(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163226
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】軟磁性体組成物、コア、およびコイル型電子部品
(51)【国際特許分類】
H01F 1/22 20060101AFI20221018BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20221018BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01F1/22
H01F27/255
H01F17/04 F
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131197
(22)【出願日】2022-08-19
(62)【分割の表示】P 2018165863の分割
【原出願日】2018-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松野 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 守
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 好孝
(72)【発明者】
【氏名】三浦 隆之
(72)【発明者】
【氏名】伊東 直樹
(57)【要約】
【課題】低いコアロスを達成できる軟磁性体組成物、コアおよびコイル型電子部品を提供することを目的とする。
【解決手段】軟磁性体組成物は、複数の軟磁性合金粒子21、22を有する。軟磁性合金粒子は、元素Mと鉄を含む。元素Mは、ケイ素よりイオン化傾向が強く、軟磁性合金粒子の間の領域30、31での元素Mに対するケイ素の質量比率の最大値を(Si/M)
MAXとしたとき、(Si/M)
MAXは1≦(Si/M)
MAX≦10を満たす。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の軟磁性合金粒子を有し、
前記軟磁性合金粒子が、元素Mと鉄を含み、
前記元素Mはケイ素よりイオン化傾向が強く、
前記軟磁性合金粒子の間の領域での元素Mに対するケイ素の質量比率の最大値を(Si/M)MAXとしたとき、
前記(Si/M)MAXは1≦(Si/M)MAX≦10を満たし、
前記(Si/M)MAXの箇所を含む所定の範囲において元素Mが連続して存在しており、
前記所定の範囲は、隣接する前記軟磁性合金粒子の間の距離の50%以上の範囲である軟磁性体組成物。
【請求項2】
前記(Si/M)MAXの箇所にアモルファス層が存在する請求項1に記載の軟磁性体組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の軟磁性体組成物から構成されるコア。
【請求項4】
前記コアの表面の少なくとも一部に被覆層が形成されている請求項3に記載のコア。
【請求項5】
請求項3または4に記載のコアを有するコイル型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性体組成物、コア、およびコイル型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
金属磁性体は、フェライトに比較して、高い飽和磁束密度が得られる利点がある。このような金属磁性体としては、Fe-Si-Al系合金やFe-Si-Cr系合金等が知られている。
【0003】
特許文献1では、クロム、アルミニウムおよびケイ素を含み透磁率を向上させた磁性体を用いたコイル型電子部品が提案されている。
【0004】
コイル型電子部品としては、例えばインダクタ、EMC用コイル、トランス等が挙げられる。
【0005】
近年では、これらのコイル型電子部品に用いられる磁性体はコアロスのより一層の低下が求められるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされ、低いコアロスを達成できる軟磁性体組成物、コアおよびコイル型電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る軟磁性体組成物は、
複数の軟磁性合金粒子を有し、
前記軟磁性合金粒子が、元素Mと鉄を含み、
前記元素Mはケイ素よりイオン化傾向が強く、
前記軟磁性合金粒子の間の領域での元素Mに対するケイ素の質量比率の最大値を(Si/M)MAXとしたとき、
前記(Si/M)MAXは1≦(Si/M)MAX≦10を満たす。
【0009】
本発明に係る軟磁性体組成物では、軟磁性合金粒子が元素Mを含み、(Si/M)MAXは1≦(Si/M)MAX≦10を満たすことにより、コアロスを低くすることができる。
【0010】
好ましくは、前記(Si/M)MAXの箇所にアモルファス層が存在する。
【0011】
