終細胞密度を減少させ、CO酸化から生じる還元フェレドキシンの再
利用の欠如を示した。還元型フェレドキシンのオフロードの別の方法は、・アセチル-C
oAおよびCO
2をピルベートに変換するピルベート:フェレドキシンオキシドレダクタ
ーゼ(PFOR)を含む反応であり、その後、2,3-ブタンジオールおよびラクテート
などのピルベートから誘導された生成物の生成を変更し得る(
図1)。WTと比較して、
aor1 KO株(aor2 KO株ではない)によるラクテート生成の11倍高いレベ
ルは、2,3-ブタンジオールではなくラクテートの生成が、aor1の不活性化事象に
おいて酸化還元バランスを達成するための好ましい経路であることを示した。ピルベート
から、ラクテートの生成にはただ1つの酵素(ラクテートデヒドロゲナーゼ)が関与する
のに対して、2,3-ブタンジオールの生合成には3つの酵素(アセトラクテートシンタ
ーゼ、アセトラクテートデカルボキシラーゼ、および2,3-ブタンジオールデヒドロゲ
ナーゼ)が関与する(Kopkeら、2014;Kopkeら、2011)(
図1)。2
,3-ブタンジオール(貴重な基盤化学物質)が好ましい生成物である場合、ラクテート
デヒドロゲナーゼ(ldhA;CAETHG_1147)(Kopkeら、2014)は
、aor1欠損株において不活性化され得る。
【0101】
しかしながら、C.autoethanogenumにおける多数のaor遺伝子は、
不活性化されたaor遺伝子が不活性化遺伝子に関連する活性のいずれかの損失を補い得
るため、単一またはKO株からの表現型の解釈を困難にする。この実施例で作製されたa
or1+2ダブルKO株は、機能性AORが完全になく、アセトアルデヒドを介してアセ
チル-CoAをエタノールに直接還元することに依存しなければならない独自の株を表す
。
【0102】
ダブルAOR変異体の独立栄養性増殖について、純粋なCOでの増殖中に、aor1+
2ダブルKO株は長い増殖誘導期を示し、最終的にWTよりも69%低い細胞密度を達成
し(p値<0.0001)、WT対照における163kPaの減少に比べて実験の間にヘ
ッドスペース圧力をたった101kPa減少させることができた(
図6)。この遅れた増
殖と不十分なガス消費は、COの増殖と利用を支えるAORの重要な役割を強調する。
【0103】
WTと比較して、COからの代謝生成に関して、ダブルKO株は、46%少ないエタノ
ール(p値=0.034)、38%少ないアセテート(p値<0.0001)、66%少
ない2,3-ブタンジオール(p値<0.0001)を生成したが、7.5倍高いレベル
のラクテートを生成した(p値<0.0001)(
図6)。これらの結果は、エタノール
力価がAOR不活性化の結果として半減したが、アセチル-CoAの直接還元を介して残
りの半分のエタノールをCOからまだ合成できることを示している。aor1+2ダブル
KO株は、aor1またはaor2単一KO株のいずれかと比較した場合、増殖およびエ
タノール形成の点でより大きな大きさの欠損を示さなかったことに言及することは価値が
ある。COで増殖するaor1+2ダブルKO株の表現型は、aor1単一KO株の表現
型に最もよく似ており、aor1(aor2ではなく)がCOおよびエタノール生合成に
おける増殖を支持する主な酵素であるという、さらなる証拠を呈去した。
【0104】
H
2+CO
2では、aor1+2ダブルKO株の増殖誘導期はわずかに増加したが、W
Tと同様の細胞密度まで増殖することができ、WT対照と同じ量のヘッドスペース圧を減
少させた(
図10)。モルベースでは、還元フェレドキシンの量の半分だけがCOよりも
H
2から生成され(
図1)、酸化還元不均衡がより少なくなり、KO株がH
2+CO
2に
