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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163280
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】超音波洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/12 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
B08B3/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068123
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】武部 匡彦
(72)【発明者】
【氏名】石田尾 樹
(72)【発明者】
【氏名】園部 勝
【テーマコード(参考)】
3B201
【Fターム(参考)】
3B201AA46
3B201AB03
3B201AB42
3B201BB02
3B201BB86
3B201BB94
3B201BB95
(57)【要約】
【課題】比較的簡易な装置構成でありながら超音波出力器から遠い側にある洗浄対象表面の洗浄性能を向上可能な超音波洗浄装置を提供する。
【解決手段】超音波洗浄装置10は、洗浄液Lを貯留する洗浄槽14と、洗浄槽14内の洗浄液Lに浸漬されるワークWを保持する保持部30と、保持されるワークWに向けて超音波を出力する超音波出力器40と、洗浄槽14の内壁面上に設けられて超音波出力器40から出力された超音波の反射方向の調整を行う反射板50~54と、を備える。反射板50~54は、少なくとも一部が、超音波出力器40から遠い側であるワークWの遠端部46に面する位置又は遠端部46の周辺の位置に設けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を貯留する洗浄槽と、
前記洗浄槽内の洗浄液に浸漬される被洗浄物を保持する保持部と、
前記保持部により保持される前記被洗浄物に向けて超音波を出力する超音波出力器と、
前記洗浄槽の内壁面上に設けられて前記超音波出力器から出力された超音波の反射方向の調整を行う反射構造と、
を備え、
前記超音波出力器に近い側の前記被洗浄物の端部を近端部と定義し、前記超音波出力器から遠い側の前記被洗浄物の端部を遠端部と定義するとき、
前記反射構造は、少なくとも一部が、前記被洗浄物の遠端部に面する位置又は該遠端部の周辺の位置に設けられる、超音波洗浄装置。
【請求項2】
前記反射方向の調整は、前記被洗浄物の遠端部に向けて超音波を案内することである、
請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項3】
前記反射機構は、
平板状の基部と、
前記基部の一面からそれぞれ上方に突出し、第一方向に延びるとともに該第一方向と直交する第二方向に並んで配置される複数の突出部であって、前記第二方向の一端側から他端側に向かうにつれて傾斜角度が大きくなる鋸歯状の表面形状を形成する複数の突出部と、
を備える反射板であり、
前記反射板は、前記被洗浄物の側部に面する位置であって、前記第二方向の一端側が前記被洗浄物の近端側に、前記第二方向の他端側が前記被洗浄物の遠端側にそれぞれ対応するように配置される、
請求項1又は2に記載の超音波洗浄装置。
【請求項4】
前記超音波出力器は、それぞれ超音波を出力する複数の超音波振動子が一次元的又は二次元的に配置されてなり、
前記複数の超音波振動子のうちの少なくとも一つは、前記超音波出力器に対する遠近方向からの投影視にて、少なくとも一部が前記被洗浄物とは重ならない位置に配置される、
請求項1~3のいずれか1項に記載の超音波洗浄装置。
【請求項5】
洗浄液を貯留する洗浄槽と、
前記洗浄槽内の洗浄液に浸漬される被洗浄物に向けて超音波を出力する超音波出力器と、
前記洗浄槽の内壁面上に設けられて前記超音波出力器から出力された超音波の反射方向の調整を行う反射構造と、
を備え、
前記超音波出力器が指向する指向方向の位置に関して、前記超音波出力器の位置を近端位置と定義し、前記超音波出力器の正面にある超音波の反射面の位置を遠端位置と定義するとき、
