(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163077
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】未精製膜からのサポシンリポタンパク質粒子およびライブラリー
(51)【国際特許分類】
C40B 40/10 20060101AFI20221018BHJP
C07K 14/39 20060101ALI20221018BHJP
C07K 1/16 20060101ALI20221018BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20221018BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20221018BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20221018BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20221018BHJP
【FI】
C40B40/10 ZNA
C07K14/39
C07K1/16
C12N1/16 G
C07K14/435
A61K9/14
A61K47/42
A61K47/44
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022116793
(22)【出願日】2022-07-22
(62)【分割の表示】P 2019509544の分割
【原出願日】2017-08-21
(31)【優先権主張番号】16184843.7
(32)【優先日】2016-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
3.BRIJ
(71)【出願人】
【識別番号】517428148
【氏名又は名称】サリプロ バイオテク アーベー
【氏名又は名称原語表記】Salipro Biotech AB
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】フラウエンフェルト,イェンス
(72)【発明者】
【氏名】レーヴィング,ロビン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】細胞または細胞小器官の膜からリポタンパク質粒子のライブラリーを調製し、そこからリポタンパク質粒子を精製するプロセス、リポタンパク質粒子のライブラリーおよび精製されたリポタンパク質粒子自体、およびその使用を提供する。
【解決手段】サポシンリポタンパク質粒子のライブラリーを調製するためのプロセスであって、前記粒子は、細胞または細胞小器官膜からの膜成分と、脂質と相互作用するタンパク質のSAPLIPファミリーに属するサポシン様タンパク質である脂質結合ポリペプチドまたはその誘導体形態とを含み、前記プロセスが、a)細胞または細胞小器官膜から得られる未精製膜小胞の混合物を与える工程と、b)工程a)の混合物と、前記脂質結合ポリペプチドとを液体環境中で接触させる工程と、c)前記粒子を自己集合させる工程とを含む、プロセスである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サポシンリポタンパク質粒子のライブラリーを調製するためのプロセスであって、ライブラリーは、異なる膜脂質と、場合により膜タンパク質組成物を含むサポシンリポタンパク質粒子の異種混合物とを含む、一連の異なるサポシンリポタンパク質粒子を意味し、前記粒子は、細胞または細胞小器官膜からの膜成分と、脂質と相互作用するタンパク質のSAPLIPファミリーに属するサポシン様タンパク質である脂質結合ポリペプチドまたはその誘導体形態とを含み、前記プロセスが、
a)古細菌、真核生物または原核生物の細胞または細胞小器官膜から得られる未精製膜小胞の混合物を提供する工程であって、前記未精製膜小胞が、供給源である前記未精製の細胞または細胞小器官の膜からの膜脂質および膜タンパク質とを両方とも含む工程と、
b)工程a)の前記混合物と、前記脂質結合ポリペプチドとを液体環境中で接触させる工程と、
c)前記粒子を自己集合させる工程とを含む、プロセス。
【請求項2】
工程a)の前記未精製膜小胞が、
a.1)細胞および/または細胞の細胞小器官を提供する工程;
a.2)前記細胞および/または前記細胞の細胞小器官を溶解または破壊する工程;
a.3)未精製膜フラクションを得る工程;および
a.4)工程a.3)で得られた前記未精製膜フラクションから未精製膜小胞を調製する工程、のうち少なくとも1つまたは全てによって調製される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記プロセスが、さらに、工程a)と工程b)の間に、
b.1)前記未精製膜小胞と界面活性剤とを液体環境で接触させ、次いで、工程b)において、工程b.1)から得られた前記混合物を工程c)で前記脂質結合ポリペプチドと接触させる工程を含み、および/または
工程b)が、界面活性剤存在下で行われる、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記界面活性剤が、アルキルベンゼンスルホネートまたは胆汁酸、カチオン性界面活性剤および非イオン性または両性イオン性界面活性剤、例えば、ラウリル-ジメチルアミン-オキシド(LDAO)、Fos-コリン、CHAPS/CHAPSO、アルキルグリコシド、例えば、短鎖、中鎖または長鎖のアルキルマルトシド、特に、n-ドデシル β-D-マルトシド、グルコシド、マルトース-ネオペンチルグリコール(MNG)両親媒性分子、両親媒性ポリマー(アンフィポール)、フェノールとアルデヒドのヒドロキシアルキル化生成物に基づく大環状または環状オリゴマー(カリックスアレーン)、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
i)前記粒子が、円盤形状であり、特に、前記粒子が円盤形状であって、親水性または水性のコアを含まず、
ii)前記粒子は、一般的に、最大直径が2nm~200nm、特に3nm~150、好ましくは3nm~100nmであり;
ii)工程c)の前記粒子の前記自己集合が、2.0~10.0、特に6.0~10.0、好ましくは6.0~9.0、特に好ましくは7.0~9.0、最も好ましくは7.0~8.0のpHで行われ;および/または
iii)前記プロセスは、工程c)で、またはその後の工程d)として、遊離膜脂質、遊離膜タンパク質、遊離脂質結合ポリペプチド、不可溶性または凝集した物質および/または界面活性剤を少なくとも部分的に除去することによって前記粒子を精製することを含み、場合により、前記精製は、クロマトグラフィー、特に、サイズ排除クロマトグラフィー;超遠心分離;透析;界面活性剤に結合するバイオビーズとの接触;濃縮剤の使用;限定されないが、結合していない/組み込まれていない脂質および/または疎水性化合物を除去するためのクロマトグラフィー、磁気ビーズ、免疫精製および/または膜/フィルターを含むアフィニティ精製方法によって行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記脂質結合タンパク質が、サポシンA、サポシンB、サポシンC、サポシンD、またはこれらの誘導体または先端が切断された形態であり、場合により、前記SAPLIPの前記誘導体形態が、
i)配列番号1、2、3、4、5または6の全長配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質;
ii)配列番号1、2、3、4、5または6の全長配列に対して少なくとも40%の配列同一性を有するタンパク質であり、前記タンパク質が、両親媒性であり、少なくとも1つのαらせんを形成し、前記プロセスで使用されると、可溶化した脂質と共にリポタンパク質粒子へと自己集合することができる、タンパク質;および
iii)1~40アミノ酸が欠失し、付加され、挿入され、および/または置換されている、配列番号1、2、3、4、5または6の配列を含むタンパク質;
から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記粒子が、前記少なくとも1種類の脂質結合ポリペプチドと、前記細胞または細胞小器官の膜の成分、特に、工程a)で引用される前記細胞または細胞小器官の膜に由来する膜脂質および/または膜タンパク質とから本質的になる、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
i)前記粒子が、工程a)で引用される前記細胞または前記細胞小器官の膜に由来する膜脂質を含み、前記膜脂質が、場合により、リン脂質、糖脂質、コレステロールおよびこれらの混合物からなる群から選択され、および/または
ii)前記粒子の少なくとも一部が、工程a)で引用される前記細胞または前記細胞小器官の膜に由来する膜タンパク質を含み、前記膜タンパク質が、場合により、一体的な膜貫通タンパク質、一体的な一回貫通型膜タンパク質、表在性膜タンパク質、脂質に結合した状態での両指向性タンパク質、脂質に固定されたタンパク質、融合した疎水性膜貫通ドメインを有するキメラタンパク質、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記未精製膜小胞の成分以外のさらなる脂質が前記プロセスに添加されない、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
精製されたサポシンリポタンパク質粒子を調製するためのプロセスであって、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセスに従ってライブラリーを調製する工程と、
f)少なくとも1種類のサポシンリポタンパク質粒子を前記ライブラリーから精製するさらなる工程を含み、場合により、工程f)での前記少なくとも1種類の粒子の前記調製が、限定されないが、アフィニティクロマトグラフィーを含むアフィニティ精製によって、および/または免疫精製、特に、精製される前記粒子中に存在する膜タンパク質上の抗原またはタグを用いることによって行われ、および/または場合により、前記精製は、クロマトグラフィー、特に、サイズ排除クロマトグラフィー;超遠心分離;透析;界面活性剤に結合するバイオビーズとの接触;または濃縮剤の使用によって行われる、プロセス。
【請求項11】
前記粒子が、その脂質および/またはタンパク質の組成という点で異なっており、好ましくは、タンパク質の組成という点で、特に好ましくは、膜タンパク質の組成という点で異なっている、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセスによって得ることができる、サポシンリポタンパク質粒子のライブラリー。
【請求項12】
請求項10に記載のプロセスによって得ることができる、サポシンリポタンパク質粒子。
【請求項13】
診断方法、化粧品処理に使用するための、またはワクチン接種製剤として使用するための請求項11に記載の粒子のライブラリーまたは請求項12に記載の粒子。
【請求項14】
薬物開発、薬物スクリーニング、薬物発見、抗体開発、治療用生物医薬の開発のため、膜または膜タンパク質精製のため、膜タンパク質発現のため、膜および/または膜タンパク質研究、特にリピドミクスおよびプロテオミクスのため、好ましくは、膜および/または膜タンパク質の単離、同定および/または試験、またはリピドームまたはプロテオームデータベースの作成のためのツールとしての請求項11に記載の粒子のライブラリーまたは請求項12に記載の粒子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞または細胞小器官の膜からリポタンパク質粒子のライブラリーを調製し、そこからリポタンパク質粒子を精製するプロセス、リポタンパク質粒子のライブラリーおよび精製されたリポタンパク質粒子自体、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ここ十年の間に、ライフサイエンス、特に薬物発見における研究は、急速に変化してきている。分子生物学、コンピューティング、ゲノミクス、プロテオミクスおよびリピドミクスにおける進化によって、研究および薬物発見のための新規な方法を開発することが可能になった。
【0003】
この研究領域では、細胞または細胞の細胞小器官のゲノム、プロテオームまたはリピドームのライブラリーは、遺伝子、タンパク質または脂質の機能を研究し、遺伝子、タンパク質または脂質の薬物標的を発見するのに非常に有用であることがわかっている。ゲノムおよびDNAライブラリーの分野も十分に進化しているが、膜プロテオームおよび/またはリピドームライブラリーを調製するための改良された方法を開発する緊急の必要性がいまだ存在する。
【0004】
薬物発見は、特定の疾患において特定の生理活性を有するリード化合物の発見、選択およびさらなる開発、および/またはある化合物ライブラリーが利用可能な場合、その疾患に関与する細胞における新しい薬物標的の同定に基づく。多くの場合、薬物標的は、標的細胞の細胞または細胞小器官の膜に埋め込まれた脂質、脂質ドメインまたは膜タンパク質、例えば、受容体またはトランスポーターである。したがって、その天然膜環境に埋め込まれた脂質、脂質ドメインおよび膜タンパク質の構造および機能の解明と、可能な脂質および膜タンパク質標的の複雑なライブラリーに対して、化合物または化合物ライブラリーをスクリーニングする可能性の解明が、一般的にライフサイエンス研究で、特に、新しい医薬の開発において、非常に望まれている。
【0005】
細胞または細胞小器官の可溶性タンパク質のために、可溶性タンパク質のフラクションを単純に単離することによって、可溶性細胞または細胞小器官プロテオームのライブラリーを容易に調製することができる。残念ながら、膜(およびこれに含まれる膜タンパク質および脂質)は、薬物スクリーニング手順およびライフサイエンス研究で使用される大部分の機能的アッセイで通常使用される界面活性剤(detergent)を含まない系には可溶性ではない。したがって、現在の膜プロテオームまたはリピドームライブラリーは、ほとんどが、界面活性剤に溶解した状態または変成した状態である。後者は、タンパク質または脂質同定技術、例えば質量分析法に有用な場合があるが、この分野での研究および薬物開発の成功のための基礎となる要求事項である、膜タンパク質または脂質のその天然環境での機能分析には不適合である。
【0006】
精製、単離および機能的分析におけるこれらの困難性によって、膜リピドームおよび膜プロテオームの研究が遅れている。
【0007】
リピドミクスは、生体系における細胞脂質の経路、組成およびネットワークの大規模研究であり、胞脂質分子種、他の脂質、タンパク質および他の代謝物との相互作用の同定および定量を含む。「リピドーム」との用語を使用し、細胞、組織、有機体またはエコシステムの全ての脂質および/または脂質プロファイルの合計を記述し、これは、タンパク質、アミノ酸、糖および核酸などの生体分子の他の主要な種類も含む、「メタボローム」の部分集合である。リピドミクスは、多くの代謝性疾患、例えば、肥満、アテローム性動脈硬化症、発作、高血圧および糖尿病における脂質の役割の認識と組み合わせて、質量分析法(MS)、核磁気共鳴(NMR)分光法、蛍光分光法およびコンピュータ計算方法などの技術における急速な進化によって生じてきた、比較的最近の研究分野である。この急速に拡大していく分野は、ゲノミクスおよびプロテオミクスにおいてなされる大きな進化を補完し、これらは全て系統的な生物学の一群を構成する。
【0008】
リピドームは、非常に複雑であり、脂質は、膜の力学、エネルギー代謝およびシグナル伝達において不可欠な役割を有しており、脂質の構造は、生物学的効果の鍵となる決定因子である。リピドミクスなどの分析方法は、基本的な研究および医薬品の発見および開発における生物学的に関連する脂質の現在の生物学的理解を高めるのに必須である。この目的のために、細胞または細胞小器官の膜における天然環境に可能な限り近い状態で脂質が維持されるリピドームライブラリーを提供することができることが望ましい。
【0009】
リピドーム研究の手法は、心血管疾患、糖尿病、癌、神経学的疾患および自己免疫疾患、炎症性疾患を含め、あらゆる治療薬分野に適用可能である。首尾良いリピドーム研究の基本的な要求事項は、十分な前分析サンプルであり、ある種の脂質および天然に存在する脂質ドメインは、不安定な場合があるため、優先的には、迅速な生成、簡便な取り扱い、短い保存時間を可能にするリピドームライブラリーである。
【0010】
脂質も、多くの分野で有望な新規なバイオマーカーを与える。これに加えて、実験的な治療または既存の治療のための潜在的な薬力学的な読み取りとしても機能し得る。したがって、脂質は、コンパニオン診断の開発を推進し得るものであり、したがって、さらに個人に特化した治療手法を補助し得る。また、この観点から、リピドームライブラリーを調製するための簡便で丈夫な方法を与えることが望ましい。リピドミクスは、種々の実験疾患モデルの試験にも使用することができ、これにより、トランスレーショナル医薬に対する大きな進歩が与えられるだろう。
【0011】
一方、プロテオミクスは、タンパク質、特に、その構造および機能の大規模研究である。タンパク質は、細胞の生理学的代謝経路およびシグナル伝達経路の主成分であるため、生きている有機体の重要な部分である。プロテオームは、有機体、細胞、細胞小器官または系で作られ、これらに含まれる一連のタンパク質である。膜プロテオームは、有機体、細胞、細胞小器官または系の膜で作られ、これらに含まれる一連の膜および膜結合性タンパク質である。プロテオームは、時間経過に伴い、細胞または有機体が受けるか、または経験する状態またはストレス、例えば、疾患によって変動し得る。
【0012】
膜プロテオームは、膜タンパク質が細胞系および疾患で発揮する多くの機能のために、特に興味深い研究目的である。潜在的な薬物標的が豊富であるため、所与の細胞または細胞小器官膜の膜プロテオームを包含するライブラリーは、スクリーニングプロセスにとって非常に望ましいだろう。これに加えて、未知の膜タンパク質の単離および同定は、新しい医薬標的を発見し、鍵となる生化学受容体を同定する新しい展望を与える。上述の通り、膜プロテオームライブラリーの調製およびその後の使用は、界面活性剤を含まない系における膜および膜成分の非溶解度によって、妨害されてきた。膜タンパク質標的と可溶性リガンドとの間の相互作用は、膜タンパク質が非界面活性剤系に溶解しないことに起因して、in vitroで試験するのが困難である。
【0013】
疎水性化合物(例えば、膜タンパク質および脂質)は、取り扱いが困難なことで有名であり、医薬研究またはライフサイエンス研究および応用のために以下の2つの主な課題がある。(i)不溶性疎水性化合物、例えば、脂質または膜タンパク質を水溶液に可溶性にすること、(ii)このような疎水性物質を治療用薬剤、研究用薬剤または診断薬剤として取り扱い、投与すること。
【0014】
膜タンパク質は、全てのORFの約30%によってコードされ(Wallin and von Heijne、Protein Science 1998 Apr;7(4):1029-38)、薬物の大部分(すなわち、60%を超える)が、この種類のタンパク質を実際に標的としているため、薬物標的の重要な種類を表す(Overington et al.、Nature Reviews Drug Discovery 5、993-996(December 2006))。膜タンパク質は、シグナル伝達、分子およびエネルギーの輸送、認識および細胞間のコミュニケーションなどの多くの生体プロセスにおいて、重要な役割を果たす。しかし、膜タンパク質は、不溶解性と、天然脂質二重層環境から抽出すると凝集する傾向があることに起因して、試験するのが困難である。膜タンパク質の一体性を維持するために、人工の疎水性環境が必要とされる。ここで、界面活性剤ミセルが最も一般的に使用されるが、これは生体適合性に悪い影響を及ぼす場合があり、膜タンパク質の活性に悪い影響を及ぼす場合があり、アッセイのための実験条件を妨害する場合がある。
【0015】
別の主要な薬理学的課題は、治療薬剤および/または診断薬剤としての疎水性タンパク質および/または脂質の投与および送達によって表される。疎水性薬剤の溶解度が限定的であることに起因して、これらの薬剤は凝集しやすく、局所的に高度に濃縮された薬物粒子が生じ、これが高い毒性、望ましくない免疫応答を引き起こす場合があり、薬物を不活性にする場合がある(Allen and Cullis、SCIENCE、303(5665):1818-1822、MAR 19、2004)。
【0016】
したがって、膜タンパク質または脂質などの疎水性薬剤を可溶性粒子に組み込む用途が、非常に望まれている。これらの2つの課題に対処する現行の方法は、特に、リポソームおよび再構築された高密度リポタンパク質(rHDL)粒子を含む(Chan and Boxer、Current Opinion in chemical Biology 11:1-7、2007)。
【0017】
欧州特許第1596828号明細書は、二重のベルト状の様式で脂質二重層を密に取り囲むアポリポタンパク質を含む円盤形状の生体活性薬剤送達粒子を記載している。この粒子の内側は、脂質二重層の疎水性領域によって作られる。このことは、水性の内側を含む閉じた球状の二重層シェルであるリポソームとは対照的である。欧州特許第1596828号明細書に記載される円盤形状の生体活性薬剤送達粒子は、ストークス径が約10nmであり、アンホテリシンBまたはカンプトテシンなどの疎水性医薬薬物のための送達ビヒクルとして使用することが提案されている。
【0018】
欧州特許第1345959号明細書は、直径が約10nmであり、高さが約5.5nmである同様の種類のナノスケール粒子を記載する。この粒子は、円盤形状であり、(i)人工の膜足場タンパク質と、(ii)リン脂質二重層と、(iii)少なくとも1種類の疎水性または部分的に疎水性のタンパク質とで構成される。本明細書の以下の
図1aを参照。この膜足場タンパク質も、脂質二重層を二重のベルト状の様式で取り囲み、ヒトアポリポタンパク質A-1の誘導体または先端が切断された形態であり、ヒトアポリポタンパク質A-1のN-末端球状ドメインを欠いており、両親媒性であり、少なくとも1つのαらせんを形成し、水性環境で、リン脂質またはリン脂質混合物と共に自己集合し、この円盤形状のナノスケール粒子になる。このような操作された膜足場タンパク質(MSP)は、ナノスケールの円盤状リポタンパク質粒子に安定性、大きさの均一性および有用な機能を与える。
【0019】
しかし、現在利用可能なナノ円盤技術には、例えば、粒子の集合中に界面活性剤の除去が必要であるなどのいくつかの欠点が存在する。さらに、アポリポタンパク質に由来するMSPの密な二重ベルト状の適合によって与えられる大きさの均一性は、最小粒径が固定され、従来技術の方法を用いて得ることができる最大直径が制限されるという犠牲を伴うようである。
【0020】
近年、サポシンファミリーの脂質結合タンパク質が関与する新規なナノ粒子技術が提案されている(Qi et al.(2009)Clin Cancer Res 15(18):5840-5851、Popovic et al.、PNAS、Vol.109、No.8(2012)2908-2912、国際公開第2014/095576号および国際公開第2015/036549号を参照)。
