(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163213
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】ポリアフロンおよびその眼瞼投与
(51)【国際特許分類】
A61K 9/10 20060101AFI20221018BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20221018BHJP
A61K 31/335 20060101ALI20221018BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221018BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221018BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20221018BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A61K9/10
A61K9/06
A61K31/335
A61K45/00
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/26
A61P27/02
A61P37/08
A61K31/55
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130351
(22)【出願日】2022-08-18
(62)【分割の表示】P 2020161133の分割
【原出願日】2016-02-02
(31)【優先権主張番号】62/110,740
(32)【優先日】2015-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514024206
【氏名又は名称】サンテン エスエーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】木戸 一貴
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 孝司
(72)【発明者】
【氏名】ボウタズ,アデリン
(57)【要約】
【課題】眼疾患または眼病の治療において治療効果を達成するのに十分な量の治療薬を持続期間にわたって放出することが可能な新規組成物の提供。
【解決手段】対象の上眼瞼および/または下眼瞼へのポリアフロンの局所投与による対象における眼疾患または眼病の治療における使用のための組成物であって、
アルキルポリグリコールエーテル、アルキルポリグリコールエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール水添ヒマシ油、ポリオキシエチレングリコールヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ポロキサマー、チロキサポール、スクロースアルキルエステル、グリセリン短鎖脂肪酸エステル、グリセリン中鎖脂肪酸エステル、グリセリン長鎖飽和脂肪酸エステル、グリセリン長鎖不飽和脂肪酸エステル、ポリオキシルグリセリド及びアルキルポリグリコシドからなる群より選択される少なくとも1種の非イオン性界面活性剤と、
有効成分としての少なくとも1種の抗アレルギー薬と、
を含むポリアフロンを含み、
前記ポリアフロン中の非イオン性界面活性剤の量が、ポリアフロンの総重量に対して0.005~5重量%の範囲である、組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の上眼瞼および/または下眼瞼へのポリアフロンの局所投与による対象における眼疾患または眼病の治療における使用のための組成物であって、
前記組成物は、
アルキルポリグリコールエーテル、アルキルポリグリコールエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール水添ヒマシ油、ポリオキシエチレングリコールヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ポロキサマー、チロキサポール、スクロースアルキルエステル、グリセリン短鎖脂肪酸エステル、グリセリン中鎖脂肪酸エステル、グリセリン長鎖飽和脂肪酸エステル、グリセリン長鎖不飽和脂肪酸エステル、ポリオキシルグリセリド及びアルキルポリグリコシドからなる群より選択される少なくとも1種の非イオン性界面活性剤と、
有効成分としての少なくとも1種の抗アレルギー薬と、
を含むポリアフロンを含み、
前記ポリアフロン中の非イオン性界面活性剤の量が、ポリアフロンの総重量に対して0.005~5重量%の範囲である、
組成物。
【請求項2】
少なくとも1つの親水性相と、少なくとも1つの疎水性相とを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記親水性相が、水性組成物および水からなる群より選択される少なくとも1つの親水性相である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記疎水性相が、グリセリンの中鎖脂肪酸のモノエステル、ジエステルおよびトリエステル、トリアセチン、プロピレングリコールの中鎖脂肪酸のモノエステルおよびジエステルならびに鉱油からなる群より選択される少なくとも1つの疎水性相である、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリアフロンが、
親水性相の量がポリアフロンの総重量に対して2重量%~50重量%の範囲であり且つ疎水性相の量がポリアフロンの総重量に対して50重量%~98重量%の範囲である、水中油型ポリアフロン;あるいは
疎水性相の量がポリアフロンの総重量に対して2重量%~50重量%の範囲であり且つ親水性相の量がポリアフロンの総重量に対して50重量%~98重量%の範囲である、油中水型ポリアフロン
である、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリアフロンは、ゲル製剤またはクリーム製剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
対象の上眼瞼および/または下眼瞼に局所塗布される、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記有効成分は、6時間~1週間の範囲の期間にわたって制御放出および/または持続放出される、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
