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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163283
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】光波距離計及び光コム距離計
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/10 20200101AFI20221019BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
G01S17/10
G01C3/06 120Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068127
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】503249810
【氏名又は名称】株式会社XTIA
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】興梠 元伸
(72)【発明者】
【氏名】今井 一宏
【テーマコード(参考)】
2F112
5J084
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112CA12
2F112DA25
2F112DA28
2F112EA05
2F112FA25
5J084AA05
5J084AD01
5J084AD02
5J084BA03
5J084BA08
5J084BA32
5J084BA51
5J084BB24
5J084CA03
5J084CA08
5J084EA12
(57)【要約】
【課題】 屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布、熱膨張補正量を用いて、測定光の検出出力に基づく測定対象物反射体までの距離の測定値を補正することができる光波距離計を提供する。
【解決手段】
測定光Lsを測定対象物反射体1に照射して、上記測定対象物反射体1により反射された上記測定光の反射光Ls’を検出することにより、上記測定対象物反射体1までの距離を測定する光波距離計10において、対象物側環境計測センサ16と本体側環境計測センサ14により得られる各環境計測データに基づいて、各部での屈折率、群屈折率やその光路に沿った分布、熱膨張補正量を推定することにより補正データを得て距離補正を信号処理部17により行う。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定光を測定対象物反射体に照射して、上記測定対象物反射体により反射された上記測定光の反射光を検出することにより、上記測定対象物反射体までの距離を測定する光波距離計であって、
距離計本体側に設けられた本体側環境計測センサと、
測定対象物反射体側に設けられた対象物側環境計測センサと、
上記本体側環境計測センサにより取得される上記距離計本体側の少なくとも温度を含む環境計測データと上記対象物側環境計測センサにより取得される上記測定対象物反射体側の少なくとも温度を含む環境計測データに基づいて推定される上記距離計本体側及び上記測定対象物反射体側における屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布、熱膨張補正量を用いて、上記測定光の反射光の検出出力に基づく上記測定対象物反射体までの距離の測定値を補正する信号処理部を備えることを特徴とする光波距離計。
【請求項2】
測定光を測定対象物反射体に照射して、上記測定対象物反射体により反射された上記測定光の反射光を検出することにより、上記測定対象物反射体までの距離を測定する光コム干渉計を備える光コム距離計であって、
距離計本体側に設けられ、干渉計ヘッド周囲の少なくとも温度を含む環境計測データを取得するとともに、干渉計ヘッド内部の筐体温度を測定する本体側環境計測センサと、
上記本体側環境計測センサにより取得される上記距離計本体側の少なくとも温度を含む環境計測データと上記干渉計ヘッド内部の筐体温度データに基づいて推定される上記距離計本体側における屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布、熱膨張補正量を用いて、大気屈折率と熱膨張の影響を切り分けて、上記測定対象物反射体までの距離の測定値を補正する信号処理部を備えることを特徴とする光コム距離計。
【請求項3】
上記測定対象物反射体側に設けられ、該測定対象物反射体周囲の少なくとも温度を含む環境計測データを取得する対象物側環境計測センサを備え、
上記信号処理部は、上記本体側環境計測センサにより取得される上記距離計本体側の環境計測データ及び上記干渉計ヘッド内部の筐体温度データと上記対象物側環境計測センサにより取得される上記測定対象物反射体側の環境計測データとに基づいて推定される上記距離計本体側における屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布、熱膨張補正量を用いて、大気屈折率と熱膨張の影響を切り分けて、上記測定光の反射光の検出出力に基づく上記測定対象物反射体までの距離の測定値を補正することを特徴とする請求項2に記載の光コム距離計。
【請求項4】
上記光コム距離計の干渉計ヘッドから出射される測定光又は参照光が通過する基準光路に設けられ、該基準光路周囲の少なくとも温度を含む環境計測データを取得する基準光路側環境計測センサを備え、
上記光コム距離計の干渉計ヘッドから干渉計を介して出射される測定光又は参照光を上記基準光路を通過させるとともに、測定光を測定対象物反射体に照射することにより、上記干渉計を介して2つの光検出器により得られる干渉光の検出出力に基づいて、上記信号処理部において、上記干渉計から測定光が出射されて上記測定対象物反射体により反射されてる戻ってくる測定光路の光路長と上記基準光路の光路長との光路長差として算出される上記測定対象物反射体までの距離の測定値を、上記本体側環境計測センサより取得される上記距離計本体側の環境計測データ及び上記干渉計ヘッド内部の筐体温度データと上記対象物側環境計測センサより取得される上記測定対象物反射体側の環境計測データと上記基準光路側環境計測センサにより得られる環境計測データに基づいて推定される上記基準光路と上記測定光路における屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布、熱膨張補正量を用いて、大気屈折率と熱膨張の影響を切り分けて、補正することを特徴とする請求項3に記載の光コム距離計。
