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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163078
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】移植片対宿主病予防の方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20221018BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20221018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221018BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20221018BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P37/06
A61K31/436
A61K31/519
A61K9/08
A61K9/19
A61P35/00
A61P35/02
C07K16/28
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022116951
(22)【出願日】2022-07-22
(62)【分割の表示】P 2018548207の分割
【原出願日】2017-03-13
(31)【優先権主張番号】62/307,896
(32)【優先日】2016-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500287639
【氏名又は名称】ミレニアム ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MILLENNIUM PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智裕
(72)【発明者】
【氏名】サックス,ジェシカ エイ.
(72)【発明者】
【氏名】フォード,ジョン イー.
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒト患者において移植片対宿主病(GvHD)を予防する方法を提供する。
【解決手段】同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を受けているヒト患者に、ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体を投与することを含み、a.ヒト化抗体を75mg、300mg、450mgまたは600mgの初期投与量でallo-HSCTの前日に点滴静注;b.続いてヒト化抗体の75mg、300mg、450mgまたは600mgの第2の投与を初期投与の約2週間後に点滴静注;c.続いてヒト化抗体の75mg、300mg、450mgまたは600mgの第3の投与を初期投与の約6週間後に点滴静注;に従って投与される、方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】

移植片対宿主病(GvHD)を予防する方法であって、
同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を受けているヒト患者に、ヒトα4β7イン
テグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体を投与するステップを含み、
前記ヒト化抗体は前記患者に下記の投与レジメン:
a.前記ヒト化抗体を75mg、300mg、450mgまたは600mgの初期投
与量でallo-HSCTの前日に点滴静注;
b.続いて前記ヒト化抗体の75mg、300mg、450mgまたは600mgの
第2の投与を前記初期投与の約2週間後に点滴静注;
c.続いて前記ヒト化抗体の75mg、300mg、450mgまたは600mgの
第3の投与を前記初期投与の約6週間後に点滴静注;
に従って投与され、
さらに、前記ヒト化抗体は、非ヒト由来の抗原結合領域及びヒト由来の抗体の少なくと
も一部を含み、前記ヒト化抗体はα4β7複合体に対する結合特異性を有し、前記抗原結
合領域は下記のCDR:
軽鎖: CDR1 配列番号7
CDR2 配列番号8及び
CDR3 配列番号9ならびに
重鎖: CDR1 配列番号4
CDR2 配列番号5及び
CDR3 配列番号6
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記投与計画がグレードII GvHD、グレードI GvHDまたはGvHDのない
結果をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予防が造血幹細胞輸注時に持続したα4β7遮断をもたらす、請求項1または2に
記載の方法。
【請求項4】
タクロリムスが前記ヒト患者に共投与される、請求項1、2、または3に記
載の方法。
【請求項5】
メトトレキサートが前記ヒト患者に共投与される、請求項1~4のいずれか
一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒト化抗体が前記患者に約30分にわたって投与される、請求項1~5
のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒト化抗体が凍結乾燥製剤から再構成される、請求項1~6のいずれか
一項に記載の方法。
【請求項8】
さらに前記ヒト化抗体が安定した液体製剤を含むように再構成される、請求
項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒト化抗体が配列番号1のアミノ酸20~140の重鎖可変領域配列を
有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒト化抗体が配列番号2のアミノ酸20~131の軽鎖可変領域配列を
有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒト化抗体が配列番号1のアミノ酸20~470を含む重鎖及び配列番
号2のアミノ酸20~238を含む軽鎖を有する、請求項9または10に記載
の方法。
【請求項12】
前記ヒト化抗体がベドリズマブである、請求項1~11のいずれか一項に記
載の方法。
【請求項13】
がんまたは非悪性血液疾患、免疫疾患あるいは自己免疫疾患を患っている患
者を処置するための方法であって、 a.造血幹細胞移植患者の免疫系の前
処置のステップと、

b.ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体の
投与のステップと、

c.少なくとも12時間の待機のステップと、

d.同種造血幹細胞の投与のステップと、

e.13日の待機後、ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有
するヒト化抗体の第2の投与のステップと、

f.4週間の待機後、ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化
抗体の第3の投与のステップと、
を含む、前記方法。
【請求項14】
さらに、タクロリムスを前記患者へ投与することを含む、請求項13に記載
の方法。
【請求項15】
さらに、メトトレキサートを前記患者へ投与することを含む、請求項13ま
たは14に記載の方法。
【請求項16】
前記免疫系の前記前処置が骨髄破壊的前処置または用量減量前処置である、
請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記患者がステージ3、またはステージ4の腸管GvHDを含まない有害事
象を有する、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記患者がグレード IIIまたはグレード IVのGvHDを含まない有
害事象を有する、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が白血病またはリンパ腫を有する、請求項13~16のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項20】
前記同種造血幹細胞が末梢血液からのものである、請求項13~16のいず
れか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記同種造血幹細胞がさらなる免疫抑制治療なしに生着する、請求項13~
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ヒト化抗体が、非ヒト由来の抗原結合領域及びヒト由来の抗体の少なくとも一部を
含み、前記ヒト化抗体はα4β7複合体に対する結合特異性を有し、前記抗原結合領域は
下記のCDR:
軽鎖: CDR1 配列番号7
CDR2 配列番号8及び
CDR3 配列番号9ならびに
重鎖: CDR1 配列番号4
CDR2 配列番号5及び
CDR3 配列番号6
を含む、請求項13~16いずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記ヒト化抗体が凍結乾燥製剤から再構成される、請求項22に記載の方法

【請求項24】
前記ヒト化抗体が配列番号1のアミノ酸20~140の重鎖可変領域配列を
有する、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒト化抗体が配列番号2のアミノ酸20~131の軽鎖可変領域配列を
有する、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記ヒト化抗体が配列番号1のアミノ酸20~470を含む重鎖及び配列番
号2のアミノ酸20~238を含む軽鎖を有する、請求項22~25のいずれ
か一項に記載の方法。
【請求項27】
前記ヒト化抗体がベドリズマブである、請求項22~26のいずれか一項に
記載の方法。
【請求項28】
急性移植片対宿主病(GvHD)の発生を低減する方法であって、
同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を受けているヒト患者に、ヒトα4β7イン
テグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体を投与するステップを含み、
前記ヒト化抗体は前記患者に下記の投与レジメン:
a.前記ヒト化抗体を75mg、300mg、450mgまたは600mgの初期投
与量でallo-HSCTの前日に点滴静注;
b.続いて前記ヒト化抗体の300mgの第2の投与を前記初期投与の約2週間後に
点滴静注;
c.続いて前記ヒト化抗体の300mgの第3投与を前記初期投与の約6週間後に点
滴静注;
に従って投与され、
前記ヒト化抗体は、非ヒト由来の抗原結合領域及びヒト由来の抗体の少なくとも一部を
含み、前記ヒト化抗体は前記α4β7複合体に対する結合特異性を有し、前記抗原結合領
域は下記のCDR:
軽鎖: CDR1 配列番号7
CDR2 配列番号8及び
CDR3 配列番号9ならびに
重鎖: CDR1 配列番号4
CDR2 配列番号5及び
CDR3 配列番号6
を含み、
それによってGvHDの発生を低減する、前記方法。
【請求項29】
前記急性移植片対宿主病(GvHD)の発生の低減が、改変Glucksbergクラ
イテリアによる、グレードIまたはグレードIIのGvHD、または他のスコアリングシ
ステムによる類似の重症度GvHDまたはGvHDのない状態をもたらす、請求項28に
記載の方法。
【請求項30】
前記急性GvHDの発生の低減が、メトトレキサート及びカルシニュリン阻害薬単独を
用いた処置と比較して、100日目におけるグレードII-IVまたはグレードIII-
IVの急性GVHDの累積罹患率及び重症度の50%の低減である、請求項28に記載の
方法。
【請求項31】
前記急性急性移植片対宿主病(GvHD)の発生の低減が、メトトレキサート及びカル
シニュリン阻害薬単独を用いた処置と比較した1年以内の死亡率の低減である、請求項2
8に記載の方法。
【請求項32】
がん患者における免疫反応を抑制する方法であって、
同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を受けているヒト患者に、ヒトα4β7イン
テグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体を投与するステップを含み、
前記ヒト化抗体は前記患者に下記の投与レジメン:
a.前記ヒト化抗体を75mg、300mg、450mgまたは600mgの初期投
与量でallo-HSCTの前日に点滴静注;
b.続いて前記ヒト化抗体の300mgの第2の投与を前記初期投与の約2週間後に
点滴静注;
c.続いて前記ヒト化抗体の300mgの第3の投与を前記初期投与の約6週間後に
点滴静注;
に従って投与され、
さらに、前記ヒト化抗体は、非ヒト由来の抗原結合領域及びヒト由来の抗体の少なくと
も一部を含み、前記ヒト化抗体は前記α4β7複合体に対する結合特異性を有し、前記抗
原結合領域は下記のCDR:
軽鎖: CDR1 配列番号7
CDR2 配列番号8及び
CDR3 配列番号9ならびに
重鎖: CDR1 配列番号4
CDR2 配列番号5及び
CDR3 配列番号6
を含む、前記方法。
【請求項33】
移植患者を処置する方法であって、前記移植患者が同種造血細胞の輸注のレシピエント
であり、抗α4β7アンタゴニストを投与することを含む、前記方法。
【請求項34】
前記移植患者が骨髄破壊的前処置または用量減量前処置から選択される前処置治療の前
記レシピエントである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記抗α4β7アンタゴニストが前記輸注の前に投与される、請求項33または34に
記載の方法。
【請求項36】
前記抗α4β7アンタゴニストが前記輸注の前に反復投与で少なくとも一用量投与され
る、請求項33または34に記載の方法。
【請求項37】
前記抗α4β7アンタゴニストが前記輸注同日に反復投与で前記第1の用量で投与され
る、請求項33または34に記載の方法。
【請求項38】
前記抗α4β7アンタゴニストが前記輸注後の次の日に反復投与で前記第1の用量で投
与される、請求項33または34に記載の方法。
【請求項39】
前記抗α4β7アンタゴニストが前記輸注の前日、当日、または次の日に単回用量で投
