(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163207
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】創傷治癒のための幹細胞
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20221018BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20221018BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20221018BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20221018BHJP
A61L 27/60 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P17/02
A61K9/10
A61L27/38
A61L27/38 110
A61L27/60
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022129977
(22)【出願日】2022-08-17
(62)【分割の表示】P 2020116882の分割
【原出願日】2016-02-12
(31)【優先権主張番号】62/281,334
(32)【優先日】2016-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】510012658
【氏名又は名称】エイビーティー ホールディング カンパニー
(71)【出願人】
【識別番号】599098493
【氏名又は名称】カトリーケ・ユニフェルシテイト・ルーヴァン
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】エルノウト ルトゥン
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ジェイ. ディーンズ
(57)【要約】
【課題】創傷治癒のための幹細胞の提供。
【解決手段】本発明は、本出願に記載される細胞を適用することによって、創傷を処置するための方法を提供する。一態様では、前記方法は、皮膚創傷のための処置を提供する。一般的な実施形態では、前記細胞は、送達ビヒクル中の官能化基材に結合されずに、創傷に送達される。本発明は、例えば、創傷治癒を促進するために十分な有効量および時間で細胞(I)を投与することによって、被験体における創傷治癒を促進する方法であって、該細胞(I)が官能化基材から送達されず、該細胞(I)が、oct4またはテロメラーゼを発現する非胚性非生殖細胞であり、形質転換されておらず、腫瘍原性ではなく、正常核型を有する、方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、本出願に記載される細胞を適用することによって創傷を処置するための方法を提供する。一態様では、前記方法は、皮膚創傷の処置を提供する。一般的な実施形態では、細胞は、送達ビヒクル中の官能化基材に結合されずに、創傷に送達される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
皮膚は、傷害および微生物からの身体防御の最前線であり、身体機能において重要な役割を果たす。外傷性傷害、火傷および慢性潰瘍は、皮膚障壁の主な免疫機能に影響を及ぼす重度の皮膚損傷を引き起こし、全身リスクを伴い得る。
【0003】
皮膚創傷の最適な治癒は、炎症、再上皮化、肉芽組織形成、血管新生、創傷収縮および細胞外マトリックス(ECM)再構築(これらは、外傷性傷害後の皮膚組織再生に寄与する)の過程を必要とする。
【0004】
創傷治癒は、傷害後に皮膚組織がそれ自身修復する複雑な過程である。正常皮膚では、表皮(表層)および真皮(深層)は、外部環境に対する保護障壁を形成する。障壁が破壊されると、生化学的事象の組織的なカスケードが迅速に発動して損傷を修復する。この過程は、予測可能な期に分けられる:血液凝固(止血)、炎症、新たな組織の成長(増殖)および組織のリモデリング(成熟)。時には、血液凝固は、それ自体が段階ではなく炎症段階の一部であるとも考えられる。
【0005】
・止血(血液凝固):傷害の最初の数分以内に、血液中の血小板が傷害部位に粘着し始める。これは血小板を活性化し、いくつかのことを引き起こす。それらは、凝固により適切な非晶形に変化し、それらは、化学シグナルを放出して凝固を促進する。これは、フィブリン(これは、メッシュを形成し、「接着剤」として作用して、血小板を互いに結合する)の活性化をもたらす。これは、血管内の破壊を塞いでさらなる出血を遅延/防止するように機能する血餅を作る。
【0006】
・炎症:この期では、細菌および他の病原体または残屑と共に、損傷細胞および死細胞が取り除かれる。これは、貪食によって白血球が残屑を「食べる」食作用の過程を介して起こる。血小板由来成長因子は創傷に放出され、増殖期に細胞の遊走および分裂を引き起こす。
【0007】
・増殖(新たな組織の成長):この期では、(リンパ)血管新生、コラーゲン沈着、肉芽組織形成、上皮化および創傷収縮が起こる。血管新生では、血管内皮細胞は新たな血管を形成するが、リンパ内皮細胞は新たなリンパ管の形成に寄与する。線維形成および肉芽組織形成では、線維芽細胞は成長し、コラーゲンおよびフィブロネクチンを排出することによって、新たな暫定細胞外マトリックス(ECM)を形成する。同時に、表皮の回復が起こり、上皮細胞が増殖し、創傷床の上を「徐々に動いて(crawl)」、新たな組織の被
覆を提供する。創傷収縮では、筋線維芽細胞は、創傷縁部を保持し、平滑筋細胞に似た機構を使用して収縮することによって、創傷のサイズを減少させる。この細胞の役割がほぼ完了すると、不要な細胞はアポトーシスを受ける。
【0008】
・成熟(リモデリング):成熟およびリモデリング中、裂線に沿ってコラーゲンが再編成され、プログラム細胞死またはアポトーシスによって、もはや不要な細胞が除去される。
【0009】
創傷治癒過程は複雑なだけではなく脆弱であり、非治癒性慢性創傷の形成をもたらす中断または不全の影響を受けやすい。非治癒性慢性創傷に寄与する因子は、糖尿病、静脈疾患または動脈疾患、感染および老年の代謝欠損である。
【0010】
創傷は、例えば、外傷、疾患、微生物の作用および異物への曝露を含む様々な原因に起因し得る。創傷治癒は、創傷閉鎖を達成するために重要なだけではなく、組織機能を回復させ、感染に対する障壁機能を提供するためにも重要である。創傷治癒の遅延は、被験体の罹患率の重大な寄与因子である。いくつかの状況では、創傷治癒過程は機能不全であり、慢性創傷の発症をもたらす。慢性創傷は、罹患者の身体的および精神的な健康、生産性、罹患率、死亡率および医療のコストに対して大きな影響を有する。
【0011】
慢性創傷は、3カ月後に治癒できない創傷として定義される。静脈うっ血性潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫性潰瘍および虚血性潰瘍は、最も一般的な慢性創傷である。静脈うっ血性潰瘍を治癒しようとする包帯剤選択肢(dressing option)の多くは、古典的なペースト圧迫包帯であるUnna’s bootのバリエーションである。これらの創傷は、頻繁な創面切除を必要とする大量の滲出物を有し得ることもある。この状況では、アルギナート、発泡体および他の吸収剤が使用され得る。慢性創傷は、急性創傷のものとはわずかに異なる機構によって治癒するので、成長因子を用いる実験が調査されている。Regranex(登録商標)およびProcuren(登録商標)(Curative Health Services,Inc.,Hauppauge,N.Y.)は、U.S.Food and Drug Administration(FDA)によって承認された唯一の医薬品である。
【0012】
創傷ケアは、浄化および再傷害または感染からの保護によって創傷治癒を刺激および加速する。各患者のニーズに応じて、それは、最も簡単な応急処置から看護専門領域全般、例えば創傷、オストミーならびに失禁看護および熱傷センター医療に及び得る。
【0013】
毎年、150万を超える皮膚創傷が火傷によるものであり、100万を超える皮膚創傷が皮膚がんによるものである。毎年、皮膚創傷は、約75,000件の患者症例および12,000件の死亡をもたらし、2005年には約33億ドルが創傷ケアに費やされた。
【0014】
体内では、皮膚創傷治癒は、暫定マトリックスの線維芽細胞分泌(通常は、傷害7日後に始まる過程)を伴う。しかしながら、現在利用可能な組織工学皮膚代用品は、(例えば、糖尿病、血管炎、栄養失調、感染による)慢性皮膚創傷、急性皮膚創傷(例えば、火傷、皮膚がん)、皮膚奇形などの場合にヒトで使用される脱細胞化ヒト皮膚、例えばAlloderm(登録商標)である。このような脱細胞化皮膚代用品は、付属器構造(例えば、皮脂腺、毛包、メラノサイト)と、表皮真皮接合部における乳頭間隆起パターンと、創傷治癒を促進する他の重要な生体成分とを欠く。さらに、現在利用可能な皮膚代替品の異種移植では、高い感染リスクが依然として存在する。
【0015】
瘢痕形成および感染がわずかである創傷治癒の成功のためには、真皮および表皮の両方の皮膚層の再生が重要であるので、「真の」皮膚代替品である新たなモデルが必要とされる。
【0016】
創傷治癒を助けるために最も一般に使用される従来のモダリティは、創傷包帯剤の使用を伴う。創傷治癒を助けるために、様々な異なるタイプの包帯剤が使用される。いくつかの処置では、創傷治癒を助けるために、ミネラルおよびビタミンの供給を利用している。しかしながら、これらのタイプの処置モダリティは、ほとんど成功例がない。従って、創傷治癒を促進するために使用されている現在の臨床アプローチは、機械的外傷からの創傷床の保護と、抗生物質、防腐剤および他の抗菌化合物による表面微生物負荷の制御と、いくつかのタイプの成長因子の使用とを含む。しかしながら、これらのアプローチはすべて、種々の不利な点を有する。
【0017】
創傷の治癒は、細胞の送達が治療潜在性を有する例である。創傷治癒過程の根底にある原則の理解の進歩にもかかわらず、創傷処置のための治療選択肢は依然として限られている。細胞送達戦略は、潜在的な治療手段を提供する。
【0018】
細胞の送達は治療潜在性を有するが、いくつかの理由により、細胞送達の使用は依然として限られている。例えば、細胞の送達方法、基材の選択、細胞の付着、細胞移入の効率および/または治療特性を保持する細胞の能力などの検討事項が治療転帰に重要である。
【0019】
皮膚欠損の再生および再構築を加速させるために、研究者らは、異なる供給源由来の幹細胞を使用して外傷性皮膚傷害を処置している(Yaojiongら、Stem Cells,25(10):2648-59,2007)。しかしながら、幹細胞療法には、幹細胞源が限られているなどの問題が依然として存在する。したがって、治療目的のために、新たな細胞および/または細胞送達手段を同定する継続的必要性がある。
【0020】
当技術分野におけるこれらの進歩にもかかわらず、当技術分野では、病変における自然な創傷治癒過程を回復(この修復は、組織リモデリングおよび回復を必要とする)するための新たなより優れた方法およびデバイスの必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Yaojiongら、Stem Cells,25(10):2648-59,2007
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、創傷を治癒するために、本明細書に記載される特定の細胞を創傷に適用することによって、特定の創傷を処置するための方法を提供する。
【0023】
送達経路としては、限定されないが、局所投与形態が挙げられる。局所投与形態の例としては、ゲル、軟膏、クリーム、ローション、発泡体、エマルジョン、懸濁液、スプレー、エアロゾル、溶液、液体、粉末、半固体、ゲル、ゼリー;固体、ペースト、チンキ剤、塗布薬、分解可能なキャリア、薬学的に許容され得るキャリア、流体、リザーバー、液体、ゲル、埋め込み、例えばPVAロードスポンジ(PVA-loaded sponge)、コラーゲンゲル溶液、膜調製物、例えば胎盤膜、羊膜、コラーゲンスポンジ、フィブリンまたは他のタンパク質接着剤、薬学的に許容され得るキャリア中の流体連結懸濁液、例えば食塩水、糖、例えばデキストロース、等張水性希釈剤溶液、粉末、皮膚代用品、例えばタンパク質、例えばフィブリンまたは膜調製物、脱細胞化組織調製物、例えば脱細胞化皮膚調製物、足場、例えばヒドロゲル、Matrigel、spongastan、フィブロネクチン、PLGA、コラーゲンゲル、フィブリンスプレーまたは他のタンパク質スプレーまたは膜スプレーによる送達が挙げられる。
【0024】
投与はまた、パッチ、包帯、ガーゼまたは包帯剤によるものであり得、包帯、パッチ、ガーゼまたは包帯剤は、細胞を付着させてそれらがそこから創傷に遊走する官能化基材、例えばアルキル基、例えばアルキルアミン基による化学的改変を含有しない。他の局所送達形態も企図される。
【0025】
送達はまた、局所送達に関して上記で言及される形態のいずれかによる皮内または皮下であり得る。
【0026】
細胞は、適切なキャリア、例えば局所投与に関して上記で言及されるもののいずれかで、局所注射によって創傷に送達され得る。
【0027】
細胞は、適切な場合には、上記送達ビヒクルのいずれか、例えばPVAロードスポンジで、創傷に埋め込まれ得る。
【0028】
特定の実施形態では、細胞は、包帯、ガーゼ、パッチまたは包帯剤で送達されない。より具体的な実施形態では、細胞は、これらのビヒクルのいずれでも送達されず、ビヒクルは、官能化基材を含む。より具体的な実施形態では、ビヒクルは、官能化基材(これは、例えばアルキル基、例えばアルキルアミン基による化学的改変である)を含まない。
【0029】
しかしながら、細胞は、アルキル基による化学的改変を含まない官能化基材によって送達され得る。したがって、細胞は、タンパク質、または組織に由来するかもしくは組織に見出されるものを模倣する他の生物学的材料、例えば限定されないが、羊膜を含む膜調製物で官能化された基材によって送達され得る。
【0030】
除外される具体的な実施形態では、細胞は、アルキル基、特にアルキルアミン基で化学的に改変されたデバイス(例えば、包帯、ガーゼ、包帯剤またはパッチ)によって送達されない。
【0031】
一態様では、細胞は創傷に送達されるが、細胞を含むパッチ、包帯または包帯剤で送達されない。具体的な実施形態では、細胞は、官能化基材に結合されない。
【0032】
本明細書に記載される細胞は、薬学的に許容され得るキャリアで創傷に投与され得る。薬学的に許容され得るキャリアとしては、限定されないが、水、グルコース、グリセロール、食塩水、エタノール、液体油、例えばパルミテート、ポリエチレングリコール、tweenおよびSDSなどが挙げられる。
【0033】
特定の実施形態では、医薬組成物は、静脈内投与、エアロゾル化投与、非経口投与、埋め込み、皮下注射、関節内、直腸、鼻腔内、眼内、膣または経皮の1つまたはそれよりも多くによる被験体への送達に適切である。
【0034】
特定の実施形態では、医薬組成物は、送達のための細胞の活性および/またはそれらの送達もしくは移入を増強、安定化または維持する他の化合物を含む。
【0035】
特定の実施形態では、医薬組成物を(例えば、関節腔に直接)非経口投与または腹腔内投与することが望ましい場合がある。例えば、溶液または懸濁液は、界面活性剤、例えばヒドロキシプロピルセルロースと適切に混合された水中で調製され得る。分散液もまた、油中のグリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中で調製され得る。