【請求項5】
上記基準光路側環境計測センサは、上記基準光路において上記参照光を反射する基準面反射体に設けられている特徴とする請求項4に記載の光コム距離計。
【請求項6】
上記信号処理部は、基準点までの距離計測の温度特性をとることにより取得される校正データを記録した補正テーブルを備え、上記各環境計測センサにより取得される少なくとも温度を含む環境計測データに基づいて、上記補正テーブルを用いて、上記測定光の反射光の検出出力に基づく上記測定対象物反射体までの距離の測定値を補正することを特徴とする請求項2乃至請求項5の何れか1項に記載の光コム距離計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定光を測定対象物反射体に照射して、上記測定対象物反射体により反射された上記測定光の反射光を検出することにより、上記測定対象物反射体までの距離を測定する光波距離計及び光コム距離計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、精密なポイントの距離計測が可能なアクティブ式距離計測方法として、レーザー光を利用する光学原理による距離計測が知られている。レーザー光を用いて対象物体までの距離を測定するレーザー距離計ではレーザー光の発射時刻と、測定対象に当たり反射してきたレーザー光を受光素子にて検出した時刻との差に基づいて、測定対象物反射体までの距離が算出される。また、例えば、半導体レーザーの駆動電流に三角波等の変調をかけ、対象物での反射光を半導体レーザー素子の中に埋め込まれたフォトダイオードを使用して受光し、フォトダイオード出力電流に現れた鋸歯状波の主波数から距離情報を得ている。
【0003】
従来の絶対距離計では、長い距離を高精度で測れる実用的な絶対距離計を実現することが難しく、高い分解能を得るためにはレーザー変位計のように原点復帰が必要なため絶対距離測定に適さない方法しか手段がなかった。
【0004】
本件発明者等は、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光と測定光を出射する2つの光コム発生器を備え、基準面に照射される基準光と測定面に照射される測定光との干渉光を基準光検出器により検出するとともに、上記基準面により反射された基準光と上記測定面により反射された測定光との干渉光を測定光検出器により検出して、上記基準光検出器と測定光検出器により得られる2つ干渉信号の時間差から、上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求めることにより、高精度で、しかも短時間に行うことの可能な距離計及び距離測定方法並びに光学的三次元形状測定機を先に提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
光コム距離計では、原理的に周波数が異なる2種類の変調信号により駆動される2つの光コム発生器から出射される干渉性のある基準光と測定光を用いることにより、信号処理部において、基準光検出器により得られる干渉信号(以下、参照信号と言う。)と、測定光検出器により得られる干渉信号(以下、測定信号と言う。)について周波数解析を行い、光コムの中心周波数から数えたモード番号をNとして、参照信号と測定信号のN次モード同士の位相差を計算して光コム発生器から基準点までの光コム生成、伝送過程の光位相差を相殺した後、周波数軸で次数1あたりの位相差の増分を計算して測定信号パルスと参照信号パルスの位相差を求めることにより、基準点から測定面までの距離を算出する。
【0006】
また、従来より、測定光を測定対象物反射体に照射して、上記測定対象物反射体により反射された上記測定光の反射光を検出することにより、上記測定対象物反射体までの距離を測定する光学式距離計では、周囲温度の変化の影響により発光素子の特性が変化すると測定精度も変化するので、発光素子の温度変化に対する測定精度の変化を抑制することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、測定対象物反射体により反射された測定光を検出することにより得られる測定光検出信号と参照光路を通過させた参照光を検出することにより得られる参照光検出信号とに基づいて、測定対象物反射体までの距離を計測するに当たり、上記参照光路の周囲の温度を温度センサにより測定して、測定された前記温度に基づき、計測された前記距離を補正することが提案されている(例えば、特許文献3参照報)。
【0008】
さらに、精密な位置合わせが要求される半導体露光装置などにおいて用いられるレーザー干渉計測長装置では、レーザー干渉計測長装置の測長精度はその計測原理から、基準レーザー光と測長レーザー光の分岐点から被測長物との間の測長光が通過する光路の屈折率の影響を受ける。屈折率は、温度、気圧、湿度の関数であるため、測長光路中の温度、圧力、湿度に変動があると測長精度にも変動が生じる。そこで、精度向上のために、温度、圧力、湿度を計測するセンサを測長光路近傍に設け、そのセンサ計測値を用いて測長光の波長を補正している(例えば、特許文献4や特許文献5参照)。
【0009】
さらに、特許文献6では測長光近傍雰囲気の固定区間に補正用レーザーを通し、そのレーザー出力ゆらぎを屈折率ゆらぎとして測長光波長を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5231883号公報
【特許文献2】特開2013-95385号公報
【特許文献3】特開2021-25952号公報
【特許文献4】特開昭62-139014号公報
【特許文献5】特開平9-115800号公報
【特許文献6】特開平6-160014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本件発明者等が先に提案している光コムの飛行時間から測定対象物反射体までの距離や表面形状を計測する光コム距離計や光コム形状計測機では、光学距離が計測される。光学距離は、真空を仮定した距離に大気の群屈折率をかけた距離である。光学距離を計測して、別途求めた、群屈折率で除して距離を求める。
【0012】
ここで、群屈折率とは、波長の広がりを持つ光の時間波形の包絡線が進行する速度(群速度)で真空中の光速を割った値であり、単一波長の位相速度の比で定義される屈折率との対比から群屈折率と呼ばれる。群屈折率は、屈折率に近い値を持ち、屈折率の値に大気屈折率の分散(波長依存性)の影響を補正した値になっている。
