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特開2022-163182腫瘍溶解性ウイルスによるPTEN-Longの発現
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163182
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】腫瘍溶解性ウイルスによるPTEN-Longの発現
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20221018BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20221018BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20221018BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20221018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221018BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20221018BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221018BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20221018BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20221018BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221018BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
C12N7/01
C12N5/0783
A61K35/763
A61K35/761
A61P35/00
A61P37/04
A61P35/04
A61K48/00
A61K38/46
C12N9/16 B ZNA
C12N15/12
C12N15/55
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129037
(22)【出願日】2022-08-12
(62)【分割の表示】P 2019504923の分割
【原出願日】2017-07-31
(31)【優先権主張番号】62/368,822
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/479,671
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516046846
【氏名又は名称】オハイオ ステート イノベーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カウアー バルヴィーン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】極度の異質性及び侵襲性、並びに放射線及び化学療法薬に対する耐性を特徴とする、膠芽腫(GBM)に対する新規治療法を提供する。
【解決手段】哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む、組換えウイルスによる。
【選択図】図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む、組換えウイルス。
【請求項2】
前記ウイルスは、腫瘍細胞を標的とするように改変されている、請求項1に記載の組換えウイルス。
【請求項3】
前記ウイルスは、腫瘍特異的プロモーターの制御下で、ウイルス複製に重要な遺伝子を配置するように改変されている、請求項1に記載の組換えウイルス。
【請求項4】
前記組換えウイルスは、単純ヘルペスウイルス-1バックボーンを含む、請求項1に記載の組換えウイルス。
【請求項5】
前記PTEN-Long遺伝子は、組織特異的プロモーターに作動可能に結合されている、請求項1に記載の組換えウイルス。
【請求項6】
前記PTEN-Long遺伝子は、誘導性プロモーターに作動可能に結合されている、請求項1に記載の組換えウイルス。
【請求項7】
前記PTEN-Long遺伝子は、構成的プロモーターに作動可能に結合されている、請求項1に記載の組換えウイルス。
【請求項8】
被験体において癌を治療する方法であって、請求項1に記載の前記ウイルスを前記被験体に投与することを含む、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の前記ウイルスを前記被験体に投与することを含む、癌細胞においてPD-L1を阻害する方法。
【請求項10】
被験体における癌の部位で浸潤CD8 T細胞の数を増加させる方法であって、請求項1に記載の前記ウイルスを前記被験体に投与することを含む、方法。
【請求項11】
被験体における癌の部位で浸潤ナチュラルキラー細胞の数を増加させる方法であって、請求項1に記載の前記ウイルスを前記被験体に投与することを含む、方法。
【請求項12】
被験体における癌の転移を阻害する方法であって、請求項1に記載の前記ウイルスを前記被験体に投与することを含む、方法。
【請求項13】
被験体における癌を治療する方法であって、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む組換えウイルスを前記被験体に投与することを含む、方法。
【請求項14】
前記ウイルスは、腫瘍細胞を標的とするように改変されている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組換えウイルスは、単純ヘルペスウイルス-1バックボーンを含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(政府支援の陳述)
この研究は、国立衛生研究所により授与されたNIH 1R01NS064607及びNIH P01 CA163205により支援された。政府は、本発明において、ある特定の権利を有する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2016年7月29日に出願された米国特許仮出願第62/368,822号、及び2017年3月31日に出願された米国特許仮出願第62/479,671号の利益を主張するものであり、これらのそれぞれは、その全体が参照により明示的に本明細書に組み込まれる。
【0003】
[背景技術]
膠芽腫(GBM)は、患者生存率が劣悪な世界保健機関グレードIVの星状細胞腫であり、極度の異質性及び侵襲性、並びに放射線及び化学療法薬に対する耐性を特徴とする。脳転移は、GBMよりも2~3倍多い頻度であり、乳癌と共に脳転移腫瘍型の上位3種に挙げられる。現在の標準的治療を受ける患者の平均生存率は、GBMについては18月未満であり、乳癌脳転移(BCBM)については2~25月である。脳腫瘍及び癌の新規治療法が一般的に必要とされている。
【0004】
膠芽腫(GBM)は、患者生存率が劣悪な世界保健機関グレードIVの星状細胞腫であり、極度の異質性及び侵襲性、並びに放射線及び化学療法薬に対する耐性を特徴とする。脳転移は、GBMよりも2~3倍の頻度であり、乳癌と共に脳転移腫瘍型の上位3種に挙げられる。現在の標準的治療を受ける患者の平均生存率は、GBMについては18月未満であり、乳癌脳転移(BCBM)については2~25月である。脳腫瘍及び癌の新規治療法が一般的に必要とされている。
【0005】
[発明の概要]
哺乳動物PTEN-Long遺伝子を発現する組換えウイルスに関する方法及び組成物が開示される。
一態様では、任意の先行する態様の組換えウイルスが本明細書で開示され、その組換えウイルスは、PTEN-Long遺伝子を含む組換えHSV-1ウイルスである。
【0006】
一態様では、任意の先行する態様の組換えウイルスが本明細書で開示され、そのウイルスは、腫瘍細胞を標的とするように改変されているか、又は腫瘍特異的プロモーターの制御下で、ウイルス複製に重要な遺伝子を配置するように改変されている。
【0007】
一態様では、任意の先行する態様の組換えウイルスが本明細書で開示され、ここで、PTEN-Long遺伝子は、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーター又は構成的プロモーターに作動可能に結合(operatively linked)されている。
【0008】
任意の先行する態様の組換えウイルスを被験体に投与することを含む、癌を治療する方法もまた本明細書で開示される。
一態様では、任意の先行する態様の組換えウイルスを被験体に投与することを含む、癌を阻害する方法及び/又は転移を阻害する方法が本明細書で開示される。
【0009】
任意の先行する態様のウイルスを被験体に投与することを含む、癌細胞においてPD-
L1を阻害する方法もまた本明細書で開示される。
一態様では、任意の先行する態様のウイルスを被験体に投与することを含む、被験体における癌の部位で浸潤CD8 T細胞の数を増加させる方法が本明細書で開示される。
【0010】
任意の先行する態様のウイルスを被験体に投与することを含む、被験体における癌の部位で浸潤ナチュラルキラー細胞の数を増加させる方法もまた開示される。
本明細書に組み込まれ、また本明細書の一部を構成する添付の図面は、いくつかの実施形態を例証し、説明と共に、開示される組成物及び方法を例証する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】HSVQuickバックボーン内のPTEN-Long導入遺伝子発現ベクターを示す図である。
図1B】導入遺伝子発現がU87ΔEGFR神経膠腫細胞(WB)における感染の3時間以内に検出可能であることを示す図である。
図1C】HSVQ対照(WB)と比較して、HSV-P10感染が感染DB7細胞におけるAktリン酸化に劇的に影響を及ぼすことを示す図である。
図2】ヒト乳癌脳転移の切片(上、40倍)及び頭蓋内DB7を有するFVB/Nマウスの切片(下、20倍)に由来する、代表的なヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色並びにPTEN染色を示す図である。
図3】PTEN-Long発現ベクターを含むHSV(HSV-P10)が、対照HSVQウイルスと同様に、神経膠腫細胞においてインビトロで複製し、広がることができることを示す図である。
図4A】PTEN-Long発現が複数の細胞株におけるHSV-P10細胞死滅を阻害しないことを示す図である。MTTアッセイ(DB7、マウス乳癌、MDA-MB-468、ヒト乳癌、LN229及びU87ΔEGFR、ヒト神経膠腫)の結果を示す図である。
図4B】PTEN-Long発現が複数の細胞株におけるHSV-P10細胞死滅を阻害しないことを示す図である。MTTアッセイ(DB7、マウス乳癌、MDA-MB-468、ヒト乳癌、LN229及びU87ΔEGFR、ヒト神経膠腫)の結果を示す図である。
図4C】PTEN-Long発現が複数の細胞株におけるHSV-P10細胞死滅を阻害しないことを示す図である。MTTアッセイ(DB7、マウス乳癌、MDA-MB-468、ヒト乳癌、LN229及びU87ΔEGFR、ヒト神経膠腫)の結果を示す図である。
図4D】PTEN-Long発現が複数の細胞株におけるHSV-P10細胞死滅を阻害しないことを示す図である。MTTアッセイ(DB7、マウス乳癌、MDA-MB-468、ヒト乳癌、LN229及びU87ΔEGFR、ヒト神経膠腫)の結果を示す図である。
図5A】DB7-dsRed腫瘍を有するFVB/Nマウスの生存率を示す図である。ウイルスが、腫瘍移植の7日後に腫瘍内に注入されたことを示す図である。
図5B】DB7腫瘍を有するヌードマウスの生存率を示す図である。ウイルスが、腫瘍移植の7日後に腫瘍内に注入されたことを示す図である。
図6A】ウイルス処置後7日目の脳免疫系浸潤を示す図である。マクロファージ(CD45hi)に対するCD11b F4/80ミクログリア(CD45lo-int)の比を示す図である。
図6B】ウイルス処置後7日目の脳免疫系浸潤を示す図である。MHC-IIミクログリア(赤)及びマクロファージ(緑)の百分率を示す図である。
図6C】ウイルス処置後7日目の脳免疫系浸潤を示す図である。浸潤CD49b CD335NK細胞を示す図である。
図6D】ウイルス処置後7日目の脳免疫系浸潤を示す図である。浸潤細胞毒性CD3 CD8 T細胞を示す図である。
図7】感染及び隣接非感染のDB7乳癌細胞24hpiの表面上でウイルス誘導性PD-L1発現をHSV-P10が阻害することを示す図である。フローサイトメトリーによる測定結果を示す図である。
図8】DB7細胞溶解物に対する抗体について分析された、処置後7日目に採取された腫瘍を有するFVB/Nマウスの血清を示す図である。群ごとにn=3である。ELISAによる測定結果を示す図である。
図9】PTEN-Long発現組換えウイルス(RAPTORとしてもまた既知のHSV-P10など)が癌細胞を攻撃することができる経路の説明を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図9に示すように、抗腫瘍抗体応答は、増加し、AKTのリン酸化が減少したため、PD-L1発現は、減少して、T細胞増殖及びNK細胞増殖を低減させる抑制シグナルを妨げる。したがって、NK細胞及びT細胞の浸潤が増加し、抗腫瘍活性を発揮することができる。
【0013】
本発明の化合物、組成物、物品、デバイス及び/又は方法を開示及び説明する前に、特に指定されない限り、これらが特定の合成法又は特定の組換えバイオテクノロジー方法に限定されないこと、又は、特に指定されない限り、特定の試薬に限定されず、当然ながらそれ自体が変化してもよいことを理解されたい。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明するための目的のものにすぎず、限定することを意図しないことも理解するべきである。
【0014】
A.定義
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、その内容について別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象を包含する。したがって、例えば、「医薬担体」への言及は、2つ以上のこのような担体の混合物などを含む。
【0015】
範囲は、「約」1つの特定の値から、かつ/又は「約」別の特定の値までとして表され得る。このような範囲が表されるとき、別の実施形態は、1つの特定の値から、かつ/又は他の特定の値までを含む。同様に、値が、先行詞「約」の使用によって近似として表されるとき、特定の値は、別の実施形態を形成することが理解されるであろう。範囲のそれぞれの端点は、他の端点に関しても、他の端点とは独立しても、この両方において、有意であると更に理解されるであろう。本明細書で多くの値が開示され、それぞれの値がその値自体に加えて「約」その特定の値として本明細書でもまた開示されることもまた理解される。例えば、値「10」が開示されている場合、「約10」もまた開示されている。当業者によって適切に理解されるように、ある値が開示される場合、その値「以下」、「その値以上」及び値間の可能な範囲もまた開示されていることもまた理解される。例えば、値「10」が開示されている場合、「10以下」と同様に「10以上」もまた開示されている。本願全体にわたってデータが多数の異なるフォーマットで提供され、このデータが、端点及び開始点並びにデータ点の任意の組み合わせに対する範囲を表すこともまた理解される。例えば、特定のデータポイント「10」及び特定のデータポイント15が開示されている場合、10と15との間と同様に、10及び15よりも大きい、10及び15以上、10及び15未満、10及び15以下、並びに10及び15に等しいデータポイントが開示されていると見なされることが理解される。特定の2つの単位間のそれぞれの単位もまた開示されていることもまた理解される。例えば、10及び15が開示されている場合、11、12、13及び14もまた開示されている。
【0016】
本明細書及び以下の「特許請求の範囲」において、多数の用語に言及し、それらは以下
の意味を有すると定義されるものとする。
「任意選択的な」又は「任意選択的に」は、引き続いて記載された事象又は状況が起こってもよいかあるいは起こらなくてもよいこと、及び説明が、当該事象又は状況が起こる場合の例及びそれが起こらない場合の例を含むことを意味する。
【0017】
「減少」は、症状、組成又は活性の量がより少ないことをもたらす任意の変化を指すことができる。物質はまた、その物質を含む遺伝子産物の遺伝子産生量が、その物質を含まない遺伝子産物の産生量に対してより少ないとき、遺伝子の遺伝子産出量を減少させると理解される。また、例えば、減少は、症状が以前の観察よりも少なくなるような、疾患の症状における変化であり得る。
【0018】
「阻害する」、「阻害している」及び「阻害」は、活性、応答、状態、疾病又は他の生物学的パラメータを減少させることを意味する。これには、活性、応答、状態又は疾病の完全除去を含むことができるが、これらに限定されない。これにはまた、例えば、天然又は対照レベルと比較して、活性、応答、状態又は疾病における10%の低減を含んでもよい。したがって、低減は、天然又は対照レベルと比較して、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%又は中間の任意の量の低減であり得る。
【0019】
ここで、「治療」、「治療する」又は「治療している」は、疾病又は状態の影響を低減する方法を意味することができる。治療はまた、症状のみよりもむしろ疾患又は状態自体を低減する方法を指すことができる。治療は、天然レベルからの任意の低減であり得、疾病、状態、又は疾病若しくは状態の症状の完全除去であってよいが、これらに限定されない。したがって、開示される方法では、「治療」は、罹患した疾患又は疾患進行の重症度における10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%の低減を指すことができる。例えば、同一被験体又は対照被験体における天然レベルと比較して、疾患を有する被験体における疾患の1つ以上の症状で10%低減がある場合、(転移を阻害又は低減するなどの)癌の効果を低減又は阻害するための開示される方法が、治療であると考えられる。したがって、低減は、天然レベル又は対照レベルと比較して、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%又は中間の任意の量の低減であり得る。「治療」が疾患又は状態の治癒とは限らず、疾患又は状態の外観の向上を指すことが理解され、本明細書において企図される。
【0020】
本明細書全体において、様々な出版物が参照される。これらの出版物の開示全体が、開示内容が関連する技術分野の状態をより十分に説明するためにここに参照により本出願に組み込まれる。開示される参照文献も、その参照文献が依拠される文において考察されるそれらに含まれる資料について、参照により本明細書に個々に、かつ具体的に組み込まれる。
【0021】
B.組成物
開示される組成物を調製するために使用される成分と、本明細書で開示される方法の範囲内で使用される組成物それ自体が開示される。これら及び他の物質が本明細書で開示されており、これらの物質の組み合わせ、サブセット、相互作用、群などが開示されている場合、これらの化合物のそれぞれの様々な個々及び集合的な組み合わせ及び順列の具体的な言及は、明示的に開示されていない場合があるが、それぞれが具体的に企図され、本明細書に記載されることが理解される。例えば、特定のPTEN-Long発現組換えウイルスが開示かつ論じられ、またPTEN-Long及び/又はウイルスバックボーンを含む多数の分子に対して行うことができる多数の修飾が論じられている場合、それとは反対の具体的な指示がない限り、PTEN-Long及び任意のウイルスバックボーンと可能な修飾とのあらゆる組み合わせ及び置換が具体的に企図される。したがって、分子A、B及びCの種類が開示されており、同様に分子D、E及びFの種類及び分子A~Dの組み合
わせの例が開示されている場合、それぞれが個々に列挙されていない場合であっても、それぞれが個々にかつ集合的に企図され、組み合わせA-E、A-F、B-D、B-E、B-F、C-D、C-E及びC-Fが開示されると見なされる。同様に、これらの任意のサブセット又は組み合わせもまた開示される。したがって、例えば、A-E、B-F及びC-Eのサブグループが開示されていると見なされるであろう。この概念は、本出願の全ての態様に適用され、開示される組成物の作製及び使用方法における工程を含むが、これに限定されない。このように、実施することができる多様な更なる工程が存在する場合、これらの更なる工程のそれぞれは、任意の特定の実施形態又は開示される方法の実施形態の組み合わせにより実施することができることが理解される。
【0022】
10番染色体上の腫瘍抑制ホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)は、細胞内でAKTシグナル伝達経路を阻害するホスファターゼである。PTENは、全ての高悪性度神経膠腫のうちの約50%において変異しているか又は欠失しており、全ての乳癌の33~49%において失われている。PTEN-Longは、N末端に173個の付加アミノ酸を有する、最近発見されたPTENの代替開始部位変異体である。このより長い形態のPTENは、分泌され、膜透過性であり、細胞への分泌及び再導入後にそのホスファターゼ活性を維持する。感染細胞からPTEN-Longを分泌する(例えば、改変型単純ヘルペスウイルス(HSV-P10)などの)改変型ウイルスを用いる新規腫瘍治療(例えば、脳腫瘍治療)が、本明細書で開示される。
【0023】
組成物の細胞への送達
一態様では、本明細書で開示される機能的効果及び治療的効果は、例えば、癌細胞などの細胞におけるPTEN-Longの発現の結果であることが理解され、本明細書において企図される。インビトロ又はインビボのいずれかで、細胞に核酸(PTEN-Long発現核酸など)を送達するために使用することができる多数の組成物及び方法がある。これらの方法及び組成物は、ウイルス系送達システム及び非ウイルス系送達システムの2つの種類に主に分類することができる。例えば、核酸は、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、プラスミド、ウイルスベクター、ウイルス核酸、ファージ核酸、ファージ、コスミドなどの多数の直接送達システムを介して、又は遺伝物質の細胞への転写若しくはカチオン性リポソームなどの担体を介して送達することができる。したがって、一態様では、PTEN-Longを含むウイルスベクター、プラスミド、ファージ、コスミドである。被験体にPTEN-Longを投与することを含む、被験体における癌を治療する方法がまた本明細で開示され、PTEN-Longは、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、プラスミド、ウイルスベクター、ウイルス核酸、ファージ核酸、ファージ、コスミドを介して、又は遺伝物質の細胞への転写若しくはカチオン性リポソームなどの担体を介して癌細胞に送達される。DNAのエレクトロポレーション及び直接拡散などの、ウイルスベクター、化学トランスフェクタント又は物理的機械的方法を含むトランスフェクションのための適切な手段は、例えば、Wolff,J.A.,et al.,Science,247,1465~1468(1990)及びWolff,J.A.Nature,352,815~818,(1991)によって記載されている。このような方法は、当該技術分野において公知であり、本明細書に記載の組成物及び方法での使用に容易に適合可能である。特定の場合では、方法は、巨大DNA分子により特異的に機能するように改変されることとなる。更に、これらの方法は、担体の標的化特性を使用することによって、特定の疾患及び細胞集団を標的とするために使用することができる。
【0024】
a)核酸系送達システム
転写ベクターは、細胞内に遺伝子を送達するために使用される、又は遺伝子を送達するための一般的な戦略の一部として、例えば、組換えレトロウイルス若しくはアデノウイルスの一部として使用される、任意のヌクレオチド構築物(例えば、プラスミド)であり得
る(Ram et al.Cancer Res.53:83~88,(1993))。
【0025】
本明細書で使用されるとき、プラスミド又はウイルスベクターは、PTEN-Longなどの開示される核酸を分解させることなく細胞内に輸送し、核酸が送達された細胞内で遺伝子の発現をもたらすプロモーターを含む、媒介物である。ウイルスベクターは、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、エイズウイルス、神経栄養ウイルス、シンドビスウイルス及び他のRNAウイルスであり、HIVバックボーンを有するこれらのウイルスを含む。ウイルスをベクターとしての使用に好適であるようにする、これらのウイルスの性質を共有する、任意のウイルス科もまた好ましい。レトロウイルスには、マウスMaloney白血病ウイルス、MMLV及びMMLVの好ましい性質をベクターとして発現するレトロウイルスが挙げられる。レトロウイルスベクターは、他のウイルスベクターより大きな遺伝子ペイロード、すなわち、導入遺伝子又はマーカー遺伝子を担持することができ、この理由から、一般的に使用されるベクターである。しかし、これらは、非増殖性細胞において有用ではない。アデノウイルスベクターは、比較的安定かつ取り扱いが容易で、高力価を有し、エアゾール製剤で送達することができ、非分裂性細胞にトランスフェクトすることができる。ポックスウイルスベクターは、大きく、遺伝子を挿入するためのいくつかの部位を有し、耐熱性であり、室温で保存することができる。好ましい実施形態は、ウイルス抗原によって誘発される宿主生物の免疫応答を抑制するように遺伝子操作されたウイルスベクターである。この種類の好ましいベクターは、インターロイキン8又は10に対するコード領域を担持することとなる。
【0026】