対象の眼疾患または眼病を治療するためにポリアフロンまたはその成分を前記対象の眼に経皮送達するための方法において使用するための、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物であって、前記方法は、前記組成物を前記対象の上眼瞼および/または下眼瞼に局所投与する工程を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガレヌス製剤(galenic formulation)の一般領域における投与が容易なポリアフロン(polyaphron)に関する。特に、本発明は局所投与、好ましくは眼瞼投与のための少なくとも1種のポリアフロンを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアフロンの紹介
ポリアフロンは分散体である。本発明の意味において「分散体」とは、液体小球または固体粒子が連続相に分散された系を意味する。本発明では、「ポリアフロン」という用語は、連続相に分散された非混和性の「アフロン(aphron)」と呼ばれる液体小球を指す。アフロンが連続相において非混和性のままである限り、分散相は親水性相であっても疎水性相であってもよい。連続相は流体、液体またはゲルであってもよい。
【0003】
より詳細には、ポリアフロンの分散相は連続相に分散された複合体アフロンからなっていてもよく、前記アフロンは、
- 連続相と混和しない材料からなるコアと、
- 連続相と同じ材料からなる中間層と、
- 界面活性剤を含む外層と
を有する。
【0004】
例えば、水中油型ポリアフロンでは、アフロンは疎水性小球である内部コアと、水溶液からなる中間層と、界面活性剤を含む外層とを含んでいてもよい。水中油型ポリアフロンでは、疎水性相はポリアフロンの総重量に対して最大98%の重量を表してもよく、ポリアフロンは大量の分散相を考慮すると非常に少量(典型的にはポリアフロンの総重量に対して0.05~5%または0.1~3%の範囲の重量)の界面活性剤を含む。
【0005】
別の例として、油中水型ポリアフロンでは、アフロンは、水性小球である内部コアと、疎水性溶液からなる中間層と、界面活性剤を含む外層とを含んでいてもよい。油中水型ポリアフロンでは、親水性相はポリアフロンの総重量に対して最大98%の重量を表してもよい。
【0006】
注目すべきことに、単一の界面を特徴とする乳濁液とは対照的に、ポリアフロンはその優れた安定性に寄与し得る多層構造を有することができる。
【0007】
背景
ポリアフロンについて最初に記載されたのは約40年前であった。米国特許第4,486,333号は、ポリアフロン、特に疎水性相として灯油、石油エーテル、四塩化炭素、四塩化炭素-シクロヘキサン混合物を用い、かつ親水性相として水またはメタノールを用いた水中油型ポリアフロンの調製方法を開示している。
【0008】
ポリアフロン組成物は経口薬物送達システムとして知られている。例えば、国際公開第2005/011628号は、ポリアフロン組成物としての即時剤形(immediate dosage form)における親油性水難溶性薬物の送達を開示している。
【0009】
ポリアフロン組成物は、有効成分を運ぶための局所薬物送達システムとして使用することができる。例えば、米国特許第4,999,198号は、落花生油および鉱油に溶解したスコポラミンの別の媒体への送達を開示しており、国際公開第2008/110826号は皮膚への塗布による局所塗布を介してビタミンEと組み合わせたコルチコステロイドを運ぶことについて開示しており、欧州特許第1970049号は、乾癬または皮膚炎などの多くの皮膚病の治療におけるビタミンDを含む組成物の皮膚への使用のための局所組成物を開示している。
【0010】
最近では、ポリアフロン分散体は眼投与のために使用されている。例えば、国際公開第2012/123515号は、抗生物質(シクロスポリン、バンコマイシン)、抗炎症化合物(フルルビプロフェン、フルチカゾン)、プロスタグランジン(ラタノプロスト)などの異なる有効成分を送達する方法を開示している。国際公開第2012/123515号は、ヒト/動物の角膜に局所投与される点眼薬を開示している。
【0011】
技術的問題
本出願人は、点眼薬を患者の眼表面に直接局所投与した際に様々な問題が生じていることに気づいた。第1に、患者の中には点眼薬を自分自身で投与することができないものもいる。局所投与の問題が生じる。また、点眼薬をさす際に、患者は少なくとも1滴の点眼薬が標的(角膜および/または結膜)に到達したか否かに疑問に感じ、この問題は高齢および小児集団において増加する。その結果、正確な投薬に関する問題が生じる。また、点眼薬が眼表面に適切に送達された場合であっても、患者は、若干の不快感を感じたり視界のぼやけを経験したりすることがある。点眼薬を眼表面に滴下すると通常は反射性まばたきが生じ、点眼薬の大部分が数秒以内に流れ出てしまう。点眼薬の95%超が投与後2分以内に眼表面から流れ去ることが認められている。
【0012】
さらに重要なことに、組成物を眼表面に直接投与すると、製剤中に刺激成分が存在するために刺激、特に角膜および/または結膜の刺激が生じる場合がある。治療の主な標的が眼である場合に、そのような結果は現実的な問題となり得る。
【0013】
眼の治療における別の重要な問題は投与頻度である。点眼薬を1日に何回もさすのは一部の患者には実際に負担となる場合があり、患者の治療遵守が劇的に低下する恐れがある。
【0014】
眼の治療用組成物に対するこれらの異なる問題から、本出願人は、組成物の角膜への直接投与を回避し、かつ不快感、視界のぼやけおよび刺激も回避しながら眼を標的にすることができる投与が容易なポリアフロンを思い付き、かつ実施化した。
【0015】
眼の治療における別の問題は、前記治療薬を眼の標的部分に徐々に送達させるための治療薬の眼に対する持続放出の達成である。短い持続期間で多量の活性剤を眼に投与すると毒性濃度が生じ、その結果、眼の標的部分に有害となる恐れがある。
【0016】
従って、局所毒性を引き起こし得る過剰な治療薬を放出することなく治療効果を達成するのに十分な量の治療薬を持続期間にわたって放出することに関心が高まっている。送達持続期間を引き延ばす別の利点は、投与頻度を減らすことができ、その結果、治療遵守が高まることである。
【0017】
驚くべきことに、本出願人は、ポリアフロンが眼瞼塗布を介して原薬を対象の眼に持続および/または制御放出させるための効率的な媒体となり得ることに気づいた。この発見により本出願人は、原薬を対象の眼に持続可能および/または制御された方法で長期間放出することができるポリアフロンを思い付き、かつ実施化した。
【発明の概要】
【0018】
従って、第1の態様では、本発明は、対象の少なくとも1つの眼瞼に局所投与するためのポリアフロンそのものであるかポリアフロンを含む組成物に関する。一実施形態では、本ポリアフロンは有効成分を含む。
【0019】
一実施形態では、本発明は、対象の少なくとも1つの眼瞼へのポリアフロンの局所投与により成分を対象の眼に眼瞼投与するために使用される、前記成分を包含する少なくとも1種のポリアフロンを含有する組成物に関する。一実施形態では、前記成分は有効成分である。
【0020】