【0013】
光の真空中での屈折率1に対して、大気の屈折率の値は、1.00027程度である。この値は光の波長、及び、大気の気圧、温度、湿度、二酸化炭素濃度に依存する。大気の屈折率は、概ね、気圧1hPaで0.27ppm,温度1°Cで-1ppm、湿度10%で-0.07ppm、二酸化炭素濃度100ppmで0.015ppm変化し、例えば、Ciddorの式(Philip E. Ciddor Applied Optics Vol. 35, No. 9, 1566)により算出することができることが知られている。
【0014】
したがって、測定光を測定対象物反射体に照射して、上記測定対象物反射体により反射された上記測定光の反射光を検出することにより、上記測定対象物反射体までの距離を測定する光学式距離計において、正確な距離を得るには外部環境を計測して距離の屈折率補正を行うことが重要である。
【0015】
また、干渉計内部の材料は、金属加工品やガラス、樹脂など様々な材料から構成され、熱膨張係数をもつため外部温度の変化によって材料が伸び縮みして、結果として光路長が変動することがある。一般的な対策として、参照光路と測定光路の間で材料の伸び縮みが共通になるように設計して距離計測結果に温度特性が出ないようにする。しかしながら、設計で吸収しきれない誤差が残存するのは避けられない。
【0016】
現在、光コム距離計には、屈折率補正のためPC接続の温度計を実装して使用ており、原理的には多数の温度計を干渉計ヘッド周辺に設置してデータ収集すれば大気屈折率の補正や熱膨張の補正が可能である。しかしながら、多ヘッド構成の時に干渉計設置場所の温度・湿度・気圧を計測するために別筐体の温度計を各所に設置することは手間がかかり実用的でない。
【0017】
また、実際に光路が通過する場所の温度が必要なので、干渉計内にセンサを設置するのが望ましく、特に、熱膨張の影響を受けるのは干渉計光学素子が搭載されている部品なので干渉計内の当該部品の温度計測が重要である。
【0018】
そこで、本発明の目的は、上述の如き従来の実情に鑑み、測定光を測定対象物反射体に照射して、上記測定対象物反射体により反射された上記測定光の反射光を検出することにより、上記測定対象物反射体までの距離を測定する光波距離計において、信号処理部により推定される屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布、熱膨張補正量を用いて、上記測定光の反射光の検出出力に基づく上記測定対象物反射体までの距離の測定値を補正することができるようにすることにある。
【0019】
また、本発明の他の目的は、設計で吸収しきれない誤差について、基準点までの距離計測の温度特性をとって校正データとすることによって距離の正確度を高めることができるようにすることにある。
【0020】
本発明の他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明では、測定光を測定対象物反射体に照射して、上記測定対象物反射体により反射された上記測定光の反射光を検出することにより、上記測定対象物反射体までの距離を測定する光波距離計において、距離計本体側の少なくとも温度を含む環境計測データと測定対象物反射体側の少なくとも温度を含む環境計測データを取得して、上記距離計本体側及び上記測定対象物反射体側における屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布、熱膨張補正量を推定し、上記測定光の反射光の検出出力に基づく上記測定対象物反射体までの距離の測定値を補正する。
【0022】
すなわち、本発明は、測定光を測定対象物反射体に照射して、上記測定対象物反射体により反射された上記測定光の反射光を検出することにより、上記測定対象物反射体までの距離を測定する光波距離計であって、距離計本体側に設けられた本体側環境計測センサと、測定対象物反射体側に設けられた対象物側環境計測センサと、上記本体側環境計測センサにより取得される上記距離計本体側の少なくとも温度を含む環境計測データと上記対象物側環境計測センサにより取得される上記測定対象物反射体側の少なくとも温度を含む環境計測データに基づいて推定される上記距離計本体側及び上記測定対象物反射体側における屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布、熱膨張補正量を用いて、上記測定光の反射光の検出出力に基づく上記測定対象物反射体までの距離の測定値を補正する信号処理部を備えることを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、測定光を測定対象物反射体に照射して、上記測定対象物反射体により反射された上記測定光の反射光を検出することにより、上記測定対象物反射体までの距離を測定する光コム干渉計を備える光コム距離計であって、距離計本体側に設けられ、干渉計ヘッド周囲の少なくとも温度を含む環境計測データを取得するとともに、干渉計ヘッド内部の筐体温度を測定する本体側環境計測センサと、上記本体側環境計測センサにより取得される上記距離計本体側の少なくとも温度を含む環境計測データと上記干渉計ヘッド内部の筐体温度データに基づいて推定される上記距離計本体側における屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布、熱膨張補正量を用いて、大気屈折率と熱膨張の影響を切り分けて、上記測定対象物反射体までの距離の測定値を補正することを特徴とする
【0024】
また、本発明に係る光コム距離計は、上記測定対象物反射体側に設けられ、該測定対象物反射体周囲の少なくとも温度を含む環境計測データを取得する対象物側環境計測センサを備え、上記信号処理部は、上記本体側環境計測センサにより取得される上記距離計本体側の環境計測データ及び上記干渉計ヘッド内部の筐体温度データと上記対象物側環境計測センサにより取得される上記測定対象物反射体側の環境計測データとに基づいて推定される上記距離計本体側における屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布、熱膨張補正量を用いて、大気屈折率と熱膨張の影響を切り分けて、上記測定光の反射光の検出出力に基づく上記測定対象物反射体までの距離の測定値を補正するものとすることができる。
【0025】