ウイルスベクターは、細胞内に遺伝子を導入するための化学的方法又は物理的方法よりも高い処理能力(遺伝子導入能)を有することができる。一般的には、ウイルスベクターは、非構造性初期遺伝子、構造性後期遺伝子、RNAポリメラーゼIII転写体、複製及びカプシド形成に必要な逆方向末端反復、並びにウイルスゲノムの転写及び複製を制御するためのプロモーターを含む。ベクターとして遺伝子操作されたとき、ウイルスは、除去された初期遺伝子のうちの1つ以上を一般的に有し、遺伝子又は遺伝子/プロモーターカセットは、除去されたウイルスDNAの代わりにウイルスゲノム内に挿入される。この種類の構築物は、約8kbまでの外来遺伝的材料を担持することができる。除去された初期遺伝子の必須機能は、トランス型において初期遺伝子の遺伝子産物を発現するように設計された細胞株によって一般的に提供される。
【0027】
(1)腫瘍溶解性ベクター
一態様では、ウイルスベクターは、腫瘍溶解性であり得る。腫瘍溶解性ウイルスは、感染細胞の直接溶菌、毒素の分泌及び/又は宿主抗腫瘍免疫応答の刺激のいずれかを介して、癌細胞に選択的に感染し、死滅させる。腫瘍溶解性ウイルスは、アデノウイルス、HSV、レオウイルス、ワクシニアウイルス、VSV及び麻疹ウイルスを含むがこれらに限定されない、任意の種類のウイルスベクターであり得る。例えば、HSV系腫瘍溶解性ウイルスは、(本明細書で神経病原性因子γ-34.5とも称する)ICP34.5のヌル変異又は欠失を含むことができる。この変異は、最終分化した非分裂性細胞ではもはや複製できないが、癌などの急速に分裂する細胞に感染して溶解する能力を保持している、HSVベクターをもたらす。一態様では、PTEN-Longを発現する開示される改変ウイルスのウイルスベクターバックボーンは、例えば、HSVQuick(HSVQ)、HSV1716、UL56タンパク質発現を欠いた)HF10及び(ICP34.5及びGM-CSFの機能的発現を欠いた)OncoVex GM-CSFなどの、腫瘍溶解性HSVベクターであり得る。腫瘍溶解性ウイルスはまた、ONYX-015、H101及びKH901を含むがこれらに限定されない、腫瘍溶解性アデノウイルス、Reolysin及びRT3Dを含むがこれらに限定されない、腫瘍溶解性レオウイルス、GL-ONC1及びJX-594を含むがこれらに限定されない、腫瘍溶解性ワクシニアウイルス、並び
に、MV-NISを含むがこれに限定されない腫瘍溶解性(oncoclytic)麻疹ウイルスであり得る。ウイルスベクターの選択は、ウイルスバックボーンの向性、導入遺伝子サイズ又は科学者が入手可能であるかに依存する場合がある。したがって、PTEN-Long発現HSVウイルスベクターが本明細書で開示され、ここで、ウイルスバックボーンは、腫瘍細胞を標的化するため及び/又は、例えば、HSVQuick(HSVQ)などの腫瘍特異的プロモーターの制御下でウイルス複製に重要な遺伝子を配置するために改変された、腫瘍溶解性HSV-1バックボーンである。
【0028】
(2)ヘルペスウイルスベクター
ヘルペスウイルスは、ヘルペスウイルス科に属する動物ウイルスである。ヘルペスウイルスは、宿主範囲が広く、巨大導入遺伝子ペイロードを受容することができる。加えて、ヘルペスウイルスは、被験体において潜伏感染を確立し、永久に持続する能力を有する。
【0029】
単純ヘルペスウイルス-1ベクター(例えば、HSVQuick)などのヘルペスウイルスベクターは、複製に必須ではないが宿主細胞範囲に影響を及ぼす遺伝子を除去するために、弱毒化することができる。例えば、ウイルスは、神経病原性因子γ-34.5及び/又はウイルスリボヌクレオチドリダクターゼICP6において欠失を含むように改変することができる。更なる改変は、ICP47及び/又はGM-CSF発現の欠失又はヌル変異を含むことができる。
【0030】
開示されるヘルペスウイルスベクターはまた、複製欠損であり得る。HSVは、80種よりも多いウイルス遺伝子産物をコードし、それらの約半分は、ウイルス複製のために必須である。必須遺伝子の1つを欠失させることにより複製欠損変異体を作製し、補完細胞株によりトランス型において遺伝子産物を提供することは、比較的容易である。このような変異体ウイルスは、非補完細胞において複製不可能であるが、変異体ウイルスは、多くのウイルス遺伝子産物を依然として発現するという事実により、細胞毒性を保持することができる。ウイルス複製はまた、トランス型においてインビトロで補完することができる最初期遺伝子におけるヌル突然変異によって容易に破壊され、非病原性ベクターの高力価の純粋製剤を直接産生することが可能となる。複製欠損ベクターによる形質導入は、神経組織及び非神経組織の両方において潜在的感染を引き起こし、ベクターは、非病原性であり、再活性化が不可能であり、長期持続する。例えば、HSVQuickウイルスベクター(HSVQ)は、非神経組織への感染を制限するように改変された。一態様では、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む組換えウイルスが本明細書で開示され、その組換えウイルスは、例えば、単純ヘルペスウイルスなどのヘルペスウイルスである。いくつかの態様では、PTEN-Long発現HSVウイルスベクターが本明細書で開示され、ウイルスバックボーンは、腫瘍細胞を標的化するため及び/又は、例えば、HSVQuick(HSVQ)などの腫瘍特異的プロモーターの制御下でウイルス複製に重要な遺伝子を配置するために改変された、HSV-1バックボーンである。PTEN-Long導入遺伝子を発現するHSVQウイルスは、本明細書ではHSV P10又はRAPTORウイルスと称する(例えば、図1Aを参照されたい)。
【0031】
(3)レトロウイルスベクター
レトロウイルスは、レトロウイルス科に属する動物ウイルスであり、任意の型、亜科、属又は向性を含む。レトロウイルスベクターは、全般的に、Verma,I.M.「Retroviral vectors for gene transfer」により記載されている。
【0032】
レトロウイルスは、本質的に、核酸カーゴを内部に包み込んだパッケージである。核酸カーゴは、それと共にパッケージングシグナルを担持し、複製された娘分子がパッケージコート内に効率的にパッケージされることを確実にする。パッケージシグナルに加えて、
複製及び複製されたウイルスのパッケージングのために、シス型において必要とされる多数の分子がある。一般的に、レトロウイルスゲノムは、タンパク質膜の作製に関与するgag、pol及びenv遺伝子を含む。レトロウイルスゲノムは、標的細胞に導入されるべき外来DNAにより一般的に置換されたgag、pol及びenv遺伝子である。レトロウイルスベクターは、パッケージコート内に取り込むためのパッケージングシグナル、gag転写ユニットの開始の信号を発する配列、逆転写のtRNAプライマーに結合するためのプライマー結合部位を含む逆転写に必要な要素、DNA合成中にRNAストランドのスイッチを誘導する端末反復配列、DNA合成の第2のストランドの合成用のプライミング部位として作用するプリンに富む配列5’から3’LTR、及び宿主ゲノム内に挿入するレトロウイルスのDNA状態の挿入を可能にするLTRの端部付近にある特定の配列を典型的に含む。gag、pol及びenv遺伝子の除去は、約8kbの外来配列がウイルスゲノムに挿入され、逆転写された状態となり、複製時に新たなレトロウイルス粒子内にパッケージされることを可能にする。この量の核酸は、それぞれの転写物のサイズに応じて1つから多数の遺伝子の送達に十分である。正又は負の選択可能なマーカーのいずれかをインサートにおいて他の遺伝子と共に含むことが好ましい。
【0033】
大部分のレトロウイルスベクター中の複製機構及びパッケージングタンパク質を除去したため(gag、pol及びenv)、ベクターは、それらをパッケージング細胞株内に配置することによって一般的に生成される。パッケージング細胞株は、複製機構及びパッケージング機構を含むが、パッケージングシグナルを欠いているレトロウイルスによりトランスフェクト又は形質転換された、細胞株である。選択DNAを担持したベクターがこの細胞株にトランスフェクトされると、目的の遺伝子を含むベクターは、ヘルパー細胞によりシス型において提供された機構により、複製され、新たなレトロウイルス粒子内にパッケージされる。機構に関するゲノムがパッケージされないのは、ゲノムが必須シグナルを欠いているからである。
【0034】
(4)アデノウイルスベクター
複製欠損アデノウイルスの構築が記載されている(Berkner et al.,J.Virology 61:1213~1220(1987);Massie et al.,Mol.Cell.Biol.6:2872~2883(1986);Haj Ahmad et al.,J.Virology 57:267~274(1986);Davidson et al.,J.Virology 61:1226~1239(1987);Zhang「Generation and identification of recombinant adenovirus by liposome-mediated transfection and PCR analysis」BioTechniques 15:868~872(1993))。ベクターとしてこれらのウイルスを使用する利点は、他の細胞型に広がることができる程度が限定されていることであり、これは、それらが初期感染細胞内部で複製できるが、新たな感染性ウイルス粒子を形成することができないためである。組換えアデノウイルスは、気道上皮、肝細胞、血管内皮、CNS親腫及び多数の他の組織部位への直接的なインビボ送達の後に高効率遺伝子導入を達成することが示されている。組換えアデノウイルスは、特定の細胞表面受容体に結合することによって遺伝子導入を実現し、その後、そのウイルスは、野生型又は複製欠損アデノウイルスと同様に、受容体媒介エンドサイトーシスにより取り込まれる。
【0035】
ウイルスベクターは、除去されたE1遺伝子を有していたアデノウイルスに基づくウイルスベクターであり得、これらのビリオンは、ヒト293細胞株などの細胞株において生成される。別の好ましい実施形態では、E1及びE3遺伝子の両方が、アデノウイルスゲノムから除去される。
【0036】
(5)アデノ随伴ウイルスベクター
他の種類のウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づく。この欠損パルボウイルスは、多数の細胞型に感染することができ、ヒトに対して非病原性であるため、好ましいベクターである。AAV型ベクターは、約4~5kbを輸送することができ、野生型AAVは、19番染色体に安定して挿入することが既知である。この部位特異的組み込み特性を含むベクターが好ましい。この種類のベクターの特に好ましい実施形態は、Avigen(San Francisco,CA)により作製されたP4.1 Cベクターであり、単純ヘルペスウイルス・チミジンキナーゼ遺伝子、HSV-tk及び/又は緑色蛍光タンパク質GFPをコードする遺伝子などのマーカー遺伝子を含むことができる。
【0037】
別の種類のAAVウイルスでは、AAVは、非相同遺伝子に操作可能に結合された細胞特異的発現を誘導するプロモーターを含む少なくとも1つのカセットに隣接する、逆方向末端反復(ITR)の対を含む。この文脈において非相同とは、AAV又はB19パルボウイルスに由来しない任意のヌクレオチド配列又は遺伝子を指す。
【0038】
一般的に、AAV及びB19のコード化領域は、欠失しており、安全な非細胞毒性ベクターをもたらす。AAV ITR又はその改変体は、感染性及び部位特異的組み込みを付与するが、細胞毒性を付与せず、プロモーターは、細胞特異的発現を誘導する。米国特許第6,261,834号は、AAVベクターに関連する資料について、参照により本明細書に組み込まれる。
【0039】
したがって、開示されるベクターは、実質的な毒性を持つことなく哺乳動物の染色体内に組み込むことが可能なDNA分子をもたらす。
ウイルス又はレトロウイルスに挿入された遺伝子は、通常、所望の遺伝子産物の発現の制御を助けるためのプロモーター及び/又はエンハンサーを含む。プロモーターは、一般的に、転写開始部位に関して比較的固定された位置にあるときに機能するDNAの配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼ及び転写因子の基本的な相互作用に必要なコアエレメントを含み、上流エレメント及び応答エレメントを含むことができる。
【0040】
(6)巨大ペイロードウイルスベクター
巨大ヒトヘルペスウイルスを用いた分子遺伝学的実験は、ヘルペスウイルスに感染可能な細胞において、巨大非相同DNAフラグメントをクローニングし、増殖させ、確立することができる手段を提供した(Sun et al.,Nature genetics
8:33~41,1994;Cotter and Robertson,Curr Opin Mol Ther 5:633~644、1999)。これらの巨大DNAウイルス(単純ヘルペスウイルス(HSV)及びエプスタイン・バールウイルス(EBV)は、>150kbのヒト非相同DNAフラグメントを特定の細胞に送達する能力を有する。EBV組換え体は、感染B細胞内のDNAの巨大断片をエピソームDNAとして維持することができる。ヒトゲノムインサートに担持された330kbまでの個々のクローンは、遺伝的に安定していることを示した。これらのエピソームの維持は、EBV感染時に構成的に発現される、特定のEBV核タンパク質、EBNA1を必要とする。加えて、これらのベクターは、トランスフェクションに使用することができ、大量のタンパク質を、インビトロで一時的に生成することができる。ヘルペスウイルス単位複製配列システムはまた、>220kbのDNA断片をパッケージし、エピソームとしてDNAを安定して維持することができる細胞を感染させるために使用されている。
【0041】
他の有用なシステムは、例えば、複製ワクシニアウイルスベクター及び宿主制限的非複製ワクシニアウイルスベクターを含む。
b)非核酸系システム
本明細書に開示されるように、PTEN-Longは、種々の方法で標的細胞に送達す
ることができる。例えば、組成物は、エレクトロポレーションを介して、又はリポフェクションを介して、又はリン酸カルシウム沈殿を介して送達することができる。選択された送達機構は、標的化された細胞の種類に部分的に依存し、送達が、例えば、インビボ又はインビトロで行われているかどうかに依存することとなる。
【0042】
したがって、組成物は、開示されるPTEN-Long及び当該PTEN-Long導入遺伝子を含むHSVQベクターに加えて、例えば、カチオン性リポソーム(例えば、DOTMA、DOPE、DCコレステロール)又はアニオン性リポソームなどのリポソームのような脂質を含むことができる。リポソームは、所望する場合、特定の細胞の標的化を容易にするためのタンパク質を更に含むことができる。化合物及びカチオン性リポソームを含む組成物の投与は、標的器官への血液輸入に投与することができるか又は気道内に吸入して気道の細胞を標的化することができる。リポソームに関して、例えば、Brigham et al.Am.J.Resp.Cell.Mol.Biol.1:95~100(1989);Felgner et al.Proc.Natl.Acad.Sci
USA,84:7413~7417(1987);米国特許第4,897,355号を参照されたい。更に、化合物は、マクロファージなどの特定の細胞種を標的とすることができるマイクロカプセルの成分として、又はマイクロカプセルからの化合物の拡散若しくは化合物の送達が特定の速度若しくは投与量について設計されている部位で、投与することができる。
【0043】
被験体の細胞内への外因性DNAの投与及び取り込み(すなわち、遺伝子形質導入又はトランスフェクション)を含む上記記載の方法では、細胞への組成物の送達は、多様な機構を介することができる。一例として、送達は、リポソームを介することができ、LIPOFECTIN、LIPOFECTAMINE(GIBCO-BRL,Inc.,Gaithersburg,MD)、SUPERFECT(Quagen,Inc.Hilden,Germany)及びTRANSFECTAM(Promega Biotec,Inc.,Madison,WI)などの市販のリポソーム製剤、並びに当該技術分野の標準手順に従って開発された他のリポソームを使用する。加えて、開示される核酸又はベクターは、エレクトロポレーションによりインビボで送達することができ、送達のための技術は、Genetronics,Inc.(San Diego,CA)から入手でき、また同様にSONOPORATION機械(ImaRx Pharmaceutical
Corp.,Tuscon,AZ)により利用できる。
【0044】
材料は、溶液、(例えば、微小粒子、リポソーム又は細胞に組み込まれた)懸濁液であってもよい。これらは、抗体、受容体又は受容体リガンドを介して特定の細胞型を標的としてもよい。以下の参照文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織へ標的化するためにこの技術を使用する例である(Senter,et al.,Bioconjugate Chem.,2:447~451,(1991);Bagshawe,K.D.,Br.J.Cancer,60:275~281,(1989);Bagshawe,et al.,Br.J.Cancer,58:700~703,(1988);Senter,et
al.,Bioconjugate Chem.,4:3~9,(1993);Battelli,et al.,Cancer Immunol.Immunother.,35:421~425,(1992);Pietersz and McKenzie,Immunolog.Reviews,129:57~80,(1992);及びRoffler,et al.,Biochem.Pharmacol,42:2062~2065,(1991))。これらの手法は、多様な他の特定の細胞型について使用することができる。「ステルス」などのビヒクル及び(結腸癌を標的とする脂質介在性薬物を含む)他の抗体共役(conjugated)リポソーム、細胞特異的リガンドを介するDNAの受容体介在性標的化、リンパ球指向性腫瘍標的化、並びにインビボでのマウス神経膠腫細胞の高特異的治療的レトロウイルス標的化。以下の参照文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織へ
標的化するためにこの技術を使用する例である(Hughes et al.,Cancer Research,49:6214~6220,(1989);及びLitzinger and Huang,Biochimica et Biophysica Acta,1104:179~187,(1992))。全般的に、受容体は、構成的誘発性又はリガンド誘発性のいずれかで、エンドサイトーシスの経路に関与する。クラスリン被覆ピット中のこれらの受容体クラスターは、クラスリン被覆小胞を介して細胞に入り、受容体が分別される酸性化エンドソームを通過し、次いで、細胞表面へ再循環するか、細胞内に保存されるか又はリポソーム内で分解されるかのいずれかである。内在化経路は、栄養取り込み、活性化タンパク質の除去、巨大分子のクリアランス、ウイルス及び毒素の日和見侵入、リガンドの解離及び分解、並びに受容体レベル調節などの多様な機能を果たす。多数の受容体は、細胞型、受容体濃度、リガンドの種類、リガンドの価数及びリガンド濃度に応じて、2つ以上の細胞内経路に従う。受容体介在性エンドサイトーシスの分子機構及び細胞機構がレビューされている(Brown and Greene,DNA and Cell Biology 10:6,399~409(1991))。
【0045】
宿主細胞ゲノム内に組み込まれることとなる、細胞に送達される核酸は、組み込み配列を一般的に含む。これらの配列は、特に、ウイルス系システムが使用されるときに、ウイルス関連配列である場合が多い。これらのウイルス組み込みシステムはまた、リポソームなどの、送達の非核酸系システムを使用して送達されることとなる核酸内に組み込むこともできるため、送達システムに含まれる核酸は、宿主ゲノム内に組み込まれているようにすることができる。
【0046】
宿主ゲノム内に組み込むための他の一般的な技術は、例えば、宿主ゲノムとの相同的組換えを促進するように設計されたシステムを含む。これらのシステムは、ベクター核酸と標的核酸との間で組換えが生じる宿主細胞ゲノム内の標的配列と十分な相同性を有する、発現されることとなる核酸に隣接する配列に一般的に依存し、送達された核酸が宿主ゲノム内に組み込まれるようにする。相同的組換えを促進するために必要なこれらのシステム及び方法は、当業者に既知である。
【0047】
c)インビボ/エクスビボ
上記のように、組成物は、薬学的に許容される担体に施すことができ、当該技術分野で公知の多様な機構(例えば、裸のDNAの取り込み、リポソーム融合、遺伝子銃を介したDNAの筋肉内注射、エンドサイトーシスなど)によりインビボかつ/又はエクスビボで被験体の細胞に送達することができる。
【0048】
エクスビボ法が使用される場合、細胞又は組織は、当該技術分野で公知の標準プロトコルに従って除去して、体外で維持することができる。組成物は、例えば、リン酸カルシウム媒介遺伝子送達、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション又はプロテオリポソームなどの任意の遺伝子導入機構を介して細胞内に導入することができる。次いで、形質導入細胞は、(例えば、薬学的に許容される担体に)注入するか又は細胞若しくは組織種類に対する標準的方法を通じて、被験者に同型で移植して戻すことができる。標準的方法は、被験体内への様々な細胞の移植又は注入として既知である。
【0049】
発現系
細胞に送達される核酸は、発現制御系を一般的に含む。例えば、ウイルス又はレトロウイルスの系に挿入された遺伝子は通常、所望の遺伝子産物の発現の制御を助けるためのプロモーター及び/又はエンハンサーを含む。プロモーターは、一般的に、転写開始部位に関して比較的固定された位置にあるときに機能するDNAの配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼ及び転写因子の基本的な相互作用に必要なコアエレメントを含み、上流エレメント及び応答エレメントを含むことができる。
【0050】
a)ウイルスプロモーター及びエンハンサー
哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの転写を制御する好ましいプロモーターは、様々な起源、例えば、ポリオーマ、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルスなど、最も好ましくは、サイトメガロウイルスなどのウイルスのゲノムから、又は非相同哺乳動物プロモーター、例えば、βアクチンプロモーターから得てもよい。SV40ウイルスの初期プロモーター及び後期プロモーターは、SV40ウイルスの複製起点もまた含む、SV40制限フラグメントとして簡便に得られる(Fiers et al.,Nature,273:113(1978))。ヒトサイトメガロウイルスの最初期プロモーターは、HindIII E制限フラグメントとして簡便に得られる(Greenway,P.J.et al.,Gene 18:355~360(1982))。当然ながら、宿主細胞又は関連する種からのプロモーターもまた、本明細書において有用である。
【0051】
エンハンサーは、一般的に、転写開始部位から不定の距離で機能するDNAの配列を指し、転写ユニットに対して5’(Laimins,L.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.78:993(1981))又は3’(Lusky,M.L.,et al.,Mol.Cell Bio.3:1108(1983))のいずれかに存在し得る。更に、エンハンサーは、イントロン内(Banerji,J.L.et al.,Cell 33:729(1983))、及びコーディング配列それ自体内(Osborne,T.F.,et al.,Mol.Cell Bio.4:1293(1984))に存在し得る。エンハンサーは、通常、10~300bpの長さであり、シス型で機能する。エンハンサーは、近傍のプロモーターからの転写を増大させるよう機能する。エンハンサーはまた、転写の調節を媒介する応答性のエレメントをしばしば含む。プロモーターもまた、転写の調節を媒介する応答性のエレメントを含み得る。エンハンサーは、遺伝子の発現の調節を多くの場合決定する。現在、哺乳動物の遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、-フェトプロテイン及びインスリン)由来の多くのエンハンサー配列が知られているが、一般的には、真核生物細胞ウイルス由来のエンハンサーが一般的な発現のために使用されることとなる。好ましい例は、複製起点(bp100~270)の後位置のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後位置のポリオーマエンハンサー及びアデノウイルスエンハンサーである。
【0052】
プロモーター及び/又はエンハンサーは、それらの機能を引き起こす光又は特定の化学事象のいずれかによって特異的に活性化されてもよい。系は、テトラサイクリン及びデキサメタゾンなどの試薬によって制御できる。ガンマ線照射などの照射又はアルキル化化学療法薬への曝露によってウイルスベクター遺伝子発現を増強する方法もまた存在する。
【0053】
ある実施形態において、プロモーター及び/又はエンハンサー領域は、転写されるべき転写ユニットの領域の発現を最大化するために、構成的プロモーター及び/又はエンハンサーとして作用することができる。ある構築物において、プロモーター及び/又はエンハンサー領域は、たとえそれが特定の時期に特定の型の細胞においてのみ発現する場合であっても、真核生物細胞の全ての種類で活性である。この種類の好ましいプロモーターは、CMVプロモーター(650塩基)である。他の好ましいプロモーターは、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(全長プロモーター)及びレトロウイルスベクターLTRである。いくつかの態様では、構成的プロモーターは、HSVに対する最初期遺伝子プロモーターなどのウイルスバックボーンにおいて発現されるプロモーターである。したがって、一態様では、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む組換えウイルスが本明細書に開示され、PTEN-Long遺伝子は、例えば、HSV IE4/5プロモーターなどの構成的プロモーターに操作可能に結合されている。