【0021】
サポシン-ファミリーは、4種類の小さな(約80アミノ酸の)タンパク質サポシンA~Dを含み、これらは、脂質に結合し、および/または脂質と相互作用し、スフィンゴ脂質の異化においていくつかのリソソーム酵素の必須補因子として機能する(Bruhn、Biochem J.(2005)389、249-257およびこれに引用される参考文献を参照)。サポシンは、負に帯電した脂質と低いpHを好むことが記載されており、酸性pHでは顕著に増加した活性を示し、リポソーム内pHでの最適pHは4.75である。サポシンA、B、CおよびDは、1つの大きな前駆体タンパク質プロサポシンからタンパク質分解によって加水分解する。サポシンA、B、CおよびDの完全なアミノ酸配列が、プロサポシンのゲノム構成およびcDNA配列と共に報告されている(O’Brien et al.(1988)Science 241、1098-1101;Furst et al(1992)Biochim Biophys Acta 1126:1-16)。
【0022】
サポシンCは、酸性環境で、リン脂質を含有する小胞の膜融合を誘発することができ(Archives of Biochemistry and Biophysics 2003 Jul 1;415(1):43-53)、この特徴は、他のサポシンでは示されない。Qi et al.(2009)Clin Cancer Res 15(18):5840-5851は、水性の内側を含み、平均直径が約190nmであり、in vivoで腫瘍標的活性を示す、サポシンCがカップリングしたジオレオイルホスファチジルセリンナノ小胞(SapC-DOPS)を報告している。SapC-DOPSでは、サポシンCまたはこれに由来するペプチドは、これに接続するリポソームのためのホーミングペプチドとして作用する。次いで、サポシンCは、リポソームに、細胞膜の外葉上にホスファチジルセリンが露出する癌細胞を標的にさせる。この著者らは、リソソーム酵素細胞外の漏れに起因する、癌細胞の周囲の固有の酸性微細環境によって、腫瘍組織が、サポシンCの最適な標的となると考える。Qiらによれば、SapC-DOPSリポソームは、溶媒に溶解した精製されたリン脂質をN2(g)下で乾燥させ、乾燥したリン脂質を、精製されたサポシンCを含む酸性バッファー(pH5)に分散させ、この混合物を生理学的水溶液で50倍に希釈し、その後の音波処理によってナノ小胞の集合を容易にすることによって調製される。
【0023】
Popovic et al.、PNAS、Vol.109、No.8(2012)2908-2912は、サポシンA界面活性剤円盤の構造について報告する。サポシンAは、可溶性の脂質/界面活性剤に結合した状態で存在する。脂質が存在しないと、サポシンAは、閉じたモノマーアポ配置になる。対照的に、Popovicらによって報告されているサポシンA界面活性剤の円盤構造は、開放配座にあるサポシンAの2本の鎖が、高度に規則的に並んだ二重層様の疎水性コアの中で組織化された40の内側に結合した界面活性剤分子を包み込む。
【0024】
サポシンA界面活性剤円盤の結晶化以外に、Popovicらは、複数の工程を必要とする方法によるpH4.75での可溶性脂質-サポシンA複合体の調製も記載する。第1に、クロロホルムに溶解した精製された脂質をN2(g)下で乾燥させ、乾燥した脂質をボルテックス混合によって、酸性バッファー(50mM 酢酸ナトリウム pH4.8、150mM NaCl)に分散させ、懸濁液について、10サイクルの凍結融解を行い、ボルテックスミキサーで5分間ブレンドし、混合物を200nmフィルターを通して押し出すことによって、大きな単層リポソーム小胞の均一なフラクションが調製される。このようにして調製された大きな単層の人工リポソーム小胞と、精製されたサポシンAとを酸性バッファー中で混合すると、可溶性脂質-サポシンA粒子が得られた。この粒子は、平均流体力学的(ストークス)半径3.2nmの周囲に狭い粒度分布を示し、サポシンA鎖あたり、約5:1の脂質分子を含んでいた。この粒子の実際の大きさは、タンパク質に対する脂質のモル比、リポソームの組成によっては、中程度しか影響を受けなかった。この著者らは、アニオン性リン脂質、コレステロールまたは糖スフィンゴ脂質であるか否かにかかわらず、同様の3.2nmの粒子がリポソーム混合物中に存在することを観察した。全ての場合に、ストークス半径3.2nmの粒径範囲に1つのピークが観察され、このことは、この種が比較的狭い粒度分布を有することを示している。したがって、この刊行物の技術は、pH値4.75に限定され、上述の粒径の粒子に限定され、面倒な上流のリポソーム調製工程を含む。
【0025】
国際公開第2014/095576号は、初めて、界面活性剤に可溶化し、精製された脂質を用い、精製され、界面活性剤に可溶化した疎水性の貨物分子または精製され、界面活性剤に可溶化した膜タンパク質をサポシン-脂質粒子に組み込むことができることを示した(本明細書の以下の
図1bを参照)。したがって、国際公開第2014/095576号に記載の方法は、精製された界面活性剤に可溶化した成分を使用し、これを、Popovicらの方法で精製された脂質から調製された合成リポソームと対比した。
【0026】
国際公開第2015/036549号は、国際公開第2014/095576号に記載される方法を、十分に定義され、精製されたHIV-1ウイルス様粒子(VLP)からの可溶化した抗原分子(ウイルス膜タンパク質について示される)の組み込みに拡張した。国際公開第2015/036549号の実施例によれば、前精製されたVLPを溶解し、HIV-1膜スパイクタンパク質を界面活性剤で可溶化し、次いで、サポシンAと接触させる。一般的な観点で、国際公開第2015/036549号は、微生物、真菌、原生動物、寄生虫またはヒトまたは動物の新生物/腫瘍からの可溶化した抗原分子は、原理的に使用可能であることも示唆しているが、実験の詳細は与えられていない。また、精製された成分のみを界面活性剤に可溶化した状態で使用し、すなわち、天然の膜内容物は維持されずに使用している。
【0027】
多種多様な疎水性薬剤(例えば膜タンパク質または脂質)は、従来技術に記載されるアポリポタンパク質由来またはサポシン由来のナノ円盤技術から利益を得るであろう。リピドームおよび膜プロテオームライブラリーの調製は、ナノ円盤粒子が、大きさおよび貨物の適合性という観点で非常に柔軟性であることを必要とすることを容易に想像することができる。しかし、Popovicらで報告されたサポシンA由来の粒子の大きさが3.2nmに制限されることに起因して、仮にそうであったとしても、開示された酸性pHで、低分子のみを、このような粒子に組み込むことができると思われる。嵩高い疎水性化合物および大きな生体分子、例えば、(オリゴマー)膜タンパク質を、従来技術のアポリポタンパク質Aに由来するナノ円盤に組み込むことができるが、可能な最大直径は、これらの粒子の周囲の二重ベルト状のアポリポタンパク質Aによってまだ制限される。これに加えて、10nmのアポリポタンパク質Aに由来するナノ円盤は、特定の用途には大きすぎる場合がある。
【0028】
さらに、上のアポリポタンパク質またはサポシンに関連する従来技術の全てに記載される方法は、実験の詳細というレベルで精密であり、精製され、界面活性剤に可溶化した成分の十分に定義された系に頼っている。したがって、これらの方法は、高度に複雑な構造と組成を特徴とする未精製膜を出発物質として直接使用したときには作用しないと予想される。第1のものが、細胞または細胞小器官の膜から膜リピドームおよびプロテオームを精製し、可溶化するためのものである場合には、しかし、その天然環境および内容物から膜タンパク質および脂質を除去し、ライブラリーの組成物において、機能が失われ、内容物、複雑さ、対応する偏りが失われる。これに加えて、このようなプロセスは、取り扱い、界面活性剤の可溶化および安定性に関して、全ての膜タンパク質および膜脂質が同じ要求事項を有するわけではないため、複雑化し、精巧なものになるだろう。
【0029】
また、細菌または真核生物の膜タンパク質の組み込みを示す従来技術の上述のプロセスは、リポタンパク質粒子を再構築するために、合成または精製された脂質を使用する。したがって、リポタンパク質粒子中に存在する脂質および膜タンパク質は、異なる供給源に由来し、天然に存在する環境を反映しない。しかし、このような天然に存在する環境の模倣は、研究およびスクリーニングにおいて意義のある結果が得られ、天然の細胞、可能ならば疾患の内容物において移動可能であり、確認可能であるという可能性を高めるライブラリーを得るために非常に望ましい。
【0030】
まとめると、原核生物または真核生物の膜成分(例えばタンパク質および脂質)をナノ粒子構造に組み込むために使用される従来技術の方法は、大部分が、特に、完全に異なる供給源から精製された合成脂質または脂質を使用する場合には、成分の抽出、可溶化および粒子への再集合を含む。これらの粒子は、供給源である天然に存在する膜とは似ていない。これにより、天然に存在する膜環境を観察することは不可能になる。これに加えて、これらの既知の手順には、精製および抽出の間に、タンパク質の変性または脂質および脂質ドメインの不安定化のリスクがある。さらに、タンパク質および/または脂質が、その天然環境から離れたときに、その天然の構造および機能をゆるめることを除外することができない。
【0031】
サポシンに関連する従来技術は、原核生物または真核生物由来の界面活性剤によって精製され、および/または界面活性剤によって可溶化された膜タンパク質の組み込み、または精製された人工のウイルス様粒子からの可溶化された抗原のみを教示する。これらの手法は、十分に定義された脂質環境で再集合した目的の精製された膜タンパク質を含む、非常に均一なナノ円盤の集合を与えるが、通常、原核生物、古細菌および真核生物の有機体の天然に存在する膜とは全く異なる。
【0032】
対照的に、原核生物、古細菌および真核生物の有機体のこれらの天然に存在する膜は、非常に複雑であり、相互作用するタンパク質および脂質の非常に多様なアレイを含み、種々の細胞プロセスを制御する能力を有する複雑な超構造を形成する。従来技術方法で教示される界面活性剤可溶化および精製工程を行わないと、このような複雑な膜の取り扱いおよび組み込みは、複雑な天然膜構造は、精製された成分と同様に取り扱いが容易であるとは予想されないため、実行するのがほぼ不可能なようである。特に、天然の膜は、複雑な混合物と、POPC(1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)、POPS(1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン)およびスフィンゴミエリン、およびコレステロールを含む他の脂質を含む主に異なる種類のリン脂質からなる種々の脂質成分のドメインも含む。さらに、膜は、例えばタンパク質シグナル伝達を補助する一般的な血漿膜よりも顕著に高い割合のコレステロールおよびスフィンゴミエリンを含んでいてもよいドメイン(例えば、脂質ラフト)を形成する。所与の膜タンパク質は、天然の膜内容物中でのみ適切に機能する場合がある。
【0033】
合わせると、原核生物、古細菌および真核生物の有機体の膜は、天然内容物中で膜タンパク質とその周りにある種々の脂質との間の複雑な相互作用から生じる高度な複雑性を示す。
【0034】
従来技術は、サポシン由来の粒子の形態で、天然状態の膜プロテオームおよびリピドームのライブラリーを調製するための実現可能な提案を想定しておらず、確実に教示または示唆していない。
【0035】
しかし、上述の通り、膜プロテオームまたはリピドーム成分がその天然環境に保存されたままであるライブラリーが非常に要望されている。例えば、天然に存在する環境におけるin vitroでの膜タンパク質、すなわち、in vivoで存在し、活性な膜の脂質に埋め込まれている膜タンパク質の構造、機能および相互作用の解明は、薬物標的を同定し、細胞および細胞小器官の膜のレベルで起こるその基礎となる機構および反応を理解するのに有用であろう。したがって、それぞれの構造および機能を維持するように、その天然環境中で膜脂質と膜タンパク質を保存することができる、細胞または細胞小器官の膜からライブラリーを調製するための新規な方法を開発する必要がある。未精製膜の脂質およびタンパク質の組成を反映するライブラリーを与えることによって、これまでに得ることができなかったレベルで特定の細胞、細胞小器官または有機体のリピドーム、プロテオームまたは膜の構造を試験することができるだろう。
【発明の概要】
【0036】
この背景に対し、本発明の背後にある問題は、改良されたリポタンパク質粒子と、改良されたリポタンパク質粒子のライブラリー、これらの製造方法の提供によってわかるだろう。
【0037】
この問題は、脂質結合ポリペプチドと、細胞または細胞小器官膜の少なくとも一部または成分とを含むリポタンパク質粒子のライブラリーを調製するための未精製膜小胞を出発物質として使用する本発明のプロセスによって解決し、ここで、脂質結合ポリペプチドは、サポシン様タンパク質またはその誘導体または先端が切断された形態である。
【0038】
本発明は、サポシンリポタンパク質粒子のライブラリーを調製するためのプロセスであって、前記粒子は、細胞または細胞小器官膜からの膜成分と、脂質と相互作用するタンパク質のSAPLIPファミリーに属するサポシン様タンパク質である脂質結合ポリペプチドまたはその誘導体形態とを含み、前記プロセスが、
a)細胞または細胞小器官膜から得られる未精製膜小胞の混合物を与える工程と、
b)工程a)の混合物と、前記脂質結合ポリペプチドとを液体環境中で接触させる工程と、
c)前記粒子を自己集合させる工程とを含む、プロセスを提供する。
【0039】
本発明のプロセスは、特定の種類のサポシンリポタンパク質粒子のための精製プロセスにまで拡張することができ、このプロセスは、上述のプロセスに従ってライブラリーを調製する工程と、
f)少なくとも1種類のサポシンリポタンパク質粒子を前記ライブラリーから精製するさらなる工程とを含む。
【0040】
本明細書に記載のサポシンリポタンパク質粒子は、膜成分(特に膜脂質)と、場合により、膜タンパク質も含み、全てが細胞または細胞小器官の膜に由来する。本明細書に記載するサポシンリポタンパク質粒子は、さらに、本発明の方法によって得ることができる、脂質と相互作用するタンパク質のSAPLIPファミリーに属するサポシン様タンパク質(SAPLIP)またはその誘導体形態である脂質結合ポリペプチドを含む。本明細書に記載するこれらのサポシンリポタンパク質粒子は、本明細書で「サリプロ粒子(Salipro particle)」、「サポシンリポタンパク質粒子」または「本発明の粒子」とも呼ばれる。本発明の方法によって得ることができ、異なるサリプロ粒子の混合物を含むライブラリーも、本明細書で「サリプロ粒子ライブラリー」と呼ばれる。
【0041】
本発明に係るプロセスは、実行するのが比較的容易であり、出発物質として使用する未精製膜の多様性および複雑差を反映し、その天然膜環境に含まれる脂質および膜タンパク質成分を組み込み、保存するサリプロ粒子のライブラリーが得られるという利点を有する。多種多様な膜を、本発明に係るプロセスに使用してもよい。工程a)で使用される未精製膜小胞は、細胞または細胞小器官の未精製膜から調製される。多くの有機体の細胞および/または細胞小器官の膜から得られる未精製膜小胞を使用してもよい。驚くべきことに、従来技術の調製方法で必要とされる高度に精製され、界面活性剤に可溶化した出発物質の代わりに、真核生物、原核生物または古細菌の細胞の複雑な膜を出発物質として使用したときでも、サリプロ粒子を得ることができた。
【0042】
本発明に係るプロセスを用いて得られるライブラリーに存在するサリプロ粒子は、大きさおよび組成がさまざまであり、膜成分の異なる混合物を含み、出発物質の未精製膜の膜リピドームおよびプロテオームを反映している。細胞の細胞小器官から得られる未精製膜の成分も、サリプロ粒子に組み込まれてもよい。
【0043】
当業者は、細胞および細胞小器官から得られる膜が、成分の複雑で非常に異種混合物を示すことを知っており、この成分は、リポタンパク質粒子を調製するプロセスで使用される脂質結合ポリペプチドおよび他の試薬と相互作用すると予想される。このことにより、生成物がほとんど得られず、低品質の生成物が得られるか、または高度に定義されない生成物が得られると予想された。この背景に対し、複雑な未精製膜を使用することができ、その多様な成分のアレイをサリプロ粒子に容易に組み込み、対応する膜プロテオーム/リピドームライブラリーを作成することができることは驚くべきことであった。未精製膜小胞を使用する本発明に係るプロセスとは対照的に、サポシン様タンパク質を、真核生物または原核生物の膜タンパク質と共に使用する従来技術のプロセスは、主に、高度に精製されたタンパク質と再集合するか、または制御された条件が与えられるように精製された脂質または合成脂質を使用する。
【0044】
本発明に係るプロセスは、複雑な細胞膜から直接的に、膜成分、特に膜脂質および膜タンパク質を効率よく捕捉するライブラリーを与える。本発明に係るプロセスが、未精製膜小胞(すなわち、従来技術の方法でおけるような抽出または精製がされなかったインタクトな生理学的膜の部分および/または成分)を使用し、そのさまざまな天然の脂質とその天然の膜タンパク質を両方とも含むため、本発明に係るプロセスによって得られるサリプロ粒子ライブラリーは、膜成分の複雑なアレイを含む。これにより、特定の細胞または細胞小器官からのリピドームおよび/または膜プロテオームを示すライブラリーを与える可能性がでてくる。
【0045】
特に、本発明に係るプロセスは、異なる膜脂質と、場合により膜タンパク質組成物を含むサリプロ粒子の異種混合物を含むライブラリーの調製を可能にする。上述の通り、異種アレイの膜成分、すなわち、その天然環境に埋め込まれる膜脂質および/または膜タンパク質で構成されるサリプロ粒子のアレイを含むこのようなライブラリーを提供することは、薬物発見、抗体作成、膜(タンパク質または脂質)研究、リピドミクス、プロテオミクスまたは医療、化粧品および診断用途での非常に有用なツールである。
【0046】
実際の実験から、サリプロ粒子の大きさは、組み込まれる膜成分の性質に対して、例えば、組み込まれる膜タンパク質の大きさに対して自己調整されることがわかった。サリプロ粒子は、驚くべきことに、大きさにおいて柔軟性があり、したがって、今日の膜ライブラリー技術で使用される他の足場タンパク質および薬剤と比較して、ライブラリーに似ている膜リピドームまたはプロテオームにおける異なる脂質(および場合により膜)の特異性のさらなる柔軟性および/または変動を可能にする。
【0047】
理論により束縛されないが、本発明に係るプロセスは、組み込まれる膜成分の性質に対し、サリプロ粒子が、その大きさを調整することを可能にするようである。このことは、他の従来の粒子の大きさが制限されているのに対し、有利である。この柔軟性は、明らかに、その天然環境(例えば、膜タンパク質に会合し、タンパク質の構造および/または機能を維持するのに潜在的に必要な膜脂質または他の細胞成分)に膜タンパク質を組み込むことも可能にする。大きさおよび組成がさまざまなこのような複雑な膜の一部および成分が、本発明のプロセスに従ってサリプロ粒子に首尾良く組み込まれ、したがって、得られたライブラリーが、それにもかかわらず安定であり、さらに困難性なく、処理し、取り扱い、精製し、および/または分析することができることを発見したことも驚くべきことであった。本発明に係るプロセスを用いて得られるサリプロ粒子は、製造するのが容易であり、長時間にわたって均一な品質および組成を維持することができ、それによって、さらなる工程および用途に供することができる安定で価値のあるライブラリーを提供する可能性を与える。
【0048】
理論により束縛されないが、本発明の方法の工程b)で未精製膜小胞と、サポシン様タンパク質またはその誘導体または先端が切断された形態とを接触させ、工程c)で自己集合させると、広いpH範囲にわたって、特に、生理学的pHで水溶液中で安定な、丈夫な構造が得られ、Popovicらの従来技術の教示に従って合成的に調製されたリポソームから得られた3.2nmのサポシンAに由来するリポタンパク質粒子よりも大きな粒子が可能であるようである。
【0049】
緒言に記載される通り、治療薬開発における膜タンパク質の重要性は、細胞を含まない培地、好ましくは界面活性剤を含まない環境で膜タンパク質を調べるための革新的な方法の発見を必要とする。
【0050】
本発明の方法によって得ることができるライブラリーおよびサリプロ粒子は、この必要性を満たす。ライブラリーおよびサリプロ粒子が得られると、これらは、細胞を含まない培地および界面活性剤を含まない環境中で安定である。一実施形態では、界面活性剤の使用は、本プロセスにおいて必須ではない。
【0051】
未精製膜は、大量の異なる膜タンパク質および脂質成分を含む。界面活性剤が存在しない場合に、膜タンパク質は、界面活性剤を含まないバッファー系では可溶性ではなく、凝集し、SEC分析において大きな無効なピークを生成すると予想されるのとは対照的に、実際の実験では、サリプロ粒子に包まれると、膜タンパク質および膜脂質成分は、界面活性剤を含まないバッファー系で可溶性なままであることがわかった。
【0052】
本発明の別の態様では、特定の種類のサリプロ粒子、すなわち、目的の特定の膜タンパク質または脂質組成物を含むサリプロ粒子をさらに精製するために、サリプロ粒子のライブラリーを使用してもよい。
【0053】
さらに、本発明の方法によって得ることができるライブラリーおよび粒子は、薬物開発、薬物スクリーニング、薬物発見、抗体開発、治療用生物医薬の開発のため、膜または膜タンパク質精製のため、膜タンパク質発現のため、膜および/または膜タンパク質研究、特にリピドミクスおよびプロテオミクスのため、好ましくは、膜および/または膜タンパク質の単離、同定および/または試験、またはリピドームまたはプロテオームデータベースの作成のためのツールとして使用することができる。
【0054】
最後に、サリプロ粒子のライブラリーまたはサリプロ粒子は、特に、疾患を予防し、治療するか、または疾患の重篤度を減らすときに使用するために、または診断方法、化粧品処理に使用するために、またはワクチン接種製剤として使用するために、医薬に使用されてもよい。
【発明の詳細な説明】
【0055】
本発明は、サポシンリポタンパク質粒子のライブラリーを調製するためのプロセスであって、前記粒子は、細胞または細胞小器官膜からの膜成分と、脂質と相互作用するタンパク質のSAPLIPファミリーに属するサポシン様タンパク質である脂質結合ポリペプチドまたはその誘導体形態とを含み、前記プロセスが、
a)細胞または細胞小器官膜から得られる未精製膜小胞を与える工程と、
b)工程a)から得られる混合物と、前記脂質結合ポリペプチドとを液体環境中で接触させる工程と、
c)前記粒子を自己集合させる工程とを含む、プロセスを提供する。
【0056】