また、本発明に係る光コム距離計は、上記光コム距離計の干渉計ヘッドから出射される参照光が通過する基準光路に設けられ、該基準光路周囲の少なくとも温度を含む環境計測データを取得する基準光路側環境計測センサを備え、上記光コム距離計の干渉計ヘッドから干渉計を介して出射される測定光又は参照光を上記基準光路を通過させるとともに、測定光を測定対象物反射体に照射することにより、上記干渉計を介して2つの光検出器により得られる干渉光の検出出力に基づいて、上記信号処理部において、上記干渉計から測定光が出射されて上記測定対象物反射体により反射されてる戻ってくる測定光路の光路長と上記基準光路の光路長との光路長差として算出される上記測定対象物反射体までの距離の測定値を、上記本体側環境計測センサより取得される上記距離計本体側の環境計測データ及び上記干渉計ヘッド内部の筐体温度データと上記対象物側環境計測センサより取得される上記測定対象物反射体側の環境計測データと上記基準光路側環境計測センサにより得られる環境計測データに基づいて推定される上記基準光路と上記測定光路における屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布、熱膨張補正量を用いて、大気屈折率と熱膨張の影響を切り分けて、補正するものとすることができる。
【0026】
また、本発明に係る光コム距離計において、上記基準光路側環境計測センサは、上記基準光路において上記参照光を反射する基準面反射体に設けられているものとすることができる。
【0027】
さらに、本発明に係る光コム距離計において、上記信号処理部は、基準点までの距離計測の温度特性をとることにより取得される校正データを記録した補正テーブルを備え、上記各環境計測センサにより取得される少なくとも温度を含む環境計測データに基づいて、上記補正テーブルを用いて、上記測定光の反射光の検出出力に基づく上記測定対象物反射体までの距離の測定値を補正するものとすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、測定光を測定対象物反射体に照射して、上記測定対象物反射体により反射された上記測定光の反射光を検出することにより、上記測定対象物反射体までの距離を測定する光学式距離計において、信号処理部により推定される屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布、熱膨張補正量を用いて、上記測定光の反射光の検出出力に基づく上記測定対象物反射体までの距離の測定値を補正することができる。
【0029】
本発明では、設計で吸収しきれない誤差について、基準点までの距離計測の温度特性をとって校正データとすることによって距離の正確度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明を適用した光波距離計の構成例を示すブロック図である。
図2】信号処理部が無線通信により環境計測データを取得するようにした場合の上記光波距離計の構成例を示すブロック図である。
図3】本発明を適用した光コム距離計の構成例を示すブロック図である。
図4】干渉計ヘッドをロボットアームに搭載した上記光コム距離計を示す斜視図である。
図5】上記光コム距離計の干渉計ヘッドに設けられる本体側環境計測センサの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、共通の構成要素については、共通の指示符号を図中に付して説明する。また、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0032】
本発明は、例えば図1のブロック図に示すように、測定光を測定対象物反射体1に照射して、上記測定対象物反射体1により反射された上記測定光の反射光を検出することにより、上記測定対象物反射体1までの距離を測定する光波距離計10に適用される。
【0033】
この光波距離計10は、測定対象物反射体1に照射する測定光Lsとして例えばレーザー光を出射する光源11と、上記測定対象物反射体1により反射された上記測定光Lsの反射光Ls’を検出する光検出器13を内蔵する距離計本体15と、上記光検出器13により得られる上記反射光Ls’の検出出力信号に基づいて、上記測定対象物反射体1までの距離を算出する信号処理部17を備える。
【0034】
上記光源11は、上記信号処理部17により制御されており、例えば、指定されたタイミングで測定光Lsをパルス出射するようになっている。そして、上記光源11からパルス出射された測定光Lsは、ハーフミラー12を介して上記測定対象物反射体1に照射され、上記測定対象物反射体1により反射されて戻ってくる上記測定光Lsの反射光Ls’が上記ハーフミラー12を介して上記測定光検出器13に入射されるようになっている。
【0035】
上記信号処理部17では、例えば、上記光源11から上記測定対象物反射体1に向けて測定光Lsをパルス出射したタイミングから、上記測定対象物反射体1により反射されて戻ってくる上記測定光Lsの反射光Ls’を上記測定光検出器13により検出するタイミングまでの時間を計測することにより、上記測定光Lsが通過した上記光源11から上記光検出器13までの光路長L0は、上記測定光Lsが通過した光路の屈折率をn、真空中の光速をCとして、計測された時間Tから、
L0=C・T/n
にて算出することができ、例えばハーフミラー12の位置を基準点とした場合、上記光源11から上記ハーフミラー12までの光路長L1と、上記ハーフミラー12から上記光検出器13までの光路長L2を上記光路長L0から差し引くことにより、基準点位置から上記測定対象物反射体1までの距離L3を
L3=(L0-(L1+L2))/2
にて算出することができる。
【0036】
なお、ここでは、測定光が測定対象物反射体1により反射されて戻ってくるまでの時間を計測することにより、上記測定対象物反射体1までの距離L3を算出するものとしたが、周波数変調した測定光が測定対象物反射体1により反射されて戻ってくるまでの位相遅れ量から上記測定対象物反射体1までの距離L3を算出するようにしてもよい。
【0037】
そして、この光波距離計10は、上記距離計本体15に設けられた本体側環境計測センサ14と上記測定対象物反射体1に設けられた対象物側環境計測センサ16を備えている。
【0038】
上記本体側環境計測センサ14は、上記距離計本体15の筐体温度を測るための温度センサと、上記距離計本体15側の測定光路上における少なくとも空気の温度を測るための例えば温度センサ・湿度センサ・気圧センサが搭載され、通信機能を有する温度・湿度・気圧データロガーなどからなる。
【0039】