アモルファス層が、(Si/M)MAXの箇所に存在することにより、コアロスを低くすることができる。
【0012】
好ましくは、前記(Si/M)MAXの箇所を含む所定の範囲において元素Mが連続して存在しており、
前記所定の範囲は、隣接する前記軟磁性合金粒子の間の距離の50%以上の範囲である。
【0013】
(Si/M)MAXの箇所を含む所定の範囲において元素Mが連続して存在することにより、コアロスを低くすることができる。
【0014】
また、本発明に係るコアは、上記のいずれかに記載の軟磁性体組成物から構成される。
【0015】
好ましくは、前記コアの表面の少なくとも一部に被覆層が形成されている。
【0016】
本発明に係るコイル電子部品は、上記コアを有する。コイル型電子部品としては、特に限定されないが、インダクタ、EMC用コイル、トランス等の電子部品が例示される。特に、回路基板上への面実装が可能な小型化されたコイル型電子部品に適している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】
図3は、EDS解析を行う際の観測点を示すコアの要部拡大断面図である。
【
図4】
図4は、結晶格子の制限視野回折パターンである。
【
図5】
図5は、アモルファス層の制限視野回折パターンである。
【
図6】
図6は、本発明の実施例に係る実施例4のEDS解析の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0019】
本実施形態に係るコイル型電子部品のコアは、圧粉成形により成形されるコア(圧粉コア)である。圧粉成形は、プレス機械の金型内に、軟磁性合金粉末を含む材料を充填し、所定の圧力で加圧して圧縮成形を施すことにより成形体を得る方法である。
【0020】
本実施形態に係るコア(磁芯)の形状としては、
図1に示したトロイダル型のほか、FT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、ドラム型、ポット型、カップ型等を例示することができる。このコアの周囲に単一または複数のワイヤを巻回することにより所望のコイル型電子部品を得ることができる。
【0021】
本実施形態に係るコイル型電子部品用のコアは、軟磁性体組成物から構成される。
【0022】
本実施形態に係る軟磁性体組成物は、
図2に示すように複数の軟磁性合金粒子21,22を有する。また、本実施形態では、隣り合う一方の軟磁性合金粒子21から他方の軟磁性合金粒子22までの領域を軟磁性合金粒子の間の領域30,31とする。
【0023】
本実施形態に係る軟磁性合金粒子21,22は、元素Mと鉄(Fe)を含む。特に限定されないが、本実施形態に係る軟磁性合金粒子21,22はこの他にケイ素(Si)、炭素(C)または亜鉛(Zn)を含んでもよい。
【0024】
元素Mは、ケイ素(Si)よりイオン化傾向が強い。また、元素Mは、軟磁性合金粒子21,22の表面に酸化被膜を形成する傾向を有する。元素Mとしては、例えばクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)が挙げられるが、鉄合金粒子への均一な酸化被膜の形成の観点から、クロム(Cr)またはアルミニウム(Al)が好ましい。また、元素Mとしては、一種類に限られず、複数の元素を用いてもよい。
【0025】
本実施形態に係る軟磁性合金粒子21,22は、例えば元素Mがクロム(Cr)の場合は、クロム(Cr)をCr換算で1~9質量%、ケイ素(Si)をSi換算で0~9質量%含有し、残部が鉄(Fe)で構成されている。
【0026】
また、本実施形態に係る軟磁性合金粒子21,22は、例えば元素Mがアルミニウム(Al)の場合は、アルミニウム(Al)をAl換算で1~9質量%、ケイ素(Si)をSi換算で0~14質量%含有し、残部が鉄(Fe)で構成されている。
【0027】
本実施形態に係る軟磁性合金粒子21,22におけるクロム(Cr)の含有量は、Cr換算で1~9質量%であることが好ましい。これにより、(Si/M)MAXを所定の範囲内にし易くなる。上記の観点から、軟磁性合金粒子21,22におけるクロム(Cr)の含有量は、Cr換算で3~7質量%であることがより好ましい。
【0028】
本実施形態に係る軟磁性合金粒子21,22におけるアルミニウム(Al)の含有量は、Al換算で1~9質量%であることが好ましい。これにより、(Si/M)MAXを所定の範囲内にし易くなる。上記の観点から、軟磁性合金粒子21,22におけるアルミニウム(Al)の含有量は、Al換算で3~7質量%であることがより好ましい。
【0029】
本実施形態に係る軟磁性合金粒子21,22におけるケイ素(Si)の含有量は、好ましくはSi換算で0~9質量%であり、より好ましくは2~8.5質量%である。
【0030】
本実施形態に係る軟磁性合金粒子21,22において残部は、鉄(Fe)のみから構成されていてもよい。
【0031】
