(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163103
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】金属担持炭化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/30 20060101AFI20221018BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20221018BHJP
C01B 32/00 20170101ALN20221018BHJP
【FI】
B01J20/30
B01J20/20 D ZAB
C01B32/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121316
(22)【出願日】2022-07-29
(62)【分割の表示】P 2018154829の分割
【原出願日】2018-08-21
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】袋 昭太
(72)【発明者】
【氏名】倉澤 響
(57)【要約】
【課題】多様な金属を効率的に炭化物に担持させることのできる製造方法を提供すること。
【解決手段】金属担持炭化物の製造方法は、1金属化合物が第1有機溶媒に溶解した金属化合物溶液を炭化物に染みこませ、前記金属化合物溶液が染みこんだ前記炭化物から前記第1有機溶媒を気化させて、前記炭化物に前記第1金属化合物を担持させ、前記金属化合物溶液から気化した前記第1有機溶媒を回収し、前記金属化合物溶液から回収された前記第1有機溶媒を、第2金属化合物の溶解に再利用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属化合物が第1有機溶媒に溶解した金属化合物溶液を炭化物に染みこませ、
前記金属化合物溶液が染みこんだ前記炭化物から前記第1有機溶媒を気化させて、前記炭化物に前記第1金属化合物を担持させ、
前記金属化合物溶液から気化した前記第1有機溶媒を回収し、
前記金属化合物溶液から回収された前記第1有機溶媒を、第2金属化合物の溶解に再利用する金属担持炭化物の製造方法。
【請求項2】
前記金属化合物溶液から気化した前記第1有機溶媒を液化して回収する、請求項1に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項3】
前記炭化物を密閉可能な処理槽において、前記炭化物を前記金属化合物溶液に浸漬させた状態で、前記処理槽内を減圧することによって、前記金属化合物溶液を前記炭化物に染みこませる、請求項1に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項4】
前記炭化物を前記金属化合物溶液に浸漬させた状態で、前記処理槽内を減圧した後に、前記処理槽内の温度における前記第1有機溶媒の蒸気圧よりも高い圧力まで前記処理槽内の圧力を上げる、請求項3に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項5】
前記金属化合物溶液が染みこんだ前記炭化物が気相中に配置された状態で、前記処理槽内を減圧することによって、前記炭化物から前記第1有機溶媒を気化させる、請求項3又は4に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項6】
前記炭化物を前記金属化合物溶液に浸漬させた状態における前記処理槽内の減圧、及び前記金属化合物溶液が染みこんだ前記炭化物が気相中に配置された状態における前記処理槽内の減圧は、同じ処理槽で行われる、請求項5に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項7】
前記処理槽は、第1処理槽及び第2処理槽を含み、
前記第1処理槽において、前記炭化物を前記金属化合物溶液に浸漬させた状態における減圧が行われているときに、前記第2処理槽において、前記金属化合物溶液が染みこんだ前記炭化物が気相中に配置された状態における減圧が行われ、
前記第1処理槽において、前記金属化合物溶液が染みこんだ前記炭化物が気相中に配置された状態における減圧が行われているときに、前記第2処理槽において、前記炭化物を前記金属化合物溶液に浸漬させた状態における減圧が行われる、請求項5に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項8】
前記金属化合物溶液から回収された前記第1有機溶媒を、前記第2金属化合物の溶解に代えて、前記炭化物の中に担持された前記第1金属化合物の水酸化物化に用いられるアルカリの溶解に再利用する、請求項1乃至7のいずれか一に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項9】
第1アルカリが第2有機溶媒に溶解したアルカリ溶液を、前記第1有機溶媒が気化した前記炭化物に染みこませて、前記炭化物の孔の中の前記第1金属化合物の水酸化物を生成し、
前記アルカリ溶液が染みこんだ前記炭化物から前記第2有機溶媒を気化させ、
前記アルカリ溶液から気化した前記第2有機溶媒を回収し、
前記アルカリ溶液から回収された前記第2有機溶媒を、第2アルカリ又は前記第2金属化合物の溶解に再利用する、請求項1乃至7のいずれか一に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項10】
第1金属化合物が第1有機溶媒に溶解した金属化合物溶液を炭化物に染みこませ、
第1アルカリが第2有機溶媒に溶解したアルカリ溶液を、前記第1金属化合物を含む前記炭化物に染みこませて、前記炭化物の孔の中の前記第1金属化合物の水酸化物を生成し、
前記アルカリ溶液が染みこんだ前記炭化物から前記第2有機溶媒を気化させて、前記炭化物に前記水酸化物を担持させ、
前記アルカリ溶液から気化した前記第2有機溶媒を回収し、
前記アルカリ溶液から回収された前記第2有機溶媒を、第2金属化合物又は第2アルカリの溶解に用いる金属担持炭化物の製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ溶液から気化した前記第2有機溶媒を液化して回収する、請求項10に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項12】
前記炭化物を密閉可能な処理槽において、前記アルカリ溶液が染みこんだ前記炭化物が気相中に配置された状態で、前記処理槽内を減圧することによって、前記炭化物から前記第2有機溶媒を気化させる、請求項10に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項13】
前記第1有機溶媒は、大気圧かつ40℃以下で液化する、請求項1乃至12のいずれか一に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項14】
前記第1有機溶媒は、30℃における蒸気圧が50mmHg以上である、請求項1乃至13のいずれか一に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項15】
前記第2有機溶媒は、大気圧かつ40℃以下で液化する、請求項9乃至12のいずれか一に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項16】
前記第2有機溶媒は、30℃における蒸気圧が50mmHg以上である、請求項9乃至12及び15のいずれか一に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項17】
前記金属化合物溶液から気化して回収された気体状の前記第1有機溶媒を貯留し、
前記気体状の前記第1有機溶媒を、前記金属担持炭化物の製造工程に再利用する、請求項1乃至16のいずれか一に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項18】
前記アルカリ溶液から気化して回収された気体状の前記第2有機溶媒を貯留し、
前記気体状の前記第2有機溶媒を、前記金属担持炭化物の製造工程に再利用する、請求項9乃至12、15及び16のいずれか一に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項19】
前記第1金属化合物は、鉄化合物である、請求項1乃至18のいずれか一に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項20】
前記金属化合物溶液は、塩化物溶液又は硝酸化物溶液であり、
前記塩化物溶液又は前記硝酸化物溶液が染みこんだ前記炭化物から前記第1有機溶媒を気化させて前記炭化物を乾燥し、
乾燥した前記炭化物の孔の中の前記第1金属化合物の塩化物又は硝酸化物を還元する、請求項1乃至19のいずれか一に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項21】
前記第2有機溶媒が気化した前記炭化物を乾燥し、
前記第1金属化合物の水酸化物を還元する、請求項9乃至12、15、16及び18のいずれか一に記載の金属担持炭化物の製造方法。
【請求項22】
第1金属化合物を第1有機溶媒に溶解して金属化合物溶液を生成する溶液生成装置と、
前記溶液生成装置に接続され、前記金属化合物溶液が染みこんだ炭化物から前記第1有機溶媒を気化する乾燥装置と、
前記乾燥装置に接続され、気化した前記第1有機溶媒を回収して前記溶液生成装置に供給する回収装置と、を備える炭化物製造装置。
【請求項23】
前記乾燥装置は、前記炭化物が前記金属化合物溶液に浸漬した状態で、前記炭化物を密閉可能な処理槽内の圧力を調整する調圧機構を有する、請求項21に記載の炭化物製造装置。
【請求項24】
前記回収装置、前記溶液生成装置、及び前記乾燥装置に接続され、前記回収装置によって回収された気体状の前記第1有機溶媒を貯留し、貯留された前記気体状の前記第1有機溶媒を前記溶液生成装置及び前記乾燥装置に供給するガス貯留装置をさらに備える、請求項21又は22に記載の炭化物製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属担持炭化物の製造方法及び炭化物製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の二酸化炭素の量を削減するために、二酸化炭素を人為的に回収し地中に貯留する技術が知られている。例えば、樹木や農作物等のバイオマスを利用して大気中の二酸化炭素を吸収させ、当該二酸化炭素を有機炭素として固定することができる。しかし、これらのバイオマスは有機物であることから、そのまま地中に貯留しても、腐敗や分解が起きるだけで、大気中に二酸化炭素を再放出することになる。一方、バイオマスは、酸素を遮断した状態で加熱すると、酸素原子や水素原子が脱離し、炭素分と灰分からなる炭化物を生成することができる。この炭化物は炭素の塊であることから、酸素の存在下において、高温で加熱しないかぎり燃焼されない。つまり、炭化物は環境中(地中)では非常に安定であり、ほとんど分解されることはない。
【0003】
これらの炭化物を、例えば建設材料などの産業分野の製品と置き換えることにより、二酸化炭素を社会生活環境下に固定することができ、さらに地中に埋設することで地中に隔離貯留することができる。つまり、炭化物の利用促進を図ることは、大気中の二酸化炭素の削減に繋がる。
【0004】
また、炭化物は土壌の土質を改善する効果を有する。しかしながら、炭化物の製造にかかるコストを考慮すると、単に炭化物を土壌の土質改善のためだけに利用することは、その製造コストに見合わない。
【0005】
他方、炭化物は多孔質であるため、表面積が非常に大きいことが知られている。この表面積の大きさを利用して、炭化物は多様な物質の吸着材として用いられている。例えば、特許文献1では、カルシウムを担持した炭化物を用いたリン回収材が記載されている。このようなリン回収材を用いてリンを吸着させることで、リンが自然水域に排出されることによる水質汚染を抑制することができる。さらに、リンを吸着したリン回収材を農地に埋めると、農作物が根から放出する有機酸により当該リン回収材に吸着したリンが溶解される。すなわち、このリンは農作物の肥料として機能するため、リン回収材が埋められた農地の収量を向上させる、又は良質な農作物を成長させることができる。
【0006】
このように、単に土壌の土質改善のためだけではなく、例えば、ある有害物質を吸着させることで、環境汚染を抑制することができる炭化物、又は、その有害物質を他の用途に適用することができる炭化物の需要が増加してきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のリン回収材では、籾殻又は珪藻土等のようにケイ素を多く含む材料を用いる必要がある。ケイ素を多く含む材料を用いる場合、リン回収材の製造量に限界がある。また、リンなどの物質を吸着することができる許容量に限界がある。つまり、浄化材としての機能は材料由来の物性に制限されている。