与される、請求項33または34に記載の方法。
【請求項40】
抗α4β7アンタゴニストの用量が前処置と前記輸注の間で投与される、請求項35ま
たは36に記載の方法。
【請求項41】
前記移植患者ががんを患っている、請求項33~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記がんが血液のがんである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記血液のがんが白血病、リンパ腫、骨髄腫または骨髄増殖性の腫瘍である、請求項4
2に記載の方法。
【請求項44】
前記白血病が急性リンパ芽球性白血病(ALL)または急性骨髄性白血病(AML)で
ある、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記移植患者が非悪性血液疾患または免疫疾患を患っている、請求項33~40のいず
れか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記非悪性血液疾患または免疫疾患が異常ヘモグロビン症、骨髄不全症候群、及び免疫
疾患からなる群から選択される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記抗α4β7アンタゴニストが前記α4β7インテグリン複合体に対する結合特異性
を有する抗α4β7抗体である、請求項33~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記抗α4β7抗体がヒト化抗体であって、前記ヒト化抗体の前記抗原結合領域が下記
のCDR:
軽鎖: CDR1 配列番号7
CDR2 配列番号8及び
CDR3 配列番号9ならびに
重鎖: CDR1 配列番号4
CDR2 配列番号5及び
CDR3 配列番号6
を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記ヒト化抗体が凍結乾燥製剤から再構成される、請求項48に記載の前記
方法。
【請求項50】
前記ヒト化抗体が静脈内に投与される、請求項47または48に記載の方法

【請求項51】
前記ヒト化抗体が配列番号1のアミノ酸20~140の重鎖可変領域配列を
有する、請求項48~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記ヒト化抗体が配列番号2のアミノ酸20~131の軽鎖可変領域配列を
有する、請求項48~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記ヒト化抗体が配列番号1のアミノ酸20~470を含む重鎖及び配列番
号2のアミノ酸20~238を含む軽鎖を有する、請求項51または52に記
載の方法。
【請求項54】
前記ヒト化抗体がベドリズマブである、請求項48~53のいずれか一項に
記載の方法。
【請求項55】
さらに、タクロリムス、タクロリムス及びメトトレキサートまたはメトトレ
キサートを使用して前記移植患者を処置することを含む、請求項33~54の
いずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
さらに、好中球数を測定することによって前記allo-HSCの生着を検出すること
を含む、請求項33~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
さらに、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン17(IL-17)、腫
瘍形成抑制因子2(ST2)、CD8+細胞、CD38+細胞、CD8+brightエ
フェクターメモリーT細胞、及びCD4+メモリーT細胞からなる群から選択されるバイ
オマーカーを測定することを含み、前記バイオマーカー量は前記輸注後の前または1週間
以内に測定され、また前記輸注後20~100日の時点で測定された前記バイオマーカー
が変化しない、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記患者がステージ3またはステージ4の腸管GvHDを含まない有害事象を有する、
請求項33~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記同種造血細胞が同種造血幹細胞である、請求項33~58のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項60】
前記同種造血細胞が同種白血球細胞である、請求項33~58のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項61】
前記同種白血球細胞がTリンパ球である、請求項60に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は2016年3月14日に出願された米国仮出願第62/307,896号、の
利益を主張する。前記出願の全体を参照によって本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞移植のような同種造血細胞移植(allo-HSCT)は、悪性血液障害及
び遺伝性血液疾患の処置に使用される重要な治療であるが、しかしその使用は移植片対宿
主病(GvHD)の重大な合併症により制限されている。allo-HSCT後のGvH
Dは罹患及び死亡の主要な原因である。GvHDのリスクは様々であり、患者因子、ドナ
ー因子、ドナーとレシピエント間の組織適合性の程度、前処置レジメン、及び適用される
GvHD予防方法に依存する。allo-HSCTに対する患者の前処置は、ドナー造血
細胞の生着を可能にし、化学療法または放射線照射を含み、移植の直前に行われる。前処
置の目的は、造血幹細胞(HSC)の輸注に先立って患者の疾患根絶を助けることと、免
疫反応を抑制することである。移植後の予後は、しばしば生命を脅かしかねない急性及び
慢性の移植片対宿主病を含む。骨髄破壊的前処置の後に同種造血幹細胞を受けた患者にお
いて、グレード2~4の急性GvHDのリスクはおよそ40%~50%である。著しい全
身免疫抑制なしにGvHDを低減することはallo-HSCT後の全体的治療成績を改
善し得る。
【0003】
GvHDは、ホスト抗原提示細胞(APC)上の組織適合抗原によるドナーの同種反応
性リンパ球の活性化によって引き起こされる。腸内細菌叢及びエンドトキシンはAPC活
性における重要な段階で影響を及ぼすとみなされており、このプロセスは、腸管関連リン
パ組織(GALT)で起こる。臨床的には、T細胞除去方法や腸内除菌の使用を通しての
GvHD低減が可能であり、これは、GvHDの発症に関するT細胞、及び消化管(GI
)細菌叢の両者それぞれの役割を明らかに示している。臨床HSCTでは、ヒトリンパ球
インテグリンα4β7の発現は、急性皮膚GvHDを発症しているまたはGvHDを発症
していない患者と比較して、移植後に急性腸管GvHDを発症している患者のナイーブ及
びメモリーT細胞で顕著に多いと示されている。GALTへのT細胞移動及びα4β7と
粘膜アドレシン細胞接着分子-1(MAdCAM-1)の相互作用は、急性GvHDのマ
ウスモデルにて研究されている。
【0004】
GvHDのリスクは様々であり、患者因子、ドナー因子、ドナーとレシピエント間の組
織適合性の程度、前処置レジメン、及びGvHD予防方法に依存する。骨髄破壊的前処置
の後に非血縁ドナーから造血幹細胞を受け取った患者では、グレード2、3、または4の
急性GvHDに対するリスクはおよそ40%~50%であった。急性GvHDを患う患者
は、GvHDに対する免疫抑制療法に関連した感染症及び慢性GvHDの発症を含む有害
事象のリスク増加を有する。GvHDと感染症に起因した死亡率の合計は、allo-H
SCT後の患者において高く、原疾患による死亡に次ぐ2番目である。さらに、急性Gv
HDの初期治療後に応答を示さない患者に対する予後は不良である。従って、急性GvH
Dの予防に使用可能な選択的抗α4β7抗体(例えばベドリズマブ)免疫抑制剤に対する
緊急のアンメット・メディカル・ニーズ(未だ満たされていない医療ニーズ)が依然とし
て存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、α4β7インテグリンアンタゴニスト、例えばヒト化抗α4β7抗体(例え
ばベドリズマブ)等の抗α4β7抗体による移植片対宿主病(GVHD)の予防に関する
。いくつかの実施形態では、患者は急性リンパ芽球性白血病(ALL)または急性骨髄性
白血病(AML)を有する。
【0006】
GvHDは、allo-HSCTに罹っている患者において、罹患死亡の主要な原因で
ある。GvHDに起因する著しい死亡率は、疾患、例えば悪性疾患、に対する潜在的根治
療法としてのHSCTの使用を制限する。非再発死亡率(GvHDや感染症に起因する等
の)を低減することは、allo-HSCT後の全生存率を改善し得る。ステロイド及び
他の全身性免疫抑制薬(タクロリムス+短期メトトレキサート等の)が、GvHDの予防
や処置に使用される、現行の標準治療(SOC)である。しかしながら、この標準治療は
感染症のリスクを増加する恐れがあり、また、完全に効果的ではない。GvHD低減のた
めの免疫抑制は、移植片対腫瘍(GvT)効果も減少させる可能性がある。従って、本発
明に記載のように、全身免疫抑制なしにGvHDを低減することは、allo-HSCT
における全体的治療成績を改善する潜在性と、この疾患から生命を延長及び/または救う
可能性を有する。
【0007】
allo-HSCTに続いて、低レベルのα4β7インテグリンを発現する造血幹細胞
(HSC)接種材料内のナイーブT細胞は、宿主パイエル板(PP)または腸間膜リンパ
節(MLN)へ循環し、そこで同種抗原のコンテキストで腸内微生物抗体に接触し且つ活
性化される。これらの活性化されたエフェクターT細胞は、α4β7インテグリンを上方
制御し、次にα4β7/MADCAM-1経路を介して腸粘膜にホーミングし、腸粘膜損
傷を生成する。同種反応性エフェクターT細胞、腸内微生物、及び腸粘膜組織の相互作用
は多数の炎症性メディエーターの放出を引き起し、正のフィードバックループを作り出す
。同種反応T細胞の増殖、微生物及び微生物刺激の移行を引き起す腸内バリアの崩壊、及
び全身性サイトカインストームの組合せは、GvHDのびまん性全身性症状につながる。
【0008】
何らの特定の理論に拘束されることを望むものではないが、GvHDの予防において、
本発明は、α4β7/MADCAM-1経路を用いた阻害によってT細胞の二次リンパ器
官、例えばPPまたはMLN、への最初の移動をブロックすると考えられる。このように
、本発明は、急性GvHDの進行を抑制及び/または予防する。いくつかの実施形態では
、本発明は、現行の標準治療(SOC)と比較して、100日目における急性GVHDの
累積発現率及び重症度の50%の低減、及び1年以内の死亡率の25%低減を図を提供す
る。他の実施形態では、本発明は、6か月後の無GVHD生存率を改善し、1年後の無G
VHD及び無再発生存率を改善し、HSCT後6ヶ月時点での急性GVHDの累積発現率
及び重症度の改善、12ヶ月時点での免疫抑制を必要とする慢性GVHDの累積発現率の
改善、またはSOCと比較したGRFS(無GvHD及び無再発生存率)の改善を提供す
る。いくつかの実施形態では、抗α4β7抗体のような、α4β7インテグリンアンタゴ
ニストの投与は、死亡リスクの5%、10%、15%、20%、25%、30%の低減、
例えば急性GvHDによる死亡リスクの40%~例えば35%または30%以下への低減
をもたらす。
【0009】
一態様において、本発明は、移植片対宿主病(GvHD)を予防する方法であって、
同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を受けているヒト患者に、ヒトα4β7イン
テグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体を投与するステップを含み、
上記ヒト化抗体は患者に下記の投与レジメン:
a.ヒト化抗体を75mg、300mg、450mgまたは600mgの初期投与量でa
llo-HSCTの前日に点滴静注、
b.続いてヒト化抗体の75mg、300mg、450mgまたは600mgの第2の投
与を初期投与の約2週間後に点滴静注、
c.続いてヒト化抗体の75mg、300mg、450mgまたは600mgの第3投与
を初期投与の約6週間後に点滴静注、
に従って投与され、任意選択で、本投与レジメンがグレードIIGvHD、グレードIG
vHDまたはGvHDのない結果をもたらし、さらに、ヒト化抗体は、非ヒト由来の抗原
結合領域及びヒト由来の抗体の少なくとも一部を含み、ヒト化抗体はα4β7複合体に対
する結合特異性を有し、抗原結合領域が配列番号7(CDR1)、配列番号8(CDR2
)、及び配列番号9(CDR3)の軽鎖CDRと配列番号4(CDR1)、配列番号5(
CDR2)、及び配列番号6(CDR3)の重鎖CDRを含む、方法に関する。
【0010】
別の態様において、本発明は、急性移植片対宿主病(GvHD)の発生を低減する方法
であって、
同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を受けているヒト患者に、ヒトα4β7イン
テグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体を投与するステップを含み、
上記ヒト化抗体は患者に下記の投与レジメン:
a.ヒト化抗体を75mg、300mg、450mgまたは600mgの初期投与量でa
llo-HSCTの前日に点滴静注、
b.続いてヒト化抗体の300mgの第2の投与を初期投与の約2週間後に点滴静注、
c.続いてヒト化抗体の300mgの第3投与を初期投与の約6週間後に点滴静注、
に従って投与され、
ヒト化抗体は、非ヒト由来の抗原結合領域及びヒト由来の抗体の少なくとも一部を含み、
ヒト化抗体はα4β7複合体に対する結合特異性を有し、抗原結合領域が配列番号7(C
DR1)、配列番号8(CDR2)、及び配列番号9(CDR3)の軽鎖CDRと配列番
号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)、及び配列番号6(CDR3)の重鎖CDR
を含む、方法に関する。いくつかの実施形態では、急性GvHDの発生の低減は、修正さ
れたGlucksbergクライテリアによる、グレードIまたはグレードIIGvHD