対してほとんど影響を受けずに増殖することができる理由を説明する。アセテート生成は
影響を受けなかったが、KO株はWTよりも9.2倍少ないエタノールを生成した(p値
<0.0001)(
図10)。ラクテートまたは2,3-ブタンジオールは、どちらの株
によっても生成されなかった(データ示さず)。
【0105】
非常に高い特定のAor活性がH2+CO2で増殖されたC.autoethanog
enumの細胞抽出物中で検出され、これはまた、COで増殖された細胞抽出物より4倍
高く、フルクトースで培養された細胞より5.3倍高いという発見(Mockら、201
5)は、H2+CO2条件下でのエタノール生合成におけるAorの重要性を強調した。
その結果、Aorの作用無しにATP制限H2+CO2条件下でエタノールをほとんど生
成することができないというFastおよびPapoutsakis(2012)ならび
にMockら(2015)の予想を確認した。同時に、C.ljungdahlii(K
opkeら、2010)およびC.carboxidivorans(Bruantら、
2010)などの著名なアセトゲン系エタノール生成菌はAorを保有しているが、Ao
rを欠くAcetobacterium woodii(Poehleinら、2012
)などのアセトゲンを非エタノールは生成する。
【0106】
フルクトースに対するATPが十分な従属栄養成長の下で、aor1+2ダブルKO株
の増殖、エタノールおよび2,3-ブタンジオール生成は有意に影響されなかった(
図9
)。Pyrococcus furiosusにおいて、唯一のAorの欠失が、マルト
ースで増殖する間に最小のエタノール生成をもたらした(Basenら、2014)。
【0107】
1.13 aor1およびaor2両方の完全な破壊は、カルボキシル酸のアルコール
への還元を無効にする
【0108】
C.ljungdahliiおよびC.ragsdaleiのようなAorを含むアセ
トゲンは、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、およびカプロン酸のようなカルボン酸の範囲を
、電子供与体としてCOを用いて、対応する第一級アルコールに触媒的に還元することを
示す(Isomら、2015;Perezら、2013)。C.autoethanog
enumにおけるAorがそのような反応を触媒することができるかどうかを調べるため
に、WTおよびaor1+2ダブルKO株を、補充した60mMアセテート、40mMプ
ロピネート、および40mMブチレートの存在下でCO増殖に供した。
【0109】
誘導期が5日から1日に短縮されたことによって(
図11)、60mMのアセテート(
生理学的代謝産物)の補給は、C.autoethanogenumのCO増殖に刺激効
果を有したが、KO株では有さなかった。早期の指数関数期においてWTにより最大31
.3mMの酢酸塩が消費されたが、定常期で79.1mMのアセテートの純生成を記録し
た(
図11)。定常期では、WTによって最大70.8mMのエタノールが生成された(
図11)。対照的に、aor欠損株は、いずれの増殖段階においてもアセテートを消費す
ることができず、わずか7.2mMのエタノールしか生成しなかった(
図11)。非常に
低い潜在的反応(Eo’=-580mV)のために、酢酸のフェレドキシンを減少させた
アルデヒドへの還元は、標準条件(ΔGo’=35kJ/mol)(Thauerら、1
977)下では熱力学的に非常に好ましくない(Loach、1976)。しかしながら
、6.0の細胞内pHおよびアセトアルデヒド濃度よりも1000倍高い細胞内アセテー
トを有する生理学的条件では、反応はエキソ酸性である(Mockら、2015)。C.
