(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163269
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】錯体化合物、インク及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C07F 5/00 20060101AFI20221019BHJP
C07C 251/24 20060101ALI20221019BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20221019BHJP
C09D 11/02 20140101ALI20221019BHJP
【FI】
C07F5/00 D
C07C251/24
C09K11/06
C09K11/06 660
C09D11/02
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068103
(22)【出願日】2021-04-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】槌本 昌信
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
4J039
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB99
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB99
4H048VA70
4H048VB10
4J039BA39
4J039EA28
4J039EA48
(57)【要約】
【課題】発光強度が高い錯体化合物と、これを含むインク及び樹脂組成物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される、錯体化合物。
X
+[Eu(L
1)(L
2)]
- ・・・(1)
式(1)中、L
1及びL
2は各々独立に、下記一般式(2)で表される化合物から誘導される、Eu錯体の配位子であり、X
+は対カチオンである。
[化1]
式(2)中、R
1及びR
2は各々独立に、水素原子、メチル基、フェニル基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、錯体化合物。
X
+[Eu(L
1)(L
2)]
- ・・・(1)
式(1)中、L
1及びL
2は各々独立に、下記一般式(2)で表される化合物から誘導される、Eu錯体の配位子であり、X
+は対カチオンである。
【化1】
式(2)中、R
1及びR
2は各々独立に、水素原子、メチル基、フェニル基である。
【請求項2】
請求項1に記載の錯体化合物を含む、インク。
【請求項3】
請求項1に記載の錯体化合物を含む、樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錯体化合物、インク及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ユウロピウム(III)イオンを含む化合物には、紫外線を照射すると強い赤色発光を示すものがあり、インビジブルインク、発光標識試薬、有機EL素子、太陽電池の波長変換材料、白色LED等の発光材料として使用されている。
ユウロピウムを用いた高い発光強度を示す発光材料として、例えばClを置換基として有するsalen型シッフ塩基であるN,N’-ビス-3,5-ジクロロサリチリデンエチレンジアミン(H2(3,5-Clsalen))を配位子とするユウロピウム(III)単核錯体が提案されている(例えば非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】S. Ebato, et. al., Chemistry Letters, Vol.39, No.7, 2010, p.706-707.
【非特許文献2】M. Tsuchimoto, et. al., Polyhedron, Vol.148, 2018, p.118-123.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1、2に記載の単核錯体には未だ改善の余地があり、さらなる発光強度の向上が求められる。
本発明は、発光強度が高い錯体化合物と、これを含むインク及び樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 下記一般式(1)で表される、錯体化合物。
X+[Eu(L1)(L2)]- ・・・(1)
式(1)中、L1及びL2は各々独立に、下記一般式(2)で表される化合物から誘導される、Eu錯体の配位子であり、X+は対カチオンである。
【0006】
【0007】
式(2)中、R1及びR2は各々独立に、水素原子、メチル基、フェニル基である。
【0008】
[2] 前記[1]の錯体化合物を含む、インク。
[3] 前記[1]の錯体化合物を含む、樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発光強度が高い錯体化合物と、これを含むインク及び樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例2で得られた錯体化合物の分子構造図である。
【
図2】実施例6で得られた錯体化合物の分子構造図である。
【
図3】実施例6及び比較例1で得られた錯体化合物のアセトニトリル溶液の吸収スペクトルである。
【
図4】実施例2、4、6で得られた錯体化合物のアセトニトリル溶液の吸収スペクトルである。
【
図5】実施例6で得られた錯体化合物のアセトニトリル溶液の発光スペクトルである。