【0009】
また、ゼロ価の鉄などの金属にはリンやヒ素などを吸着する効果があることが知られているが、炭化物に金属を直接充填しようとしても、炭化物のマクロ孔、メソ孔、ミクロ孔の孔径が小さいため、そのままでは炭化物の内部に十分に金属を充填することができない。金属化合物の溶液をこれらの孔に充填することは可能だが、担持後には溶媒を乾燥させる必要がある。この金属化合物溶液の溶媒として水を使用した場合は、気化のためのエネルギーが大きいため、金属化合物を担持する炭化物を製造するために多くの電力または燃料及び時間を要する。一方、上記溶媒として有機溶媒を使用した場合は、気化しやすいが、水よりも高い薬剤費や、作業員が気化した有機溶媒に暴露することによる健康への悪影響や、排ガス対策等でコストが嵩む。
【0010】
さらに、炭化物は前述の通り、様々なサイズの細孔を多く含むため、湿度を調整する効果が知られている。床下調湿材として使われてはいるが、炭化物の成分は炭素化した炭素が主成分であることや、空隙を多く含むために、壁材等の建設材料として利用するには、脆くて使用することができないといった課題がある。炭化物の強度をあげることができれば、建設材料を含めたあらゆる用途に炭化物を活用でき、ひいては二酸化炭素を固定することができる。
【0011】
つまり、炭化物の細孔を生かし、表面に効率的に金属を担持させる手法や、炭化物の細孔を金属充填し、強度を高めた新たな金属複合炭化物が求められている。いずれの方法も、金属化合物を炭化物に効率的に充填する方法や、充填量をコントロールする方法が求められている。
【0012】
本発明の一実施形態は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、多様な金属を効率的に炭化物に担持させることのできる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態にかかる金属担持炭化物の製造方法は、第1金属化合物が第1有機溶媒に溶解した金属化合物溶液を炭化物に染みこませ、前記金属化合物溶液が染みこんだ前記炭化物から前記第1有機溶媒を気化させて、前記炭化物に前記第1金属化合物を担持させ、前記金属化合物溶液から気化した前記第1有機溶媒を回収し、前記金属化合物溶液から回収された前記第1有機溶媒を、第2金属化合物の溶解に再利用する。
【0014】
前記金属化合物溶液から気化した前記第1有機溶媒を液化して回収してもよい。
【0015】
前記炭化物を密閉可能な処理槽において、前記炭化物を前記金属化合物溶液に浸漬させた状態で、前記処理槽内を減圧することによって、前記金属化合物溶液を前記炭化物に染みこませてもよい。
【0016】
前記炭化物を前記金属化合物溶液に浸漬させた状態で、前記処理槽内を減圧した後に、前記処理槽内の温度における前記第1有機溶媒の蒸気圧よりも高い圧力まで前記処理槽内の圧力を上げてもよい。
【0017】
前記金属化合物溶液が染みこんだ前記炭化物が気相中に配置された状態で、前記処理槽内を減圧することによって、前記炭化物から前記第1有機溶媒を気化させてもよい。
【0018】
前記炭化物を前記金属化合物溶液に浸漬させた状態における前記処理槽内の減圧、及び前記金属化合物溶液が染みこんだ前記炭化物が気相中に配置された状態における前記処理槽内の減圧は、同じ処理槽で行われてもよい。
【0019】
前記処理槽は、第1処理槽及び第2処理槽を含み、前記第1処理槽において、前記炭化物を前記金属化合物溶液に浸漬させた状態における減圧が行われているときに、前記第2処理槽において、前記金属化合物溶液が染みこんだ前記炭化物が気相中に配置された状態における減圧が行われ、前記第1処理槽において、前記金属化合物溶液が染みこんだ前記炭化物が気相中に配置された状態における減圧が行われているときに、前記第2処理槽において、前記炭化物を前記金属化合物溶液に浸漬させた状態における減圧が行われてもよい。
【0020】
前記金属化合物溶液から回収された前記第1有機溶媒を、前記第2金属化合物の溶解に代えて、前記炭化物の中に担持された前記第1金属化合物の水酸化物化に用いられるアルカリの溶解に再利用してもよい。
【0021】
第1アルカリが第2有機溶媒に溶解したアルカリ溶液を、前記第1有機溶媒が気化した前記炭化物に染みこませて、前記炭化物の孔の中の前記第1金属化合物の水酸化物を生成し、前記アルカリ溶液が染みこんだ前記炭化物から前記第2有機溶媒を気化させ、前記アルカリ溶液から気化した前記第2有機溶媒を回収し、前記アルカリ溶液から回収された前記第2有機溶媒を、第2アルカリ又は前記第2金属化合物の溶解に再利用してもよい。
【0022】
本発明の一実施形態にかかる金属担持炭化物の製造方法は、第1金属化合物が第1有機溶媒に溶解した金属化合物溶液を炭化物に染みこませ、第1アルカリが第2有機溶媒に溶解したアルカリ溶液を、前記第1金属化合物を含む前記炭化物に染みこませて、前記炭化物の孔の中の前記第1金属化合物の水酸化物を生成し、前記アルカリ溶液が染みこんだ前記炭化物から前記第2有機溶媒を気化させて、前記炭化物に前記水酸化物を担持させ、前記アルカリ溶液から気化した前記第2有機溶媒を回収し、前記アルカリ溶液から回収された前記第2有機溶媒を、第2金属化合物又は第2アルカリの溶解に用いる。
【0023】
前記アルカリ溶液から気化した前記第2有機溶媒を液化して回収してもよい。
【0024】
前記炭化物を密閉可能な処理槽において、前記アルカリ溶液が染みこんだ前記炭化物が気相中に配置された状態で、前記処理槽内を減圧することによって、前記炭化物から前記第2有機溶媒を気化させてもよい。
【0025】
前記第1有機溶媒は、大気圧かつ40℃以下で液化してもよい。
【0026】
前記第1有機溶媒は、30℃における蒸気圧が50mmHg以上であってもよい。
【0027】
前記第2有機溶媒は、大気圧かつ40℃以下で液化してもよい。
【0028】
前記第2有機溶媒は、30℃における蒸気圧が50mmHg以上であってもよい。
【0029】
前記溶液から気化して回収された気体状の前記第1有機溶媒を貯留し、前記気体状の前記第1有機溶媒を、前記金属担持炭化物の製造工程に用いてもよい。
【0030】
前記アルカリ溶液から気化して回収された気体状の前記第2有機溶媒を貯留し、前記気体状の前記第2有機溶媒を、前記金属担持炭化物の製造工程に再利用してもよい。
【0031】
前記第1金属化合物は、鉄化合物であってもよい。
【0032】
前記金属化合物溶液は、塩化物溶液又は硝酸化物溶液であり、前記塩化物溶液又は前記硝酸化物溶液が染みこんだ前記炭化物から前記第1有機溶媒を気化させて前記炭化物を乾燥し、乾燥した前記炭化物の孔の中の前記第1金属化合物の塩化物又は硝酸化物を還元してもよい。
【0033】
前記第2有機溶媒が気化した前記炭化物を乾燥し、前記第1金属化合物の水酸化物を還元してもよい。
【0034】
本発明の一実施形態にかかる炭化物製造装置は、第1金属化合物を第1有機溶媒に溶解して金属化合物溶液を生成する溶液生成装置と、前記溶液生成装置に接続され、前記金属化合物溶液が染みこんだ炭化物から前記第1有機溶媒を気化する乾燥装置と、前記乾燥装置に接続され、気化した前記第1有機溶媒を回収して前記溶液生成装置に供給する回収装置と、を備える。
【0035】
前記乾燥装置は、前記炭化物が前記金属化合物溶液に浸漬した状態で、前記炭化物を密閉可能な処理槽内の圧力を調整する調圧機構を有してもよい。
【0036】
前記回収装置、前記溶液生成装置、及び前記乾燥装置に接続され、前記回収装置によって回収された気体状の前記第1有機溶媒を貯留し、貯留された前記気体状の前記第1有機溶媒を前記溶液生成装置及び前記乾燥装置に供給するガス貯留装置をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明の一実施形態によれば、多様な金属を効率的に炭化物に担持させることのできる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法における有機溶媒の再利用方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置の構成を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置における溶液生成装置の構成を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置における減圧浸透乾燥装置の構成を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置における減圧浸透乾燥装置の構成を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置における減圧浸透乾燥装置の昇降機構を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置における有機溶媒回収装置の構成を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置におけるガス貯留装置の構成を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物に用いられる炭化物の孔形状を示す断面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法を示す図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法を示す図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法を示す図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置における還元炉の構成を示す図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置における減圧浸透乾燥装置の構成を示す図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法における有機溶媒の再利用方法を示すフローチャートである。
【
図17】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置の構成を示す図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法を示すフローチャートである。
【
図19】本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法を示すフローチャートである。
【
図20】本発明の一実施例において用いられる溶媒の蒸気圧曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態における金属担持炭化物及びその製造方法について説明する。但し、本発明の一実施形態における金属担持炭化物及びその製造方法は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す例の記載内容に限定して解釈されない。なお、本実施の形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号又は同一の符号の後にアルファベットを付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0040】
以下の実施形態では、金属担持炭化物として、例えばゼロ価の鉄のように金属を担持する炭化物や、塩化鉄又は水酸化鉄のように金属化合物を担持する炭化物を例示するが、炭化物が担持する材料は上記の材料に限定されない。金属炭化物は鉄以外の金属を担持していてもよく、鉄以外の金属化合物を担持していてもよい。担持する対象物が金属の場合であっても、金属化合物の場合であっても、炭化物が金属を含む対象物を担持するため、上記のような炭化物を金属担持炭化物という。金属担持炭化物に用いられる多孔質材として、木材が炭化した炭化物について例示するが、この構成に限定されない。例えば、炭化物は木材以外の有機物が炭化したものであってもよい。また、多孔質材は、炭化物以外の多孔質な部材であってもよい。また、特に技術的な矛盾が生じない限り、異なる実施形態間の技術を組み合わせることができる。
【0041】
〈第1実施形態〉
[金属担持炭化物10の製造方法]
図1及び
図2を用いて、第1実施形態に係る金属担持炭化物10及びその製造方法について説明する。本実施形態において、金属担持炭化物10(
図2参照)に用いられる炭化物100の孔の中に金属化合物を導入する方法として、金属化合物121(
図2参照)を含む金属化合物溶液120(
図2参照)を炭化物100の孔の中に染みこませる方法が用いられる。この金属化合物溶液120の溶媒として有機溶媒123、125(
図2参照)が用いられ、炭化物100の孔の中に染みこんだ金属化合物溶液120を乾燥する際に気化した有機溶媒(有機溶媒ガス127(
図2参照))が金属化合物溶液120を生成するための有機溶媒として再利用される構成について説明する。
【0042】