本実施形態に係る軟磁性体組成物は、上記軟磁性合金粒子21,22の構成成分以外にも、炭素(C)および亜鉛(Zn)等の成分が含まれることがある。
【0032】
本実施形態に係る軟磁性体組成物における、炭素(C)の含有量は、好ましくは0.05質量%未満であり、より好ましくは0.01~0.04質量%である。
【0033】
本実施形態に係る軟磁性体組成物における、亜鉛(Zn)の含有量は、好ましくは0.004~0.2質量%であり、より好ましくは0.01~0.2質量%である。
【0034】
なお、本実施形態に係る軟磁性体組成物には、上記成分以外にも、不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0035】
本実施形態に係る軟磁性合金粒子21,22の平均結晶粒子径は、好ましくは4~60μmである。平均結晶粒子径を上記の範囲とすることで、コアの薄層化を容易に実現することができる。
【0036】
以下では、「軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31でのケイ素(Si)、元素Mおよび鉄(Fe)の合計質量に対するケイ素(Si)、元素Mまたは鉄(Fe)の質量比率」を「3元素質量比率」とする。
【0037】
また、以下では、「軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31での酸素(O)、ケイ素(Si)、元素Mおよび鉄(Fe)の合計質量に対する酸素(O)、ケイ素(Si)、元素Mまたは鉄(Fe)の質量比率を「4元素質量比率」とする。
【0038】
本実施形態では、アモルファス層が(Si/M)MAXの箇所に存在する。これにより、低いコアロスを達成できる軟磁性体組成物を得ることができる。
【0039】
上記の観点から、軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31には、アモルファス層であるSi-M酸化物またはSi-M複合酸化物が存在することが好ましい。
【0040】
なお、Si-M酸化物とは主にケイ素(Si)、元素Mおよび酸素(O)で構成された酸化物である。また、Si-M複合酸化物はケイ素(Si)、元素Mおよび酸素(O)を含むと共に、さらにこれら3成分(Si,MおよびO)以外の元素を含む酸化物である。
【0041】
Si-M複合酸化物に含まれる3成分(Si,元素MおよびO)以外の元素としては、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)または銅(Cu)が挙げられる。
【0042】
Si-M酸化物には、ケイ素(Si)、元素Mおよび酸素(O)以外の元素が、ケイ素(Si)、元素Mおよび酸素(O)の合計質量100質量%に対して合計で0.1質量%未満含まれている。
【0043】
Si-M酸化物に含まれる3成分(Si,元素MおよびO)以外の元素としては、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)または銅(Cu)が挙げられる。
【0044】
本実施形態では、軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31に軟磁性合金粒子21,22に含有される元素に由来しないケイ素(Si)を含むと考えられる。軟磁性合金粒子21,22に含有される元素に由来しないケイ素(Si)は、特に限定されないが、例えば、結合材として用いられるシリコーン樹脂に含まれるケイ素(Si)に由来すると考えられる。
【0045】
本実施形態では、軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31での元素Mに対するケイ素(Si)の質量比率の最大値を(Si/M)MAXとしたとき、(Si/M)MAXは1≦(Si/M)MAX≦10を満たす。これにより、低いコアロスを達成できる軟磁性体組成物を得ることができる。
【0046】
軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31に存在するアモルファス層であるSi-M酸化物またはSi-M複合酸化物は、そのランダム性により軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31を交差する渦電流損の低減に寄与する傾向となる。このため、(Si/M)MAXが所定の範囲内であり、なおかつ(Si/M)MAXの箇所にアモルファス層であるSi-M酸化物またはSi-M複合酸化物が存在することにより渦電流損が低減し、コアロスがより低下する傾向となる。
【0047】
本実施形態において、(Si/M)MAXを算出する方法としては、特に限定されないが、以下に具体的な方法を示す。
【0048】