autoethanogenumの指数関数的増殖の間に付随してエタノールを生成する
アセテートの消費は、アセトゲンがCOを還元剤として用いて酢酸の還元を容易に触媒す
ることを示している。
【0110】
アセテートの補充と同様に、CO培養中に非生理的基質プロピオネートの添加が、WT
の成長誘導期を5日間から2日間に減少したが(
図12)、aor1+2ダブルKO株の
増殖誘導期は変更されなかった。0.61(補給なし)~1.1(プロピオネート補充)
の細胞密度(OD600)の増加およびWTの同レベルに対するヘッドスペース圧力の減
少が、ダブルKO株について観察された(
図12)。プロピオネートの濃度は変わらない
ままで、ダブルKO株の培養物中では1-プロパノールは検出されなかった(
図12)。
対照的に、WT株の培養物では、24.2mMのプロピオネートが消費され、20.9m
Mの1-プロパノールが指数増殖期に生成された(
図12)。
【0111】
COの存在下でのブチレート補充の場合、aor1+2ダブルKO株は、WTと同様の
OD600まで増殖し、ヘッドスペース圧を同程度まで低下させた(
図13)。KO株は
、WTより17%多いアセテート(p値=0.019)、36%多い2,3-ブタンジオ
ール(統計学的に有意ではない)、2.8mMのラクテート(WTでは生成しなかった)
を生成したが、44%少ないエタノールを生成した(p値=0.016)。アセテートと
プロピオネートを代謝することができないことと一致して、KO株は補充されたブチレー
トの消費を示さず、1-ブタノールを生成しなかった(
図13)。対照的に、WT培養物
では7.4mMのブチレートが消費され、定常増殖期には6.0mMの1-ブタノールが
生成された(
図13)。
【0112】
まとめると、これらの結果は、C.autoethanogenumのAorがカルボ
ン酸の対応する第一級アルコールへの還元に必要であることを実証した。より高いパーセ
ンテージの酸変換を達成するために、血清ボトルのヘッドスペースをCOで再生しなけれ
ばならないであろう。C.autoethanogenumにおけるAorの明らかな広
い基質範囲は、P.furiosusからのAorの結晶構造が、脂肪族および芳香族ア
ルデヒドを含む基質の範囲を収容するのに十分に広いチャネルを同定したという発見と一
致する(Chanら、 1995)。C.autoethanogenumからのAor
は、Clostridium drakei(Gossnerら、2008)、Clos
tridium scatologenes(Kuselら、2000)、Eubact
erium limosum(Genthnerら、1981)、およびOxobact
er pfennigii(KrumholzおよびBryant、1985)などのブ
チレート生成アセトゲンに異種的に発現され得て、1-ブタノールを生成させた。
【0113】
1.14 adhE2の不活性化は、従属栄養条件下でのエタノール生成を減少させる
【0114】
溶媒生成経路の一部として、二機能性AdhEは、多くの発酵性微生物において一般的
である。AdhEは、典型的には、N末端アセチル化Aldドメインとそれに続くC末端
Fe型Adhドメインからなる(Extanceら、2013;Membrillo-H
ernandezら、2000)。アルコール形成におけるAdhEの重要な役割は、C
.ljungdahlii(Banerjeeら、2014;Leangら、2013)
、C.acetobutylicum(Fontaineら、2002)、C.ther
mocellum(Loら、2015)、E.coli(Membrillo-Hern
andezら、2000)、Lactococcus lactis(Arnauら、1
998)、Geobacillus thermoglucosidasius(Ext
anceら、2013)、およびThermoanaerobacter ethano
licus(Pengら、2008)において実証されてきた。C.acetobuty
licumからの精製AdhE2とT.ethanolicusからのAdhEは、高い
Ald活性を示したがAdh活性は低く(Fontaineら、2002;Pengら、
2008)、これは多くの発酵微生物が複数のadh遺伝子を持つ理由を説明することが
できる。欠失研究および別個のAdhEドメインの特徴付けは、AldドメインおよびA
dhドメインが機能的に自律的であることを示すので(Arnauら、1998;Che
nら、2004;Espinosaら、2001)、C.autoethanogenu
mにおけるadhE1のAldドメインおよびAdhドメインは、ClosTronを用
いて独立して破壊され、それぞれ「adhE1a KO」および「adhE1b KO」
株を生成した。「adhE2」KO株については、Aldドメインのみを標的とした。
【0115】
フルクトースに対するadhE1a KO株とadhE1b KO株両方の増殖は、W
Tよりわずかに長い誘導期によって特徴付けられたが、細胞は最終的に同様のOD600
まで増殖した(
図14)。対照的に、adhE2 KO株の最終OD600はWTよりも
28%低かった(p値<0.0001)(
図14)。インキュベーションの13日後でさ
え、0.92g/LのフルクトースがadhE2 KO株培養物中で検出されたが、他の