図1は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法における有機溶媒の再利用方法を示すフローチャートである。
図2は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置の構成を示す図である。
図2に示す金属担持炭化物の製造装置300は、溶液生成装置310、有機溶媒補充タンク320、減圧浸透乾燥装置330、有機溶媒回収装置340、ガス貯留装置350、及び活性炭吸着塔360を有する。以下に、製造装置300を用いた金属担持炭化物10の製造方法について説明する。
【0043】
図1に示すように、まずステップS11で、金属化合物121を有機溶媒123、125に溶解することで金属化合物溶液120を生成する。
図2に示すように、金属化合物溶液120の生成は、溶液生成装置310で行われる。溶液生成装置310は、有機溶媒補充タンク320、減圧浸透乾燥装置330、有機溶媒回収装置340、及びガス貯留装置350に接続されている。有機溶媒補充タンク320から、未使用の有機溶媒123が溶液生成装置310に供給される。同様に、有機溶媒回収装置340から、金属化合物溶液120から回収された有機溶媒ガス127が液化された、液体状の有機溶媒125(再生された有機溶媒125)が溶液生成装置310に供給される。
【0044】
溶液生成装置310には、後述する金属化合物投入口3101(
図3参照)が設けられており、そこから金属化合物121が溶液生成装置310に投入される。上記のような構成によって、溶液生成装置310内で、金属化合物121が未使用の有機溶媒123及び再生された有機溶媒125に溶解される。ここで、未使用な有機溶媒123とは、減圧浸透乾燥装置330で使用された金属化合物溶液120から回収され、再生された有機溶媒125を除く有機溶媒であり、まだ製造装置300内で金属化合物121が溶解していない有機溶媒である。
【0045】
本実施形態では、金属化合物溶液120として、鉄を有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。具体的には、金属化合物溶液120として、無機鉄又は無機鉄化合物が溶解された塩化第1鉄溶液(FeCl2)、塩化第2鉄溶液(FeCl3)、硝酸第1鉄溶液(Fe(NO3)2)、又は硝酸第2鉄溶液(Fe(NO3)3)が用いられる。又は、金属化合物溶液120として、有機鉄化合物としてたんぱく質と結合したヘム鉄が溶解された溶液も使用できる。ヘム鉄が含まれる動物の血液などの廃棄物を利用してもよい。これらの溶液を特に区別しない場合、単に鉄溶液という場合がある。なお、金属化合物溶液120は上記の鉄溶液に限定されず、上記以外の鉄を含む溶液であってもよい。
【0046】
金属化合物溶液120に用いられる有機溶媒は、水よりも蒸気圧が高く、常温で液体であり、溶質である金属化合物を溶かすことができる溶媒であれば特に指定はない。例えば、当該有機溶媒として、30℃における蒸気圧が50mmHg以上であるものを用いることができる。例えば、金属化合物溶液120の溶媒として、エタノール、メタノール、アセトン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸メチル、ジクロルメタン、イソプロピルアルコール、ノルマルヘキサン、ベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、トリクロルエチレン、メチルエチエルケトン、二硫化炭素、テトラヒドロフラン、トリクロルエタンなどの有機溶媒を用いることができる。例えば、塩化鉄や硝酸鉄を金属化合物として用いる場合は、これらの金属化合物が可溶なエタノール及びメタノールなどのアルコール、アセトン、並びにジエチルエーテルなどを有機溶媒として用いることができる。
【0047】
また、金属化合物溶液120から回収された気体状の有機溶媒ガス127が、ガス貯留装置350から溶液生成装置310及び減圧浸透乾燥装置330に供給される。このような構成によって、溶液生成装置310内及び減圧浸透乾燥装置330内の雰囲気は有機溶媒ガス127で満たされる。
【0048】
金属化合物溶液120における金属化合物121の濃度は、有機溶媒123、125への溶解度よりも低く、1wt%(重量パーセント濃度)以上とすることができる。より具体的には、金属化合物121として塩化鉄又は硝酸鉄が用いられ、有機溶媒123、125としてメタノール、エタノール、アセトン、又はヘキサンが用いられた場合、金属化合物溶液120に含まれる金属化合物121の重量パーセント濃度を、1wt%以上50wt%以下、5wt%以上35wt%以下、又は10wt%以上30wt%以下とすることができる。
【0049】
溶液生成装置310で生成された金属化合物溶液120は減圧浸透乾燥装置330に供給される。そして、
図1のステップS13で、減圧浸透乾燥装置330内において金属化合物溶液120(第1金属化合物)を炭化物100に染みこませる。詳細は後述するが、炭化物100を金属化合物溶液120に浸漬し、その状態でこれらが配置された処理槽内を調圧することで、炭化物100の孔の中に金属化合物溶液120を染みこませる。つまり、減圧浸透乾燥装置330は金属化合物溶液120が配置された処理槽内の圧力を調整する調圧機構を有している。ステップS13によって、金属化合物溶液120を介して炭化物100の孔の中に金属化合物121を導入する。
【0050】
続いて、
図1のステップS15で、金属化合物溶液120が染みこんだ炭化物100から有機溶媒123、125を気化させる。詳細は後述するが、上記炭化物100が配置された処理槽内を減圧することで、有機溶媒123、125を気化させる。この気化は、炭化物100が気相中に配置された状態で行われる。ステップS15によって、金属化合物溶液120中の金属化合物121を、炭化物100の孔の内壁に析出させる。つまり、ステップS15によって、炭化物100に金属化合物121を担持させる。このようにして、金属担持炭化物10を形成する。
【0051】
減圧浸透乾燥装置330で気化された有機溶媒ガス127は、有機溶媒回収装置340に送られる。つまり、
図1のステップS17で、金属化合物溶液120から気化した有機溶媒ガス127を回収する。ステップS17で回収された有機溶媒ガス127は、一部が冷却又は加圧されて液化し、液体状の有機溶媒125(再生された有機溶媒125)として溶液生成装置310に供給される。例えば、有機溶媒ガス127は、大気圧下で40℃以下に冷却されることで液化することができる。ステップS17で回収され、液化されなかった有機溶媒ガス127は、気体状のままガス貯留装置350に送られる。再生された有機溶媒125は、溶液生成装置310内で、他の金属化合物121(第2金属化合物)を溶解する溶媒として用いられる。つまり、ステップS17で回収された有機溶媒の一部は、金属化合物121を溶解する有機溶媒125として再利用される(
図1のステップS19)。なお、
図1及び
図2の例では、再生された有機溶媒を、金属化合物121を溶解する溶媒として再利用された構成を例示したが、この構成に限定されず、再生された有機溶媒が他の用途で用いられてもよい。例えば、再生された有機溶媒が、後述するアルカリの溶解に用いられてもよい。
【0052】
有機溶媒回収装置340によって回収された有機溶媒ガス127のうち、液化されなかった有機溶媒ガス127は、ガス貯留装置350に送られる。ガス貯留装置350は、回収された有機溶媒ガス127を貯留し、必要に応じて貯留した有機溶媒ガス127を溶液生成装置310及び減圧浸透乾燥装置330に供給する。つまり、ステップS17で回収された有機溶媒の一部は、気体状の有機溶媒ガス127として金属担持炭化物10の製造工程に再利用される。
【0053】
ガス貯留装置350に送られた有機溶媒ガス127のうち、ガス貯留装置350の所定量を超える余剰ガスは、活性炭吸着塔360に送られる。この余剰ガスのうち、環境に対して有害な成分は活性炭吸着塔360の活性炭に吸着され、無害な成分だけが大気に放出される。この余剰ガスは、ガス貯留装置350から活性炭吸着塔360に送られてもよく、有機溶媒回収装置340から活性炭吸着塔360に送られてもよい。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る金属担持炭化物10の製造方法によると、金属担持炭化物10を製造しつつ、その製造に用いられた金属化合物溶液120の有機溶媒の一部を再利用することで、有機溶媒が製造装置300の外に排出される量を低減することができる。このため、金属担持炭化物10の製造における環境負荷を低減することができ、有機溶媒の無害化に用いられる活性炭の寿命を長くすることができる。また、有機溶媒の使用量を低減することができるため、金属担持炭化物10の製造コストを下げることができる。
【0055】
また、金属化合物溶液120の溶媒として、有機溶媒を用いることで、金属化合物溶液120を炭化物100に染みこませた後に有機溶媒を乾燥させるために必要なエネルギーを小さくすることができるため、金属担持炭化物10の製造に必要な燃料もしくは電力の低減及び時間の短縮を実現することができる。
【0056】
[製造装置300に含まれる各装置構成]
図3~
図8を用いて、上記の製造装置300に含まれる各装置構成について説明する。
【0057】
[溶液生成装置310の構成]
図3は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置における溶液生成装置の構成を示す図である。
図3に示すように、溶液生成装置310は、容器部3103、蓋部3105、及び攪拌機3107を有する。容器部3103には有機溶媒123、125が貯められている。有機溶媒123、125が貯められた空間は、容器部3103及び蓋部3105によって密閉されている。容器部3103及び蓋部3105は、有機溶媒123、125によって変質しない部材が用いられる。例えば、これらの部材として、例えばステンレスなどの金属製又は硬質プラスチックなどの樹脂製の材料を用いることができる。
【0058】
容器部3103には、未使用有機溶媒供給ライン3111、再生有機溶媒供給ライン3113、及びドレンライン3115が設けられている。未使用有機溶媒供給ライン3111はポンプ3121を介して有機溶媒補充タンク320に接続されている。ポンプ3121が駆動することで、有機溶媒補充タンク320に格納されていた未使用の有機溶媒123が容器部3103に供給される。再生有機溶媒供給ライン3113はポンプ3123を介して有機溶媒回収装置340に接続されている。ポンプ3123が駆動することで、有機溶媒回収装置340に格納されていた再生された有機溶媒125が容器部3103に供給され、金属化合物投入口3101から投入された金属化合物121を溶解することで、金属化合物溶液120が生成される。なお、有機溶媒を容器3103に送り出す際に、容器部3103内のガスがポンプ3121、3123に逆流することを抑制するために、ポンプ3121、3123のそれぞれの出口側に逆流防止弁が設けられていてもよい。
【0059】
ドレンライン3115は、送液ライン3131、排液ライン3133、及び予備ライン3135に、それぞれバルブ30132、3234、3136を介して接続されている。送液ライン3131は減圧浸透乾燥装置330に接続されている。溶液生成装置310及び減圧浸透乾燥装置330はともに密閉されているため、バルブ3132が開いた状態で減圧浸透乾燥装置330内が溶液生成装置310内に対して陰圧になると、その圧力差によって溶液生成装置310内の金属化合物溶液120が減圧浸透乾燥装置330に送られる。したがって、溶液生成装置310と減圧浸透乾燥装置330との間にポンプを設けなくてもよい。ただし、これらの間に金属化合物溶液120を送るためのポンプを設けてもよい。
【0060】
送液ライン3131に空気などの気体が混入すると、上記の圧力差によって金属化合物溶液120を送ることができなくなる場合がある。このような場合、バルブ3136を介して空気を抜く、又はバルブ3136を介して有機溶媒123、125又は金属化合物溶液120を供給し、空気を排除することで、上記の不具合を解消することができる。溶液生成装置310から金属化合物溶液120を排出する場合は、バルブ3134を開けることで、金属化合物溶液120を排液ライン3133に流すことができる。
【0061】
蓋部3105には、上述した金属化合物投入口3101及びガス導入口3141が設けられている。金属化合物投入口3101は、開閉可能な構造を有しており、金属化合物121を投入するとき以外は、容器部3103及び蓋部3105によって囲まれた空間を密閉する。ガス導入口3141は、ガス供給ライン3143及び空気供給ライン3145に、それぞれバルブ3144、3146を介して接続されている。ガス供給ライン3143はガス貯留装置350に接続されている。
【0062】