本発明に係るプロセスは、特に、サリプロ粒子のライブラリーを与え、各サリプロ粒子は、脂質結合ポリペプチドと、膜脂質と、場合により膜タンパク質とを含む。「膜タンパク質」との用語は、本明細書で使用される場合、本発明の脂質結合ポリペプチドを包含しない。「膜脂質」は、本明細書で使用される場合、膜脂質の混合物、特に、膜脂質の天然に存在する混合物である。「膜脂質」は、本明細書で使用される場合、未精製膜小胞が調製される未精製細胞または細胞小器官膜に由来する。したがって、膜脂質は、本明細書で使用される場合、前精製された脂質または脂質混合物を包含しない。
【0057】
「未精製の細胞または細胞小器官の膜」は、本明細書で使用される場合、もはや完全にインタクトではないが、天然の膜の組成、特に膜脂質および膜タンパク質に関する組成を本質的にいまだ含んでいる、細胞または細胞小器官の膜、またはその一部である。例えば、細胞の破壊または細胞または細胞小器官の溶解から得られる未精製膜フラクションは、本発明に係る「未精製の細胞または細胞小器官の膜」である。「未精製の細胞または細胞小器官の膜」は、細胞および細胞小器官に存在する天然の膜成分を必ず含む。特に、「未精製の細胞または細胞小器官の膜」は、膜脂質と膜タンパク質を両方とも含む。好ましい実施形態では、本発明のサリプロ粒子に存在する膜脂質および膜タンパク質、または本発明のサリプロ粒子ライブラリーに存在する膜脂質および膜タンパク質は、同じ細胞および/または細胞の細胞小器官の膜から得られる。
【0058】
未精製の細胞または細胞小器官の膜が、もはや完全にインタクトな細胞または細胞小器官の膜ではないため、2つの所与の膜破壊部位の間の疎水性相互作用に起因して、未精製膜小胞が自然に形成する。したがって、一実施形態では、「未精製の細胞または細胞小器官の膜」は、「未精製膜小胞」を含むか、または両方の単語は、同義に使用される。
【0059】
本発明に係る「ライブラリー」との用語は、一連の(複雑な複数の)異なるサリプロ粒子を意味する。特に、この違いは、粒子の大きさおよび組成、特に、粒子に含まれる膜成分(すなわち、膜脂質と、場合により、膜タンパク質)の組成にあるだろう。典型的には、ライブラリーは、「脂質のみの粒子」(
図2aおよび
図2bを参照)と、異なる種類の膜タンパク質を含有するサリプロ粒子(
図2cから
図2fを参照)との混合物である。ライブラリー中の粒子は、異なる膜脂質の含有量および組成という点で異なっていてもよい。好ましくは、ライブラリー中のいくつかの粒子は、粒子が膜タンパク質を含むかどうか、どの粒子が膜タンパク質を含むかという点で異なっている。
【0060】
サリプロ粒子中の膜脂質および/または膜タンパク質は、特定の細胞の膜、特定の細胞の全ての膜、特定の細胞小器官の膜、特定の細胞小器官の全ての膜、特定の個体または有機体の全ての膜、または細胞または細胞の細胞小器官からの膜を含む任意の他の可能な膜サンプルから得られる。好ましくは、ライブラリーに含まれるサリプロ粒子は、その膜脂質および/または膜タンパク質の組成という点で異なっている。好ましくは、その膜タンパク質の組成という点で異なっている。
【0061】
好ましい実施形態では、サリプロ粒子は、円盤形状である。別の好ましい実施形態では、サリプロ粒子は、水性または親水性のコアを含まない。さらに別の実施形態では、サリプロ粒子は、円盤形状であり、水性または親水性のコアを含まない。
【0062】
したがって、本発明は、円盤形状サポシンリポタンパク質粒子のライブラリーを調製するためのプロセスであって、前記粒子は、膜脂質と、脂質と相互作用するタンパク質のSAPLIPファミリーに属するサポシン様タンパク質である脂質結合ポリペプチドまたはその誘導体形態とを含み、前記粒子は、親水性または水性のコアを含まず、前記プロセスが、
a)細胞または細胞小器官膜から得られる未精製膜小胞を与える工程と、
b)工程a)から得られる混合物と、前記脂質結合ポリペプチドとを液体環境中で接触させる工程と、
c)前記粒子を、特に好ましくは、2.0~10.0、特に6.0~10.0、好ましくは6.0~9.0、特に好ましくは7.0~9.0、最も好ましくは7.0~8.0のpHで、自己集合させる工程とを含む、プロセスも提供する。
【0063】
本発明の粒子は、種々の膜脂質と、場合により膜タンパク質とを組み込むことができることがわかっており、水性環境に可溶性であり、安定なナノスケール複合体を生じる。特に、本発明に係る粒子は、脂質結合ポリペプチドと、膜脂質と、場合により膜タンパク質とを含む、ナノスケール粒子である。膜脂質と、場合により膜タンパク質は、好ましくは、同じ細胞および/または細胞小器官の膜から得られ、特に、同じ複数の細胞および/または細胞小器官の膜から得られる。
【0064】
好ましい実施形態では、本発明の粒子は、一般的に、円盤形状であると考えられる。特に、これらの粒子は、ストークス半径(流体力学的半径)RSが2nm~200nm、特に3nm~150nm、好ましくは3nm~100nmの範囲であってもよい。当業者は、ストークス半径をどのように決定するかを知っている。このことは、好ましくは、標準的なストークス半径の標準と比較して、分析用ゲル濾過(サイズ排除クロマトグラフィー)によって行われる。特に、粒子に対し、例えば、Superdex 200 HR10 30ゲル濾過カラムでゲル濾過工程が行われ、pH7.5の適切なバッファーで、室温、0.5ml/分で溶出されてもよい。吸光度は、タンパク質について、280nmでモニタリングされる。カラムは、例えば、チログロブリン 669kDa(RS=8.5nm)、フェリチン 440kDa(RS=6.1nm)、カタラーゼ 232kDa(RS=4.6nm)、乳酸デヒドロゲナーゼ 140kDa(RS=4.1nm)、ウシ血清アルブミン 66kDa(RS=3.55nm)およびウマ心臓シトクロムc 12.4kDa(RS=1.8nm)など、既知のストークス半径を有するタンパク質標準の混合物を用いて較正される。標準タンパク質は、目的の粒子のRs値よりも上および下に広がるRs値を有するべきである。検量線は、標準タンパク質のRsに対する溶出位置をプロットすることによって作られる。これにより、一般的に、ほぼ線形のプロットを与えるが、その他、点と、この標準曲線上の溶出位置からの目的のタンパク質のRsの読みとの間に線を引くのがよい。
【0065】
いくつかの実施形態では、例えば、嵩高い疎水性薬剤、例えば、膜タンパク質、または多量の脂質が粒子中に存在する場合、ストークス半径は、3.2nmより大きくなり、特に、少なくとも3.5nm、少なくとも5.0nmまたは少なくとも10.0nmであろう。
【0066】
本発明の粒子は、透過型電子顕微鏡によって試験されてもよく、または粒子が十分に大きい場合には、ネガティブ染色電子顕微鏡および一粒子分析によって試験されてもよい。
【0067】
構造分析は、多くの場合に、本発明の粒子では、膜脂質が、粒子の内側で別個の大きさを有する円盤状の二重層様の構造に集合することを示している(
図2aおよび
図2bを参照)。脂質結合ポリペプチド成分は、一般的に、円盤状の二重層の境界を規定し、粒子に対して構造と安定性を与える。大部分の実施形態では、粒子の内側は、疎水性領域を含む(例えば、脂質脂肪族アシル鎖で構成される)。リポソームとは対照的に、本発明の粒子は、好ましくは、親水性または水性のコアを含まない。粒子は、好ましくは、円盤形状であり平坦な円盤状のほぼ円形の脂質二重層を有し、2つ以上の脂質結合ポリペプチドの両親媒性αらせんによって囲まれており、円盤の周囲にある二重層の疎水性表面と会合している。本発明の円盤形状の粒子の具体例を
図2a~
図2fに模式的に示す。
【0068】
いくつかの実施形態では、本発明の粒子の円盤形状は、最大高さと最大直径(長軸の長さ)の比率が少なくとも1.0:1.1、特に1.0:1.5または1.0:2.0の円筒形によって概算されるだろう。円盤状粒子の最大高さは、一般的に、透過型電子顕微鏡によって決定される場合、または粒子が十分に大きい場合には、ネガティブ染色電子顕微鏡および一粒子分析によって決定される場合、少なくとも3.5nm、特に、少なくとも5nmである。好ましくは、本発明の粒子は、上部表面と、底部表面と、周囲の側面とを有し、上部表面および底部表面の最大直径(長軸の長さ)は、周囲の側面の高さより大きい。本発明の粒子のいくつかの実施形態では、脂質結合ポリペプチドは、粒子の周囲の側面の周りに少なくとも部分的に配置される。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明の円盤形状の粒子の最大直径(長軸の長さ)は、透過型電子顕微鏡によって決定される場合、または粒子が十分に大きい場合には、ネガティブ染色電子顕微鏡および一粒子分析によって決定される場合、2nm~200nm、特に3nm~150nm、好ましくは3nm~100nmである。別の実施形態では、円盤形状の粒子の最大直径(長軸の長さ)は、3nm~80nm、特に3nm~60nmである。実際の実験は、本発明の方法を用い、最大直径(長軸の長さ)が3nm~20nmの粒子を特に容易に得ることができることを示している。
【0070】
本発明の好ましい実施形態では、粒子は、例えば、HiLoad Superdex(商標)200 16/60 GLカラムでのゲル濾過溶出プロファイルによって評価される場合、実質的に単分散の円盤構造の集合によって定義される。
【0071】
一般的に、粒子内の脂質結合ポリペプチドと脂質二重層との間の優先的な相互作用は、生体活性薬剤送達粒子の周囲にある二重層の縁で、脂質結合ポリペプチド分子の両親媒性αらせんの疎水性表面上にある残基と、脂質の疎水性表面(例えば、リン脂質脂肪族アシル鎖)との間の疎水性相互作用によるものである。脂質結合ポリペプチド分子の両親媒性のαらせんは、粒子の周囲にある脂質二重層の疎水性表面と接触する疎水性表面と、粒子の外側に面し、粒子が水性媒体に懸濁すると水性環境と接触する親水性表面とを有する。
【0072】
いくつかの実施形態では、本発明に係るライブラリーおよび粒子は、水溶液中で安定であり、長期保存、その後、水溶液中での再構築のために凍結乾燥されてもよい。「安定性」または「安定な」は、本明細書で使用される場合、粒子の調製、輸送および保存の間、粒子フラグメント化が検出不可能なレベルまで低く、凝集または品質悪化が検出不可能なレベルまで低いことを意味する。
【0073】
好ましい実施形態では、本発明に係るライブラリーおよび粒子は、2.0~10.0、特に6.0~10.0、好ましくは6.0~9.0、特に好ましくは7.0~9.0、最も好ましくは7.0~8.0のpHで、水溶液中で安定である。別の実施形態では、本発明に係るライブラリーおよび粒子は、例えば、視覚観察によって決定される場合(透明で沈殿を含まない溶液)または分析用ゲル濾過によって決定される場合(50%未満、特に1~40%の粒子のフラグメント化)、-210℃~80℃、特に-210℃~40℃、-210℃~30℃または-210℃~4℃の温度で少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも7日間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも6ヶ月間または少なくとも12ヶ月間、水溶液中で安定である。実際の実験は、本発明の粒子が、例えば、視覚観察によって決定される場合(透明で沈殿を含まない溶液)または分析用ゲル濾過によって決定される場合(50%未満、特に1~40%の粒子のフラグメント化)、水溶液中、5.0~8.0のpH、4℃~40℃の温度、でも少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも7日間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月間または少なくとも3ヶ月間安定であることを示している。本発明の粒子は、例えば、視覚観察によって決定される場合(透明で沈殿を含まない溶液)または分析用ゲル濾過によって決定される場合(50%未満、特に1~40%の粒子のフラグメント化)、水溶液中、5.0~8.0のpH、40℃~75℃の温度で少なくとも10分間安定であることがわかっている。いくつかの実施形態では、粒子は、長期保存、その後、水溶液中での再構築のために凍結乾燥されてもよい。いくつかの実施形態では、本発明の粒子は、例えば、適切なバッファーでpH7.5で再構築した後の分析用ゲル濾過(50%未満、特に40%未満、または1~40%の粒子のフラグメント化)によって決定される場合、-210℃~80℃、特に-210℃~40℃、-210℃~30℃または-210℃~4℃の温度で少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも7日間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも6ヶ月間または少なくとも12ヶ月間、凍結乾燥した形態で安定である。「フラグメント化」は、本明細書で使用される場合、ゲル濾過溶出プロファイルにおいて、新しく調製した本発明の粒子のピークの大きさと比較して、本発明の粒子に対応するピークの大きさ(すなわち、ピーク高さ)が、脂質に結合していない遊離SAPLIPおよび/または遊離脂質および/または凝集物のピークサイズのために減少することを意味する。したがって、40%のフラグメント化は、例えば、ピークの大きさ(すなわち、ゲル濾過溶出プロファイル中のピークの高さ)が、保存前のピークの大きさ(100%)と比較して40%減少していることを意味する。
【0074】
実際の実験から、本発明の粒子が、特に、実質的に界面活性剤を含まない水溶液中でも安定であることが示されている。実質的に界面活性剤を含まないとは、水溶液が、水溶液の合計体積を基準として0.001%(w/v)未満の界面活性剤を含むことを意味する。
【0075】
本発明に従って使用される脂質結合ポリペプチド、すなわち、サリプロ粒子中の脂質結合ポリペプチドは、サポシン様タンパク質(SAPLIP)、またはその誘導体または先端が切断された形態である。「サポシン様タンパク質」(SAPLIP)との用語は、本明細書で使用される場合、当該技術分野で認識されており、脂質と相互作用するタンパク質のサポシン様タンパク質(SAPLIP)ファミリーの全てのメンバーを含む。SAPLIPファミリーは、サポシン-折り畳み部分と、高度に保存された分子内ジスルフィド結合によって安定化された、保存されたαらせん三次元構造とを特徴とする(Munford et al.(1995)、Journal of Lipid Research、vol.36、no.8、1653-1663およびBruhn(2005)、Biochem J 389(15):249-257)。本発明に係るサポシン様タンパク質(SAPLIP)ファミリーの例は、Munford et al.(1995)、Journal of Lipid Research、vol.36、no.8、1653-1663およびBruhn(2005)、Biochem J 389(15):249-257に記載されており、これら両方とも、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。
【0076】
リガンドを含まない(すなわち、界面活性剤を含まない/脂質を含まない)「閉じた」状態では、SAPLIPは、モノマー圧縮型の4つのらせんが束状になった構造であるサポシン折り畳み部分になる。この折り畳み部分は、ヒトサポシンA閉じたアポ形態の構造(タンパク質データバンク(PDB)IDコード:2DOB、Ahn et al.(2006)Protein Sci.15:1849-1857)、またはサポシンCの構造(PDB IDコード:1M12;de Alba et al.(2003)Biochemistry 42、14729-14740)、NK溶解素(PDB IDコード:1NKL;Liepinsh et al.(1997)Nat.Struct.Biol.4、793-795)、アメーバポアA(PDB IDコード:1OF9)およびグラニュライシン(PDB IDコード:1L9L;Anderson et al.(2003)J.Mol.Biol.325、355-365)によって例示され、これらは、全てがほぼ同一であり、容易に重ね合わせることができる。
【0077】
SAPLIPは、リガンド、例えば、脂質または界面活性剤分子と結合すると、配座変化を受ける。リガンドが結合した「開放した」配座では、SAPLIPは、V字形またはブーメラン型の形状の配座をとっており、結合した脂質と接触する疎水性表面が露出している。この開放した配座は、従来技術のサポシンA界面活性剤円盤構造(PDB IDコード:4DDJ;Popovic et al.、PNAS、Vol.109、No.8(2012)2908-2912)およびSDS界面活性剤ミセルに結合したサポシンCの構造(PDB IDコード:1SN6;Hawkins et al.(2005)J.Mol.Biol.346:1381-1392)によって例示される。
【0078】
本発明の粒子では、脂質結合ポリペプチドは、好ましくは両親媒性であり、その構造の一部は、程度の差はあるが親水性であり、水性溶媒に面しており、他の部分は、程度の差はあるが疎水性であり、脂質を含む粒子の疎水性中心に面している。脂質結合ポリペプチドは、好ましくは、らせんの片面に優先的にさらに疎水性の高い残基(例えば、A、C、F、G、I、L、M、V、WまたはY)を有し、らせんの他の面にさらに極性または帯電した残基(例えば、D、E、N、Q、S、T、H、KまたはR)を有する両親媒性αらせんを特徴とする。
【0079】
アミン酸残基の省略語は、本明細書で使用される場合、以下の通りである。A、Ala、アラニン;V、Val、バリン;L、Leu、ロイシン;I、lie、イソロイシン;P、Pro、プロリン;F、Phe、フェニルアラニン;W、Trp、トリプトファン;M、Met、メチオニン;G、Gly、グリシン;S、Ser、セリン;T、Thr、トレオニン;C、Cys、システイン;Y、Tyr、チロシン;N、Asn、アスパラギン;Q、Gln、グルタミン;D、Asp、アスパラギン酸;E、Glu、グルタミン酸;K、Lys、リシン;R、Arg、アルギニン;およびH、His、ヒスチジン。
【0080】
従来技術のアポリポタンパク質に由来するナノ円盤とは対照的に、本発明の脂質結合ポリペプチドは、脂質が二重のベルト状の様式に囲まれておらず、むしろ、本発明の粒子は、頭部-尾部の配置で並んだ2つ以上のほぼV字形またはブーメラン型の形状の脂質結合ポリペプチドによって囲まれている脂質を含むコアによって一緒に保持されており、本発明の所与の粒子内の個々の脂質結合ポリペプチドとの間に実質的に直接的なタンパク質-タンパク質の接触が存在しない(
図1aから
図1fを参照)。この理論により束縛されることを望まないが、本発明の粒子中の脂質結合ポリペプチドと脂質のこの配置が、本発明の粒子に嵩高い疎水性薬剤が組み込まれるか、または組み込まれる脂質の量が増えるときに観察される大きさの自由度を与えると考えられる。
【0081】
脂質と相互作用する能力、および上述の両親媒性と、三次元構造が、SAPLIPの中で高度に保存されているが、これらはアミノ酸配列レベルでは非常に多様であり、配列同一性は、ホモロジーを規定する25~30%同一性の通常の閾値領域よりも低い(以下の
図12aおよび12bに複製されている、Bruhn(2005)、Biochem J 389(15):249-257の
図4Aおよび
図4Bの配列比較を参照、ここに示される配列は、本発明の開示の一部を形成する)。
【0082】
本発明のリポタンパク質粒子では、脂質結合ポリペプチドは、主に構造タンパク質として役立ち、本発明のリポタンパク質粒子の構造、例えば、円盤様構造のための足場を与える。この理由のために、構造的な特徴、特に、SAPLIPに特徴的なサポシン折り畳み部分は、単なる配列決定因子と比較して、本発明の脂質結合ポリペプチドを規定するのに、より重要である。
【0083】
本発明に係るSAPLIPの例は、サポシンA、B、CまたはD(例えば、Homo sapiens由来[配列番号1~4を参照]、Equus caballus、Bos taurus、Mus musculus、Oryctolagus cuniculus、Rattus norvegicusまたはXenopus laevis由来);界面活性剤タンパク質B(例えば、Homo sapiens、Canis familiaris、Mus musculus、Oryctolagus cuniculus、Ovis ariesまたはRattus norvegicus由来);グラニュライシン(例えば、Homo sapiens由来;配列番号5を参照);NK溶解素(例えば、Sus scrofa由来;配列番号6を参照);NK溶解素オルソログ(例えば、Equus caballusまたはBos taurus由来);アメーバポア(例えば、Entamoeba histolytica由来);アメーバポアオルソログ(例えば、Entamoeba disparまたはEntamoeba invadens由来);アメーバポア様タンパク質(例えば、Fasciola hepatica由来);ナエグレリアポア(Naegleriapores)(例えば、Naegleria fowleri由来);クロルノリン(Clornorin)(例えば、Clonorchis sinensis由来);プロサポシン(例えば、Homo sapiens、Equus caballus、Bos taurus、Mus musculus、Oryctolagus cuniculus、Rattus norvegicusまたはXenopus laevis由来)およびMSAP(例えば、Homo sapiens由来)である。
【0084】
本発明に従って使用される特定のSAPLIPの配列は、Bruhn(2005)、Biochem J 389(15):249-257の
図4Aおよび
図4Bに与えられ、ここに明記される図および配列は、本発明の開示の一部を形成し、したがって、以下の
図12aおよび
図12bで同じように再び作成されている。本発明に従って使用される特定のSAPLIPの配列は、以下の配列表に与えられる。配列番号1 サポシンA[Homo sapiens];配列番号2 サポシンB[Homo sapiens];配列番号3 サポシン C[Homo sapiens];配列番号4 サポシンD[Homo sapiens];配列番号5 グラニュライシン[Homo sapiens];配列番号6 NK溶解素[Sus scrofa]。
【0085】
本発明に従って使用されるSAPLIPは、サポシン-折り畳み部分をマルチドメインタンパク質の一部として含むポリペプチドであってもよい。これは、例えば、酸スフィンゴミエリナーゼ(Homo sapiens、Caenorhabditis elegans、Ciona intestinalis、Anopheles、Drosophila、Mus musculusまたはRattus norvegicus由来);GDSL(Gly-Asp-Ser-Leu)リパーゼ、例えば、アシルオキシヒドロラーゼ(Homo sapiensまたはRattus norvegicus由来);Countin(Dictyostelium discoideum由来);J3-crystallin(Tripedalia cystophora由来)および植物アスパラギン酸プロテアーゼ(Viridiplantae由来)の場合があてはまる。本発明に従って使用されるさらなるSAPLIPは、バクテリオシンAS-48であってもよい。バクテリオシンAS-48は、抗微生物活性を示し、脂質に結合することができ、残りのSAPLIPファミリーメンバーと同じ折り畳み部分を保有するが、ジスルフィド架橋を欠いている。