、または他のスコアリングシステムによる類似の重症度GvHDまたはGvHDのない状
態をもたらす。他の実施形態では、急性GvHDの発生の低減は、メトトレキサート及び
カルシニュリン阻害薬単独を用いた処置と比較した、100日目における急性GvHDの
累積発現率及び急性GvHDの重症度グレードII-IVまたはグレードIII-IVの
50%の低減である。他の実施形態では、急性移植片対宿主病(GvHD)の発生の低減
は、メトトレキサート及びカルシニュリン阻害薬単独を用いた処置と比較した1年以内の
死亡率の低減である。
【0011】
別の態様において、本発明は、がんまたは非悪性血液疾患、免疫疾患あるいは自己免疫
疾患に罹っている患者を処置するための方法に関し、
a.造血幹細胞移植患者の免疫系の前処置、
b.ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体の投与、
c.少なくとも12時間の待機、
d.同種造血幹細胞の投与、
e.13日の待機後、ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体
の第2の投与、及び
f.4週間の待機後、ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体
の第3の投与、
のステップを含む方法。
別の態様において、本発明は、がん患者において免疫反応を抑制する方法であって、
同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を受けているヒト患者に、ヒトα4β7イン
テグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体を投与するステップを含み、
上記ヒト化抗体は患者に下記の投与レジメン:
a.ヒト化抗体を75mg、300mg、450mgまたは600mgの初期投与量でa
llo-HSCTの前日に点滴静注、
b.続いてヒト化抗体の300mgの第2の投与を初期投与の約2週間後に点滴静注、
c.続いてヒト化抗体の300mgの第3投与を初期投与の約6週間後に点滴静注、
に従って投与され、
さらにヒト化抗体は、非ヒト由来の抗原結合領域及びヒト由来の抗体の少なくとも一部を
含み、ヒト化抗体はα4β7複合体に対する結合特異性を有し、抗原結合領域が配列番号
7(CDR1)、配列番号8(CDR2)、及び配列番号9(CDR3)の軽鎖CDRと
配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)、及び配列番号6(CDR3)の重鎖
CDRを含む、方法に関する。
ヒト化抗体は、配列番号1のアミノ酸20~140の重鎖可変領域配列を有し得る。
ヒト化抗体は、配列番号2のアミノ酸20~131の軽鎖可変領域配列を有し得る。
ヒト化抗体は、配列番号1のアミノ酸20~470を含む重鎖を有し、配列番号2のア
ミノ酸20~238を含む軽鎖を有し得る。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体はベド
リズマブである。
【0012】
さらなる様態において、本発明は、移植患者を処置する方法に関し、ここで移植患者は
同種造血細胞の輸注のレシピエントであり、抗α4β7アンタゴニストを投与することを
含む。いくつかの実施形態では、α4β7インテグリンアンタゴニストは抗α4β7抗体
である。いくつかの実施形態では、抗α4β7抗体はヒト化抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、-1日目~+50日目までの本試験デザインの概要を示す概略図である。Allo-HSCTは0日目に行う。ベドリズマブは、allo-HSCTの前日(-1日目)、及びallo-HSCT後の+13日目と+42日目に投与される。
図2図2は、どのようにしてGALTにおけるα4β7/MADCAM-1相互作用をブロックし、同種反応性メモリーT細胞の発生とそれに続くそれらの腸への進入を低減して、GvHDが起こるのを低減させるかを示す図である。
図3図3は、シミュレートされた及び観察された患者3名からのPKデータを示したグラフである。PKシミュレートデータはギザギザの線(シミュレートデータのパーセンタイル2.5及び97.5)間の領域によって示され、ドットを有しない黒い点線はシミュレートデータの中央値を表し(ポイント及び線は公称時間を用いてプロットされた個別の観察データである)及び水平な点線は0.2mcg/mLのLLOQを表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、GvHDの予防を通して疾患を処置する方法に関する。本方法は、抗α4β
7抗体等のα4β7インテグリンアンタゴニストを、同種造血幹細胞移植(allo-H
SCT)等の同種造血細胞移植を受けている患者へ投与することを含む。いくつかの実施
形態では、患者の発症している疾患はがん、例えば血液のがん(白血病、リンパ腫、骨髄
腫または骨髄異形成症候群等)である。他の実施形態では、患者の発症している疾患は、
非悪性血液学的または免疫学的欠陥(骨髄不全症候群、異常ヘモグロビン症、またはSC
ID等)によって特徴づけられる。一態様において、移植患者は前処置され、例えば移植
を受けるために体を準備するプロセスを経験する。いくつかの実施形態では、前処置は、
骨髄破壊的な前処置(「骨髄前処置」)であるか、骨髄破壊的な前処置に使用されるより
少ない薬剤、例えば、10%、20%、30%、40%、20~40%、30~50%ま
たは50%未満等の薬剤、が使用される用量減量前処置(RIC)である。いくつかの実
施形態では、前処置は、例えばシクロホスファミド及び/またはブスルファン及び/また
はフルダラビンにより、化学的に誘発されるか、例えば放射線全身照射により放射線的に
誘発されるか、またはシクロホスファミドと放射線全身照射等の化学的処置と放射線処置
の組合せによって誘発される。
【0015】
一態様において、患者、例えば移植患者は、例えば輸注で同種造血細胞へ投与される。
いくつかの実施形態では、同種造血細胞は、同種造血幹細胞、すなわち、患者は同種造血
幹細胞移植(allo-HSCT)を受ける。いくつかの実施形態では、同種造血細胞は
、同種白血球細胞である。いくつかの実施形態では、同種白血球細胞は、例えばTリンパ
球であるリンパ球を含む。いくつかの実施形態では、同種白血球細胞は、キメラ抗原受容
体を発現するリンパ球を含む。いくつかの実施形態では、同種白血球細胞は、ナチュラル
キラー細胞を含む。いくつかの実施形態では、同種白血球細胞は、例えばCD8を発現す
るT細胞の細胞傷害性Tリンパ球を含む。いくつかの実施形態では、同種白血球細胞は、
少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%
、96%、97%、98%、99%または100%がリンパ球からなるように選択される
。いくつかの実施形態では、同種白血球細胞は、少なくとも30%、40%、50%、6
0%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%また
は100%がTリンパ球からなるように選択される。いくつかの実施形態では、同種造血
細胞は、患者におけるそれらの挙動を制御するのに、この技術分野で公知の1つまたは複
数の組換え修飾を有する。
【0016】
いくつかの実施形態では、抗α4β7抗体等のα4β7アンタゴニストは、移植片対宿
主病(GVHD)を予防する。いくつかの実施形態では、抗α4β7抗体等のα4β7ア
ンタゴニストは、予防移植片対腫瘍活性を予防しない。いくつかの実施形態では、移植細
胞は、患者の組織への耐性を伴って生着する。いくつかの実施形態では、本発明は、al
lo-HSCTを受けている患者への抗α4β7抗体の投与による、移植片対宿主病(G
vHD)の予防方法に関する。いくつかの実施形態では、α4β7アンタゴニストは、同
種造血幹細胞等の造血細胞を受ける前に患者へ投与され、さらに造血細胞生着の間に提供
され、それによりGVHDを予防する。他の実施形態では、α4β7アンタゴニストは、
造血細胞の移植を受けてすぐ後、例えば最大7日間後、に患者へ投与される。いくつかの
実施形態では、抗α4β7抗体は、例えばAct-1マウスモノクロナール抗体に対する
エピトープ特異性を有するヒト化抗体の、ヒト化抗体である。いくつかの実施形態では、
抗α4β7抗体は、ベドリズマブである。
【0017】
造血細胞、例えば幹細胞は、非自己ドナー(すなわち同種)の骨髄または血液から(例
えば末梢血液または臍帯血)に由来し得る。いくつかの実施形態では、造血細胞、例えば
幹細胞は、輸注の前に操作されたもの、例えば、抗体選別または他のメカニズムによって
特定の細胞の富化または特定の細胞の枯渇がなされたもの、生体外での増殖がなされたも
のでも、または遺伝子編集または遺伝子治療を受けたものでもよい。輸注のために富化ま
たは枯渇がなされている造血細胞組成物の例としては、例えば負の選択、例えば赤血球か
ら白血球の分離(例えば糖またはポリマーの高密度溶液(例えばFICOLL(登録商標
)溶液(Amersham Biosciences division of GE
health care,Piscataway,NJ)またはHISTOPAQUE(
登録商標)-1077溶液、Sigma-Aldrich Biotechnology
LP and Sigma-Aldrich Co., St. Louis, MO
)を介した分画遠心分離)及び/または選択剤(例えば、直接分離法(例えば、細胞マー
カーに結合する、例えばカラム(R&D Systems, Minneapolis,
MN)に入れた、磁気ビーズ(例えばMiltenyi Biotec,Auburn
,CAより入手)または他のビーズを含む、細胞の溶液への磁場の印可)または蛍光活性
化細胞分取に用いる、CD19もしくはCD20等のB細胞マーカー、CD34、CD3
8、CD117、CD138、CD133、もしくはZAP70等の骨髄系前駆マーカー
、またはCD2、CD3、CD4、CD5、もしくはCD8等のT細胞マーカーに結合す
る試薬)への細胞の結合による正の選択により収集可能な細胞を含む。一つの実施形態で
は、分画遠心分離は白血球を含む細胞層を分離する。
【0018】
いくつかの実施形態では、患者はがんまたは非悪性疾患等の疾患を患っている。いくつ
かの実施形態では、患者は、白血病、例えば、急性リンパ芽球性白血病(ALL)または
急性骨髄性白血病(AML)を有する。いくつかの実施形態では、患者は、骨髄異形成の
または骨髄増殖性の疾患を有する。いくつかの実施形態では、患者は、非ホジキンリンパ
腫またはホジキンリンパ腫等のリンパ腫を有する。いくつかの実施形態では、患者は、異
常ヘモグロビン症等の非悪性血液学的疾患(例えば、鎌形赤血球症または地中海貧血症)
、骨髄不全症候群(例えば再生不良性貧血、ファンコニ貧血、または他の骨髄不全症候群
、重症複合型免疫不全症候群(SCID)等の免疫疾患、または糖尿病等の自己免疫疾患
を有する。いくつかの実施形態では、患者は、硬化性胆管炎、硬変、または血色素症(例
えば肝移植の場合)、うっ血性心疾患、拡張型冠動脈筋症、または重度冠動脈疾患(例え
ば心臓移植の場合)、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患、または肺線維症(例えば肺移植
の場合)、または糖尿病、多発性嚢胞腎疾患、全身性紅斑性狼瘡、または巣状分節性糸球
体硬化症(例えば腎臓移植の場合)等の臓器移植によって処置可能な障害を有する。いく
つかの実施形態では、患者は、造血細胞移植の例で、例えば耐性誘導目的、及び例えば肝
臓、心臓、肺または腎臓の移植等の実質的臓器移植のように2つの移植を受ける。もう一
つの実施例では、患者は、allo-HSCTの第一と、ドナー白血球輸注(DLI)を
介した同種T細胞への第2の2つの移植を受ける。この例では、両移植工程において急性
GvHDの発症の可能性が存在し、従って、患者への抗α4β7抗体等のα4β7インテ
グリンアンタゴニストの投与が両移植に対して有益であり得る。
【0019】
急性移植片対宿主病は、T細胞のようなアロ反応性免疫細胞による肝臓、皮膚(皮疹)
、胃腸管、及び他の粘膜等の組織にダメージを与えることを特徴とする。いくつかの実施
形態では、自己反応性免疫細胞は、急性移植片対宿主病を起こし得る。免疫細胞は造血細
胞の輸注により反応性になり得、または患者、例えば移植患者、の組織におけるシグナル
の認識をもって活性化され得る。シグナルは、アロ反応性造血細胞によって認識されるま
たは前処置レジメンや腫瘍崩壊症候群から誘発され得る自己反応性免疫細胞、例えばGV
T活性の結果、によって誘発される。GvHDの予防は、造血細胞、例えば造血幹細胞の
輸注時に開始された持続的なα4β7の遮断によって生じ得る。allo-HSCTを受
けている患者へのベドリズマブの予防投与は、GALT(例えばパイエル板)または腸間
膜リンパ節及びGI粘膜へのアロ反応性T細胞の移動を予防し得、それにより急性GvH
Dの発症を防ぐ。持続的なα4β7の遮断は、さらにGvHDを造血細胞生着の間、例え
ば自己反応性免疫細胞をブロックして、予防する。抗α4β7抗体は、大多数の急性Gv
HDが起こる期間である、allo-HSCT後最初の100日間通して持続された受容
体飽和を遂げるのに十分な用量で提供される。グレードIII-IVまたは指数C-Dの
急性GvHDは、慢性GvHDの発症に対するリスク要因であり、よって、急性GvHD
を予防できる治療は慢性GvHDの発症リスクを低減し得る。(Flowers M.E
.D. et al. Blood 2011 Mar 17 117(11):321
4-19)。
【0020】
本発明の一様態は、GvHDの予防における使用のためのα4β7インテグリンアンタ
ゴニスト(例えばベドリズマブ)を含む。健常者と異なり、前処置レジメン(例えばal
lo-HSCTのような造血細胞移植後の骨髄破壊的なまたは用量減量前処置)を受けて
いる患者は、移植後の期間、α4β7インテグリン発現量の変動を伴ってT細胞集団を顕
著に変化させると予想される。例えば、HSCの生着は、生着HSCの骨髄へホーミング
及び成熟化、ならびにドナーリンパ球の第二次リンパ性器官及び他の組織へのホーミング
を含み、生着が起こる間、感染症に対する患者の高い感受性を起こす。全身治療、例えば
リンパ球の異常活性化を制御するのに使用される、免疫抑制剤(コルチコステロイド、シ
クロスポリン、メトトレキサート及びミコフェノール酸モフェチル等、ならびにアレムツ