前記反射構造は、少なくとも一部が、前記近端位置と前記遠端位置の間の中点よりも遠端側の位置に設けられる、超音波洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、超音波を利用して被洗浄物を洗浄する超音波洗浄装置が知られている。この種の装置によれば、微小気泡の生成、膨張と圧縮による振動、及び崩壊という一連の過程(いわゆる、キャビテーション現象)を通じて、被洗浄物に付着した油分や塵埃などの異物が剥離除去される。
【0003】
特許文献1には、相対的に低い周波数の超音波を出力する第1振動子と、相対的に高い周波数の超音波を出力する第2振動子とを含んで構成される超音波洗浄装置が開示されている。また、同文献の図1には、上方に開口する洗浄槽の底部に二次元的に配列された超音波振動子(以下、超音波出力器という)が設けられる装置構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-141527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に言えば、被洗浄物の表面上の位置にかかわらず一様な洗浄性能が得られることが望ましい。ところが、実際には、一様な洗浄性能が得られるための設計は難しく、例えば、超音波出力器から遠い側にある表面上の異物は、超音波出力器に近い側と比べて、除去されにくい傾向がみられる。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的簡易な装置構成でありながら超音波出力器から遠い側にある洗浄対象表面の洗浄性能を向上可能な超音波洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一態様における超音波洗浄装置は、洗浄液を貯留する洗浄槽と、前記洗浄槽内の洗浄液に浸漬される被洗浄物を保持する保持部と、前記保持部により保持される前記被洗浄物に向けて超音波を出力する超音波出力器と、前記洗浄槽の内壁面上に設けられて前記超音波出力器から出力された超音波の反射方向の調整を行う反射構造と、を備え、前記超音波出力器に近い側の前記被洗浄物の端部を近端部と定義し、前記超音波出力器から遠い側の前記被洗浄物の端部を遠端部と定義するとき、前記反射構造は、少なくとも一部が、前記被洗浄物の遠端部に面する位置又は該遠端部の周辺の位置に設けられる。
【0008】
本発明の第二態様における超音波洗浄装置では、前記反射方向の調整は、前記被洗浄物の遠端部に向けて超音波を案内することである。
【0009】
本発明の第三態様における超音波洗浄装置では、前記反射機構は、平板状の基部と、前記基部の一面からそれぞれ上方に突出し、第一方向に延びるとともに該第一方向と直交する第二方向に並んで配置される複数の突出部であって、前記第二方向の一端側から他端側に向かうにつれて傾斜角度が大きくなる鋸歯状の表面形状を形成する複数の突出部と、を備える反射板であり、前記反射板は、前記被洗浄物の側部に面する位置であって、前記第二方向の一端側が前記被洗浄物の近端側に、前記第二方向の他端側が前記被洗浄物の遠端側にそれぞれ対応するように配置される。
【0010】
本発明の第四態様における超音波洗浄装置では、前記超音波出力器は、それぞれ超音波を出力する複数の超音波振動子が一次元的又は二次元的に配置されてなり、前記複数の超音波振動子のうちの少なくとも一つは、前記超音波出力器に対する遠近方向からの投影視にて、少なくとも一部が前記被洗浄物とは重ならない位置に配置される。
【0011】
本発明の第五態様における超音波洗浄装置は、洗浄液を貯留する洗浄槽と、前記洗浄槽内の洗浄液に浸漬される被洗浄物に向けて超音波を出力する超音波出力器と、前記洗浄槽の内壁面上に設けられて前記超音波出力器から出力された超音波の反射方向の調整を行う反射構造と、を備え、前記超音波出力器が指向する指向方向の位置に関して、前記超音波出力器の位置を近端位置と定義し、前記超音波出力器の正面にある超音波の反射面の位置を遠端位置と定義するとき、前記反射構造は、少なくとも一部が、前記近端位置と前記遠端位置の間の中点よりも遠端側の位置に設けられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、比較的簡易な装置構成でありながら超音波出力器から遠い側にある洗浄対象表面の洗浄性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における超音波洗浄装置の右側面から視た透視図である。