まず、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いてコアの断面を観察することにより、軟磁性合金粒子21,22と軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31とを判別する。具体的には、コアの断面をSTEMにより撮影し、明視野(BF)像を得る。この明視野像において軟磁性合金粒子21,22と軟磁性合金粒子21,22との間に存在し、該軟磁性合金粒子21,22とは異なるコントラストを有する領域を軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31とする。異なるコントラストを有するか否かの判断は、目視により行ってもよいし、画像処理を行うソフトウェア等により判断してもよい。
【0049】
軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31の組成については、
図3に示すように、任意に選択した観測線Xにおいて、STEMに付属の十分に分解能が高いEDS装置を用いて、EDS分析を行う。
図6に本実施形態のEDS解析の結果を示す。
図6の第1縦軸は3元素質量比率を示し、第2縦軸はSi/M質量比率を示し、横軸は始点からの距離を示す。ここで「始点」とは軟磁性合金粒子21内の任意の点である。
【0050】
図6では、ケイ素(Si)の3元素質量比率が実線で示されており、クロム(Cr)の3元素質量比率が点線で示されており、鉄(Fe)の3元素質量比率が一点鎖線で示されており、Si/M質量比率が二点鎖線で示されている。
【0051】
図6において始点からの距離が0~0.35μmの区間は鉄(Fe)の3元素質量比率が95wt%付近でほぼ一定している。この区間は一方の軟磁性合金粒子21である。
【0052】
図6において始点からの距離が0.35μm~0.66μmの区間は鉄(Fe)の3元素質量比率が下降し、0wt%付近でほぼ一定した後、上昇している。この区間は軟磁性合金粒子21,22の間の領域31である。
【0053】
そして、
図6において始点からの距離が0.66μm~1.0μmの区間は再び鉄(Fe)の3元素質量比率が95~98wt%付近でほぼ一定している。この区間は他方の軟磁性合金粒子22である。
【0054】
そして、得られた数値を基に、軟磁性合金粒子21,22の間の領域31における(Si/M)MAXを決定する。
【0055】
特に限定されないが、本実施形態では、同じ位置における酸素(O)の4元素質量比率が8~65質量%であり、ケイ素(Si)の4元素質量比率が8~65質量%であり、および元素Mの4元素質量比率が8~65質量%である場合には、その位置はSi-M酸化物またはSi-M複合酸化物であると判断する。
【0056】
この他、酸素(O)のマッピング画像と、ケイ素(Si)のマッピング画像と元素Mのマッピング画像を比較して、同じ位置に酸素(O)とケイ素(Si)と元素Mが存在していれば、その位置はSi-M酸化物またはSi-M複合酸化物であると判断することもできる。
【0057】
本実施形態において、軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31にアモルファス層が存在するか否かを判断する方法としては、特に限定されず、例えば、走査透過型電子顕微鏡(TEM)の逆格子空間の制限視野回折パターン(SADP)を解析することで判断してもよい。制限視野回折パターンでは、規則的な結晶構造を持つ場合は、
図4に示すように、結晶構造を反映した各回折スポットが観察される。一方、規則的な結晶構造を持たないアモルファス層の場合は、
図5に示すように、中心のスポットを中心とした同心円が観察される。また、アモルファス層の場合は、中心スポット以外の明確な回折スポットは観察されない。
【0058】
本実施形態では、
図6に示すように、(Si/M)
MAXの箇所を含む所定の範囲において、元素Mが連続して存在していることが好ましい。これにより、低いコアロスを達成できる軟磁性体組成物を得ることができる。
【0059】
上記の観点から、(Si/M)MAXの箇所を含む所定の範囲において、ケイ素(Si)が連続していることが好ましい。
【0060】
ここで、所定の範囲は、隣接する軟磁性合金粒子21,22の間の距離の50%以上の範囲であることが好ましい。
【0061】
なお、所定の範囲において元素Mが連続しているとは、所定の範囲において、元素Mの3元素質量比率が、好ましくは8質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であることをいう。
【0062】
また、所定の範囲においてケイ素(Si)が連続しているとは、所定の範囲において、ケイ素(Si)の3元素質量比率が、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上であることをいう。
【0063】
所定の範囲の長さは、好ましくは0.01~0.4μm、より好ましくは0.01~0.1μmである。
【0064】