ズマブ、抗胸腺細胞グロブリン、またはリツキシマブのような抗体治療、及び抗TNF療
法)の投与は、生着及び移植片または疾患(例えば、がんまたは非悪性血液学的障害)に
対する応答に影響を与え得る。消化管選択的治療(抗α4β7抗体等の)は、移植片のG
VT効果を潜在的に保持した状態のままで、アロ反応性腸特異的リンパ球の生成及びホー
ミングを減少する潜在性を提供する。
【0021】
定義
用語「医薬製剤」は、抗α4β7抗体等のα4β7アンタゴニストを、抗体の生物活性
が効果的となるような剤形で含み、その製剤が投与される患者に対して許容不可能な毒性
である付加的な成分を含まない調製物を指す。
【0022】
細胞表面分子、「α4β7インテグリン」または「α4β7」は、α4鎖(CD49D
、ITGA4)及びβ7鎖(ITGB7)のヘテロ二量体である。各鎖は、代替のインテ
グリン鎖を用いてヘテロ二量体の形成が可能で、α4β1、またはαEβ7を形成する。ヒト
α4及びβ7遺伝子(GenBank (National Center for Bi
otechnology Information, Bethesda, MD)それ
ぞれRef Seq 受入番号NM_000885及びNM_000889)は、B及び
Tリンパ球、特にメモリーCD4+リンパ球、によって発現される。多くのインテグリン
の典型として、α4β7は静止状態または活性化状態のどちらにおいても存在することが
できる。α4β7のためのリガンドは、血管細胞接着分子(VCAM)、フィブロネクチ
ン及び粘膜アドレッシン(MAdCAM(例えばMAdCAM-1))を含む。
【0023】
「α4β7アンタゴニスト」は、α4β7インテグリンの機能を拮抗する、低減するま
たは阻害する分子である。そのようなアンタゴニストは、α4β7インテグリンとその1
つまたは複数のリガンドとの相互作用を拮抗し得る。α4β7アンタゴニストは、α4β
7インテグリンのヘテロ二量体のいずれかの鎖または両鎖を必要とする複合体に結合し得
、あるいはMAdCAM等のリガンドに結合し得る。α4β7アンタゴニストは、そのよ
うな結合機能を実施する抗α4β7インテグリン抗体や「抗α4β7抗体」等の抗体であ
り得る。いくつかの実施形態では、抗α4β7抗体等のα4β7アンタゴニストは、「α
4β7複合体に対する結合特異性」を有し、α4β7には結合するが、α4β1、または
αEβ7には結合しない。
【0024】
本明細書での用語「抗体」または「抗体(複数可)」は、広義に使用され、特に、完全
長抗体、抗体ペプチド(複数可)または免疫グロブリン(複数可)、モノクローナル抗体
、キメラ抗体(霊長類化抗体を含む)、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体及び
ヒト以外の動物種からの抗体(例えばマウス、ヒツジ、ニワトリまたはヤギを含む)に形
質導入されたヒト生殖細胞免疫グロブリン配列由来のヒト抗体、モノボディ及びダイアボ
ディ等の組換え抗原結合形態、少なくとも2つの完全長抗体(例えば、各部分は異なる抗
原またはエピトープに対する抗体の抗原結合領域を備える)から生成された多選択性抗体
(例えば、二重特異性抗体)、及び前述のいずれかの個別の抗原結合フラグメント、例え
ば、dAbs、Fv、scFv、Fab、F(ab)’2、Fab’を含む、抗体または
それが由来する抗体、を包含する。
【0025】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で使用される場合、実質的に均一な抗体の集
団から得られる抗体(すなわち、集団を含む個別の抗体は同一及び/または同じエピトー
プを結合する)を指す。修飾語句「モノクローナル」は、その抗体の実質的に均一な集団
から得られるかのような抗体の特徴を表し、また何らかの特別な方法による抗体の生産を
必要とするとは解釈されない。
【0026】
抗体の「抗原結合フラグメント」とは、好ましくは、抗α4β7抗体の少なくとも重鎖
及び/または軽鎖の可変領域を含む。例えば、ベドリズマブの抗原結合フラグメントは、
配列番号:2のヒト化軽鎖配列のアミノ酸残基20~131及び配列番号:1のヒト化重
鎖配列のアミノ酸残基20~140を含むことができる。このような抗原結合フラグメン
トの例としては、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、Fvフラグメント、sc
Fv及びF(ab’)2フラグメントが挙げられる。抗体の抗原結合性フラグメントは、
酵素的切断によってまたは組換え技術によって生産することができる。例えば、パパイン
またはペプシン切断は、それぞれ、FabまたはF(ab’)2フラグメントを生成する
のに使用することができる。抗体はまた、1つまたは複数の終止コドンが天然の終止部位
の上流に導入される抗体遺伝子を用いる種々な切断型で産生することができる。例えば、
重鎖のCH1ドメイン及びヒンジ領域をコードするDNA配列を含むようにF(ab’)2
フラグメントの重鎖部分をコードする組換え構築物を設計することができる。一態様にお
いて、抗原結合フラグメントは、α4β7インテグリンとそのリガンド(例えば、粘膜ア
ドレッシンMAdCAM(例えばMAdCAM-1)、フィブロネクチン)の1つまたは
複数との結合を阻害する。
【0027】
「治療用モノクローナル抗体」は、ヒト対象の治療のために使用される抗体である。本
明細書において開示される治療用モノクローナル抗体は、抗α4β7抗体を含む。
【0028】
抗体「エフェクター機能」は、このような抗体のFc領域(天然配列のFc領域または
アミノ酸配列バリアントFc領域)に起因する生体活性を指す。抗体エフェクター機能の
例としては、C1q結合、補体依存性細胞傷害、Fc受容体結合;抗体依存性細胞傷害作
用(ADCC)、食作用、細胞表面受容体の下方制御(例えばB細胞受容体(BCR))
、等が挙げられる。対象の分子のADCC活性を評価するのに、米国特許第5,500,
362号、又は同第5,821,337号に記載のようなin vitro ADCCア
ッセイが行われ得る。
【0029】
完全長抗体は、それらの重鎖の定常ドメインでのアミノ酸配列に応じて、異なる「クラ
ス」に分類することができる。完全長抗体の5つの主要なクラス:IgA、IgD、Ig
E、IgG、及びIgMがあり、これらのいくつかのは、「サブクラス」(アイソタイプ
)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2にさらに分
けられ得る。異なるクラスの抗体に対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、
γ、及びμと呼ばれる。異なるクラスの抗体のサブユニット構造及び三次元立体配置はよ
く知られている。
【0030】
いずれの脊椎動物種からの抗体の「軽鎖」もそれらの定常ドメインのアミノ酸配列を基
にして、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる、2つの明らかに異なるタイプのうち
の1つに分類することができる。
【0031】
本明細書で使用される用語「超可変領域」は、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を指
す。超可変領域は、概して「相補性決定領域または「CDR」(例えば軽鎖可変ドメイン
の残基24~34(L1)、50~56(L2)及び89~97(L3)ならびに重鎖可
変ドメインの31~35(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3);Ka
bat et al., sequences of Proteins of Imm
unological Interest,5th Ed.Public Health
Service, National Institutes of Health,
Bethesda, Md. (1991))からのアミノ酸残基、及び/または「超
可変ループ」(例えば軽鎖可変ドメインの残基26~32(L1)、50~52(L2)
及び91~96(L3)ならびに重鎖可変ドメインの26~32(H1)、53~55(
H2)及び96~101(H3);Chothia and Lesk J.Mol.B
iol. 196:901~917(1987))からのこれらの残基を含む。「フレー
ムワーク領域」または「FR」残基は、本明細書で定義されるように超可変領域残基以外
の、それらの可変ドメイン残基である。超可変領域またはそのCDRは、1つの抗体鎖か
ら他方へあるいは他のタンパク質へ移すことによって、その結果得られる(複合)抗体ま
たは結合タンパク質へ抗原結合特異性を付与することができる。
【0032】
非ヒト(例えばげっ歯類)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト抗体に由来する配列が最小
限しか含まれていないキメラ抗体である。多くの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超
可変領域の残基が、望ましい特異性、親和性、及び容量を有するマウス、ラット、ウサギ
またはヒト以外の霊長類等のヒトでない種の超可変領域(ドナー抗体)の残基により置換
されるヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例では、ヒト抗体の
フレームワーク領域(FR)の残基は、対応する非ヒトの残基によって置換される。さら
に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体に見出されない残基を含み得る。
これらの修飾は、抗体の能力をさらに洗練するためになされる。より詳細は、Jones
et al.,Nature 321:522~525(1986);Riechma
nn et al.,Nature 332:323~329(1988);及びPre
sta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596(1
992)を参照。
【0033】
「親和性成熟」抗体は、1つまたは複数の超可変領域において1つまたは複数の改変を
有し、それらの改変(複数可)を持たない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性
における改善をもたらす。一態様において、親和性成熟抗体は、標的抗原に対してナノモ
ルさらにはピコモル親和性を有し得る。親和性成熟抗体は、この技術分野で公知の手順で
生産される。Marks et al.,Bio/Technology 10:779
-783(1992)はVH及びVLドメインシャッフリングについて記載している。C
DR及び/またはフレームワーク残基のランダム突然変異は、Barbas et al
.,Proc Nat. Acad. Sci,USA91:3809~3813(19
94);Schier et al.,Gene169:147-155(1995);
Yelton et al.,J. Immunol. 155:1994-2004(
1995);Jackson et al.,J. Immunol. 154(7):
3310-9(1995);及びHawkins et al.,J. Mol. Bi
ol. 226:889~896(1992)によって記載されている。
【0034】
「単離」抗体は、その天然の環境の要素から、同定され、分離され、及び/または回収
された抗体である。特定の実施形態では、単離抗体は(1)ローリー方法で測定した場合
、タンパク質の95重量%超まで、あるいは99重量%以上まで精製されているか、(2
)スピンカップ配列決定装置を使用してN末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15
残基を得るのに十分な程度まで精製されているか、(3)クーマシーブルー、または銀染
色液を使用して還元または非還元条件下のSDS-PAGEにより均質になるまで精製さ
れている。単離抗体は、その抗体の天然の環境の少なくとも1つの要素が存在しないため
、組換え細胞中のin situの抗体を含む。しかしながら、通常、単離抗体は少なく
とも1つの精製ステップによって作製される。
【0035】
「がん」または「腫瘍」は、初発腫瘍及びあらゆる転移等の、患者内の悪性のまたは腫
瘍性の成長を含むことを意図する。がんは、血液系のまたは固形腫瘍タイプのがんであっ
てよい。血液系腫瘍は、例えば骨髄腫(例えば多発性骨髄腫)、白血病(例えばワルデン
ストレーム症候群、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、顆粒球
性白血病、単核球白血病、急性リンパ性白血病、他の白血病)、リンパ腫(例えば、びま
ん性大細胞型リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非
ホジキンリンパ腫、形質細胞腫、または細網肉腫等のB細胞リンパ腫)を含む血液学的起
源の腫瘍、及び骨髄異形成症候群、血小板血症、真性多血症、または骨髄線維症等の骨髄
増殖性腫瘍を含む。固形腫瘍は、器官に生じ得、皮膚、肺、脳、乳房、前立腺、卵巣、結
腸、腎臓、膵臓、肝臓、食道、胃、腸、膀胱、子宮、頸部、睾丸、副腎、等に生じるよう
な癌を含む。本明細書で使用される場合、腫瘍細胞を含むがん細胞は、異常な(増大され
た)速度で分裂する細胞、ならびにそれら成長の制御または生存が、がん細胞が発生また
は存在している同じ組織の細胞に対するものと異なる細胞を指す。がん細胞は、がん腫、
肉腫、骨髄腫、白血病、リンパ腫の細胞、及び神経膠腫、髄膜腫、髄芽腫、シュワン腫ま
たはエピディモーマを含む神経系の腫瘍を含むがこれらに限定されるものではない。
【0036】
「処置」は、治療用処置を指す。処置を必要とする対象は、既に疾患に罹っている対象
を含む。それゆえ、本明細書において、処置される患者(例えばヒト)とは、がんまたは
非悪性血液学的疾患等の疾患に罹っている、または前処置レジメンに苦しんでいると診断
された患者であり得る。代替として、患者は、GvHDを有さないが、しかし移植患者、
例えば同種造血細胞移植のために前処置を受けている患者、allo-HSCT等の同種
造血細胞移植を行う候補者または患者、または最近(例えば前5か月以内)allo-H
SCT等の同種造血細胞移植を行った者であり得る。さらに、または代替的に、患者は、
例えばallo-HSCT後に、ドナー白血球輸注(DLI)を介して同種T細胞を受け
る計画のある者でもよい。用語「患者」及び「対象」は、本明細書中において互換性的に
使用される。
【0037】
