(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163183
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】高強度アルミニウム合金バッキングプレート及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/047 20060101AFI20221018BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20221018BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20221018BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20221018BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
C22F1/047
C22C21/00 N
C22F1/04 Z
C22C21/06
C22F1/00 602
C22F1/00 612
C22F1/00 604
C22F1/00 613
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 650A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022129194
(22)【出願日】2022-08-15
(62)【分割の表示】P 2019516591の分割
【原出願日】2017-09-19
(31)【優先権主張番号】62/402,267
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/705,989
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Honeywell International Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・フェラッセ
(72)【発明者】
【氏名】フランク・シー・アルフォード
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・アール・ピンター
(72)【発明者】
【氏名】スーザン・ディー・ストローザー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】スパッタリングターゲットアセンブリにおいて使用され得る、高強度アルミニウム合金を形成する方法を提供する。
【解決手段】方法は、主成分としてアルミニウム及び二次成分としてスカンジウム並びにアルミニウム合金を含むアルミニウムマスター合金を、少なくとも24時間、アルミニウム合金の溶体化温度まで加熱して、アルミニウム合金全体にスカンジウムを分散させて、急冷して、0.2重量%~0.5重量%のスカンジウムを含む鋳造アルミニウム合金を形成することと、高強度アルミニウム合金が、1時間、300℃の温度におかれた後に、少なくとも275.8MPaの降伏強度及び直径1.0ミクロン未満の平均粒径を有するように、85℃未満又は175℃超及び275℃未満である温度で鋳造アルミニウム合金を等チャネル角押出で押出成形して、高強度アルミニウム合金を形成することと、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度アルミニウム合金を形成する方法であって、
スカンジウムを含むアルミニウム材料を、前記アルミニウム材料全体に分散されるよう
に、前記アルミニウム材料の溶体化温度まで加熱して、アルミニウム合金を形成すること
と、そのスカンジウム、
高強度アルミニウム合金が、少なくとも1時間、約300℃~約400℃の温度におか
れた後に、少なくとも約40ksiの降伏強度を有するように、前記アルミニウム合金を
等チャネル角押出で押出成形して、前記高強度アルミニウム合金を形成することと、を含
む、方法。
【請求項2】
スカンジウムが、約0.1重量%~約15.0重量%の重量パーセントで前記アルミニ
ウム合金中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スカンジウムが、約0.1重量%~約5.0重量%の重量パーセントで前記アルミニウ
ム合金中に存在し、前記アルミニウム合金が、約0.1重量%~約5.0重量%の重量パ
ーセントでジルコニウムを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記高強度アルミニウム合金を、前記スカンジウムの少なくとも一部分が前記高強度ア
ルミニウム合金全体に分散質を形成するように、少なくとも1時間、約300℃~約40
0℃の温度で時効処理することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アルミニウム材料を加熱することが、スカンジウムと、酸化物、炭化物、ナノチュ
ーブ、ケイ化物、フラーレン、クロム、鉄、ハフニウム、マンガン、ニオブ、ニッケル、
スカンジウム、チタン、バナジウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、タンタル
、モリブデン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウ
ム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウ
ム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムからなる群の少なくとも1つの構成要素
と、を含む、アルミニウム材料を加熱することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記高強度アルミニウム合金が、前記高強度アルミニウム合金が少なくとも1時間、約
300℃~約400℃の温度におかれた後に、直径が1.0ミクロンより小さい平均粒径
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記高強度アルミニウム合金が、少なくとも2時間、約300℃~約400℃の温度に
おかれた後に、少なくとも約40ksiの降伏強度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アルミニウム合金を含むバッキングプレートを備えるスパッタリングアセンブリであっ
て、前記アルミニウム合金が、
主成分としてアルミニウムを有するアルミニウム材料で形成された金属マトリックスと
、
前記金属マトリックス全体に分散されたスカンジウムを含有する分散質と、を含み、
前記スカンジウムが、前記アルミニウム合金の重量により、約0.1重量%~約15.
0重量%の重量パーセントで存在し、前記アルミニウム合金が、前記アルミニウム合金が
少なくとも1時間、約300℃~約400℃の温度におかれた後に、少なくとも約40k
siの降伏強度を有する、スパッタリングアセンブリ。
【請求項9】
前記アルミニウム合金が、約0.1重量%~約5.0重量%の重量パーセントでスカン
ジウムを含み、前記アルミニウム合金が、約0.1重量%~約5.0重量%の重量パーセ
ントでジルコニウムを更に含む、請求項8に記載のスパッタリングアセンブリ。
【請求項10】
前記アルミニウム合金が、前記アルミニウム合金全体に分散された第2の分散質を含み
、前記第2の分散質が、第2の材料と組み合わされた前記アルミニウム材料で形成され、
前記第2の材料が、酸化物、炭化物、ナノチューブ、ケイ化物、フラーレン、クロム、鉄
、ハフニウム、マンガン、ニオブ、ニッケル、スカンジウム、チタン、バナジウム、ジル
コニウム、イットリウム、リチウム、タンタル、モリブデン、ランタン、セリウム、プラ
セオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビ
ウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテ
チウムからなる群の少なくとも1つの構成要素である、請求項8に記載のスパッタリング
アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年9月30日に出願された米国仮特許出願第62/402,267
号に対する優先権を主張するものであり、その開示内容は、参照によりその全体が本明細
書に明確に組み込まれる。
【0002】
本開示は、例えばスパッタリングターゲットアセンブリにおいて使用され得る、高強度
アルミニウム合金に関する。より具体的には、本開示は、熱的に安定であり、スパッタリ
ングターゲットアセンブリ内のバッキングプレートとして使用され得る高強度アルミニウ
ム合金に関する。高強度アルミニウム合金、高強度バッキングプレート、及びターゲット
アセンブリを形成する方法もまた記載される。
【背景技術】
【0003】
物理蒸着法(physical vapor deposition、「PVD」)は
、様々な基板の表面に材料の薄膜を形成するために広く使用されている。様々な金属及び
合金は、PVD技術を使用して蒸着することができ、例えば、アルミニウム(Al)、チ
タン(Ti)、銅(Cu)、タンタル(Ta)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)
、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、及びこれらの元素の合金が挙げられる。スパ
ッタ蒸着又はスパッタリングとして知られる1つのPVD処理では、粒子は、プラズマな
どのガスイオンを用いた衝撃によって、スパッタリングターゲットの表面から排出される
。そのため、スパッタリングターゲットは、半導体ウェハなどの基板上に蒸着される材料
の供給源である。
【0004】
例示的なスパッタリングアセンブリ10の一部の線図を、
図1に示す。スパッタリング
アセンブリ10は、結合されたスパッタリングターゲット14を有するバッキングプレー
ト12を備える。半導体材料ウェハ18は、アセンブリ10内にあり、ターゲット14の
スパッタリング表面16から離間して設けられる。動作中、粒子又はスパッタリングされ
た材料22は、ターゲット14の表面16から離れ、ウェハ18にコーティング(つまり
薄膜)20を形成するために使用される。
図1に示されるスパッタリングアセンブリ10
は、例えば、ターゲットとバッキングプレートの両方が任意の好適なサイズ又は形状であ
り得るため、例示的な構成であることを理解されたい。
【0005】
スパッタリングターゲットは、バッキングプレートに取り付けられ、又は付着されても
よい。バッキングプレートは、スパッタリング処理中にスパッタリングターゲットを支持
することができ、例えば、スパッタリングターゲットの反りを低減することができる。ス
パッタリングターゲットをバッキングプレートに付着する1つの方法は、熱間等方加圧(
「ヒッピング(HIPing)」又は「ヒッピング(hipping)」)である。ヒッ
ピングを使用して、スパッタリングターゲットとバッキングプレートとをヒッピング温度
に加熱した後に互いに押し付けることによって、スパッタリングターゲットをバッキング
プレートに結合することができる。
【0006】
いくつかの実施形態では、バッキングプレート12は、例えば、高ヤング率(E)及び
高降伏引張強度(YS)を含む高い機械的強度と、ターゲット材料の熱膨張係数と同等の
熱膨張係数と、良好な熱伝導率と、ターゲット材料と同様の電気的及び磁気的特性とを有
し得る。
【0007】
降伏強度又はヤング率は、材料において特定量の塑性変形が生じる応力を決定する。ス
パッタリングターゲット材料と同等の熱膨張係数を有することにより、スパッタリング中
にバッキングプレート12及びスパッタリングターゲット14が剥離するリスクが低減さ
れる。良好な熱伝導率は、冷却効率を向上させる。ターゲット材料と同様の電気的及び磁
気的特性を有することにより、スパッタリング中にスパッタリングアセンブリ10を通る
磁束及び電束を最適化する。
【0008】
半導体ウェハの製造技術における進歩は、特に300mm~450mmサイズのウェハ
の製造のために、ますます大きなターゲットに対する需要をもたらしてきた。ターゲット
サイズが大きいほど、ターゲットの反りを最小限に抑える又は回避するために、より高い
強度のバッキングプレート材料を必要とする。バッキングプレート材料において改善がな
されてきたが、特に、スループット、フィルム品質、及び均一性を改善するために使用さ
れる高スパッタリング電力の増加を考慮して、より大きなターゲット寸法を支持するため
の十分な強度を提供するために、ますます強力な材料が必要とされている。
【0009】
バッキングプレートは、現在、アルミニウム、銅、アルミニウム合金、及び銅合金から
最も多く形成されている。Cu合金は高い強度及び熱安定性を提供する一方で、Al合金
は、より安価で軽量であるという利点を有する。しかしながら、ほとんどの市販のAl合
金は、通常250℃よりも高く、かつ多くの場合300℃に近い、ヒッピング温度付近で
ピーク強度を失う。したがって、高い温度安定性及び降伏強度を有する高強度のバッキン
グプレートが必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本明細書では、高強度アルミニウム合金を形成する方法が開示される。本方法は、アル
ミニウム材料の溶体化温度までスカンジウムを含むアルミニウム材料を加熱することで、
アルミニウム材料全体にスカンジウムが分散されてアルミニウム合金を形成することを含
む。本方法は、高強度アルミニウム合金が、少なくとも1時間、約300℃~約400℃
の温度でおかれた後に、40ksiを超える降伏強度を有するように、等チャネル角押出
でアルミニウム合金を押出成形して、高強度アルミニウム合金を形成することを更に含む
。いくつかの実施形態において、方法は、高強度アルミニウム合金を、スカンジウムの少