上記距離計本体15の筐体温度を測るための温度センサは、筐体温度の影響を受けやすいハーフミラー12等の光学素子の設置場所近傍における筐体温度を測定するようになっている。
【0040】
また、測定光路上における気温を測るための温度センサは、筐体の材料との間に熱伝導率の低いものを挟むなどして測定結果が筐体の温度に影響されないようにしておくことにより、上記距離計本体15側の測定光路上の空気の温度を精度よく測れるようにしてある。
【0041】
上記本体側環境計測センサ14は、上記距離計本体15側の少なくとも温度を計測して得られる本体側環境計測データを上記信号処理部17に供給するようになっている。
【0042】
また、上記対象物側環境計測センサ16は、上記測定対象物反射体1側の測定光路上における空気の少なくとも温度を測るもので、例えば通信機能を有する温度・湿度・気圧データロガーなどからなる。
【0043】
上記対象物側環境計測センサ16は、上記測定対象物反射体1側の少なくとも温度を計測して得られる対象物側環境計測データを上記信号処理部17に供給するようになっている。
【0044】
そして、上記信号処理部17では、この光波距離計10により、測定光を測定対象物反射体1に照射して、上記測定対象物反射体1により反射された上記測定光の反射光を検出することにより、上記測定対象物反射体1までの距離を測定する際に、上記本体側環境計測センサ14により取得される上記距離計本体15側の測定光路上における空気の少なくとも温度を測定するとともに上記距離計本体15の筐体温度を測定した環境計測データと上記対象物側環境計測センサ16により取得される上記測定対象物反射体1側の少なくとも温度を含む環境計測データに基づいて、上記距離計本体15側における測定光路の屈折率、群屈折率と、上記測定対象物反射体1側における測定光路の屈折率、群屈折率から推定される測定光路に沿った屈折率、群屈折率の分布と、熱膨張補正量を用いて、上記測定光の反射光の検出出力に基づく上記測定対象物反射体1までの距離の測定値L3を補正するようになっている。
【0045】
上記測定対象物反射体1までの距離を測定する際に、上記本体側環境計測センサ14により取得される上記距離計本体15側の測定光路上における空気の少なくとも温度を測定するとともに上記距離計本体15の筐体温度を測定した環境計測データと上記対象物側環境計測センサ16により取得される上記測定対象物反射体1側の少なくとも温度を含む環境計測データに基づいて、例えば、測定光路上の途中のおける空気の温度、湿度、気圧を値は一定勾配であると仮定して屈折率分布を求め、距離補正する。
【0046】
この光波距離計10では、上記本体側環境計測センサ14により取得される上記距離計本体15側の測定光路上における少なくとも空気の温度を測定するとともに上記距離計本体15の筐体温度を測定した環境計測データと上記対象物側環境計測センサ16により取得される上記測定対象物反射体1側の少なくとも温度を含む環境計測データが上記信号処理部17に与えられるので、上記距離計本体15側における測定光路の屈折率、群屈折率と、上記測定対象物反射体1側における測定光路の屈折率、群屈折率から測定光路に沿った屈折率、群屈折率の分布と、熱膨張補正量を高精度に推定することができ、上記距離計本体15側だけで環境計測データを取得するよりも高度な距離補正ができる。
【0047】
ここで、図1のブロック図に示した光波距離計10において、上記各環境計測センサ14、16は、上記信号処理部17に有線接続されているが、図2に示すように、上記各環境計測センサ14、16と上記信号処理部17に、無線通信部5A,5B,5Cを備えることにより、上記信号処理部17は、上記各環境計測センサ14、16により得られる各環境計測データを無線通信にて取得することもできる。
【0048】
また、上記光波距離計10は、上記距離計本体15の筐体内に光コム干渉計を備える光コム距離計であってもよく、上記本体側環境計測センサ14により、干渉計ヘッド周囲の少なくとも温度を含む環境計測データを取得するとともに、干渉計内部の筐体温度を測定し、上記信号処理部17において、大気屈折率と熱膨張の影響を切り分けて、上記測定対象物反射体1までの距離の測定値を補正するものとすることができる。
【0049】
図3は、本発明を適用した光コム距離計20の構成を示すブロック図である。
【0050】
この光コム距離計20は、距離計本体29に備えられた第1の光コム発生器21A、第2の光コム発生器21Bと、上記第1、第2の光コム発生器21A,21Bにより発生される各光コムが入射され、上記第1の光コム発生器21Aから入射された光コムS1を参照光S11,S12に分岐するとともに、上記第2の光コム発生器21Bから入射された光コムS2を測定光S21,S22に分岐して、上記測定光S21を基準面反射体28に照射するとともに、上記測定光S22を測定対象反射体1に照射する干渉光学系ブロック22と、上記干渉光学系ブロック22を介して上記基準面反射体28に照射した測定光S21が該準面反射体28により反射されて戻ってくる上記測定光S21の反射光S21’と上記参照光S11とが重ね合わされた干渉光S3が上記干渉光学系ブロック22を介して入射される参照光検出器23Aと、上記干渉光学系ブロック22を介して上記測定対象反射体1に照射した測定光S22が該測定対象反射体1により反射されて戻ってくる上記測定光S22の反射光S22’と上記参照光S12とが重ね合わされた干渉光S4が上記干渉光学系ブロック22を介して入射される測定光検出器23Bとが設けられた干渉計ヘッド25と、上記参照光検出器23Aにより上記干渉光S3を検出して得られる干渉信号と上記測定光検出器23Bにより上記干渉光S4を検出して得られる干渉信号の時間差に基づいて、光速と測定波長における屈折率から上記基準面反射体28までの距離と上記測定対象反射体1までの距離の差を求める信号処理部27を備える。
【0051】
この光コム距離計20において、上記第1の光コム発生器21Aにより発生される光コムS1は、上記干渉光学系ブロック22に入射され、該干渉光学系ブロック22を介して参照光S11,S12に分岐され、参照光S11が上記参照光検出器23Aに入射されるとともに、参照光S12が測定光検出器23Bに入射される。
【0052】
また、上記第2の光コム発生器21Bにより発生される光コムS2は、上記干渉光学系ブロック22に入射され、該干渉光学系ブロック22を介して測定光S21,S22に分岐されて干渉計ヘッド25から出射され、測定光S21が上記基準面反射体28に照射されるとともに、測定光S22が上記測定対象反射体1に照射される。
【0053】