【0036】
特定の実施形態では、注射によって組成物を投与することが望ましい場合がある。注射用途に適切な形態としては、滅菌水溶液または分散液、および滅菌注射溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール)、それらの適切な混合物および植物油を含有する溶媒または分散媒であり得る。
【0037】
特定の実施形態では、組成物を静脈内投与することが望ましい場合がある。静脈内投与に適切な本明細書に記載される組成物を含有する組成物は、当業者によって製剤化され得る。
【0038】
特定の実施形態では、組成物は、例えば発泡体またはペーストの細胞懸濁液として注射によって、すなわち、ポリマーまたは他の分子、メッシュまたはマイクロキャリアからなる3D支持体によって投与され得る。
【0039】
一態様では、本発明は、皮膚の創傷を処置するための方法であって、幹細胞を含む組成物を皮膚創傷に投与することを含む方法を提供する。皮膚の創傷は、限定的または広範なものであり得る。それは表皮に限局され得るか、または真皮、脂肪層、筋肉およびさらに骨を含み得る。したがって、創傷は、皮膚組織および皮下組織に及び得る。
【0040】
創傷は、裂傷、擦傷、火傷、切開、穿刺、放射体(projectile)によって引き起こされる創傷、および表皮創傷、皮膚創傷、慢性創傷、急性創傷、外部創傷、内部創傷、先天性創傷、潰瘍、圧迫性潰瘍、糖尿病性潰瘍、トンネル創傷、外科手術中にまたは外科手術に付随して引き起こされる創傷、静脈性皮膚潰瘍および阻血性壊死からなる群より選択され得る。
【0041】
一実施形態では、創傷は、不十分な血液および/またはリンパ循環のために生じるクラスのものである。このクラス内では、種は、特に、この不十分な循環に起因する慢性創傷、例えば糖尿病性潰瘍、静脈性皮膚潰瘍および阻血性壊死を含む。特に、皮膚創傷は、本発明の方法によって処置され得る。しかしながら、これらの皮膚創傷は、特に慢性の場合には皮下層に影響を及ぼし得、実際には、より深い筋肉組織およびさらに骨組織を露出させ得ると理解される。これは、糖尿病性足潰瘍、静脈性下肢潰瘍および火傷による場合であり得る。
【0042】
「創傷」という用語は、例えば、開放創、創傷治癒の遅延または困難、および慢性創傷を含む組織傷害を含む。創傷の例としては、開放創および閉鎖創の両方が挙げられ得る。「創傷」という用語はまた、例えば、皮膚および皮下組織の傷害、ならびに異なる方法で開始された様々な特徴の傷害を含む。
【0043】
特定の実施形態では、創傷は、外部傷害を含む。特定の実施形態では、創傷は、開放創を含む。特定の実施形態では、創傷は、慢性創傷を含む。特定の実施形態では、創傷は、慢性創傷または潰瘍を含む。
【0044】
外部傷害の場合、典型的には、これらの創傷は、創傷の深さに応じて、4つのグレードの1つに分類される:i)グレードI創傷は、上皮に限定される;ii)グレードII創傷は、真皮に及ぶ;iii)グレードIII創傷は、皮下組織に及ぶ;およびiv)骨が露出したグレードIV(または全層創傷)創傷。
【0045】
本発明は、皮膚創傷治癒を促進する方法であって、有効量の幹細胞を患者に投与し、それにより、未処置対照と比べて創傷閉鎖の加速、迅速な再上皮化、(リンパ)血管新生の改善および組織リモデリングの改善の少なくとも1つをもたらすことを含む方法を対象とする。
【0046】
創傷治癒のポジティブな結果としては、限定されないが、上皮化、肉芽組織形成および血管新生の増強、創傷閉鎖の加速、肉芽組織の沈着、コラーゲン含量の増加による創傷破裂強度の増加、創傷引張強度の増加、瘢痕の減少ならびに創傷サイズの減少が挙げられる。
【0047】
創傷としては、皮膚創傷が挙げられる。それらとしては、皮下層および脂肪層、すなわち下層組織も含むすべての真皮層に到達する創傷も挙げられる。本発明は、慢性創傷、肥満または糖尿病に起因する創傷、非治癒性糖尿病性創傷、糖尿病性創傷全般、糖尿病性足潰瘍、火傷、神経障害性足潰瘍、糖尿病性神経障害性潰瘍および慢性皮膚潰瘍に適用される。創傷は、根本的な原因、例えば十分な血液循環またはリンパ循環の欠如によって、皮膚組織および皮下組織をもたらし得る。したがって、本発明の方法および本発明の組成物は、完全または部分的にかかわらず、再上皮化、すなわち創傷閉鎖を促進する。
【0048】
本発明のさらなる態様によれば、被験体における創傷治癒を促進する方法が提供される。前記方法は、被験体における創傷治癒を促進するために有効な量で、幹細胞を被験体に投与することを含む。一実施形態では、被験体は、ヒトである。しかしながら、本発明は、獣医学的被験体(例えば、イヌ、ネコ、ブタ、ウマなど)を含む。
【0049】
出血および凝固、急性炎症、細胞遊走、増殖、分化、血管新生、再上皮化、ならびに細胞外マトリックスの合成およびリモデリングを含む正常創傷治癒の3つの期がある。これらの事象はすべて、3つの重複する期(具体的には、炎症性、増殖性およびリモデリング)で起こる。本出願における細胞は、これらの期の1つまたはそれよりも多くにおいて使用され得る。それらは、使用される必要はないが、これら3つの期すべてにおいて使用され得る。
【0050】
慢性創傷は、3つの正常な治癒段階を介して進行することができないものである。これは、典型的な時間内に修復されない組織傷害をもたらす。これらは、限定されないが、糖尿病、圧迫、血管機能不全、火傷および血管炎を含む様々な基礎障害に起因し得る(Borueら、Am J Pathol(2004)165:1767-1772)。本出願における細胞は、これらの段階の1つまたはそれよりも多くにおいて使用され得る。
【0051】
幹細胞は、動物における創傷治癒を促進するために有効な量で、動物に投与される。動物は哺乳動物であり得、哺乳動物は、ヒトおよび非ヒト霊長類を含む霊長類であり得る。一般に、幹細胞は、細胞約1×105個/kg~細胞約1×107個/kg、好ましくは細胞約1×106個/kg~細胞約5×106個/kgの量で投与される。具体的な実施形態では、細胞2~4×107個/kgが投与される。投与すべき幹細胞の正確な量は、患者の年齢、体重および性別、ならびに処置される創傷の程度および重症度を含む様々な要因に依存する。
【0052】
幹細胞は、許容され得る医薬キャリアと併せて投与され得る。幹細胞は、全身投与され得る。幹細胞は、幹細胞を含有する流体またはリザーバー、例えばPBS、緩衝塩、細胞培地、PlasmaLyteで創傷に直接投与され得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、細胞は、さらなる因子と共に送達される。これらとしては、限定されないが、デフェンシン、N-Gal、IL-1RA、血管新生因子、例えばVEGF、bFGF、PDGF、上皮細胞刺激タンパク質(KGFおよびEGFを含む)ならびに抗瘢痕タンパク質TGFβ3、IFNα2およびHGFを含む抗炎症因子および抗菌因子の1つまたはそれよりも多くが挙げられる。
【0054】
本発明が対象とする細胞は、多能性マーカー、例えばoct4を発現し得る。それらはまた、長期にわたる複製能力に関連するマーカー、例えばテロメラーゼを発現し得る。多能性の他の特徴は、1つを超える胚葉、例えば外胚葉の、内胚葉の、および中胚葉の胚性胚葉(embryonic germ layers)の2または3つの細胞型に分化する能力を含み得る。このような細胞は、培養中に不死化もしくは形質転換されていてもよいし、または不死化もしくは形質転換されていなくてもよい。細胞は、形質転換されずに高度に増殖され得、正常核型も維持し得る。例えば、一実施形態では、非胚性幹非生殖細胞(non-embryonic stem, non-germ cell)は、培養中に少なくとも10~40回、例えば50回、60回またはそれを超える細胞倍加を受け得、細胞は形質転換されておらず、正常核型を有する。細胞は、内胚葉性胚系統、外胚葉性胚系統および中胚葉性胚系統の2つのそれぞれの少なくとも1つの細胞型に分化し得、3つすべてへの分化を含み得る。さらに、細胞は、非腫瘍原性であり得、例えば、奇形腫を生成し得ない。細胞が形質転換されているかまたは腫瘍原性であり、それらを注入に使用することが望まれる場合、このような細胞は、腫瘍への細胞増殖を予防する処理によって、インビボで腫瘍を形成し得ないように無能化され得る。このような処理は、当技術分野で周知である。
【0055】
細胞としては、限定されないが、ナンバリングされた以下の実施形態が挙げられる。
【0056】
1.単離され増殖された非胚性幹非生殖細胞であって、培養中に少なくとも10~40回の細胞倍加を受けており、oct4を発現し、形質転換されておらず、正常核型を有する、非胚性幹非生殖細胞。
【0057】
2.テロメラーゼ、rex-1、rox-1またはsox-2の1つまたはそれよりも多くをさらに発現する、上記1の非胚性幹非生殖細胞。
【0058】
3.内胚葉性胚系統、外胚葉性胚系統および中胚葉性胚系統の少なくとも2つのうちの少なくとも1つの細胞型に分化し得る、上記1の非胚性幹非生殖細胞。
【0059】
4.テロメラーゼ、rex-1、rox-1またはsox-2の1つまたはそれよりも多くをさらに発現する、上記3の非胚性幹非生殖細胞。
【0060】
5.内胚葉性胚系統、外胚葉性胚系統および中胚葉性胚系統のそれぞれの少なくとも1つの細胞型に分化し得る、上記3の非胚性幹非生殖細胞。
【0061】
6.テロメラーゼ、rex-1、rox-1またはsox-2の1つまたはそれよりも多くをさらに発現する、上記5の非胚性幹非生殖細胞。
【0062】
7.非胚性非生殖組織の培養によって得られる単離され増殖された非胚性幹非生殖細胞であって、培養中に少なくとも40回の細胞倍加を受けており、形質転換されておらず、正常核型を有する、非胚性幹非生殖細胞。
【0063】
8.oct4、テロメラーゼ、rex-1、rox-1またはsox-2の1つまたはそれよりも多くを発現する、上記7の非胚性幹非生殖細胞。
【0064】
9.内胚葉性胚系統、外胚葉性胚系統および中胚葉性胚系統の少なくとも2つのうちの少なくとも1つの細胞型に分化し得る、上記7の非胚性幹非生殖細胞。
【0065】
10.oct4、テロメラーゼ、rex-1、rox-1またはsox-2の1つまたはそれよりも多くを発現する、上記9の非胚性幹非生殖細胞。
【0066】
11.内胚葉性胚系統、外胚葉性胚系統および中胚葉性胚系統のそれぞれの少なくとも1つの細胞型に分化し得る、上記9の非胚性幹非生殖細胞。
【0067】
12.oct4、テロメラーゼ、rex-1、rox-1またはsox-2の1つまたはそれよりも多くを発現する、上記11の非胚性幹非生殖細胞。
【0068】
13.単離され増殖された非胚性幹非生殖細胞であって、培養中に少なくとも10~40回の細胞倍加を受けており、テロメラーゼを発現し、形質転換されておらず、正常核型を有する、非胚性幹非生殖細胞。
【0069】
14.oct4、rex-1、rox-1またはsox-2の1つまたはそれよりも多くをさらに発現する、上記13の非胚性幹非生殖細胞。
【0070】
15.内胚葉性胚系統、外胚葉性胚系統および中胚葉性胚系統の少なくとも2つのうちの少なくとも1つの細胞型に分化し得る、上記13の非胚性幹非生殖細胞。
【0071】
16.oct4、rex-1、rox-1またはsox-2の1つまたはそれよりも多くをさらに発現する、上記15の非胚性幹非生殖細胞。
【0072】
17.内胚葉性胚系統、外胚葉性胚系統および中胚葉性胚系統のそれぞれの少なくとも1つの細胞型に分化し得る、上記15の非胚性幹非生殖細胞。
【0073】
18.oct4、rex-1、rox-1またはsox-2の1つまたはそれよりも多くをさらに発現する、上記17の非胚性幹非生殖細胞。
【0074】
19.内胚葉性胚系統、外胚葉性胚系統および中胚葉性胚系統の少なくとも2つのうちの少なくとも1つの細胞型に分化し得る単離され増殖された非胚性幹非生殖細胞であって、培養中に少なくとも10~40回の細胞倍加を受けている、非胚性幹非生殖細胞。
【0075】
20.oct4、テロメラーゼ、rex-1、rox-1またはsox-2の1つまたはそれよりも多くを発現する、上記19の非胚性幹非生殖細胞。
【0076】
21.内胚葉性胚系統、外胚葉性胚系統および中胚葉性胚系統のそれぞれの少なくとも1つの細胞型に分化し得る、上記19の非胚性幹非生殖細胞。
【0077】
22.oct4、テロメラーゼ、rex-1、rox-1またはsox-2の1つまたはそれよりも多くを発現する、上記21の非胚性幹非生殖細胞。
【0078】
上記細胞は、限定されないが、骨髄、臍帯血、臍帯マトリックス、末梢血、胎盤、胎盤血、筋肉、脳、腎臓および他の固形臓器を含む任意の所望の組織源から調製され得る。細胞はまた、排泄液、例えば尿および月経血に由来し得る。
【0079】
一実施形態では、細胞は、ヒト組織に由来する。
【0080】
具体的な実施形態では、創傷は、上皮損傷を含有する。
【0081】
特定の実施形態では、細胞それ自体が送達される必要はない。治療効果は、細胞によって分泌される因子によって達成され得る。例えば、細胞が培養される場合、有益な因子が細胞培養培地に分泌され得る。したがって、培地それ自体が、本出願に開示される様々な実施形態において使用され得る。あるいは、馴化培地の抽出物が使用され得、抽出物は有益な因子を含有し、それにより、細胞は、本出願に記載される創傷治癒において治療結果を提供する。したがって、細胞が送達され得る場合には、馴化培地またはその抽出物が代用または追加され得る。
本発明の実施形態の例として、以下の項目が挙げられる。
(項目1)
創傷治癒を促進するために十分な有効量および時間で細胞(I)を投与することによって、被験体における創傷治癒を促進する方法であって、該細胞(I)が官能化基材から送達されず、該細胞(I)が、oct4またはテロメラーゼを発現する非胚性非生殖細胞であり、形質転換されておらず、腫瘍原性ではなく、正常核型を有する、方法。
(項目2)
前記細胞(I)が、rex1、rox1またはsox2の1つまたはそれよりも多くをさらに発現する、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記細胞(I)が、内胚葉性胚系統、外胚葉性胚系統および中胚葉性胚系統の少なくとも2つのうちの少なくとも1つの細胞型に分化し得る、項目1または2のいずれかに記載の方法。
(項目4)
前記細胞(I)が、内胚葉性胚系統、外胚葉性胚系統および中胚葉性胚系統のそれぞれの少なくとも1つの細胞型に分化し得る、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記創傷が、皮膚および下層組織の創傷である、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記創傷が潰瘍である、項目1または2のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記潰瘍が、足、手、下肢または腕に見られる皮膚潰瘍および静脈性下肢潰瘍からなる群より選択される、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記皮膚潰瘍が、糖尿病および鎌状赤血球貧血からなる群より選択される疾患によって引き起こされる、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記細胞(I)が遺伝子操作されていない、項目1または2のいずれかに記載の方法。
(項目10)
前記細胞(I)が骨髄に由来する、項目1または2のいずれかに記載の方法。
(項目11)
前記細胞(I)がヒトに由来する、項目1または2のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記被験体がヒトである、項目1または2のいずれかに記載の方法。
(項目13)