上記のように、溶液生成装置310は密閉されているため、溶液生成装置310内の金属化合物溶液120が減圧浸透乾燥装置330に送られると、金属化合物溶液120の液面が低下しただけ溶液生成装置310内が減圧され、減圧浸透乾燥装置330と溶液生成装置310との間の圧力差が小さくなってしまう。当該圧力差が小さくなると、金属化合物溶液120を減圧浸透乾燥装置330に送る力が小さくなってしまう。このような不具合を抑制するために、ガス導入口3141を介して溶液生成装置310内に有機溶媒ガス127又は空気を導入する。バルブ3144が開いた状態で溶液生成装置310内が減圧されると、溶液生成装置310とガス貯留装置350との間の圧力差によって、有機溶媒ガス127が溶液生成装置310内に供給される。ここで、溶液生成装置310に供給される有機溶媒ガス127の容積は、減圧浸透乾燥装置330に送られた金属化合物溶液120の容積と同じである。また、有機溶媒補充タンク320及び有機溶媒回収装置340から溶液生成装置310に有機溶媒123、125を補充する場合、補充された溶媒の容積分のガスをガス貯留装置350に流してもよい。なお、有機溶媒ガスが十分に供給可能な場合は、空気供給ライン3145及びバルブ3146を省略してもよい。
【0063】
攪拌機3107は、動力源3151、動力源3151によって回転する回転軸3153、及び回転軸3153に取り付けられたフィン3155を備える。このフィン3155が回転軸3153を中心に回転することで、容器部3103に貯まった金属化合物121及び有機溶媒123、125を攪拌し、金属化合物121の有機溶媒123、125への溶解を促進する。
【0064】
[減圧浸透乾燥装置330の構成]
図4及び
図5は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置における減圧浸透乾燥装置の構成を示す図である。
図4では、炭化物100が入ったケース500が金属化合物溶液120に浸漬された状態を示す。
図5では、ケース500が金属化合物溶液120の液面上に持ち上げられた状態を示す。ケース500は、その内部空間を囲む形状であり、当該内部空間に炭化物100が格納された状態で金属化合物溶液120に沈められている。つまり、ケース500は、炭化物100が浮き上がって金属化合物溶液120の液面より上に出ることを抑制し(
図4参照)、ケース500を減圧浸透乾燥装置330から取り出す際に金属化合物溶液120を下に落としながら炭化物100を持ち上げることができる(
図5参照)。なお、ケース500は支持部材510によって支持されており、支持部材510の昇降に伴ってケース500が昇降する。
【0065】
ケース500には、金属化合物溶液120が通過可能な大きさ、かつ、炭化物100が通過できない大きさの開口が設けられている。当該開口のサイズは、例えば0.05mm以上50mm以下、0.2mm以上20mm以下、又は0.5mm以上10mm以下である。ケース500として、例えばステンレスなどの金属製又は硬質プラスチックなどの樹脂製の網状の籠を用いることができる。なお、ここではケース500が炭化物100の上下左右を囲んだ構成を例示したが、この構成に限定されない。例えば、ケース500は、炭化物100が上方に浮き上がることを抑制するように炭化物100の上方を覆い、ケース500を減圧浸透乾燥装置330から取り出す際に炭化物100を持ち上げることができるように、炭化物100の下方に設けられた形状であればよい。
【0066】
図4に示すように、減圧浸透乾燥装置330は、容器部3301及び蓋部3303を有し、これらによって炭化物100を密閉することができる。容器部3301及び蓋部3303を併せて処理槽という場合がある。減圧浸透乾燥装置330として、金属化合物溶液120によって変質せず、減圧に耐えられる部材が用いられる。減圧浸透乾燥装置330として、例えばステンレスなどの金属製又は硬質プラスチックなどの樹脂製の材料を用いることができる。容器部3301は、金属化合物溶液120を貯めることが可能な形状を有する。蓋部3303は、容器部3301の上部に脱着可能に設けられる。容器部3301にはドレンライン3311が設けられている。ドレンライン3311は、バルブ3313を介して排液ライン3315に接続されている。減圧浸透乾燥装置330から金属化合物溶液120を排出する場合は、バルブ3313を開けることで、金属化合物溶液120を排液ライン3315に流すことができる。なお、容器部3301の形状は、有底の四角柱状であってもよく、有底の多角柱状であってもよく、有底の円柱状であってもよい。
【0067】
蓋部3303には、給液ライン3321が設けられている。給液ライン3321は、バルブ3323及び逆止弁3325を介して、溶液生成装置310に接続された送液ライン3131に接続されている。逆止弁3325は、送液ライン3131から給液ライン3321に向かう方向のみに金属化合物溶液120を流し、その逆方向の流れを規制する。バルブ3323は、液面計3327に接続されており、液面計3327の液面計測結果に応じて開閉を制御する。
図4の例では、液面計3327としてボールタップが用いられているが、この構成に限定されない。液面計3327は、後述する
図5のように炭化物100が入ったケース500が液面上に持ち上げられた状態における液面の高さを計測する。そのため、
図4では、液面計3327が液中に沈んでいる。
【0068】
蓋部3303には、上記の給液ライン3321以外に、ガス導入口3331及び排気口3333が設けられている。ガス導入口3331は、ガス供給ライン3335及び空気供給ライン3337に、それぞれバルブ3336、3338を介して接続されている。ガス供給ライン3335はガス貯留装置350に接続されている。排気口3333は、バルブ3332及び真空ポンプ3334を介して有機溶媒回収装置340に接続されている。また、蓋部3303には真空圧力計3340が接続されている。真空圧力計3340は、減圧浸透乾燥装置330内の圧力を測定することができる。なお、有機溶媒ガスが十分に供給可能な場合は、空気供給ライン3337及びバルブ3338を省略してもよい。なお、真空ポンプ3334の代わりにアスピレータが用いられてもよい。
【0069】
バルブ3336、3338を閉じた状態、かつ、バルブ3332を開いた状態で真空ポンプ3334を動作させることで、減圧浸透乾燥装置330の中が減圧される。バルブ3332を閉じた状態、かつ、バルブ3336を開いた状態にすることで、ガス貯留装置350から有機溶媒ガスが供給され、減圧浸透乾燥装置330の中を所定の圧力よりも高い圧力にすることができる。例えば、減圧浸透乾燥装置330の中を大気圧まで戻すことができる。
【0070】
図4のように、炭化物100を金属化合物溶液120に浸漬した状態で、これらが配置された処理槽内を減圧し、その後所定の圧力よりも高い圧力にすることで、金属化合物溶液120を炭化物100の孔の中に染みこませることができる。具体的には、減圧後に、上記処理槽内の温度における有機溶媒123、125の蒸気圧よりも高い圧力まで、上記処理槽内の圧力を上げることで、金属化合物溶液120を炭化物100の孔の中に染みこませる。このとき、金属化合物溶液120の液面は液面計3327に対して十分に高い位置にあるため、バルブ3323は閉じた状態である。したがって、この状態で減圧浸透乾燥装置330内が減圧されても給液ライン3321から新たな金属化合物溶液120は供給されない。
【0071】
一方、
図5のように、孔の中に金属化合物溶液120が染みこんだ炭化物100を液面上に持ち上げた状態(つまり、気相中)で、炭化物100が置かれた処理槽内を減圧することで、炭化物100の表面及び孔の中に存在する金属化合物溶液120の有機溶媒123、125を気化することができる。つまり、上記の減圧によって炭化物100の乾燥を行うことができる。このとき、金属化合物溶液120の液面は液面計3327よりも低い位置にあり、液面の高さによってバルブ3323の開閉を制御する。液面が低下し、バルブ3323が開いた状態で、減圧浸透乾燥装置330内が減圧されると、減圧浸透乾燥装置330と溶液生成装置310との間の圧力差が生じ、溶液生成装置310から減圧浸透乾燥装置330に金属化合物溶液120が供給される。
【0072】
ケース500を減圧浸透乾燥装置330から取り出すときは、蓋部3303を開けて、炭化物100ごとケース500を取り出す。
【0073】
なお、本実施形態では、炭化物100に金属化合物溶液120を染みこませるための減圧と、金属化合物溶液120が染みこんだ炭化物100を乾燥させるための減圧とを同じ処理槽で行う製造方法を例示したが、これらの減圧を異なる処理槽で行ってもよい。
【0074】
図6は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置における減圧浸透乾燥装置の昇降機構を示す図である。
図4及び
図5に示す支持部材510は、
図6に示す昇降機構590の一部である。昇降機構590は、支持部材510、昇降レール520、ワイヤ530、及び巻き取り部540を有する。支持部材510は昇降レール520に沿って移動する。支持部材510にはワイヤ530が接続されており、ワイヤ530が上方に引っ張られることで、支持部材510が上方に持ち上げられる。ワイヤ530は、巻き取り部540によって巻き取られることで上方に引っ張られる。巻き取り部540はワイヤ530を手動で巻き取ってもよく、自動で巻き取ってもよい。
図6では、支持部材510を上方から引っ張り上げる構成を例示したが、支持部材510を下方から持ち上げる、いわゆるリフトアップ型の構成であってもよい。
【0075】
[有機溶媒回収装置340の構成]
図7は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置における有機溶媒回収装置の構成を示す図である。
図7に示すように、有機溶媒回収装置340は、液化機構3400、3410、及び貯留タンク3420を有する。液化機構3400は減圧浸透乾燥装置330の排気口3333に接続されている。なお、
図7では、バルブ3332、真空ポンプ3334、及び液化機構3400には減圧浸透乾燥装置330で気化した有機溶媒ガス127が供給される。有機溶媒ガス127は、真空ポンプ3334によって有機溶媒回収装置340に送られるため、有機溶媒回収装置340(特に、液化機構3400)の内部は大気圧又は大気圧よりも高圧の加圧状態である。この有機溶媒回収装置340の圧力によって、有機溶媒ガス127の一部は液化する。また、有機溶媒ガス127の他の一部は、下記の液化機構によって液化する。
【0076】
液化機構3400は、容器部3401、冷却機構3403、排出口3405、及び排気口3407を有している。容器部3401は、密閉された空間を構成する。容器部3401の密閉された空間に減圧浸透乾燥装置330で気化された有機溶媒ガス127が供給される。有機溶媒ガス127は、容器部3401内で冷却機構3403によって冷やされて液化する。液化した有機溶媒125は、容器部3401の下方に設けられた排出口3405を介して貯留タンク3420に貯まる。液化機構3400によって液化しなかった有機溶媒ガス127は、排気口3407を介して、液化機構3400に隣接する液化機構3410に送られ、そこで液化される。液化機構3410の構成は、上記の液化機構3400と同様なので、説明は省略する。なお、冷却機構3403は、配管内に冷却水が流れることで、その周囲を冷却する。ただし、この構成に限定されず、容器部3401内に冷風を送ることで冷却を行ってもよく、容器部3401自体を冷却してもよい。
【0077】
液化機構3410でも液化しなかった有機溶媒ガス127は、排気口3409から排出されて、バルブ3411を介してガス貯留装置350に送られる、又はバルブ3413を介して活性炭吸着塔360に送られる。活性炭吸着塔360に送られた有機溶媒ガス127は、環境に対して有害な成分が活性炭吸着塔360の活性炭に吸着され、無害な成分だけが排気口3601を介して大気に放出される。
【0078】
貯留タンク3420にはドレンライン3421が設けられている。ドレンライン3421はポンプ3423を介して溶液生成装置310に接続されている。ポンプ3423によって貯留タンク3420の有機溶媒125は溶液生成装置310に送られ、金属化合物121を溶解する有機溶媒として再利用される。また、液化しなかった有機溶媒ガス127もガス貯留装置350に送られて再利用される。
【0079】
図7では、液化機構が2つ接続された構成を例示したが、この構成に限定されない。液化機構は1つであってもよく、3つ以上接続されていてもよい。液化機構が1つの場合は、排気口3407がガス貯留装置350又は活性炭吸着塔360に送られる。
【0080】
[ガス貯留装置350の構成]
図8は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置におけるガス貯留装置の構成を示す図である。
図8に示すように、ガス貯留装置350は、バルーンのような膜式のガスホルダである。ガス貯留装置350は、有機溶媒回収装置340から流入する有機溶媒ガス127によって膨らみ、溶液生成装置310及び減圧浸透乾燥装置330の内部が減圧され、有機溶媒ガス127がガス貯留装置350からこれらの装置に引き抜かれることで縮む。ガス貯留装置350には、給気口3501、再利用ガス供給口3503、低圧逃がし弁3509、及び安全弁3507、3517が設けられている。
