(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163256
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】軽量化放熱材
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20221019BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221019BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
C08J9/04 CER
C08J9/04 CEZ
C08L101/00
C08K3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068080
(22)【出願日】2021-04-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年2月19日 株式会社KRIのウェブサイトに公開。 公開のウェブページ:http://www.kri-inc.jp/tech/1275520_11451.html
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】林 裕之
【テーマコード(参考)】
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
4F074AA78
4F074AC33
4F074AG20
4F074BA03
4F074BA13
4F074BA16
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4J002BB031
4J002BB121
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4J002BF031
4J002BG001
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4J002CK011
4J002CK021
4J002CM041
4J002CP031
4J002DF016
4J002DK006
4J002FA091
4J002FD206
(57)【要約】
【課題】 コンポジットが軽量さを保ちつつ、等方に高い熱伝導率を有する材料として最適な軽量有機無機放熱材料及びその製造方法軽量有機無機放熱材料の提供。
【解決手段】 本発明の軽量有機無機放熱材料は、熱伝導無機フィラーを含む発泡プラスチックからなる軽量有機無機放熱材料であって、前記熱伝導無機フィラーが構造異方性の絶縁性熱伝導無機フィラーであり、前記放熱材料の密度が1.1g/cm
3以下で熱伝導率が1.0W/m/K以上である。そして、その製造方法は、絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチックの原料を準備する工程(工程1)と、絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチックの原料を混合し、混練して、熱伝導無機フィラーと発泡プラスチック原料を十分に馴染ませる工程(工程2)と、前記工程2で得られた混練生成物を鋳込み成型で発泡させてバルク体とする工程(工程3)を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導無機フィラーを含む発泡プラスチックからなる軽量有機無機放熱材料であって、前記熱伝導無機フィラーが構造異方性の絶縁性熱伝導無機フィラーであり、前記放熱材料の密度が1.1g/cm3以下で熱伝導率が1.0W/m/K以上である軽量有機無機放熱材料。
【請求項2】
前記構造異方性の絶縁性熱伝導無機フィラーが、窒化ホウ素及び/又は窒化ケイ素である請求項1に記載の軽量有機無機放熱材料。
【請求項3】