【0086】
以下に、脂質結合ポリペプチドとしてのサポシンA、またはその誘導体または先端が切断された形態について、本発明をさらに詳細に記載し、脂質結合ポリペプチドとしてのサポシンA、またはその誘導体または先端が切断された形態は、好ましい実施形態であるが、本発明は、これに限定されるべきではない。むしろ、本発明は、明確に、本発明の脂質結合ポリペプチドとしてのサポシン様タンパク質(SAPLIP)のファミリー全体に拡張される。SAPLIPの中で高い程度に構造的および機能的に保存されていることに起因して、脂質結合ポリペプチドとしてサポシンAを用いる本発明の特定の実施形態の特徴および利点は、他のSAPLIPまたはその誘導体または先端が切断された形態を本発明の脂質結合ペプチドとして使用する他の実施形態にも適用されると予想される。
【0087】
好ましい実施形態によれば、SAPLIPは、サポシンA、B、CまたはDであり、特に、(Homo sapiens、Equus caballus、Bos taurus、Mus musculus、Oryctolagus cuniculus、Rattus norvegicusまたはXenopus laevis)のサポシンA、サポシンB、サポシンCまたはサポシンDから選択されるサポシンである。一実施形態では、SAPLIPは、(Homo sapiens、Equus caballus、Bos taurus、Mus musculus、Oryctolagus cuniculus、Rattus norvegicusまたはXenopus laevis)のサポシンA、サポシンBまたはサポシンDである。
【0088】
サポシンCは、サポシンの中でも、膜融合を誘発することができるという点で特殊であり、この特徴は、他のサポシンでは示されない。膜融合活性が常に望ましくはない場合もある。本発明の特定の実施形態によれば、脂質結合ポリペプチドは、サポシン様タンパク質(SAPLIP)またはその誘導体または先端が切断された形態であり、但し、SAPLIPはサポシンCではないか、または但し、SAPLIPは、サポシンCまたはその誘導体または先端が切断された形態ではない。
【0089】
一実施形態では、SAPLIPは、ヒト由来(すなわち、Homo sapiens SAPLIP)である。
【0090】
好ましい実施形態では、SAPLIPは、サポシンAであり、好ましくは(Homo sapiens、Equus caballus、Bos taurus、Mus musculus、Oryctolagus cuniculus、Rattus norvegicusまたはXenopus laevis)のサポシンAであり、特に好ましくは、ヒトサポシンAであり、そのアミノ酸配列は、配列番号1として与えられる。サポシンAは、既知のタンパク質である。その発現、精製およびLDAO-界面活性剤複合体としての結晶化は、例えば、PNAS、Vol.109、No.8(2012)2908-2912(Popovic et al.)に記載される。
【0091】
本発明の一実施形態によれば、脂質結合ポリペプチドは、SAPLIPの全長配列を含む。別の実施形態では、脂質結合ポリペプチドは、SAPLIPの誘導体、特に、それぞれのSAPLIPの全長配列に対して少なくとも20、30、40、50または60%、好ましくは少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドである。特に、脂質結合ポリペプチドは、SAPLIPの全長配列に対する同一性が少なくとも80%、85%、90%または95%の配列を含むことができる。
【0092】
「配列同一性」との用語は、本明細書で使用される場合、Henikoff S.およびHenikoff JG.、P.N.A.S.USA 1992、89:10915-10919に記載されるBlosum62マトリックスなどのスコアリングマトリックスを用い、配列の最適アラインメントによって計算することができるタンパク質間の同一性の程度を指す。Blosum62類似性マトリックスおよびNeedlemanおよびWunschのアルゴリズム(J.Mol.Biol.1970、48:443-453)を使用する2つの配列の同一性の割合および最適アラインメントの計算を、Genetics Computer Group(GCG、マディソン、WI、USA)のGAPプログラムを用い、プログラムのデフォルトパラメータを用いて行うことができる。
【0093】
アミノ酸アラインメントの比較として、EMBLオンラインツール「EMBOSS Stretcher」(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_stretcher/)が、デフォルト設定のプログラムを用いて使用される。
【0094】
別の実施形態では、SAPLIPの誘導体は、それぞれのSAPLIPのアミノ酸配列に1つ以上のアミノ酸の欠失、付加、挿入および/または置換を有する配列を含むポリペプチドである。例えば、SAPLIP誘導体は、1~40、好ましくは1~30、特に1~20、または1~15のアミノ酸が欠失し、付加され、挿入され、および/または置換された、特定のSAPLIPの配列を含むポリペプチドであってもよい。
【0095】
「欠失」との用語は、本明細書で使用される場合、それぞれの出発配列からの1、2、3、4、5、またはそれより多いアミン酸残基の除去を指す。
【0096】
「挿入」または「付加」との用語は、本明細書で使用される場合、それぞれの出発配列に対し、1、2、3、4、5、またはそれより多いアミン酸残基の挿入または付加を指す。「置換」との用語は、本明細書で使用される場合、特定の位置にあるアミン酸残基を異なる位置と交換することを指す。
【0097】
本発明の別の実施形態によれば、脂質結合ポリペプチドは、配列番号1の1つ以上のフラグメントを含むサポシンAの誘導体である。好ましいフラグメントは、サポシンAのらせんa1、a2、a3およびa4に対応し、らせんa1は、アミノ酸の以下の連続的な伸張によって作られる:「SLPCDICKDVVTAAGDMLK」。らせんa2は、アミノ酸の以下の連続的な伸張によって作られる:「ATEEEILVYLEKTCDWL」。らせんa3は、アミノ酸の以下の連続的な伸張によって作られる:「PNMSASCKEIVDSYLPVILDIIKGEMS」。らせんa4は、アミノ酸の以下の連続的な伸張によって作られる:「PGEVCSAL」。本発明の特定の実施形態によれば、サポシンAの誘導体は、サポシンAのらせんa1、a2、a3、a4、およびこれらの組み合わせから選択される配列を含むポリペプチドであり、特に、このポリペプチドは、サポシンAのらせんa1、a2およびa3の配列を含む。サポシンAのフラグメント、例えば、そのらせんa1、a2、a3、a4は、アミノ酸配列中に1つ以上のアミノ酸欠失、付加、挿入および/または置換を有していてもよい。
【0098】
サポシンAの誘導体または先端が切断された形態が、本発明に係る脂質結合ポリペプチドとして使用される場合、以下に詳細に記載する本発明の調製プロセスで使用される場合、上述の誘導体または先端が切断された形態は、両親媒性であり、少なくとも1つのαらせんを形成し、可溶化した脂質と共にリポタンパク質粒子へと自己集合することができるべきである。本明細書で使用される場合、「両親媒性」との用語は、親水性領域と疎水性領域を両方とも含むポリペプチドまたは分子を指す。
【0099】
好ましくは、SAPLIPの誘導体が使用される場合、SAPLIPの6個のシステインに対応する6個のシステイン残基が、サポシンAメンバーに存在すべきであることがわかっている。この観点で、Bruhn(2005)、Biochem J 389(15):249-257の
図4Aおよび
図4Bの配列比較におけるシステインの位置を指し、この図は、本明細書に特に参考として組み込まれる。
【0100】
本発明に係る脂質結合ポリペプチドは、1つ以上の非天然アミノ酸、アミノ酸アナログ、またはペプチド結合が代謝低下に対してより耐性がある構造によって置き換えられているペプチド模倣構造も含んでいてもよい。
【0101】
本発明のプロセスの工程a)
本発明に係るプロセスの工程a)では、細胞および/または細胞小器官の膜から得られる未精製膜小胞が提供される。未精製膜小胞は、常に、異なる未精製膜小胞の混合物である。通常、未精製膜小胞は、1つの細胞から得られておらず、複数の特定の種類の細胞および/または細胞の細胞小器官から得られている。例えば、未精製膜小胞を得るために、特定の真核生物、原核生物または古細菌の細胞を使用してもよい。「複数」との用語は、本明細書で使用される場合、少なくとも2種類以上の細胞を意味する。未精製膜小胞を調製するために、異なる真核生物、原核生物または古細菌の細胞の混合物を使用することも可能である。しかし、好ましくは、未精製膜小胞は、1種類の細胞または細胞小器官から得られる。別の実施形態では、未精製膜小胞は、1個の(single)(singularと同義)細胞から得られる。この実施形態では、本プロセスは、一細胞レベルで行うことができる。
【0102】
「未精製」との用語は、本明細書で使用される場合、膜小胞が未精製膜フラクションから得られること、すなわち、さらに精製されておらず、または抽出されていないことを意味する。したがって、未精製膜は、その供給源である元々の細胞または細胞小器官の膜からの膜タンパク質と膜脂質を両方とも依然として含んでいる。このことは、単離および/または精製されたタンパク質または脂質を主に使用する従来技術プロセスとは対照的である。未精製膜フラクションは、細胞または細胞小器官の破壊または溶解の後、不溶性成分を可溶性成分から分離することによって得ることができる。不溶性フラクションは、本発明に従って使用可能な未精製膜フラクションの一形態である。
【0103】
「小胞」との用語は、当業者の技術用語である。典型的には、小胞は、閉じられた球状の脂質二重層によって囲まれる水性流体から本質的になる小さな環状構造である。しかし、未精製膜小胞は、典型的には、大きさおよび内容物が非常に多様であり、不均質である。これらの未精製膜小胞は、特別に調製されてもよく、または細胞/細胞小器官を破壊または溶解すると自然に形成してもよい。本プロセスの工程a)で与えられる小胞は、細胞または細胞小器官の膜から得られる。したがって、小胞は、典型的には、細胞または細胞小器官の膜、特に、使用される細胞または複数の細胞からの膜脂質と、場合により膜タンパク質との混合物を含む。
【0104】
工程a)で与えられる小胞は、複数の異なる小胞、すなわち、混合物である。小胞は、構造、大きさおよび/または組成が異なっていてもよい。小胞の構造は、単層または多層であってもよい。小胞の組成は、その供給源となる細胞または細胞小器官の膜と、もし存在する場合には、調製に使用する方法とによって変わる。
【0105】
当業者に既知の未精製膜から小胞を得るための特定の方法を使用してもよく(例えば、音波処理)、本願発明者らは、未精製膜フラクションの破壊または溶解および調製の間に、天然に存在する細胞または細胞小器官の膜が破壊または溶解すると、多くは、十分な量の未精製膜小胞が自己集合することを観察した。
【0106】
本発明に係るプロセスで使用される膜は、細胞膜および細胞小器官膜から選択される。「膜」、「細胞小器官膜」または「細胞膜」は、脂質の層を含む任意の膜を指す。好ましくは、膜は、脂質二重層である。時に、「膜」との用語は、本明細書では、「細胞膜」および/または「細胞小器官膜」と相互に置き換え可能に用いられる。
【0107】
基本的に、細胞膜は、細胞の内側を外側環境から分離する生体膜である。細胞膜に含まれる複雑な構造と複数の成分(例えば、膜脂質および膜タンパク質)は、Alberts et al.、「The Cell」、4th edition、Macmillian Magazines Ltd、2002のページ583~614、およびCampbell et al.、「Biologie」、6th edition、Spektrum Verlag、2003のページ163~177にも詳細に記載される。本発明に係るプロセスの工程a)で未精製膜小胞を与えるために使用される細胞膜または細胞小器官膜は、典型的には、異なる脂質と膜タンパク質との異種混合物を含む。したがって、工程a)で与えられる小胞の組成は、膜脂質および膜タンパク質の混合物という点で異なっていてもよく、典型的には、供給源である特定の膜によって変わる。
【0108】
「脂質」または「膜脂質」との用語は、本明細書で使用される場合、当該技術分野で認識されており、有機溶媒に可溶性であるか、または部分的に可溶性であるか、または水相に存在するときに疎水性環境に分配される、生体由来の天然物質を指す。時には「脂質」と「膜脂質」は、本明細書では相互に置き換え可能に用いられる。「脂質」または「膜脂質」との用語は、本明細書で使用される場合、本発明の粒子中の合成分子または1種類の脂質分子であることを意味しない。実際に、この用語は、細胞または細胞小器官の膜に存在する複数の少なくとも2種類の異なる脂質分子であることを意味する。本発明サリプロ粒子に組み込まれる脂質は、細胞または細胞小器官の膜に天然に存在する膜脂質である。したがって、本発明の粒子は、典型的には、供給源である細胞または細胞小器官の膜で天然に存在する膜脂質の混合物を含む。一実施形態では、本発明に従って得られる粒子は、少なくとも3、5、10または20種類の異なる脂質を含む。典型的には、これらの膜脂質は、膜タンパク質が埋め込まれている二重層を形成する。例外は、いくつかの古細菌膜について与えられ、ある種の古細菌が単層を含むため、本発明に係るプロセスに使用することができる。古細菌の細胞膜の構造は、以下にさらに詳細に記載される。
【0109】
細胞膜または細胞小器官の膜は、基本的に、膜脂質として、リン脂質、糖脂質またはステロールといった三種類の両親媒性脂質を含む。それぞれの量は、細胞、細胞膜または細胞小器官膜の種類によって変わる。リン脂質は、水に溶解する極性部分(ホスフェート「頭部」)と、水に溶解しない疎水性の非極性部分(「脂質尾部」)とを有する。これらの部分は、グリセロール部分によって接続する。水中で、リン脂質は、頭部が水の方を向いており、尾部が水から離れる方を向いているクラスターを構築することができる。リン脂質および糖脂質の脂肪鎖は、通常、偶数の炭素原子、典型的には、16~20個の炭素原子を含む。16炭素および18炭素の脂肪酸が、最も一般的である。脂肪酸は、飽和であっても不飽和であってもよい。二重結合の配座は、典型的には、いわゆるcis配座である。cis-およびtrans-の異性は、Cahn-Ingold-Prelogに従って分子内の官能基の相対配置において生じる立体異性を指す有機化学で使用される用語である(CIP;Cahn、R.S.&Ingold、C.K.;Prelog、V.、「Specification of Molecular Chirality」。Angewandte Chemie International Edition、5(4)、p.385-415、1966)。細胞膜に存在する典型的な脂肪酸は、Alberts et al.、「The Cell」、4th edition、Macmillian Magazines Ltd、2002のページ61および62にも記載されている。膜脂質のさらなる例は、リン脂質、例えば、ホスファチジルコリン、例えば、POPC(1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)、ホスファチジルエタノールアミン、およびホスファチジルセリン、例えば、POPS(1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン)ホスファチジルイノシトール、およびスフィンゴミエリンである。
【0110】
糖脂質は、グリコシド結合によって炭水化物が接続した脂質である。炭水化物は、典型的には、真核生物の細胞膜の外側表面上にみられる。これらの炭水化物は、リン脂質二重層から、細胞の外側の水性環境へと延びている。糖脂質の例は、グリセロ糖脂質、ガラクト脂質、スルホ脂質、糖スフィンゴ脂質、グルコセレブロシド、スルファチド、ガングリオシド、グロボシド、糖ホスホスフィンゴ脂質および糖ホスファチジルイノシトールである。
ステロールは、ステロイドのサブグループである。膜の一部としてのステロールは、典型的には、植物、動物および真菌などの真核生物の膜内に生じる。ステロールの例は、コレステロール、カンペステロール、シトステロール、スティグマステロールおよびエルゴステロールである。
好ましい実施形態によれば、膜脂質は、脂質二重層を形成する脂質および/または生体適合性脂質である。「生体適合性」との用語は、本明細書で使用される場合、生きている細胞において、毒性、傷害性または免疫学的応答を引き起こさないことによって、生物学的に適合性であることを示す。
【0111】
本明細書で使用される場合、「二重層を形成する脂質」は、内側が疎水性で、外側が親水性の脂質二重層を形成することができる脂質を指す。SAPLIP、またはその誘導体または先端が切断された形態に会合し、粒子構造へと集合することが可能な任意の二重層を形成する脂質を本発明に従って使用してもよい。二重層を形成する脂質としては、限定されないが、リン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、アルキルリン脂質、エーテル脂質およびプラズマロゲンが挙げられる。1種類の二重層を形成する脂質を使用してもよく、または2種類以上の混合物を使用してもよい。
粒子は、二重層を形成する脂質ではない脂質を含んでいてもよい。このような脂質としては、限定されないが、コレステロール、カルジオリピン、ホスファチジルエタノールアミン(この脂質は、特定の状況で二重層を形成し得る)、オキシステロール、植物ステロール、エルゴステロール、シトステロール、カチオン性脂質、セレブロシド、スフィンゴシン、セラミド、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、トリアシルグリセロール、ガングリオシド、エーテル脂質、アルキルリン脂質、プラズマロゲン、プロスタグランジンおよびリゾリン脂質が挙げられる。
【0112】
本発明のサリプロ粒子に含まれる膜脂質は、上に列挙した膜脂質の混合物であってもよいが、これらに限定されない。典型的には、本発明に係る粒子に含まれる膜脂質は、少なくともリン脂質、糖脂質、コレステロールおよびこれらの混合物を含む。好ましい実施形態によれば、膜脂質は、真核生物の脂質および/または原核生物の脂質であり、特に、典型的には、真核生物または原核生物の細胞に存在する膜のうちいずれか1つに存在するものである。好ましい脂質は、例えば、リン脂質、糖スフィンゴ脂質、ステロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン(PS)、2-オレオイル-1-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、2-オレオイル-1-パルミトイル-sn-グリセロ-3-グリセロール(POPG)、2-オレオイル-1-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、ジアシルグリセロール、コレステロール、スフィンゴミエリン、ガラクトシルセラミド、ガングリオシド、ホスファチジルイノシトールおよびスルホ糖セラミド、またはこれらの組み合わせである。
【0113】
別の実施形態では、膜脂質は、リン脂質を含む。適切なリン脂質の例としては、限定されないが、DMPC、DMPG、POPC、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、カルジオリピン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、卵黄ホスファチジルコリン(卵PC)、大豆ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリンおよびカチオン性リン脂質が挙げられる。
本発明に係る粒子中の膜脂質は、典型的には、細胞または細胞小器官の膜の中に存在する脂質の異種混合物である。しかし、本発明の粒子中にさらに脂質を含むことも可能であり、この脂質は、1つ以上の結合した機能性部分、例えば、標的部分または生体活性部分を含む、改変された脂質であってもよい。
【0114】
標的部分は、例えば、本発明の粒子が、特定の細胞または組織型、または感染性薬剤を標的とするのに役立つ場合がある。標的部分は、粒子を精製し、試験し、または同定するのにも役立つだろう。いくつかの実施形態では、粒子は、脂質結合ポリペプチドまたは脂質成分または膜タンパク質成分に接続した標的部分を含む。
【0115】
標的部分は、粒子が、特定の細胞表面受容体を標的とすることができるように、例えば、受容体認識特性を有していてもよい。例えば、本発明の粒子は、例えば、粒子の脂質結合ポリペプチド成分を、標的とされる細胞型の表面にある受容体と相互作用することができるように改変することによって、特定の種類の感染性薬剤を有することが知られている特定の細胞型を標的としていてもよい。一実施形態では、標的部分は、天然または合成のリガンド、抗体および抗体フラグメント、または標的とする目的に適した他の生体分子からなる群から選択される。
【0116】
生体活性部分は、例えば、薬物、細胞毒性薬剤、酵素、標識、フルオロフォア、コントラスト剤および放射性標識から選択されてもよい。
【0117】
細胞または細胞小器官の膜の膜脂質以外に、本発明のサリプロ粒子に、さらなる脂質も含まれていてもよい。これらの脂質は、天然に存在する脂質、合成脂質、改変された脂質、脂肪、ワックス、ステロール、脂肪可溶性ビタミン、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、リン脂質、脂肪酸、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ポリケチド、ステロール脂質およびプレノール脂質、またはこれらの組み合わせから選択されてもよい。
【0118】
本発明に係るサリプロ粒子は、膜タンパク質を欠いていてもよく、すなわち、脂質結合ポリペプチドおよび未精製膜小胞からの膜脂質のみから本質的に構成されていてもよい(「空の」サリプロ粒子)。しかし、好ましくは、サリプロ粒子は、膜タンパク質も含む(「充填された」サリプロ粒子)。膜タンパク質は、天然で膜に埋め込まれているタンパク質であるか、または最適には、膜にのみ会合するタンパク質である。膜タンパク質は、種々の機能を示すことができる。例えば、膜受容体タンパク質は、細胞の内側環境と外側環境との間でシグナルを連携し、輸送タンパク質が、分子およびイオンを膜を介して移動する。膜タンパク質は、酵素として作用してもよく、酵素は、多くの活性(例えば、オキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼまたはヒドロラーゼの活性)を有していてもよい。膜タンパク質は、例えば、細胞接着分子であってもよい。
【0119】
一実施形態によれば、本発明のサリプロ粒子は、膜タンパク質を含まないか、または粒子あたり、1~10、または1~5の膜タンパク質を含む。ライブラリーは、一実施形態によれば、粒子あたりの膜タンパク質が平均1~10または1~5の粒子を含むものであるとして、定義することもできる。