「予防」は、有害事象の非存在またはその重症度の低減をもたらす処置を指す。患者群
では、処置がたいていある程度の割合の有害事象、または、ある程度の割合の重度の有害
事象を生じさせる場合、しかし代わりに予防の目的で投与されて、より低い割合の有害事
象(すなわち、リスクの低下または低減)またはより低い割合の重度有害事象(すなわち
、有害事象が重度であるリスクの低下または低減)をもたらす。
【0038】
骨髄破壊または用量減量前処置を行い及び同種造血幹細胞移植を受けている等の同種造
血幹細胞移植患者のコンテキストでは、移植片対宿主病の有害事象は、少なくとも25%
のリスク、30%~60%のリスク、35%~55%のリスク、40%~50%のリスク
、または45%~65%のリスクを有し、そして全ての有害事象から引き起こされる重度
な処置に関連した致死率が30%~50%となり得る。有害なGVHDの予防、または高
いグレード(例えばグレードIIIまたはIVあるいは指標CまたはD)GVHDの予防
は、有害事象リスクの割合を低減またはGVHDが移植患者の致死率に関した処置につな
がるリスクの割合を低減し得る。いくつかの実施形態では、α4β7アンタゴニスト、例
えば抗α4β7抗体の投与は、患者におけるGVHDを予防する。他の実施形態では、α
4β7アンタゴニスト、例えば抗α4β7抗体の投与は、患者におけるGVHDの腸の症
状を予防する。いくつかの実施形態では、α4β7アンタゴニスト、例えば抗α4β7抗
体の投与は、患者におけるGVHDの腸の症状を予防するが、皮膚または肝臓におけるG
VHDの1つまたは複数の症状は予防しない。いくつかの実施形態では、α4β7アンタ
ゴニスト、例えば抗α4β7抗体の投与は、患者における免疫抑制治療の使用を低減する
。いくつかの実施形態では、allo-HSCTを受けている患者へのα4β7アンタゴ
ニスト、例えば抗α4β7抗体の投与は、幹細胞を生着させる。いくつかの実施形態では
、allo-HSCTを受けている患者へのα4β7アンタゴニスト、例えば抗α4β7
抗体の投与は、幹細胞を生着させ、移植片対腫瘍(GVT)効果を生じさせる。
【0039】
抗α4β7抗体は、実質的に純粋であり、及び望ましくは実質的に均一(すなわち、夾
雑タンパク質を含まない、等)である。「実質的に純粋」な抗体とは、組成物内のタンパ
ク質の総重量に基づいて、抗体を少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%また
は97重量%含む組成物を意味する。「実質的に均一」な抗体とは、タンパク質の総重量
に基づいて少なくともタンパク質の約99重量%が特異抗体(例えば抗α4β7抗体)で
あるタンパク質を含む組成物を意味する。
【0040】
抗α4β7抗体、ベドリズマブ、α4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト
化モノクローナル抗体は、既に中等度から重度に活性の潰瘍性大腸炎(UC)やクローン
病(CD)を有する患者の処置に関して適応されている。ベドリズマブは、GvHDの予
防にも使用され得る。ベドリズマブは、新規の腸管選択的作用機序を有する。細胞表面に
発現したα4β7への結合により、ベドリズマブはα4β7アンタゴニストとなり、腸管ホ
ーミングメモリーTリンパ球のサブセットが内皮細胞上に発現する粘膜アドレッシン細胞
接着分子-1(MAdCAM-1)と相互作用するのをブロックする。
【0041】
抗薬物抗体の存在、性別、体の大きさ、免疫抑制剤の併用、疾患のタイプ、アルブミン
濃度、及び全身性炎症の程度を含む、いくつかの要因は、促進された抗体のクリアランス
に関連する。さらに、薬物の用量とは対照的に、有効性と暴露間の一定の関連性は、これ
らの薬剤の多くに対して観察されており、例えばより高いトラフ薬物濃度がより強力な有
効性に関連するとされている。薬物クリアランスにおける違いは、この観察に対して重要
な説明であり得る。例えば、がん患者は腫瘍の免疫抑制処置や感染症のための処置を行う
。それゆえ、移植患者における治療用抗体のクリアランス決定因子を理解することは、薬
物レジメンの最適化につながり得る。
【0042】
これまでの研究では、健康なボランティアへ0.2~10mg/kgの用量範囲(静脈
内[IV]輸注で)に対して、ベドリズマブの単回投与時の薬物動態、薬力学(α4β7
容体飽和)、安全性、及び耐容性が調査された(未発表データ)。ピークの濃度に達した
後、ベドリズマブの血清濃度は、概ね二次指数関数的に、約1~10ng/mLに達する
濃度まで低下した。これ以降、濃度は非線形的な低下を見せた。ベドリズマブの反復投与
時の薬物動態及び薬力学は、CDを有する患者における0.5及び2mg/kgのIV輸
注ならびにUC患者における2、6、及び10mg/kgの輸注後に調査された。ベドリ
ズマブの薬物動態は、UC患者における2~10mg/kgの用量範囲のIV輸注後、概
して線形であった。反復投与の後、ベドリズマブの初期投与に続いて急速及び完全に近い
α4β7受容体飽和が達成された。
【0043】
CD患者におけるベドリズマブ誘導及び維持療法の有効性及び安全性は、GEMINI
2(Clinical Trials.gov番号、NCT00783692)試験及び
GEMINI3(Clinical Trials. gov番号、NCT012241
71)試験で実証された。誘導及び維持療法に対するCD患者においてのベドリズマブの
暴露反応(有効性)の関係は他に示されている。
【0044】
α4β7アンタゴニストによる移植片対宿主病(GvHD)の予防
本発明は、GvHDまたは例えばallo-HSCTを受けている同種造血細胞移植患
者(例えばヒト患者)のGvHD関連有害事象を予防することによって、患者における疾
患を処置する方法に関する。ヒト患者は、成人(例えば18歳またはそれ以上)、若年成
人、または小児であり得る。抗α4β7抗体を含む医薬組成物は、本明細書で記載される
ように移植患者、がん患者、非悪性血液学的疾患患者を処置するためにまたはそれらに罹
っている対象のGvHDを予防するために使用することができる。
【0045】
急性GvHDの重症度は改変Glucksberg基準(表2)及び血液・骨髄移植臨
床試験ネットワーク(BMTCTN)改変国際骨髄移植登録データベース(IBMTR)
指数表3)に従って測定された。GvHDの臨床ステージ及びグレードは、表1に示され
るように分類される。
【表1】
【表2】
【表3】
【0046】
同種造血細胞(例えばallo-HSC)は、例えば抗α4β7抗体のようなα4β7
アンタゴニスト投与の後、GvHD無し、皮膚GvHDのみ、肝臓GvHDのみ、皮膚及
び肝臓GvHDのみ、腸管GvHDが無く皮膚または肝臓GvHDのみ、グレードIVの
GvHD無し、グレードIII及びIVGvHD無し、ステージ1又はステージ2腸管G
vHDのみならびにステージ2~3皮膚及び/もしくは肝臓GvHDのみ、グレードI~
IIGvHDのみ、またはGvHD無しももしくは皮膚GvHDのみ、指数AのGvHD
のみ、指数AまたはBのGvHDのみ、指数CまたはDのGvHD無し、またはGVTを
含む前記のいずれかによって生着され得る。
【0047】
急性GvHDの発症を予防することは、GALT、腸間膜リンパ節及び/またはGI粘
膜へのアロ反応性T細胞移動の減少またはブロックをもたらす。GvHD(例えば急性G
VHD)の予防は、同種造血細胞移植(例えばallo-HSCT)後、約50日目、約
75日目、約90日目、約100日目、約110日目、約120日目、約150日目、ま
たは約180日目に、患者が急性GvHDの兆候を示さなければ、成功とみなしてよい。
いくつかの実施形態では、同種造血細胞移植(例えばallo-HSCT)を受けている
患者は、免疫抑制治療のさらなる投与を受けない、例えば前処置後または初期移植期間後
(例えば直前及び/または直後)、例えば同種造血細胞移植後0~1週間、0~2週間、
0~3週間または0~4週間、免疫抑制治療のさらなる投与を受けない、ことを含むレジ
メンで処置される。
【0048】
寛解は、従来の世界保健機構(WHO)基準により以下のように定義されている:芽球
細胞が5%未満、血球数回復、及び骨髄外疾患のエビデンス無し。急性及び/または慢性
GvHDの寛解は、allo-HSCT後約4、約5、約6、約9、または約12月間持
続し得る。
【0049】
GvHD再発または無増悪生存期間(GRFS)は、グレード3~4急性GvHD、全
身免疫抑制剤を必要とする慢性GvHD、疾患の再発または進行または何らかの原因によ
る死亡と定義される。
【0050】
生着は、移植された造血細胞が患者に定植するまたは患者の組織環境に適応、例えば増
殖する、分化する、血液系細胞由来の機能特性の実施が開始するまたは成熟のシグナルに
より成長するようにプログラムされる、プロセスである。allo-HSCTの生着は、
好中球及び血小板等の血液成分を定量化することによって測定される。生着の時間は、造
血幹細胞源によって変わり、例えば末梢血液幹細胞よりも臍帯血幹細胞の方が長い。好中
球生着(好中球絶対数の回復[ANC])は、ANCが3日間連続して500/mm3
または1日で>2000/mm3超として定義される。3日間の最初の日は、好中球生着
の日と考えられる。
【0051】
末梢血液のリンパ球上のα4β7発現平均値は、同種造血細胞移植患者(例えば骨髄破
壊的allo-HSCT集団)において、抗α4β7抗体(例えばベドリズマブ)投与の
前後に行われるMadCAM-1-Fc結合阻害アッセイによって測定され得る。
【0052】
非限定的にインターロイキン6(IL-6)、インターロイキン17(IL-17)、
及び腫瘍形成抑制因子2(ST2)を含む血液つまり血清のバイオマーカー、及び/また
は、非限定的にCD8+、CD38+、CD8+brightエフェクターメモリーT細
胞、及びCD4+メモリーT細胞を含む細胞バイオマーカーの変化は、急性GvHDの発
症または重症度の予想要因であり得る。allo-HSCT後1つまたは複数のそのよう
なマーカーの増加を検出することは、急性GvHDの発症を示し得る。バイオマーカーの
検出は、バイオマーカーの免疫検出、例えばバイオマーカーを発現している血液細胞等の
細胞への抗体結合及びその抗体結合量の測定(例えばフローサイトメトリーによる)また
は血清における可溶性バイオマーカーへの抗体結合及びその抗体結合量の測定(例えばE
LISAによる)により達成され得る。対照または移植の早い段階もしくは移植の前に得
たサンプル、または一定の基準のバイオマーカー量(例えば非移植対象集団におけるバイ
オマーカー量)との比較は、バイオマーカーの量が変化(例えば増加)したか否かの指標
を提供し得る。いくつかの実施形態では、同種造血細胞移植(例えばallo-HSCT
)を受けている患者への抗α4β7抗体等のα4β7アンタゴニストの投与は、1つまた
は複数のこれらのバイオマーカーにおける変化または増加を予防する。
【0053】
患者は、抗α4β7抗体等のα4β7アンタゴニストを標的とした抗体に対して陽性で
あるか、例えば、ベースライン時、allo-HSCT後20日目、及び100日目等の
様々な時点で、抗ベドリズマブ抗体に対して陽性であるか、を確認するためにテストされ
得る。
【0054】
患者は、全身免疫抑制を必要とするGvHDの発症に対してテストされ得る。
【0055】
抗α4β7抗体等のα4β7アンタゴニストは、α4β7インテグリンがそのリガンド
に結合するのを阻害するのに有効な量で投与される。治療に関しては、有効量は、所望の
予防効果(例えばGALT、腸間膜リンパ節及びまたはGI粘膜へのアロ反応性T細胞の
移動を低減するまたは除く、ならびにGvHDの発生率または重症度を低減する)を達成
するのに十分なものである。有効量の抗α4β7抗体、例えば飽和(例えばα4β7イン
テグリンの中和)を維持するのに十分に有効な力価は、造血幹細胞輸注時の持続的なα4
β7遮断をもたらすことができる。抗α4β7抗体等のα4β7アンタゴニストは、単位
用量または反復投与で投与され得る。用量は、当該技術分野で公知の方法によって決定で
き、例えば、個々の年齢、感受性、耐性及び総合的健康状態に左右され得る。投与様式の
例としては、経鼻または吸入あるいは経皮投与等の局所経路、栄養管または坐薬を介して
等の経腸経路、及び静脈内、筋肉内、皮下、動脈内、腹腔内、または硝子体内投与等の非
経口経路が挙げられる。抗体に適した用量は、1回の処置において体重1kgあたり約0
.1mg~約10.0mg、例えば約2mg/kg~約7mg/kg、約3mg/kg~
約6mg/kg、または約3.5~約5mg/kgであることができる。特定の実施形態
では、投与される用量は、約0.3mg/kg、約0.5mg/kg、約1mg/kg、
約2mg/kg、約3mg/kg、約4mg/kg、約5mg/kg、約6mg/kg、
約7mg/kg、約8mg/kg、約9mg/kg、または約10mg/kgである。い
くつかの実施形態では、ベドリズマブは、50mg、75mg、100mg、300mg
、450mg、500mgまたは600mgの用量で投与される。いくつかの実施形態で
は、ベドリズマブは、108mg、90~120mg、216mg、160mg、165
mg、155~180mg、170mgまたは180mgの用量で投与される。いくつか
の実施形態では、ベドリズマブは、180~250mg、300~350mg、または3
00~500mgの用量で投与される。
【0056】
凍結乾燥固体として保存された抗α4β7抗体等のα4β7アンタゴニストの場合にお
いて、抗体は、投与の前に注射用水等の溶液に再構成される。輸注投与のために調製する
場合、抗α4β7抗体の最終剤形(例えば再構成された抗体の希釈後(例えば生理食塩水
、リンゲル溶液または5%のデキストロース溶液注入システムで))は、約0.5mg/
ml~約5mg/mlであることができる。最終剤形は、約0.3mg/ml~約3.0
mg/ml、約1.0mg/ml~約1.4mg/ml、約1.0mg/ml~約1.3
mg/ml、約1.0mg/ml~約1.2mg/ml、約1.0~約1.1mg/ml
、約1.1mg/ml~約1.4mg/ml、約1.1mg/ml~約1.3mg/ml
、約1.1mg/ml~約1.2mg/ml、約1.2mg/ml~約1.4mg/ml
、約1.2mg/ml~約1.3mg/ml、または約1.3mg/ml~約1.4mg
/mlの濃度であり得る。最終剤形は、約0.6mg/ml、0.8mg/ml、1.0
mg/ml、1.1mg/ml、約1.2mg/ml、約1.3mg/ml、約1.4m
g/ml、約1.5mg/ml、約1.6mg/ml、約1.8mg/mlまたは約2.