そして、上記参照光検出器23Aは、上記干渉光学系ブロック22を介して入射される参照光S11と測定光S21の反射光S21’との干渉光S3を受光して、上記干渉光S3に応じた干渉信号を検出出力として得る。また、上記測定光検出器23Bは、上記干渉光学系ブロック22を介して入射される参照光S12と測定光S22の反射光S22’との干渉光S4を受光して、上記干渉光S4に応じた干渉信号を検出出力として得る。
【0054】
ここで、上記参照光検出器23Aによって得られる干渉信号は、キャリア周波数が上記第1及び第2の光コム発生器21A,21Bから出射された参照光S1と測定光S2のキャリア光周波数の差であり、上記参照光S1と測定光S2の光パルス繰り返し周波数の差の周波数で同じ干渉波形が繰り返される。
【0055】
上記第1及び第2の光コム発生器21A,21Bから出射された参照光S1と測定光S2は、繰り返し周波数が等しくないので、光源が動作を開始した時にタイミングがずれていても、少しずつタイミングがずれていき、必ずどこかで参照光S1の光パルスと測定光S2の光パルスが重なる瞬間が現れる。また、その重なる瞬間は参照光S1と測定光S2の繰り返し周波数の差の繰り返し周波数で周期的に現れる。この光パルスと光パルスの重なる瞬間が、遅延時間計測の基準となる。
【0056】
また、測定光検出器23Bによって得られる干渉信号は、上記参照光検出器23Aによって得られる参照光S11と測定光S21’のキャリア光周波数の差である干渉信号と同じくキャリア周波数が参照光S12と測定光S22’のキャリア光周波数の差であり、上記参照光S1と測定光S2の光パルス繰り返し周波数の差と同じ繰り返し周波数を持つ。しかし、上記測定光検出器23Bに入力される光パルスは、基準面反射体28までの距離L1と測定対象反射体1までの距離L2の距離差の絶対値(L2-L1)の分だけ、光パルスのタイミングが遅れるため、光パルスと光パルスの重なる瞬間が上記参照光検出器23Aによって得られる干渉信号と比較して遅れる。この遅れ時間が上記距離差の絶対値(L2-L1)の2倍の距離を光パルスが伝搬することによる遅延時間であり、真空中の光速Cをかけて屈折率ngで割ることにより距離が得られる。
【0057】
そこで、光コム距離計20において、上記信号処理部27は、上記参照光検出器23Aにより上記干渉光S3を検出して得られる干渉信号と上記測定光検出器23Bにより上記干渉光S4を検出して得られる干渉信号の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準面反射体28までの距離L1と上記測定対象反射体1までの距離L2の距離差の絶対値(L2-L1)を求める処理を行う。
【0058】
すなわち、この光コム距離計20では、第1及び第2の光コム発生器21A,21Bから、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある参照光S1と測定光S2を出射し、干渉光学系ブロック22を介して基準面反射体28と測定対象反射体1に測定光S2を照射し、上記基準面反射体28と測定対象反射体1により反射されて戻ってくる参照光S1と測定光S2の各反射光と参照光S1との干渉光S3,S4を参照光検出器23Aと測定光検出器23Bにより検出することにより、上記信号処理部27において、上記参照光検出器23Aにより干渉光S3を検出した干渉信号(参照信号)と上記測定光検出器23Bにより干渉光S4を検出した干渉信号(測定信号)の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準面反射体28までの距離L1と上記測定対象反射体1までの距離L2の距離差の絶対値(L2-L1)を求めることにより、距離を高い精度でしかも短時間に測定することができる。
【0059】
ここで、この光コム距離計20では、参照光S11と基準光路を通過した測定光S21との干渉光S3を参照光検出器23Aで検出することにより得られる干渉信号(参照信号)と、参照光S12と測定光路を通過した測定光S22との干渉光S4を測定光検出器23Bで検出することにより得られる干渉信号(測定信号)との時間差から、基準光路長L1と測定光路長L2の距離差の絶対値(L2-L1)を求めるようにした干渉光光学系22を用いているが、各種構成の干渉光学系を採用することができ、例えば、参照光S11と測定光S21との干渉光S3を参照光検出器23Aにより検出して干渉信号(参照信号)を得るとともに、基準光路を通過させた参照光S12と測定光路を通過させた測定光S22との干渉光S4を測定光検出器23Bにより検出して干渉信号(測定信号)を得て、干渉信号(参照信号)と干渉信号(測定信号)との時間差から、基準光路長L1と測定光路長L2の距離差の絶対値(L2-L1)を求めるように干渉光学系を構成することもできる。
【0060】
この光コム距離計20は、図4に距離計本体29の外観斜視図を示すように、多軸ロボットアーム110が設けられた測定テーブル120を備え、上記多軸ロボットアーム110の先端に取り付けられた上記干渉計ヘッド25により上記測定テーブル120上に載置される測定対象反射体1までの絶対距測定を行うようになっている。
【0061】
そして、この光コム距離計20は、干渉計ヘッド25から出射される測定光S2が照射される測定対象物反射体1に設けられた対象物側環境計測センサ31と、上記干渉計ヘッド25から出射される参照光S1が照射される基準面反射体28に設けられた基準面反射体側環境計測センサ32と、上記干渉計ヘッド25側に設けられた複数の本体側環境計測センサ33A,33B,33Cとを備える。
【0062】
上記対象物側環境計測センサ31は、上記測定対象物反射体1側の測定光路上における空気の少なくとも温度を測るもので、例えば温度センサ・湿度センサ・気圧センサが搭載された通信機能を有する温度・湿度・気圧データロガーなどからなる。
【0063】
上記対象物側環境計測センサ31は、無線通信部5Bが搭載されており、上記測定対象物反射体1側の少なくとも温度を計測して得られる対象物側環境計測データを上記信号処理部27に上記無線通信部5Bを介して供給するようになっている。
【0064】
また、上記基準面反射体側環境計測センサ32は、上記基準面反射体28側の基準光路上における空気の少なくとも温度を測るもので、例えば通信機能を有する温度・湿度・気圧データロガーなどからなる。
【0065】
上記基準面反射体側環境計測センサ32は、無線通信部5Dが搭載されており、上記基準面反射体28側の少なくとも温度を計測して得られる対象物側環境計測データを上記信号処理部27に上記無線通信部5Dを介して供給するようになっている。