【
図6】実施例6で得られた錯体化合物の固体の発光スペクトルである。
【
図7】実施例6で得られた錯体化合物を含むフィルムの発光スペクトルである。
【
図8】実施例2、7及び比較例1、2で得られた錯体化合物を含むフィルムの発光スペクトルである。
【
図9】実施例4、8及び比較例1で得られた錯体化合物を含むフィルムの発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
ただし、以下に説明する実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるため具体的に説明するものであり、特に指定のない限り発明内容を限定するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0012】
[錯体化合物]
本発明の錯体化合物は、下記一般式(1)で表されるユウロピウム(III)単核錯体である。
X+[Eu(L1)(L2)]- ・・・(1)
式(1)中、L1及びL2は各々独立に、下記一般式(2)で表される化合物から誘導される、Eu錯体の配位子であり、X+は対カチオンである。
対カチオンとしては、例えば(CnH2n+1)4N+、(CmH2m+1)3NH+、PPh4
+、アルカリ金属イオン(例えばNa+、K+等)、アルカリ金属の錯イオン(例えばクラウンエーテル錯体等)、銀イオン(Ag+)、銀の錯イオン(例えば[Ag(PPh3)4]+等)などが挙げられる。なお、nは1~5の整数であり、mは1~5の整数であり、Phはフェニル基である。
【0013】
【0014】
式(2)中、R1及びR2は各々独立に、水素原子、メチル基、フェニル基である。
R1及びR2としては各々独立に、発光強度がより高まる観点から水素原子、フェニル基が好ましく、R1及びR2の両方が水素原子であるか、フェニル基であることが好ましい。
式(2)中のトリフルオロメチル基(CF3)の位置は、3位でもよいし、4位でもよいし、5位でもよいが、錯体化合物の安定性及び透明性が高まり、インビジブルインクの材料として好適に用いられる観点から、3位又は5位が好ましい。すなわち、前記一般式(2)で表される化合物としては、下記一般式(21)で表される化合物又は下記一般式(22)で表される化合物が好ましい。
【0015】
【0016】
式(21)及び式(22)中、R1及びR2は各々独立に、水素原子、メチル基、フェニル基である。
【0017】
なお、本発明において、前記一般式(2)で表される化合物を「化合物(2)」又は「トリフルオロメチル基を有するsalen型シッフ塩基」ともいう。特に、式(2)中のR1及びR2が水素原子である場合において、トリフルオロメチル基を3位の位置に有する化合物を「H2(3-CF3salen)」と略し、トリフルオロメチル基を4位の位置に有する化合物を「H2(4-CF3salen)」と略し、トリフルオロメチル基を5位の位置に有する化合物を「H2(5-CF3salen)」と略す。また、R1及びR2がフェニル基である場合において、トリフルオロメチル基を3位の位置に有する化合物を「H2(3-CF3sal-(R,R)-stien)」又は「H2(3-CF3sal-(S,S)-stien)」と略し、トリフルオロメチル基を4位の位置に有する化合物を「H2(4-CF3sal-(R,R)-stien)」又は「H2(4-CF3sal-(S,S)-stien)」と略し、トリフルオロメチル基を5位の位置に有する化合物を「H2(5-CF3sal-(R,R)-stien)」又は「H2(5-CF3sal-(S,S)-stien)」と略す。
また、本発明において、前記一般式(21)で表される化合物を「化合物(21)」ともいい、前記一般式(22)で表される化合物を「化合物(22)」ともいう。化合物(21)は、トリフルオロメチル基を3位の位置に有する化合物であり、化合物(22)は、トリフルオロメチル基を5位の位置に有する化合物である。
【0018】
化合物(2)は、式(2)中のOとNがEuに結合することで、下記一般式(1A)で表されるように、Euに配位する。すなわち、本発明の錯体化合物は、下記一般式(1A)で表される。
【0019】
【0020】
式(1)中のL1は、式(1A)中のO11-A11-N11-A12-N12-A13-O12(ただし、O11とO12とN11とN12のEuと結合する結合手は省略する。)に相当し、式(1)中のL2は、式(1A)中のO21-A21-N21-A22-N22-A23-O22(ただし、O21とO22とN21とN22のEuと結合する結合手は省略する。)に相当する。
式(1A)中のO11-A11-N11-A12-N12-A13-O12は下記一般式(2A)であり、式(1A)中のO21-A21-N21-A22-N22-A23-O22は下記一般式(2B)であり、式(1A)中のX+は対カチオンである。なお、下記一般式(2A)において、O11とO12とN11とN12のEuと結合する結合手は省略する。また、下記一般式(2B)において、O21とO22とN21とN22のEuと結合する結合手は省略する。
【0021】
【0022】
式(21)及び式(22)中、R1及びR2は各々独立に、水素原子、メチル基、フェニル基である。
【0023】
前記一般式(1)で表される錯体化合物は、例えば以下のようにして製造できる。すなわち、本実施形態の錯体化合物の製造方法は、以下に示す工程(a)及び工程(b)を含む。
まず、溶媒中にて化合物(3)と化合物(4)とを反応させ、化合物(2)を得る(工程(a))。
【0024】
【0025】
化合物(3)としては、2-ヒドロキシ-3-トリフルオロメチルベンズアルデヒド、2-ヒドロキシ-4-トリフルオロメチルベンズアルデヒド、2-ヒドロキシ-5-トリフルオロメチルベンズアルデヒドが挙げられる。