0mg/mlの濃度であり得る。一つの実施形態では、総用量は、75mgである。一つ
の実施形態では、総用量は、150mg、225mg、375mgまたは525mgであ
る。他の実施形態では、総用量は、300mgである。一つの実施形態では、総用量は、
450mgである。一つの実施形態では、総用量は、600mgである。抗α4β7抗体
の用量は、投与のために250mlの生理食塩水、リンゲル溶液または5%デキストロー
ス溶液に希釈され得る。
【0057】
用量は、患者へ約20分、約25分、約30分、約35分、または約40分にわたって
投与することができる。
【0058】
投与レジメンは、GvHDの予防あるいは患者の発症しているGvHDの重度なグレー
ドのリスクならびにグレードIIIまたはIV、指数Cまたは指数D等の指数レベルの低
減をもたらすように最適化することができる。いくつかの実施形態では、投与レジメンは
、処置を受ける患者の脳脊髄液内のCD4対CD8の比率を変化させない。例えば、抗α
4β7アンタゴニストは、脳または脊髄等の神経系の免疫監視を損なわない。
【0059】
一つの実施形態では、投与レジメンは、同種幹細胞移植(allo-HSCT)前日の
初期投与、初期投与からおおよそ2週間後の後続投与、及び初期投与からおおよそ6週間
後の第2の後続投与を含む。一実施形態では、抗α4β7抗体の初期投与は、同種幹細胞
輸注の少なくとも12時間前である。この抗α4β7抗体の投与レジメンは、クローン病
または潰瘍性大腸炎の処置において承認されたベドリズマブの導入用量及びスケジュール
に対して有用であるが、allo-HSCT等の移植が続く前処置レジメンで処置されて
いるような同種造血細胞移植を受けている対象は、移植後の期間、α4β7インテグリン
発現量の変動を伴ってT細胞集団を顕著に変化させると予想される。さらにまた、患者が
、感染症またはGVHDに罹っているもしくは移植工程からの他の有害事象を有する場合
、抗α4β7抗体のクリアランスに影響し得る。例えば、前処置に使用された薬剤によっ
て腎臓がダメージを受けた場合、透析を用いた処置が血流から抗体のクリアランスを増加
することができるであろう。代替的に、骨髄破壊的治療後、初期治療の間抗α4β7抗体
の予想外に高いクリアランスをもたらし得る他の生理学的条件があり得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、抗α4β7抗体は、同種造血細胞移植(例えばallo-H
SCT)の前に投与される。いくつかの実施形態では、抗α4β7抗体等のα4β7アン
タゴニストは、同種造血細胞移植(例えばallo-HSCT)の前及び後に患者へ投与
される。いくつかの実施形態では、抗α4β7抗体等のα4β7アンタゴニストは、同種
造血細胞移植(例えばallo-HSCT)の後、例えば同種造血細胞移植(例えばal
lo-HSCT)の1日後、1~2日後、1~3日後、2~3日後または2~4日後、2
日後、3日後、4日後、5日後、6日後または7日後以内に患者へ投与される。例えば、
抗α4β7抗体(例えばベドリズマブ)は、点滴静注によって同種造血細胞移植(例えば
allo-HSCT)の前日に初期投与として、及び初期投与の2及び6週間後に再び投
与され得る。
【0061】
抗α4β7抗体等のα4β7アンタゴニストは、単独でまたは他の薬剤と併せて、個体
(例えばヒト)へ投与され得る。抗α4β7抗体等のα4β7アンタゴニストは、追加薬
剤の投与の前、同時または後に投与されることができる。一つの実施形態では、α4β7
インテグリンのそのリガンドへの結合を阻害する、2つ以上のα4β7アンタゴニストが
投与される。そのような実施形態では、薬剤(例えば抗MAdCAM(例えば抗MAdC
AM-1)または抗VCAM-1モノクローナル抗体等のモノクローナル抗体)、が投与
されることができる。他の実施形態では、追加薬剤は、白血球のα4β7経路と異なる経
路内の内皮リガンドへの結合を阻害する。そのような薬剤は、例えばケモカイン(C-C
モチーフ)受容体9(CCR9)発現リンパ球の胸腺に発現するケモカイン(TECKま
たはCCL25)への結合を阻害し、または該薬剤はLFA-1の細胞間接着分子(IC
AM)への結合を防止することができる。例えば、抗TECKもしくは抗CCR9抗体ま
たはPCT公開第WO03/099773号もしくは第WO04/046092号に開示
の阻害剤等の小分子CCR9阻害剤、または抗ICAM-1抗体もしくはICAMの発現
を防止するオリゴヌクレオチド等が、本発明の製剤に追加して投与される。さらに別の実
施形態において、GvHDの予防治療に通常に投与される、1つまたは複数の追加の有効
成分(例えばメトトレキサートまたはカルシニュリン阻害剤、例えばタクロリムスまたは
シクロスポリン)が、本発明の方法において、抗α4β7抗体等のα4β7アンタゴニス
トと併せて投与され得る。一実施形態では、共投与される薬物の用量を、抗α4β7抗体
等のα4β7アンタゴニストによる処置期間の間時間とともに減らすことができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、共投与される薬物は、タクロリムス等のカルシニュリン阻害
剤である。いくつかの実施形態では、カルシニュリン阻害剤処置は、同種造血細胞移植(
例えばallo-HSCT)の前に開始され、少なくとも100日後まで継続される。一
つの実施形態では、タクロリムス処置は、同種造血細胞移植(例えばallo-HSCT
)のための前処置の間に開始され得る。タクロリムス処置は、約1ng/dL、約2ng
/dL、約3ng/dL、約4ng/dL、約5ng/dL、約6ng/dL、約7ng
/dL、約8ng/dL、約9ng/dL、約10ng/dL、または約5~10ng/
dLのトラフ濃度で達成し得る。タクロリムス処置は、同種造血細胞移植(例えばall
o-HSCT)後、GvHDの兆候が観察されなければ、約2週、約6週、約2ヶ月、約
3ヶ月、約100日の間治療用レベルに保持され得る。タクロリムス処置は、同種造血細
胞移植(例えばallo-HSCT)後約5ヶ月、約6ヶ月、約7ヶ月までに停止され得
る。
【0063】
いくつかの実施形態では、共投与される薬物は、メトトレキサートである。一実施形態
では、メトトレキサートは、同種造血細胞移植(例えばallo-HSCT)後患者へ約
2、4、6、8、10、または12mg/m2でIV(例えば1、3、6、及び11日目
に)投与される。患者へ投与されるメトトレキサートの量は、毒性に基づいて変更、また
は保持され得る。
【0064】
一つの実施形態では、本方法は、有効量の抗α4β7抗体を患者へ投与することを含む
。抗α4β7抗体が、乾燥状態等の固形物状製剤内にある場合、投与プロセスは製剤を液
体状に変えるステップを含むことができる。一態様において、乾燥製剤は、例えば前述の
ように、静脈内、筋肉内または皮下注射等の注射における使用の目的で液体で再構成する
ことができる。別の態様において、固形または乾燥製剤は、例えばパッチ、クリーム、エ
アロゾルまたは坐薬の形状で、局所的に投与されることができる。
【0065】
抗α4β7抗体であるα4β7アンタゴニストは、α4鎖(例えばヒト化MAb21.
6(Bendig et al.,米国特許第5,840,299号)上のエピトープ、
β7鎖(例えばFIB504、またはヒト化誘導体(例えばFong et al.,米
国特許第7,528,236号))上のエピトープ、またはα4鎖とβ7鎖の会合によっ
て形成された組み合わせエピトープと結合することができる。AMG-181、またはU
S2010/0254975に記載の他の抗体は、抗α4β7抗体である。一態様におい
て、抗体は、α4β7複合体上の組み合わせエピトープに結合するが、鎖が相互に会合し
ていなければα4鎖またはβ7鎖上のエピトープに結合しない。α4インテグリンとβ7
インテグリンの会合は、組み合わせエピトープを、例えば互いにエピトープを備える両鎖
上に存在する残基を近接させることによって、または適切なインテグリンパートナーの非
存在下またはインテグリン活性化の非存在下において、抗体結合へアクセス不可能なエピ
トープの結合部位を、一方の鎖(例えばα4インテグリン鎖またはβ7インテグリン鎖)
上に立体構造的に曝すことによって作製することができる。別の態様において、抗α4β
7抗体はα4インテグリン鎖とβ7インテグリン鎖両方に結合し、そのため、α4β7イ
ンテグリン複合体に対して特異的である。抗α4β7抗体は、α4β7に結合できるが、
α4β1には結合せず、及び/または例えばαEβ7にも結合しない。別の態様において
、抗α4β7抗体は、同一のまたはAct-1抗体と実質的に同一のエピトープに結合す
る(Lazarovits, A. I. et al., J. Immunol.,
133(4):1857-1862(1984),Schweighoffer et
al., J. Immunol., 151(2):717-729,1993;B
ednarczyk et al.,J.Biol. Chem., 269(11):
8348-8354,1994)。マウスAct-1モノクローナル抗体を産生するマウ
スACT-1ハイブリドーマ細胞株は、Millennium Pharmaceuti
cals, Inc.,40 Landsdowne Street, Cambrid
ge, Mass. 02139, U.S.A.に代わって、ブダペスト条約の規定の
下、2001年8月22日American Type Culture Collec
tion, 10801 University Boulevard, Manass
as, Va. 20110~2209, U.S.A.へ受理番号PTA-3663と
して寄託された。別の態様において、抗α4β7抗体は、ヒト抗体または米国特許出願公
開第2010/0254975号で提供されるCDRを使用してα4β7に結合するタン
パク質である。
【0066】
一態様において、α4β7アンタゴニストは、抗MAdCAM抗体(例えば米国特許第
8,277,808号、PF-00547659号、またはWO2005/067620
に記載されている抗体を参照)、または米国特許第7,803,904号に記載のような
MAdCAM-Fcキメラ等のリガンドの操作された形態である。
【0067】
一態様において、抗α4β7抗体は、α4β7がそのリガンドの1つまたは複数(MA
dCAM(例えばMAdCAM-1)、フィブロネクチン、及び/または血管アドレッシ
ン(VCAM)等の粘膜アドレッシン)へ結合するのを阻害する。霊長類MAdCAMは
、PCT公開第WO96/24673号に記載され、教示全体が本明細書中で参考として
援用される。別の態様において、抗α4β7抗体は、VCAMの結合を阻害することなく
、α4β7のMAdCAM(例えばMAdCAM-1)及び/またはフィブロネクチンへ
の結合を阻害する。
【0068】
一態様において、処置への使用のための抗α4β7抗体は、マウスAct-1抗体のヒ
ト化バージョンである。ヒト化抗体を調製するための適した方法は、当該技術分野で公知
である。概して、ヒト化抗α4β7抗体は、マウスAct-1抗体の3つの重鎖の相補性
決定領域(CDR)(CDR1、配列番号4、CDR2、配列番号5及びCDR3、配列
番号6)及び適したヒト重鎖フレームワーク領域を含む重鎖を含むことができ、そしてま
たマウスAct-1抗体の3つの軽鎖CDR(CDR1、配列番号7、CDR2、配列番
号8及びCDR3、配列番号9)及び適したヒト軽鎖フレームワーク領域を含む軽鎖も含
むことができる。ヒト化Act-1抗体は、アミノ酸置換を伴うまたは伴わないコンセン
サスフレームワーク領域を含む、いずれの適したヒトフレームワーク領域を含むことがで
きる。例えば、1つまたは複数のフレームワークアミノ酸は、例えばマウスAct-1抗
体の対応位置にあるアミノ酸等のもう1一つのアミノ酸と置き換わることができる。ヒト
定常領域またはその一部(存在する場合)は、対立遺伝子バリアントを含む、ヒト抗体の
κまたはλ軽鎖、及び/またはγ(例えばγ1、γ2、γ3、γ4)、μ、α(例えばα
1、α2)、δまたはε重鎖に由来することができる。特定の定常領域(例えばIgG1
)、バリアントまたはそれらの一部は、エフェクター機能を整えるために選択することが
できる。例えば、変異した定常領域(バリアント)は、Fc受容体への結合及び/または
補体を固定する能力を最小にするために融合タンパク質へ組み込まれることができる。(
例えばWinter et. al.,英国特許第2,209,757号、Morris
on et. al.,WO89/07142;Morgan et. al.,WO9
4/29351,Dec.22,1994参照)。Act-1抗体のヒト化バージョンは
、PCT公開第WO98/06248号及び第WO07/61679号に記載され、教示
全体が本明細書中で参考として援用される。抗α4β7インテグリン抗体を使用する処置
方法は、公開第U.S.2005/0095238号、U.S.2005/009523
8号、WO2012151248号及びWO2012/151247号に記載されている
【0069】
一態様において、抗α4β7抗体はベドリズマブである。ベドリズマブIV(MLN0
002、ENTYVIO(商標)またはKYNTELES(商標)とも呼ばれる)は、ヒ
トリンパ球インテグリンα4β7を標的としたヒト化抗体(Ig)G1mAbである。α
4β7インテグリンは、腸間膜リンパ節及びGI粘膜の内皮細胞上に発現する粘膜アドレ
ッシン細胞接着分子-1(MAdCAM-1)との接着相互作用を介して、GI粘膜、腸
管関連リンパ組織(GALT)及び腸間膜リンパ節へのリンパ球移動を仲介する。ベドリ
ズマブは、α4β7インテグリンと結合し、MAdCAM-1へのその接着を拮抗し、そ
れゆえ、ナイーブT細胞のGALT及び腸間膜リンパ節への遊走、ならびに腸管ホーミン
グ白血球のGI粘膜中への遊走を障害する。
【0070】
