(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163285
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】シートヒータ
(51)【国際特許分類】
A47C 7/74 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
A47C7/74 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068130
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】礒野 啓史
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】磯▲崎▼ 匠吾
【テーマコード(参考)】
3B084
【Fターム(参考)】
3B084JF03
(57)【要約】
【課題】ヒータ線の縫製糸の間からの飛び出しを抑制しやすくすること。
【解決手段】シートヒータは、基材(第3基材部分33及び第4基材部分34)と、ヒータ線(第2ヒータ線42)と、を備える。基材は、座席の正面部(座面部)の両側部分であるサイド部(第2シートパッド及び第3シートパッド)に配置されている。ヒータ線は、縫製糸50によって基材の一面に縫い付けられている。ヒータ線は、座席の前後方向(X軸方向)に沿って、所定の長さl1の直線部43と、隣り合う直線部43間でヒータ線が移動しない所定の鈍角α1で屈曲する屈曲部44とを交互に繰り返すパターンを有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席の正面部の両側部分であるサイド部に配置されている基材と、
縫製糸によって前記基材の一面に縫い付けられているヒータ線と、を備え、
前記ヒータ線は、前記座席の前後方向に沿って、所定の長さの直線部と、隣り合う前記直線部間で前記ヒータ線が移動しない所定の鈍角で屈曲する屈曲部とを交互に繰り返すパターンを有する、
シートヒータ。
【請求項2】
前記所定の長さは、前記シートヒータを使用する際の前記基材の圧縮率と、前記基材が圧縮される際に許容される前記ヒータ線の前記縫製糸の間からの飛び出し量と、に基づいて決定される、
請求項1に記載のシートヒータ。
【請求項3】
前記屈曲部において前記縫製糸により前記ヒータ線を前記基材に縫い付ける第1縫製ピッチは、前記直線部において前記縫製糸により前記ヒータ線を前記基材に縫い付ける第2縫製ピッチよりも小さい、
請求項1又は2に記載のシートヒータ。
【請求項4】
前記ヒータ線は、前記基材における前記座席の前後方向に沿った端部にて折り返す折り返し部を有しており、
前記折り返し部は、前記直線部とは異なる他の直線部と、前記屈曲部とは異なる他の屈曲部と、を交互に繰り返すパターンを有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載のシートヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば車両等に装備されている座席を温めるシートヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両等に装備されている座席の暖房用器具として、その座席の座面を温めるシートヒータが開示されている。このシートヒータは、支持体と、支持体にミシンにて縫合し固定され、縫いピッチを4.1(mm)~6.5(mm)とした直線部分と、直線部分と異なるピッチとした曲線部分とを有するチュービングヒータ配線と、を備える。
【0003】
このシートヒータでは、ユーザが座席に着座した際に発生する皺に対応する部分に、縫いピッチの大きい直線部分を設けることで、チュービングヒータ配線が皺に追従して折れないように、チュービングヒータ配線を逃がしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、ヒータ線の縫製糸の間からの飛び出しを抑制しやすいシートヒータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るシートヒータは、基材と、ヒータ線と、を備える。前記基材は、座席の正面部の両側部分であるサイド部に配置されている。前記ヒータ線は、縫製糸によって前記基材の一面に縫い付けられている。前記ヒータ線は、前記座席の前後方向に沿って、所定の長さの直線部と、隣り合う前記直線部間で前記ヒータ線が移動しない所定の鈍角で屈曲する屈曲部とを交互に繰り返すパターンを有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示のシートヒータは、ヒータ線の縫製糸の間からの飛び出しを抑制しやすい、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態におけるシートヒータが備えられた座席の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のII-II線における座席の断面を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態におけるシートヒータの上面図である。
【
図4】
図4は、比較例のヒータ線の一部を拡大した部分拡大図である。
【
図5】
図5は、比較例のヒータ線の一部が縫製糸の間から飛び出した場合の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、縫製糸の間から飛び出した比較例のヒータ線の一部がループを形成した場合の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態におけるシートヒータのヒータ線の一部を拡大した部分拡大図である。
【
図8】
図8は、実施の形態におけるシートヒータのヒータ線の折り返し部を拡大した部分拡大図である。
【
図9】