化合物(4)としては、エチレンジアミン、(1R,2R)-1,2-ジフェニルエチレンジアミン、(1S,2S)-1,2-ジフェニルエチレンジアミン、(2R,3R)-2,3-ブタンジアミン、(2S,3S)-2,3-ブタンジアミンなどが挙げられる。
溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒などが挙げられる。
【0026】
化合物(3)と化合物(4)との反応割合、すなわち化合物(3)/化合物(4)で表されるモル比は、1.95~3が好ましく、2~2.5がより好ましい。モル比が上記範囲内であれば、未反応の化合物(3)や化合物(4)の割合が少なく、化合物(2)を高収率で得ることができる。
工程(a)の反応温度は、20~50℃が好ましく、25~45℃がより好ましい。
工程(a)の反応時間は、0.5~3時間が好ましく、1~2時間がより好ましい。
【0027】
次いで、溶媒中にて化合物(2)と化合物(5)と化合物(6)とを反応させ、前記一般式(1)で表される錯体化合物(以下、「化合物(1)」ともいう。)を得る(工程(b))。
【0028】
【0029】
化合物(5)は、ユウロピウム(III)を含む化合物である。化合物(5)としては、例えば酢酸ユウロピウム(III)n水和物、ユウロピウム(III)アセチルアセトナート二水和物などが挙げられる。
化合物(6)は、式(1)中のX+(対カチオン)の由来となる化合物である。化合物(6)としては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド;テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラペンチルアンモニウムブロミド等のテトラアルキルアンモニウムブロミド;テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラペンチルアンモニウムクロリド等のテトラアルキルアンモニウムクロリド;テトラフェニルホスホニウムブロミド;テトラフェニルホスホニウムクロリド;テトラエチルホスホニウムブロミド;テトラブチルホスホニウムクロリド;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等のトリアルキルアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等の水酸化アルカリ金属などが挙げられる。
なお、化合物(6)としてテトラアルキルアンモニウムブロミド、テトラアルキルアンモニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラエチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロリドなどを用いる場合には、化合物(2)のフェノール性水酸基のプロトンを引き抜くために、化合物(2)に対してモル比が1~3倍程度のピリジンやトリエチルアミンなどの塩基を加える。
溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒などが挙げられる。
【0030】
化合物(2)と化合物(5)との反応割合、すなわち化合物(2)/化合物(5)で表されるモル比は、1.95~3が好ましく、2~2.2がより好ましい。モル比が上記範囲内であれば、未反応の化合物(2)や化合物(5)の割合が少なく、化合物(1)を高収率で得ることができる。
化合物(2)と化合物(6)との反応割合、すなわち化合物(2)/化合物(6)で表されるモル比は、0.5~2.0が好ましく、1.0~2.0がより好ましい。モル比が上記範囲内であれば、未反応の化合物(2)や化合物(6)の割合が少なく、化合物(1)を高収率で得ることができる。
工程(b)では、予め化合物(2)と化合物(5)と溶媒に溶解、もしくは懸濁させて混合溶液を調製しておき、得られた混合溶液と化合物(6)とを混合することが好ましい。
工程(b)の反応温度は、20~50℃が好ましく、25~45℃がより好ましい。
工程(b)の反応時間は、0.5~3時間が好ましく、1~2時間がより好ましい。
【0031】
以上説明した本発明の錯体化合物は、ユウロピウム(III)に、上述した特定の配位子、すなわちトリフルオロメチル基を有するsalen型シッフ塩基が配位しているため、発光強度が高い。具体的には、固体の状態及び液体の状態で、320~380nmの波長の光を照射すると強く発光する。
特に、トリフルオロメチル基の位置が3位又は5位である錯体化合物は、白色光の下では、固体の状態で白色であり、液体の状態で無色透明である(すなわち、色として認識できない)ことから、インビジブルインクの材料として好適に用いられる。
なお、トリフルオロメチル基の位置が4位である錯体化合物は、白色光の下では、固体の状態及び液体の状態で共に薄い黄色である。
【0032】
本発明の錯体化合物は、インビジブルインク、発光標識試薬、有機EL素子、太陽電池の波長変換材料、白色LED等の発光材料として好適である。
【0033】
[インク]
本発明のインクは、上述した本発明の錯体化合物と、溶媒とを含み、必要に応じてバインダ、任意成分を含んでいてもよい。
溶媒としては、例えばアセトニトリル等のニトリル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;エチルアセテート、プロピルアセテート等のエステル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルキル系溶媒などが挙げられる。
【0034】