なくとも一部分が高強度アルミニウム合金全体にわたって分散質を形成するように、少な
くとも1時間、約300℃~約400℃の温度で時効処理することを更に含む。
【0011】
スパッタリングアセンブリバッキングプレートに使用するためのアルミニウム合金を形
成する方法がまた、本明細書で開示される。本方法は、スカンジウムを溶融アルミニウム
に添加して、アルミニウム材料を形成することと、アルミニウム材料を鋳造することとを
含む。本方法は、アルミニウム材料を約8時間~約120時間、約500℃~約650℃
の温度に加熱して、それにより、スカンジウムの少なくとも一部分がアルミニウム材料全
体に溶解してアルミニウム合金を形成することと、スカンジウムがアルミニウム合金全体
に溶解されたままであるように、アルミニウム合金を急冷することとを更に含む。本方法
は、アルミニウム合金を等チャネル角押出にかけて、高強度アルミニウム合金を形成する
ことと、スカンジウムの少なくとも一部分が高強度アルミニウム合金全体に分散質を形成
するように、少なくとも1時間、約300℃~約400℃の温度でアルミニウムを時効処
理することとを更に含む。高強度アルミニウム合金は、少なくとも1時間、約300℃~
約400℃の温度におかれた後に、40ksiを超える降伏強度を有する。
【0012】
アルミニウム合金を含むバッキングプレートを備えたスパッタリングアセンブリがまた
、本明細書に開示される。アルミニウム合金は、アルミニウムを主成分とする金属マトリ
ックスを形成し、アルミニウム合金の重量により、約0.1重量%~約15.0重量%の
重量パーセントで存在するスカンジウムを含有するアルミニウム材料を含む。スカンジウ
ムの少なくとも一部分は、アルミニウム合金全体にわたって分散される分散質を形成し、
アルミニウム合金は、アルミニウム合金が少なくとも1時間、約300℃~約400℃の
温度におかれた後に、少なくとも40ksiの降伏強度を有する。
【0013】
多数の実施形態が開示されるが、それでもなお当業者には、本発明の例示的実施形態を
示し、説明する以下の詳細な説明から、本発明の他の実施形態が明らかになるであろう。
したがって、図面及び詳細な説明は、制限的なものではなく、本質的に実例とみなされる
べきである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】等チャネル角押出(equal channel angular extrusion、ECAE)装置の一部の概略図である。
【
図3】いくつかの実施形態による、Al合金を形成する方法のフロー図である。
【
図4】例示的なアルミニウム材料についての降伏強度とブリネル硬度の比較図である。
【
図5】特定のアルミニウム合金の降伏強度と温度を比較するグラフである。
【
図6】例示的なアルミニウム合金の降伏強度と温度を比較するグラフである。
【
図7】特定のアルミニウム合金の降伏強度と温度を比較するグラフである。
【
図8】様々な温度における特定のアルミニウム材料の硬度を比較するグラフである。
【
図9】特定のアルミニウム材料の組成と熱安定性を比較するグラフである。
【
図10】特定のアルミニウム材料の組成と硬度を比較するグラフである。
【
図11】様々な温度における1時間のアニーリングの関数としての特定のアルミニウム材料の硬度を比較するグラフである。
【
図12】様々な温度における1時間のアニーリングの関数としての特定のアルミニウム材料の硬度を比較するグラフである。
【
図13A】光学顕微鏡で撮られた様々なアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図13B】光学顕微鏡で撮られた様々なアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図13C】光学顕微鏡で撮られた様々なアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図13D】光学顕微鏡で撮られた様々なアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図14A】光学顕微鏡で撮られた様々なアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図14B】光学顕微鏡で撮られた様々なアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図14C】光学顕微鏡で撮られた様々なアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図15】様々なアルミニウム合金の強度を比較するグラフである。
【
図16】様々なアニーリング温度の関数としての特定のアルミニウム合金の硬度を比較するグラフである。
【
図17】様々なアニーリング温度の関数としての特定のアルミニウム合金の硬度を比較するグラフである。
【
図18】様々なアニール時間及び温度の関数としての特定のアルミニウム合金の硬度を比較するグラフである。
【
図19】様々な持続時間にわたって加熱された後の特定のアルミニウム合金の硬度を比較するグラフである。
【
図20】様々な温度で加熱された後の特定のアルミニウム合金の硬度を比較するグラフである。
【
図21A】光学顕微鏡で撮影した、様々な温度まで加熱した後のアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図21B】光学顕微鏡で撮影した、様々な温度まで加熱した後のアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図22A】光学顕微鏡で撮影した、様々な温度まで加熱した後のアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図22B】光学顕微鏡で撮影した、様々な温度まで加熱した後のアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図22C】光学顕微鏡で撮影した、様々な温度まで加熱した後のアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図23A】光学顕微鏡で撮影した、様々な温度まで加熱した後のアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図23B】光学顕微鏡で撮影した、様々な温度まで加熱した後のアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図23C】光学顕微鏡で撮影した、様々な温度まで加熱した後のアルミニウム合金の顕微鏡写真である。
【
図24】様々な温度における特定のアルミニウム合金の硬度を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
高強度及び熱安定性を有するアルミニウム(Al)合金バッキングプレート、並びにそ
の製造方法が、本明細書で開示される。より具体的には、バッキングプレートを少なくと
も1時間、約300℃~約400℃の温度においた後に、40ksiより大きい降伏強度
及び/又は直径が約1ミクロン未満の粒径を有するAl合金バッキングプレートが、本明
細書で開示される。他の実施形態では、Al合金は、バッキングプレートが少なくとも1
時間、約300℃~約400℃の温度におかれた後に、約40ksi~約50ksi又は
約40ksi~約65ksiの降伏強度を有し得る。いくつかの実施形態では、Al合金
バッキングプレートは、スカンジウム(Sc)を含有し、例えば、Sc及びAlを含有す
る分散質を含有してもよい。いくつかの実施形態では、Al合金バッキングプレートは、
Sc及びジルコニウム(Zr)を含有してもよく、Al及びSc及び/又はZrを含有す
る分散質を形成してもよい。等チャネル角押出(ECAE)により含まれる高強度Al合
金を形成する方法も開示される。
【0016】
Al合金は、Alから形成された金属マトリックス、金属マトリックス全体に分散され
た分散質、及び任意選択的な追加の元素を含む。金属マトリックスはAlから形成される
。すなわち、金属マトリックスは、主成分としてのAlで形成される。例えば、出発材料
は、高純度Al及び微量元素であってもよい。いくつかの実施形態では、Al合金をまた
使用して、金属マトリックスを作製してもよい。金属マトリックスを形成するための出発
材料として使用され得る好適なAl合金としては、Al5083及びAl5456が含ま
れる。
【0017】
金属マトリックスは、結晶構造に配置された主成分の金属原子から形成される材料本体
である。すなわち、Al金属マトリックスは、結晶構造に配置されたAl原子を含む。金
属マトリックスは、材料本体のベース結晶構造を形成する完全に純粋な、又は高純度の金
属であってもよい。金属マトリックス結晶構造に添加剤を導入してもよい。添加剤(複数
可)が金属マトリックス中に十分低い濃度で存在する場合、添加剤(複数可)は、添加剤
(複数可)の個々の原子が、マトリックスを形成する主成分の原子間のいずれかで、又は
主成分の原子を置換することによって、結晶構造全体に広がるように金属マトリックス全
体に分散されてもよい。
【0018】
高降伏強度を有するAl合金は、Alマトリックス全体に分散質を形成するのに好適な
Sc及び/又は追加の添加剤の濃度を有する。分散質は、第1の物質中に分布又は分散さ
れた第2の物質の微粒子である。冶金では、分散質は、Scなどの特定の元素と組み合わ
されたAlから形成され得る。いくつかの実施形態では、Al合金は、Al合金の総重量
の約0.05重量%~約20重量%の重量パーセントでAl中の少なくとも1つの材料と
組み合わされたAlで形成された分散質を含有する。いくつかの実施形態では、Alに添
加される材料は、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ハフニウム(Hf)、マンガン(Mn)
、ニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジ
ウム(V)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、リチウム(Li)、タンタル
(Ta)、モリブデン(Mo)、又は、周期律表のランタニド系列の元素(すなわち、ラ
ンドタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロ
メチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)
、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(E
r)、サリム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu))であり得る
。例えば、好適な分散質は、式AlnXを有してもよく、式中、「n」≧3であり、Xは
、Cr、Fe、Hf、Mn、Nb、Ni、Sc、Ti、V、Zr、Y、Li、Ta、Mo
、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、
Yb、又はLuのうちの少なくとも1つである。分散質中に存在するいくつかのX要素を
有することも可能であり、例えば、分散質は、形態Aln(X1、X2)mであり得、式
中、「n」及び「m」は正の整数であり、X1及びX2は上記のリストから取られた要素
であり、「n」対「m」の比は≧3である。全てのX要素は、特定のAlnXm組成を有
し、ここにおいて、「n」対「m」の比は、最も高い可能性がある(例えば、最大Al含
有量を有し、Al合金中の要素Xの濃度が低い場合に形成される最初の1つの相である)
。Al合金は、Al合金中に約0.1重量%~約1.0重量%の重量パーセントで存在す
る、Sc及びCr、Fe、Hf、Mg、Mn、Nb、Ni、Ti、V、Zr、Y、Li、
Ta、Mo、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、E
r、Tm、Yb、又はLuのうちの少なくとも1つと組み合わされたAlから形成された
分散質を含んでもよい。いくつかの実施形態では、Scを含有する分散質に加えて、Al
合金はまた、溶融中に添加され得る酸化物、ケイ化物及び炭化物(例えば、グラフェン、
ナノチューブ)から形成された分散質を含んでもよい。
【0019】
いくつかの実施形態では、安定した主相又は安定した主粒子は、式Aln(X)mを有
する材料であってもよく、式中、「n」及び「m」は正の整数であり、Xは、Cr、Fe
、Hf、Mn、Nb、Ni、Sc、Ti、V、Zr、Y、Li、Ta、Mo、La、Ce
、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、又はL
uのうちの少なくとも1つである。典型的には、鋳造中の溶融合金の冷却中に、かつX要
素の濃度が、所与の組成及び溶融及び冷却の処理条件について、アルミニウムマトリック
ス中のその元素の最大溶解度を上回ったときに、Aln(X)mは形成される。主相は、
溶融及び冷却処理中に形成され、Al合金溶融点より低い温度で後続の熱処理中に安定し
たままである相であり得ることに留意されたい。対照的に、二次相(時には析出物又は二
次粒子とも呼ばれる)は、溶体化、急冷、又は低温時効処理(以下に更に記載される)な
どの後続の熱処理中に形成される。
【0020】
分散質の好適な濃度は、分散質を含まない同じAl合金と比較して、Al合金の強度を
増大させることができる。いくつかの実施形態では、低濃度の分散質は、分散質を含まな
い同じAl合金と比較して、Al合金の強度を増大させるのに十分であり得る。低濃度要
件は、分散質が限定された利用可能性を有し得るSc又は希土類元素などの元素を含む場
合、特に有益であり得る。いくつかの実施形態では、分散質はAl金属マトリックスとコ
ヒーレントである。すなわち、分散質が最小であるとき、Al格子内にわずかな格子不整
合が存在し得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、Al合金のサブミクロン構造の安定性は、分散質を含有する