図2図1に示す超音波洗浄装置の上面から視た透視図である。
図3図1に示す反射板の周辺における部分拡大図である。
図4】超音波の伝播経路を示す模式図である。
図5】第一変形例における超音波洗浄装置の右側面から視た透視図である。
図6】第二変形例における超音波洗浄装置の正面から視た透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明を省略する場合がある。
【0015】
[超音波洗浄装置10の構成]
図1は、本発明の一実施形態における超音波洗浄装置10の右側面から視た透視図である。図2は、図1に示す超音波洗浄装置10の上面から視た透視図である。以下、超音波洗浄装置10の上方向又は下方向を「高さ方向」と、超音波洗浄装置10の右方向又は左方向を「幅方向」と、超音波洗浄装置10の手前方向又は奥方向を「奥行き方向」と、それぞれ総称する場合がある。
【0016】
図1及び図2に示すように、超音波洗浄装置10は、超音波を用いて被洗浄物としてのワークWの表面を洗浄する装置である。この超音波洗浄装置10は、具体的には、収容空間12を有する洗浄槽14と、洗浄槽14に設けられる前扉16と、洗浄槽12を下方から支持する脚部18と、を含んで構成される。ここでは図示しないが、超音波洗浄装置10には、制御基板、洗浄液Lの供給/排出機構、気体の供給/パージ機構、操作パネルなどを含む様々な構成が設けられる。
【0017】
洗浄槽14は、炭化水素系溶剤又は水系溶剤である洗浄液Lを貯留する。概略直方体状の洗浄槽14は、高剛性の金属板(例えば、ステンレス鋼板など)から構成されるとともに、上部20、底部21、右側部22、左側部23、前部24、及び後部25を有する。なお、底部21には、収容空間12内に貯留された洗浄液Lを外部に排出するための排出口26が設けられる。
【0018】
洗浄槽14の前部24には、概略矩形状の開口部28が設けられる。前扉16は、前部24に取り付けられて開口部26を覆うとともに、作業者による操作を通じて開閉可能に構成される。これにより、作業者は、洗浄前のワークWを内部空間12に搬入できるとともに、洗浄後のワークWを内部空間から搬出することができる。
【0019】
洗浄槽14の下方中央側には、ワークWを保持する保持部30が設けられる。ここでは、保持部30は、平行に配置された一対のフレーム32,32と、複数本(図2の例では、五本)のローラ34と、を備えるローラコンベアである。各々のフレーム32は、一端部が後部25に固定されるとともに、他端部が前部24に向かうように奥行き方向に延びて設けられる。複数本のローラ34は、一対のフレーム32,32を接続するように、奥行き方向に略等間隔で並んで配置される。なお、保持部30は、ローラコンベアに限られず、洗浄槽14の内壁面から離間させてワークWを保持可能であればその種類は問わない。
【0020】
図1に関して、ワークWの上面から洗浄液Lの液面36までの距離をD1とし、ワークWの下面から底部21までの距離をD2とする。距離D1,D2の大小関係は、D1>D2、D1=D2、D1<D2のいずれであってもよい。ここでは、D1>D2の関係を満たしている。一方、図2に関して、ワークWの右側面から洗浄槽14の右側部22までの距離をD3とし、ワークWの左側面から洗浄槽14の左側部23までの距離をD4とする。距離D3,D4の大小関係は、D3>D4、D3=D4、D3<D4のいずれであってもよい。ここでは、概ねD3=D4の関係を満たしている。
【0021】
洗浄槽14の奥側には、超音波を出力する超音波出力器40が設けられる。この超音波出力器40は、上側から下側にわたって順に、三つの超音波振動子41,42,43を含んで構成される。超音波振動子41~43は、例えば、図示しない発振器から供給された電気信号を超音波に変換する振動板方式の振動子である。
【0022】
図1及び図2の例では、三つの超音波振動子41~43は、奥行き方向に略一致する方向を指向する。超音波振動子41~43はいずれも、幅方向に延びるとともに、高さ方向に略等間隔に並んで配置される。超音波振動子41~43はいずれも、ワークWの高さ範囲内に収まるように位置する。超音波出力器40が洗浄槽14の奥側に設けられる場合、超音波出力器40から出力された超音波は、奥側から手前側に向かって進行する。以下、超音波出力器40に近い側のワークWの端部を「近端部44」という一方、超音波出力器40から遠い側のワークWの端部を「遠端部46」という。