前記発泡プラスチックが、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル、ユリア樹脂、シリコーン、ポリイミド、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸共重合体、ポリエチレンテレフタレート、エチレンプロピレンジエンゴムのいずれか1種類である請求項1又は請求項2に記載の軽量有機無機放熱材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の軽量有機無機放熱材料の製造方法であって、軽量有機無機放熱材料の絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチック原料の体積比率が絶縁性熱伝導無機フィラー:発泡プラスチック原料=4:6~6:4になるよう絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチックの原料を準備する工程(工程1)と、絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチックの原料を混合し、混練して、熱伝導無機フィラーと発泡プラスチック原料を十分に馴染ませる工程(工程2)と、前記工程2で得られた混練生成物を鋳込み成型で発泡させてバルク体とする工程(工程3)を含む軽量有機無機放熱材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク体自体が軽量で熱等方性を兼ね備えた放熱材料として好適な有機無機放熱材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放熱用途の有機無機コンポジットは、樹脂と熱伝導率の高い無機物で構成されており、樹脂そのものの高熱伝導化や無機フィラーの形状、分散性、配向性やパーコレーションについて多くの研究がなされている。
そして、通信機器、電子機器、家電製品は、利便性の観点からますます軽量化、薄型化が求められており、機器内に組み込まれる放熱材も薄さ、軽さを追求しつつ、放熱性を確保することが重要になっている。同様に設置型機器類も熱問題を抱えており、放熱性の確保は重要である。設置型の場合、放熱材が必ずしも薄くある必要はなく、放熱性を最大限確保するためにブロック状でも構わない。
【0003】
以上のような情勢に鑑み、発泡性プラスチックに熱伝導体を含有させた発泡放熱材料が種々開発されている(特許文献1~3等)。そして、無機フィラーを窒化ホウ素として使用している実施例のある先行技術文献としては、特許文献4、5がある。
【0004】
しかし、窒化ホウ素は、板状の結晶で構造異方性をもっており、コンポジット化した場合配向しやすく、コンポジット形状が膜や板状であれば、膜平面あるいは板状平面の熱伝導率向上に寄与する反面、法線方向(面に対し垂直方向)の熱伝導率にはほとんど寄与しないのが欠点である。
【0005】
特許文献1~3の特許請求の範囲、明細書には、窒化ホウ素が熱伝導体粒子として記載されているが、実施例には記載がなく熱伝導シートとして性能を発揮している事実の記載がない。
また、特許文献4の実施例には、熱伝導体として窒化ホウ素を含有する発泡体シートが記載されているが、発泡体の熱伝導率は0.3~0.85W/m/Kと良好な結果が得られていない。
特許文献5は、板状フィラーの窒化ホウ素と球状フィラーを混合して良好な熱伝導率を有する熱伝導性発泡体シートを発明しているが、窒化ホウ素だけを含有する熱伝導性発泡体シートは、不良品しか作ることができていない(比較例3、表2)。
【0006】
上記六方晶窒化ホウ素の欠点を補い、平板の垂直方向に伝熱経路を確保するために、磁場配向による六方晶窒化ホウ素の配列制御、平板を積層したブロック体を作製し、それを90度回転させて配向方向を転換して垂直方向に六方晶窒化ホウ素を並べたり、あるいは予め六方晶窒化ホウ素の多孔質焼結体に樹脂を含侵させたり、予め六方晶窒化ホウ素の球状焼結体を作製して樹脂とコンポジット化するなどの手法がとられている。例えば、特許文献6では、平板を積層したブロック体を作製し、積層方向に平行にスライスして平板の垂直方向に窒化ホウ素が配向した熱伝導シートを製造している(実施例1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-254456号公報
【特許文献2】特開2014-209537号公報
【特許文献3】特開2017-79264号公報
【特許文献4】国際公開第2014/083890号
【特許文献5】特開2018-172682号公報
【特許文献6】国際公開第2018/101445号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、構造異方性粒子をランダムに配列して熱等方性を発現するとともに、有機無機コンポジットに相反する特性である軽さ(低密度)と高い熱伝導率を両立させる手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、硬質発泡プラスチックあるいは軟質発泡プラスチックの発泡に伴って形成される気泡による軽量化と、発泡したプラスチックの界面に固定された無機フィラーによって形成された伝熱経路によって、低密度でありながら等方的に高い熱伝導率を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とし、上記課題を解決するものである。