第2の態様では、本発明は、対象の眼疾患または眼病を治療するためにポリアフロンまたはその成分を前記対象の眼に経皮送達する方法に関する。本発明の方法は、本ポリアフロンの少なくとも1種の成分を眼表面または前眼部に送達するのに有用である。
【0021】
第3の態様では、本発明は、本発明の少なくとも1種のポリアフロンを製造するためのプロセスに関する。
【0022】
第4の態様では、本発明は、対象の眼瞼に使用される本組成物を投与するための装置であって、本組成物が上記装置に付着、含浸または被覆されている装置に関する。
【0023】
第5の態様では、本発明は、本発明を使用するための上記装置および本組成物を含むキットに関する。
【0024】
第6の態様では、本発明は、対象の眼疾患または眼病を治療するために成分を前記対象の眼に持続および/または制御放出させる方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ポリアフロン
従って、本発明は、少なくとも1つの親水性相、少なくとも1つの疎水性相および少なくとも1種の界面活性剤を含むポリアフロンに関する。より好ましくは、本発明のポリアフロンは、
- 少なくとも1つの親水性相と、
- 少なくとも1つの疎水性相と、
- イオン性界面活性剤および/または非イオン性界面活性剤から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、
- 任意に、抗酸化剤、浸透圧剤、粘度調整剤、pH調整剤、緩衝剤、防腐剤、可溶化剤、キレート剤から選択される少なくとも1種の添加剤と、
- 任意に、少なくとも1種の有効成分と
を含む。
【0026】
親水性相
一実施形態によれば、本発明のポリアフロンは親水性相が水性組成物または水であるポリアフロンである。
【0027】
この水性組成物は、水混和性界面活性剤またはポリマーおよび水を含んでいてもよい。
【0028】
疎水性相
一実施形態によれば、本発明のポリアフロンは、疎水性相が、グリセリンの短鎖(C4~C6)脂肪酸モノ、ジおよびトリエステル、グリセリンの中鎖(C8~C12)脂肪酸モノ、ジおよびトリエステル、グリセリンの長鎖(C14以上)飽和脂肪酸モノ、ジおよびトリエステル、グリセリンの長鎖(C14以上)不飽和脂肪酸モノ、ジおよびトリエステル、植物油、扁桃油、ババス油、ブラックカラント種子油、ルリチシャ油、キャノーラ油、ヒマシ油、ヤシ油、タラ肝油、トウモロコシ油、綿実油、月見草油、魚油、ブドウ種子油、からし油、オーツ麦油(oat oil)、オリーブ油、パーム核油、パーム油、落花生油、菜種油、サフラワー油、胡麻油、サメ肝油、スクアラン、大豆油、ヒマワリ油、クルミ油、小麦胚芽油、水添ヒマシ油、水添ヤシ油、水添綿実油、水添パーム油、水添大豆油、部分水添大豆油、水添植物油、脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸イソプロピル…)、プロピレングリコールの短鎖(C4~C6)脂肪酸モノおよびジエステル、プロピレングリコールの中鎖(C8~C12)脂肪酸モノおよびジエステル、プロピレングリコールの長鎖(C14以上)飽和脂肪酸モノおよびジエステル、プロピレングリコールの長鎖(C14以上)不飽和脂肪酸モノおよびジエステル、脂肪アルコール(例えば、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール…)、分岐鎖状脂肪アルコール(例えば、オクチルドデカノール…)、シリコーン油、鉱油、ワセリン、ビタミンE、酢酸ビタミンE、トコフェロール、酢酸トコフェロール、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、リン脂質から選択される群のうちの少なくとも1つを含むポリアフロンである。
【0029】
好ましくは、本発明のポリアフロンの疎水性相は、薬学的に許容される油または薬学的に許容される油の混合物であるかそれらを含む。
【0030】
一実施形態では、本発明のポリアフロンの疎水性相はリン脂質を含まない。
【0031】
一実施形態では、本発明のポリアフロンの疎水性相はMCTを含む。一実施形態では、本発明のポリアフロンの疎水性相はMCTからなる。
【0032】
一実施形態では、本発明のポリアフロンの疎水性相は鉱油を含む。一実施形態では、本発明のポリアフロンの疎水性相は鉱油からなる。
【0033】
一実施形態では、本発明のポリアフロンの疎水性相はトリアセチンを含む。
【0034】
界面活性剤
非イオン性界面活性剤
一実施形態では、本発明のポリアフロンは少なくとも1種の非イオン性界面活性剤を含む。有利には、この少なくとも1種の非イオン性界面活性剤は、アルキルポリグリコールエーテル、アルキルポリグリコールエステル、エトキシル化アルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール水添ヒマシ油、ポリオキシエチレングリコールヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、モノラウリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン)、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー188、ポロキサマー407)、ポロキサマー、チロキサポール、ポリソルベート、スクロースアルキルエステル、スクロースアルキルエーテル、グリセリンの短鎖(C4~C6)脂肪酸モノおよびジエステル、グリセリンの中鎖(C8~C12)脂肪酸モノおよびジエステル、グリセリンの長鎖(C14以上)飽和脂肪酸モノおよびジエステル、グリセリンの長鎖(C14以上)不飽和脂肪酸モノおよびジエステル、プロピレングリコールの短鎖(C4~C6)脂肪酸モノエルテル、プロピレングリコールの中鎖(C8~C12)脂肪酸モノエルテル、プロピレングリコールの長鎖(C14以上)飽和脂肪酸モノエルテル、プロピレングリコールの長鎖(C14以上)不飽和脂肪酸モノエルテル、ポリオキシルグリセリド、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシルエチレンエーテル、コハク酸ビタミンEポリエチレングリコール、アルキルポリグリコシドの群から選択される。
【0035】
イオン性界面活性剤
一実施形態では、本ポリアフロンは少なくとも1種のイオン性界面活性剤を含む。このイオン性界面活性剤は、カチオン性界面活性剤であってもアニオン性界面活性剤であってもよい。
【0036】