【0066】
上記本体側環境計測センサ33Aは、上記干渉計ヘッド25から出射される参照光S1が通過する上記干渉計ヘッド25側の基準光路上における空気の少なくとも温度を測るもので、例えば通信機能を有する温度・湿度・気圧データロガーなどからなる。
【0067】
上記本体側環境計測センサ33Aは、無線通信部5Aが搭載されており、上記基準光路上における少なくとも温度を計測して得られる対象物側環境計測データを上記信号処理部27に上記無線通信部5Aを介して供給するようになっている。
【0068】
上記本体側環境計測センサ33Bは、上記干渉計ヘッド25から出射される測定光S2が通過する測定光路上における空気の少なくとも温度を測る例えば通信機能を有する温度・湿度・気圧データロガーなどからなる。
【0069】
上記本体側環境計測センサ33Bは、無線通信部5Aが搭載されており、上記測定光路上における少なくとも温度を計測して得られる対象物側環境計測データを上記信号処理部27に上記無線通信部5Aを介して供給するようになっている。
【0070】
上記本体側環境計測センサ33A,33Bは、上記干渉計ヘッド25の筐体の材料との間に熱伝導率の低いものを挟むなどして測定結果が筐体の温度に影響されないようにしておくことにより、上記距離計本体29側の測定光路上の空気の温度を精度よく測れるようにしてある。
【0071】
上記本体側環境計測センサ33Cは、上記干渉計ヘッド25の筐体温度を測るための温度センサであって、筐体温度の影響を受けやすい干渉光学系ブロック22の設置場所近傍における筐体温度を測定するようになっている。
【0072】
上記本体側環境計測センサ33Cは、無線通信部5Aが搭載されており、上記筐体温度を計測して得られる対象物側環境計測データを上記信号処理部27に上記無線通信部5A3を介して供給するようになっている。
【0073】
そして、上記信号処理部27では、上記参照光S11と上記基準面反射体28により反射された上記測定光S21’との干渉光S3を検出する参照光検出器23Aにより得られる干渉光検出信号と、上記基準光S12と上記測定対象反射体1により反射された測定光S22’との干渉光S4を検出する測定光検出器23Bことにより得られる干渉光検出信号から算出される上記参照光が通過した参照光路における上記基準面反射体28までの距離L1と上記測定光が通過した測定光路における上記測定対象反射体1までの距離L2の距離差の絶対値(L2-L1)について、上記対象物側環境計測センサ31と上記基準面反射体側環境計測センサ32と上記本体側環境計測センサ33A,33B,33Cにより得られる各環境計測データに基づいて、各部での屈折率、群屈折率やその光路に沿った分布、熱膨張補正量を推定することにより補正データを得て距離補正を行う。
【0074】
この光コム距離計20では、上記測定対象反射体1側の環境計測データを取得する対象物側環境計測センサ31と、上記基準面反射体28側の環境計測データを取得する基準面反射体側環境計測センサ32と、上記干渉計ヘッド25側の環境計測データを取得する本体側環境計測センサ33A,33B,33Cを備えているので、各環境計測データに基づいて、上記信号処理部27において、上記参照光が通過した参照光路における群屈折率を推定するとともに、上記測定光が通過した測定光路における群屈折率を推定して、上記基準面反射体28までの距離L1と上記測定光が通過した測定光路における上記測定対象反射体1までの距離L2の距離差の絶対値(L2-L1)を補正することができる。
【0075】
また、上記本体側環境計測センサ33Cにより、筐体温度の影響を受けやすい干渉光学系ブロック22の設置場所近傍における筐体温度を測定するので、上記信号処理部27において、上記干渉光学系ブロック22の熱膨張について補正することができる。
【0076】
すなわち、上記信号処理部27では、大気屈折率と熱膨張の影響を切り分けて距離補正を行うことができる。
【0077】
ここで、上記信号処理部27では、光コム距離計20により、各環境温度での光路長が既知の基準光路について、各環境温度で光路長測定を行うことにより、各環境温度における光路長の誤差データを校正データとして取得して記録した補正テーブルを作成しておくことにより、実際の距離計測の際に、上記対象物側環境計測センサ31と上記基準面反射体側環境計測センサ32と上記本体側環境計測センサ33A,33B,33Cにより得られる各環境計測データに基づいて、上記補正テーブルを用いて、上記測定対象物反射体1までの距離の測定値を補正するようにしてもよい。
【0078】
また、上記対象物側環境計測センサ31、基準面反射体側環境計測センサ32、本体側環境計測センサ33は、それぞれ取得した環境計測データとして、温度や気圧の測定値を上記信号処理部27に送る際に、各部における温度や気圧等の測定値から屈折率、群屈折率や距離補正量等を計算して、上記信号処理部27に送る演算処理機能を有するものとすることもできる。
【0079】
また、上記光コム距離計20では、上記対象物側環境計測センサ31と上記基準面反射体側環境計測センサ32と上記本体側環境計測センサ33A,33B,33Cと上記信号処理部27に無線通信部5A,5A,5A,5B,5Cを搭載することにより、上記対象物側環境計測センサ31と上記基準面反射体側環境計測センサ32と上記本体側環境計測センサ33A,33B,33Cにより得られる各環境計測データを上記信号処理部27に無線送信するようにしたが、有線接続で環境計測データを送るようにしてもよい。
【0080】
また、上記対象物側環境計測センサ31、上記基準面反射体側環境計測センサ32、上記本体側環境計測センサ33A,33B,33Cには、それぞれ、温度・湿度・気圧を個別に測定する各種センサデバイスを単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0081】
例えば、図5のブロック図に示すように、上記干渉計ヘッド25に設けられる本体側環境計測センサ33として、上記干渉光学系ブロック22が設置される筐体ベースプレート50上に、筐体温度を計測する第1の温度センサ51Aと、光路上の空気の温度と気圧と湿度を計測する第2の温度センサ51Bと気圧センサ52と湿度センサ53を配設するとともに、これらセンサ51A,51B,52,53が接続されたセンサIF回路54を設けるようにしたものを用いることもできる。
【0082】