【0120】
本発明の粒子中の膜タンパク質は、例えば、膜タンパク質、一体的な膜貫通タンパク質、一体的な一回貫通型膜タンパク質、表在性膜タンパク質、脂質に結合した状態での両指向性タンパク質(amphitropic protein)、脂質に固定されたタンパク質、融合した疎水性および/または膜貫通ドメインを有するキメラタンパク質から選択されてもよい。
【0121】
一体的な膜タンパク質は、脂質二重層に永久的に結合し、通常は移動して膜を形成するのに界面活性剤または非極性溶媒を必要とする膜タンパク質である。膜貫通タンパク質は、少なくとも一回は膜全体に広がる一体的な膜タンパク質である。本発明の粒子に組み込むことが可能な膜貫通タンパク質の例は、Gタンパク質共役受容体(GPCR)、ポーター、例えば、ユニポーター、シンポーターまたはアンチポーター、チャンネル、例えばイオンチャンネルまたは酵素である。
【0122】
一体的な一回貫通型膜タンパク質は、片側からのみ、膜に永久的に接続し、膜全体に広がらない。この種類は、αらせん膜貫通固定部を介して膜に固定される膜タンパク質を含む。例としては、シトクロムP450オキシダーゼおよびグリコホリンAが挙げられる。
【0123】
表在性膜タンパク質は、一時的に、または間接的にのみ、脂質二重層またはこれに組み込まれた一体的な膜タンパク質に会合する。表在性膜タンパク質は、通常、高いpHまたは高い塩濃度で極性試薬で処理した後、膜から解離する。表在性膜タンパク質の例としては、ホスホリパーゼA2またはC、リポキシゲナーゼおよびシトクロムcが挙げられる。
【0124】
脂質に固定されたタンパク質は、脂質付与された、特にプレニル化されているか、またはGPIが固定されたアミン酸残基によって、脂質二重層に結合する。例としては、細菌リポタンパク質、Gタンパク質および特定のキナーゼが挙げられる。
【0125】
両指向性タンパク質は、脂質を含まない水溶性状態と、脂質に結合した状態の少なくとも2つの配座状態で存在するタンパク質である。脂質と会合すると、両指向性タンパク質は、配座変化を受け、可逆的または不可逆的に膜に会合するようになる。両指向性タンパク質の例は、穴を形成する毒素および抗細菌ペプチドである。
【0126】
工程a)で与えられる小胞は、細胞および/または細胞の細胞小器官から得られてもよい。「1つの(a)」との用語は、本明細書では、「1つ」または「複数の」特定の目的物を意味する。例えば、「1つの細胞(a cell)」は、1個の特定の細胞または複数の特定の細胞を意味する。典型的には、複数の細胞および/または細胞の細胞小器官が、本発明に係るプロセスに使用される。本発明に係るプロセスは、1つの細胞および/または細胞の細胞小器官の使用に限定されない。膜小胞を調製するために、異なる細胞または細胞小器官の混合物を使用することも可能である。
【0127】
本発明の特殊な実施形態では、工程a)の前記未精製膜小胞が、
a.1)細胞および/または細胞の細胞小器官を与える工程;
a.2)前記細胞および/または前記細胞の細胞小器官を溶解または破壊する工程;
a.3)未精製膜フラクションを得る工程;および
a.4)工程a.3)で得られた未精製膜フラクションから未精製膜小胞を調製する工程、のうち少なくとも1つ、2つ、3つ、または全てによって調製される。
【0128】
工程a.1)では、細胞および/または細胞の細胞小器官が与えられる。「細胞」との用語は、本明細書で使用される場合、典型的に生物学で使用されるものと同じと理解される。細胞は、全ての既知の生きている有機体の基本的な構造単位、機能単位および生物学的単位である。細胞は、独立して複製可能な生命の最小単位である。「細胞」は、本明細書で使用される場合、真核生物、原核生物および古細菌も含む。「細胞」は、本明細書で使用される場合、ウイルスを含まない。
細胞は、細胞膜によって包まれる細胞質を含み、細胞膜は、上に説明したように、タンパク質および脂質などの生体分子を含む。有機体は、単細胞(すなわち、1個の細胞からなる、例えば、原核生物)または多細胞(例えば、真核生物、例えば、動物、植物または真菌)として分類されてもよい。
【0129】
本発明に係るプロセスに使用される膜が得られる細胞は、特定の種類の細胞に限定されない。細胞は、天然に存在していてもよく、トランスフェクトされ、遺伝子操作されているか、または疾患細胞、例えば、癌細胞であってもよい。さまざまな種類の細胞が、本発明に係るプロセスに適していることがわかった。
好ましくは、細胞は、古細菌、真核生物または原核生物の細胞である。好ましい細胞の細胞小器官は、真核生物の細胞小器官である。
【0130】
古細菌、真核生物および原核生物の細胞膜は、それぞれ、上述の膜脂質と場合により膜タンパク質とを含む。しかし、当業者は、古細菌、真核生物および原核生物の細胞が互いに異なっていることを知っている。古細菌、真核生物または原核生物の細胞の構造、機能および違いは、種々の標準的な教科書に記載されており、例えば、Alberts et al.、「The Cell」、4th edition、Macmillian Magazines Ltd、2002またはCampbell et al.、「Biologie」、6th edition、Spektrum Verlag、2003に記載されている。
【0131】
真核生物は、細胞が核を含み、場合により、膜によって包まれた細胞小器官を含む、任意の細胞または有機体である。一実施形態では、本発明に係るプロセスで使用される膜は、真核生物からの膜、例えば、細胞の細胞小器官に由来する細胞膜および/または膜である。細胞小器管の例は、ゴルジ装置、ミトコンドリア、ペルオキシソーム、小胞体、葉緑体、核などである。
【0132】
真核生物の例は、植物、動物および真菌、例えば、酵母およびカビである。本発明に係るプロセスで使用可能な好ましい真核生物の細胞は、哺乳動物細胞、特に、動物およびヒトの細胞、昆虫細胞、鳥類細胞、真菌細胞、例えば、酵母細胞、植物細胞、およびこれらの混合物からなる群から選択される。哺乳動物細胞との用語は、特に、培地中に保持される動物およびヒトの細胞も含む。
【0133】
原核生物は、核を持たない1細胞の有機体である。原核生物の細胞は、真核生物の細胞よりも単純でかつ小さく、膜細胞小器官を持たない。原核生物の例は、細菌である。例示的な細菌門は、アキドバクテリウム、放線菌、アクウィフェクス、アルマティモナス、バクテロイデス、カルディセリクム、クラミジア、クロロビウム、クロロフレクサス、クリシオゲネス、藍色細菌、デフェリバクター、デイノコックス・テルムス、ディクチオグロムス、エルシミクロビウム、フィブロバクター、フィルミクテス、フソバクテリウム、ゲンマティモナス、レンティスファエラ、ニトロスピラ、プランクトバクテリア、プロテオバクテリア、スピロヘータ、シネルギステス、テネリクテス、サーモデスルフォバクテリア、テルモトガおよびウェルコミクロビウムである。本発明に係るプロセスで使用可能な好ましい原核生物の細胞は、細菌、特に、病原細菌、およびこれらの混合物である。
【0134】
古細菌は、原核生物および真核生物とは遠縁でのみ関連がある。詳細な概説は、例えば、De Rosa et al.、「Structure,Biosynthesis,and Physicochemical Properties of Archaebacterial Lipids」、MICROBIOLOGICAL REVIEWS、p.70-80 Vol.50、No.1、1986またはAlbers et al.、「The archaeal cell envelope」、Nature Reviews Microbiology、9、p.414-426、2011に与えられる。
【0135】
De Rosaらは、古細菌膜が、原核生物および真核生物との非常に異なる分子を含むことを報告している。原核生物および真核生物は、主にグリセロールエステル脂質を含む膜を含み、一方、古細菌は、グリセロールエーテル脂質を含む膜を含む。エーテル結合は、エステル結合よりも化学的に耐性である。この安定性は、古細菌が、極端な温度および非常に酸性または塩基性の環境で生存するのに役立つだろう。原核生物および真核生物がエーテル脂質を含んでいる場合もあるが、古細菌とは対照的に、これらの脂質は、膜のわずか少量の成分であるか、膜の成分として含まれない。
【0136】
これに加えて、古細菌の脂質は、イソプレノイド側鎖に基づく。イソプレノイド側鎖は、20個、25個または40個までの炭素原子を含む長鎖であり、場合により複数の側鎖の分岐を有している。イソプレノイド側鎖は、シクロプロパン環またはシクロヘキサン環も含んでいてもよい。これは、上述の他の有機体の膜にみられる脂肪酸とは対照的である。イソプレノイドは、多くの有機体の生化学に重要な役割を果たすが、古細菌だけは、これをリン脂質を製造するために使用する。ある種の古細菌では、脂質二重層が単層と置き換わっていてもよい。
【0137】
古細菌の例は、メタン生成古細菌、ハロ細菌および好熱好酸性古細菌である。本発明に係るプロセスで使用可能な好ましい古細菌は、局限性古細菌や、異なる局限性古細菌の混合物である。
【0138】
宿主からの脂質またはタンパク質を含んでいてもよいウイルスを用いることは、本発明の一部ではなく、本発明は、細胞または細胞小器官の膜に由来する小胞および粒子にのみを対象とする。細胞または細胞小器官との用語は、ウイルスを除外する。ウイルス構造およびウイルスの膜の成分は、適用可能な場合、真核生物、原核生物および古細菌の膜とは異なっている。このことは、例えば、Lorizate et al.、「Comparative lipidomics analysis of HIV-1 particles and their producer cell membrane in different cell lines」、Cellular Microbiology、15(2)、p.292-304、2013およびBruegger et al.、「The HIV lipidome:A raft with an unusual composition」、PNAS、Vol.103、No.8、p.2641-2646、2006にさらに詳細に報告されている。
【0139】
Lorizateらは、種々の試験が、HIV-1膜が、製造元の細胞血漿膜とは異なることを示すことを報告しており、このことは、既に存在するサブドメインからのウイルス発芽または特殊な発芽膜のウイルスが介在する誘導を示唆している。2種類の異なる細胞株から精製された血漿膜およびHIV-1の脂質分析から、このウイルス膜が、宿主細胞の血漿膜と比較して、観察する細胞型とは独立して、顕著な異なる脂質組成であることがわかった。ウイルス粒子は、製造元の細胞の宿主血漿膜と比較して、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、ヘキソシルセラミドおよび飽和ホスファチジルコリン種を顕著に豊富に含んでいた。これらは、不飽和ホスファチジルコリン種であるホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルイノシトールのレベルの低下を示していた。HIV-1とドナー血漿膜との脂質組成の細胞型に特異的な差は、プラズマロゲン-ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルグリセロールについて観察され、これらは、MT-4細胞に由来するHIV-1にのみ非常に豊富であった。MT-4細胞由来のHIV-1は、ジヒドロスフィンゴミエリンも含んでいた。合わせると、Lorizateらによって報告されたこれらのデータは、HIV-1が、その形態形成のための特殊な脂質環境を選択し、宿主の細胞膜と同一ではなく、類似でもないことを裏付けている。通常、本明細書に記載する本発明の粒子およびライブラリーは、ウイルスタンパク質および/またはウイルス膜を含まない。
【0140】
工程a.1)の細胞は、例えば、精製された細胞フラクションまたは精製されていない細胞フラクション、例えば、細胞懸濁液または成長培地として与えられてもよい。細胞は、細胞培養物の形態で与えられてもよく、細胞は、典型的には、制御された状態(例えば、その天然環境の内側または外側)で成長する。当業者は、細胞株中の細胞が、非常によく似ているが、同一ではないことも多いことを知っている。しかし、ある細胞株から得られる複数の細胞を与えることも、工程a.1)において細胞を与えるという意味に含まれる。工程a.1)で引用される細胞または細胞小器官は、この工程で使用される細胞および/または細胞小器官のもっと大きく複雑な群の一部であってもよい。
【0141】
工程a.1)では、細胞は、組織、臓器または任意の他の生体細胞を含むサンプルなどの未精製の生体サンプルの形態で与えられてもよい。しかし、当業者は、細胞、細胞の細胞小器官またはこれら複数のものを、サンプル(例えば、細胞培養物、組織、組織懸濁液または任意の他の生体サンプル)から単離してもよい。
【0142】
混合した細胞懸濁液から異なる細胞型を分離するために使用可能ないくつかの手法が存在する。1つは、物理特性の差を活用するものである。遠心分離によって、大きな細胞は、例えば、小さな細胞から分離されてもよく、高密度の細胞は、軽い細胞から分離されてもよい。
【0143】
別の手法は、いくつかの細胞型が、ガラスまたはプラスチックに強固に付着する傾向に基づくものであり、あまり強く付着しない細胞から、これらの細胞を分離することができる。さらなる細胞分離技術は、特定の細胞を標的とする染料、ラベルまたはタグに接続した抗体を使用する。次いで、例えば、FACSまたは他の方法によって、標識された細胞は、標識されていない細胞から分離することができる。特定の細胞は、組織薄片から注意深く切除することによっても得ることができる。マイクロダイセクション技術によって、選択した細胞を、組織薄片から単離することができる。この方法は、例えば、目的の領域を励起させ、容器に放出させるレーザービームを含んでいてもよく、これにより、組織サンプルからたった1個の細胞であっても単離することができる。
【0144】
細胞、細胞小器官の分離、精製または単離のための種々の技術を、本発明の方法で使用してもよい。細胞という観点での上述方法は、細胞の細胞小器官を得るのにも適している。
【0145】
工程a.2)では、細胞および/または細胞の細胞小器官の少なくとも一部が、破壊されるか、または溶解される。「溶解する」または「破壊する」との用語は、細胞または細胞小器官の膜の少なくとも一部を壊すことを指す。細胞および/または細胞の細胞小器官は、化学的手段または機械的手段によって溶解/破壊することができる。使用される溶解/破壊技術に応じて、膜の全て、いくつか、または一部のみが溶解/破壊される。例えば、細胞膜のみを溶解/破壊する場合、特定の細胞小器官を集めるために勾配遠心分離を使用してもよい。
【0146】
溶解または破壊は、酵素、化学薬剤によって、または機械的に行われてもよい。凍結融解の繰り返し、音波処理、例えば、超音波処理、圧力、低浸透圧ショックによる破壊、または濾過による細胞または細胞小器官の膜の機械的な溶解は、溶解とも呼ばれることがある。溶解直後であるが、任意のさらなる抽出または精製工程の前の未処理溶液は、未精製溶解物と呼ばれる。未精製溶解物から、溶解物中に存在する膜を含む未精製膜フラクションを単離することができる。典型的には、このことは、例えば、遠心分離によって、溶解物の不溶性フラクション(未精製膜フラクション)を可溶性フラクションから分離することによって達成することができる。本発明の好ましい実施形態では、未精製膜小胞は、任意の他の小胞の生成、精製または抽出工程を行うことなく、未精製膜フラクションから得られる。
【0147】
工程a.3)では、未精製膜のフラクションが得られる。本発明の一実施形態では、工程a.2)とa.3)を同時に行ってもよい。このことは、例えば、細胞および/または細胞の細胞小器官を溶解し、それによって、未精製膜小胞を与えることによって達成することができる。
【0148】
工程a.4)では、未精製膜小胞は、工程a.3)の後、または工程a.2)およびa.3)の後に、未精製膜フラクションから得ることができる。未精製膜小胞は、未精製膜フラクションを溶媒、バッファー、界面活性剤またはこれらの混合物に部分的に溶解するか、または撹拌することによって、得ることができる。適切な水性溶媒の例は、水、例えば、脱イオン水、脱塩水または滅菌水、生理食塩水溶液、例えば、NaCl溶液、およびリン酸塩、酢酸塩、グリシン塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、またはこれらの混合物を含む溶液である。好ましいバッファーは、生理学的に忍容性のバッファーである。適切なバッファーの例は、例えば、リン酸バッファー、ACES、PIPES、イミダゾール/HCl、BES、MOPS、HEPES、TES、TRIS、HEPPSまたはTRICINである。
【0149】
本発明の別の実施形態では、工程a.2)、a.3)および/またはa.4)を同時に行う。細胞および/または細胞の細胞小器官を溶解することによって、未精製膜フラクションは、溶解物中に存在する。本願発明者らは、多くは、十分は未精製膜小胞が自然に生成し、本発明のプロセスで使用されることを観察した。
【0150】
本発明のプロセスの工程b)
本発明の方法の工程b)では、工程a)の後に得られる混合物(すなわち、未精製膜小胞)を、液体環境で脂質結合ポリペプチドと接触させる。本発明の方法の工程b)は、「未精製膜小胞を液体環境で脂質結合ポリペプチドと接触させる」ものとして配合されてもよい。未精製膜小胞は、工程a)および/またはa.4)で得られるものである。
【0151】
脂質結合ポリペプチドおよび脂質は、上述の形態であってもよい。
【0152】
特定の実施形態では、液体環境は、水溶液である。水性溶媒は、緩衝化溶液であってもよい。工程b)の液体環境は、pHが2.0~10.0、特に6.0~10.0、好ましくは6.0~9.0、特に好ましくは7.0~9.0、最も好ましくは7.0~8.0であってもよい。工程b)の液体環境は、場合により、界面活性剤も含んでいてもよい。
【0153】
工程b)および/またはc)の持続時間は、特定の実験設定、特に、サリプロ粒子中に存在する脂質および膜タンパク質の種類、これらの工程が行われる温度に非常に大きく依存する。工程b)およびc)がそれぞれ互いと独立して、10秒~24時間、10秒~2時間、10秒~30分、10秒~15分続くとき、良好な結果が一般的に達成された。好ましくは、工程b)および/またはc)は、10~60℃、好ましくは15~42℃、特に好ましくは30~40℃の温度で行われる。しかし、インキュベート時間を長くすると、低い温度(例えば、2~10℃)で作業することも可能である。示されている温度は、工程が行われる液体環境の温度である。
【0154】
本発明に係るプロセスの特定の実施形態では、未精製膜小胞を、工程a)、b)および/またはc)で界面活性剤と接触させる。
【0155】
「界面活性剤」との用語は、本明細書で使用される場合、当該技術分野で認識されており、本明細書で使用される「脂質」または「膜脂質」の定義に含まれない。
【0156】
多くの脂質は、界面活性剤と比較したときに、同様の両親媒性の一般的な構造、すなわち、極性親水性頭部基と非極性疎水性尾部を有するが、脂質は、モノマーの形状、溶液中に生成する凝集物の種類、凝集に必要な濃度範囲という点で、界面活性剤とは異なっている。脂質は、一般的に、構造が実質的に円筒形であり、疎水性尾部によって占められる体積は、極性頭部基によって占められる体積と似ている。界面活性剤モノマーは、一般的に、もっと円錐形状であり、疎水性尾部によって占められる体積は、極性頭部基によって占められる体積よりも小さい。界面活性剤は、球状または楕円形のミセルへと凝集する傾向があり、このミセルは、水溶性であり、脂質が存在しない状態では二重層構造を形成しない(handbook 「Detergents and their uses in membrane protein science」、Anatrace、www.anatrace.comを参照)。
本発明に係るプロセスで使用可能な界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、非イオン性、両性イオン性およびこれらの混合物であってもよい。
【0157】
本明細書で使用される界面活性剤は、好ましくは、アルキルベンゼンスルホネートまたは胆汁酸、カチオン性界面活性剤および非イオン性または両性イオン性界面活性剤、例えば、ラウリル-ジメチルアミン-オキシド(LDAO)、Fos-コリン、CHAPS/CHAPSO、アルキルグリコシド、例えば、短鎖、中鎖または長鎖のアルキルマルトシド、特に、n-ドデシル β-D-マルトシド、グルコシド、マルトース-ネオペンチルグリコール(MNG)両親媒性分子、両親媒性ポリマー(アンフィポール)、フェノールとアルデヒドのヒドロキシアルキル化生成物に基づく大環状または環状オリゴマー(カリックスアレーン)、およびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0158】
典型的なアニオン性界面活性剤は、アルキルベンゼンスルホネートである。これらのアニオンのアルキルベンゼン部分は、親油性であり、スルホネートは親水性である。アニオン性界面活性剤は、例えば、分岐したアルキル基または直鎖アルキル基を含んでいてもよい。適切なアニオン性界面活性剤の例は、胆汁酸、例えば、デオキシコール酸(DOC)、アルキルベンゼンスルホネート、例えば、分岐ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、直鎖ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、およびこれらの混合物である。
【0159】
カチオン性界面活性剤は、アニオン性界面活性剤とよく似ており、疎水性成分を有するが、アニオン性スルホネート基の代わりに、カチオン性界面活性剤は、第四級アンモニウムを極性末端として有する。アンモニウムの中心は、正に帯電している。
【0160】
非イオン性界面活性剤は、帯電していない親水性頭部基を特徴とする。典型的な非イオン性界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンまたはグリコシドに基づく。前者の一般的な例としては、Tween、TritonおよびBrijシリーズが挙げられる。これらの材料は、エトキシレートまたはPEG-リエイトおよびその代謝物であるノニルフェノールとしても知られている。グリコシドは、帯電していない親水性頭部基として糖を有する。例としては、オクチルチオグルコシドおよびマルトシドが挙げられる。HEGAシリーズおよびMEGAシリーズの界面活性剤は、よく似ており、糖アルコールを頭部基として有している。本発明に係るプロセスで使用可能な適切な非イオン性界面活性剤の例は、アルキルグリコシド、例えば、短鎖、中鎖または長鎖のアルキルマルトシド、例えば、n-ドデシル-β-マルトシド(DDM)、デカノイル-N-ヒドロキシエチルグルカミド(HEGA)、n-デカノイル-N-メチル-D-グルカミド(MEGA)、およびこれらの混合物である。
【0161】