前記創傷が、末梢血またはリンパ系の不十分な循環によって引き起こされる、項目6に記載の方法。
(項目14)
前記細胞(I)を前記創傷に局所投与する、項目1または2のいずれかに記載の方法。
(項目15)
前記細胞(I)を皮下送達する、項目1または2のいずれかに記載の方法。
(項目16)
注射によって前記細胞(I)を前記創傷に投与する、項目1または2のいずれかに記載の方法。
(項目17)
液体細胞懸濁液で前記細胞(I)を投与する、項目1または2のいずれかに記載の方法。
(項目18)
リザーバーを使用して前記細胞(I)を前記創傷に投与する、項目1または2のいずれかに記載の方法。
(項目19)
前記細胞(I)が同種のものである、項目1または2のいずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【
図1】
図1Aおよび1B;未分化mMAPCにおけるユニバーサルマウスRNAに対する(A)、または未分化hMAPCにおけるユニバーサルヒトRNAに対する(0日目(d0)、白色)、分化の14日目(d14、灰色)および21日目(d21、黒色)における%として示される一般(右)およびリンパ特異的(左)内皮細胞(EC)マーカーの発現を表す図。データは、5~6回の独立した分化の平均±SEMを表す。*クラスカル・ワリス検定とダン事後検定によって、0日目に対してP<0.05。
図1C;14日目のmMAPCにおける,アイソタイプ対照(破線)に対するLYVE1タンパク質発現(実線)を示すFACSヒストグラム(n=3の代表)。APC:アロフィコシアニン。
図1D;未分化hMAPC(0日目、白色)に対する、9日目の、VEGF-A(淡灰色)、VEGF-C(暗灰色)もしくは組み合わせ(黒色)の存在下のhMAPCの増加倍率として示されるLYVE1発現を表す図。データは、n=3の平均±SEMを表す。*一元配置ANOVAとテューキー事後検定によって、0日目に対してP<0.05。
図1E~G;LEC培地(E;「L」)またはmMAPC由来馴化培地(「mCM」;F)に曝露したヒトリンパEC(hLEC)スフェロイドの代表的な画像および対応する定量(G;データは、n=4の平均±SEMを表す;*マン・ホイットニーU検定によって、「L」に対してP<0.05)。
図1H;LEC培地に対する%として表される、LEC増殖に対するマウス(「mCM」)またはヒト(「hCM」)MAPC-CMの効果を表す図。データは、n=3~6の平均±SEMを表す。*マン・ホイットニーU検定によって、「LEC」に対してP<0.05。
図1I~M;非馴化mMAPC培地(NCM;J)、mMAPC-CM(K)、非馴化hMAPC培地(NCM;L)またはhMAPC-CM(M)の存在下で(ライト・ギムザ染色によって明らかにされた)トランスウェルの膜を越えて遊走したLECの代表的な画像および対応する定量(I;データは、n=4の平均±SEMを表す;*マン・ホイットニーU検定によって、対応するNCM条件に対してP<0.05)。スケールバー:50μm(E、F);100μm(J~M)。
【0083】
【
図2】
図2A;PBS(白丸)またはmMAPC(黒丸)で処置したマウスにおける創傷幅。データは、平均±SEMを表す。n=5;*反復測定ANOVAおよびフィッシャー事後検定によって、PBSに対してP<0.05。
図2B;4日前に(4d earlier)eGFP
+mMAPCを移植したマウスの(矢印によって示される)創傷領域の明視野/蛍光画像の重ね合わせ。mMAPCは、創傷床につながる(矢頭によって示される)血管に近いことに留意する。
図2CおよびD;PBS(C)またはmMAPC(D)で処置したマウス由来の10日齢創傷のCD31染色(褐色)横断切片(cross-section)の代表的な写真。
図2E~G;PBS(E)またはmMAPC(F)で処置したマウス由来の10日齢創傷のLYVE1染色(赤色)横断切片の代表的な写真および対応する定量(G;データは、平均±SEMを表す。*マン・ホイットニーU検定によって、PBSに対してP<0.05;n=4~5)。
図2H;10日前にeGFP
+mMAPCを移植したマウスの横断切片の共焦点画像は、eGFPとLYVE1(赤色)との偶発的な共局在(矢頭)を示す。
図2IおよびJ;5日前にPBS(I)またはhMAPC(J)で処置し、パンサイトケラチンについて染色した創傷の横断切片の代表的な画像(PCK;褐色;矢頭は創傷境界を示し、水平線は、表皮によって覆われた距離を示す)。
図2KおよびL;10日前にPBS(K)またはhMAPC(L)で処置した創傷のCD31染色(褐色)横断切片の代表的な画像。
図2M~O;PBS(M)またはhMAPC(N)で処置したマウス由来の10日齢創傷のLYVE1染色(赤色)横断切片の代表的な写真および対応する定量(O;データは、平均±SEMを表す。*対応のないスチューデントt検定によって、PBSに対してP<0.05;n=6~8)。
図2P;10日前にhMAPCを移植したマウスの創傷横断切片の画像は、hビメンチン(緑色)とLYVE1(赤色)との偶発的な共局在(矢頭)を示す。ヘマトキシリンおよびDAPIを使用して、それぞれC、D、I~LおよびE、F、M、Nの核を明らかにした。スケールバー:10μm(H、P);100μm(E、F);150μm(K、L);400μm(C、D、I、J、M、N);2mm(B)。
【0084】
【
図3】
図3A;皮膚弁モデルを示す画像。R1/R2は、パネルB~Dの画像が示されている領域を示す。矢印/「X」は、それぞれリンパ管造影またはMAPC/PBSの蛍光標識デキストランの注射スポットを示し、矢頭は、皮膚弁への血液供給が保持される領域を示す。
図3B~D;2週間前にPBS(B)、mMAPC(C)またはhMAPC(D)を注射したマウスの領域R1(左;および対応する挿入図の拡大画像(i;中央))およびR2(右)のデキストラン(FITC標識(B、D)またはローダミン-B標識(C))の注射15分後の明視野/蛍光画像の代表的な重ね合わせ写真。矢頭は、充満した輸入リンパ管を示す。LN:リンパ節。R1/R2の破線は、それぞれ開放皮膚の境界または弁の境界を示す。スケールバー:100μm(B;i1、C;i2+R2、D;i3);250μm(B;R1+R2、C;R1、D;R1+R2);および500μm(A)。
【0085】
【
図4】
図4A~4D;PBS(A)、mMAPC(「mM」;B)またはhMAPC(「hM」;C)で処置したマウス由来のFlt4染色(褐色)皮膚創傷横断切片(デキストラン注射位置の周辺)の代表的な写真および対応する定量(D;データは、平均±SEMを表す。*クラスカル・ワリスとダン事後検定によって、PBSに対してP<0.05;n=6)。
図4E~4H;PBS(E)、mMAPC(「mM」;F)またはhMAPC(「hM」;G)で処置したマウス由来の皮膚創傷横断切片(デキストラン注射位置の周辺)の代表的な写真は、細胞処置マウスにおける機能的(デキストラン灌流)リンパ管(緑色または赤色)、および対応する定量(H;データは、平均±SEMを表す。*クラスカル・ワリスとダン事後検定によって、PBSに対してP<0.05;n=5~10)を示す。Eの挿入図(i1)は、Prox1(赤色)について染色した対応する領域を示す。Eの拡散蛍光シグナルは、リンパ管によって取り込まれなかったFITC-デキストランを表すことに留意する。
図4I;2週間前にeGFP
+mMAPCを移植したマウスの創傷領域の明視野/蛍光画像の重ね合わせ(注射スポットは矢頭によって示される)。
図4J;4週間前にeGFP
+mMAPC(矢印)を移植したマウスの創傷領域の緑色/赤色蛍光画像の重ね合わせ。移植細胞付近におけるローダミン-デキストラン充満リンパ管(赤色;矢頭)に留意する。
図4K;創傷周辺の領域の横断切片は、機能的(ローダミン-デキストラン充満、赤色;内腔はアスタリスクによって示される)リンパ管に隣接する移植eGFP
+mMAPCを示す。
図4L;2週間前にeGFP
+mMAPCを移植した創傷領域の高倍率は、偶発的に、これらの細胞が機能的(ローダミン-デキストラン充満、赤色)リンパ管の内膜(矢頭)の一部になることを示す。ヘマトキシリンおよびDAPIを使用して、それぞれA~CおよびE~G、Kの核を明らかにした。スケールバー:25μm(L);50μm(E~G);100μm(A~C、J、K);500μm(I)。
【0086】
【
図5】
図5A;16週間(16w)前にeGFP
+リンパ節(LN;矢頭)を移植し、hMAPCを含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスの右腋窩部の明視野/蛍光画像の重ね合わせ。固化Matrigel(登録商標)で覆われた領域および開放皮膚境界は、それぞれ破線および白色実線によって示されている。
図5B;LN移植4週間後または16週間後にPBSまたはhMAPCを含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスにおける(MRIによって決定され、AU単位で右/左の比として示される)右上肢における浮腫の程度を表す図。*対応のないスチューデントt検定によって、4週(w4)に対してP<0.05(n=4~9)。
図5CおよびD;LN移植16週間後に記録された、PBS(C)またはhMAPC(D)を含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスの前腕部の代表的なT
2強調MR画像。高倍率領域(矢印)は、浮腫による流体の蓄積を示す。L:左;R:右。
図5EおよびF;16週間前にeGFP
+LN(矢頭)を移植し、PBS(E)またはhMAPC(F)を含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスの右腋窩部の明視野/蛍光画像の重ね合わせ。挿入図(i1)は、Fの囲み枠領域を拡大したものである。hMAPC処置マウスにおけるローダミン標識レクチン(赤色)の有意に改善された排出は、注射15分後に記録されたことに留意する(注射スポットは矢印によって示される)。開放皮膚の境界は、白色の線によって示される。
図5G;16週間前にhMAPCを含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスに移植したeGFP
+LN(緑色)を拡大した明視野/蛍光画像の重ね合わせは、LNへのローダミン標識レクチン(赤色)の排出を示す。矢頭は、輸入リンパ管を示す。スケールバー:200μm(G);3mm(A、E、F)。
【0087】
【
図6】
図6A~6C;16週間前にPBS(A)またはhMAPC(「hM」;B)を含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスの移植リンパ節(LN)に至る血管ネットワークの明視野画像および対応する定量(C;データは、平均±SEMを表す;*マン・ホイットニーU検定によって、PBSに対してP<0.05;n=6)。
図6D;16週間前にhMAPCを含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスに移植したeGFP
+LNの明視野/蛍光画像の重ね合わせは、多数の血管によってLNが洗浄されることを示す。
図6EおよびF;8週間前にhMAPCを含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスに移植したDsRed
+LNを拡大した明視野/蛍光画像の重ね合わせは、広範に分岐するLN血管ネットワークを示す。挿入図(i1)は、Fの囲み枠領域に対応する。
図6G;16週間前にMatrigel(登録商標)+hMAPCで処置したマウスにおけるProx1/eGFP染色切片のIF画像の重ね合わせは、分岐の一部がリンパ管(Prox1
+、矢頭)であることを示す。挿入図(i2)は、Gの囲み枠領域に対応する。
図6H~J;LN移植8週間後におけるPBS(H)またはhMAPC処置(「hM」;I)マウスの縫合糸周辺領域のLYVE1染色(赤色)横断切片および対応する定量(J;データは、平均±SEMを表す。*スチューデントt検定によって、PBSに対してP<0.05;n=5~8)。
図6K~M;移植eGFP
+LN周辺領域の蛍光画像(Kにおいて破線によって囲まれる;Prox1について染色した隣接切片(緑色)はLに示されている;Prox1/平滑筋αアクチン(αSMA、赤色は矢頭によって示されている;Mにおいて二重染色は、K、Lの囲み枠領域の拡大したものである;および
図6Nは、LYVE1について染色した隣接横断切片(赤色)上の同じ領域を表す)は、16週間前にhMAPCを含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスにおけるProx1
+αSMA
+LYVE1
-流入領域リンパ集合管を示す。L~Nのアスタリスクはリンパ(これは、チラミドベースの増幅に曝露されると人工的に蛍光を発する)を示す。A、B、E~Lの白色の矢印は、移植LNを固定するために使用した縫合糸を示す。スケールバー:20μm(M、N);50μm(G、K、L);100μm(D);150μm(F;i1);200μm(E、H、I);500μm(F);1mm(A、B)。
【0088】
【
図7】
図7A;創傷10日後までPBS(n=5:白丸)またはmMAPC(n=5;黒丸)で処置したマウスにおける創傷長(mm単位)を表す図。データは、平均±SEMを表す。*反復測定ANOVAとフィッシャー事後検定によって、PBSに対してP<0.05。
図7BおよびC;創傷10日後にPBS(B)またはマウス(m)MAPC(C)で処置したマウスの背部の線状創傷の代表的な明視野写真。
図7DおよびE;PBS(D)またはmMAPC(E)で処置したマウス由来の10日齢創傷の横断切片をH&Eで染色した代表的な写真。mMAPC処置マウスでは、創傷間隙(wound gap)(その縁は矢頭によって示される)が有意に小さいことに留意する。
図7F;創傷横断切片の赤色および緑色蛍光画像の重ね合わせ写真は、CD45(緑色)とLYVE1(赤色)との非共局在を示す。
図7G;eGFP標識hMAPCを播種した24時間後の創傷床の明視野/蛍光画像の重ね合わせ写真は、創傷領域全体でeGFP+hMAPCの分布が均一であることを示す。
図7H;10日前にhMAPCを移植したマウスのビメンチン染色(緑色)創傷横断切片の画像は、創傷床全体に均一に分布したhMAPCの大きなパッチの持続性を示す。真皮-表皮接合部は、破線によって示されている。Hでは、核対比染色としてDAPIを使用した。スケールバー:20μm(F);100μm(H);300μm(D、E);1mm(G);および2mm(B、C)。
【0089】
【
図8】
図8A~D;PBS(A)、mMAPC(「mM」;B)またはhMAPC(「hM」;C)で処置したマウス由来の(
図3Aの「X」によって示される移植部位周辺の)皮膚創傷の横断切片をCD31(褐色)について染色した代表的な写真および対応する定量(D;データは、平均±SEMを表す。*クラスカル・ワリス検定とダン事後検定によって、PBSに対してP<0.05;n=5)。
図8E~8H;PBS(E)、mMAPC(「mM」;F)またはhMAPC(「hM」;G)で処置したマウス由来の(
図3Aの矢印によって示されるデキストラン注射部位周辺の)皮膚創傷の横断切片をLYVE1(E、Gの赤色;Fの緑色)について染色した代表的な写真および対応する定量(H;データは、平均±SEMを表す。*クラスカル・ワリス検定とダン事後検定によって、PBSに対してP<0.05;n=6)。
図8I;2週間前にhMAPCを移植したマウスの(
図3Aの「X」によって示される移植部位周辺の)創傷領域の緑色(FITC標識デキストラン)、赤色(Prox1)および遠赤色(平滑筋細胞-α-アクチン;αSMA)蛍光顕微鏡画像の重ね合わせ写真は、2つの小さな機能的Prox1
+/αSMA