合金の粒又は粒子のサイズを測定することによることを含む様々な方法によって定量化さ
れ得る。いくつかの実施形態では、ScをAl合金に添加することにより、Al合金がよ
り大きな粒に再結晶化することを抑制する。いくつかの実施形態では、Al合金中の粒及
び/又はAl合金中の分散質を含有する粒子の微細かつ均一なサイズは、Al合金降伏強
度の1つの予測要因である。いくつかの実施形態では、特定の温度まで微細かつ均一な粒
径を維持するAl合金は、その特定の温度で高い降伏強度を維持すると予測される。
【0022】
Al合金に添加される特定の元素は、Al合金の強度に寄与し、約300℃~約400
℃、より具体的には約300℃~約350℃のヒッピング温度まで熱的に安定であるサブ
ミクロン構造の作製に寄与するAlを有する分散質を形成することが分かっている。
【0023】
いくつかの実施形態では、Al合金への分散質の添加を強塑性変形に組み合わせること
により、バッキングプレート及びバッキングプレート材料に好適な高強度Al合金を形成
することができる。1つの好適な強塑性変形処理は、等チャネル角押出(ECAE)であ
る。いくつかの実施形態では、最適な数のECAEパスは、少なくとも1回のパス、いく
つかの実施形態では、最大4回のパスを含み得る。いくつかの実施形態では、Al合金の
強塑性変形は、Al合金に好適な降伏強化を提供し、また、約300℃~約400℃、又
は約300℃~約350℃のヒッピング温度まで熱的に安定であるサブミクロン構造を作
製する。いくつかの実施形態では、より高い降伏強度及びブリネル硬度は、ECAEなど
の強塑性変形を圧延及び/又は鍛造などの塑性変形によってもたらされる強度と組み合わ
せることによって達成され得る。
【0024】
Al合金は、任意選択的に、特定の遷移元素を含んでもよい。好適な遷移元素としては
、0.5重量%より大きい、3.0重量%より大きい、5.0重量%より大きい濃度にお
けるFe、Cu、Zn、Co、Ni、Cr、Mo、V、Zr、Mn、Mg、Ti、Y、S
i、Li、ホウ素(B)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)が含まれ得る。Sc及び追加の
遷移元素を含むAl合金は、Sc及び遷移元素を含まない、又はScを含むが遷移元素を
含まないAl合金と比較して強度の改善に寄与し得る。分散質を添加することに加えて、
遷移元素を使用する重質合金化は、改善された強度及び熱安定性に寄与し得る。遷移元素
は、Alマトリックス中に溶質(例えば、固溶体中の格子間原子又は置換原子)として存
在してもよく、又は溶融及び冷却中の不溶性相若しくは初期融解及び冷却後の後続の熱処
理中の可溶性二次相のいずれかを形成してもよい。
【0025】
合金化処理中、Scは、Alの格子パラメータに近い格子パラメータを有する特定のL
l2結晶構造を有するAlマトリックス中にAl3Sc分散質を形成する。Al3Sc分
散質の析出硬化の温度範囲は、275℃~350℃であり、300℃の辺りにピーク強度
特性を有する。対照的に、市販のAl合金中での析出硬化に使用される従来の元素は、8
5℃~200℃の析出のためのより低い温度範囲を有する。Al3Sc分散質のピーク時
効処理は、少なくとも1時間後に約300℃で実現され、分散質は、1時間より長く、8
時間より長く、又は24時間より長くこれらの温度の周囲で安定したままであることが見
出された。275℃未満の温度は、Al合金全体にわたって好適な量のAl3Sc分散質
を分布させて強度を大幅に増加させるための十分なエネルギーを提供せず、350℃を超
える温度では、Al3Sc分散質は、集合及び合体を開始して、大きな析出物を形成し、
又は直径が100nmよりも大きいサイズを有するより大きな分散質を形成する。400
℃を超える温度に上げると、最終的に、直径が1ミクロンを超える分散質粒子のサイズま
で増加し、これは粗すぎる材料をもたらし、機械的効果が低下する。
【0026】
Al中に分散質を形成する他の元素としては、Cr、Fe、Hf、Mn、Nb、Ni、
Ti、V、Zr、Y、Li、Ta、Mo、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、
Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuが含まれる。いくつかの実施形態
では、これらの元素は、Al及びScと結合して、より複雑な組成を有する分散質を形成
することができる。例えば、Scを含有するAl材料にZrを添加することにより、形態
Al3(Sc、Zr)を有する分散質を有するAl合金を形成して、Sc中により豊かな
分散質コア及びZr中により豊かな外側表面(シェルとしてまた言及される)を形成する
。いくつかの実施形態では、このコア/シェル構造は、Al3(Sc、Zr)分散質を説
明するために使用され得る。いくつかの実施形態では、Al材料を通じたSc拡散は、早
期核生成及びAl3Scの成長を制御し、Zrと結合して、後の段階でAl3(Sc、Z
r)分散質を形成し得る。これは、Scと比較してAl中のZrの拡散率がはるかに低い
ことによって説明され、かつコア/シェル構造をもたらし、Al3Scコアの核生成及び
初期成長は、Sc拡散によって制御され、Al3(Sc、Zr)シェルの後期成長及び粗
大化段階は、Zr拡散によって制御される。この種類のコア/シェルAl3(Sc、Zr
)構造は、より安定かつより微細な分散質を提供することによって、分散質の制御に対す
る利点を有することができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、Al合金は、2つ以上の元素と組み合わされたAlで形成さ
れた分散質を含み、最適化された粒径及び粒径分布のピーク時効温度及び時間は、1時間
より長く、8時間より長く、又は24時間より長く275℃~350℃のままである。い
くつかの実施形態では、Sc及び1つの更なる元素と組み合わされたAlで形成された分
散質を含有するAl合金は、300℃超、350℃超、及び400℃超の温度で粒径成長
を遅くするのに特に好適であり、熱安定性に寄与する安定した粒構造を提供することがで
きる。形成可能な分散質の更なる例としては、Al3(Zr、RE)が挙げられ、REは
、周期律表のランタニド系中の元素などの希土類元素である。一例として、Yb及びEr
は、Ll2構造を500℃までの温度に均一に維持する高い熱安定性を有するAl3(Z
r、Er)及びAl3(Zr、Yb)分散質を形成し得る。例えば、(Al、Cr)3(
Zr、Yb)分散質の形成をもたらす、Cr又はMnなどの第4の周期遷移元素で三元分
散質を安定化させることも可能である。
【0028】
材料マトリックスの析出又は合体などの二次相を形成することなく、第1の材料中に存
在し得る第2の材料の最大原子数は、最大溶解度と呼ばれ、温度に強く依存する。一般に
、温度が高いほど、所与の要素の最大溶解度が大きくなる。例えば、室温でのAl中のS
cの最大溶解度は、0.01重量%未満であるが、平衡状態(例えば、十分な時間後)に
おいて、660℃(Alの固相化温度)付近で0.38重量%であってもよい。温度並び
に/又は加熱速度及び冷却速度を変化させることによって、第1の材料における第2の材
料(すなわち、特定の要素)の最大溶解度を制御することが可能である。
【0029】
標準的な金属鋳造に関しては、鋳造部品の熱処理は、多くの場合、鋳造部品の固相化温
度(すなわち溶体化)付近で行われ、続いて鋳造片を急速に冷却して、鋳造片を室温に急
冷する。この処理は、室温でAl合金中のその元素の平衡濃度よりも高い濃度で鋳造片に
溶解した任意の元素を保持する。急冷後、鋳造片は、第2の材料で過飽和していると表さ
れ、室温で非平衡状態(すなわち、準安定状態)である。第2の材料は、固体温度(すな
わちAlについて約660℃)付近の温度よりもはるかに低い熱処理温度及び時間で、鋳
造片から新しい相に析出する傾向がある。Al中のScに関して、約0.38重量%(0
.23at.%)の最大溶解度は、ソリダス付近の高温処理及び油又は水中の標準的な急
冷(低冷却速度)を使用することによって、室温で過飽和溶液中に保持することができる
。例えば、早い冷却速度又は「非従来型鋳造」若しくは「非従来型インゴット冶金」と呼
ばれる技術を使用して、鋳造処理を調節することによって、過飽和溶液に対してより高い
最大溶解度を達成することが可能である。
【0030】
材料マトリックス中に分散質を形成する元素の量が、その要素の最大溶解度よりも高い
場合、溶体化及び急冷中に最大の可溶な量までのみが溶液に入り、過剰量のその元素は安
定した主相に留まる。例えば、Scが0.38重量%を超えてAl中に存在し、標準的な
鋳造及び冷却方法が使用される場合、溶体化及び急冷中に0.38重量%のScのみが溶
液に入る。過剰なScは、影響を受けないままであり、溶融及び冷却中に形成される様々
な安定な主相(Al2Scなど)に留まる。主相で形成された粒子は、典型的には、均一
に分布しておらずにかなり粗く(直径が数ミクロン)、Al3Scとは異なる組成、格子
不整合、及び/又は結晶構造を有することができる。安定な主相は、溶体化、急冷、及び
300℃での低温時効処理などの後続の熱処理による影響を受けない。溶液中の0.38
重量%のScのみが、熱処理による影響を受け、分散質を形成する。したがって、主相中
に過剰に存在するScは、Al合金の最終強度に比較的低い影響を有する。
【0031】
高重量パーセントの分散質形成元素(例えば、約5重量%又は約15.0重量%のSc
)を添加し、分散質形成元素を含有し、Al合金に追加的な強度をもたらす、多数の個別
の粗安定主相粒子を作製することが可能である。しかしながら、一般に、スカンジウムな
どの元素及び周期律表のランタニド系の元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、E
u、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)の利用可能性が限定されること
、並びに過剰量の分散質形成元素を含有する主相の粗粒径により、これらの元素をそれら
の最大溶解限度よりも過度に高い濃度で添加することは、極めて有効ではない。その代わ
りに、添加される量の最大有効性を達成するために、特定の分散質形成元素の溶解限度に
近い量の分散型形成要素をAl合金に加えることがより好適である。
【0032】
従来の熱機械処理は、不適当な低いレベルの塑性変形を提供し、粗粒構造及び不均質な
粒構造、又は1ミクロンを超えるサイズを有する二次相をもたらす。Sc含有分散質を含
有するAl合金を強塑性変形に供することにより、高い強度のAl合金が生じることが分
かっている。
【0033】
強塑性変形を含む製造方法を使用した強度の増加
本開示は、金属マトリックスへの分散質の添加を強塑性変形と組み合わせることによっ
て、高強度Alを形成する方法を含む。これらの方法は、バッキングプレート材料での使
用に好適であるような、十分に高い降伏強度又はブリネル硬度を有するAl合金を提供す
ることが見出されている。いくつかの実施形態では、使用される強塑性変形の形態は、E
CAEを含む。本明細書に記載のECAE方法は追加的に、Al合金の降伏強度又はブリ
ネル硬度を更に高めるために、標準塑性変形と組み合わせてもよい。いくつかの実施形態
では、本明細書に開示される方法は、分散質並びに従来の析出物を有するAl合金の溶液
及び/又は析出硬化を含み得る。本開示はまた、スパッタリングターゲットバッキングプ
レート結合用途に適用され得る最適なサーマル熱処理も提供する。
【0034】
いくつかの実施形態では、Al合金は、Al合金が少なくとも1時間、少なくとも25
0℃の温度におかれた後、40ksi超、45ksi超、又は50ksi超の降伏強度を
有してバッキングプレート材料用に形成されてもよい。これらの結果は、圧延及び/又は
鍛造などの塑性変形によってもたらされる強度を、ECAEなどの強塑性変形と組み合わ
せることによって得ることができる。最適な数のECAEパスは、少なくとも1回のパス
、いくつかの実施形態では、最大4回のパスを含み得ることが発見されている。Al合金
の強塑性変形を使用することは、Al合金に好適な降伏強度を提供し、また、約300℃
~約350℃のヒッピング温度まで熱的に安定であるサブミクロン構造を製作することが
分かっている。
【0035】
ECAEは、実質的に90°~140°、典型的には90°を含む特定の角度で接触す
るほぼ等しい断面の2つのチャネルからなる押出成形技術である。
図2は、例示的なEC
AEデバイス40の概略図である。
図2に示すように、例示的なECAEデバイス40は
、一対の交差するチャネル44及び46を画定する金型アセンブリ42を含む。交差する
チャネル44及び46は、断面が同一であるか、又は少なくとも実質的に同一であり、「
実質的に同一」という用語は、チャネルがECAE装置の許容可能な寸法公差内で同一で
あることを示す。動作中、材料48はチャネル44及び46を通じて押出成形される。こ
のような押出は、チャネルの横断面に位置する薄いゾーンにおいて、層後の単純な剪断に
よって材料48の塑性変形をもたらす。いくつかの実施形態では、チャネル44及び46
は、約90°の角度で交差する。しかしながら、代替のツール角度を使用することができ
ること(図示せず)が理解されるべきである。約90°のツール角度は、典型的には、最
適な変形、すなわち真の剪断ひずみを生成するために使用される。すなわち、90°のツ
ール角度を使用すると、真ひずみは1.17である。
【0036】
グレイン精密化は、3つの主要な要因:(i)単純な剪断力、(ii)強い変形、及び
(iii)マルチパスECAEを使用することが可能な様々なひずみ経路の利用を制御す
ることによって、ECAEで有効化される。ECAEの典型的な処理特性がパスごとの高
い変形であるため、複数パスのECAE(マルチパスECAE)を組み合わせて使用して
、各パス後のビレットの形状及び容積を変化させることなく、極端なレベルの変形に到達
することができる。各パス間でビレットを回転又は反転させることにより、様々なひずみ