両性イオン性界面活性剤は、同数の逆に帯電した化学基の存在から生じる正味でゼロの電荷を有し、すなわち、全体的な電荷が正味でゼロになるように、合計で、負の電荷の数と正の電荷の数が等しい。例としては、Fos-コリン、CHAPS/CHAPSO、ラウリル-ジメチルアミン-オキシド(LDAO)およびこれらの混合物が挙げられる。
【0162】
実際の実験から、短鎖から中鎖の疎水性尾部を有する界面活性剤を使用することが有利であると示された。このことは、膜タンパク質が疎水性薬剤として組み込まれる場合に、特にあてはまる。「短鎖疎水性尾部」は、本明細書で使用される場合、例えば、n-ノニル-b-マルトシド(NM)におけるC2からC9を意味する。「中鎖疎水性尾部」は、本明細書で使用される場合、例えば、n-デシル-β-マルトシド(DM)またはn-ドデシル-β-マルトシド(DDM)におけるC10からC15を意味する。一実施形態では、疎水性薬剤の精製および/または可溶化に使用される界面活性剤は、その疎水性尾部に2~12個の炭素原子を含み、好ましくは、2~10個、最も好ましくは2~9個の炭素原子をその疎水性尾部に含む。
【0163】
工程a)またはa.1)、a.2)、a.3)および/またはa.4)のいずれか1つでの膜小胞は、界面活性剤に可溶化した状態であってもよい。実際の実験は、多種多様な界面活性剤を使用し、本発明に係るプロセスで使用するために未精製膜小胞をさらに可溶化することができることを示している。例えば、本発明に係るプロセスは、0.01~5.0%、特に0.1~1.0%の短鎖またはもっと長い鎖のアルキルマルトシドおよびグルコシドなどのアルキルグルコシドを含む溶液中に存在する未精製膜小胞を用いると、非常によく機能する。しかし、使用される膜または未精製膜小胞の種類に応じて、他の適切な界面活性剤も同様に使用可能である。所与の界面活性剤が、所与の膜または未精製膜小胞を可溶化する能力は、凝集物、沈殿または相分離のない透明な溶液の生成によって、視覚的に容易に観察することができる。理論により束縛されないが、界面活性剤を添加すると、膜構造がゆるくなり、粒子の自己集合を助ける、すなわち、未精製膜成分がサリプロ粒子に組み込まれるようである。
【0164】
本発明の一実施形態では、工程b)の混合物を溶解するために使用される界面活性剤は、本発明の最終的な粒子にかなりの量が保有されない。特に、本発明に係るプロセスによって得ることができる粒子中の界面活性剤の量は、検出不可能なほど低くすることができる。一実施形態では、本発明の粒子は、かなりの量の界面活性剤を含まず、特に、粒子の重量を基準として、0.1wt%未満、好ましくは0.01wt%未満、特に好ましくは0.001wt%未満の界面活性剤を含む。粒子中に存在する界面活性剤の量は、例えば、質量分析法によって決定することができる。
【0165】
実際の実験は、本発明の脂質結合ポリペプチドが、一般的に、精製、保存または取り扱い中に界面活性剤または他の溶媒を必要としないことを示している。場合により、しかし、工程b)で使用される脂質結合ポリペプチドも、界面活性剤に可溶化した形態であってもよい。
【0166】
いくつかの実施形態では、工程b)における脂質結合ポリペプチドと膜小胞のモル比は、少なくとも1:1、好ましくは少なくとも2:1または少なくとも5:1、特に好ましくは少なくとも10:1である。別の実施形態では、工程b)における脂質結合ポリペプチドと膜小胞のモル比は、1:1~1.000.000:1、特に1:1~100.000:1、または10.000:1~500:1である。
【0167】
いくつかの実施形態では、工程b)における脂質結合ポリペプチドと膜小胞の重量比は、少なくとも1:1、好ましくは少なくとも2:1または少なくとも5:1、特に好ましくは少なくとも10:1である。別の実施形態では、工程b)における脂質結合ポリペプチドと膜小胞の重量比は、1:1~1.000.000:1、特に1:1~100.000:1、または10.000:1~500:1である。
【0168】
一実施形態では、工程b)の脂質結合ポリペプチドは、未精製膜小胞と比較してモル過剰である。別の実施形態では、工程b)における脂質結合ポリペプチドの量は、未精製膜小胞と比較して過剰である(それぞれの時間のwt%は、工程bの混合物の合計重量を基準とする)。
【0169】
本発明の粒子に組み込まれる大部分の膜タンパク質について、工程b)における脂質と膜タンパク質とのモル比が100.000:1~1000:1、特に100:1~1:1である場合、最適な結果が達成される。
【0170】
本発明に係るプロセスの一実施形態では、工程b)における脂質結合ポリペプチドと膜小胞のモル比は、少なくとも1:1、特に、少なくとも3:3、好ましくは少なくとも5:1または10:1である。本発明に係るプロセスの別の実施形態では、工程b)における脂質結合ポリペプチドと膜小胞の重量比は、少なくとも1:1、特に、少なくとも3:3、好ましくは少なくとも5:1または10:1である。
【0171】
別の実施形態では、工程a)とb)は同時に行われる。さらなる実施形態では、工程a.1)からa.4)の少なくとも1つの工程は、工程b)と同時に行われる。この実施形態では、工程a.1)からa.4)の少なくとも2つの工程と工程b)を同時に行うことも可能である。特殊な実施形態では、工程a.1)からa.4)の全ての工程と工程b)が同時に行われる。好ましい実施形態では、工程a.3)、a.4)と工程b)が同時に行われる。
【0172】
本発明のさらなる実施形態では、本プロセスは、さらに、工程a)と工程b)の間に、
b.1)未精製膜小胞と界面活性剤とを液体環境で接触させる工程を含む。
界面活性剤は、上に定義した通りであってよい。
【0173】
工程b.1)が行われる場合では、工程b.1)の後に得られる混合物(すなわち、未精製膜小胞と界面活性剤の混合物)を、工程c)で脂質結合ポリペプチドと接触させる。場合により、工程b.1)と工程b)との間に、工程b.2)も存在してもよく、工程b.1)で得られた未精製膜小胞と界面活性剤との混合物を精製した後、工程b)で脂質結合ポリペプチドと接触させる。このような精製は、以下にさらに詳細に記載され、例えば、界面活性剤の除去、特に、過剰または実質的に全ての界面活性剤の除去、または非小胞成分の除去を含んでいてもよい。このような精製の一例は、超遠心分離による試験片および/またはタンパク質凝集物の除去である。工程b.2)が行われる場合では、工程b.2)の後に得られる混合物(すなわち、未精製膜小胞の精製された混合物)を、工程c)で脂質結合ポリペプチドと接触させる。
【0174】
このような精製工程は、工程b)とc)の間に工程c.1)として行われてもよく、工程a)およびb)の後に得られる混合物が精製される。
【0175】
工程a)、b)および/またはc)は、界面活性剤存在下で行われてもよい。好ましくは、界面活性剤は、上述の界面活性剤から選択される。界面活性剤は、液体、固体または液体から固体の状態などの適切な形態で添加されてもよい。
【0176】
ある実施形態では、工程a)、a.4)、b)またはb.1)の後に得られた混合物を、場合により精製する。このような精製工程は、例えば、上の工程b.2)およびc.1)として記載している。
【0177】
適切な精製方法は、クロマトグラフィー方法、特に、サイズ排除クロマトグラフィー、超遠心分離、透析、界面活性剤に結合するバイオビーズとの接触、濃縮剤の使用、結合していない/組み込まれていない脂質および/または疎水性化合物を除去するためのアフィニティクロマトグラフィー、磁気ビーズおよび/または膜/フィルターである。当業者は、達成されるべき精製目標に応じて、適切な精製方法を選択することができる。
【0178】
本発明のプロセスの工程c)
本発明に係るプロセスの工程c)では、粒子の自己集合が起こる。工程c)は、別個の工程であることを必要とせず、工程b)と同時に行うこともできる。通常、粒子の自己集合は、未精製膜と、本発明の脂質結合ポリペプチドとを接触させるとすぐに起こる。工程c)は、通常、液体環境で行われ、この液体環境は、工程b)で使用される液体環境と同じであってもよく、または異なっていてもよい。
【0179】
工程b)の粒子の自己集合は、本発明のサリプロ粒子内への未精製膜または未精製膜小胞のフラグメント化と呼ばれてもよい。このフラグメント化または自己集合は、本発明の脂質結合ポリペプチドと接触させることによって起こる。
【0180】
好ましくは、本発明の工程c)は、2.0~10.0、特に6.0~10.0、好ましくは6.0~9.0、特に好ましくは7.0~9.0、最も好ましくは7.0~8.0のpHで粒子を自己集合させることを含む。これらのpH範囲を、工程c)に適用されるpHとは独立して、上述の工程b)に適用してもよい。本明細書に記載するpH範囲によって、工程c)で本発明の粒子へと特に効果的に自己集合させるために、工程b)で成分を互いに接触させることができる。
【0181】
サリプロ粒子が、サポシンの天然pHの最適値である4.75で、またはこれに近いpHで最も良好に集合するはずであるという予想とは対照的に、さらに中性または塩基性のpHが粒子の自己集合中に維持されると、改良された特性と拡張された用途スペクトラムを示すサリプロ粒子のライブラリーを得ることもできることがわかった。驚くべきことに、5.0~10(特に6.0~10、より好ましくは6.0~8.5、最も好ましくは7.0~8.0)のpHで、未精製膜小胞存在下、精製されたサポシン様タンパク質またはその誘導体または先端が切断された形態は、組み込まれる脂質または膜タンパク質成分のいずれかに関する面倒な上流の精製プロセスを必要とすることなく、安定なリポタンパク質粒子へと自己集合することができることがわかった。
【0182】
本発明に係るプロセスの工程c)は、工程b)で得られた混合物を液体で、特に、界面活性剤を含まないか、または工程b)で得られる混合物よりも少ない量の界面活性剤を含む液体で希釈することを含んでいてもよく、またはこの工程からなっていてもよい。実際の実験は、このような希釈工程が、本発明の粒子の自己集合をさらに誘発し、促進することを示している。この理論によって束縛されることを望まないが、このような希釈工程が、不純物、溶媒および/または界面活性剤分子を脂質結合ポリペプチドおよび未精製膜小胞の疎水性表面から効果的に除去し、それによって、成分の高められた疎水性相互作用によって、本発明に係る粒子自己集合プロセスがさらに容易になると考えられる。
【0183】
工程c)での粒子の自己集合は、工程b)で調製されたのと全く同じ組成物で行われてもよいが、工程c)は、有機溶媒の付加、界面活性剤の除去、精製または希釈工程も含んでいてもよく、またはこれらからなっていてもよい。工程c)は、例えば、ゲル濾過工程であってもよい。この場合には、工程b)の後に得られた混合物は、工程c)で、使用されるゲル濾過バッファーで精製され、希釈される。特定の実施形態では、工程b)で得られる混合物に対し、ゲル濾過工程を行い、それにより、ゲル濾過バッファーまたは他の溶液は、界面活性剤を含まないか、または工程b)で得られる混合物よりも少ない量の界面活性剤を含む液体である。
【0184】
特定の実施形態によれば、上述の工程、特に、工程a)、b)および/またはc)および/またはこれらのそれぞれ記載される副工程a.1)~a.4、b.1)~b.2)および/またはc.1)のうちの1つは、4℃~85℃、特に20℃~70℃、特に好ましくは30℃~70℃の温度で行われる。大部分の用途について、30℃~40℃の温度があれば十分である。しかし、本明細書に教示される方法によって、当業者は、使用する膜、化合物、脂質およびタンパク質の温度安定性に関し、最適インキュベート温度を決定することができる。
【0185】
さらなる実施形態では、本プロセスは、工程c)で、またはその後の工程d)として、遊離膜脂質、遊離膜タンパク質、遊離脂質結合ポリペプチド、不可溶性または凝集した物質および/または界面活性剤を少なくとも部分的に除去することによって粒子を精製することを含み、場合により、精製は、クロマトグラフィー、特に、サイズ排除クロマトグラフィー;超遠心分離;透析;界面活性剤に結合するバイオビーズとの接触;濃縮剤の使用;限定されないが、結合していない/組み込まれていない脂質および/または疎水性化合物を除去するためのクロマトグラフィー、磁気ビーズ、免疫精製および/または膜/フィルターを含むアフィニティ精製方法によって行われる。
【0186】
上述のプロセスによって、本発明に係るサリプロ粒子のライブラリーが得られる。これらは、工程a)で出発物質として使用された未精製膜小胞の膜プロテオームおよびリピドーム、すなわち、未精製膜小胞の調製元となる細胞または細胞小器官の膜プロテオームおよびリピドームの全体または一部、好ましくは、かなりの部分を反映し、含む。サリプロ粒子ライブラリーは、それ自体、例えば、ライフサイエンス研究、系統的な生物学などにおいて、所与の細胞または細胞小器官の膜プロテオームおよび/またはリピドームを試験するために、薬物開発、特に、薬物スクリーニングプロセスにおいて、抗体の開発において、および種々の医薬または化粧品用途において直接的に有用である。
【0187】
しかし、本発明の方法によって得られるライブラリーは、特定の選択または特定の種類のサリプロ粒子を精製することができる出発物質として作用するためにも特に有用である。
【0188】
したがって、本発明は、精製されたサポシンリポタンパク質粒子を調製するためのプロセスであって、上述のプロセスに従ってライブラリーを調製する工程と、
f)少なくとも1種類のサポシンリポタンパク質粒子を前記ライブラリーから精製するさらなる工程とを含むプロセスも提供する。
【0189】
工程f)での少なくとも1種類のサリプロ粒子の精製は、任意の精製、抽出または分離方法によって、好ましくは、本明細書に記載する方法によって行うことができる。
【0190】
ライブラリーからの少なくとも1種類のサリプロ粒子の精製は、限定されないが、アフィニティクロマトグラフィーを含むアフィニティ精製によって、および/または免疫精製、特に、精製される粒子中に存在する膜タンパク質上の抗原またはタグを用いることによって行われてもよい。これに加えて、またはこれに代えて、精製は、クロマトグラフィー、特に、サイズ排除クロマトグラフィー;超遠心分離;透析;界面活性剤に結合するバイオビーズとの接触;または濃縮剤の使用によって行われてもよい。
【0191】
好ましくは、工程f)での少なくとも1種類のサリプロ粒子の精製は、アフィニティクロマトグラフィーなどのアフィニティ精製によって行われる。好ましくは、抗原またはタグ(本明細書では「アフィニティタグ」とも呼ばれる)は、精製される少なくとも1種類のサリプロ粒子中に存在する膜タンパク質または脂質上に存在する。好ましくは、抗原またはタグは、精製される少なくとも1種類のサリプロ粒子中の膜タンパク質上に存在する。しかし、精製に使用されるタグまたは抗原は、サリプロ粒子中の脂質結合ポリペプチド上に存在していてもよい。この様式で、ライブラリー全体が、工程f)でアフィニティ精製される。
【0192】
好ましくは、認識部分は、アフィニティ精製に使用され、認識部分は、サリプロ粒子中に存在する抗原またはアフィニティタグに結合する。
【0193】
当業者に知られているように、アフィニティ精製は、精製される成分(例えば、サリプロ粒子)と、混合物から成分を生成するために使用される対応する認識部分(例えば、抗原の場合には抗体、またはHis-タグの場合にはNi-NTA部分)の上に抗原またはアフィニティタグを含む。基本的には、タンパク質アフィニティ精製技術から当業者には知られている種々の抗原またはアフィニティタグ/認識部分の対を使用し、工程f)において本発明に係る少なくとも1種類のサリプロ粒子を精製することができる。
【0194】
アフィニティタグ/認識部分対の相互作用は、タンパク質の精製および固定を補助するために開発された。タンパク質は、遺伝子レベルで、アフィニティタグとして知られる、既知の認識部分に結合する特定のペプチド配列を用いて改変されてもよい。アフィニティタグは、一般的に、a)低分子に結合するペプチド配列、b)低分子に結合する融合タンパク質、c)抗体に結合するペプチドタグまたは融合タンパク質の3つのカテゴリーに分類される。アフィニティタグは、簡便な結合対を有する低分子であってもよい。アフィニティタグは、本発明の方法の工程a)に使用される未精製膜小胞中に存在する標的タンパク質、ペプチドまたは脂質に共有結合してもよい。この様式で、アフィニティ-タグ化サリプロ粒子は、例えば、アフィニティタグのための結合対または認識部分を生じるマトリックスまたは樹脂に固定されてもよい。例えば、ニトリロ三酢酸は、Ni2+に対して錯体形成すると(NTA-Ni2+)、ヒスチジンタグとして知られるヒスチジン伸長部で改変されたタンパク質に結合する認識部分を規定し、アフィニティタグを規定する。
【0195】
「アフィニティタグ」は、当該技術分野での一般的な意味で与えられる。アフィニティタグは、標的である生体材料または化学材料に容易に接続することができる任意の生体材料または化学材料である。アフィニティタグは、任意の適切な方法によって、標的である生体分子または化学分子に接続してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、アフィニティタグは、遺伝的な方法によって標的分子に接続してもよい。例えば、アフィニティタグをコードする核酸配列を、未精製膜小胞中に存在する生体分子をコードする配列付近に挿入してもよい。配列は、アフィニティタグを生体分子と共に発現させることができる核酸内のどこかの場所(例えば、その中、隣接して、またはそのそば)に配置されていてもよい。他の実施形態では、アフィニティタグは、標的の生体分子または化学分子が生成した(例えば、発現または合成された)後、標的の生体分子または化学分子に接続してもよい。一例として、アフィニティタグ(例えばビオチン)は、標的タンパク質またはペプチドに化学的にカップリング(例えば、共有結合)し、ストレプトアビジンに対するこの標的の結合を容易にしてもよい。
【0196】
アフィニティタグとしては、例えば、金属に結合するタグ、例えば、ヒスチジンタグ、GST(グルタチオン/GST結合における)、ストレプトアビジン(ビオチン/ストレプトアビジン結合における)が挙げられる。他のアフィニティタグとしては、Myc/Max対の中のMycまたはMax、またはポリアミノ酸、例えば、ポリヒスチジンが挙げられる。本明細書の種々の場所で、特定のアフィニティタグが、結合相互作用に関連して記載される。アフィニティタグが相互作用する(例えば、結合する)分子は、既知の生体結合対または化学結合対であってもよく、「認識部分」である。本発明は、アフィニティタグを使用する任意の実施形態において、本明細書に記載する任意のアフィニティタグの選択をそれぞれ含む一連の個々の実施形態を含むことを理解すべきである。
【0197】
認識部分は、アフィニティタグに結合することができる任意の化学材料または生体材料であってもよい。認識部分は、例えば、低分子、例えば、マルトース(MBP、すなわちマルトース結合タンパク質に結合する)、グルタチオン、NTA/Ni2+、ビオチン(ストレプトアビジンに結合し得る)、または抗体であってもよい。アフィニティタグ/認識部分の相互作用は、標的分子が、別の生体材料または化学材料、または基材に接続するのを容易にするだろう。アフィニティタグ/認識部分相互作用の例としては、ポリヒスチジン/NTA/Ni2+、グルタチオンSトランスフェラーゼ/グルタチオン、マルトース結合タンパク質/マルトース、ストレプトアビジン/ビオチン、ビオチン/ストレプトアビジン、抗原(または抗体のフラグメント)/抗体(または抗体のフラグメント)などが挙げられる。
【0198】
本発明の工程f)で有用なアフィニティタグまたは抗原/認識部分の対は、例えば、抗体/ペプチド相互作用、抗体/抗原相互作用、抗体フラグメント/抗原相互作用、核酸/核酸相互作用、タンパク質/核酸相互作用、ペプチド/ペプチド相互作用、タンパク質/タンパク質相互作用、低分子/タンパク質相互作用、グルタチオン/GST相互作用、マルトース/マルトースに結合するタンパク質相互作用、炭水化物/タンパク質相互作用、炭水化物誘導体タンパク質相互作用、ペプチドタグ/金属イオン-金属キレート相互作用、ペプチド/NTA-Ni相互作用、エピトープタグ(例えば、V5-タグ、Myc-タグ、FLAG-タグまたはHA-タグ)/抗体相互作用、タンパク質A/抗体相互作用、タンパク質G/抗体相互作用、タンパク質L/抗体相互作用、蛍光タンパク質(例えば、GFP)/抗体相互作用、Fc受容体/抗体相互作用、ビオチン/アビジン相互作用、ビオチン/ストレプトアビジン相互作用、ジンクフィンガー/核酸相互作用、低分子/ペプチド相互作用、低分子/標的相互作用および金属イオン/キレート化剤/ポリアミノ酸相互作用である。
【0199】
上述のアフィニティタグのいずれかが、本発明のサリプロ粒子中、特に、工程f)で精製される種類のサリプロ粒子中の膜タンパク質、脂質または脂質結合ポリペプチド上に存在していてもよい。工程f)でサリプロ粒子を精製するために、上述の認識部分のいずれかを使用してもよい。
【0200】
本発明のある実施形態では、タグは、蛍光タグである。特に、本発明の方法によって得られるサリプロ粒子、またはサリプロ粒子ライブラリー中に存在する1種類のサリプロ粒子は、蛍光タグを保有する。好ましい実施形態では、サリプロ粒子中に存在する脂質、膜タンパク質または脂質結合ポリペプチドは、蛍光タグを保有する。このような蛍光タグは、特定の膜タンパク質または特定の種類(種)のサリプロ粒子を、本発明の方法におけるその生成中(場合により精製中)に、検出し、フォローするのに有用である。GFPおよびその改変体は、最も一般的に使用される蛍光タグである。
これに加えて、実際の試験から、未精製膜または未精製膜小胞において膜タンパク質を特異的にタグ化することができることがわかり、次いで、これを、本発明に従ってライブラリーを調製するために、工程a)で使用する。このタグ化は、例えば、遺伝子操作によって、またはタグ化形質導入遺伝子を有するベクターを未精製膜小胞の供給源となる細胞または細胞小器官に挿入することによって、遺伝子レベルでは優先的に起こる。
【0201】
上述の技術を用い、本発明は、抗原またはアフィニティタグを有する目的の特定の膜タンパク質を含むサリプロ粒子を調製するためのプロセスを提供する。
【0202】
この手順は、膜タンパク質GLUT5のGFP融合物を含む未精製細胞膜について、以下に例示的に記載されるが、本発明はこれに限定されない。簡単に言うと、GFP-GLUT5を含む未精製膜小胞を含む未精製膜フラクション(本発明に係るプロセスの工程a))を、(界面活性剤を用い、または用いずに)液体環境中、サポシンAと接触させ(本発明に係るプロセスの工程b)と、部分的に既に工程c))、その後、界面活性剤を含まないバッファー中、ゲル濾過クロマトグラフィー/サイズ排除クロマトグラフィーを用いて界面活性剤ミセルを除去し(本発明に係るプロセスの工程c))、それによって、初期の混合物の疎水性部分を、サリプロナノ粒子へと自己集合させる。出発物質として使用される未精製膜が複雑であるため、このプロセスから、大量の異なる膜タンパク質を含むサリプロ粒子の異種ライブラリーが得られる。ライブラリー中のいくつかのサリプロ粒子は、以下の
図4bに示されるように、蛍光標識されたGFP-GLUT5膜タンパク質を含み、他のサリプロ粒子は、他の膜タンパク質を含み、いくつかのサリプロ粒子は、膜タンパク質を含まず、未精製膜由来の膜脂質のみを含む。
【0203】