全ての株は3日目の前に基質を完全に使い果たした(データは示さず)。3つのadhE
KO株全ては72.2~76.5 mMのピークアセテートレベルに達し、これはWT
よりも31~43%高い(p値<0.05)(
図14)。WTと比較すると、両方のad
hE1 KO株は同様の量のエタノールを生成したが、adhE2 KO株はWTエタノ
ール力価の37%しか産生しなかった(p値=0.0035)(
図14)。3つのadh
E KO株全てが、WT培養物中に記録された2,3-ブタンジオールの半分未満を生成
した(p値<0.05)(
図14)。
【0116】
この実施例では、IFDプラスミドを失ったadhE1(AldドメインとAdhドメ
インの両方を欠く)の遺伝的に安定なIFD株を構築した。しかしながら、C.auto
ethanogenum ΔadhE1mut株におけるadhE1とadhE2間の遺
伝子間領域で84bpの意図しない欠失が、 不注意にもadhE2の転写ターミネータ
ーおよびプロモーターを除去し、株ΔadhE1mutをもたらした。親株(ΔpyrE
対照)と比較して、ΔadhE1mut株の増殖は、より長い誘導期を有していたが、両
株は、フルクトースの存在下で同様の最終細胞密度を達成した(
図15)。両方の株は等
量のアセテート(
図15)、エタノール(
図15)、および2,3-ブタンジオール(デ
ータは示さず)を生成した。
【0117】
adhE1の摂動されていないプロモーターが、この再構成の結果としてadhE2の
発現を媒介する可能性がある。この仮説をテストするために、親株とΔadhE1mut
株でadhE2 mRNAレベルを比較した。初期の指数期、後期指数期、および定常期
にフルクトースで増殖した細胞を採取した。RNAを抽出し、cDNAを生成した。遺伝
子発現分析は、親株のadhE2転写物レベルが3つの全ての時点で安定していることを
示した(3.2倍の差未満)(
図15)。対照的に、ΔadhE1mut株におけるad
hE2 mRNAレベルは、定常増殖期における16倍の増加に続く、後期指数増殖期に
初期対数増殖期から114倍の初期の減少を有する大きな変動を示した(
図15)。また
、ΔadhE1mut株におけるadhE2転写レベルは、また、全ての3つのサンプル
の時点での親株の細胞よりも(15から1359倍)有意に高い(p値<0.05)(図
15)。H
2+CO
2での独立栄養成長の間、adhE1は適度に発現される(61FP
KM)一方で、C.autoethanogenumではadhE2はほとんど発現しな
い(0.4FPKM)(Mockら、2015)。
【0118】
3つのadhE1不活性株(adhE1a KO、adhE1b KO、およびΔad
hE1mut)全てからのエタノール生成が従属栄養増殖の間に損なわれていなかったと
いう発見は、C.ljungdahlii adhE1(だがadhE2ではない)の欠
失は、WT対照より6倍少ないエタノールを生成する株を生じたという、Leangら(
2013)の発見と矛盾する。さらに、C.autoethanogenumの結果は、
adhE2不活性化がWTよりも63%低いエタノール濃度を生成したことを示した。増
殖実験の方法論における1つの違いは、この研究では10g/Lフルクトースを使用する
が、Leangら(2013)の研究では5g/Lフルクトースを使用することである。
C.autoethanogenum(Marcellinら、2016)およびC.l
jungdahlii(Nagarajanら、2013;Tanら、2013)のRN
A配列決定実験は、独立栄養増殖と比較して、フルクトースで増殖するとadhE1が有
意により高いレベルで転写されることを示し、これは、従属栄養条件下でこの遺伝子のた
めに重要であることを示唆する。
【0119】
C.autoethanogenumとC.ljungdahliiとの間のAdhE
1とAdhE2のアミノ酸(AA)配列を比較すると、AdhE1に3つの置換があり、
AdhE2に8つの置換があることが明らかになった。AdhE2におけるAA変化の1
つは、AdhドメインのNADH結合部位において生じる。これらの置換のうちの1つが
、Fe-Adhドメインにおける1つのAA変化によるC.thermocellumの
AdhEにおけるNADHからNADPHへの補因子の変化によって示されるように、基
質および補因子特異性の修飾をもたらす可能性がある(Brownら、2011)。補因
子特異性の変化は、NADHが異化反応において一般的に使用されるのに対して、NAD
PHは同化プロセスにおいて還元剤として通常使用されるため、電子および炭素流に有意
な影響を有することが期待される(Albertsら、2002)。矛盾する表現型につ
いての別の考えられる説明は、C.autoethanogenumが、フルクトース増
殖中のAdhE活性の喪失を補う他のエタノロゲン系酵素を保有し得ることである。
【0120】
1.15 いずれかのadhEの不活性化がアセトゲン系エタノール生成を一貫して増
加させる
【0121】
エタノール生成を増強しようとする従来の戦略は、一般にAdhEの導入または過剰発
現を用いる(Pengら、2008;Thapaら、2015;YaoおよびMikke
lsen、2010)。しかし、アセトゲン増殖中に課された独自のATP制限条件、お
よびC.autoethanogenumのようなアセトゲン中のエタノロゲン系Aor