【0010】
〔1〕 熱伝導無機フィラーを含む発泡プラスチックからなる軽量有機無機放熱材料であって、前記熱伝導無機フィラーが構造異方性の絶縁性熱伝導無機フィラーであり、前記放熱材料の密度が1.1g/cm3以下で熱伝導率が1.0W/m/K以上である軽量有機無機放熱材料。
〔2〕 前記構造異方性の絶縁性熱伝導無機フィラーが、窒化ホウ素及び/又は窒化ケイ素である前記〔1〕に記載の軽量有機無機放熱材料。
〔3〕 前記発泡プラスチックがポリウレタン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル、ユリア樹脂、シリコーン、ポリイミド、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸共重合体、ポリエチレンテレフタレート、エチレンプロピレンジエンゴムのいずれか1種類である前記〔1〕又は〔2〕に記載の軽量有機無機放熱材料。
〔4〕 前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の軽量有機無機放熱材料の製造方法であって、軽量有機無機放熱材料の絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチック原料の体積比率が絶縁性熱伝導無機フィラー:発泡プラスチック原料=4:6~6:4になるよう絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチックの原料を準備する工程(工程1)と、絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチックの原料を混合し、混練して、熱伝導無機フィラーと発泡プラスチック原料を十分に馴染ませる工程(工程2)と、前記工程2で得られた混練生成物を鋳込み成型で発泡させてバルク体とする工程(工程3)を含む軽量有機無機放熱材料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従えば、プラスチックの発泡により有機無機コンポジット内に積極的に独立気泡を導入することができ、一般的な緻密な有機無機コンポジットと同量の無機フィラーを添加しても軽量さを担保すること、すなわち低密度化を図れる。併せて発泡したプラスチックの界面に無機フィラーが固定され、伝熱経路が形成され、かつ無機フィラーがランダムに並ぶことで、等方的に高熱伝導を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例に関わる軽量有機無機放熱材料のコンセプトを説明する概略図である。
【
図2】本発明の実施例で作製した軽量有機無機放熱材料のバルク平面の研削面である。
【
図3】本発明の実施例1、2及び比較例1、2で作製した軽量有機無機放熱材料のフィラー添加量と密度および気孔率を表したグラフである。
【
図4】本発明の実施例1、2及び比較例1、2で作製した軽量有機無機放熱材料の熱伝導率と若島式より算出した板状粒子の垂直配向と面配向したときの熱伝導率予測である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の軽量有機無機放熱材料は、熱伝導無機フィラーを含む発泡プラスチックからなる軽量有機無機放熱材料であって、前記熱伝導無機フィラーが構造異方性の絶縁性熱伝導無機フィラーであり、前記放熱材料の密度が1.1g/cm3以下で熱伝導率が1.0W/m/K以上である。熱伝導率は、好ましくは、1.5W/m/K以上である。
本発明の軽量有機無機放熱材料は、硬質発泡プラスチックあるいは軟質発泡プラスチックのいずれかと、構造異方性絶縁性熱伝導無機フィラーで構成される軽さと高熱伝導性を有する有機無機放熱材料であって、化学反応、発泡剤の添加あるいはガス充填によって発泡して得られる独立気泡を有している。
【0014】
前記発泡プラスチックを例示すると、硬質は、硬質発泡ポリウレタン、硬質発泡スチロール、フェノールフォーム、ポリ塩化ビニルフォーム、ポリイミドフォーム、エポキシフォーム、アクリルフォームなどが挙げられ、軟質は、軟質発泡ウレタン、シリコーンフォーム、プロピレンフォーム、エチレンフォーム、メラミンフォーム、ユリアフォーム、PVAフォーム、EVA架橋発泡体、PET樹脂発泡体、EPDMフォームなどが挙げられる。