経路を達成することができる。これにより、合金粒の結晶学的テクスチャの形成、及び粒
、粒子、相、鋳造欠陥又は析出物などの様々な構造的特徴の形状を制御することができる
。
【0037】
本明細書に開示されるように、ECAEを使用して、金属及び合金に強塑性変形を付与
し、それらの材料に更なる強度を与えることができる。ECAE中の強化のための2つの
主要なメカニズムが存在する。第1に、材料セル、副結晶粒、及びサブミクロンレベルの
粒などの構造単位の精密化である。これは、粒径又はホールペッチ強化とも呼ばれ、式1
を使用して定量化することができる。
【0038】
【0039】
式中、σyは降伏応力であり、σoは転位移動の開始応力(又は格子の転位運動に対す
る抵抗)の材料定数であり、kyは、強化係数(各材料に特有の定数)であり、dは平均
粒径である。
【0040】
式1によって開示されるように、ホールペッチ強化は、d<1ミクロンのときに特に有
効となる。この効果は、サブマイクロメートル及びナノメートルサイズの粒(d<1ミク
ロンである)が、遷移材料で形成された粒(典型的にはdが10~100ミクロンに近い
)と比較してはるかに多くの粒界を有するためである。これらの粒界は、転位の移動を効
果的に遮断し、遅延させる。ECAEとともに導入される追加の強化メカニズムは、転位
硬化である。ECAEによって材料に導入される高ひずみにより、多数の転位が作り出さ
れ、それらを複合して、セル、粒子、副結晶粒、又はサブミクロン粒を含む粒内の転位の
複雑な網状組織を形成する。
【0041】
一般に、いくつかの従来のAl合金(例えば、Al1xxx~Al8xxxシリーズ)
については、ECAEから得られる特定の利益は、250℃未満の温度でのみ実現される
。換言すれば、これらのAl合金では、ECAEで得られたサブミクロン粒径は、Al合
金が数時間、250℃を超える温度に供された後に安定ではない。これは、250℃を超
える温度では、粒径が不連続的に成長し、粒が1μmを超える直径を有する粒に再結晶化
し、わずかな強度の増加のみをもたらすからである。しかしながら、ECAEのサブミク
ロン粒径は、ECAE処理前に、特定の分散質元素又は材料がAl合金に添加されたとき
、少なくとも300℃の温度までより熱的に安定であることが見出された。いくつかの実
施形態では、425℃までの温度で安定した降伏強度、硬度、及び/又は粒構造を有する
Al合金が作製されている。これらの結果は、Scを単独で、又はZr、Ti、Nb、N
i、Y、Li、Hf、V、Fe、Mn、Cr、Ta、La、Ce、Pr、Nd、Pm、S
m、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuと組み合わせた場合な
どの分散質元素を使用する場合に達成されている。したがって、分散質、粒径制御、及び
ECAEを使用した転位硬化を組み合わせることにより、以前に達成された、及び300
℃で維持された場合よりも高い降伏強度及び硬度を有するAl合金を形成することが可能
であることが見出された。
【0042】
降伏強度及び硬度のこの増加のための1つのメカニズムは、250℃~275℃周囲の
温度でのナノサイズのAl3(X1及び/又はX2)分散質の核形成及び低速成長である
。X1、X2などは、分散質をAl、例えばSc又はZrで形成する要素を指す。分散質
は、サブミクロン粒の内部全体にわたって、及び粒界に沿って均一に分布される。結果と
して、分散質は、粒界をピンダウンし、Al合金が加熱されるにつれて、サブミクロン粒
の成長及びその後のより大きな粒へのそれらの再結晶化を効果的に遅延させる。同様に、
転位が分散質によってピンダウンされてもよく、その結果、転位の移動が高温で停止又は
遅延される。最適な熱処理(すなわち、ピーク時効処理)の温度及び時間は、数時間、3
00℃近くに低下し、微細(直径約100nm未満)及び均質な分散質によって囲まれた
サブミクロン粒をもたらし、最適な機械的特性を与えることが観察されている。
【0043】
分散質を含有するAl合金にECAEを適用することは、粒子精密化だけでなく、少な
くとも2つの他の方法で分散質の析出にも影響を及ぼすことも見出されている。第1に、
ECAEは、ECAE後のアニーリング(例えば、時効処理)中の分散質の核形成を速め
るという結果をもたらす。これは、サブミクロンのECAE材料に貯蔵された粒界及びよ
り高い機械的エネルギーの体積の増加によるものである。この増加により、分散質核形成
及び成長に関連する拡散処理が強化され、最も安定なものをも含む分散質のピーク時効処
理に達するのに必要な時間を低減する。この効果の1つの利点は、ECAEが、熱処理動
作を利用するために必要とされる時間及びエネルギーを低減し、ひいては生産コストを低
減し得ることである。第2に、ECAEはより均一かつより微細な析出物をもたらす。す
なわち、非常に微細な分散質(例えば、1μm未満、通常はピーク時効処理時に100n
m未満)のより均一な分布をもたらす。非常に微細な分散質のこの均一な分布は、多数の
角度境界が核形成処理を容易にするため、ECAEサブミクロン構造で達成することがで
きる。したがって、分散質は、粒内部及び粒界を通って均一に分布され、それによってそ
れらのAl合金内での装飾及びピン転位が可能となる。したがって、分散質のより微細か
つより均一な析出は強化に有益である。
【0044】
非分散質形成元素を使用した強度の増加
分散質形成元素又は材料の溶解限度よりもはるかに高い分散質形成元素又は材料を添加
することは、分散質、特にSc並びにLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd
、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuなどの希土類元素などの分散質を形成
するために使用される特定の元素の利用可能性が限定されるため、不適切であり得る。
【0045】
Zn、Mg、Mn、Si、Cu、Ni、B、Co、Fe、Cr、Li及びVを含む元素
を加えることによって、Al合金の最終強度を高めることができることが見出された。こ
の添加は、最終強度を約5%~20%増加させることが見出された。いくつかの場合では
、これらの元素のうちの特定のものは、Al3X分散質を形成することができるが、更に
反応して、Al3X分散質以外の二次相を形成してもよいことに留意されたい。これらの
元素は、溶液中に溶解されてもよく、又は不溶性相又は可溶性二次相のいずれかを形成す
ることができる。
【0046】
Zn、Mg、Mn、Si、Cu、Ni、B、Co、Fe、Cr、Li及びVなどの特定
の元素をAl合金中で使用して、全体的な強度を高め得る1つのメカニズムは、固溶体強
化によるものである。固体Al合金に溶解したままである合金元素は、格子構造を強化し
、転位の移動を遅らせ、全体的な強度に寄与する。添加される量が固体元素の溶解度の限
界内にある場合、二次相は形成されず、硬化は、マトリックス中の溶液中に個々の原子と
して存在する元素のみに起因する(すなわち、固溶体強化)。多くの場合、これらの組成
は、純粋なAlと同様に見える。開始Al合金が、例えば、Si、Cu、Mn、Mg、Z
n、Fe、Ni、Li、又はCrからなる二次相を有し、次いで、Al合金が、約300
℃~350℃の温度範囲に加熱される場合、元々二次相中にあった元素の一部は、二次相
から離れてAlマトリックスに溶解して、固溶体強化をもたらし得る。
【0047】
追加の例として、Zn、Mg、Mn、Si、Cu、Fe、Cr、V、Ni、又はLiな
どの特定の元素を使用して市販のAl合金を形成してもよく、Al合金内に可溶性二次相
又は不溶性相のいずれかを形成してもよい。可溶性二次相(析出物とも呼ばれる)は、溶
体化、急冷、及びピーク時効処理によって熱処理して、「析出硬化」と呼ばれるメカニズ
ムによって強度を高めることができるものである。析出硬化では、可溶性二次相は転位の
移動を遮断及び遅延させる。しかしながら、これらの可溶性相は、それらの最適なサイズ
に到達し、それに対応して、より低い温度、典型的には80℃~225℃でのみピーク強
度に寄与し得る。約300℃では、これらの元素は、粒径1.0ミクロンを十分に超える
粒子を形成するように成長及び合体した二次相の粒子を形成する。これが生じると、合金
のピーク強度の大部分が失われる。しかしながら、より粗い可溶性相は、全体的な強度に
わずかに依然として寄与する。場合によっては、300℃以上の温度では、可溶性の大き
な二次相材料は、前述したように、溶液に部分的に溶解し、固溶体強化による金属マトリ
ックスの強度に寄与し得る。対照的に、可溶性二次相には、溶解中に不溶性相が形成され
、溶体化、急冷、及び時効処理などの後続の熱処理によって制御可能でない。これらの相
は、通常、サイズが大きい(1ミクロンを十分に超える)。これらの不溶性相は、転位移
動に対する障害物を提供するのに好適な十分に多量のものが存在する場合、強化に寄与し
得る。したがって、いくつかの実施形態では、十分に多量のこれらの二次相形成元素を使
用することが重要である。例えば、全体で0.5重量%を超えることは、全体的な強度に
十分な寄与を有するために好適であり得る。
【0048】
Zn、Mg、Mn、Si、Cu、Fe、Cr、V、Li、NiなどのAl合金中の特定
の元素との不溶性相を有することは、先に説明したように、所与の元素の最大溶解限度を
超える量で存在する場合の分散質形成元素に生じる状況と同様である。過剰な元素の材料
は、特に多数の主相粒子が存在する場合、全体的な強度にある程度寄与し得る安定な主相
を形成する。これらの相のうちのいくつかは、Al3X相とは異なり得、概してより粗大
であり、Al金属マトリックスの格子とのより大きな視差を有し、この両方の要因がより
効率的に強化効果に寄与しなくなることに留意されたい。
【0049】
前述したように、析出硬化は、Zn、Mg、Mn、Si、Cu、Fe、Cr、V、Ni
、及びLiなどのより一般的なAl合金元素のうちのいくつかが、最適なサイズ及び分布
を有する可溶性二次相を生成して転位の移動を遮断又は遅延させることによって、強化に
寄与するという事実を使用する処理技術である。これらの元素を含有するAl合金におけ
る強度を増加させるために、3つの工程の手順を使用することができ、それらは以下のと
おりである。
【0050】
高温での溶液アニーリング(溶体化):高温での溶解度が高い合金元素は、金属マトリ
ックスに溶解され、固溶体に結合され得る。これらの元素が析出物である場合、析出物も
マトリックス中に拡散し、溶解する。
【0051】
急冷:溶液アニーリング後、材料を水又は油中で急速に冷却して、マトリックス中の可
溶性元素の最大量を維持する。その場合、これらの元素は不安定であり、室温での溶解限
度を上回るため、非平衡である。
【0052】
時効処理又は時効硬化(溶液アニーリングよりも低温における):安定していない合金
元素は、低温で熱処理(析出又は「時効処理」)によって溶液から除去される。物理的に
合金元素が固体溶液から析出して、離散粒子を形成する。ピーク時効処理は、最適な強度
のための最良の粒径及び分布を得るために最適な温度及び時間の条件を定義することに対
応する。この実施は、導電性を損なうことなくマトリックスを強化する金属全体にわたる
析出物を生成する。Zn、Mg、Mn、Si、Cu、Fe、Cr、V、Ni、Liなどの
元素を含む熱処理可能なAl合金(すなわち、2000、6000若しくは7000シリ
ーズ、又はAl-Li)に関して、最適な析出硬化のための温度領域は、約85℃~20
0℃である。この温度範囲で数時間アニーリングすることにより、析出物の結果として得
られたサイズ及び分布に起因する好適な強度がもたらされる。しかしながら、200℃~
225℃を超えると、及び場合によっては300℃では、析出硬化による強度が損なわれ
る。強度損失は、300℃で50%より多くあり得る。損失の主な原因は、約200℃よ
り高い温度での析出物の成長及び最終的な溶解である。
【0053】
サンプル組成
いくつかの実施形態では、Al合金は、約0.05重量%~約20.0重量%、約0.
05重量%~約10.0重量%、約0.05重量%~約1.0重量%、若しくは約0.0
5重量%~約0.5重量%、又は約0.1重量%~約0.5重量%のScを含有して形成
され得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、Al合金は、Sc以外の分散質形成元素、例えば、Zr、T
i、Nb、Ni、Y、Li、Hf、V、Fe、Mn、Cr、Ta、又はLa、Ce、Pr
、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuを含
む希土類元素を含有して形成されてもよい。いくつかの実施形態では、追加の分散質形成
元素(複数可)は、Scを含有するAl合金に添加されてもよい。いくつかの実施形態で
は、特定の分散質形成元素(複数可)は、Scの代わりにAl合金に添加されてもよい。
いくつかの実施形態では、分散質形成元素(複数可)は、単独で分散質形成材料の組み合
わされた重量パーセントで、又は約0.05重量%~約20.0重量%、約0.05重量
%~約10.0重量%、約0.05重量%~約1.0重量%、若しくは約0.05重量%
~約0.5重量%、又は約0.1重量%~約0.5重量%のAl合金中のScとの組み合
わせで形成される量でAl合金に添加されてもよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、Al合金は、Sc及びMg、Mn、Si、Cu、Ni、Mo
、Cr、Zn、Li、V、Fe、B、Zr、Li、Bi、Pbなどの追加の強化元素を有
して形成されてもよい。いくつかの実施形態では、Al合金は、Sc、追加の分散質形成
元素(複数可)、及び追加の強化元素を有して形成されてもよい。いくつかの実施形態で
は、1つの追加の強化元素が添加されてもよい。いくつかの実施形態では、2つ以上の追
加の強化元素が添加されてもよい。いくつかの実施形態では、追加の強化元素の総量は、
Al合金の0.1重量%超、0.3重量%超、0.5重量%超、又は1.0重量%超で構