-リンパ毛細管(白色破線によって囲まれる)に加えて、機能的αSMA被覆(矢頭)Prox1
+リンパ(プレ)集合管を示す。筋膜の自己蛍光筋細胞は、赤色破線によって囲まれる。スケールバー:10μm(I);および100μm(A~C、E~G)。
【0090】
【
図9】
図9AおよびB;LN移植16週間後に記録された、PBS(A)またはhMAPC(B)を含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスの前腕部の
図5C、Dに示されているT
2強調MR画像に対応するT
2マップ。L:左;R:右。
図9C;8週間前にDsRed
+LNを移植し、hMAPCを含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスの右腋窩部の緑色および赤色蛍光顕微鏡像の重ね合わせ写真。矢頭によって示される、FITC標識レクチン(緑色)が充満した輸入リンパ管に留意する。
図9DおよびE;16週間前にeGFP
+LNを移植し、PBS(D)またはhMAPC(E)を含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスの右腋窩部の明視野および緑色蛍光画像の重ね合わせ写真は、hMAPC処置マウスの移植LNを洗浄するより精巧な血管ネットワークを示す。
図9F;16週間前にeGFP
+LNを移植し、hMAPCで処置したマウスの右腋窩部の横断切片の赤色および緑色蛍光画像の重ね合わせ写真は、移植LN周囲の持続するビメンチン染色(赤色)hMAPCを示す。
図9G;4週間前にeGFP
+LNを移植し、hMAPCを含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスの右腋窩部の明視野および緑色蛍光画像の重ね合わせ写真は、外側に向かって分岐する(リンパ)脈管ネットワークを示す。
図9H;16週間前にeGFP
+LNを移植し、hMAPCを含有するMatrigel(登録商標)で処置したマウスの右腋窩部のeGFP染色横断切片の重ね合わせ写真は、外側に向かって分岐する(リンパ)脈管ネットワークを示す。C~Eでは、移植LNを固定する永久縫合糸は、矢印によって示されている。F~Hでは、LN本体は、白色破線によって囲まれている。F、Hでは、DAPIを使用して核を明らかにした。スケールバー:25μm(F);100μm(H);150μm(G);および250μm(C~E)。
【発明を実施するための形態】
【0091】
発明の詳細な説明
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコールおよび試薬などに限定されず、従って、変化し得ると理解すべきである。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としたものであり、開示される本発明の範囲(これは、特許請求の範囲によってのみ規定される)を限定することを意図しない。
【0092】
セクションの見出しは、本明細書では編成目的のためにのみ使用され、記載される主題を限定すると決して解釈されるべきでない。
【0093】
本出願の方法および技術は、一般に、特に指示がない限り、当技術分野で周知の従来の方法にしたがって、ならびに本明細書を通して引用および議論される様々な一般的およびより的確な参考文献に記載されているように実施される。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)およびAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992)およびHarlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990)を参照のこと。
定義
【0094】
「a」または「an」は、本明細書では、1つまたは1つを超える;少なくとも1つを意味する。複数形が本明細書で使用される場合、それは、一般に単数形を含む。
【0095】
本出願で使用される場合、「包帯」という用語は「包帯剤」または「パッチ」という用語と同義である。なぜなら、それらの用語は、細胞を付着させた官能化基材を指すからである。これらのデバイスは、細胞を含む包帯、細胞を含むパッチ、および細胞を含む包帯剤と称されている。これらの実施形態では、基材に付着させた細胞は、創傷に操作可能に近接して適用される場合、パッチ、包帯剤または包帯を離れて創傷に遊走する。いくつかの場合では、これらの包帯/パッチは、プラズマポリマーのコーティングから構成され得る。前述のように、これは、細胞を付着させた官能化基材から構成され得る。
【0096】
「臨床的に関連する」数の細胞は、臨床応答(すなわち、被験体における望ましくない状態の予防、軽減、改善など)をもたらすため十分な細胞数を指す。特定の実施形態は、マスター細胞バンクを作り出すために十分な細胞数に関連する。
【0097】
「共投与」は、2つまたはそれを超える薬剤(agent)の同時投与または逐次投与を含
む、互いに共同して、一緒に、協調して投与することを意味する。
【0098】
「含む(comprising)」は、限定されないが、その他の含まれ得るものに対するいかなる制限または排除も伴わずに指示対象を必ず含むことを意味する。例えば、「xおよびyを含む組成物」は、他の成分が組成物中に存在し得るとしても、xおよびyを含有する任意の組成物を包含する。同様に、「xのステップを含む方法」は、どれ程多くの他のステップが存在し得るとしても、およびそれらと比較してxがどれ程単純または複雑であるとしても、xが方法の唯一のステップであるか、またはそれが複数のステップの1つに過ぎないかにかかわらず、xを行う任意の方法を包含する。「構成される」および「含む」という語源の単語を使用する同様の語句は、本明細書では「含む」の同義語として使用され、同じ意味を有する。
【0099】
「構成される」は、「含む」の同義語である(上記を参照のこと)。
【0100】
「馴化細胞培養培地」は、当技術分野で周知の用語であり、細胞を成長させた培地を指す。本明細書では、これは、本出願に記載される結果のいずれかを達成するために有効な因子を分泌するために十分な時間にわたって細胞を成長させることを意味する。
【0101】
馴化細胞培養培地は、因子を培地中に分泌するように細胞を培養した培地を指す。本発明の目的のために、培地がこの効果を有するように、有効量のこのような因子を産生するために十分な数の細胞分裂によって、細胞を成長させ得る。細胞は、限定されないが、遠心分離、ろ過、免疫枯渇(例えば、タグ付抗体および磁気カラムによる)およびFACSソーティングを含む当技術分野で公知の方法のいずれかによって、培地から取り出される。
【0102】
「有効量」は、一般に、所望の局所効果または全身効果を提供する量を意味する。例えば、有効量は、有益なまたは所望の臨床結果を達成するために十分な量である。有効量は、単回投与で一度に全てが提供され得るか、または複数回投与で有効量を提供する分割量で提供され得る。有効量と考えられる量の正確な決定は、被験体のサイズ、年齢、傷害および/または処置される疾患もしくは傷害、ならびに傷害が発生してからのまたは疾患が開始してからの時間量を含む各被験体に固有の要因に基づき得る。当業者であれば、当技術分野でルーチンなこれらの検討事項に基づいて、所定の被験体のための有効量を決定することができる。本明細書で使用される場合、「有効用量」は、「有効量」と同じものを意味する。
【0103】
「有効経路」は、一般に、所望の区画、系または場所への薬剤の送達を提供する経路を意味する。例えば、有効経路は、薬剤を投与して、有益なまたは所望の臨床結果を達成するために十分な量の薬剤を所望の作用部位に提供し得るものである。
【0104】
「含む(includes)」という用語の使用は、限定することを意図するものではない。
【0105】
「増加させる」または「増加させること」は、既存の存在がない場合には完全に誘導すること、またはその程度を増加させることを意味する。
【0106】
「単離された」という用語は、インビボで1つまたは複数の細胞に結合している1つもしくはそれを超える細胞または1つもしくはそれを超える細胞成分に結合していない1つまたは複数の細胞を指す。「富化集団」は、インビボまたは初代培養における1つまたはそれを超える他の細胞型と比べた、所望の細胞の数の相対的な増加を意味する。
【0107】
しかしながら、本明細書で使用される場合、「単離された」という用語は、幹細胞のみの存在を示さない。むしろ、「単離された」という用語は、細胞がそれらの天然組織環境から取り出され、正常な組織環境と比較して高い濃度で存在することを示す。したがって、「単離された」細胞集団は、幹細胞に加えて、細胞型をさらに含み得、さらなる組織成分を含み得る。これはまた、例えば、細胞倍加に関して表され得る。細胞は、インビボまたはその元の組織環境(例えば、骨髄、末梢血、脂肪組織など)におけるその元の数と比較して富化されるように、インビトロまたはエクスビボで10回、20回、30回、40回またはそれを超える倍加を受け得る。
【0108】
「MAPC」は、「複能性成体前駆細胞」の頭字語である。それは、胚性幹細胞または生殖細胞ではないがこれらのいくつかの特徴を有する細胞を指す。MAPCは、多くの代替記述(これらはそれぞれ、細胞が発見されたときに、新規性をそれらの細胞に付与した)で特性評価され得る。したがって、それらは、それらの記述の1つまたはそれよりも多くによって特性評価され得る。第1に、それらは、培養において、形質転換(腫瘍原性)されることなく、かつ正常核型を有して、長期にわたる複製能力を有する。第2に、それらは、分化により、1つを超える胚葉、例えば2つまたは3つすべての胚葉(すなわち、内胚葉、中胚葉および外胚葉)の子孫の細胞を生じさせ得る。第3に、それらは、胚性幹細胞または生殖細胞ではないが、MAPCがOct3/4(別名Oct3AまたはOct4)、rex-1およびrox-1の1つまたはそれよりも多くを発現し得るように、それらは、これらの原始細胞型のマーカーを発現し得る。それらはまた、sox-2およびSSEA-4の1つまたはそれよりも多くを発現し得る。第4に、幹細胞と同様に、それらは自己再生し得る(すなわち、形質転換されずに、長期にわたる複製能力を有する)。これは、これらの細胞がテロメラーゼを発現する(すなわち、テロメラーゼ活性を有する)ことを意味する。したがって、「MAPC」と命名された細胞型は、その新規特性のいくつかのによって細胞を説明する代替的な基本的特徴を特徴とし得る。
【0109】
MAPCにおける「成体」という用語は、非限定的である。それは、非胚性体細胞を指す。MAPCは核型的に正常であり、インビボで奇形腫または他の腫瘍を形成しない。この頭字語は、骨髄から単離された多能性細胞を説明するために、米国特許第7,015,037号で最初に使用された。しかしながら、多能性マーカーおよび/または分化潜在能を有する細胞がその後発見されており、本発明の目的では、最初に「MAPC」と命名された細胞と同等であり得る。MAPCタイプの細胞の説明は、上記発明の概要に提供されている。
【0110】
MAPCは、MSCよりも原始の前駆細胞集団を表す(Verfaillie,C.M., Trends Cell Biol 12:502-8(2002)、Jahagirdar,B.Nら、Exp Hematol,29:543-56(2001);Reyes,M.and C.M.Verfaillie,Ann N Y Acad Sci,938:231-233(2001);Jiang,Yら、Exp Hematol,30896-904(2002);およびJiang,Yら、Nature,418:41-9.(2002)。
【0111】
「前駆細胞(progenitor cell)」は、幹細胞の分化中に産生される細胞であって、それらの最終分化子孫の特徴のすべてではないがいくつかを有する細胞である。所定の前駆細胞、例えば「心臓前駆細胞」は系統にコミットされるが、特異的なまたは最終分化細胞型にはコミットされない。「MAPC」という頭字語で使用される場合の「前駆」という用語は、これらの細胞を特定の系統に限定しない。前駆細胞は、前駆細胞よりも高度に分化した子孫細胞を形成し得る。
【0112】
選択は、組織中の細胞からであり得る。例えば、この場合、細胞は、所望の組織から単離され、培養において増殖され、所望の特徴について選択され、選択細胞はさらに増殖される。
【0113】
「自己再生」は、それから複製娘幹細胞が生じた細胞と同一の分化潜在能を有する複製娘幹細胞を産生する能力を指す。この文脈で使用される類似の用語は、「増殖」である。
【0114】
「無血清培地」は、血清が存在しない培地、または存在する場合には、血清の成分が細胞の成長もしくは生存能力に対して効果を有しないレベルで血清が存在する(すなわち、実際には不要であり、例えば、残存量または微量である)培地を指す。
【0115】
「幹細胞」は、自己再生(すなわち、同じ分化潜在能を有する子孫)を行い得る細胞であって、分化潜在能がより制限された子孫細胞を産生し得る細胞を意味する。
【0116】
「被験体」は、脊椎動物、例えば哺乳動物、例えばヒトを意味する。哺乳動物としては、限定されないが、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシおよびブタが挙げられる。
【0117】
本明細書で使用される場合、「創傷」という用語は、急性外傷または病理学的根本原因によって引き起こされ得る組織(例えば、皮膚)の完全性の破損、例えば本出願に記載されている皮膚創傷および皮下創傷を意味する。
【0118】
創傷は、限定されないが、自己免疫疾患、移植器官の拒絶、火傷、切傷、裂傷および潰瘍形成(皮膚潰瘍形成および糖尿病性潰瘍形成を含む)を含む原因に由来し得る。
【0119】
火傷、切傷、裂傷および潰瘍形成(限定されないが、皮膚潰瘍形成および糖尿病性潰瘍形成を含む)によって引き起こされる上皮損傷を修復するために、幹細胞は、動物に投与され得る。
【0120】
創傷の例としては、開放創および閉鎖創の両方が挙げられ得る。特定の実施形態では、創傷は、外部創傷を含む。特定の実施形態では、創傷は、開放創を含む。特定の実施形態では、創傷は、慢性創傷を含む。特定の実施形態では、創傷は、慢性創傷または潰瘍を含む。
【0121】
特定の実施形態では、組成物は、被験体への局所適用、局所投与または局所送達に適切である。局所製剤は、本明細書に記載されるとおりである。他の細胞送達形態が企図される。
【0122】
局所投与の用量および頻度は、当業者によって決定され得る。
【0123】
局所投与のための形態の例としては、ゲル、軟膏、クリーム、ローション、発泡体、エマルジョン、懸濁液、スプレー、エアロゾル、溶液、液体、粉末、半固体、ゲル、ゼリー、座薬;固体、軟膏、ペースト、チンキ剤、塗布薬、パッチによる送達、または包帯、ガーゼもしくは包帯剤からの放出が挙げられる。他の局所送達形態が企図される。
【0124】
局所放出のための製品に基材を組み込むための方法は当技術分野で公知であり、例えば、Boateng J.Sら、(2008)“Wound healing dressings and drug delivery systems:a review”J.Pharm Sci.97(8):2892-2923および“Delivery System Handbook for Personal Care and Cosmetic Products:Technology”(2005)by Meyer Rosen,published William Andrew Inc,Norwich New Yorkに記載されている。
【0125】
特定の実施形態では、組成物は、静脈内投与、エアロゾル化投与、非経口投与、埋め込み、皮下注射、関節内、直腸、鼻腔内、眼内、膣または経皮の1つまたはそれよりも多くによる被験体への送達に適切である。
【0126】