【0081】
給気口3501は、逆止弁3511及びバルブ3513を介して有機溶媒回収装置340に接続されている。逆止弁3511は、有機溶媒回収装置340からガス貯留装置350に向かう方向のみに有機溶媒ガス127を流し、その逆方向の流れを規制する。給気口3501のラインには真空圧力計3515が設けられている。圧力計3515はガス貯留装置350内の圧力を反映する。圧力計3515が所定の値に達した場合に、ガス貯留装置350の破裂を防ぐために、安全弁3517が開く。
【0082】
安全弁3507は、ガス貯留装置350の内部から外部に抜けるライン上に設けられている。安全弁3507は、ガス貯留装置350の破裂を防ぐために、ガス貯留装置350内の圧力が所定の値に達した場合に開く。低圧逃がし弁3509は、ガス貯留装置350と活性炭吸着塔360との間のライン上に設けられている。低圧逃がし弁3509は、ガス貯留装置350内の圧力が管理圧力(例えば0.1kPa以上5kPa以下の範囲で適宜設定される圧力値)を超した場合に開き、有機溶媒ガス127を活性炭吸着塔360に送る。
【0083】
ガス貯留装置350の膜の素材として、貯留対象となる有機溶媒ガス127によって変質しない材料が用いられる。例えば、ガス貯留装置350の膜の素材として、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ乳酸等、ロジン、及び天然ゴムを用いることができる。また、ガス貯留装置350の膜として、これらの膜を複数重ねた積層膜構造を用いることができる。
【0084】
[金属担持炭化物10の製造方法]
図9~
図14を用いて、第1実施形態に係る金属担持炭化物10及びその製造方法について説明する。本実施形態において、金属担持炭化物10に用いられる炭化物100として、有機物が炭化された炭化物が用いられ、
図1~
図8で説明した各装置を用いて、この炭化物100から金属担持炭化物10を生成する方法について説明する。
【0085】
図9は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法を示すフローチャートである。
図10は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物に用いられる炭化物の孔形状を示す断面図である。
図11~
図13は、それぞれ本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法を示す図である。
図14は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置における還元炉の構成を示す図である。
【0086】
本実施形態では、炭化物100を形成するための有機物として木材が用いられる。有機物の炭化は、大気雰囲気に比べて酸素比が小さい雰囲気での熱処理によって行われる。なお、炭化物100として、木材以外の有機物が炭化されたものが用いられてもよい。また、金属化合物溶液120に溶解する金属化合物121として鉄が用いられる。鉄は金属化合物溶液120中で鉄イオン110として存在し、有機溶媒が気化することで析出して鉄化合物111となる。
【0087】
炭化炉には主に二種類あり、炭化に必要な熱を外部から供給する炭化炉を外熱式と呼び、材料から熱を確保するものを内燃式と呼ぶ。外熱式は酸素を遮断して炭化し、内燃式は炭化に必要な最低限の熱量を確保するために必要な燃焼のための酸素を供給する。つまり、基本的には低酸素または無酸素条件下、高温で加熱するプロセスを炭化と呼ぶ。有機物を低酸素または無酸素条件下で加熱すると、昇温途中(例えば、約280℃)で有機物中の組成分解が始まり、有機物内の酸素、水素が、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、炭化水素などのガスとして揮発し、炭素分の多い無定形炭素に変化していく。さらに高温で加熱し続けることで、有機物内の酸素、水素がさらに減少し、純度の高い固定炭素及び灰分から構成される炭化物を形成する。このような変化により、有機物は炭化物に変わる。有機物内の水分や構成成分が揮発性ガス等として脱離し、一定量の炭素が残存するため、有機物の炭化によって形成される炭化物には多数かつ大小様々な連続多孔が形成されることになる。炭化温度の上昇に伴い炭素化が進行して形成される炭化物は、耐熱性(耐火性)、吸着性、導電性の性質を有するようになる。有機物の炭化によって形成された炭化物100は多孔質材の一例である。この場合、炭化物100は導電性を有している。
【0088】
ここで、
図10を用いて、炭化物100の孔形状について説明する。
図10に示すように、炭化物100は、マクロ孔200、メソ孔210、及びミクロ孔220を有する。マクロ孔200は、炭化物100の表面に繋がる孔である。炭化物100の内部において、マクロ孔200が細分化されてメソ孔210が形成されており、メソ孔210が細分化されてミクロ孔220が形成されている。マクロ孔200のサイズは、おおよそ50nm~40μmである。メソ孔210のサイズは、おおよそ2nm~50nmである。ミクロ孔220のサイズは、おおよそ0.5nm~2nm以下である。
【0089】
図9に示すように、ステップS21で、炭化物100を金属化合物溶液120に浸漬する。このときの状態を
図11に示す。
図11に示すように、金属化合物溶液120が炭化物100に供給されると、金属化合物溶液120が炭化物100の孔(マクロ孔200、メソ孔210、及びミクロ孔220(
図10参照))に染みこむ。これに伴い、金属化合物溶液120中の鉄イオン110も炭化物100の孔に侵入する。つまり、炭化物100を金属化合物溶液120に浸漬することで、鉄イオン110を炭化物100の孔の中に染みこませる。
【0090】
ここで、メソ孔210及びミクロ孔220は、マクロ孔200に比べてサイズが非常に小さく、その先端が炭化物100の内部で行き止まりになっている。このため、金属化合物溶液120が炭化物100の孔の中に染みこんだときに、例えばミクロ孔220の先端に気泡130が生じてしまう場合がある。
図11の例では、ミクロ孔220の先端にだけ気泡130が発生した状態を例示したが、気泡130はメソ孔210まで広がっている場合もあり、マクロ孔200まで広がっている場合もある。気泡130が存在する領域には金属化合物溶液120が染みこむことができないため、この領域に鉄イオン110を供給することができない。
【0091】
このような現象を解消するために、
図9のステップS23において、炭化物100が金属化合物溶液120に浸漬した状態で、これらが配置された処理槽内を減圧する。このときの状態を
図12に示す。
図12に示すように、炭化物100に金属化合物溶液120が供給された状態で、これらが配置された処理槽内を減圧すると、
図11に示すようなミクロ孔220の先端に存在していた気泡130が孔の外に拡散される。
図12に示すように気泡130が孔の外に拡散されると、
図11で気泡130が存在していた位置に金属化合物溶液120が侵入することができるため、気泡130が存在していた領域(この例では、ミクロ孔220)に鉄イオン110を供給することができる。なお、ステップS23の工程は、
図4に示す状態で減圧浸透乾燥装置330内を減圧することで行われる。
【0092】
また、この減圧によって、金属化合物溶液120に含まれる有機溶媒123、125が上記の孔の中で気化する。気化した有機溶媒(有機溶媒ガス127)は、上記気泡130を押し退け、孔の中の気泡130を孔の外に拡散させる。有機溶媒ガス127は気泡130とともに孔の外に拡散するが、一部の有機溶媒ガス127は孔の中に留まる。ただし、孔の中に留まった有機溶媒ガス127も、後の工程(ステップS25)で雰囲気の圧力がその温度における有機溶媒123、125の蒸気圧よりも高い圧力になると、有機溶媒ガス127は液化して、有機溶媒ガス127が存在していた領域に金属化合物溶液120が侵入する。
【0093】
なお、上記のように孔の内部に気泡130が生じない場合、又は孔の内部に気泡130が生じる場合であっても、その気泡130の存在が金属担持炭化物10の特性に悪影響を及ぼさない程度であれば、このステップS23及び次のステップS25は省略してもよい。
【0094】
ステップS25で、ステップS23で減圧された雰囲気の圧力を、その雰囲気の温度における有機溶媒123、125の蒸気圧よりも高い圧力にする。圧力を蒸気圧よりも高い圧力とする際に、ガス貯留装置350から供給される有機溶媒ガス127が減圧浸透乾燥装置330内に供給されることで、圧力が調整される。ステップS25によって、有機溶媒ガス127が存在していた領域に金属化合物溶液120が侵入する。ステップS23、S25の工程を併せて脱気という場合がある。脱気によって、気泡130が存在していた領域にも鉄イオン110が入り込む。
【0095】
この状態で炭化物100を金属化合物溶液120から取り出し、ステップS27で金属化合物溶液120を染みこませた炭化物100の乾燥を行う。この乾燥によって金属化合物溶液120に含まれる有機溶媒123、125を気化する。ステップS27の乾燥は、
図5に示す状態で減圧浸透乾燥装置330内を減圧することで行われる。このとき、減圧浸透乾燥装置330内の温度を上げることで、有機溶媒123、125の気化を促進してもよい。
【0096】
ステップS27の乾燥における減圧時間は、炭化物100のサイズ、減圧浸透乾燥装置330の容量、有機溶媒123、125の蒸気圧、及び真空度によって異なるが、おおよそ1分以上10時間以下、10分以上3時間以下、又は20分以上1時間以下とすることができる。また、ステップS27の乾燥における圧力は、有機溶媒123、125の蒸気圧よりも低ければよい。例えば、有機溶媒123、125としてメタノールが用いられ、減圧浸透乾燥装置330内の温度が20℃以上の場合、減圧時の圧力は13kPaよりも低ければよい。つまり、通常大気圧をゼロとした所定のゲージ圧で-0.101MPa以上-0.088MPa以下とすることができる。
【0097】
金属化合物溶液120に浸漬した後に炭化物100を乾燥した状態を
図13に示す。
図13に示すように、金属化合物溶液120に含まれる有機溶媒123、125を除去することで、鉄イオン110が析出し、鉄化合物111が形成される。そして、この鉄化合物111が、炭化物100の孔の中及びその表面に付着する。つまり、この状態において、金属担持炭化物10は鉄化合物を担持している。具体的には、鉄化合物111はマクロ孔200、メソ孔210、及びミクロ孔220のうち少なくともいずれか一の孔の内壁に付着する。なお、
図13では、鉄化合物111がこれら全ての孔の内壁に付着している。ステップS21~S25において、金属化合物溶液120をメソ孔210及びミクロ孔220にも供給することができるため、ステップS27で鉄化合物111をこれらの孔の内壁に付着させることができる。
【0098】
図9のステップS29で、炭化物100の孔の中及びその表面に付着した鉄化合物111の還元処理が行われる。言い換えると、鉄化合物111は、マクロ孔200、メソ孔210、及びミクロ孔220のうち少なくともいずれか一の孔の内壁に付着した状態で還元される。還元処理は、例えば
図14に示す還元装置170によって、還元ガス雰囲気での熱処理によって行われる。この還元処理によって、二価もしくは三価の鉄化合物111が還元され、ゼロ価の鉄になる。つまり、ステップS29で、金属担持炭化物10が担持する対象物が鉄化合物からゼロ価の鉄に変化する。このようにして、本実施形態に係る金属担持炭化物10が製造される。金属担持炭化物10に含まれるゼロ価の鉄が、リンやヒ素などを吸着する。また、鉄化合物111を孔の中に充填することで、金属担持炭化物10の機械的強度を向上させることができるが、ゼロ価の鉄は水や有機溶媒に不溶なので、鉄化合物111をゼロ価の鉄に変えることで、より安定した機械的強度の向上を得ることができる。機械的強度が向上することで、金属担持炭化物10を建設材料などの、高い強度が要求される材料として利用することができる。
【0099】
なお、本実施形態で用いられる有機物として、生立木(広葉樹、針葉樹、竹などの間伐材、林地廃材を含む)、製材工場又は木材加工工場の廃材(鋸屑、樹皮屑、チップ屑、端切材を含む)、植物性の殻、建築解体材又は家具材の木質系廃材を用いることができる。ステップS21で用いられる炭化物は、例えば木炭又は竹炭である。木炭は、白炭、黒炭、オガ炭、ヤシ殻炭、モミ殻炭、粉炭を含んでもよい。
【0100】