バインダとしては、例えばポリアクリレート又はポリメタクリレート(例えばポリメチルメタクリレート)、ポリスチレン、ポリオレフィン(例えばポリエチレン)、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリアリールエーテル、ポリビニル誘導体、セルロース誘導体、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0035】
任意成分としては、例えば界面活性剤、保湿剤、pH調整剤、消泡剤、酸化防止剤、還元防止剤などが挙げられる。
【0036】
錯体化合物の含有量は、インクの総質量に対して0.1~2質量%が好ましく、0.5~1質量%がより好ましい。
溶媒の含有量は、インクの総質量に対して98~99.9質量%が好ましく、99~99.5質量%がより好ましい。
バインダの含有量は、インクの総質量に対して5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
任意成分の含有量は、インクの総質量に対して5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
なお、インクに含まれる全ての成分の含有量の合計が、100質量%となるものとする。
【0037】
本発明のインクは、上述した本発明の錯体化合物を含むので、白色光の下では無色透明又は薄い黄色であるが、320~380nmの波長の光を照射すると強く発光する。
よって、本発明のインクは、インビジブルインクとして好適である。
【0038】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、上述した本発明の錯体化合物と、樹脂成分とを含み、必要に応じて任意成分を含んでいてもよい。
樹脂成分としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテル、ポリオレフィン、液晶ポリマー、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアクリロニトリルスチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリグリシジルメタクリレート(PGMA)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABS)等の熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂などが挙げられる。
【0039】
任意成分としては、例えば難燃剤、滑剤、離型剤、安定化剤、強化剤、酸化防止剤、可塑剤、粘度調整剤、顔料などが挙げられる。
【0040】
錯体化合物の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して0.1~1質量%が好ましく、0.2~0.5質量%がより好ましい。
樹脂成分の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して99~99.9質量%が好ましく、99.5~99.8質量%が好ましい。
任意成分の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
なお、樹脂組成物に含まれる全ての成分の含有量の合計が、100質量%となるものとする。
【0041】
本発明の樹脂組成物を成形することで成形体が得られる。
成形方法としては、例えば射出成形法、押出成形法、圧縮成形、ブロー成形法、カレンダー成形法などが挙げられる。
こうして得られた成形体は、例えば自動車分野、OA機器分野、家電、電気・電子分野、建築分野、生活・化粧品分野、医用品分野等の種々の材料として、工業的に広く利用することができる。
【0042】
本発明の樹脂組成物、及びこれを成形した成形体は、上述した本発明の錯体化合物を含むので、白色光の下では無色透明又は薄い黄色であるが、320~380nmの波長の光を照射すると強く発光する。
【実施例0043】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0044】
[配位子の製造]
<H2(3-CF3salen)の合成>
化合物(3-1)として2-ヒドロキシ-3-トリフルオロメチルベンズアルデヒド1.00g(5.29mmol)を溶解したエタノール溶液20mLに、化合物(4-1)としてエチレンジアミン0.16g(2.65mmol)を加え、30℃で1時間撹拌した。冷却後、生じた白色沈殿を濾過により回収し、少量のエタノールで洗い、乾燥させ、化合物(21-1)であるH2(3-CF3salen)を収量0.99g、収率92%で得た。
【0045】
【0046】
<H2(4-CF3salen)の合成>
化合物(3-2)として2-ヒドロキシ-4-トリフルオロメチルベンズアルデヒド2.00g(10.6mmol)を溶解したエタノール溶液20mLに、化合物(4-1)としてエチレンジアミン0.32g(5.3mmol)を加え、40℃で1時間撹拌した。冷却後、生じた白色の沈殿物を濾過により回収し、少量のエタノールで洗い、乾燥させ、化合物(23-1)であるH2(4-CF3salen)を収量1.82g、収率84%で得た。
【0047】
【0048】
<H2(5-CF3salen)の合成>
化合物(3-3)として2-ヒドロキシ-5-トリフルオロメチルベンズアルデヒド3.80g(20mmol)を溶解したエタノール溶液50mLに、化合物(4-1)としてエチレンジアミン0.60g(10mmol)を加え、40℃で1時間撹拌した。冷却後、生じた白色の沈殿物を濾過により回収し、少量のエタノールで洗い、乾燥させ、化合物(22-1)であるH2(5-CF3salen)を収量3.55g、収率88%で得た。
【0049】
【0050】
<H2(3-CF3sal-(R,R)-stien)の合成>