本実施形態に係るコアの表面の少なくとも一部には被覆層が形成されていてもよい。これによりコアのコアロスをさらに低下させることができる。
【0065】
被覆層の材質としては、特に制限されず、例えば、ガラス組成物、SiO2、B2O3、ZrO2または樹脂が例示される。なお、被覆層は複数の材質から構成されていてもよいし、複数の層からなる積層構造を有していてもよい。
【0066】
被覆層は、例えば、コアの表面の少なくとも一部に形成されている。コアの表面積に対する被覆層が形成される割合(被覆率)は、好ましくは50~100%である。被覆率が高くなるほど、コアの欠け等を防止する保護層としての役割も大きくなる。上記の観点から、被覆率は、90~100%であることがより好ましい。
【0067】
次に、本実施形態に係るコアの製造方法の一例を説明する。
本実施形態のコアは、軟磁性合金粉末と、結合材(バインダ樹脂)とを含む成形体を焼成することにより、作製することができる。以下、本実施形態のコアの好ましい製造方法につき、詳述する。
【0068】
本実施形態に係る製造方法は、好ましくは、
軟磁性合金粉末と、結合材とを混合し、混合物を得る工程と、
混合物を乾燥させて、造粒粉を形成する工程と、
混合物または造粒粉を、作製すべきコアの形状に成形し、成形体を得る工程と、
得られた成形体を加熱することにより、コアを得る工程と、を有する。
【0069】
また、コアに被覆層を形成してもよい。
【0070】
本実施形態に係る製造方法により得られたコアは、上記本実施形態に係る軟磁性体組成物によって構成されている。
【0071】
軟磁性合金粉末としては、クロム(Cr)をCr換算で1~9質量%、ケイ素(Si)をSi換算で0~9質量%含有し、残部が鉄(Fe)で構成された合金粒子を含有するものを用いることができる。
【0072】
軟磁性合金粉末の形状は特に制限はないが、高い磁界域までインダクタンスを維持する観点から、球状または楕円体状とすることが好ましい。これらの中では、コアの強度をより大きくする観点から、楕円体状が望ましい。
【0073】
また、軟磁性合金粉末の平均粒径は、好ましくは3~80μmである。軟磁性合金粉末の平均粒径が上記の範囲であると、透磁率が良好になるとともに、渦電流損失が生じにくくなり、異常損失が低減する傾向となる。また、取り扱いが容易となる。上記の観点から、軟磁性合金粉末の平均粒径は5~20μmであることがより好ましい。
【0074】
軟磁性合金粉末は、公知の軟磁性合金粉末の調製方法と同様の方法により得ることができる。この際、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転ディスク法等を用いて調製することができる。これらの中では、所望の磁気特性を有する軟磁性合金粉末を作製しやすくするため、水アトマイズ法が好ましい。
【0075】
結合材としては、シリコーン樹脂を含むものを用いる。結合材としてシリコーン樹脂を用いることにより、軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31に、軟磁性合金粒子21,22に含有される元素に由来しないケイ素(Si)が効果的に含まれる。その結果、軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31に、アモルファス層が形成され易くなる。
【0076】
なお、本発明の効果を妨げない範囲でその他の結合材が含まれていてもよい。その他の結合材としては、例えば各種有機高分子樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂および水ガラス等が挙げられる。
【0077】
結合材は、シリコーン樹脂を単独で、またはその他の結合材とで組み合わせて用いることができる。なお、軟磁性体組成物中の炭素(C)の含有量を0.05質量%未満に制限することが好ましいため、結合材は、主としてシリコーン樹脂を用いることが好ましい。軟磁性体組成物中の炭素(C)の含有量が上記の範囲であることにより、得られるコアの強度を良好にできる。
【0078】
結合材の添加量は、必要とされるコアの特性に応じて異なるが、好ましくは軟磁性合金粉末100質量%に対して、0.2~10質量%添加することができる。結合材の添加量が上記の範囲であることにより、軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31に、アモルファス層が形成され易くなる。上記の観点から、結合材の添加量は軟磁性合金粉末100質量%に対して、0.5~6質量%であることがより好ましい。
【0079】
シリコーン樹脂の添加量は、好ましくは軟磁性合金粉末100質量%に対して、0.2~8質量%である。シリコーン樹脂の添加量が上記の範囲であることにより、軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31に、アモルファス層が形成され易くなる。上記の観点から、シリコーン樹脂の添加量は、軟磁性合金粉末100質量%に対して、0.5~5質量%であることがより好ましい。