また、本実施形態で用いられる有機物の炭化温度は、400℃以上1200℃以下、500℃以上1100℃以下、600℃以上1000℃以下、又は700℃以上900℃以下である。有機物の炭化雰囲気は、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気、無酸素雰囲気、還元雰囲気、又は減圧雰囲気である。有機物の炭化を減圧雰囲気で行う場合、100Pa以上105Pa以下の低真空状態、0.1Pa以上100Pa以下の中真空状態、10-5Pa以上0.1Pa以下の高真空状態、又は10-5Pa以下の超高真空状態で行うことができる。有機物の炭化時間は10分以上10日以下、10分以上5時間以下である。また、有機物の炭化を低酸素雰囲気で行う場合、酸素濃度は0.01%以上3%以下、又は0.1%以上1%以下で行うことができる。有機物の炭化は、内燃式もしくは外熱式で、バッチ式の開放型や密閉型の炭窯炉、連続式のロータリーキルンや揺動式炭化炉、スクリュー炉、加熱チャンバ、蓋がされた耐熱容器(坩堝)を用いて行うことができる。
【0101】
本実施形態では、有機物を炭化することで炭化物100を得る方法を例示したが、炭化物100として市販されたものを用いてもよい。
【0102】
本実施形態で用いられる金属化合物溶液120に含まれる鉄の質量パーセント濃度は1wt%以上50wt%以下、5wt%以上35wt%以下、又は10wt%以上30wt%以下である。
【0103】
ステップS21で炭化物100が金属化合物溶液120に浸漬する時間は、ゲージ圧に達してから1秒以上1時間以下、10秒以上10分以下、又は30秒以上5分以下である。炭化物100を金属化合物溶液120に浸漬後、減圧する場合、用いられる有機溶媒123、125の蒸気圧によって異なるが、おおよそゲージ圧で-0.101MPa以上-0.020MPa以下、-0.101MPa以上-0.040MPa以下、又は-0.101MPa以上-0.080MPa以下とすることができる。
【0104】
金属化合物溶液120に、鉄イオン110の分散を促進する分散剤を追加してもよい。当該分散剤として、例えば界面活性剤を用いることができる。界面活性剤として、陰イオン(アニオン)界面活性剤、陽イオン(カチオン)界面活性剤、両性(双性)界面活性剤、非イオン(ノニオン)界面活性剤、及び高分子界面活性剤を用いることができる。陰イオン界面活性剤として、脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、及びアルキルベンゼンスルホン酸塩を用いることができる。陽イオン界面活性剤として、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩クロリド、アルキルピリジウムクロリド、及びアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩を用いることができる。両性界面活性剤として、アルキルジメチルアミンオキシド及びアルキルカルボキシベタインを用いることができる。非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、オクチルフェノールエトキシレート、及びアルキルモノグリセリルエーテルを用いることができる。高分子界面活性剤として、ポリアクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリビニルアルコール、及びポリエチレンイミンを用いることができる。分散剤の濃度は0.01%以上20%以下、または0.01%以上1%以下である。なお、炭化物は高温で炭化しないと疎水性(非親水性)を有するため、水が内部に入りにくい。このため、金属化合物溶液120に界面活性剤を含ませることにより、金属化合物溶液120を炭化物100の内部に浸透しやすくさせることができる。
【0105】
ステップS21において、炭化物100を金属化合物溶液120に浸漬する前に、炭化物100に上記の界面活性剤を供給してもいい。界面活性剤の供給は、炭化物100の上面に塗布することで行われてもよく、界面活性剤を含む溶液に炭化物100を浸漬することで行われてもよい。また、ステップS23、S25と同様に、界面活性剤を炭化物100に供給した状態で脱気を行ってもよい。
【0106】
また、炭化物100は金属化合物溶液120に浸漬しなくてもよい。例えば、炭化物100の表面に金属化合物溶液120を塗布することで、金属化合物溶液120を炭化物100の孔の中に染みこませてもよい。
【0107】
ステップS23、S25において、より効率的に気泡130を孔の外に拡散させるために、脱気の際に振動を与えてもよい。この振動は超音波振動であってもよい。また、脱気の際に炭化物100を加熱してもよい。また、脱気の際に、炭化物100を金属化合物溶液120中で傾ける又は回転させてもよい。脱気の際の圧力は、通常大気圧をゼロとしたゲージ圧で-0.101MPa以上-0.030Mpa以下で、脱気時間は10秒以上1時間以下、または30秒以上10分以下である。
【0108】
炭化物100の孔(マクロ孔200、メソ孔210、ミクロ孔220)に存在する空気によって、炭化物100の多くは液面に浮いてしまう。このような状態であっても、減圧することで、上記の孔に存在する空気を炭化物100の外に引き出し、金属化合物溶液120の外に排出することができる。これにより、炭化物100の孔において、気泡130が存在していた領域に、鉄イオン110を含む金属化合物溶液120を充填させることができる。
【0109】
なお、上記のように減圧すると、炭化物100内の気泡130が大きくなり、炭化物100の浮力が上昇し、炭化物100が液面上に浮いてしまう場合がある。この現象を抑制するために、金属化合物溶液120を入れた容器に、炭化物100よりも小さな網目状の浮上防止板を設置してもよい。炭化物100が液面上まで浮上してしまうと、液面上における気泡130と金属化合物溶液120との置換効率が悪くなり、また有機溶媒の蒸気圧よりも高い圧力にする際に、金属化合物溶液120ではなく空気が炭化物100内に入ってしまう可能性がある。しかし、上記のようにケース500の中に炭化物100を配置することで、このような現象を抑制することができる。また、減圧浸透乾燥装置330内に有機溶媒ガス127を供給しておくことで、仮に上記のように炭化物100が液面上まで浮上した状態で減圧状態から有機溶媒の蒸気圧よりも高い圧力にしたとしても、炭化物100の孔の中に有機溶媒ガス127を入れることができる。
【0110】
上記のステップS21~S27の工程は、複数回繰り返し行われてもよい。また、ステップS23及びS25の工程が、複数回繰り返し行われてもよい。また、上記の乾燥及び還元を同一工程で行ってもよい。上記の工程を複数回繰り返すことで、炭化物100に付着する鉄化合物111の量を増やすことができる。これによって、金属担持炭化物10の機械的強度を向上させることができる。
【0111】
ステップS29における鉄化合物111の還元温度は、少なくとも500℃以上であればよい。還元温度の範囲は、例えば500℃以上1200℃以下、500℃以上1000℃以下、500℃以上900℃以下、又は700℃以上900℃以下である。鉄化合物111の還元処理に用いられる還元ガスは、一酸化炭素ガス、水素ガス、硫化水素ガス、二酸化硫黄ガス又は炭化水素ガスである。また、一酸化炭素と水素を混ぜるなど、還元ガスを混合しても構わない。さらに還元ガスは爆発性や可燃性の観点から取り扱いが難しいガスも多いため、これらを不活性ガスで希釈しても構わない。例えば、一酸化炭素濃度を1%~20%になるように、窒素ガスで希釈することができる(つまり、窒素の濃度が99%~80%である)。還元時間は1分以上10時間以下、10分以上2時間以下である。当該還元は、バッチ式、連続式のどちらでも構わなく、加熱と還元ガス(不活性ガスとの混合でも構わない)の導入ができる構造であれば、管状炉、箱型炉を適宜用いることができる。還元性ガスとして一酸化炭素ガスを用いる場合、還元温度は、少なくとも500℃以上であればよい。この場合の還元温度の範囲は、例えば500℃以上1200℃以下、500℃以上1000℃以下、500℃以上900℃以下、又は700℃以上900℃以下とすることができる。また、還元性ガスとして水素ガスが用いられる場合、還元温度は、少なくとも100℃以上であればよい。この場合の還元温度の範囲は、例えば100℃以上1200℃以下、100℃以上900℃以下、又は700℃以上900℃以下とすることができる。
【0112】
なお、鉄化合物111を還元する際に、還元ガスに加えて、二酸化炭素ガス、酸素ガス、水蒸気を加え、賦活することで、還元と同時に炭化物100に微細な孔を増やす(活性炭化する)ことができる。炭化物100を活性炭化することで、炭化物100の表面積をより大きくすることができる。
【0113】
図9のステップS29で用いられる還元装置170として、例えば
図14に模式的に示した連続炉型の構造を採用することができる。ここに示した還元装置170は、還元炉172、還元炉172を加熱するためのヒータ180、及び例えば炭化装置から供給される乾留ガスを還元炉172に導入するための第1のガス供給管182を備える。第1のガス供給管182には、還元性ガスの流量を制御するためのバルブ184が設けられる。
【0114】
還元炉172には、金属担持炭化物10を投入するためのロータリーバルブ176やホッパー174を設けてもよい。還元炉172の底部には、還元処理された金属担持炭化物10を取り出すためのロータリーバルブ178を設けることができる。二つのロータリーバルブ176、178を設けることで、還元炉172内部に導入される乾留ガスの漏洩を抑制することができ、安全に鉄化合物111の還元を行うことができる。また、これらを設置することで、連続的に金属担持炭化物10を還元炉172に投入し、還元処理された金属担持炭化物10を取り出すことができる。なお、還元炉172の底部は傾斜を有しいてもよく(
図14の点線参照)、この構造により、金属担持炭化物10を還元炉172の底部に集めることができる。還元炉172にはさらにガス捕集管194が設けられ、金属担持炭化物10と反応した乾留ガス、あるいは過剰の乾留ガスなどがガス捕集管194を介して回収される。
【0115】
還元装置170はさらに、炭化装置で生成した還元性ガス以外の還元性ガスを供給するための第2のガス供給管186を有してもよい。第2のガス供給管186には還元性ガス源が接続される。還元性ガス源から供給される還元性ガスの流量はバルブ188によって制御される。これにより、例えば炭化装置で生成する還元性ガスの量が不足する場合、あるいは炭化装置が駆動していないときでも、還元装置170内に十分な還元性ガスを供給して金属担持炭化物10に対して還元処理を行うことができる。還元性ガス源から供給される還元性ガスは、水素や一酸化炭素、アルカンの単体でも良く、これらの混合物でも良い。あるいは還元性ガスに窒素やアルゴンなどの不活性ガスが混合されていてもよい。
【0116】
還元装置170はさらに、還元炉172内の雰囲気(ガス)を置換するためのガス置換装置と連結される第3のガス供給管190を備えてもよい。乾留ガスには水素やアルカンなどの可燃性ガスや一酸化炭素などの有毒ガスが含まれるため、還元後にガス置換装置から第3のガス供給管190を介して、少なくとも空気、窒素、および希ガス(ヘリウム、アルゴンなど)の不活性ガスのいずれかを供給することで、未反応の乾留ガスを還元炉172から排出することができる。第3のガス供給管190には、窒素やアルゴンなどの不活性ガス源を接続してもよい。第3のガス供給管190は、外気を導入するためのファンやコンプレッサーに接続されてもよい。さらに、第1のガス供給管182、第2のガス供給管186、第3のガス供給管190をそれぞれ独立に還元炉172に接続せずに、一本の供給管として還元炉172に接続しても構わない。この場合、還元炉の外部でこれらのガス供給管を接続し、バルブの切り替えによってこれらのガスの供給を制御してもよい。
【0117】
上記の還元装置170は一例に過ぎず、その他の構成の還元装置が用いられてもよい。
図14の還元装置170は連続炉型の装置であるが、複数の金属担持炭化物10をまとめて還元処理を行うバッチ式の装置であってもよい。
【0118】
炭化物の内部に鉄化合物を形成する場合は、炭化する前の乾燥した有機物を、当該鉄化合物が溶解した溶液中に浸漬し、乾燥した後に、炭化を行うことがあるが、上記のマクロ孔200は、木の仮道管孔に起因する孔であるため、マクロ孔200の内壁には還元されたゼロ価の鉄結晶が析出すると考えられる。また、生木等の乾燥前の生の有機物を、当該鉄化合物を溶解した溶液中に浸漬した場合、拡散浸透により、有機物の内部にまで鉄化合物を浸漬することができるが、炭化後の炭化物の孔表面にゼロ価の鉄結晶が十分に析出していない可能性がある。
【0119】
それに対して、本実施形態では、炭化物100にメソ孔210及びミクロ孔220が形成された後に、金属化合物溶液120を炭化物100の孔の中に染みこませ、乾燥させるため、鉄化合物111をこれらの孔の内壁に付着させることができ、還元後には、これらの孔の内壁にゼロ価の鉄結晶を形成することができる。
【0120】
また、有機物を炭化する熱処理で、炭化の際に発生する一酸化炭素や水素を利用して上記の鉄化合物の還元を行う場合、炭化の条件と還元処理の条件とを個別に制御することができない。例えば、鉄化合物の還元に必要な還元性ガスの量を調整することが難しい。
【0121】