【0023】
洗浄槽14の内壁面には、超音波出力器40から出力された超音波の反射方向の調整を行う反射構造が設けられる。ここで、「反射方向の調整」は、ワークWの遠端部46に向けて超音波を案内することを意味する。この実施形態では、反射構造は、五枚の反射板50~54から構成される。反射板50~54は、洗浄液Lとの間で音響インピーダンスの差が大きい材料、例えば、金属や樹脂などから構成される。また、反射板50~54は、洗浄槽14の内壁面に対して着脱可能に設けられる。例えば、反射板50~54は、吸盤、磁石、ねじ止めを含む様々な固定方法により固定される。
【0024】
反射板50~54は、少なくとも一部が、ワークWの遠端部46に面する位置又は遠端部46の周辺の位置に設けられる。反射板50(図1及び図2)は、底部21の内壁面上であって近端部44から遠端部46までの範囲を網羅する位置に設けられる。反射板51(図2)は、右側部22の内壁面上であって近端部44から遠端部46までの範囲を網羅する位置に設けられる。反射板52(図1及び図2)は、左側部23の内壁面上であって近端部44から遠端部46までの範囲を網羅する位置に設けられる。三角柱状の反射板53(図1及び図2)は、底部21、右側部22及び前部24を跨ぐ内壁面上であって遠端部46に面する位置に設けられる。三角柱状の反射板54(図2)は、底部21、左側部23及び前部24を跨ぐ内壁面上であって遠端部46に面する位置に設けられる。
【0025】
別の表現を用いれば、反射板50~54は、少なくとも一部が、超音波出力器40の指向方向における近端位置と遠端位置の間の中点よりも遠端側の位置に設けられる。この「近端位置」とは、超音波出力器40の位置に相当する。また、「遠端位置」とは、超音波出力器40の正面にある超音波の反射面(図1及び図2の例では、前部24の内壁面)の位置に相当する。
【0026】
図3は、図1に示す反射板50の周辺における部分拡大図である。なお、反射板51,52(図2)についても、反射板50と同様の構造を採用し得る。この反射板50は、基部60と、複数(本図の例では、四つ)の突出部61,62,63,64と、から構成される。
【0027】
基部60は、長辺及び短辺を有する矩形平板状の部材である。以下、長辺が延びる方向を長辺方向(「第一方向」に相当)、短辺が延びる方向を短辺方向(「第二方向」に相当)という。反射板50が取り付けられた状態では、基部60の「長辺方向」が超音波洗浄装置10の「幅方向」に、基部60の「短辺方向」が超音波洗浄装置10の「奥行き方向」にそれぞれ対応する。
【0028】
複数の突出部61~64は、基部60の一面からそれぞれ上方に突出し、長辺方向に延びるとともに短辺方向に並んで配置される。複数の突出部61~64は、短辺方向の一端側(ワークWの近端部44)から他端側(ワークWの遠端部46)に向かうにつれて傾斜角度が大きくなる鋸歯状の表面形状を形成する。つまり、突出部61~64の傾斜角度をθ1~θ4と定義すると、0°<θ1<θ2<θ3<θ4<90°の大小関係を満たす。なお、傾斜角度の関係はこれに限られず、例えば、θ1≦θ2≦θ3≦θ4を満たせばよい。
【0029】
なお、反射板50の反射率を高めるため、[1]突出部61~64の幅を狭くし、ピッチを小さくして表面の凹凸密度を高くしたり、[2]突出部61~64の傾斜面に対して鏡面加工を施したりしてもよい。
【0030】
[超音波洗浄装置10の動作]
この実施形態における超音波洗浄装置10は、以上のように構成される。続いて、超音波洗浄装置10の基本動作及び当該動作による作用効果について、図1図4を参照しながら説明する。
【0031】
<基本動作>
超音波洗浄装置10の基本動作について、図1及び図2を参照しながら説明する。まず、作業者は、[1]前扉16を開ける操作を行い、[2]洗浄前のワークWを保持部30の上に置き、[3]ワークWを洗浄槽14の奥側に押し込み、[4]前扉16を閉じる操作を行い、[5]超音波洗浄装置10の動作を開始するための操作を行う。そうすると、超音波洗浄装置10は、洗浄液Lの供給、超音波の出力、洗浄液Lの排出を含む一連の動作を行う。
【0032】
作業者は、超音波洗浄装置10による一連の動作が終了した後、[1]前扉16を開ける操作を行い、[2]洗浄後のワークWを手前側に引き出し、[3]ワークWを洗浄槽14から取り出し、[4]前扉16を閉じる操作を行う。これにより、ワークWの洗浄工程が終了する。