成される。
【0056】
いくつかの実施形態では、Al合金は、タングステン(W)、炭素(C)、酸素(O)
、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、銀(Ag)、炭化ケイ素(SiC)、並びに
ナノチューブ、セラム、酸化物、炭化物、ケイ化物及びフラーレンなどの他の形態のナノ
粒子などのAl合金のためのより従来的ではない添加物を有して形成されてもよい。いく
つかの実施形態では、Al合金は、Scと、W、C、O、Mo、Co、Ag、SiC、並
びにナノチューブ、セラム、酸化物、炭化物、ケイ化物及びフラーレンなどの他の形態の
ナノ粒子などのAl合金のためのより従来的ではない添加物と、を有して形成されてもよ
い。いくつかの実施形態では、Al合金は、Scと、追加の分散質形成元素(複数可)と
、W、C、O、Mo、Co、Ag、並びにナノチューブ、セラム、酸化物、SiCなどの
炭化物、ケイ化物及びフラーレンなどの分散質形成材料などのAl合金のためのより従来
的ではない添加物と、を有して形成されてもよい。
【0057】
いくつかの実施形態では、ScはAl合金に添加されて、Al3(Sc)分散質を形成
し、Al合金は、直径1ミクロン未満、又は直径100nm未満の平均粒径(すなわち、
コヒーレントL12、コヒーレント析出物、通常は立方相)を有する。いくつかの実施形
態では、Scは、Scと結合して、AL3(Sc、Xi)の形態で安定した分散質を形成
する1つ以上の分散質形成元素とともにAl合金に添加され、ここで「Xi」は、Sc以
外の分散質形成元素を示す。一般にScは、Scと結合して、Aln(Sc、Xi)mの
形態で安定した分散質を形成する1つ以上の分散質形成元素とともにAl合金に添加され
てもよく、ここで「n」の「m」に対する比は≧3である。いくつかの実施形態では、S
cは、Scと結合して、少なくとも300℃の温度で1.0ミクロン未満の平均粒径を有
するAl3(Sc、Xi)の形態で安定した分散質を形成する1つ以上の分散質形成元素
とともにAl合金に添加される。
【0058】
いくつかの実施形態では、Al合金は、300℃を超える温度で安定した粒径及び粒径
分布を維持する。いくつかの実施形態では、粒径は、1時間より長く、2時間より長く、
又は3時間より長く、300℃を超える温度で安定したままである。
【0059】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される材料及び方法を使用して、少なくとも
40ksiの降伏強度を維持し、かつ少なくとも30分間、少なくとも1時間、又は少な
くとも2時間、少なくとも300℃周囲の温度で安定しているAl合金を作製することが
できる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される材料及び方法を使用すると、A
l合金は、92HB超えるブリネル硬度を維持し、かつ少なくとも30分間、少なくとも
1時間、又は少なくとも2時間、少なくとも300℃周囲の温度で安定する。いくつかの
実施形態では、本明細書に開示される材料及び方法を使用すると、Al合金は、1ミクロ
ン未満の粒径を維持し、かつ少なくとも30分間、少なくとも1時間、又は少なくとも2
時間、少なくとも300℃周囲の温度で安定する。
【0060】
アルミニウム合金バッキングプレートを形成するサンプル方法
図3は、本明細書に開示される様々な技術の一部又は全てを含む、サンプル方法100
の全体フロー図を含む。
図3に示すように、いくつかの実施形態において、方法100は
、ベース硬化工程104及び任意選択の追加の硬化工程106を含み得る。
図3に示され
るように、方法100全体は、鋳造などの初期処理110、続いて、溶体化112、急冷
114、及びECAEなどの強塑性変形116を用い得る。ベース硬化工程104に続い
て、追加の硬化工程106をベース硬化工程104と組み合わせて使用してもよい。いく
つかの実施形態において、追加の硬化工程106は、圧延又は鍛造118及び熱処理工程
120を含む。熱処理工程120は、時効硬化又は時効処理を含んでもよい。いくつかの
実施形態において、ベース硬化工程104及び追加の硬化工程106の後に、方法100
を使用して形成された材料の調製又は結合122が行われ得る。いくつかの実施形態では
、熱処理工程120は、結合工程122と同時に実行されてもよい。各工程の更なる詳細
を以下に説明する。
【0061】
初期処理(鋳造)
図3に示すように、方法100は、Al材料又はAl合金を鋳造するなどの初期処理1
10を含んでもよい。最初に従来の鋳造を使用して、所与の組成物を用いてAl合金を形
成してもよい。鋳造中、Al材料又はAl合金は、最初に溶融されてもよく、Sc、Zr
、Ti、Nb、Ni、Y、Hf、V、Fe、Li、Mn、Cr、Ta、La、Ce、Pr
、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、又はLuのう
ちの1つ以上などの分散質形成元素を、純粋な元素として直接、又は予鋳造されたマスタ
ー合金の一部として溶融物に直接添加することができる。好適な鋳造及び混合方法は、マ
スター合金を使用することである。Scに好適なマスター合金としては、2.0重量%の
Scを有するAl、10.0重量%のScを有するAl、又は20.0重量%のScを有
するAlが含まれる。代替的に又は追加的に、Zrは、例えば、10.0重量%のZrを
有するAlの予鋳造マスター合金として添加されてもよい。好適な安定性及び強度の形成
に貢献する分散質を形成するために、最終組成物中に0.1重量%~0.5重量%のSc
を有することが有益である。
【0062】
標準的な可溶性二次相又は不溶性析出物のいずれかを形成する代替の強化元素について
は、Mg、Mn、Si、Cu、Ni、Mo、Cr、Zn、Li、V、Fe、B、Zr、V
、Bi、Pbを含む標準的な市販のAl合金に既に存在する元素を使用することが有利で
あり得る。これらの要素の好適な量は、約0.5重量%~約15.0重量%であり得る。
【0063】
鋳造のための1つの技術は、熱処理可能なシリーズ(Al2000、Al6000、A
l7000、Al800)又は非熱処理シリーズ(Al1000、Al3000、Al4
000、Al5000)のいずれかから市販のAl合金を提供し、Al合金組成を溶融し
、次いで、純粋な元素の形態で直接的に、又は予鋳造マスター合金を使用することによっ
て、分散質(すなわちSc、Zr)を形成する元素を溶融物に添加することである。
【0064】
溶体化(熱処理)
図3に示すように、方法100は、鋳造されたAl合金を溶体化すること112を含ん
でもよい。溶体化112の目的は、固体Al合金又はAl材料内にSc、Zr、Ti、N
b、Ni、Y、Hf、V、Fe、Mn、Cr、Ta、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、E
u、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、又はLuなどの、分散質又は分散質形
成元素を形成する、最も高い可能な量の材料を溶解することである。合金元素は高温でよ
り高い溶解度を有するので、高温が使用される。
【0065】
いくつかの実施形態では、高い熱安定性のため、したがって分散質形成元素の溶解ダイ
ナミクスが遅いため、溶体化112は、好ましくは、所与の組成のソリダス温度のすぐ下
の温度(典型的には10~30℃)で、多くの場合1時間程度、3時間超、少なくとも2
4時間、及び潜在的に最大100時間で行われる。例えば、Al5083合金は570℃
のソリダス温度を有する。したがって、ScがAl5083に添加される場合、溶体化1
12の好適な温度及び時間は、540℃~560℃で約24時間である。ほぼ純粋なAl
については、ソリダスは約660℃であり、Scを添加するときの典型的な溶体化温度及
び時間は、630℃~650℃で24~72時間である。一般に、大部分のAl合金は5
60℃~660℃のソリダス温度を有するため、Al合金を溶体化する112ための好適
な温度範囲は、約530℃~650℃である。いくつかの実施形態では、Al合金を溶体
化する112ために、より低い温度(ソリダス温度より60℃以下まで)を使用すること
ができるが、より低い温度の使用は、より長い溶体化時間に対応して、好適な合金を形成
することができる。いくつかの実施形態では、溶体化112は、約120時間の好適な溶
体化時間で約500℃で実施されてもよい。いくつかの実施形態では、要素の分布を均質
化するために、高温処理を使用することもできる。
【0066】
急冷
図3に示すように、方法100は、鋳造されたAl合金を急冷して114、ビレットを
形成することを含み得る。溶体化112の後、処理された材料を水又は油中で急速に冷却
して、Al金属マトリックス中の可溶性元素の最高重量パーセントを維持する。急冷11
4の後、溶体化された元素は、室温でAl中でそれらの溶解限度を超える濃度で存在する
ため、例えば非平衡に過飽和される。
【0067】
強塑性変形(ECAE)
図3に示すように、方法100は、鋳造されたAl合金ビレットのECAEなどの強塑
性変形116を含んでもよい。いくつかの実施形態では、ECAEは、ビレットの1~6
パスを含んでもよい。いくつかの実施形態では、3~6パスは、好適に精製されたサブミ
クロン構造を提供する。ビレットを各パス間で90度回転させることも望ましい場合があ
る。いくつかの実施形態では、ECAEは、ビレット及びダイを加熱することによって、
特定の温度で実施することができる。いくつかの実施形態では、Mg、Mn、Si、Cu
、Ni、Mo、Zn、FeなどのAl合金内の元素によって形成される可溶性二次相のた
めのピーク時効処理温度より上又は下(すなわち、Alについて85℃未満又は200℃
超)で、ECAEを実行することが好適である。いくつかの実施形態では、Cr、Fe、
Hf、Mg、Mn、Nb、Ni、Sc、Ti、V、Zr、Y、Li、Ta、Mo、La、
Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、L
u)などの特定の分散質形成元素の時効処理温度(例えば、Alについて250℃~27
5℃)未満で、ECAEを実行することが好適である。
【0068】
いくつかの実施形態では、ECAEは、所与の材料のピーク時効処理温度未満の温度(
Alについて85℃未満の温度)又は温暖(175℃~275℃の温度)状況で実施され
る。ECAEは、2つの理由で約250℃~275℃未満の温度で優先的に実施される。
第1の理由は、分散質が約250℃~275℃で核形成を開始することである。第2の理
由は、これらの温度でのビレットの中間アニーリング中のサブミクロン構造の実質的な粒
成長又はECAE中の動的粒成長が存在し得ることである。更に、Mg、Mn、Si、C
u、Ni、Fe、Znなどの元素が分散質形成元素の他に存在する場合、ECAEは、所
与の可溶性相のピーク時効処理温度よりも低い又は高い温度(例えば、Alについて85
℃未満又は200℃超の温度)で実施されてもよい。ピーク時効処理及び硬化時に、析出
強化合金は、冷間加工、すなわち塑性変形のための制限された容量を有し得ることが分か
っている。Mg、Mn、Si、Cu、Ni、Fe、Znなどの特定の元素を含有するAl
合金では、典型的には85℃~200℃で析出硬化が生じる。したがって、Mn、Mg、
Si、Zn、Cu、Feなどの所与の二次相元素のピーク時効処理温度より上又は下の温
度でAl合金を処理することが好適である。これは、典型的には、85℃~約200℃の
温度に相当する。典型的なピーク時効処理温度を超える(すなわち200℃を超える)温
度では、析出物が成長し始め、材料は強度及び利得の延性を低下させ始める。したがって
、それは軟質であり、強塑性変形によって処理が容易である。85℃未満の温度では、A
l合金に使用されるほとんどの従来の元素の析出は開始されず、したがって、材料はまた
、軟質であり、強塑性変形による処理が容易である。
【0069】
いくつかの実施形態では、Al合金は、溶体化及び急冷パラメータが分散質に関して最
適化され、従来の元素が二次相を形成しない場合に、ECAEの前に溶体化及び急冷され
る。溶体化及び急冷された材料は、析出物を有さない(又はそれがより少ない)ため、強
塑性変形中の粒界の転位及び回転の移動を遮断又は減速しない。したがって、溶体化材料
では、最適なサブミクロン構造を適切に形成するために、より少数のECAEパスが好適
であり得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、最適な数のECAEパスは、特定の分散質を有するAl合金
を強化するために有益であることが見出された。例えば、4パスを使用するECAE処理
は、1パスよりも良好な結果をもたらすことが見出されている。これは、処理が、分散質
が核形成及び成長を開始する温度未満である250℃又は275℃未満の温度で行われる
場合に特に好適である。これらの処理条件下では、4つのECAEパスを使用することに
より、1回のECAEパスを使用するよりもサブミクロン構造の熱安定性を改善するのに
寄与する、より多くの数の高角度境界を有するより良好なサブミクロン構造を提供する。
その結果、より高くより安定した全体強度レベルが達成される。これは、実施例において
以下に更に記載される。
【0071】
任意選択的な圧延又は鍛造
図3に示すように、方法100は、任意選択的な圧延又は鍛造118などの追加の処理
を含み得る。いくつかの実施形態では、標準的な塑性変形を使用する追加的な処理を使用
して、特定のAl合金の最終強度又は硬度を更に増大させることができる。加えて、標準
的な圧延及び鍛造工程は、最終製品形状に機械加工する前の最終的なビレット形状に近づ
けるためにECAEの後に使用することができる。いくつかの実施形態では、圧延又は鍛
造は、溶体化、急冷、又はECAEの後、及びアニーリング又は温度時効処理の前に優先
的に適用される。これらの工程は、ECAE精錬構造内により多くの転位を導入すること