【0015】
前記構造異方性絶縁性熱伝導無機フィラーは特に制限されないが、高い熱伝導率を有する窒化ホウ素、窒化ケイ素がより好ましい。
【0016】
前記構造異方性絶縁性熱伝導無機フィラーは、面配向しやすく、加圧成形、押出成形、射出成形、ロールプレス成形、ブレード成形、熱プレス成形など、一般的な手法で作製した有機無機放熱材料は熱異方性を示す。本発明ではプラスチックの発泡によって、垂直や斜め、平面などランダム方向に構造異方性絶縁性熱伝導無機フィラーが並ぶことによって、熱等方性を実現できることに利点がある。
【0017】
本発明の軽量有機無機放熱材料における絶縁性無機フィラーの含有量は、軽量有機無機放熱材料の絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチック原料の体積比率が絶縁性熱伝導無機フィラー:発泡プラスチック原料=4:6~6:4になるようにするのが好ましい。より好ましくは、5:5~6:4である。
そして、軽量有機無機放熱材料は、気泡の含有率が体積比率で、軽量有機無機放熱材料の体積中の40~80%であることが好ましい。より好ましくは、40~50%である。
このような絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチックの配合比及び気泡含有率にすることで、前記放熱材料の密度が1.1g/cm3以下、より好ましくは1.06g/cm3以下で、熱伝導率が1.0W/m/K以上、好ましくは熱伝導率が1.5W/m/K以上、より好ましくは1.7W/m/K以上である軽量有機無機放熱材料を得ることができる。
【0018】
本発明の軽量有機無機放熱材料は、鋳込み成型時の鋳型の形状を変えることにより、各種形状の放熱材、例えば薄板からバルク体まで成形可能である。発泡剤添加量、発泡温度を調整して発泡倍率を制御することによって、本材料の形状(厚み)を制御するか、想定する発泡倍率まで発泡させた後、加工により薄片化することもできる。
【0019】
前記構造異方性絶縁性熱伝導無機フィラーが、
図1に示したコンセプトに従って、発砲したプラスチックの界面に固定されてネットワークを形成し、伝熱経路の確保およびランダム配向によって熱等方性かつ高熱伝導率化が図れている。
図2は有機無機放熱材料のバルク体を法線方向から観察した2次電子像である。図中の破線で囲んだくぼみが空孔部分であり、くぼみの底部の構造異方性絶縁性熱伝導無機フィラーは扁平上の平面が確認され、破線の周囲の構造異方性絶縁性熱伝導無機フィラーは、扁平の端面が観察されることから、
図1のコンセプト通り、気泡の発生によって扁平粒子がランダムに配向して、伝熱経路を形成していることが確認できる。
【0020】
次に、本発明の有機無機放熱材料の製造方法について説明する。
本発明の軽量有機無機放熱材料は、軽量有機無機放熱材料の絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチック原料の体積比率が絶縁性熱伝導無機フィラー:発泡プラスチック原料=4:6~6:4になるよう絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチックの原料を準備する工程(工程1)と、絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチックの原料を混合し、混練して、熱伝導無機フィラーと発泡プラスチック原料を十分に馴染ませる工程(工程2)と、前記工程2で得られた混練生成物を鋳込み成型で発泡させてバルク体とする工程(工程3)を含むことにより製造することができる。
【0021】
まず、絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチック原料の体積比率が絶縁性熱伝導無機フィラー:発泡プラスチック原料=4:6~6:4、より好ましくは、5:5~6:4になるよう、絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチックの原料を準備する(工程1)。
絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチック原料の体積比率が、60%を超えると作製した放熱体の発泡倍率が低下するに伴い、脆くなり耐久性に問題が生じる。また、絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチック原料の体積比率が、40%以下になると伝導率が低くなり放熱材には適さなくなる。
【0022】