図9は、実施の形態におけるシートヒータのヒータ線の一部が縫製糸の間から飛び出した状態の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施の形態におけるシートヒータの基材の圧縮率についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一態様に係るシートヒータは、基材と、ヒータ線と、を備える。前記基材は、座席の正面部の両側部分であるサイド部に配置されている。前記ヒータ線は、縫製糸によって前記基材の一面に縫い付けられている。前記ヒータ線は、前記座席の前後方向に沿って、所定の長さの直線部と、隣り合う前記直線部間で前記ヒータ線が移動しない所定の鈍角で屈曲する屈曲部とを交互に繰り返すパターンを有する。
【0010】
これによれば、ユーザの座席に対する着席、又は離席に伴ってヒータ線に荷重が掛かっても、ヒータ線の一部が縫製糸の間から飛び出しにくい、飛び出しても荷重が失われた後に元の状態に復帰しやすい、又は飛び出したヒータ線の一部がループを形成しにくい。つまり、ヒータ線の縫製糸の間からの飛び出しを抑制しやすい、という利点がある。このため、ループに過大な負荷が掛かるということもなく、ヒータ線の劣化を招く可能性を低減しやすい、という利点がある。
【0011】
また、本開示の他の態様に係るシートヒータにおいて、前記所定の長さは、前記シートヒータを使用する際の前記基材の圧縮率と、前記基材が圧縮される際に許容される前記ヒータ線の前記縫製糸の間からの飛び出し量と、に基づいて決定される。
【0012】
これによれば、ヒータ線の縫製糸の間からの飛び出しを更に抑制しやすい、という利点がある。
【0013】
また、本開示の他の態様に係るシートヒータにおいて、前記屈曲部において前記縫製糸により前記ヒータ線を前記基材に縫い付ける第1縫製ピッチは、前記直線部において前記縫製糸により前記ヒータ線を前記基材に縫い付ける第2縫製ピッチよりも小さい。
【0014】
これによれば、直線部と比較して屈曲部が基材に強固に固定される。このため、ヒータ線に所定の荷重が掛かった場合に、ヒータ線が最初から屈曲している屈曲部でのヒータ線の一部の飛び出しを抑制しやすくなる、という利点がある。
【0015】
また、本開示の他の態様に係るシートヒータにおいて、前記ヒータ線は、前記基材における前記座席の前後方向に沿った端部にて折り返す折り返し部を有している。前記折り返し部は、前記直線部とは異なる他の直線部と、前記屈曲部とは異なる他の屈曲部と、を交互に繰り返すパターンを有する。
【0016】
これによれば、折り返し部においても、直線部及び屈曲部と同様に、ヒータ線の縫製糸の間からの飛び出しを抑制することができる、という利点がある。
【0017】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0018】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序等は、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0019】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、同じ構成部材については同じ符号を付している。また、以下の実施の形態において、略矩形等の表現を用いている。例えば、略T矩形は、完全に矩形であることを意味するだけでなく、実質的に矩形である、すなわち、例えば数%程度の誤差を含むことも意味する。また、略矩形は、本開示による効果を奏し得る範囲において矩形という意味である。他の「略」を用いた表現についても同様である。
【0020】
以下の説明において、座席の前後方向をX軸方向と称し、座席の上下方向をZ軸方向と称す。さらに、座席の左右方向、すなわちX軸方向及びZ軸方向のそれぞれに垂直な方向をY軸方向と称す。また、X軸方向における、座席の前側をプラス方向側と称し、座席の後側をマイナス方向側と称す。また、Y軸方向における、座席の左側(
図1では右手前側)をプラス方向側と称し、その反対側をマイナス方向側と称す。また、Z軸方向における、座席の上側をプラス方向側と称し、座席の下側をマイナス方向側と称す。
図2以降においても、同様に適用する。
【0021】
(実施の形態)
<1.全体構成>
[座席]
まず、実施の形態におけるシートヒータ20が備えられる座席1について
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は、実施の形態におけるシートヒータ20が備えられた座席1の外観を示す斜視図である。
図2は、
図1のII-II線における座席1の断面を示す断面図である。
図2では、シートバック14等を省略している。
【0022】
図1に示すように、例えば車両等に装備されている座席1は、シートバック14と、ヘッドレスト15と、シートクッション10と、シートヒータ20とを備えている。
【0023】
シートバック14は、座席1に着座するユーザの背部を支える背もたれ部である。シートバック14は、シートクッション10に対して立上るように配置されている。
【0024】
ヘッドレスト15は、座席1に着座するユーザの頭部を支える頭あて部である。ヘッドレスト15は、シートバック14のZ軸プラス方向側の端部に固定されている。
【0025】
シートクッション10は、
図1及び
図2に示すように、座席1に着座するユーザの臀部及び大腿部を支える座席1の座部である。シートクッション10は、クッション材に相当する第1シートパッド11a、第2シートパッド11b、第3シートパッド11c及び第4シートパッド11dと、その第1シートパッド11a、第2シートパッド11b、第3シートパッド11c及び第4シートパッド11dを覆う第1シートカバー12a、第2シートカバー12b、第3シートカバー12c及び第4シートカバー12dとを有している。
【0026】
第1シートパッド11aは、例えばウレタンフォーム等からなり、座席本体の一部を構成する。第1シートパッド11aは、厚みのある略矩形の板状であり、X-Y平面と略平行な姿勢で配置されている。第1シートパッド11aは、着座するユーザの臀部及び大腿部を支持することができる。
【0027】