【0054】
いくつかの実施形態では、プロモーターは、特定の組織への発現を制限するための、一定の条件が成立するとき又は管理医師が発現を開始かつ/又は停止したいときの、組織特異的プロモーター又は誘導性プロモーターであり得る。誘導性プロモーターは、当該技術分野で既知の任意の誘導性プロモーターを含むことができ、テトラサイクリン誘導性トランスジェニックシステム(テトラサイクリン転写活性化因子(tTA)又は「Tet-Off」及び逆テトラサイクリン転写活性化因子(rtTA)又は「Tet-On」)及びCre-loxが挙げられるが、これらに限定されない。組織特異的プロモーターは、発現が特定の組織/細胞型に制限されるプロモーターである。組織特異的プロモーターは、当該技術分野で公知であり、既知又は市販の任意の組織特異的プロモーターを含むことができる。組織特異的プロモーターの選択は、発現が望まれる細胞型に基づく。したがって、一態様では、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む組換えウイルスが本明細書に開示され、PTEN-Long遺伝子は、組織特異的プロモーター又は誘導性プロモーターに操作可能に結合されている。
【0055】
全ての特定の制御エレメントを、コンストラクト発現ベクターにクローニングして、使用することができ、それは、黒色腫細胞などの特定の細胞型において選択的に発現することが明らかになっている。グリア線維性酢酸性タンパク質(glial fibrillary acetic protein、GFAP)のプロモーターは、膠細胞起源の細胞において選択的に遺伝子を発現
するのに使用されている。
【0056】
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト又は有核細胞)に用いられる発現ベクターはまた、転写の終止に必要な配列を含んでいてもよく、これはmRNAの発現に影響を及ぼす。これらの領域は、組織因子タンパク質をコードするmRNAの未翻訳部分においてポリアデニル化セグメントとして転写される。3’非翻訳領域はまた、転写終結部位を含む。転写単位がポリアデニル化領域もまた含むことが好ましい。この領域の1つの利点は、それが転写単位をmRNAのように加工及び輸送する可能性を高めることである。発現コンストラクトにおけるポリアデニル化シグナルの同定及び使用は、よく確立されている。同種のポリアデニル化シグナルが導入遺伝子コンストラクトにおいて使用されることが好ましい。ある転写単位において、ポリアデニル化領域は、SV40初期ポリアデニル化シグナルに由来し、約400塩基からなる。転写単位が他の標準的な配列を単独で、又は上述の配列と組み合わせて含み、コンストラクトからの発現、又はその安定性を向上させることもまた好ましい。
【0057】
b)マーカー
ウイルスベクターは、マーカー産物をコードする核酸配列を含み得る。このマーカー産物は、遺伝子が細胞に送達され、送達された後に発現されるかどうかを確認するために使用される。好ましいマーカー遺伝子は、β-ガラクトシダーゼをコードする大腸菌lacZ遺伝子及び緑色蛍光タンパク質である。
【0058】
いくつかの実施形態では、マーカーは、選択可能マーカーであってもよい。哺乳動物細胞に対する好適な選択可能マーカーの例には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ、ネオマイシン、ネオマイシン類似体G418、ハイドロマイシン(hydromycin)及びピューロマイシンが挙げられる。このような選択可能マーカーが哺乳動物宿主細胞に成功裏に導入されると、形質転換された哺乳動物宿主細胞は、選択圧に置かれた場合に生存することができる。広く使用されている2つの異なるカテゴリの選択体制が存在する。第1のカテゴリは、細胞の代謝と、補充された培地と独立して増殖する能力を欠落する変異細胞株の使用とに基づく。2つの例は、CHO DHFR細胞及びマウスLTK細胞である。これらの細胞は、チミジン又はヒポキサンチンのような栄養素の添加なしで増殖する能力を欠落する。これらの細胞は、完全なヌクレオチド合成経路に必要な特定の遺伝子を欠損しているので、失われたヌクレオチドが補充された培地中に供給されな
ければ生存できない。培地を補充することの代替としては、無傷のDHFR又はTK遺伝子を、対応する遺伝子を欠損している細胞へと導入し、それによってそれらの増殖要求を改変することである。DHFR又はTK遺伝子によって形質転換されなかった個々の細胞は、無添加培地において生存することができない。
【0059】
第2のカテゴリは、任意の細胞型で使用される選択スキームを指し、変異細胞株の使用を必要としない、優性選択である。これらのスキームは、一般的には、宿主細胞の増殖を停止するための薬剤を使用する。新規遺伝子を有するそれらの細胞は、薬物耐性をもたらすタンパク質を発現し、選択を生き延びることができる。そのような優性選択の例は、薬物ネオマイシン(Southern P.and Berg,P.,J.Molec.Appl.Genet.1:327(1982))、ミコフェノール酸(Mulligan,R.C.and Berg,P.Science 209:1422(1980))又はハイグロマイシン(Sugden,B.et al.,Mol.Cell.Biol.5:410~413(1985))を使用する。それらの3つの例は、真核生物の制御下で細菌の遺伝子を使用し、それぞれ、適切な薬物G418若しくはネオマイシン(ジェネティシン)、xgpt(ミコフェノール酸)又はハイグロマイシンに対する耐性をもたらす。他は、ネオマイシン類似体G418及びピューラマイシンを含む。
【0060】
配列類似性
本明細書で論じられる場合、相同性及び同一性という語句の使用は、類似性と同じことを意味すると理解される。したがって、例えば、相同性という語の使用が2つの非天然配列間で使用される場合、これが必ずしもこれらの2つ配列間の進化的関係を示さないが、むしろそれらの核酸配列間の類似度又は関連性に注目していると理解される。進化的に関連する2つの分子間の相同性を決定するための方法の多くは、任意の2つ以上の核酸又はタンパク質に、それらが進化的に関連するか否かに関わらず、配列類似性を測定する目的で規定どおりに適用される。
【0061】
本明細書で開示される遺伝子及びタンパク質のうちの任意の既知の変異体及び誘導体又は起こり得るものを決定するための1つの方法は、特定の既知の配列に対する相同性に関して変異体及び誘導体を定義することによるものであることが理解される。例えば、配列番号1は、PTEN-Long遺伝子の特定の配列を明示する。具体的には、記載された配列に対して少なくとも70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99パーセントの相同性を有する、本明細書で開示されるこれら及び他の遺伝子及びタンパク質の変異体が開示される。当業者は、2つのタンパク質又は遺伝子などの2つの核酸の相同性を決定する方法を容易に理解する。例えば、相同性は、相同性が最も高いレベルになるように2つの配列をアライメントした後に算出することができる。
【0062】
一般的に、本明細書で開示される遺伝子及びタンパク質のうちの任意の既知の変異体及び誘導体又は起こり得るものを決定するための1つの方法は、特定の既知の配列に対する相同性に関して変異体及び誘導体を定義することによるものであることが理解される。本明細書で開示される特定の配列の同一性もまた、本明細書の他の個所で論じられる。一般的には、本明細書で開示される遺伝子及びタンパク質の変異体は、典型的には、記載された配列又は天然配列に対して、少なくとも約70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99パーセントの相同性を有する。当業者は、2つのタンパク質又は遺伝子などの2つの核酸の相同性を決定する方法を容易に理解する。例えば、相同性は、相同性が最も高いレベルになるように2つの配列をアライメントした後に算出することができる。
【0063】
相同性を算出する他の方法は、公開されたアルゴリズムによって行うことができる。比較のための配列の最適なアライメントは、Smith and Waterman Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch,J.MoL Biol.48:443(1970)の相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444(1988)の類似性に関する検索法によって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)のコンピュータ化された実施によって、又はインスペクションによって行われてもよい。
【0064】
方法のうちの任意を一般的に使用することができること、特定の場合には、これらの様々な方法の結果が異なってもよいことが理解されるが、当業者は、同一性がこれらの方法のうちの少なくとも1つにより見出される場合、配列が記載された同一性を有すると言えるであろうこと、及び本明細書で開示されているであろうことが理解される。
【0065】
例えば、本明細書で使用するとき、他の配列と特定のパーセントの相同性を有していると記載された配列は、上述の計算法のうちの任意の1つ以上によって計算されたとして記載された相同性を有する配列を指す。例えば、第1の配列がZuker計算法を用いて第2の配列と80パーセントの相同性を有するように計算される場合、第1の配列が他の計算法のいずれかによって計算されたように第2の配列と80パーセントの相同性を有さない場合であっても、第1の配列は、本明細書で定義されたように、第2の配列と80パーセントの相同性を有する。別の例として、第1の配列がZuker計算法及びPearson-Lipman計算法の両方を用いて第2の配列と80パーセントの相同性を有するように計算される場合、第1の配列がSmith-Waterman計算法、Needleman-Wunsch計算法、Jaeger計算法又は他の計算法のうちのいずれかによって計算されたように第2の配列と80パーセントの相同性を有さない場合であっても、第1の配列は、本明細書で定義されたように、第2の配列と80パーセントの相同性を有する。更に別の例として、第1の配列が計算法のそれぞれを用いて第2の配列と80パーセントの相同性を有するように計算される場合、第1の配列は、本明細書で定義されたように、第2の配列と80パーセントの相同性を有する(ただし、実際には、異なる計算法は、多くの場合、異なる計算相同性百分率をもたらすこととなる)。
【0066】
ハイブリダイゼーション/選択的ハイブリダイゼーション
用語ハイブリダイゼーションは、プライマー又はプローブ及び遺伝子などの少なくとも2つの核酸分子間の配列駆動相互作用を、一般的に意味する。配列駆動相互作用は、2つのヌクレオチド又はヌクレオチド類似体又はヌクレオチド誘導体の間にヌクレオチド特異的な様式で生じる相互作用を意味する。例えば、Cと相互作用するG又はTと相互作用するAは、配列駆動相互作用である。一般的に、配列駆動相互作用は、ヌクレオチドのワトソン-クリック面又はフーグスティーン面の上で生じる。2つの核酸のハイブリダイゼーションは、当業者に既知の多くの条件及びパラメータにより影響を受ける。例えば、反応の塩濃度、pH及び温度は全て、2つの核酸分子がハイブリダイズすることとなるかどうかに影響を与える。
【0067】
2つの核酸分子間の選択的ハイブリダイゼーションのためのパラメータは、当業者に公知である。例えば、いくつかの実施形態では、選択的ハイブリダイゼーション条件は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件として定義することができる。例えば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーション工程及び洗浄工
程のいずれか一方又は両方の、温度及び塩濃度の両方によって制御される。例えば、選択的ハイブリダイゼーションを達成するハイブリダイゼーションの条件は、Tm(分子の半分がそのハイブリダイゼーション相手から解離する融点)未満の約12~25℃の温度での高イオン強度溶液(6X SSC又は6X SSPE)中でのハイブリダイゼーションと、それに続く、洗浄温度がTm未満の約5℃~約20℃となるように選択された温度及び塩濃度の組み合わせで洗浄されることを含んでもよい。温度及び塩条件は、フィルタに固定化された基準DNAの試料を対象の標識核酸にハイブリダイズさせた後、異なるストリンジェンシーの条件下で洗浄した予備実験において、経験的に容易に決定される。ハイブリダイゼーション温度は、一般的には、DNA-RNAハイブリダイゼーション及びRNA-RNAハイブリダイゼーションについてはより高い。条件は、ストリンジェンシーを達成するために上記のように、又当該技術分野で既知であるように使用することができる。DNAに対して好ましいストリンジェントなハイブリダイゼーション条件。DNAハイブリダイゼーションは、6X SSC又は6X SSPE中で(水溶液中で)約68℃にあり、その後68℃で洗浄することができる。ハイブリダイゼーション及び洗浄のストリンジェンシーは、所望する場合、所望する相補性の程度が減少するに従って、また更に、可変性が探索される任意の領域のG-C又はA-Tの豊富度に応じて、低減することができる。同様に、ハイブリダイゼーション及び洗浄のストリンジェンシーは、所望する場合、所望する相同性が増加するに従って、また更に、高い相同性が所望される任意の領域のG-C又はA-Tの豊富度に応じて、全て当該技術分野で既知のように、増加させることができる。
【0068】
選択的ハイブリダイゼーションを定義するための別の方法は、別の核酸に結合した核酸のうちの1つの量(百分率)に注目することによる。例えば、いくつかの実施形態では、選択的ハイブリダイゼーション条件は、制限核酸の少なくとも約60、65、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100パーセントが、非制限核酸に結合されているときであろう。一般的には、非制限プライマーは、例えば、10又は100又は1000倍過剰である。このタイプのアッセイは、制限プライマー及び非制限プライマーの両方が、例えば、それらのk未満である10倍若しくは100倍若しくは1000倍であるか、又は核酸分子の1つのみが10倍又は100倍又は1000倍であるか、又は核酸分子の一方又は両方がそれらのkを超える条件下で行うことができる。
【0069】
選択的ハイブリダイゼーションを定義するための別の方法は、所望の酵素的操作を促進するためにハイブリダイゼーションが必要な条件下で酵素的操作を受けたプライマーの百分率に注目することである。例えば、いくつかの実施形態では、選択的ハイブリダイゼーション条件は、プライマーの少なくとも約60、65、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100パーセントが、酵素的操作を促進する条件下で酵素的操作されるときであろう。例えば、酵素的操作がDNA伸長である場合には、選択的ハイブリダイゼーション条件は、プライマー分子の少なくとも約60、65、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100パーセントが伸長される場合であろう。好ましい条件はまた、酵素が操作を行うために適切であるとして製造メーカによって提案された又は当該技術分野で示された条件を含む。
【0070】
相同性と同様に、2つの核酸分子間のハイブリダイゼーションのレベルを決定するために本明細書に開示される様々な方法が存在することが理解される。これらの方法及び条件が、2つの核酸分子間のハイブリダイゼーションの異なる割合を提供してもよく、特に指
示しない限り、方法のいずれかのパラメータを満たすことが十分であろうことが理解される。例えば、80%ハイブリダイゼーションが必要であり、ハイブリダイゼーションがこれらの方法のいずれか1つにおける必要なパラメータの範囲内で起こる場合に限り、本明細書で開示されたと考えられる。
【0071】
組成物又は方法が、全体で又は個別のいずれかで、ハイブリダイゼーションを決定するためのこれらの基準のいずれか1つに適合する場合、本明細書で開示される組成物又は方法であることを当業者が理解するものと理解される。
【0072】
核酸
核酸系である、本明細書で開示される様々な分子があり、例えば、PTEN-Longをコードする核酸又はこれらのフラグメント及び様々な機能性核酸を含む。開示される核酸は、例えば、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド置換体からなる。これらの分子及び他の分子の非限定的な例は、本明細書において議論されている。例えば、細胞内でベクターが発現されるとき、発現されたmRNAは、一般的には、A、C、G及びUからなることが理解される。同様に、例えば、アンチセンス分子が、例えば、外因性の送達を通じて細胞又は細胞環境に導入される場合、アンチセンス分子が、細胞環境におけるアンチセンス分子の分解を低減するヌクレオチド類似体からなることが有益であることが理解される。
【0073】
a)ヌクレオチド及び関連分子
ヌクレオチドは、塩基部分、糖部分及びリン酸部分を含む分子である。ヌクレオチドは、ヌクレオシド間結合を生成するそれらのリン酸部分及び糖部分を通じて結合され得る。ヌクレオチドの塩基部分は、アデニン-9-イル(A)、シトシン-1-イル(C)、グアニン-9-イル(G)、ウラシル-1-イル(U)及びチミン-1-イル(T)であり得る。ヌクレオチドの糖部分は、リボース又はデオキシリボースである。ヌクレオチドのリン酸部分は、五価のリン酸である。ヌクレオチドの非限定例は、3’-AMP(3’-アデノシンモノリン酸)又は5’-GMP(5’-グアノシンモノリン酸)であろう。当該技術分野において利用可能な多数の様々のこれらの種類の分子が存在し、本明細書において利用可能である。
【0074】
ヌクレオチド類似体は、塩基、糖又はリン酸部分のいずれかにある種の修飾を含むヌクレオチドである。ヌクレオチドに対する修飾は、当該技術分野において公知であり、例えば、5-メチルシトシン(5-me-C)、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン及び2-アミノアデニン、並びに糖部分又はリン酸部分における修飾が挙げられる。当該技術分野において利用可能な多数の様々のこれらの種類の分子が存在し、本明細書において利用可能である。
【0075】
ヌクレオチド置換体は、ヌクレオチドに対して同様の機能性を有するが、ペプチド核酸(PNA)などのリン酸部分を含まない分子である。ヌクレオチド置換体は、ワトソン-クリック又はフーグスティーンの様式で核酸を認識するが、リン酸部分以外の部分を通じて共に結合する分子である。ヌクレオチド置換体は、適切な標的核酸と相互作用する際に二重らせん型構造に適合することができる。当該技術分野において利用可能な多数の様々のこれらの種類の分子が存在し、本明細書において利用可能である。
【0076】
他の種類の分子(コンジュゲート)をヌクレオチド又はヌクレオチド類似体に結合させて、例えば、細胞取り込みを増強することも可能である。コンジュゲートは、ヌクレオチド又はヌクレオチド類似体に化学結合することができる。このようなコンジュゲートとしては、コレステロール部分のような脂質部分が挙げられるが、これらに限定されない。(Letsinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,
1989,86,6553~6556)。当該技術分野において利用可能な多数の様々のこれらの種類の分子が存在し、本明細書において利用可能である。
【0077】
ワトソン-クリック相互作用は、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド置換体のワトソン-クリック面との少なくとも1つの相互作用である。ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド置換体のワトソン-クリック面は、プリン塩基ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド置換体のC2位、N1位及びC6位、並びにピリミジン塩基ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド置換体のC2位、N3位、C4位を含む。
【0078】
フーグスティーン相互作用は、二本鎖DNAの主溝において露出したヌクレオチド又はヌクレオチド類似体のフーグスティーン面で起こる相互作用である。フーグスティーン面は、プリンヌクレオチドのN7位及びC6位における反応性基(NH2又はO)を含む。
【0079】
b)配列
本明細書で開示されるシグナル伝達経路に関与するタンパク質分子に関連する様々な配列が存在し、例えば、PTEN-Long又はPTEN-Longを作製するために本明細書で開示される核酸のいずれかであり、これらの全ては、核酸によってコードされるか又は核酸である。これらの遺伝子のヒト類似体及び他の類似体、及びこれらの遺伝子の対立遺伝子、及びスプライス変異体、及び他の種類の変異体についての配列は、Genbankを含む、様々なタンパク質及び遺伝子のデータベースにおいて利用可能である。配列の矛盾及び相違をいかに解決するか、特定の配列に関する組成物及び方法を、他の関連する配列のためにいかに適応させるかについて、当業者は理解する。プライマー及び/又はプローブは、本明細書に開示されている情報が与えられた任意の配列について設計することができ、当該技術分野で既知である。
【0080】
医薬担体/医薬品の送達
上述のように、組成物はまた、薬学的に許容される担体中で、インビボで投与され得る。「薬学的に許容される」とは、生物学的に又はその他の点で望ましい物質を意味し、すなわち、その物質は、望ましくない生物学的効果をいずれも引き起こすことなく、又は物質が含まれる医薬組成物の他の成分のいずれかと有害な様式で相互作用することなく、核酸又はベクターと共に被験体に投与されてもよい。担体は、当業者に公知であるように、活性成分の分解を最小限にするように、かつ被験体における任意の有害な副作用を最小限にするように、当然選択されるであろう。
【0081】
組成物は、局所鼻腔内投与又は吸入による投与を含んで、経口的に、非経口的に(例えば、静脈内に)、筋肉内注射によって、腹腔内注射によって、経皮的に、体外に、局所的になどで投与されてもよい。本明細書で使用するとき、「局所鼻腔内投与」は、鼻孔の一方又は両方を通る鼻及び鼻腔への組成物の送達を意味し、噴霧機構若しくは液滴機構による送達又は核酸若しくはベクターのエアロゾル化を介した送達を含むことができる。吸入による組成物の投与は、噴霧機構又は液滴機構による送達を介して鼻又は口を通して行うことができる。送達はまた、挿管を介して呼吸器系(例えば、肺)の任意の領域に対して直接行うことができる。必要とされる組成物の正確な量は、被験体の人種、年齢、体重及び全身状態、治療されるアレルギー性疾患の重症度、使用される特定の核酸又はベクター、組成物の投与様式などに依存して、被験体によって異なるであろう。したがって、全ての組成物の正確な量を指定することは不可能である。しかし、適量は、本明細書の教示に鑑みて、通常の実験のみを使用して、当業者によって決定され得る。
【0082】
組成物の非経口投与は、使用される場合、一般に注射を特徴とする。注射剤は、溶液若しくは懸濁液、注射前における液体での溶解又は懸濁に好適な固形、又は乳剤のいずれか
として、従来の形態で調製されてよい。非経口投与についてごく最近改良された方法は、一定用量が維持されるように徐放系又は持続放出系の使用を伴う。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第3,610,795号を参照されたい。
【0083】
材料は、溶液、(例えば、微小粒子、リポソーム又は細胞に組み込まれた)懸濁液であってもよい。これらは、抗体、受容体又は受容体リガンドを介して特定の細胞型を標的としてもよい。以下の参照文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織へ標的化するためにこの技術を使用する例である(Senter,et al.,Bioconjugate Chem.,2:447~451,(1991);Bagshawe,K.D.,Br.J.Cancer,60:275~281,(1989);Bagshawe,et al.,Br.J.Cancer,58:700~703,(1988);Senter,et
al.,Bioconjugate Chem.,4:3~9,(1993);Battelli,et al.,Cancer Immunol.Immunother.,35:421~425,(1992);Pietersz and McKenzie,Immunolog.Reviews,129:57~80,(1992);及びRoffler,et al.,Biochem.Pharmacol,42:2062~2065,(1991))。「ステルス」などのビヒクル及び(結腸癌を標的とする脂質介在性薬物を含む)他の抗体共役リポソーム、細胞特異的リガンドを介するDNAの受容体介在性標的化、リンパ球指向性腫瘍標的化、並びにインビボでのマウス神経膠腫細胞の高特異的治療的レトロウイルス標的化。以下の参照文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織へ標的化するためにこの技術を使用する例である(Hughes et al.,Cancer Research,49:6214~6220,(1989);及びLitzinger and Huang,Biochimica et Biophysica Acta,1104:179~187,(1992))。全般的に、受容体は、構成的誘発性又はリガンド誘発性のいずれかで、エンドサイトーシスの経路に関与する。クラスリン被覆ピット中のこれらの受容体クラスターは、クラスリン被覆小胞を介して細胞に入り、受容体が分別される酸性化エンドソームを通過し、次いで、細胞表面へ再循環するか、細胞内に保存されるか又はリポソーム内で分解されるかのいずれかである。内在化経路は、栄養取り込み、活性化タンパク質の除去、巨大分子のクリアランス、ウイルス及び毒素の日和見侵入、リガンドの解離及び分解、並びに受容体レベル調節などの多様な機能を果たす。多数の受容体は、細胞型、受容体濃度、リガンドの種類、リガンドの価数及びリガンド濃度に応じて、2つ以上の細胞内経路に従う。受容体介在性エンドサイトーシスの分子機構及び細胞機構がレビューされている(Brown and Greene,DNA and Cell Biology 10:6,399~409(1991))。