【0080】
また、前記混合物または造粒粉には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて有機溶媒を添加してもよい。
【0081】
有機溶媒としては、結合材を溶解し得るものであれば特に限定されないが、例えば、トルエン、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、酢酸エチル等の各種溶媒が挙げられる。
【0082】
また、前記混合物または造粒粉には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて各種添加剤、潤滑剤、可塑剤、チキソ剤等を添加してもよい。
【0083】
潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛およびステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、いわゆるスプリングバックが小さいという観点から、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を用いることが好ましい。
【0084】
潤滑剤を用いる場合には、その添加量は、好ましくは軟磁性合金粉末100質量%に対して、0.1~0.9質量%である。
【0085】
特に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を用いる場合には、得られる軟磁性体組成物中の、亜鉛(Zn)の含有量が、0.004~0.2質量%の範囲内となる添加量を調整することが好ましい。これにより、コアの強度がより良好になる傾向となる。
【0086】
混合物を得る方法としては、特に限定されるものではないが、従来公知の方法により、軟磁性合金粉末と結合材と有機溶媒とを混合して得られる。なお、必要に応じて各種添加材を添加してもよい。
【0087】
混合に際しては、例えば、加圧ニーダ、アタライタ、振動ミル、ボールミル、Vミキサー等の混合機や、流動造粒機、転動造粒機等の造粒機を用いることができる。
【0088】
また、混合処理の温度および時間としては、好ましくは室温で1~30分間程度である。
【0089】
造粒粉を得る方法としては、特に限定されず、公知の方法により、混合物を乾燥して得られる。
【0090】
乾燥処理の温度および時間としては、好ましくは室温~200℃程度で、1~60分間である。
【0091】
必要に応じて、造粒粉には、潤滑剤を添加することができる。造粒粉に潤滑剤を添加した後、1~60分間混合することが望ましい。
【0092】
成形体を得る方法としては、特に限定されず、公知の方法により、所望する形状のキャビティを有する成形金型を用い、そのキャビティ内に混合物または造粒粉を充填し、所定の成形温度および所定の成形圧力でその混合物を圧縮成形することが好ましい。
【0093】
圧縮成形における成形条件は特に限定されず、軟磁性合金粉末の形状および寸法や、圧粉コアの形状、寸法および密度などに応じて適宜決定すればよい。例えば、通常、最大圧力は100~1000MPa程度、好ましくは400~800MPa程度とし、最大圧力に保持する時間は0.5秒間~1分間程度とする。
【0094】
本実施形態に係る製造方法では、結合材がシリコ-ン樹脂を含むことにより、コアを構成する軟磁性合金粒子21,22の間の領域30,31にはアモルファス層が形成され易くなる。
【0095】
成形温度は、特に限定されないが、通常、室温~200℃程度が好ましい。これにより、成形体の密度が高まるとともに、得られるコアの性能をより良好にする。
【0096】
次に成形後に得られる成形体を焼成してコアを得る(焼成工程)。
【0097】
焼成工程の保持温度は、特に限定されないが、通常、600~900℃程度が好ましい。これにより、(Si/M)MAXを所定の範囲内にし易くなる。上記の観点から、焼成時の保持温度は700~850℃であることが好ましい。
【0098】
焼成工程の昇温速度は、特に限定されないが、成形体を加熱開始後短時間で保持温度に達成することが好ましい。このように、短時間で加熱することにより、(Si/M)MAXを所定の範囲内にし易くなる。
【0099】
焼成工程の上記の加熱法としては、特に限定されないが、例えば、薄く小面積の伝熱の良い容器を準備し、この容器に成形体を少ない数で(1~10個)、十分に離して載せる。具体的には、隣接する成形体を10~100mm離して載せる。次に、容器ごと成形体を保持温度に到達している炉に直接入れる方法が挙げられる。この他、保持温度に到達している加熱体を成形体の上下から挟み込みそのまま炉に入れる方法も挙げられる。
【0100】
焼成工程の雰囲気は特に限定されず、酸素含有雰囲気下にて行ってもよい。ここで、酸素含有雰囲気とは、特に限定されるものではないが、大気雰囲気(通常、20.95%の酸素を含む)、または、アルゴンや窒素等の不活性ガスとの混合雰囲気等が挙げられる。また、アルゴンや窒素等の不活性ガスの下にて行ってもよい。