第2シートパッド11bは、例えばウレタンフォーム等からなり、座席本体の一部を構成する。第2シートパッド11bは、第1シートパッド11aの一方側であるY軸マイナス方向側の端縁に配置されている、座席1のサイド部に相当する。実施の形態では、第2シートパッド11bは、ユーザの右臀部から右大腿部に沿って、つまり、第1シートパッド11aのY軸マイナス方向側の端縁に沿って配置されている。第2シートパッド11bは、ユーザの右臀部から右大腿部に至る右側部分を支持する。
【0028】
第3シートパッド11cは、例えばウレタンフォーム等からなり、座席本体の一部を構成する。第3シートパッド11cは、第1シートパッド11aの他方側であるY軸プラス方向側に配置されている座席1のサイド部に相当する。実施の形態では、第3シートパッド11cは、ユーザの左臀部から左大腿部に沿って、つまり、第1シートパッド11aのY軸プラス方向側の端縁に沿って配置されている。第3シートパッド11cは、ユーザの左臀部から左大腿部に至る左側部分を支持する。
【0029】
第4シートパッド11dは、例えばウレタンフォーム等からなる。第4シートパッド11dは、第1シートパッド11a、第2シートパッド11b及び第3シートパッド11cのそれぞれよりも、厚みの薄い板状であり、シートヒータ20を覆う。
【0030】
第4シートパッド11dは、シートヒータ20と第1シートカバー12a、第2シートカバー12b、第3シートカバー12c及び第4シートカバー12dとの間に配置され、シートヒータ20に対する弾性部材として機能する。つまり、第4シートパッド11dは、座席1に着座するユーザの臀部及び大腿部とシートヒータ20との間に配置されていることで、ユーザのシートヒータ20に対する違和感を抑制する弾性部材として機能する。
【0031】
第1シートカバー12aは、ユーザの臀部に対応する位置にある第4シートパッド11dの部分を覆うカバーである。第1シートカバー12aは、ユーザの臀部に対応する位置に配置され、第1シートパッド11aの一部を覆う。第1シートカバー12aは、例えば革カバー、又は繊維カバー等である。
【0032】
第2シートカバー12bは、ユーザの大腿部に対応する位置にある第4シートパッド11dの部分を覆うカバーである。第2シートカバー12bは、ユーザの大腿部に対応する位置に配置され、第1シートパッド11aの一部を覆う。第2シートカバー12bは、例えば革カバー、又は繊維カバー等である。
【0033】
第3シートカバー12cは、ユーザの右臀部から右大腿部に至る右側部分に対応する位置にある第4シートパッド11dの部分を覆うカバーである。第3シートカバー12cは、例えば革等からなり、ユーザの右臀部から右大腿部に至る右側部分に対応する位置に配置されている。つまり、第3シートカバー12cは、第1シートカバー12a及び第2シートカバー12bのY軸マイナス方向側に配置され、第2シートパッド11bを覆う。第3シートカバー12cは、例えば革カバー、繊維カバー等である。
【0034】
第4シートカバー12dは、ユーザの左臀部から左大腿部に至る左側部分に対応する位置にある第4シートパッド11dの部分を覆うカバーである。第4シートカバー12dは、例えば革等からなり、ユーザの左臀部から左大腿部に至る左側部分に対応する位置に配置されている。つまり、第4シートカバー12dは、第1シートカバー12a及び第2シートカバー12bのY軸プラス方向側に配置され、第3シートパッド11cを覆う。
【0035】
[シートヒータ]
次に、実施の形態におけるシートヒータ20について
図1~
図3を用いて説明する。
図3は、実施の形態におけるシートヒータ20の上面図である。
【0036】
シートヒータ20は、車両等の座席1に装備され、ユーザが座席1に着座した際に発熱によって座席1の座面部10aを温めることで、ユーザの臀部及び大腿部等を温めることができるヒータ装置である。シートヒータ20は、第1シートパッド11aと第4シートパッド11dとの間に配置されている。実施の形態では、シートヒータ20は、座席1の座面部10aに設けられるが、シートバック14等に設けられてもよい。
【0037】
座面部10aは、正面部の一例である。実施の形態では、シートヒータ20をシートクッション10に適用した場合を説明しているが、シートヒータ20をシートバック14に適用した場合、ユーザの背中と接触するシートバック14の背もたれ面部が、正面部の一例となる。
【0038】
図1及び
図3に示すように、シートヒータ20は、第1採暖部21と、第2採暖部23と、接続部22と、第3採暖部24aと、第4採暖部24bと、を備える。
【0039】
第1採暖部21は、第1シートカバー12a及び第4シートパッド11dに覆われ、座席1に着座するユーザの臀部を、第1シートカバー12a及び第4シートパッド11dを介して温める。第1採暖部21は、座席1における、ユーザの臀部に対応する部分、つまり、第1シートカバー12aに対応する部分に配置されている。
【0040】
第2採暖部23は、第2シートカバー12b及び第4シートパッド11dに覆われ、座席1に着座するユーザの大腿部を、第2シートカバー12b及び第4シートパッド11dを介して温める。第2採暖部23は、座席1における、ユーザの大腿部に対応する部分、つまり、第2シートカバー12bに対応する部分に配置されている。
【0041】
接続部22は、第1採暖部21と第2採暖部23との間に配置され、第1採暖部21及び第2採暖部23とを接続する部分である。
【0042】
第3採暖部24aは、第3シートカバー12c及び第4シートパッド11dに覆われ、座席1に着座するユーザの右臀部から右大腿部に沿って、第3シートカバー12c及び第4シートパッド11dを介して温める。第3採暖部24aは、座席1における、ユーザの右臀部から右大腿部に至る右側部分に対応する部分、つまり、第3シートカバー12cに対応する部分に配置されている。具体的には、第3採暖部24aは、X軸方向に長尺であり、第1採暖部21及び第2採暖部23の右側端縁に沿って配置されている。
【0043】