本発明に係るプロセスは、一実施形態では、各サリプロ粒子が、本質的に、少なくとも1つの脂質結合ポリペプチドと、未精製細胞または細胞小器官の膜の成分とからなり、特に、各サリプロ粒子が、本質的に、少なくとも1つの脂質結合ポリペプチドと、未精製細胞または細胞小器官の膜からの膜脂質と、場合により、膜タンパク質とからなる、サリプロ粒子のライブラリーを提供する。
【0204】
「本質的に」との用語は、本明細書で使用される場合、本発明に係るプロセスで使用される痕跡量のさらなる成分、例えば、このプロセスで使用される未精製膜または薬剤の成分(例えば、界面活性剤)も、サリプロ粒子中に存在し得ることを意味する。サリプロ粒子は、本質的に、少なくとも1つの脂質結合ポリペプチドと、細胞または細胞小器官の膜から得られる膜の成分からなるが、しかし、特に、さらなる脂質および/またはタンパク質を添加しないことを意味している。特に、さらなる合成の、精製され、および/または外因性脂質および/またはタンパク質は、本発明に係るプロセスに添加されない。
【0205】
本発明の好ましい実施形態では、未精製膜小胞の脂質成分以外のさらなる脂質が、本発明に係るプロセスに添加されない。本発明のさらに好ましい実施形態では、未精製膜小胞のタンパク質成分以外のさらなる膜タンパク質は、本発明に係るプロセスに添加されない。
【0206】
本発明は、上述のプロセスのいずれかに従って得ることができるサポシンリポタンパク質粒子のライブラリーおよび/またはサリプロ粒子を提供する。
【0207】
本発明に係るプロセスによって得ることができ、本発明のサリプロ粒子ライブラリーに含まれるサリプロ粒子は、複数の特徴において、従来技術の粒子とは異なる。例えば、これらの粒子は、未精製細胞および細胞小器官の膜の成分を含む。特に、これらの粒子は、細胞および細胞小器官の膜からの膜タンパク質を含み、特に、その天然の細胞または細胞小器官膜脂質の内容物中にまだ保存されているような膜タンパク質を含む。好ましい実施形態では、本発明のサリプロ粒子は、膜タンパク質成分および脂質成分として膜脂質のみを含み、場合により、1種類の特定の細胞または細胞小器官膜からの膜タンパク質を含む。特に好ましい実施形態では、本発明のサリプロ粒子は、存在する場合には、膜タンパク質成分として、および脂質成分として、同じ細胞または細胞小器官の膜に由来する膜タンパク質および脂質のみを含む。
【0208】
これに加えて、本発明のサリプロ粒子は、その固有の大きさの自由度と、リポタンパク質粒子に組み込まれる膜成分のそれぞれの大きさに適応する能力を特徴とする。これにより、多種多様な膜タンパク質、その複合体、膜ドメインまたは膜成分をライブラリーのサリプロ粒子に組み込むことができる。したがって、本発明のライブラリーは、それぞれの個々のサリプロ粒子の内容物という観点で不均一であるというだけではなく、それぞれの個々のサリプロ粒子の大きさという観点でも不均一である。「空の」、すなわち、脂質のみのサリプロ粒子は、所与の膜タンパク質を含むものよりも小さく、所与の膜タンパク質を含むものは、マルチマー膜タンパク質複合体を含むものよりも小さいだろう。この大きさの自由度によって、サリプロ粒子ライブラリーは、その天然の内容物中の所与の細胞または細胞小器官の膜プロテオームおよびリピドームの偏っていないアレイを捕捉することができる。
【0209】
通常、サリプロ粒子ライブラリー中の粒子は、そのタンパク質組成という点で異なっている。これらの粒子は、その脂質の組成という点で異なっていてもよく、このことは、出発物質として使用される細胞または細胞小器官の膜中の膜ドメインの異なる脂質の組成を反映している。有利には、本発明に従って得られるライブラリーは、膜の一部または成分を含む粒子を与えてもよい。別の利点は、膜脂質と、場合により膜タンパク質の天然環境が、本発明のサリプロ粒子で維持されていることである。
【0210】
本発明の方法に従って得ることができるサリプロ粒子のライブラリーまたはサリプロ粒子は、特に、疾患を予防し、治療するか、または疾患の重篤度を減らすときに使用するために、または診断方法、化粧品処理に使用するために、またはワクチン接種製剤として使用するために、医薬に使用するためにも提供される。
【0211】
例えば、本発明のサリプロ粒子は、1つ以上の膜タンパク質および/または脂質を、治療を必要とする個人に送達するための医薬組成物に含まれていてもよく、ここで、組成物は、上述の本発明の粒子を含む。
【0212】
本発明の粒子以外に、医薬組成物は、場合により、薬学的に許容されるビヒクル、担体またはアジュバントを(さらに)含んでいてもよい。
本発明の粒子が、医薬組成物に使用するためのものである場合、粒子および医薬組成物の個々の成分は、薬学的に許容されるものであるべきである。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」との用語は、妥当な医学的判断の範囲内で、過度な毒性、刺激、アレルギー反応などを起こさず、合理的な便益/リスク比に適合し、ヒトおよび低級動物の組織と接触させて使用するのに適している成分、化合物または薬剤を指す。
【0213】
さらに別の態様では、本発明は、治療に有効な量の上述の医薬組成物を用い、治療が必要な個人を治療する方法を提供する。医薬組成物の「治療に有効な量」は、本明細書で使用される場合、治療される疾患または状態を治療するか、または重篤度を下げるのに有効な量である。「個人」との用語は、本明細書で使用される場合、動物、例えば、哺乳動物、より特定的にはヒトを意味する。
【0214】
本発明の医薬組成物は、治療される疾患または状態の重篤度に応じて、ヒトおよび他の動物に経口、直腸、非経口、嚢内、膣内、腹腔内、局所(粉末、軟膏または液滴によるような)、口腔、エアロゾル、口腔または経鼻スプレーなどとしてとして投与されてもよい。特に、医薬組成物は、腸内投与、非経口投与および/または局所投与のために配合されてもよい。医薬組成物は、カプセル、注入または注射、刷毛塗り可能な組成物または飲むことが可能な組成物、またはエアロゾルとして投与されてもよい。本発明の医薬組成物のいくつかの実施形態では、本発明の粒子は、固体形態で、懸濁液として、または溶液で存在する。
【0215】
本発明の粒子は、診断用途および/または化粧品用途でも有用である。例えば、検出可能な抗原またはタグ(例えば上述のもの)を含むサリプロ粒子を、診断薬剤として使用し、診断目的に適用してもよい。抗原またはタグ自体が、サリプロ粒子中に存在する膜タンパク質に含まれていてもよく、または膜タンパク質によって作られていてもよいが、これらは、粒子の脂質結合ポリペプチドまたは脂質成分に接続していてもよい。本発明に係る診断薬およびライフサイエンス研究のツールの例としては、タグ化され、組み込まれた膜タンパク質、タグ化された脂質結合ポリペプチド、タグ化された脂質、組み込まれたフルオロフォアまたはコントラスト剤(例えば、MRイメージングのための)を有する粒子が挙げられる。タグは、例えば、蛍光タグであってもよい。
【0216】
別の態様では、本発明の粒子は、ワクチン接種製剤として、その担体として、または薬物送達ビヒクルとして有用である。ワクチン接種において特に強力であり得る多くの病原体抗原は、真核生物または原核生物の病原体または患者における疾患細胞(例えば、癌細胞)の表面に露出しているか、および/または外側細胞膜に含まれている。これらの抗原は、例えば、病原体脂質、他の疎水性生体分子または膜タンパク質に由来していてもよい。病原体との用語は、本明細書で使用される場合、ウイルスを含まない。本発明の粒子を用いると、このような抗原は、粒子に有効に組み込むことができ、次いで、これを抗原提示送達ビヒクルとしてワクチン接種製剤で使用することができる。このように、本発明の粒子は、適切な宿主動物において、好ましくは、哺乳動物(例えば、ウサギ、ヤギ、ラマ、マウスおよび霊長類)において脂質または膜タンパク質に対する抗体を作成するための抗原提示送達ビヒクルとして機能するのにも有用である。
【0217】
また、本発明は、さらなる態様では、薬物開発、薬物スクリーニング、薬物発見のためのツールとしての本発明のサリプロ粒子または本発明のサリプロ粒子のライブラリーの使用を提供する。
【0218】
例えば、特定の膜タンパク質薬物標的、例えば、細胞表面受容体またはイオンチャンネルは、本発明の粒子に組み込まれ、その天然の状態に溶解してもよい。次いで、粒子は、上述のライブラリーから精製されてもよい。次いで、このような粒子を、その天然の脂質二重層環境で薬物標的膜タンパク質の活性を試験するために、アッセイに使用してもよく、または新規薬物を同定するために薬物スクリーニングに使用してもよい。
【0219】
逆に、新規分子薬物標的、例えば、標的細胞または細胞小器官の膜に存在する膜タンパク質または脂質を同定するために、疾患標的であり得る特定の細胞または細胞小器官から得られるサリプロ粒子のライブラリー全体を、薬物スクリーニング目的で使用してもよい。
【0220】
本明細所に記載のライブラリーおよび方法を、膜タンパク質精製のため、膜タンパク質発現のため、膜および/または膜タンパク質研究、特にリピドミクスおよびプロテオミクスのため、好ましくは、膜および/または膜タンパク質の単離、同定および/または試験、またはリピドームまたはプロテオームライブラリーまたはデータベースの作成のためのツールとして使用することができる。
【0221】
さらに、精製されているか、または全ライブラリーの一部としての本発明の粒子は、表面プラズモン共鳴(SPR)などの用途またはバイオセンサー用途に有用にするために、固体支持体に固定されていてもよい。
【0222】
本発明の粒子は、一般的に、不溶性膜タンパク質および膜ドメインまたは成分をその天然の膜二重層微細環境中の水溶液に可溶性にするのに有用である。したがって、本発明は、膜タンパク質研究において多種多様な新しい用途を与える。例えば、本発明の粒子によって、核磁気共鳴(NMR)、X線結晶学、電子顕微鏡(EM)、質量分析法、等温滴定型カロリメトリー(ITC)、示差型光散乱、小角X線散乱(SAXS)などの方法に本発明の粒子に組み込まれた膜タンパク質を試験することができる。
【0223】
本発明のライブラリーは、系統的な生物学、特に、リピドミクスおよび膜プロテオミクスの分野での研究に特に有用である。本発明のライブラリーは、細胞または細胞の細胞小器官のリピドームまたはプロテオームを捕捉し、可溶化するのに適しているだろう。リピドミクスおよびプロテオミクスにおける典型的な分析技術は、質量分析法(MS)、核磁気共鳴(NMR)分光法、蛍光分光法およびコンピュータ計算方法などの技術である。本発明のサリプロ粒子にこれらの方法または技術を適用すると、多くの代謝性疾患(例えば、癌、自己免疫疾患、肥満、アテローム性動脈硬化症、発作、高血圧および糖尿病)における天然の脂質および膜タンパク質の役割のさらなる解明が可能になる。
【0224】
未精製膜を本発明のライブラリーの粒子に組み込むことの利点は、供給源となる実際の膜のミクロドメインおよび成分のスナップショットを表すことである。これとは対照的に、従来技術から知られている粒子を含む典型的なサポシン脂質は、精製された脂質と、場合によりタンパク質との合成または異種の混合物で構成され、脂質は、通常、粒子中に存在する膜タンパク質とは全く異なる供給源に由来する。
【図面の簡単な説明】
【0225】
本発明を、本発明の特定の実施形態を示す図面を参照しつつ、以下に記載する。しかし、本発明は、特許請求の範囲で定義され、一般的に本明細書に記載される。本発明は、以下の図面において、説明の目的で示される実施形態に限定されてはならない。
【0226】
【
図1】
図1a)および
図1b)は、従来技術のリポタンパク質粒子を示す。
図1aは、従来技術(例えば、上述の欧州特許第1596828号明細書)のナノ円盤粒子を含むアポリポタンパク質A-1の形状および分子構成の模式図である。
図1bは、上記の従来技術(例えば、国際公開第2014/095576号)のサポシンリポタンパク質粒子を作成するために使用されるプロセスの模式図である。
【0227】
【
図2】
図2a)~
図2f)は、本発明に係るサリプロ粒子の模式図である。
図2a)および
図2b)には、細胞または細胞小器官の膜脂質を含むサリプロ粒子1cが示されており、a)には側面図として、b)には上面図として示されている。
図2c)および
図2d)には、細胞または細胞小器官の膜脂質と膜タンパク質4aとを含むサリプロ粒子1aが示されており、c)には側面図として、d)には上面図として示されている。
図2e)および
図2f)には、細胞または細胞小器官の膜脂質とオリゴマー膜タンパク質4bとを含むサリプロ粒子1bが示されており、e)には側面図として、f)には上面図として示されている。
【0228】
【
図3】
図3a)および
図3b)は、本発明のサポシン粒子ライブラリーを調製するためのプロセスの模式図である。ライブラリーの調製のための出発物質(すなわち、サポシンA2および未精製膜小胞5、5’)が
図3a)に示されている。膜小胞5、5’は、複数の膜脂質3と、5の場合にはここでは、4a、4bによって単純化された形態で例示されている複数の膜タンパク質とを含む。得られたライブラリー7は、
図3b)に模式的に示され、異なるサリプロ粒子1a、1bおよび1cの混合物として、単純化された形態で例示され、これらは、脂質含有量、タンパク質保有含量および大きさのうち少なくとも1つが異なっている。粒子1aおよび1bは、膜タンパク質4a、4bを含む。粒子1cは、「空の」脂質のみの粒子である。
【0229】
【
図4】
図4a)および
図4b)は、本発明のサポシン粒子ライブラリーを調製するプロセスの模式図であり、未精製膜小胞5中に存在する膜タンパク質4cは、アフィニティタグ8でタグ化されている。ライブラリーの調製のための出発物質(すなわち、サポシンA2および未精製膜小胞5)が
図4a)に示されている。膜小胞5は、膜脂質3と、ここでは、4c、4bによって単純化された形態で例示されている複数の膜タンパク質とを含む。得られたライブラリー7’は、
図4b)に模式的に示され、異なるサリプロ粒子1d、1bおよび1cの混合物として、単純化された形態で例示され、これらは、脂質含有量、タンパク質保有含量および大きさのうち少なくとも1つが異なっている。粒子1dは、膜タンパク質4cを含み、これにアフィニティタグ8が付属している。粒子1bは、オリゴマー膜タンパク質4bを含む。粒子1cは、「空の」脂質のみの粒子である。
【0230】
【
図5】
図5は、上述の工程f)を行うことによる、本発明の粒子を調製するためのプロセスの一実施形態の模式図である。
図4b)のライブラリー7’に対し、アフィニティカラム9を用いて精製工程が行われる。カラム9から出て行く1.)通過液、2.)洗浄液および3.)溶出フラクションの含有量の模式図も示されている。
【0231】
【
図6】
図6は、実施例1aの結果を示す。この図は、未精製膜からのサリプロナノ粒子に蛍光GFP-GLUT5を組み込んだ蛍光サイズ排除クロマトグラフィー(FSEC)分析を示す。
【0232】
【
図7】
図7は、実施例1bの結果を示す。この図も、未精製膜からのサリプロナノ粒子に蛍光GFP-GLUT5を組み込んだFSEC分析を示す。
【0233】
【
図8】
図8は、実施例2の結果を示す。この図は、未精製膜からのサリプロナノ粒子に蛍光GFP-GLUT5を組み込んだFSEC分析を示す。「収量制御サンプル」は、バッファー中、界面活性剤が連続的に存在する状態で操作され、一方、全ての他のサンプルは、界面活性剤を含まないバッファー系で操作される。
【0234】
【
図9】
図9は、実施例3の結果を示す。この図は、添加されるサポシンAの量を増やしていったときのSEC分析を示す。サポシンA存在下、未精製膜からの膜タンパク質が、サリプロ粒子のライブラリーに組み込まれ、界面活性剤を含まないバッファー系に可溶性のまま維持される。
【0235】
【
図10】
図10は、実施例4の結果を示す。この図は、添加されるサポシンAの量を増やしていったときのSEC分析を示す。サポシンA存在下、未精製膜からの膜脂質が、サリプロ粒子のライブラリーに組み込まれ、界面活性剤を含まないバッファー系に可溶性のまま維持される。
【0236】
【
図11】
図11は、実施例4のさらなる結果を示す。この図は、サポシンA、従来技術のサリプロ粒子、本発明に従って調製されたサリプロ粒子のSEC分析を示す。
【0237】
【
図12】
図12a)および
図12b)は、それぞれBruhn(2005)、Biochem J 389(15):249-257の
図4Aおよび
図4Bの同一の複写物であり、その配列は、本発明の開示の一部を形成する。
【0238】
図1a)は、脂質Bと、脂質結合ポリペプチドCとしてアポリポタンパク質A-1とを含むナノ円盤粒子Aを含む従来技術のアポリポタンパク質A-1(例えば、上述の欧州特許第1596828号明細書を参照)を示す。従来技術のアポリポタンパク質に由来するナノ円盤とは対照的に、本発明の脂質結合ポリペプチドは、脂質を二重のベルト状の様式に囲まず(
図1aのCを参照)、むしろ、本発明の粒子は、頭部-尾部の配置で並んだ2つ以上のほぼV字形またはブーメラン型の形状の脂質結合ポリペプチドによって囲まれている膜脂質を含むコアによって一緒に保持されており、本発明の所与の粒子内の個々の脂質結合ポリペプチドとの間に実質的に直接的なタンパク質-タンパク質の接触が存在しない(
図2aから
図2fを参照)。
【0239】
図1bは、上記の従来技術(例えば、国際公開第2014/095576号)のサポシンリポタンパク質粒子Gを作成するために使用されるプロセスの模式図である。ここで、SAPLIP Dを、精製された脂質Eおよび界面活性剤Fで可溶化され、精製された膜タンパク質4aと共にインキュベートし、粒子Gを生成する。脂質Eは、精製され、膜タンパク質4aとは異なる供給源に由来する。膜タンパク質4aは、膜または小胞に存在せず、人工の界面活性剤によって可溶化された状態のものである(
図1b、中央の膜タンパク質4aの疎水性表面に結合する脂質Eおよび界面活性剤分子F)。したがって、粒子Gでは、膜タンパク質4aは、その天然の膜環境に埋め込まれておらず、むしろ、人工または外因性の脂質Eと、可能ならば界面活性剤Fも含む混合物中に埋め込まれている。
【0240】
図2a)~
図2f)は、本発明の特定の実施形態に従って得られたサリプロ粒子の模式図である。粒子1a、1bおよび1cは、複数の異なる膜脂質3と、場合により膜タンパク質4a、4bとを含む。膜脂質3と、膜タンパク質4aおよび4bは、粒子を調製するために使用したのと同じ細胞または細胞小器官の膜に由来する。脂質3は、均一でもなく、均質でもないが、生体膜での典型的な場合と同様に、互いに異なっている。これに加えて、未精製膜小胞5が得られる供給源に依存して(
図3aおよび
図3bを参照)、膜の組成は、さまざまであり、したがって、脂質3と、場合により膜タンパク質との混合物が、サリプロ粒子中に存在する。さらなる実施形態では、示されていないが、サリプロ粒子は、典型的に細胞または細胞小器官の膜に存在するさらなる成分も含んでいてもよい。
【0241】
粒子1a~1cは、縮尺通りには描かれていない。粒子1aまたは1bに組み込まれる膜タンパク質4a、4bの大きさに応じて、脂質のみの粒子1cは、他の粒子1a、1bと比較して、大きさがかなり異なっていてもよい。また、粒子1aと1bは、大きさ、脂質、最適には膜タンパク質の組成が異なっていてもよい。また、粒子1cは、例えば、脂質ラフトの一部が、サリプロ粒子に全体的に組み込まれている場合には、大きさという点で異なっていてもよい。なお、本発明のサリプロ粒子は、大きさを柔軟に変えられる。例えば、オリゴマー膜タンパク質を保有する粒子1bは、モノマー膜タンパク質を含む粒子1aと比較して、大きく、より多くのサポシインサブユニット2を含む。
【0242】
図2a)および
図2b)は、単純化された模式的な形態で、脂質結合ポリペプチド2としてのSAPLIPと、細胞または細胞小器官膜脂質3とを含むサリプロ粒子1cを示す。a)は側面図として示され、b)は上面図として示される。
【0243】
図2c)および
図2d)は、サリプロ粒子1aを示し、膜タンパク質4aをさらに含むという点で、1cとは異なる。c)は側面図として示され、d)は上面図として示される。膜タンパク質4aは、モノマー形態での一体的な膜貫通タンパク質であってもよい。しかし、
図2e)または
図2f)に示されるようなオリゴマー状態または表在性膜タンパク質、脂質に結合した状態での両指向性タンパク質、脂質に固定されたタンパク質、または融合した疎水性および/または膜貫通ドメインを有するキメラタンパク質であってもよく、これらは全て、モノマー状態またはオリゴマー状態であってもよい。
【0244】
図2e)および
図2f)は、サリプロ粒子1bを示し、オリゴマー膜タンパク質4bをさらに含むという点で、1cとは異なる。e)は側面図として示され、f)は上面図として示される。粒子1bは、大きさにおいて柔軟性を示し、これに組み込まれるオリゴマー膜タンパク質4bの大きさに適応する。
図2e)または
図2f)に示される実施形態では、粒子1bは、頭部-尾部の様式で配置される粒子あたり3個のSAPLIP分子2を含む。3個のSAPLIP分子を含む粒子の流体力学的半径は、これに組み込まれる疎水性薬剤に応じて、5~20nmの範囲である。
【0245】
図3a)および
図3b)は、再び、未精製膜小胞5からサリプロ粒子ライブラリー7を調製するための本発明に係るプロセスを単純化され、模式化された形態で示す。
図3b)では、ライブラリー7は、その膜脂質3と、場合により、タンパク質貨物4a、4bおよび/または大きさという点で異なる代表的なサリプロ粒子1a~1cの混合物として模式的に示される。もちろん、現実には、ライブラリー7は、数千の異なるサリプロ粒子を包含するだろう。同様に、出発物質の混合物6は、多量の異なる未精製膜小胞を含むだろう。
【0246】
図3a)に示されるように、本発明の粒子1a~1cは、精製されたSAPLIP2と、未精製膜小胞5、5’とを混合し、粒子1を自己集合させることによって調製される。未精製膜小胞5および5’を含む組成物6は、細胞または細胞の細胞小器官の溶解後に直接的に得られる未精製膜フラクションであってもよい。小胞5および5’は、通常、溶解または膜の破壊を行うと、自然に形成する。出発物質の組成物6は、代表的な小胞5および5’を含むものとして単に模式的に示されており、そのうちの片方(5’)は小さく、膜脂質のみを含有していてもよく、その他方(5)は、大きく、膜脂質3に加え、膜タンパク質4aおよび4bを含む。本発明のプロセスの出発物質6として使用される未精製膜小胞は、大きさおよび含有量という点で非常に不均一であってもよい。均一化または特定の小胞作成工程は、必ずしも必要ではないが、あってもよい。もちろん、さらに均一な未精製膜小胞を含む組成物も、出発物質6として使用されてもよい。
【0247】
図3a)は、
図3b)に示されるライブラリー7の調製を示す。本発明の粒子1a~1cは、精製されたSAPLIP2と、両方とも未精製膜に由来する膜脂質3と場合により1つ以上の膜タンパク質4aおよび/または4bとを含む未精製膜小胞5、5’とを混合することによって、調製される。次いで、粒子1の自己集合Xが、例えば、約5.0~約10.0のpHで起こる。未精製膜小胞5、5’は、場合により、界面活性剤分子を含んでいてもよく、または界面活性剤分子と会合していてもよい(本明細書には示さない)。サポシン分子2についても、同じことが成り立つだろう。膜タンパク質4aおよび/または4bと会合した膜脂質3は、好ましくは、排他的に、未精製膜小胞5、5’を提供する前に、細胞または細胞小器官の膜の中に膜タンパク質の天然の脂質環境から運び出される。粒子1aおよび1bでは、それぞれの膜タンパク質4aおよび4bは、供給源である膜の疎水性部分の成分に埋め込まれている。好ましくは、膜タンパク質は、その天然の膜に結合した状態で、同じ配座または同様の配座である。