特定の実施形態では、組成物は、送達のための細胞の活性および/または細胞の送達もしくは移入を増強、安定化または維持する他の化合物を含む。
【0127】
特定の実施形態では、注射によって組成物を投与することが望ましい場合がある。注射用途に適切な形態としては、滅菌水溶液または分散液、および滅菌注射溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール)、それらの適切な混合物および植物油を含有する溶媒または分散媒であり得る。
【0128】
特定の実施形態では、組成物を静脈内投与することが望ましい場合がある。静脈内投与に適切な本明細書に記載される組成物を含有する組成物は、当業者によって製剤化され得る。
【0129】
特定の実施形態では、被験体は、ヒトまたは動物被験体である。特定の実施形態では、被験体は、ヒト被験体である。
【0130】
特定の実施形態では、被験体は、哺乳動物被験体、家畜動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ)、家庭動物(例えば、イヌまたはネコ)および他のタイプの動物、例えばサル、ウサギ、マウス、実験動物、鳥類および魚類である。他のタイプの動物が企図される。本開示の獣医学的適用が企図される。動物モデルとして上記動物のいずれかを使用することも企図される。
【0131】
本開示は、創傷を治癒または処置する方法であって、本明細書に記載される製品または組成物を使用して、細胞を創傷に送達することを含む方法を提供する。
MAPC
【0132】
ヒトMAPCは、米国特許第7,015,037号に記載されている。MAPCは、他の哺乳動物において同定された。マウスMAPCもまた、例えば、米国特許第7,015,037号に記載されている。ラットMAPCもまた、米国特許第7,838,289号に記載されている。これらの参考文献は、MAPC、それらの表現型および培養の記載について、参照により組み込まれる。
MAPCの単離および成長
【0133】
MAPCの単離方法は、当技術分野で公知である。例えば、米国特許第7,015,037号を参照し、これらの方法は、MAPCの特性評価(表現型)と一緒に参照により本明細書に組み込まれる。MAPCは、限定されないが、骨髄、胎盤、臍帯および臍帯血、筋肉、脳、肝臓、脊髄、血液または皮膚を含む複数の供給源から単離され得る。したがって、骨髄吸引物、脳または肝臓生検および他の臓器を取得し、これらの細胞において発現される(または発現されない)遺伝子に依拠して、当業者に利用可能なポジティブ選択技術またはネガティブ選択技術を使用して(例えば、上記で参照されている出願(これらは、参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているものなどの機能的または形態学的なアッセイによって)、前記細胞を単離することが可能である。
【0134】
齧歯類MAPCはまた、Breyerら、Experimental Hematology,34:1596-1601(2006)およびSubramanianら、Cellular Programming and Reprogramming:Methods and Protocols;S.Ding(ed.),Methods in Molecular Biology,636:55-78(2010)(これらは、これらの方法について参照により組み込まれる)に記載されている改良方法によって得られた。ヒトMAPCは、Roobrouckら、Stem Cells 29:871-882(2011)(これは、これらの方法について参照により組み込まれる)に記載されている改良方法によって得られた。
米国特許第7,015,037号に記載されているヒト骨髄由来のMAPC
【0135】
MAPCは、共通の白血球抗原CD45または赤芽球特異的グリコホリン-A(Gly-A)を発現しない。細胞の混合集団をFicoll Hypaque分離に供した。次いで、抗CD45抗体および抗Gly-A抗体を使用するネガティブ選択に細胞を供し、CD45+およびGly-A+細胞の集団を枯渇させ、次いで、残った約0.1%の骨髄単核細胞を回収した。また、細胞をフィブロネクチンコーティングウェルにプレーティングし、以下に記載されているように2~4週間培養して、CD45+およびGly-A+細胞を枯渇させ得る。接着性骨髄細胞の培養では、多くの接着性間質細胞は、約30回の細胞倍加で複製老化を受け、より均一な細胞集団が増殖し続けて、長いテロメアを維持する。
【0136】
あるいは、ポジティブ選択は、細胞特異的マーカーの組み合わせによって細胞を単離するために使用され得る。ポジティブ選択技術およびネガティブ選択技術は両方とも当業者に利用可能であり、ネガティブ選択目的に適切な多数のモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体も当技術分野で利用可能であり(例えば、Leukocyte Typing V,Schlossmanら、Eds.(1995)Oxford University Pressを参照のこと)、多くの供給業者から市販されている。
【0137】
細胞集団の混合物から哺乳動物細胞を分離するための技術はまた、Schwartzら米国特許第5,759,793号(磁気分離)、Baschら、1983(イムノアフィニティークロマトグラフィー)およびWysocki and Sato,1978(蛍光活性化細胞選別)に記載されている。
【0138】
細胞は、低血清または無血清培養培地中で培養され得る。MAPCを培養するために使用される無血清培地は、米国特許第7,015,037号に記載されている。一般に使用される成長因子としては、限定されないが、血小板由来成長因子および上皮成長因子が挙げられる。例えば、米国特許第7,169,610号;米国特許第7,109,032号;米国特許第7,037,721号;米国特許第6,617,161号;米国特許第6,617,159号;米国特許第6,372,210号;米国特許第6,224,860号;米国特許第6,037,174号;米国特許第5,908,782号;米国特許第5,766,951号;米国特許第5,397,706号;および米国特許第4,657,866号(これらはすべて、無血清培地における細胞の成長の教示について、参照により組み込まれる)を参照のこと。
さらなる培養方法
【0139】
さらなる実験では、MAPCを播種する密度は、細胞約100個/cm2または細胞約150個/cm2~細胞約10,000個/cm2(細胞約200個/cm2~細胞約1500個/cm2~細胞約2000個/cm2を含む)で変動し得る。密度は、種間で変動し得る。加えて、最適な密度は、培養条件および細胞源に応じて変動し得る。所定の一連の培養条件のための最適な播種密度を決定することは当業者の技術範囲内である。
【0140】
また、培養におけるMAPCの単離、成長および分化の間の任意の時点において、約1~5%、特に3~5%を含む約10%未満の有効な大気中酸素濃度が使用され得る。
【0141】
細胞は、様々な血清濃度、例えば約2~20%下で培養され得る。ウシ胎児血清が使用され得る。より高い血清は、より低い酸素圧と組み合わせて使用され得る(例えば、約15~20%)。培養皿への接着前に、細胞が選択される必要はない。例えば、Ficoll勾配後に、細胞は、例えば、250,000~500,000個/cm2で直接プレーティングされ得る。接着コロニーを採取し、場合によりプールして増殖させ得る。
【0142】
一実施形態では、高血清(約15~20%)および低酸素(約3~5%)条件が細胞培養に使用される。例えば、コロニー由来の接着性細胞は、18%血清および3%酸素(PDGFおよびEGFを含む)中で、細胞約1700~2300個/cm2の密度でプレーティングおよび継代され得る。
【0143】
MAPCに特異的な実施形態では、サプリメントは、1つを超える胚系統、例えば3つすべての系統の細胞型に分化する能力をMAPCが保持することを可能にする細胞因子または成分である。これは、未分化状態の特異的なマーカー、例えばOct3/4(別名Oct4またはOct3A)および/または高発現能力のマーカー、例えばテロメラーゼの発現によって示され得る。
【0144】
以下に列挙されているすべての成分については、米国特許第7,015,037号を参照のこと(これは、これらの成分の教示について、参照により組み込まれる)。
【0145】
幹細胞は、多くの場合、固体支持体へのそれらの付着を促すさらなる因子、例えばフィブロネクチンを必要とする。本発明の一実施形態は、フィブロネクチンを利用する。例えば、Ohashiら、Nature Medicine,13:880-885(2007);Matsumotoら、J Bioscience and Bioengineering,105:350-354(2008);Kirouacら、Cell Stem Cell,3:369-381(2008);Chuaら、Biomaterials,26:2537-2547(2005);Drobinskayaら、Stem Cells,26:2245-2256(2008);Dvir-Ginzbergら、FASEB J,22:1440-1449(2008);Turnerら、J Biomed Mater Res Part B:Appl Biomater,82B:156-168(2007);およびMiyazawaら、Journal of Gastroenterology and Hepatology,22:1959-1964(2007))を参照のこと。
【0146】
培養が完了したら、細胞をそのまま使用し得るか、または例えば20%~40%FCSおよび10%DMSOを含むDMEMを使用して凍結ストックとして凍結および保存し得る。一実施形態では、20%FCSが使用される。培養細胞のための凍結ストックを調製するための他の方法も当業者に利用可能である。
【0147】
本出願の目的のために、さらなる培養方法および他の培養方法はまた、上記培地成分および条件に関して、バイオリアクター方法に適用される。一例として、例示的な実施形態では、酸素濃度は5%であり、血清は約19%であり、EGFおよびPDGFは両方とも培地に追加される。
医薬製剤
【0148】
米国特許第7,015,037号は、医薬製剤の教示について、参照により組み込まれる。特定の実施形態では、細胞集団は、送達に適合された組成物であって、送達に適切な(すなわち、生理学的に適合性の)組成物内に存在する。
【0149】
いくつかの実施形態では、被験体への投与のための細胞の純度(または馴化培地)は、約100%(実質的に均一)である。他の実施形態では、それは、95%~100%である。いくつかの実施形態では、それは、85%~95%である。特に、他の細胞との混合物の場合、割合は、約10%~15%、15%~20%、20%~25%、25%~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、60%~70%、70%~80%、80%~90%または90%~95%であり得る。または、単離/純度は、細胞が、例えば10~20回、20~30回、30~40回、40~50回またはそれを超える細胞倍加を受けた細胞倍加に関して表され得る。
【0150】
所定の用途のための細胞を投与するための製剤の選択は、様々な要因に依存する。これらのうち顕著なものは、被験体の種、処置される状態の性質、被験体におけるその状況および分布、投与される他の治療および薬剤の性質、最適な投与経路、前記経路を介した生存性、投与レジメン、ならびに当業者に明らかな他の要因である。例えば、適切なキャリアおよび他の添加剤の選択は、正確な投与経路および特定の剤形の性質に依存する。
【0151】
細胞/培地の水性懸濁液の最終製剤は、典型的には、懸濁液のイオン強度を等張性(すなわち、約0.1~0.2)および生理学的pH(すなわち、約pH6.8~7.5)に調整することを伴う。最終製剤はまた、典型的には、流体潤滑剤を含有する。
【0152】
いくつかの実施形態では、細胞/培地は、単位注射用剤形、例えば溶液、懸濁液またはエマルジョンで製剤化される。細胞/培地の注射に適切な医薬製剤は、典型的には、滅菌水溶液および分散液である。注射用製剤のためのキャリアは、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒であり得る。
【0153】
当業者であれば、本発明の方法において投与すべき組成物中の細胞ならびに任意選択の添加剤、ビヒクルおよび/またはキャリアの量を容易に決定し得る。典型的には、(細胞に加えて)任意の添加剤は、溶液、例えばリン酸緩衝食塩水中で0.001~50wt%の量で存在する。有効成分は、マイクログラムからミリグラムほど、例えば約0.0001~約5wt%、好ましくは約0.0001~約1wt%、最も好ましくは約0.0001~約0.05wt%または約0.001~約20wt%、好ましくは約0.01~約10wt%、最も好ましくは約0.05~約5wt%で存在する。
【実施例0154】
リンパ浮腫におけるMAPC支援リンパ管成長
MAPCは、リンパ脈管形成潜在能およびリンパ脈管新生潜在能を有する
本発明者らは、MAPCが、LECを生じさせる固有能力を有するかを調査した。最初に、本発明者らは、VEGF-A曝露により、MAPCが一般的なECマーカーの発現を獲得することを確認した(
図1A、B)。内皮分化の2週間(2w)でMAPCでは、Prox1(リンパ管分化のマスタースイッチ)が有意に誘導され、その発現レベルは、1週間後まで依然として安定していた(
図1A、B)。Prox1誘導はまた、強制的なProx1発現によってアップレギュレートされることが公知のさらなるリンパ系遺伝子(すなわち、PdpnおよびItg9a)(36)の発現をトリガーした可能性がある。VEGF-Aに曝露した一定割合(21±6%)のMAPCはまた、LYVE1を発現した(mMAPCについては、タンパク質レベルで示されている;
図1C)。特に、リンパ脈管新生GF VEGF-Cの存在下では、hMAPCにおけるリンパ系マーカー遺伝子発現の誘導はさらに改善されなかった(
図1DにおいてLYVE1について示されている;VEGF-A、VEGF-Cまたは組み合わせに曝露すると、0日目に対するPROX1誘導倍率も同程度であった:それぞれ26±10、26±14および26±11;n=4)。COUP-TFII(ECのリンパ能力(lymphatic competence)を共同決定する
転写因子)(36、37)は、分化過程を通して比較的高い一定レベルで発現していた(示さず)。したがって、MAPCは、LEC分化プログラムを開始させる固有能力を有する。
【0155】
MAPCはVEGF-A(これは、LECに対するMSCの栄養効果に関与する)を分泌することが公知であるので、本発明者らは、MAPCが、LECとのクロストークによってリンパ脈管新生に対して効果を有し得ると推論した。72時間のMAPC上清は、LEC発芽、増殖および遊走を有意に刺激した(
図1E~M)。したがって、MAPCは、直接的効果と間接的効果との組み合わせによって、リンパ管の形成を支援し得る。
MAPCは、創傷治癒中の生理学的リンパ脈管新生に寄与する
【0156】
創傷治癒は、新たな血液およびリンパ管の成長を必要とする(Maruyama,Kら、2007.Am J Pathol(2007)170:1178-1191)。C57Bl/6マウスにおける線状背部皮膚切開の直後に強化(e)GFPを遍在的に発現するマウス由来のmMAPCの移植は、PBS注射と比較して、創傷閉鎖の有意な加速(
図2Aおよび
図7A)およびより小さい瘢痕の発生(
図7B~E)をもたらした。すべてのmMAPC注射創傷は完全に再上皮化したが、PBS処置創傷の60%は、10日において新表皮で部分的に覆われていたに過ぎなかった。インビボ蛍光イメージングにより、注射4日後において、eGFP
+mMAPCは、創傷床に向かって成長する血管に近接して位置していたことが明らかになった(