第4採暖部24bは、第4シートカバー12d及び第4シートパッド11dに覆われ、座席1に着座するユーザの左臀部から左大腿部に沿って、第4シートカバー12d及び第4シートパッド11dを介して温める。第4採暖部24bは、座席1における、ユーザの左臀部から左大腿部に至る左側部分に対応する部分、つまり、第4シートカバー12dに対応する部分に配置されている。具体的には、第4採暖部24bは、X軸方向に長尺であり、第1採暖部21及び第2採暖部23の左側端縁に沿って配置されている。
【0044】
また、シートヒータ20は、基材30と、ヒータ線40と、縫製糸50(
図4参照)と、ヒータ線40に電力を供給するハーネス70とを備える。
【0045】
[基材]
基材30は、弾性、柔軟性及び延性を有する材質によってシート状に形成された布状のウレタン等の発泡性樹脂からなる。なお、基材30は、不織布であってもよい。
【0046】
基材30は、第1基材部分31と、第2基材部分32と、接続部22と、第3基材部分33と、第4基材部分34とを有している。
【0047】
第1基材部分31は、第1採暖部21に対応する部分であり、矩形状に形成されている。第1基材部分31は、ユーザの臀部に対応する第1シートパッド11aの部分の上面(Z軸プラス方向側の面)に配置されている。
【0048】
第2基材部分32は、第2採暖部23に対応する部分であり、矩形状に形成されている。第2基材部分32は、ユーザの大腿部に対応する第1シートパッド11aの部分の上面(Z軸プラス方向側の面)に配置されている。
【0049】
第1基材部分31及び第2基材部分32は、この並び順でX軸方向に沿って配列され、2つの接続部22と共に一体に構成されている。
【0050】
2つの接続部22は、第1基材部分31と第2基材部分32とを接続する部分である。2つの接続部22のそれぞれには、ヒータ線40の一部(後述する第1ヒータ線41の一部)が縫い付けられている。
【0051】
第3基材部分33は、第3採暖部24aに対応する部分であり、X軸方向に延びる帯状に形成されている。第3基材部分33は、第1基材部分31に接続され、第1基材部分31及び第2基材部分32のY軸マイナス方向側の端縁に沿って、第2シートパッド11bと第4シートパッド11dとの間に配置されている。言い換えれば、第3基材部分33は、座席1の座面部10aの両側部分のうちのY軸マイナス方向側の第2シートパッド11bに配置されている。第3基材部分33は、基材30の一例である。
【0052】
第4基材部分34は、第4採暖部24bに対応する部分であり、X軸方向に延びる帯状に形成されている。第4基材部分34は、第1基材部分31に接続され、第1基材部分31及び第2基材部分32のY軸プラス方向側の端縁に沿って、第3シートパッド11cと第4シートパッド11dとの間に配置されている。言い換えれば、第4基材部分34は、座席1の座面部10aの両側部分のうちのY軸プラス方向側の第3シートパッド11cに配置されている。第4基材部分34は、X-Z平面に対して第3基材部分33と概ね面対称となる位置に配置され、第3基材部分33と一対の基材部分を構成する。第4基材部分34は、基材30の一例である。
【0053】
また、第3基材部分33及び第4基材部分34のそれぞれは、延在部33aと、複数の固定部33bとを有している。
【0054】
延在部33aは、サイド部である第2シートパッド11b及び第3シートパッド11cのそれぞれに沿って第1方向(実施の形態ではX軸方向であり、例えばX軸プラス方向)に延びている。つまり、2つの延在部33aは、第1基材部分31からX軸プラス方向に延びる帯状である。第3基材部分33の延在部33aは第2シートパッド11bの上面に載置され、第4基材部分34の延在部33aは第3シートパッド11cの上面に載置されている。
【0055】
複数の固定部33bは、第3基材部分33及び第4基材部分34を座席1に対して固定するための部分である。
【0056】
[ヒータ線]
ヒータ線40は、図示しない制御装置と電気的に接続され、図示しない電源部から電流が流されることによって、発熱することが可能な導電線である。
【0057】
ヒータ線40は、ハーネス70から基材30の各部分を通ってそのハーネス70に戻るように基材30の一面に縫い付けられている。ヒータ線40は、銅等の金属線であって、例えばポリエステル繊維の糸を縫製糸50として用いて基材30の一面に縫い付けられている。ヒータ線40は、縫製糸50がジグザグ状のパターンを形成するように、縫製糸50により基材30の表面に縫い付けられている。ここで、ヒータ線40が縫製糸50により基材30の表面に縫い付けられているとは、基材30に縫い付けられた縫製糸50によりヒータ線40が基材30に保持されていることをいう。
【0058】
具体的には、ヒータ線40は、1本の金属線であり、第1基材部分31、第2基材部分32、接続部22、第3基材部分33、及び、第4基材部分34のそれぞれにおいて縫い付けられている。なお、以下の説明では、ヒータ線40のうち、第1基材部分31、第2基材部分32、及び接続部22に縫い付けられているヒータ線を「第1ヒータ線41」と呼び、第1基材部分31、第3基材部分33、及び第4基材部分34に縫い付けられているヒータ線を「第2ヒータ線42」と呼ぶ。したがって、第1ヒータ線41と2箇所の第2ヒータ線42は1本のヒータ線40からなり、これらは電気的に直列である。なお、本実施の形態では第1ヒータ線41と第2ヒータ線42は直列の構成であるが、これに限定されるものではなく、並列の構成であってもよい。
【0059】
[第1ヒータ線]
第1ヒータ線41は、第3基材部分33に配置された第2ヒータ線42から、第1基材部分31、2つの接続部22のうちの一方、及び、第2基材部分32の順に、基材30のそれらの部分を通るように基材30に配置されている。さらに、第1ヒータ線41は、第2基材部分32、2つの接続部22のうちの他方、及び、第1基材部分31の順に、基材30のそれらの部分を通って第4基材部分34に配置された第2ヒータ線42に至るように、基材30に配置されている。また、第1ヒータ線41は、第1基材部分31、2つの接続部22,及び第2基材部分32のそれぞれにおいて、ジグザグ状のパターンを形成するように配置されている。
【0060】