有利には、少なくとも1種のイオン性界面活性剤は、C10~C24第一級アルキルアミン、第三級脂肪族アミン、第四級アンモニウム化合物、カチオン性脂質(例えば、ホスファチジルコリン)、アミノアルコール、ビグアニド塩、カチオン性ポリマーおよびそれらの2種以上の混合物の群から選択されるカチオン性界面活性剤である。好ましい実施形態では、少なくとも1種のカチオン性界面活性剤は、好ましくはハロゲン化ベンザルコニウム、ハロゲン化ラウラルコニウム、セトリミド、ハロゲン化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラデシルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ドデシルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化セトリモニウム、ハロゲン化ベンゼトニウム、ハロゲン化ベヘナルコニウム、ハロゲン化セタルコニウム、ハロゲン化セテチルジモニウム(cetethyldimonium halide)、ハロゲン化セチルピリジニウム、ハロゲン化ベンゾドデシニウム、ハロゲン化クロラリルメテンアミン(chlorallyl methenamine halide)、ハロゲン化ミリスタルコニウム、ハロゲン化ステアラルコニウムまたはそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される第四級アンモニウム化合物であり、ハロゲン化物は好ましくは塩化物または臭化物である。
【0037】
一実施形態では、少なくとも1種のイオン性界面活性剤は、リン脂質、レシチン、パーフルオロオクタン酸塩、パーフルオロオクタンスルホン酸塩、硫酸アルキル塩、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸塩、石鹸、脂肪酸塩またはそれらの混合物の群から選択されるアニオン性界面活性剤である。
【0038】
界面活性剤の量
本発明のポリアフロンは少なくとも1種の界面活性剤を含む。有利には、本発明のポリアフロン中の界面活性剤の量は、本ポリアフロンの総重量に対して0.005~5%、好ましくは0.05~5%の範囲の重量である。一般に、従来の乳濁液では、界面活性剤:油の比は、1/10~2/1の範囲である。本発明のポリアフロンでは、ポリアフロン中の界面活性剤:油の比は1/50~1/40の範囲であり、従って界面活性剤の量は、従来の乳濁液よりも本発明のポリアフロンにおいて非常に少ない。この違いにより、本発明のポリアフロンでは界面活性剤関連の副作用が限られているという点で乳濁液よりも優れた明らかな利点が得られる。
【0039】
添加剤
一実施形態では、本ポリアフロンは、抗酸化剤、浸透圧剤、粘度調整剤、pH調整剤または緩衝剤、防腐剤、可溶化剤、キレート剤の群から選択される添加剤を含む。添加剤の量は薬局方および生物学的基準に準拠して当業者が計算してもよい。
【0040】
抗酸化剤
一実施形態では、本ポリアフロンは、ビタミンE、重亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム(sodium metasulfite)、無水チオ硫酸ナトリウム、クエン酸一水和物、パルミチン酸アスコルビルおよびアスコルビン酸、ブチルヒドロキシルトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピルの群から選択される抗酸化剤を含む。これらの抗酸化剤を単独または組み合わせて使用することができる。抗酸化剤の量は薬局方基準および生物学的基準に準拠して当業者が計算してもよい。
【0041】
浸透剤
一実施形態では、本ポリアフロンは、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ソルビトール、マンニトール、キシリトールなどの群から選択される少なくとも1種の浸透剤を含む。また、浸透剤の量は薬局方基準および生物学的基準に準拠して決定する。
【0042】
粘度調整剤-本発明のポリアフロンの粘度
一実施形態では、本ポリアフロンは、カルボマー、ポリカルボフィル、セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース…)、ポビドン、コポビドン、天然ガム(例えば、ジェランガム、グアーガム、キサンタンガム、寒天、キシログルカン…)、ポロキサマーなどの群から選択される少なくとも1種の粘度調整剤を含む。これらの粘度調整剤は、薬局方(欧州および米国薬局方)および生物学的基準の要件を満たす量で単独または組み合わせて使用することができる。
【0043】
一実施形態では、本発明のポリアフロンは、非常に低い剪断速度(0.1s-1未満)において1Pa.sよりも高い粘度を示す。一実施形態では、本発明のポリアフロンは、ゼロの剪断速度において1Pa.sよりも高い粘度を示す。
【0044】
本ポリアフロンの粘度は当業者によって知られているレオメーター機器(例えば、回転型レオメーター、Kinexus社、英国モールヴァン)を用いて、大気圧(1atm)下、25~35℃で測定する。
【0045】
一実施形態では、本ポリアフロンは、対象の少なくとも1つの眼瞼に塗布するのをより容易かつより好都合にさせるずり減粘挙動およびチキソトロピー材特性を示す。
【0046】
pH調整剤または緩衝剤
一実施形態では、本ポリアフロンは、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ砂、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどから選択される少なくとも1種のpH調整剤または緩衝剤を含む。pH調整剤の量は、3.5~7.5に含まれる最終pH値の関数である。また、薬局方基準および生物学的基準に準拠したpH調整剤の量を使用する。
【0047】
防腐剤
一実施形態では、本ポリアフロンは、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、水銀塩、チオメルサール、クロルヘキシジン、ホウ酸および/またはその塩などから選択される少なくとも1種の防腐剤を単独または組み合わせで含む。また、薬局方基準および生物学的基準に準拠した防腐剤の量を使用する。
【0048】
可溶化剤
一実施形態では、本ポリアフロンは、エタノール、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、N-メチルピロリドン、グリコフロール、ジメチルイソソルビドから選択される少なくとも1種の可溶化剤を含む。また、薬局方基準および生物学的基準に準拠した可溶化剤の量を使用する。
【0049】
キレート剤
一実施形態では、本ポリアフロンは、エデト酸およびその塩、エチレングリコール四酢酸およびその塩、クエン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、リンゴ酸、酒石酸、フィチン酸およびそれらの塩から選択される少なくとも1種のキレート剤、より好ましくは、エデト酸、クエン酸、メタリン酸、ポリリン酸およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種、特に好ましくはエデト酸の塩を含む。また、薬局方基準および生物学的基準に準拠したキレート剤の量を使用する。
【0050】
水中油型ポリアフロンおよび製造プロセス