図2B)。したがって、mMAPC移植は、創傷中心におけるCD31
+血管のデノボ成長を2倍増強した(CD31
+血管の数/面積(mm
2):mMAPC処置マウスでは76±4であるのに対して、PBS注射マウスでは36±16;n=5、マン・ホイットニーU検定によって、P<0.05;
図2C,D)。以前の肢虚血研究(Aranguren,X.Lら、J Clin Invest(2008)118:505-514)と一致して、この創傷治癒モデルでは、CD31
+ECへの直接的な寄与はわずかであった。mMAPCはまた、LYVE1
+リンパ毛細管成長を有意に3倍増加させ、分化LECに寄与することもあった(
図2E~H)。LYVE1
+細胞の大部分は、CD45(汎白血球マーカー)と共局在しなかったので、マクロファージ中間体(これは、移植腎臓におけるリンパ管に寄与することが以前に示唆された(Kerjaschki,Dら、Nat Med(2006)12:230-234))ではなく、リンパ内皮細胞(LEC)であった(
図7F)。
【0157】
無胸腺ヌードマウスにおける円形創傷に適用したhMAPCは、治癒を有意に促進した。hMAPCを移植してからの創傷領域のライブイメージングおよび横断切片により、創傷床におけるそれらの均一な分布が示された(
図7G、H)。hMAPCは、上皮被覆を加速させた(5日(5d)の%被覆:hMAPC処置では46±5であるのに対して、ビヒクル処置創傷では7±2;n=6、マン・ホイットニーU検定によって、P<0.05;
図2I,J)。10日目(d10)において、hMAPC処置マウスでは、すべての創傷が完全に再上皮化したのに対して、PBS処置マウスでは46%のみであった。hMAPC移植は、創傷血管化を約2倍改善した(5日の創傷境界および10日の創傷全体における%CD31
+領域:hMAPC処置創傷では11±1および13±1であるのに対して、PBS注射創傷では6±1および6±1;n=6~8、スチューデントt検定によって、P<0.05;
図2K、L)。LYVE1
+断片面積の3倍の増加によって証明されるように、hMAPCは、リンパ脈管新生を有意に増強した(
図2M~O)。Prox1および平滑筋α-アクチン(αSMA)の二重免疫蛍光(IF)染色により、この短期間創傷モデルでは、10日の肉芽組織におけるリンパ管の大部分(97±2%)は、αSMA被覆を欠く毛細管であったことが明らかになった。やはり、hMAPC由来ビメンチンシグナルとLYVE1染色との共局在によって示されるように、hMAPCのインサイチュLEC分化は、偶発的にのみ起こった(
図2P)。したがって、MAPCは、宿主LECに対する栄養効果を介して主に間接的に毛細管リンパ脈管新生(capillary lymphangiogenesis)を増強することによって、創傷治癒を部分的に有意に加速させた。
MAPCは、二次リンパ浮腫モデルにおけるリンパ管を再生する
【0158】
二次リンパ浮腫におけるリンパ流を回復させるMAPCの潜在能を試験するために、腹部における全層皮膚切開によって、腋窩リンパ節(LN)へのリンパ排液を断絶した(
図3A)(Saaristo,Aら、FASEB J(2004)18:1707-1709)。皮膚切開2週間後、創傷境界を越える蛍光色素の欠如によって示されるように、これは、PBS処置動物の大部分(7/10)において、正常なリンパ排液を無効化した(
図3B;表1)。創傷境界周辺のMAPC移植は、この境界を越えるリンパ排液をほぼ完全に(それぞれmMAPC処置マウスまたはhMAPC処置マウスについて、5/6例および6/6例)回復させた(
図3C、D;表1)。1/10匹のPBS注射マウスにおいてのみ、腋窩LNへの排液が得られたが、3/6匹のmMAPC注射マウスおよび6/6匹のhMAPC注射マウスが、2週間後にLN排液を示した。PBSまたはmMAPCを注射したマウスの第2のセットでは、5/5匹のMAPC処置マウスにおいて蛍光色素が創傷境界を越え、4/5匹においてLN排液が回復したが、皮膚切開4週間後において、PBS注射マウスではいずれも、創傷境界を越えるおよび腋窩LNへの排液は回復しなかった(表1)。移植部位周辺の皮膚創傷領域の組織学的分析により、CD31
+血管の1.8倍の拡張に加えて(
図8A~D)、MAPC注射マウスは、皮膚切開2週間後において、創傷境界におけるFlt4
+(VEGFR3
+)およびLYVE1
+断片面積の約2~3倍の増加を有していた(それぞれ
図4A~D+8E~H)ことが明らかになった。2週の切開部周辺において、蛍光標識デキストランが充満した横断切片当たりの機能的リンパ管の平均数は、MAPC注射によって有意に増加した(
図4E~H)。特に、いくつかのmMAPCは2~4週まで存続し、流入領域リンパ管付近に滞留し、それらの内膜の一部になることもあった(
図4I~L)。創傷治癒モデルと比較して、ここでは、深く(低密度に)αSMAコーティングされたProx1
+(プレ)集合管(collector vessel)がより頻繁に観察されたが(
図8I)、皮膚リンパの大部分(67±5%)は依然として、αSMAコーティングを欠いていた。それにもかかわらず、hMAPC移植は、排出(プレ)集合管(collector)の数を有意に3倍増加させた(表1)。したがって、MAPCは、創傷境界を越えて既存のリンパネットワークのギャップを埋めることによって、二次リンパ浮腫におけるリンパ機能不全を回復させた。
MAPCは、移植リンパ節を宿主リンパネットワークに再接続する
【0159】
これまで、前記結果は、MAPC移植がリンパ脈管新生を増加させ、主にリンパ毛細管成長を増強することによって、リンパ排液を回復させることを示している。しかしながら、二次リンパ浮腫の根本的な問題は、ほとんどの場合、損傷LNと、リンパ毛細管が通常接続するリンパ集合管とに関連する。したがって、適切な治療法は、リンパ毛細管の拡張だけではなく、リンパ集合管の回復を意味するものでなければならない。この領域に移植されたLNの排液が、リンパ集合管の回復および遠位リンパネットワークへのそれらの再接続に決定的に依存するように、腋窩LNおよびそれらの周囲のリンパ(集合管)ネットワークを外科的に切除するストリンジェントなモデルを適用した(Tammela,Tら、Nat Med(2007)13:1458-1466)。hMAPCの潜在能を試験するために、右腋窩腔においてdsRedまたはeGFPを遍在的に発現するマウス由来の移植LN周辺のMatrigel(登録商標)にそれらを適用した(
図5A)。前脚へのカラシ油(炎症剤)のチャレンジによる手術4週間後および16週間後に磁気共鳴イメージング(MRI)によって測定した間質液の蓄積から明らかなように、LNのみの移植(およびPBSを含有するMatrigel(登録商標)によってそれを被覆)は、右上肢における炎症誘発浮腫を解消することができなかった(
図5B、C+9A)。16週において、移植LN周辺へのhMAPCの適用により、液体の蓄積は顕著に目立たなくなったが、これは、前脚から腋窩部へのリンパ排液の機能的回復を示唆している(
図5B、D+9B)。実際、リンパ管造影により、hMAPC処置マウスでは、リンパ液の排液が有意に改善され、それぞれ移植8週間後および16週間後のhMAPC処置マウスの約35%および50~60%では、注射した蛍光色素が移植LNに達したことが明らかになり、この結果は、2種のhMAPCクローンでは再現されたが、PBS処置マウスでは全く再現されなかった(
図5E~G+9C;表2)。これにより、hMAPC移植は、移植LNを遠位リンパネットワークに機能的に再接続することができたことが示唆された。特に、hMAPCと一緒に埋め込んだLNはすべて存続したが、16週のPBS注射マウスの背部では、それらの半分を見出すことができず、これは、LN生存に対するhMAPC移植のポジティブな効果を示唆している(表2)。また、hMAPC処置マウスとは異なり、PBS処置マウスでは、移植LNの平均サイズが減少した(表2)。移植LNに至る皮膚領域の検査により、hMAPC処置マウスでは、血管ネットワークが2倍超精巧であり(
図6A~C)、PBS注射マウスと比較して、LNの極周囲の血管が有意に多いことが明らかになった(
図6D+9D、E)。一部のhMAPCは16週まで存続し、移植LNの付近で見出された(
図9F)。hMAPC処置マウスにおける移植LNはすべて、4週以降それらの内部(リンパ)脈管ネットワークの(外側に向かって)分岐するという徴候を示したが、PBS処置マウスでは、これは決して観察されなかった(
図6E~G+9G、H;表2)。8週において、hMAPC移植は、PBS処置と比較して、LN周囲の領域におけるLYVE1
+リンパ管の有意な4倍の拡張をもたらした(
図6H~J)。最後に、hMAPCの有益な効果がリンパ集合管の機能的再接続に関連するかを試験するために、移植LN周辺の領域から採取した横断切片に対してαSMA/Prox1 IF染色を実施したところ、リンパが充満したProx1
+αSMA
+集合管を見出した(
図6K~M)。LYVE1の陰性染色によって、集合管の同一性を確認した(
図6N)。まとめると、hMAPCは、LNの生存および外側に向かう分岐形成を促進することによって、ならびに集合管を介して移植LNを内因性血管ネットワークに再接続することによって、LN移植後のリンパ排液を回復させた。
方法
MAPCの誘導および分化
【0160】
遍在的なeGFP発現を有する成体C57Bl/6マウス(C57Bl/6-Tg-eGFP)のBMから、mMAPCクローンを誘導した。記載されているように(Aranguren,X.Lら、2008.J Clin Invest(2008)118:505-514.)、低O2(5%)および低血清(2%)条件下で、mMAPCを誘導および維持した。以前に記載されている誘導および培養方法にしたがって、hMAPCクローンを樹立した(Roobrouck, V.D.ら、 Stem Cells (2011) 29:871-882)。マイコプラズマ汚染について、細胞培養物をルーチンに試験した。記載されているように(Roobrouck,V.Dら、Stem Cells(2011)29:871-882)、組換(r)hVEGF-A165またはrhVEGF-C(R&D Systems)への曝露によって、内皮分化を実施した。上記MAPC誘導について記載されている参考文献は、これらの方法について、参照により組み込まれる。
【0161】
University Hospitals Leuvenの医学倫理委員会のガイドラインにしたがってインフォームドコンセントを得た後、整形外科手術を受けている子供(5~15歳)の骨格筋断片(大腿四頭筋)から単離された骨片(大腿骨)およびhMabからヒトMAPCを単離した。骨片をフラッシングし、2%Serum Supreme(Lonza BioWhittaker,Basel,Switzerland www.Lonza.com)およびヒト血小板由来成長因子BB(PDGF-BB)(R&D Systems,Minneapolis,MN,www.mdsystems.com)およびヒトEGF(Sigma-Aldrich)(両方とも10ng/ml)と一緒に50nMデキサメタゾン、10-4M L-アスコルビン酸、1×セレン-インスリン-トランスフェリン(ITS)、0.5×リノール酸-ウシ血清アルブミン(すべてSigma-Aldrich製)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco,Invitrogen)を補充した60%ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)低グルコース(Gibco,Invitrogen,Carlsbad,CA,www.invitrogen.com)、40%MCDB-201(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,www.sigmaaldrich.com)からなる培地に細胞0.5×106個/cm2で全細胞画分をプレーティングすることによって、hMAPCを生成した。5.5%CO2加湿インキュベーター中、低酸素条件(5%O2)下で、ヒトMAPC培養物を細胞400個/cm2の密度で維持し、2~3日ごとに継代した。継代2および継代12の間で、1ウェル当たり5個の細胞を96ウェルまたは48ウェルプレートにプレーティングすることによって、クローン集団を得た。
【0162】
Reyes,Mら、J Clin Invest(2002)109:337-346に以前に記載されているように、細胞の単離および培養も実施することができる。健常ドナーから、骨髄を得る。Ficoll-Paque密度勾配遠心分離によって得た骨髄単核細胞から、マイクロ磁気ビーズによってCD45+およびグリコホリンA+細胞を枯渇させる。溶出した細胞は、CD45およびglyAの両方について99.5%陰性である。細胞を細胞5×103個/200μlの濃度で96ウェルプレートにプレーティングする。上記と同じ培地中で、これを行う。細胞が約50%コンフルエントになったら、それらをトリプシン処理し、2×103~8×103個/cm2の濃度でより大きなプレートに移し、さらに増殖させる。Reyesら、Blood 98:2615-2625に以前に記載されているように、細胞の単離および培養を実施することもできる。glyA-およびCD45-細胞である細胞を収集後、5~10×103個/mlの濃度でその細胞を96ウェルプレートにプレーティングすることができる以外は、方法は、前記のものと本質的に同じである。これらの条件すべてにおいて、培地は同じである。これらの参考文献は、細胞の単離および培養のための方法の報告について、参照により組み込まれる。
【0163】
遍在的なGFP発現を有するC57BL/6マウスのBMから、マウス細胞を誘導した。低O2(5%)および低血清(2%)条件(Ulloa-Montoya,Fら、Genome Biol.(2007)8:R163.)下で、mMAPCを誘導および維持した。Breyerら、Experimental Hematology 34:1596-1601(2006)にしたがって、mMAPCを誘導することもできる。これらの参考文献は、細胞を誘導する方法の提供について、参照により組み込まれる。
RNA単離、cDNA調製、qRT-PCRおよびフローサイトメトリー
【0164】
Trizol(登録商標)試薬(Invitrogen)またはRLT溶解緩衝液(Qiagen)を使用して、細胞溶解物から全RNAを抽出した。Superscript III Reverse Transcriptase(Invitrogen)を使用してmRNAを逆転写し、記載されているように(Aranguren,X.Lら、J Cell Sci(2013)126:1165-1175)、cDNAを、SYBR-GreenベースのqRT-PCRに関して、ABI PRISM 7700 cycler(PerkinElmer/Applied Biosystems)で、40回の増幅ラウンドを受けさせた。ハウスキーピング遺伝子としてGAPDHを使用して、mRNAレベルを正規化した。分化mMAPCの表面上のLYVE1発現を分析するために、穏やかなトリプシン処理によって細胞を回収し、拡張された方法に記載されているようにFACSによって分析した。
インビトロLEC機能アッセイ
【0165】
細胞培養およびCM収集。Lonza(Merelbeke,Belgium)からヒト肺LECを購入し、EGM-2-MV bulletkit(Lonza)を補充したEBM2中で培養した。CM収集のために、MAPCを無血清基礎培地に高密度で播種し、72時間後にCMを収集し、さらなる使用まで分割して-80℃で凍結した。
【0166】