化合物(3-1)として2-ヒドロキシ-3-トリフルオロメチルベンズアルデヒド1.00g(5.29mmol)を溶解したエタノール溶液20mLに、化合物(4-2)として(1R,2R)-1,2-ジフェニルエチレンジアミン0.562g(2.65mmol)を加え、40℃で1時間撹拌した。冷却後、溶液を濃縮乾固し、水100mLを加えて撹拌した。生じた白色の沈殿物を濾過により回収し、水で洗い、乾燥させ、化合物(21-2)であるH2(3-CF3sal-(R,R)-stien)を収量1.43g、収率97%で得た。
【0051】
【0052】
<H2(5-CF3sal-(R,R)-stien)の合成>
化合物(3-3)として2-ヒドロキシ-5-トリフルオロメチルベンズアルデヒド3.80g(20mmol)を溶解したエタノール溶液50mLに、化合物(4-2)として(1R,2R)-1,2-ジフェニルエチレンジアミン2.12g(10mmol)を加え、40℃で1時間撹拌した。冷却後、生じた白色の沈殿物を濾過により回収し、少量のエタノールで洗い、乾燥させ、化合物(22-2)であるH2(5-CF3sal-(R,R)-stien)を収量4.65g、収率84%で得た。
【0053】
【0054】
<H2(3,5-Clsalen)の合成>
化合物(3-4)として3,5-ジクロロ-2-ヒドロキシベンズアルデヒド3.82g(20mmol)を溶解したエタノール溶液50mLに、化合物(4-1)としてエチレンジアミン0.60g(10mmol)を加え、40℃で1時間撹拌した。冷却後、生じた白色の沈殿物を濾過により回収し、少量のエタノールで洗い、乾燥させ、化合物(24-1)であるH2(3,5-Clsalen)を収量3.86g、収率95%で得た。
【0055】
【0056】
[実施例1]
化合物(21-1)であるH2(3-CF3salen)0.404g(1mmol)と、化合物(5-1)として酢酸ユウロピウム(III)四水和物0.201g(0.5mmol)をエタノール30mLに加え、30分撹拌し、混合溶液を得た。得られた混合溶液に、化合物(6-1)としてテトラプロピルアンモニウムヒドロキシドの10質量%水溶液1.0mL(0.5mmol)加え、40℃で1時間撹拌した。冷却後、生じた白色の沈殿物を濾過により回収し、少量のエタノールで洗い、乾燥させ、化合物(1-1)である錯体化合物((C3H7)4N+[Eu(3-CF3salen)2]-)を収量0.540g、収率94%で得た。
なお、化合物(1-1)は、前記一般式(1A)中のX+が(C3H7)4N+であり、前記一般式(2A)及び前記一般式(2B)中のR1及びR2が水素原子であり、トリフルオロメチル基が3位の位置である化合物に相当する。
化合物(1-1)は白色の粉末状であり、化合物(1-1)をアセトニトリルに溶解させた溶液は無色透明であった。
化合物(1-1)のC、H、Nの各元素について元素分析を行った。結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
[実施例2]
化合物(6-1)の代わりに化合物(6-2)としてテトラブチルアンモニウムヒドロキシドの10質量%水溶液1.3mL(0.5mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして化合物(1-2)である錯体化合物((C
4H
9)
4N
+[Eu(3-CF
3salen)
2]
-)を収量0.560g、収率93%で得た。
なお、化合物(1-2)は、前記一般式(1A)中のX
+が(C
4H
9)
4N
+であり、前記一般式(2A)及び前記一般式(2B)中のR
1及びR
2が水素原子であり、トリフルオロメチル基が3位の位置である化合物に相当する。
化合物(1-2)は白色の粉末状であり、化合物(1-2)をアセトニトリルに溶解させた溶液は無色透明であった。
化合物(1-2)のC、H、Nの各元素について元素分析を行った。結果を表1に示す。
また、化合物(1-2)の0.40mm×0.30mm×0.20mmの結晶について、単結晶X線構造解析を行った。X線回折強度の測定は、単結晶X線回折装置(Bruker社製、製品名「Smart APEXII ultra」)により、線源にCu回転対陰極を用いて-100℃で行った。初期構造はSHELXS-97を用いて解き、構造の精密化はSHELXL-2013ソフトウエアパッケージを用いて行った。分子構造図を
図1に示し、結晶データを以下に示す。
Crystal data:Orthorhombic,Pna2
1,a=23.4013(7)Å,b=10.4509(3)Å,c=43.7798(13)Å,Z=8,R=0.054。
【0059】
【0060】
[実施例3]
化合物(23-1)であるH2(4-CF3salen)0.404g(1mmol)と、化合物(5-1)として酢酸ユウロピウム(III)四水和物0.201g(0.5mmol)をエタノール30mLに加え、30分撹拌し、混合溶液を得た。得られた混合溶液に、化合物(6-1)としてテトラプロピルアンモニウムヒドロキシドの10質量%水溶液1.0mL(0.5mmol)加え、50℃で1時間撹拌した。冷却後、混合溶液を濃縮乾固し、生じた固体を水に懸濁させた。沈殿を濾過により回収し、少量の1-プロパノールで洗い、乾燥させ、化合物(1-3)である錯体化合物((C3H7)4N+[Eu(4-CF3salen)2]-)を収量0.384g、収率67%で得た。
なお、化合物(1-3)は、前記一般式(1A)中のX+が(C3H7)4N+であり、前記一般式(2A)及び前記一般式(2B)中のR1及びR2が水素原子であり、トリフルオロメチル基が4位の位置である化合物に相当する。
化合物(1-3)は薄い黄色の粉末状であり、化合物(1-3)をアセトニトリルに溶解させた溶液は薄い黄色であった。