によって最終的な硬度を増大させることができる。このような転位は、更なるアニーリン
グ中に析出物によってピンダウンされ得る。
【0072】
熱処理(時効処理)
図3に示すように、方法100は、ピーク時効処理を含み得る熱処理120を含んでも
よい。いくつかの実施形態では、Al合金ビレットは、ピーク時効処理又はアニーリング
工程を受けてもよい。いくつかの実施形態では、ピーク時効処理は、少なくとも30分間
、1時間より長く、又は2時間より長く、275℃~350℃の温度にAl合金を曝すこ
とによって行われてもよい。例えば、24時間程度のより長いピーク時効処理時間が、特
定のAl合金に好適であり得る。いくつかの実施形態では、ピーク時効処理は、別の処理
工程と組み合わせて実行されてもよい。例えば、ピーク時効処理は、以下に更に記載され
る、ホットアイソタクチックプレス(ヒッピング(HIPing))などの処理を使用し
て、Al合金を別の金属本体に結合することと同時に行われてもよい。
【0073】
ピーク時効処理の熱処理中に、Sc、Zr、Ti、Li Nb、Ni、Y、Hf、V、
Fe、Mn、Cr、Ta、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、D
y、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuなどの合金元素は、マトリックス溶液から移動し
、多くの場合、直径が1ミクロン未満のサイズを有する極めて微細な分散質を形成し得る
。物理的に合金元素が固体溶液から析出して、新たな相中に個別の粒子を形成する。一般
に、ピーク時効処理パラメータは、最適な温度及び時間に対応して、最適な強度のための
最良の粒径及び分布を達成するべきである。この処理工程は、Al合金全体に微細な析出
物を生成するために使用されてもよく、これは、導電率を有害に変化させることなくマト
リックスを強化する。
【0074】
最終処理及び/又は結合
図3に示すように、方法100は、結合122を含み得る最終処理を含んでもよい。い
くつかの実施形態では、最終処理は、スパッタリング処理で使用するためにバッキングプ
レートにAl合金を形成することを含んでもよい。いくつかの実施形態において、バッキ
ングプレートは、結合処理を使用してスパッタリングターゲットに接合されてもよい。一
般に使用される結合処理は、ホットアイソタクチックプレス(ヒッピング)である。ヒッ
ピングは、好適な温度に材料(複数可)を加熱して接合させることと、材料(複数可)に
圧力を加えることとを含む。ヒッピングは、材料(複数可)が一緒に結合することにつな
がり、材料(複数可)内の空隙を低減又は排除することができ、粉末を圧密してより高密
度の材料を作製することができる。Alバッキングプレートをスパッタリングターゲット
に結合するための一般的なヒッピングパラメータは、2時間で約300℃であり得る。他
の結合方法としては、エポキシ結合、はんだ付け、ろう付け、爆発結合、機械的接合(キ
ー、ボルトなどを使用する)、又は溶接が含まれる。
【0075】
硬度と降伏強度との関係
次の項に記載の実施例では、ブリネル硬度を初期試験として使用して、高温におけるA
l合金の機械的特性を評価した。ブリネル硬度の測定は、比較的簡単な試験方法であり、
引張試験よりも速い。それを使用して、次いで、更なる試験のために分離され得る好適な
材料を識別するための初期評価を形成することができる。
【0076】
引張強度は、通常、降伏強度(yield strength、YS)及び最終引張強
度(ultimate tensile strength、UTS)の2つのパラメー
タによって特徴付けられる。最終引張強度は、引張試験中の最大測定強度であり、明確に
定義された点で生じる。降伏強度は、塑性変形が顕著になり、引張試験下で顕著になる応
力の量である。弾性ひずみが終わり、塑性ひずみが始まる工学的応力-ひずみ曲線上の明
確な点が存在しないため、降伏強度は、一定量の塑性ひずみが生じたときの強度となるよ
うに選択される。一般的な工学的構造設計では、降伏強度は、0.2%の塑性歪みが起こ
ったときに選択される。0.2%の降伏強度又は0.2%のオフセット降伏強度は、サン
プルの元の断面積から0.2%オフセットして計算される(s=P/A)。降伏強度は、
粒径及び相径及び分布の変動などの要因に対して最終引張強度よりもはるかに敏感である
。
【0077】
材料の硬度は、標準的な試験条件下での表面くぼみに対するその抵抗である。これは、
局所的塑性変形に対する材料の抵抗の尺度である。硬度インデンターを材料に押し込むこ
とは、インデンターが型押しされる場所における材料の塑性変形(移動)を伴う。材料の
塑性変形は、試験される材料の強度を超えるインデンターへの力の量の結果である。した
がって、硬度試験インデンターの下で塑性変形される材料が少ないほど、材料の強度が高
くなる。同時に、塑性変形が少ないと、浅い硬度の型がもたらされ、したがって、得られ
る硬度の数はより大きくなる。これは全体的な関係を提供し、材料の硬度が高いほど、期
待強度が高くなる。
【0078】
すなわち、硬度と降伏強度の両方は、塑性変形に対する金属の抵抗の指標である。した
がって、これらはほぼ比例している。
図4は、Al合金のブリネル硬度と降伏強度との関
係を示す。典型的には、約40ksiの降伏強度は、バッキングプレートを形成するため
に使用されるAl合金に好適である。したがって、
図4に示すように、40ksiに対応
するブリネル硬度は、約92HBである。しかしながら、その関係は、降伏強度が粒及び
相径及び分布などの他の微細構造要因に対してより敏感であるため、降伏強度よりも最終
引張強度に関して実証的により正確であることに留意されたい。したがって、各材料の降
伏強度と硬度との関係を理解し、実証的に測定することが重要である。このような関係を
、以下に示す材料及び実施例について評価した。
【実施例0079】
以下の非限定的な実施例は、本発明の様々な特徴及び特性を説明するものであり、これ
らに限定されるものではない。特記しない限り、全ての量は重量パーセントである。
【0080】
本出願の方法を使用して、あらかじめ入手可能なAl合金よりも高い降伏強度及び/又
は硬度を有するAl合金、特に、約300℃の温度まで長時間加熱した後であっても降伏
強度及び/又は硬度を維持するAl合金を形成することができる。いくつかの実施形態で
は、Al合金は、スパッタリングターゲットアセンブリで使用するためのバッキングプレ
ートを形成するのに好適である。所望のAl合金は、降伏強度を約40ksi未満に損な
うことなく、約300℃のヒッピング温度に受けられ得るものである。
図4を参照して上
述したように、初期評価分析では、Al合金に関して、92HBを超えるブリネル硬度が
40ksiを超える降伏強度に対応すると判定された。したがって、初期基準点として9
2HBのブリネル硬度を用いた。
【0081】
初期比較として、測定されたAl合金がECAE処理を受けた後の、バッキングプレー
トを形成するのに好適な一般的に入手可能なAl合金の降伏強度を表1に示す。以下の表
1に示すように、一般的に入手可能なAl合金が熱安定性を維持する最高温度は、約20
0~225℃である。この温度範囲は、バッキングプレートアセンブリに関して所望の3
00℃のヒッピング温度未満であることに留意されたい。
【0082】
【0083】
図5は、ECAEによる処理の有無にかかわらず、1時間のアニーリング後の温度の関
数としての2つの非熱処理Al合金、Al3004及びAl5052の降伏強度を示す。
2つの合金のそれぞれについての降伏強度は、各合金がECAEに供された後、5倍を超
えて増加したことに留意されたい。しかしながら、両方の合金の降伏強度は、少なくとも
1時間、300℃の温度においた後に40ksi未満(それぞれ約20~23ksi)で
あった。
【0084】
図6は、ECAEを受けた後、1時間のアニーリング後の温度の関数としての熱処理可
能なAl合金Al7075の降伏強度を示す。降伏強度は、少なくとも1時間、300℃
の温度においた後に約40ksiまで低下したことに留意されたい。
【0085】
図7は、ECAEを受け、ピーク時効処理も受けた2つのサンプル、及びECAEを受
けずピーク時効処理も受けなかった1つのサンプルについて、1時間のアニーリング後の
温度の関数としての熱処理可能なAl合金Al6061の降伏強度を示す。合金の各サン
プルは、少なくとも1時間、300℃の温度におかれた後、その降伏強度が約20ksi
に低下したことに留意されたい。
【0086】
図8は、4つの代表的な処理方法について、1時間のアニーリング温度の関数としての
熱処理可能なAl合金Al2618のブリネル硬度を示す。全ての場合において、少なく
とも1時間、300℃でアニーリングした後、ブリネル硬度は、92未満であり、これは
少なくとも40ksiの降伏強度に対応する。この合金、Al2618は、試験された最
も熱的に安定なAl合金であることに留意されたい。
【0087】
実施例1:ECAE後の熱安定性に対する様々な元素を用いた99.999%(5N)
Alのドーピングの効果
この実施例では、特定の元素を用いた高純度99.999%(5N)Alのドーピング
の効果を評価して、Al合金に好適な熱安定性を提供する好適なドーパントが見出された
。研究したドーピング元素は、Si、Cu、Sc、Ti、Mo、Hf、Zr及びMnであ
った。ドープされたAl合金をECAEに供した後に得られたAlサブミクロン粒径の熱
安定性に対する各元素の効果を比較するための実験を行った。この実施例では、各パス間
のAlビレットの90度の回転を伴う4回のECAEパスを、鋳造、溶体化、及び急冷後
に全てのサンプルに対して行った。その結果を
図9で比較する。
【0088】
図9において、y軸は、材料の平均粒径が直径で1ミクロンを超える前に、各サンプル
が1時間受けた最大温度を表す。X軸は、原子百万分率(ppm)のAl合金中の各ドー
パントの濃度を提供する。具体的には、10,000ppmは1at.%、1000pp
mは0.1at.%、100ppmは0.01at.%、10ppmは0.001at.
%、及び1ppmは0.0001at.%に相当する。
図9に示すように、Al合金サブ
ミクロン粒の熱安定性を改善するための最も効果的な元素は、Sc、続いてZrであるこ
とが見出された。更に、Al合金の熱安定性に実質的な効果を有するためには、少量(約
100ppm~1,000ppm)のSc及びZrのみが必要であった。
【0089】
図9に示すように、1000ppmのSc(0.1at.%のSc(0.166重量%
)を有する5N Al)又はZr(0.1at.%のZr(0.337重量%)を有する
5N Al)を有するAl合金のサブミクロン粒構造は、それぞれ400℃及び325℃
まで安定である。Sc又はZrのいずれかが1000ppm(0.1at.%)を超える
と、安定性の増加は、より多くのSc又はZrが添加されるにつれてより緩やかであり、
安定性の増加はプラトーに達する。これは、Al中のSc及びZrの最大溶解度が、それ
ぞれ2,300ppm及び2,800ppm未満であると考えられるためである。これら
の値を超えるSc又はZrの濃度は、極めて微細な分散質を生成する効果が低くなり、結
果として熱安定性に加えられる効果はより緩やかである。
図9にも示されるように、特定
の熱処理可能合金で使用され得るTi、Cu及びSiなどの元素は、熱安定性に少なくと
も影響を及ぼす。Hf、Mo、又はMnなどの元素は、かなり高い濃度(すなわち、10
00ppm超)で存在する場合、Al合金の熱安定性に寄与し得る。
【0090】
実施例2:ブリネル硬度に対する99.999%Al(5N)におけるSc重量パーセ
ントの影響
この実施例では、Al合金硬度に対するScの量の影響を評価した。高純度99.99
9%(5N)Alをドープして、0.1at.%(0.166重量%)、0.3at.%
(0.5重量%)、1.2at.%(1.98重量%)、5.0at.%(8.06重量
%)、7.5at.%(11.90重量%)及び9.5at.%(14.88重量%)の
Scの原子パーセントでScを有する6つのサンプルを作製した。この例では、従来の熱
機械的処理が選択された。すなわち、ECAEではなく、熱間鍛造を含む標準塑性変形を
使用した。試験用の材料を形成するために使用された処理には、Al材料を鋳造すること
、続いて、溶体化、急冷、及び70%の減少高さまで250℃で各鋳型を熱間鍛造して、
最終的なAl合金のビレットを形成することが含まれた。ビレットを、温度を上昇してア
ニーリングした。サンプルのブリネル硬度の測定を、アニーリング後に室温で材料で行っ
た。結果は、様々なアニーリング温度におけるブリネル硬度に対するSc濃度の効果を示
す
図10に示されている。250℃~350℃の温度でアニーリングした後の各サンプル
について得られた平均粒径は、約50~約150ミクロンであった。
【0091】
図10に示すように、有効な強化のためのAl中のScの閾値量は、0.1at.%(
0.166重量%)のScより大きい。また、0.3at.%(0.5重量%)のScを
超える割合を有するAl合金では、強度の最大増加は、1時間、300℃~350℃の温
度でアニーリングした後に達成された。これらの温度は、Al
3Sc分散質のピーク時効
処理に対応する。
【0092】
図10にも示されるように、300℃でのアニーリング後の強度の最大増加は、0.1at.%(0.166重量%)のScと、Al中のScの最大溶解限度である0.23at.%(例えば、2300ppm又は0.38重量%)のすぐ上である0.3at.%(0.5重量%)のScとの間で生じた。
図10に示すように、1.2at.%(1.98重量%)のScについて1時間、350℃においた後のブリネル硬度は、0.3at.%(0.5重量%)のScと非常に類似しており、そのことは0.3at.%(0.5重量%)のScと1.2at.%(1.98重量%)のScとの間の比較的小さい差を示す。大量のSc(例えば、5.0at.%(8.06重量%)~9.5at%(14.88重量%))を添加した後には、硬度のより大きな増加が得られた。硬度は、0.3at.%(0.5重量%)のScで58.6HBから9.5at.%(14.88重量%)のScで79.6HBまで増加した。この結果は、固体溶液中に過飽和された0.23at.%(0.38重量%)のScから析出した極めて微細なAl