【0033】
<作用効果>
続いて、超音波洗浄装置10による作用効果について、図1図4を参照しながら説明する。
【0034】
(効果1:反射板53,54)
図4は、図1の超音波の伝播経路の一部を示す模式図である。図示の便宜上、図1と比べて、保持部30及び反射板52の構成が省略されている。ここでは、超音波振動子43から出力される超音波の進行経路の一部を矢印P1~P5で示している。
【0035】
矢印P1は、ワークWの中を伝播しながら直進する経路を示している。矢印P2は、ワークWの側部に接する流路空間を通過する直進成分を示している。矢印P3は、反射板53により進行方向が変わった反射成分を示している。矢印P1,P3が交差する箇所(つまり、遠端部46)では、超音波の直進成分と反射成分との間で共振が起こり、キャビテーション現象が促進される。これにより、ワークWの遠端部46に対する洗浄性能を向上させることができる。
【0036】
(効果2:反射板50~52)
矢印P4は、ワークWの側部に接する流路空間に進入する直進成分を示している。矢印P5は、反射板50により進行方向が変わった反射成分を示している。反射板50が、ワークWの近端部44から遠端部46までの範囲を網羅する位置に設けられるので、ワークWの側部に超音波を集めることができる。また、ワークW及び洗浄槽14の間の一回的な反射又は多重反射を通じて、超音波をワークWの遠端側に案内することができる。
【0037】
図3に示すように、超音波が、同一の方向から異なる位置に入射した場合を想定する。突出部61~64の傾斜角度θ1~θ4が、θ1<θ2<θ3<θ4の大小関係を満たすので、入射位置が奥側(近側)であるほど反射角度が小さくなり、入射位置が手前側(遠側)にあるほど反射角度が大きくなる。これにより、反射板50の表面上の異なる位置に入射された超音波を、特定の箇所(例えば、ワークWの遠端部46)に集めることができる。
【0038】
(効果3:距離D1,D2の関係)
図1に示すように、洗浄液Lの液面36は、超音波を反射する機能を発揮するものの、反射板を設置することができない。また、ワークWの側部に接する流路空間が広いほど、超音波振動子41,43から出力された超音波が遠端側まで進行しやすくなる。そこで、D1>D2の大小関係を満たすように保持部30がワークWを保持することで、ワークWの上端・下端における洗浄性能の偏りを抑制させることができる。
【0039】
(効果4:距離D3,D4の関係)
図2に示すように、ワークWの側部に接する流路空間が広いほど、超音波振動子41~43から出力された超音波が遠端側まで進行しやすくなる。そこで、D1=D2の関係を満たすように保持部30がワークWを保持することで、ワークWの右端・左端における洗浄性能の偏りを抑制させることができる。
【0040】
以上のように、超音波の反射成分を積極的に活用することで、比較的簡易な装置構成でありながら、超音波出力器40から遠い側にある洗浄対象表面の洗浄性能を向上させることができる。
【0041】
[実施形態のまとめ]
上記した超音波洗浄装置10は、洗浄液Lを貯留する洗浄槽14と、洗浄槽14内の洗浄液Lに浸漬される被洗浄物(ここでは、ワークW)を保持する保持部30と、保持部30により保持されるワークWに向けて超音波を出力する超音波出力器40と、洗浄槽14の内壁面上に設けられて超音波出力器40から出力された超音波の反射方向の調整を行う反射構造(ここでは、反射板50~54)を備える。そして、超音波出力器40に近い側のワークWの端部を近端部44と定義し、超音波出力器40から遠い側のワークWの端部を遠端部46と定義するとき、反射板50~54は、少なくとも一部が、ワークWの遠端部46に面する位置又は遠端部46の周辺の位置に設けられる。
【0042】
このように、反射板50~54の少なくとも一部が、ワークWの遠端部46に面する位置又は遠端部46の周辺の位置に設けられるので、ワークWの側部に接する流路空間を進行する超音波の向きを調整可能となり、その分だけ遠端部46の周辺に超音波を集めやすくなる。その結果、超音波の直進成分と反射成分との間で共振が起こり、ワークWの近端部44以外の部位にてキャビテーション現象が促進される。これにより、比較的簡易な装置構成でありながら超音波出力器40から遠い側にある洗浄対象表面の洗浄性能を向上させることができる。
【0043】