化合物(1-3)のC、H、Nの各元素について元素分析を行った。結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
[実施例4]
化合物(6-1)の代わりに化合物(6-2)としてテトラブチルアンモニウムヒドロキシドの10質量%水溶液1.3mL(0.5mmol)を用いた以外は、実施例3と同様にして化合物(1-4)である錯体化合物((C4H9)4N+[Eu(4-CF3salen)2]-)を収量0.468g、収率78%で得た。
なお、化合物(1-4)は、前記一般式(1A)中のX+が(C4H9)4N+であり、前記一般式(2A)及び前記一般式(2B)中のR1及びR2が水素原子であり、トリフルオロメチル基が4位の位置である化合物に相当する。
化合物(1-4)は薄い黄色の粉末状であり、化合物(1-4)をアセトニトリルに溶解させた溶液は薄い黄色であった。
化合物(1-4)のC、H、Nの各元素について元素分析を行った。結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
[実施例5]
化合物(22-1)であるH2(5-CF3salen)0.404g(1mmol)と、化合物(5-1)として酢酸ユウロピウム(III)四水和物0.201g(0.5mmol)をエタノール40mLに加え、30分撹拌し、混合溶液を得た。得られた混合溶液に、化合物(6-1)としてテトラプロピルアンモニウムヒドロキシドの10質量%水溶液1.0mL(0.5mmol)加え、40℃で1時間撹拌した。冷却後、反応溶液を濃縮して乾固し、生じた白色の粉末を少量のエタノールで洗い、乾燥させ、化合物(1-5)である錯体化合物((C3H7)4N+[Eu(5-CF3salen)2]-)を収量0.448g、収率78%で得た。
なお、化合物(1-5)は、前記一般式(1A)中のX+が(C3H7)4N+であり、前記一般式(2A)及び前記一般式(2B)中のR1及びR2が水素原子であり、トリフルオロメチル基が5位の位置である化合物に相当する。
化合物(1-5)は白色の粉末状であり、化合物(1-5)をアセトニトリルに溶解させた溶液は無色透明であった。
化合物(1-5)のC、H、Nの各元素について元素分析を行った。結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
[実施例6]
化合物(22-1)であるH
2(5-CF
3salen)0.404g(1mmol)と、化合物(5-1)として酢酸ユウロピウム(III)四水和物0.201g(0.5mmol)をエタノール40mLに加え、30分撹拌し、混合溶液を得た。得られた混合溶液に、化合物(6-2)としてテトラブチルアンモニウムヒドロキシドの10質量%水溶液1.3mL(0.5mmol)加え、40℃で1時間撹拌した。冷却後、生じた白色の沈殿物を濾過により回収し、少量のエタノールで洗い、乾燥させ、化合物(1-6)である錯体化合物((C
4H
9)
4N
+[Eu(5-CF
3salen)
2]
-)を収量0.518g、収率87%で得た。
なお、化合物(1-6)は、前記一般式(1A)中のX
+が(C
4H
9)
4N
+であり、前記一般式(2A)及び前記一般式(2B)中のR
1及びR
2が水素原子であり、トリフルオロメチル基が5位の位置である化合物に相当する。
化合物(1-6)は白色の粉末状であり、化合物(1-6)をアセトニトリルに溶解させた溶液は無色透明であった。
化合物(1-6)のC、H、Nの各元素について元素分析を行った。結果を表1に示す。
また、化合物(1-6)の0.45mm×0.25mm×0.10mmの結晶について、単結晶X線構造解析を行った。X線回折強度の測定は、単結晶X線構造解析装置(株式会社リガク製、製品名「R-AXIS RAPID」)により、線源にMo封入管を用いて25℃で行った。初期構造はSHELXS-97を用いて解き、構造の精密化はSHELXL-97ソフトウエアパッケージを用いて行った。分子構造図を
図2に示し、結晶データを以下に示す。
Crystal data:Monoclinic,P2
1/c,a=12.1611(3)Å,b=21.0789(5)Å,c=21.8826(5)Å,β=90.018(1)°,Z=4,R=0.055。
【0067】
【0068】
[実施例7]
化合物(21-2)であるH2(3-CF3sal-(R,R)-stien)0.555g(1mmol)と、化合物(5-1)として酢酸ユウロピウム(III)四水和物0.201g(0.5mmol)をエタノール50mLに加え、30分撹拌し、混合溶液を得た。得られた混合溶液に、化合物(6-3)としてテトラブチルアンモニウムブロミド0.960g(3mmol)と、化合物(6-4)としてトリエチルアミン0.5mLを加え、50℃で1時間撹拌した。冷却後、生じた白色の沈殿物を濾過により回収し、少量のエタノールで洗い、乾燥させ、化合物(1-7)である錯体化合物((C4H9)4N+[Eu(3-CF3sal-(R,R)-stien)2]-)を収量0.614g、収率82%で得た。
なお、化合物(1-7)は、前記一般式(1A)中のX+が(C4H9)4N+であり、前記一般式(2A)及び前記一般式(2B)中のR1及びR2がフェニル基であり、トリフルオロメチル基が3位の位置である化合物に相当する。
化合物(1-7)は白色の粉末状であり、化合物(1-7)をアセトニトリルに溶解させた溶液は無色透明であった。
化合物(1-7)のC、H、Nの各元素について元素分析を行った。結果を表1に示す。
【0069】
【0070】
[実施例8]