一実施形態では、本ポリアフロンは、連続相が水または親水性相を含むかそれらからなり、かつ分散相が疎水性内部コアを有するアフロンを含むかそれからなる水中油型ポリアフロンである。本実施形態では、連続相の量は、本ポリアフロンの総重量に対して2%~50%、好ましくは2%~20%の範囲の重量(水性組成物)であってもよく、アフロンの量は、ポリアフロンの総重量に対して50%~98%w/w、好ましくは70%~98%w/w、さらにより好ましくは80%~98%w/wの範囲の重量であってもよい。一実施形態では、水中油型ポリアフロンは、0.1~100μmの範囲の平均径を有するアフロンを含む。
【0051】
一実施形態では、水溶液を撹拌し、次いで疎水性相を滴下するプロセスに従って、本発明の水中油型ポリアフロンを製造する。好ましくは、この水溶液を室温で磁気撹拌子またはプロペラを用いて200rpm~1000rpmで撹拌し、アフロンの自己触媒形成が生じるのを可能にする比速度で疎水性相を添加する。
【0052】
油中水型ポリアフロンおよび製造プロセス
一実施形態では、本ポリアフロンは、連続相が疎水性相であり、かつ分散相が親水性内部コアを有するアフロンを含むかそれからなる油中水型ポリアフロンである。本実施形態では、連続相の量は、本ポリアフロンの総重量に対して2%~50%、好ましくは2%~20%の範囲の重量(疎水性相)であってもよく、アフロンの量は、ポリアフロンの総重量に対して50%~98%w/w、好ましくは70%~98%w/w、さらにより好ましくは80%~98%w/wの範囲の重量であってもよい。一実施形態では、油中水型ポリアフロンは、0.1~100μmの範囲の平均径を有するアフロンを含む。
【0053】
一実施形態では、油性相を撹拌し、次いで水溶液を滴下するプロセスに従って本発明の油中水型ポリアフロンを製造する。好ましくは、水溶液を室温で磁気撹拌子またはプロペラを用いて200rpm~1000rpmで撹拌し、アフロンの自己触媒形成が生じるのを可能にする比速度で油性相を添加する。
【0054】
有効成分を含まないポリアフロン
一実施形態では、本ポリアフロンはどんな有効成分も含有していない、すなわち薬物を全く含有していない。
【0055】
本実施形態では、本ポリアフロンを薬学的に許容される媒体とみなしてもよい。
【0056】
本実施形態では、本ポリアフロンは、例えばどちらも乾性角結膜炎(KCS)として臨床的に知られているドライアイ症候群または慢性ドライアイ疾患(CDED)などの、ドライアイ状態の治療に特に有用である。
【0057】
有効成分を含むポリアフロン
一実施形態では、本ポリアフロンは有効成分を含む。一実施形態では、有効成分は治療用の分子である。
【0058】
一実施形態では、前記有効成分は以下(単独または組み合わせ)から選択される。
- クロモグリク酸ナトリウム、アンタゾリン、クロルフェニラミン、セチリジン、オロパタジン、エピナスチン、ケトチフェン、アゼラスチン、エメダスチン、レボカバスチン、テルフェナジンおよびロラタジンなどの抗アレルギー薬、
- コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、デキサメタゾン21-リン酸塩、パルミチン酸デキサメタゾン、フルオロキノロン、プレドニゾン、メチルプレドニゾン、酢酸プレドニソロン、フルオロメトロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、ロテプレドノール、フルメタゾン、ベクロメタゾン、ジフルプレドナート、トリアムシノロンアセトニドおよびそれらの誘導体などの抗炎症薬、
- サリチル酸塩、インドメタシン、イブプロフェン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、オキシカム、ピロキシカムおよびCOX2阻害薬、例えば、ロフェコキシブ、ニメスリド、ネパフェナク(nepafenac)などの非ステロイド性抗炎症薬、
- マレイン酸チモロールを含むチモロールおよびその塩、レボブノロール塩酸塩およびベタキソロール塩酸塩、ベタキソロール、アテノロール、ベフンドール(befundol)、メチプラノロール、フォルスコリン、カルテオロールなどのβアドレナリン遮断薬、
- サイトカイン、インターロイキンおよびラタノプロストならびにビマトプロスト、タフルプロストまたはトラボプロストなどのプロスタグランジン(抗プロスタグランジンおよびプロスタグランジン前駆体も含む)、
- シクロスポリン、シロリムス、タクロリムス、
- ルテイン、ビタミン類、特にビタミンA、コエンザイムQ10、多価不飽和脂肪酸およびそれらの誘導体などの抗酸化薬、
- ブリンゾラミド、ドルゾラミド、アセタゾラミド、メタゾラミド、ジクロフェナミドなどの炭酸脱水酵素阻害薬、
- イドクスウリジン、トリフルオロチミジン、アシクロビル、バラシクロビル、ガンシクロビル、シドフォビルおよびインターフェロンなどの抗ウイルス薬、
- アミノグリコシド系、カルバセフェム系、カルバペネム系、セファロスポリン系、グリコペプチド系、ペニシリン系、ポリペプチド系、キノロン系、スルホンアミド系、テトラサイクリン系、クロルテトラサイクリン、バシトラシン、ネオマイシン、ポリミキシン、グラミシジン、セファレキシン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、カナマイシン、リファンピシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、シプロフロキサシン、アミノシド系、エリスロマイシン、セフタジジム、バンコマイシン、イミペネム、マクロライド系、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、フルオロキノロン系などの抗生物質、
- スルホンアミド系、スルファジアジン、スルファセタミド、スルファメチゾール、スルフィソキサゾール、ニトロフラゾンおよびプロピオン酸ナトリウムなどの抗菌薬、
- および/またはそれらの誘導体および/またはそれらのプロドラッグおよび/またはそれらの前駆体および/またはそれらの許容される塩。
【0059】
一実施形態では、前記有効成分は、ラタノプロスト、タフルプロスト、チモロール、ドルゾラミド、オロパタジン、エピナスチン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、シクロスポリンAおよびシロリムス、デキサメタゾン、パルミチン酸デキサメタゾンから選択される。
【0060】
一実施形態では、前記有効成分はオロパタジンである。一実施形態では、前記有効成分はエピナスチンである。一実施形態では、前記有効成分はクラリスロマイシンである。一実施形態では、前記有効成分はシクロスポリンAである。一実施形態では、前記有効成分はパルミチン酸デキサメタゾンである。
【0061】
一実施形態では、本ポリアフロンは有効成分を安定化させ、かつ/または保存する。
【0062】
滅菌
一実施形態では、本ポリアフロンは滅菌されていてもよい。
【0063】
滅菌方法の非限定的な例は、高圧蒸気滅菌法などの加熱、篩い分けまたは濾過、照射およびガス滅菌である。
【0064】
形態