【0101】
焼成工程の保持時間は特に限定されず、例えば10分~5時間である。
【0102】
次に、必要に応じて得られたコアに対して、コアの表面に、ガラス組成物、バインダ樹脂等から構成される熱処理前の被覆層を形成する。
【0103】
熱処理後、コアの表面には被覆層が形成される。
【0104】
このようにして得られたコアを磁芯として用いることができる。
【0105】
本実施形態に係る(Si/M)MAXは、軟磁性合金粉末の組成、コアの製造方法における、結合材の種類もしくはその添加量、その他の添加成分または、焼成工程の昇温速度、保持温度または雰囲気等により制御することができる。
【0106】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0107】
例えば、上述した実施形態では、混合物または造粒粉を圧粉成形することでコア(圧粉コア)を製造しているが、上記混合物をシート状成形して積層することによりコアを製造してもよい。また、乾式成形の他、湿式成形、押出成形などにより成形体を得てもよい。
【0108】
上述した実施形態では、軟磁性体組成物の粒界にケイ素(Si)を含有する層を形成するため、結合材としてシリコーン樹脂を用いているが、シリコーン樹脂に代えて、添加剤としてシリカゲルやシリカ粒子等のケイ素(Si)含有成分を用いてもよい。
【0109】
上述した実施形態では、軟磁性体組成物から構成されるトロイダル型のコアを示したが、この他、本実施形態の軟磁性体組成物は、コイルが埋め込まれているコアを構成することもできる。コイルが埋め込まれているコアとは、具体的には、コイルの周囲を囲み、軟磁性体組成物と樹脂とを含むコアである。
【0110】
また、本実施形態に係るコアの用途は特に限定されず、例えば、コイル型電子部品、スイッチング電源、DC-DCコンバーター、トランス、チョークコイル等の各種電子部品のコアとしても好適に用いることができる。
【実施例0111】
以下、実施例により発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0112】
(実施例1)
[軟磁性合金粉末の調製]
鉄(Fe)単体、クロム(Cr)単体およびケイ素(Si)単体のインゴット、チャンク(塊)、またはショット(粒子)を準備した。次にそれらをクロム(Cr)4質量%、ケイ素(Si)5質量%および残部鉄(Fe)の組成となるように混合して、水アトマイズ装置内に配置されたルツボに収容した。次いで、不活性雰囲気中、ルツボ外部に設けたワークコイルを用いて、ルツボを高周波誘導により1600℃以上まで加熱し、ルツボ中のインゴット、チャンクまたはショットを溶融、混合して融液を得た。
【0113】
次いで、ルツボに設けられたノズルから、ルツボ内の融液を噴出すると同時に、噴出した融液に高圧(50MPa)水流を衝突させて急冷することにより、Fe-Si-Cr系粒子からなる軟磁性合金粉末(平均粒径;11μm)を作製した。
【0114】
得られた軟磁性合金粉末を、蛍光X線分析法により組成分析した結果、仕込み組成と一致していることが確認できた。
【0115】
[コアの作製]
得られた軟磁性合金粉末100質量%に対し、シリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコ-ン(株)製:SR2414LV)4質量%を添加し、これらを加圧ニーダにより室温で30分間混合した。次いで、混合物を空気中において150℃で20分間乾燥した。乾燥後の軟磁性合金粉末に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛(日東化成製:ジンクステアレート)を添加し、Vミキサーにより10分間混合した。ステアリン酸亜鉛の添加量は、軟磁性合金粉末100質量%に対して0.5質量%であった。
【0116】
続いて、得られた混合物を、外径20mm×内径10mm×厚さ5mmのトロイダルサンプルに成形し、成形体を作製した。なお、成形圧は600MPaとした。
【0117】
保持温度に到達している加熱体を成形体の上下から挟み込み、炉に入れた。なお、表1および表2では、このような方法により成形体を昇温した場合は、「焼成条件」の欄に「短時間昇温」と記載している。成形体を保持温度650℃で60分間、大気中で焼成することにより、コアを得た。
【0118】
(実施例2~5および比較例3,4)
成形体の保持温度を表1に記載の通り変えた以外は実施例1と同様にしてコアを得た。
【0119】
(比較例1および2)
比較例1では、成形体を炉に入れて6時間かけて保持温度まで昇温し、比較例2では、成形体を炉に入れて2時間かけて保持温度まで昇温した以外は実施例1と同様にしてコアを得た。なお、比較例1および2では、加熱体を成形体の上下から挟み込んでいない。
【0120】