別の態様において、処置に使用のためのヒト化抗α4β7抗体は配列番号1のアミノ酸
20~140を含む重鎖可変領域、及び配列番号2のアミノ酸20~131、または配列
番号3のアミノ酸1~112を含む軽鎖可変領域を含む。所望の場合、適したヒト定常領
域(複数可)が存在してもよい。例えば、ヒト化抗α4β7抗体は、配列番号1のアミノ
酸20~470を含む重鎖及び配列番号3のアミノ酸1~219を含む軽鎖を含むことが
できる。もう一つの実施例では、ヒト化抗α4β7抗体は、配列番号1のアミノ酸20~
470を含む重鎖及び配列番号2のアミノ酸20~238を含む軽鎖を含むことができる
。ベドリズマブはChemical Abstract Service(CAS、米国
化学会)登録番号943609~66-3)の下、一覧に記されている。
【0071】
ヒト化抗α4β7抗体配列への置換は、例えば、重及び軽鎖フレームワーク領域に対す
る変異であることができ、例えば、配列番号10の残基2でのイソロイシンからバリンの
変異、配列番号10の残基4上でのメチオニンからバリンへの変異、配列番号11の残基
24上でのアラニンからグリシンへの変異、配列番号11の残基38でのアルギニンから
リジンへの変異、配列番号11の残基40でのアラニンからアルギニンへの変異、配列番
号11の残基48上でのメチオニンからイソロイシンへの変異、配列番号11の残基69
上でのイソロイシンからロイシンへの変異、配列番号11の残基71上でのアルギニンか
らバリンへの変異、配列番号11の残基73上でのスレオニンからイソロイシンへの変異
、またはそれらのいずれの組み合わせ、ならびにマウスAct-1抗体のCDR(CDR
1、配列番号4、CDR2、配列番号5及びCDR3、配列番号6)を有する重鎖CDR
の交換、及びマウスAct-1抗体の軽鎖CDR(CDR1、配列番号7、CDR2、配
列番号8及びCDR3、配列番号9)を有する軽鎖CDRの交換であることができる。
【0072】
本発明は、同種造血細胞移植(例えば同種造血幹細胞移植患者)におけるGvHDをベ
ドリズマブを用いて予防する方法を提供する。本方法は、抗α4β7抗体の300mgの
初期用量を、白血病を患っているヒト等の血液癌患者に投与するステップと、ベドリズマ
ブ初期投与の1日後にallo-HSCTを実施するステップと、続いて初期投与の2週
間後に300mgの用量を投与するステップと、続いて初期投与の6週間後に300mg
の第2の用量を投与するステップとを含む。代替的に、いくつかの実施形態では、抗α4
β7抗体の用量は、300mgより低い(例えば75mgまたは150mg)または高い
(例えば450mgまたは600mg)。
【0073】
本発明は、同種造血細胞移植(例えばallo-HSCT)を有する患者のGVHDを
予防するのに使用するための抗α4β7抗体を提供し、その使用は抗α4β7抗体の初期
用量をallo-HSCTの前日、初期投与の2週間後、及び初期投与の6週間後に投与
することを含む。予防におけるその使用は、さらにタクロリムス及び/またはメトトレキ
サートの投与を含み得る。いくつかの実施形態では、抗α4β7抗体はベドリズマブであ
る。
【0074】
本発明は、以下の実施例を参照することによってさらに十分に理解される。しかしなが
ら、これらは本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。全ての文献及び特
許の引用は、参照により本明細書において援用される。
【実施例0075】
実施例1
第1b相非盲検用量設定試験が、同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を受けて
いる成人患者における標準移植片対宿主病(GvHD)予防(タクロリムス+短期メトト
レキサート)に対するベドリズマブ追加の安全性、忍容性、及び臨床活性を評価するため
にデザインされた。ベドリズマブ用量設定は、コホートに基づき、また薬物動態(PK)
ガイダンスによる規則に基づく用量設定試験デザインに従った。許容可能なPKを有する
忍容用量が特定された後、その用量レベルのコホートは、ベドリズマブの忍容性及び有効
性をさらに評価するため拡大され得る。
【0076】
適格性は、-1日目(ベドリズマブの第1のIV輸注の日を指す)、最長28日間続き
得るスクリーニング期間を通して決定される。全ての適格性基準にかない、書面によるイ
ンフォームドコンセントを提供した患者は、この試験に登録される。試験薬は、最初に、
allo-HSCTの前の-1日目に投与され、次にallo-HSCT後+13日目及
び+42日目に投与される。血液悪性腫瘍の処置のための非血縁者骨髄破壊的移植を受け
ており、且つ60歳以下の患者は登録の資格を有する。推奨される第2相の用量が特定さ
れた後、その用量レベルのコホートは、血液悪性腫瘍または骨髄増殖性腫瘍処置のために
血縁者あるいは非血縁者の同種HSCTのどちらかが行われている、骨髄破壊的前処置ま
たは用量減量前処置「RIC」を受けているさらなる患者(75以下)を含むよう拡大す
ることができる。
【0077】
患者は、同種移植を以前に受けている場合または臍帯血移植を行う、ex vivoT
細胞枯渇造血幹細胞(HSC)を受ける、いずれのin vivoT細胞枯渇抗体、また
はRIC(用量設定試験の部分においてのみ)を受ける、と計画している場合、この試験
から除外される。活発な脳/髄膜疾患、活発なサイトメガロウイルス性(CMV)大腸炎
、または進行性多巣性白質脳炎(PML)の兆候及び症状またはPMLのいずれの履歴を
有する患者もまた、除外される。加えて、非悪性血液障害(例えば再生不良性貧血、鎌状
赤血球貧血、地中海貧血症、ファンコニ貧血)を有する患者は、試験の両部分において除
外される。
【0078】
PK評価項目のため、評価可能な患者はベドリズマブを受け、かつ少なくとも1つのP
Kサンプルが採取されたものである。
【0079】
寛解のままである患者は、急性及び慢性GvHDの安全性と発症について、allo-
HSCT後1年の間、または患者の死亡までもしくは同意の撤回もしくは治験依頼者によ
る試験の終止まで経過観察される。すべての患者は、全生存率(OS)について、死亡ま
で、同意の撤回、治験依頼者による試験の終止、または最後の患者がこの試験に登録した
後最長1年後の間、経過観察される。患者は、+100日目の来診(±7日)に参加し、
この時点で処置後の経過観察に入る。
【0080】
用量漸増は、-1日目に、75mgIVのベドリズマブを受ける低用量コホートから開
始され、allo-HSCT後+13日目と+42日目に行われた。HSC輸注は、0日
目(-1日目のベドリズマブIV輸注完了から12時間以内)に行う。各投与コホートに
おける最初の患者は、用量制限毒性(DLT)に対して、-1日目のallo-HSCT
後ベドリズマブの第1のIV輸注開始後の+28日目(DLT観察期間)まで監視され、
それには+28日目までの好中球回復の評価が含まれる。第1のコホートの最初の患者が
75mgのベドリズマブIVに忍容性を示し、生着が起こった場合、第1のコホートへさ
らに2名の患者が登録される。もし最初の3名の患者の誰一人としてDLTを経験しなか
った場合、次のコホートは300mgIVのベドリズマブを-1日目及びallo-HS
CT後+13日目、及び+42日目に受ける。このコホートの最初の患者が300mgの
ベドリズマブIVに忍容性を示し、生着が起こった場合、第2のコホートへさらに2名の
患者が登録される。最初の3名の患者が300mgでDLTを経験することなしに処置に
忍容性を示す場合、次のコホートでのベドリズマブIV用量を増加するか否かの決定はP
K結果によって導き出される。もし最初の3名の患者の1人が、DLTを経験した場合、
3名のさらなる患者が同じ用量レベルで登録され、そしてDLTについて-1日目から+
28日目まで監視される。追加の患者の誰一人としてDLTを経験しない場合、次のコホ
ートでのベドリズマブIV用量を増加するか否かの決定はPK結果によって導き出される
。3名、または6名どちらかのコホートにおいて、2名以上の患者がDLTを経験する場
合、次のコホートの3名の患者に対してベドリズマブIVの用量は減量される。これらの
患者は、前のコホートの患者を監視したのと同様の仕方でDLTについて監視される。
【0081】
血液悪性腫瘍の処置のために非血縁者骨髄破壊的移植を受けている患者における、許容
可能なPKを持つ忍容用量レベルの特定の後、その用量レベルでのコホートは、骨髄破壊
的前処置または用量減量前処置(RIC)を受け、かつ血液悪性腫瘍または骨髄増殖性腫
瘍の処置のために関連または非関連allo-HSCTのいずれかを受けている、おおよ
そ18名のさらなる患者を含むよう拡大され得る。この群の患者は、ベドリズマブIVの
忍容性及び臨床活性のさらなる評価を可能とした。
【0082】
バイタルサイン、身体的及び神経学的検査、有害事象(AE)評価、ならびに臨床検査
値(化学的、血液学的、及び検尿)を得て、ベドリズマブIVの安全性及び忍容性を評価
する。進行性多巣性白質脳炎(PML)を有する患者を除外するために、Risk As
sessment and Minimization for PML(RAMP)ア
ンケートがスクリーニング時点ならびにallo-HSCTの前日の-1日目のベドリズ
マブIV投与の前、及びallo-HSCT後の+13日目と+42日目に行われた。
【0083】
ベドリズマブのPK評価のための一連の血液サンプルは、事前に定めた時点で得られる
。ベドリズマブのPKは、最初の3名の患者それぞれに対して、各用量レベルで解析され
る。ベドリズマブの濃度-時間プロフィールは、α4β7の標的とする飽和のレベルに影響
を受けると予想されている。α4β7が飽和された場合、ベドリズマブによるクリアランス
は線形で、α4β7が飽和されなかった場合、クリアランスは急速な排除を示す非線形とな
る。ベドリズマブによるクリアランスが300mg用量で非線形である場合、全ての患者
に対する後続の用量は線形状のPKクリアランスが得られるまで、おおよそ150mgの
増量幅(最大600mgまで)で増加する。
【0084】
ベドリズマブ及び抗ベドリズマブ抗体及び血清バイオマーカー(非限定的に、インター
ロイキン6[IL-6]、インターロイキン17[IL-17]、及び腫瘍形成抑制因子
2[ST2])の血清濃度決定のための一連の血液サンプルは、事前に定めた時点で得ら
れる。加えて、血液サンプルは細胞免疫表現型検査のためのフローサイトメトリーを実施
するために採集されて、様々な細胞バイオマーカー(CD8+、CD38+、CD8+エ
フェクターメモリーT細胞、及びCD4+メモリーT細胞等の)のレベルによって決定す
るとして細胞集団を計測し、MadCAM-1-FC結合阻害アッセイを事前に定めた時
点で行う。
【0085】
毒性は、2010年6月14日適用の米国立がん研究所有害事象共通用語基準(NCI
CTCAE)、バージョン4.03に従って評価された。
【0086】
実施例2
モンテカルロ・シミュレーションが臨床試験におけるベドリズマブ血清濃度の集団薬物
動態モデルに行われた。シミュレーションは、体重及びアルブミンの作用に加えて個体間
の変動及び残差変動を含んでいた。他の全ての共変数はそれらの標準値に設定された。1
000名の成人患者がこの試験でシミュレートされた。アルブミン及び体重は正規分布か
ら無作為にサンプルされた。シミュレートされた投与レジメンは、30分のIV輸注経由
で-1日目、+13日目、+42日目(すなわち、最初の投与に対して0日目、14日目
及び43日目)にベドリズマブ75mgであった。
【0087】
第1b相非盲検用量設定試験(実施例1)に登録された3名の患者から観察されたデー
タは、シミュレーションデータに重ねられた(図3参照)。ギザギザ線間の領域の「不明
瞭さ」は残差変動によるものである。図3は、測定及びシミュレートされたベドリズマブ
血清濃度の経時変化を図示する。この図では、1人の患者におけるベドリズマブ濃度は、
投与の直後を除いて10μg/mlに達しなかった。もう1人の患者は、2度目の投与後
、数日の間に10μg/ml超のベドリズマブを維持したが、1度目の投与ではしなかっ
た。3人目の患者は、最初の投与後、数日の間に10μg/ml超のベドリズマブを維持
した。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
図1
図2
図3
【配列表】
2022163078000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-08-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載された発明。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0087
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0087】
第1b相非盲検用量設定試験(実施例1)に登録された3名の患者から観察されたデータは、シミュレーションデータに重ねられた(図3参照)。ギザギザ線間の領域の「不明瞭さ」は残差変動によるものである。図3は、測定及びシミュレートされたベドリズマブ血清濃度の経時変化を図示する。この図では、1人の患者におけるベドリズマブ濃度は、投与の直後を除いて10μg/mlに達しなかった。もう1人の患者は、2度目の投与後、数日の間に10μg/ml超のベドリズマブを維持したが、1度目の投与ではしなかった。3人目の患者は、最初の投与後、数日の間に10μg/ml超のベドリズマブを維持した。
【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】


本発明は次の実施態様を含む。
[1]
移植片対宿主病(GvHD)を予防する方法であって、
同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を受けているヒト患者に、ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体を投与するステップを含み、