【0084】
a)薬学的に許容される担体
抗体を含む組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて治療する上で使用することができる。
【0085】
好適な担体及びこれらの製剤は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(19th ed.)ed.A.R.Gennaro,Mack Publishing Company,Easton,PA
1995に記載されている。一般的には、適量の薬学的に許容される塩を製剤に使用して、製剤等張性(formulation isotonic)を与える。薬学的に許容される担体の例には、生理食塩水、リンゲル溶液及びデキストロース溶液が挙げられるが、これらに限定されない。溶液のpHは、好ましくは、約5~約8、より好ましくは、約7~約7.5である。更に、担体は、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスなどの徐放性製剤を含み、マトリックスは、成形品の形態、例えば、フィルム、リポソーム又は微粒子である。例えば、投与経路及び投与される組成物の濃度に応じて、特定の担体が更に好ましい場合があることは、当業者には明白であろう。
【0086】
医薬担体は、当業者に既知である。これらは、最も一般的には、滅菌水、生理食塩水及び生理的pHの緩衝液などの溶液を含む、ヒトへの薬剤投与のための標準的な担体であると考えられる。組成物は、筋肉内又は皮下に投与することができる。他の化合物は、当業者によって使用される標準的な手順に従って投与されることとなる。
【0087】
医薬組成物は、選択した分子に加えて、担体、増粘剤、希釈剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤などを含んでもよい。医薬組成物はまた、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔薬などの、1種以上の有効成分を含んでもよい。
【0088】
医薬組成物は、局所治療又は全身治療が望まれているかどうか、及び治療すべき領域に応じて、多数の方法で投与されてもよい。投与は、(眼科的、経腟的、経直腸的、鼻腔内を含んで)局所的に、経口的に、吸入により又は、例えば、静脈内点滴、皮下注射、腹腔内注射若しくは筋肉内注射による非経口的にでもよい。開示される抗体は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内又は経皮的に投与することができる。
【0089】
非経口的投与の製剤には、滅菌した水溶液又は非水溶液、懸濁液及びエマルションが挙げられる。非水溶液の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油及びオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。水性担体には、生理食塩水及び緩衝媒体を含む、水、アルコール性/水性溶液、エマルション又は懸濁液が挙げられる。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル又は不揮発性油が挙げられる。静脈内ビヒクルには、流体及び栄養補充剤、電解質補充剤(リンゲルデキストロースに基づく電解質補充剤など)などが挙げられる。防腐剤及び他の添加剤はまた、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスなどとして存在してもよい。
【0090】
局所投与のための製剤は、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、液滴、坐剤、スプレー、液体及び粉末を含んでもよい。従来の医薬担体、水性基剤、粉末基剤又は油性基剤、増粘剤などが、必要となるか又は望ましい場合がある。
【0091】
経口投与のための組成物には、粉末若しくは顆粒、水中又は非水性媒体中の懸濁液若しくは溶液、カプセル、小袋又はタブレットが挙げられる。増粘剤、香味料、希釈剤、乳化剤、分散助剤又は結合剤が望ましい場合がある。
【0092】
組成物のうちのいくつかは、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸及びリン酸などの無機酸並びにギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸及びフマル酸などの有機酸との反応によって、又は、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムなどの無機塩基並びにモノ、ジ、トリアルキルアミン及びアリールアミン及び置換エタノールアミンなどの有機塩基類との反応によって形成される、薬学的に許容される酸付加塩又は塩基付加塩として、投与される可能性がある場合がある。
【0093】
b)治療的使用
組成物を投与するための有効量及びスケジュールは、経験的に決定されてもよく、そのような決定を行うことは、当業者の技能の範囲内である。組成物の投与の用量範囲は、疾患の症状に影響する所望の効果を生じるほど大きい用量である。用量は、望ましくない交差反応、アナフィラキシー反応などの有害な副作用を引き起こすほど大きくあるべきではない。一般に、用量は、年齢、状態、性別及び患者の疾患の程度、投与経路又は他の薬物がレジメンに含まれているかどうかにより変動することとなり、当業者によって決定することができる。用量は、いずれかの禁忌がある場合には、個々の医師によって調整するこ
とができる。用量は、変更することができ、毎日、1日又は数日間、1つ以上の用量の投与において投与することができる。指針は、所与のクラスの医薬製品に対する適切な用量に関する文献において見出すことができる。例えば、抗体について適切な用量を選択する際の指針は、抗体の治療用途に関する文献、例えば、Handbook of Monoclonal Antibodies,Ferrone et al.,eds.,Noges Publications,Park Ridge,N.J.,(1985)ch.22 and pp.303~357;Smith et al.,Antibodies in Human Diagnosis and Therapy,Haber
et al.,eds.,Raven Press,New York(1977)pp.365~389に見出すことができる。単独使用の抗体の一般的な1日用量は、上記の因子に基づいて、1日につき体重1kg当たり約1μg~最大100mg又はそれ以上の範囲である場合がある。
【0094】
C.癌を治療する方法
開示されるPTEN-Long発現組換えウイルスは、癌の治療に有効であることが理解され、本明細書で企図される。したがって、一態様では、本明細書で開示されるPTEN-Long発現ウイルスのいずれかを被験体に投与することを含む、被験体において癌を治療する方法が、本明細書に開示される。例えば、一態様では、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む組換えウイルス(PTEN-Long導入遺伝子を含む腫瘍溶解性HSVウイルスベクター、例えば、HSV-P10など)を被験体に投与することを含む、被験体における癌の治療方法が、本明細書に開示される。
【0095】
本明細書で開示されるPTEN-Long発現ウイルスは、癌などの制御不能な細胞増殖が生じる任意の疾患を治療するために使用することができる。種々の型の癌の非限定的リストには、以下のものがある。リンパ腫(ホジキン及び非ホジキン)、白血病、癌、固形組織の癌、扁平上皮癌、腺癌、肉腫、神経膠腫、高悪性度神経膠腫、芽細胞腫、神経芽細胞腫、形質細胞腫、組織球腫、黒色腫、腺腫、酸素欠乏腫瘍、骨髄腫、エイズ関連リンパ腫若しくは肉腫、転移性癌又は一般的な癌。
【0096】
開示するPTEN-Long発現ウイルスを治療に使用することができる癌の代表的な非限定的リストには、以下のものがある。リンパ腫、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、菌状息肉腫、ホジキン病、骨髄性白血病、膀胱癌、脳腫瘍、神経系癌、頭頚部癌、頭頚部扁平上皮癌、小細胞肺癌及び非小細胞肺癌などの肺癌、神経芽細胞腫、膠芽腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌、肝臓癌、黒色癌、口腔、咽喉、喉頭及び肺の扁平上皮癌、結腸癌、子宮頸癌、子宮頸癌種、乳癌、並びに上皮癌、腎癌、泌尿生殖器癌、肺癌、食道癌、頭頚部癌腫、大腸癌、造血性癌、精巣癌、結腸癌、並びに直腸癌。
【0097】
本明細書で開示される哺乳動物PTEN-Longを発現する組換えウイルスはまた、子宮頸部異形成及び肛門異形成などの前癌状態、他の異形成、高度異形成上皮、過形成、非定型過形成及び新生組織形成を治療するために使用してもよい。
【0098】
一態様では、開示されるPTEN-Long発現ウイルスは、被験体に既に存在する癌を阻害、低減又は治療するために治療的に投与することができる。しかし、PTEN-Long発現ウイルスを予防的に投与して転移を阻害又は減少させることができることもまた、本明細書で企図される。したがって、一態様では、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を発現する組換えウイルスを被験体に投与することを含む、被験体における癌の転移を阻害又は推定する方法が、本明細書に開示される。
【0099】
本明細書に開示されるように、癌を治療し、阻害し、かつ/又は減少させる能力は、少なからず、NK細胞及びCD8 T細胞などの免疫細胞の浸潤が増加した結果であり得
る。一般的には、CD8 T細胞及びNK細胞は、感染部位及び/又は癌が浸潤することを阻害するであろう。癌細胞は、多くの場合、PD1-PD-L1相互作用をチェックポイントとして利用して、NK細胞及びCD8 T細胞の浸潤を阻害する。PD1は、T細胞上で発現され、そのリガンドPD-L1と結合すると、シグナル伝達経路がトリガーされ、増殖を阻害するPD1を停止させる。癌細胞は、PD-L1を増加させて、T細胞及びNK細胞が媒介する死滅を回避する。開示されるPTEN-Long発現組換えウイルスは、PD-L1の発現を阻害する。PD-L1を阻害することにより、PD1-PD-L1チェックポイントが阻害され、NK細胞及びCD8 T細胞が浸潤して癌を死滅させることを可能にする。したがって、一態様では、本明細書で開示されるPTEN-Long発現組換えウイルスのいずれかを被験体に投与することを含む、被験体における癌の部位で浸潤CD8 T細胞及び/又は浸潤NK細胞の数を増加させる方法が、本明細書に開示される。例えば、一態様では、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む組換えウイルス(PTEN-Long導入遺伝子を含む腫瘍溶解性HSVウイルスベクター、例えば、HSV-P10など)を被験体に投与することを含む、被験体における癌の部位での浸潤CD8 T細胞及び/又は浸潤NK細胞の数を増加させる方法が、本明細書に開示される。
【0100】
[実施例]
以下の実施例は、本明細書において特許請求の範囲に記載された化合物、組成物、物品、デバイス及び/又は方法をどのように製造及び評価するかの完全な開示及び記載を当業者に提供するために示され、純粋に例示的であることが意図され、開示を制限することを意図しない。数字(例えば、量、温度など)に関して精度を保証する努力がなされたが、ある程度の誤差及び偏差を考慮するものとする。特に記載のない限り、部分は、重量部であり、温度は、℃単位又は周囲温度であり、圧力は、大気圧又はほぼ大気圧である。
【0101】
(実施例1)
腫瘍溶解性HSV-1ベクターは、HSVQuikシステムを用いて生成された。このシステムは、神経病原性因子γ-34.5及びウイルスリボヌクレオチドリダクターゼICP6について二重に欠失したF株HSV-1である、G207ウイルスバックボーンを用いる(図1A)。ウイルスは、神経由来ではない腫瘍細胞において条件付きに複製され、タンパク質キナーゼRシグナル伝達が欠損し、分割の間に自身のリボヌクレオチドリダクターゼを産生する。PTEN-L導入遺伝子は、標準PTEN開始部位の519bp上流のATG開始部位を含む(配列番号:1)。この第2の開始部位は、導入遺伝子において変異されており、標準PTENを、部位特異的変異誘発法を用いてその第2のATG開始部位をATAに変異させることによって排除する。この変異は、全PTEN-L遺伝子の発現を促進し、PTENの短い細胞内形態の発現を防止する。変異PTEN-L導入遺伝子は、HSVquikプロトコルに従ってG207ウイルスバックボーンにクローニングされた。
【0102】
HSV-P10は、増幅され、標準ショ糖精製プロトコルを用いて精製された。70%融合性ベロ細胞の150mmプレート10~20枚を、最小体積の2%-FBS DMEM中で低MOIで感染させた。感染プレートは、5%C0+空気を含む加湿インキュベータ内で34Cに移された。プレート上の細胞の大部分が丸くなり始めたとき(通常は3~4日目)、細胞及び培地をこすり落として集めた。細胞を遠心分離によりペレット化し、上澄みを50ml円錐管に移して分離した。全ての細胞を20~30mlの上澄み中で共に再懸濁し、細胞及び培地を液体窒素内で急速凍結し、-80Cで保存した。凍結細胞を37C水槽内で解凍して4Cにし、超音波処理してウイルス粒子を無傷細胞から放出させた。細胞破砕物を遠心分離により再びペレット化し、ウイルス粒子を含む培地を、細胞を含まない分離された培地と併せた。ウイルス粒子を超遠心分離によりペレット化し、無菌生理食塩水中に再懸濁した。再懸濁したウイルスを30%スクロース層の上に重ね合わ
せ、分離した層を再び超遠心分離してウイルス粒子のみを精製した。ペレット化したウイルスを最小体積の無菌生理食塩水中20%グリセリンに再懸濁し、20μlアリコートに分割して-80Cで保存した。
【0103】
PTEN-L発現ウイルス(HSV-P10はまたRAPTORとも称する)のインビトロ及びインビボの有効性を試験するために、U87膠芽腫細胞をHSV-P10(すなわち、RAPTOR)に感染の多重度1で感染させ、PTEN-Longの発現は、様々な時点で測定された(図1B)。PTEN-Long発現は、感染後4時間以内に観察される。次に、AKTのリン酸化におけるPTEN-Longの効果を比較するために、DB7細胞を、非感染細胞(NV)又はHSVQベクターのみに感染した細胞(Q)又はHSV-P10に感染した細胞(すなわち、PTEN-Long発現HSVQ)(R)に由来する細胞溶解物により感染させた。ここで、HSVQ-P10に感染したDB7細胞は、PTEN-Longを発現し、AKTリン酸化を低減した。HSVQ感染細胞と比較した。
【0104】
PTENは、乳癌脳転移(BCBM)では通常失われている。これを確認するために、ヒト乳癌脳転移の切片(上、40倍)及び頭蓋内DB7(マウス乳癌細胞)を有するFVB/Nマウスの切片(下、20倍)に由来する、代表的なヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色並びにPTEN染色を示す。染色は、BCBM細胞におけるPTENの顕著な喪失を裏付ける。
【0105】
RAPTORウイルス(すなわち、HSV-P10)がHSVQウイルスと同じ細胞向性及び増殖能力を有することを示すために、LN229細胞(膠芽腫細胞株)、U251-T3細胞(神経膠腫細胞)及びU87ΔEGFR細胞(神経膠腫細胞)をHSVQ又はHSV-P10のいずれか一方で感染の多重度(MOI)0.1で感染させた。細胞は、生存性及び感染について観察された。図3に示すように、HSVQ及びHSV-P10の両方は、3つの細胞タイプ全てに感染し、LN229細胞及びU251-T3細胞を完全に溶解することができた。
【0106】
次に、MTTアッセイをDB7細胞(図4A)、MDA-MB-468細胞(ヒト乳癌)(図4B)、LN229細胞(図4C)、U87ΔEGFR細胞(図4D)において行い、PTEN-Long発現が複数の細胞株におけるHSV-P10細胞死滅を阻害しないことが観察された。それぞれの細胞シナリオでは、感染細胞の溶菌の速度は、同一であった。大きさの差異は、96時間の培養にわたって完全に維持されている任意の差異によって証明されるような、ウイルス感染における真の差異よりもむしろ、細胞に投与されたウイルス負荷における変動に起因すると判定された。
【0107】
PTEN-Longの発現がどのようにインビボ腫瘍負荷に影響を与えたのかを知るために、DB7-dsRed腫瘍を有するFVB/Nマウス免疫能及びDB7を有するヌードマウスを、生理食塩水対照又はHSVQウイルスバックボーン又はPTEN-Long発現HSV-P10(すなわち、RAPTOR)に感染させた(図5)。感染後40日目までに、モック感染動物の90%及び50%のHSVQ感染動物が死亡した。対照的に感染後100日目において、HSV-P10動物の90%超が生存していた。免疫不全ヌードマウスでは、腫瘍を有する全てのマウスは、HSVQ群及び生理食塩水群において15日目までに死亡し、RAPTOR感染群において19日目までに死亡した。これは、HSV-P10が乳癌脳転移を有するマウスにおける生存を促進することを示す。
【0108】
HSV-P10感染マウスにおける保護の機構を決定するために、感染腫瘍細胞を除去して、マクロファージ、NK細胞及びCD8 T細胞の浸潤の存在について測定した(図6)。CD11b+及びF4/80+について染色すると、マクロファージ(CD45
)に対するCD11b F4/80ミクログリア(CD45lo-int)の比が、HSQV細胞及びHSV-P10細胞において減少し、HSV-P10感染細胞に比較的より多くのマクロファージが存在したことが観察された(図6A)。ミクログリア及びマクロファージの活性化状態を判定するために測定すると、活性化細胞の割合もまたHSVQ感染細胞及びISV-P10感染細胞において増加し、HSV-P10集団においてより顕著に活性化することが更に観察された(図6B)。浸潤NK細胞(図6C)及び浸潤CD8 T細胞(図6D)について測定すると、HSVQが浸潤NK細胞又は浸潤CD8 T細胞の割合において統計的増加を有さなかった一方で、RAPTOR感染細胞(すなわち、HSV-P10感染細胞)が、HSVQ及びモック感染と比較して、NK細胞及びCD8 T細胞の割合における大幅な増加を示したことが示された。
【0109】
浸潤NK細胞及び浸潤CD8 T細胞における増加が、NK細胞及びCD8 T細胞の増殖を阻害するためにPD1を通してシグナル伝達するように通常機能し得る、PD-L1発現における減少に起因し得ることを仮定し、細胞は、PD-L1発現について試験された(図7)。モック感染したDB7細胞は、予測されたであろう、ほとんど検出できないレベルのPD-L1を示した。同様に予測されたように、HSVQ感染細胞は、感染後24時間のウイルス誘導PD-L1発現を示した。しかし、PTEN-Long発現HSV-P10(すなわち、RAPTOR)に感染した細胞は、PD-L1発現において大幅な低減を示した。HSVQバックボーンとHSV-P10との間で唯一異なるのがPTEN-Long導入遺伝子であるため、PD-L1におけるこの低減は、PTEN-Long発現の直接の結果である。
【0110】
加えて、HSV-P10感染動物は、抗DB-7抗体を産生することができた(図8)。
結論
HSV-P10ウイルスは、二重に欠失したγ-34.5遺伝子並びにGFP及びPTEN-Long発現ベクターを含むウイルスICP6における挿入変異を有する単純ヘルペスウイルス1型である。HSV-P10:は、感染細胞においてPTEN-Lを発現し、感染細胞からPTEN-Lを分泌し、感染細胞におけるAktリン酸化もまた低減する。HSV-P10は、HSVQと比較して神経膠腫細胞において等価複製を示し、神経膠腫細胞株及び乳癌細胞株をHSVQと同じ有効性で死滅させる。
【0111】
しかし、HSV-P10は、DB7乳癌脳転移を有する免疫能があるマウスにおける生存を促進する。これは部分的に、PD-L1の発現によってもはや抑制されない、DB7腫瘍を有する脳半球の活性化免疫エフェクター細胞の補充の増加における結果であるのは、HSV-P10が感染細胞及び隣接非感染細胞においてPD-L1発現を低減することが本明細書で示されたからである。加えて、HSV-P10は、DB7癌抗原に対してロバストな抗原拡散を誘導する。
【0112】
HSV-P10は、腫瘍細胞の死滅を誘発するために3つの主要な方法で作用する。第1に、ウイルスは、感染腫瘍細胞中で選択的に複製し、感染腫瘍細胞を破壊することができる。第2に、HSV-P10は、腫瘍抑制因子PTEN-Longの分泌を誘導し、PTEN-Longは、非感染腫瘍細胞の増殖を局所的に遅くするように作用することができ、損傷関連分子パターン分子としてもまた作用して、感染の部位に対して自然免疫系を補充することができる。第3に、HSV-P10は、腫瘍細胞溶解及び感染の部位への免疫細胞補充を介して、非自己腫瘍ペプチドを免疫系に曝露することにより、腫瘍細胞に対する適応的免疫応答を誘発する、「癌ワクチン」として作用する(図9)。
【0113】
E.参照文献
1 Cerami,E.,Demir,E.,Schultz,N.,Taylor,
B.S.,& Sander,C.(2010)。「Automated network analysis identifies core pathways in glioblastoma。」Plos One,5(2),e8918。
【0114】
2 Hopkins,B.D.,Fine,B.,Steinbach,N.,Dendy,M.,Rapp,Z.,Shaw,J.,Parsons,R.(2013)。「A secreted PTEN phosphatase that enters cells to alter signaling and survival。」Science(New York,N.Y.),341(6144),399~402。
【0115】
3 Mineharu Y.Kamran N,Lowenstein PR,Castro MG。「Blockade of mTOR signaling via rapamycin combined with immunotherapy augments antiglioma cytotoxic and memory T-cell functions。」Mol Cancer Ther.2014;13(12):3024~3036。
【0116】
4 Terada,K.,Wakimoto,H.,Tyminski,E.,Chiocca,E.Ak,& Saeki,Y.(2006)。「Development of a rapid method to generate multiple oncolytic HSV vectors and their in vivo evaluation using syngeneic mouse tumor models。」Gene Therapy,13(8),705~14。
【0117】
5 Zhang L,Zhang S,Yao J,et al。「Microenvironment-induced PTEN loss by exosomal microRNA primes brain metastasis outgrowth。」Nature.2015;527(7576):100~104。
【0118】
F. 配列
配列番号:1 PTEN-Longコード化領域
ATGGAGCGGGGAGGAGAAGCGGCGGCGGCGGCGGCCGCGGCGGCTGCAGCTCCAGGGAGGGGGTCTGAGTCGCCTGTCACCATTTCCAGGGCTGGGAACGCCGGAGAGTTGGTCTCTCCCCTTCTACTGCCTCCAACACGGCGGCGGCGGCGGCGGCACATCCAGGGACCCGGGCCGGTTTTAAACCTCCCGTCCGCCGCCGCCGCACCCCCCGTGGCCCGGGCTCCGGAGGCCGCCGGCGGAGGCAGCCGTTCGGAGGATTATTCGTCTTCTCCCCATTCCGCTGCCGCCGCTGCCAGGCCTCTGGCTGCTGAGGAGAAGCAGGCCCAGTCGCTGCAACCATCCAGCAGCCGCCGCAGCAGCCATTACCCGGCTGCGGTCCAGAGCCAAGCGGCGGCAGAGCGAGGGGCATCAGCTACCGCCAAGTCCAGAGCCATTTCCATCCTGCAGAAGAAGCCCCGCCACCAGCAGCTTCTGCCATCTCTCTCCTCCTTTTTCTTCAGCCACAGGCTCCCAGACATAACAGCCATCATCAAAGAGATCGTTAGCAGAAACAAAAGGAGATATCAAGAGGATGGATTCGACTTAGACTTGACCTATATTTATCCAAACATTATTGCTATGGGATTTCCTGCAGAAAGACTTGAAGGCGTATACAGGAACAATATTGATGATGTAGTAAGGTTTTTGGATTCAAAGCATAAAAACCATTACAAGATATACAATCTTTGTGCTGAAAGACATTATGACACCGCCAAA