別の表現を用いれば、超音波出力器40が指向する指向方向の位置に関して、超音波出力器40の位置を近端位置と定義し、超音波出力器40の正面にある超音波の反射面の位置を遠端位置と定義するとき、反射板50~54は、少なくとも一部が、近端位置と遠端位置の間の中点よりも遠端側の位置に設けられる。この場合、洗浄槽14内の略中央の位置にワークWを配置することで、ワークWの近端部44以外の部位におけるキャビテーション現象の促進効果が得られる。
【0044】
また、反射方向の調整は、ワークWの遠端部46に向けて超音波を案内することであってもよい。これにより、特に、ワークWの遠端部46にてキャビテーション現象が促進される。
【0045】
また、反射機構は、平板状の基部60と、基部60の一面からそれぞれ上方に突出し、第一方向に延びるとともに該第一方向と直交する第二方向に並んで配置される複数の突出部61~64であって、第二方向の一端側から他端側に向かうにつれて傾斜角度が大きくなる鋸歯状の表面形状を形成する複数の突出部61~64と、を備える反射板50であってもよい。
【0046】
この場合、反射板50は、ワークWの側部に面する位置であって、第二方向の一端側がワークWの近端側44に、第二方向の他端側がワークWの遠端側46にそれぞれ対応するように配置される。これにより、反射板50の表面上の異なる位置に入射された超音波を、特定の箇所(例えば、遠端側46)に集めることができる。
【0047】
また、反射板50~54は、洗浄槽14の内壁面に対して着脱可能に設けられてもよい。これにより、簡単な作業によって反射板50~54の位置や種類を変更することができる。
【0048】
また、反射構造(ここでは、反射板50~52)は、ワークWの近端部44から遠端部46までの範囲を網羅する位置に設けられてもよい。これにより、ワークWの側部に超音波を集めることができるともに、ワークW及び洗浄槽14の間の反射を通じて超音波をワークWの遠端側に案内することができる。
【0049】
[変形例]
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。あるいは、技術的に矛盾が生じない範囲で各々の構成を任意に組み合わせてもよい。
【0050】
<第一変形例>
図5は、第一変形例における超音波洗浄装置70の右側面から視た透視図である。この超音波洗浄装置70は、基本的には、図1に示す構成と同様の構成を有する。しかし、超音波洗浄装置70が有する超音波出力器80の配置が、図1に示す超音波出力器40の配置と異なっている。
【0051】
洗浄槽14の奥側には、超音波を出力する超音波出力器80が設けられる。この超音波出力器80は、上側から下側にわたって順に、四つの超音波振動子81,82,83,84を含んで構成される。超音波振動子81~84は、例えば、図示しない発振器から供給された電気信号を超音波に変換する振動板方式の振動子である。
【0052】
図5の例では、超音波振動子81~84は、幅方向に延びるとともに、高さ方向に略等間隔に並んで配置される。二つの超音波振動子82,83はいずれも、ワークWの高さ範囲内に収まるように位置する。ところが、超音波振動子81は、ワークWの高さ範囲よりも上方に位置する。また、超音波振動子84は、ワークWの高さ範囲よりも下方に位置する。
【0053】
このように、それぞれ超音波を出力する複数の振動子81~84が一次元的又は二次元的に配置されてなる超音波振動子70の場合、複数の超音波振動子81~84のうちの少なくとも一つが、超音波出力器70に対する遠近方向からの投影視にて、少なくとも一部がワークWとは重ならない位置に配置されてもよい。
【0054】
遠近方向からの投影視にてワークWとは重ならない位置から出力された超音波は、ワークWや洗浄槽14によって反射されずに、ワークWの側部に接する流路空間を通過する。これにより、ワークWの遠端部46の周辺に超音波を集めやすくなる。
【0055】
<第二変形例>
図6は、第二変形例における超音波洗浄装置100の正面から視た透視図である。この超音波洗浄装置100は、具体的には、収容空間102を有する洗浄槽104と、保持部106と、超音波出力器108と、二枚の反射板110,112(反射構造)と、を含んで構成される。
【0056】
洗浄槽104は、炭化水素系溶剤又は水系溶剤である洗浄液Lを貯留する。概略直方体状の洗浄槽104は、高剛性の金属板(例えば、ステンレス鋼板など)から構成されるとともに、底部114、右側部115、及び左側部116を有する。
【0057】