それに対して、本実施形態では、還元を炭化とは別の熱処理で行うため、還元に適した条件を適宜選択することができる。例えば、炭化と還元処理とを異なる装置で行うことができる。又は、炭化温度と還元温度とを異なる温度や時間で処理することができる。又は、炭化と還元処理とを異なる雰囲気で行うことができる。
【0122】
なお、本実施形態では、有機物を炭化した炭化物100を用いて金属担持炭化物10を形成する構成を例示したが、炭化物100の代わりに、炭化物以外の多孔質材料を用いてもよい。また、有機物として木材を炭化することで炭化物100を得る構成を例示したが、木材以外の有機物を炭化してもよい。
【0123】
炭化物100は導電性が高いため、炭化物100とその孔の中に付着したゼロ価の鉄の結晶粒子との間で電子交換が速やかに行われる。したがって、ゼロ価の鉄の結晶粒子を含む炭化物100を水中に入れると、多孔質体表面でゼロ価の金属鉄が速やかにイオン化し、オキシ水酸化鉄(FeOOH)などの水酸化物を生成し、水中に存在するリン酸イオンと反応し、リン酸鉄を形成して炭化物100に吸着固定することができる。したがって、炭化物100の代わりに炭化物以外の多孔質材料を用いる場合、当該多孔質材料として導電性を有する材料を用いることで、効率よくリンやその他の物質を吸着することができる。
【0124】
〈第2実施形態〉
[減圧浸透乾燥装置330Aの構成]
図15を用いて、第2実施形態に係る減圧浸透乾燥装置330Aの構成について説明する。減圧浸透乾燥装置330Aの構成は、
図4及び
図5に示す減圧浸透乾燥装置330と類似しているが、
図15の構成では、二つの減圧浸透乾燥装置(第1減圧浸透乾燥装置330B及び第2減圧浸透乾燥装置330C)が接続されており、これらの装置間で金属化合物溶液120BCが循環する点において、
図4及び
図5に示す減圧浸透乾燥装置330とは相違する。以下の
図15の説明において、
図4及び
図5と共通する部分については説明を省略し、主に相違点について説明する。以下の説明において、減圧浸透乾燥装置330Aの構成の中で、減圧浸透乾燥装置330と同様の構成については、減圧浸透乾燥装置330で用いられる符号と同一の符号の後にアルファベットを付し、その説明は省略する。
【0125】
図15に示すように、減圧浸透乾燥装置330Aは第1減圧浸透乾燥装置330B及び第2減圧浸透乾燥装置330Cを有する。第1減圧浸透乾燥装置330B及び第2減圧浸透乾燥装置330Cは、それぞれ
図4及び
図5に示す減圧浸透乾燥装置330と同様の構成であるが、他の装置との接続関係が異なっている。
【0126】
第1減圧浸透乾燥装置330B及び第2減圧浸透乾燥装置330Cのそれぞれの蓋部3303B、3303Cには、循環給液ライン3351B、3351C、循環ポンプ3353B、3353C、循環送液ライン3355B、3355C、バルブ3357Bが設けられている。循環給液ライン3351B、3351Cは、両装置間を循環する金属化合物溶液120BCを、それぞれの装置内に供給する。循環給液ライン3351Bは循環送液ライン3355Cに接続されている。循環送液ライン3355Cは循環ポンプ3353Cを介してドレンライン3311Cに接続されている。同様に、循環給液ライン3351Cは循環送液ライン3355Bに接続されている。循環送液ライン3355Bは循環ポンプ3353Bを介してドレンライン3311Bに接続されている。
【0127】
上記の構成によって、容器部3301Bに金属化合物溶液120BCが貯まった状態で、バルブ3357Bが開き、循環ポンプ3353Bが駆動することで、金属化合物溶液120BCが、ドレンライン3311B、循環送液ライン3355B、及び循環給液ライン3351Cを介して第2減圧浸透乾燥装置330Cに供給される。同様に、容器部3301Cに金属化合物溶液120BCが貯まった状態で循環ポンプ3353Cが駆動することで、金属化合物溶液120BCが、ドレンライン3311C、循環送液ライン3355C、及び循環給液ライン3351Bを介して第1減圧浸透乾燥装置330Bに供給される。それぞれの減圧浸透乾燥装置から金属化合物溶液120BCを排出する場合は、バルブ3313B、3313Cを開けることで、金属化合物溶液120BCを排液ライン3315B、3315Cに流すことができる。
【0128】
図15に示す状態は、第1減圧浸透乾燥装置330B(第1処理槽)に金属化合物溶液120BCが貯まり、炭化物100Bが金属化合物溶液120BCに浸漬された状態で、第1減圧浸透乾燥装置330Bの減圧が行われ、第2減圧浸透乾燥装置330C(第2処理槽)から金属化合物溶液120BCが排出された状態で、第2減圧浸透乾燥装置330Cの減圧が行われている。つまり、第1減圧浸透乾燥装置330Bでは、炭化物100Bの孔に金属化合物溶液120BCを染みこませており、第2減圧浸透乾燥装置330Cでは、金属化合物溶液120BCが染みこんだ炭化物100Cを乾燥している。
【0129】
上記の動作が完了した後に、第2減圧浸透乾燥装置330Cから乾燥された炭化物100Cを取り出し、金属化合物溶液120BCを染みこませる新たな炭化物を投入する。そして、バルブ3357Bを開けて循環ポンプ3353Bを駆動することで、容器部3301Bに貯まった金属化合物溶液120BCが容器部3301Cに送られ、第2減圧浸透乾燥装置330C内に新たに投入された炭化物及びケース500Cを金属化合物溶液120BCに浸漬することができる。その状態で、第1減圧浸透乾燥装置330B内を減圧すれば、炭化物100Bの乾燥が行われ、第2減圧浸透乾燥装置330C内を減圧すれば、上記炭化物へ金属化合物溶液120BCを染みこませることができる。
【0130】
上記の装置構成の場合、図示しないが、送液ライン3131B、3131Cの途中に、金属化合物溶液120BCを溶液生成装置310BCから容器部3301B、3301Cに送るためのポンプが設けられる。なお、説明の便宜上、
図15では、送液ライン3131B、3131Cがそれぞれ異なる溶液生成装置310BCに接続されるように図示されているが、送液ライン3131B、3131Cは共通の溶液生成装置310BCに接続されている。したがって、1台のポンプで駆動する場合は、溶液生成装置310BCから送液ライン3131B、3131Cに分岐する前にポンプを設ける。容器部3301B又は3301Cに金属化合物溶液120BCが貯められた状態で、上記のポンプを駆動させる。このとき、それぞれの容器部内の金属化合物溶液120BCの液面の高さを液面計3327B、3327Cで計測する。液面計3327B、3327Cの値が所定のしきい値以下の場合は、バルブ3323B、3323Cが開き、溶液生成装置310BCから金属化合物溶液120BCが補充される。
図15の第2減圧浸透乾燥装置330Cのように、炭化物100Cを乾燥させるときは金属化合物溶液120BCが容器部3301Cから抜かれているため、液面計3327Cは下限値を示すが、上記のように制御することで、不要な金属化合物溶液120BCの供給を防ぐことができる。
【0131】
以上のように、本実施形態に係る減圧浸透乾燥装置330Aによると、第1実施形態と同様の効果に加え、2つの装置で減圧浸漬と乾燥を行うことで、処理時間を短縮することができる。
【0132】
〈第3実施形態〉
[金属担持炭化物10Dの製造方法]
図16及び
図17を用いて、第3実施形態に係る金属担持炭化物10D及びその製造方法について説明する。本実施形態において、第1実施形態で形成された金属担持炭化物10が担持する鉄化合物111をアルカリ溶液によって水酸化物化してから還元処理を行う製造方法において、当該アルカリ溶液の有機溶媒を再利用する方法について説明する。
【0133】
図16は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法における有機溶媒の再利用方法を示すフローチャートである。
図17は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造装置の構成を示す図である。
図17に示す金属担持炭化物の製造装置300Dは、溶液生成装置310D、有機溶媒補充タンク320D、減圧浸透乾燥装置330D、有機溶媒回収装置340D、ガス貯留装置350D、活性炭吸着塔360D、アルカリ溶液生成装置370D、有機溶媒補充タンク380D、及び水酸化物化乾燥装置390Dを有する。ここで、溶液生成装置310D、有機溶媒補充タンク320D、減圧浸透乾燥装置330D、有機溶媒回収装置340D、ガス貯留装置350D、及び活性炭吸着塔360Dについては、
図2を用いて説明したものと同じなので、ここでは説明を省略する。有機溶媒補充タンク320D及び有機溶媒補充タンク380Dは共通の1つのタンクであってもよい。
【0134】
図16に示すように、まずステップS31で、アルカリ621Dを有機溶媒623D、625Dに溶解することでアルカリ溶液620Dを生成する。
図17に示すように、アルカリ溶液620Dの生成は、アルカリ溶液生成装置370Dで行われる。アルカリ溶液生成装置370Dは、有機溶媒補充タンク380D、水酸化物化乾燥装置390D、有機溶媒回収装置340D、及びガス貯留装置350Dに接続されている。有機溶媒補充タンク380Dから、未使用の有機溶媒623Dがアルカリ溶液生成装置370Dに供給される。同様に、有機溶媒回収装置340Dから、金属化合物溶液120D又はアルカリ溶液620Dから回収された有機溶媒ガス127D又は627Dが液化された、液体状の有機溶媒625D(再生された有機溶媒625D)がアルカリ溶液生成装置370Dに供給される。
【0135】
アルカリ溶液生成装置370Dの構成は、
図3に示す溶液生成装置310の構成とほぼ同じなので図示は省略する。アルカリ溶液生成装置370Dでは、溶液生成装置310の金属化合物投入口3101の代わりに、アルカリ投入口が設けられる。また、アルカリ溶液生成装置370Dに設けられたラインが接続される装置は
図17に示す通りである。このような構成によって、アルカリ溶液生成装置370D内で、アルカリ621Dが未使用の有機溶媒623D及び再生された有機溶媒625Dに溶解される。ここで、未使用な有機溶媒623Dとは、減圧浸透乾燥装置330D又は水酸化物化乾燥装置390Dで使用された金属化合物溶液120D又はアルカリ溶液620Dから回収され、再生された有機溶媒625Dを除く有機溶媒であり、まだ製造装置300D内で金属化合物121D又はアルカリ621Dが溶解していない有機溶媒である。
【0136】
本実施形態では、アルカリ溶液620Dとして、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウムなどが用いられる。例えば、金属化合物121Dとして塩化鉄又は硝酸鉄が用いられ、有機溶媒623D、625Dとして、メタノール、エタノール、ヘキサン、アセトンが用いられた場合、アルカリとして、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用いることができる。
【0137】
有機溶媒623D、625Dは、水よりも蒸気圧が高く、常温で液体であり、溶質である金属化合物及びアルカリを溶かすことができる溶媒であれば特に指定はない。例えば、当該有機溶媒として、30℃における蒸気圧が50mmHg以上であるものを用いることができる。アルカリ溶液620Dの溶媒として、第1実施形態で説明した金属化合物溶液120の溶媒と同じものを用いることができる。
【0138】
また、アルカリ溶液620Dから回収された気体状の有機溶媒ガス627Dが、ガス貯留装置350Dからアルカリ溶液生成装置370D及び水酸化物化乾燥装置390Dに供給される。このような構成によって、アルカリ溶液生成装置370D内及び水酸化物化乾燥装置390D内は有機溶媒ガス627Dで満たされる。
【0139】
アルカリ溶液620Dにおけるアルカリ621Dの濃度は、有機溶媒623D、625Dへの溶解度よりも低ければよい。具体的には、金属化合物121Dとして塩化鉄又は硝酸鉄が用いられ、有機溶媒623D、625Dとして、メタノール、エタノール、アセトン、又はヘキサンが用いられ、アルカリ621Dとして、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムが用いられた場合、アルカリ溶液620Dにおけるアルカリ621Dの濃度は、0.1wt%以上50wt%以下、0.5wt%以上30wt%以下、又は1wt%以上15wt%以下とすることができる。
【0140】
アルカリ溶液生成装置370Dで生成されたアルカリ溶液620Dは水酸化物化乾燥装置390Dに供給される。そして、
図16のステップS33で、水酸化物化乾燥装置390D内においてアルカリ溶液620Dを金属担持炭化物10Dに染みこませる。金属担持炭化物10Dをアルカリ溶液620Dに浸漬し、その状態でこれらが配置された処理槽内を調圧することで、金属担持炭化物10Dの孔の中にアルカリ溶液620Dを染みこませる。つまり、水酸化物化乾燥装置390Dはアルカリ溶液620Dが配置された処理槽内の圧力を調整する調圧機構を有している。ステップS33によって、金属担持炭化物10Dの孔の中に付着している鉄化合物111Dを水酸化物化し、水酸化鉄を生成する。つまり、鉄化合物111を担持する金属担持炭化物10Dは、水酸化鉄を担持する金属担持炭化物10Dになる。