【0248】
図3b)は、代表的な粒子1a、1bおよび1cを含むサリプロ粒子ライブラリーを示す。粒子1aおよび1bは、膜タンパク質4a、4bを含む。本発明の特定の実施形態として示される粒子1a~1c(
図2a)~
図2f)にもさらに詳細に記載される)は、ほぼ円盤形状であり、平坦な円盤状のほぼ円形から四角形状の脂質二重層を有し、2つまたは3つのSAPLIP分子2の両親媒性αらせんによって囲まれている。未精製膜小胞5、5’の脂質3は、集合し、粒子1a~1cの内側に別個の大きさを有する円盤二重層様構造になる。SAPLIP2は、粒子1a~1cの円盤状二重層の境界を規定し、その内側は、疎水性であり、すなわち、脂質脂肪族アシル鎖で構成され、親水性または水性のコアを欠いている。粒子1a~1cは、主に、粒子1a~1cの二重層コア内の未精製膜小胞5の脂質3の疎水性相互作用と、未精製膜小胞5の脂質3と、粒子の内側に面しているSAPLIP2の両親媒性らせんの疎水性部位との疎水性相互作用によって一緒に保持される。その最も小さな形態で、粒子1cは、2個のSAPLIP分子2と、未精製膜小胞5、5’の少なくとも約2~5個の脂質分子3とを含むと思われる。しかし、本発明の粒子1a~1cは、大きさを柔軟に変えられる。組み込まれる貨物(例えば、脂質ドメイン、膜タンパク質など)の大きさと、調製に使用される成分のモル比に依存して、複数の、すなわち、2個より多いSAPLIP2と、未精製膜小胞5の多くの脂質3と、場合により1つ以上の膜タンパク質4aおよび/または4bとを収容することができる。例えば、粒子は、2~20個、特に、2~10個のSAPLIP2と、場合により1つ以上の膜タンパク質とを含んでいてもよい。粒子1a、1bに組み込まれる膜タンパク質4a、4bの大きさに応じて、粒子は、脂質のみの粒子1cよりかなり大きくてもよい。一般的に、粒径の増加は、粒子あたりのSAPLIP2の数によっても反映され、この数は、2より多くてもよい。本発明の粒子は、例えば、2~20個、特に2~10個のSAPLIP分子2を含んでいてもよい。
【0249】
図4a)および
図4b)は、
図3a)および
図3b)と基本的には同じであるが、違いは、アフィニティタグ8を有する膜タンパク質4cが、出発物質6の未精製膜小胞5に含まれる点である。未精製膜小胞5、5’と、精製されたSAPLIP2とを接触させた後の自己集合Yの結果として、得られたライブラリー7’は、膜タンパク質4cとアフィニティタグ8とを含む粒子1dを含む。上の
図3a)および
図3b)の記載は、
図4a)および
図4b)にも等しく適用される。
【0250】
図5は、上に一般的にさらに記載したような工程f)を行うことによる、特定の粒子を本発明のライブラリーから精製するための本発明に係るプロセスの一実施形態の模式図である。出発物質として、ライブラリー7’が使用され、このライブラリー7’は、上の
図4a)および
図4b)に示されるように得ることができる。ライブラリー7’に対して、アフィニティ精製を行い、例えば、アフィニティカラム9を用いて行う。カラム9は、アフィニティタグ8に結合する認識部分を含む。例えば、アフィニティタグ8がHis-タグである場合、アフィニティカラム9の認識部分は、Ni-Ntaである。カラム形態での精製が
図5に示されているが、バッチ精製プロセスも可能である。
【0251】
ライブラリー7’をアフィニティカラム9に通すことによって、アフィニティタグ8を介し、カラム9の認識部分に対する粒子1dの特異的な結合が起こる。粒子1bおよび1cと、ライブラリーの他の成分または試験片は、アフィニティカラム9に対して結合しないか、または非特異的にしか結合しない。したがって、得られる通過画分1.)は、本質的に粒子1dを含まない。ライブラリーのいくつかの残りの成分(例えば、粒子1bおよび1c)は、アフィニティカラム9に非特異的に結合し得るが、少なくとも1回の洗浄工程2.)を行うことによって除去される。最後に、精製された粒子1dは、アフィニティカラム9の認識部分に対するアフィニティタグ8との結合を破壊することによって、溶出工程3.)によって溶出させることができる。このような破壊は、高濃度の塩洗浄液によって、酵素開裂によって、またはHis-タグ/Ni-NTAタグ/認識部分対の場合にはイミダゾールを用いて行うことができる。3.)の後に得られた溶出フラクションは、本発明の粒子1dを精製された形態で含有する。
【実施例0252】
以下の実施例は、具体的には、特定の実施形態および図面を参照しつつ、本発明をさらに詳細に説明するのに役立つが、特定の実施形態および図面は、本開示を限定することを意図したものではない。
【0253】
以下の省略語が使用される。
GFバッファー(pH7.5):20mM HEPES(pH7.4)および150mM NaCl
GFP 緑色蛍光タンパク質
Glut5: トランスポーター、膜タンパク質
HEPES: 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸
His ヒスチジン
HNバッファー: 20mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4
HN-Dバッファー 0.2%DDMを含有するHNバッファー
M: モル濃度
RT: 室温
SEC: サイズ排除クロマトグラフィー
TCEP: トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン
TEV: タバコエッチウイルス
Tris: トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
【0254】
以下の実験で使用する精製されたサポシンAを、以下のように調製した。pNIC-Bsa4プラスミドに挿入され、形質変換され、E.coli Rosetta gami-2(DE3)(Novagen)株で発現したヒトサポシンA(配列番号1)のコード領域を有するベクターを用い、サポシンAタンパク質の発現を行った。細胞を、テトラサイクリン、クロラムフェニコールおよびカナマイシンを追加したTB培地中、37℃で成長させ、0.7mMのIPTGを用いて誘発させた。インキュベートから3時間後、細胞を、12.000×gで15分間、遠心分離処理によって集めた。上澄みを捨て、細胞ペレットを、溶解バッファー(20mM Hepes、pH7.5、150mM NaCl、20mM イミダゾール)を用いて再び懸濁させ、音波処理によって破壊した。溶解物に対し、26.000xgで30分間、遠心分離処理を行い、上澄みを10分間かけて85℃まで加熱し、その後、26.000×gで30分間、さらなる遠心分離処理を行った。上澄みのバッチ吸着によって、Ni Sepharose(商標)6 Fast Flow培地を用いた転倒型回転によって60分間、分取IMAC精製を行った。サポシンAをIMAC樹脂に結合した後、クロマトグラフィー培地を10mm(内径)の開放型重力式フローカラムに入れ、結合していないタンパク質を、15床体積の溶解バッファーで洗浄することによって除去した。樹脂を、15床体積の洗浄バッファーWB2(20mM Hepes pH7.5、150mM NaCl、40mM イミダゾール)で洗浄した。5床体積の溶出バッファーEB(20mM Hepes pH7.5、150mM NaCl、400mM イミダゾール)を添加することによって、サポシンAを溶出させた。組換えTEVプロテアーゼを追加したゲル濾過バッファーGF、pH7.5(20mM Hepes pH7.5、150mM NaCl)に対し、溶出物を一晩透析した。開裂不可能なHis-タグを含むTEVプロテアーゼは、2mlのIMAC樹脂の上を流すことによって、溶出物から除去された。開裂した標的タンパク質を、遠心分離フィルターユニットを用い体積5mlになるまで濃縮し、HiLoad Superdex(商標)200 16/60 GLカラムにAEKTAexplorer(商標)10 クロマトグラフィー系(両方ともGE Healthcare)を用い、充填した。ピークフラクションをプールし、1.2mg/mlタンパク質濃度になるまで濃縮した。このタンパク質サンプルを液体窒素中で急速冷凍し、-80℃で保存した。
【0255】
実施例1a
未精製酵母細胞膜フラクションを、GFP-GLUT5を発現する酵母細胞から得た。膜フラクションは、自然に生成した未精製膜小胞を含んでおり、これを界面活性剤およびサポシンAと共にインキュベートし、その後、ゲル濾過クロマトグラフィー/サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用い、界面活性剤を含まないバッファー中、界面活性剤-ミセルを除去した。これにより、初期の混合物中に存在する膜成分が自己集合し、ナノスケールサリプロ粒子のライブラリーとなる。特に、膜脂質とGFP-GLUT5とを含む単分散サリプロ粒子は、このライブラリー内で同定することができた。
【0256】
1.膜調製
従来技術で知られているGAL1誘発性のTEV開裂性GFP-His8 2μベクターpDDGFP2からラットGLUT5を発現する酵母細胞から、未精製酵母膜を得た。ベクターをS.cerevisiae株FGY217(MATa、ura3-52、lys2Δ201およびpep4Δ)へと形質転換し、次いで、その細胞膜において、GFP-GLUT5を過剰発現させた。
【0257】
未精製膜を作成するために、細胞を12 L.S.cerevisiae培養物から集め、50mM Tris-HCl pH7.6、1mM EDTA、0.6Mソルビトールを含むバッファーに再懸濁させ、機械的な破壊によって溶解した。195,000gで3時間の超遠視分離によって膜を単離し、20mM Tris-HCl pH7.5、0.3Mショ糖、0.1mM CaCl2中で均質化し、液体窒素で凍結させ、-80℃で保存した。
【0258】
2.サリプロ粒子ライブラリーの調製
特にGFP-GLUT5を含む自然に生成する未精製膜小胞を含む20μlの未精製酵母膜を、60μlのHNバッファー(20mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4)および5% DDMを追加した20μlのHNバッファーと混合し、その後、4℃で1時間インキュベートした。次いで、膜溶解物を試験片およびタンパク質凝集物からTLA-55ローターを用い、47krpm(100,000g)で30分間、超遠心分離により洗浄した。次いで、5μlの洗浄した膜フラクションを増加していく量(5-10-20-30-40μl)のサポシンA(1.2mg/ml、HN-バッファー)と混合し、37℃で5分間インキュベートし、サリプロ粒子を自己集合させた。設定中に存在する脂質のみが、未精製膜および未精製膜小胞に由来する。
【0259】
その後、サンプル体積をHNバッファーを用いて50ulに調整し、13krpmで10分間遠心分離処理した。SEC分析を次のように行った(Shimadzu HPLCシステムを用いる)。35μlサンプルを、5/150 Superose6増加カラム(GE Healthcare)に流速0.3ml/分で注入し、蛍光GFPタグの存在をオンラインでモニタリングした。SECバッファーは、HNバッファーからなっており、界面活性剤を含んでいなかった。
【0260】
ネガティブコントロールとして、サポシンAは、実験設定から完全に省かれ(0ul SapA)、NHバッファーを用いて体積を50μlに調節し、次いで、サンプルを既に記載したように処理した。
【0261】
3.結果
この結果は、
図6に示されており、膜脂質の膜タンパク質、例えば、未精製細胞膜からのGFP-GLUT5を、単分散性ピークを示す可溶性サリプロ粒子に組み込み、安定化することができることを示す。サポシンの量を増やすと、組み込み効率とピークの単分散性が向上する。したがって、未精製膜からの脂質であるサポシンAとGFP-GLUT5は、組み込まれた膜タンパク質を含み、水溶性粒子を形成するような様式で会合する。GFP-GLUT5のみがSEC分析でその蛍光によってモニタリングされ、得られたサリプロ粒子ライブラリーは、未精製膜フラクションの供給源となる酵母細胞の残りの膜のプロテオームおよびリピドームを含む大量の他のサリプロ粒子も含んでいる。このことは、例えば、質量分析法、SDS-PAGEによって、および/または得られたサリプロ粒子のライブラリーに存在する他の天然の酵母膜タンパク質および脂質に結合する抗体を用いてプローブ化することによって確認することができる。
【0262】
ネガティブコントロールとして、設定からサポシンが存在しない状態では、GFP-GLUT5(したがって、残りの膜タンパク質も)は可溶性ではなく、凝集する(高い無効なピークを参照)。
【0263】
実施例1b
1.設定
未精製膜小胞とラットGLUT5とを含む未精製酵母膜を、実施例1aに記載したように調製した。
【0264】
2.サリプロ粒子ライブラリー作成のためのプロセスの変更
未精製膜抽出物からサリプロ-GFP-GLUT5粒子を製造するための2種類の異なる手法を評価した。
【0265】
第1の手法では、25μlのサポシンA(0.75mg/ml)を、未精製膜小胞とGFP-GLUT5とを含む1μlの未精製膜抽出物に加え、37℃で5分間インキュベートした。その後、24ulのHN-Dバッファーを上の混合物に加え、37℃でさらに5分間インキュベートした。次いで、サンプルを13krpmで10分間遠心分離処理し、SEC分析を実施例1aと同じように行った。
【0266】
第2の手法では、未精製膜小胞とGFP-GLUT5とを含む1ulの未精製膜抽出物を、まず、24ulのHN-Dバッファーを加えることによって追加し、その後、37℃で5分間インキュベートした。次いで、このサンプルを13krpmで10分間遠心分離処理した。溶解物の懸濁液を集め、25μlのサポシンA(0.75mg/ml)を加え、37℃でさらに5分間インキュベートした。次いで、実施例1aに記載したように、サンプルをSECによって分析した。
【0267】
3.結果
図7に示されるデータは、両方の手法が、独立して、未精製膜をHN-Dバッファーと共に37℃で5分間インキュベートした前または後にサポシンAが加えられる場合に、可溶性サリプロ-GFP-GLUT5粒子を含むサリプロ粒子のライブラリーを得るために作用することを示す。両方の場合に、未精製膜の天然脂質はまだ存在している。興味深いことに、未精製膜に直接的にサポシンAを添加すると、無効な体積で、非常にわずかなタンパク質凝集のみがみられる。重要なことに、両方の方法はうまく機能し、これにより、サリプロ粒子のライブラリーを複雑な未精製膜抽出物から再構成するとき、プロセスに特定の柔軟性を与える。
【0268】
実施例2
1.設定
ラットGFP-GLUT5と未精製膜小胞とを含む未精製酵母膜を、実施例1aに記載したように調製した。
【0269】
2.サリプロ生成、滴定
20μlの酵母未精製膜を60μlのHNバッファーおよび5% DDMを追加した20μlのHNバッファーと4℃で混合し、1時間かけて可溶化した。次いで、TLA-55ローターを47krpm(100,000g)で30分間用い、膜溶解物を試験片およびタンパク質凝集物から超遠心分離によって洗浄した。次いで、未精製膜小胞を含む5μlの洗浄した膜溶解物を、異なる体積(12、20、30および40μl)のサポシンA(4mg/ml、HNバッファー)と混合し37℃で5分間インキュベートした。その後、サンプル体積をHNバッファーを用いて50μlに調整し、13krpmで10分間遠心分離処理した。(Shimadzu HPLCシステムを用いる)SEC分析を行い、35μlサンプルを、5/150 Superdex 200増加カラム(GE healthcare)に流速0.3ml/分で注入し、蛍光GFPタグの存在をオンラインでモニタリングした。ここでも、サリプロ粒子への膜タンパク質の再構築を容易にするように、SECを、HNバッファーを用い、界面活性剤が存在しない状態で行った。
【0270】
コントロールとして、5μlの洗浄した膜溶解物を、0.03% DDMを追加した45μlのNHバッファーと混合し、13krpmで10分間遠心分離処理した。0.03%DDMを含むHNバッファー中、SEC分析を行い(Shimadzu HPLCシステムを用いる)、35μlサンプルを、5/150 Superdex 200増加カラム(GE healthcare)に流速0.3ml/分で注入し、蛍光GFPタグの存在をオンラインでモニタリングした。このコントロールサンプル(収量制御サンプル)の目的は、界面活性剤を含まないバッファー系におけるサリプロ粒子に再構築されるGFP-GLUT5の収率に対し、界面活性剤が永久的に存在する条件下で可溶化し得るGFP-GLUT5の量を決定するための参照点として作用するためであった。
【0271】
3.結果
図8に示される結果は、サポシンAの量を増やすと、ライブラリーのサリプロ粒子に再構築されるGFP-GLUT5の量が向上することを示す。
【0272】
再構築の収率を定量化するために、「収量制御サンプル」からのGFP-GLUT5ピーク値の割合を、再構築されたサンプルのピーク値と比較した。これにより、GFP-GLUT5の36%が、12μlのSapAサンプルについて再構築され、20μlのSapAサンプルについて57%、30μlのSapAサンプルについて65%、40μlのSapAサンプルについて74%が再構築されたことを示した。まとめると、このことは、サポシンの量を増やしていくと、未精製膜からの膜タンパク質をサリプロ粒子への組み込みを増やすことができることを示す。
【0273】
実施例3:
ライブラリーのサリプロ膜タンパク質成分の溶解度を分析した。
【0274】
1.背景
未精製膜は、大量の異なる膜タンパク質を含む。本発明に係るプロセスでは、蛍光標識されたGFP-GLUT5だけではなく、未精製膜からの種々の他の酵母膜タンパク質もサリプロ粒子に組み込まれる。界面活性剤が存在しない状態で、膜タンパク質フラクションは、可溶性ではなく、界面活性剤を含まないバッファー系で凝集し、SEC分析の大きな無効なピークを生成する。しかし、サリプロ粒子に埋め込まれると、サリプロ粒子のライブラリー中に存在する膜タンパク質が、界面活性剤を含まないバッファー系で可溶性のままであることを示すことができた。
【0275】
2.設定
実施例1aと同じ実験設定において、GFP蛍光ではなく、280nmでのUV吸光度に基づき、SECシグナルを分析し、凝集した膜タンパク質を示す無効なピークにフォーカス(ズーム)した。
【0276】
3.結果
サポシンが存在しない状態で、未精製膜からの膜タンパク質は、SEC分析でほぼ4分に現れる大きな無効なピークによって示されるように、界面活性剤を含まないバッファー系で凝集する(
図9、0μl SapAを参照)。
【0277】
対照的に、溶解物に添加されるサポシンの量を増やすことによって、凝集する膜タンパク質の量は、これに応じて減少する。このことは、得られた膜プロテオームライブラリーのサリプロ粒子への組み込みに起因して、膜タンパク質が可溶性のままであることを示す。なお、最高量のサポシンを含有するサンプル(
図9、40μl SapA)では、タンパク質凝集物がほとんど検出されなかった。
【0278】
まとめると、このデータは、本発明の方法を行った後、未精製膜小胞からの全ての膜タンパク質は、界面活性剤を含まない環境において界面活性剤を除去しても、対応するサリプロナノ粒子のライブラリーへの首尾良い再構築に起因して、可溶性のままであることを示す。したがって、未精製膜に由来するサリプロ粒子-膜タンパク質/プロテオームおよび/または膜脂質/リピドームのライブラリーを作成することが可能である。
【0279】
実施例4:
ライブラリーのサリプロ膜脂質成分の溶解度を分析した。
【0280】
1.設定
実施例1aと同じ実験設定で、異なるSEC分析を行い(
図9および
図10の軸スケールと軸切片の違いに注意)、モノマーサポシンおよび脂質のみのサリプロ粒子に由来するピークに対するフォーカス(ズーム)を伴う。
【0281】
2.結果
図10に示される結果は、未精製膜にサポシンAを添加すると、膜タンパク質を含有するサリプロ粒子だけではなく、脂質のみ(すなわち、「空の」)サリプロ粒子が生成することを示す。サポシンの量を増やすと(5、10、20、30および40μl)、脂質のみのサリプロ粒子の生成も増える。SEC分析から、7.6分に脂質のみのサリプロ粒子に由来するピーク(示されている)が現れ、一方、モノマーサポシン(「遊離サポシン」)の対応するピークは、8.2分に現れる(示されている)。このデータは、未精製膜小胞からの脂質によって、中性pHでサリプロ脂質のみの粒子が生成することを示す。
【0282】
ネガティブコントロールとして、サポシン非存在下(0μl SapA)で1つのサンプルを分析した。
【0283】
増加していく量のサポシンを用いるこの実験は、Superose 6 5/150カラム(GE Healthcare)で実施された。この2種類のサポシンに関連するピークのSEC分離は、十分に分離されないため、Superdex 200 5/150カラム(GE Healthcare)を用いて実験を繰り返した(
図11)。
【0284】
「12ul SapA」サンプル(
図11に「Sap+未精製膜」と示されている)について実施例2に記載したように1つのサンプルを調製した。このとき、SEC分析は、280nmでのUV吸光度を用いて行われた。第1のコントロールとして、1つのサンプルは、SECプロファイルにおいて脂質を含まないモノマーサポシンの位置を示すために、サポシンAのみを含んでいた。第2のコントロールサンプルは、国際公開第2014/095576号に記載の方法によって、すなわち、サポシンAを精製された脂質と共にインキュベートすることによって得られたサポシンA粒子を含んでいた。
【0285】
本明細書に示すデータは、明確に、細胞膜リピドームおよびプロテオームが、両方ともサリプロ粒子に組み込まれ、それぞれのライブラリーを生成することができることを示す。
【0286】
実施例5:
この実施例では、サリプロ粒子のライブラリーは、上の実施例に記載したように調製されたが、界面活性剤を含まないHNバッファーのみが使用された。この実験によっても、未精製膜からのGFP-GLUT5が、可溶性サリプロ粒子に首尾良く組み込まれた。
【0287】
実施例6:ライブラリーから特定のサポシン粒子を精製
この実施例では、実施例3に従って得られた膜タンパク質ライブラリーを調製する。サリプロ粒子のライブラリーは、本質的に酵母膜プロテオーム全体を包含し、GFP-GLUT5を含むサリプロ粒子も含む。後者の粒子は、GFP-Glut5構築物中に存在するTEV開裂性GFP-His8タグによって精製される。
【0288】
このライブラリーに対し、製造業者の指示に従って、Ni-NTAアフィニティ精製(例えば、Qiagen)を行う。所定の洗浄工程の後、GFP-GLUT5を含有するサリプロ粒子が、TEVプロテアーゼ開裂またはイミダゾールによって溶出する。