TTTAATTGCAGAGTTGCACAATATCCTTTTGAAGACCATAACCCACCACAGCTAGAACTTATCAAACCCTTTTGTGAAGATCTTGACCAATGGCTAAGTGAAGATGACAATCATGTTGCAGCAATTCACTGTAAAGCTGGAAAGGGACGAACTGGTGTAATGATATGTGCATATTTATTACATCGGGGCAAATTTTTAAAGGCACAAGAGGCCCTAGATTTCTATGGGGAAGTAAGGACCAGAGACAAAAAGGGAGTAACTATTCCCAGTCAGAGGCGCTATGTGTATTATTATAGCTACCTGTTAAAGAATCATCTGGATTATAGACCAGTGGCACTGTTGTTTCACAAGATGATGTTTGAAACTATTCCAATGTTCAGTGGCGGAACTTGCAATCCTCAGTTTGTGGTCTGCCAGCTAAAGGTGAAGATATATTCCTCCAATTCAGGACCCACACGACGGGAAGACAAGTTCATGTACTTTGAGTTCCCTCAGCCGTTACCTGTGTGTGGTGATATCAAAGTAGAGTTCTTCCACAAACAGAACAAGATGCTAAAAAAGGACAAAATGTTTCACTTTTGGGTAAATACATTCTTCATACCAGGACCAGAGGAAACCTCAGAAAAAGTAGAAAATGGAAGTCTATGTGATCAAGAAATCGATAGCATTTGCAGTATAGAGCGTGCAGATAATGACAAGGAATATCTAGTACTTACTTTAACAAAAAATGATCTTGACAAAGCAAATAAAGACAAAGCCAACCGATACTTTTCTCCAAATTTTAAGGTGAAGCTGTACTTCACAAAAACAGTAGAGGAGCCGTCAAATCCAGAGGCTAGCAGTTCAACTTCTGTAACACCAGATGTTAGTGACAATGAACCTGATCATTATAGATATTCTGACACCACTGACTCTGATCCAGAGAATGAACCTTTTGATGAAGATCAGCATACACAAATTACAAAAGTCTGA
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
【配列表】
2022163182000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-09-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む、組換えウイルス。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(政府支援の陳述)
この研究は、国立衛生研究所により授与されたNIH 1R01NS064607及びNIH P01 CA163205により支援された。政府は、本発明において、ある特定の権利を有する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2016年7月29日に出願された米国特許仮出願第62/368,822号、及び2017年3月31日に出願された米国特許仮出願第62/479,671号の利益を主張するものであり、これらのそれぞれは、その全体が参照により明示的に本明細書に組み込まれる。
【0003】
[背景技術]
膠芽腫(GBM)は、患者生存率が劣悪な世界保健機関グレードIVの星状細胞腫であり、極度の異質性及び侵襲性、並びに放射線及び化学療法薬に対する耐性を特徴とする。脳転移は、GBMよりも2~3倍多い頻度であり、乳癌と共に脳転移腫瘍型の上位3種に挙げられる。現在の標準的治療を受ける患者の平均生存率は、GBMについては18月未満であり、乳癌脳転移(BCBM)については2~25月である。脳腫瘍及び癌の新規治療法が一般的に必要とされている。
【0004】
膠芽腫(GBM)は、患者生存率が劣悪な世界保健機関グレードIVの星状細胞腫であり、極度の異質性及び侵襲性、並びに放射線及び化学療法薬に対する耐性を特徴とする。脳転移は、GBMよりも2~3倍の頻度であり、乳癌と共に脳転移腫瘍型の上位3種に挙げられる。現在の標準的治療を受ける患者の平均生存率は、GBMについては18月未満であり、乳癌脳転移(BCBM)については2~25月である。脳腫瘍及び癌の新規治療法が一般的に必要とされている。
【0005】
[発明の概要]
哺乳動物PTEN-Long遺伝子を発現する組換えウイルスに関する方法及び組成物が開示される。
一態様では、任意の先行する態様の組換えウイルスが本明細書で開示され、その組換えウイルスは、PTEN-Long遺伝子を含む組換えHSV-1ウイルスである。
【0006】
一態様では、任意の先行する態様の組換えウイルスが本明細書で開示され、そのウイルスは、腫瘍細胞を標的とするように改変されているか、又は腫瘍特異的プロモーターの制御下で、ウイルス複製に重要な遺伝子を配置するように改変されている。
【0007】
一態様では、任意の先行する態様の組換えウイルスが本明細書で開示され、ここで、PTEN-Long遺伝子は、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーター又は構成的プロモーターに作動可能に結合(operatively linked)されている。
【0008】
任意の先行する態様の組換えウイルスを被験体に投与することを含む、癌を治療する方法もまた本明細書で開示される。
一態様では、任意の先行する態様の組換えウイルスを被験体に投与することを含む、癌を阻害する方法及び/又は転移を阻害する方法が本明細書で開示される。
【0009】
任意の先行する態様のウイルスを被験体に投与することを含む、癌細胞においてPD-L1を阻害する方法もまた本明細書で開示される。
一態様では、任意の先行する態様のウイルスを被験体に投与することを含む、被験体における癌の部位で浸潤CD8 T細胞の数を増加させる方法が本明細書で開示される。
【0010】
任意の先行する態様のウイルスを被験体に投与することを含む、被験体における癌の部位で浸潤ナチュラルキラー細胞の数を増加させる方法もまた開示される。
本明細書に組み込まれ、また本明細書の一部を構成する添付の図面は、いくつかの実施形態を例証し、説明と共に、開示される組成物及び方法を例証する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】HSVQuickバックボーン内のPTEN-Long導入遺伝子発現ベクターを示す図である。
図1B】導入遺伝子発現がU87ΔEGFR神経膠腫細胞(WB)における感染の3時間以内に検出可能であることを示す図である。
図1C】HSVQ対照(WB)と比較して、HSV-P10感染が感染DB7細胞におけるAktリン酸化に劇的に影響を及ぼすことを示す図である。
図2】ヒト乳癌脳転移の切片(上、40倍)及び頭蓋内DB7を有するFVB/Nマウスの切片(下、20倍)に由来する、代表的なヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色並びにPTEN染色を示す図である。
図3】PTEN-Long発現ベクターを含むHSV(HSV-P10)が、対照HSVQウイルスと同様に、神経膠腫細胞においてインビトロで複製し、広がることができることを示す図である。
図4A】PTEN-Long発現が複数の細胞株におけるHSV-P10細胞死滅を阻害しないことを示す図である。MTTアッセイ(DB7、マウス乳癌、MDA-MB-468、ヒト乳癌、LN229及びU87ΔEGFR、ヒト神経膠腫)の結果を示す図である。
図4B】PTEN-Long発現が複数の細胞株におけるHSV-P10細胞死滅を阻害しないことを示す図である。MTTアッセイ(DB7、マウス乳癌、MDA-MB-468、ヒト乳癌、LN229及びU87ΔEGFR、ヒト神経膠腫)の結果を示す図である。
図4C】PTEN-Long発現が複数の細胞株におけるHSV-P10細胞死滅を阻害しないことを示す図である。MTTアッセイ(DB7、マウス乳癌、MDA-MB-468、ヒト乳癌、LN229及びU87ΔEGFR、ヒト神経膠腫)の結果を示す図である。
図4D】PTEN-Long発現が複数の細胞株におけるHSV-P10細胞死滅を阻害しないことを示す図である。MTTアッセイ(DB7、マウス乳癌、MDA-MB-468、ヒト乳癌、LN229及びU87ΔEGFR、ヒト神経膠腫)の結果を示す図である。
図5A】DB7-dsRed腫瘍を有するFVB/Nマウスの生存率を示す図である。ウイルスが、腫瘍移植の7日後に腫瘍内に注入されたことを示す図である。
図5B】DB7腫瘍を有するヌードマウスの生存率を示す図である。ウイルスが、腫瘍移植の7日後に腫瘍内に注入されたことを示す図である。
図6A】ウイルス処置後7日目の脳免疫系浸潤を示す図である。マクロファージ(CD45hi)に対するCD11b F4/80ミクログリア(CD45lo-int)の比を示す図である。
図6B】ウイルス処置後7日目の脳免疫系浸潤を示す図である。MHC-IIミクログリア(赤)及びマクロファージ(緑)の百分率を示す図である。
図6C】ウイルス処置後7日目の脳免疫系浸潤を示す図である。浸潤CD49b CD335NK細胞を示す図である。
図6D】ウイルス処置後7日目の脳免疫系浸潤を示す図である。浸潤細胞毒性CD3 CD8 T細胞を示す図である。
図7】感染及び隣接非感染のDB7乳癌細胞24hpiの表面上でウイルス誘導性PD-L1発現をHSV-P10が阻害することを示す図である。フローサイトメトリーによる測定結果を示す図である。
図8】DB7細胞溶解物に対する抗体について分析された、処置後7日目に採取された腫瘍を有するFVB/Nマウスの血清を示す図である。群ごとにn=3である。ELISAによる測定結果を示す図である。
図9】PTEN-Long発現組換えウイルス(RAPTORとしてもまた既知のHSV-P10など)が癌細胞を攻撃することができる経路の説明を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図9に示すように、抗腫瘍抗体応答は、増加し、AKTのリン酸化が減少したため、PD-L1発現は、減少して、T細胞増殖及びNK細胞増殖を低減させる抑制シグナルを妨げる。したがって、NK細胞及びT細胞の浸潤が増加し、抗腫瘍活性を発揮することができる。
【0013】
本発明の化合物、組成物、物品、デバイス及び/又は方法を開示及び説明する前に、特に指定されない限り、これらが特定の合成法又は特定の組換えバイオテクノロジー方法に限定されないこと、又は、特に指定されない限り、特定の試薬に限定されず、当然ながらそれ自体が変化してもよいことを理解されたい。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明するための目的のものにすぎず、限定することを意図しないことも理解するべきである。
【0014】
A.定義
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、その内容について別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象を包含する。したがって、例えば、「医薬担体」への言及は、2つ以上のこのような担体の混合物などを含む。
【0015】
範囲は、「約」1つの特定の値から、かつ/又は「約」別の特定の値までとして表され得る。このような範囲が表されるとき、別の実施形態は、1つの特定の値から、かつ/又は他の特定の値までを含む。同様に、値が、先行詞「約」の使用によって近似として表されるとき、特定の値は、別の実施形態を形成することが理解されるであろう。範囲のそれぞれの端点は、他の端点に関しても、他の端点とは独立しても、この両方において、有意であると更に理解されるであろう。本明細書で多くの値が開示され、それぞれの値がその値自体に加えて「約」その特定の値として本明細書でもまた開示されることもまた理解される。例えば、値「10」が開示されている場合、「約10」もまた開示されている。当業者によって適切に理解されるように、ある値が開示される場合、その値「以下」、「その値以上」及び値間の可能な範囲もまた開示されていることもまた理解される。例えば、値「10」が開示されている場合、「10以下」と同様に「10以上」もまた開示されている。本願全体にわたってデータが多数の異なるフォーマットで提供され、このデータが、端点及び開始点並びにデータ点の任意の組み合わせに対する範囲を表すこともまた理解される。例えば、特定のデータポイント「10」及び特定のデータポイント15が開示されている場合、10と15との間と同様に、10及び15よりも大きい、10及び15以上、10及び15未満、10及び15以下、並びに10及び15に等しいデータポイントが開示されていると見なされることが理解される。特定の2つの単位間のそれぞれの単位もまた開示されていることもまた理解される。例えば、10及び15が開示されている場合、11、12、13及び14もまた開示されている。
【0016】
本明細書及び以下の「特許請求の範囲」において、多数の用語に言及し、それらは以下の意味を有すると定義されるものとする。
「任意選択的な」又は「任意選択的に」は、引き続いて記載された事象又は状況が起こってもよいかあるいは起こらなくてもよいこと、及び説明が、当該事象又は状況が起こる場合の例及びそれが起こらない場合の例を含むことを意味する。
【0017】
「減少」は、症状、組成又は活性の量がより少ないことをもたらす任意の変化を指すことができる。物質はまた、その物質を含む遺伝子産物の遺伝子産生量が、その物質を含まない遺伝子産物の産生量に対してより少ないとき、遺伝子の遺伝子産出量を減少させると理解される。また、例えば、減少は、症状が以前の観察よりも少なくなるような、疾患の症状における変化であり得る。
【0018】
「阻害する」、「阻害している」及び「阻害」は、活性、応答、状態、疾病又は他の生物学的パラメータを減少させることを意味する。これには、活性、応答、状態又は疾病の完全除去を含むことができるが、これらに限定されない。これにはまた、例えば、天然又は対照レベルと比較して、活性、応答、状態又は疾病における10%の低減を含んでもよい。したがって、低減は、天然又は対照レベルと比較して、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%又は中間の任意の量の低減であり得る。
【0019】
ここで、「治療」、「治療する」又は「治療している」は、疾病又は状態の影響を低減する方法を意味することができる。治療はまた、症状のみよりもむしろ疾患又は状態自体を低減する方法を指すことができる。治療は、天然レベルからの任意の低減であり得、疾病、状態、又は疾病若しくは状態の症状の完全除去であってよいが、これらに限定されない。したがって、開示される方法では、「治療」は、罹患した疾患又は疾患進行の重症度における10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%の低減を指すことができる。例えば、同一被験体又は対照被験体における天然レベルと比較して、疾患を有する被験体における疾患の1つ以上の症状で10%低減がある場合、(転移を阻害又は低減するなどの)癌の効果を低減又は阻害するための開示される方法が、治療であると考えられる。したがって、低減は、天然レベル又は対照レベルと比較して、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%又は中間の任意の量の低減であり得る。「治療」が疾患又は状態の治癒とは限らず、疾患又は状態の外観の向上を指すことが理解され、本明細書において企図される。
【0020】
本明細書全体において、様々な出版物が参照される。これらの出版物の開示全体が、開示内容が関連する技術分野の状態をより十分に説明するためにここに参照により本出願に組み込まれる。開示される参照文献も、その参照文献が依拠される文において考察されるそれらに含まれる資料について、参照により本明細書に個々に、かつ具体的に組み込まれる。
【0021】
B.組成物
開示される組成物を調製するために使用される成分と、本明細書で開示される方法の範囲内で使用される組成物それ自体が開示される。これら及び他の物質が本明細書で開示されており、これらの物質の組み合わせ、サブセット、相互作用、群などが開示されている場合、これらの化合物のそれぞれの様々な個々及び集合的な組み合わせ及び順列の具体的な言及は、明示的に開示されていない場合があるが、それぞれが具体的に企図され、本明細書に記載されることが理解される。例えば、特定のPTEN-Long発現組換えウイルスが開示かつ論じられ、またPTEN-Long及び/又はウイルスバックボーンを含む多数の分子に対して行うことができる多数の修飾が論じられている場合、それとは反対の具体的な指示がない限り、PTEN-Long及び任意のウイルスバックボーンと可能な修飾とのあらゆる組み合わせ及び置換が具体的に企図される。したがって、分子A、B及びCの種類が開示されており、同様に分子D、E及びFの種類及び分子A~Dの組み合わせの例が開示されている場合、それぞれが個々に列挙されていない場合であっても、それぞれが個々にかつ集合的に企図され、組み合わせA-E、A-F、B-D、B-E、B-F、C-D、C-E及びC-Fが開示されると見なされる。同様に、これらの任意のサブセット又は組み合わせもまた開示される。したがって、例えば、A-E、B-F及びC-Eのサブグループが開示されていると見なされるであろう。この概念は、本出願の全ての態様に適用され、開示される組成物の作製及び使用方法における工程を含むが、これに限定されない。このように、実施することができる多様な更なる工程が存在する場合、これらの更なる工程のそれぞれは、任意の特定の実施形態又は開示される方法の実施形態の組み合わせにより実施することができることが理解される。
【0022】
10番染色体上の腫瘍抑制ホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)は、細胞内でAKTシグナル伝達経路を阻害するホスファターゼである。PTENは、全ての高悪性度神経膠腫のうちの約50%において変異しているか又は欠失しており、全ての乳癌の33~49%において失われている。PTEN-Longは、N末端に173個の付加アミノ酸を有する、最近発見されたPTENの代替開始部位変異体である。このより長い形態のPTENは、分泌され、膜透過性であり、細胞への分泌及び再導入後にそのホスファターゼ活性を維持する。感染細胞からPTEN-Longを分泌する(例えば、改変型単純ヘルペスウイルス(HSV-P10)などの)改変型ウイルスを用いる新規腫瘍治療(例えば、脳腫瘍治療)が、本明細書で開示される。
【0023】
組成物の細胞への送達
一態様では、本明細書で開示される機能的効果及び治療的効果は、例えば、癌細胞などの細胞におけるPTEN-Longの発現の結果であることが理解され、本明細書において企図される。インビトロ又はインビボのいずれかで、細胞に核酸(PTEN-Long発現核酸など)を送達するために使用することができる多数の組成物及び方法がある。これらの方法及び組成物は、ウイルス系送達システム及び非ウイルス系送達システムの2つの種類に主に分類することができる。例えば、核酸は、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、プラスミド、ウイルスベクター、ウイルス核酸、ファージ核酸、ファージ、コスミドなどの多数の直接送達システムを介して、又は遺伝物質の細胞への転写若しくはカチオン性リポソームなどの担体を介して送達することができる。したがって、一態様では、PTEN-Longを含むウイルスベクター、プラスミド、ファージ、コスミドである。被験体にPTEN-Longを投与することを含む、被験体における癌を治療する方法がまた本明細で開示され、PTEN-Longは、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、プラスミド、ウイルスベクター、ウイルス核酸、ファージ核酸、ファージ、コスミドを介して、又は遺伝物質の細胞への転写若しくはカチオン性リポソームなどの担体を介して癌細胞に送達される。DNAのエレクトロポレーション及び直接拡散などの、ウイルスベクター、化学トランスフェクタント又は物理的機械的方法を含むトランスフェクションのための適切な手段は、例えば、Wolff,J.A.,et al.,Science,247,1465~1468(1990)及びWolff,J.A.Nature,352,815~818,(1991)によって記載されている。このような方法は、当該技術分野において公知であり、本明細書に記載の組成物及び方法での使用に容易に適合可能である。特定の場合では、方法は、巨大DNA分子により特異的に機能するように改変されることとなる。更に、これらの方法は、担体の標的化特性を使用することによって、特定の疾患及び細胞集団を標的とするために使用することができる。
【0024】
a)核酸系送達システム
転写ベクターは、細胞内に遺伝子を送達するために使用される、又は遺伝子を送達するための一般的な戦略の一部として、例えば、組換えレトロウイルス若しくはアデノウイルスの一部として使用される、任意のヌクレオチド構築物(例えば、プラスミド)であり得る(Ram et al.Cancer Res.53:83~88,(1993))。
【0025】
本明細書で使用されるとき、プラスミド又はウイルスベクターは、PTEN-Longなどの開示される核酸を分解させることなく細胞内に輸送し、核酸が送達された細胞内で遺伝子の発現をもたらすプロモーターを含む、媒介物である。ウイルスベクターは、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、エイズウイルス、神経栄養ウイルス、シンドビスウイルス及び他のRNAウイルスであり、HIVバックボーンを有するこれらのウイルスを含む。ウイルスをベクターとしての使用に好適であるようにする、これらのウイルスの性質を共有する、任意のウイルス科もまた好ましい。レトロウイルスには、マウスMaloney白血病ウイルス、MMLV及びMMLVの好ましい性質をベクターとして発現するレトロウイルスが挙げられる。レトロウイルスベクターは、他のウイルスベクターより大きな遺伝子ペイロード、すなわち、導入遺伝子又はマーカー遺伝子を担持することができ、この理由から、一般的に使用されるベクターである。しかし、これらは、非増殖性細胞において有用ではない。アデノウイルスベクターは、比較的安定かつ取り扱いが容易で、高力価を有し、エアゾール製剤で送達することができ、非分裂性細胞にトランスフェクトすることができる。ポックスウイルスベクターは、大きく、遺伝子を挿入するためのいくつかの部位を有し、耐熱性であり、室温で保存することができる。好ましい実施形態は、ウイルス抗原によって誘発される宿主生物の免疫応答を抑制するように遺伝子操作されたウイルスベクターである。この種類の好ましいベクターは、インターロイキン8又は10に対するコード領域を担持することとなる。
【0026】
ウイルスベクターは、細胞内に遺伝子を導入するための化学的方法又は物理的方法よりも高い処理能力(遺伝子導入能)を有することができる。一般的には、ウイルスベクターは、非構造性初期遺伝子、構造性後期遺伝子、RNAポリメラーゼIII転写体、複製及びカプシド形成に必要な逆方向末端反復、並びにウイルスゲノムの転写及び複製を制御するためのプロモーターを含む。ベクターとして遺伝子操作されたとき、ウイルスは、除去された初期遺伝子のうちの1つ以上を一般的に有し、遺伝子又は遺伝子/プロモーターカセットは、除去されたウイルスDNAの代わりにウイルスゲノム内に挿入される。この種類の構築物は、約8kbまでの外来遺伝的材料を担持することができる。除去された初期遺伝子の必須機能は、トランス型において初期遺伝子の遺伝子産物を発現するように設計された細胞株によって一般的に提供される。
【0027】
(1)腫瘍溶解性ベクター
一態様では、ウイルスベクターは、腫瘍溶解性であり得る。腫瘍溶解性ウイルスは、感染細胞の直接溶菌、毒素の分泌及び/又は宿主抗腫瘍免疫応答の刺激のいずれかを介して、癌細胞に選択的に感染し、死滅させる。腫瘍溶解性ウイルスは、アデノウイルス、HSV、レオウイルス、ワクシニアウイルス、VSV及び麻疹ウイルスを含むがこれらに限定されない、任意の種類のウイルスベクターであり得る。例えば、HSV系腫瘍溶解性ウイルスは、(本明細書で神経病原性因子γ-34.5とも称する)ICP34.5のヌル変異又は欠失を含むことができる。この変異は、最終分化した非分裂性細胞ではもはや複製できないが、癌などの急速に分裂する細胞に感染して溶解する能力を保持している、HSVベクターをもたらす。一態様では、PTEN-Longを発現する開示される改変ウイルスのウイルスベクターバックボーンは、例えば、HSVQuick(HSVQ)、HSV1716、UL56タンパク質発現を欠いた)HF10及び(ICP34.5及びGM-CSFの機能的発現を欠いた)OncoVex GM-CSFなどの、腫瘍溶解性HSVベクターであり得る。腫瘍溶解性ウイルスはまた、ONYX-015、H101及びKH901を含むがこれらに限定されない、腫瘍溶解性アデノウイルス、Reolysin及びRT3Dを含むがこれらに限定されない、腫瘍溶解性レオウイルス、GL-ONC1及びJX-594を含むがこれらに限定されない、腫瘍溶解性ワクシニアウイルス、並びに、MV-NISを含むがこれに限定されない腫瘍溶解性(oncoclytic)麻疹ウイルスであり得る。ウイルスベクターの選択は、ウイルスバックボーンの向性、導入遺伝子サイズ又は科学者が入手可能であるかに依存する場合がある。したがって、PTEN-Long発現HSVウイルスベクターが本明細書で開示され、ここで、ウイルスバックボーンは、腫瘍細胞を標的化するため及び/又は、例えば、HSVQuick(HSVQ)などの腫瘍特異的プロモーターの制御下でウイルス複製に重要な遺伝子を配置するために改変された、腫瘍溶解性HSV-1バックボーンである。
【0028】
(2)ヘルペスウイルスベクター
ヘルペスウイルスは、ヘルペスウイルス科に属する動物ウイルスである。ヘルペスウイルスは、宿主範囲が広く、巨大導入遺伝子ペイロードを受容することができる。加えて、ヘルペスウイルスは、被験体において潜伏感染を確立し、永久に持続する能力を有する。
【0029】
単純ヘルペスウイルス-1ベクター(例えば、HSVQuick)などのヘルペスウイルスベクターは、複製に必須ではないが宿主細胞範囲に影響を及ぼす遺伝子を除去するために、弱毒化することができる。例えば、ウイルスは、神経病原性因子γ-34.5及び/又はウイルスリボヌクレオチドリダクターゼICP6において欠失を含むように改変することができる。更なる改変は、ICP47及び/又はGM-CSF発現の欠失又はヌル変異を含むことができる。
【0030】