保持部106は、洗浄槽104の下方中央側に設けられ、その内壁面から離間させてワークWを保持する。この保持部106は、例えば、メッシュ状の棚板である。
【0058】
超音波出力器108は、洗浄槽14の底部114に設けられ、ワークWに向けて超音波を出力する。この超音波出力器108は、右側から左側にわたって順に、四つの超音波振動子121,122,123,124を含んで構成される。超音波振動子121~124は、図1の構成(超音波振動子41~43)と同様に振動板方式の振動子である。
【0059】
図6の例では、超音波振動子121~124は、奥行き方向に延びるとともに、幅方向に略等間隔に並んで配置される。二つの超音波振動子122,123はいずれも、ワークWの幅範囲内に収まるように位置する。ところが、超音波振動子121は、ワークWの幅範囲よりも右方に位置する。また、超音波振動子124は、ワークWの幅範囲よりも左方に位置する。
【0060】
超音波出力器108が洗浄槽104の底部114に設けられる場合、超音波出力器108から出力された超音波は、下側から上側に向かって進行する。つまり、ワークWの下端部が「近端部126」に相当する一方、ワークWの上端部が「遠端部128」に相当する。また、超音波出力器108の位置(あるいは、底部114の内壁面)が「近端位置」に相当する一方、洗浄液Lの液面118が「遠端位置」に相当する。
【0061】
反射板110は、洗浄槽104(より詳しくは、右側部115)の内壁面上であって近端部126から遠端部128までの範囲を網羅する位置に設けられる。反射板110は、金属や樹脂などの材料で構成されるとともに、右側部115の内壁面に対して着脱可能に設けられてもよい。
【0062】
反射板112は、洗浄槽104(より詳しくは、左側部116)の内壁面上であって近端部126から遠端部128までの範囲を網羅する位置に設けられる。反射板112は、金属や樹脂などの材料で構成されるとともに、左側部116の内壁面に対して着脱可能に設けられてもよい。
【0063】
本図では、超音波振動子124から出力される超音波の進行経路の一部を矢印P6~P9で示している。矢印P6は、ワークWの中を伝播しながら直進する経路を示している。矢印P7は、ワークWの側部に接する流路空間を通過する直進成分を示している。矢印P8は、反射板112により進行方向が変わった反射成分を示している。矢印P9は、洗浄液Lの液面118により進行方向が変わった反射成分を示している。
【0064】
矢印P6,P9が交差する箇所(つまり、遠端部128)では、超音波の直進成分と反射成分との間で共振が起こり、キャビテーション現象が促進される。つまり、ワークWの遠端部128に対する洗浄性能を向上させることができる。このように、洗浄槽104の構成や超音波出力器108の位置が異なる超音波洗浄装置100であっても、図1に示す超音波洗浄装置10の場合と同様の作用効果が得られる。
【0065】
<他の変形例>
上記した実施形態では、図3に示す反射板50を例に挙げて説明したが、反射板の形状はこれに限られず、例えば、基部のサイズ(二辺の長さ)、突出部の形状、個数、傾斜角度。配置間隔、高さなどが適宜変更されてもよい。また、上記した実施形態では、反射構造が反射板50~54(図1及び図2)である場合について説明したが、反射構造は、反射板に代えて、レーザ加工処理などの表面加工処理が施された洗浄槽14の内壁面であってもよい。
【0066】
上記した実施形態では、概略直方体状の洗浄槽14(図1)を例に挙げて説明したが、洗浄槽の外形はこれに限られない。例えば、洗浄槽の右側部又は左側部を外側に凸になるように湾曲させることで、超音波の反射成分をさらに活用しやすくなる。
【0067】
上記した実施形態では、超音波出力器40が後部25に設けられる場合(図1)について説明したが、超音波振動子の配置はこの形態に限られない。例えば、ワークWの遠端側(底部21、右側部22、左側部23、あるいは前部24)に、別の超音波振動子が補助的に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10,70,100…超音波洗浄装置、14,104…洗浄槽、30,106…保持部、40,80,108…超音波出力器、44,126…近端部、46,128…遠端部、50~54,110,112…反射板(反射構造)、W…ワーク(被洗浄物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6