用いる発泡プラスチックは、2液混合により発泡させるタイプと発泡剤を添加して発泡させるタイプその他タイプを用いることができる。
2液混合タイプとしては、硬質発泡ポリウレタン、軟質発泡ウレタン、シリコーンフォーム、ポリイミドフォーム、を例示することができ、発泡剤添加タイプその他タイプとしては、硬質発泡スチロール、プロピレンフォーム、エチレンフォーム、フェノールフォーム、ポリ塩化ビニルフォーム、ユリアフォーム、シリコーンフォーム、ポリイミドフォーム、メラミンフォーム、エポキシフォーム、アクリルフォーム、EVA架橋発泡体、PET樹脂発泡体、EPDMフォームを例示することができる。
【0023】
発泡剤添加タイプの発泡剤としては、ジニトリルペンタメチレンテトラミン、アゾジカルボンアミド、p,p’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、炭酸水素ナトリウム、水等がある。
【0024】
続いて工程2においては、絶縁性熱伝導無機フィラーと発泡プラスチックを混合し、混練して、熱伝導無機フィラーと発泡プラスチック原料を十分に馴染ませる。そして、工程3では、工程2で得られた混練生成物を鋳込み成型で発泡させてバルク体として放熱体を製造することができる。
鋳込み成型に使用する鋳型は、発泡反応でバルク体を作製させることができれば、どのような形状であってもよい。適当な大きさのバルク体を作製して、その後、加工により目的の形状の放熱体にしても良い。
【0025】
工程2及び工程3は、発泡プラスチックのタイプにより若干その実施方法が異なるので、以下、発泡プラスチックのタイプ別に工程2及び工程3を説明する。
【0026】
まず、発泡プラスチックが、2液混合タイプの場合について説明する。
発泡プラスチックが、2液混合タイプの場合は、まず、絶縁性熱伝導無機フィラーと一方の液(A液)を混合し、絶縁性熱伝導無機フィラーが液で湿潤状態となるまで、すなわち液分で粒子が覆われるよう混錬する。
絶縁性熱伝導無機フィラーが、液分不足で発泡プラスチック原料で湿潤な状態にならない場合、絶縁性熱伝導無機フィラー重量と同等もしくはそれ以上の溶媒を添加して混錬することで、均一なペーストを得ることができる。溶媒としては、蒸気圧が高く、沸点が低いアセトンやエタノール、水等が挙げられる。
溶媒を添加した場合、十分に混錬が行われた後、反応の妨げとならないように室温減圧下または/あるいは発泡プラスチックの発泡温度以下の温度で熱処理して溶媒を除去する。アセトンを用いた場合は、室温減圧下で除去することが望ましく、エタノールや水などは加熱して除去することが望ましい。
【0027】
次に、他方の液(B液)を前記混練生成物に投入して発泡を開始するまで十分に混錬する。
混練が十分にできた後、混練物を鋳型に入れて発泡反応させ反応が終了するまで静置する。静置時間は、1時間もあれば十分である。
なお、工程2と工程3では、最初から鋳型を用いて混錬等の操作をしてもよい。
【0028】
続いて、発泡剤添加タイプの発泡プラスチックについて説明する。
発泡剤添加タイプの発泡プラスチックは、樹脂(プラスチック)、絶縁性熱伝導無機フィラー及び発泡剤の3つを所定の割合で十分に混錬する。混練後、鋳型に流し込んで100~180℃で加熱して樹脂を発泡させてバルク体を形成させる。
この場合も、最初から鋳型に3成分を加えて混錬してもよい。
【0029】
発泡剤を用いる樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン、シリコーン、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリエチレン酢酸共重合体、ポリエチレンテレフタレート、エチレンプロピレンジエンゴムが例示できる。
【0030】
特殊な例としては、以下のようなものがある。
樹脂がポリイミドの場合は、溶媒に分散した樹脂を用いる。
樹脂がスチレンの場合は、発泡剤を用いずに、発泡性スチレンビーズ、フィラー及び水を混錬して鋳込み、加熱、発泡させることもできる。
樹脂がポリエチレンの場合は、ポリエチレン樹脂、発泡性ポリエチレン樹脂ビーズ、フィラー及び水を混錬して鋳込み、加熱、発泡させることもできる。
【0031】
前記のような製法により、構造異方性絶縁性熱伝導無機フィラーがランダム方向に配列し、伝熱経路を形成することで高い熱伝導率を発現した有機無機放熱材料を作製することができる。
すなわち、本発明の有機無機放熱材料の製造方法は、発泡に際して得られる気泡を利用して、
図1に示した概念図のように気泡の界面に沿って構造異方性絶縁性熱伝導無機フィラーを並べ、固定することで、