開示されるヘルペスウイルスベクターはまた、複製欠損であり得る。HSVは、80種よりも多いウイルス遺伝子産物をコードし、それらの約半分は、ウイルス複製のために必須である。必須遺伝子の1つを欠失させることにより複製欠損変異体を作製し、補完細胞株によりトランス型において遺伝子産物を提供することは、比較的容易である。このような変異体ウイルスは、非補完細胞において複製不可能であるが、変異体ウイルスは、多くのウイルス遺伝子産物を依然として発現するという事実により、細胞毒性を保持することができる。ウイルス複製はまた、トランス型においてインビトロで補完することができる最初期遺伝子におけるヌル突然変異によって容易に破壊され、非病原性ベクターの高力価の純粋製剤を直接産生することが可能となる。複製欠損ベクターによる形質導入は、神経組織及び非神経組織の両方において潜在的感染を引き起こし、ベクターは、非病原性であり、再活性化が不可能であり、長期持続する。例えば、HSVQuickウイルスベクター(HSVQ)は、非神経組織への感染を制限するように改変された。一態様では、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む組換えウイルスが本明細書で開示され、その組換えウイルスは、例えば、単純ヘルペスウイルスなどのヘルペスウイルスである。いくつかの態様では、PTEN-Long発現HSVウイルスベクターが本明細書で開示され、ウイルスバックボーンは、腫瘍細胞を標的化するため及び/又は、例えば、HSVQuick(HSVQ)などの腫瘍特異的プロモーターの制御下でウイルス複製に重要な遺伝子を配置するために改変された、HSV-1バックボーンである。PTEN-Long導入遺伝子を発現するHSVQウイルスは、本明細書ではHSV P10又はRAPTORウイルスと称する(例えば、図1Aを参照されたい)。
【0031】
(3)レトロウイルスベクター
レトロウイルスは、レトロウイルス科に属する動物ウイルスであり、任意の型、亜科、属又は向性を含む。レトロウイルスベクターは、全般的に、Verma,I.M.「Retroviral vectors for gene transfer」により記載されている。
【0032】
レトロウイルスは、本質的に、核酸カーゴを内部に包み込んだパッケージである。核酸カーゴは、それと共にパッケージングシグナルを担持し、複製された娘分子がパッケージコート内に効率的にパッケージされることを確実にする。パッケージシグナルに加えて、複製及び複製されたウイルスのパッケージングのために、シス型において必要とされる多数の分子がある。一般的に、レトロウイルスゲノムは、タンパク質膜の作製に関与するgag、pol及びenv遺伝子を含む。レトロウイルスゲノムは、標的細胞に導入されるべき外来DNAにより一般的に置換されたgag、pol及びenv遺伝子である。レトロウイルスベクターは、パッケージコート内に取り込むためのパッケージングシグナル、gag転写ユニットの開始の信号を発する配列、逆転写のtRNAプライマーに結合するためのプライマー結合部位を含む逆転写に必要な要素、DNA合成中にRNAストランドのスイッチを誘導する端末反復配列、DNA合成の第2のストランドの合成用のプライミング部位として作用するプリンに富む配列5’から3’LTR、及び宿主ゲノム内に挿入するレトロウイルスのDNA状態の挿入を可能にするLTRの端部付近にある特定の配列を典型的に含む。gag、pol及びenv遺伝子の除去は、約8kbの外来配列がウイルスゲノムに挿入され、逆転写された状態となり、複製時に新たなレトロウイルス粒子内にパッケージされることを可能にする。この量の核酸は、それぞれの転写物のサイズに応じて1つから多数の遺伝子の送達に十分である。正又は負の選択可能なマーカーのいずれかをインサートにおいて他の遺伝子と共に含むことが好ましい。
【0033】
大部分のレトロウイルスベクター中の複製機構及びパッケージングタンパク質を除去したため(gag、pol及びenv)、ベクターは、それらをパッケージング細胞株内に配置することによって一般的に生成される。パッケージング細胞株は、複製機構及びパッケージング機構を含むが、パッケージングシグナルを欠いているレトロウイルスによりトランスフェクト又は形質転換された、細胞株である。選択DNAを担持したベクターがこの細胞株にトランスフェクトされると、目的の遺伝子を含むベクターは、ヘルパー細胞によりシス型において提供された機構により、複製され、新たなレトロウイルス粒子内にパッケージされる。機構に関するゲノムがパッケージされないのは、ゲノムが必須シグナルを欠いているからである。
【0034】
(4)アデノウイルスベクター
複製欠損アデノウイルスの構築が記載されている(Berkner et al.,J.Virology 61:1213~1220(1987);Massie et al.,Mol.Cell.Biol.6:2872~2883(1986);Haj Ahmad et al.,J.Virology 57:267~274(1986);Davidson et al.,J.Virology 61:1226~1239(1987);Zhang「Generation and identification of recombinant adenovirus by liposome-mediated transfection and PCR analysis」BioTechniques 15:868~872(1993))。ベクターとしてこれらのウイルスを使用する利点は、他の細胞型に広がることができる程度が限定されていることであり、これは、それらが初期感染細胞内部で複製できるが、新たな感染性ウイルス粒子を形成することができないためである。組換えアデノウイルスは、気道上皮、肝細胞、血管内皮、CNS親腫及び多数の他の組織部位への直接的なインビボ送達の後に高効率遺伝子導入を達成することが示されている。組換えアデノウイルスは、特定の細胞表面受容体に結合することによって遺伝子導入を実現し、その後、そのウイルスは、野生型又は複製欠損アデノウイルスと同様に、受容体媒介エンドサイトーシスにより取り込まれる。
【0035】
ウイルスベクターは、除去されたE1遺伝子を有していたアデノウイルスに基づくウイルスベクターであり得、これらのビリオンは、ヒト293細胞株などの細胞株において生成される。別の好ましい実施形態では、E1及びE3遺伝子の両方が、アデノウイルスゲノムから除去される。
【0036】
(5)アデノ随伴ウイルスベクター
他の種類のウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づく。この欠損パルボウイルスは、多数の細胞型に感染することができ、ヒトに対して非病原性であるため、好ましいベクターである。AAV型ベクターは、約4~5kbを輸送することができ、野生型AAVは、19番染色体に安定して挿入することが既知である。この部位特異的組み込み特性を含むベクターが好ましい。この種類のベクターの特に好ましい実施形態は、Avigen(San Francisco,CA)により作製されたP4.1 Cベクターであり、単純ヘルペスウイルス・チミジンキナーゼ遺伝子、HSV-tk及び/又は緑色蛍光タンパク質GFPをコードする遺伝子などのマーカー遺伝子を含むことができる。
【0037】
別の種類のAAVウイルスでは、AAVは、非相同遺伝子に操作可能に結合された細胞特異的発現を誘導するプロモーターを含む少なくとも1つのカセットに隣接する、逆方向末端反復(ITR)の対を含む。この文脈において非相同とは、AAV又はB19パルボウイルスに由来しない任意のヌクレオチド配列又は遺伝子を指す。
【0038】
一般的に、AAV及びB19のコード化領域は、欠失しており、安全な非細胞毒性ベクターをもたらす。AAV ITR又はその改変体は、感染性及び部位特異的組み込みを付与するが、細胞毒性を付与せず、プロモーターは、細胞特異的発現を誘導する。米国特許第6,261,834号は、AAVベクターに関連する資料について、参照により本明細書に組み込まれる。
【0039】
したがって、開示されるベクターは、実質的な毒性を持つことなく哺乳動物の染色体内に組み込むことが可能なDNA分子をもたらす。
ウイルス又はレトロウイルスに挿入された遺伝子は、通常、所望の遺伝子産物の発現の制御を助けるためのプロモーター及び/又はエンハンサーを含む。プロモーターは、一般的に、転写開始部位に関して比較的固定された位置にあるときに機能するDNAの配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼ及び転写因子の基本的な相互作用に必要なコアエレメントを含み、上流エレメント及び応答エレメントを含むことができる。
【0040】
(6)巨大ペイロードウイルスベクター
巨大ヒトヘルペスウイルスを用いた分子遺伝学的実験は、ヘルペスウイルスに感染可能な細胞において、巨大非相同DNAフラグメントをクローニングし、増殖させ、確立することができる手段を提供した(Sun et al.,Nature genetics 8:33~41,1994;Cotter and Robertson,Curr Opin Mol Ther 5:633~644、1999)。これらの巨大DNAウイルス(単純ヘルペスウイルス(HSV)及びエプスタイン・バールウイルス(EBV)は、>150kbのヒト非相同DNAフラグメントを特定の細胞に送達する能力を有する。EBV組換え体は、感染B細胞内のDNAの巨大断片をエピソームDNAとして維持することができる。ヒトゲノムインサートに担持された330kbまでの個々のクローンは、遺伝的に安定していることを示した。これらのエピソームの維持は、EBV感染時に構成的に発現される、特定のEBV核タンパク質、EBNA1を必要とする。加えて、これらのベクターは、トランスフェクションに使用することができ、大量のタンパク質を、インビトロで一時的に生成することができる。ヘルペスウイルス単位複製配列システムはまた、>220kbのDNA断片をパッケージし、エピソームとしてDNAを安定して維持することができる細胞を感染させるために使用されている。
【0041】
他の有用なシステムは、例えば、複製ワクシニアウイルスベクター及び宿主制限的非複製ワクシニアウイルスベクターを含む。
b)非核酸系システム
本明細書に開示されるように、PTEN-Longは、種々の方法で標的細胞に送達することができる。例えば、組成物は、エレクトロポレーションを介して、又はリポフェクションを介して、又はリン酸カルシウム沈殿を介して送達することができる。選択された送達機構は、標的化された細胞の種類に部分的に依存し、送達が、例えば、インビボ又はインビトロで行われているかどうかに依存することとなる。
【0042】
したがって、組成物は、開示されるPTEN-Long及び当該PTEN-Long導入遺伝子を含むHSVQベクターに加えて、例えば、カチオン性リポソーム(例えば、DOTMA、DOPE、DCコレステロール)又はアニオン性リポソームなどのリポソームのような脂質を含むことができる。リポソームは、所望する場合、特定の細胞の標的化を容易にするためのタンパク質を更に含むことができる。化合物及びカチオン性リポソームを含む組成物の投与は、標的器官への血液輸入に投与することができるか又は気道内に吸入して気道の細胞を標的化することができる。リポソームに関して、例えば、Brigham et al.Am.J.Resp.Cell.Mol.Biol.1:95~100(1989);Felgner et al.Proc.Natl.Acad.Sci USA,84:7413~7417(1987);米国特許第4,897,355号を参照されたい。更に、化合物は、マクロファージなどの特定の細胞種を標的とすることができるマイクロカプセルの成分として、又はマイクロカプセルからの化合物の拡散若しくは化合物の送達が特定の速度若しくは投与量について設計されている部位で、投与することができる。
【0043】
被験体の細胞内への外因性DNAの投与及び取り込み(すなわち、遺伝子形質導入又はトランスフェクション)を含む上記記載の方法では、細胞への組成物の送達は、多様な機構を介することができる。一例として、送達は、リポソームを介することができ、LIPOFECTIN、LIPOFECTAMINE(GIBCO-BRL,Inc.,Gaithersburg,MD)、SUPERFECT(Quagen,Inc.Hilden,Germany)及びTRANSFECTAM(Promega Biotec,Inc.,Madison,WI)などの市販のリポソーム製剤、並びに当該技術分野の標準手順に従って開発された他のリポソームを使用する。加えて、開示される核酸又はベクターは、エレクトロポレーションによりインビボで送達することができ、送達のための技術は、Genetronics,Inc.(San Diego,CA)から入手でき、また同様にSONOPORATION機械(ImaRx Pharmaceutical Corp.,Tuscon,AZ)により利用できる。
【0044】
材料は、溶液、(例えば、微小粒子、リポソーム又は細胞に組み込まれた)懸濁液であってもよい。これらは、抗体、受容体又は受容体リガンドを介して特定の細胞型を標的としてもよい。以下の参照文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織へ標的化するためにこの技術を使用する例である(Senter,et al.,Bioconjugate Chem.,2:447~451,(1991);Bagshawe,K.D.,Br.J.Cancer,60:275~281,(1989);Bagshawe,et al.,Br.J.Cancer,58:700~703,(1988);Senter,et al.,Bioconjugate Chem.,4:3~9,(1993);Battelli,et al.,Cancer Immunol.Immunother.,35:421~425,(1992);Pietersz and McKenzie,Immunolog.Reviews,129:57~80,(1992);及びRoffler,et al.,Biochem.Pharmacol,42:2062~2065,(1991))。これらの手法は、多様な他の特定の細胞型について使用することができる。「ステルス」などのビヒクル及び(結腸癌を標的とする脂質介在性薬物を含む)他の抗体共役(conjugated)リポソーム、細胞特異的リガンドを介するDNAの受容体介在性標的化、リンパ球指向性腫瘍標的化、並びにインビボでのマウス神経膠腫細胞の高特異的治療的レトロウイルス標的化。以下の参照文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織へ標的化するためにこの技術を使用する例である(Hughes et al.,Cancer Research,49:6214~6220,(1989);及びLitzinger and Huang,Biochimica et Biophysica Acta,1104:179~187,(1992))。全般的に、受容体は、構成的誘発性又はリガンド誘発性のいずれかで、エンドサイトーシスの経路に関与する。クラスリン被覆ピット中のこれらの受容体クラスターは、クラスリン被覆小胞を介して細胞に入り、受容体が分別される酸性化エンドソームを通過し、次いで、細胞表面へ再循環するか、細胞内に保存されるか又はリポソーム内で分解されるかのいずれかである。内在化経路は、栄養取り込み、活性化タンパク質の除去、巨大分子のクリアランス、ウイルス及び毒素の日和見侵入、リガンドの解離及び分解、並びに受容体レベル調節などの多様な機能を果たす。多数の受容体は、細胞型、受容体濃度、リガンドの種類、リガンドの価数及びリガンド濃度に応じて、2つ以上の細胞内経路に従う。受容体介在性エンドサイトーシスの分子機構及び細胞機構がレビューされている(Brown and Greene,DNA and Cell Biology 10:6,399~409(1991))。
【0045】
宿主細胞ゲノム内に組み込まれることとなる、細胞に送達される核酸は、組み込み配列を一般的に含む。これらの配列は、特に、ウイルス系システムが使用されるときに、ウイルス関連配列である場合が多い。これらのウイルス組み込みシステムはまた、リポソームなどの、送達の非核酸系システムを使用して送達されることとなる核酸内に組み込むこともできるため、送達システムに含まれる核酸は、宿主ゲノム内に組み込まれているようにすることができる。
【0046】
宿主ゲノム内に組み込むための他の一般的な技術は、例えば、宿主ゲノムとの相同的組換えを促進するように設計されたシステムを含む。これらのシステムは、ベクター核酸と標的核酸との間で組換えが生じる宿主細胞ゲノム内の標的配列と十分な相同性を有する、発現されることとなる核酸に隣接する配列に一般的に依存し、送達された核酸が宿主ゲノム内に組み込まれるようにする。相同的組換えを促進するために必要なこれらのシステム及び方法は、当業者に既知である。
【0047】
c)インビボ/エクスビボ
上記のように、組成物は、薬学的に許容される担体に施すことができ、当該技術分野で公知の多様な機構(例えば、裸のDNAの取り込み、リポソーム融合、遺伝子銃を介したDNAの筋肉内注射、エンドサイトーシスなど)によりインビボかつ/又はエクスビボで被験体の細胞に送達することができる。
【0048】
エクスビボ法が使用される場合、細胞又は組織は、当該技術分野で公知の標準プロトコルに従って除去して、体外で維持することができる。組成物は、例えば、リン酸カルシウム媒介遺伝子送達、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション又はプロテオリポソームなどの任意の遺伝子導入機構を介して細胞内に導入することができる。次いで、形質導入細胞は、(例えば、薬学的に許容される担体に)注入するか又は細胞若しくは組織種類に対する標準的方法を通じて、被験者に同型で移植して戻すことができる。標準的方法は、被験体内への様々な細胞の移植又は注入として既知である。
【0049】
発現系
細胞に送達される核酸は、発現制御系を一般的に含む。例えば、ウイルス又はレトロウイルスの系に挿入された遺伝子は通常、所望の遺伝子産物の発現の制御を助けるためのプロモーター及び/又はエンハンサーを含む。プロモーターは、一般的に、転写開始部位に関して比較的固定された位置にあるときに機能するDNAの配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼ及び転写因子の基本的な相互作用に必要なコアエレメントを含み、上流エレメント及び応答エレメントを含むことができる。
【0050】
a)ウイルスプロモーター及びエンハンサー
哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの転写を制御する好ましいプロモーターは、様々な起源、例えば、ポリオーマ、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルスなど、最も好ましくは、サイトメガロウイルスなどのウイルスのゲノムから、又は非相同哺乳動物プロモーター、例えば、βアクチンプロモーターから得てもよい。SV40ウイルスの初期プロモーター及び後期プロモーターは、SV40ウイルスの複製起点もまた含む、SV40制限フラグメントとして簡便に得られる(Fiers et al.,Nature,273:113(1978))。ヒトサイトメガロウイルスの最初期プロモーターは、HindIII E制限フラグメントとして簡便に得られる(Greenway,P.J.et al.,Gene 18:355~360(1982))。当然ながら、宿主細胞又は関連する種からのプロモーターもまた、本明細書において有用である。
【0051】
エンハンサーは、一般的に、転写開始部位から不定の距離で機能するDNAの配列を指し、転写ユニットに対して5’(Laimins,L.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.78:993(1981))又は3’(Lusky,M.L.,et al.,Mol.Cell Bio.3:1108(1983))のいずれかに存在し得る。更に、エンハンサーは、イントロン内(Banerji,J.L.et al.,Cell 33:729(1983))、及びコーディング配列それ自体内(Osborne,T.F.,et al.,Mol.Cell Bio.4:1293(1984))に存在し得る。エンハンサーは、通常、10~300bpの長さであり、シス型で機能する。エンハンサーは、近傍のプロモーターからの転写を増大させるよう機能する。エンハンサーはまた、転写の調節を媒介する応答性のエレメントをしばしば含む。プロモーターもまた、転写の調節を媒介する応答性のエレメントを含み得る。エンハンサーは、遺伝子の発現の調節を多くの場合決定する。現在、哺乳動物の遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、-フェトプロテイン及びインスリン)由来の多くのエンハンサー配列が知られているが、一般的には、真核生物細胞ウイルス由来のエンハンサーが一般的な発現のために使用されることとなる。好ましい例は、複製起点(bp100~270)の後位置のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後位置のポリオーマエンハンサー及びアデノウイルスエンハンサーである。
【0052】
プロモーター及び/又はエンハンサーは、それらの機能を引き起こす光又は特定の化学事象のいずれかによって特異的に活性化されてもよい。系は、テトラサイクリン及びデキサメタゾンなどの試薬によって制御できる。ガンマ線照射などの照射又はアルキル化化学療法薬への曝露によってウイルスベクター遺伝子発現を増強する方法もまた存在する。
【0053】
ある実施形態において、プロモーター及び/又はエンハンサー領域は、転写されるべき転写ユニットの領域の発現を最大化するために、構成的プロモーター及び/又はエンハンサーとして作用することができる。ある構築物において、プロモーター及び/又はエンハンサー領域は、たとえそれが特定の時期に特定の型の細胞においてのみ発現する場合であっても、真核生物細胞の全ての種類で活性である。この種類の好ましいプロモーターは、CMVプロモーター(650塩基)である。他の好ましいプロモーターは、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(全長プロモーター)及びレトロウイルスベクターLTRである。いくつかの態様では、構成的プロモーターは、HSVに対する最初期遺伝子プロモーターなどのウイルスバックボーンにおいて発現されるプロモーターである。したがって、一態様では、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む組換えウイルスが本明細書に開示され、PTEN-Long遺伝子は、例えば、HSV IE4/5プロモーターなどの構成的プロモーターに操作可能に結合されている。
【0054】
いくつかの実施形態では、プロモーターは、特定の組織への発現を制限するための、一定の条件が成立するとき又は管理医師が発現を開始かつ/又は停止したいときの、組織特異的プロモーター又は誘導性プロモーターであり得る。誘導性プロモーターは、当該技術分野で既知の任意の誘導性プロモーターを含むことができ、テトラサイクリン誘導性トランスジェニックシステム(テトラサイクリン転写活性化因子(tTA)又は「Tet-Off」及び逆テトラサイクリン転写活性化因子(rtTA)又は「Tet-On」)及びCre-loxが挙げられるが、これらに限定されない。組織特異的プロモーターは、発現が特定の組織/細胞型に制限されるプロモーターである。組織特異的プロモーターは、当該技術分野で公知であり、既知又は市販の任意の組織特異的プロモーターを含むことができる。組織特異的プロモーターの選択は、発現が望まれる細胞型に基づく。したがって、一態様では、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む組換えウイルスが本明細書に開示され、PTEN-Long遺伝子は、組織特異的プロモーター又は誘導性プロモーターに操作可能に結合されている。
【0055】
全ての特定の制御エレメントを、コンストラクト発現ベクターにクローニングして、使用することができ、それは、黒色腫細胞などの特定の細胞型において選択的に発現することが明らかになっている。グリア線維性酢酸性タンパク質(glial fibrillary acetic protein、GFAP)のプロモーターは、膠細胞起源の細胞において選択的に遺伝子を発現するのに使用されている。
【0056】
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト又は有核細胞)に用いられる発現ベクターはまた、転写の終止に必要な配列を含んでいてもよく、これはmRNAの発現に影響を及ぼす。これらの領域は、組織因子タンパク質をコードするmRNAの未翻訳部分においてポリアデニル化セグメントとして転写される。3’非翻訳領域はまた、転写終結部位を含む。転写単位がポリアデニル化領域もまた含むことが好ましい。この領域の1つの利点は、それが転写単位をmRNAのように加工及び輸送する可能性を高めることである。発現コンストラクトにおけるポリアデニル化シグナルの同定及び使用は、よく確立されている。同種のポリアデニル化シグナルが導入遺伝子コンストラクトにおいて使用されることが好ましい。ある転写単位において、ポリアデニル化領域は、SV40初期ポリアデニル化シグナルに由来し、約400塩基からなる。転写単位が他の標準的な配列を単独で、又は上述の配列と組み合わせて含み、コンストラクトからの発現、又はその安定性を向上させることもまた好ましい。
【0057】
b)マーカー
ウイルスベクターは、マーカー産物をコードする核酸配列を含み得る。このマーカー産物は、遺伝子が細胞に送達され、送達された後に発現されるかどうかを確認するために使用される。好ましいマーカー遺伝子は、β-ガラクトシダーゼをコードする大腸菌lacZ遺伝子及び緑色蛍光タンパク質である。
【0058】