これにより、第1基材部分31上の第1ヒータ線41及び第1基材部分31が第1採暖部21を構成し、第2基材部分32上の第1ヒータ線41及び第2基材部分32が第2採暖部23を構成する。
【0061】
[第2ヒータ線]
第2ヒータ線42は、第1ヒータ線41(
図3の左側)から、第1基材部分31、及び、第3基材部分33の順に、基材30のそれらの部分を通り、第3基材部分33のX軸プラス方向側の先端部で折り返して、第3基材部分33、及び、第1基材部分31の順に、基材30のそれらの部分を通りハーネス70に戻るように、基材30に配置されている。さらに、第2ヒータ線42は、第1ヒータ線41(
図3の右側)から、第1基材部分31及び第4基材部分34の順に、基材30のそれらの部分を通り、かつ、第4基材部分34のX軸プラス方向側の先端部で折り返して、第4基材部分34及び第1基材部分31の順に、基材30のそれらの部分を通ってハーネス70に戻るように、基材30に配置されている。
【0062】
これにより、第3基材部分33上の第2ヒータ線42及び第3基材部分33は、第3採暖部24aを構成し、第4基材部分34上の第2ヒータ線42及び第4基材部分34は、第4採暖部24bを構成する。第2ヒータ線42については、後述する<2.ヒータ線の構造>にて詳細に説明する。
【0063】
[縫製糸]
縫製糸50は、ヒータ線40を基材30に固定するために、ヒータ線40の延在方向に沿ってヒータ線40を基材30に縫い付ける。縫製糸50は、例えば、図示しない、上糸と下糸とを有している。上糸は基材30の表面から裏面に向けて貫通するように基材30に縫製されており、下糸は基材30の裏面から表面に向けて貫通するように基材30に縫製されている。
【0064】
[ハーネス]
ハーネス70は、第1基材部分31におけるX軸方向マイナス側の端部に配置され、ヒータ線40と電気的に接続されている。また、ハーネス70は、図示しない制御装置と電気的に接続され、図示しない電源部からの電流をヒータ線40に流す。
【0065】
[動作]
以下、実施の形態におけるシートヒータ20の動作について説明する。実施の形態では、制御装置がヒータ線40に電流を流すと、シートヒータ20が発熱する。これにより、第4シートパッド11d、第1シートカバー12a、第2シートカバー12b、第3シートカバー12c及び第4シートカバー12dを介して、座席1に着座しているユーザの臀部及び大腿部を温めることができる。具体的には、シートヒータ20の第1採暖部21が発熱することでユーザの臀部を温め、シートヒータ20の第2採暖部23が発熱することでユーザの大腿部を温める。また、シートヒータ20の第3採暖部24aが発熱することでユーザの右臀部から右大腿部に至る右側部分を温め、シートヒータ20の第4採暖部24bが発熱することでユーザの左臀部から左大腿部に至る左側部分を温める。つまり、第3採暖部24a及び第4採暖部24bは、ユーザの臀部及び大腿部の両側を温めることができる。
【0066】
<2.ヒータ線の構造>
以下、第3基材部分33及び第4基材部分34にそれぞれ配置されている第2ヒータ線42の構造について、詳細に説明する。以下の説明において、第3基材部分33及び第4基材部分34は、座席1の正面部の両側部分であるサイド部に配置されている「基材」である。また、以下の説明において、第2ヒータ線42は、縫製糸50によって「基材」の一面に縫い付けられている「ヒータ線」である。
【0067】
[背景]
まず、第2ヒータ線42を採用するに至った背景について、
図4に示す比較例のヒータ線100を用いて説明する。
図4は、比較例のヒータ線100の一部を拡大した部分拡大図である。
図4に示すように、比較例のヒータ線100は、第3基材部分33(又は第4基材部分34)において、全体として湾曲した波線状にX軸方向に沿って配置されている点で、実施の形態における第2ヒータ線42と相違する。
【0068】
シートヒータにおいては、ヒータ線による十分な発熱量を確保する必要があるが、この発熱量は、ヒータ線の抵抗値に依存する。そして、ヒータ線の抵抗値は、ヒータ線の長さに比例するため、十分な発熱量を確保するためには、ヒータ線を十分に長くする必要がある。一方、シートヒータにおいては、座席の限られたスペースにヒータ線を配置しなければならないという事情が存在する。そこで、シートヒータにおいては、比較例のヒータ線100のような構造とすることで、限られたスペースにヒータ線を収めつつ、ヒータ線の長さを十分に確保することが考えられる。
【0069】
ところで、ユーザが座席1の座面部10aに着座する、又は座席1の座面部10aから離れる際には、座面部10aにユーザの体重に応じた荷重が掛かる。そして、座席1の正面部の両側部分であるサイド部における、特にドア側のサイド部では、ユーザがサイド部に臀部を載せながら車内に対し出入りする。その結果、シートヒータにおけるユーザの臀部が当接する部分はZ方向に沈み込むため、その分、シートヒータはX方向に圧縮される。したがって、主として座席1の前後方向に沿った荷重が第3基材部分33及び第3基材部分33に配置された比較例のヒータ線100に掛かることにより、第3基材部分33と共に比較例のヒータ線100が圧縮される。第4基材部分34及び第4基材部分34に配置された比較例のヒータ線100についても、上記と同様の荷重が掛かることにより、第4基材部分34と共に比較例のヒータ線100が圧縮される。
【0070】
ここで、比較例のヒータ線100は、縫製糸50により第3基材部分33(又は第4基材部分34)に縫い付けられているため、基本的に移動が制限されているが、上記荷重が掛かって圧縮されることにより、
図5に示すようにその一部が縫製糸50の間から飛び出す場合がある。
図5は、比較例のヒータ線100の一部が縫製糸50の間から飛び出した場合の一例を示す図である。ユーザが座席1から離れた後においては、上記荷重が失われることにより、比較例のヒータ線100は元の状態に復帰しようとするが、比較例のヒータ線100の飛び出し度合いによっては、比較例のヒータ線100の一部が縫製糸50の間から飛び出した状態を維持する場合がある。
【0071】
このように、比較例のヒータ線100の一部が縫製糸50の間から飛び出した状態が維持される場合、ユーザの座席1に対する着席及び離席の繰り返しに伴って上記荷重が何度も掛かることにより、