の存在を考慮すると、adhEの不活性化は炭素を分裂させ、等価物をATP産生アセテ
ート形成に還元し得るという仮説が立てられた。酢酸は、アセトアルデヒド(Aorおよ
び還元フェレドキシンを介して)、次いでNAD(P)H依存性Adh(
図1)を介して
エタノールに還元されることができる。
【0122】
純粋なCOで増殖する間に、3つのadhE KO株(adhE1a、adhE1b、
およびadhE2)は全て、長い誘導期の形態で、かつWTよりも47~55%のより低
い細胞密度で有意な増殖欠損を示し(p値<0.01)(
図16)、還元等価物のリサイ
クルにおける非効率性を示唆している。低いバイオマスにもかかわらず、3つのadhE
KO株は全て、COで増殖している間、一貫して154~183%のより高い力価のエ
タノールを生成した。具体的には、adhE1a KO株は、WTより183%高い53
.4mMエタノールを生成した(p値=0.0005)。adhE1b KO株は、17
1%のより多くのエタノールを生成し(統計的に有意ではない)、adhE2 KO株は
、WTよりも154%多いエタノールを生成した(p値=0.021)(
図16)。エタ
ノール生成におけるこれらの実質的な改善は、2,3-ブタンジオール力価(p値<0.
004)において48~68%の減少によって部分的に相殺された(
図16)。adhE
1a KO株とadhE1b KO株との間の表現型の類似性を考慮すると、(Aldド
メインまたはAdhドメインにおける)adhE1内のClosTron挿入の位置は、
変異体の全体的な表現型において重要な役割を果たした。
【0123】
ΔadhE1mut株では、増強されたadhE2の発現は、AdhE1の活性の損失
を補償することができる。adhE1aとadhE1b KO株の両方と比較した場合に
この仮説と一致して、純粋なCOで増殖しながら、ΔadhE1mut株は、より穏やか
な増殖欠損を呈し、親株としてアセテートおよび2,3-ブタンジオールの同様の量を生
成した(
図17)。CO条件下で増強されたエタノール生成表現型と一致して、Δadh
E1mut株は、adhE1aとadhE1b KO株の両方によって記録された171
~183%の増加よりも有意でない、親株に比べて27%多い(統計的に有意ではない)
エタノールを生成した。
【0124】
COで増殖する間のadhE不活性化株によって示されるエタノール生成物の顕著な増
加が、Aorを使用するATP効率的な間接エタノール形成経路がアセトゲン系エタノー
ル生合成にとってより有利であるという仮説と一致する。さらなる証明として、aor1
+2ダブルKO株は、同じ増殖条件下でWTによって達成されたエタノールのわずか54
%しか生成しなかった。Mockら(2015)は、H2+CO2増殖C.autoet
hanogenumで測定されたCoA結合アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性が、
生理学的に形成されたエタノールの再利用を促進するだけであると仮説を立てた。高エタ
ノール濃度および低H2濃度の間、アセチル-CoAへのエタノール酸化は、2CO2の
アセテートへの還元に結合すると仮定されている(Mockら、2015)。この概念を
支持するために、H2+CO2上で増殖するC.autoethanogenum WT
は、指数関数的成長の間に一時的に10.3mMのエタノールを生成したが、その後固定
相の間に1.8mMまで急激に減少した。2つのadhE遺伝子に加えて、C.auto
ethanogenumのゲノムには3つの他の単機能性ald遺伝子(CAETHG_
1819、1830、および3287)がある。したがって、トリプルaldKO株の生
成は、炭素および電子をアセテート合成およびAorを介したエタノール形成にさらに導
くことができる。
【0125】
本明細書に列挙される公表文献、特許出願、および特許を含む全ての参考文献は、各参
考文献があたかも参照により組み込まれることが個々にかつ具体的に示され、かつその全
体が本明細書中に記載された場合と同じ程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。
本明細書における任意の従来技術への言及は、その従来技術が任意の国における努力傾注
分野の共通の一般的知識の一部をなすという承認ではなく、かつそのように解釈されるべ
きではない。
【0126】
本発明の記載との関連で(特に、以下の特許請求の範囲との関連で)、用語「a」およ
び「an」および「the」ならびに同様の指示語の使用は、本明細書中に他に指示がな
い限り、または文脈によって明らかに相反することがない限り、単数および複数の両方を
包含すると解釈されるものとする。用語「含むこと」、「有すること」、「含むこと」、
および「含有すること」は、特に断りのない限り、非限定的な用語(即ち、「~を含むが
これらに限定されないこと」を意味する)と解釈されるものとする。本明細書の値の範囲
の記載は、本明細書に別段の指示がない限り、範囲内に入る各それぞれの値を個々に言及
する省略法としての機能を果たすことを単に意図し、各それぞれの値は、あたかも本明細
書に個々に記載されたかのように、本明細書中に組み込まれる。本明細書に記載される全
ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに相反するこ
とがない限り、任意の好適な順序で実施され得る。本明細書に提供されるありとあらゆる
実施例または例示的な用語(例えば、「など」)の使用は、本発明をよりよく理解するこ
とを単に意図し、別段特許請求の範囲に記載されない限り、本発明の範囲を制限しない。
本明細書におけるいかなる用語も、本発明の実施に不可欠な任意の非請求要素を示すもの
と解釈するべきではない。
【0127】
本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載される。それらの好ましい実施形態の変化
形は、上記の説明を読むことによって当業者に明らかとなり得る。本発明者らは、当業者
が必要に応じてそのような変化形を採用することを予想し、本発明者らは、本発明が本明
細書に具体的に記載されるものとは別の方法で実施されることを意図する。したがって、
本発明は、適用法によって許可された通り、本明細書に添付される特許請求の範囲に記載
される主題の全ての修正物および均等物を含む。さらに、上記の要素のそれらの全ての考
えられる変化形における任意の組み合わせは、本明細書中に他に指示がない限り、または
文脈によって明らかに相反することがない限り、本発明によって包含される。
【0128】
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本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載される。それらの好ましい実施形態の変化形は、上記の説明を読むことによって当業者に明らかとなり得る。本発明者らは、当業者が必要に応じてそのような変化形を採用することを予想し、本発明者らは、本発明が本明細書に具体的に記載されるものとは別の方法で実施されることを意図する。したがって、本発明は、適用法によって許可された通り、本明細書に添付される特許請求の範囲に記載される主題の全ての修正物および均等物を含む。さらに、上記の要素のそれらの全ての考えられる変化形における任意の組み合わせは、本明細書中に他に指示がない限り、または文脈によって明らかに相反することがない限り、本発明によって包含される。
本発明の様々な実施形態を以下に示す。
1.親細菌と比較して、EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する酵素の活性が低下または排除されている、非天然細菌。
2.前記非天然細菌が、EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する前記酵素をコードする遺伝子において、少なくとも1つの破壊的変異を含む、上記1に記載の非天然細菌。
3.EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する前記酵素が、アルデヒド:フェレドキシンオキシドレダクターゼである、上記1に記載の非天然細菌。
4.前記非天然細菌はさらに、親細菌と比較して、EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によって定義される反応を触媒する少なくとも1つの酵素の活性が低下または排除されている、上記1に記載の非天然細菌。
5.前記非天然細菌が、EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によって定義される反応を触媒する前記酵素をコードする遺伝子において、少なくとも1つの破壊的変異を含む、上記4に記載の非天然細菌。
6.EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によって定義される反応を触媒する前記酵素が、二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、およびアルコールデヒドロゲナーゼからなる群から選択される、上記4に記載の非天然細菌。
7.前記非天然細菌が、アセチル-CoA、アセトアセチル-CoA、アセトアセテート、アセトン、イソプロパノール、3-ヒドロキシイソバレリル-CoA、3-ヒドロキシイソバレレート、イソブチレン、イソプレン、3-ヒドロキシブチリル-CoA、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチリルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチリル-CoA、2-ヒドロキシイソブチレート、ピルベート、アセトラクテート、アセトイン、2,3-ブタンジオール、およびラクテートからなる群から選択される生成物を生成する、上記1に記載の非天然細菌。
8.前記非天然細菌が、CO、CO
2
、およびH
2
のうちの1つ以上を含むガス状基質を消費する、上記1に記載の非天然細菌。