(実施例11~15および比較例13,14)
Cr単体の代わりにAl単体を用いて、鉄(Fe)91質量%、アルミニウム(Al)5質量%およびケイ素(Si)4質量%の組成となるように混合して、Fe-Si-Al系粒子からなる軟磁性合金粉末(平均粒径;9μm)を作製し、成形体の保持温度を表2に記載の通り変えた以外は実施例1と同様にしてコアを得た。
【0121】
(比較例11および12)
比較例11では、成形体を炉に入れて6時間かけて保持温度まで昇温し、比較例12では、成形体を炉に入れて2時間かけて保持温度まで昇温した以外は実施例11と同様にしてコアを得た。なお、比較例11および12では、加熱体を成形体の上下から挟み込んでいない。
【0122】
[各種評価]
【0123】
<(Si/M)MAXの確認>
コアの断面について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)により観察し、「軟磁性合金粒子」と「軟磁性合金粒子の間の領域」との判別を行った。
【0124】
次に、
図3に示すように、任意に選択した観測線Xにおいて、STEMに付属の十分に分解能が高いEDS装置を用いて、EDS分析を行った。得られた数値を基に(Si/M)
MAXを求めた。結果を表1および表2に示す。特に、実施例4の結果を
図6に示す。なお、
図6の第1縦軸は3元素質量比率を示し、第2縦軸はSi/M質量比率を示し、横軸は始点からの距離を示す。
【0125】
<アモルファス層の確認>
走査透過型電子顕微鏡(TEM)の逆格子空間の制限視野回折パターン(SADP)を解析することでアモルファス層の存在を判断した。
【0126】
<コアロス>
トロイダル圧粉コアサンプルに、銅線ワイヤを10ターン巻きつけ、LCRメーター(ヒューレットパッカード 4284A)を使用して、コアロスを測定した。測定条件としては、測定周波数1MHz、測定温度23℃、測定レベル0.4A/mとした。結果を表1および表2に示す。
【0127】
【0128】
【0129】
STEM観察およびEDS解析より、(Si/M)MAXが0.5超10.6未満である実施例1~5は、(Si/M)MAXが10.6以上である比較例1~3および(Si/M)MAXが0.5である比較例4に比べてコアロスが低いことが確認できた。
【0130】
TEM観察より、実施例1~4は(Si/M)MAXの箇所にアモルファス層が存在することが確認できた。なお、比較例4は、保持温度が高かったため、軟磁性合金粒子が一部融解して、合金化し、前記(Si/M)MAXの箇所にアモルファス層は形成されていなかった。
【0131】
STEM観察およびEDS解析より、(Si/M)MAXが0.7超14.0未満である実施例11~15は、(Si/M)MAXが14.0以上である比較例11~13および(Si/M)MAXが0.7である比較例14に比べてコアロスが低いことが確認できた。
【0132】
TEM観察より、実施例11~14は(Si/M)MAXの箇所にアモルファス層が存在することが確認できた。なお、比較例14は、保持温度が高かったため、軟磁性合金粒子が一部融解して、合金化し、アモルファス層は形成されていなかった。
【0133】
図6より、実施例4の(Si/M)
MAXの箇所を含む所定の範囲において、ケイ素(Si)およびクロム(Cr)が連続して存在していることが確認できた。
【0134】
また、実施例4について、下記の方法により、コアの軟磁性合金粒子の間の領域には、軟磁性合金粒子に含有される元素に由来しないケイ素(Si)が含まれるか否かについて確認した。
【0135】
図6(実施例4)では、クロム(Cr)はほとんどが軟磁性合金粒子の間の領域に存在しており、軟磁性合金粒子にはほとんど含まれていない。一方、鉄(Fe)はほとんどが軟磁性合金粒子に存在しており、軟磁性合金粒子の間の領域にはほとんど含まれていない。
【0136】
したがって、コアの製造過程で、軟磁性合金粉末のクロム(Cr)は軟磁性合金粒子の間の領域に移動し、軟磁性合金粉末の鉄(Fe)は軟磁性合金粒子に留まったと考えられる。
【0137】
このため、上記の軟磁性合金粉末の原料の鉄(Fe)とケイ素(Si)の質量比率と
図6の軟磁性合金粒子の部分の鉄(Fe)とケイ素(Si)の質量比率が概ね一致していれば、軟磁性合金粉末の原料のケイ素(Si)がそのまま軟磁性合金粒子のケイ素(Si)になったと言える。その結果、軟磁性合金粒子の間の領域に存在するケイ素(Si)は軟磁性合金粉末の原料に由来するケイ素(Si)ではなく、シリコーン樹脂に由来するケイ素(Si)であると言える。
【0138】
そして、計算したところ、上記の軟磁性合金粉末の原料の鉄(Fe)とケイ素(Si)の質量比率と
図6の軟磁性合金粒子の部分の鉄(Fe)とケイ素(Si)の質量比率が概ね一致していた。このため、軟磁性合金粒子の間の領域に存在するケイ素(Si)は軟磁性合金粉末の原料に由来するケイ素(Si)ではなく、シリコーン樹脂に由来するケイ素(Si)であると言える。