図6に示すように、縫製糸50の間から飛び出した比較例のヒータ線100の一部がループを形成する可能性がある。
図6は、縫製糸50の間から飛び出した比較例のヒータ線100の一部がループを形成した場合の一例を示す図である。また、比較例のヒータ線100の飛び出し度合いによっては、上記荷重が一度掛かるだけでも、縫製糸50の間から飛び出した比較例のヒータ線100の一部がループを形成する可能性がある。
【0072】
そして、上記のように縫製糸50の間から飛び出した比較例のヒータ線100の一部がループを形成した場合、当該ループに過大な負荷が掛かりやすくなり、比較例のヒータ線100の劣化を招く可能性がある、という課題がある。そこで、本願の発明者は、比較例のヒータ線100の代わりに、以下に説明する構造を有する第2ヒータ線42を採用することで、上記の課題の解決を図っている。
【0073】
[構造]
第2ヒータ線42は、
図3に示すように、第3基材部分33及び第4基材部分34のそれぞれにおいて、湾曲部分が無い、又は湾曲部分が殆ど存在しないジグザグ状にX軸方向に沿って配置されている。第2ヒータ線42は、第3基材部分33の一面及び第4基材部分34の一面のそれぞれに、縫製糸50(
図7参照)によって縫い付けられている。つまり、第2ヒータ線42は、第3基材部分33及び第4基材部分34のZ軸プラス方向側の面にそれぞれに固定されている。
【0074】
図7は、実施の形態におけるシートヒータ20のヒータ線40(第2ヒータ線42)の一部を拡大した部分拡大図である。
図7に示すように、第2ヒータ線42は、X軸方向(つまり、座席1の前後方向)に沿って、所定の長さl1の直線部43と、所定の鈍角α1で屈曲する屈曲部44とを交互に繰り返すパターンを有している。具体的には、第2ヒータ線42は、後述する折り返し部45を除いて、上記直線部43と屈曲部44とを交互に繰り返すパターンで、第3基材部分33(又は第4基材部分34)に配置されている。
【0075】
直線部43は、所定の長さl1の直線状の第2ヒータ線42により構成されている。ここでいう「所定の長さl1」とは、第2ヒータ線42に対してX軸方向(つまり、座席1の前後方向)に所定の荷重が掛かることで第2ヒータ線42が圧縮された場合に、直線部43を構成する第2ヒータ線42の一部が縫製糸50の間から飛び出さない、又は飛び出しても所定の荷重が失われた後に元の状態に復帰可能な程度の長さである。または、「所定の長さl1」とは、上記所定の荷重が掛かることで第2ヒータ線42が圧縮された場合に、飛び出した第2ヒータ線42の一部がループを形成しない程度の長さである。実施の形態では、「所定の長さl1」は、一例として約数十mmである。
【0076】
また、「所定の荷重」は、ユーザが座席1の座面部10aに着座する、又は座面部10aから離れる際に第2ヒータ線42に掛かる荷重であり、ユーザの体重に依存する。実施の形態では、「所定の荷重」は、ユーザの体重の想定される最大値(例えば、約100kg)に基づいて適宜決定される。
【0077】
屈曲部44は、所定の鈍角α1で屈曲した第2ヒータ線42により構成されている。ここでいう「所定の鈍角α1」とは、第2ヒータ線42に対してX軸方向(つまり、座席1の前後方向)に所定の荷重が掛かることで第2ヒータ線42が圧縮された場合に、屈曲部44を構成する第2ヒータ線42の一部が隣り合う直線部43間で移動しない程度の角度である。実施の形態では、「所定の鈍角α1」は、一例として120度~140度であって、例えば数%程度の誤差を含んでいてもよい。
【0078】
ここで、「所定の鈍角α1」は、大きくなればなる程、上記のように屈曲部44を構成する第2ヒータ線42の一部が隣り合う直線部43間で移動しやすくなるため、上記のように上限が設定される。一方、「所定の鈍角α1」は、小さくなればなる程(つまり、直角に近づく程)、以下に説明する問題が生じやすくなるため、上記のように下限が設定される。
【0079】
すなわち、ユーザが座席1の座面部10aに着座する、又は座席1の座面部10aから離れる際には、座席1の正面部の両側部分であるサイド部の特にドア側部分にユーザが臀部を載せつつ横方向に移動することにより、サイド部にX軸方向(つまり、座席1の前後方向)に沿った皺が発生し得る。この皺は、特にユーザが車高の高い車両に乗車する際に、座席1のサイド部を擦りながら乗車することに起因して発生する。このため、この皺に直交するように第2ヒータ線42が配置されていると、この皺により第2ヒータ線42の一部に過大な負荷が掛かりやすくなり、第2ヒータ線42の劣化を招く可能性がある、という問題が生じる。したがって、第2ヒータ線42は、この皺と直交する部分が少なくなるように、極力X軸方向(つまり、座席1の前後方向)に沿うように配置するのが好ましいことから、上記のように所定の鈍角α1の下限が設定される。
【0080】
実施の形態では、直線部43での縫製糸50の縫製ピッチと、屈曲部44での縫製糸50の縫製ピッチとは異なっており、後者の縫製ピッチの方が前者の縫製ピッチよりも小さくなっている。ここで、「縫製ピッチ」とは、第2ヒータ線42の内周側の縫い目M1と、縫い目M1と隣接して縫製糸50で直接的に接続される第2ヒータ線42の外周側の縫い目N1との間の距離であって、第2ヒータ線42の長さ方向に投影した距離である。つまり、屈曲部44において縫製糸50により第2ヒータ線42を第3基材部分33(又は第4基材部分34)に縫い付ける第2縫製ピッチP2は、直線部43において縫製糸50により第2ヒータ線42を第3基材部分33(又は第4基材部分34)に縫い付ける第1縫製ピッチP1よりも小さい。
【0081】
このように、屈曲部44での縫製糸50の縫製ピッチ(第2縫製ピッチP2)を、直線部43での縫製糸50の縫製ピッチ(第1縫製ピッチP1)よりも小さくすることにより、直線部43と比較して屈曲部44が第3基材部分33(又は第4基材部分34)に強固に固定される。このため、第2ヒータ線42に所定の荷重が掛かった場合に、第2ヒータ線42が最初から屈曲している屈曲部44での第2ヒータ線42の一部の飛び出しを抑制しやすくなる。
【0082】