LEC増殖。LECを、ゼラチンコーティング96ウェルプレート上の通常LEC成長培地に細胞2,000個/cm2で播種した。それらが付着した後、培地を、無血清LEC培地とMAPC-CMとの1:1混合物または100%無血清LEC培地(基準条件として)で置き換えた。24時間後、WST-1細胞増殖アッセイキット(Cayman Chemical)を用いて、細胞増殖を評価した。
【0167】
LEC遊走。トランスウェルインサート(孔径8μmのポリカーボネートフィルタを含有する;Costar,Corning)をゼラチンで一晩コーティングした。非馴化培地(NCM)またはMAPC-CMを24ウェルプレートの底部区画に充填した。再水和後、インサートを24ウェルプレートに入れ、5×104個のLECを含有するEGM-2-MV/0.5%FBSをそれぞれにロードした。37℃/5%CO2で24時間インキュベートした後、メタノールで細胞を固定し、ライト・ギムザ染色溶液(Sigma WG32)で染色した。インサートを取り出し、膜の上側の細胞を除去した。インサートの写真を撮影し、遊出細胞を手動で計数した。
【0168】
LEC発芽。(20%メチルセルロース/EGM-2-MV混合物中に1,000個のLECを含有する)25μlの液滴を非付着プレート上に適用し、それらを逆さまにして37℃/5%CO2でインキュベートすることによって、LECスフェロイドを形成させた。翌日、PBS/2%FBSでスフェロイドを慎重に洗浄し、穏やかな遠心分離によって収集し、メチルセルロース/FBS/コラーゲン(Purecol Advanced Biomatrix)に再懸濁し、24ウェルプレートに播種した。37℃/5%CO2で30分間インキュベートした後、mMAPC-CM(無血清LEC培地との1:1混合物)または100%無血清LEC培地(基準条件として)をコラーゲン/スフェロイドゲルの上部に添加した。24時間後に写真を撮影し、手動計数によって、スフェロイド当たりの発芽数を決定した。
マウスモデル
【0169】
MAPCはMHC-Iを発現せず、-その結果として-NK細胞媒介性クリアランスに感受性であるので、移植1~2時間前およびその後10日ごとに、抗アシアロGM1 Ab(Wako Chemicals,Osaka,Japan)をすべてのマウスに腹腔内注射した。これらの抗体は、マクロファージまたはリンパ球の機能に影響を及ぼさずに、NK細胞を選択的に排除する(Seaman,W.Eら、J Immunol(1987)138:4539-4544)。
【0170】
線状創傷モデル:0日目に、12mmの線状皮膚切開を12週齢の麻酔したC57Bl/6雄性マウスの背部に施した。創傷形成直後に、3つの等間隔の注射スポットにわたって分割して、1×106個のmMAPC(PBSに再懸濁)またはPBSのみをマウスの皮膚創傷下の筋膜に注射した。創傷感染を回避するために、床敷がないケージで、マウスを個別に収容した。デジタルキャリパー(VWRI819-0012,VWR)を使用して麻酔下で、創傷寸法を毎日測定した。4日目に創傷領域の明視野および蛍光写真を撮影し、10日目にマウスを安楽死させ、残留皮膚創傷および下層筋肉組織を切開し、固定し、包埋のために調製した。
【0171】
円形創傷モデル:0日目に、12週齢の無胸腺ヌードFoxn1雄性マウス(Harlan)を麻酔し、滅菌および温度制御(37℃)条件下で、0.5cm生検パンチャー(Stiefel Laboratories,Offenbach am Main,Germany)を用いて、マウスの背部に標準化全層創傷(standardized full-thickness)を作った。シリコーンリングを創傷周辺に縫合し、PBSまたは5×105個のhMAPCで創傷を処置した。一部のマウスでは、移植前に、eGFPをコードするレンチウイルスでhMAPCを形質導入した。閉鎖包帯剤(Tegaderm(商標)、3M、Diegem,Belgium)を使用して創傷を保湿し、1日おきに取り替えた。創傷後5日または10日に、マウスを安楽死させ、皮膚創傷を切開し、リンスし、後固定した。固定後、創傷の正中において皮膚片を2等分し、包埋のために処理した。
【0172】
皮膚弁モデル:0日目に、12週齢の無胸腺ヌードFoxn1雄性マウス(Harlan)を麻酔し、記載されているように(Saaristo,Aら、FASEB J(2004)18:1707-1709)、上腹部皮膚弁を持ち上げ、それを元の位置に戻して縫合することによって、腹部皮膚のリンパネットワークを切断した。血管茎を保持することによって、弁への連続的な血液供給を保証した(
図3A)。皮膚弁を再縫合した翌日、1×10
6個のmMAPC、1×10
6個のhMAPCまたはPBS(4つの注射スポットにわたって分割;
図3A)を創傷縁部周辺に注射した。2週間後または4週間後、腋窩部を露出させ、創傷境界下で、FITC-デキストラン(MW2,000kDa、Sigma-Aldrich;hMAPC)またはローダミン-B-イソチオシアネート-デキストラン(MW70kDa、Sigma-Aldrich;mMAPC)の皮内注射後、微小リンパ管造影によって腋窩LN排液をモニタリングした(
図3A)。15分の時点で明視野および蛍光写真を撮影し、続いて、マウスを安楽死させ、細胞生着/微小リンパ管造影領域周辺の皮膚創傷領域を切除し、固定し、包埋のために処理した。
【0173】
LN移植モデル:0日目に、12週齢の無胸腺ヌードFoxn1雌性マウス(Harlan)を麻酔し、LNを視覚化するために、右腋窩部を露出させ、3%エバンスブルー溶液をマウスの右前脚の掌に注射し、その後、(周囲のリンパ(集合管)管と一緒に)LNを摘出した。腋窩血管の直ぐ後ろのポケットを調製した。DsRed(B6.Cg-Tg(CAG-DsRed*MST)1Nagy/J;hMAPCまたはPBSを投与し、4週間または8週間の経過観察したマウスの場合)または強化(e)GFP(C57BL/6-Tg(CAG-EGFP)1Osb/J;hMAPCまたはPBSを投与し、4週間または16週間の経過観察したマウスの場合)を遍在的に発現するマウスから、ドナーLNを切断し、門を介して2等分に切断した。続いて、切断したLNをレシピエントのポケットに埋め込み、永久縫合糸(Monosof(商標))で所定位置に固定した。0.5×106個のhMAPCまたはPBSと混合したCold GF-reduced Matrigel(登録商標)(Beckton Dickinson)をポケットに適用し、固化させた。続いて、皮膚を閉鎖し、Tegaderm(商標)包帯剤で創傷を覆った。4週間後、8週間後または16週間後、マウスを麻酔し、右前脚の掌へのFITCコンジュゲートL.esculentumレクチン(Vector Laboratories;DsRed+LNレシピエントにおける)またはテキサスレッドコンジュゲートL.esculentumレクチン(eGFP+LNレシピエントにおける)の注射後に、微小リンパ管造影に供した。埋め込んだLNの排液を15分間モニタリングし、終了時に明視野および蛍光写真を撮影した。続いて、マウスを安楽死させ、移植LNを含有する腋窩部を切除し、固定し、包埋のために処理した。拡張された方法に記載されているように、(血管超透過性(vascular hyperpermeability)を誘発して浮腫を悪化させるために)カラシ油の注射による炎症刺激後に、さらなる2組のマウスをインビボMRIに供した。組織学および形態計測
【0174】
7μmパラフィン切片、10μm凍結切片または露出皮膚領域の明視野写真に対して、盲検の観察者が形態学的分析を実施した。マウス1匹当たり少なくとも10個の無作為に選択した視野(700μmの距離をカバーする)について、リンパ管(LYVE1染色切片、Flt4染色切片またはProx1/αSMA染色切片で決定)または血管(CD31染色切片で決定)密度および上皮被覆(パンサイトケラチン染色切片で決定)をスコア化した。マウス1匹当たり8~10個の連続切片について、機能的リンパ(蛍光標識デキストランを注射したマウスの凍結切片で決定)を計数し、それにより、各切片上に見られる創傷領域全体をスキャンした。関心領域全体のデジタル再構築画像において、移植LNに至る血管ネットワークの断片面積を決定した。パラフィン切片の染色のために、スライドを脱パラフィン処理および再水和し、染色手順前に、PBS中で凍結切片を5分間インキュベートした。以前に記載されているように(Aranguren,X.Lら、J Clin Invest(2008)118:505-514)、H&E染色を実施した。CD31、Flt4、パンサイトケラチン、(CD45またはビメンチンと組み合わせたまたは組み合わせていない)LYVE1、Prox1/αSMA、ビメンチンおよび(Prox1/)eGFPのIFおよびIHC染色手順は補足資料に記載されており、一次Abのリストは表4に提供されている。Zeiss Axiovert 200M顕微鏡、Zeiss Axio Imager Z1、またはZeiss MRc5カメラおよびAxiovision 4.8ソフトウェアを備えるZeiss LSM510共焦点顕微鏡によって、すべての画像を記録した。
統計
【0175】
結果のテキストおよび図/表の凡例におけるnは、反復(すなわち、異なる継代の所定のMAPCクローンに対してそれぞれ実施した;インビトロ)または別個の動物(インビボ)の数を示す。シャピロ・ウイルク検定によって、データの正規性を検定した。正規分布の場合にはスチューデントt検定によって、またはデータが正規分布しないかもしくは正規性を仮定することができない場合にはマン・ホイットニーU検定によって、2群間の比較を実施した。1元配置ANOVAとテューキー事後検定(正規分布)またはクラスカル・ワリス検定とダン事後検定(非正規性仮定)によって、複数の群の比較を行った。反復測定ANOVAとそれに続くフィッシャー最小有意差検定によって、創傷サイズを評価した。Graphpad Prism(バージョン6.0)を用いて、すべての分析を実施した。
拡張された方法
MAPCの誘導および分化
【0176】
遍在的なeGFP発現を有する成体C57Bl/6マウス(C57Bl/6-Tg-eGFP)のBMから、マウス(m)MAPCクローンを誘導した。以前に記載されているように(Aranguren,X.Lら、J Clin Invest(2008)118:505-514)、低O2(5%)および低血清(2%)条件下で、mMAPCを誘導および維持した。以前に記載されている誘導および培養方法(Roobrouck, V.D., et al. Stem Cells (2011) 29:871-882)にしたがって、KU Leuven(Endothelial Cell Biology Unitにおいてクローン1またはhMAPC1;Stem Cell Institute Leuvenにおいてクローン2またはhMAPC2)において、ヒト(h)MAPCクローンを樹立した。マイコプラズマ汚染について、細胞培養物をルーチンに試験した。記載されているように(Roobrouck,V.Dら、Stem Cells(2011)29:871-882)、組換(r)hVEGF-A165またはrhVEGF-C(両方ともR&D Systems製)への細胞の曝露によって、内皮分化を実施した。
RNA単離、cDNA調製、qRT-PCRおよびフローサイトメトリー
【0177】
Trizol(登録商標)試薬(Invitrogen)またはRLT溶解緩衝液(Qiagen)を使用して、細胞溶解物から全RNAを抽出した。Superscript III Reverse Transcriptase(Invitrogen)を使用してmRNAを逆転写し、記載されているように(Aranguren,X.Lら、J Cell Sci(2013)126:1164-1175.)、cDNAを、SYBR-GreenベースのqRT-PCRに関して、ABI PRISM 7700 cycler(PerkinElmer/Applied Biosystems)で、40回の増幅ラウンドを受けさせた。ハウスキーピング遺伝子としてGAPDHを使用して、mRNAレベルを正規化した。分化mMAPCの表面上のLYVE1発現を分析するために、穏やかなトリプシン処理によって細胞を回収し、FACS染色緩衝液(PBS+1mmol/L EDTA+25mmol/L HEPES+1%BSA)で洗浄し、一次抗体(Upstate)または対応するウサギIgGアイソタイプと共に暗所、室温で20分間インキュベートした。FACS緩衝液で洗浄した後、細胞をビオチン化ヤギ抗ウサギ二次抗体と共に暗所、室温で20分間インキュベートした。次に、サンプルを洗浄し、アロフィコシアニン(APC)標識ストレプトアビジンと共に暗所で20分間インキュベートした。生細胞を選択するために、7-AADを10分間追加してから、分析のためにFACS Aria I(Beckton Dickinson)においてサンプルをランした。
インビトロLEC機能アッセイ
【0178】
細胞培養および馴化培地収集。Lonza(Merelbeke,Belgium)からヒト肺LECを購入し、EGM-2-MV bulletkit(Lonza)を補充したEBM2中で培養した。CM収集のために、MAPCを無血清基礎培地に高密度で播種し、72時間後にCMを収集し、さらなる使用まで分割して-80℃で凍結した。
【0179】
LEC増殖。LEC増殖に対するMAPC-CMの効果を試験するために、LECを、ゼラチンコーティング96ウェルプレート上の通常LEC成長培地に細胞2,000個/cm2の密度で播種した。それらが付着した後、培地を、無血清LEC培地とMAPC-CMとの1:1混合物または100%無血清LEC培地(基準条件として)で置き換えた。24時間後、WST-1細胞増殖アッセイキットを用いて、細胞増殖を評価した。簡潔に言えば、10μlのWST-1混合物を各ウェルに添加し、細胞を37℃で2時間インキュベートし、Bio-Tekマイクロプレートリーダー(BRS,Belgium)によって450nmの波長で各ウェルの吸光度を測定した。
【0180】
LEC遊走。LEC遊走に対するMAPC-CMの効果を評価するために、ボイデンチャンバーアッセイを実施した。簡潔に言えば、トランスウェルインサート(孔径8μmのポリカーボネートフィルタを含有する;Costar,Corning)を0.2%ゼラチンで一晩コーティングした。0.3mlのNCMまたは0.3mlのmMAPCもしくはhMAPC-CMを24ウェルプレートの底部区画に充填した。脱イオン水で1時間再水和した後、インサートを24ウェルプレートに入れ、5×104個のLECを含有する0.3mlのEGM-2-MV/0.5%FBSをそれぞれにロードした。37℃/5%CO2で24時間インキュベートした後、メタノールで細胞を-20℃で30分間固定した。次に、ライト・ギムザ染色溶液(Sigma WG32)で細胞を7分間染色し、脱イオン水で10分間リンスした。インサートを取り出し、綿棒を使用して穏やかに擦ることによって、膜の上側の細胞を除去した。Axiovert200M顕微鏡に据えつけ、Axiovision 4.8ソフトウェアを備えるZeiss MRc5カメラを用いて、インサートの写真を撮影し、インサート当たり3つのランダム視野において倍率20倍で遊出細胞を手動で計数した。
【0181】
LEC発芽。LEC発芽に対するmMAPC-CMの効果を試験するために、(20%メチルセルロース/EGM-2-MV混合物中に1,000個のLECを含有する)25μlの液滴を非付着プレート上に適用し、それらを逆さまにして37℃/5%CO2でインキュベートすることによって、LECスフェロイドを形成させた。翌日、PBS/2%FBSでスフェロイドを慎重に洗浄し、穏やかな遠心分離によって収集し、メチルセルロース/FBS/コラーゲン(Purecol Advanced Biomatrix)に慎重に再懸濁し、24ウェルプレート(0.5ml/ウェル)に播種した。37℃/5%CO2で30分間インキュベートした後、0.5mlのmMAPC-CM(無血清LEC培地との1:1混合物)または100%無血清LEC培地(基準条件として)をコラーゲン/スフェロイドゲルの上部に添加した。Zeiss Axiovert200M顕微鏡にマウントしたZeiss MRmカメラを用いて24時間後に写真を撮影し、手動計数によって、スフェロイド当たりの発芽数を決定した。