【0141】
続いて、
図16のステップS35で、アルカリ溶液620Dが染みこんだ金属担持炭化物10Dから有機溶媒623D、625Dを気化させる。上記金属担持炭化物10Dが配置された処理槽内を減圧することで、有機溶媒623D、625Dを気化させる。
【0142】
水酸化物化乾燥装置390Dで気化された有機溶媒ガス627Dは、有機溶媒回収装置340Dに送られる。つまり、
図16のステップS37で、アルカリ溶液620Dから気化した有機溶媒ガス627Dを回収する。ステップS37で回収された有機溶媒ガス627Dは、一部が冷却又は加圧されて液化し、液体状の有機溶媒625D(再生された有機溶媒625D)として溶液生成装置310D又はアルカリ溶液生成装置370Dに供給される。例えば、有機溶媒ガス627Dは、大気圧下で40℃以下に冷却されることで液化することができる。ステップS37で回収され、液化されなかった有機溶媒ガス627Dは、気体状のままガス貯留装置350Dに送られる。再生された有機溶媒625Dは、溶液生成装置310D内又はアルカリ溶液生成装置370D内で、他の金属化合物121D又は他のアルカリ621Dを溶解する溶媒として用いられる。つまり、ステップS37で回収された有機溶媒の一部は、金属化合物121D又はアルカリ621Dを溶解する有機溶媒625Dとして再利用される(
図16のステップS39)。
【0143】
有機溶媒回収装置340Dによって回収された有機溶媒ガス627Dのうち、液化されなかった有機溶媒ガス627Dは、ガス貯留装置350Dに送られる。ガス貯留装置350Dは、回収された有機溶媒ガス627Dを貯留し、必要に応じて貯留した有機溶媒ガス627Dを溶液生成装置310D、減圧浸透乾燥装置330D、アルカリ溶液生成装置370D、及び水酸化物化乾燥装置390Dに供給する。つまり、ステップS37で回収された有機溶媒の一部は、気体状の有機溶媒ガス627Dとして金属担持炭化物10Dの製造工程に再利用される。
【0144】
以上のように、本実施形態に係る金属担持炭化物10Dの製造方法によると、第1実施形態と同様の効果に加え、金属担持炭化物10Dを製造しつつ、その製造に用いられたアルカリ溶液620Dの有機溶媒の一部を再利用することで、有機溶媒が製造装置300Dの外に排出される量を低減することができる。このため、金属担持炭化物10Dの製造における環境負荷を低減することができ、有機溶媒の無害化に用いられる活性炭の寿命を長くすることができる。また、有機溶媒の使用量を低減することができるため、金属担持炭化物10Dの製造コストを下げることができる。
【0145】
また、アルカリ溶液620Dの溶媒として、有機溶媒を用いることで、アルカリ溶液620Dを金属担持炭化物10Dに染みこませた後に有機溶媒を乾燥させるために必要なエネルギーを小さくすることができるため、金属担持炭化物10Dの製造に必要な電力の低減及び時間の短縮を実現することができる。
【0146】
[金属担持炭化物10Dの製造方法]
図18を用いて、第3実施形態に係る金属担持炭化物10D及びその製造方法について説明する。本実施形態において、
図1~
図8、
図16、
図17で説明した各装置を用いて、金属担持炭化物10Dを生成する方法について説明する。
図18は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法を示すフローチャートである。
【0147】
図18のステップS41~S47は、
図9のステップS21~S27と同じなので、説明を省略する。ステップS47で、金属化合物溶液120Dを染みこませた炭化物100Dの乾燥を行った後に、ステップS49で、金属担持炭化物10Dをアルカリ溶液620Dに浸漬する。このとき、金属担持炭化物10Dの孔の内壁には、
図13に示すように鉄化合物111Dが付着している。したがって、金属担持炭化物10Dがアルカリ溶液620Dに浸漬され、アルカリ溶液620Dが金属担持炭化物10Dの孔の中に染みこみ、鉄化合物111Dと接触すると、上記鉄化合物111Dの少なくとも一部が水酸化される。このようにして、鉄化合物111Dを担持する金属担持炭化物10Dは、水酸化鉄を担持する金属担持炭化物10Dになる。ステップS49の後に、ステップS43、S45と同様に、金属担持炭化物10Dがアルカリ溶液620Dに浸漬した状態で、これらが配置された処理槽内を減圧し、その後、有機溶媒の蒸気圧より高くする。
【0148】
この水酸化鉄を担持した炭化物の乾燥(ステップS55)の後に、金属担持炭化物10Dを水洗する(ステップS57)。この水洗によって、金属担持炭化物10Dの孔の中に生成されたアルカリ溶液中のアルカリ金属イオンと鉄化合物において鉄と結合していた陰イオンとが結合したアルカリ金属塩、及び当該孔の中に残ったアルカリを除去することができる。ここで、金属担持炭化物10Dの孔の内壁に存在する水酸化鉄は、溶解度が低いため、上記の水洗を行っても金属担持炭化物10Dの外に排出されにくい。また、金属担持炭化物10Dの内部がアルカリ性に偏っていると、吸着後の処理水もアルカリ性となり、環境へ悪影響を与えるが、上記のように水洗によって金属担持炭化物10D内のアルカリ金属塩、及びアルカリを除去することで、金属担持炭化物10Dの内部がアルカリ性に偏ることを抑制することができる。なお、ステップS57の水洗は省略しても構わない。
【0149】
上記のステップS49~S57の工程は、複数回繰り返し行われてもよい。また、上記のステップS51及びS53の工程が、複数回繰り返し行われてもよい。ステップS51及びS53の工程が省略されてもよい。
【0150】
以上のように、本実施形態に係る金属担持炭化物10Dの製造方法によると、鉄化合物111Dが水酸化された状態で還元処理(ステップS59)を行うことができる。この還元処理によって、水酸化鉄を担持する金属担持炭化物10Dは、ゼロ価の鉄を担持する金属担持炭化物10Dになる。ここで、還元処理で発生するガスは、無害な水蒸気である。
【0151】
〈第3実施形態の変形例〉
図19を用いて、第3実施形態の変形例について説明する。
図19は、本発明の一実施形態に係る金属担持炭化物の製造方法を示すフローチャートである。
【0152】
図19に示す工程は、
図18からステップS43~S47のステップが省略された工程である。つまり、炭化物100Dを金属化合物溶液120Dに浸漬した後、乾燥せずにアルカリ溶液620Dに浸漬する。
図18では、金属担持炭化物10Dの孔の内壁101Dに鉄化合物111Dを析出させた状態で、鉄化合物111Dを化学反応させて水酸化鉄141Dを生成する製造方法を示したが、
図19では、金属化合物溶液120D中の鉄イオン110Dとアルカリ溶液620D中の水酸化物イオンとを化学反応させて、内壁101Dに水酸化鉄を沈殿させる。
【0153】
第3実施形態の変形例によると、金属担持炭化物10Dを金属化合物溶液120Dに浸漬させた後に乾燥する必要がないため、製造工程の簡易化を図ることができる。
【0154】
第3実施形態の変形例では、金属担持炭化物10Dをアルカリ溶液620Dに浸漬する製造方法を例示したが、アルカリ溶液620Dは拡散浸透によって金属担持炭化物10Dの孔の中に入り込むため、金属化合物溶液120Dに浸漬した金属担持炭化物10Dの表面にアルカリ溶液620Dを供給する方法を採用してもよい。例えば、金属担持炭化物10Dの表面にスプレーなどでアルカリ溶液を吹き付けてもよい。
【0155】
なお、ステップS41とステップS49との間で、ステップS51及びステップ53と同様の処理を行ってもよい。すなわち、ステップS41において、炭化物100Dを金属化合物溶液120Dに浸漬した後に、脱気処理を行ってもよい。次に、乾燥の処理を行わずに、ステップS49において金属担持炭化物10Dをアルカリ溶液620Dに浸漬する。この後、ステップS55において、水酸化鉄を担持した炭化物の乾燥した後、ステップS57において金属担持炭化物10Dを水洗してもよい。
【実施例0156】
第1実施形態~第3実施形態に用いられる有機溶媒について、
図20を用いて、蒸気圧を評価した結果を説明する。
図20は、本発明の一実施例において用いられる溶媒の蒸気圧曲線の一例を示す図である。
図20では、有機溶媒の候補であるエタノールの蒸気圧曲線710及びジエチルエーテルの蒸気圧曲線720を、比較対象である水の蒸気圧曲線730と比較した結果を示す。
【0157】
図20において、実線はエタノールの蒸気圧曲線710を示し、二重線はジエチルエーテルの蒸気圧曲線720を示し、点線は水の蒸気圧曲線730を示す。
図20に示すように、水の蒸気圧が101.3kPaとなる温度(沸点)が100℃であるのに対して、エタノールの沸点は約78℃、ジエチルエーテルの沸点は約35℃である。また、約20℃の温度において、エタノールは約5.9kPa以下(ゲージ圧で-0.095MPa)で気化させることができ、ジエチルエーテルは約58.6kPa以下(ゲージ圧で-0.043MPa)で気化させることができる。上記のように、大気圧では液体であり、水よりも蒸気圧が高い有機溶媒を用いて金属化合物溶液又はアルカリ溶液が構成されることで、溶媒として水を用いた場合に比べて低い真空度かつ低温で有機溶媒を気化させることができるため、有機溶媒を乾燥させるために必要なエネルギーを小さくすることができる。
【0158】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、本実施形態の吸着材を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。さらに、上述した各実施形態は、相互に矛盾がない限り適宜組み合わせが可能であり、各実施形態に共通する技術事項については、明示の記載がなくても各実施形態に含まれる。
【0159】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
10:金属担持炭化物、 100:炭化物、 101D:内壁、 110:鉄イオン、 111:鉄化合物、 120:金属化合物溶液、 121:金属化合物、 123:有機溶媒、 125:有機溶媒、 127:有機溶媒ガス、 130:気泡、 170:還元装置、 172:還元炉、 174:ホッパー、 176:ロータリーバルブ、 178:ロータリーバルブ、 180:ヒータ、 182:第1のガス供給管、 184:バルブ、 186:第2のガス供給管、 188:バルブ、 190:第3のガス供給管、 194:ガス捕集管、 200:マクロ孔、 210:メソ孔、 220:ミクロ孔、 300:製造装置、 310:溶液生成装置、 320:有機溶媒補充タンク、 330:減圧浸透乾燥装置、 330B:第1減圧浸透乾燥装置、 330C:第2減圧浸透乾燥装置、 340:有機溶媒回収装置、 350:ガス貯留装置、 360:活性炭吸着塔、 370D:アルカリ溶液生成装置、 380D:有機溶媒補充タンク、 390D:水酸化物化乾燥装置、 500:ケース、 510:支持部材、 520:昇降レール、 530:ワイヤ、 540:巻き取り部、 590:昇降機構、 620D:アルカリ溶液、 621D:アルカリ、 623D:有機溶媒、 625D:有機溶媒、 627D:有機溶媒ガス、 710:エタノールの蒸気圧曲線、 720:ジエチルエーテルの蒸気圧曲線、 730:水の蒸気圧曲線、 3101:金属化合物投入口、 3103:容器部、 3105:蓋部、 3107:攪拌機、 3111:未使用有機溶媒供給ライン、 3113:再生有機溶媒供給ライン、 3115、3311:ドレンライン、 3121、3123:ポンプ、 3131:送液ライン、 3132、3134、3136、3144、3146、3234、3313、3323、3332:バルブ、 3133、3315:排液ライン、 3135:予備ライン、 3141:ガス導入口、 3143:ガス供給ライン、 3145:空気供給ライン、 3151:動力源、 3153:回転軸、 3155:フィン、 3301:容器部、 3303:蓋部、 3321:給液ライン、 3325:逆止弁、 3327:液面計、 3331:ガス導入口、 3333:排気口、 3334:真空ポンプ、 3335:ガス供給ライン、 3336、3338:バルブ、 3337:空気供給ライン、 3340:真空圧力計、 3351B:循環給液ライン、 3353B:循環ポンプ、 3355B:循環送液ライン、 3357B:バルブ、 3400:液化機構、 3401:容器部、 3403:冷却機構、 3405:排出口、 3407、3409:排気口、 3410:液化機構、 3411、3413、3513:バルブ、 3420:貯留タンク、 3421:ドレンライン、 3423:ポンプ、 3501:給気口、 3503:再利用ガス供給口、 3507、3517:安全弁、 3509:低圧逃がし弁、 3511:逆止弁、 3515:真空圧力計、 3601:排気口
処理槽内を減圧することによって、前記炭化物が気相中に配置された状態で、前記炭化物から前記第2有機溶媒を気化させる、請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載の金属担持炭化物の製造方法。