折り返し部45は、第2ヒータ線42のうち、第3基材部分33(又は第4基材部分34)のX軸プラス方向側の先端部(つまり、基材3における座席1の前後方向に沿った前端部)にて折り返す部分である。実施の形態では、第2ヒータ線42は、折り返し部45においても上記パターンと似たパターンを有している。
【0083】
図8は、実施の形態におけるシートヒータ20のヒータ線(第2ヒータ線42)の折り返し部45を拡大した部分拡大図である。
図8に示すように、折り返し部45は、直線部43とは異なる他の直線部43Aと、屈曲部44とは異なる他の屈曲部44Aと、を交互に繰り返すパターンを有している。なお、
図8では、縫製糸50の図示を省略している。
【0084】
他の直線部43Aは、直線部43と同様に直線状の第2ヒータ線42により構成されているが、その長さl2が所定の長さl1と異なっている。この「長さl2」は、直線部43の「所定の長さl1」と同様に、所定の荷重が掛かることを想定した長さに設定される。
【0085】
他の屈曲部44Aは、屈曲部44と同様に屈曲した第2ヒータ線42により構成されているが、その屈曲する鈍角α2が所定の鈍角α1とは異なっている。この「鈍角α2」は、屈曲部44の「所定の鈍角α1」と同様に、隣り合う他の直線部43A間で第2ヒータ線42の一部が移動しない角度に設定される。
【0086】
[ヒータ線の設計]
以下、第2ヒータ線42を設計する過程について、
図9を用いて説明する。
図9は、実施の形態におけるシートヒータ20のヒータ線(第2ヒータ線42)の一部が縫製糸50の間から飛び出した状態の一例を示す図である。具体的には、実際の設計時における第2ヒータ線42の直線部43の所定の長さl1、及び屈曲部44の所定の鈍角α1を決定する過程について説明する。なお、以下の過程は、実際の設計時における第2ヒータ線42の折り返し部45の他の直線部43Aの長さl2、及び他の屈曲部44Aの鈍角α2を決定する過程にも適用可能である。
【0087】
まず、直線部43において、所定の荷重が掛かった際に縫製糸50の間から飛び出すことが許容される第2ヒータ線42の許容量A1を設定する。許容量A1は、第3基材部分33(又は第4基材部分34)の表面(XY平面)を平面視した場合において、縫製糸50の間から飛び出した第2ヒータ線42の一部の高さにより表される。
【0088】
ここでいう「縫製糸50の間」とは、直線部43における第2ヒータ線42の内周側の任意の縫い目M11から次の内周側の縫い目M12までの間である。屈曲部44は、直線部43と比較して第3基材部分33(又は第4基材部分34)に強固に縫い付けられている。このため、第2ヒータ線42に所定の荷重が掛かった際には、屈曲部44は基本的に動かず、屈曲部44を支点F1として直線部43を構成する第2ヒータ線42が所定の荷重により押し曲げられ、縫い目M11と縫い目M12との間から第2ヒータ線42の一部が飛び出し得る。
【0089】
次に、以下の式(1)を用いて、所定の荷重が掛かった際に縫製糸50の間から飛び出すことが許容される第2ヒータ線42の理論上の最大飛び出し量Re1を算出する。最大飛び出し量Re1は、第2ヒータ線42が理論上の最大値まで縫製糸50の間から飛び出した状態における縫い目M11から縫い目M12までの第2ヒータ線42の長さと、第2ヒータ線42が縫製糸50の間から飛び出していない状態における縫い目M11から縫い目M12までの第2ヒータ線42の長さと、の差分により表される。
【0090】
以下の式(1)において、「P1」は第1縫製ピッチP1を表している。なお、第1縫製ピッチP1は、第2ヒータ線42を第3基材部分33(又は第4基材部分34)に縫い付ける設計において、設計上都合の良い値に設定される。また、「A1」は、上述の許容量A1であって、
図9に示すように第2ヒータ線42の飛び出し高さである。許容量A1は、第2ヒータ線42の一部が元の状態に復帰可能な値として、あらかじめ実験的に求めておく。
【0091】
【0092】
算出された最大飛び出し量Re1は、例えば飛び出した第2ヒータ線42の一部がループを形成しない程度の値、又は所定の荷重が失われた後に飛び出した第2ヒータ線42の一部が元の状態に復帰可能な程度の値以下であればよい。この条件を満たすように、第1縫製ピッチP1の設計値が式(1)により求められる。
【0093】
次に、第3基材部分33及び第3基材部分33に配置された第2ヒータ線42に対して、実際にX軸方向(つまり、座席1の前後方向)に沿って所定の荷重を掛ける実負荷試験を行う。実負荷試験は、第4基材部分34及び第4基材部分34に配置された第2ヒータ線42に対しても行ってもよい。所定の荷重は、既に述べたように、ユーザの体重の想定される最大値(例えば、約100kg)に基づいて適宜決定される。そして、式(1)で得られた第1縫製ピッチP1によりシートヒータ20を作製し、実負荷試験により縫製糸50の間から飛び出した第2ヒータ線42の実際の飛び出し量Re2を計測する。なお、実際の飛び出し量Re2は、所定の荷重の大きさと、第2ヒータ線42が配置された基材(第3基材部分33又は第4基材部分34)の材質と、に依存する。
【0094】
また、実負荷試験による第3基材部分33(又は第4基材部分34)の圧縮率κ1を計測する。ここで、圧縮率κ1について
図10を用いて説明する。
図10は、実施の形態におけるシートヒータ20の基材(第3基材部分33又は第4基材部分34)の圧縮率κ1についての説明図である。
図10において、二点鎖線は、実負荷試験を行う前の基材の状態を表している。また、
図10において、実線は、実負荷試験を行った後の基材の状態を表している。
【0095】
すなわち、実負荷試験を行うことにより、基材は所定の荷重が掛かることで圧縮される。そこで、実負荷試験時において圧縮した基材のX軸方向の長さΔLを、実負荷試験を行う前における基材のX軸方向の長さLで除することにより、圧縮率κ1を算出する。
【0096】
つまり、圧縮率κ1は、以下の式(2)により表される。なお、圧縮率κ1は、基材に掛かる荷重の大きさと、基材の弾性と、に依存するパラメータである。
【0097】
【0098】