いくつかの実施形態では、マーカーは、選択可能マーカーであってもよい。哺乳動物細胞に対する好適な選択可能マーカーの例には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ、ネオマイシン、ネオマイシン類似体G418、ハイドロマイシン(hydromycin)及びピューロマイシンが挙げられる。このような選択可能マーカーが哺乳動物宿主細胞に成功裏に導入されると、形質転換された哺乳動物宿主細胞は、選択圧に置かれた場合に生存することができる。広く使用されている2つの異なるカテゴリの選択体制が存在する。第1のカテゴリは、細胞の代謝と、補充された培地と独立して増殖する能力を欠落する変異細胞株の使用とに基づく。2つの例は、CHO DHFR細胞及びマウスLTK細胞である。これらの細胞は、チミジン又はヒポキサンチンのような栄養素の添加なしで増殖する能力を欠落する。これらの細胞は、完全なヌクレオチド合成経路に必要な特定の遺伝子を欠損しているので、失われたヌクレオチドが補充された培地中に供給されなければ生存できない。培地を補充することの代替としては、無傷のDHFR又はTK遺伝子を、対応する遺伝子を欠損している細胞へと導入し、それによってそれらの増殖要求を改変することである。DHFR又はTK遺伝子によって形質転換されなかった個々の細胞は、無添加培地において生存することができない。
【0059】
第2のカテゴリは、任意の細胞型で使用される選択スキームを指し、変異細胞株の使用を必要としない、優性選択である。これらのスキームは、一般的には、宿主細胞の増殖を停止するための薬剤を使用する。新規遺伝子を有するそれらの細胞は、薬物耐性をもたらすタンパク質を発現し、選択を生き延びることができる。そのような優性選択の例は、薬物ネオマイシン(Southern P.and Berg,P.,J.Molec.Appl.Genet.1:327(1982))、ミコフェノール酸(Mulligan,R.C.and Berg,P.Science 209:1422(1980))又はハイグロマイシン(Sugden,B.et al.,Mol.Cell.Biol.5:410~413(1985))を使用する。それらの3つの例は、真核生物の制御下で細菌の遺伝子を使用し、それぞれ、適切な薬物G418若しくはネオマイシン(ジェネティシン)、xgpt(ミコフェノール酸)又はハイグロマイシンに対する耐性をもたらす。他は、ネオマイシン類似体G418及びピューラマイシンを含む。
【0060】
配列類似性
本明細書で論じられる場合、相同性及び同一性という語句の使用は、類似性と同じことを意味すると理解される。したがって、例えば、相同性という語の使用が2つの非天然配列間で使用される場合、これが必ずしもこれらの2つ配列間の進化的関係を示さないが、むしろそれらの核酸配列間の類似度又は関連性に注目していると理解される。進化的に関連する2つの分子間の相同性を決定するための方法の多くは、任意の2つ以上の核酸又はタンパク質に、それらが進化的に関連するか否かに関わらず、配列類似性を測定する目的で規定どおりに適用される。
【0061】
本明細書で開示される遺伝子及びタンパク質のうちの任意の既知の変異体及び誘導体又は起こり得るものを決定するための1つの方法は、特定の既知の配列に対する相同性に関して変異体及び誘導体を定義することによるものであることが理解される。例えば、配列番号1は、PTEN-Long遺伝子の特定の配列を明示する。具体的には、記載された配列に対して少なくとも70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99パーセントの相同性を有する、本明細書で開示されるこれら及び他の遺伝子及びタンパク質の変異体が開示される。当業者は、2つのタンパク質又は遺伝子などの2つの核酸の相同性を決定する方法を容易に理解する。例えば、相同性は、相同性が最も高いレベルになるように2つの配列をアライメントした後に算出することができる。
【0062】
一般的に、本明細書で開示される遺伝子及びタンパク質のうちの任意の既知の変異体及び誘導体又は起こり得るものを決定するための1つの方法は、特定の既知の配列に対する相同性に関して変異体及び誘導体を定義することによるものであることが理解される。本明細書で開示される特定の配列の同一性もまた、本明細書の他の個所で論じられる。一般的には、本明細書で開示される遺伝子及びタンパク質の変異体は、典型的には、記載された配列又は天然配列に対して、少なくとも約70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99パーセントの相同性を有する。当業者は、2つのタンパク質又は遺伝子などの2つの核酸の相同性を決定する方法を容易に理解する。例えば、相同性は、相同性が最も高いレベルになるように2つの配列をアライメントした後に算出することができる。
【0063】
相同性を算出する他の方法は、公開されたアルゴリズムによって行うことができる。比較のための配列の最適なアライメントは、Smith and Waterman Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch,J.MoL Biol.48:443(1970)の相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444(1988)の類似性に関する検索法によって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)のコンピュータ化された実施によって、又はインスペクションによって行われてもよい。
【0064】
方法のうちの任意を一般的に使用することができること、特定の場合には、これらの様々な方法の結果が異なってもよいことが理解されるが、当業者は、同一性がこれらの方法のうちの少なくとも1つにより見出される場合、配列が記載された同一性を有すると言えるであろうこと、及び本明細書で開示されているであろうことが理解される。
【0065】
例えば、本明細書で使用するとき、他の配列と特定のパーセントの相同性を有していると記載された配列は、上述の計算法のうちの任意の1つ以上によって計算されたとして記載された相同性を有する配列を指す。例えば、第1の配列がZuker計算法を用いて第2の配列と80パーセントの相同性を有するように計算される場合、第1の配列が他の計算法のいずれかによって計算されたように第2の配列と80パーセントの相同性を有さない場合であっても、第1の配列は、本明細書で定義されたように、第2の配列と80パーセントの相同性を有する。別の例として、第1の配列がZuker計算法及びPearson-Lipman計算法の両方を用いて第2の配列と80パーセントの相同性を有するように計算される場合、第1の配列がSmith-Waterman計算法、Needleman-Wunsch計算法、Jaeger計算法又は他の計算法のうちのいずれかによって計算されたように第2の配列と80パーセントの相同性を有さない場合であっても、第1の配列は、本明細書で定義されたように、第2の配列と80パーセントの相同性を有する。更に別の例として、第1の配列が計算法のそれぞれを用いて第2の配列と80パーセントの相同性を有するように計算される場合、第1の配列は、本明細書で定義されたように、第2の配列と80パーセントの相同性を有する(ただし、実際には、異なる計算法は、多くの場合、異なる計算相同性百分率をもたらすこととなる)。
【0066】
ハイブリダイゼーション/選択的ハイブリダイゼーション
用語ハイブリダイゼーションは、プライマー又はプローブ及び遺伝子などの少なくとも2つの核酸分子間の配列駆動相互作用を、一般的に意味する。配列駆動相互作用は、2つのヌクレオチド又はヌクレオチド類似体又はヌクレオチド誘導体の間にヌクレオチド特異的な様式で生じる相互作用を意味する。例えば、Cと相互作用するG又はTと相互作用するAは、配列駆動相互作用である。一般的に、配列駆動相互作用は、ヌクレオチドのワトソン-クリック面又はフーグスティーン面の上で生じる。2つの核酸のハイブリダイゼーションは、当業者に既知の多くの条件及びパラメータにより影響を受ける。例えば、反応の塩濃度、pH及び温度は全て、2つの核酸分子がハイブリダイズすることとなるかどうかに影響を与える。
【0067】
2つの核酸分子間の選択的ハイブリダイゼーションのためのパラメータは、当業者に公知である。例えば、いくつかの実施形態では、選択的ハイブリダイゼーション条件は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件として定義することができる。例えば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーション工程及び洗浄工程のいずれか一方又は両方の、温度及び塩濃度の両方によって制御される。例えば、選択的ハイブリダイゼーションを達成するハイブリダイゼーションの条件は、Tm(分子の半分がそのハイブリダイゼーション相手から解離する融点)未満の約12~25℃の温度での高イオン強度溶液(6X SSC又は6X SSPE)中でのハイブリダイゼーションと、それに続く、洗浄温度がTm未満の約5℃~約20℃となるように選択された温度及び塩濃度の組み合わせで洗浄されることを含んでもよい。温度及び塩条件は、フィルタに固定化された基準DNAの試料を対象の標識核酸にハイブリダイズさせた後、異なるストリンジェンシーの条件下で洗浄した予備実験において、経験的に容易に決定される。ハイブリダイゼーション温度は、一般的には、DNA-RNAハイブリダイゼーション及びRNA-RNAハイブリダイゼーションについてはより高い。条件は、ストリンジェンシーを達成するために上記のように、又当該技術分野で既知であるように使用することができる。DNAに対して好ましいストリンジェントなハイブリダイゼーション条件。DNAハイブリダイゼーションは、6X SSC又は6X SSPE中で(水溶液中で)約68℃にあり、その後68℃で洗浄することができる。ハイブリダイゼーション及び洗浄のストリンジェンシーは、所望する場合、所望する相補性の程度が減少するに従って、また更に、可変性が探索される任意の領域のG-C又はA-Tの豊富度に応じて、低減することができる。同様に、ハイブリダイゼーション及び洗浄のストリンジェンシーは、所望する場合、所望する相同性が増加するに従って、また更に、高い相同性が所望される任意の領域のG-C又はA-Tの豊富度に応じて、全て当該技術分野で既知のように、増加させることができる。
【0068】
選択的ハイブリダイゼーションを定義するための別の方法は、別の核酸に結合した核酸のうちの1つの量(百分率)に注目することによる。例えば、いくつかの実施形態では、選択的ハイブリダイゼーション条件は、制限核酸の少なくとも約60、65、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100パーセントが、非制限核酸に結合されているときであろう。一般的には、非制限プライマーは、例えば、10又は100又は1000倍過剰である。このタイプのアッセイは、制限プライマー及び非制限プライマーの両方が、例えば、それらのk未満である10倍若しくは100倍若しくは1000倍であるか、又は核酸分子の1つのみが10倍又は100倍又は1000倍であるか、又は核酸分子の一方又は両方がそれらのkを超える条件下で行うことができる。
【0069】
選択的ハイブリダイゼーションを定義するための別の方法は、所望の酵素的操作を促進するためにハイブリダイゼーションが必要な条件下で酵素的操作を受けたプライマーの百分率に注目することである。例えば、いくつかの実施形態では、選択的ハイブリダイゼーション条件は、プライマーの少なくとも約60、65、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100パーセントが、酵素的操作を促進する条件下で酵素的操作されるときであろう。例えば、酵素的操作がDNA伸長である場合には、選択的ハイブリダイゼーション条件は、プライマー分子の少なくとも約60、65、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100パーセントが伸長される場合であろう。好ましい条件はまた、酵素が操作を行うために適切であるとして製造メーカによって提案された又は当該技術分野で示された条件を含む。
【0070】
相同性と同様に、2つの核酸分子間のハイブリダイゼーションのレベルを決定するために本明細書に開示される様々な方法が存在することが理解される。これらの方法及び条件が、2つの核酸分子間のハイブリダイゼーションの異なる割合を提供してもよく、特に指示しない限り、方法のいずれかのパラメータを満たすことが十分であろうことが理解される。例えば、80%ハイブリダイゼーションが必要であり、ハイブリダイゼーションがこれらの方法のいずれか1つにおける必要なパラメータの範囲内で起こる場合に限り、本明細書で開示されたと考えられる。
【0071】
組成物又は方法が、全体で又は個別のいずれかで、ハイブリダイゼーションを決定するためのこれらの基準のいずれか1つに適合する場合、本明細書で開示される組成物又は方法であることを当業者が理解するものと理解される。
【0072】
核酸
核酸系である、本明細書で開示される様々な分子があり、例えば、PTEN-Longをコードする核酸又はこれらのフラグメント及び様々な機能性核酸を含む。開示される核酸は、例えば、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド置換体からなる。これらの分子及び他の分子の非限定的な例は、本明細書において議論されている。例えば、細胞内でベクターが発現されるとき、発現されたmRNAは、一般的には、A、C、G及びUからなることが理解される。同様に、例えば、アンチセンス分子が、例えば、外因性の送達を通じて細胞又は細胞環境に導入される場合、アンチセンス分子が、細胞環境におけるアンチセンス分子の分解を低減するヌクレオチド類似体からなることが有益であることが理解される。
【0073】
a)ヌクレオチド及び関連分子
ヌクレオチドは、塩基部分、糖部分及びリン酸部分を含む分子である。ヌクレオチドは、ヌクレオシド間結合を生成するそれらのリン酸部分及び糖部分を通じて結合され得る。ヌクレオチドの塩基部分は、アデニン-9-イル(A)、シトシン-1-イル(C)、グアニン-9-イル(G)、ウラシル-1-イル(U)及びチミン-1-イル(T)であり得る。ヌクレオチドの糖部分は、リボース又はデオキシリボースである。ヌクレオチドのリン酸部分は、五価のリン酸である。ヌクレオチドの非限定例は、3’-AMP(3’-アデノシンモノリン酸)又は5’-GMP(5’-グアノシンモノリン酸)であろう。当該技術分野において利用可能な多数の様々のこれらの種類の分子が存在し、本明細書において利用可能である。
【0074】
ヌクレオチド類似体は、塩基、糖又はリン酸部分のいずれかにある種の修飾を含むヌクレオチドである。ヌクレオチドに対する修飾は、当該技術分野において公知であり、例えば、5-メチルシトシン(5-me-C)、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン及び2-アミノアデニン、並びに糖部分又はリン酸部分における修飾が挙げられる。当該技術分野において利用可能な多数の様々のこれらの種類の分子が存在し、本明細書において利用可能である。
【0075】
ヌクレオチド置換体は、ヌクレオチドに対して同様の機能性を有するが、ペプチド核酸(PNA)などのリン酸部分を含まない分子である。ヌクレオチド置換体は、ワトソン-クリック又はフーグスティーンの様式で核酸を認識するが、リン酸部分以外の部分を通じて共に結合する分子である。ヌクレオチド置換体は、適切な標的核酸と相互作用する際に二重らせん型構造に適合することができる。当該技術分野において利用可能な多数の様々のこれらの種類の分子が存在し、本明細書において利用可能である。
【0076】
他の種類の分子(コンジュゲート)をヌクレオチド又はヌクレオチド類似体に結合させて、例えば、細胞取り込みを増強することも可能である。コンジュゲートは、ヌクレオチド又はヌクレオチド類似体に化学結合することができる。このようなコンジュゲートとしては、コレステロール部分のような脂質部分が挙げられるが、これらに限定されない。(Letsinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989,86,6553~6556)。当該技術分野において利用可能な多数の様々のこれらの種類の分子が存在し、本明細書において利用可能である。
【0077】
ワトソン-クリック相互作用は、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド置換体のワトソン-クリック面との少なくとも1つの相互作用である。ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド置換体のワトソン-クリック面は、プリン塩基ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド置換体のC2位、N1位及びC6位、並びにピリミジン塩基ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体又はヌクレオチド置換体のC2位、N3位、C4位を含む。
【0078】
フーグスティーン相互作用は、二本鎖DNAの主溝において露出したヌクレオチド又はヌクレオチド類似体のフーグスティーン面で起こる相互作用である。フーグスティーン面は、プリンヌクレオチドのN7位及びC6位における反応性基(NH2又はO)を含む。
【0079】
b)配列
本明細書で開示されるシグナル伝達経路に関与するタンパク質分子に関連する様々な配列が存在し、例えば、PTEN-Long又はPTEN-Longを作製するために本明細書で開示される核酸のいずれかであり、これらの全ては、核酸によってコードされるか又は核酸である。これらの遺伝子のヒト類似体及び他の類似体、及びこれらの遺伝子の対立遺伝子、及びスプライス変異体、及び他の種類の変異体についての配列は、Genbankを含む、様々なタンパク質及び遺伝子のデータベースにおいて利用可能である。配列の矛盾及び相違をいかに解決するか、特定の配列に関する組成物及び方法を、他の関連する配列のためにいかに適応させるかについて、当業者は理解する。プライマー及び/又はプローブは、本明細書に開示されている情報が与えられた任意の配列について設計することができ、当該技術分野で既知である。
【0080】
医薬担体/医薬品の送達
上述のように、組成物はまた、薬学的に許容される担体中で、インビボで投与され得る。「薬学的に許容される」とは、生物学的に又はその他の点で望ましい物質を意味し、すなわち、その物質は、望ましくない生物学的効果をいずれも引き起こすことなく、又は物質が含まれる医薬組成物の他の成分のいずれかと有害な様式で相互作用することなく、核酸又はベクターと共に被験体に投与されてもよい。担体は、当業者に公知であるように、活性成分の分解を最小限にするように、かつ被験体における任意の有害な副作用を最小限にするように、当然選択されるであろう。
【0081】
組成物は、局所鼻腔内投与又は吸入による投与を含んで、経口的に、非経口的に(例えば、静脈内に)、筋肉内注射によって、腹腔内注射によって、経皮的に、体外に、局所的になどで投与されてもよい。本明細書で使用するとき、「局所鼻腔内投与」は、鼻孔の一方又は両方を通る鼻及び鼻腔への組成物の送達を意味し、噴霧機構若しくは液滴機構による送達又は核酸若しくはベクターのエアロゾル化を介した送達を含むことができる。吸入による組成物の投与は、噴霧機構又は液滴機構による送達を介して鼻又は口を通して行うことができる。送達はまた、挿管を介して呼吸器系(例えば、肺)の任意の領域に対して直接行うことができる。必要とされる組成物の正確な量は、被験体の人種、年齢、体重及び全身状態、治療されるアレルギー性疾患の重症度、使用される特定の核酸又はベクター、組成物の投与様式などに依存して、被験体によって異なるであろう。したがって、全ての組成物の正確な量を指定することは不可能である。しかし、適量は、本明細書の教示に鑑みて、通常の実験のみを使用して、当業者によって決定され得る。
【0082】
組成物の非経口投与は、使用される場合、一般に注射を特徴とする。注射剤は、溶液若しくは懸濁液、注射前における液体での溶解又は懸濁に好適な固形、又は乳剤のいずれかとして、従来の形態で調製されてよい。非経口投与についてごく最近改良された方法は、一定用量が維持されるように徐放系又は持続放出系の使用を伴う。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第3,610,795号を参照されたい。
【0083】
材料は、溶液、(例えば、微小粒子、リポソーム又は細胞に組み込まれた)懸濁液であってもよい。これらは、抗体、受容体又は受容体リガンドを介して特定の細胞型を標的としてもよい。以下の参照文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織へ標的化するためにこの技術を使用する例である(Senter,et al.,Bioconjugate Chem.,2:447~451,(1991);Bagshawe,K.D.,Br.J.Cancer,60:275~281,(1989);Bagshawe,et al.,Br.J.Cancer,58:700~703,(1988);Senter,et al.,Bioconjugate Chem.,4:3~9,(1993);Battelli,et al.,Cancer Immunol.Immunother.,35:421~425,(1992);Pietersz and McKenzie,Immunolog.Reviews,129:57~80,(1992);及びRoffler,et al.,Biochem.Pharmacol,42:2062~2065,(1991))。「ステルス」などのビヒクル及び(結腸癌を標的とする脂質介在性薬物を含む)他の抗体共役リポソーム、細胞特異的リガンドを介するDNAの受容体介在性標的化、リンパ球指向性腫瘍標的化、並びにインビボでのマウス神経膠腫細胞の高特異的治療的レトロウイルス標的化。以下の参照文献は、特定のタンパク質を腫瘍組織へ標的化するためにこの技術を使用する例である(Hughes et al.,Cancer Research,49:6214~6220,(1989);及びLitzinger and Huang,Biochimica et Biophysica Acta,1104:179~187,(1992))。全般的に、受容体は、構成的誘発性又はリガンド誘発性のいずれかで、エンドサイトーシスの経路に関与する。クラスリン被覆ピット中のこれらの受容体クラスターは、クラスリン被覆小胞を介して細胞に入り、受容体が分別される酸性化エンドソームを通過し、次いで、細胞表面へ再循環するか、細胞内に保存されるか又はリポソーム内で分解されるかのいずれかである。内在化経路は、栄養取り込み、活性化タンパク質の除去、巨大分子のクリアランス、ウイルス及び毒素の日和見侵入、リガンドの解離及び分解、並びに受容体レベル調節などの多様な機能を果たす。多数の受容体は、細胞型、受容体濃度、リガンドの種類、リガンドの価数及びリガンド濃度に応じて、2つ以上の細胞内経路に従う。受容体介在性エンドサイトーシスの分子機構及び細胞機構がレビューされている(Brown and Greene,DNA and Cell Biology 10:6,399~409(1991))。
【0084】
a)薬学的に許容される担体
抗体を含む組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて治療する上で使用することができる。
【0085】
好適な担体及びこれらの製剤は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(19th ed.)ed.A.R.Gennaro,Mack Publishing Company,Easton,PA 1995に記載されている。一般的には、適量の薬学的に許容される塩を製剤に使用して、製剤等張性(formulation isotonic)を与える。薬学的に許容される担体の例には、生理食塩水、リンゲル溶液及びデキストロース溶液が挙げられるが、これらに限定されない。溶液のpHは、好ましくは、約5~約8、より好ましくは、約7~約7.5である。更に、担体は、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスなどの徐放性製剤を含み、マトリックスは、成形品の形態、例えば、フィルム、リポソーム又は微粒子である。例えば、投与経路及び投与される組成物の濃度に応じて、特定の担体が更に好ましい場合があることは、当業者には明白であろう。
【0086】
医薬担体は、当業者に既知である。これらは、最も一般的には、滅菌水、生理食塩水及び生理的pHの緩衝液などの溶液を含む、ヒトへの薬剤投与のための標準的な担体であると考えられる。組成物は、筋肉内又は皮下に投与することができる。他の化合物は、当業者によって使用される標準的な手順に従って投与されることとなる。
【0087】
医薬組成物は、選択した分子に加えて、担体、増粘剤、希釈剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤などを含んでもよい。医薬組成物はまた、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔薬などの、1種以上の有効成分を含んでもよい。
【0088】
医薬組成物は、局所治療又は全身治療が望まれているかどうか、及び治療すべき領域に応じて、多数の方法で投与されてもよい。投与は、(眼科的、経腟的、経直腸的、鼻腔内を含んで)局所的に、経口的に、吸入により又は、例えば、静脈内点滴、皮下注射、腹腔内注射若しくは筋肉内注射による非経口的にでもよい。開示される抗体は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内又は経皮的に投与することができる。
【0089】
非経口的投与の製剤には、滅菌した水溶液又は非水溶液、懸濁液及びエマルションが挙げられる。非水溶液の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油及びオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。水性担体には、生理食塩水及び緩衝媒体を含む、水、アルコール性/水性溶液、エマルション又は懸濁液が挙げられる。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル又は不揮発性油が挙げられる。静脈内ビヒクルには、流体及び栄養補充剤、電解質補充剤(リンゲルデキストロースに基づく電解質補充剤など)などが挙げられる。防腐剤及び他の添加剤はまた、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスなどとして存在してもよい。