一実施形態では、本発明のポリアフロンは、液体、流体、ゲル、粉末、軟膏、クリーム、パッチ、フィルム製剤、または眼瞼投与に適したあらゆる送達製剤であってもよい。
【0065】
好ましくは、本ポリアフロンは眼瞼皮膚への局所投与に適した粘度を有し、かつゲル、クリーム、軟膏またはパッチの形態あるいは眼瞼投与による眼への使用に適した任意の形態で対象に点眼または投与される。
【0066】
包装
一実施形態では、本ポリアフロンは単位用量で包装されており、別の実施形態では、本ポリアフロンは好適な多用量容器に包装されている。
【0067】
方法
眼瞼への塗布-キット
一態様では、本発明は、ポリアフロンを対象の少なくとも1つの眼瞼、上眼瞼および/または下眼瞼に局所塗布するための方法に関する。
【0068】
一実施形態では、本ポリアフロンを対象の眼の周りの皮膚に局所的に塗り広げる。一実施形態では、本ポリアフロンを対象の眼瞼に塗り広げる。一実施形態では、本ポリアフロンを対象の上眼瞼に塗り広げる。一実施形態では、本ポリアフロンを対象の下眼瞼に塗り広げる。
【0069】
別の実施形態では、本ポリアフロンを、例えばブラシまたは塗布具などの伸展装置を用いて塗布する。
【0070】
本発明は、本発明のポリアフロンを含む容器および上記伸展装置を備えたキットにも関する。
【0071】
経皮送達
別の態様では、本発明は、対象の眼疾患または眼病を治療するためにポリアフロンまたはその成分を前記対象の眼に経皮送達する方法に関する。
【0072】
一実施形態では、本発明の方法は、本ポリアフロンまたはその成分を眼表面または前眼部に送達するのに有用である。
【0073】
一実施形態では、本発明の方法は眼の治療に有用である。
【0074】
一実施形態では、本ポリアフロンは、添加剤として浸透促進剤、すなわち本ポリアフロンまたはその成分の眼表面または前眼部への経皮浸透を促進する化合物を含む。
【0075】
成分の持続および/または制御放出
別の態様では、本発明は、対象の眼疾患または眼病を治療するために成分を前記対象の眼に持続および/または制御放出させる方法に関する。
【0076】
一実施形態では、持続および/または制御放出は、対象の少なくとも1つの眼瞼、上眼瞼および/または下眼瞼への当該成分を含む本発明のポリアフロンの塗布によって得られる。
【0077】
一実施形態では、本発明の方法は、治療薬の持続および/または制御放出投与を達成するのに効率的である。
【0078】
一実施形態では、当該成分は、1時間~2週間、好ましくは6時間~1週間、好ましくは12時間~5日間の範囲の期間で持続および/または制御放出される。具体的な実施形態では、当該成分は1~3日間の範囲の期間で持続および/または制御放出される。
【0079】
一実施形態では、前記持続および/または制御放出速度(release kinetic)は、本ポリアフロンの製剤によって決まってもよい。具体的な実施形態では、当該放出速度は本ポリアフロンの親水性相の性質によって決まる。具体的な実施形態では、当該放出速度は本ポリアフロンの疎水性相の性質によって決まる。具体的な実施形態では、当該放出速度は、本ポリアフロンに含まれる界面活性剤または界面活性剤の混合物の性質によって決まる。具体的な実施形態では、当該放出速度は、本ポリアフロンに含まれる界面活性剤または界面活性剤の混合物の濃度によって決まる。
【0080】
一実施形態では、前記持続および/または制御放出速度は、本ポリアフロンの粘度によって決まってもよい。具体的な実施形態では、本ポリアフロンの粘度が上昇すると、当該放出速度は低下する。
【0081】
一実施形態では、前記持続および/または制御放出速度は、本ポリアフロンの平均小球サイズによって決まってもよい。具体的な実施形態では、本ポリアフロンの平均小球サイズが減少すると当該放出速度は低下する。
【0082】
一実施形態では、前記持続および/または制御放出速度は、対象の眼に塗布されるポリアフロンの体積によって決まってもよい。
【0083】
一実施形態では、持続および/または制御放出速度を対象の正確な必要性に合わせることができる。具体的な実施形態では、本ポリアフロンに含める界面活性剤または界面活性剤の混合物を選択することにより、当該放出速度を対象の正確な必要性に合わせることができる。具体的な実施形態では、本ポリアフロンに含める界面活性剤または界面活性剤の混合物の適当な濃度を選択することにより、当該放出速度を対象の正確な必要性に合わせることができる。具体的な実施形態では、本ポリアフロンの粘度および/または平均小球サイズを変更することにより、当該放出速度を対象の正確な必要性に合わせることができる。
【0084】
一実施形態では、本発明の方法は当該成分を眼表面または前眼部に持続および/または制御放出させるのに有用である。
【0085】
一実施形態では、本発明の方法は眼の治療に有用である。
【0086】
眼疾患または眼病
本発明の意味において、眼疾患または眼病は、例えばドライアイ症候群または慢性ドライアイ疾患などのドライアイ状態、例えば、乾性角結膜炎(KCS)、アトピー性角結膜炎(AKC)および春季角結膜炎(VKC)、緑内障、眼の炎症状態、例えば、角膜炎、角膜上皮びらん、ブドウ膜炎(前部ブドウ膜炎を含む)、眼内炎、アレルギーおよびドライアイ症候群眼感染症、眼感染症、眼アレルギー、角膜もしくは結膜病変、癌性増殖、糖尿病性黄斑浮腫、加齢性黄斑変性症、角膜の感覚消失、瞳孔の散瞳(mydriase)である。
【0087】
一実施形態では、眼病は、眼瞼炎、緑内障、例えばマイボーム腺機能不全(MGD)などのマイボーム腺疾患、および例えばドライアイ症候群または慢性ドライアイ疾患などのドライアイ状態、糖尿病性角膜症または神経栄養性角膜症であってもよい。
【0088】
一実施形態では、眼病はニキビダニ感染に関連してもよい。一実施形態では、眼病は緑内障である。一実施形態では、眼病は前部ブドウ膜炎である。
【0089】
別の態様では、本発明のポリアフロンは眼疾患または眼病の治療で使用するためのものである。
【0090】
別の態様では、本発明のポリアフロンは、眼疾患または眼病の治療のための医薬または薬物の製造で使用するためのものである。
【0091】
別の態様では、本発明は、治療的に活性な量の治療薬を当該治療薬を含むポリアフロンの局所塗布によりそれを必要とする患者に投与する、眼疾患または眼病の治療方法に関する。一実施形態では、本方法は、ポリアフロンを含む組成物を対象の上眼瞼および/または下眼瞼に局所投与する工程を含む。一実施形態では、局所塗布は眼瞼塗布である。
【0092】
一実施形態では、本ポリアフロンを4週間にわたって1日1回投与する。
【0093】
一実施形態では、ポリアフロンを介する眼瞼投与により、患者の治療による毒性および/または副作用を減少させる。
【0094】
定義
本発明では、以下の用語は以下の意味を有する。
【0095】
「アフロン」とは、それ自体は連続相と混和しない相からなるコアを包含する連続相と同じ材料からなる中間層を包含する界面活性剤を含む外層からなる複合体小球を指す。
【0096】