次に、式(1)の「Re1」を変数、「A1」を定数、「P1」を変数として、「Re1」に実際の飛び出し量Re2を代入することにより、「P1」を算出する。ここで算出された「P1」を、実際の設計時における第1縫製ピッチP1として決定する。
【0099】
そして、実際の飛び出し量Re2と、圧縮率κ1とに基づいて、所定の長さl1を算出する。言い換えれば、所定の長さl1は、シートヒータ20を使用する際の第3基材部分33(又は第4基材部分34)の圧縮率κ1と、第3基材部分33(又は第4基材部分34)が圧縮される際に許容される第2ヒータ線42の縫製糸50の間からの飛び出し量Re2と、に基づいて決定される。具体的には、実際の飛び出し量Re2を圧縮率κ1で除することにより、所定の長さl1を算出する。つまり、所定の長さl1は、以下の式(3)により表される。
【0100】
【0101】
ここで算出された「l1」を、実際の設計時における所定の長さl1として決定する。なお、算出された「l1」をそのまま採用するのではなく、縫製糸50の縫製ピッチのばらつき、及び/又は圧縮率κ1の余裕度を考慮して調整された「l1」を、実際の設計時における所定の長さl1として決定してもよい。
【0102】
そして、第3基材部分33及び第3基材部分33に配置された第2ヒータ線42に対して、所定の鈍角α1を適宜変更しながら実負荷試験を行うことにより、実際の設計時における所定の鈍角α1を決定する。実負荷試験は、第4基材部分34及び第4基材部分34に配置された第2ヒータ線42に対しても行ってもよい。また、所定の鈍角α1を決定する過程は、上述の所定の長さl1を決定する過程と並行して行われてもよい。
【0103】
<作用効果>
以上のように、実施の形態におけるシートヒータ20は、基材(第3基材部分33及び第4基材部分34)と、ヒータ線(第2ヒータ線42)と、を備える。基材は、座席1の正面部(座面部10a)の両側部分であるサイド部(第2シートパッド11b及び第3シートパッド11c)に配置されている。ヒータ線は、縫製糸50によって基材の一面に縫い付けられている。ヒータ線は、座席1の前後方向(X軸方向)に沿って、所定の長さl1の直線部43と、隣り合う直線部43間でヒータ線が移動しない所定の鈍角α1で屈曲する屈曲部44とを交互に繰り返すパターンを有する。
【0104】
これによれば、ユーザの座席1に対する着席、又は離席に伴ってヒータ線(第2ヒータ線42)に荷重が掛かっても、ヒータ線の一部が縫製糸50の間から飛び出しにくい、飛び出しても荷重が失われた後に元の状態に復帰しやすい、又は飛び出したヒータ線の一部がループを形成しにくい。つまり、ヒータ線の縫製糸50の間からの飛び出しを抑制しやすい、という利点がある。このため、ループに過大な負荷が掛かるということもなく、ヒータ線の劣化を招く可能性を低減しやすい、という利点がある。
【0105】
また、実施の形態におけるシートヒータ20では、所定の長さl1は、シートヒータ20を使用する際の基材(第3基材部分33又は第4基材部分34)の圧縮率κ1と、基材が圧縮される際に許容されるヒータ線(第2ヒータ線42)の縫製糸50の間からの飛び出し量Re2と、に基づいて決定される。
【0106】
これによれば、ヒータ線(第2ヒータ線42)の縫製糸50の間からの飛び出しを更に抑制しやすい、という利点がある。
【0107】
また、実施の形態におけるシートヒータ20では、屈曲部44において縫製糸50によりヒータ線(第2ヒータ線42)を基材(第3基材部分33又は第4基材部分34)に縫い付ける第2縫製ピッチP2は、直線部43において縫製糸50によりヒータ線を基材に縫い付ける第1縫製ピッチP1よりも小さい。
【0108】
これによれば、直線部43と比較して屈曲部44が基材(第3基材部分33又は第4基材部分34)に強固に固定される。このため、ヒータ線(第2ヒータ線42)に所定の荷重が掛かった場合に、ヒータ線が最初から屈曲している屈曲部44でのヒータ線の一部の飛び出しを抑制しやすくなる、という利点がある。
【0109】
また、実施の形態におけるシートヒータ20では、ヒータ線(第2ヒータ線42)は、基材(第3基材部分33又は第4基材部分34)における座席1の前後方向に沿った端部にて折り返す折り返し部45を有している。折り返し部45は、直線部43とは異なる他の直線部43Aと、屈曲部44とは異なる他の屈曲部44Aと、を交互に繰り返すパターンを有する。
【0110】
これによれば、折り返し部45においても、直線部43及び屈曲部44と同様に、ヒータ線(第2ヒータ線42)の縫製糸50の間からの飛び出しを抑制することができる、という利点がある。
【0111】
(その他の変形例)
以上、本開示に係るシートヒータについて、上記実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思い付く各種変形を実施の形態に施したものも、本開示の範囲内に含まれてもよい。
【0112】
例えば、上記実施の形態におけるシートヒータ20では、制御装置が、シートヒータ20の電源をON及びOFFを制御することで、シートヒータ20の温度を調整してもよい。また、制御装置は、蓄電池等の電源部からシートヒータ20に供給する電力を制御することで、シートヒータ20の温度を調整してもよい。制御装置は、プログラムを実行するプロセッサを備えたデバイスであってもよく、例えば、ECU(Electronic Control Unit)等である。
【0113】
なお、上記の実施の形態に対して当業者が思い付く各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本開示は、例えば車両等に装備されている座席を温めるシートヒータに利用可能である。
【符号の説明】
【0115】
1 座席
10a 座面部(正面部)
11b 第2シートパッド(サイド部)
11c 第3シートパッド(サイド部)
33 第3基材部分(基材)
34 第4基材部分(基材)
42 第2ヒータ線(ヒータ線)
43 直線部
44 屈曲部
45 折り返し部
43A 他の直線部
44A 他の屈曲部
50 縫製糸
l1 所定の長さ
l2 長さ
P1 第1縫製ピッチ
P2 第2縫製ピッチ
α1 所定の鈍角
α2 鈍角
κ1 圧縮率