前記ヒト化抗体は前記患者に下記の投与レジメン:
a.前記ヒト化抗体を75mg、300mg、450mgまたは600mgの初期投与量でallo-HSCTの前日に点滴静注;
b.続いて前記ヒト化抗体の75mg、300mg、450mgまたは600mgの第2の投与を前記初期投与の約2週間後に点滴静注;
c.続いて前記ヒト化抗体の75mg、300mg、450mgまたは600mgの第3の投与を前記初期投与の約6週間後に点滴静注;
に従って投与され、
さらに、前記ヒト化抗体は、非ヒト由来の抗原結合領域及びヒト由来の抗体の少なくとも一部を含み、前記ヒト化抗体はα4β7複合体に対する結合特異性を有し、前記抗原結合領域は下記のCDR:
軽鎖: CDR1 配列番号7
CDR2 配列番号8及び
CDR3 配列番号9ならびに
重鎖: CDR1 配列番号4
CDR2 配列番号5及び
CDR3 配列番号6
を含む、前記方法。
[2]
前記投与計画がグレードII GvHD、グレードI GvHDまたはGvHDのない結果をもたらす、上記[1]に記載の方法。
[3]
前記予防が造血幹細胞輸注時に持続したα4β7遮断をもたらす、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]
タクロリムスが前記ヒト患者に共投与される、上記[1]、[2]、または[3]に記載の方法。
[5]
メトトレキサートが前記ヒト患者に共投与される、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記ヒト化抗体が前記患者に約30分にわたって投与される、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
前記ヒト化抗体が凍結乾燥製剤から再構成される、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
さらに前記ヒト化抗体が安定した液体製剤を含むように再構成される、上記[7]に記載の方法。
[9]
前記ヒト化抗体が配列番号1のアミノ酸20~140の重鎖可変領域配列を有する、上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
前記ヒト化抗体が配列番号2のアミノ酸20~131の軽鎖可変領域配列を有する、上記[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]
前記ヒト化抗体が配列番号1のアミノ酸20~470を含む重鎖及び配列番号2のアミノ酸20~238を含む軽鎖を有する、上記[9]または[10]に記載の方法。
[12]
前記ヒト化抗体がベドリズマブである、上記[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]
がんまたは非悪性血液疾患、免疫疾患あるいは自己免疫疾患を患っている患者を処置するための方法であって、
a.造血幹細胞移植患者の免疫系の前処置のステップと、
b.ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体の投与のステップと、
c.少なくとも12時間の待機のステップと、
d.同種造血幹細胞の投与のステップと、
e.13日の待機後、ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体の第2の投与のステップと、
f.4週間の待機後、ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体の第3の投与のステップと、
を含む、前記方法。
[14]
さらに、タクロリムスを前記患者へ投与することを含む、上記[13]に記載の方法。
[15]
さらに、メトトレキサートを前記患者へ投与することを含む、上記[13]または[14]に記載の方法。
[16]
前記免疫系の前記前処置が骨髄破壊的前処置または用量減量前処置である、上記[13]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17]
前記患者がステージ3、またはステージ4の腸管GvHDを含まない有害事象を有する、上記[13]~[16]のいずれかに記載の方法。
[18]
前記患者がグレード IIIまたはグレード IVのGvHDを含まない有害事象を有する、上記[13]~[16]のいずれかに記載の方法。
[19]
前記患者が白血病またはリンパ腫を有する、上記[13]~[16]のいずれかに記載の方法。
[20]
前記同種造血幹細胞が末梢血液からのものである、上記[13]~[16]のいずれかに記載の方法。
[21]
前記同種造血幹細胞がさらなる免疫抑制治療なしに生着する、上記[13]~[16]のいずれかに記載の方法。
[22]
前記ヒト化抗体が、非ヒト由来の抗原結合領域及びヒト由来の抗体の少なくとも一部を含み、前記ヒト化抗体はα4β7複合体に対する結合特異性を有し、前記抗原結合領域は下記のCDR:
軽鎖: CDR1 配列番号7
CDR2 配列番号8及び
CDR3 配列番号9ならびに
重鎖: CDR1 配列番号4
CDR2 配列番号5及び
CDR3 配列番号6
を含む、上記[13]~[16]のいずれかに記載の方法。
[23]
前記ヒト化抗体が凍結乾燥製剤から再構成される、上記[22]に記載の方法。
[24]
前記ヒト化抗体が配列番号1のアミノ酸20~140の重鎖可変領域配列を有する、上記[22]に記載の方法。
[25]
前記ヒト化抗体が配列番号2のアミノ酸20~131の軽鎖可変領域配列を有する、上記[22]に記載の方法。
[26]
前記ヒト化抗体が配列番号1のアミノ酸20~470を含む重鎖及び配列番号2のアミノ酸20~238を含む軽鎖を有する、上記[22]~[25]のいずれかに記載の方法。
[27]
前記ヒト化抗体がベドリズマブである、上記[22]~[26]のいずれかに記載の方法。
[28]
急性移植片対宿主病(GvHD)の発生を低減する方法であって、
同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を受けているヒト患者に、ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体を投与するステップを含み、
前記ヒト化抗体は前記患者に下記の投与レジメン:
a.前記ヒト化抗体を75mg、300mg、450mgまたは600mgの初期投与量でallo-HSCTの前日に点滴静注;
b.続いて前記ヒト化抗体の300mgの第2の投与を前記初期投与の約2週間後に点滴静注;
c.続いて前記ヒト化抗体の300mgの第3投与を前記初期投与の約6週間後に点滴静注;
に従って投与され、
前記ヒト化抗体は、非ヒト由来の抗原結合領域及びヒト由来の抗体の少なくとも一部を含み、前記ヒト化抗体は前記α4β7複合体に対する結合特異性を有し、前記抗原結合領域は下記のCDR:
軽鎖: CDR1 配列番号7
CDR2 配列番号8及び
CDR3 配列番号9ならびに
重鎖: CDR1 配列番号4
CDR2 配列番号5及び
CDR3 配列番号6
を含み、
それによってGvHDの発生を低減する、前記方法。
[29]
前記急性移植片対宿主病(GvHD)の発生の低減が、改変Glucksbergクライテリアによる、グレードIまたはグレードIIのGvHD、または他のスコアリングシステムによる類似の重症度GvHDまたはGvHDのない状態をもたらす、上記[28]に記載の方法。
[30]
前記急性GvHDの発生の低減が、メトトレキサート及びカルシニュリン阻害薬単独を用いた処置と比較して、100日目におけるグレードII-IVまたはグレードIII-IVの急性GVHDの累積罹患率及び重症度の50%の低減である、上記[28]に記載の方法。
[31]
前記急性急性移植片対宿主病(GvHD)の発生の低減が、メトトレキサート及びカルシニュリン阻害薬単独を用いた処置と比較した1年以内の死亡率の低減である、上記[28]に記載の方法。
[32]
がん患者における免疫反応を抑制する方法であって、
同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)を受けているヒト患者に、ヒトα4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化抗体を投与するステップを含み、
前記ヒト化抗体は前記患者に下記の投与レジメン:
a.前記ヒト化抗体を75mg、300mg、450mgまたは600mgの初期投与量でallo-HSCTの前日に点滴静注;
b.続いて前記ヒト化抗体の300mgの第2の投与を前記初期投与の約2週間後に点滴静注;
c.続いて前記ヒト化抗体の300mgの第3の投与を前記初期投与の約6週間後に点滴静注;
に従って投与され、
さらに、前記ヒト化抗体は、非ヒト由来の抗原結合領域及びヒト由来の抗体の少なくとも一部を含み、前記ヒト化抗体は前記α4β7複合体に対する結合特異性を有し、前記抗原結合領域は下記のCDR:
軽鎖: CDR1 配列番号7
CDR2 配列番号8及び
CDR3 配列番号9ならびに
重鎖: CDR1 配列番号4
CDR2 配列番号5及び
CDR3 配列番号6
を含む、前記方法。
[33]
移植患者を処置する方法であって、前記移植患者が同種造血細胞の輸注のレシピエントであり、抗α4β7アンタゴニストを投与することを含む、前記方法。
[34]
前記移植患者が骨髄破壊的前処置または用量減量前処置から選択される前処置治療の前記レシピエントである、上記[33]に記載の方法。
[35]
前記抗α4β7アンタゴニストが前記輸注の前に投与される、上記[33]または[34]に記載の方法。
[36]
前記抗α4β7アンタゴニストが前記輸注の前に反復投与で少なくとも一用量投与される、上記[33]または[34]に記載の方法。
[37]
前記抗α4β7アンタゴニストが前記輸注同日に反復投与で前記第1の用量で投与される、上記[33]または[34]に記載の方法。
[38]
前記抗α4β7アンタゴニストが前記輸注後の次の日に反復投与で前記第1の用量で投与される、上記[33]または[34]に記載の方法。
[39]
前記抗α4β7アンタゴニストが前記輸注の前日、当日、または次の日に単回用量で投与される、上記[33]または[34]に記載の方法。
[40]
抗α4β7アンタゴニストの用量が前処置と前記輸注の間で投与される、上記[35]または[36]に記載の方法。
[41]
前記移植患者ががんを患っている、上記[33]~[40]のいずれかに記載の方法。
[42]
前記がんが血液のがんである、上記[41]に記載の方法。
[43]
前記血液のがんが白血病、リンパ腫、骨髄腫または骨髄増殖性の腫瘍である、上記[42]に記載の方法。
[44]
前記白血病が急性リンパ芽球性白血病(ALL)または急性骨髄性白血病(AML)である、上記[43]に記載の方法。
[45]
前記移植患者が非悪性血液疾患または免疫疾患を患っている、上記[33]~[40]のいずれかに記載の方法。
[46]
前記非悪性血液疾患または免疫疾患が異常ヘモグロビン症、骨髄不全症候群、及び免疫疾患からなる群から選択される、上記[45]に記載の方法。
[47]
前記抗α4β7アンタゴニストが前記α4β7インテグリン複合体に対する結合特異性を有する抗α4β7抗体である、上記[33]~[46]のいずれかに記載の方法。
[48]
前記抗α4β7抗体がヒト化抗体であって、前記ヒト化抗体の前記抗原結合領域が下記のCDR:
軽鎖: CDR1 配列番号7
CDR2 配列番号8及び
CDR3 配列番号9ならびに
重鎖: CDR1 配列番号4
CDR2 配列番号5及び
CDR3 配列番号6
を含む、上記[46]に記載の方法。
[49]
前記ヒト化抗体が凍結乾燥製剤から再構成される、上記[48]に記載の前記方法。
[50]
前記ヒト化抗体が静脈内に投与される、上記[47]または[48]に記載の方法。
[51]
前記ヒト化抗体が配列番号1のアミノ酸20~140の重鎖可変領域配列を有する、上記[48]~[50]のいずれかに記載の方法。
[52]
前記ヒト化抗体が配列番号2のアミノ酸20~131の軽鎖可変領域配列を有する、上記[48]~[51]のいずれかに記載の方法。
[53]
前記ヒト化抗体が配列番号1のアミノ酸20~470を含む重鎖及び配列番号2のアミノ酸20~238を含む軽鎖を有する、上記[51]または[52]に記載の方法。
[54]
前記ヒト化抗体がベドリズマブである、上記[48]~[53]のいずれかに記載の方法。
[55]
さらに、タクロリムス、タクロリムス及びメトトレキサートまたはメトトレキサートを使用して前記移植患者を処置することを含む、上記[33]~[54]のいずれかに記載の方法。
[56]
さらに、好中球数を測定することによって前記allo-HSCの生着を検出することを含む、上記[33]~[55]のいずれかに記載の方法。
[57]
さらに、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン17(IL-17)、腫瘍形成抑制因子2(ST2)、CD8+細胞、CD38+細胞、CD8+brightエフェクターメモリーT細胞、及びCD4+メモリーT細胞からなる群から選択されるバイオマーカーを測定することを含み、前記バイオマーカー量は前記輸注後の前または1週間以内に測定され、また前記輸注後20~100日の時点で測定された前記バイオマーカーが変化しない、上記[56]に記載の方法。
[58]
前記患者がステージ3またはステージ4の腸管GvHDを含まない有害事象を有する、上記[33]~[57]のいずれかに記載の方法。
[59]
前記同種造血細胞が同種造血幹細胞である、上記[33]~[58]のいずれかに記載の方法。
[60]
前記同種造血細胞が同種白血球細胞である、上記[33]~[58]のいずれかに記載の方法。
[61]
前記同種白血球細胞がTリンパ球である、上記[60]に記載の方法。
【外国語明細書】