図2のような内部組織を形成して、軽量化と高熱伝導率化の両立した有機無機放熱材料とすることができていると推察される。
【実施例0032】
(放熱材の見かけ密度の測定)
実施例及び比較例に示す作製した放熱材の見かけ密度は、得られた放熱材を10mm□に加工し、その重量を測定して算出した。
(放熱材の熱伝導率)
実施例及び比較例に示す作製した放熱材の熱伝導率は、得られた放熱材を10mm□に加工し、ネッチ・ジャパン製:LFA467を用いて熱拡散率の評価を行い、下記式(1)により求めた。
(熱伝導率)=(熱拡散率)×(比熱)×(密度) (1)
なお、式(1)の比熱は、物質固有の物性値であることから、混合則の計算式より求めた。
また、密度は実測の密度である。
【0033】
<実施例1>
ウレタン樹脂と窒化ホウ素が体積比で50:50になるように、2液タイプのウレタン樹脂(株式会社服部商店:サンシールHYUフォーム)の原液Aを5g、Bを6.25gと窒化ホウ素(デンカ株式会社:SGPSグレード)を10cm3秤量した。初めに、窒化ホウ素粉末とウレタン樹脂原液Aを混合し、溶媒としてアセトンを10cm3加えて原液Aと窒化ホウ素粉末をよく馴染ませた。次に、加えた溶媒を室温減圧下で揮発させた。その後、ウレタン樹脂原液Bを加えて素早く混合し、直径7cmの円筒形鋳型に流し込んで静置し、A液、B液の反応の開始から終了まで1時間放置しウレタン樹脂が発泡してバルク状になった放熱材を得た。
得られた放熱材の見掛け密度は0.92g/cm3で、熱伝導率は1.72W/m/Kであった。
【0034】
<実施例2>
ウレタン樹脂と窒化ホウ素が体積比で40:60になるように、2液タイプのウレタン樹脂(株式会社服部商店:サンシールHYUフォーム)の原液Aを4g、Bを5gと窒化ホウ素(デンカ株式会社:SGPSグレード)を12cm3秤量した。初めに、窒化ホウ素粉末とウレタン樹脂原液Aを混合した後、溶媒としてアセトンを12cm3加えてウレタン樹脂原液Aと窒化ホウ素粉末をよく馴染ませた。次に、加えた溶媒を室温減圧下揮発させた。その後、ウレタン樹脂原液Bを加えて素早く混合し、直径7cmの円筒形鋳型に流し込んで静置し、A液、B液の反応の開始から終了まで1時間放置しウレタン樹脂が発泡してバルク状になった放熱材を得た。
得られた放熱材の見掛け密度は、1.06g/cm3で、熱伝導率は2.91W/m/Kであった。
【0035】
<比較例1>
2液タイプのウレタン樹脂(株式会社服部商店:サンシールHYUフォーム)の原液を4.45g、Bを5.56gと窒化ホウ素(デンカ株式会社:SGPSグレード)を1.11cm3秤量した(ウレタン樹脂と窒化ホウ素の体積比88.9:11.1に相当)。初めに、窒化ホウ素粉末とウレタン樹脂原液Aを混合し、原液Aと窒化ホウ素粉末をよく馴染ませた。次にウレタン樹脂原液Bを加えて素早く混合し、直径7cmの円筒形鋳型に流し込んで静置し、A液、B液の反応の開始から終了まで1時間放置しウレタン樹脂が発泡してバルク状になった放熱材を得た。得られた放熱材の見掛け密度は、0.34g/cm3で、熱伝導率は、0.11W/m/Kであった。
【0036】
<比較例2>
2液タイプのウレタン樹脂(株式会社服部商店:サンシールHYUフォーム)の原液Aを7g、Bを8.75gと窒化ホウ素(デンカ株式会社:SGPSグレード)を6cm3秤量した(ウレタン樹脂と窒化ホウ素の体積比70:30に相当)。初めに、窒化ホウ素粉末とウレタン樹脂原液Aを混合し、原液Aと窒化ホウ素粉末をよく馴染ませた。次にウレタン樹脂原液Bを加えて素早く混合し、直径7cmの円筒形鋳型に流し込んで静置し、A液、B液の反応の開始から終了まで1時間放置しウレタン樹脂が発泡してバルク状になった放熱材を得た。
得られた放熱材の見掛け密度は0.59g/cm3で、熱伝導率は0.48W/m/Kであった。
【0037】
<比較例3>
2液タイプのウレタン樹脂(株式会社服部商店:サンシールHYUフォーム)の原液Aを6g、Bを7.5gと窒化アルミニウム(昭和電工株式会社:FAN-f30グレード)を8cm3(ウレタン樹脂と窒化ホウ素の体積比60:40に相当)秤量した。初めに、窒化アルミニウム粉末とウレタン樹脂原液Aを混合し、原液Aと窒化アルミニウム粉末をよく馴染ませた。次にウレタン樹脂原液Bを加えて素早く混合し、直径7cmの円筒形鋳型に流し込んで静置し、A液、B液の反応の開始から終了まで1時間放置しウレタン樹脂が発泡してバルク状になった放熱材を得た。得られた放熱材の見掛け密度は0.41g/cm3で、熱伝導率は0.09W/m/Kであった。
【0038】
<比較例4>