マウスモデル
【0182】
MAPCはMHC-Iを発現せず、-その結果として-NK細胞媒介性クリアランスに感受性であるので、移植1~2時間前およびその後10日ごとに、20μlの抗アシアロGM1 Ab(Wako Chemicals,Osaka,Japan;PBSで20倍希釈)をすべてのマウスに腹腔内注射した。これらの抗体は、マクロファージまたはリンパ球の機能に影響を及ぼさずに、NK細胞を選択的に排除する(Seaman,W.Eら、J Immunol(1987)138:4539-4544.)。
【0183】
線状創傷モデル:0日目に、100mg/kgケタミンおよび10mg/kgキシラジンの混合物で麻酔した後、12mmの線状皮膚切開を12週齢のC57Bl/6雄性マウスの背部にメスで施した。創傷形成直後に、3つの等間隔の注射スポットにわたって分割して、1×106個のmMAPC(PBSに再懸濁)またはPBSのみをマウスの皮膚創傷下の筋膜に注射した。創傷感染を回避するために、床敷がないケージで、マウスを個別に収容した。デジタルキャリパー(VWRI819-0012,VWR)を使用してイソフルラン麻酔下で、創傷寸法を毎日測定した。4日目に、Zeiss Lumar顕微鏡にマウントしたZeiss MRc5カメラを用いて、創傷領域の明視野および蛍光写真を撮影した。10日目に、マウスを安楽死させ、残留皮膚創傷および下層筋肉組織を切開し、亜鉛-パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンまたは最適切断温度(OCT)包埋および切片化のために調製した。
【0184】
円形創傷モデル:0日目に、ケタミン/キシラジンの腹腔内注射によって、12週齢の無胸腺ヌードFoxn1雄性マウス(Harlan)を麻酔した。前投薬として、アトロピン(0.01mg/kg)を腹腔内投与した。滅菌および温度制御(37℃)条件下で、0.5cm生検パンチャー(Stiefel Laboratories,Offenbach am Main,Germany)を用いて、マウスの背部の中背領域(mid-dorsal region)において標準化全層創傷を作った。(Histoacryl tissue adhesive,Braun,Diegem,Belgiumを使用して)シリコーンリングを固定し、創傷周辺を縫合し、食塩水または5×105個のhMAPCで創傷を処置した。別の一部のマウスでは、移植前に、eGFPをコードするレンチウイルスでhMAPCを形質導入した。閉鎖包帯剤(Tegaderm(商標)、3M、Diegem,Belgium)を使用して創傷を保湿した。争いを回避し、閉鎖創傷包帯剤が取れるのを防止するために、すべての創傷マウスを個別に収容した。1日おきに、イソフルラン麻酔下で閉鎖包帯剤を取り替えた。創傷形成後5日または10日に、マウスを安楽死させ、円形創傷領域および正常皮膚の縁を含む正方形の皮膚片を切断し、PBSでリンスし、亜鉛-パラホルムアルデヒドを使用して4℃で一晩後固定した。固定後、創傷の正中において皮膚片を2等分し、パラフィンまたはOCT包埋および切片化のために処理した。
【0185】
皮膚弁モデル:0日目に、ケタミン/キシラジンの腹腔内注射によって、12週齢の無胸腺ヌードFoxn1雄性マウス(Harlan)を麻酔した。以前に記載されているように(Saaristo,Aら、FASEB J(2004)18:1707-1709.)、上腹部皮膚弁を持ち上げ、それを元の位置に戻して縫合することによって、腹部皮膚のリンパネットワークを切断した。右下腹壁動脈および静脈を含む血管茎を保持することによって、弁への連続的な血液供給を保証した(
図3A)。皮膚弁を再縫合した翌日、1×10
6個のmMAPC、1×10
6個のhMAPCまたはPBS(4つの注射スポットにわたって分割;
図3A)を創傷縁部周辺に注射した。2週間後または4週間後、腋窩部を露出させ、創傷境界下で、10μlのFITC-デキストラン(MW2,000kDa、Sigma-Aldrich;hMAPC)または10μlのローダミン-B-イソチオシアネート-デキストラン(MW70kDa、Sigma-Aldrich;mMAPC)の皮内注射後、微小リンパ管造影によって腋窩リンパ節排液を15分間モニタリングした(
図3A)。15分の時点で、Zeiss Lumar顕微鏡にマウントしたZeiss MRc5カメラを用いて明視野および蛍光写真を撮影した。続いて、マウスを安楽死させ、細胞生着/微小リンパ管造影領域周辺の皮膚創傷領域を切除し、固定し、パラフィンまたはOCT包埋および切片化のために処理した。
【0186】
リンパ節移植モデル:d0に、ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射によって、12週齢の無胸腺ヌードFoxn1雌性レシピエントマウス(Harlan)を麻酔した。リンパ節を視覚化するために、右腋窩部を露出させ、3%エバンスブルー溶液をマウスの右前脚の掌に注射し、その後、周囲のリンパ(集合管)管と一緒にリンパ節を摘出した。外側腋窩脂肪体、大胸筋および広背筋に並んだ腋窩血管の直ぐ後ろのポケットを調製した。DsRed(B6.Cg-Tg(CAG-DsRed*MST)1Nagy/J;hMAPCまたはPBSを投与し、4週間または8週間の経過観察したマウスの場合)または強化(e)GFP(C57BL/6-Tg(CAG-EGFP)1Osb/J;hMAPCまたはPBSを投与し、4週間または16週間の経過観察したマウスの場合)を遍在的に発現するマウスから、ドナーリンパ節を切断し、門を介して2等分に切断した。続いて、切断したリンパ節をレシピエントのポケット(内向きの門および上向きの切断面)に埋め込み、2本の永久縫合糸(9-0ナイロン非吸収性縫合糸を使用、Monosof(商標))で所定位置に固定した。0.5×106個のhMAPCまたはPBSと混合したCold growth factor-reduced Matrigel(登録商標)(100μl;Beckton Dickinson)をポケットに適用し、10分間固化させた。続いて、皮膚を閉鎖し、Tegaderm(商標)包帯剤で創傷を覆った。4週間後、8週間後または16週間後、ケタミン/キシラジン混合物でマウスを麻酔し、右前脚の掌への10μlのFITCコンジュゲートL.esculentumレクチン(Vector Laboratories;DsRed+ドナーリンパ節のレシピエントにおける)または10μlのテキサスレッドコンジュゲートL.esculentumレクチン(eGFP+リンパ節のレシピエントにおける)の注射後に、微小リンパ管造影に供した。埋め込んだリンパ節の排液を15分間モニタリングし、終了時に、Zeiss Lumar顕微鏡にマウントしたZeiss MRc5カメラを用いて、明視野および蛍光写真を撮影した。続いて、マウスを安楽死させ、移植リンパ節を含有する腋窩部を切除し、固定し、パラフィンまたはOCT包埋および切片化のために処理した。リンパ節移植4週間後および16週間後に、さらなる2組のマウスをインビボ磁気共鳴イメージング(MRI;(Tammela,Tら、Nat Med(2007)13:1458-1466に記載されているとおり)に供した。簡潔に言えば、イソフルランでマウスを麻酔し、綿棒を用いてカラシ油(鉱油で1/5希釈)を両前肢に2×15分間適用して、血管超透過性を誘発して浮腫を悪化させた。MRI記録の前に、マウスをさらに30分間回復させた。実験を通して温度および呼吸をモニタリングし、37℃および1分当たりの呼吸数100~120回に維持した。送信用の7cm直線偏光共振器と、受信用のアクティブにデカップリングされた直径2cmの専用表面コイル(Rapid Biomedical,Rimpar,Germany)とを使用して、水平ボア磁石と、600mT/mのアクティブシールドグラディエントセット(内径117mm)とを備える9.4T Biospec small animal MR scanner(Bruker Biospin,Ettlingen,Germany)によって、MR画像を取得した。2Dローカライゼーションスキャンの取得後;3D T2強調画像、2D T2パラメータマップおよび2D拡散強調画像を取得して、浮腫のレベルを決定した。特定のパラメータは、リフォーカスエコーによる3D高速収集(RARE)シーケンス、反復時間(TR):1300ms、有効なエコー時間(TE):22.9ms、レアファクター:6、マトリックスサイズ:256×48×48、視野(FOV):2.5×0.7×1.5cm、解像度:98×146×312μm3;2D T2マップ:TR:3500ms、10TE間:10~100ms、マトリックスサイズ:256×256、FOV:2×2cm、スライス厚:0.3mmおよびギャップ0.3mmの15個の横断スライス、面内解像度:78μm2;拡散強調MRI:スピンエコーシーケンス;1500s mm2のb値、TR:25ms、TE:3,000ms、マトリックスサイズ:128×128、FOV:2×2cm、厚さ1mmの8個の横断スライスであった。リンパ節埋め込み部位と対照部位との間の比として報告される、Mevislab(Mevis Medical Solutions,Bremen,Germany)で開発した自製ソフトウェアを使用して、共通の閾値を超えるシグナル強度を有するボリュームを決定することによって、3D T2強調画像の処理を行った。Paravison 5.1(Bruker Biospin)を使用して、手動で描出した前脚の浮腫(または、浮腫が存在しない場合には、同じ領域内にある同じサイズの部位)のT2パラメータマップの計算を行った。
組織学および形態計測
【0187】
7μmパラフィン切片、10μm凍結切片または露出皮膚領域の明視野写真に対して、盲検の観察者が形態計測分析を実施した。マウス1匹当たり少なくとも10個の無作為に選択した視野(700μmの距離をカバーする)について、リンパ管(LYVE1、Flt4染色切片またはProx1/αSMA染色切片で決定)または血管(CD31染色切片で決定)密度および上皮被覆(パンサイトケラチン染色切片で決定)をスコア化した。マウス1匹当たり8~10個の連続切片について、機能的リンパ(蛍光標識デキストランを注射したマウスの凍結切片で決定)を計数し、それにより、各切片上に見られる創傷領域全体をスキャンした。関心領域全体のデジタル再構築画像において、移植リンパ節に至る血管ネットワークの断片面積を決定した。パラフィン切片の染色のために、スライドを脱パラフィン処理および再水和し、染色手順前に、PBS中で凍結切片を5分間インキュベートした。以前に記載されているように(1)、H&E染色を実施した。CD31、Flt4またはパンサイトケラチンの免疫組織化学的染色のために、標的回復溶液s1699(Sigma)中で煮沸することによって、抗原回復を実施した。TBSで冷却した後、メタノール中0.3%H2O2で内因性ペルオキシダーゼ活性をクエンチした。スライドを一次Abと共に一晩インキュベートした。一次Abのリストは、表4に提供されている。TBSで洗浄した後、スライドをビオチン化ウサギ抗ラット(CD31およびFlt4)またはヤギ抗マウス(パンサイトケラチン)Abと共に2時間インキュベートし、チラミドシグナル増幅システム(Perkin Elmer,NEL700A)を用いて、検出シグナルを増幅した。ヘマトキシリン対比染色によって核を明らかにし、DPX封入剤(Sigma)をスライドにマウントした。LYVE1免疫蛍光(IF)染色のために、標的回復溶液s1699(Sigma)中で煮沸することによって、抗原回復を実施した。TBSで冷却した後、メタノール中0.3%H2O2で内因性ペルオキシダーゼ活性をクエンチした。スライドを一次Abと共に一晩インキュベートした。TBSで洗浄した後、スライドをビオチン化ヤギ抗ウサギAbと共に2時間インキュベートし、チラミド-Cy3またはチラミドフルオレセインシグナル増幅システム(Perkin Elmer,NEL704AまたはNEL701A)を用いて、検出シグナルを増幅した。CD45 IF染色と組み合わせる場合には、続いて、スライドを一次抗CD45 Abと共に一晩インキュベートし、続いて、ヤギ抗ラットAlexa488と共に2時間インキュベートした。GFPまたはビメンチンIF染色のために、クエン酸緩衝液(pH=6)中で煮沸することによって、抗原回復を実施した。一次Abと共に一晩インキュベートした後、スライドをAlexaコンジュゲートロバ抗ニワトリ(GFP)またはヤギ抗マウス(ビメンチン)Abと共に1時間インキュベートした。LYVE1/ビメンチンIF染色の組み合わせでは、クエン酸緩衝液(pH=6)中で煮沸することによって抗原回復を実施し、Triton0.1%のPBS溶液中でインキュベートすることによって組織を透過処理した。一次Abと共に一晩インキュベートした後、スライドをヤギ抗マウスAlexa488およびヤギ抗ウサギAlexa568と共に1時間インキュベートした。Prox1/αSMA IF染色の組み合わせでは、クエン酸緩衝液(pH=6)中で煮沸することによって抗原回復を実施し、Triton0.1%のPBS溶液中でインキュベートすることによって組織を透過処理した。Prox1一次Abと共に一晩インキュベートした後、スライドをビオチンコンジュゲートヤギ抗ウサギAbと共に1時間インキュベートし、チラミド-Cy3またはチラミドフルオレセインシグナル増幅システム(Perkin Elmer,NEL704AまたはNEL701A)を用いて、検出シグナルを増幅した。続いて、Cy3コンジュゲートαSMAまたは非コンジュゲートSMAでスライドを2時間染色し、続いて、ヤギ抗マウスAlexa660で染色した。Prox1/eGFP IF染色の組み合わせでは、クエン酸緩衝液(pH=6)中で煮沸することによって抗原回復を実施し、Triton0.1%のPBS溶液中でインキュベートすることによって組織を透過処理した。Prox1およびeGFP一次Abと共に一晩インキュベートした後、スライドをビオチンコンジュゲートヤギ抗ウサギおよびAlexa488コンジュゲートロバ抗ニワトリAbと共に1時間インキュベートし、チラミド-Cy3シグナル増幅システム(Perkin Elmer)を用いてProx1検出シグナルを増幅した。DAPI(Life Technologies;P36931)を含むProLong Gold Antifade Reagent、またはヘキスト染色によって核を明らかにする場合にはDAPI(Life Technologies;P36931)を含まないProLong Gold Antifade Reagentで、IF染色スライドをシーリングした。Zeiss Axiovert 200M顕微鏡、Zeiss Axio Imager Z1、またはZeiss MRc5カメラおよびAxiovision 4.8ソフトウェアを備えるZeiss LSM510共焦点顕微鏡によって、すべての画像を記録した。
統計
【0188】
結果のテキストおよび図/表の凡例におけるnは、反復(すなわち、異なる継代の所定のMAPCクローンに対してそれぞれ実施した;インビトロ)または別個の動物(インビボ)の数を示す。シャピロ・ウイルク検定によって、データの正規性を検定した。正規分布の場合にはスチューデントt検定によって、またはデータが正規分布しないかもしくは正規性を仮定することができない場合にはマン・ホイットニーU検定によって、2群間の比較を実施した。1元配置ANOVAとテューキー事後検定(正規分布)またはクラスカル・ワリス検定とそれに続くダン事後検定(非正規性仮定)によって、複数の群の比較を行った。反復測定ANOVAとそれに続くフィッシャー最小有意差検定によって、創傷サイズを評価した。Graphpad Prism(バージョン6.0)を用いて、すべての分析を実施した。
表
【表1】
【表2】
【表4】