「連続相」とは分散相を包含する相を指す。
【0097】
「分散相」とは連続相に分散されている小球を指す。
【0098】
「眼瞼」は、眉から始まり睫毛の根元によって特定される下限までの上眼瞼と、眼窩部の下から始まり睫毛の根元によって特定される限界までの下眼瞼とを含む。
【0099】
「MCT」は中鎖トリグリセリドを意味する。
【0100】
「治療用の分子」は、病態、疾患を治療する特定の目的を有するあらゆる分子を意味する。
【0101】
「ND」は「未決定」を意味する。
【0102】
「眼瞼投与」とは、対象の少なくとも1つの眼瞼の外面への局所塗布を指す。
【0103】
「ポリアフロン」とは、連続相に分散されたアフロンと呼ばれる液体小球を指す。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【
図1】クラリスロマイシンが充填されたポリアフロン#28、油性溶液#29および軟膏#30の生体外での有効性試験の結果を示すグラフである(実施例6)。
【
図2】デキサメタゾンが充填されたポリアフロン#31~#33の生体外での浸透試験の結果を示すグラフである(実施例7)。
【
図3】オロパタジンHClが充填されたポリアフロン#21~#23の生体外での皮膚浸透試験の結果を示すグラフである(実施例8)。
【
図4】クラリスロマイシンが充填されたポリアフロン#34および溶液#39の生体内での有効性試験の結果を示すヒストグラムである(実施例10)。
【
図5】クラリスロマイシンが充填されたポリアフロン#34および軟膏#40の生体内での有効性試験の結果を示すヒストグラムである(実施例11)。
【
図6】クラリスロマイシンが充填されたポリアフロン#34および乳濁液#41の生体内での有効性試験の結果を示すヒストグラムである(実施例12)。
【実施例0105】
本発明を以下の実施例によってさらに例示する。
【0106】
実施例1:本発明に係る原薬を含まない水中油型ポリアフロン
【表1】
【0107】
実施例2:本発明に係るシクロスポリンAを含む水中油型ポリアフロン
【表2】
【0108】
実施例3:本発明に係るパルミチン酸デキサメタゾンを含む水中油型ポリアフロン
【表3】
【0109】
実施例4:本発明に係る親水性マーカーとしてのフルオレセインナトリウムまたは原薬としてのオロパタジンHClを含む油中水型ポリアフロン
【表4】
【0110】
実施例5:本発明に係る原薬としてのエピナスチンを含む油中水型ポリアフロン
【表5】
【0111】
最新式のレーザー回折機器(Helos Sympatec社、ドイツ)を用いて各ポリアフロンの小球粒度分布を測定した。この粒度分布は体積基準(Dv)で決定する。最新式のレオメーター(Kinexus社、英国モールヴァン)を用いて各ポリアフロンの粘度を測定した。
【0112】
表6に示されている組成物の物理的特性値によれば、小球粒度分布と当該系の粘度との間に相関が認められる。すなわち、当該組成物の粘性が高くなると小球粒度分布は小さくなる。これらの特徴は、本ポリアフロンの定性的もしくは定量的組成のいずれかによって決まってもよい。
【表6】
【0113】
実施例6:クラリスロマイシンを含む水中油型ポリアフロンの浸透の生体外評価
Millipore社(フランスのモルスアイム)から購入したStrat-Mメンブレンを備えたフランツセル装置を用いて、クラリスロマイシンの経皮浸透を評価した。Strat-Mメンブレンは、皮膚浸透をシミュレートする生体外試験のために使用される合成の膜である。
【0114】
ポリアフロン(組成物#28)からのクラリスロマイシンの放散を油性溶液(組成物#29)および軟膏(組成物#30)からの放散と比較した。72時間にわたるレセプター区画(receiver compartment)内のクラリスロマイシン濃度を超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)で測定した。
【0115】
【0116】
図1に開示されているように、軟膏#30の塗布により経皮浸透は生じないが、クラリスロマイシンはポリアフロン#28から放散した。従って、この実験は、治療薬の皮膚浸透の点でポリアフロンが軟膏よりも優れていることを明らかに実証している。
【0117】
クラリスロマイシンは膜を介して油性溶液#29から放散するが、そのような組成物は、その粘度(25~33mPa.s)が油性溶液を眼瞼に留まらせることができる程十分には高くないため、眼瞼への局所塗布には適していない。油性溶液は眼瞼に沿って、かつ/または眼の中に流れてしまう。対照的に、ポリアフロン#28の粘度(1Pa.s超)は眼瞼に留まるのに十分な程に高いため、眼瞼投与に適している。
【0118】
また、これも
図1に示すように、ポリアフロン#28は、驚くべき程効率的に72時間を超えてクラリスロマイシンを放出することができるが、油性溶液#29はクラリスロマイシンを即時放出する。これは、ポリアフロンの使用により皮膚を通した治療薬の持続および制御放出を得ることができることを実証している。
【0119】
実施例7:デキサメタゾンを含む水中油型ポリアフロンの浸透の生体外評価
Millipore社(フランスのモルスアイム)から購入したStrat-Mメンブレンを備えたフランツセル装置を用いて、デキサメタゾンの経皮浸透を評価した。Strat-Mメンブレンは、皮膚浸透をシミュレートする生体外試験のために使用される合成の膜である。
【0120】
最新式のレーザー回折機器(Helos Sympatec社、ドイツ)を用いて、各ポリアフロンの小球粒度分布を測定した。この粒度分布は体積基準(Dv)で決定する。最新式のレオメーター(Kinexus社、英国モールヴァン)を用いて、各ポリアフロンの粘度を測定した。
【0121】
異なる組成を有するポリアフロン(組成物#31~33)からのデキサメタゾンの放散を比較した。48時間にわたるレセプター区画内のデキサメタゾン濃度を超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)で測定した。
【0122】
【0123】
表9に示されている組成物の物理的特性値によれば、小球粒度分布と当該系の粘度との間に相関が認められる。すなわち、当該組成物の粘性が高くなると小球粒度分布は小さくなる。これらの特徴は、本ポリアフロンの定性的もしくは定量的組成のいずれかによって決まってもよい。
【表9】
【0124】
図2に開示されている結果は、ポリアフロンが皮膚を通してデキサメタゾンを48時間を超えて持続放出できることを明らかに実証している。また、それらはポリアフロンの組成がデキサメタゾンの放出プロファイルに影響を与えることを実証している。
【0125】
驚くべきことに、放出速度は界面活性剤の性質によって決まる。この放出は、界面活性剤がポロキサマーである組成物#32および33を用いた場合よりも界面活性剤がステアリン酸PEG-40とオレイン酸ソルビタンの混合物であるポリアフロン#31を用いた場合に速い。
【0126】