2液タイプのウレタン樹脂(株式会社服部商店:サンシールHYUフォーム)の原液Aを5g、Bを6.25gと窒化アルミニウム(昭和電工株式会社:FAN-f30グレード)を10cm3(ウレタン樹脂と窒化ホウ素の体積比50:50に相当)秤量した。初めに、窒化アルミニウム粉末とウレタン樹脂原液Aを混合する。溶媒としてアセトンを10cm3加えて原液Aと窒化アルミニウム粉末をよく馴染ませた。次に、加えた溶媒を室温減圧下揮発させた。ウレタン樹脂原液Bを加えて素早く混合し、直径7cmの円筒形鋳型に流し込んで静置し、A液、B液の反応の開始から終了まで1時間放置しウレタン樹脂が発泡してバルク状になった放熱材を得た。得られた放熱材の見掛け密度は0.68g/cm3で、熱伝導率は0.14W/m/Kであった。
【0039】
<比較例5>
エポキシ樹脂(日本化薬株式会社:GAN)および硬化剤(新日本理化:リカシッドMH-700G)をそれぞれ3.83gと3.07g、窒化ホウ素4cm3(樹脂と窒化ホウ素の体積比60:40に相当秤量した。十分に撹拌混合してペーストを作製した。緻密体を得るため、作製したペーストを円筒状の樹脂製ダイスに充填し、軽く加圧して円柱に成型後、乾燥器内160℃で硬化した。得られた放熱材の見掛け密度は1.31g/cm3で、熱伝導率は1.03W/m/Kであった。
【0040】
<比較例6>
エポキシ樹脂(日本化薬株式会社:GAN)および硬化剤(新日本理化:リカシッドMH-700G)をそれぞれ3.19gと2.56g、窒化ホウ素5cm3(樹脂と窒化ホウ素の体積比50:50に相当)秤量した。十分に撹拌混合してペーストを作製した。緻密体を得るため、作製したペーストを円筒状の樹脂製ダイスに充填し、軽く加圧して円柱に成型後、乾燥器内160℃で硬化した。得られた放熱材の見掛け密度は1.34g/cm3で、熱伝導率は2.07W/m/Kであった。
【0041】
実施例、比較例の結果をマトリックスの種類、フィラーの種類と発泡前のマトリックスとフィラーの体積に占めるフィラーの体積比率、作製した放熱材の密度、気孔率、発泡倍率、熱伝導率についてまとめて表1に示した。
【0042】
表中の発泡倍率は、下記式(2)により算出した。
発泡倍率=(未発泡の理論密度-実測密度)/(未発泡の理論密度-発泡時の理論密度)×5 (2)
式中で5を乗じているのは、用いたウレタン樹脂が5倍発泡タイプであることによる。
【0043】
【0044】
また、気孔率は、下記式(3)により算出した。
気孔率=(未発泡の理論密度-実測密度)/未発泡の理論密度×100(%) (3)
【0045】
図3に本発明の実施例1、2及び比較例1、2で作製した軽量有機無機放熱材料のフィラー添加量と密度および気孔率を表したグラフを示す。
グラフ中、▲は実測密度。●は気孔率を示し、実線はウレタン樹脂と窒化ホウ素の密度より混合則に従って求めた発泡がない場合の予測密度を示す。
図3から、本発明の放熱材は、低密度化を実現していることが分かる。
【0046】
図4に本発明の実施例1、2及び比較例1、2で作製した軽量有機無機放熱材料の熱伝導率と若島式より算出した板状粒子の垂直配向と面配向したときの熱伝導率予測値を示す。
コンポジットの熱伝導率を予測する式は数多く提唱されているが、その中で、扁平粒子(構造異方性粒子)が、すべて垂直配向したときの熱伝導率とすべて面配向したときの熱伝導率を予測する式として若島の式(“複合材料の有効熱伝導率推定モデル”,Netsu Bussei,6,4(1992))を用いて、実施例1、2、比較例1、2の実測値と若島の式から計算した値を比較したのが
図4である。
実施例1、2、比較例1、2で作製した有機無機放熱材料は、構造異方性絶縁性熱伝導無機フィラーがランダム方向に配列し、伝熱経路を形成することで垂直配向よりは低いが面配向したときよりは非常に高い熱伝導率を発現していることが、
図4のグラフから読み解ける。
すなわち、本発明の軽量有機無機放熱材料は、構造異方性絶縁性熱伝導無機フィラーが垂直配向あるいは面配向となった時の熱伝導率の中間値より高い値を示し、構造異方性絶縁性熱伝導無機フィラーが気泡によってランダム配列していることが示唆された。
本発明の軽量有機無機放熱材料は、軽さを必要とする電子機器や電気器具、摺動部に対し等方的に高い熱伝導率を有する放熱材料として好適である。また軽量有機無機放熱材料作製のアイディアおよび手法は、高い熱伝導率が期待される無機粒子、特に配向しやすい構造異方性無機粒子に対し、発泡によってプラスチックシェル界面に沿って配列、固定され、三次元的にネットワークを形成することで、伝熱経路が確保されて、軽量でありながら高い熱伝導率を発現できる。