3Sc分散質が、溶体化、急冷、及び300℃~350℃でのピーク時効処理を含む様々な熱処理によって影響されなかった過剰なScを有する様々な(AlSc)主相よりも、より好適な強化効果を有することを示す。
【0093】
測定された最大ブリネル硬度は、9.5at.%(14.88重量%)のScの場合で
79.6HBであり、それは依然として所望の硬度92HB未満であり、Al合金の所望
の引張強度40ksiに対応する。この実施例は、標準的な塑性変形を用いたAl-Sc
合金の従来の熱機械的処理が、溶解限度を超える量のScが使用される場合であっても、
好適な硬度及び/又は強度のAl合金を形成するのに十分ではないことを示した。比較的
低い硬度に対する1つの寄与要因は、従来の熱機械的処理中に発達した大きな(1ミクロ
ンを超える)粒径であった。別の要因は、0.38重量%を超えるScによって形成され
た主相の粗粒径であり、それは分散質としての強化に効果的に寄与しない。
【0094】
Scは、一部の用途では、限られた可用性を有し得ることに留意されたい。したがって
、Scの高い重量パーセントが利用できないいくつかの実施形態では、より少ない量(例
えば、0.23at.%未満(0.38重量%))のScを追加の処理方法と組み合わせ
て使用して、好適な硬度又は降伏強度を得ることができる。例えば、約0.38重量%未
満のScを有し、上述の様々な方法で処理されたAl合金は、上記の方法で処理されない
約0.38重量%を超えるScを有するAl合金と同様の硬度及び/又は降伏強度を有し
得る。したがって、これらの状況では、上記のように、Al合金の硬度及び/又は強度を
上昇させるために、追加の処理技術が含まれてもよい。
【0095】
実施例3:Al5083硬度に対するSc及びZr濃度及びECAEパスの数の影響
この実施例では、Al合金硬度に対するSc及びZrの重量パーセントの様々な組み合
わせの効果を評価した。最終的なAl合金硬度に対するECAEパスの数の影響も評価し
た。
【0096】
実施例1及び2において好適であることが見出されたSc濃度を使用して、特別なAl
材料を鋳造した。この実施例では、非熱処理の市販のAl合金、Al5083をベース材
料として選択した。初期のAl5083の組成を表2に示し、「実際」とラベル付けする
。Al5083仕様はまた、それぞれ「最小」及び「最大」とラベル付けされた各元素に
ついて最小及び最大の許容可能な重量パーセント量を表2に提供する。組成は、Mg、C
r、Zn、Mn、Fe、Si及び少量のTi、Cuを含む市販のAl合金に使用される従
来の元素を含有する。
【0097】
【0098】
様々な量の2.0重量%のScマスター合金を有するAl及び10重量%のZrマスタ
ー合金を有するAlを、るつぼ内でAl5083とともに溶融させた。増加した量のSc
及び/又はZrを有する3つの組成物を生成し、それらは、サンプル1(追加の0.2重
量%のZrを有するAl5083)、サンプル2(追加の0.3重量%のSc及び0.2
重量%のZrを有するAl5083)及びサンプル3(追加の0.5重量%のSc及び0
.2重量%のZrを有するAl5083)と称される。これらの鋳造合金のそれぞれの化
学組成を表3に列挙する。
【0099】
【0100】
異なる量のAl2.0重量%のScマスター合金を各組成に添加し、初期ベースAl5
083に含まれる開始元素の様々な希釈度が得られることに留意されたい。換言すれば、
表3に示すように、Sc及びZrの最も高い添加を有する組成はまた、最低量のMg、M
n、Fe、Si、Cr、Zn及びCu元素を有する。
【0101】
鋳造後、サンプル1~3を24時間、550℃で溶体化した。この温度は、ベース材料
Al5083のソリダス温度よりも20℃低い。溶体化直後に、水の標準的な急冷を行っ
た。1回(1パス)又は4回(4パス)のいずれかで、サンプル1~3のビレット上で温
暖ECAE押出成形を実施した。ダイ及びビレットの温度は200℃であった。各ビレッ
トを各パス間の押出方向に垂直に90度回転させた。ECAE後、各サンプルのクーポン
を切断し、1時間、200℃、250℃、300℃、350℃及び400℃の特定の温度
でアニーリングした。
【0102】
比較のために、Al5083ベース材料を使用して対照サンプルを形成した。Al50
83ベース材料はまた、200℃で1パス及び4パスでECAEに供され、サンプル1~
3と同じ温度で1時間アニーリングした。
【0103】
1回のECAEパス後のサンプル1~3について、室温で材料を用いて実施したブリネ
ル硬度試験の結果を
図11に示す。4回のECAEパス後のサンプル1~3及び対照サン
プルについて、室温で材料を用いて実施したブリネル硬度試験の結果を
図12に示す。
【0104】
図11及び
図12に示されるように、Al合金が1時間で300℃の温度に、及び35
0℃程度まで加熱された後であっても、硬度の熱安定性が増加している。これはサンプル
2及び3によって示され、この傾向は、サンプルが1又は4回のECAEパスを受けたか
どうかによらず同じである。得られた硬度は、サンプル2及び3が1時間、300℃にお
かれた後で94~103HBであり、サンプル2及び3が1時間、350℃におかれた後
で84~94HBである。対照的に、
図12に示すように、ベースAl5083及びサン
プル1は、1時間300℃でアニーリングした後に74HB未満、及び1時間350℃で
アニーリングした後に67HB未満の硬度レベルを有し、これは基準硬度値92HB未満
である。
【0105】
図12に示すように、25℃~250℃のアニーリング温度範囲について、サンプル1
~3は全て、ベース材料Al5083と同等の硬度レベルを有する。250℃未満の温度
では、ベース材料Al5083及びサンプル1は、最高硬度を有する。これは、250℃
未満ではScまたおそらくZrも硬化に関与しないことを示す。その代わりに、標準合金
元素、Mg、Mn、Fe、Si、Cr、Zn及びCuは、全体的な強度に最も寄与する。
約250℃では、
図11の1パスECAEサンプルについて最も良く分かるように、分散
質の効果は、それ自体を発現させ始め、ここで、硬度の注目される増加は、250℃で観
察され、約300℃で最大である。これらの温度では、Al
3(Sc、Zr)分散質は、
非常に微細かつ均一に分布した相に核形成し始める。
【0106】
300℃と350℃の両方におけるサンプル1~3のAl合金の粒径を光学顕微鏡によ
って評価した。光学顕微鏡は、約1ミクロンの解像度を有し、1ミクロンを超える粒径の
みに対応できることに留意されたい。
図13A~
図13Dは、1時間、300℃で熱処理
した後の各Al合金の光学顕微鏡で撮影した写真を含む。
図14A~
図14Cは、1時間
、350℃で熱処理した後のサンプル1~3の光学顕微鏡で撮影した写真を含む。写真の
それぞれのスケールは、約50μmの範囲を示すわけではない。粒径測定値を以下の表4
及び表5に報告する。
【0107】
【0108】
【0109】
図13C、
図13D、
図14B及び
図14Cに示されるように、サンプル2とサンプル
3の両方のサブミクロン粒径は、300℃程度の高さ、更には350℃程度の高さで安定
である。対照的に、再結晶化は、
図13Aに示されるベース材料Al5083に関して3
00℃で既に生じており、8.05ミクロンの粒径を生成する。サンプル1については、
図13Bに示すように、微細構造は300℃でほぼ完全に再結晶化され、
図14Aに示す
ように、350℃でアニーリングした後でもほとんど変わらない4.1ミクロンの粒径を
もたらす。この実施例は、ECAEを受けたAl合金のサブミクロン粒径の熱安定性を高
めることに基づく、Al(Sc、Zr)分散質の有益な効果を示す。また、Sc及びZr
を添加したサンプル2及び3について観察された優れた強度についての説明も提供する。
【0110】
サンプル1~3及びAl5083ベース材料については、サンプルを1時間300℃で
加熱処理した後、室温でサンプルを用いて引張試験を実施し、これは、ベースプレート材
料がヒッピング中に供されるものと同様である。引張試験の結果を
図15に示す。大きく
合金化されたAl5xxxで作製された市販のバッキングプレート(BP)のデータも含
まれる。
図15は、1時間、300℃で熱処理した後の室温でのサンプルの最終引張強度
(UTS)と降伏強度(YS)の両方に関するデータを示す。
図15に示すように、Sc
とZrの両方を含有するサンプル2及び3は、1時間、300℃でアニーリングした後に
、より高い降伏強度を有する。サンプル2は、44.4ksiの降伏強度を測定し、サン
プル3は、47.5ksiの降伏強度を測定した。これは、ベースラインAl5083に
ついての23.8ksi、サンプル1についての22.7ksi、及び市販のバッキング
プレートAlの28.8ksiと比較される。最終的な引張強度(UTS)の増加はまた
、ベースラインAl5083材料についての約40ksiから、サンプル2及び3につい
ての48.7ksi及び49.7ksiまで観察される。本実施例に開示されるように、
本明細書に記載される方法は、少なくとも1時間、約300℃~約400℃の温度におい
た後に40ksi超、45ksi超、又は50ksi超の降伏強度を有するAl合金を提
供する。
【0111】
ECAEパスの数の効果を硬度を通じて比較するために、1回及び4回の両方のECA
Eパスを受けたサンプル2及び3の硬度を比較した。
図16は、1回及び4回の両方のE
CAEパスを受けた後のサンプル2のブリネル硬度を示す。
図17は、1回及び4回の両
方のECAEパスを受けた後のサンプル3のブリネル硬度を示す。
【0112】
図16及び
図17に示されるように、サンプル2及び3については、4回のECAEパ
スが、多くの温度範囲でより高い硬度をもたらした。これは、
図16及び
図17のグラフ
の左側での25℃でさえ観察された。このことはまた、300℃の温度に加熱された後の
サンプル2及び3についても保持される。1回のECAEパスを受けたサンプル2及び3
については、1時間、300℃を超える温度においた後に、ブリネル硬度は92HB未満
に低下し始めた。4回のECAEパスを受けたサンプル2及び3については、1時間、3
00℃に加熱した後、ブリネル硬度は102~103HBを超えたままである。4回のE
CAEパスを受けたサンプル2及び3については、1時間、約350℃の温度においた後
であっても、ブリネル硬度は92HBを超えたままであり、これは、バッキングプレート
用途のためのAl合金の基準硬度である。
【0113】
実施例4:Sc及び/又はZrを有するAl5083の1回のECAEパス後の300
℃及び350℃での長時間アニーリングの効果
この実施例では、標準的なアニーリング温度と同様の温度への長時間の曝露の効果を評
価した。上記実施例3でサンプル1~3及びベース材料に使用したものと同じ材料を評価
した。
【0114】
図18は、長時間のアニーリング処理後に測定された硬度を示す。
図18は、1回のE
CAEパスを受けた後で、かつ1~8時間の300℃と350℃の両方での増加させた持
続時間でのサンプル2及び3からの材料の硬度を示す。この種類の試験は、熱処理につい
ての処理エンベロープがどのくらい堅牢であるか、及びAl合金の機械的特性に対する長
時間加熱の効果を決定するために行われる。
図19は、1~24時間、300℃まで加熱
した後の、4回のECAEパス後のベースラインAl5083合金の材料及びサンプル1
~3の材料の硬度を示す。
【0115】
図19に示すように、最大24時間、300℃まで加熱した後、4回のECAEパス後
のサンプル2及び3において、ブリネル硬度の顕著な低下は検出されなかった。データは
、ブリネル硬度が一貫して97HBを超えたままであることを示し、これは、バッキング
プレート用途で使用されるAl合金についての所望の限界の92HBを上回る。この実施
例に示されるように、ヒッピングなどの熱処理工程の持続時間の変化は、サンプル2及び
3の組成物で作製されたAl合金バッキングプレートの結果として生じる機械的特性に対
する効果を低下し得る。この実施例は、本明細書に開示されたAl合金から作製されたバ
ッキングプレートが硬度を失うことなくより長いヒッピング時間に耐えることができるこ
とを示す。この特性により、本出願に記載されたAl合金で作製されたバッキングプレー
トをスパッタリングターゲットに結合するために用いられるより長いヒッピング時間を可
能にし、したがって、スパッタリングターゲットアセンブリがより高い品質の結合で形成
されることを可能にする。
【0116】
図18の硬度値を
図19のものと比較すると、1回のECAEパスの代わりに4回のE
CAEパスを使用することにより、長いアニーリング時間にわたって硬度がより低下しな
くなることが観察され得る。
図18に示すように、サンプル3と同様の組成を有し、1回
のECAEパスを受けたAl合金について、ブリネル硬度は、8時間、300℃の温度に
おいた後で92HB未満のままである。しかしながら、
図19に示すように、サンプル3
と同様の組成を有し、4回のECAEパスを受けたAl合金について、ブリネルは、30
0℃の温度においた後であっても、92~93HBより高いままである。これは、サブミ
クロン構造上のECAEパスの回数の影響を実証する。より多くのECAEパスは、より
多くの高角度境界を有する、より等軸の、精錬され、かつ均一なサブミクロン粒径を提供
する。高角度境界により、構造はより安定しており、分散質の析出力学及び再分配にも影
響を及ぼす可能性が高い。
【0117】
図18にも示されるように、サンプルが約3時間、350℃の温度におかれた後に、1
回のECAEパスを受けたサンプル2及び3の強度が増加し得ることが見出された。サン
プル2の材料については、94HBを超えるブリネル硬度が得られた。このデータは、好
適なヒッピング時間について、300℃より高い、潜在的に350℃までの温度にAl合