【0090】
局所投与のための製剤は、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、液滴、坐剤、スプレー、液体及び粉末を含んでもよい。従来の医薬担体、水性基剤、粉末基剤又は油性基剤、増粘剤などが、必要となるか又は望ましい場合がある。
【0091】
経口投与のための組成物には、粉末若しくは顆粒、水中又は非水性媒体中の懸濁液若しくは溶液、カプセル、小袋又はタブレットが挙げられる。増粘剤、香味料、希釈剤、乳化剤、分散助剤又は結合剤が望ましい場合がある。
【0092】
組成物のうちのいくつかは、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸及びリン酸などの無機酸並びにギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸及びフマル酸などの有機酸との反応によって、又は、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムなどの無機塩基並びにモノ、ジ、トリアルキルアミン及びアリールアミン及び置換エタノールアミンなどの有機塩基類との反応によって形成される、薬学的に許容される酸付加塩又は塩基付加塩として、投与される可能性がある場合がある。
【0093】
b)治療的使用
組成物を投与するための有効量及びスケジュールは、経験的に決定されてもよく、そのような決定を行うことは、当業者の技能の範囲内である。組成物の投与の用量範囲は、疾患の症状に影響する所望の効果を生じるほど大きい用量である。用量は、望ましくない交差反応、アナフィラキシー反応などの有害な副作用を引き起こすほど大きくあるべきではない。一般に、用量は、年齢、状態、性別及び患者の疾患の程度、投与経路又は他の薬物がレジメンに含まれているかどうかにより変動することとなり、当業者によって決定することができる。用量は、いずれかの禁忌がある場合には、個々の医師によって調整することができる。用量は、変更することができ、毎日、1日又は数日間、1つ以上の用量の投与において投与することができる。指針は、所与のクラスの医薬製品に対する適切な用量に関する文献において見出すことができる。例えば、抗体について適切な用量を選択する際の指針は、抗体の治療用途に関する文献、例えば、Handbook of Monoclonal Antibodies,Ferrone et al.,eds.,Noges Publications,Park Ridge,N.J.,(1985)ch.22 and pp.303~357;Smith et al.,Antibodies in Human Diagnosis and Therapy,Haber et al.,eds.,Raven Press,New York(1977)pp.365~389に見出すことができる。単独使用の抗体の一般的な1日用量は、上記の因子に基づいて、1日につき体重1kg当たり約1μg~最大100mg又はそれ以上の範囲である場合がある。
【0094】
C.癌を治療する方法
開示されるPTEN-Long発現組換えウイルスは、癌の治療に有効であることが理解され、本明細書で企図される。したがって、一態様では、本明細書で開示されるPTEN-Long発現ウイルスのいずれかを被験体に投与することを含む、被験体において癌を治療する方法が、本明細書に開示される。例えば、一態様では、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む組換えウイルス(PTEN-Long導入遺伝子を含む腫瘍溶解性HSVウイルスベクター、例えば、HSV-P10など)を被験体に投与することを含む、被験体における癌の治療方法が、本明細書に開示される。
【0095】
本明細書で開示されるPTEN-Long発現ウイルスは、癌などの制御不能な細胞増殖が生じる任意の疾患を治療するために使用することができる。種々の型の癌の非限定的リストには、以下のものがある。リンパ腫(ホジキン及び非ホジキン)、白血病、癌、固形組織の癌、扁平上皮癌、腺癌、肉腫、神経膠腫、高悪性度神経膠腫、芽細胞腫、神経芽細胞腫、形質細胞腫、組織球腫、黒色腫、腺腫、酸素欠乏腫瘍、骨髄腫、エイズ関連リンパ腫若しくは肉腫、転移性癌又は一般的な癌。
【0096】
開示するPTEN-Long発現ウイルスを治療に使用することができる癌の代表的な非限定的リストには、以下のものがある。リンパ腫、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、菌状息肉腫、ホジキン病、骨髄性白血病、膀胱癌、脳腫瘍、神経系癌、頭頚部癌、頭頚部扁平上皮癌、小細胞肺癌及び非小細胞肺癌などの肺癌、神経芽細胞腫、膠芽腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌、肝臓癌、黒色癌、口腔、咽喉、喉頭及び肺の扁平上皮癌、結腸癌、子宮頸癌、子宮頸癌種、乳癌、並びに上皮癌、腎癌、泌尿生殖器癌、肺癌、食道癌、頭頚部癌腫、大腸癌、造血性癌、精巣癌、結腸癌、並びに直腸癌。
【0097】
本明細書で開示される哺乳動物PTEN-Longを発現する組換えウイルスはまた、子宮頸部異形成及び肛門異形成などの前癌状態、他の異形成、高度異形成上皮、過形成、非定型過形成及び新生組織形成を治療するために使用してもよい。
【0098】
一態様では、開示されるPTEN-Long発現ウイルスは、被験体に既に存在する癌を阻害、低減又は治療するために治療的に投与することができる。しかし、PTEN-Long発現ウイルスを予防的に投与して転移を阻害又は減少させることができることもまた、本明細書で企図される。したがって、一態様では、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を発現する組換えウイルスを被験体に投与することを含む、被験体における癌の転移を阻害又は推定する方法が、本明細書に開示される。
【0099】
本明細書に開示されるように、癌を治療し、阻害し、かつ/又は減少させる能力は、少なからず、NK細胞及びCD8 T細胞などの免疫細胞の浸潤が増加した結果であり得る。一般的には、CD8 T細胞及びNK細胞は、感染部位及び/又は癌が浸潤することを阻害するであろう。癌細胞は、多くの場合、PD1-PD-L1相互作用をチェックポイントとして利用して、NK細胞及びCD8 T細胞の浸潤を阻害する。PD1は、T細胞上で発現され、そのリガンドPD-L1と結合すると、シグナル伝達経路がトリガーされ、増殖を阻害するPD1を停止させる。癌細胞は、PD-L1を増加させて、T細胞及びNK細胞が媒介する死滅を回避する。開示されるPTEN-Long発現組換えウイルスは、PD-L1の発現を阻害する。PD-L1を阻害することにより、PD1-PD-L1チェックポイントが阻害され、NK細胞及びCD8 T細胞が浸潤して癌を死滅させることを可能にする。したがって、一態様では、本明細書で開示されるPTEN-Long発現組換えウイルスのいずれかを被験体に投与することを含む、被験体における癌の部位で浸潤CD8 T細胞及び/又は浸潤NK細胞の数を増加させる方法が、本明細書に開示される。例えば、一態様では、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む組換えウイルス(PTEN-Long導入遺伝子を含む腫瘍溶解性HSVウイルスベクター、例えば、HSV-P10など)を被験体に投与することを含む、被験体における癌の部位での浸潤CD8 T細胞及び/又は浸潤NK細胞の数を増加させる方法が、本明細書に開示される。
【0100】
[実施例]
以下の実施例は、本明細書において特許請求の範囲に記載された化合物、組成物、物品、デバイス及び/又は方法をどのように製造及び評価するかの完全な開示及び記載を当業者に提供するために示され、純粋に例示的であることが意図され、開示を制限することを意図しない。数字(例えば、量、温度など)に関して精度を保証する努力がなされたが、ある程度の誤差及び偏差を考慮するものとする。特に記載のない限り、部分は、重量部であり、温度は、℃単位又は周囲温度であり、圧力は、大気圧又はほぼ大気圧である。
【0101】
(実施例1)
腫瘍溶解性HSV-1ベクターは、HSVQuikシステムを用いて生成された。このシステムは、神経病原性因子γ-34.5及びウイルスリボヌクレオチドリダクターゼICP6について二重に欠失したF株HSV-1である、G207ウイルスバックボーンを用いる(図1A)。ウイルスは、神経由来ではない腫瘍細胞において条件付きに複製され、タンパク質キナーゼRシグナル伝達が欠損し、分割の間に自身のリボヌクレオチドリダクターゼを産生する。PTEN-L導入遺伝子は、標準PTEN開始部位の519bp上流のATG開始部位を含む(配列番号:1)。この第2の開始部位は、導入遺伝子において変異されており、標準PTENを、部位特異的変異誘発法を用いてその第2のATG開始部位をATAに変異させることによって排除する。この変異は、全PTEN-L遺伝子の発現を促進し、PTENの短い細胞内形態の発現を防止する。変異PTEN-L導入遺伝子は、HSVquikプロトコルに従ってG207ウイルスバックボーンにクローニングされた。
【0102】
HSV-P10は、増幅され、標準ショ糖精製プロトコルを用いて精製された。70%融合性ベロ細胞の150mmプレート10~20枚を、最小体積の2%-FBS DMEM中で低MOIで感染させた。感染プレートは、5%C0+空気を含む加湿インキュベータ内で34Cに移された。プレート上の細胞の大部分が丸くなり始めたとき(通常は3~4日目)、細胞及び培地をこすり落として集めた。細胞を遠心分離によりペレット化し、上澄みを50ml円錐管に移して分離した。全ての細胞を20~30mlの上澄み中で共に再懸濁し、細胞及び培地を液体窒素内で急速凍結し、-80Cで保存した。凍結細胞を37C水槽内で解凍して4Cにし、超音波処理してウイルス粒子を無傷細胞から放出させた。細胞破砕物を遠心分離により再びペレット化し、ウイルス粒子を含む培地を、細胞を含まない分離された培地と併せた。ウイルス粒子を超遠心分離によりペレット化し、無菌生理食塩水中に再懸濁した。再懸濁したウイルスを30%スクロース層の上に重ね合わせ、分離した層を再び超遠心分離してウイルス粒子のみを精製した。ペレット化したウイルスを最小体積の無菌生理食塩水中20%グリセリンに再懸濁し、20μlアリコートに分割して-80Cで保存した。
【0103】
PTEN-L発現ウイルス(HSV-P10はまたRAPTORとも称する)のインビトロ及びインビボの有効性を試験するために、U87膠芽腫細胞をHSV-P10(すなわち、RAPTOR)に感染の多重度1で感染させ、PTEN-Longの発現は、様々な時点で測定された(図1B)。PTEN-Long発現は、感染後4時間以内に観察される。次に、AKTのリン酸化におけるPTEN-Longの効果を比較するために、DB7細胞を、非感染細胞(NV)又はHSVQベクターのみに感染した細胞(Q)又はHSV-P10に感染した細胞(すなわち、PTEN-Long発現HSVQ)(R)に由来する細胞溶解物により感染させた。ここで、HSVQ-P10に感染したDB7細胞は、PTEN-Longを発現し、AKTリン酸化を低減した。HSVQ感染細胞と比較した。
【0104】
PTENは、乳癌脳転移(BCBM)では通常失われている。これを確認するために、ヒト乳癌脳転移の切片(上、40倍)及び頭蓋内DB7(マウス乳癌細胞)を有するFVB/Nマウスの切片(下、20倍)に由来する、代表的なヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色並びにPTEN染色を示す。染色は、BCBM細胞におけるPTENの顕著な喪失を裏付ける。
【0105】
RAPTORウイルス(すなわち、HSV-P10)がHSVQウイルスと同じ細胞向性及び増殖能力を有することを示すために、LN229細胞(膠芽腫細胞株)、U251-T3細胞(神経膠腫細胞)及びU87ΔEGFR細胞(神経膠腫細胞)をHSVQ又はHSV-P10のいずれか一方で感染の多重度(MOI)0.1で感染させた。細胞は、生存性及び感染について観察された。図3に示すように、HSVQ及びHSV-P10の両方は、3つの細胞タイプ全てに感染し、LN229細胞及びU251-T3細胞を完全に溶解することができた。
【0106】
次に、MTTアッセイをDB7細胞(図4A)、MDA-MB-468細胞(ヒト乳癌)(図4B)、LN229細胞(図4C)、U87ΔEGFR細胞(図4D)において行い、PTEN-Long発現が複数の細胞株におけるHSV-P10細胞死滅を阻害しないことが観察された。それぞれの細胞シナリオでは、感染細胞の溶菌の速度は、同一であった。大きさの差異は、96時間の培養にわたって完全に維持されている任意の差異によって証明されるような、ウイルス感染における真の差異よりもむしろ、細胞に投与されたウイルス負荷における変動に起因すると判定された。
【0107】
PTEN-Longの発現がどのようにインビボ腫瘍負荷に影響を与えたのかを知るために、DB7-dsRed腫瘍を有するFVB/Nマウス免疫能及びDB7を有するヌードマウスを、生理食塩水対照又はHSVQウイルスバックボーン又はPTEN-Long発現HSV-P10(すなわち、RAPTOR)に感染させた(図5)。感染後40日目までに、モック感染動物の90%及び50%のHSVQ感染動物が死亡した。対照的に感染後100日目において、HSV-P10動物の90%超が生存していた。免疫不全ヌードマウスでは、腫瘍を有する全てのマウスは、HSVQ群及び生理食塩水群において15日目までに死亡し、RAPTOR感染群において19日目までに死亡した。これは、HSV-P10が乳癌脳転移を有するマウスにおける生存を促進することを示す。
【0108】
HSV-P10感染マウスにおける保護の機構を決定するために、感染腫瘍細胞を除去して、マクロファージ、NK細胞及びCD8 T細胞の浸潤の存在について測定した(図6)。CD11b+及びF4/80+について染色すると、マクロファージ(CD45hi)に対するCD11b F4/80ミクログリア(CD45lo-int)の比が、HSQV細胞及びHSV-P10細胞において減少し、HSV-P10感染細胞に比較的より多くのマクロファージが存在したことが観察された(図6A)。ミクログリア及びマクロファージの活性化状態を判定するために測定すると、活性化細胞の割合もまたHSVQ感染細胞及びISV-P10感染細胞において増加し、HSV-P10集団においてより顕著に活性化することが更に観察された(図6B)。浸潤NK細胞(図6C)及び浸潤CD8 T細胞(図6D)について測定すると、HSVQが浸潤NK細胞又は浸潤CD8 T細胞の割合において統計的増加を有さなかった一方で、RAPTOR感染細胞(すなわち、HSV-P10感染細胞)が、HSVQ及びモック感染と比較して、NK細胞及びCD8 T細胞の割合における大幅な増加を示したことが示された。
【0109】
浸潤NK細胞及び浸潤CD8 T細胞における増加が、NK細胞及びCD8 T細胞の増殖を阻害するためにPD1を通してシグナル伝達するように通常機能し得る、PD-L1発現における減少に起因し得ることを仮定し、細胞は、PD-L1発現について試験された(図7)。モック感染したDB7細胞は、予測されたであろう、ほとんど検出できないレベルのPD-L1を示した。同様に予測されたように、HSVQ感染細胞は、感染後24時間のウイルス誘導PD-L1発現を示した。しかし、PTEN-Long発現HSV-P10(すなわち、RAPTOR)に感染した細胞は、PD-L1発現において大幅な低減を示した。HSVQバックボーンとHSV-P10との間で唯一異なるのがPTEN-Long導入遺伝子であるため、PD-L1におけるこの低減は、PTEN-Long発現の直接の結果である。
【0110】
加えて、HSV-P10感染動物は、抗DB-7抗体を産生することができた(図8)。
結論
HSV-P10ウイルスは、二重に欠失したγ-34.5遺伝子並びにGFP及びPTEN-Long発現ベクターを含むウイルスICP6における挿入変異を有する単純ヘルペスウイルス1型である。HSV-P10:は、感染細胞においてPTEN-Lを発現し、感染細胞からPTEN-Lを分泌し、感染細胞におけるAktリン酸化もまた低減する。HSV-P10は、HSVQと比較して神経膠腫細胞において等価複製を示し、神経膠腫細胞株及び乳癌細胞株をHSVQと同じ有効性で死滅させる。
【0111】
しかし、HSV-P10は、DB7乳癌脳転移を有する免疫能があるマウスにおける生存を促進する。これは部分的に、PD-L1の発現によってもはや抑制されない、DB7腫瘍を有する脳半球の活性化免疫エフェクター細胞の補充の増加における結果であるのは、HSV-P10が感染細胞及び隣接非感染細胞においてPD-L1発現を低減することが本明細書で示されたからである。加えて、HSV-P10は、DB7癌抗原に対してロバストな抗原拡散を誘導する。
【0112】
HSV-P10は、腫瘍細胞の死滅を誘発するために3つの主要な方法で作用する。第1に、ウイルスは、感染腫瘍細胞中で選択的に複製し、感染腫瘍細胞を破壊することができる。第2に、HSV-P10は、腫瘍抑制因子PTEN-Longの分泌を誘導し、PTEN-Longは、非感染腫瘍細胞の増殖を局所的に遅くするように作用することができ、損傷関連分子パターン分子としてもまた作用して、感染の部位に対して自然免疫系を補充することができる。第3に、HSV-P10は、腫瘍細胞溶解及び感染の部位への免疫細胞補充を介して、非自己腫瘍ペプチドを免疫系に曝露することにより、腫瘍細胞に対する適応的免疫応答を誘発する、「癌ワクチン」として作用する(図9)。
【0113】
E.参照文献
1 Cerami,E.,Demir,E.,Schultz,N.,Taylor,B.S.,& Sander,C.(2010)。「Automated network analysis identifies core pathways in glioblastoma。」Plos One,5(2),e8918。
【0114】
2 Hopkins,B.D.,Fine,B.,Steinbach,N.,Dendy,M.,Rapp,Z.,Shaw,J.,Parsons,R.(2013)。「A secreted PTEN phosphatase that enters cells to alter signaling and survival。」Science(New York,N.Y.),341(6144),399~402。
【0115】
3 Mineharu Y.Kamran N,Lowenstein PR,Castro MG。「Blockade of mTOR signaling via rapamycin combined with immunotherapy augments antiglioma cytotoxic and memory T-cell functions。」Mol Cancer Ther.2014;13(12):3024~3036。
【0116】
4 Terada,K.,Wakimoto,H.,Tyminski,E.,Chiocca,E.Ak,& Saeki,Y.(2006)。「Development of a rapid method to generate multiple oncolytic HSV vectors and their in vivo evaluation using syngeneic mouse tumor models。」Gene Therapy,13(8),705~14。
【0117】
5 Zhang L,Zhang S,Yao J,et al。「Microenvironment-induced PTEN loss by exosomal microRNA primes brain metastasis outgrowth。」Nature.2015;527(7576):100~104。
【0118】
F. 配列
配列番号:1 PTEN-Longコード化領域
ATGGAGCGGGGAGGAGAAGCGGCGGCGGCGGCGGCCGCGGCGGCTGCAGCTCCAGGGAGGGGGTCTGAGTCGCCTGTCACCATTTCCAGGGCTGGGAACGCCGGAGAGTTGGTCTCTCCCCTTCTACTGCCTCCAACACGGCGGCGGCGGCGGCGGCACATCCAGGGACCCGGGCCGGTTTTAAACCTCCCGTCCGCCGCCGCCGCACCCCCCGTGGCCCGGGCTCCGGAGGCCGCCGGCGGAGGCAGCCGTTCGGAGGATTATTCGTCTTCTCCCCATTCCGCTGCCGCCGCTGCCAGGCCTCTGGCTGCTGAGGAGAAGCAGGCCCAGTCGCTGCAACCATCCAGCAGCCGCCGCAGCAGCCATTACCCGGCTGCGGTCCAGAGCCAAGCGGCGGCAGAGCGAGGGGCATCAGCTACCGCCAAGTCCAGAGCCATTTCCATCCTGCAGAAGAAGCCCCGCCACCAGCAGCTTCTGCCATCTCTCTCCTCCTTTTTCTTCAGCCACAGGCTCCCAGACATAACAGCCATCATCAAAGAGATCGTTAGCAGAAACAAAAGGAGATATCAAGAGGATGGATTCGACTTAGACTTGACCTATATTTATCCAAACATTATTGCTATGGGATTTCCTGCAGAAAGACTTGAAGGCGTATACAGGAACAATATTGATGATGTAGTAAGGTTTTTGGATTCAAAGCATAAAAACCATTACAAGATATACAATCTTTGTGCTGAAAGACATTATGACACCGCCAAATTTAATTGCAGAGTTGCACAATATCCTTTTGAAGACCATAACCCACCACAGCTAGAACTTATCAAACCCTTTTGTGAAGATCTTGACCAATGGCTAAGTGAAGATGACAATCATGTTGCAGCAATTCACTGTAAAGCTGGAAAGGGACGAACTGGTGTAATGATATGTGCATATTTATTACATCGGGGCAAATTTTTAAAGGCACAAGAGGCCCTAGATTTCTATGGGGAAGTAAGGACCAGAGACAAAAAGGGAGTAACTATTCCCAGTCAGAGGCGCTATGTGTATTATTATAGCTACCTGTTAAAGAATCATCTGGATTATAGACCAGTGGCACTGTTGTTTCACAAGATGATGTTTGAAACTATTCCAATGTTCAGTGGCGGAACTTGCAATCCTCAGTTTGTGGTCTGCCAGCTAAAGGTGAAGATATATTCCTCCAATTCAGGACCCACACGACGGGAAGACAAGTTCATGTACTTTGAGTTCCCTCAGCCGTTACCTGTGTGTGGTGATATCAAAGTAGAGTTCTTCCACAAACAGAACAAGATGCTAAAAAAGGACAAAATGTTTCACTTTTGGGTAAATACATTCTTCATACCAGGACCAGAGGAAACCTCAGAAAAAGTAGAAAATGGAAGTCTATGTGATCAAGAAATCGATAGCATTTGCAGTATAGAGCGTGCAGATAATGACAAGGAATATCTAGTACTTACTTTAACAAAAAATGATCTTGACAAAGCAAATAAAGACAAAGCCAACCGATACTTTTCTCCAAATTTTAAGGTGAAGCTGTACTTCACAAAAACAGTAGAGGAGCCGTCAAATCCAGAGGCTAGCAGTTCAACTTCTGTAACACCAGATGTTAGTGACAATGAACCTGATCATTATAGATATTCTGACACCACTGACTCTGATCCAGAGAATGAACCTTTTGATGAAGATCAGCATACACAAATTACAAAAGTCTGA
【0119】
(1)
哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む、組換えウイルス。
(2)
前記ウイルスは、腫瘍細胞を標的とするように改変されている、(1)に記載の組換えウイルス。
(3)
前記ウイルスは、腫瘍特異的プロモーターの制御下で、ウイルス複製に重要な遺伝子を配置するように改変されている、(1)に記載の組換えウイルス。
(4)
前記組換えウイルスは、単純ヘルペスウイルス-1バックボーンを含む、(1)に記載の組換えウイルス。
(5)
前記PTEN-Long遺伝子は、組織特異的プロモーターに作動可能に結合されている、(1)に記載の組換えウイルス。
(6)
前記PTEN-Long遺伝子は、誘導性プロモーターに作動可能に結合されている、(1)に記載の組換えウイルス。
(7)
前記PTEN-Long遺伝子は、構成的プロモーターに作動可能に結合されている、(1)に記載の組換えウイルス。
(8)
被験体において癌を治療する方法であって、(1)に記載の前記ウイルスを前記被験体に投与することを含む、方法。
(9)
(1)に記載の前記ウイルスを前記被験体に投与することを含む、癌細胞においてPD-L1を阻害する方法。
(10)
被験体における癌の部位で浸潤CD8 T細胞の数を増加させる方法であって、(1)に記載の前記ウイルスを前記被験体に投与することを含む、方法。
(11)
被験体における癌の部位で浸潤ナチュラルキラー細胞の数を増加させる方法であって、(1)に記載の前記ウイルスを前記被験体に投与することを含む、方法。
(12)
被験体における癌の転移を阻害する方法であって、(1)に記載の前記ウイルスを前記被験体に投与することを含む、方法。
(13)
被験体における癌を治療する方法であって、哺乳動物PTEN-Long遺伝子を含む組換えウイルスを前記被験体に投与することを含む、方法。
(14)
前記ウイルスは、腫瘍細胞を標的とするように改変されている、(13)に記載の方法。
(15)
前記組換えウイルスは、単純ヘルペスウイルス-1バックボーンを含む、(13)に記載の方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
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