化合物(22-2)であるH2(5-CF3sal-(R,R)-stien)0.555g(1mmol)と、化合物(5-1)として酢酸ユウロピウム(III)四水和物0.201g(0.5mmol)をエタノール50mLに加え、30分撹拌し、混合溶液を得た。得られた混合溶液に、化合物(6-3)としてテトラブチルアンモニウムブロミド0.960g(3mmol)と、化合物(6-4)としてトリエチルアミン0.5mLとを加え、50℃で1時間撹拌した。冷却後、反応溶液を濃縮して乾固した後に水を加え、クリーム色の沈殿物を得た。沈殿物を濾過により回収し、水で洗い、乾燥させ、化合物(1-8)である錯体化合物((C4H9)4N+[Eu(5-CF3sal-(R,R)-stien)2]-)を収量0.666g、収率88%で得た。
なお、化合物(1-8)は、前記一般式(1A)中のX+が(C4H9)4N+であり、前記一般式(2A)及び前記一般式(2B)中のR1及びR2がフェニル基であり、トリフルオロメチル基が5位の位置である化合物に相当する。
化合物(1-8)はクリーム色の粉末状であるが、化合物(1-8)をアセトニトリルに溶解させた溶液は無色透明であった。
化合物(1-8)のC、H、Nの各元素について元素分析を行った。結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
[比較例1]
化合物(24-1)であるH2(3,5-Clsalen)0.406g(1mmol)と、化合物(5-1)として酢酸ユウロピウム(III)四水和物0.201g(0.5mmol)をエタノール40mLに加え、1時間撹拌し、混合溶液を得た。得られた混合溶液に、化合物(6-4)としてトリエチルアミン1mLを加え、60℃で1時間撹拌した。冷却後、生じたクリーム色の沈殿物を濾過により回収し、少量のエタノールで洗い、乾燥させ、化合物(1-9)である錯体化合物((C2H5)3NH+[Eu(3,5-Clsalen)2]-)を収率94%で得た。
なお、化合物(1-9)は、前記一般式(1A)中のX+が(C2H5)3NH+であり、前記一般式(2A)及び前記一般式(2B)中のR1及びR2が水素原子であり、トリフルオロメチル基の代わりにClを3位と5位の位置に有する化合物に相当する。
化合物(1-9)はクリーム色の粉末状であり、化合物(1-9)をアセトニトリルに溶解させた溶液は薄い黄色であった。
化合物(1-9)のC、H、Nの各元素について元素分析を行った。結果を表1に示す。
【0073】
【0074】
[比較例2]
化合物(24-1)であるH2(3,5-Clsalen)0.406g(1mmol)と、化合物(5-1)として酢酸ユウロピウム(III)四水和物0.201g(0.5mmol)をメタノール40mLに加え、1時間撹拌し、混合溶液を得た。得られた混合溶液に、化合物(6-5)としてテトラエチルアンモニウムヒドロキシドの10質量%水溶液0.74mL(0.5mmol)加え、60℃で1時間撹拌した。冷却後、生じたクリーム色の沈殿物を濾過により回収し、少量のメタノールで洗い、乾燥させ、化合物(1-10)である錯体化合物((C2H5)4N+[Eu(3,5-Clsalen)2]-)を収率81%で得た。
なお、化合物(1-10)は、前記一般式(1A)中のX+が(C2H5)4N+であり、前記一般式(2A)及び前記一般式(2B)中のR1及びR2が水素原子であり、トリフルオロメチル基の代わりにClを3位と5位の位置に有する化合物に相当する。
化合物(1-10)はクリーム色の粉末状であり、化合物(1-10)をアセトニトリルに溶解させた溶液は薄い黄色であった。
化合物(1-10)のC、H、Nの各元素について元素分析を行った。結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
【0077】
[測定・評価]
<吸収スペクトルの測定>
実施例6で得られた錯体化合物(化合物(1-6))、及び比較例1で得られた錯体化合物(化合物(1-9))を、それぞれ濃度が2.0×10
-5mol/Lとなるようにアセトニトリルに溶解させた。得られた各アセトニトリル溶液について、分光光度計(日本分光株式会社製、製品名「V-570」)を用いて吸収スペクトルを測定した。結果を
図3に示す。
また、実施例2で得られた錯体化合物(化合物(1-2))、及び実施例4で得られた錯体化合物(化合物(1-4))を濃度が2.0×10
-5mol/Lとなるようにアセトニトリルに溶解させた。得られたアセトニトリル溶液について、分光光度計(日本分光株式会社製、製品名「V-570」)を用いて吸収スペクトルを測定した。結果を
図4に示す。なお、
図4には、実施例6で得られた錯体化合物のアセトニトリル溶液の吸収スペクトルの結果も示す。
【0078】
図3から明らかなように、実施例6で得られた錯体化合物のアセトニトリル溶液の吸収スペクトルを測定したところ、337nmに配位子のπ-π
*遷移に由来する吸収帯のピークがあることが分かった。その吸収帯の裾野は400nm付近まで広がっているが、可視領域(400~900nm)にはかかっておらず、アセトニトリル溶液の色は無色透明であった。
一方、比較例1で得られた錯体化合物のアセトニトリル溶液の吸収スペクトルでは、359nmに配位子のπ-π
*遷移に由来する吸収帯のピークがある。そして、その吸収帯の裾野は可視領域の400nm以上の波長まで広がっており、アセトニトリル溶液の色は薄い黄色であった。
【0079】
また、
図4から明らかなように、実施例2、4、6で得られた錯体化合物において、配位子のπ-π
*遷移に由来する吸収帯のピークは配位子のベンゼン環上にあるトリフルオロメチル基の位置によって異なることが分かった。すなわち、化合物(1-6)のπ-π
*吸収帯のピークが337nmと最も短波長であり、化合物(1-4)のπ-π
*吸収帯のピークが352nmと最も長波長であった。化合物(1-2)のπ-π