金を加熱することを含む、ヒッピング処理において使用することができる、より広い範囲
の処理パラメータを示唆する。これは更に、特定のターゲットアセンブリ組成のための有
益な結合強度及び微細構造をもたらすことができる。Zrを単独で有するサンプル1又は
ベースラインAl5083材料については、長時間アニーリング後に最小限の利益が観察
されたことに留意されたい。
【0118】
実施例5:4回のECAEパス後のSc及び/又はZrを有するAl5456の熱安定
性に対する組成の効果
この実施例では、非熱処理Al合金の硬度に対する組成の効果を評価した。
【0119】
実施例1及び2に記載された原理及び実施例4に記載の方法に基づいて、4つのAl合
金の新しいセットをインゴット冶金によって鋳造した。この実施例では、ベース材料は、
非熱処理Al合金Al5456であり、その組成は表3に示され、「実際」とラベル付け
される。Al5456の仕様はまた、それぞれ「最小」及び「最大」とラベル付けされた
各元素について、最小及び最大許容可能な重量パーセント量で表6に提供される。このA
l合金は、上記実施例3におけるAl5083よりも多くのMg(主合金元素)を含有す
る。残りの従来の元素は、Al5083と同様であり、すなわちMn、Fe、Cr、Si
並びに少量のZn、Ti及びCuである。
【0120】
【0121】
実施例3に続く処理と同様に、Al+2.0重量%のScマスター合金及びAl+10
重量%のZrマスター合金を、ベースラインAl5456材料とともに溶融させて、表7
に列記される4つの組成をサンプル4~7として生成した。各材料の重量パーセントにお
ける組成を表7に示す。4つの新しい合金のうちの3つ(サンプル5~7)について、Z
rを0.2重量%で一定に保ったまま、Al中のScの最大溶解度限界未満、それに近い
、及びそれよりわずかに大きい3レベル(例えば、0.2重量%、0.3重量%、及び0
.5重量%)のScを添加した。第4の合金(サンプル4)については、0.3重量%(
最大溶解度限界に近い)のScのみを添加し、Zrを添加しなかった。
【0122】
【0123】
実施例3のサンプルと同様に、各新しい組成のために異なる量のマスター合金を添加す
ることにより、Al5456の主元素のいくつかの希釈があった。換言すれば、より多く
のマスター合金を使用する組成は、より少ない量の従来の元素Mn、Fe、Cr、Si、
Zn、Ti、Cuを有していた。
【0124】
Al材料をビレットに鋳造した後、サンプル4~7をベース材料Al5456のソリダ
ス温度未満で24時間(すなわち20℃)、554℃で溶体化し、Al合金を形成した。
溶体化後すぐに水の標準的な急冷を行った。各パス間の90度のビレット回転を使用して
、サンプル4~7の温暖ECAE押出を4回(4回のECAEパスを)行った。ダイ及び
ビレット温度を200℃に維持した。ECAE後、クーポンをサンプル4~7の材料から
切断し、1時間、200℃、250℃、300℃、350℃、400℃、450℃及び5
00℃でアニーリングした。
【0125】
比較のために、非熱処理Al5456ベース材料もまた、4回のパスを使用して200
℃でECAE押出成形され、サンプル4~7と同じ温度で1時間アニーリングした。ブリ
ネル硬度試験を実施し、その結果を
図20に示す。
【0126】
図20に示すように、全てのサンプル4~7は、約300℃の温度に加熱された後に9
2HBを超えるブリネル硬度を示し、上記のパラメータに従ってAl合金バッキングプレ
ートとして使用するための要件を満たした。
図20に更に示されるように、最良の熱安定
性及び強度を有するサンプル組成は、サンプル4及び5である。300℃では、両方の組
成のブリネル硬度は100~101HBであり、350℃では、それは約94.7HB(
すなわち、92HB超)のままである。これらの2つの組成の優れた硬度は、400℃~
500℃の温度に加熱された後であっても見られる。
【0127】
図20に更に示されるように、サンプル6及び7については、0.3重量%のSc又は
0.5重量%のScの添加は、Sc及びZrの両方が添加されるサンプル5~7の全てを
比較する場合に、0.2重量%のScと比較して有意な利点を提供しなかった。サンプル
6及び7のブリネル硬度変化は、300℃~450℃の温度で同様であった。このことは
、0.3重量%が最大溶解度限界の0.38重量%付近にあり、及び0.5重量%がそれ
をわずかに上回るため、およそ同じ量のSc(0.38重量%未満である可能性が高い)
が両方の組成中で析出したという事実に関連し得る。このデータは、より長い溶体化熱処
理又はより速い冷却方法がAl中に溶解したより多量のScをもたらすことを示し得る。
【0128】
【0129】
【0130】
図21A~
図21B、
図22A~
図22C、及び
図23A~
図23Cに示されるように
、全てのサンプルの組成物は、最大で少なくとも300℃、更には最大で350℃までの
サブミクロン粒径を有していた。サンプル4は、0.3重量%のみである。Scは、42
5℃まででサブミクロン粒径の高い安定性を有し、再結晶化は約425℃でのみ起こった
。サンプル5及び7は、400℃で完全に再結晶化され、微小な(すなわち直径が10ミ
クロン未満)の微細構造を有する。このデータは、サブミクロン粒径が300℃及び更に
350℃でAl合金の強化に関与することを示す。それはまた、粒界をピンダウンし、粒
成長を遅延させるための分散質の有効性も実証する。
【0131】
要約すると、実施例5は、Al5083のために実施例3で用いられた処理がまたAl
5456のために良好に機能することを示している。本明細書に開示されるように、これ
らの技術を使用して、Al合金を特定の好適な分散質と組み合わせ、任意の十分に合金化
されたAl合金に対する強塑性変形によって得られるサブミクロン微細構造を形成するこ
とができる。これは、例えば、1000から8000シリーズまでのAl合金を出発材料
として選択することを含む。一般に、多種多様な組成又は元素を、ベースAl合金又は分
散質に使用することができ、本明細書に開示された方法に従って高温特性を発達するため
に使用することができる。これにより、広範なAl材料が特別に調整された特性を有する
Al合金を形成するために使用されることを可能にし、また現在利用可能ではない材料を
形成することができる。Sc、Zr、Ti、Nb、Ni、Y、Hf、V、Fe、Li、M
n、Cr、Ta、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er
、Tm、Yb、及びLuなどの元素を有する分散質を形成するAl以外の元素を、代替用
途のために組み合わせることができる。
【0132】
実施例6:Al5456及びAl5083にSc及び/又はZrを添加することによる
初期組成の効果
図24は、実施例3及び5に記載された2つのベース材料Al5083及びAl545
6について、同様のレベルのSc及びZr合金、すなわち0.5Sc+0.2Zr及び0
.3Sc+0.2Zrのアニーリング温度に対するブリネル硬度についてのデータを比較
する。
図24はまた、4回のECAEパスを受けた後の実施例3からのサンプル2及び3
、並びに実施例5からのサンプル6及び7の比較を示す。
【0133】
図24に示すように、Al5456ベースライン材料は、250℃未満の温度でより硬
い材料を提供するが、スパッタリングターゲットアセンブリの所望の温度である300℃
での利益は最小限である。300℃に近づく温度での硬度のこのレベリングダウンは、以
下の点を示す。250℃未満の温度では、主要な強化メカニズムは、サブミクロン粒径か
らの硬化、分散質ではない溶質、不溶性相、及び遷移元素の可溶性二次相からの硬化であ
る。これらの2つの組成について、Mgの差は、これら2つのサンプルを作製するために
使用される材料の強度に対する強い寄与要因である。2つのAl5456ベースのサンプ
ルは、2つのAl5083ベースのサンプルに対してMgが多いので(これらのサンプル
の組成について、3.79%~4.31%対3.32%~3.78%(表3及び表7を参
照))、前者の2つの組成において硬度が高い。約250℃では、以下の3つの現象が起
こり始める:従来の元素から生じる強度の損失、サブミクロン粒径のわずかな成長による
転位の回復、及びAl
3(Sc、Zr)分散質の核形成。先の2つの要因は、4つの組成
物全てについて、およそ同じレベルまでの硬度損失に寄与する。しかし、最後の現象、す
なわち分散質の核形成は、Al合金の強度を増加させ、いくつかの更なる粒成長を停止さ
せる。300℃では、分散質のピーク時効処理が起こり、4つの組成物全てに許容可能な
強度を提供する。
【0134】
全体的に、この比較は、300℃程度の温度で特定の材料特性を改善するために使用す
ることができる従来の元素(例えばMg)の量に制限があることを示す。強化のための要
因は、分散質及びサブミクロン粒径のサイズ及び分布のままである。
【0135】
図24に更に示されるように、最も好適な組成を有するサンプル2及び3については、
4回のECAEパスは、全ての研究された温度範囲に対してより高い硬度をもたらした。
これは、300℃及び350℃程度の温度を含む。1時間300℃で、ブリネル硬度は1
02~103HBを超えたままである。1時間350℃であっても、本開示の方法による
バッキング用途のためのAl合金の所望の硬度である92HB超のままである。上記の実
施例に示されるように、本明細書に記載の方法を使用して、少なくとも1時間、約300
℃~約400℃の温度においた後に、80HB超、85HB超、又は90HB超のブリネ
ル硬度を有するAl合金を形成することができる。
【0136】
本発明の範囲から逸脱することなく、記載した例示的な実施形態に対して様々な修正及
び付加を行うことができる。例えば、上述の実施形態は、特定の特徴に言及するものであ
るが、本発明の範囲はまた、異なる特徴の組み合わせを有する実施形態及び上述の特徴の
全てを含むわけではない実施形態を含む。
本発明の範囲から逸脱することなく、記載した例示的な実施形態に対して様々な修正及び付加を行うことができる。例えば、上述の実施形態は、特定の特徴に言及するものであるが、本発明の範囲はまた、異なる特徴の組み合わせを有する実施形態及び上述の特徴の全てを含むわけではない実施形態を含む。
[1]
高強度アルミニウム合金を形成する方法であって、
スカンジウムを含むアルミニウム材料を、前記アルミニウム材料全体に分散されるように、前記アルミニウム材料の溶体化温度まで加熱して、アルミニウム合金を形成することと、そのスカンジウム、
高強度アルミニウム合金が、少なくとも1時間、約300℃~約400℃の温度におかれた後に、少なくとも約40ksiの降伏強度を有するように、前記アルミニウム合金を等チャネル角押出で押出成形して、前記高強度アルミニウム合金を形成することと、を含む、方法。
[2]
スカンジウムが、約0.1重量%~約15.0重量%の重量パーセントで前記アルミニウム合金中に存在する、[1]に記載の方法。
[3]
スカンジウムが、約0.1重量%~約5.0重量%の重量パーセントで前記アルミニウム合金中に存在し、前記アルミニウム合金が、約0.1重量%~約5.0重量%の重量パーセントでジルコニウムを更に含む、[1]に記載の方法。
[4]
前記高強度アルミニウム合金を、前記スカンジウムの少なくとも一部分が前記高強度アルミニウム合金全体に分散質を形成するように、少なくとも1時間、約300℃~約400℃の温度で時効処理することを更に含む、[1]に記載の方法。
[5]
前記アルミニウム材料を加熱することが、スカンジウムと、酸化物、炭化物、ナノチューブ、ケイ化物、フラーレン、クロム、鉄、ハフニウム、マンガン、ニオブ、ニッケル、スカンジウム、チタン、バナジウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、タンタル、モリブデン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムからなる群の少なくとも1つの構成要素と、を含む、アルミニウム材料を加熱することを更に含む、[1]に記載の方法。
[6]
前記高強度アルミニウム合金が、前記高強度アルミニウム合金が少なくとも1時間、約300℃~約400℃の温度におかれた後に、直径が1.0ミクロンより小さい平均粒径を有する、[1]に記載の方法。
[7]
前記高強度アルミニウム合金が、少なくとも2時間、約300℃~約400℃の温度におかれた後に、少なくとも約40ksiの降伏強度を有する、[1]に記載の方法。
[8]
アルミニウム合金を含むバッキングプレートを備えるスパッタリングアセンブリであって、前記アルミニウム合金が、
主成分としてアルミニウムを有するアルミニウム材料で形成された金属マトリックスと、
前記金属マトリックス全体に分散されたスカンジウムを含有する分散質と、を含み、
前記スカンジウムが、前記アルミニウム合金の重量により、約0.1重量%~約15.0重量%の重量パーセントで存在し、前記アルミニウム合金が、前記アルミニウム合金が少なくとも1時間、約300℃~約400℃の温度におかれた後に、少なくとも約40ksiの降伏強度を有する、スパッタリングアセンブリ。
[9]
前記アルミニウム合金が、約0.1重量%~約5.0重量%の重量パーセントでスカンジウムを含み、前記アルミニウム合金が、約0.1重量%~約5.0重量%の重量パーセントでジルコニウムを更に含む、[8]に記載のスパッタリングアセンブリ。
[10]
前記アルミニウム合金が、前記アルミニウム合金全体に分散された第2の分散質を含み、前記第2の分散質が、第2の材料と組み合わされた前記アルミニウム材料で形成され、前記第2の材料が、酸化物、炭化物、ナノチューブ、ケイ化物、フラーレン、クロム、鉄、ハフニウム、マンガン、ニオブ、ニッケル、スカンジウム、チタン、バナジウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、タンタル、モリブデン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムからなる群の少なくとも1つの構成要素である、[8]に記載のスパッタリングアセンブリ。