驚くべきことに、放出速度は組成物の粘度および小球粒度分布とも相関している。組成物#32および33を比較すると、界面活性剤の相対濃度が上昇すると小球粒度分布が減少すると共に粘度が上昇する。そのため、より大きな粒径を有するより粘性の低いポリアフロン#33を用いた場合よりも、より小さい粒径を有するより粘性の高いポリアフロン#32を用いた場合により遅い速度となる。
【0127】
従って、ポリアフロンからの放出速度は、ポリアフロンの定性的および/または定量的製剤を変更すること、例えば界面活性剤の性質および/または濃度に影響を与えることにより制御することができる。
【0128】
実施例8:オロパタジンHClを含む油中水型ポリアフロンの浸透の生体外評価
Millipore社(フランスのモルスアイム)から購入したStrat-Mメンブレンを備えたフランツセル装置を用いて、オロパタジンHClの経皮浸透を評価した。Strat-Mメンブレンは、皮膚浸透をシミュレートする生体外試験のために使用される合成の膜である。
【0129】
実施例4の表4に開示されている異なる組成を有するポリアフロン(組成物#21~23)からのオロパタジンHClの放散を比較した。48時間にわたるレセプター区画内のオロパタジンHCl濃度を超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)で測定した。
【0130】
図3に示すように、オロパタジンHClをポリアフロンを介して放散させると持続および制御放出も得られる。
【0131】
驚くべきことに、浸透促進剤として作用する親水性共溶媒(例えば、グリセリン、PEG400)の添加により、生体外でのStrat-Mメンブレンを通した浸透が促進される。
【0132】
実施例9:ポリアフロン#34~38の製造方法
生体内評価のためにクラリスロマイシンを含むポリアフロン#34~38(以下の実施例10~13)を使用した。
【0133】
以下のプロセスに従って、以下の表10のポリアフロン#34を製造した:200rpmで撹拌されたポリソルベート80SR(1g)を含有する水相(8.995g)に、CKC(0.005g)、モノカプリル酸プロピレングリコール(50g)およびクラリスロマイシン(1g)を含有する油性相MCT(39g)を滴下した。プロセスの開始時の油性相の添加速度はゆっくりであった(7秒ごとに約1滴)が、このポリアフロンを調製する総時間が約20分になるように油相の20%を添加するとすぐに加速された。
【0134】
同じ製造プロセスに従って、以下の表10のポリアフロン#35~38を調製した。
【表10】
【0135】
以下の表11のクラリスロマイシンを含む乳濁液および軟膏#39~42を比較のために調製した。
【表11】
【0136】
実施例10:生体内実験-角膜への点眼溶液#39と比較したポリアフロン#34の眼瞼塗布
マイボーム腺の閉塞はマイボーム腺機能不全(MGD)であり、これはドライアイの原因となることが多く、かつ眼瞼炎の一因にもなり得る。
【0137】
ポリアフロン#34(1%w/wのクラリスロマイシン)をマイボーム腺の閉塞を示す対象の眼瞼に4週間にわたって1日1回局所塗布した。比較のために、溶液#39(1%w/wのクラリスロマイシン)を対象の角膜に4週間にわたって1日3回点眼した。各製剤を6つの眼(n=6)で評価した。その結果が
図4に示されている。
【0138】
ポリアフロン#34(1%w/wのクラリスロマイシン)により、4週間の治療後に角膜に点眼される溶液#39(1%w/wのクラリスロマイシン)と同じ割合で閉塞された腺の数が減少した。
【0139】
さらに、眼瞼に局所塗布されたポリアフロン#34の毒性は角膜に直接点眼される溶液#39の毒性よりも低いことが臨床的に観察された。角膜に滴下された溶液により角膜上皮の刺激および壊死が引き起こされたが、ポリアフロン#34の眼瞼塗布では角膜の毒性の兆候は報告されなかった。
【0140】
実施例11:生体内実験-軟膏#40の眼瞼塗布と比較したポリアフロン#34の眼瞼塗布
ポリアフロン#34(1%w/wのクラリスロマイシン)をマイボーム腺の閉塞を示す対象の眼瞼に4週間にわたって1日1回局所塗布した。比較として、軟膏#40(3%w/wのクラリスロマイシン)を対象の眼瞼に4週間にわたって1日1回局所塗布した。各製剤を6つの眼(n=6)で評価した。その結果が
図5に示されている。
【0141】
ポリアフロン#34により、4週間の治療後に軟膏#40と同じ割合で閉塞された腺の数が減少した。但し、閉塞された細胞数の減少は、軟膏#40がポリアフロン#34よりも3倍以上濃縮されているという事実とバランスを図らなければならない。従って、ポリアフロン#34を使用する場合、軟膏#40と同じ効力を生じさせるためにはポリアフロンにおけるクラリスロマイシンの量の減少が必要となる。
【0142】
前記軟膏はクラリスロマイシンにおいて前記ポリアフロンよりも3倍以上濃縮されているにも関わらず、ポリアフロン#34の毒性プロファイルは軟膏#40の毒性プロファイルと同様である。ポリアフロン#34を用いた場合、角膜の毒性は観察されなかった。
【0143】
従って、ポリアフロン#34の眼瞼塗布は、少ない量でのクラリスロマイシンの使用を可能にし、より良好な安全性プロファイルを示す。
【0144】
実施例12:生体内実験-乳濁液#41の角膜塗布と比較したポリアフロン#34の眼瞼塗布
ポリアフロン#34(1%w/wのクラリスロマイシン)をマイボーム腺の閉塞を示す対象の眼瞼に4週間にわたって1日1回局所塗布した。比較として、乳濁液#41(1%w/wのクラリスロマイシン)を対象の眼瞼に4週間にわたって1日3回局所塗布した。各製剤を6つの眼(n=6)で評価した。その結果が
図6に示されている。
【0145】
ポリアフロン#34により、1週間の治療後に乳濁液#41よりも非常に大きな程度まで閉塞された腺の数が減少した。
【0146】
また、ポリアフロン#34は角膜に滴下される乳濁液#41と比較して安全性プロファイルの改善を示す。実際には、ポリアフロン#34の眼瞼への塗布後に角膜の毒性の兆候は報告されなかったが、乳濁液#41の滴下後に深刻な毒性(すなわち角膜上皮の壊死)が報告された。
【0147】
実施例13:ポリアフロン#37および水中油型乳濁液#42におけるクラリスロマイシンの定量分析による安定性測定
ポリアフロン#37(0.5%w/wのクラリスロマイシン)および水中油型乳濁液#42(0.5%w/wのクラリスロマイシン)を40℃および60℃で1週間加熱した。実験の終了時にクラリスロマイシンの量を測定し、最初の量と比較した。結果をクラリスロマイシンの最初の量の割合で示し、表12に示す。
【表12】
【0148】
40℃では、ポリアフロン#37において有効成分の99%が1週間の実験後に回収されるが、水中油型乳濁液#42において90%しか回収されない。60℃では、水中油型乳濁液#42において有効成分の72%しか回収されないが、ポリアフロン#37はなお96%の有効成分を含有している。
【0149】
従って、水中油型乳濁液#42と比較してポリアフロン#37によりクラリスロマイシンの安定性の向上が可能である。