*吸収帯のピークは343nmであり、化合物(1-6)及び化合物(1-4)の中間にあった。この吸収波長の違いは、電子吸引基であるトリフルオロメチル基の電子的影響によるものと考えられる。また、これらの化合物の固体粉末の色は、化合物(1-2)と化合物(1-6)が白色であり、化合物(1-4)が薄い黄色であり、吸収スペクトルの結果と一致している。
【0080】
<発光特性の評価>
(発光スペクトルの測定1)
実施例6で得られた錯体化合物を濃度が2.0×10
-6mol/Lとなるようにアセトニトリルに溶解させた。得られたアセトニトリル溶液について、分光蛍光光度計(株式会社日立製作所製、製品名「F-7000」)を用い、励起波長337nmで溶液の発光スペクトルを測定した。結果を
図5に示す。
【0081】
また、実施例6で得られた錯体化合物について、分光蛍光光度計(株式会社日立製作所製、製品名「F-7000」)を用い、励起波長337nmで固体の発光スペクトルを測定した。結果を
図6に示す。
【0082】
(発光スペクトルの測定2)
実施例2、4、6~8で得られた錯体化合物、及び比較例1、2で得られた錯体化合物を用い、キャスト法により以下のようにしてフィルムを作製した。
直径5.5cmのアルミカップ中で錯体化合物0.005mmolをジクロロメタン30mLに溶解させた後、撹拌しながらポリメチルメタクリレート(PMMA)1.00gを加えて溶解させ、混合溶液を得た。得られた混合溶液を30℃で24時間放置することでジクロロメタンを蒸発させて、厚さ0.32±0.02mmのフィルムを得た。
得られたフィルムを縦8.8mm、横8.8mmの大きさに切断し、積分球を搭載した分光蛍光光度計(株式会社日立製作所製、製品名「F-7000」)を用い、励起波長365nmで発光スペクトルを同一条件(同一の電圧、スリット幅)において測定した。
実施例6で得られた錯体化合物を含むフィルムの発光スペクトルを
図7に示す。
実施例2、7で得られた錯体化合物、及び比較例1、2で得られた錯体化合物を含むフィルムの発光スペクトルを
図8に示す。
実施例4、8で得られた錯体化合物、及び比較例1で得られた錯体化合物を含むフィルムの発光スペクトルを
図9に示す。
【0083】
(量子収率の測定)
実施例2、4、6~8で得られた錯体化合物を、それぞれ濃度が2.0×10-6mol/Lとなるように溶媒に溶解させた。得られた各溶液について、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス株式会社製、製品名「Quantaurus-QY C11347-01」)を用い、絶対法で溶液の量子収率を励起波長365nmで測定した。結果を表2に示す。なお、溶媒としては、アセトニトリル、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、アセトンのいずれかを用いた。結果を表2に示す。
【0084】
一方、比較例1、2で得られた錯体化合物については、以下のようにして量子収率を測定した。
まず、比較例1で得られた錯体化合物を濃度が2.0×10-6mol/Lとなるようにアセトニトリルに溶解させた。得られたアセトニトリル溶液について、積分球を搭載した分光蛍光光度計(株式会社日立製作所製、製品名「F-7000」)を用い、絶対法で溶液の量子収率を励起波長365nmで測定した。
次いで、比較例1で得られた錯体化合物を濃度が2.0×10-6mol/LとなるようにDMSO、DMF、アセトンのいずれかの溶媒に溶解させた。得られた各溶液の量子収率を、比較例1のアセトニトリル溶液の量子収率の値(0.24)を基準として、相対法により求めた。結果を表2に示す。
また、比較例2で得られた錯体化合物を濃度が2.0×10-6mol/Lとなるようにアセトニトリル、DMSO、DMF、アセトンのいずれかの溶媒に溶解させた。得られた各溶液の量子収率を、比較例1のアセトニトリル溶液の量子収率の値(0.24)を基準として、相対法により求めた。結果を表2に示す。
【0085】
【0086】
実施例6で得られた錯体化合物(化合物(1-6))は、ブラックライト波長(365nm)付近の紫外線を照射すると、固体状及び溶液中のいずれにおいても赤色に発光した。
図5は化合物(1-6)の溶液中での発光スペクトルであり、
図6は化合物(1-6)の固体の発光スペクトルであり、
図7は化合物(1-6)を含むフィルムの発光スペクトルである。これら
図5~7から明らかなように、化合物(1-6)は614nmに半値幅の狭いシャープな発光バンドを有する。
一方、比較例1で得られた錯体化合物(化合物(1-9))も、ブラックライト波長(365nm)付近の紫外線を照射すると、固体状及び溶液中のいずれにおいても赤色に発光した。また、化合物(1-9)の発光スペクトルも、化合物(1-6)の発光スペクトルと同様なスペクトルパターンを示す。
しかし、表2から明らかなように、化合物(1-6)と、化合物(1-9)の溶液の量子収率を比較したところ、化合物(1-6)の量子収率の値は、いずれも化合物(1-9)よりも高かった。
実施例2、4、7、8で得られた錯体化合物についても、量子収率の値は比較例1、2で得られた錯体化合物より高かった。
また、実施例2、4、6~8で得られた錯体化合物、及び比較例1、2で得られた錯体化合物を用いてフィルムを作製し、その発光スペクトルを測定したところ、
図7~9に示すように、実施例2、4、6~8で得られた錯体化合物を含むフィルムの方が、比較例1、2で得られた錯体化合物を含むフィルムに比べて発光強度が高かった。
以上の結果より、実施例2、4、6~8で得られた錯体化合物の方が比較例1、2で得られた錯体化合物よりも蛍光材料として優れていることが示された。実施例1、3、5で得られた錯体化合物も、実施例2、4、6で得られた錯体化合物と同様の効果を有する。
本発明の錯体化合物は発光強度が高く、例えばインビジブルインク、発光標識試薬、有機EL素子、太陽電池の波長変換材料、白色LED等の発光材料として好適である。