上記第2の温度センサ51Bは、筐体の材料との間に熱伝導率の低いものを挟むなどして測定結果が筐体の温度に影響されないようにしておくことにより、上記光路上の空気の温度と気圧と湿度を精度よく測れるようにしてある。
【0083】
また、上記センサIF回路54は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)又はCPLD (Complex Programmable Logic Device)により構成されており各種センサの制御とデータ収集、及び、信号処理部27との通信の各機能を有しており、各種センサが収集した環境計測データを上記信号処理部27からの要求に応じている送り返すようになっている。
【0084】
上記筐体ベースプレート50上に搭載されているガイド光を出射するレーザーダイオード55のON/OFF制御も行うようになっている。
【0085】
なお、上記センサIF回路54には、参照光検出器23Aや測定光検出器23Bを含む光検出回路、上記信号処理部27の機能を搭載するようにしても良い。
【0086】
また、上記センサIF回路54は、上記干渉光学系ブロック22が設置される筐体ベースプレート50上に設けられているが、側に設けるようにしても良く、基板として独立している必要もない。機能だけが別の基板に同居している構成であってもよい。
【0087】
ここで、上記光コム距離計20では、上記測定対象反射体1側の環境計測データを取得する対象物側環境計測センサ31と、上記基準面反射体28側の環境計測データを取得する基準面反射体側環境計測センサ32と、上記干渉計ヘッド25側の環境計測データを取得する本体側環境計測センサ33A,33B,33Cを備えているものとしてあるが、干渉計ヘッド25周囲の少なくとも温度を含む環境計測データを取得するとともに、干渉計ヘッド内部の筐体温度を測定する本体側環境計測センサ、すなわち、本体側環境計測センサ33A又は本体側環境計測センサ33Bと本体側環境計測センサ33Cを備えていれば、上記信号処理部27において、上記本体側環境計測センサ33A又は本体側環境計測センサ33Bと本体側環境計測センサ33Cにより取得されるにより環境データに基づいて、大気屈折率と熱膨張の影響を切り分けて距離補正を行うことができる。
【0088】
すなわち、上記本体側環境計測センサ33Cにより、筐体温度の影響を受けやすい干渉光学系ブロック22の設置場所近傍における筐体温度を測定することにより、上記信号処理部27において、上記干渉光学系ブロック22の熱膨張について補正することができる。
【0089】
そして、上記本体側環境計測センサ33A又は本体側環境計測センサ33Bにより取得される距離計本体29側の少なくとも温度を含む環境計測データから、上記信号処理部27において、測定対象反射体1側までの測定光路に沿った環境が一様であると仮定して、屈折率、群屈折率の分布を計算し、光学距離を群屈折率で除すことにより、補正距離を求めることができる。
【0090】
また、上記測定対象反射体1側の環境計測データを取得する対象物側環境計測センサ31を備えていれば、上記本体側環境計測センサ33A又は本体側環境計測センサ33Bにより取得される距離計本体29側の少なくとも温度を含む環境計測データと対象物側環境計測センサ31により取得される測定対象物反射体1側の少なくとも温度を含む環境計測データから、上記信号処理部27において、例えば、距離計本体29側から測定対象反射体1に向かって測定光路及び基準光路に沿った環境が一定の関数に従って分布していると仮定して屈折率、群屈折率の分布を計算することができる。光学距離を屈折率、群屈折率が一定とみなせる微小区間に分割してそれぞれの区間で屈折率補正を実行し、補正された各区間の距離の合計値として補正距離が求められる。環境計測データの値の分布として最も単純な関数型式は一次関数である。温度や圧力、湿度の分布としてあらかじめ一次関数以外の型式が適切であることがわかっている場合には一次関数以外の関数を用いても良い。
【0091】
さらに、上記基準面反射体28側の環境計測データを取得する基準面反射体側環境計測センサ32を備えていれば、上記信号処理部27において、本体側から上記基準面反射体28付近を通過して測定対象反射体1に向かって測定光路に沿った環境が一定の関数に従って分布していると仮定して屈折率、群屈折率の分布を計算することができる。
【0092】
また、基準面反射体側環境計測センサ32により得られる環境計測データに基づいて推定される基準光路における屈折率、群屈折率と、その光路に沿った分布を計算することができ、参照光路が空間と基準面から構成されており基準面が測定光路に近い場合には、基準面から先の区間の光学距離を屈折率、群屈折率が一定とみなせる微小区間に分割してそれぞれの区間で屈折率補正を実行し、補正された各区間の距離の合計値として補正距離が求められる。基準面が測定光路から離れている場合には、参照光路が測定光路付近を離れてから基準面に到達するまでのおおよその距離を別の手段で求めておいて、参照光路が測定光路の近傍を並行していると仮定した場合に経験する群屈折率の値と実際に参照光路が経験する群屈折率の値との差分と参照光路の積を距離の補正値として加算する必要がある。補正対象となる参照光路と測定光路の全区間で群屈折率が一定とみなせる場合は群屈折率の差にと別の手段で求めた参照面までの距離をかけた値が補正値となる。群屈折率が分布している場合には、一定とみなせる区間に分割してそれぞれの区間ごとに群屈折率差を計算して区間距離をかけてその区間の補正量とし、すべての区間の補正量を積算することで補正量を求めることができる。
【0093】
参照光路が例えば光ファイバのような誘電体導波路などの光学材料に閉じ込められている場合にはその材料の温度を干渉計筐体の温度から推測して群屈折率を推定して補正するか、または基準光路の群屈折率変動も加味された基準距離の温度補正距離データを取得しておくなどの手段をとることができる。
【符号の説明】
【0094】
1 測定対象物反射体、5A,5A,5A,5A,5B,5C,5D 無線通信部、10 光波距離計、11 光源、12 ハーフミラー、13,23B 測定光検出器、14,33,33A,33B,33C 本体側環境計測センサ、15、29 距離計本体、16,31 対象物側環境計測センサ、17,27 信号処理部、20 光コム距離計、21A,21B 光コム発生器、22 干渉光学系ブロック、23A 参照光検出器、25 干渉計ヘッド、28 基準面反射体、32 基準面反射体側環境計測センサ、50 筐体ベースプレート、51,51A,51B 温度センサ、52 気圧センサ、53 湿度センサ、54 センサIF回路
図1
図2
図3
図4
図5