9.前記親細菌が、Alkalibaculum bacchi、Blautia生成物、Butyribacterium methylotrophicum、Chloroflexus aurantiacus、Clostridium aceticum、Clostridium acetobutylicum、Clostridium autoethanogenum、Clostridium botulinum、Clostridium carboxidivorans、Clostridium coskatii、Clostridium drakei、Clostridium formicoaceticum、Clostridium ljungdahlii、Clostridium ragsdalei、Desulfovibrio vulgaris、Eubacterium limosum、Geobacter sulfurreducens、Methylomicrobium alcaliphilum、Moorella thermoautrophica、Moorella thermoacetica、Rhodospirillum rubrum、Sporomusa ovata、Sporomusa silvacetica、Sporomusa sphaeroides、Thermanaerovibrio acidaminovorans、Thermanaerovibrio acidaminovorans、Thermoanaerobacter wiegelii、Thermodesulfovibrio yellowstonii、Thermodesulfovibrio yellowstonii、およびThermus thermophilusからなる群から選択される、上記1に記載の非天然細菌。
10.CO、CO
2
、およびH
2
のうちの1つ以上を含むガス状基質の存在下で上記1に記載の非天然細菌を培養することによって、生成物を生成する方法。
11.前記非天然細菌が、EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する前記酵素をコードする遺伝子において、少なくとも1つの破壊的変異を含む、上記10に記載の方法。
12.EC1.2.7.5によって定義される反応を触媒する前記酵素が、アルデヒド:フェレドキシンオキシドレダクターゼである、上記10に記載の方法。
13.前記非天然細菌はさらに、前記親細菌と比較して、EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によって定義される反応を触媒する少なくとも1つの酵素の活性が低下または排除されている、上記10に記載の方法。
14.前記非天然細菌が、EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によって定義される反応を触媒する前記酵素をコードする遺伝子において、少なくとも1つの破壊的変異を含む、上記13に記載の方法。
15.EC1.2.1.10および/またはEC1.1.1.1によって定義される反応を触媒する前記酵素が、二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、およびアルコールデヒドロゲナーゼからなる群から選択される、上記13に記載の方法。
16.前記生成物が、アセチル-CoA、アセトアセチル-CoA、アセトアセテート、アセトン、イソプロパノール、3-ヒドロキシイソバレリル-CoA、3-ヒドロキシイソバレレート、イソブチレン、イソプレン、3-ヒドロキシブチリル-CoA、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチリルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチリル-CoA、2-ヒドロキシイソブチレート、ピルベート、アセトラクテート、アセトイン、2,3-ブタンジオール、およびラクテートからなる群から選択されるアセチル-CoA誘導生成物である、上記10に記載の方法。
17.前記親細菌が、Alkalibaculum bacchi、Blautia生成物、Butyribacterium methylotrophicum、Chloroflexus aurantiacus、Clostridium aceticum、Clostridium acetobutylicum、Clostridium autoethanogenum、Clostridium botulinum、Clostridium carboxidivorans、Clostridium coskatii、Clostridium drakei、Clostridium formicoaceticum、Clostridium ljungdahlii、Clostridium ragsdalei、Desulfovibrio vulgaris、Eubacterium limosum、Geobacter sulfurreducens、Methylomicrobium alcaliphilum、Moorella thermoautrophica、Moorella thermoacetica、Rhodospirillum rubrum、Sporomusa ovata、Sporomusa silvacetica、Sporomusa sphaeroides、Thermanaerovibrio acidaminovorans、Thermanaerovibrio acidaminovorans、Thermoanaerobacter wiegelii、Thermodesulfovibrio yellowstonii、Thermodesulfovibrio yellowstonii、およびThermus thermophilusからなる群から選択される、上記10に記載の方法。